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避難所用SS投下スレ11冊目

1名無しさん:2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

518ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:54:23 ID:zuXS1mac
 しかしそれはゼロのフェイントだった。
「セェイッ!」
 ゼロはエンマーゴの構えた盾を、下から思い切り蹴り上げる! 予想外の方向からの衝撃に、
盾はエンマーゴの手を離れて放り飛ばされていった。
『何だとぉッ!?』
 動揺するエンマーゴ。その隙を逃すゼロではない。
「テェアッ!」
 後ろに跳びながらゼロランスを投擲し、まっすぐ飛ぶランスがエンマーゴの身体の中心を
貫通した。
「ギイイイイイイイイ!!」
「セアッ!」
 苦しむエンマーゴに改めてエメリウムスラッシュが撃ち込まれ、エンマーゴは一瞬にして
爆散。その脅威は取り払われたのだった。
 だがこれで終わりではなかった。むしろここからが戦いの本番であった。
『よくもやってくれたものだな、青きウルトラ戦士よ! このわしの邪魔をしようとは、
身の程知らずな奴よ!』
 突然空が夜になったかのように暗くなり、角を生やした魔人の虚像がいっぱいに映し出された。
それを見上げたゼロが指を突きつける。
『お前がジュダだな!』
『左様! 愚かな貴様に、わしの偉大な力を見せてくれるわッ!』
 ジュダが宣言するとともに、暗転した空に妖しい光の瞬きが複数出現した。星の光ではない。
あの不気味な光は……怪獣の悪霊の魂だ!
『宇宙に散らばる悪魔の魂よ、集まれぇぇぇぇッ!』
 ジュダの命令により、怪獣たちの魂が地上に落下してきてゼロの前で一つに合体していく。
そして一体の大怪獣の姿へと変貌した。
「キイイイイィィィィッ!」
 それは複数の怪獣のパーツが組み合わさって一個の怪獣の形となっている、ゼロも才人も
見覚えのある怪獣であった。暴君怪獣タイラントだ!
 タイラントは既に倒したことがあるが、油断はならない。一冊目のゼットンの例がある。
あの時のようにイレギュラーな事態が発生するかもしれないし、暗黒宇宙の帝王ジュダが
その手で作り上げた怪獣が簡単に行くとは思えない。
 果たして、ジュダは生み出したタイラントに向けて告げた。
『合体獣タイラントよ、お前にわしの力を授けよう!』
 ジュダの両目から暗黒のエネルギー光線が放たれ、タイラントに吸収された。
 その途端、タイラントに異変が発生する!
「キイイイイィィィィッ!」
『うおッ!?』
 その全身が激しくスパークしたかと思うと、メリメリ音を立てて膨れ上がり、また変形を起こす。
そうして瞬く間に、体高がゼロの二倍近くにまで巨大化した。
「キイイイイィィィィッ!!」
 ただ巨大化しただけではなく、肉体にゴモラの後ろ足とジェロニモンの羽根飾りが追加され、
ケンタウロスを思わせるような体型に変化を果たしていた。この姿を目の当たりにしたゼロが
舌打ちする。
『くッ……EXタイラントか!』
『ゆけぇッ、タイラントよ! ウルトラ戦士を叩き潰し、地球を滅茶苦茶に破壊してやるのだぁぁぁッ!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 ジュダのエネルギーを得てはるかにパワーアップしたEXタイラントが左腕を振り回す。
すると鎖が伸びて鉄球自体が飛んできて、ゼロを横殴りした。
『うあぁぁッ!』
 鉄球だけでもすさまじい質量。攻撃を食らったゼロが大きく吹っ飛ばされて、山肌に叩き
つけられた。
『つぅ……! 半端じゃねぇパワーだ!』
「キイイイイィィィィッ!!」

519ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:57:30 ID:zuXS1mac
 うめいたゼロにタイラントは四本の足で地響きを起こしながら突進してくる。自分の倍以上の
巨体が突っ込んでくるのはものすごい迫力だが、ゼロはひるまなかった。
 ウルトラの星では、タロウがジュダを倒すための特訓を今もなお続けている。彼がやり遂げる
ことを信じて、今は自分がEXタイラントの暴威を食い止めるのだ。
『おおおぉぉッ!』
 ゼロは鬨の声を上げて、タイラントに自分から向かっていった。

 ゼロが必死に戦っている頃、別の場所に現れた怪獣たちは、ウルトラ五兄弟が相手をしていた。
「ギャアアアアアアアア――――――!」
「ヘッ!」
 コスモリキッドの相手をしているのはゾフィーだ。ゾフィーはコスモリキッドにチョップ、
キックを繰り出すが、肉体が液体に変化する能力を持つコスモリキッドには打撃が全てすり抜けて
しまい、全く効果がない。逆に殴打を食らって地面を転がる。
「ギャアアアアアアアア――――――!」
 通常攻撃を全て無効化する恐ろしい怪獣。普通なら勝ち目などないと絶望してしまうだろうが、
ウルトラ兄弟長兄にして宇宙警備隊隊長のゾフィーは、持ち前の冷静な頭脳によって既にコスモリキッドを
倒す作戦を思いついていた。
『ウルトラフロスト!』
 伸ばした両腕の指先から、猛烈な冷却ガスを噴出。それをコスモリキッドに浴びせる。
「ギャアアアア……!」
 ガスを浴びたコスモリキッドはたちまち凍りつき、一歩も身動きが取れなくなった。液体の
怪獣なので、全身が凍りついてしまえば全く動くことが出来なくなってしまうのだ。
 そしてゾフィーはとどめとして稲妻状の光線、Z光線を撃ち込む。これによってコスモリキッドは
瞬時にバラバラに砕かれた。全身を凍らされた上で粉微塵にされては、コスモリキッドもどうする
ことが出来なかったのだった。
「アハハハハハハ! アーハハハハハハハハ!」
「ヘアァッ!」
 他方ではウルトラマンエースがライブキングを激しく殴り合っていた。エースは相手のボディに
重いパンチを何発も見舞うが、タフネスに優れるライブキングは全く以て平気な顔であった。
エースはライブキングに突き飛ばされる。
「アハハハハハハハハ!」
「ダァッ!」
 立ち上がったエースは額のランプに両手を添えて、パンチレーザーを発射。レーザーは
ライブキングの口内をピンポイントで撃つ。
 口の中を攻撃されてはライブキングもひとたまりもない……そう思うかもしれないが、
それでもライブキングはまるでへっちゃらだった。
「アーハハハハハハハハハッ!」
 ライブキングは再生怪獣。心臓さえ無事なら、そこからでも完全復活が出来るほど生命力が
強い肉体は、攻撃を受ける端から回復してしまうので、まともに攻撃していても焼け石に水なのだ。
 エースも手がないかと思われたが……それは違う。エースはライブキングに肉薄すると、
その巨体を頭上に抱え上げる。強力な投げ技、エースリフターだ。
「イヨォッ! テヤァッ!」
 投げ飛ばして地面に叩きつけたライブキングは、さすがに一瞬動きが止まって隙が生じる。
エースはそれが狙いだった。
「ヘアッ!」
 合わせた手の平から液体を噴出し、ライブキングに浴びせかける。そうするとライブキングの
肉がドロドロと溶けていく。
 エースが放っているのはただの液体ではない。怪獣の身体もこのように溶かしてしまうほどの、
非常に溶解性の強いものだ。普通の攻撃が通用しないような相手のために開発した技、ウルトラ
シャワーである。
 ライブキングも肉体を跡形もなく溶かされては、再生することはかなわない。やがて完全に
溶解されて消滅したのであった。

「ゲエエオオオオオオ!」
「シェアッ!」

520ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:59:49 ID:zuXS1mac
 ウルトラマンはムルロアを相手に取っていた。が、宇宙大怪獣であるムルロア相手にかなりの
苦戦を強いられていた。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ウアァッ!」
 ムルロアは身体中に生えた管から大量の黒い煙を噴射しながらウルトラマンに体当たりして
突き飛ばす。更に口から鋼鉄もあっという間に溶かす強力な溶解液を飛ばしてきて、ウルトラマンは
危ないところでかわした。
 ムルロアが噴出する煙は光を完全に閉ざしてしまい、現実世界では地球全体がムルロアの
煙に覆われて太陽光を遮断されてしまったこともあった。光の種族たるウルトラ戦士にとっても
この特性は非常に危険であるため、ウルトラマンはまだ煙の量が少ない今の内にどうにかしなければ
ならないと判断する。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ヘッ! ダァッ!」
 そしてムルロアの一瞬の隙を突いて、ウルトラアタック光線を照射。これが命中したムルロアは
身体が硬直する。
 この間にウルトラマンはムルロアに駆け寄って、巨体をあらん限りの力で抱え上げた。
「ヘアァッ!」
 持ち上げたムルロアを天高く放り投げ、ウルトラ念力を集中して爆破させた。ムルロアは
危ないところで、ウルトラマンの作戦によって撃破されたのだった。

「キイイィィィィィ!」
「ダァーッ!」
 ムカデンダーと戦っているのはウルトラセブンだ。セブンはムカデンダーの振り回す右手の指が
変化したムチをかわし、アイスラッガーを投擲してムカデンダーの首を綺麗に切り落とした。
 簡単に決着がついたかと思われたが、切断されたムカデンダーの首は何と独立して動き、
セブンの肩に噛みついてきた!
「グワァーッ!」
 これがムカデンダーの最大の特徴と言ってもいい特殊能力。首が胴体と別々に行動することが
可能で、その変則的な動きに敵は惑わされるのだ。
 だがセブンは歴戦の戦士。このような小細工で狼狽えたりはしなかった。
「デュッ! ジュワァッ!」
「キイイィィィィィ!」
 素早くムカデンダーの首を捕らえて肩から引き離し、頭部に何度も拳骨を浴びせる。すると
首が物理的に離れていても感覚はつながり続けている胴体が苦しんでドタバタもがいた。
 大きくひるんだムカデンダーの首をセブンは空高く投げ飛ばし、エメリウム光線を発射!
「ジュワッ!」
 首は空中で爆発。残った胴体も、L字に曲げた右腕の手刀から発したハンディショットで粉砕した。

 ウルトラマンジャックはドロボンと一対一の決闘を繰り広げていた。
『うおおおおお―――――!』
「アァッ!」
 しかしジャックはドロボンの金棒によって滅多打ちにされる。意外かもしれないが、ドロボンは
ZATに「エネルギー量ならこれまでの怪獣の中で一番」と評されたほどのパワーを有しているのだ。
その圧倒的攻撃力にはジャックも大いにてこずらされていた。
「ウアァッ!」
 金棒の突きでジャックは大きく吹っ飛ばされ、大地の上を転がった。ジャックはこのまま
やられてしまうのか?

521ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:02:20 ID:zuXS1mac
 いや、ジャックにも強力な武器があるのだ。立ち上がった彼は左手首に嵌まっているそれを
手に取った。セブンから授けられた、あらゆる宇宙怪獣と互角に戦えるウルトラの国のスーパー
兵器、ウルトラブレスレットである!
「ジェアッ!」
 ジャックはブレスレットをウルトラスパークに変形させて掲げると、まぶしい閃光が焚かれ、
それを浴びたドロボンの動きが一瞬停止した。
 その隙に投擲されたウルトラスパークが宙を飛び、悪を断つ刃となってドロボンの右腕、
左腕、そして首を瞬く間に斬り落とした。崩れ落ちたドロボンの肉体はエネルギーが暴走して
爆破炎上する。
「シェアッ!」
 ドロボンを討ち取ったジャックは空に飛び上がり、EXタイラントに苦戦しているゼロの元へと
急行していった。他の兄弟たちもまた、同じようにゼロの元を目指して飛行していた。

『だぁぁぁッ!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 ゼロは果敢にEXタイラントにぶつかっていくが、如何せん体格差が違いすぎる。ゼロは
ひと蹴りで弾き飛ばされてしまった。
『ぐぅッ……だが負けねぇぜ……! タロウが必ずここに来てくれる!』
 そのことを信じてめげずに戦い続けるゼロ。そんな彼に応援が駆けつけてくれた。
「シェアッ!」
『あッ! ウルトラ兄弟だ!』
 才人が叫んだ通り、ゾフィーからエースまでのウルトラ五兄弟が到着したのだ。彼らは
EXタイラントに向けて、M78光線、スペシウム光線、ワイドショット、シネラマショット、
メタリウム光線の必殺光線一斉発射攻撃を加えた。
「キイイイイィィィィッ!!」
 だがタイラントは五人分の光線を、ベムスターの腹で吸い込んでしまい、ダメージを
受けなかった。これにはウルトラ兄弟も動揺を覚える。
『フハハハハ! このジュダ様の力、思い知ったか! 貴様らウルトラ戦士を、地球ごと
粉砕してくれるわぁッ!』
 勝ち誇って豪語するジュダ。偉大なウルトラ兄弟の力が加わっても、EXタイラントを倒す
ことは出来ないのか?
 だがその時、この戦場に彼方から赤い火が迫り来る! それを見上げたゼロが歓喜に震えた。
『来た! 遂に来たか! タロウッ!』
 その言葉の通り、赤い球の中から現れたのはウルトラマンタロウだ! 彼はゼロや兄弟たちに
一番に告げる。
「お待たせしました! 特訓を終え、ジュダを倒せる力を習得してきました!」
『よくやったぜ! そんじゃあ……!』
 タロウが駆けつけたことで気合いを入れ直したゼロが、EXタイラントに振り返る。
『俺も師匠としてひと踏ん張りしねぇとな! はぁぁぁぁぁッ!』
 気勢とともに空高くに跳躍し、全力のウルトラゼロキックを繰り出す! 流星のような
飛び蹴りがタイラントの脳天に命中した。
「キイイイイィィィィッ!!」
 さすがのタイラントも、頭蓋に強い衝撃をもらったことで動きが弱った。
『よし、今だ!』
「はい! 兄さんたち、お願いしますッ!」
 この間にタロウは、兄たちのエネルギーをウルトラホーンに集めた! 五人のウルトラ戦士の
身体が消え、タロウと一つに合体する。
「むんッ!」
 タロウは、兄たちのエネルギーを全てウルトラホーンに吸収し、スーパーウルトラマンとして
立ち上がったのだ!
『タイラントよ、タロウを倒せぇッ!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 ジュダはEXタイラントをタロウにけしかける。しかしウルトラ六兄弟の力を一つにした
タロウは計り知れないパワーを全身にみなぎらせて、それを迎え撃つ。

522ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:04:21 ID:zuXS1mac
「たぁぁッ!」
 タロウのジャンピングキックがタイラントに炸裂。すると体格ではるかに上回っているはずの
タイラントが押し返されたのだ!
『すげぇ!』
 ゼロたちはその光景に驚愕した。六兄弟の力が合わさると、純粋なパワーでもあれほどの
大怪獣を凌駕するほどになるのか。
「キイイイイィィィィッ!!」
 タイラントは鉄球を飛ばして反撃してくるが、タロウは手の平で鉄球を打ち払った。そして
両腕をT字に組み、ストリウム光線を発射。
「とあぁーッ!」
 タイラントの顔面に直撃したストリウム光線は、炸裂を引き起こしてタイラントに大ダメージを
与えた。
 タロウは圧倒的なパワーでタイラントを追い詰めていく。だがジュダがそれに黙っていなかった。
『このままでは済まさんぞぉ! 最後の手段だッ! タイラントよ!!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 命令を受けたタイラントが鉄球を飛ばす。だが矛先はタロウでもゼロでもなく、はるか天空だ。
「何をする気だ!?」
 伸びていく鎖は途中で止まり、引き戻される動きとなる。そうして雲の向こうから戻ってくる
鉄球は……何と巨大な隕石に突き刺さって、地表に向けて引きずり落としていた!
「!! あれを地球に落とすつもりかッ!」
『地球もろとも、宇宙の藻屑となれぇぇぇぇッ!』
 巨大隕石が地球に落下したら、どれだけの犠牲者が出るか分かったものではない。とんでもない
ジュダのあがきだ。
 しかしゼロはそれをみすみす許したりはしなかった。ゼロスラッガーを胸部に接続しながら
タロウに呼びかける。
『タロウ、隕石は俺が破壊する! お前はタイラントとジュダを倒すんだ!』
「はいッ!」
 ゼロは上空から落下してくる隕石に向かって、ゼロツインシュートを発射!
『でぇあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッ!』
 気合い一閃、超絶破壊光線が鉄球ごと隕石を粉砕し、地上に影響が出ることはなかった。
 そしてタロウは右腕の先から脇腹に掛けての広い範囲から、M78星雲史上最強の必殺光線を、
満を持して放った!
「コスモミラクル光線!!」
 光線はEXタイラントに叩き込まれ――一瞬にして爆発四散せしめた!

『ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!』
 暗黒宇宙で、タイラントの撃破と同時に己の闇のエネルギーも強い光のエネルギーでかき消された
ジュダが、断末魔を発しながら消滅したのだった。

 EXタイラントとジュダに勝利したタロウが合体を解き、ウルトラ兄弟がタロウの前に現れる。
「兄さんたち、ありがとう!」
 ウルトラ兄弟はおもむろにうなずき、タロウの健闘を称えた。
 次いでタロウは、ゼロに向き直って彼にも礼を告げる。
「ゼロさんも、今まで本当にありがとうございました。私たちの勝利は、あなたがいたからこそです」
『なぁに、どうってことないさ。ウルトラ戦士は助け合いだからな』
 気さくに返したゼロが踵を返す。
『ここはもう大丈夫だ。俺は旅の続きに戻るぜ』
「もう行かれるのですか? せめて、ウルトラの星で改めてお礼を……」

523ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:05:49 ID:zuXS1mac
『それには及ばねぇっての。俺は風来坊さ。一つの戦いが終われば、またどこかで俺の助けを
求めてる人がいるところにひとっ飛びするのが俺の生きる道なんだ』
 ゼロは去り際に、タロウに首を向けてサムズアップした。
『じゃあなタロウ。平和になったお前たちの世界、ずっと見守ってるぜ』
 本の外からな、とゼロは心の中でつけ加えた。
「はい! 私もゼロさんのご健闘を、ずっとお祈りしてます!」
『へへッ……そんじゃあ、達者でな!』
 タロウたちウルトラ六兄弟に見送られながら、ゼロは地球を――この本の世界を後にしたのであった。

 ――『ウルトラマン物語』も完結させた才人が、今回もまた無事に現実世界に帰ってきた。
「これで半分だ……。そろそろルイズに変化が起きてもいいんじゃないか?」
 そんな才人の独白に応じるかのように、ルイズの方からかすかに声が聞こえた。
「ん……」
「ルイズ!?」
 顔を向けると、それまでずっと眠り続けていたルイズがゆっくりと上体を起こしたのだった。
これに才人たち一同は驚き、安堵した。
「ルイズ、よかった……。やっと目を覚ましたんだな!」
「ミス・ヴァリエール……おはようございます。ご無事にお目覚めになられて、わたし安心しました……」
「ほんとよかったのねー! 一時はどうなることかと思ったのね」
「パムパム!」
 才人たちは感激してルイズに呼びかけたが、ルイズはぼんやりと彼らの顔を見つめ返していた。
「ルイズ? 起き抜けで頭がはっきりしてないのか?」
 訝しんだ才人が近寄ろうとするのを、タバサが制した。
「待って。様子が変」
 タバサのひと言の直後に、ルイズは才人たちに対して、このように尋ねかけた。
「あなたたちは……誰ですか?」
「え……?」
 それに才人たちは思わず固まってしまった。シエスタが戸惑いながら聞き返す。
「ど、どうしたんですかミス・ヴァリエール? 長く眠り過ぎて、ぼけちゃいましたか?」
「ミス・ヴァリエール……? それが、わたしの名前ですか……?」
「もう、何言ってるのね? こんな時に冗談はよすのね!」
 シルフィードが大きな声を出すと、ルイズはビクッ! と身体を震わせて縮こまった。
「ご、ごめんなさい! わたし、何か悪いことしましたか……?」
「え、え……?」
 普段のルイズからは想像もつかないほど怯え切った様子に、シルフィードも唖然とする。
タバサはルイズを脅かしたシルフィードをポカリと杖で叩いて、言った。
「ルイズは記憶を失ってる。……まだ戻ってない、と言った方がいいかもしれない」
「そ、そんな……」
 呆然と立ち尽くす才人。一方でルイズは、周りのもの全てに怯えているかのように震えた。
「わたし、分からないんです……。自分の名前も……どんな人だったのかも……」
 どうやら、『古き本』の攻略はまだ続けなければいけないようだ。

524ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:06:50 ID:zuXS1mac
以上です。
いよいよ折り返し地点。

525名無しさん:2017/02/07(火) 16:49:09 ID:NHl5bkrc
乙 
ウルトラマンの映画ならまだアレが残ってますな。ウルトラ兄弟と、あいつの

526名無しさん:2017/02/09(木) 21:19:31 ID:IcQmyecs
ラッシュハンターズとの共闘も見たいと思ったけど難しいかな

527暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:36:46 ID:Z7JqIaTI
みなさんお久しぶりです。
かなり間が空いてしまい申し訳ないです
よろしければ22時45分から投下しようかと思います

528暗の使い魔 ◆PMgCVlzHGk:2017/02/11(土) 22:45:06 ID:Z7JqIaTI
赤くかがやく焔が、目前の無数の人々を包んでいくのを眺め、『彼ら』は割れんばかりの歓喜の声を上げた。
地を埋め尽くす群衆。その、一人ひとりが武装した軍団の中心で、煙にまかれて砦が燃える。
赤みを帯びた夕焼けの空へ、高く高く黒煙が昇っていった。
炎の中から響く無数の断末魔にも耳を貸さず、彼らは叫ぶ。
見ているか、と。
革命を掲げる『彼ら』にとって、その狼煙とも言える黒煙は、ある者どもへの何よりのメッセージである。
――岬の城に籠った脆弱なる王家よ、見えるか?貴様らを助けに行く者どもはもはやこの地にいない。助けられるものもいない――
ここから遠く離れた王党派の居城ニューカッスルからも十分に目視できるほどの大火であった。
砦を囲むから声が上がりオオオ――と鬨の声が上がる。王を廃した貴族派による、新たな政治を夢見る彼らには、最早迷いも躊躇いも無い。
目前のすべてを塗り替えて新たな時代を作るのだ、と息巻くのだ。
「諸君!」
と、突如の大声量が鳴り響く。全軍団が、一糸乱れずそちらへ向き直る。
彼らの視線の先には、燃え落ちる砦を背景に立つ、一人の男。
まるで僧のような恰好だが、手に握りしめた杖ときらびやかな装飾から、男の位の高さが伺える。
そして表情は岩のようだが、そのぎらついた眼はむしろ溶岩を連想させる。
静かにたたずむ群衆の目前で、彼は口を開いた。
「見よ、王軍に与する最後の支城は焼け落ちた。これより我らは、ニューカッスルに籠る本軍を叩く」
仰々しく手を広げ、彼は続ける。
「みたまえこの光景を!炎を!これは灯である。我らの行く末をきらびやかに照らす未来のともしびである!」
それを聞き、全軍から再び割れんばかりの歓声が巻き起こる。
彼らは口々に叫んだ。
「クロムウェル陛下万歳!」
「神聖アルビオン万歳!」
それを聞き彼、貴族派総司令オリヴァー・クロムウェルは、静かに笑みを浮かべた。そして再び声を張り上げた。
「全軍!ニューカッスルの部隊と合流せよ!愚かな王家を討ち滅ぼし、あらたな夜明けを迎えるのだ!」
号令とともに、全軍が動きだした。黒い軍団が、うねるよに大地を飲み込んでいく。
それを見て、クロムウェルはますます笑みを強めた。
その時。
「陛下」
突如、黒いローブの人影が彼の背後から歩み寄り、彼に声をかけた。
細身の体の人間、そしてそれに合致するような年若い女の声である。
クロムウェルは振り返ると、変わらぬ笑みで彼女を迎えた。
「おお、ミス!ご苦労だったな!して、状況はいかがかな?」
影がクロムウェルに近づき、耳元で囁く。
「ふむ、そうか順調か。多少の狂いはあったが、無事進行しているようだな」
報告を聞き、彼は満足そうに頷く。
「いよいよ明後日、我らの目的は果たされる。彼ならば必ずやり遂げるだろう。だが――」
突如クロムウェルが言葉を閉ざす。先ほどと変わり少々笑みを曇らせ、彼は押し黙る。
意図を察した彼女が静かに呟いた。
「ご心配なく、陛下。あ奴に関しては、此度の計画に手出しは無用と釘はさしております」
それを聞き、クロムウェルはむぅと唸る。
「万に一つ動くようなことがあれば、あの程度の異邦の者など――」
「成程、わかった」
一通り聞いたクロムウェルが彼女のこれ以上の言を制す。落ち着いた仕草だが、そこには何かを避けたいような様子が見え隠れする。
「ミス・シェフィールド」
「はい」
名を呼ばれた彼女が、彼に向き直る。
クロムウェルは彼女に背をむけながら、静かに呟いた。
「くれぐれも、頼んだぞ」
シェフィールドはそれを聞き、静かに応答する。
しかし、彼女は聞き逃さなかった。
そのクロムウェルの声の、微かな震えを。


暗の使い魔 第二十一話 『ニューカッスルの夜』


「な、なななっ……!」
黒田官兵衛は、わなわなと、実に分かりやすく動揺していた。
長曾我部と船で戦い、気を失い数時間。たった今目覚めた自分が、置かれているこの状況に。
「全部……」
震える声で、彼は叫んだ。
「全部終わっただとーーーーーっ!!?」
ぎゃんぎゃんと、屋内に響く叫び声に耳を塞ぎながら、ルイズはため息をついた。
「そうよ。あんたが寝てる間に皇太子殿下との話は終わったわ。あとはこの手紙を無事姫様に届ければ――」
「任務は完了だよ、使い魔君」
ルイズの言葉を引き取って、ワルドが答えた。
目覚めたベットに腰かけたまま、官兵衛は頭を抱えた。

529暗の使い魔 ◆PMgCVlzHGk:2017/02/11(土) 22:47:41 ID:Z7JqIaTI
官兵衛が目覚めたここは、アルビオン大陸の先端岬に位置する居城ニューカッスル、その一室である。
長曾我部の襲撃騒ぎから数時間、官兵衛が寝込んでる間に、ルイズたちは無事ニューカッスルの城についた。
現在貴族派の大群に囲まれているニューカッスルの城へは、陸路やまともな方法では入城できない。
そこで彼らは、アルビオン大陸の真下にもぐりこむ航路をとった。
その先には、王軍だけが知る秘密の港があったのだ。
ルイズの話に官兵衛が舌を巻く。
「大陸の真下を通るだと?目隠ししながら航行するようなもんじゃないか」
巨大な大陸の下は太陽の光も届かない。一歩間違えば闇の中、大陸の岩肌に衝突して一巻の終わりだ。
それを彼ら王軍は涼しい顔で航行してのけたという。
その時のウェールズの話では、それは空を知り尽くした軍人には造作もないことだだ、という。
無粋な貴族派に空を制すことはできない。
彼らが裏で空賊に扮した行動をとれたのは、この航空技術によるところが大きいという。
話を聞き終えた官兵衛は、思わず感嘆の息を漏らした。
案外、王軍もやるじゃないかと。
しかしその時ふと、官兵衛の脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
「(確かにその技術はすごいが、それだけでここまで持ちこたえられるのか?)」
考えが浮かんだらすぐ口に出したくなる官兵衛。
おい、とルイズに呼びかけようとした、その時だった。
不意にガチャリと戸が開き、部屋に初老の男性が入ってきた。
「失礼いたします。お連れの方がお目覚めになられたと聞きまして。」
実に丁寧に一礼する男性。ルイズとワルドもそれに合わせる。
そして男性は官兵衛にも同じように一礼すると名乗った。
「わたくし王族付きの執事を務めさせていただいております、パリーと申します」
官兵衛も、その丁寧で洗礼された仕草に対して、礼をする。
「小生は、黒田官兵衛。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの……その、使い魔だ」
使い魔の部分をやや声をひそめて言う。
パリーは嫌な顔一つせず、にこやかに言った。
「クローダ様、ようこそアルビオンへ。皇太子殿下もお目覚めを心待ちにされておりました。」
「ああ……ん?」
返事をして、ふと言葉が止まる。やや呆けた表情で、官兵衛は思わず聞き返した。
「皇太子、ああいや!皇太子殿下がなんだって?心待ち?」
それに対してパリーは柔和な笑みを浮かべる。
「ええ、ぜひ一目お会いください。今夜は盛大なパーティでございます。」
再びパリーが礼をして、扉の外へ視線を向ける。そこにはすでに、宴参加の準備をしようと、多数の侍女が控えていた。


「うおっ!うおおこりゃすごい!」
「相棒〜。はしゃぎすぎだよ」
夕日が沈みかけた頃、官兵衛は、宴の会場を訪れた。
官兵衛はデルフを携帯し、背中に背負っている。
背中から掛かる、うるさい声などものともせずに、官兵衛は声を上げた。
「こいつぁまた随分と豪華な。学院の宴とはまた一味違うな!」
城内で最も広いであろうそのダンスホールでは、所狭しと人々が並び、きらびやかに着飾って談笑している。
ホール中央の巨大なテーブルには、ローストされた巨大な鳥がソースに塗られて光っており、周りにはデザートからオードブルまで様々な食事が山盛りになっていた。
てんやわんやで、今朝から何一つ食事をとってない官兵衛は、腹の虫が鳴りっぱなしであった。
「飯、飯、飯!とりえず鳥か。あとは……!」
「相棒ー。あんまがっつくなって!一応王様主催のパーティなんだからな?」
「へいへい、わかってる。目立たんようにコッソリ、仰山!たらふく食うぞ!」
官兵衛が息巻くのを見て、デルフリンガーはやれやれと言う。
「相棒、わるいけどそりゃもう無理そうだぜ」
「あん?なんでだ」
「周り……みてみ?」
その言葉にはっとして見回したときはもう遅かった。
周囲の人間が、食事の手を止め、ぱちくりと官兵衛を見据える。
「…………あぁ、ハ、ハジメマシテ」
収束する視線の中、はぎこちない笑顔でほほえむ。
この瞬間から、鉄球を引きずったまま剣と会話する男が、一斉に宴の話題になったのだった。

530暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:49:51 ID:Z7JqIaTI
すいません、トリップ間違えてました汗


そのころ、パーティ会場から下へ下へと階段を下り、地下の秘密港へ続く階段の途中。
そこから分かれた岩壁の通路を進んだ、その先の牢獄、そこにその二人はいた。
「チクショウ!俺様をこんなところに閉じ込めやがって!開けやがれってんだ!」
「あーあ終わったねアタシら。よりにもよって王軍最期の戦場真っただ中に連れてこられたんだから」
鋼鉄の扉で閉ざされた狭い牢獄の中で二人、長曾我部とフーケは思い思いの言葉を吐いた。
2メイル四方程度の狭い牢獄内は窓もなく、小さなともしびが揺れてるのみ。
壁は分厚い石壁である。その壁に両足を鎖でつながれた二人は、暇な時間を無駄口を叩きながら過ごしていた。
「まったく!あんたがさっさと王様を押さえてりゃあこうはならなかったのにさ!」
「あぁん!?おめえがあんな髭にあっさり捕まるのが悪いんだろうが!」
壁を背にして座り込んだ二人は、仲良く並んで罵り合う。
「あたしゃあガッツリ時間は稼いだだろうさ!あんな狭い船で逃げ回るのがどれだけ大変かわかってんの!?」
「うーるせえぃ!俺だってあんにゃろうの妨害がなきゃあとっくに――!」

――ぐうぅううううぅ……――

むなしい腹の音が、二重奏を奏でた。
その間の抜けた音色と、底知れない空腹感に、二人は静かに閉口し、うなだれた。
「腹ぁ減った」
「あたしも」
はああ、と深いため息が同時に漏れる。
これ以上しゃべると余計に腹が減ることを察したのか、二人は押し黙ってじっとしていた。
するとどこからか、なにやら鼻腔をくすぐる香りが、漂ってくる。
場所としてはおそらく看守室だろう。夜勤の牢番が食事でもとってるのか。
「おい牢番さんよ!うまい飯くれよ!」
「そうさ!あたしらはお客人だよ!ちょっと挨拶が手荒だっただけじゃないのさ!飯くらいまともなのおくれよ!」
とうとう我慢できなくなったか、二人はぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。それを聞きつけ、牢番が飛んでくる。
「ええいさっきからうるさい奴らめ!殿下の身を危険にさらした賊にかける慈悲などあるか!食事ならそこに転がってるパンとスープでも食らっておけ!」
いうや否や、牢番は持ち場へ戻っていく。
「けっ!仕方ねえ」
長曾我部は短く言うと、床のトレイに置かれたパンをかじり始めた。
乾いてカチカチになったそれを、苦い顔でかじりながら長曾我部は言う。
「ほういや、ふーへよ」
「口にもの入れながら喋るんじゃないよ。行儀悪い」
ごっくんとパンを嚥下しながら長曾我部が改めて言う。
「んぐっ。そういや、フーケよ。俺たちゃこれからどうなんだ?まあ大方予想はつくがよ」
長曾我部の問いに、フーケがため息をつく。
「まー王様の裁量に任されてるとこだろうけど」
彼女が一息おいて言う。
「まあこのまま城とともに放置されて死ぬのか、処刑てとこかね。なんせ王族を襲ったんだから」
「だよな」
それを聞いて、長曾我部もまたため息をついた。
「まあただの密航者ならトリステインに送り返されるだけだったろうけど。それでも監獄に逆戻りするだけだしねぇ。あー成功してりゃあ……」
人質さえとれてればうまくいったのに、とフーケは愚痴を漏らした。
「まあしょうがねえ。終わっちまった事は」
長曾我部も仕方なさげに首を振る。
「それよりよフーケ……」
その時、ふと長曾我部が声をひそめてしゃべり始めた。
「なにさ」
フーケも牢番に気づかれないよう身を寄せる。
「お前、あの髭に捕まったよな。何があった?」
「なんだい、失敗したのはお互い様だろ?もうこのやり取りは止めようよ」
「ちげえ、気になるんだよ」
「何が?」
ぶつくさ言いながらフーケも聞き返す。
「あいつは王軍が扮した賊につかまってて、丸腰だったよな。でお前はあいつの杖がある武器庫にいたと」
「ああ」
未だに質問の意図がわからないまま、彼女は聞く。
「あの髭、丸腰じゃなかったってことか?」
その瞬間、フーケはハッとした。
自分は突如あらわれたあいつに――
「そう、そうだよ!あいつは確かに杖を持ってた!隠し持ってたのさ!」
そうだ、自分は出合頭に何か魔法をくらってそのまま意識を手放した。奴の手には、短い杖が光ってたのだ。
「やっぱりな」
聞くや否や、長曾我部は黙り込んだ。
「どういうこと?」
「こいつはやべえかもな……」
それからだった。長曾我部が一言も発しなくなり、静かに鎮座したままになったのは。
「あんた?おいモトチカ?」
幾度の呼びかけにも答えない。
何時間だっただろうか。
やがてある事が起こるその時まで、彼はフーケと言葉を交わすことはなかった。

531暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:52:01 ID:Z7JqIaTI
「おお!あなたがトリステインからいらしたクロード殿ですな!」
「クローベ殿!空の旅は快適でしたかな!」
「さあさあこのワインを!旅の疲れなど吹き飛びましょうぞ!」

