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desiderio -デジデリオ-

1*椿 優奈*:2011/06/14(火) 01:43:52 HOST:s161.HtokyoFL13.vectant.ne.jp
皆様、はじめまして。
以前から書き溜めていた小説を載せていきたいと思います。
よろしければご感想・ご意見、お聞かせください。
こちらにも同じ記事を載せています。
(ht★tp://blog.goo.ne.jp/magnolia-815_1 ※★を除いてください。)
未熟者ですが宜しくお願いします。

2*椿 優奈*:2011/06/14(火) 01:45:30 HOST:s161.HtokyoFL13.vectant.ne.jp

停車した駅で次から次へと乗ってくる女子高生に目がいく。


すごい化粧。
最近の子はいかにも偽装、という、
ありとあらゆる手段で自己を美化するにも程がある。
簡単にできる二重整形。
大きい目というのは彼らの美の基準であるようで、
中途半端につけた着け睫毛にも内心、
ついつい嘲笑が走ってしまう。
そんな、小馬鹿にしている私も
常にメイクはある程度自他共に認められるくらいにしないと気が済まないのだが。


途中、しばらく会っていなかった愛しい彼のケンジから
職場先より電話が入る。
たわいもない会話。
今月末の連休に前々から予定していた旅行先はどうしようかとか、
明後日やるテレビがどうしても観たいとか、そんなこと。
乗換先の駅にたどり着き、
そこからもう数駅が自宅の最寄り駅で、
残りの気だるい電車に乗りながら、そうだ、今日は帰ったら
あの曲をダウンロードしよう、と考える。


この梅雨の湿気というのは
憂鬱を感じさせる以上のなんでもない。
大半の人はつくづくそれを感じ、
でも特に何も変化のない日々の循環に、常々、飽き飽きしつつも、
毎日生きているのだろう。
クールビズという、
特に浸透されていない無意味な制度が導入されたものの、
暑苦しい正装というのは
身にまとっていないこっちから見ても息苦しくなる。
型にこだわり、容姿で内面まで判断するというのは
本当にこの国のくだらない慣習で、
何が楽しくて生きているのかと問いかけたくなる。
「世の中は子どものためにあるのだ」
と誰かが言っていた。
子どもは夢をもって生きているからだと。
冴えないネクタイにこの湿気でよれたスーツを着て、
仕事に費やすために同じ日々の繰り返しをやり過ごすサラリーマンに
夢なんてない
…ように思える。
この少子化社会に貢献するべきか、
ともなると自分の年齢によく問いかけ、
結局、答えは否となるのだが。

3*椿 優奈*:2011/06/14(火) 01:49:12 HOST:s161.HtokyoFL13.vectant.ne.jp
「おかえり」

 珍しく、そいつは私を受け入れた。
ひとつ屋根の下に住んでいるとはいえ、
会話を交わさない日が何日か続いたりするのも当たり前なのに、
その一言になにか違和感というか、
不信感をすぐに覚えた。

血縁関係があるのに、
私はこいつを日ごろから赤の他人だと思っている。
実家にいた頃から随分と、見た目に加え、
性格もまるで異なると言われてきたものの、
ずっと優等生育ちでのぼってきたこいつは、
今やただの引きこもりだ。
たまに夜、散歩かなんかするみたいで、
玄関先で物音がするが、
最低限の家事は任せているので特に文句などを言う必要もない。
しかし、
時折部屋から彼女のパニックになった悲鳴や鳴き声、
上手くいかなかった彼女自身の現実と私を照らし合わせ、
私に八つ当たりしたり、
罵声を浴びせる様子はどうしても受けつけたくなかったし、
いまだ彼女の部屋や私たちの共有スペースに所狭しと乱雑する、
私が理解するには程遠い物理学書や医学書などの、
数学的な書物の山を思うと、
この家への帰途で浮かない気分になる。
彼女― 私の実の姉は、
ジーパンにTシャツという格好で、
私たちの部屋をはさむリビングのテーブルに腰かけていた。

疑心暗鬼の表情をしていたんだと思う。
姉のマリは首をかしげ、
普通にしていればそこそこな顔立ちなのに、
ぽかんとしながら、まばたきをしてこっちを見つめる。

4*椿 優奈*:2011/06/14(火) 01:52:03 HOST:s161.HtokyoFL13.vectant.ne.jp
「どうしたの? …ただいま」
「うん。ねえ、ユリ、今日、仕事行くの?」
 
