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避難所用SS投下スレ11冊目

1名無しさん:2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

450ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:10:18 ID:ztVJl3Jg
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下をさせていただきます。
開始は23:14からで。

451ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:14:11 ID:ztVJl3Jg
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十三話「二冊目『わたしは地球人』(その3)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場

 精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅に出た才人とゼロ。二冊目は地球防衛軍が
暴走してしまっているウルトラセブンの世界。その世界は現行地球人と地球原人ノンマルトの
対立の真っ最中であった。今の地球人が外宇宙からの侵略者の子孫だという証拠であるオメガ
ファイルの開示を迫り、ノンマルトは怪獣軍団を差し向けてくる。セブンは地球人の手で真実を
明らかにし、今の地球人が地球に留まれる権利を与えるべく行動する。ゼロは彼の助けになる
べく、それまでの時間稼ぎのために怪獣たちに立ち向かう。果たしてこの世界の明日はどの方向へ
向かうのであろうか。

「キイイイイイイイイ!」
 ゼロを取り囲む五体の怪獣がいよいよ攻撃を開始してきた。一番手のエレキングが口から
楔状の放電光線を、ゼロの足元を狙って撃ってくる。
『おっと!』
 飛びすさってかわしたゼロに向かって、ダンカンが前のめりに飛び出してきた。
「ギャ――――――ア!」
 そのまま丸まって転がりながらゼロに突進していく。
 しかしゼロはダンカンが迫った瞬間に振り返ってがっしりと受け止めた。
『そんな手は食らうかッ!』
 遠くへ投げ飛ばして地面に叩きつけようとするも、そこにサルファスが硫黄ガスを噴出する。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
『うわッ!』
 高熱のガスを顔面に浴びせられて視界をふさがれたダンカンを手放してしまった。更に
バンデラスの全身がまばゆく発光し、強力な熱波を繰り出す。
「ウアアアア―――――ッ!」
『ぐッ!』
 高熱攻撃の連続にうめくゼロだが、これを耐えてビームゼロスパイクで反撃。
『せいッ!』
「ウオオォッ!」
 食らったバンデラスが麻痺して熱波が途切れた。今の内に反撃に転じようとしたゼロであったが、
「グオオォォォ!」
 ボラジョが高速できりもみ回転して砂嵐を発生させ、それをぶつけてきたのだ。
『くぅッ!』
 足を踏み出しかけたところに砂嵐に襲われ、踏みとどまるゼロ。が、砂嵐が収まった瞬間に
ボラジョの蔦とエレキングの尻尾が伸びてきて、己の身体に巻きつく。
「グオオォォォ!」
「キイイイイイイイイ!」
 二体の怪獣は拘束したゼロに高圧電流を食らわせる。
『ぐああぁぁッ!』
 二体がかりの攻撃にさすがに苦しむゼロ。更にバンデラスの胸部に並んでいる球体から
撃たれる怪光線も浴びせられる。
『ぐううぅぅぅッ……! さすがに苦しいぜ……!』
 五体の怪獣を同時に相手取るのはやはり、ゼロにとっても厳しい戦いだ。しかも怪獣たちは
ノンマルトの現地球人に対する積年の恨みが乗り移っているかのように猛っている。その勢いは、
簡単に抑えられるようなものではない。
 ゼロが手を焼いている一方で、ウインダムとミクラスもまたザバンギを相手にひどく苦戦を
していた。

452ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:16:34 ID:ztVJl3Jg
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 カプセル怪獣たちは同時にザバンギに激突していくものの、ザバンギの規格外の怪力の前に
弾き飛ばされてしまった。ザバンギはオーソドックスなタイプの怪獣であるが、ノンマルトの
守護神と称されるだけあって、その力の水準は通常の怪獣を大きく上回っているのであった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ザバンギは倒れ伏したウインダムを、無情にも踏み潰そうと足を振り上げる。
「シェアッ!」
 だがその時に飛んできたゼロスラッガーがザバンギの身体を斬りつけた!
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ダメージを負ったザバンギは後ずさり、ウインダムから離れた。その間にウインダムと
ミクラスは体勢を立て直す。
 今のスラッガーはもちろんゼロが放ったものだ。彼はボラジョとエレキングに捕まりながらも、
カプセル怪獣たちを助けるために力を振り絞ったのだ。
 そしてゼロの力はまだそんなものではない!
『あいつらが頑張ってるんだ! 俺がこんくらいで根を上げてちゃいられねぇぜッ!』
 拘束されたままストロングコロナゼロに変身すると、跳ね上がった筋力により蔦と尻尾を
振り払った。
「セェアァァッ!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウアアアアァァァッ!」
 自由になったゼロにすかさずサルファスとバンデラスが硫黄ガスと怪光線を放ってきたが、
ゼロはその身一つで攻撃を受け止めた。
『どぉッ!』
 そして片足を地面に振り下ろすと、凄まじい震動が起こって周囲の怪獣たちのバランスを
崩した。戦いの流れを変えることに成功した!
「ギャ――――――ア!」
 ダンカンが転がりながら突進してきたが、ゼロはカウンターとして燃え上がる鉄拳で迎え撃つ。
『せぇぇあああぁぁぁぁぁッ!』
 燃える拳がダンカンを一発で破裂させ、遂に怪獣軍団の一角を崩したのであった。
『よしッ!』
 ぐっと手を握り締めるゼロだが、その時に超感覚で防衛軍秘密施設の地下に潜行していった
セブンの様子をキャッチした。
 ゼロたちが戦っている間、セブンはオメガファイルの真実を確かめるため、棺が封印されている
最奥のシェルターに近づいていたのだが……その前に、最後まで抵抗するカジ参謀が兵士の一団を
引き連れてセブンの前に立ちはだかったのだ。
 地球防衛にこだわりすぎて、あくまで強硬姿勢を崩さないカジは、兵士たちに攻撃命令を
下したのだ。
「目標は、ウルトラセブン!」
 地球人から放たれる銃弾が、セブンに浴びせられる――。
『ぐッ……!』
 それを感じて、ゼロは己が撃たれているかのように胸を痛めた。
 超人たるウルトラ戦士にとって、地球人の携行火器など豆鉄砲にも劣る威力。……だが、
あれほど地球人を愛し、命を燃やして戦い抜いてきたセブンが、その地球人から攻撃される
という事実……本人の心はどれほど痛いのだろうか。想像が及ばないほどであろう。
 しかしゼロはセブンを信じ、セブンが信じる地球人の心を信じ、戦いに集中する。
『はぁぁぁぁぁぁッ!』
「グオオォォォ!」
 ボラジョがまたも砂嵐を発してきたが、ゼロは力ずくでそれを突破。ボラジョに飛びかかって
鷲掴みすると、無理矢理地面から引っこ抜く。

453ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:19:13 ID:ztVJl3Jg
『ウルトラハリケーンッ!』
 竜巻の勢いでボラジョを頭上高くに投げ飛ばし、右腕を突き上げる。
『ガルネイトバスターッ!!』
 灼熱の光線がボラジョを撃ち、空中で爆散させた。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
 体当たりしてきたサルファスをいなし、ブレスレットからウルトラゼロランスを出す。
『どおおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 それをストロングコロナの超パワーで、サルファスに投擲した!
 ランスは頑強な表皮を貫いてサルファスを串刺しにし、痙攣したサルファスの眼から光が
消えて爆散した。
「キイイイイイイイイ!」
「ウオオオオオ―――――!」
 エレキングの尻尾の振り回しをかわしたゼロだが、バンデラスの念力に捕まって宙吊りにされる。
『はぁッ! ルナミラクルゼロ!』
 しかしゼロはルナミラクルになってこちらも念力を発し、バンデラスの力を打ち消して
自由になった。そして振り返りざまにエレキングへゼロスラッガーを投げつける。
『ミラクルゼロスラッガー!』
 分裂したスラッガーがエレキングの角、首、胴体、尻尾を瞬く間に切り裂き、エレキングも
たちまち爆裂する。
 五体の内、最後に残ったのはバンデラス。ゼロは戻したスラッガーを手に握り締めると、
地を蹴って宙を飛行していく。
『はぁぁぁぁぁッ!』
 そうしてスラッガーを構えて高速でバンデラスに突撃する。
「セアァッ!」
 すれ違いざまに目に留まらぬ速度でスラッガーを振るい、バンデラスは全身が切り刻まれた。
更に着地したゼロが振り向くと同時にバリアビームを浴びせて、バンデラスを覆う。
 内に秘めた太陽のエネルギーに引火し、凄絶な大爆発を起こしたバンデラスだったが、
覆われたバリアが衝撃を封じて被害は外に拡散しなかった。
『残るはあいつだ!』
 五体の怪獣を撃破したゼロはすぐに駆け出し、ウインダムとミクラスの救援に回ってザバンギの
前に立ちはだかった。
「シェアッ!」
 左右の手のスラッガーを上段、中段に構えてザバンギを威嚇するゼロ。ウインダムとミクラスも
うなり声を発して、それに加勢した。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 さしものザバンギも足を止めて警戒していたが、この時にゼロの意識にノンマルトからの
テレパシーの声が響いたのだった。
『そこまでだ! 真実は白日の下に晒された。正義は我々にある! これ以上の戦いは、
宇宙正義に背くものとなるぞ!』
「!!」
 振り向くと、ウルトラセブン……モロボシ・ダンが地上に戻ってきていた。彼はウインダムと
ミクラスをカプセルに戻す。
「ミクラス、ウインダム! 戻れ!」
 同時にザバンギも活動を止め、ダラリを腕と尻尾を垂らした。これを見てゼロも、一旦変身を解く。
「ジュワッ!」
 才人の姿に戻ってゼロアイを外し、ダンの元へと駆けていく。
「セブン! オメガファイルの真実を確かめたんですね」
「ああ……疑いようのない人の口からね」
 オメガファイルの棺の中身は……フルハシ参謀であった。ヴァルキューレ星人事件の際に
殉職したかに思えたフルハシだったが、彼を最も信頼できる証人として選んだノンマルトに
よって、タキオン粒子に乗せられた情報体となって数万年前の地球に送られてそこで再生
されたのであった。

454ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:22:14 ID:ztVJl3Jg
 そしてフルハシは見届けた。かつて地上に栄えていたノンマルトを宇宙からの侵略者が
追いやり、その侵略者が徹底的に原住民族に扮して地球人として成り代わったのを。今の
地球人は、確かに侵略者の子孫だったのだ。
 真実を知った二人の前に、ノンマルトの女が現れる。
「分かったか! 地球人は、侵略者だった。この地球は我々のものだ!」
 そう主張するノンマルトに、ダンは訴えかけた。
「聞いてほしい! この星には、既に百億の民が住んでいる。彼らに、かつての君たちと
同じ悲しみを味わわせたくない!」
 しかしノンマルトはダンの訴えを聞き入れようとはしなかった。
「セブン。地球人に味方をすることは、宇宙の掟を破ることになる。それがどういう結果に
なるか、君なら知っているはずだ」
 そう告げられても、ダンはあきらめずに説得し続ける。
「彼らを、許してやってほしい。彼らは悔い改め、今宇宙に向かって、真実を発信し始めた!」
 地球人のために戦っているのは、ゼロやセブンだけではない。ウルトラ警備隊もまた、
上層部を説得してオメガファイルの情報を宇宙へ発信し、真実を受け入れて地球人を救う
行動を取っているのだ。
 だが、ノンマルトの回答は、
「それは出来ない! 故郷に戻ること、それは、我々に認められた権利だ!」
 頑ななノンマルトに、ゼロも説得に乗り出した。
「ともにこの星で生きていけばいいじゃないか! 地球人にも過ちを認め、平和を愛する
心がある。どっちかが星を去るとかじゃなく、同じ文明人として同じ土地で共存していく
ことは十分に出来る!」
 しかしそれでも、ノンマルトの姿勢に変化はない。
「滅びてしまった仲間たちは、もう蘇らない。彼らの無念を忘れ、地球人との共存など出来ない!」
「過去に囚われて何になる! 仲間の遺志を受け継ぐことも大切だ。けど恨みを継いでも、
何も得るものはない。虚しいだけだ! 本当に大切なのは、今を生きる人間がどうしていくか
だろうが!」
 精一杯の感情を込めて説くゼロであったが、ノンマルトは、
「我らが守護神によって、発信装置を壊す! そうすれば、地球人がオメガファイルを解放した
証拠は残らない!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ノンマルトの言葉を合図とするように、ザバンギが再び動き始めた。その足が向けられる先は、
オメガファイルの情報を宇宙に発信しているパラボラ塔。
「やめろッ! それはもう正義じゃねぇ!」
「ああそうだ。復讐のための復讐は、宇宙の掟も許してはいない!」
 ゼロとセブンでノンマルトに考え直すよう呼びかけたが、やはりノンマルトは翻意する
ことがなかった。
「たとえ復讐であろうとも、我々は散った仲間の無念を、あの日の侵略者の子孫に思い知らせるのだッ!」
 暗い情念に染まり切ったノンマルトの瞳を覗き見て、ゼロは理解した。ノンマルトは既に、
『人間』ではなくなっている。故郷を追い立てられ、滅ぼされた憎悪に取り憑かれた『怨霊』と
化してしまっているのだ。こうなってはどんな言葉が投げかけられようとも、どれだけの血を
吐こうとも、復讐の足取りを止めることはないだろう。
 地球人を救うには、ザバンギを力ずくにでも止める以外はない。故にダンは宣言した。
「これ以上力を行使するなら、私はこの星の人々のために戦う!」
 するとノンマルトが脅迫してくる。
「同じ星の民族同士の争いに介入すれば、全宇宙の文明人を敵に回すことになる!」
「……!」
 それを突きつけられても、ダンの考えは変わらなかった。彼はフルハシと、己が守り続けた
地球人を信じてウルトラアイを取り出す。
 その隣で、ゼロも再度ウルトラゼロアイを出した。
「セブン、あなただけに戦わせはしません」

455ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:23:49 ID:ztVJl3Jg
「……下手をしたら、君まで宇宙の漂流者となるかもしれないんだぞ」
「承知の上です」
 ダンはゼロの顔に振り向いて問う。
「どうしてそこまで……私の力に」
「……」
 ゼロは何も答えないまま、ダンとともに変身を行う。
「「デュワッ!」」
 巨大化したセブンとゼロ、二大戦士がパラボラ塔を背にして、ザバンギに対する盾となった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ザバンギは二人を排除しようと肉薄してくるが、ゼロの横拳が返り討ちにした。
「ゼアッ!」
 更にセブンのミドルキックが入り、ザバンギは後ろに押し出される。
「デャッ!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 セブンとのコンビネーションで、ゼロが一回転しての裏拳をザバンギに見舞った。
「ハァァッ!」
 ノンマルトの守護神ザバンギも、さすがにセブンとゼロの両者を同時に相手できるほどの力を
持ち合わせてはいなかった。
 だが、二人はなかなかザバンギにとどめを刺そうとしない。ノンマルトの代表たるザバンギに
それをすることは……侵略者への加担を決定づけることになるのだ。そうなればもう言い逃れする
ことは出来ない。
「……!」
 しかしゼロはスラッガーを手にして、ザバンギの頸動脈に目をつける。そんなゼロを才人が
呼び止めた。
『待て、ゼロ! お前の手で決着をつけてしまったら、本の世界が完結しない可能性があるぞ!』
 『古き本』を完結させる最低条件は、その本の登場人物によって物語に幕を下ろさせること。
ゼロが本来の主役を差し置いて最後の怪獣にとどめを刺すことは、それに反する行いだ。どうなって
しまうものか、分かったものではない。
 しかしそれを承知してなお、ゼロは迷っていた。
『けど、たとえ本の中の存在でも……あのセブンに、暗闇の中を歩かせるのは……!』
 ゼロがセブンを、宇宙の全ての光から追放された身に落とさせることなど出来るものだろうか。
……自分の父親なのだ。
『だから……俺はッ!』
 ゼロがスラッガーを振り上げる!

456ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:25:26 ID:ztVJl3Jg
『ゼロぉぉぉッ!』
「――デュワーッ!」
 ゼロの手が振り下ろされるより早く……セブンの握るアイスラッガーが、ザバンギの首筋を
切り裂いていた。
『えッ……!?』
「ギャアアアアアァァァァァ……!」
 裂かれた傷口から血しぶきが噴き出し、ザバンギはがっくりと倒れ伏した。そのまま胸の
模様から光が消え……絶命を果たした。
『セブン……どうして……』
 ゼロは呆然としたまま、本物のカザモリをウルトラ警備隊の基地に返還したセブンに叫ぶ。
『どうしてそんなことを! これであなたは、宇宙から居場所を……!』
 セブンはゼロに振り向き、答えた。
『いいんだ。私には、このことに関して何ら恥じるところはない。私はこの地球を、地球人を
愛している。愛する地球人のために戦った……何の後悔もない』
 語りながら、目を合わせたゼロに告げる。
『君が私を守ろうとしてくれた気持ち、それだけで十分だ。私は心の底から嬉しく思う。
ありがとう。本当に、ありがとう……』
『息子よ』
 最後のひと言に、ゼロはハッと息を呑み――。
 視界がまばゆい光で覆われていく――。

 ――気がつけば、才人は一冊目の時と同じように、現実世界に帰ってきていた。初めの時の
ように、ガラQが元気のいい声を発する。
「オカエリー!」
「お帰りなさいませ、サイトさん! ご無事で何よりです!」
 シエスタも安堵しながら才人に呼びかけたが、才人は立ったままぼんやりしている。
「サイトさん……? まさか、どこかお怪我をされたのでは!?」
 シエスタ、タバサたちが心配すると、才人は我に返って手を振った。
「い、いや、怪我なんてどこにもしてないよ。大丈夫だ、ありがとう」
 シエスタたちを落ち着かせると、才人はこっそりゼロに呼びかけた。
「ゼロ……セブンのことは助けられなくて、残念だったな。でも、最後にお前のことを……」
『……なぁ才人』
 ゼロは才人に、こう言った。
『俺の親父は、本の世界でも偉大な人だった。……お前も見てくれたよな?』
 才人は一瞬虚を突かれ、次いでやんわりと微笑んだ。
「ああ、しっかりとな」
 こうして二冊目の『古き本』も終わらせた才人とゼロ。だがルイズはまだ目覚める様子がない。
残る本は四冊。まだまだ彼らの戦いは続くのだ。

457ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:26:06 ID:ztVJl3Jg
以上です。
息子の愛にむせび泣く男、ウルトラセブンッ!