波が押し寄せるように、人がわんさか寄ってくる。

「あーいや!ありがとさん、ありがとさん!ちょっと待ってくれ!」

官兵衛はそれを、手に持ったチキンで制しながらやり過ごす。

「おお!黄金鳥の蒸し焼きですな!それよりこちらのパティでもいかがか!」
「ややや!脂っこいもの続きではもたれてしまいますぞ!こちらの果物でも!」
「さあさあさあ!しかし鉄球とは面白い!トリステインでは新しい試みが多いと聞きますが、まさに!はっはっは!」

「(いやいやありがたいんだが、さすがに簡便してくれっ!)」

好意が過ぎると逆効果な好例だろうか。官兵衛はやや疲れ始めていた。
パーティが始まって一時間くらいは過ぎただろうか。官兵衛は怒涛のもてなしを受けていた。
なぜ自分にこうも人が集まるんだろうか。そりゃあ鉄球つけてれば目立つが、それでもよほどな状況である。
官兵衛はそんな群れをやりすごし、パーティ会場の片隅に座り込む。
「……でもまあ、無下にはできんよなあ」
「そうさね相棒。なんせあいつらにとっちゃあ、今日は最期の晩餐だからね」
官兵衛はしみじみと言う。
「だな」
官兵衛は上座の人々を見る。
そこにはウェールズ皇太子と無数の付き人。戦時中にもかかわらず、さわやかな笑みを浮かべ、臣下と会話に花を咲かす。
そして、そのさらに上座に鎮座する人物。
見るからに老いた風体。しかしその白髪の上には、紛れもなく王たるを示す冠が輝く。
アルビオン王国の現国王、ジェームズ一世である。
臣下に支えられながらよろよろと歩く姿から、すでに体も衰えているのだろう。
官兵衛は静かに視線を落とす。先ほどのジェームズの演説が思い起こされた。

「皆の者よく聞け!貴族派は、明日の午後に総攻撃を開始する!
皆、よくぞこれまでこの無能な王に付いてきてくれた。明日の戦いは、もはや戦いではなく、一方的な虐殺になるであろう」
かすれた声で精いっぱいの声を張る。そしてひと際大きな声で言い放つ。
「よって朕は諸君らに暇を出す!明日この城から、非戦闘員をのせた難民船が飛び立つ!
それに乗り込み、この忌まわしき大陸を離れるがいい!」
言い終わるやいなや、王は激しくせき込んだ。
殿下、と付近の臣下が背をさする。
演説から、状況から、そして何より弱弱しいその王の姿が、この王国がじきに消え去ることを連想させた。
しかし、それに返ってくる言葉はなんとも活力に満ち溢れていた。
「陛下!我らはただ一つの命しか望みませぬ!全軍前へ!全軍前へ!今宵は酒のため、それ以外の命は聞こえませぬぞ!」
「耄碌するにはまだ早いですぞ!命じてくだされ!」
次々と、王に付き従う声が上がっていく。
勇ましい忠誠の声に、ジェームズは涙をぬぐった。

その光景を脳裏に浮かべ、官兵衛はグラスのワインをぐっとあおった。
旅の道中口々に聞く、戦争の情報から、勝敗はわかってはいた。
王党派は明日、最後の攻撃で一人残らず討ち死にする。
ゆえに今この宴があるのだ。
最期の最後に、貴族派に精いっぱいの勢いを見せつけてやろう。
我らの活力を見せつけよう、と。
だからこそ彼らは官兵衛に、異国の男に、その様を伝えようと関わってくるのだ。
それを無下にできようものか、と官兵衛はデルフに言うのだった。
「……腹が減ったな」
「おう、いつも以上に食うね!」
デルフが茶化すように言う。
ただ官兵衛は、とにかく食べたかった。
のしのし歩いて、テーブルからごっそり肉を盛る。
そしてかっこむ。
途中でまたもや話しかけられたが、官兵衛は楽し気に話を進める。
それが、こういう場での習わしだと感じた。
アルビオンの人々は、終わり際に必ず『アルビオン万歳!!』と叫んで帰っていく。
官兵衛はそんな彼らを無言で見送った。
「うむ!うまいな!こっちの飯はあんま食いなれてないが、何か、とりすていんとは味が違うな!デルフ」
「そだね。まあ俺は剣だからわからねえがね」
官兵衛は何でもない風に、料理を堪能していた。
デルフがどうでもよさげに言う。
その時ふと、官兵衛に声がかけられる。
「ああ、その料理はハーブが効いてるからね。アルビオン特有のものさ」
「ほう、はーぶ?山椒みたいな、もの、か……」
後ろから聞こえた親切な説明に振り返った官兵衛は、その瞬間面食らった。
「やあ、楽しんでくれてるかな?」
ウェールズ皇太子が、変わらぬ笑みでそこにいた。

532暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:54:07 ID:Z7JqIaTI
「ウェールズ皇太子……殿下!」
とっさに敬称を付け加えながら、官兵衛は言った。
ウェールズが笑いながら言った。
「ははは、ウェールズでいいとも、クロダ殿」
「あ、ああ……」
とりあえず口に詰まった食事を咀嚼しながら向き合う官兵衛。
そんな彼にウェールズは気兼ねなく話しかける。
「先ほどは大変そうだったね、すまない」
「ああ、いや。気にしなさんな」
先ほどからもてなしで休む暇がなかった官兵衛を気遣ってのことだろう。
官兵衛は気にした風もなく返す。
「……こういう時だからね。みんなは異国の大使がそうとう珍しいと見える」
相も変わらず笑顔だが、どことなく寂しげにウェールズは言う。
「嬉しいのさ。最後に、我らの誇りを見に訪れてくれた客人が」
そうか、と官兵衛は静かに呟く。
しばし、二人の間に沈黙が流れる。
パーティーのにぎやかな喧噪だけが、ほんの少し遠くに聞こえた。
やがてどちらからか口を開く。そこから楽しげな談笑が始まった。
官兵衛はといえば、アルビオン大陸を初めて見た時の感動、空を飛んだ感動、雲、空。
果ては長曾我部のことまでと、なんでも口にした。
出身については異世界などと言えないので、遥か離れた東方の地、ということで誤魔化す。
ウェールズもそれをたのしげに聞き、時には問いかける。
程よく酒も入り良い気分だ。
そして不思議とその時は、時間がたってもだれも二人に介入しようともしなかった。
「そうか!我がアルビオンはそんなに美しいかね!」
「おう!なかなか見れるもんじゃないねえ!」
互いにグラス一杯のワインを飲み干しながら、笑いあった。
そのとき、やや間をおいて官兵衛が問いかける。
「いいのか?皇太子殿下がずっとここにいて」
「なに、一通りの話は済ませたさ。君やヴァリエール嬢、ワルド子爵と話をしたいからね」
ふん?と官兵衛が言う。
「君らがいたから、僕はこうして最後の地に戻ることができた。君ら三人の活躍があったからね」
ウェールズが続ける。
「おそらく、皆同じ気持ちさ。君らは単なる大使殿ではない。恩人なのさ」
そういって微笑むウェールズに、官兵衛は若干申し訳ない気持ちになった。
船を襲った長曾我部と自分は面識がある。共謀を疑われると思っていたからだ。
それゆえに官兵衛は、パーティのさなかも警戒していたのだ。
最も、今のウェールズの言葉を本心だと過信はできないが。
「疑わないのか?」
官兵衛は問いかける。それに対してウェールズはきょとんとする、が、ややおいて。
「ふっ!ははは!それもそうか、いやすまない」
大きく笑いながら言った。
「突然失礼。いやなに、ヴァリエール嬢と話をしたんだ。短い間だったが、君の話は色々聞いてしまってね」
ルイズが、と官兵衛が言う。
「なに、僕はともかく周りの家臣は疑ったさ。みんな君とあの賊との話を聞いていたからね。君が賊を引き込んだんじゃないかと」
ウェールズが真顔になる。しかしウェールズは、だが、と続けた。
「彼女は言うんだ。カンベエにそんなこと大それたこと出来るわけがない、とね!」
ウェールズは表情を緩め、再び笑った。
官兵衛はあっけにとられて話を聞いていた。
「それに僕は思うよ。あの素直で優しい大使殿の使い魔殿さ。疑う余地はない、とね」
ウェールズはふう、と息をつくと言った。
「滅びゆく王国は、みな正直なのさ。誇り以外守るものも無い。僕らのことは信じてほしい」
頭を下げるウェールズを見て、官兵衛は言った。
「すまん」
顔を上げ、ウェールズも言う。
「いいさ」
二人は再び笑いあった。

533暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:56:16 ID:Z7JqIaTI
ニューカッスル最後の宴、その喧噪はどこまでも響き渡った。
それは敵の貴族派の陣営にも。
突き出た岬のニューカッスルを見下ろすように、その艦船は上空を浮遊していた。
大きさは、王軍のイーグル号のゆうに二倍はあろう。
要塞と見まごうほどの巨体のその船は、貴族派艦隊旗艦レキシントン号。
彼らが初めて、反乱を成功させた町の名だ。
この戦争も、この船の反乱から始まったのだ。
そんな貴族派にとって、最も重要ともいえるこの船に乗るのは、艦隊提督、そして。
「耳を澄ませたまえ。あの熱に」
静かで、落ち着いた声色が、傍らの影に語り掛ける。
二つの人影が、甲板で気流に晒されながら、岬の城を見つめていた。
「幾度か出会った光景ではあるが、卿はあれに何か感じるかね?」
宴の喧噪について、声がもう一方の影に語り掛ける。しかし返答はない。
もう一方、細身の影はただじっと黙して佇むのみ。その手に、身の丈ほどの得物を握りながら。
「なんだ。卿も言葉を失くしていたのか。残念だ」
声の主は、ややつまらなそうに呟く。
が、やがて吹き荒れる甲板が飽きたか、風が肌障りか、踵を返して歩き出す。
「私は一足先に戻るよ。卿は、そうだな……精々懸命に動き給え」
声の主は、静かに船内へと消えていった。
残された細身の影は、静かに甲板の縁へと立つ。
ゆっくり目的の城を見下ろし、そして天を仰ぐ。
夜も更け、輝く星空でも見えるかと思ったが、どうにも雲行きは悪いようだ。
分厚い雲が空を、星を、月を覆おうとしていた。
「闇夜か。有難い」
年若い声が、するりと甲板から落ちていった。
眼下に広がる居城では、いまだに賑やかな喧噪が鳴り響いている。
ニューカッスルの、長い長い夜が始まろうとしていた。






以上で投下完了です。
ありがとうございました。

534ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:08:11 ID:J6G7hD4w
おはようございます。ウルトラ5番目の使い魔、55話完成です。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

535ウルトラ5番目の使い魔 55話 (1/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:09:12 ID:J6G7hD4w
 第55話
 ブリミルとサーシャ 愛のはじまり
 
 カオスヘッダー 登場!
 
 
 今や、惑星は歯止めの利かない滅亡へのベルトコンベアの上をひた走っていた。
 数え切れないほどの怪獣の群れ。それを強化・凶暴化させる光のウィルスにより、マギ族の文明は壊滅し、マギ族も先住民族も……いや、惑星すべての生命が絶滅の危機に瀕していた。
 光のウィルス、ブリミルたちがヴァリヤーグと呼ぶそれは、マギ族の科学力を持ってしても解析も対抗も不可能であった。正体、目的、知性があるのかすら謎。わかっていることは、こいつに取り付かれると怪獣は手がつけられないほど凶暴化し、たとえ倒してもいくらでも次がやってくるということだけである。
 才人も、過去の戦いで何度もこれに遭遇していたが、才人のいた世界でも記録のないこれらには何も出来なかった。
 ところがである。一同の中で、もっとも話についていけていないと思われていたティファニアが、まるでこれを知っているかのように名前をつぶやいたのだ。
「カオスヘッダー……」
「えっ? テファ、今なんて?」
 皆の視線がティファニアに集まる。今の言葉は何だ? なにか知っているのかという視線にさらされて、彼女ははっとして慌てふためいた。
「あっ、いや、その。わたしは、その、あの、今のはわたしじゃなくて」
 顔を真っ赤にして懸命にごまかそうとはしているものの、皆の怪訝な表情は変らない。さっき、ティファニアは確かに何かを確信してそれをつぶやいたのだ、うやむやにはさせられない。
 しかし、ティファニアが困り果てていると思わぬところから救いの手が延びた。ティファニアの前にサーシャが無遠慮に歩み寄ってきたかと思うと、ティファニアの顔をまじまじと見つめて言ったのだ。
「へー、ふーん。なるほど、あなたがこの時代のそうなのね」
「えっえっ? あの、なんですか?」
「いいえ、なんでもないわ。わかったわ、なぜ彼がこの時代に来れなかったのか。ブリミル、話を進めましょう」
「は? いやしかし」
 突然サーシャに促されてブリミルは戸惑ったが、サーシャはかまわずに告げた。
「いいのよ。今はこれは置いておいて、後で全部わかるから。それよりも、ここからが大切な話でしょ? ヴァリヤーグがやってきて、あなたたちはどうなったのかを」
 サーシャの強い様子に、ブリミルは気圧されるようにうなづいた。他の面々もサーシャに「あなたたちもそちらのほうが大事なんじゃない?」と言われ、やや納得していない様子ながらも引き下がった。
 けれど引っかかる。ティファニアは何を知っているのだ? そして、サーシャは何に気がついたのだ? だが、無理強いしてもサーシャに止められそうな雰囲気ではあった。

536ウルトラ5番目の使い魔 55話 (2/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:11:12 ID:J6G7hD4w
 カオスヘッダー……気になる名前だ。才人はなんとなくだが、あの光の悪魔にはヴァリヤーグよりも似合う名前だと思った。英語の成績はさっぱりだが、前に何かのマンガでカオスとは混沌のことだと見た覚えがある。混沌に付け込んで混沌を広げていく、あれにはまさにふさわしい名前ではないか。
 
 小さな謎を残しつつ、ブリミルは話を再開した。
 マギ族による戦争の混沌を突いて現れたヴァリヤーグによって、マギ族は甚大な被害を被った。各地に築かれた都市は怪獣たちによってことごとく破壊され、地方に散っていたマギ族の多くが死亡し、惑星到着時には千人を数えた頭数もすでに五百人を割ってしまっていた。
 もはや、マギ族にとって安全な場所は最初にサハラに築いた首都のみとなっていた。生き残ったマギ族はここに集結し、ようやく戦争どころではないことを認め合って話し合った。
「今のところは都市の周囲に張り巡らせたバリアーと防衛砲台で怪獣どもの侵入は防げているが、これもいつまで持つかわからん。諸君らには、これから我々がどうするべきか忌憚無く意見を述べていただきたい」
 会議は紛糾したが、もっぱらの課題はヴァリヤーグと名づけた謎の敵に対する方針をどうするかとなった。
 すなわち、ヴァリヤーグに対して、このまま交戦を続けるか、和解の方法を探るか、ひたすら首都にこもって身を守り続けるか、惑星ごと放棄して逃げ出すか。この四つである。
 まず第一の方針は、すでにマギ族の持つ軍事力が疲弊しきっていることから不可能とされた。工場施設と資源はあっても、若い男性のほとんどは地方で自ら軍を率いていたために怪獣たちの餌食となり、残っていたのは大半が女子供や老人ばかりだったのである。
 また、ヴァリヤーグとの和解であるが、これも相手が知性を有するのかすら不明であるため、研究に時間がかかりすぎると却下された。
 首都での篭城は問題外。増え続ける怪獣たちが押し寄せてくれば、あっというまに押し潰されてしまうだろう。
 残った道は、せっかく手に入れた安住の地を捨てて逃げ出すことだけであった。
 もちろん、惑星を放棄することは多くの者が難色を示した。しかし、ほかに有効な手立てもない以上は生存のためには仕方なく、それに何年かすれば怪獣やヴァリヤーグも去っているかもしれないという期待が彼らを決断させた。
「まことに残念ではあるが、我らが生き延びるには他に手が無い。生き残ったマギ族はすべて宇宙船に乗り込むべし」
 それは、ノアの箱舟ともいうべき逃避行であった。ノアと違うところは、神に選ばれたのではなく神に見捨てられたのだというところであるが、マギ族は最初に乗ってきた宇宙船に可能な限りの物資を積み込んで脱出準備に入った。
 まるで夜逃げだ。ウェールズは、レコン・キスタに押されて王党派が何度も撤退を余儀なくされていた頃のことを思い出して重ねていた。あのレコン・キスタの反乱も、事前に防ごうと思えば防げた、早期に鎮圧しようと思えばできたのに、伝統と格式というぬるま湯につかりきっていた王党派はすべてが後手後手の中途半端に終わり、ぼやで済む火事を大火にしてアルビオンを全焼させかけてしまった。皮肉な話だが、自分がヤプールに洗脳されていなければアルビオン王家は滅亡し、今のアルビオンはまったく違った姿に変わり果てていたかもしれない。
 都市から灯が消え、マギ族は脱出準備を整えた。どこへ逃げるかだが、宇宙は今でも宇宙怪獣たちがやってきているために危険すぎるため、聖地のゲートを通って逃れることに決まった。
 宇宙船が離陸し、亜空間ゲートに近づいていく。その光景を、才人すら複雑な表情で見つめていたが、ややすると耐えられずに尋ねた。

537ウルトラ5番目の使い魔 55話 (3/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:12:54 ID:J6G7hD4w
「つまりブリミルさんたちはいったんハルケギニアから離れて、ほとぼりが冷めてから戻ってきたってわけですか?」
 しかしブリミルはゆっくりと首を横に振った。
「いや、僕はあの船には乗っていなかったよ」
「えっ? でもそれじゃあ」
 才人が聞き返そうとした、その瞬間だった。今まさにゲートを潜ろうとしていた宇宙船の頭上から三本の稲妻のような光線が降り注いできたかと思うと、宇宙船は大爆発を起こして墜落してしまったのである。
「なっ、なんだとっ!」
 絶叫する才人の網膜に、空から舞い降りてくる巨大な金色の怪獣の姿が映る。その怪獣は墜落した宇宙船に向かって、再び三つの頭から光線を発射すると、炎上する宇宙船を完全に爆破してしまったのだ。
 唖然とする一同。宇宙船は原型をとどめないほど破壊され燃え盛っている。脱出できた人間は、ただのひとりもいなかった。
 勝ち誇るかのように甲高い鳴き声をあげる怪獣。都市を守っていたバリアーは、最後の最後で役割を果たせずに砕け散ってしまっていたのだった。
 怪獣は次に、主を失った都市への破壊を開始した。バリアーが消えたことで、外にいた怪獣たちも都市への侵攻を開始する。ブリミルは、破壊されていく超近代都市の凄惨な光景を悲しげに見ながら言った。
「僕は地方にいて、自分の船を壊されて帰れずにいたおかげで命拾いをした。この光景は、その後に都市の跡地で見つけた記録にあったものだ。首都と母船が破壊されて、マギ族もそのほとんどが死亡した……だが、問題はこれからだったんだ」
 ブリミルが映像の視点を動かすと、都市の郊外で放置されたままになっていた亜空間ゲートが映し出された。しかしなんということか、ゲートはしだいに歪みだし、まるで心臓のように不気味な脈動をしながら黒い球体と化していったのだ。
「開いたままで制御を失ったゲートは暴走を始めた。よその宇宙から流れ込んでいた膨大なエネルギーはゲートの周りに滞留し、どこの宇宙につながっているのかもわからないままで、手のつけようがない時空の特異点となってしまったんだ」
 それはまさに地上に出現した黒い太陽であった。直径百メートルほどの黒い球体は宙に浮かんだままで何も起こさないが、周辺には巨大な力場を形成しているらしく、近づこうとする怪獣でさえこれに捕まると粉々に分解されてしまった。
 とてつもないエネルギー量。マギ族の都市を輝かせていたエネルギーは、まるで出口を閉じられたダムのようにゲートそのものを飲み込んで停止している。ブリミルが手がつけられないと言ったのも当然だ、ひとつの宇宙に匹敵するエネルギー体にうかつに手を出せば、下手をすれば星ごと消滅させられてしまうかもしれない。
 けれど、これでひとつの謎が解けた。なぜヤプールが聖地を奪ったのか? それはまさに、このゲートを手中にしたかったからに違いない。
 才人はルイズに言った。
「そりゃ、こんな冗談みたいなパワーがあるなら、ヤプールでなくたって手に入れたがるだろうぜ」
「ロマリアがマークしてたのもわかるわね。教皇たち、あわよくばこれも手に入れようって思ってたんでしょうね。けど、ヤプールにまだ動きがないところを見ると、使いこなすまでには行っていないんじゃないかしら」
 始祖ブリミルでさえどうしようもない代物だ。いくらヤプールの異次元科学が進んでいるとはいっても、ひとつの宇宙に相当するようなエネルギーを万一にも扱い損ねればヤプールも自滅に直結することはわかっているだろう。ヤプールは人の心につけこんで操るのには長けているが、意思を持たないものを操ることは甘言では不可能だ。

538ウルトラ5番目の使い魔 55話 (4/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:14:00 ID:J6G7hD4w
 そしてもうひとつ、エレオノールやルクシャナもひとつの答えを得ていた。
「聖地の向こうから、不可思議なものがやってくる理由もわかったわね。異世界への扉が開きっぱなしになってるなら、どこかの世界と偶然つながることもあるってことかも。ルクシャナ、もう落ち着いたでしょ? あんたなら、わかるわよね」
「ええ、それで偶然つながった先から吐き出されてきたものが、中にはわたしたちの手に入ることもある。ヤプールが目をつけたのはそのへんもあるのかも……」
 いずれにせよ推測だが、ヤプールの手中にとんでもない爆弾があることだけは確かなようだ。ヤプールはいまのところおとなしいが、地震が地底深くでゆっくりと圧力を高めていくように、その侵攻が再開されるときはかつてないものになるに違いない。
 始祖の祈祷書などでも聖地について言及してある理由も、こんな危険なものをそのまま放置しておけば何かのはずみで星ごと滅亡することもあるかもしれないからだ。制御が不能ならば、せめて管理して余計な刺激を与えないようにするしかない。
 ともかく、聖地とは名ばかりの地獄の門であることに変わりは無い。ブリミルは深くため息をつくと、聖地を見つめて言葉を続けた。
「あれを封じることが、僕に課せられた最後の仕事だと思っている。でも、どうやらこの時代でも危険なままのようだね。本当に侘びようがないことだが、僕がこれを知ったときには、もうどうしようもないくらいにひどくなっていたんだ。もっとも、この頃の僕は別の意味でそれどころじゃないことになっていたんだけどね」
 ブリミルは映像を変えた。聖地から再び、地方の戦場へと。しかしそれはもう戦場とは呼べず、一方的な虐殺の場でしかなくなっていた。
 母船の破壊で、マギ族はその人口の大半を失った。そして、地方でわずかに生き残っていたマギ族もまた、次々と命を奪われていたのだ。
 ある者は怪獣の餌食となり、またある者は虐げていた人々の復讐によって殺された。
 ブリミルも例外ではなく、船も領地も領民もすべてを失い、身一つで廃墟の中を逃げ惑っていた。
「どうして、どうしてこんなことになってしまったんだ……?」
 天を仰いで嘆くブリミルに答える者はいなかった。因果応報ではあるが、いざとなってそれを自覚できるものは少ない。
 彼に味方は誰もいない。彼の領民だった者は暴君だったブリミルを皆恨んでおり、マギ族は能力的にはほとんど人間と変わらないため、彼にできることはメイジや亜人からも逃げ回ることだけだった。
 飢えて震えて、行くところも帰るところもない逃避行にブリミルは涙した。しかし、それすらも長くは続かなかった。
「怪獣だぁ! 逃げろぉ」
 彼の元領地の生存者たちの集まっている集落を怪獣が襲撃したのである。
 深夜に、地底からいきなり現れた怪獣の前に、寝入りを襲われたメイジも亜人たちもろくな対応はできなかった。しかもこの怪獣は肉食性らしく、住民たちを次々に捕食し、夜の闇の中でも光る角と敏捷な動きで逃げ惑う人々を捕らえ、集落を全滅に追い込んでしまったのだ。

539ウルトラ5番目の使い魔 55話 (5/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:15:43 ID:J6G7hD4w
 ブリミルは集落の外れで食料を盗みに来てこれに遭遇し、集落が全滅するのを後ろに必死に逃げ出した。だが、村一つの人間を食い尽くしてもなお食い足らない怪獣は、大きな耳で足音を捉えて追いかけてきたのだ。
「う、うわぁぁぁっ!」
 その怪獣は、才人から見てパゴスやガボラなどの地底怪獣と似た体つきをしていたが、動きは比べ物にならないほど素早かった。
 ブリミルは夜の道を馬を走らせ、馬が倒れたら馬が食われている間に走り、ひたすら逃げ回った。だがもはやこれ以上は逃げられないとあきらめかけたときである、彼の目の前にマギ族の誰かが乗り捨てて行ったと思われる円盤が姿を現した。
「これは……まだこんな船が残っていたのか」
 着陸している円盤は、マギ族が自家用機として惑星内を移動するときに使用していたもので、直径五十メートルほどの大きさがあった。形は特徴らしいものはなく、強いてあげればイカルス星人の円盤に似ている。見たところ、これといった損傷はなさそうだった。
 動くか? ブリミルは迷ったが、考えている暇は無かった。怪獣はすぐ後ろまで来ている。ブリミルは円盤に乗り込むと、すぐさまコントロールルームに飛び込んだ。
「頼む、動け、動いてくれ」
 一縷の望みを託してブリミルは操縦パネルを起動させた。
 エネルギーが回り、パネルが光りだす。ようし、こいつはまだ生きている、ブリミルはすぐさまエンジンを起動させて離陸しようと試みた、が。
「なんでだ! なんで動かない? 反重力バイパスが烈断? ちくしょう!」
 円盤はすでに飛行能力を失っていた。望みに裏切られて、ブリミルは拳をパネルに叩き付けたが、すぐに円盤を激しい揺れが襲って彼は座席から投げ出された。怪獣が円盤に取り付いて壊し始めたのである。
 怪獣のパワーの前では、多少頑丈なだけの円盤など、立てこもる場所にはならなかった。ブリミルは、この円盤もすぐに壊されてしまうと、外に逃げ出そうとコントロールルームから通路に飛び出した。だがそこへ、怪獣が円盤を横倒しにした衝撃でブリミルはそばの部屋に転がり込んでしまった。
「うう……こ、ここは。生体改造施設、か」
 そこは、この円盤の持ち主が自分の領民をメイジや亜人に改造していたと思われるバイオ設備の部屋であった。人間を作り変えるためのカプセルや、コントロールパネルが半壊の状態で散乱している。
 体を強く打ったらしく、ブリミルはコントロールパネルに這い上がって、やっと立つのが精一杯だった。だが、怪獣はにおいを嗅ぎつけてついにこの部屋まで破壊の手を伸ばしてきた、壁が破られ、その向こうに鋭い牙を生やした怪獣の顔が迫っている。

540ウルトラ5番目の使い魔 55話 (6/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:18:34 ID:J6G7hD4w
 もう逃げ場は無い。ブリミルは、自分がこれから食われるのだと、明確に理解した。
「い、いやだ……誰か、誰か助けて」
 目の前に迫ってくる逃げられない死。部屋が破壊されて、怪獣の口が目の前に迫ってくる。
 だが、そのときブリミルの寄りかかっていたコントロールパネルのスイッチが、彼が手を滑らせたことで偶然にも入った。すると、彼が円盤のメイン動力を起動させていた影響でエネルギーを受けていた生体改造設備は、半壊状態でその機能を発動させたのだ。
「なんだ? う、うわぁぁぁぁっ!?」
 改造カプセルが破壊されていたので、エネルギーはすべてブリミルの体に直接流し込まれた。彼の体がプラズマのように輝き、エネルギーとともに、コンピューターに記録されていた膨大な数の超能力のデータも注ぎ込まれていく。
 しかし、改造は本来はカプセルの培養液の中で安定させた上で数時間かけておこなうものだ。こんな無茶な方法で強制的に人間の体にエネルギーと情報を流し込んで無事ですむわけが無く、ブリミルは言語を絶する苦痛の中でのたうった。
「ぎぃあぁぁーーーっ!」
 その凄惨な光景に、アンリエッタやティファニアは思わず目をそむけかけた。まるで電気椅子にかけられた死刑囚のように、ブリミルはそのまま死んでしまうのではないかと思われた。
 いや、ブリミルは死なない。この運命は、すでに経過済みであるからだ。円盤に残っていたエネルギーのすべてを流し込まれて、ブリミルはそのまま床に倒れこんだ。
「う、あ……」
 あと一秒でも苦痛が続いていたらショック死していたかもしれない衝撃に、ブリミルは動くこともできずに床に倒れ付していた。
 しかし、怪獣は突然の出来事に驚いていったんは離れたものの、光が止んだことで安心して再びブリミルを餌食にしようと迫ってくる。ブリミルは逃げられない。だがそのとき、ブリミルの手元に一本の杖が転がり込んできた。
「これ、は……はっ!」
 杖を持った瞬間、ブリミルの頭の中で無数の文字が踊り狂って呪文の形を成していった。現代のメイジは時間をかけて自分の杖と契約を成立させるが、この時代のメイジは杖を持った瞬間にすべての魔法が使えるようにインプットされた状態で作り出される。しかも、秩序無くありとあらゆるデータを流し込まれた影響からか、ブリミルの頭の中に浮かぶ呪文は、これまで使われたことの無い新魔法として彼の口から流れ出た。
「我が名は、ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール。わ、我の運命に、し、従いし」
 途切れ途切れながらもはっきりした呪文がブリミルの口から流れる。そしてその呪文のルーンを聞いたとき、ルイズは……いや、その場にいたメイジ全員がはっとした。それは現代では特別な魔法でもなんでもなく、メイジなら誰もが知っていて当然の、サモン・サーヴァントの呪文だったからだ。

541ウルトラ5番目の使い魔 55話 (7/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:19:57 ID:J6G7hD4w
 ブリミルの杖が輝き、彼の傍らに光り輝く召喚のゲートが現れる。怪獣はその光に驚いて離れ、続いてゲートからはじき出されるようにして、ひとりの人影が飛び出してきた。
「うわ、あいったたぁ……え、ここどこよ? わたし、さっきまで森で怪獣に追われてて」
 事態を飲み込めない様子であたりを見回す少女、それが誰かは確かめる必要もなかった。短い金髪、活発そうな眼差し、それはまさにここにいるサーシャに間違いはなかったのだ。
 今のサーシャが不敵に笑い、昔のサーシャはうめき声を聞きつけて足元のブリミルを見つけた。しかし、身なりで彼がマギ族だとわかると、彼女は露骨に嫌悪感を示した。
「あんたマギ族ね。わたしをここに呼んだのはあんたなの?」
 足元のブリミルは答えなかった。いや、答えられなかった。彼自身、はじめて使う魔法の効果を理解できても、使い魔という存在がなんなのかわからなかったのだ。いわば、説明書だけを丸暗記させられたようなものだ。
 ブリミルは、見上げた先にいる女性が自分に敵意を持っていることを知った。しかし仕方ない、今やこの星でマギ族に恨みを抱いていない人間などひとりもいないと言っても過言ではない。
 それでも、ブリミルは一縷の望みにすがった。
「た、助けて……」
 そう言うだけで精一杯だった。くどくどした言い訳や命乞いを思いつく暇も無い、ただ本心の願いだった。
 サーシャはブリミルの頼みに、「なんでマギ族なんかを」と、見捨てて離れようと踵を返したが、ブリミルを餌食にしようと迫ってくる怪獣の口を見て一瞬躊躇した。
「なんでわたしが……もう、しょうがないわね!」
 苛立ちながらもサーシャは倒れているブリミルを抱えて飛び出した。次の瞬間には、ふたりのいた場所は怪獣に噛み砕かれて跡形もなくなる、サーシャは怪獣の頭の横を走って駆け抜けると、そのまま円盤の外に飛び降りた。
 円盤は完全に怪獣に押し潰されて大破し、サーシャはブリミルを背中に背負ったままで円盤に背を向けて全力で走る。
「ここどこなのよ! いったいどっちに逃げればいいの!」
「あ、ありが、とう」
「か、勘違いしないでよ。目の前で食われたらさすがに寝覚めが悪いだけよ、てかやっぱり追ってくるじゃない」
 怪獣はしつこくサーシャの後を追ってきた。サーシャは健脚であるものの、人一人を背負ったままではやはり力が出ない。

542ウルトラ5番目の使い魔 55話 (8/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:21:24 ID:J6G7hD4w
 このままではすぐ追いつかれる。映像を見ていた誰もがそう思って息を呑んだときだった。サーシャが……いや、映像の中のサーシャではなくて今ここにいるサーシャがはっとしたようにブリミルに詰め寄った。
「ちょ、ブリミルここカット」
「へ?」
「カットよカット! いいから五分くらい時間を飛ばしなさい! 早く!」
 なんだかわからないけど突然ものすごい剣幕で迫りだしたサーシャに、才人やルイズたちも「なんだなんだ?」と、怪訝な顔をする。
 なんか見られたらまずいものでもあるのか? と、思ったときにはサーシャはブリミルの後ろから羽交い絞めにしてでもイリュージョンの魔法を止めようとしていた。
「飛ばしなさい、い・ま・す・ぐ・に!」
「はっはっはー、なるほどそうはいかないよー。こうなったらもう全部見てもらおうじゃーないか。遠慮しなくてもいいよー」
「誰が! いいからこの、こんなときだけ強情なんだから」
 なんかブリミルもすごく悪い顔をしている。いったい何が始まるというんだ? 一同は考えてみた。えーっと、サモン・サーヴァントの後にするものといえば……なるほど。
 キュルケやアンリエッタが顔を輝かせた。カリーヌはつんとした様子になり、エレオノールは「けっ」と不愉快そうに視線をそらす。
 もちろんウェールズも気づいて、なにやら思い出深そうにうなづいている。ルイズが赤面しているのを才人が脇でつついて殴られた。アニエスははてなという様子だったがミシェルに耳打ちされて納得した。ティファニアがきょとんとしている横で、ルクシャナはこれからがとても楽しみだというふうにニコニコしている。タバサだけは表面上は無表情でいた。
 そして、その瞬間は無情にやってきた。昔のサーシャが走りながら背負ったブリミルの様子を見ようと振り返ったときである。
「ちょっとあなた、どこか逃げ込めるところはないの? さっきからなに背中でブツブツ言って、んんっ!?」
 おおっ! と、ギャラリー一同が興奮し、今のサーシャと昔のサーシャが同時に赤面した。
 そう、サモンサーヴァントの後にすることはコントラクト・サーヴァント。その方法は、人間と動物や幻獣などであればなんてことはないが、人間同士でやるにはすごく恥ずかしい行為、口付けである。
 ブリミルとサーシャの唇がしっかりと触れ合っていた。いや触れ合っているというよりしっかりと押し付けあっている。その熱い光景に、ギャラリー一同は状況も忘れ、キュルケとアンリエッタを筆頭に鼻息を荒くし、ティファニアさえ顔を覆った手のひらのすきまから見入っている。
 が、たまらないのは今のサーシャだ。ものすごく恥ずかしいシーンを大勢に暴露されてしまった。顔から湯気が出そうなくらい赤面し、恥ずかしさをごまかすかのようにブリミルの首を締め上げている。

