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しあんいろ

428ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/07/25(水) 16:52:23 HOST:w0109-49-135-27-123.uqwimax.jp


   隣歌


「あの、すみません」
「なに」
「す、数学のプリント……提出期限とっくに過ぎてるんだけどさ」
「――ここ」
「ほえっ?」
「この問題から全部間違ってる」
「マ、マジか」
「隣、座って。教えるから」
「ありがと……てか、え? 教えてくれるの?」
「間違ってる場合はまた返ってくるから」
「そ、そか……それは嫌だ」
「うん、だから座って」


 今思えば、これがあたしたちの初めての会話だったのかもしれない。


     ×


 高一、初夏。
 蒸し暑い教室でみんなしてノートを扇ぐ、恐らく猛暑日と呼ばれる今日。
 そこにあたしたちの姿はなかった。


「みんな暑そうだねえ」
「鈴花(りんか)、あんま乗り出したら落ちるよ」
「そんなことないよー」


 彼女、莉乃(りの)とは数学のプリントを教えてもらったときからすっかり意気投合(ていうか一方的にあたしが引っ張っただけなんだけど)してしまい、今ではいつもいっしょにいるいわゆる「イツメン」というものになってしまった。
 高校一年生ということで、あたしたちは受験も終わり青春真っ盛りのはずなのだが……


「やっぱ合唱だよね」


 あたしの中では青春=恋愛じゃなくて、青春=部活なのだ。
 あたしは合唱部に入っていて、莉乃も同じ部活(ていうか一方的にあたしが引っ張っただけry)だから毎日が楽しい。
 まあ莉乃はモテるから、部長に告られて付き合ってるんだけどさ。


「うたいたい」


 莉乃がポツリとつぶやいた。
 きっと、部長の姿を思い浮かべているんだろう。
 あたしはちょっと悔しくなって、莉乃の腕をぐいっと引っ張った。


「じゃあ歌おう! せーの!」


 ちょっと強引だったかも。
 莉乃は驚いている様子で、それでもあたしといっしょに歌ってくれた。
 莉乃がつくった曲「隣歌」を、ふたりで合唱する。

 あたしはアルトで莉乃がソプラノを歌っていたのだが、支えとなるバスやソプラノを引っ張ってゆくテノールがいなくてそれは間抜けなハーモニーになっていた。
 あたしたちは笑いながら歌う。


 この曲には、大切な人の隣で歌いつづけるという意味が込められているらしい。
 きっと部長を思ってつくった曲なんだろうなあ。
 あたしは自分で考えててちょっと恨めしい気持ちになったから考えるのをやめた。


 それにしても。
 綺麗に透きとおったソプラノ。
 莉乃の声は本当に綺麗だ。
 あたしが一方的に引っ張って入部させただけだというのに、莉乃はいつのまにかあたしより上手くなって、先輩たちにも好かれて。


「……莉乃はさ」


 「隣歌」を歌い終わったあと、あたしは弱気な声で言った。
 こんなのあたしらしくないってわかってるけど、なんだかあたしらしくできない。


「やっぱり部長のことが好き?」
「好きっていうか」


 戸惑う莉乃。
 なんなの、もう。


「こういうときハッキリ好きって言ってくんなきゃ、諦めらんないじゃん!」


 諦めるって、すごく難しい。


「鈴花は遥斗(はると)が好きなの?」


 莉乃はすこし驚いたような様子をみせて、あたしに訊いてきた。
 遥斗っていうのは部長のことだ。


「それは、その……好きっていうかさ」
「ほら、鈴花も言葉濁らせた」


 くすりと笑う、莉乃。


「あたしね、隣歌って曲、鈴花を思ってつくったんだよ」
「え……?」
「なんかみんなとなりうたって呼んでるんだけど、本当はりんかって曲なの」


 そういえば。
 となりうたってみんなが言ったとき、莉乃がちょっとあわてていたような気がする。


「鈴花の隣で歌えますようにって気持ちを込めてつくったの」


 そういって微笑む莉乃が可愛くて。
 なんか、すごいあったかい気持ちになった。


「あとね、遥斗のことは好きなんだけど、その……好きっていうか、鈴花のほうが好きっていうかなんかもういいや」
「えええっ」


 あたしもね、だれよりも莉乃のこと、大好きだよ。

     ‐


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