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無題という名の短編集
30
:
美しき汚物
:2011/06/18(土) 21:42:21 HOST:252.128.70.222.broad.xw.sh.dynamic.163data.com.cn
※
>>29
続き。引き続き暴力、嘔吐、汚物注意。
寧ろこっからが本番だぜ。
*
「識峰(しきみね)くんてば、こんな所に居たのね。」
屋上にて、自らの身の丈に合ったセーラー服を纏う凛とした立ち姿の少女と彼女の目線の先―――識峰と呼ばれた少年が居た。
識峰の身なりや立ち振る舞いは今目の前に居る少女とは全くの真逆でみすぼらしく、汚らしく、不潔だった。何よりも顔全体に巻かれた包帯から覗く火傷の跡が痛々しい。
識峰は少女、黒岩(くろいわ)に声を掛けられても全く反応せずただ広々と晴れ渡る空をぼんやりとした面持ち(と言っても包帯で表情は見えないのだが)で眺めていた。
けれどもそんな彼に対して黒岩はめげず、手にしている弁当箱を彼に向かって差し出しながら話を続けた。
「識峰くん、今日もまたお昼ご飯を抜いてるんじゃないかと思って私お弁当を作って来たのよ。でももう放課後になっちゃったわね、ごめんなさい。」
「………………。」
「もしかして見付けるのが遅れた事に怒ってるの? ごめんなさい、明日からは早めに行動を起して早めに識峰くんを見つけられる様にするわね。」
「………………。」
「そう言えば昨日お弁当を食べた時は魚の小骨が喉に詰まって苦しそうにしてたでしょう、今日は魚の骨を全て抜いてから調理したから大丈夫な筈よ。だから安心して。」
「………………。」
「嗚呼、後今日は甘い卵焼きに挑戦してみたのよ。何時もはだし巻き卵だったから。砂糖の加減が分からなくて味が少し薄くなっちゃったけど明日はちゃんと美味しく作れる様頑張るから…。」
「…………れ、が」
「え?」
「誰がお前みたいな汚物の作った飯なんか食うかよ。」
識峰が漸く口を開き、その言葉を発した瞬間黒岩は故意か無意識かは分からないが彼の頬に向かって平手を振り上げていた。
パンッ、と乾いた音が辺りに響く。
細身な識峰の身体はそれだけの衝撃でも後ろに倒れ込んだ。
一方、未だに平手を自らの顔の横に翳す黒岩は先程の笑顔とは打って変わってさながら氷の様に冷たい視線を目の前の少年に向けていた。
どうやら平手を張られたのは火傷跡の深い部分だったのだろう、ただでさえ醜い顔を更に歪ませながら頬を抑え込む識峰に黒岩はこつこつと靴音を立てて近付いて行けばドスッと遠慮なしに自らの全体重を掛ける様に馬乗りになり彼の襟元を首を絞める様にして持ち上げた。
識峰は苦しそうに唸り声を上げる。
「嗚呼、貴方って本当にゴミクズ! 安心して、私も貴方が私の事を汚物と思っているのと同じ位にいいえ、それ以上に貴方の事をカスだと思っているわ!」
「……っ離、せっ、汚れる。」
「どうしてこの期に及んで未だ! 未だそう!! 本当に犬以下の学習能力ね、そうね、でも貴方がお望みならまた『アレ』をしてあげるわ。」
黒岩から「アレ」と言う単語が発された途端、識峰は眉を顰め彼女の下から抜け出そうともがく。
けれども黒岩、その細い体の一体何処からそんな力が発されているのだろうと思う位に強い力で識峰を抑え付け逃がそうとしない。
彼に平手をかましたと共に地面に落ちてしまった弁当を自らの方に引き寄せ蓋を開けると、適当に中身のおかずを素手で掴み――自らの指ごと無理矢理識峰の口の中に押し込めた。
識峰はその瞬間どうしようもなく目尻が熱くなり、口の中に入れられたモノと共に胃の中に収まっている全ての物を吐き出したくなった。
今自分の口の中に有るのが自分が嫌っている人間の中でも更に嫌っている彼女、黒岩の作った物だと言う事も有るのだがそれ以上に人間の指が、彼女の指が、汚物の指が、自分の口の中に有ると言う事が信じ難く耐え難い事であった。
苦しさと嫌悪にもがく彼に対し恍惚の表情を浮かばせる黒岩。
満足したのか暫くしてやっと彼の口から手を抜いてやる。手にべとついた彼の唾液でさえも愛しく感じ、彼に見せ付ける様にしてそれをなめとってやる。
―――――――――――
続きます。
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