543ウルトラ5番目の使い魔 55話 (9/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:31:41 ID:J6G7hD4w
 当然、当事者である昔のサーシャの反応もぶっ飛んでいた。
「なっ、なっなっ、なっ、なにすんのよこの腐れ蛮人がぁぁぁーーっ!」
 サーシャは思いっきりブリミルを投げ飛ばし、ブリミルの体は近くの立ち木の幹に思いっきり叩きつけられた。カエルのようなうめき声を残し、地面にずり落ちるブリミル。続いて立ち木がメキメキといってへし折れた。
 「ブリミルさん、死んだんじゃないのか?」。才人はありえないとわかっていながらも本気でそう思った。そりゃ、いきなり唇を奪われたら女性は誰だって怒る。ブリミルには悪気は無く、頭の中に浮かんできたコントラクト・サーヴァントの内容を無意識に再現したのだろうが、何も知らないサーシャにそんなことは関係ない。
 けれど、コントラクト・サーヴァントの効果はすぐに表れた。サーシャの左手が輝き、ガンダールヴのルーンが刻まれ始めたのだ。
「なにっ? きゃあっ、あ、熱い! いたぁぁぁいっ!」
 ルーンが刻まれる際には激痛を伴う。サーシャは左手を押さえて悲鳴をあげた。
 しかしルーンが刻まれるのに時間はかからず、すぐに痛みは治まった。それでも、訳がわからないサーシャはブリミルに何かされたのだと思って、腰に差していた短刀を引き抜いてブリミルに詰め寄ろうとした。
「あんた、いったいわたしに何を? えっ? ええっ!?」
 体を動かそうとしたサーシャは、自分の体が思ったよりも何倍も軽く動いたので驚いた。まるで重力がなくなったような抵抗のなさ、見ると剣を握っている左手のルーンが輝いている。面食らっているサーシャに、ブリミルはふらつきながら告げた。
「それが、君に与えられた力だ。なにかしら武器を持ってるあいだだけ、君の身体能力は何倍にも跳ね上がる」
「ええっ! って、人の許可も無しになにしてくれるのよ」
「すまない。それより、後ろだ」
「えっ? うわっ!」
 サーシャがとっさに飛びのいたところを怪獣の口が通り過ぎていった。アホなことをやっているあいだに追いつかれてしまったのだ。
 またも餌を食べ損ねた怪獣は機嫌を損ねた様子で吠え掛かってくる。サーシャが、もうこれまでかと覚悟しかけたそのとき、ブリミルが杖を握りながら彼女に言った。
「頼む、一分。いや、五十秒でいいから怪獣を引き付けておいてくれ、そうしたら後は僕が」
「はぁ? なによそれ。うわああっ!」
 サーシャの問いかけにもブリミルは答えず、彼は杖をかざして呪文を唱え始めた。もちろん、怪獣も遠慮なく襲い掛かってくる。
「ああもうっ! こうなったらもうやけくそだわ」
 完全に吹っ切れたサーシャは、襲い掛かってくる怪獣に短剣を振りかざして立ち向かっていった。

544ウルトラ5番目の使い魔 55話 (10/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:32:38 ID:J6G7hD4w
 怪獣の突進をガンダールヴのスピードでかわし、大きくジャンプすると怪獣の顔に飛び乗った。自分でも信じられないくらい体が軽い。ならばパワーはどうか? サーシャは短剣を両手で持つと、渾身の力で怪獣の眉間に突き立てた。
「ええーいっ!」
 刺さった! スピードといっしょにパワーもかなり上がっている。しかし短剣では長さが足りず、怪獣の分厚い皮膚の向こう側にまで通っていない。
 せめて槍、もしくは長剣でもあれば。悔しさをにじませるサーシャだったが、そこにブリミルの魔法の詠唱が聞こえてきた。
「スーヌ・ウリュ・ル……」
 不思議なことに、それを聞いたとたんにサーシャの心から恐怖や焦りが消えていき、代わって勇気と自信と、あの呪文をなんとしても完成させなくてはという使命感が湧いてきた。
「あと三十秒、それだけ時間を稼げばいいのよね!」
 サーシャは飛び降りると、怪獣の注意をブリミルからそらすために怪獣の視線をわざと横切っていった。
 当然、怪獣はサーシャへと襲い掛かる。それはほんの数十秒にしか過ぎないとはいえ、危険極まる行為であったが、才人には彼女の気持ちが理解できた。ガンダールヴとは、主の呪文の詠唱が完成するまで主を守るのが務めの使い魔なのだ。
 素早い動きで逃げ回り、サーシャは要求の五十秒を満たした。そしてブリミルは呪文を完成させ、ルイズにとってもっともなじんだあの虚無魔法を発動させた。
「ベオークン・イル……エクスプロージョン!」
 それは、この世に虚無魔法が誕生した瞬間であった。光とともに爆発が起こり、怪獣を巻き込んで吹き飛ばす。
 サーシャが次に目を開けたときには、怪獣はかなたに飛ばされていったのか、それとも欠片も残さないほど粉砕されたのか、いずれかはわからないが視界のどこにも存在してはいなかった。
 助かった……ほっとしたサーシャが短剣をさやに戻すとルーンの光は消えた。そしてサーシャは木の根元で倒れこんでいるブリミルのもとに歩み寄ると、その顔を見下ろして言ったのだ。
「説明してもらえるかしら。いったい何がどうなってるのよ?」
「ごめん、実を言うと僕にもさっぱりなんだ。ともかく、命を助けてくれてありがとう。ええと、君は」
「サーシャよ。めんどうだから名前くらい教えてあげる。あんたは?」
「ブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」
「ブリミルね。それでもう一度聞くけど、こんなどこだかわかんないとこに連れてきてくれて、いったいどうしろっていうの?」
「わからない。けど……うう、なんだか、とても、眠い、よ」
 ブリミルはそのまま、虚無魔法を使った反動で意識を失ってしまった。

545ウルトラ5番目の使い魔 55話 (11/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:34:04 ID:J6G7hD4w
 サーシャは呆れた様子だったが、ふと左手のルーンを見つめると、ため息をついてブリミルを担ぎ上げた。
「勘違いしないでよね。わたしは見も知らない土地を一人で歩き回るほどバカじゃないだけなんだから。それと、わたしの初めてを奪った報いは必ず受けさせてやるわ。それまであんたのことは蛮人って呼ぶから、覚悟しておきなさいよ」
 疲れ果てて寝息を立てるブリミルを背負って、サーシャは雨風をしのげる場所を探すために歩き始めた。この旅立ちが、彼女とその背の男の一生をかけたものになることをまだ二人は知らない。しかし長い夜は明け、しばしの安息を得よと告げるように、ふたりの歩む先から太陽がその姿を見せ始めていた。
 
 舞台は現代に戻り、ブリミルはそこでイリュージョンの映像を再び止めた。というか、サーシャの首締めで落ちて止まった。
 とはいえ、話を区切るには適当なタイミングだっただけに、一同は息をつくと顔を見合わせた。
「これが虚無の系統の誕生と、始祖ブリミルとミス・サーシャの出会いだったわけなのね」
「なんてドラマチックなのでしょう……」
「いや女王陛下、そこじゃないでしょう、そこじゃ」
 うっとりしているアンリエッタにツッコミを入れると、ルイズは考えを整理してみた。
 簡単にまとめると、マギ族はその文明とともにほとんどが死滅した。始祖ブリミルは、幸運に生き残った最後の一人。
 虚無の系統は、人造メイジを生み出す機械の暴走でイレギュラー的に生み出されたもの。常識はずれの効果を持つのはそれが理由だろう。
 サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントは、元々は虚無の魔法だった。しかしコモンマジックとしても使えたので、四系統の中にも組み込まれていった。
 そして、最初の使い魔として選ばれたのがサーシャだった。ある意味、これがハルケギニアの歴史のはじまりだったと言えるかもしれない。
 ほかの面々も感想はそれぞれだろうが、一様になにか深いものを感じたらしくうなづいている。始祖ブリミルは、異邦人であり侵略者であり暴君であり、人間だった。神は地に引きづり下ろされて人になった。
 そのころ、サーシャに締め落とされたブリミルがようやく息を吹き返してきた。
「う、うぅーん。ここは天国?」
「あいにくね、まだ現世よ」
 頑丈だなこの人は、と一同は思った。そういえばさっきもサーシャに思い切り木に叩きつけられていたのになんとか無事だったし、あれから今日まで日々鍛えられていたのだろう。見習いたいとは思わないが。
 目が覚めたブリミルは、首をコキコキと鳴らして脳に血液を送り込むと、一同に問いかけた。
「どうだったかな。僕とサーシャの出会い、たぶん期待したようなものじゃなかったと思うけど、楽しんでもらえたかな?」
 いや楽しむとかそういう類の問題じゃないでしょうが、と一同は思った。なにかスッキリした様子のブリミルはサーシャに軽く意趣返ししたつもりなのだろうが、頬を紅潮させたサーシャにさっそくどつかれている。

546ウルトラ5番目の使い魔 55話 (12/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:35:03 ID:J6G7hD4w
 私をさらしものにするとはいい度胸してるじゃないの蛮人、と言ってすごむサーシャと、いいじゃないの歴史は正確に真実を残さなくっちゃとうそぶくブリミル。だがまあいいものは見せてもらえた。それと豆知識がひとつ、蛮人という言葉の由来は「野蛮な人間」ではなく「ブリミルのボケナス」という意味だった。今のエルフたちは、自分たちが使っている蔑称が痴話げんかから生まれたと知ったらどう思うだろうか。
 それでも、まったく見ていて暖かい気持ちになれるふたりだ。けんかしても憎しみはなく、むしろ深い信頼があるからこそ好きなことを言い合える。カリーヌは若いころを思い出し、若い男女たちはそれぞれ「こんな夫婦になりたいな」と思った。約一名を例外として。
 しかし、痴話げんかで話をいつまでも脱線されても困る。才人は、このふたりに割り込める数少ない人間として、しょうがないなと思いつつ腰を上げた。
「あのー、それでブリミルさん。この後でおふたりはどうしたんですか?」
「ん? ああ、しばらくは二人旅が続いたよ。けど、正直このころが一番苦労したかもねえ。なにせサーシャは容赦ないからねえ、君は僕の使い魔になったんだって説明したときはボコボコにされたもんだよ」
 だろうねえ、と全員が思った。サーシャの気性からして、誰かに隷属するなんてありえない。というか、現在でも平気で主人をギタギタにしているんだから、打ち解けていなかった頃は毎日が血の雨だったのだろう。
 けれど、それでも二人は旅を続けたんだとサーシャは言った。
「仕方ないでしょ。見捨てたら確実にこいつ三日と持たずにのたれ死ぬし、こんなのでもいないよりはマシだもの」
 住民が全滅した土地で、生活力がほとんどないブリミルが生き延びるにはサーシャに頼るしかなかった。彼は虚無の魔法を会得はしたが、使いこなすには経験が圧倒的に不足しており、マニュアルを読んだだけで車に触れたこともない新人ドライバーも同然の状態だったのだ。
 ほぼ役に立たないも同然の虚無では食料を得ることもできず、サーシャは毎日方々を駆け回って二人分の食べ物をかき集めてきた。
 それは、ブリミルにとって自分が穀つぶしだと思い知らされるつらい日々であった。なに不自由ない飽食の生活から一転して、食べられるものがあるだけでも幸いな底辺の生活への転落で目が覚めた。子供でもなければ、自分がなにもせずに他人のお情けで食べさせてもらっているんだという境遇には後ろめたさを感じて当然だ。そしてブリミルにも人並みのプライドはあった。
 自分になにができるか、ブリミルは考えた。サーシャの真似事をしても彼女の足手まといになるだけだ、ならできることは、偶然とはいえ手に入れたこの力を役立てられるようにするほかない。
 そのときからブリミルは暇があれば自分の魔法の研究と訓練に明け暮れた。魔法の使い方だけはわかるが、エクスプロージョンひとつをとっても単に爆発を起こすだけから、広域の中の任意のものだけを破壊するまで加減の幅は広い。それに虚無魔法は効果のスケールの大きさゆえに非常に高度なイマジネーションが必要とされる。それを理解し、身に着けるには、ひたすらに数をこなしていく以外の道は存在しなかった。
 ルイズは試行錯誤をしながら訓練を続けるブリミルに、自分の姿を重ねた。失敗と落胆の積み重ねの幼少期、虚無に目覚めてからも、強すぎる系統は楽に言うことを聞いてはくれず、どう手なづけていくか悩み続けた。
 始祖ブリミルにも、人並みに苦労を重ねた時代はあった。そして、努力を続けることと、サーシャの厳しさや優しさに触れていくうちにブリミルの性格にも変化が現れ始めた。支配者時代の傲慢さは消え、謙虚さや思いやりを表に出すようになった。そうするうちにサーシャとも打ち解け、軽口や冗談を言い合うようにもなっていった。

547ウルトラ5番目の使い魔 55話 (13/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:37:07 ID:J6G7hD4w
 ある日の夕食。焚き火をはさんで、久しぶりに手に入ったパンをほうばるブリミルとサーシャ。笑いあい、語り合い、その話題には明日からどうしていこうかという希望と期待が満ちている。ふたりを暖める焚き火は、ブリミルが練習の末に最小威力で起こしたエクスプロージョンで着火したものだった。
「サーシャ、僕は最近なんだか毎日がとても楽しいんだ。なんか、充実してるっていうか、魔法がぐんぐんうまくなってるって実感があるんだよ」
「ふーん、あんたの魔法って奇妙だからよくわかんないけどあんたが楽しいならいいんじゃない? エクスプロージョンってのでイノシシの一匹でもとってくれたら助かるし。あ、でもこないだみたいに爆発起こして狼の大群を呼び寄せちゃったなんてのはやめてよね」
「あ、あれはまあ、はははは。でも君だってこないだ「珍しい果物を見つけてきたわよ」って喜んでたら、中から虫が出てきて悲鳴をあげて僕に投げつけたじゃない。痛いわ気持ち悪いわで大変だったんだから」
「う、つまらないことはよく覚えてるんだから。そんなことより、明日は新しくテレポートって魔法で山の向こうまで行ってみるんでしょ。余計なこと考えてないでさっさと寝ちゃいなさいったら」
「はいはい……今度こそ、誰か生き残ってる人に会えたらいいね」
「いるわよきっと、あんたでさえ生きてられるくらいなんだから」
「君のおかげだよ、感謝してる」
「そう思うなら明日はがんばってよ。間違って川にドボンなんてごめんなんだからね」
 いつの間にか、ブリミルとサーシャのあいだに信頼が生まれていた。サーシャはブリミルのがんばりを、ブリミルはサーシャの乱暴な優しさをそれぞれ認めあい、心を許し始めていたのだ。
 ふたりは助け合いながら旅を続けた。向かう先は現在のトリステイン地方から東へ、サハラにあるマギ族の首都の方角へである。人口は当然ながら首都の周囲が一番密度が大きく、そちらなら生存している人も多いだろうと思ったからだ。
 円盤で空を飛べばあっという間の距離も、徒歩ではとほうない遠さだった。しかも主要道路は各所で寸断し、山道は埋まり、橋は落ち、野性化したドラゴンやオークたちがエサを求めてうろついている。当然、まだ怪獣も多数徘徊しており、目立つ移動は極力避けねばならなかった。
 それでもふたりは希望を信じた。この世界はまだ滅んではいない、生き残った人々が集まれば再興のチャンスはきっとある。ヴァリヤーグや怪獣たちだって、永遠にのさばり続けるわけはない。たとえ電灯ひとつなく土にまみれた生活しかなくても、無意味な殺し合いの日々よりはよっぽどましだ。

548ウルトラ5番目の使い魔 55話 (14/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:39:08 ID:J6G7hD4w
 旅は何ヶ月も続いた。その間、ふたりは自分たちが信じた希望が間違っていなかったことを見つけることができた。少しずつだが、各地で隠れ潜んで生き延びていた人々と出会うことができたのだ。
 仲間を増やしながらブリミルたちは旅を続けた。そのうちにブリミルの魔法の腕も上がっていき、少しくらいの幻獣の群れくらいならば撃退できるようになっていた。そうするうちにブリミルも頼られることも多くなり、しだいにリーダーとしての役割を果たすようになっていった。
 笑顔を増やしながら旅を続ける小さなキャラバンの誕生。アンリエッタやルイズは、こうしてブリミルが始祖と呼ばれる人物になっていったのだろうと思い、胸を熱くした。
 
 しかし、旅が終点に近づくにつれて、現在のブリミルとサーシャの表情は険しくなっていく。
 それと同時に、才人も違和感を感じ始めていた。ブリミルが仲間にしていく人々に、六千年前に才人もいっしょに旅をした仲間たちが一人も見当たらないのだ。
 
 希望を得て旅路を急ぐ六千年前のブリミルとサーシャ。
 だが、ふたりはまだ知らなかった。ヴァリヤーグによって荒れ果てていくこの星の惨状は、終息に向かうどころかこれからが本番だということを。
 さらに、小さな希望などをたやすく押しつぶすほどの巨大な絶望が旅路の先に待っていることをふたりは知らない。
 
 ブリミルが始祖と呼ばれる存在に生まれ変わるための最大の試練が、やってこようとしていた。
 そしてもうひとつ……破滅が押し寄せる星に向かって急ぐ、澄んだ青い光があった。始祖とその使い魔の伝説は、まだ終わっていない。
 
 
 続く

549ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:41:13 ID:J6G7hD4w
今回はここまでです。ブリミルとサーシャの旅路、原作ではまだほんの少ししか語られていませんが、想像しているうちに楽しくてけっこう話を膨らませてしまいました。
でも、きっと笑いあり涙ありだったのは間違いないと思います。思ったよりも長くなりそうなブリミルの過去編ですが、もうしばらくお付き合いください。
そして、もうすぐ原作のブリミルたちの顛末も明らかになりますね。楽しみなようなや不安なようなやらがありますが、こちらではあくまでウル魔の歴史の中でのふたりを描きます。
しかし書いててなんですがすごい世界になってますね、まさに怪獣無法地帯、または怪獣総進撃。

最終巻の発売までにあと一話投稿できるかなあ。ともあれ、また次回で。

550名無しさん:2017/02/12(日) 18:53:01 ID:XLYGB2UQ
おつです。

「カットカット!」からの「あっ・・・(察し)」の流れwww

551ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/12(日) 23:49:44 ID:s54vXxCc
5番目の人乙です。私も投下開始致します。
開始は23:53からで。

552ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/12(日) 23:53:17 ID:s54vXxCc
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その1)」
スペースリセッター グローカーボーン 登場

 『古き本』も遂に三冊、半分を完結させることに成功した。するとそれまでずっと眠り続
けていたルイズが目を覚ました! 喜びに沸く才人たちであったが、現実はそう甘くはなかった。
目覚めたルイズは、全ての記憶を失っていたのだ。自分の名前すら思い出せないありさま。
ぬか喜びだったことが分かり、才人たちは思わず落胆してしまった。
 やはり、『古き本』の攻略は最後まで進めなければならないようだ。

 三冊目攻略の翌朝、ルイズの看護を担っているシエスタが、ルイズのいるゲストルームに入室する。
「おはようございます、ミス・ヴァリエール。お加減は如何ですか?」
 ルイズは既に起床していた。ベッドの上で上体を起こしている彼女は、シエスタの顔を
見返すと清楚に微笑んだ。
「シエスタさん、おはようございます」
「おはよう……ございます……!?」
 ルイズの口からそんな言葉が出てくることに激しい違和感に襲われるシエスタ。本来の彼女は、
平民のシエスタに絶対に敬語を使ったりはしない。
「はぁ……ほんとに記憶の一切を失っちゃったんですね、ミス・ヴァリエール……」
「……ごめんなさい……」
 ため息を吐いたシエスタに、ルイズは悲しげに眉をひそめて謝罪した。
「えッ?」
「どうやら、わたしが記憶を失っていることで、みんなを悲しませているようですね。さっき
サイト……さん、だったかしら。彼も、どこか落ち込んでいられたようでした」
 ルイズはルイズなりに、自身の状況を憂いているようだ。
「それでも、みんな笑顔を見せてくれる。それが、とっても悲しいの……。わたしを心配
してくれた人たちのことを、何も覚えていないなんて……」
「ミス・ヴァリエール……」
 悲しむルイズの様子に胸を打たれたシエスタは、懸命に彼女を励ました。
「大丈夫ですよ! 必ず、サイトさんがミス・ヴァリエールの記憶を取り戻してくれます!」
 そうして看護を行うシエスタは、密かにジャンボットにルイズのことを尋ねかけた。
「ジャンボットさん、ミス・ヴァリエールの記憶を他の手段で戻すことは出来ないんでしょうか?」
 ルイズの脳を分析したジャンボットが回答する。
『難しいな……。記憶中枢が不自然に失活している。無理に回復させようとしたら、余計に
悪化させてしまうことだろう。最悪、一生障害が残る身体になってしまうかもしれない。
やはり、原因たる『古き本』をどうにかしなければならないだろう』
「そうですか……」
 ジャンボットたちの力でもどうにもならないことを知って落ち込むシエスタ。彼女は同時に、
才人が残り三冊分も危険な戦いをしなければならないことに胸を痛めていた。
「……ところで、問題のサイトさんはどこに行かれたのでしょうか?」
『リーヴルのところへ行ったようだな』

 才人は本件に対して、重要な鍵を握っているだろうリーヴルに直接話を聞きに行っていた。
リーヴルはおっとりした雰囲気に反して用心深いようで、何かを隠していることは確実なのだが
それが何なのかは、タバサの調査でも解き明かすことが出来ないでいた。それ故、本人から
探り出そうと突撃したのだった。
 しかし真正面から「何を隠しているんだ?」と問うたところで正直に答えるはずがない。
そこで才人は若干遠回しに攻めてみた。
「リーヴル、あんたは俺たちに随分協力的だよな。何日も図書館の部屋を貸してくれたり……」
「当図書館で起きた問題ならば、司書の私に責任がありますから」
「そうかもしれないけど……実は、リーヴルにも何か得することがあったりするのか? 
だからやたら親身になってくれるんじゃないかなって」

553ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/12(日) 23:56:21 ID:s54vXxCc
 と聞くと、リーヴルはこんなことを話し始めた。
「……少し、私の話を聞いていただけませんか? ちょうど相手が欲しかったんです」
「え? 話って……?」
 リーヴルは、昔話のような形式で話を語った。それは、小さな王国の民を愛する女王が、
可愛がっていた娘の患った重い病を治すために、悪魔と契約したという内容だった。
 悪魔は女王の娘の病を治す見返りとして、女王の大切にしていたものを要求した。そして娘が
回復すると同時に……王国中が炎に巻かれ、悪魔の契約によって国民全員、果ては世界中の国々が
滅んでしまった。
 その様子を見た女王は、娘に告げた。「あなたの病気が治って本当によかった」と……。
「……嫌な話だな。作り話にしたって、その女王様はわがまま過ぎるだろ」
 聞き終えた才人は率直な感想を述べた。するとリーヴルが反論する。
「そうでしょうか? 悪魔以外に娘の病気を治せる者はいなかったんですよ? 娘が治るなら、
どんな代償だって……」
「でも、罪のない人たちを巻き込むのは間違ってるって」
「他人は他人。大事な人と世界……天秤に掛けるまでもなく、どちらが重いかは明白じゃないですか。
大事な人がいなければ、世界なんて何の意味も……」
 そう語るリーヴルに、才人は返した。
「いや……俺は大事な人だけがいればいいなんて、それが正しいなんて思えない」
「……?」
「その女王様の話だってさ、世界に娘と二人だけしかいなくなって、それからどうやって
生きていくんだ? 多分、すぐ不幸になるさ。俺の経験から言うと、現実の世界ってそんな
甘いものじゃあないからな。それじゃあ、娘を治した意味なんてないじゃないか」
「……それはそうかもしれませんが……」
 才人の指摘に戸惑うリーヴルに、才人は続けて語る。
「それにさ……大事な人、大事なものって言うのは、案外その辺りにたくさん転がってるものだよ。
俺は今シュヴァリエの称号を持ってるけど、それは今助けようとしてるルイズがいただけで得られる
ものじゃなかった。シエスタやタバサ、魔法学院で出来た友達や先生の教え、他にも行く先々で
出会った人たちが俺に教えてくれたものがなければ、今の俺は確実になかったし、どっかで野垂れ
死んでたかもしれない。だから俺は、一人を助けられたらそれでいいなんてのは間違いで、みんなを
助ける! それが正しいことだと思う」
 ハルケギニアに召喚される以前の才人ならば、リーヴルの言うことにある程度は納得した
かもしれない。だが今は違う。多くの出会いと経験を積み重ねて、成長した才人はもっと
大きな視点から物を考えられるようになったのだ。
 才人の意見を受けたリーヴルは、しかし彼に問い返す。
「みんなを助ける、と言いますが、あなたにはそれが簡単に出来るのですか? たとえば
先ほどの話ならば、悪魔にすがる以外に方法などありません。それとも、娘を見捨てろとでも?」
 それに才人ははっきりと答えた。
「もちろん、簡単に出来ることじゃないだろうさ。失敗してしまうかもしれない。……だけど、
俺だったら最後まであきらめないし、妥協しない! どんなに苦しくたって、みんな助かる道を
最後まで探し続けるぜ!」
「……」
 才人の言葉を聞いて、リーヴルはうつむいて何かを考え込んでいたが、やがてすっくと立ち上がった。
「少し、話し込んでしまったようですね……。本日の本の旅の時間です。準備は整っていますので、
あなたもご用意を」
「あ、ああ」
 背を向けて立ち去っていくリーヴルを見送って、才人はゼロに呼びかけた。
「ゼロ、さっきのリーヴル話には何か意味があったのかな」
『わざわざあんな話をしたってからには、伝えたいものがあったんじゃないかとは思うな』
「じゃあ、さっきの話の中に真実が……もしかして、リーヴルは誰かを人質にされて俺たちを
本の世界に送ってるのかな?」
『そんな単純な話でもないと思うがな……。何にせよ、全ての本を完結させることについての
リーヴルのメリットが分からないことには、何の断定も出来ないぜ』

554ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/12(日) 23:59:47 ID:s54vXxCc
 話し合った二人は、それでも念のため、リーヴルの周囲に誰か消えた人がいないかということを
タバサに調べてもらおうということを決定した。

 そうして四冊目の本を選ぶ場面となった。
「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」
 残るは三冊。それぞれを見比べながら、才人はゼロと相談する。
『ゼロ、次はどれがいいかな』
『次は……なるべく知ってる奴が主役の本を片づけていこう。ってことでその本だ』
 ゼロが指定したのは、青い表紙の本であった。
「この本ですね、分かりました。では、良い旅を……」
 『古き本』の攻略も折り返し地点。才人とゼロは四冊目の世界へと入っていった……。

   ‐THE FINAL BATTLE‐

 宇宙の悪魔サンドロスが撃退されてから数年、壊滅してしまった遊星ジュランの復興とともに、
怪獣と人間の共生する世界のモデルを築く『ネオユートピア計画』の始動の時が近づいていた。
その第一歩として怪獣をジュランへ輸送する大型ロケット『コスモ・ノア』が建造され、その
パイロットには春野ムサシが選ばれた。どんな苦難にも夢をあきらめなかった青年の奇跡が、
実現しようとしているのだ……。
 しかし、宇宙開発センター上空に突然謎の円盤が出現。円盤から投下された巨大ロボットが、
コスモ・ノアを狙う! それを阻止したのは、ムサシとともに数々の脅威に立ち向かった英雄、
ウルトラマンコスモス! コスモスはロボットを破壊するものの、円盤からは次々にロボットが
現れる。コスモスの窮地にムサシは今一度彼と一体となり、ロボットの機能を停止させた。
 これで当面の危機は凌げたように思われたが……そこに現れたのは、サンドロスとの戦いの時に
コスモスを助けてくれたウルトラマン、ジャスティス。しかもジャスティスはロボットを再起動
させたばかりか、コスモスに攻撃してきたのだ!

 赤いモノアイのロボット、グローカーボーン二体を張り倒したコスモス・エクリプスモードに、
ジャスティスは右拳からの光線、ジャスティススマッシュで攻撃する。
『ジャスティス、何故だ!?』
 ムサシの問いにジャスティスは、駆けてきての蹴打で答えた。
「デアッ!」
 かわしたコスモスにジャスティスは容赦なく蹴りを打ち続ける。何かの間違いではなく、
ジャスティスは明白にコスモスに対する攻撃意思を持っている!
『待て!』
 訳が分からず制止を掛けるムサシに構わず、ジャスティスはコスモスの首を鷲掴みにして締め上げる。
「ウゥッ!」
『どうして……ウルトラマン同士が戦うんだ……!』
 混乱するムサシ。ジャスティスはやはり何も言わないまま、コスモスをひねり投げた。
「デアァッ!」
「ウアッ……!」
 反撃せず無抵抗のままのコスモスに対して、ジャスティスは容赦なく打撃を浴びせ続ける。
その末にコスモスを力の限り蹴り倒す。
「デェアッ!」
「ムサシーッ!」
 コスモスが倒れると、ムサシのチームEYES時代の先輩であり、新生チームEYESのキャップに
就任したフブキが絶叫した。本来ムサシに個人的に会いに来ただけであり、非武装の今では
コスモスを助けることは出来ない。
「ゼアッ!」
 よろよろと起き上がるコスモスに、ジャスティスは再びジャスティススマッシュを食らわせた。
その攻め手に慈悲はない。

555ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/13(月) 00:02:17 ID:7WRK2VnA
「グアァッ!」
「ムサシ! コスモス立てー!」
 一方的にやられ、カラータイマーが赤く点滅するコスモスを、フブキが駆けていきながら
懸命に応援する。
「ジュッ……!」
「立て! コスモス! ムサシー!」
 コスモスがやられている間に、グローカーボーンが起き上がって、両腕に備わったビームガンから
コスモ・ノアに向けて光弾を発射した!
『やめろぉッ!』
 叫ぶムサシ。コスモ・ノアが危ない!
 ――その時、空の彼方からひと筋の流星が高速で迫ってきて、コスモ・ノアの前に降り立った!
「あれは……!?」
「セェアッ!」
 驚愕するフブキ。コスモ・ノアの盾となって、光弾を弾き飛ばしたのは、三人目のウルトラマン……
ウルトラマンゼロだ!
「ジュッ!?」
 ゼロの登場に、コスモスも、ジャスティスも目を見張った。
「あのウルトラマンは……味方なのか、敵なのか……?」
 訝しむフブキ。彼はジャスティスの行いで、それが分からなくなっていた。
「セアァッ!」
 そんな彼の思考とは裏腹に、ゼロは瞬時にグローカーボーンに詰め寄って、鉄拳を浴びせて
片方を殴り倒した。
「キ――――――――ッ!」
 ゼロを敵と認識したもう片方のグローカーボーンが即座に光弾を放ったが、ゼロはバク転で
かわしながら接近し、後ろ回し蹴りで横転させた。
「ジュアッ!」
 グローカーボーンと戦うゼロにもジャスティスは攻撃を仕掛けようとしたが、そこにコスモスが
飛びかかり、羽交い絞めにして阻止した。
「セェェェアッ!」
 コスモスがジャスティスを食い止めている間に、ゼロはグローカーボーン一体をゼロスラッガー
アタックで切り刻んで爆破し、二体目にはワイドゼロショットを撃ち込んで破壊した。
 だがいくらグローカーボーンを破壊しても、大元の円盤、グローカーマザーから新たな機体が
送り出されようとしている。
『させるかよッ!』
 するとゼロはストロングコロナゼロに変身して、上空のグローカーマザーに対してガルネイト
バスターを放った!
『ガルネイトバスタぁぁぁ―――――ッ!』
 灼熱の光線が直撃し、その猛烈な勢いによってグローカーマザーを押し上げ、大気圏外まで
追放した。
『ちッ、破壊は出来なかったか。頑丈だな……』
 ゼロが舌打ちしていると、ジャスティスがコスモスを振り払ってジャスティススマッシュを
撃ってきた。
「デアッ!」
「! ハッ!」
 すぐに気がついたゼロは光線を腕で弾く。そのままジャスティスとにらみ合っていると、
ジャスティスが、『聞き慣れた声で』問うてきた。
『お前は何者だ。何故お前も人間に味方するのだ』
「ッ!」
 一瞬動きが固まったゼロだったが、気を取り直して、背にしているコスモ・ノアを一瞥
しながら答える。
『あれは地球人たちの夢の砦だ。そいつを壊していい道理がある訳ねぇ』
 と告げると、ジャスティスはやや感情を乱したように言い放った。
『夢だと……お前もそんな曖昧なものを、宇宙正義よりも優先するというのかッ!』

556ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/13(月) 00:04:19 ID:7WRK2VnA
 ジャスティスがゼロへ駆けてきて殴り掛かってくるが、ゼロはその拳を俊敏にさばく。
『夢を奪うことが、正義なものかよッ!』
 言い返しながら肩をぶつけてジャスティスの体勢を崩し、掌底を入れて突き飛ばした。
 それでもジャスティスはゼロとの距離を詰めて打撃を振るってくる。
『奪う? 地球人こそがいずれ、略奪者となるのだ! それを未然に阻止することこそが正義だッ!』
 荒々しい語気とともに放たれるパンチ、キックの連打。しかしゼロはそれら全てを受け流した。
『どんな事情があるか知らねぇが、まるで説得力がねぇな!』
『何!?』
『お前の拳がどうして俺に当たらないか分かるか? 感情的になりすぎてがむしゃらだからだ! 
技はそのままお前の心の状態を表してるぜ』
 ゼロの指摘を受け、心に刺さるものがあったかジャスティスが一瞬たじろいだ。
『何かの後ろめたさを強引に振り切ろうって感じの拳だ。そんな半端な拳は、俺には通用しねぇ。
コスモスだって、その気だったら今のお前なんか敵じゃなかっただろうぜ』
『……知った風な口を……!』
 ゼロの言葉に何を感じたか、怒りを見せたジャスティスが光線を繰り出そうと構え、ゼロも
身構える。
 だが二人の争いに、ムサシの叫び声が割り込んだ。
『やめてくれ! ウルトラマン同士で争い続けて、何になるんだ!? 話せば分かり合えるはずだッ!』
『……!』
 それにより、ジャスティスは構えた腕を下ろした。ゼロもまた、これ以上戦おうとはせずに
構えを解く。
 そしてジャスティスとゼロが同時に変身を解除し、光に包まれて縮んでいった。少し遅れて
コスモスも、ムサシの身体に変わっていく。
「うッ……!」
「コスモス! 大丈夫ですか!?」
 ジャスティスからもらったダメージが響いて倒れているムサシの元に才人が駆け寄ってきて、
彼に手を貸して助け起こした。
「君は……さっきのウルトラマンか……」
 才人に肩を貸されたムサシが問いかけた。
「君は何者なんだ……? あの赤い姿からは、コスモスの光が感じられた……。どうして君が
コスモスの光を持っている?」
「……」
 才人は無言のまま答えなかった。ストロングコロナはダイナとコスモスから分け与えられた
光によって生まれた形態だが、この世界のコスモスにはあずかり知らぬこと。だがそれをどう
説明したらよいものか。
 才人が黙っていたら、フブキが二人の元へと駆けつけてきた。
「ムサシ! 大丈夫だったか!?」
「フブキさん……」
「……そこの子供が、三人目のウルトラマンか……」
 フブキは見ず知らずの才人を一瞬警戒したが、すぐにそれを解く。
「何者かは知らないが、ムサシとコスモスを助けてくれてありがとう」
「いえ……」
 フブキが話していると……四人目の人物がコツコツと足音を響かせて現れた。
「コスモス、そしてもう一人のウルトラマンよ。お前たちがどうあがいたところで、デラシオンの
決定は覆らない」
「!」
 振り返った才人の顔が、苦渋に歪んだ。
 新たに現れた人物……状況的に、ジャスティスの変身者は……ルイズの姿形となっているのだ。

557ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/13(月) 00:05:45 ID:7WRK2VnA
今回はここまで。
FE3みたいなルート入ってる。

558名無しさん:2017/02/13(月) 21:54:26 ID:yh5modCk
おつです。

ルイズが福○雅治の嫁に・・・。

559名無しさん:2017/02/17(金) 22:23:33 ID:1cWP202o
ゲームやったことはないけど本の中に入って関係ない世界観とクロスさせるのはおもしろそう
ウルトラの映画だとウルトラQ星の伝説とかも見たいけどレンタルないんだよなあ

560ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:28:33 ID:GbIkOgg2
こんばんは、焼き鮭です。続きの投下を行います。
開始は1:32からで。

561ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:32:06 ID:GbIkOgg2
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十七話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その2)」
スペースリセッター グローカーボーン
スペースリセッター グローカールーク
鏑矢諸島の怪獣たち
伝説薬使獣呑龍
海底怪獣レイジャ
チャイルドバルタン シルビィ
ネイチュア宇宙人ギャシー星人 登場

 ルイズを救う本の旅は、半分を越えて四冊目に入った。四冊目はウルトラマンコスモスの
護った地球を題材とした本。そこではムサシが人間と怪獣の共存する未来の新天地となる
ネオユートピア計画により、遊星ジュランに飛び立つ時を待っていた。だがそこに現れた
謎の円盤と巨大ロボットが、輸送ロケットを狙う! コスモスが助けに駆けつけたが、
かつてともに戦ったウルトラマンジャスティスがどういう訳かロボットの味方をして
コスモスを追い詰める! そこを今度はゼロが救い、ロケットはどうにか防衛することが出来た。
 しかし才人の前に現れたのは、ジャスティスの人間態。それはルイズの姿となっていた……!

