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166竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/15(日) 20:29:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 茜色の炎と緑色の炎がぶつかり合う山中。
 木から落ちた葉や、生い茂る草で緑色に染まった大地に、一人の人間が墜落する。
 銀髪ツインテールの眼帯少女、茜空九羅々だ。
 彼女は傷を負い、口の端から一筋の血を垂らしながら、木の枝に腰を掛けている男を忌々しげに睨みつける。

 相手はもちろん、マモンだ。
 相手も相手で、睨みつけられているにも関わらず、余裕の笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。

 彼は笑ったまま口を開いた。
「オイオイ、まさかこの程度ッてワケじャねェよなァ? 俺はお前を殺すためだけに、わざわざこんなとこまで来てやッたんだぜ? それなりに遊んでもらわねェと、ワリにあわねェんだよ」
 マモンの言葉に、茜空は何も言い返せない。
 ただ言い返す言葉が出なかったのか、それとも言い返す体力が残っていないのか。彼女は必死に身体を起こそうと足掻くが、上手く身体が動かないようで、上から見ている分には、相手がもぞもぞと動いているだけに見える。
 マモンは特に戦う構えを取るわけでもなく、相手が足掻く姿を退屈そうに見ている。
「あのさァ……お前ッて一体何のために戦ッてるわけ?」
 マモンから、意外な質問が投げかけられた。
 その言葉の意外性に、茜空もきょとんとした顔で相手を見上げ、起こそうとする身体の動きを止めている。
 彼は空に呟くように、上を見上げていった。

「お前は自分が狙われてる理由が分からないんだろォ? だったら、戦う意味なんてねェじャねェか。そもそも、俺は最初はお前を殺す気なんざ無かッたんだしよォ。お前が逃げたら俺は追いかける。お前が抵抗すれば俺も攻撃する。……これの繰り返しがどうなるか分かるか?」

 茜空の解答を待たずして、マモンが答えを告げる。
「それが今の状況だ。殺すしか、俺が欲しいモンを手に入れる術は、殺すしか、お前が俺から逃れる術は残されなくなッちまッた。俺がここで攻撃をせずにお前を追うとしよう。そしたら、殺気を常にむき出してるお前は俺を殺すだろ? 俺が逃げるお前を追うのをやめるとしよう。そしたら、俺の欲しいモンは手に入らねェ」
 茜空は思い知らされた。
 最初から素直に奴の欲しいものを差し出していれば、こんな事にはならなかった事を。
 確かに、最初は奴は攻撃していなかったかもしれない。殺意も無かったかもしれない。
 そうでなければ、

 今もこうして無事に成長できているはずがない。
 この『鬼ごっこ』の開始が物心ついた頃からだとしよう。物心がつくのが三歳くらいだとしよう。三歳の子供など、その時から今の姿と何の変化も無い悪魔にとっては、容易に殺せるだろう。

 つまり。
 茜空が腹を立てた『理不尽』は。
 茜空が憤っていた『不条理』は。
 茜空が怒り狂った『不公平』は。
 ―――自分の嫌う全ては、他の誰でもない自分が構築してしまったのだ。

 絶望する茜空に、マモンは言葉を続ける。
「ま、今は戦意もねェみてェだし。そろそろいただくか。安心しろ、殺しはしねェ」
 マモンは地に降り、彼女を肩を足で軽く押さえる。そして右手をゆっくりと、彼女の眼帯がついている右目へと伸ばしていく。
「知ってんだぜ、お前がこの眼帯の下に『金瞳』を隠してる事ぐれェ。ッつか、結構分かりやすいよなお前。眼帯なんかしてたら、自己主張してるよォなモンだぜ」
「……」
 マモンは何も言わない茜空に興味すら感じなくなっていた。
 だからこそ、殺すのをやめた。
(ケッ、結局自分がしてきた事が分かるとこォなるのかよ……くだらねェぜ。俺は今までこんな奴と競ッてのかよ……!)
 マモンは茜空の眼帯を外す。
 抵抗しない相手から眼帯を取る事がこうも容易い事だと、初めて知った。
 そして、

 眼帯を外したマモンは茜空の眼帯の裏の瞳を見て驚愕した。

「……ッ!」
 マモンは上手く言葉が出せない。
 ようやく出た言葉が、
「……どういうことだよ……これはァ……ツ!!」

 それだけだった。


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