一体全体、二人家にいれば、
大概それぞれの部屋にこもっているか、
私はリビングに来てたまにテレビを見ているかのどっちかで、
互いが互いを、居て居ない存在だと見てきたはずなのに、
今日という日はどうしたことか。
その上、尋ね着たことといえば…。
 「今日は、行かないよ。というか、辞めたから」
 「そう、辞めたの。ねえ、私も始めようかな、キャバクラ」
 はたまたこいつは何を言い出すのだろうか。


先月末まで私は水商売でアルバイトをしていた。
帰宅するとあと数時間で夜明けだ、
という生活リズムでほぼ毎日過ごしていたために、
本業である大学生活―学業はかなりおろそかになっており、
おかげであと一年で卒業という今も、
ほぼ毎日大学に通っているという分際だ。
姉は、外科医である私たちの父親から、
長女であるという期待とプレッシャーを受け、
難関中の難関といわれていたとある医学部に入学したものの、
わずか一年足らずで退学。
そして今はニート。
…まあ、ニートの本来の意味は無教養、
無学歴という意味合いも含まれているから、
姉に対してそっくりそのまま使うべき言葉ではないが、
主に〝無収入状態〟という意味合いを指すことで、
若者のあいだでは今や和製英語化している。
そんな姉を見て、
二個下の妹は医学や理系とは全く無関係の場所で、
好き勝手に生きてきたが、
医者の不養生とはまさにこのこと。
父は二年前に癌でこの世から他界し、
大学を辞めた姉はろくにアルバイトの一つすらせず、
私の稼いだ金で二人の生活費が賄えたのに、
今の今になって発した目先の人間の言動に対して、
今度は私のほうがただただ唖然としてしまった。

5*椿 優奈*:2011/06/14(火) 16:16:12 HOST:s161.HtokyoFL13.vectant.ne.jp
「やりたいの?」 
「うん」
「本気で言ってんの?」
「そうよ」
「辞めたほうがいいよ?」
「そうかしら。
今までユリが色々頑張ってくれた分、今度は私が何とかしなきゃ、と思って。」

今更何を言ってるんだ何がしたいんだという苛立ちは抑えて、
「じゃ、適当に探してみるよ」
と、気持ちとは裏腹に、
滅多に会話すらしない相手に対して私は妙に親切すぎた。

今の彼女にすることなんてないのだろう。
毎日、暇を持て余しているに違いない、だからいいのだ、と思いながら、背後で「ありがとう」という声がするのを耳にするか否かのうちに
私は自分の部屋に入り、ノートPCの電源を入れる。
 
キャバクラ…か。
金持ちだ、恵まれている、
という他人からの嫉妬の眼に嫌気がさして、
そこからなんとなく思い立って始めたものの、
もう二度と接客業はしたくないと感じさせるくらい、
私はあの業種にはうんざりした。
過去の抹消したい記憶の一つでもある。
そもそもああいった業種で働き始めたことがきっかけで、
当時交際していた束縛が激しかった彼氏は、
激しく私を拒絶したうえに、
もともと酷かったDVがさらに激しくなり、
私の身体にさんざん青アザを刻んだ挙句の果てに、
今や完全に絶交状態になってしまった。

かなり嫉妬深く、
恐ろしいほど私に依存していたその彼氏を失ってから半ば、
鬱状態になっていたところを今の彼氏に救われた。
そんな状態になってからも一年は働き続けたのだが。

この仕事の恋人を選択するか、
客を選択するかの究極の選択、
そして来る客といえば最終的にはゆくゆく性的な私的感情を持ち出す。

多くの大人の男たちが疑似愛愛を求め、
それに騙されたかのように受け答える日々。
想像しただけで気分が悪くなる一方だし、
店に足を運ぶのもしまいには気分が重くなり、
そして最後の最後で私は、
逃げた。

それでも毎回派手で美しいメイクにゴージャスな衣装や
ヘアセットをし、
日常とはかけ離れた逃避行とでもいおう、
この華々しい姿をしている自分をどこか好きなときもあったが、
そんな仕事を、ろくに働いたことさえない、
今となっては特に教養の欠片も持ち合わせてなさそう
といっていいような面構えの姉ができるのだろうかと
想像しただけで身の毛がよだつというか、
少々愉快というか、
とりあえずこれまでここ5年弱何もしてなかった姉の突然の気の迷い
…ではなく、人生の転機だと信じている
―ことに関して安堵感さえ覚えつつも、
立ち上がったPCで私はネットサーフィングを始め、
煙草に火をつける。


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