「……!」
 自分の前に現れ、こちらに信じられないほどに冷酷な視線を送ってくるルイズに、才人は
固い面持ちとなった。
 本の世界のルイズは、厳密には『ルイズ』とは言えない。これまでのように物語の登場人物に
当てはめられていて、その与えられた役になり切っている。だから『ルイズ』と呼べるのは見た目
だけで、全くの別人。ここで自分と敵対する立ち回りになっていたとしても、現実のルイズに
影響がある訳ではない。
 それは頭では分かっているのだが……やはりルイズの姿を敵に回すという事実は、才人の
心情をひどく複雑なものにしていた。
「ウルトラマンジャスティス……どうしてあんたは、コスモスを攻撃したんだ。あのロボットと
円盤は何なんだ?」
 そんな才人の思いをよそに、フブキがルイズに問いかけた。それを受けて、ジャスティスに
なり切っているルイズは口を開いた。
「あれらはデラシオンの使いであるスペースリセッター。今から四十時間後、この星の生命は
全てリセットされる」
「リセット……!?」
 ルイズの宣告に、フブキと才人は衝撃を受けた。
「地球の生き物を全て、消滅させるってことか!?」
「その通りだ。これは、宇宙正義により下された、最終決定事項である」
 ルイズの語ることにフブキは極めて険しい表情となる。
「……あんたの話に出てきた、デラシオンってのは何者だ?」
「デラシオンは、我々ウルトラマンと同じく、この宇宙の秩序を守っている」
 ルイズの双眸が怪しく光り、才人たちとの間にドーナツ型の巨大多脚円盤の立体映像が出現した。
「これは……!?」
「ギガエンドラ。人類を始め、全生命を消滅させる、惑星改造兵器だ」
 巨大兵器ギガエンドラの中心部から発せられた光線が、地球の表層にあるものを全て焼き払い、
消し去る映像が才人たちの前で展開された。フブキが我慢ならずに叫ぶ。
「どうして、俺たちの地球にこんなことをしようって言うんだ!」
 それのルイズの回答はこうだ。
「予測したからだ、未来を」
「未来?」
「今から二千年後、地球は宇宙にとって有害な星となる。よって全てを消し去り、生命の進化を
やり直させる」
「地球が、宇宙に有害な星となるだと……!?」

562ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:35:00 ID:GbIkOgg2
 言葉を失うフブキ。一方で才人は、二冊目の本でのことを回想した。
 ウルトラセブンの物語に出てきた、フレンドシップ計画……。『フレンド』とは名ばかりの、
惑星破壊ミサイルで星を破壊することを主眼に置いた狂気の計画だった。また現実のM78ワールド
でも、超兵器R1号やトロン爆弾など、星を爆破する実験が行われていた時代もあった。何度も
侵略宇宙人に襲われた地球人だが、これらの歴史を見ると、一つ間違っていたら地球人が恐ろしい
宇宙の破壊者になっていたかもしれない。
 そしてデラシオンという者たちは、その可能性が現実となるものと判断したようだ。
「彼女の……ジャスティスの言ってることは全て真実だ。コスモスが教えてくれた」
 ここでそれまで黙っていたムサシが発言した。
「だけどコスモスは、デラシオンの決定に反対し、最後まで説得し続けた! それが失敗しても、
こうして僕たち地球人のために駆けつけ、戦う意志を示してくれている!」
「……コスモス、そしてそこのウルトラマンに問おう。お前たちはどうして地球人類を守り続ける」
 ルイズがムサシと才人……コスモスとゼロに問いかけてきた。
「たとえ武力で抗ったところで、何も変わるものなどない。デラシオンの決定も、地球人の
二千年後の姿も……。全ては無駄なのだ」
 そう言い切るルイズに、ムサシは問い返した。
「逆に聞こう……。ジャスティス、あなたはどうしてデラシオンの決定を支持する。まだ未来は
確定していないのに、地球人が宇宙に有害な存在になるなんて……まるで見てきたかのようじゃないか」
 すると、ルイズは意外なことを言い出した。
「見たのだ、私は」
「何だって……?」
「お前たちも戦った、多くの惑星を破壊したサンドロス。……あれは、昔は地球人類とよく
似ていた生き物だったのだ」
「!!?」
 その告白に、才人たち三人は心の底から驚かされた。
「夢や愛などという曖昧な感情を持った、不完全な生命体だった。そして二千年前、今の
地球人と同じように、デラシオンからリセットの決定が下された……」
 それがどうして、二千年前に執行されなかったのか。ルイズは理由を述べる。
「しかし、リセットは猶予が与えられた。……この私によって」
「……!」
「だが、それは過ちだった……。サンドロスは、デラシオンの予測した通りの存在になって
しまった。……私は、過ちを二度と繰り返しはしない」
 と語ったルイズに対して……才人が言う。
「サンドロスがそうだったとしても、地球人が同じになる理由にはならないさ」
「何?」
 全員の視線が集まる中、才人は主張した。
「未来は計算されるもんじゃない。その土地、その時代の人たちが作り、つないでいくものだ! 
俺とゼロは、ここじゃない別の場所だけど、人間の持つ可能性と希望の力を知っている!」
 才人は見た。シティオブサウスゴータで、地獄の超獣軍団の暴威に晒されてもあきらめず、
命を救うために抗い続けた人間たちの姿を。そして他ならぬ自分が、はるかに巨大な存在が
相手でも折れることのない勇気を身につけることが出来た! それが人間の持つ、素晴らしい
力なのだ。
 ゼロも、アナザースペースで人間たちの希望の光の結晶を得た。フューチャースペースでは、
圧倒的な絶望にも負けない人間たちの力によって助けられた! ゼロもまた人間の希望の力に
よって支えられてきたのだ。
 そしてM78ワールドの地球は、ウルトラ戦士でもどうしようもないような事態が何度も
襲ってきたが、それらを夢と希望を信じる心で打ち破ったから新たな時代を迎えることが
出来たのだ。それが人間の可能性だ!
「宇宙正義が何だ! 俺たちは、夢と希望こそが本当の正義だと信じてる! だからそれを
守り抜いてみせるッ!」

563ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:38:07 ID:GbIkOgg2
 才人に続いて、ムサシもルイズに向けて呼びかけた。
「コスモスが言っている。私も、この地球で人間の持つ可能性を、希望という言葉の素晴らしさを
知った。それをジャスティス、君にも信じてもらいたいと!」
 フブキもまた、ルイズに告げた。
「君は、楽な道を選んでるだけだ」
「楽な道……?」
「ここにいるムサシとコスモスは、どんな時でも、最後まで希望を持ってた。奇跡を信じてた! 
だから今度も奇跡を起こしてくれる……いや、俺たちで奇跡を起こしてやる!」
 三者三様の熱い想いを胸に、ルイズを説得する。……しかしルイズは踵を返した。
「奇跡など、起こりはしない……」
 その言葉を最後に、振り返ることなくどこかへ立ち去っていった。
「……駄目なのか……」
 才人が思わずそうつぶやいたが、フブキが否定する。
「いや、最後まであきらめずに呼びかけ続ける! そうすれば、きっとどんな相手にも俺たちの
気持ちは通じる……!」
 言いながら、ムサシと目を合わせた。
「お前はそう言いたいだろう?」
「……はい!」
 ムサシは満面の笑みでフブキに肯定した。フブキは続けて述べる。
「デラシオンに対話の意思がなくても、チームEYESは地球からのメッセージを送り続ける! 
早速指示しなくちゃな……。ムサシ、コスモス、悪いが後のことは頼んだぜ」
「任せて下さい! デラシオンが考えを変えてくれるまで、僕たちが地球を守ります!」
 フブキは去り際に、才人にも目を向けた。
「ゼロって言ったか……どうか、コスモスとムサシを助けてやってくれ」
「はい! 望むところです!」
 才人の力強い返答に微笑んだフブキが、EYESの基地へと向かっていった。それからムサシが
才人に向き直る。
「僕たちのために、地球のために戦ってくれてありがとう。その気持ちは、絶対に無駄には
しない! だからともに手を取り合って、地球のリセットを阻止しよう!」
「ええ! よろしくお願いします!」
 才人はムサシから差し出された手を取り、固い握手を交わした。
 そしてゼロは、ある確信を得ていた。それは、この物語はコスモスペースでの実際の出来事の
途中までの記録だということ。コスモスが、ムサシの夢の実現の直前に、地球の存続を懸けた
大きな試練があったと語っていたのだ。
 ならばこの物語を完結させるためにやるべきことはたった一つ。宇宙正義の決定を覆し、
地球の未来をつなぐのだ。

 デラシオンによる地球全生命のリセットは、地球の各国政府にも告げられた。そして防衛軍は、
デラシオンに対する徹底抗戦を決定。軍事衛星の超長距離レーザーや弾道ミサイルの照準が、
衛星軌道上に押し出されたグローカーマザーと地球に迫り来るギガエンドラに向けられた。
攻撃開始は刻一刻と迫っていた。
 しかしフブキ率いるチームEYESは、デラシオンに対してメッセージを送信し続けていた。
それが実ることを信じて……ムサシと才人はグローカーマザーの座標の真下に当たる市街まで来た。
「防衛軍の攻撃では、デラシオンの兵器を破壊することは出来ないだろう。そしてデラシオンは
地球の抗戦に対して、反撃を行う……! それを食い止めるのは僕たちだ!」
「はいッ!」
 意気込む二人の超感覚が、ギガエンドラとグローカーマザーに対して攻撃が放たれたことを
感じ取る。
「始まった……!」
 攻撃の結果は……やはりスペースリセッターを破壊することは出来なかった。ギガエンドラも
グローカーマザーも傷一つつくことがなく健在。それどころか、グローカーマザーは地表に向けて
グローカーボーンを複数機投下してきた。
「来たッ! 才人君、行こう!」
「はい!」

564ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:40:09 ID:GbIkOgg2
 グローカーボーンの射出を確認したムサシは輝石を掲げ、才人はウルトラゼロアイを顔の
前にかざす。
「コスモースッ!」
「デュワッ!」
 グローカーボーン四機が都市に着陸と同時に、二人は光に包まれてコスモス・コロナモードと
ストロングコロナゼロに変身した!
「キ――――――――ッ!」
「デヤッ!」
「シェエアッ!」
 グローカーボーンはコスモスとゼロを認めると、いきなり射撃を開始。それに対してコスモスは
光弾を空へ弾き、ゼロはパワーに物を言わせて突っ切りながら前進。グローカーボーンたちに接近していく。
「ハァッ!」
「セェェェイッ!」
「キ――――――――ッ!」
 コスモスたちはグローカーボーンたちの間に切り込んで、肉弾で張り倒していく。
「デェアッ!」
 そしてゼロの鉄拳がグローカーボーン一体の顔面に突き刺さり、衝撃でバラバラに粉砕した。
『よぉしッ!』
 まずは一体を撃破したことにぐっと手を握るゼロだったが……空からはすぐに新たな
グローカーボーンが送り込まれてきた。
「キ――――――――ッ!」
『何ッ!?』
 コスモスは両腕を、円を描くように動かしてから、左手の平を右腕の内側に合わせる形で
L字に組んだ腕より必殺のネイバスター光線を発射した!
「デヤァ―――――ッ!」
「キ――――――――ッ!」
 振り抜かれた光線が、グローカーボーン三機を一気に爆破!
 だが同じ数のグローカーボーンがまた空から降下してくる。
「フッ!?」
『くそッ……! これじゃキリがねぇ……!』
 グローカーマザーは宇宙船だけでなく、破壊兵器グローカーの工廠の役割もあるのだ。
故に尖兵であるグローカーボーンをいくら倒そうとも、新しい機体が絶え間なく作られて
送り込まれてくるのである。
 次々湧いて出てくるグローカーボーンに手を焼いているコスモスとゼロの様子を、人々が
逃げ惑う市街からルイズが見上げていた。
「無駄だ。奇跡などない」
 コスモスとゼロを囲んだグローカーボーンたちは、四方から光弾を乱射して浴びせる。
「ウアァァァッ!」
『くぅぅぅッ……!』
 物量に物を言わせた攻撃に、追い詰められるコスモスたち。
 その時、空の彼方から大きな影が猛スピードで戦場に飛来してきた!
「ピィ――――――!」
「あれは……!」
 それに気づいたルイズが驚く。影の正体は鳥型の怪獣だ。ムサシがその名を叫ぶ。
『リドリアス!?』
 リドリアスは空から光線を吐いてグローカーボーンを攻撃し、コスモスたちへの射撃を阻止する。
 グローカーボーンはリドリアスの方に照準を向けたが、その一体の足元の地面が陥没して
姿勢を崩させた。
「グウワアアアアアア!」
 地面の下からグローカーボーンを持ち上げたのはゴルメデだった! 更に投げ飛ばされた
グローカーボーンに、続けて現れたボルギルスが体当たりを食らわせる。

565ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:42:54 ID:GbIkOgg2
「グイイイイイイイイ!」
 強烈な突進によってはね飛ばされたグローカーボーンの機能が停止する。
 コスモスたちに怪獣が加勢するが、グローカーボーンの方も負けじとばかりに更に増量される。
「キ――――――――ッ!」
 グローカーボーンの無感情の銃口が怪獣たちに向けられるが……怪獣も続々と増援が戦場に
到着してきた!
「ピュ―――――ウ!」
 地中から顔を出したのはモグルドン。それが掘った穴から、怪獣たちが飛び出してグローカー
ボーンに飛び掛かっていく。
「グゥゥゥゥッ!」
「キュウウゥゥッ!」
「グルルルルッ!」
 襟巻怪獣スピットルが黒い液体を吐いてグローカーボーンのモノアイを染め上げて視界を
ふさぐ。動きが鈍ったグローカーボーンに、古代怪獣ガルバスとドルバが連続で火球を吐いて
撃破する。
「グルゥゥゥッ!」
「キャア――――ッ!」
 岩石怪獣ネルドラントと地底怪獣テールダスがグローカーボーンに背後から飛びつき、
抱え上げて投げ飛ばした。
「グアァ――――――!」
「グルゥッ! グルゥッ!」
 投げられたグローカーボーンに毒ガス怪獣エリガルと密輸怪獣バデータが突進してはね飛ばし、
グローカーボーンはその衝撃で内部機械が破壊され動かなくなった。
「キ――――――――ッ!」
 奮闘する怪獣たちだが、グローカーボーンはまだいる。滅茶苦茶に乱射される銃口が、
逃げ遅れている人々の方へ向けられた!
「きゃあああああッ!」
「キュウウゥゥッ!」
 放たれた光弾に対して分身怪獣タブリスがその身を挺して受け止め、人々を救った。
 このウルトラマンと、人間たちを助けている怪獣は、鏑矢諸島に暮らす者たちだ。ムサシと
チームEYES、そしてコスモスによって救われた怪獣たちである。
「グアアァァァッ!」
 タブリスを攻撃したグローカーボーンに、伝説薬使獣呑龍が突進し、吹っ飛ばした。更にそこに、
空の彼方から二機の戦闘機が駆けつける。
「今だッ! コスモスたちを助けるんだ!」
 テックサンダー、テックスピナーの系譜に連なる現EYESの主力作戦航空機、テックライガー。
その指揮を執るのはもちろんフブキだ!
 テックライガーからのレーザー集中攻撃により、グローカーボーンがまた一体破壊された。
このウルトラマン、怪獣、人間が共闘する光景にルイズが目を見開く。
「何故、怪獣が人間と……!?」
「それが、ムサシがやってきたことなんだ」
 ルイズの背後から呼び掛けられる声。ルイズが振り向いた先に、ミーニンを連れた初老の
男性二人が立っていた。
「キュウッ!」
「こいつら怪獣たちが、ムサシを助けに行かせろとうるさくてね」
 冗談交じりに語ったのは、怪獣保護区の鏑矢諸島のイケヤマ管理官。そしてもう一人は、
EYESが最も活躍していた時代にキャップを務めていた、ヒウラ。
「話はフブキから聞いている。地球人が、宇宙に有害な存在になるんだって?」
 ヒウラは人間とともに、人間のために戦う怪獣たちの姿を見上げた。
「だが、今繰り広げられている光景こそが、どんな困難があっても夢をあきらめなかった
ムサシが出した結果であり、答えだ。ムサシの夢が、あれだけの怪獣たちと心を通わせたんだ。
だから彼らは今、力を貸してくれている! 私たちも、この事態に出来ることがあるはずと
ここに集まったんだ」

566ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:45:01 ID:GbIkOgg2
 シノブ、ドイガキ、アヤノの往年のEYESクルーも、戦場から避難する人々を誘導して
助けているのだった。彼らもまた、ムサシとの出会いを通して夢をあきらめないことを
誓った者たちなのだ。
 呆然とするルイズの超感覚が、少女の助けを求める声を捉えた。
『誰か助けて!』
「!」
 ルイズは反射的に、その現場に向かって超速で移動した。
「コスモス! コスモスー!」
 少女は自分の身の危険で助けを呼んでいたのではなく、コスモスと名づけたペットの犬が
瓦礫の下に閉じ込められたのを必死に助けようとしていたのだった。
 ルイズは少女に向けて告げる。
「早く逃げるんだ! 犬より自分の命が大事のはずだ!」
 しかし少女は聞き入れなかった。
「嫌だ! コスモスは、コスモスは大切な友達なの!」
「……友達……」
 ルイズが復唱した時、犬を閉じ込めていた瓦礫が不意に重力を無視して浮き上がった。
「あッ!? コスモス!」
「これは……!」
 そして二人の男女が、犬を引っ張り出して救出する。
「君の友達はもう大丈夫だ」
 瓦礫を反重力で浮き上がらせたのは、ハサミを持った小柄な宇宙人、チャイルドバルタン・
シルビィ。そして二人の男女はギャシー星人のシャウとジーン。皆かつてムサシが関わった
宇宙人たちであった。
「ここは危ないわ。早く逃げなさい」
「ありがとう!」
 犬を受け取った少女はシャウたちに礼を告げたが、ルイズに対しても礼を言った。
「お姉さんも、ありがとう!」
「……私は何もしていない……」
「ううん。あたしを心配してくれたでしょ! だから、ありがとう!」
 その言葉を残して、少女は避難していった。ルイズは、シルビィたち三人へと顔を上げる。
「地球とは関わりのない異星人までもが、どうして地球人を助けに来たのだ……」
『ううん。関わりならある』
 シルビィは証言する。
『ムサシは、前に私たちの種族と地球人の間の争いを止めてくれた! 大事な友達なの!』
「私たちも、ムサシと地球人たちのお陰で星の命をよみがえらせることが出来た。だから
今度は私たちが地球を助けるの!」
「私も、彼らから夢を信じることを教わった。宇宙正義がどんな結論を出そうとも、私たちは
地球人の夢を信じる!」
 ジーンが断言すると、彼らの頭上に深海怪獣レイジャが飛んでくる。
「シャウは地球の人たちのことを頼む!」
「分かった! 頑張って、ジーン!」
 ジーンはレイジャと一体化し、レイジャは四肢の生えた戦闘形態になってグローカーボーンに
タックルを決めた。
「キュオ――――――!」
 そして追撃に衝撃弾の連射を浴びせ、爆破させる。
「……地球のために、これだけの者が立ち上がるとは……」
 数多くのものが戦う今の光景に、ルイズはすっかり息を呑んでいる。
「だが……!」
 善戦しているように見えた怪獣たちだが、最後に残った二体のグローカーボーンが突如
バラバラに分解したかと思うと、パーツが一つに組み合わさって合体を果たした!
 グローカーはより大きく、より強く、より攻撃的で冷酷になった第二形態グローカールークと
なったのだ!

567ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:47:00 ID:GbIkOgg2
[抵抗スルモノハ、全テ、排除]
 グローカールークは両肩から光弾を乱射して、怪獣たちを片っ端から薙ぎ飛ばしていく。
「グウワアアアアアア!!」
「グイイイイイイイイ!!」
 コスモスとゼロはすぐにその暴挙を止めに掛かる。
『やめろぉぉッ!』
 だがグローカールークの前後から放たれる光弾により、二人同時に吹っ飛ばされた。
「ウアアァァァッ!」
 暴れるグローカールークにレイジャとリドリアスが空から突っ込んでいく。
「キュオ――――――!」
「ピィ――――――!」
 しかし攻撃を仕掛けるより先にグローカールークが高く跳躍し、手の甲から伸ばした鉤爪に
より二体を斬りつける。
「ピィ――――――!!」
 撃墜された二体の内、リドリアスの方を締め上げるグローカールーク。
[任務ノ障害ハ、全テ、排除]
 その凶刃がリドリアスにとどめを刺そうとする!
『させるかぁぁぁぁッ!』
 そこにゼロが飛び蹴りを決めて、鉤爪を根本からへし折った! 蹴りつけられた衝撃で
グローカールークはリドリアスを離す。
「シェアァッ!」
 コスモスはコロナモードからエクリプスモードに二段変身! そして三日月状の巨大光刃を
作り出す。
「ハァッ!」
 そうして飛ばしたエクリプスブレードは、グローカールークを貫通して綺麗に両断。一気に
爆砕した。
 これで地上に放たれたグローカーは全て倒されたかに見えたが……間を置かずに新たな相手が
飛来してきた。
 それはグローカーマザー! グローカールーク敗北を受け、遂に衛星軌道上から地表まで
降下してきたのだ。
『まだロボット出そうってのかよ!』
『いや……違うッ!』
 グローカーマザーは飛びながら両翼を分解して完全にパージ。そして空の上へと姿を消したかと
思うと……グローカールークよりも更に巨大なロボットと化して降下してきた!
[任務ノ障害ヲ、完全ニ消去]
 それは下位のグローカーでは対処できない相手に対して発動するコマンド。グローカーボーン
製造機能を捨てる引き換えに変形するグローカー最終形態、グローカービショップだ!
 地球の全生命リセットの時は、刻一刻と迫っている!

568ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/20(月) 01:47:53 ID:GbIkOgg2
今回はここまでです。
てんやわんや。

569ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 12:56:36 ID:AD6r/IbY
おはようございます。ウルトラ5番目の使い魔、56話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

570ウルトラ5番目の使い魔 56話 (1/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 12:58:20 ID:AD6r/IbY
 第56話
 守れなかった希望
 
 四次元怪獣 ブルトン
 残酷怪獣 ガモス
 地底怪獣 テレスドン
 鈍足超獣 マッハレス
 毒ガス怪獣 メダン
 カオスバグ
 双子怪獣 レッドギラス
 双子怪獣 ブラックギラス 登場!
 
 
 滅び行く文明、破壊されゆく世界の中で二人は出会った。
 ブリミルとサーシャ、いずれハルケギニアという世界を築き上げる偉大なメイジと使い魔。
 しかし、彼らは最初から英雄だったわけではない。むしろ、望まぬ力を突然与えられて戸惑い悩む旅人であった。
 日々を生き抜くこと。今の彼らはそれだけを考えて前に進む。
 その道中で、同じように生き残っていた人々を集め、彼らは希望を強めて旅を続ける。東へ、東へ。
 
 だが、西遊記において玄奘三蔵は旅路で弟子を集めて天竺で望みを叶えたが、東へと旅を続ける彼らを終点で待ち受けるのはなにか。
 
 始祖とガンダールヴ。その本当の誕生と、絶望を乗り越える光を手に入れるための試練が始まる。
 
 
 旅を続けるブリミルの一行。その旅路は決して楽なものではなかったが、彼らは望みを捨ててはいなかった。
 ブリミルが頼んだのは、首都に残っていると思うマギ族の仲間たちと、その力であった。各地が壊滅しても、マギ族が全滅したわけではない。必ず首都に立てこもって抵抗を続け、再興の機会を待っているはずだ。ブリミルはマギ族の底力を信じ、この危機はいつか去ると信じ、もう愚かな争いはやめて仲間たちとささやかな生活を送ろうと願っていた

571ウルトラ5番目の使い魔 56話 (2/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 12:58:58 ID:AD6r/IbY
「ブリミルさん、疲れたでしょ。水、お飲みんさいな」
 汗を流しながら山道を切り開いているブリミルに、ひとりの老婆が水筒を差し出してくれた。派手な魔法を使えば凶暴な幻獣や怪獣を呼び寄せてしまうかもしれないので、地道に力仕事で進まねばならない中、こうした細やかな心配りがうれしいということをブリミルは知った。
 それだけではない。出会った人たちは、ブリミルがマギ族だと知ると最初は嫌悪感を示したが、ブリミルが威張ることなく頑張っている姿を見ると次第に手を貸してくれるようになった。
 安全なところからモニターごしに命令するだけでは決して理解できないもの。ブリミルは、自分がいままでいかに無知だったかを知り、人々との触れ合いを受けて本当に人の役に立つとは何かを学んでいった。
「ブリミルさん」
「ブリミルくん」
「ブリミルちゃん」
 そんな風にマギ族以外から呼ばれたことなどなかった。そうして触れ合ううちに、彼らも自分たちマギ族になんら劣ることなどない、いや、自分たちが忘れてしまった素朴さや思いやりを持っている立派な人たちだと思うようになっていった。
「みんなに話そう、僕らが間違っていたんだと。そして今度こそ、みんなが友達になれる世界をこの星に作り直すんだ」
 それがブリミルの目標になっていた。サーシャや仲間たちが教えてくれた、本当の幸せはものの豊かさだけじゃないんだということを。
 そんなブリミルの変わりようを、サーシャも暖かく見守るようになっていた。
「あなた、少しはたのもしくなったじゃない。けど、もしあなた以外のマギ族がわたしたちを変わらずに道具として使おうとしたらどうするの?」
「できるだけ説得はしてみるけど、もしものときは僕がみんなを守るよ。でも僕は信じてる、マギ族の中にも必ずわかってくれる人はいるって」
「ふふ、蛮人のくせに言うようになったわね。少しは期待してるから」
 サーシャや仲間たちにしても、マギ族との対決など望んではいなかった。確かに恨みは大きいが、晴らしたからといってなにになるわけでもない。なによりももう、戦うなどうんざりだった。
 贅沢は言わない、ただ平和な世界を。それを夢見て、ブリミルと仲間たちは歩いた。
 だが、ブリミルの淡い期待はすでに猛禽の住む谷に放した伝書鳩の帰りを待つのと似た、虚しい希望となっていたのだ。
 その前兆はあった。旅を続けながら遭遇する怪獣の数は錯覚ではなく増え続けていた。目に見える自然の風景もどんどんと荒れ果てていった。
「異変はおさまるどころか、ますます拡大し続けてるんじゃないのか?」
 岩陰に身を潜めて息を殺しながら、ブリミルたちは近場を地響きを立てて歩いていく怪獣と、地上に影を投げかけて飛んでいく怪獣が通り過ぎていくのを待った。
 怪獣はいっこうに減らない。それに天気も、最近は曇りばかりで晴れる日が少なくなってきたように感じられる。異変が星の環境そのものをさえ変え始めているのかもしれない。
 しかしブリミルたちは不吉な予感を意図して無視して旅を続けた。ほかにすがる望みもなく、行くべき場所もない彼らには旅を途中で投げ出すことはできなかったのだ。ブリミルもサーシャもそうだった。

572ウルトラ5番目の使い魔 56話 (3/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 12:59:36 ID:AD6r/IbY
 そして旅路の果て、最後の山を越えて都市にたどり着いたブリミルたちの見たものは、完全に破壊されつくされた廃墟の冷たい眺めだったのである。
 
「こ、こんな、こんなことが。僕らの、僕らの作り上げた街が……」
  
 ブリミルの落胆した声が流れた。たとえ世界中が破壊されても、ここだけは耐えられると思っていた、ここだけは大丈夫だと思っていた。マギ族の第二の故郷の象徴である大都市だけは、不滅だと信じたかったのに。
 だが現実は残酷だった。都市のシンボルであった巨大ビル群はすべて倒壊して瓦礫の山と化しており、動くものの影さえない。
 やっぱりここもダメだったのか……都市の遠景を眺めながら、皆が疲れ果てた様子で息を吐く。しかしブリミルはあきらめきれなかった。
「そうだ、地下ならまだ誰か生き残ってるかもしれない! 行こう、食料だってきっとたくさんあるはずだ」
 希望を捨てきれずにブリミルは叫んだ。サーシャやほかのみんなも、やっとここまでたどり着いたのに何もなしで引き返すのはできないと彼に従った。
 だが、都市は本当に見る影もないくらいに破壊されつくしていた。
「おーい、誰かいないのかぁ!」
 街のどこで呼べど叫べど、答える者はいなかった。
 破壊の度合いは徹底を極め、道路に残っている足跡からも、少なくとも数十体の怪獣がここで暴れたことは明白であった。防衛用のバリヤーも、力づくで突破されてしまったのであろう。
 建物は砕かれ、焼かれ、溶かされ、原型を保っているものはひとつもない。ここを襲った怪獣たちはすでに姿を消し、廃墟は沈黙に包まれていたが、それはもはや壊すものがなくなってしまったからだろう。当然、建物の中の設備や物資も使い物にはならなくなっていた。
「誰でもいい、いたら返事をしてくれ!」
 これだけの都市に生存者がいないわけがないと、一行は手分けをして方々を探した。しかし、どんなに声を張り上げても、耳を澄まして返事を探すブリミルとサーシャに届くのは風の音だけであった。
「ちくしょう、僕らはここに宇宙のどこにも負けないすごい街を作ったつもりだったのに。今じゃ虫の音ひとつ聞こえないなんて」
「まだあきらめるには早いわよ。もっと先に行ってみましょう……あら? ねえ、何か聞こえない?」
 サーシャが長く伸びた耳を立てて立ち止まると、ブリミルも慌てて立ち止まって耳を澄ませた。しかしブリミルの耳に届いてくるのは、相変わらず寒々しい風の音だけであった。
「どうしたんだい、何も聞こえないけれど?」
「や、今なにか、ドクンドクンって、心臓みたいな音が聞こえたんだけど……もう聞こえないわ、気のせいだったのかしら?」
 サーシャはまわりを見渡したが、それらしい音をさせるようなものは何もなかった。幻聴なんかが聞こえるとは、自分もけっこうまいっているのかもとサーシャは頭を振った。

573ウルトラ5番目の使い魔 56話 (4/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:00:13 ID:AD6r/IbY
 都市は破壊されてからすでに数ヶ月は経っていると見え、生き埋めになっている人がいたとしても生存は無理だろう。と、なればやはり可能性のあるのは地下しかない。
 頼む、誰でもいいから生きていてくれ。ブリミルたちはすがるように願いながら先へ進んだ。この都市の地下には広大な工場施設があった、そこの奥深くに逃げ込んでいれば助かった可能性はある。きっとある。
 ブリミルたちは都市を進み、ようやく地下への入り口を見つけた。魔法で瓦礫をどかし、補助電源すら死に掛かっている通路を明かりを灯しながら進んだ。しかし彼らがそこで見つけたのは、半壊したコンピュータに残されたあまりに残酷な記録であったのだ。
「そんな、マギ族が……全滅」
 都市の自動記録装置が撮影した最後の映像には、星を脱出しようとして叶わずに宇宙船ごと全滅するマギ族の姿が映し出されていた。
 宇宙船は地上に激突して炎上し、生存者は望むこともできない。そして怪獣たちによって破壊されていく都市が映し出され、カメラが破壊されたところで映像は途切れた。
 落胆して床に座り込むブリミル。別の映像では変貌していく亜空間ゲートの姿も映し出されていたが、いまのブリミルにはどうでもよかった。
「僕らのやってきたことは、いったいなんだったんだ?」
 ブリミルは苦悩した。なんのために何百年も何世代もかけて宇宙をさすらい、やっとたどりついたこの星に安住の地を築いたんだ? せっかく築いた繁栄も、もうなにもかも壊れ果ててしまった。マギ族は死に絶え、残したものといえば、この星の人々への多大な迷惑だけではないか。
 自分たちがこの星でやってきた十年はまるで無駄だったのか……? 星を荒らし、人々を傷つけて、外敵を呼び込んだ結果、なにもかもをだいなしにしてしまった。繁栄に酔っているときは、こんなことになるなんて思いもしなかったのに。
「やり直せるならやり直したい」
 ブリミルが悲しげにつぶやくと、サーシャは厳しく言い返した。
「無理よ、これはあなたたちの過ちが招いたこと。罰を与えたのは誰でもなくあなたたち自身、誰を恨みようもないし、受け入れるしかないことなのよ」
「そうだね、まったくそのとおりだ。でも、僕の同胞はもういない。僕一人で、いったいどうすればいいんだ」
「ならわたしたちの仲間でいいんじゃない? マギ族でなくたって、あんたはあんたでしょ。ただのブリミルとして、さらっと生まれ変わったつもりで生きなおしていいんじゃない?」
 サーシャにそう言われて肩を叩かれると、ブリミルは苦笑しながらも顔を上げた。
「君はそれでいいのかい? 君は、マギ族をどう思ってるんだい?」
「そうね、ざまあみろとは思うわ。けど、いまさらどうしようもないことじゃない。それに、今は過去を振り返ってるときじゃない。未来のために、誰もがぐっと我慢しなきゃいけない時なんじゃないの」
 いがみあっていたら、それこそマギ族の二の舞になる。サーシャの言葉に、ブリミルはぐっと涙を拭いて立ち上がった。
「君は、君たちは強いね。僕らマギ族にも、君たちのような正しい前向きさがあれば、つまらないいさかいに夢中になったりしなかっただろうに」

574ウルトラ5番目の使い魔 56話 (5/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:00:50 ID:AD6r/IbY
「ええ、ほんとにマギ族ってひどい奴ら。だからこそ、あなたは他のマギ族の分も生きていく義務があるんじゃないの? さあ、あなたたちの船のところに行きましょう。マギ族はひどい奴らだったけど、墓くらいはちゃんと建ててあげなきゃね」
 ブリミルはうなづいて、サーシャの後について歩き出した。そうだ、同胞たちの亡骸をそのままにしてはおけない。せめて、長年夢見てきた第二の故郷の土に眠らせてやるのがせめてもの弔いだ。
 亜空間ゲートと宇宙船の残骸のあるのは、都市の中心部にある大空港だ。ブリミルたちはそこに向かいだした。
 
