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鏡の国、偽りの唄。

108月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/08/08(水) 18:59:43 HOST:p22207-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp

 少し経った後、「……そうだ、そういえば、」と不意に弘川が顔を上げる。わずかに額が赤くなっているが、先ほど机に突っ伏した時にぶつけたのだろう。

 
 「『あれ』から三年、経つんですね」


 突如訪れた沈黙。静寂。無音。まるで、世界が音を失ったような、そんな錯覚を歌留多は覚える。
 
 「……ええ、」
 明日で、ね。と。静かに答えた歌留多の手は、微かに震えていた。
 
 「きゃうっ!?」

 すると、二人の席のすぐ近くで、小さな悲鳴が上がった。そこに目をやると、栗色の髪をポニーテールにした、ぱっと見小学校低学年程度の小さな女の子が丸まっていた。恐らく何かにつまずいて転んだのだろう。
 
 「(研究所から出たばかりの子、かしら)」
 クローンたちはあくまで『街の住人の埋め合わせ』が目的であるため、培養槽で5歳程度まで急成長させられたものが外に出されることになっている。数年前にも何度か『培養槽の中で成長させる年齢をもう少し上げても良いのではないか』という議題が持ち上がったらしいのだが、それ以上だと身体的にも影響が出るとの事だ(しかし、今基準となっている年齢もかなりギリギリだという噂もある)。
 ――まあ、その幼い容姿からして、研究所から出たばかりと考えるのが妥当だろう。

 「――大丈夫ですかっ?」
 転倒した少女の元(もと)に駆け寄ると、慣れた手つきで彼女を抱き上げて立たせてやる。さすが紳士ね、と歌留多は呟くと、同じく少女のところへ行った。痛みに涙が滲んだのか、少女はがしがしと服の袖で目元を擦ると、ニカッ、と笑みを浮かべた。

 「へーきへーき! きぃ、強い子だもんっ!」
 『きぃ』というのは恐らく自分のことだろう。自分が元気だとアピールするかのように彼女はぴょこん、と小さく跳ね、右手でピースをした。

 「うん、お嬢さんは強い子ですね――それじゃあ、いっぱい遊んでくるんですよー?」
 ニコリと笑みを浮かべた弘川は、自らを『きぃ』と称した少女の優しく頭を撫でる。
 
 「うん! ありがとう、おねーちゃんたち!」
 少女は元気いっぱいに手を振ると、向こう側にいた、恐らく友人であろう数人の子供達の集団へと駆けていく。そんな微笑ましい光景を、弘川は聖母のように優しく見守っていた。

 「……やるわね、あの子。一発であなたを女だと見抜くなんて」
 「ちょっと、歌留多さん! 酷いですよぉっ!」
 神妙な顔をする歌留多に、子供のように言う弘川。そして、お互い顔を見合わせてまた笑う。その光景は、弘川の性別を知らない者からすれば、さながら仲のいいカップルのようだった。

 しかし、歌留多の中では、弘川の言葉が何度もリフレインされていた。
 
 ――『あれ』から三年。
 彼女が思い浮かべるのは、延々と降り続く雨と、

 ――――霧崎 碧の顔だった。


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