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夢幻都市に吹く風

2月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2011/08/19(金) 17:09:55 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
プロローグ

 「さて、お気付きでしょうが、あなたは死んだんですよ。ご愁傷様ですー」

 今にも沈むのではないかと思う程不安定に揺れている小さな舟の上。舟をこいでいる『渡し守』は台本でも読み上げるような棒読みで言葉を紡ぐ。あなた、と言うのは恐らく渡し守の目の前にいる少年の事だろう。しかし、渡し守はあくまで他人事のように、そして独り言のように呟いた。
 少年がぐるりと見渡してみると、周りは川。向こう岸には彼岸花が咲き乱れている。少年はぼんやりとしている頭で、嗚呼、ここが三途の川か、そういえば自分は、知らない人にナイフで刺されたんだっけ、などと考えていた。

 「うーん、いきなり通り魔に殺されるとはなんて運が悪いことか。あなたが生きるには相応しくなかったのでしょうねぇ、能力を持たずとも生きていける者が集まったあの『人間界』は……」 

 渡し守と舟に乗っている少年には相手の言っている事の意味が良く解らない。ただ、渡し守の言っている事に「はぁ……」と適当に頷くばかりだ。
 男か女かすらも解らない、よく喋る渡し守は、ここからが本題だとでも言うように大げさに両手を広げてみせた。

 「先ほどの事で少しだけ解ったかもしれませんが、人間界の人間達は『能力を持たずとも生きていける』と断定され、人間界で生きる事を許された者達です。――そうだ、あなたを『能力を持たなければ生きていけない』者しかいない世界に送り込んでみるのも一つの手ですね」
 「……良く解らないけど、生き返る、って事ですか」
 「半分正解です。要するにあなたを別の世界に送り込むって事ですよ」

 いつの間にか棒読みから、どこか熱意を込めたような口調になった渡し守を少年は胡散臭そうに見つめる。しかし、そんな事はお構いなしとでも言うように渡し守は続けた。

 「あなたに私の『力』の一部を預けます。不要になったら返しに来てください……『力』が無くとも生きていけるようになったら、私はあなたを元の世界に帰して差し上げましょう」
 「言ってる事は少しだけ掴めましたけど、あなたの目的は……」
 「いえいえ、目的も何も、これは私の仕事であり、あなたの生きるか死ぬかの契約です。ちなみにNOと答えるならば、あなたの魂はさっさとあの世に送っちゃいますよ」

 少年は悩んだ。渡し守が言っている事の意味は良く解らないとはいえ、大切な選択を迫られているような気がしたからだ。そして、意を決したように少年は頷いた。それを見た渡し守は僅かに笑みを浮かべる。

 「契約成立です。それではまた、いつかお会いしましょう」

 
 そう言い終わると、渡し守は明らかに慣れているような手つきで、少年――――流鏑馬 調(ヤブサメ シラベ)を川へ突き落とした。
 

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