 だが、空港に向かうためにいったん地上に出たときだった。先に様子を見に行っていた仲間の悲鳴のような叫びが聞こえてきたのだ。
「おおーい、大変だぁ! ブリミルさん、すぐに来てくれーっ!」
 なんだ!? 尋常ではない様子の叫びに、ブリミルとサーシャも血相を変えて走り出した。
 精神力の温存もかまわずに、瓦礫の山を魔法で飛び越えて空港へと急ぐ。そしてビル街から空港の開けた空間へと飛び出たとき、ブリミルとサーシャの見たものは異様な光景であった。
 不気味な姿に変形した亜空間ゲートと、その傍らに横たわるマギ族の宇宙船の残骸。だがそれはもうわかっていた光景だ。ふたりが驚いたのは、空港のあちこちに散乱する、破壊された小型の円盤だったのだ。
「これは、僕らマギ族の飛行円盤じゃないか。どうして、これがこんなに?」
 ブリミルは困惑した。それらは、以前にブリミルが虚無の魔法を会得することになった円盤と同じタイプのマギ族の自家用機の数々であった。
 いずれも、大きく破壊はされているが、元の形状がシンプルな円盤だったために原型はとどめていた。しかし、マギ族の空港にマギ族の円盤があるのは当然のことだ。ふたりが驚いたのは、それら円盤の残骸が真新しいことだったのだ。
「こいつは、墜落してまだ数日も経ってないぞ」
 一機の円盤の残骸に近づいてブリミルはうなった。その円盤の残骸の傷口にはさびやこびりついたほこりも見えず、ちぎれた金属の光沢はそのまま残っている。しかも、墜落時の炎上の残りか、まだうっすらと煙まで吐いているではないか。
 乗員は死亡している。けれど、船外に投げ出された遺体を見ても、腐敗の気配はまだ見えない。
「僕以外にも、生き残っていたマギ族がいたんだ」
 これは、つい最近ここにやってきた者たちだ。おそらく円盤が故障するかなにかで、首都に帰れずに難を逃れ、修理を終えてここにやってきたのだろう。
 けれど彼らは到着時に何者かに襲われた。犯人はおそらく、怪獣だ。その証拠に、空港には無数の足跡が残されており、掘り返された土もまだ乾ききっていない。
 他の円盤を見に行っていた仲間たちからも、どの円盤も同じような状態だったとブリミルは聞かされた。
「君たちも、ようやくここに帰ってこれたのに、さぞ無念だったろう」
「蛮人、感傷に浸ってる場合じゃないわよ。ここに来たマギ族の船は、どれも到着と同時に襲撃を受けたんだわ。なら、襲った張本人はどこに行ったのよ?」
「えっ? そりゃ、もうどこかに立ち去ったんじゃないか?」
 ブリミルは素朴に考えて答えたが、サーシャは険しい表情で円盤の残骸を指差して言った。

575ウルトラ5番目の使い魔 56話 (6/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:01:32 ID:AD6r/IbY
「残骸の状態をよく見てみてよ。目の前のこれは、つい昨日くらいに壊されたものだけど、あっちに見えるあれはさびが浮き始めてるわ、一週間前に雨が降ったからそれを浴びたんでしょう。かなり時間がずれた状態で、同じ壊され方をしてるなんて変じゃないの?」
「あ、ああ。そういえば、空から見れば怪獣がいるのはわかるはずなのに、どうして彼らは着陸しようとしたんだ」
「ねえ、何か悪い予感がするわ。さっきはああ言ったけど、ここにいると何かよくないことが起こりそうな気がするの」
「そうだね、君の言うとおりだ。まだ調べたいことはあるけど、急いでみんなを集めてここから離れよう」
 ブリミルも背筋に冷たいものを感じ、サーシャの意見に賛同した。なにが変だと具体的には言えないが、ごく最近にここで惨劇が起こったのは確かだ。後ろ髪を引かれる思いはあっても、皆の安全には代えられない。
 しかし、ふたりが街に散った仲間たちを呼び集めようとした、まさにそのときであった。彼らの耳に、まるで心臓の脈動のような不気味な音が聞こえてきたのだ。
「なんだ、この変な音は?」
「あなたにも聞こえるの? これよ、さっきわたしが聞いた音は。あっ、あれを見て」
 音に続いて異変は立て続けに起こった。突如地響きがして、サーシャの指差した滑走路の一角から土煙とともになにか巨大なものがせり上がってきたのだ。
「なっなんだ? なんだいあれは!」
「んっ、ホヤ?」
 それは奇怪としか表現のしようがない物体であった。全長は六十メートルほどもある巨体だが、まるでフジツボを寄せ集めてできたかのような、穴ぼこと出っ張りだらけの訳のわからない形をしている。色は青と赤で上下が分かれていて、気味が悪いというかおよそ生き物とすら思えなかった。
 まさかあれもヴァリヤーグの仲間か? いや、光の粒子は見えないし、違うのか?
 出現した物体の正体がわからずに戸惑い立ち尽くすブリミルとサーシャ。しかしそれを映像で見ていた才人には、そいつが何者なのかわかっていた。そいつは、かつて地球にも出現して科学特捜隊をさんざん翻弄した、あの。
「四次元怪獣ブルトン!」
 歴代ウルトラ戦士が戦った怪獣の中でも特に不条理かつ謎の多い存在だ。なぜ、こいつまでここに? 暴走した亜空間ゲートの強烈な時空エネルギーに呼び寄せられたのであろうか?
 こいつはとにかく謎だらけの存在で、無重力圏の谷間から落ちてきた鉱物生命体ということぐらいしかわかっていることはない。しかし、その行動原理は不明であっても、こいつは自分に敵意を持つものに対しては明確な敵意で返す習性を持っている。ブルトンに攻撃を仕掛けた防衛軍の戦車や戦闘機は四次元現象で全滅させられた。もし、ブルトンが近づいてくる人間を外敵と判断したとしたら。
 まずい、逃げろ! と才人は叫ぶが、当然過去のビジョンの中のブリミルたちには届かない。

576ウルトラ5番目の使い魔 56話 (7/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:02:15 ID:AD6r/IbY
 ブリミルとサーシャが、ブルトンが何なのかわからずに棒立ちになっていると、ブルトンは無数にある開口部のひとつから四本の細い繊毛のようなものをせり出させて震わせた。するとそこから鈍い光が放たれて、周辺の空間が歪んだかと思うと、その中から四体もの怪獣が現れてきたのだ。
「なっ! か、怪獣だって」
「そんな、いったいどこから」
「ブリミルさん、あっちにも!」
「サ、サーシャさん、あっちにも出ましたわ!」
 ふたりや彼らの仲間たちは困惑した。今まで何もなかったところから、まるで召喚されたように怪獣が現れるなんて!
 だが、これこそ四次元怪獣ブルトンの能力なのだ。奴は時空を自由自在に操ることで、あらゆる世界の法則を無視することができる。才人の知っている記録では披露されたことはなかったが、遠く離れた場所にいる怪獣を呼び寄せるなど本来ブルトンには簡単なのだ。
 出現した怪獣たちは四体、それぞれが人間たちを獲物だと認識して襲い掛かってきた。
 まず一匹目は、シャープな頭部と弾力がありそうな体を持つ地底怪獣テレスドン。怪力と大重量を持ち、滑走路に巨大な足跡をつけながら向かってくる。
 二匹目は、背中に大きなヒレを持つ鈍足超獣マッハレス。爆音を鳴らすものや高速で動くものが大嫌いな習性を持ち、空を飛んで逃げ出そうとした人たちに怒って飛び掛っていく。
 長く伸びた鼻を持つ三匹目は毒ガス怪獣メダン。ガスを主食とし、窒息性の猛毒ガスを吐き散らす凶暴な怪獣で、さっそく興奮して白色の毒ガスを撒き散らしている。
 そして四匹目が、地球に現れた怪獣の中でもトップクラスに凶悪無比な一体とされる、その名も残酷怪獣ガモス。ヘビのような光沢を持つ体と濁りきった目を持ち、背中には無数の鋭いトゲを生やして見るものを威圧する。さらに何よりも、その頭脳は殺戮を至上の喜びとする邪悪な意思に満ち満ちており、目の前に多数の人間がうごめいているのを見ると、歓喜に吼えたけりながら襲い掛かった。
 四方から襲い掛かってくる四匹の怪獣。ブリミルたちは理解した。
「あいつが、マギ族の生き残りは、あのフジツボおばけが呼び出した怪獣にやられてしまったんだ」
 マギ族の生き残りは、この空港にやっと帰ってきてほっとしたところを、異次元から現れた怪獣に奇襲されてしまったに違いない。
 せっかく生き残っていた仲間をよくも。ブリミルは怒りに震えたが、ブリミルにできることは、ただ一言叫ぶだけであった。

577ウルトラ5番目の使い魔 56話 (8/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:04:26 ID:AD6r/IbY
「逃げろーっ! みんな逃げるんだーっ!」
 それ以外にできることはなかった。相手は四匹、勝ち目など最初からゼロに等しい。魔法でみんなを逃がすにも、全員を集合させなくてはテレポートも世界扉も使えない。
 できることは、全員がバラバラになって少しでも遠くに逃げること。そしてリーダーである自分には、できることではなくてしなければいけないことがある。
「ぼ、僕が時間を稼ぐ。サーシャ、君はみんなを連れて逃げるんだ」
 それが、この中で唯一怪獣とも戦える魔法を持つブリミルにだけできる仕事であった。しかし相手は五体、魔法の訓練は積んできたが、こんな数を相手にするのは初めてだ。
 敵の能力は未知、自分の力は発展途上。しかしやるしかない、でなければ、自分はマギ族である自分を今度こそ許せなくなってしまう。
 だが、悲壮な決意をするブリミルの肩をサーシャが叩いた。
「やせ我慢してんじゃないわよ。あんた一人じゃ呪文を唱える時間もないでしょ、ふたりでやるわよ。いいわね」
「サーシャ、すまない」
 ブリミルは己の非力さを嘆き、サーシャの気遣いに感謝した。だが、ふたりならばまだ何とかなるかもしれない。
 怪獣たちの気を引くために、ブリミルは中途半端なエクスプロージョンの爆発を頭上で起こし、「お前たちの相手は僕らだ」と叫ぶ。そのふたりの後ろでは、彼らの仲間の人間や亜人たちが懸命に逃げていっていた。
「ブリミルさん、すまねえ!」
 彼らは皆、今日まで旅路で苦楽を共にしてきた大事な仲間たちだ。種族など関係ない、守らねばならないという思いがブリミルとサーシャの胸に強く燃え上がる。
 サーシャは腰の剣を抜き、ブリミルの肩を抱いた。ガンダールヴは詠唱の間に敵と戦って時間を稼ぐのが仕事だが、相手があれでは戦いようがない。なら、ガンダールヴの素早さでブリミルごと逃げ回るしかない。
 四大怪獣が来る! ブリミルはエクスプロージョンの詠唱を始め、サーシャは全力で走る準備を整えるために息を吸い込んだ。
 最初に来るのはなんだ? 火炎か? 毒ガスか? 破壊光線か? 身構える二人。
 
 だが、今まさに怪獣たちを迎え撃とうとしていた二人は信じられないものを見た。なんと、こちらに向かってきていた四匹の怪獣のうち、ガモスがくるりと方向を変えてブリミルたちの仲間のほうへと向かいだしたのだ。
「なに! こら、どこへ行く! お前の相手は僕だ」
 ブリミルが叫んでもガモスはまるで聞く耳を持たない。なぜなら、殺戮のみを喜びとするガモスにとって、立ち向かってくる相手など興味はない。逃げ惑う弱者をいたぶることこそ快感があるのだ。
 いやらしい笑いを浮かべているような目で逃げる人間たちを見下ろして追いかけるガモス。しかしブリミルとサーシャには、残りの三匹が向かってきているのでガモスに向かうことができない。
 攻撃が来る! メダンの吐いた毒ガスとマッハレスの吐いた爆発性ガスが来る。ブリミルはやむを得ず、自分の身を守るために呪文を開放した。

578ウルトラ5番目の使い魔 56話 (9/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:05:06 ID:AD6r/IbY
『エクスプロージョン!』
 魔法の爆発がガスを吹き飛ばし、勢いを衰えさせずに爆風でメダンとマッハレスを吹き飛ばして尻餅をつかせた。
 しかし、非常に重い体重を持つテレスドンは吹き飛ばず、そのまま猛牛のように突進してブリミルたちを踏み潰そうとしてきた。
「飛ばすわよ、舌噛むんじゃないわよ!」
 サーシャはブリミルの手を引いて走り出した。ガンダールヴの力で何倍にも上げられたスピードでテレスドンの突進をかわし、ブリミルは手提げかばんのように振り回されながらも必死で呪文を唱え続ける。
 この三匹はどうでもいい! 仲間たちを追っていった、あの怪獣を止めなくては!
 皆は魔法を使って飛んだりしながら必死に逃げているが、瓦礫も無視しながら歩く怪獣の速度のほうが速くて逃げ切れない。そしてついに、最後尾の数人がガモスの射程内に入ってしまった。
「うわっ、うわぁぁっ!」
 逃げる人間たちを見下ろして、ガモスが笑うように開けた口から白い泡が吐き出されて人間たちに振りかけられる。すると、泡を浴びた人間たちは一瞬にしてシルエットだけを残して溶かし殺されてしまった。
「なっ、なっ、なんてことを!」
 サーシャが悲鳴をあげた。ガモスの吐き出す泡は強力な溶解泡であり、かつて宇宙指名手配犯ナンバー2として悪名をとどろかせていたガモスの同族は、これを使って宇宙の各地で殺戮の限りを尽くしていたのだ。
 ガモスは犠牲者たちの残骸をうれしそうに見下ろしてから踏みにじると、さらなる獲物を求めて歩を進めた。まだ、ガモスの前には何十人もの人間たちが残っていた。
「みんな、怪獣の吐き出す泡を浴びちゃだめよ。魔法で防ぎながら逃げて!」
 サーシャはブリミルの手を引きながら叫んだ。仲間たちには怪獣と戦えるほどの力はない、自分とブリミルが守らなくてはならないのだ。
 仲間たちのメイジや翼人、エルフが風を操ってガモスの放つ溶解泡をそらしていく。しかしガモスは溶解泡が通じないと見ると、その目から今度は波状の破壊光線を撃ってきたのである。
「わあぁぁっ!」
 光線は防ぎようがなく、爆発に飲み込まれて仲間たちが消えていく。しかもガモスは卑劣なことに倒壊したビルの残骸を狙って光線を打ち、瓦礫の雨を仲間たちの頭上に降らせたのだ。
 破片とはいっても数十キロから数百キロはある岩の雨だ。まともに食らえば人間などひとたまりもない弾雨に、魔法で防壁を作ろうとするしかない。しかしそうすれば、ガモスは努力をあざ笑うかのように、彼らの上に生き埋めになるほどの瓦礫を降らせるのだ。
 ガモスの猛威はまだまだ続く。奴は遠くまで逃げた者がいるのを、その蛇のような目で見つけると、前かがみになって背中と尻尾に生えている鋭いとげをミサイルとして発射したのだ。
「ぎゃあぁっ!」
 トゲミサイルの爆発で仲間たちが炎の中に消えていく。翼人の青年ゼイブ、エルフの幼子ラチェ、口うるさいメイジの老人キナさん。

579ウルトラ5番目の使い魔 56話 (10/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:06:22 ID:AD6r/IbY
 みんなの命が消えていく。
「やめてっ! やめてえぇぇっ!」
 サーシャの絶叫が響く。ガモスの虐殺の前に、すでに何十人もの仲間が殺されてしまった。彼らはサーシャにとっても、かけがえのない仲間だったのだ。
 しかし三匹の怪獣が道をふさいでいる。ブリミルは詠唱が不完全なのにも関わらずに魔法を発動させた。
「邪魔だ! どけ、お前らぁ!」
 口調も荒く、ブリミルはエクスプロージョンを炸裂させた。怒りで感情が高ぶって魔法の威力が上昇し、不完全な状態だというのに三匹の怪獣を爆風で吹っ飛ばした。
 これで道が開けた。それだけではない、爆風の威力に驚いたのか、テレスドンが土砂を巻き上げながら地面に潜っていったのだ。
「よし、一匹片付いたわ。早くしないと!」
「サーシャ、捕まってくれ。飛ぶよ」
 ブリミルはサーシャの手を掴むと魔法で飛び上がった。この距離ならばテレポートで瞬間移動するより飛んでいったほうが早い。サーシャも飛ぶ魔法は使えるが、あまり得意なほうではなく、飛ぶならブリミルのほうが断然速かった。
 だが、飛び上がったブリミルたちを見て、狂ったようにマッハレスが白色ガスを吹きかけてきた。猛烈な風圧で迫り来たそれを、ブリミルはかろうじてかわす。
「こいつめ。お前だな、僕の仲間たちの乗った円盤を落としたのは!」
「バカ! それどころじゃないでしょ」
「わかってる。こっちを向け! これ以上、お前を先には進ませないぞ」
 憎さ余りあるガモスを止めるために、ブリミルは怒りを込めてエクスプロージョンをガモスの頭に叩き付けた。それと同時にマッハレスの目の前を魔法で瓦礫を飛ばして注意をそらした。
 爆発がガモスの左側頭部で起こり、これにはさしものガモスもたまらずに振り返ってブリミルたちを睨み付けた。
 交差するブリミルとガモスの視線。そうだ、それでいい。お前の相手は僕らだ、貴様だけはこの世から跡形もなく消してやる。
 瓦礫の山の頂上に降り立ち、呪文を唱えるブリミル。今の僕は怒っている、この溢れんばかりの怒りのすべてを貴様にぶつけて、本当に跡形もなく消してやる。
 ガモスは邪魔者を排除しようと、ブリミルに向かって目からの破壊光線を放ってきた。しかし、詠唱中の使い手をガンダールヴが守り抜く。
「地の精霊よ! 私たちを守りなさい!」
 瓦礫が生き物のように立ち上がって破壊光線からふたりの身を守った。瓦礫の盾は粉砕されて破片が降り注ぐが、それらは剣を抜いたサーシャがすべてはじき返して止めた。

580ウルトラ5番目の使い魔 56話 (11/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:07:12 ID:AD6r/IbY
 魔法と剣技、両方を使えるガンダールヴの強さに隙はなく、その戦いぶりを見た才人は改めて感嘆した。そしてサーシャの援護のおかげで、ブリミルはガモスを倒すのにじゅうぶんなだけの力を溜めることができた。
「いくよサーシャ!」
「ええ、みんなの敵を」
 溜まった魔法力を解放するため、ブリミルは杖を頭上に高く振り上げた。
 これで殺された仲間たちの敵をとる。エクスプロージョンを解き放つため、ブリミルが杖を振り下ろそうとした、だがその瞬間だった。
「エクス、っん? なんだ、か、体が動かないっ」
「はあ? あんたこんなときに何を言って……な、なによこれ? わたしも、体が動かない!?」
 これからだというのに、二人の体は鉛になったように動かない。いったい何が起こったんだ? 二人だけでなく、映像を見守っているルイズたちも困惑する。
 これは……はっとした才人が映像の奥を指差して叫んだ。
「ブルトン! あいつの仕業だ」
 そう、いつの間にかブルトンは穴から円筒のついたアンテナを出し、二人に向かって閃光を発していた。
 あれは何をしているのかわからないが、何かをしているのはわかった。恐らくはブルトンはふたりを脅威とみなして、時空エネルギーを使ってブリミルたちの身動きを止めに出たのだろう。
 ブルトンのパワーは見た目よりはるかに強烈で、地球に現れた個体も初代ウルトラマンの動きを封じ込めてしまっている。
「まずい、やられるっ」
 魔法を使おうにも狙いがつかない。この状況で破壊光線や溶解泡を浴びせかけられたら防ぎきれない。
 だが、窮地に陥ったブリミルとサーシャに対して、ガモスは追撃を仕掛けなかった。ニヤリと笑ったかのように口元を動かすと、くるりと再反転してブリミルの仲間たちへとまた向かいだしたのだ。
「あっ、あいつぅっ! 畜生」
 戦うことなど興味はない。標的はあくまで弱者、目的は勝利ではなく悲鳴と断末魔。ガモスとはそういう怪獣なのだ。
 身動きできない二人に背を向けて、ガモスは逃げ惑う人間たちへと歩を早めた。またも悲鳴が響き、命が奪われていく。だが、身動きのできないブリミルとサーシャには暴虐を止められない。
 ガモスの非道さに、才人やルイズたちも歯軋りをしたり靴のかかとを叩きつけたりして悔しさを表した。だが、ブルトンの金縛りは簡単には解けない。
「蛮人、なんとかならないの!」
「だめだ、テレポートを使おうにもつながっていなくては君を置き去りにしてしまう。君こそ、魔法でなんとかならないのかい?」

581ウルトラ5番目の使い魔 56話 (12/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:09:13 ID:AD6r/IbY
「無理よ。周りの瓦礫ごと固められちゃってる。さっきから精霊に呼びかけてるけどビクともしないわ!」
「なんて力だ、くそっ。仕方ない、サーシャ、少し痛いが我慢してくれよ。エクスプロージョン!」
 なんとブリミルは自分の正面で爆発を起こした。その衝撃は時空エネルギーを切り離し、ブリミルとサーシャも無理やり吹き飛ばされることで金縛りから抜け出ることができた。
 瓦礫の山の上をゴロゴロと転がるブリミルとサーシャ。やっと止まったときにはふたりとも擦り傷だらけになってしまっていた。
「はぁ、はぁ、うう、いてて」
「む、無茶なことするわね」
「そう言わないでくれ、あれしかなかったんだ。それよりはやくみんなのところへ」
「ええ、あっ! 後ろっ! 別の怪獣が来るわ」
 窮地を脱したのもつかの間、ブリミルとサーシャには別の脅威が迫っていた。吹き飛ばしたメダンが起き上がってこちらに向かってきていたのだ。奴も当然のように機嫌は最悪で、鼻先から一酸化炭素を含んだ猛毒ガスを吹きかけてきた。
「吸わないでっ!」
 サーシャはこのガスの中では生命の声が急激に消えていくのを感じていた。ちょっとでも吸えば確実に死ぬ、ふたりともとっさに吸うことをやめたが、人間が呼吸を止めておけるのは一分がせいぜいと言われる。
 つまり、今肺の中にある空気だけで魔法を使わねばならない。しかし、たった今魔法を使ったばかりのブリミルには必要分の詠唱をするだけの空気が残っていない。毒ガスの中ではサーシャも精霊魔法を使えない。
「ウリュ……ぐっ」
 やはりさっきまで息を切らせていただけに、声を出す空気がまったく足りない。
 詠唱を継続するには息を吸わなくては。だが、吸えば死ぬ。走って離れるにも、毒ガスは周辺に充満していて逃げ場はない。
 駄目か……ブリミルが窒息の苦しさの中であきらめかけたときだった、ブリミルの口に突然暖かいものが押し付けられた。
「んっ? サーシ……っ!?」
 ブリミルはこんなときだというのに赤面した。なんと、サーシャがブリミルに口づけをして自分の息を注ぎ込んでくれていたのだ。
 わずかだが息が戻った。しかし、代わりに空気を失ったサーシャは、力なく崩れ落ちていく。
「後は、お願い……」
「サーシャ? サーシャ!」
 サーシャは肩を揺すっても答えない。だが、サーシャのくれた空気もすぐになくなる。ブリミルはサーシャをしっかりと抱きしめたまま呪文を唱えた。

582ウルトラ5番目の使い魔 56話 (13/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:09:52 ID:AD6r/IbY
「ウリュ・ハガラース・ベオークン・イル……テレポート!」
 毒ガスの中からふたりの姿が掻き消えて、少し離れた場所に現れる。距離は二百メイル程度だが、なんとか毒ガスの影響圏外だ。
 脱出に成功したブリミルは、咳き込みながら息を吸い込むと、腕の中でぐったりしているサーシャへ呼びかけた。
「サーシャ! サーシャ! しっかりしてくれ。目を開けてくれよ」
 しかしサーシャはブリミルに息を与えたときに毒ガスを吸い込んでしまったのか、不規則な呼吸と痙攣を繰り返すばかりで答えてくれない。
「サーシャ! 畜生、お前らぁぁぁっ!」
 そのとき、ブリミルの中で怒りを越えて何かが切れた。サーシャを抱きかかえたまま立ち上がり、きっと目の前にいる怪獣メダンを見据える。
 メダンはブリミルとサーシャを見失って立ち尽くしている、いい的だ。それに、さっきやり過ごしたマッハレスも戻ってきた。ちょうどいい、この状況にぴったりの魔法がある。ブリミルは早口で呪文を唱えると、メダンへ向かって杖を振り下ろした。
『忘却』
 記憶を消し去ってしまう虚無魔法がメダンの脳に作用して、メダンは魂が抜けたようにフラフラと千鳥足であさっての方角に踏み出したかと思うと、そのままマッハレスと衝突してしまった。
 当然のごとく怒ってメダンを攻撃し始めるマッハレス。メダンもわけがわからないが、マッハレスが攻撃してくるなら迎え撃たねばならない。二匹はそのまま泥仕合に突入していった。
「消せるだけの記憶を消してやった。そのまま同士討ちしてしまえ。だが、それよりも」
 ブリミルはちらりとブルトンを睨み付けると、再度テレポートの呪文を唱えて仲間たちの下へと急いだ。
 しかし、瞬間移動で先回りして、ガモスから逃げ続いていた仲間たちの下にようやくたどり着いたブリミルの目に映ったのは、あまりにも少なくなった仲間たちの姿だったのだ。
「ブリミルさん! サーシャさんも……」
「みんな、遅くなってすまない。サーシャを頼む、後はまかせてくれ」
 回復魔法の使えるメイジにサーシャを託し、ブリミルはガモスの前に立った。
 仲間たちは、もう十人足らずにまで減ってしまった。バラバラに逃げた者がまだいるかもしれないが、数多くの仲間がこいつに殺されてしまった。
 絶対に許せない。ブリミルは胸の奥から湧き上がってくる憎悪を込めて、奴にふさわしい呪文の詠唱を始めた。
「エオルー・スーヌ・イス・ヤルンクルサ……」
 心の底から果てしない力が湧いてくるのをブリミルはわかった。旅の途中で出会った仲間たち、ほんの数ヶ月のあいだだったが、彼らからは多くの思い出をもらった。

583ウルトラ5番目の使い魔 56話 (14/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:10:33 ID:AD6r/IbY
「オス・ベオーク・イング・ル・ラド」
 わずかな食べ物をわけあったこともあった。老人のうさんくさい武勇伝に付き合わされたことがあった、子供の遊びに付き合わされてクタクタになったこともあった。
 みんな消えてしまった。彼らはもう戻らない、もう会えない。
「アンスール・ユル・ティール・カノ・ティール」
 そしてサーシャまでも……貴様らは絶対に許さない。
「ギョーフ・イサ・ソーン・ベオークン・イル」
 ガモスの吐いた溶解泡が降りかかってくる。しかし、そんなものはどうでもいい。この魔法の威力、地獄に持っていけ。
『分解』
 この世のすべては原子からなる。溶解泡も、それにガモス自身も……そのつながりをすべて忘却させ、塵に返るがいい。
 魔法の光が溶解泡を水素と酸素に、そしてガモスを照らし出して炭素と窒素に戻していく。ガモスの目に、恐怖が映り、そして生命の灯が消える。
 そして光が過ぎ去ったとき、ガモスの上半身は削り取られたように消え去っていた。
「死ね」
 心からの憎悪を込めたブリミルの言葉とともに、ガモスの残った下半身も崩れ落ちた。
 みんな、敵はとったぞ。ブリミルの頬を一筋の涙が伝う……。
 勝利したブリミルの元に仲間たちが走りかけてくる。ブリミルは涙をぬぐうと、彼らに向き合った。
「ブリミルさん、やってくれたんだね。みんなの、敵を」
「ああ、みんな……よく無事でいてくれた。サーシャは?」
「大丈夫、命に別状はない。やがて目を覚ますだろうよ」
「よかった」
 ブリミルはほっとした。これでサーシャまでも失ってしまったら、自分はどうなってしまっていたか。
 だが、安心している時間はない。あのフジツボのお化けが新しい怪獣を呼び寄せる前に逃げなくては……そうブリミルが口にしようとした、そのときだった。
「ブリミルさん、空を!」
 顔を上げて空を望んだブリミルは信じたくないものを見た。空に無数の金色の粒子がきらめき、それが収束すると地上に流れ星のように次々と落ちてきたのだ。

584ウルトラ5番目の使い魔 56話 (15/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:11:15 ID:AD6r/IbY
 地響きがなり、金色の流星の落ちた地点から巨大な昆虫型の怪獣が飛び出してくる。それらはよく見ると、都市の残骸を寄せ集めて体が構成されていた。
「ヴァリヤーグ、奴らまでか!」
 ブリミルは憎憎しげにつぶやいた。この戦いの熱気と歪んだ時空の波動が、ついにカオスヘッダーまでをも呼び寄せてしまったのだ。
 カオスヘッダーは街の瓦礫を寄せ集めて、無機物でできた怪獣カオスバグとなって現れた。しかも構造物は無尽にあるし、この場所の時空エネルギーがカオスヘッダーも活性化させているのか、カオスバグはなんと一度に三体も現れた。
 街の瓦礫を踏み砕き、カオスバグたちはブルトンと怪獣たちを脅威と見たのか前進を始めた。その無遠慮な姿に、ブリミルは暗い声でつぶやいた。
「僕らの街を、僕らの同胞の墓標を、どいつもこいつも」
「ブ、ブリミルさん、今はそれよりも……」
「わかってる、みんな、ここから離れるよ」
 憎悪を抑えて、ブリミルは皆を避難させるために『世界扉』の呪文を唱え始めた。これで、一気に数十リーグの距離を稼いで逃げ切る。この魔法に使用する精神力は莫大で、これで精神力はカラになってしまうが仕方ない。
 詠唱を始めるブリミル。しかし、現代のブリミルは沈痛に語った。
「僕はここで、この魔法を使うべきじゃなかった」
 世界扉のゲートを開くべく、詠唱を進める過去のブリミル。しかし、仲間をやられた興奮が冷めやらぬブリミルには、この魔法が与える影響を想像することができなかった。
 魔法を完成させて、杖を振り下ろしたブリミル。本来ならば、これで遠方に通じるゲートが生まれるはずであった……が。
「ブリミルさん、なんか変じゃないですか?」
「おかしい、すぐにゲートが開くはずなのに。なんでなんだ、くそっ! コントロールが効かない!」
 人一人が通れるだけで済むはずだったゲートは、ブリミルの制御を外れて拡大・暴走を始めたのだ。
 なぜだ? この魔法はこんな効力はないはずなのにと、仲間たちとともに暴走するゲートから逃げ出すブリミル。なぜこんなときに魔法が暴走するんだ?
 その理屈は簡単である。未熟な彼は気づいていなかったが、世界扉とは文字通り次元に穴を開けて、場合によっては異世界への通行も可能とするとてつもない魔法だ。だがこの場所には、暴走して強大化したマギ族の異次元ゲートと、巨大な時空エネルギーを放つブルトンがいる。その影響がこの付近一帯の空間を不安定にさせ、世界扉の魔法に過剰に反応してしまったのだ。

585ウルトラ5番目の使い魔 56話 (16/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:11:53 ID:AD6r/IbY
 時空に不用意に穴を開けるということは、膨大な水をたたえた堤防に穴を開けるのと同じことだ。時空間の扱いに長けたブルトンならいざ知らず、考えなしに開けられた世界扉の穴は、この空間に溜め込まれていた膨大な時空エネルギーを暴走させるきっかけとしては十分すぎた。
 
 空が歪み、雷鳴が轟く。それは予兆。破局が……始まった。
 
 街に閉じ込められたブリミルたちの傍で、もはや止めようのない戦いが破滅の第一歩を印す。
 三匹のカオスバグは、まずはブルトンがボス格だと見て殺到した。メダンとマッハレスはまだ仲間割れを続けており、後回しにしてもよいと踏んだのだ。
 カオスバグから金色のカオスヘッダー粒子が飛び出してブルトンに飛び掛る。ブルトンもカオス怪獣化するつもりだったのだが、ブルトンは自分の周囲を歪ませてカオスヘッダーに取り付かれるのを防いでしまった。
 行き場を失って拡散するカオスヘッダーの粒子。ブルトンは変わらずに、心臓のような音を鳴らしながら存在している。これを見たカオスバグたちは、実力行使に打って出た。
 カオスバグの触覚から破壊ビームが放たれてブルトンを襲う。ブルトンはそれもバリアーでしのいだが、ブルトン自身の攻撃力はそこまで高くもないので、新たに手先となる怪獣を呼び寄せた。
 空間が歪み、中から全身が赤と全身が黒の同じ姿をした怪獣が二匹現れる。才人はそいつらにも見覚えがあった。
「双子怪獣の、レッドギラスとブラックギラスだ」
 かつて、マグマ星人に率いられて東京を壊滅状態に追いやった怪獣たちだ。連携すれば、ウルトラセブンでさえ苦戦させられるほどの強豪でもある。
 現れたギラス兄弟は、目の前のカオスバグたちを敵だと認識して戦闘態勢に入った。カオスバグたちも、当然のようにそれに対抗しようと動き出す。
 だが、ギラス兄弟が呼び寄せられたことで、この場所の時空がさらに不安定化してしまったのだ。暴走した世界扉によって空間は歪み続け、マギ族のゲートから漏れ出すエネルギーがそれをさらに助長する。
 するとどうなるか? 空間がアンバランス化するということは、例えるならば走っている電車の一両から車輪が突然なくなるようなものだ。当然レールの上を走れなくなってガタガタになるし、前列の車両からは引っ張られ後列の車両からは押されて車両そのものが破壊されていく。そして惑星の一部の空間が不安定化すると、そこだけ惑星の自転や公転から放り出されるも同然の状態となる。そして起きるのは、とてつもない天変地異だ。
「うわぁぁっ! 地震だ!」
 ブリミルたちは立っていられないほどの激震に襲われ、都市の残骸もさらなる崩壊を始めた。ブリミルにはすでにテレポートを使う精神力もなく、仲間たちとともに地を舐めるしかない。
 空も同様だ。大気も拡販され、嵐と稲光が轟き始めた。そしてこの状況は、ギラス兄弟にとってはまさに絶好のホームグラウンドであった。

586ウルトラ5番目の使い魔 56話 (17/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:12:30 ID:AD6r/IbY
 レッドギラスとブラックギラスはスクラムを組むような形で抱き合うと、そのままコマのように高速回転を始めた。それを見たカオスバグたちはいっせいに目や触覚から破壊光線を放つが、回転するギラス兄弟の威力の前に軽々とはじき返されてしまった。
『ギラススピン』
 これがギラス兄弟の必殺技である。高速回転することによって自分たちを巨大な回転カッターも同然の状態に変え、この状態になったらウルトラセブン必殺のアイスラッガーも通用しない。
 もちろんこれは防御だけの技ではない。ギラス兄弟は回転したままで、猛烈な勢いを持って一体のカオスバグに突進して跳ね飛ばしたのだ。
「すげえ威力だ」
 才人は恐れ入った。二匹の怪獣が高速回転して突進する破壊力はすさまじく、直撃を受けたカオスバグは大きなダメージを受けて瓦礫でできた体が崩れかけている。
 カオスバグたちはギラススピンの前にはなすすべがなく、二体目が吹っ飛ばされた。だが、このままギラス兄弟の圧勝かと思われたが、そうはいかなかった。マグマ星人という司令塔がいないギラス兄弟は、ギラススピンを続けながら頭部の角から光線を放ってカオスバグたちだけでなく、仲間割れを続けていたメダンとマッハレスまでも攻撃したのである。
 攻撃を受けた二匹は当然怒る。特にマッハレスは騒音と高速物体が大嫌いという性質で、わき目も振らずにギラススピンに突進していった。
 残るメダンは最後のカオスバグと相対する。その激闘のエネルギーで地は裂け、ついに地殻までもが破壊され始めた。地割れが無数に発生し、そこから地下水が湧いてきて廃墟を飲み込み始め、水没していく都市の様子に喜んだギラス兄弟は突撃してきたマッハレスを弾き飛ばすとギラススピンを止めて分離し、それぞれ頭部の角から青色の光線を周辺に向けて放った。
『津波発生光線』
 その効果によって、地盤沈下は拡大し、地下からはさらに大量の水が噴出してくる。そればかりか、ここは内陸部だというのに遠方の海から怒涛のように海水が都市へ向かって押し寄せてくる。
「街が……街が沈んでいっていますわ……」
 アンリエッタが震えながらつぶやいた。トリスタニアの何十倍もあろうという大都市が、地割れと洪水に飲み込まれて沈んでいっている。
 これがギラス兄弟の力。マグマ星人はギラス兄弟のこの能力で、ウルトラマンレオの故郷L77星を滅ぼし、東京を水没させてしまったのだ。
 一挙に海と化していく廃墟の中で、怪獣たちの戦いはなおも続いている。レッドギラスが角から放った赤色光線とマッハレスの放った黄色光線がぶつかり合い、カオスバグとメダンとブラックギラスは三つ巴の戦いを繰り広げている。蚊帳の外で高みの見物をしているのはブルトンだけだ。
 そして、ブリミルたちにも最後が迫っていた。

587ウルトラ5番目の使い魔 56話 (18/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:13:14 ID:AD6r/IbY
「早く! 少しでも高いところへ」
 洪水から逃れるために、ブリミルたちはビルの瓦礫の上へとよじ登っていた。
 すでに低地は洪水で埋め尽くされ、ビルの残骸がかろうじて顔を出しているにすぎない。立って暴れられるのは巨体の怪獣たちくらい。魔法の力はすでに尽き、彼らは生き延びるために夕立に会った昆虫も同然に、ひたすら高台を目指していた。
 ブリミルは残った仲間たちの手をとり、瓦礫の上のほうへと引き上げていく。マギ族が繁栄を極めたこの街で、マギ族の自分がずぶぬれの泥まみれになりながら必死に生き延びようとしている。こっけいなものだ……だが、今はもうどうでもいい。サーシャを含めて、生き残った仲間はもう十人足らず、けれどこの仲間たちが今の自分にとっては何よりの宝なのだ。
 瓦礫の山の頂上につき、ブリミルはここならばしばらくは持つと判断した。そして続いてくる仲間たちを導くために、手を差し伸べる。
「みんな、急いで!」
「はい。ブリミルさん、先にサーシャさんを!」
「わかった!」
 ブリミルは仲間の手から、気を失ったままのサーシャを受け取って抱きかかえた。そして、続く仲間の手をとって引き上げようとした、そのときだった。
 仲間たちの足元の瓦礫の山が、突然消滅した。
「え? あ、うわぁぁーっ!」
「みんなーっ!」
 叫ぶブリミルの前で、仲間たちは突然開いた地割れに飲み込まれて落ちていく。その逆に、地割れの中からブリミルの眼前に現れる土色の怪獣の姿に、才人は愕然とつぶやいた。
「テレスドン……っ」
 そう、先ほど地中に逃れたテレスドンが地殻の異常に耐えかねて再び地上に上がってきたのだった。しかもなんたる不運か、テレスドンが地上に出るために開けた穴の真上にブリミルの仲間たちがいたのだ。
 すでに飛ぶ力もなく、地割れに飲まれて消えていくメイジやエルフの仲間たち。ブリミルはサーシャを抱きかかえながら、片手で必死で残ったひとりの手を掴んでいたが。
「は、離さないで」
「ブルミルさん、あっ、きゃぁぁーっ」
「ああっ! みんなぁーっ!」
 無情にも、濡れた手は滑り、最後のひとりの姿も地割れの中に消えていった。
 テレスドンはブリミルには気がつきもしない風に地上に這い出し、ブリミルの仲間たちの落ちていった穴も崩れて埋まる。

588ウルトラ5番目の使い魔 56話 (19/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:13:53 ID:AD6r/IbY
「うあぉぉぉーっ!」
 悲しみの余り、サーシャを抱きしめながら声にならない叫びを上げて慟哭するブリミル。
 地上は怪獣無法地帯となり、歪んだ空間の異常で気候はさらに荒れていく。もはや歯止めなどどこをどうしても見つけようもない。
 それでも、終わりはやってくる。怪獣たちの乱闘にテレスドンも参戦したとき、テレスドンはその口から強力な溶岩熱線を吐いて、これをこともあろうにメダンに浴びせかけてしまったのだ。
 メダンは天然ガスを食って養分にする怪獣だ。つまりその体内には可燃ガスが充満しており、ガスゲゴンなどと同じく火気に反応して誘爆を起こす性質を持っている。増してテレスドンの強力な溶岩熱線を浴びたのでは、結果は火を見て明らかになった。
 
 メダンを中心にして、赤い閃光とともにすべてが白い世界に染め上げられる。
 怪獣たちも、街の廃墟も飲み込まれて消えていく。そしてブリミルも吹き飛ばされて海に落ち、そのまま意識を失った。
 その日、はるか宇宙からこの星を見下ろした怪獣たちは、星の一角で渦巻く台風のような黒雲と、その中心できらめいた閃光を見たという……
 
 それからいかほどの時間が流れたのか。ブリミルが目を覚ましたのは、どこかの海岸の砂浜であった。
 耳に聞こえるのは涼やかな波の音。うっすらと開けた目に入ってきたのは、自分に寄り添うサーシャの心配する顔だった。
「う、ここは……サーシャ?」
「ようやく目が覚めたわね。見なさいよ……なにもかも、すべてはもう海の底になってしまったわ」
 はっとして起き上がったブリミルは、海岸からはるか遠くの水平線を望んで、それを見た。
 水平線のかなたで黒雲が渦巻き、無数の雷光がきらめいている。ブリミルは呆然としながら、サーシャに尋ねた。
「あれからいったい、何が起こったんだい……・?」
「わからないわ、わたしが気がついたときには水の中だった。気を失って流されていくあなたを掴まえて、必死に泳ぐので精一杯だった。そして流されて流されて、やっと流れ着いたのがここだったというだけ」
「君は、僕を抱えたまま泳ぎ続けてくれたのか。ありがとう……街は、どうなった?」

589ウルトラ5番目の使い魔 56話 (20/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:14:53 ID:AD6r/IbY
 しかしサーシャは首を横に振った。
「最後に振り返ったとき、なにもかもが水底に沈んでいくのが見えただけ。あの街の一帯は、もう完全に沈んでしまったんでしょう。今もあのとおり、近づくこともできないわ」
「みんなは……僕ら以外に、誰か流れ着いた人はいないのか?」
 一縷の希望を込めたその問いかけに答えたのは、サーシャの沈痛な面持ちの沈黙だけであった。
 生き残ったのは、自分たちふたりだけ。ブリミルは自分の心に、これまでにない暗さと痛みが巻き起こってくるのを感じた。
「う、うぅ……うあぁぁーっ!」
「ちょっ、ブリミルっ?」
「ああぁーっ! なんで、なんでこうなるんだ? そりゃ、僕らマギ族はバカだったさ。バカなことをいっぱいやったさ、なにもかも僕らのせいさ。けど、けどここまで何もかもを奪いつくされなくちゃいけないかい! 罰だっていうにしてもあんまりじゃないか! ひどすぎるじゃないか、畜生ぉぉっ!」
「落ち着きなさい、蛮人!」
 わめき散らすブリミルの頬を、サーシャの平手が思い切り叩いた。
「悲しいのがあんただけだと思ってるの? わたしだって、わたしだってねえ……でも、わたしとあなたは生きていられた。それだけでも、ゼロじゃないじゃない」
「でも、でも……うあぁぁ、みんなぁ……」
 サーシャの胸に顔をうずめて、ブリミルは子供のように泣いた。ブリミルを抱きしめるサーシャの頬にも、涙の川が流れていた。
「故郷も、仲間も、全部海の底に沈んでしまった。僕は、僕は守れなかった! こんな力があったって、誰も救えなかった。こんな力、何の役にも立たないじゃないか……まるで虚無だ、僕なんて、虚無の使い手がお似合いなんだ」
「いいえ、あなたが頑張ったからわたしはこうして生きてる。みんなだってきっと、あなたが生き残れてよかったって思っているわ。これ以上、もう自分を責めないで」
「いや僕のせいさ。僕があんな街に行こうとしなければ、みんなが死ぬことはなかった。僕がみんなを殺したも同然だ。僕は、僕はどうやって償えばいいんだ」
 サーシャには答えられなかった。ブリミルにとって、この旅の中で出会った仲間たちがどんなに大切であったか、代われるものなら自分が代わって死にたかったに違いない。
 これからどうすればいいのか? それはサーシャにも何もわからなかった。仲間はすべて失い、ここは見も知らない土地、持っているものといえば腰に吊るしたままの愛用の長剣一本くらいだ。

590ウルトラ5番目の使い魔 56話 (21/21) ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:15:49 ID:AD6r/IbY
 自分を責め続けるしかできないブリミルを、サーシャはひたすら抱きしめてやるしかできなかった。せめて泣くだけ泣いて、悲しみをすべて吐き出して楽になってほしかった。
 
 そしていかほどの時が流れたか……涙も枯れ果て、すっかり日も落ちて、辺りは雲からわずかに刺す月光のみが照らすだけの時間となったとき、ブリミルはゆっくりと立ち上がった。
「ブリミル?」
 立ち上がって空を見上げるブリミルに、サーシャは怪訝な様子で名を呼びかけた。
 けれどブリミルは空をあおいだまま答えない。代わりにサーシャの耳に響いてきたのは、呪うようにつぶやかれたブリミルの独語だった。
「もう、この世界に希望なんてない。そうだ、償いだ……償わなきゃいけない。僕らが犯した過ちは、僕の手で終わらせなきゃいけないんだ。みんな、僕は何をすべきかをわかったよ。虚無の魔法……これで、この星を元に戻すんだね」
 そのとき、雲が切れて月光がブリミルの顔を照らし出した。
 だが、サーシャはブリミルに話しかけることはできなかった。なぜなら、ブリミルの口元は鈍く歪み、その顔には狂気の色が濃く浮かんでいたのだ。
 
 
 現代のブリミルは語った。
「このときの僕は、ほんとにどうかしていたね。もうこの世に自分しかいないと思うくらい絶望しきって、使ってしまおうとしたんだ……自分でも大仰な名前をつけた、『生命』なんて禁断の邪法をね」
 ブリミルは顔を振りながら、まったく自分の情けない過去をさらすのは嫌なものだね、とつぶやいた。
 しかし、ルイズやティファニアはぐっと拳を握り締めて話の続きを待っていた。なぜなら、ブリミルが禁断の邪法などと呼ぶその魔法は、虚無の系統を受け継ぐ自分たちにも使えるはずなのだから。
 
 
 ブリミルは静かにため息をつくと、語りを再開した。
 始祖の語られざる伝説も、ついに最後を迎える。絶望の果てにブリミルとサーシャを待つものは何か?
 希望は本当になくなってしまったのか……空に輝きだした不思議な青い星だけが、その答えを知っていた。
 
 
 続く

591ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/02/22(水) 13:16:45 ID:AD6r/IbY
今回は以上です。原作最終巻発売間際、なんとか間に合わせることができました。
前回はウルトラ怪獣がほとんど出れなかった分、今回は怪獣てんこ盛りでいきました。また、ヤプールとは関係ないですが超獣も久々の登場です。
さて、もうなんか主人公っぽくなってしまってるブリミルとサーシャです。原作でも何かの悲劇に会っていたようですが、本作ではこうした流れにしました。
コスモスの登場がなくてすみませんが、ウルトラマンだって宇宙のかなたからはるばる駆けつけてくるのは大変なので、ご理解ください。

では、次回は20巻で始祖の円鏡が見せたブリミルとサーシャの破局がこの世界ではどうなるのか語ります。
原作とは『生命』の効果も含めて恐らく大きく違うことになると思いますが、原作へのリスペクトは忘れずにつづります。では、また。

592ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:32:13 ID:iBf32hzg
どうも皆さん今晩は。無重力巫女さんの人です。
今月でとうとうゼロの使い魔原作も無事完結しましたね。

こっちはまだまだ続きますが、
特に何もなければ21時35分に80話の投稿を開始します

593ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:35:03 ID:iBf32hzg
 トリスタニアを覆う巨大な城壁、かつては王家同士の内戦や他国との戦いで見事に敵軍を押しとどめた立派な防壁。
 それぞれ方角ごとにある城門とは別に、これまた大きな駅舎が街側の方に建てられている。
 今現在に至るまで何回かの増改築を繰り返した駅舎は、上級貴族の豪邸にも引けを取らぬ立派な造りの建物であった。
 外側には馬車を停める為の厩や駐車場もあり、建物としての規模では相当大きな部類に入る。
 国内外から駅馬車や個人の馬車で来る者たちは皆一度はこの駅舎の中へと入り、役員たちと軽い話をするものである。

 勤務する者たちも今となっては平民の方が多く、特に近年稀にみる人材不足の影響で平民もデスクワークをするようになっていた。
 かつては平民がそのような職業に就いてはならぬという法律があったものの、先王の代で愚法として廃止されている。
 そのお蔭で辺境地に暮らす平民の子供たちの中には、地元の教会などで神父から文字や数字を覚えて街へ出稼ぎに行く者たちも増えていた。
 魔法学院で働くメイドたちもそういった者たちが多く、トリスタニアは若者が集まる街として最近他国でも話題に上がっている。
 しかしそれが原因で一部地域では若者が返ってこず、年寄りだらけの過疎地域が増えているのもまた事実であった。
 そして出稼ぎに出た若者たちほど、多くの人員がいなければ成り立たない駅舎の様な建物で雑用係やデスクワーカーとして働く運命なのである。
 
 トリステインだけではなく、今ハルケギニアの各国で起きている地方問題に関わっているその駅舎の内の一つ。
 ゲルマニア側にある北部駅舎では、貴族平民問わず多くの人々が受け付け窓口に並んでいた。
 一応貴族と平民とで受付窓口は二つに分けているものの、その列は窓口から十メイルも離れた出入り口まで続いている。
 ガリア側への交通ルートがある南部駅舎と同じく、休日祝日はごった返すことで有名であるが、ここまで並ぶことは滅多に無い。
 その原因はたったの一つ。それは先日大々的に報じられたアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式中止にあった。
 理由はまだ明らかにされていないものの、そのお触れが出されてからはこうして返金に来る者たちが駅舎へと訪れている。

「はい、返金ですね。承りました、少々お待ちを…」
「うむ…よろしく頼むよ」
 いかにも裕福な貴族がチケットを受付窓口で渡し、窓口に座る受付嬢がチケットの番号と貴族の名前を元に返金対応を進めていく。
 彼は有事の際の返金対応をしっかりとしてくれている駅馬車会社からチケットを買っていたので、後は黙っているだけで良い。
 それよりもその貴族が最も心配している事は、急に中止のお触れが出たアンリエッタ王女の結婚式の事であった。
 成り上がりのゲルマニア皇帝と結婚せずに済んだのはまぁ良かったが、それでも結婚式が中止になるという事例は滅多にある事ではない。
 歴史的にも王族の関わる結婚式が中止になったという事例は、この六千年の中で指を数える程度しか起こっていないのだ。
 先のアルビオンの裏切りといい、王女殿下の結婚式の中止といい、今年は何故か妙に騒がしくなっている。
「これまで自分の人生はずっと平凡だと思っていたが…」
「……はい?」
「あっ…何でもない、ただの独り言だよ。…ゴホン、君は職務に戻りたまえ」
 先の見えない不安からか、無意識のうちに口走った胸中の言葉を誤魔化すように、わざとらしい咳をした。 

 彼だけではなく、この場へ来ている貴族の大半が皆似たような不安を抱えている。
 中には貴族派に乗っ取られたアルビオンとの戦争が始まるのではないかと、そう推測する者もいた。
 確かにそうだろう。タルブ村で裏切ったアルビオンの訪問艦隊が全滅した後、アルビオン側の大使が宣戦布告の通知を王宮へ突きつけたのである。
 そしてトリステイン王国もその通知を快く受け取り、今では神聖アルビオン共和国と名を変えたあの白の国とは戦争状態にある。
 しかし、これをゲームに例えればアルビオン側はボロボロなのに対し、トリステイン側は殆ど無傷と言っても良い状態にあった。
 トリステイン側は親善訪問に出ていた主力艦隊はほぼ無傷であり、損失した艦の補充も既に準備できている。
 地上戦力は件の化け物騒ぎでそれなりの損害が出ているものの、致命的と呼ぶには程遠いくらいであった。

 対してアルビオン側は親善訪問に出ていた『レキシントン』号含めた、主力艦隊を丸ごと喪失。
 加えて輸送船に載せていた地上部隊を合わせて、計四千もの戦力がトリステイン軍の捕虜となったのだ。
 このご時世ここまで損害が出過ぎると、アルビオン側の指導者がトリステインへの裏切りを謝ったうえで指導者としての座を辞すべきであろう。
 だが宣戦布告以降アルビン側からの連絡は一切なく、まるで死んでしまった仔犬の様に黙ってしまっている。

594ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:37:02 ID:iBf32hzg
 不特定多数の者たちが、共通した悩みを抱えている空間と化した駅舎一階受付口の丁度真上にある、二階待合室。
 全三階である北部駅舎の二階は、貴族専用ではあるが馬車の発車をゆっくり休みながら待てる場所となっている。
 一階とは別の貴族専用のお土産売り場や、お茶や軽食が食べれるカッフェに小さいながらもブティックや本屋も設けられている。
 既に夏季休暇の時期に入っているので、平日や虚無の曜日などよりも多くの貴族たちが出入りしていた。
 
 その一角にある『麦畑の片隅』という、一風変わった名前でありながら洒落たレストランがあった。
 トリステインの地方にある農家をイメージをした外観に似合った、トリステイン地方料理と紅茶がウリの店である。
 王都や都市ではお目に掛かれぬような素朴で、悪い言い方をすれば田舎者が食べるような料理の数々。
 それでも味は決して悪くは無く、むしろ珍しい地方料理が食べれるという事で王都の貴族達も時折足を運ぶ程である。
 パンも街で食べられているような白パンではなく、雑穀や胡桃が入った変わり種のパンが厨房の窯で焼かれている。
 そして各地方から取り寄せた茶葉で淹れた紅茶は、国外からやってきた観光客にも一定の人気があった。

 はてさて、そんな店の隅には四つほどの個室が設けられている。
 主に貴族の家族や数人単位で観光に来た外国の貴族たちが自分たちのペースで楽しく食事を楽しめるようにと用意されているのだ。
 部屋のつくりは平均的な中流貴族が暮らすような部屋より少し上程度ではあるが、掃除はキッチリとされている。
 既に昼食の時間帯に差しかかった店内は忙しく、当然のように個室も全て満室となっていた。
 その内の一室、右端にある『風の個室』というネームプレートが扉に取り付けられた個室の中でルイズたちがいた。
 当然の様に霊夢と魔理沙の二人もいたが…意外な客も一人、彼女たちの食事に同席していた。


「にしたって、駅舎の中にこんな豪華な店があるなんてなぁ〜」
 先程店の給士が運んできてくれたチキンソテーをナイフで切り分けた魔理沙が、天井を軽く見上げながら呟いた。
 シーリングファンが回る夏の個室はやや暑いと思っていたが、そこはやはり貴族様専用の店というところか。
 店で雇っているメイジが造った氷から放たれる冷気がファンで室内に充満していて、ほんの少しではあるが涼しかった。
 氷は溶けた水滴が落ちない様に器に入れられており、今のところ氷の真下にコップを置く必要はなさそうである。
「それにしても、この前ルイズと一緒に行った店には、これよりもっとスゴイマジックアイテムがあったような…」
「あぁ、そういえばあったわね。あぁいうのが神社にもあれば、一々゙アレ゙を用意する必要が無くなるのに」
 魔理沙の言葉に、タニアマスのムニエルを食べていた霊夢が思い出したかのように相槌を打つ。
 
 二人の会話を聞いて、上座の席にいるルイズが呆れた風な表情で会話に入る。
「そんなの出来るワケないじゃないの。あのマジックアイテム、幾らすると思ってるのよ?」
「へぇ、アレってそんなに高いんだ。結構簡単に作れそうなもんだと思ってたけど…」
「アレを一つ購入しただけでも、波の貴族なら半年分の給料がフッ飛ぶレベルよ」
「成程、それならこのレストランの天井にある氷とシーリングファンの方が安く済むというワケか」
 割り込んできたルイズに不快感を抱くことなく、彼女の方へと視線を向けた霊夢が意外だという感じで呟く。
 ついで魔理沙も笑顔で会話に混ざりながら、大雑把に切り分けたチキンソテーを豪快に頬張る。
 バターと一緒に炒めたピーナッツの風味と塩コショウがうまいこと鶏のモモ肉とマッチして、口の中を小さな幸せで包んでくれる。
 ウェイトレスはこの料理を「田舎農場の平民夫人が作る、バターとピーナッツのチキンソテー」という長ったらしい名前を読み上げていた。
 その名の通り、メインにモモ肉に炒めたピーナッツに付け合せは茹でたトウモロコシだけといういかにも田舎らしい料理である。
 しかしその地味な見た目とは裏腹に味はしっかりしており、これを作ったシェフの腕の良さをこれでもかとアピールしていた。

(ふぅ〜ん…まぁ確かに、ちょっと素朴な味付けで悪く無いが。……これだけだとご飯とは合わないだろうな〜)
 嬉しい気持ち半分、この世界へ来てから一口も食べていない白飯への想いを募らせながら、
 見た目とは裏腹な美味しい料理に、舌鼓を打っていた。

595ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:39:04 ID:iBf32hzg
「それにしても、まさかアンタ達三人とこうして食事する羽目になるなんてね」
 そんな三人の食事風景を見ながら、丁度ルイズと向かい合う席に座っていた意外な客こと…モンモランシーが口を開いた。
 メインに頼んだ猪のスペアリブを半分ほど食べ終えたところで、彼女は神妙な面持ちで言う。
 一方の三人…特にルイズは何を今更と思ったのか、怪訝な表情を見せて自分と向かい合っているモンモランシーに話しかける。
「どうしたのよいきなり?」
「いや、だって…そこまで深い関わり合いが無かった貴女とそこの二人と一緒に、こうやって食事をするなんて思ってもいなかったから」
 ルイズからの質問に彼女はそう答えると、薄いレモンの輪切りが入ったソーダをクイッと一口飲んだ。
 豚肉の匂いとソースの風味で占領されていた口の中へと、弾けるような炭酸水の甘味が綺麗に洗い落していく。
 そして程よく主張するレモンの爽やかな風味が、やや鈍くなりかけていた食欲をもう一度促進させてくれる。

 一口飲んだところでコップを離し、ホッと一息ついたモンモランシーが残り半分の豚肉を食べようとした直前、
 付け合せのコーンサラダを食べ終えた霊夢が、ティーカップを持ったまま口を開いた。
「っていうか、元を正せばアンタが無理言って私達との相席を頼んできたのが原因じゃないの?」
「……それは言わないで頂戴、私だってできればやりたくなかったんだから」
 容赦ない指摘にフォークとナイフを持った手を止めたモンモランシーは、ジロリと霊夢を睨みながら言った。
 まるでカエルを睨む蛇の様なモンモランシーの目つきに対し、ジト目の霊夢も全く引く様子を見せない。
 両者互いに軽く睨み合う中、蚊帳の外であるルイズと魔理沙は亜互いの顔を見あいながら似たような事を思っていた。

「私思うのよ。霊夢の言葉って、誰にでも容赦しないからすぐ火が点いちゃうんだって…」
「それには同意しちまうな。霊夢のヤツはあぁ見えて、人付き合いが少ないから慣れてないんだよ」
 両者互いに思っていた事を口にした後も、二人のにらみ合いはそれから一分ほど続いていた。



 そもそも、どうしてルイズたちはこうしてモンモランシーと食事をする事となったのか。
 時を遡れば今から一時間前、幾つかの諸事情で王宮を離れる事となったルイズが二人を連れて故郷に帰る時に起こった。
 結婚式も中止となり、ひとまずは大丈夫という事で長かった王宮での生活が終わる事となった。
 出ていく際の荷造りの時、王宮の図書室から本を持ち出していた魔理沙のせいで、時間が大幅に遅れたものの、
 給士たちの手伝いも借りて荷造りを終えたルイズは、二人を伴って故郷のラ・ヴァリエールへと一旦帰る事となった。
 既に夏季休暇の時期に入っており、キュルケやギーシュたちも一旦は故郷へと帰る予定であった。
 彼女たちも大丈夫だという事で解放され、多少後ろ髪惹かれつつもキュルケとタバサは一足先に王宮を後にしている。
 
 ギーシュの方は荷造りを終えた後、給士から手渡された手紙を見て慌てて出て行ったのだという。
 一体どこからの手紙かと興味津々な魔理沙が聞いてみた所、トリスタニアにあるアウトドアショップからだという。
 テントやキャンプなどに使う器具や道具などの販売、レンタルを行っている店でルイズも店の名前くらいは知っていた。
 唯一残っていた…というより、慌てて出て行ったギーシュに放って行かれたモンモランシーが詳しい話をしてくれた。
「あぁ…多分アイツがレンタルしてたテントの延滞料金ね。キュルケの提案でアンタ達のいた王宮を監視してた時に使ってたから…」
 ギーシュに置いていかれたせいで多少怒り気味に話した彼女に、ルイズはあぁ…と納得した。
 一応監視の話はキュルケから聞いていたので驚きはしなかったが、テントの話までは初耳であった。

 その後、モンモランシーも故郷に帰るという事で魔法衛士隊員が学院から持ってきてくれた荷物片手に王宮を後にした。
 少しして、ルイズ達も執務を途中で抜け出してきたアンリエッタにお礼と挨拶をしてからブルドンネ街へと入っていった。

596ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:41:11 ID:iBf32hzg

 王宮と外を繋ぐ大きな門を歩いて出てから暫くして、街中に充満する茹だるような暑さに霊夢が呻き声を上げた。
「クッソ暑いわね…」
「そりゃ夏だしね。暑いのは当たり前じゃないの」
『いやー娘っ子、街中に陽炎がでる程暑いのが当たり前とか言われたらお手上げさね』
 自分の荷物が入った旅行鞄を左手に、そしてデルフを背中に担いで汗だくの顔を右手で煽る霊夢にルイズがそう返すと、デルフがすかさず突っ込みを入れた。
 トリステイン、特に王都はこの時期になると外国から来た観光客が気温の高さに驚くのはいつもの事である。
 道幅の狭さもあるが、ブルドンネ街だけでも人口の密集率が多さと合わさって街全体が熱気に包まれるのだ。
「にしたって、この前来た時はこんなに熱くなかったぜ?」
 黒い服を着てるせいか、霊夢以上に熱さで茹だっている魔理沙が帽子を仰ぎながら涼しい顔をしているルイズに苦言を漏らす。
「だって、あの時は初夏だったでしょ?あれくらいで音を上げてたら、タニアっ子にはなれないわよ」
「こんなに暑い所で暮らすなら、ならなくてもいいぜ…」
『全くだな。オレっちは別にそういうのは感じはしないが、見てるだけでも暑いって分かるよ』
 うんざりした風に言ってから、ハンカチで顔の汗を拭く魔理沙を見てルイズは内心ホッとしていた。
 てっきりこんな暑さどうってこと無いとか言うと予想していたが、思っていた以上に彼女たちは人間らしい。

(正直に言えば、まぁ確かに暑いっちゃあ暑いわよねぇ…)
 一見汗をそれ程掻いて無さそうに見える彼女であったが、着ているブラウスの内側は既に汗だく状態であった。
 何せそのまま着ている魔法学院の制服は長袖なのだ、それで暑くないとか言ってたら頭がおかしい思われるだろう。
 魔法学院指定のブラウスには一応半袖のモデルはあるし、ルイズも予備のブラウスにと一着持っている。
 しかし、王宮で匿われる際に魔法衛士隊員が持ってきてくれた鞄の中にはそれが無かったのだ。
 おそらく入れ忘れか何かなんだろうが、そのお蔭てこうして体の内側から蝕んでくる汗に苛なむ羽目になっている。 

(ラ・ヴァリエールとかなら、こんなに暑い思いはせずに済むんだけど…)
 そろそろ額から滲み出てきた汗をハンカチで拭いつつ、トリステイン最北端にある自分の故郷をふと想った。
 これから二人を連れて帰るべき場所、王都から駅舎の貴族専用長距離馬車で最低でも二日は掛かる距離にある遠き我が家。
 広い草地を通り抜けていく涼しい風を想像しながらも、ルイズは暑さでバテかけている二人を励ます。

「まぁ暑いのは王都とか都市部ぐらいなもんだし、地方に行けばちゃんと涼めるわよ」
「えぇ…?あぁ、そういえばこれからアンタんとこの家に帰るんだったっけ?確か…ラ・ヴァリエールだったわよね」
 ルイズの言葉に、王宮を出る前に彼女が言っていた事を思い出した霊夢がその名を呟く。
「ラ・ヴァリエール。…トリステインの北側の端に位置する領地で、私の父ヴァリエール公爵が治めている土地よ」
 霊夢の言葉にコクリと頷いた後、ルイズはヘトヘトな二人を伴ってブルドンネ街を歩き始める。
 ここから歩いて一時間近くも掛かるであろう、北部駅舎へ向かって。

 それから後は、色々なトラブルに見舞われ到着が遅れに遅れる事となった。
 ただでさえ気温が高いというのに、最短ルートで北部駅舎行くためには人口に比べて道幅が狭い大通りを歩くしかないのである。
 流石のルイズも歩き始めて十五分程度でバテてしまい、他の二人はそれより前に暑さでどうにかなりそうな状態にまで追い詰められた。
 止むを得ず通りを出た広場で小休止しようにも、木陰や日陰の場所は占領されてまともに涼めずじまい。
 幸い屋台や広場を囲うようにしたレストランや果物屋では冷たいジュースなどを売っていた為、街中で行き倒れる羽目にはならなかった。
 三人とも二本ずつ絞りたての冷たいジュースを飲み、広場を出た後も苦難の道のりであった。
 通行人同士の喧嘩で通りが一旦封鎖されるわ、平民が干していた洗濯物のシーツが三人の頭に覆いかぶさってくるわでトラブル続き。
 一体全体、どうして駅舎へ行くだけなのにこうも大変な目に遭わなければいけないのかと…ルイズは駅舎に辿り着いた時にふと思った。

597ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:43:04 ID:iBf32hzg
 そうこうして北部駅舎の玄関に辿り着き、一部窓口で物凄い行列を横目で一瞥しつつルイズは別の窓口で切符を購入した。
 行先は無論ラ・ヴァリエール着の長距離切符三人分。長旅で疲れない様にランクの高い馬車をその場でチャーターしたのである。
「馬は二頭で屋根付き、国産シートとシーリングファンにクールドリンク及び食事付き。それを一両貸切でお願いね」
 最初、彼女からの注文を聞いた受け付け嬢は「は?」と言いたげな表情を一瞬浮かべ、ついで彼女がヴァリエール家の人間だと理解した。
 本当ならば切符の値段も去る事ならば、高ランクの馬車を予約も無しに借りるなど…並みの貴族であってもお断りされる事間違いなしだ。
 しかし、行先であるラ・ヴァリエール領を治める貴族の家の者ならば断ることは失礼に当たる。

「は、はい。かしこまりましたミス・ヴァリエール…!ただいま業者に問い合わせますので暫しお待ちを…!」
 受付嬢の近くにいた駅舎の職員数人がルイズの注文を急いでメモして、慌てて何処かへと走っていく。
 予約も無しに高ランク馬車の貸切りは相当無茶な注文であったが、当然その分の支払いも相当な額になる。
 しかし、ルイズの要望に応えるとなるとそれ相応の負担も付くために、業者側も上げたい手を中々上げられない依頼であった。
 数分後、業者への問い合わせが終わった一人の職員がシュルピスに本社を置く馬車会社が要望通りのモノを貸し出せるとルイズに報告した。
 
「ただ…先程のメンテナンスで車軸の交換が必要と診断されたので、修理に時間が掛かるとの事です」
「そうなの?でもまぁ大丈夫よ、乗せてくれるのならいくらでも待てるから」
 まるで自分の足を踏んでしまったかのように必死に頭を下げる職員に、ルイズは軽く微笑みながら言う。
 彼女の後ろにいた霊夢達は、まだ十六歳であるルイズにヘコヘコと頭を下げる職員を見て軽く驚いている最中であった。
「なんていうか…ルイズの家って本当に凄いんだな〜…って改めて思うわ」
「そりゃあなんたって、ここの王家と相当繋がりが深いし当然だろ?」
『まぁぶっちゃければ、娘っ子ぐらい名家じゃないとあぁいう事はできそうにないしな』
 改めてルイズが公爵家の人間だという事を改めつつ、二人と一本が軽い驚きと関心を示しているのを横目で一瞥し、
 思いの外、自分の家が特別なのだと再認識していた。
 
 その後、二階のレストランで食事を摂りつつ時間を潰して欲しいと言われた。
 持ってきていた荷物は受付で預かって貰い、当然ながら安全面を考慮してデルフもお預かりされる事となってしまった。
「多分、暇を持て余したらペチャクチャ喋ると思うし、その時は鞘に納めて黙らせといて頂戴」
 このクソ暑い中、それまで喋っていたデルフと暫しの別れが出来る霊夢は遠慮も無く、鞘に収まったデルフを差出し、
 カチャカチャとひとりでに動くデルフを見て、給士は大変な仕事を任されたと感じつつそのインテリジェンスソードを預かるほかなかった。
「は、はぁ…かしこまりました」
『ひっでぇコト言うな〜…、まぁでも許す。何せお前は俺の久方ぶりの゙相棒゙だしな』
 一方のデルフは相も変わらず冷たい霊夢にそんな軽口を叩きつつ、『まぁ楽しんで来い』と心の中で軽く手を振る。
 それが通じたのかどうかは知らないが、荷物と一子に金庫へと運ばれていくデルフに巫女も小さく手を振っていた。

 そうして、身軽になったルイズたち三人は古い階段を上って二階のフロアへと入った。
 貴族専用の待合スペースでもあるそのフロアは、流石『貴族専用』と謳うだけあって、中々綺麗な造りをしている。
「土産売り場に小さな本屋…後はレストランまであるとは。こりゃあちょっとした小さな通りが、宙に浮かんでる様なもんだぜ」
「そういえばそうよね、…だからって道幅の狭さに対して人の多さまで再現しなくたっていいのに」
 店や廊下を出入りする国内外の貴族達を見ている魔理沙の一言に、霊夢が余計な一言を入れつつ頷く。
 彼女のいう事もあながち間違っておらず、お昼の掻き入れ時という事もあってか、多くの貴族たちが廊下を行き交っている。

598ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:45:03 ID:iBf32hzg
 多少なりとも二階は涼しかったが、人ごみだけは相変わらずな廊下を歩いて、席の空いているレストランを探していた。
 しかし時間が時間という事もあってかどこも満席であり、空席があっても予約済みの席と言う有様。
 一度すべてのレストランを見て回り、二階のロビーへと戻ってきたルイズたちはどうしようかと頭を抱えるほかなかった。
「どうするのよ?このままだと、食べずじまいで此処を出る羽目になるわよ」
「う〜ん…一応、馬車側の方でも軽食は出してくれると思うけど…ちょっと勿体ないような気もするし」
 こういう場所で食べれる物と言うのは、基本的に外国の貴族でも満足できるような美味しい料理だと相場が決まっている。
 ロマリア人の次に食を愛するトリステイン人のルイズにとって、この様な場所で食事を摂れないというのには不満があった。
「とりあえずもう一回巡ってみようぜ?もしかしてたら空席が出来てるかもよ」
 そんな彼女の内心を察したのかもしれない魔理沙の言葉に彼女は頷き、もう一度レストランめぐりをしてみたところ…
 見事『麦畑の片隅』という看板の店で、丁度空きができた所を彼女たちは目撃する事が出来た。

 恐らくロマリアから来た観光客の貴族たちが食事を終えた直後なのだろう。
 ルイズと然程年が離れていない様に見える貴族の少女達が各々「チャオ!」と言って入口の給士に手を振って立ち去っていく。
 今がチャンスと感じたルイズは、貴族の子達が離れたのを見計らって、頭を下げていた給士に声を掛けた。
「ちょっと良いかしら?そこのギャルソン」
「…!はい、貴族様。当店でお食事でございましょうか?」
 何かと思い頭を上げた彼は、目の前にいる少女が貴族だと知って再度頭を下げて要件を尋ねてくる。
 ひとまずは「申し訳ございませんが…」と言われなかったルイズは、後ろにいる霊夢達を見やりながら「三人、いけるかしら?」と聞き返す。
 ルイズの目線に気付き、彼女の肩越しに霊夢達を見た給士はあぁ…と納得したようにうなずく。
「丁度今、外国からいらした貴族様方が使用していた個室が空きましたので…よろしければそちらをご案内いたします」
 接客業を務める人間の鑑とも言える様な眩い笑顔を浮かべて、給士は三人を店の入口へと案内した。

 ひとまずは店へ入った彼女たちは、食器等の片づけで少し待ってほしいと言われ、
 まぁそんなに時間は掛からないだろうと、大人しく順番待ちの時に座るソファに腰を下ろしていた時…。
「ちょっと!どういう事よ!?二重予約しでかして私の席が無くなってしまうなんてッ!」
「大変申し訳ありませんお客様…!こちらの手違いでこの様な事になってしまうとは…」
 先ほど給士が笑顔で頷いてくれた店の出入り口から、ヒステリックな少女叫び声が聞こえてきたのである。
 何だ何だと既に食事を頂いている貴族たちの何人かが入口の方へと顔を向け、ルイズたちもそれにならって入口の方へと視線を向ける。
 自分たちのいる順番待ちの部屋からは先ほど叫んだ少女の姿は見えず、このレストランのオーナーであろう中年の貴族が、平民の給士と一緒に頭を下げているのが見えた。
 二人そろって年下のお客に頭を下げる姿を見つめながら、霊夢が苦虫を食んでいるかのような表情を浮かべつつ口を開く。
「何なのよ?せっかくの昼食時にあんな金切り声で叫んでるのは?」
「さぁ…?でも何となく、聞き覚えのあるような声だな」
 魔理沙が興味津々といった様子でそう呟くとおもむろに立ち上がり、入口の方へと歩き出した。
 何の迷いや躊躇も無くスタスタと軽い足取りで入口へ向かう彼女を見て、咄嗟にルイズが止めようとしたが間に合わず、
 「ちょっと…!」と言ってソファから腰を上げた時には、入口の方へと戻った魔理沙と叫び声の主がほぼ同時に声を上げた。

「ちょっ…!何でアンタがこんな所にいるのよ!?」
「おぉ、もしやと思って顔を見てみれば…やっぱりお前さんだったかモンモランシー!」
 お互い暫しの間、顔を見せる事は無かったと思っていたのだろう。
 まるでもう二度と出会わないだろうと誓った矢先に街中で鉢合わせしたかのように、二人は奇遇な再開に驚いていた。

599ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:47:08 ID:iBf32hzg
 魔理沙が声の主の名を呼んだことで他の二人も入口へと向かい、そしてあの金髪ロールが特徴の彼女もルイズたちを見て目を見開く。
「はぁ…?ちょっと待ってよ、一体どういう事があれば…こんな茶番みたいな事になるワケ?」
 ――――それを言いたいのは私の方よ、モンモランシー…。
 思わず口から出しそうになった言葉を何とか口の中に閉じ込めつつ、ルイズは大きなため息をついた。
 ルイズの後に歩いてやってきた霊夢も、ルイズと同じく魔法学院の制服を着た彼女を見てあぁ…と二回ほど小さくうなずく。
「あぁ、道理で聞き覚えがあると思ったら…随分とお早い再会を果たせたわね?」
「全くだわ…あぁもう」
 唖然とするモンモランシーを見つめながら、他人事のような言葉を吐く霊夢にルイズは頭を抱えたくなった。
 やっぱり自分は色々な厄介ごとに直面する運命を始祖ブリミルに『虚無』の力と共に授けられたのであろうか?
 現実逃避にも近いことを考えつつ、ルイズは目を丸くしているモンモランシーに次はどんな言葉を掛けたらいいか悩んでいる。
 そして、先ほどまでモンモランシーに誤っていた店長の貴族と給士は何が何だか分からず困惑していた。

 予期せぬ再会であったものの、モンモランシーの怒りはこちらに向くことは無かった。
 話を聞く限りモンモランシーが予約していた普通のテーブル席の様で、自分たちが運よく入れた個室席ではないようである。
 無論ルイズも食事を取り上げられた彼女の前でうっかりそれをバラす事はせず、穏便に立ち去ってもらいたかった。
 しかし…またもやそんなルイズの前に災難は立ちはだかったのである。霧雨魔理沙という快活に喋る災難が。
「しっかし、お前さんも災難だな?こっちは運よく個室席とやらを―――…ウグ…ッ!?」
「この馬鹿…!」
 口の中に拳を突っ込まんばかりの勢いで彼女の口を塞いだものの、時すでに遅しとは正にこの事。
 黒白を黙しらせてモンモランシーの方へと顔を向けた時、そこにば野獣の眼光゙としか言いようの無い目つきでこちらを睨む彼女がいた。
 その目つきは鋭く、獲物を見つけた肉食動物の様に体に力を入れてこちらへゆっくりと近づくさまは、紛う事なき野獣そのものである。
 流石の魔理沙や、一人離れて様子を見ていた霊夢もモンモランシーが何を考えているのか気づく。当然、ルイズも…。

「ル――――」
「何でアンタと一緒に昼食を食べる必要があるのよ?」
「まだアンタの名前を言いきってすらないじゃない!…っていうか、私が腹ペコみたいな決めつけしないで頂戴!」
「あっ…御免なさい。じゃあアレね、私達の個室席に無理矢理入りたいっていうのは私の勘違いだったのね」
「いや、ワタシはそれを頼もうとしたんだけど…」
「アンタ腹ペコどころか、物凄い厚かましいわねぇ」
 
 そんな会話の後、当然と言うか定めと言うべきか…二人の口喧嘩が『麦畑の片隅』の入口で繰り広げられた。
 ルイズは「アンタに席を分けてやる義理はないじゃないの!」と言うのに対し、モンモランシーは「アンタ達の事助けに行ってあげたじゃないの!」と返していく。
 流石にタルブでの顛末を詳しく話すことは無かったものの、当事者であったルイズも彼女があの場で治療してくれたのは知っている。
 しかし、だからといってそれ以前――少なくとも霊夢を召喚するまで彼女から受けた嘲笑や罵りが帳消しになったワケではない。
 それを指摘してやると、それを思いだしたモンモランシーは「グッ…」と一歩引いたものの…暫し考えた素振りを見せて再び口を開いた。
「わ、若気の至りってヤツよ!…あの時はアンタがあんなにスゴイって知らなかったんだもの!」
「去年と今年の春までの事を若気の至りって呼ばないわよ!」
 双方とも激しい罵り合いに、モンモランシーに頭を下げていた給士とオーナーの貴族は震えあがっていた。
 給士はともかくとして今まで人間相手に杖をふるったことの無い中年のオーナーにとって、火竜と水竜が目の前で喧嘩している様な状況に何もできないでいる。

600ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:49:17 ID:iBf32hzg
 店の内外にいた貴族たちも何だ何だと口喧嘩を聞いて駆けつけてきて、ちょっとした人だかりまでできている始末。
 下級、中級、上級。単身、カップル、家族連れ。そして老若男女に国内外様々な貴族たちがどんどん近寄ってくる。
 そんな光景を目にして、この騒動を引き起こした魔理沙は無邪気に騒いでいた。引き起こした本人にも関わらず。
「おーおー…何だか騒がしい事になってきてるじゃないか」
「アンタがバラさなきゃあ穏便に済んだ事じゃないの、全く…」
 流石にこれ以上騒いでは昼食どころではないと察したか、ようやく博麗の巫女が重い腰を上げる事となった。
 人間同士のイザコザは完全に彼女の専門外ではあったが、解決方法は知っている。

「ほら二人とも、口げんかはそこまでしときなさい」
 いよいよ口喧嘩から髪の掴み合いに発展しそうになった二人を、霊夢がそう言ってサッと引き離す。
 突然の介入は二人同時に「何するのよッ!」と丁寧にタイミングを合わせて叫んで来たので、咄嗟に耳を塞ぎながら霊夢は二人へ警告する。
「アンタ達ねぇ、そうやって喧嘩するのは良いけどそろそろやめとかないと食事どころじゃなくなるわよ?」
「はぁ?一体何を……あっ」
 彼女に指摘された初めて周囲の状況に気が付いたルイズは目を丸くして困惑し、モンモランシーも似たような反応を見せていた。 
 どうやら本当に周りが見えていなかったらしい。霊夢はため息をつきたくなったが、辛うじてそれを押しとどめる。
(まぁルイズの性格であんなに怒ったらそうなるのは分かってたし、モンモランシーも似たような性格だからね…)
 そんな事を思いながらも、ようやっと頭が冷えてきた彼女たちに霊夢は至極落ち着きながらも、まずはモンモランシーに喋りかける。

「まず聞くけど、どうしてこの店に拘るのよ?予約してた席が無くなったんなら、さっさと他の店で空いた席を探せば良いじゃない」
「え?…えっと、それは…うぅ」
 至極もっともな霊夢の言い分にモンモランシーは何か言いたげな様子であったが、悔しそうに口を噤んでいる。
 それを見てルイズは自分の味方になってくれている霊夢にエールを送り、店の者たちはホッと胸をなで下ろしていた。
 マントを羽織っていないのでルイズの従者という扱いの彼女であったが、平民であれ何であれこの騒ぎを鎮めてくれるのであれば誰でもよかった。
 一方で、店の外にいる貴族たちの何人かがモンモランシーを止める霊夢を見て「平民が貴族を諭すなどと…」という苦々しい言葉が微かに聞こえてくる。
 霊夢はそれを無視しつつも、何か言いたそうで決して口外できない風を装っているモンモランシーを見て、何か理由があるのだと察していた。
 彼女のもどかしそうな表情と「気付いてほしい…」と言いたげな目つきを見れば、誰だって同じように気づくであろう。

 一体何を抱えているのか?面倒くさそうなため息をついた霊夢はモンモランシーの傍に近づくと、すぐさま彼女が耳打ちしてきた。
 耳元から囁かれるモンモランシーの神経質な声にむず痒さを覚えつつ、彼女が大声で言えない事をヒソヒソ声で伝えていく。
「この店ってさぁ、北部駅舎の飲食店の中で比較的安い店だって知ってる…?」
「知らないわねェ?でもまぁ、ルイズなら知ってそうだけど…」
「そう…。それでね、この時間帯に出るランチセットは…一応値段的にはそれなりに働いてる平民でも気軽に頼めるお手軽価格なの」
 ま、平民はここへは入れないけど。…最後にそう付け加えて、ご丁寧に説明してくれた彼女に霊夢は「…で?」と話の続きを促す。
「それで、まぁ…アンタに話すのも恥ずかしいけれど、世の中にいる貴族にはそういう低価格で程よい豪華な食事を楽しみたい層がいるのよ」
「それがアンタってワケ?何処かで聞いたけど…アンタの家は領地持ちなんでしょう。だったら金なんていくらでも持ってるんじゃないの?」
 霊夢の指摘にモンモランシーは暫し黙った後、巫女さんの顔を気まずい表情で見つめながらしゃべり始めた。
「この際だから、アンタにも話しておこうかしらね?貴族には、二通りの存在がいる事を…」
「…?」
 突然そんな事を言い出したモンモランシーに首を傾げると、彼女は勝手に説明を始めていく。

601ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:51:03 ID:iBf32hzg
「このハルケギニアにはね、お金と仲良しな貴族と…お金に縁のない不幸な貴族がいるの。
 例えば前者を挙げるとすれば、ルイズのヴァリエール家や、キュルケの所のツェルプストー家が良い例よ?」

「…あぁ、確かに何となく分かるわね」
 唐突に始まったものの、やけに丁寧なモンモランシーの説明に霊夢は納得したように頷きつつ、引き続き話を聞いていく。

「そして、後者の例を挙げれば…私の実家のモンモランシ家や、ギーシュのグラモン家ね。
 グラモン家は代々軍人の家系で、アイツの父親はトリステイン王軍の元帥の地位にいる程の御人よ。
 だけど、過去に行われた山賊やオーク鬼退治のなんかの出征の際に見栄を張り過ぎて、金を殆ど使い果たしてると言われてる…
 あと…モンモランシ家は、えーと…干拓に大失敗して領地の半分がペンペン草も生えぬ荒野になっちゃって、経営が大変なのよ」

 自分の家の経営事情を気まずそうに説明したところで、彼女は霊夢に説明するのを止める。
 とはいえ、この説明だけでも十分にモンモランシーの財布が小さい理由が分かってしまった霊夢は、多少なりとも同情しそうになった。
「何ていうか…その、貴族って意外と大変なのね」
「やめてよ。嬉しいけどそういう同情の仕方はやめてよ」
 気休めにならないが、すっかり気分が萎れてしまった霊夢からの慰めにモンモランシーは複雑な気持ちを抱くしかなかった。


 その後、更に詳しくモンモランシーから話を聞くとどうやら彼女も帰省する為にここの馬車を利用するのだという。
 とはいえルイズの様にチャーターできるワケもないので比較的安く、尚且つ長旅となる為にせめてここで美味しいモノを…と思ったらしい。
 席自体は数日前に手紙で予約していたモノの、店側のミスで一般席は全て埋まってしまい、彼女以外の予約席もあって二時間待ちという状態。
 それに輪をかけてチケットを取っている馬車の発車時刻は一時間半後という、不幸としか言いようのない状況に陥っているのが今の彼女であった。
 モンモランシーの口からそれを直接聞いた霊夢は、大分落ち着いたものの未だご立腹なルイズに丁寧に伝えた。

「…というわけで、個室の席は四つあるから相席させて欲しいって言ってきてるけど…どうするの?」
「何よそれ?そんなら同じフロアの土産売り場で売ってるサンドイッチやジュースとか買って、食べとけば良いじゃないの」
 非の打ちどころの無いルイズの正論にしかし、モンモランシーはそれでも必死に食い下がる。
 まるで絞首台の前に立った罪人が必死に抵抗するかのように、彼女はルイズを説得しようとしていた。
「そんなの味気ないじゃない!それに…アンタだって知ってるでしょうに?ウチの領地の特産物がジャガイモぐらいしか無いの!?」
 今にも怒り泣きしそうな忙しい表情で叫んだモンモランシーの言葉に、ルイズはそういえばそうだったわねぇ…と思い出す。

 諸事情で干拓に失敗したあの領地で安定して育てられる野菜と言えば、ジャガイモぐらいしか耳にしたことがない。
 年に何回かは別の野菜が王都の市場にまで運ばれては来るが、同じく運ばれてくるジャガイモの出荷量と比べれば小鳥の涙程度。
 そのせいかモンモランシー領で暮らす人々の食事は貴族平民問わずジャガイモはメインの野菜である。というかジャガイモしかない。
 時折他の領地から運ばれてきて、高い値段が付く他の野菜を食べる事はあれど、朝昼夕の基本三食には必ずジャガイモがついてくる。
 魚はともかく、肉類などは十分に領地内での確保に成功しているが、それらがどんなに美味そうな料理になっても忌々しいジャガイモが隣にいるのだ。
 茹でたジャガイモ、マッシュポテト、ポテトサラダ、フリット(フライドポテト)…。ゲルマニア人もびっくりなくらい、モンモランシー領はジャガイモに塗れていた。
 
 だからこそ彼女は必死なのだろう、夏季休暇で芋地獄の故郷へ戻る前に王都の華やかな食事にありつきたいのだと。
 有名ではない地方から来た貴族程、王都へ足を運んだ際には食事にはある程度金を惜しまないと聞く。
 そこには、モンモランシーの様に偏った食事しかない地方に住まう自分の待遇を一時でも忘れたいが為の現実逃避でもあるのだ。

602ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:53:10 ID:iBf32hzg
 ルイズは悩んだ―――確かにモンモランシーは、あの時タルブへ嫌々来ながらも、キュルケ達と共に残ってくれていた。
 それに、王宮で自分の『虚無』を明かそうとした時、まあつっけんどんながらも口外しないという約束までしてくれたのである。
 以上の二つの事を思い出してみれば、なるほど彼女と相席になってもまぁ別に悪くは無いと思えてしまう。
 だが、そんな考えが出てきたところでハッとした表情を浮かべたルイズは、慌てて首を横に振った。
 
 先程自分が言ったように、入学当初からは暫く彼女から散々嫌味を言われていたのだ。
 それもついでに思い出してしまうと、不思議と体の奥底から゙許せない…゙という意思が湧き上がってくる。
 自分を馬鹿にしていた入学当初のモンモランシーと、自暴自棄ながらもアルビオン艦隊と戦うと決めてくれたタルブ村のモンモランシー。
 二人のモンモランシーの内どれを選んだら良いのか…?それに悩んでしまい、ついつい無言になってしまう。
 そんな彼女を見かねてか、はたまた空腹が我慢できないレベルになってきたのか…それまで黙っていた魔理沙がその口を開いた。
「別に良いんじゃないか?この際昔の事を忘れて、これからの事を考えながら食事っていいうのも?」
 今に至る騒動を生み出した張本人は、脱いでいた帽子を手で弄りながら葛藤するルイズにそう言った。
 その言葉にモンモランシーがハッとした様な表情を浮かべて魔理沙を見遣り、一方のルイズはそれでも不満気なまま彼女に反論する。

「つまりアンタは、今まで馬鹿にされてた事を水に流せって言いたいワケなの?」
「そう言ってるワケじゃあないさ、偶にそんな事言う奴もいるけど、人間自分が馬鹿にされた事は中々忘れられないもんさ」 
 自分が過去に、どれだけ『ゼロ』と揶揄されてきたのか知らないくせに。そう言おうとしたルイズに対し、
 普通の魔法使いは彼女の内心を読み取ったかのような言葉を、彼女に投げかけた。
 そんな事を言われてしまうと口の中から出ていきそうになった言葉を、出そうにも出す事が出来なくなったルイズ。
 魔理沙はルイズが静かになったのを確認した後、手に持っていた帽子をかぶり直して一人喋り出す。

「でも、お互いそうやっていがみ合ったままじゃあ色々と疲れちまうもんだぜ?
 ワタシだって霊夢の事は今でもライバル視してるけど、いつもは仲良く接してるのをお前は見てるだろ?
 それと同じさ。いざとなったらアンタの頬を抓ってやる覚悟だが、
 今はその時じゃあないからお互い仲良くいきましょう…って感じだよ
 お互い鉢合わせたら即喧嘩なんて…モンモランシーもお前も、疲れててしまうじゃないか」

 魔理沙の言葉にルイズは「そもそも喧嘩を起こした張本人のアンタが言う事…?」という疑問を抱いていたが、
 小さな頭で少しだけ考えてみると、確かに彼女の言う通りなのかもしれないという確信もゆっくりゆっくりと浮上してくる。
「ちょっと魔理沙、何で私がアンタといっつも仲良しみたいな事言ってるのよ?」
「なーに言ってんだよ霊夢。私が遊びに来た時には良くお茶と茶菓子を分けてくれるじゃあないか」
 何やら言い争いをしている霊夢達を余所に、ルイズは再びどうするか悩んでいた。
 多生揉めてでも店から追い出すか、それとも一時の間だけ昔の事を忘れて彼女と同席するか…。
 二つの内一つしか選べぬ選択肢を目の前に出された彼女は、あともう数分だけ時間が欲しいと言いたかった。
 しかし、これ以上は店側も待てないのか「お客様…」と蚊帳の外にいたオーナーがおずおずとルイズに声を掛けてくる。
 自分を含めて霊夢や魔理沙たちも腹を空かせてているだろうし、何よりチャーターしている馬車の事もある。
  
 もうこれ以上の猶予は無い。そう悟ったルイズは…以前デルフが言ってくれたあの言葉を思い出した。
 ――――ちっとは大目に見てやろうぜ。そうでなきゃいつまでも溝は埋まらねぇぞ?
 以前霊夢と喧嘩になった際、いつもはからかう側のインテリジェンスソードが自分に語りかけてくれたあの言葉。
 それが脳裏を過った後、待合室の天井を仰ぎ見たルイズは軽い深呼吸をした後にモンモランシーの方へと顔を向ける。

603ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:55:10 ID:iBf32hzg
 モンモランシー…入学当初は自分を『ゼロ』と呼んで自分を馬鹿にしていた彼女であったが、今ならそんな事さえしないだろう。
 何故なら彼女は目撃したのだから。二度と指を差して笑えぬ、自分の中に隠されていたあの怖ろしい『力』を。
(…確かにコイツには色々と嘲笑われたけど、あの時はまだ何も゙知らなかっだものね…キュルケや、私さえも…)
 そう思うと、不思議と彼女のしてきた事がほんのわずかだが゙些細な事゙だったのだと思えるようになってくる。
 
「……ルイズ?――――…っ!」
 こちらのをジッと見つめたまま黙っているルイズに、モンモランシーは声を掛ける。
 その声で止まっていた自分の体が動き出したかのように、ルイズは右手の中指と人差し指でピースを作り、モンモランシーの眼前へと出した。
 突然のことに少し驚きを隠せなかったものの、そんな事お構いなしにルイズは彼女に話しかけた。

「モンモランシー、二よ?三分の二で手を打つわ」
「三分の…二?アンタ、急に何を言ってるのよ…?」
 イマイチ彼女の真意を把握できぬ事に、モンモランシーは首を傾げてしまう。
 自分でも何を言っているのかと呆れたくなる気持ちを抑えて、ルイズはもう一度口を開いた。

「割り勘よ。アンタが予約してた席代をそのまま、私達の個室料金にぶち込みなさい。
 アンタには一年生の頃から色々とされたけど、今回は…今回だけはそれを別の所に置いといて上げるわ…
 ――――後、絶対に勘違いしないでよね?アンタと今から仲直りしようってワケじゃない。お店の事を考えてそれで丸く収めるって事よ」

 忘れないで頂戴。右手の指二本を震わせながら、ルイズは最後にそう付け加える。
 それはルイズなりに決断した、モンモランシーへの譲歩であった。


 ――――時間は戻り、食事を終えて支払いも済ませた彼女たちはモンモランシーを先頭に歩いていた。
 食欲を満たし、イライラも落ち着いた彼女は満足げな笑みを浮かべ、自慢のロールを揺らしながら駅舎一階のロビーを進んでいく。
 個室の席代はやや高くついたものの予算の範囲内であったし、何より楽しみにしていたランチセットよりも上の料理を食べる事が出来たのである。
 不幸中の幸い、という言葉こういう時の為にあるのだろう。幸せな満腹感に満たされながら、モンモランシーはそんな事を思っていた。
「…ふぅ〜…全く、店側の手違いで昼食が食べ損ねるかと思ってたら…まさかこうもアンタ達と偶然再会するとは思ってなかったわ」
「偶然は偶然だけど、望まぬ偶然よ。全く…」
 そんな彼女の後をついて行くように、浮かぬ顔で歩くルイズは思わず苦言を漏らしてしまう。
 本当ならば、霊夢と魔理沙の三人で軽くこれからの事を話し合いながら食事をするつもりだったというのに…
 偶然にもあの店で予約を取っていて、手違いで無かった事にされたモンモランシーと出会ったせいで色々と予定が狂ってしまった。
 一応出てきた食事には満足したものの、自分よりも幸せそうな彼女を見ていると今更ながら苛立ちというモノが募ってきてしまう。
 好事魔多し…という言葉を何かの本で目にしたことがあるが、正に今の様な状況にピッタリな言葉には違いないだろう。

(まぁ予想はついてたけど…思ったよりちょっとは溝が深いようね)
 一時は和解できたと思っていたモノの、少し浮かれているモンモランシーの背中をジッと睨んでいるルイズの後姿。
 それをジト目で見つめながら後に続いていた霊夢が心中でそんな事を呟いていると、先程返却してもらったデルフが話しかけてきた。

604ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:57:06 ID:iBf32hzg
『にしたって奇遇なモンだねぇ?あん時の金髪ロールの嬢ちゃんとこうやって再会するとはねェ』
「まぁお互いそそれを嬉しいとは思ってい無さそうだけどね?」
 先ほどまで駅舎で預けられていて、魔理沙からいきさつを聞いたテン入りジェンスソードに霊夢は相槌を打つ。
 てっきり預けられていた不満が出てくるのかと思いきや、きっと荷物を預かってくれた職員が話し相手にでもなってくれたのだろう。
 預ける前よりかは少しだけ良くなった機嫌を剣の体で表しているのか、時折独りでにカチャカチャと動いている。

(まぁそれ程気になるワケではないけど、鬱陶しくなったら鞘越しに刀身を殴って黙らせりゃあ良いか)
 デルフにとってあまり穏やかではない事を考えながら、ルイズとモンモランシーの後をついていく。
 ふと自分の後ろを歩く魔理沙を見てみると、しきりに視線を動かして駅舎一階の中や造りを興味深そうに観察している。
 霊夢は然程気にはしないものの、こういういかにも洋風な造りの建物など幻想郷では指で数えるほどしかない。
 一番大きい洋風の建物と言えば紅魔館ぐらいなものだし、人里でもこういう感じの建物は本当に少ないのだ。
 だから、まだまだ好奇心が旺盛な年頃の彼女が夢中になる気持ちは分かる。分かるのだが…
 天井やら人列が並ぶ受付口に目がいってしまう余り、そのまま別の所へ行ってしまうのは…流石に声を掛けるべきなのだろう。
「ちょっと魔理沙、アンタどこ行くつもりよー」
「…え?おぉ…っと、危ない危ない!」
 霊夢の呼びかけで、ようやってルイズ達から離れかけた彼女は慌てて彼女の方へと駆けてくる。
 ルイズもそれに気づいたのか、はぐれかけた黒白に「何やってるのよ?」と軽く呆れていた。


 それから少しだけある気、ルイズたちはロビーを出た先にある三番ステーションへと足を運んでいた。
 全部三つあるステーション――つまり駅馬車の乗り降りをする場所の中で、唯一国外へと出ない馬車の発車場である。
 その分割安ではあるが、いかにもグレードの低そうな駅馬車ばかりが集められていた。
 無論ルイズがチャーターした馬車があるのは、国内外の行き来可能で一流業者が集められている一番ステーションだ。
 なら何故ここを訪れたのかと言うと、これから領地へ帰るモンモランシーがここの馬車に乗るからであった。 
「チケットを予約していたモンモランシーよ。馬車の準備は出来ているかしら?」
 ステーション内に設けられた別の受付を担当している職員に、モンモランシーはそう言ってチケットを見せる。
 まだここで働き始めたであろう青年職員は、チケットに書かれた氏名、番号、有効期限を確認するとモンモランシーにチケットを返す。
「確認が終わりました。ミス・モンモランシーの予約している駅馬車は二番プラットホームの馬車です」
「うん、有難うね」
 良い旅を、チケットをしまって受付を後にした彼女の背中に担当職員は声を掛けた。
 彼女がその声に軽く右手を振った後、ルイズたちも多くの人が行き交う三番ステーションの通路を歩き始める。
 ステーションの左側は外へ直結しており、真夏の太陽の光と照りつけられている地面がその目に映っている。
 外と繋がっているせいか夏の熱気も流れ込んできて、駅舎の中であるというのに再び肌からじわりじわり汗が滲む程に暑かった。
 ハルケギニアの夏に未だ慣れていない霊夢と魔理沙の二人は、この建物の中では感じることは無いと思っていた熱気に怯んでいるものの、
 ステーション内で客の荷物を詰め込む馬車の御者や書類片手に走る職員に、客の貴族や平民たちは平気な様子で行き来している。
「あーくそ…、折角涼しい場所で食事できたと思ったら、まさか外の熱気がここまで来るとは…」
「いっその事メイジの魔法なりでここに冷たい風でも吹かせてくれればいいのにね」
 幸せな気分から一転、またもや汗だくとなっていく二人の愚痴を後ろから聞きながら、
 ルイズと自分が乗る馬車の方へと歩いていくモンモランシーの二人も、少しワケありな会話をし始めていた。

605ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 21:59:09 ID:iBf32hzg
「それにしても、アンタはともかく…ワタシまでこんな数奇な出来事に見舞われるなんてね」
「は?何よイキナリ…」
 突然そんな事を呟いたモンモランシーに、ルイズは怪訝な表情を浮かべる。
 まさかちょっと過去の事に目をつぶって、昼食を共にしただけで自分と仲良くしたいと思っているのか?
 本人の耳に聞こえたら間違いなく決闘騒ぎになるような事を思っていたルイズであったが、それを口に出す事は無かった。

「だってそうじゃない?アンタが使い魔召喚の儀式で異世界出身の巫女さんを呼んじゃうし、アルビオン王国が倒れて…
 お次は魔法学院で色々と騒ぎがあった末に夏季休暇の前倒し…かと思えば、キュルケ達と一緒にアンタ達の素性を調べたり、
 そんでテントの中で籠ってたかと思えば、シルフィードの背に乗ってレコン・キスタの艦隊が上空に浮かぶタルブ村まで連れてかれて…
 んでなし崩し的に私までアンタ達と一緒にその艦隊と戦う羽目に成ったり…と思いきや、アンタのあの゙光゙で艦隊が全滅…してからの王宮での監視生活」

 …これが数奇な出来事じゃなくて何になるの?最後にそう付け加えて喋り終えた彼女は、何となく肩をすくめる。
 まぁ確かに彼女の言っている事に間違いはないだろう。ルイズはひの顔に苦笑いを浮かべつつ軽くうなずいて見せた。
 それでも、自分や霊夢達が直に体験してきた事と比べれば幾分か優しいというのは、言わない方が良いのだろうか?
 頭の中でそんな二者択一の考えを巡らせている中、喋り終えたばかりのモンモランシーがまたもやその口を開いた。
「あぁでも…私にとってその中でも一番衝撃な事といえば……数日前に聞かされだアレ゙よね?」
「……!あぁ、あの事ね」
 彼女が口にした『数日前』という単語で、ルイズもまだアレ゙を思い出す。
 それはトリステイン人であり、この国の貴族でもある二人にとって最も衝撃であり、何よりもの朗報であった。

 先王の遺した一人娘であり、他国からもトリステインに相応しき一輪の百合とも称される美しき王女。
 そしてヴァリエール家のルイズとは幼馴染みであり、トリステインの女性たちにとっての憧れでもある、アンリエッタ・ド・トリステイン。
 以前は王女として北部の隣国帝政ゲルマニアへの皇帝へと嫁ぐはずだった彼女は、近いうちに女王として戴冠式を挙げる予定である。
 つまり、永らく座る者のいなかった玉座へと腰を下ろすために、アンリエッタは王冠を被りこの国を背負う女王陛下となるのだ。
 ゲルマニア皇帝との結婚式が中止になったのもこれが原因であり、トリステインが彼女を留まらせる為の救済策。
 そして、これからレコン・キスタもとい…神聖アルビオン共和国との戦争の為に、国内の結束力を高める為に必要な儀式でもあった
 惜しくも王家の嫁を迎え入れられなかったゲルマニアだったが、代わりにトリステインはゲルマニアとの軍事同盟を結んでいる。
 
 その為ゲルマニアはトリステイン王国に武器、兵器等を正規の手続きをもって売れるようになり、
 トリステイン軍も王軍、国軍を再編して同盟国と同様の陸軍を創設する為のノウハウを教える為の人材をゲルマニアに要求できるようになった。
 伝統を保守し、尊重するトリステインではあるものの軍部は先のラ・ロシェールでの戦闘で意識を改めており、
 新式とは言えないが比較的新しいゲルマニア軍の兵器を買えるうえに、陸軍創設の際にもゲルマニアと言う大先輩が教えてくれる。
 トリステインは新しい女王が就任し、ゲルマニアは軍事的にもトリステインを指示できる立場となり、互いに面子を守れるという結果に終わった。

 …とはいえ、王宮内部では既に戴冠式の予定日まで決まっているが、未だ民衆や王宮で働いていない貴族達には知らされていない。 
 ルイズたちが聞いた話では夏季休暇の終わる数週間前に戴冠式が発表され、丁度長い夏休みが終わると同時に式が行われるという。
 その為街中では結婚式が中止になった事でそれを不安に思う者たちが大勢いたが、そこまではルイズたちの知る所ではなかった。

「まさか、あの姫さまがいよいよ女王陛下にならなれるなんて…段々遠くなっていくわね…」
 流石のルイズも声を抑えつつ、自分の幼馴染が色んな意味で高い場所にいるべき人となっていく事に切ない感情を抱いていた。
 マザリーニ枢機卿からその事を聞かされた時は嬉しかったものの、時間が経ってしまうと妙なもの悲しさが心の中に生まれてくる。

606ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:01:07 ID:iBf32hzg
 先王亡き以降マリアンヌ王妃は戴冠を拒み、アンリエッタはまだ幼すぎるとして、戴冠の事はこれまでずっと保留にされてきた。
 その為トリステイン王国は、今まで玉座に座るべき王が不在という状態の中で大臣や将軍たちが一生懸命国を動かしていた。
 特にロマリアからやっきてた枢機卿の働きぶりは凄まじく、彼無くして今日までトリステイン王国は生き残る事が出来た。
 だから冠を被るのに充分な年齢に達したアンリエッタが王となるのは喜ぶべきことであり、落ち込む理由は何一つ無いはずなのである。

「ちょっと、なーに暗い顔してるのよ?」
 そんなルイズを慰めるように、刺すような視線を向ける霊夢がポンポンとルイズの背中を軽く叩いてきた。
 突然のことに目を丸くした彼女は思わずその口から「ヒャッ…!」と素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。
 一体何をするのかと後ろにいる巫女さんをを睨んだが、彼女はそれを気にせず言葉を続けていく。
「アンタとアンリエッタが幼馴染なのは知ってるし、まぁ遠い人間になるのは分かるけど…アンタだってアイツからあの書類を貰ったじゃないの?」
 その言葉に、ルイズは受付で預かってもらっている旅行鞄の中に入れた『あの書類』の事を思い出した。

 そう遠くないうちに女王となる幼馴染から頂いた、一枚の許可証。
 書面にアンリエッタ直筆の証とも言える花押がついた、女王陛下直属の女官であるという証を。


 それは数日前の事、キュルケやモンモランシー達と共にアンリエッタと『虚無』の事について話していた時であった。
 一通り喋り終えた後、魔理沙の口から出た何気ない一言のお蔭で彼女はルイズたちに話をす事が出来たのである。
「残念な事に…敵は王宮の中にもいるのです。―――――獅子身中の虫という、厄介な敵が」
 女王になる前だというのに、既に悩みの種が出来つつある彼女は残念そうに言ってから、その゙獅子身中の虫゙について説明してくれた。
 古き王政を打倒し、有力な貴族による国家運営を目指しているレコン・キスタの魔の手はアルビオン王国が倒れる前から世界中に伸びていたのである。
 ゲルマニアやガリア王国、果てにはロマリアの一部貴族達は貴族派の内通者として暗躍し、国が表沙汰にしたくない情報を横流ししていたのだという。
 トリステインもまた例外ではなく、既に一部貴族が貴族派に加担している者が出ており、挙句の果てにスパイまで逮捕している。
 各国と自国の状況から考えて、不特定多数もしくは少数の貴族たちが貴族派の者と接触しており…最悪彼らの企てに協力している可能性があるというのだ。

「そんな事になってたのですか…?ワルド元子爵の様な裏切り者が他に…」
「まだ断定できるほどの状況証拠があるワケではないのだけれど…決していないとも言いきれないのが今の状況よ」
 その話を聞いたルイズはふとアルビオンで裏切ったワルドの事を思い出し、アンリエッタも悲しそうな表情を浮かべて頷く。
 彼女にとってワルドは恋人の仇であり、ルイズは自分の一途な想いを裏切った挙句、タルブで霊夢の命を奪おうとまでした男だ。
 実力差はあるものの、あの男と似たような思考で裏切ろうとしている者たちがいるという可能性に、ルイズは自然と自分の右手を握りしめる。
「…だからルイズ。貴女はこれから自分の覚醒した力を公にせず、ここにいる者たちだけの秘密として心の中にしまっておいてください」
「!―――殿下…」
 アンリエッタの言葉にルイズが反応するよりも先に驚いたのは、マザリーニ枢機卿であった。
 彼はルイズの今後について知らなかったのか、アンリエッタの口から出たルイズへの指示に目を丸くしている。
 枢機卿に続くようにして、ルイズも「しかし、姫さま…!」と信じられないと言いたげな表情で幼馴染に詰め寄った。
「私は…自分の力となった『虚無』を、姫さまの為に役立てたいと思っています…それなのに…」
「分かってるわルイズ、貴女の気持ちは良く分かる。けれども…いいのです。恐らくその力は、貴女の身に災いを持ってくるやも知れませぬ」
「構いません。既にこの身は『虚無』が覚醒する前から幾つもの災難を体験しています…今更災いの一つや二つ…」
 拒否の意を示す為に突き出したアンリエッタの右手を、ルイズは優しく払いのけながら尚も詰めかける。
 咄嗟にアンリエッタは枢機卿へと目配せするものの、老齢の大臣は静かに自分の目を逸らしてみて見ぬふりを決め込んでいた。

607ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:03:02 ID:iBf32hzg
「枢機卿!」
「姫殿下、誠に失礼かと思いますが…今は一人でも多く信頼できる人材が必要だと…私は申し上げましたぞ」
 これ以上心許せる友を巻き込みたくないアンリエッタと、今はその気持ちを押し殺して仲間として加えるべきと進言するマザリーニ。
 友の為に国益を損する事に目を瞑るのか、それとも国益のために友の身を危険な場所へと赴かせるのか。
 どちらか一つを選ぶことによって、ルイズの今後は大きく変わる事になるかもしれない。

「いやはや、ルイズの奴も苦労してるんだな〜」
「そうね。幾つもの災難に見舞われてきただなんて…まぁ私に身に覚えがないけれど」
「多分ルイズの言う『災難』の内半分は、絶対にアンタ達が原因だと思うわよ?」
 緊張感漂う部屋の中で、二人仲良くとぼけている霊夢達にモンモランシーはさりげなく突っ込んでいた。


 その後は色々あり、役に立てぬというのなら杖を返上するというルイズの発言にアンリエッタが根負けする事となってしまった。
 『虚無』が覚醒する以前は、魔法が使えぬ故に『ゼロ』という二つ名を持っていた彼女が、自分の為に働きたいとという気持ちが伝わったのだろうか。
 アンリエッタは安堵している枢機卿に丈夫な羊用紙を一枚用意するよう命令した後、自分の前で跪いているルイズの左肩をそっと触る。
「ルイズ、貴女は本当に…私の力となってくれるのね」
「当然ですわ、姫さま。これまで姫さまに与えて貰って御恩の分、きっちりと働いて見せます」
 顔を上げたルイズの、決意と覚悟に満ちた表情を見て、多少の不安が残っていたアンリエッタも力強くうなずいて見せた。

「……分かりました。ならば、『始祖の祈祷書』と『水のルビー』は貴女にもう暫く預かってもらいます。
 しかしルイズ。貴女が『虚無』の担い手であるという事はみだりに口外しては駄目よ。それだけは約束してちょうだい
 それと、何があったとしても…タルブの時に見せた様な魔法とは言えぬ超常的な力も、使用する事は極力控えるようにして」

 アンリエッタからの約束に、ルイズは暫しの沈黙の後…「分かりました」と頷いた。
 その頷きにホッと安堵のため息をついたと同時に、マザリーニが持ってきた羊皮紙を貰い、次いで机に置いていた羽ペンを手に取る。
「これから先、貴女の身分は私直属の女官という事に致します」
 羊皮紙にスラスラと何かしたため、最後に花押を羊皮紙の右端につけてから、ルイズの方へと差出した。
「これをお持ちなさい。ルイズ・フランソワーズ」
 自分の目の前にあるそれを手に取ったルイズは、素早く書面に書かれた文章を読んでいく。
 後ろにいた霊夢と魔理沙も肩越しにその書類を一目見たが、残念な事にどのような内容なのかは分からなかった。
 しかしルイズにはしっかりと書かれていた内容を読むことができ、次いで軽く驚いた様子で「これは…!」と顔を上げる。

「私が発行する正式な許可証です。これがあれば王宮を含む、国内外のあらゆる場所への通行が可能となるでしょう」
 それを聞いて霊夢達の後ろにいたギーシュやモンモランシーは目を丸くしてルイズの背中を凝視する。
 アンリエッタ王女が正式に発行した通行許可証。それも王宮を含めた場所の自由な出入りができる程の権限など並みの貴族には滅多に与えられない。
 例えヴァリエール家であってもセキュリティーの都合上、王宮への訪問には事前の連絡が必要なのである。
 その過程丸ごとすっ飛ばせる程の権限を、あの『ゼロ』と呼ばれていたルイズのモノとなったことに、二人は驚いていたのである。 
 一方のキュルケは、トリステイン貴族でなくとも喉から手が出るくらい欲するような許可証を手にしたルイズを見て、ただ微笑んでいた。
 実家も寮の部屋も隣であった好敵手が、自分の目の前でメキメキと成長していく姿を見て面白いと感じているのであろうか?
 タバサは相変わらずの無言であったが、その目はジッとルイズの後姿を見つめていた。

608ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:05:07 ID:iBf32hzg
 そんな四人の反応を余所に、アンリエッタは説明を続けていく。
「…それと警察権を含む公的機関の使用も可能です。自由が無ければ、仕事もしにくいでしょうから」
 既に許可証を受け取っていたルイズは恭しく一礼した後、スッと後ろへ下がっ。
 一方で、アンリエッタの話を聞いて大体の事が分かった魔理沙はまるで自分の事の様に嬉しそうな表情を浮かべてルイズに話しかける。
「おぉ、何だかあっという間にルイズと私達は偉くなってしまったじゃないか?」
「凄いわねぇ…私はともかく、魔理沙には渡さない様にしておきなさいよ」
 次いで霊夢も興味深そうな表情と「私はともかく…」という言葉に、ルイズはすかさず反応した。
「正確に言えばこの許可証が効くのは私だけであって、アンタ達が持ってても意味ないわよ?」
 この二人の手で悪用される前に最低限の釘を刺し終えた彼女は、最後にもう一度確認するかのように許可証に目を通す。
 アンリエッタのお墨付きであるこの書類が手元にある以上、自分はアンリエッタと国の次に位置する権力を手に入れたのである。
 ルイズとしては、ただ純粋に苦労しているアンリエッタの為に何かお手伝いができればと思っていたのだが…。
(流石にこんなものまで貰えるだなんて、思ってもみなかったわ…)
 そんなルイズの気持ちを読むことができないアンリエッタは、最後にもう一度話しかけた。
 
「ルイズ…それにレイムさんとマリサさん。貴方達にしか頼めない案件が出てきたら、必ずや相談いたします。
 表向きはこれまで通りの生活をして、何か国内外の行き来の際に困ったことがあればそれを提示してください
 私の名が直筆されたこの許可証ならば例え外国の軍隊に絡まれたとしても、貴女たちへの手出しは出来なくなるはずです」




 そして時間は戻り、モンモランシーがこれから乗る馬車が駐車されている二番プラットフォーム。
 四頭立ての大きな馬車はもうすぐここを出るのか、平民や下級貴族と見られる人々が続々と馬車の中へと入っていく。
 馬車の後部にある荷物入れには、御者と駅舎の荷物運搬員が積み込んだ旅行鞄などの大きな荷物がこれでもかと詰め込まれている。
 鞄の持ち手などにしっかりと付けられたネームタグがあるので、誰がどの荷物なのかと混乱する手間は省けられそうだ。

 そんな馬車を前にして、モンモランシーは昼食を共にしてここまで見送りに来てくれたルイズ達三人と向き合っていた。
 ルイズはこれまで彼女に嘲られていた事を思い出してか渋い表情を浮かべており、どう解釈しても好意的な表情には見えない。
「まぁ今日は…色々と世話になっちゃったわね。…ともかく、夏季休暇が明けたらこの借りはすぐに返すことにするわ」
「本当ならアンタに今まで笑われた分の借りも請求したいところだけど、正直ここで数えてたらキリがないからやめておくわ」
「…!そ、そう…助かるわね」
 まだ気を許していないルイズの刺々しい言葉にムッとしつつも、今度はレストランで仲介役をしてくれた霊夢に視線を向ける。
 ルイズの使い魔であり、こことは違う異世界から来たという彼女の視線はどこか別の方へと向いている。
 何か彼女の興味を引くものがあったのか、はたまた単に興味が無いだけなのか…そこまでは流石に分からなかった。
 これは普通に声を掛けた方が良いのか、それとも無視した方が良いのだろうか?モンモランシーはここへ来て、些細な葛藤を覚えてしまう。
「………え、え〜と…あの―――」
「あぁ、ゴメンゴメン…てっきり私の事は無視するかと思ってたからつい…で、何よ?」
「…挨拶するつもりだと思ってたけど、気が変わったから良いわ。御免なさい」
「別に謝る必要なんて無いんじゃないの?」
「それアンタが言うの?普通は逆じゃない?…はぁ、もういいわよ!」
 と、まぁ…然程自分の事を気にしていなかった霊夢に詰め寄りたい気持ちを何とか堪えたモンモランシーは、
 最後に三人いる知り合いの中で、唯一笑顔を向けてくれている魔理沙へと顔を向けた。

609ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:07:05 ID:iBf32hzg
 まぁどうせ碌なでも無い事を考えてるに違いない。そう思いながらも口を開こうとするよりも先に、魔理沙が話しかけてきた。
 それは、先にルイズと霊夢に話しかけていたモンモランシーにとって、少しだけ意外な言葉を口にしてきたのである。
「いやぁー悪いな。折角タルブの時には助けに来てくれたっていうのに、コイツラが色々と不躾で…」
「え…?」
 右手の人差し指で前にいるルイズたちを指さしながら言った魔理沙に、モンモランシーは思わず変な声が出てしまう。
 てっきり先の二人に負けず劣らずの失礼な言葉を投げかけられると思っていただけに。
「ちょっとマリサ、アンタ自分の事を棚に上げて私を不躾な人間扱いするとはどういう了見よ?」
 腰に手を当てて怒るルイズに同意するかのように、霊夢も「全くだわ」と相槌を打つ。
 しかしモンモランシーからして見れば、この場で最も不躾なのは今の二人に違いは無いと思っていた。

 一方の魔理沙も二人がご立腹という事を気にすることなくカラカラと笑った。
「ハハッ!まぁこんな風に自分の事を省みない二人だが、ここは私の笑顔に免じて穏便にしておいてくれないかな?」
「ん…ま、まぁ別にそれ程…一応は昼食の際に同席を許してくれたし、最初から起こるつもりなんて無かったわよ」
 ルイズ達とは違う無邪気な子供が見せるような笑みと、利発的な魔理沙の声と言葉に自然とモンモランシーは気を許してしまう。
 昼食を摂ったばかりで気が緩んでしまっているという事もあるのだろう、今の彼女には黒白の魔法使いが『自分に優しい人間』に見えていた。
 仕方ないと言いたげな表情でひとまず熱くなっていた怒りの心を冷ましてくれたモンモランシーに、魔理沙は「悪いな」と礼を述べてから、再度彼女へ話しかける。

「まぁ…お前さんには夏季休暇が終わった後にでも、ちょいと頼みたい事があるしな」
「頼みたい事ですって?」
 突然彼女の口から出た言葉にモンモランシーは怪訝な表情を浮かべる。
 気分を害してしまったと思った魔理沙は少し慌てた風に「いやいや、そう難しいことじゃないさ」とすかさず補足を入れる。
「ちょっと前にアンタが『香水』って二つ名で呼ばれるくらい香水やポーション作りに精通してるってのを聞いてさ、それで興味が湧いてね」
「ふ〜ん、そうなの?…で、その私に頼みごとって何なのよ」
 少し警戒しつつも、そう聞いてきたモンモランシーに魔理沙は元気な笑顔を浮かべながら、゙頼みごどを彼女へと告げた。
 その直後であった。モンモランシーの乗る馬車の御者が、出発を告げるハンドベルを盛大に鳴らし始めたのは。

 モンモランシーを含めた貴族、平民合わせて計八名を乗せた中型馬車がゆっくりと駅舎から遠ざかっていく。
 魔理沙は頭にかぶっていた帽子を手で振りながら、どんどんと小さくなる馬車へ別れを告げていた。
 正確に言えば、彼女にとって大事な゙約束゙を漕ぎ着ける事の出来たモンモランシーへと。
「じゃあまたな〜!ちゃんと約束の方、忘れないで覚えておいてくれよぉ!」
 満面の笑みを浮かべて帽子を振り回す魔法使いの背を見ながら、ルイズはポツリと呟いた。


「レイム、私思うのよね」
「何よ?」
「多分私達三人の中で、今一番『悪魔』なのはマリサなんじゃないかなって」
 ルイズの言葉に霊夢は暫しの沈黙を置いてから、「そりゃあそうよ」とあっさりと肯定の意を示した。
 馬車が出る直前、御者が鳴らすハンドベルの音と共にモンモランシーは魔理沙とそんな約束をしたのである。

610ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:09:03 ID:iBf32hzg
「この夏季休暇が終わったらさ、アンタがポーションや香水を作ってる所とか見せてくれないか。
 それに、ここの世界のそういう関連の本も詳しく知りたいしな。美味しいお菓子も私が用意するし、どうかな?」

 気分を良くしていたモンモランシーには、魔理沙との約束を断る理由など無かった。
 彼女は知らなかったのだろう。霧雨魔理沙と言う人間が、借りると称してどれだけの本を持って行っているのを。
 霊夢はともかく、ルイズもまた学院の図書室や王宮の書庫からごっそり本を持って来た彼女の姿を何度も目撃している。
 そして、彼女の次のターゲットとなるのは…三年生や教師等を含めても魔法学院の中で最もポーションに詳しいであろうモンモランシーなのだ。

 人の皮を被った悪魔の様な魔法使いの背中を二人の話を聞いて、それまで黙っていたデルフが哀れむような声で呟いた。
『あらら、あのロールの嬢ちゃん可哀想に。一体どんなことをされるのやら…』
「人聞きの悪いこと言うなよデルフ。私はアイツに何もしないさ、本を借りたいという事を除いて…だけどな?」
 デルフの声で魔理沙は帽子をかぶり直し、振り返りながらそう言った。
 その笑みは先ほどモンモランシーに見せたものと変わらない、実に純粋な笑顔であった。
 

 それから十分も経つ頃には、今度はルイズたちがここを出ていくべき立場となっていた。
 もう馬車の修理も済んでいるだろうという事で、ルイズは他の二人を連れて一番ステーションを目指している。
「チケットとかは無くてもいいのか?モンモランシーののヤツは用意してたけど…」
「私達の場合ヴァリエール領までチャーターしてるから、そういうのは駅舎の人たちが用意するから大丈夫よ」
 魔理沙からの質問に手早く答えつつ、ルイズは持つべき荷物が無い身軽な足取りでドンドン前を進んでいく。
 預かってもらっている荷物ならば既に馬車へ運ばれているだろうし、無かったら無かったで持って来させればいいだろう。
 そんな事を考えながら足を動かしていると、ふと一番後ろにいた霊夢が声を掛けてきた。
「…それにしても、アンタんとこの実家に帰ってきてるのかしらねぇ?」

 霊夢の言葉にルイズは顔を後ろにいる彼女へ向けつつ、足を動かしたまま口を開く。
「まだ分からないわ。…けれど、ここ近辺にいないとすれば…ラ・ヴァリエールに帰ってる可能性は否めないわね」
『?…一体何言ってるんだお前ら、オレっちは単なる帰郷だけとしかマリサから聞いてないが…』
「あぁ、ごめんごめん。そういやぁお前には詳しく話してなかったっけか」
 そこへすかさず割り込んできたデルフに魔理沙がそう言うと、お喋り剣は「ひでぇ」とだけ呟いて刀身を震わせた。
「そう簡単に震えないでよ。ちゃんとアンタにも分かるよう説明してあげるから」
 自分の背中でブルブルと微振動するデルフを軽く小突きつつ、ルイズが故郷へと帰るもう一つの理由を彼に話し始める。
 
 ルイズが霊夢達を連れて故郷ラ・ヴァリエールへと変える理由。それは彼女の一つ上の姉、カトレアを探す為でもあった。
 ヴァリエール家の次女として生まれ、幼い頃から不治の病と闘い続けている儚くも綺麗な女性。
 あのルイズも彼女には愛情を込めて「ちぃ姉様」と呼んでおり、ヴァリエール家の中で一番愛されている人と言っても過言ではない。
 その彼女が父から貰ったラ・フォンティーヌを出て、タルブ村へと旅行に行ったという話は長女のエレオノールから聞かされていた。
 しかし、不幸にもタルブ村は親善訪問で裏切ったアルビオン軍との戦闘に巻き込まれ、カトレアも従者たちと共に戦場のど真ん中で取り残されてしまったのである。
 ルイズは彼女を助ける為、そして大事な姉と敬愛するアンリエッタと母国を傷つけようとするアルビオンと戦う為、霊夢達と共にタルブ村へと飛び込んだ。
 
 その後はキメラを操るシェフィールドと言う女との戦い…カトレアの知り合いだという、霊夢と所々似ている服を着た謎の黒髪の女性の加勢。
 裏切り者ワルドの急襲に呼んでもいない加勢に来てくれたキュルケ達と――――艦隊を吹き飛ばす程の力を持つ、『虚無』の担い手としての覚醒。
 たった一夜にしてこれだけの事が起こり、エクスプロージョンを発動してアルビオン艦隊を沈黙させたルイズはあの後すぐに気を失った。

611ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:11:18 ID:iBf32hzg
 目が覚めた後、トリステイン軍に保護されたルイズはタルブの隣にある町ゴンドアで目が覚め、援軍の総大将として来ていたアンリエッタと顔を合わせる事が出来た。
 最初こそ「なんという無茶な事を…」と怒られてしまったが、その後すぐに「けれど、無事でよかったわ」と優しい抱擁をしてくれた。
 霊夢やキュルケ達も無事保護されており、ホッと一息ついた後…ルイズはアンリエッタに「あの…ちぃ姉様はどこに…?」と訊いてみた。
 タルブ村の領主、アストン伯の屋敷の前でキメラを操るシェフィールドとの戦いで加勢してくれたあの黒髪の女性が屋敷の中にカトレアがいると言っていた。
 戦いが終わった今ならばきっと彼女も屋敷から連れ出され、自分と同じようにこの町で休んでいるかもしれないと、ルイズは思っていた。

 しかし、現実はそう簡単に二人を会わせることは無かった。
 確かにカトレア他屋敷の地下室に籠城していた者たちは救出部隊によって保護されていた。
 だが彼女自身はルイズが近くにいたことはいらなかったのか、もしくは迷惑を掛けられまいと思ったのだろうか。
 アンリエッタも知らぬ間にカトレアは従者たちを連れて、町の中で立ち往生していたトリスタニア行きの馬車でゴンドアを後にしていたのである。
 その事を知ったアンリエッタがすぐさま使いの者を出したものの時既に遅く、その馬車を発見したのは王都の西部駅舎であった。
 彼女を乗せた馬車の御者に聞いてみるも、確かにトリスタニアでカトレアらしき人物を乗せたという情報を掴むことができたが、
 何処へ行ったかまでは聞く事が出来なかった為、カトレアの行方はそこで完全に途絶えてしまったのだ。


「姫さまは引き続き人を使って探してくれるって言ってるけど、もしかしたら自分の領地に帰ってるかもしれないし…」
「あー、それはあるかもな。こういう時に限って、流石にここにはいないだろうって所に探し人はいるもんだしな」
 やや重い表情で゙もしかしたら…゙の事を喋るルイズに、魔理沙も申し訳程度のフォローを入れる。
 確かにそれはあるかもしれない。ルイズはラ・フォンティーヌでゆっくりとしている一つ上の姉を想像しつつ、コクリと頷いた。
 本当ならば実家に手紙でも送ってカトレアがいるかどうか確かめて貰えばいいのだが、そうなれば両親まで彼女の身に何が起こったのかを知ってしまう。
 彼女の事を大事にしている両親の事だ。きっと父親である公爵は驚きのあまり気絶して、母親はそんな父を引っ張って王都までくるかもしれない。
 何よりカトレア自身が、たかが自分の為にそこまで心配しないで欲しいと願っているかもしれない。
 やや自棄的とも言える彼女の献身的な性格をしっているルイズだからこそ、敢えて手紙での確認は控えたのである。

 長女のエレオノールなら何か知っているかもと思い、アカデミーに確認の手紙を送ったりもした。
 しかし、ここでも始祖ブリミルはルイズを試してきたのかアカデミーから返ってきた返信は、エレオノールの同僚からであった。
 ヴァレリーという宛名で送られてきた手紙によれば、エレオノールは数日前にとある遺跡の調査でトリステイン南部へと赴いているのだという。
 『風石』を採掘する前の地質調査の際に発見されたものらしく、どんなに早くても来月までは王都に帰ってこないのだという。
 更に、遺跡はかの始祖ブリミルと深く関っている可能性が高い為にロマリアの゙宗教庁゙との合同調査として機密性のグレードが上げられ、
 仮に遺跡の場所を教えて手紙を送ったとしても、手紙はその場でロマリア人に絶対燃やされる。…との事らしい。
 
「となれば、一刻も早くラ・ヴァリエールに帰って…ちぃ姉様がいるかどうか確認しないと…」
 身近に頼れる者が霊夢と魔理沙、そして自分では動く事ができないインテリジェンスソードのデルフという二人と一本という悲しい状況。
 しかし彼女らのおかげで何度も危険な目に遭いつつも、今こうして生きていられているという実績がある。
 だからこそルイズは決意を胸にラ・ヴァリエールへと帰る事を決めていた、行方をくらましたカトレアを探すために。
 
 しかし現実はまたしても、ここでルイズの足を止めようと新たな防壁を展開しようとしていた。
 それは彼女の『エクスプロージョン』でもってしても消し飛ばせない…否、したくてもできない王家の花押付きの手紙として。

612ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:14:03 ID:iBf32hzg
 しっかりとした足取りで、ルイズたちが一番ステーションへと続く観音開きの扉を開けた先で待っていたのは、
 入ってすぐ横にある御者たちの休憩スペースにいた、一人の若い貴族であった。
「失礼。ミス・ヴァリエールとその御一行と御見受けしますが…」
「…ん?」
 突然横から声を掛けられたルイズは足を止めて、そちらの方へと顔を向ける。 
 まだ二十歳を半ば過ぎたかそうでない年頃の貴族の姿を見て一瞬、ルイズはナンパか道を尋ねてきた旅行者かと最初は思った。
 しかし初対面である男が自分をヴァリエール家の人間だと知っていたうえ、霊夢と魔理沙たちの事まで知っている。
 という事は即ち、自分たちが何者であるかしったうえで彼は声を掛けてきた…という事になる。
 見た感じレコン・キスタからの刺客、という風には見えない。
「一体どなたかしら?これから故郷へ帰る前の私に一声かける程の用事があって?」
「えぇ。アンリエッタ王女殿下から直々のお手紙を、貴女様に渡すようにとの事で急遽こちらへ来ました」
「…!姫様から?」
 聞き覚えのあり過ぎる名前を口にすると共に、青年貴族は懐から一通の封筒をルイズの前に差し出した。
 封筒には宛名が書かれていないものの、その代わりと言わんばかりに大きな花押が押されている。
 それに見覚えがあったルイズはすぐさまそれを手に取ると封筒を開けて、中に入っている手紙を読み始めた。

 その一方で、何が何やら良く分からぬ霊夢は突然声を掛けてきた青年貴族に話しかける事にした。
「ちょっと、アンタは誰なのよ?これからこんなクソ暑い街から出ようって時に邪魔してくるなんて」
「それは失礼。しかしながら、ミス・ヴァリエールと貴女達は今からこのクソ暑い街でやってもらわねばならぬ事がありますので…」
 遠慮のない霊夢の言い方に動じる事無く、涼しい表情を浮かべた青年貴族は肩を竦めてそう言った。
 彼が口にしだやって貰わねばならぬ事゙という意味深な言葉に、彼女は怪訝な表情を浮かべる。
 そして同時に思い出す。以前虚無の事を離した際、ルイズがアンリエッタ直属の女官になった時のことを。
(そういえばアンリエッタのヤツ、何か用事があれば任せるとかなんとか言ってたけど…いやいやまさか)
 
 いくら何でもタイミングがあまりにも悪すぎる。そんな事を思っていた霊夢の予感は、残念なことに的中していた。
 手紙を一通り読み終えたルイズが最後にザっと目を通した後、彼女は手紙を封筒に戻し、それを懐へとしまい込んだ。
 そして自分に手紙を渡してくれた青年貴族へ向き合うと、キッと睨み付けながら鋭い声で話しかけた。
「この手紙に書かれていた最後の報告文とやら…間違いないんでしょうね?」
「その点に関してはご安心を。特定多数の者たちからの証言と、市街地での目撃情報が合致していますので」
「………そう、分かったわ。ありがとう、わざわざ届けに来てくれて」
 ほんの一瞬の沈黙の後に来たルイズからの礼に、青年貴族は「どういたしまして」と頭を下げる。
 そして今度は、一体何が起こってるのかイマイチ良く分からないでいる霊夢達へと体を向けてからルイズは二人へある決定を告げた。


「帰郷は中止よ」

 突然告げられたルイズに対し、先に口を開いたのは魔理沙であった。
「は?それって…一体…」
「文字通りの意味よ。ちぃ姉様を探すためにも、そして姫さまからの願いを叶える為にも、帰郷は中止するわ」
 聞き間違う事の無いように、ルイズがはっきりとそう告げた直後――――14時丁度を報せる鐘が駅舎の中に鳴り響いた。

613ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/02/28(火) 22:17:57 ID:iBf32hzg
以上で、80話の投稿は終了です。

ゼロの使い魔も原作がようやくの完結。天国のヤマグチ先生と代筆のお方、そして押絵担当の兎塚エイジ先生。お疲れ様でした。
自分としてもここまでのめりこんだライトノベルは記憶になく、多分この先もゼロ魔以上のライトノベルに出会う事は無いと思います。
そしてゼロ魔が完結した事で、これからいろいろなサイトでゼロの使い魔の二次創作が増える事を祈っています。 
 
では皆さん、また来月お会いしましょう。

614名無しさん:2017/02/28(火) 22:24:49 ID:vqGQrbeY
乙です!
これを機にまた盛り上がらないかな

615Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2017/03/01(水) 22:52:51 ID:7SD9eaBU
こんばんは、ご無沙汰しております。
遅くなって申し訳ありませんでしたが、よろしければ23:00頃からまた続きを投下させてくださいませ。

616Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2017/03/01(水) 23:00:13 ID:7SD9eaBU

 ラ・ロシェールに着いた翌日の朝。

「ンー……、よく寝たの」

 ディーキンはさすがに冒険者らしく、朝早くすっきりと目を覚ました。
 昨日の長旅の疲れもまったく残っていない。
 それから、まだ寝ている同行者たちを起こさないようにそっと部屋を抜け出すと、昨日ワルドが借りた部屋に向かった。

 ディーキンはその空き部屋で、ジンの商人・ヴォルカリオンを呼び出して買い物をしたり、フェイルーンの仲間たちと連絡を取ったりなど、必要な作業をてきぱきとこなしていった。
 ギーシュやワルドに見られると説明が面倒だし、特にワルドには今のところあまりいろいろな事を知られたくなかったので、場所を変えたのである。
 せっかく余分に借りた部屋なのだから、出来る限り有効に活用させてもらおうというわけだ。

 そうして当面の仕事を早朝のうちにすませてしまうと、ディーキンは最後に《英雄達の饗宴(ヒーローズ・フィースト)》の呪文を使って、御馳走の並んだ食卓を用意し始めた。
 有益な恩恵を与えてくれるこの食事は旅の間常に食べるようにしておきたいが、まさか下の階にある酒場で自前の料理をずらずらと並べるわけにもいかないので、この部屋へ皆を集めて食べようと考えたのだ。

「……あれ?」

 呪文も完成して食卓の用意が整ったところで、さて皆を起こそうかと部屋を出たディーキンは、何やらあたりをきょろきょろと伺いながら廊下を歩いているワルドの姿に気が付いた。
 ワルドの方でもすぐにディーキンの姿をみとめてそちらへ近づいていくと、にこやかな顔で挨拶をする。

「おはよう、使い魔君。捜したよ、昨日借りた部屋を見てみたかったのかい?」

「おはようなの、ワルドお兄さん。ディーキンはね、あの部屋にみんなの朝ごはんを用意しておいたんだ」

 ディーキンは元気よく挨拶を返すとそう伝えて、自分は他の皆を呼んでくるからよければ先に食べていてくれと勧めた。
 ワルドは確かに疑わしい相手ではあるが、黒だと確定しないうちは動向に注意はするものの、基本的には仲間として接するつもりでいる。
 仲間である以上、一人だけ食事に招かないなどという法はないだろう。

「用意がいいね、ありがたくいただくとしよう。ああ、ところで……」

 ワルドはにっこりと微笑むと、他の皆を起こしに行こうとするディーキンを呼び止めた。

「きみは、伝説の使い魔である『ガンダールヴ』なんだろう?」

「……へっ?」

 ディーキンは一瞬、ワルドが何を言っているのか分からずにきょとんとした。
 それから、ちょっと考えて問い返す。

「ええと、『ガンダールヴ』っていうのは、その……。ブリミルっていう人の、使い魔のこと……だよね?」

「そうだよ。我々の偉大なる始祖、ブリミルに仕えたという四人の使い魔の一人だ。君はその『ガンダールヴ』なのだろう?」

 ワルドの確信を持った様子とは対照的に、ディーキンは何がなんだか分からず、困ったように頬を掻いた。

「アー……、ワルドさん? ディーキンが思うに、あんたはなにか、とてつもない勘違いをしてるんじゃないかと思うんだけど……」

 そう言ってはみたものの、ワルドの確信は揺るがないようだった。

「いやいや、隠さなくともいいよ。ああ、それとも、本当に知らなかったのかな?」

 彼は口の端に薄い笑みを浮かべて、肩をすくめる。

「ルイズから聞いたんだが、君の使い魔のルーンは左手の甲にあるのだろう? それこそが、伝説の『ガンダールヴ』の証なのだよ」

617Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg:2017/03/01(水) 23:02:37 ID:7SD9eaBU

「…………」

 ディーキンは無理にそれ以上ワルドの言い分を否定しようとはせずに、自信ありげな彼の顔を黙ってじいっと見つめた。
 ややあって、口を開く。

「……ウーン。でも、左手にルーンのある使い魔なんて大勢いるんじゃないかと思うんだけど。あんたはなんで、ディーキンがその『ガンダールヴ』だって思ったの?」

 そう問われたワルドは、ちょっと困ったように首をかしげた。

「……ああ。それはその、あれだ……。僕は歴史と強者に興味があってね。自然と、最強のメイジであった始祖ブリミルとその使い魔については、王立図書館などでよく勉強していたんだよ」

「オオ、王立図書館? ディーキンも見てみたいの、学院の図書館よりも、もっといっぱい本があるかな?」

「はは、それはどうかわからないが……。君は、小さいのに勉強熱心なことだな」

 本の方に気を惹かれた様子で目を輝かせるディーキンを見て、ワルドは上手く誤魔化せたなと目を細めて小さく頷く。

「……で、君の昨夜の戦いぶりを見て思い当たったのさ。これこそあらゆる武器を使いこなして敵と対峙し、主を守ったというあの『ガンダールヴ』に違いない、とね」

「アア、なるほど……。わかったの」

 ディーキンはこくりと頷きながらそう言ったものの、内心ではまったく納得してはいなかった。
 明らかにワルドが言い訳をして誤魔化そうとしたらしいのも見て取れたが、それ以外にも彼の言い分には不自然な点が多すぎる。

 亜人が武器を少々上手く使ってみせた程度のことで伝説の使い魔だなどとは、あまりにも発想が飛躍しすぎてはいないか。
 自分が大きな人間にとってはいかにも貧弱そうで、武器の扱いなどできなさそうに見えるというのは、ちょっと不本意ではあるがまあ理解はできる。
 それが予想外に武器を上手に扱ったものだから、以前に勉強した『ガンダールヴ』をふと思い浮かべた……というところまでは、ありえなくはないかもしれない。
 しかし、あるいはそうなのではないかと考えるくらいはあるにしても、そうに違いないと断定するのには根拠が薄弱すぎるだろう。
 なのにどうして、『君はもしかしたらガンダールヴなのではないか』という質問形ではなく、『君はガンダールヴなんだろう』という断定形で話し始めたのか?

 実際には、ディーキンは契約を結んでいない以上正式な使い魔ではないからその推測は誤りなわけだが、まったくの的外れでもない。
 召喚者であるルイズが始祖ブリミルと同様の『虚無』の使い手であるという、奇妙な共通点があるのだ。
 件の系統が長年に渡って失われた伝説の系統とされていることを思えば偶然の一致というには出来過ぎており、そのあたりがまた解せなかった。
 この男はどうして、そんな中途半端な誤りを犯したのだろうか?

 いずれにせよ、傭兵と戦うところを見て初めてそうかもしれないと思ったなどというのは嘘に違いない。
 それ以外にも、明らかに何らかの根拠を掴んでいるのだ。
 それは一体なんなのか……。

(……ウーン。もしかして、デルフとか?)

 ディーキンは、かつてその伝説の使い魔の手に握られていたという意思を持つ剣のことを思い浮かべた。
 もしもワルドが何らかの書物などであの剣のことを知っていて、見てそれだと気付いていたのだとしたら、その持ち主が『ガンダールヴ』だと推測する根拠になるだろうか?

 しかし、それはまずないだろうな、とディーキンは思い直した。

 あの剣はシエスタに渡し、彼女がずっと背負っていたのだから、まずそれをディーキンと結びつける理由がない。
 それに、傭兵との戦いのときでもシエスタが使ったのはクロスボウだけで、あの剣は一度もワルドの前では抜かれていないのだ。
 道中でもずっとグリフォンに跨ったままルイズとだけ話していたこの男が、鞘に納められたままのデルフリンガーの正体に気付いて目をつけていたとは思えない。

(ええと、じゃあ……。他に、考えられるのは……)


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