458名無しさん:2017/01/17(火) 00:40:24 ID:5P5tbEFw
乙です

そういえば昔、ダーマが召喚された小ネタあったなぁ…
レオパルドンのソードビッカーでどんな敵も瞬殺w

(本家のアメコミで、レオパルドン込みでなら
 あらゆる世界のスパイダーマンの中で最強扱いされた東映版凄えwww)

459名無しさん:2017/01/21(土) 23:16:47 ID:H7w8IsIU
遅ればせながら五番目の人もウルゼロの人も乙
敵が神に等しい力を先に得てなければあっという間に事件は解決してたかもしれない
というレオパルドンw

460ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:53:12 ID:HMTwEesM
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を始めます。
開始は19:56からで。

461ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:56:06 ID:HMTwEesM
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十四話「三冊目『ウルトラマン物語』(その1)」
小型怪獣ドックン 登場

 ルイズの精神力を奪い、彼女を昏睡状態にしてしまった六冊の『古き本』の攻略に臨む才人とゼロ。
二冊目の『わたしは地球人』では、暴走した地球人と地球原人ノンマルトの確執にウルトラセブンが
翻弄され、最後には宇宙の追放者となってしまうというゼロにとってこれ以上ないほどの苦い物語で
あったが、それでも本の完結には成功した。しかし三分の一が終了した現在も、ルイズにはまだ目に
見えた変化がなかった。
 ルイズを救出する本の旅も三日目を迎えた。三冊目の旅に向けて心の準備を固めていた
才人だったが、そこにタバサとシルフィードがやってきた……。

 眠り続けているルイズと看護するシエスタ、それから才人たちのいる控え室に入ってきた
タバサとシルフィードに対して、才人は一番に尋ねかけた。
「シルフィード、その抱えてる袋は何だ? そんなの持ってたっけ」
 シルフィードは何故かズタ袋を大事そうに抱えている。訝しむ才人に、シルフィードは
早速袋の中身を披露する。
「中身はこれなのね!」
 机の上で袋を開き、逆さにして振ると、赤く丸っこい物体は転げ落ちてきた。
「キュー! 狭かったぁ」
「ガラQ!?」
 それはリーヴルの使い魔である、ガラQであった。才人たちはあっと驚く。
「お前たち、これどうしたんだ?」
「まさかさらってきたんですか、ミス・タバサ!?」
 シエスタの発言に、何の臆面もなくうなずくタバサ。
「リーヴルについて、知ってることはないか聞き出す」
「気づかれずに捕まえるのは大変だったのね。このハネジローがパタパターって近づいて
上から鷲掴みにしたのね」
「パムー」
 シルフィードの頭の上のハネジローがえっへんと胸を張った。
「よくやるな……。まぁでも、これはありがたいよ。ちょうど聞きたいことがあったんだ」
 才人はガラQに対して、真っ先にこう問いかけた。
「ガラQ、見たところお前は生物じゃないな? けどハルケギニアで作られたものでもない。
どこか別の場所で作られた小型ロボットだ。そうだろ?」
 ガラQの質感は明らかに有機物ではない上に、ハルケギニアでは見られない材質のようであった。
この問いについて、ガラQはあっさり答える。
「うん。ガラQ、チルソニア遊星で作られたの」
 その返答にシエスタたちは驚きを見せた。
「まさかミス・リーヴルの使い魔が、ハルケギニア外の技工物だったなんて!」
「まあおかしな見た目してんなーとは思ったがな」
 これを踏まえた上で、才人は続く質問をぶつける。
「じゃあお前、今俺が完結させてる『古き本』の文字を読めるんじゃないか? 宇宙人が
作ったロボットだってのなら、日本語が読めても何らおかしくない」
「読めるよ」
 これまたあっさりとした回答だったが、シエスタはまた驚くとともに疑問を抱いた。
「ミス・リーヴルの話では、『古き本』の文字はどれも読めないのではなかったのですか?」
『偽証に違いない』
 ジャンボットが断言した。
「嘘吐いてたってこと!? でも何のために?」
 シルフィードがつぶやくと、タバサがうつむき気味に答えた。
「リーヴルはやはり何かを隠そうとしている。それにつながりそうな事柄に関しては、知らぬ
ふりをしてる。恐らくはそれが理由」
「俺たちに話せないことがあるってか。いよいよきな臭くなってきたね」
 デルフリンガーが柄をカチカチ鳴らして息を吐いた。

462ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:57:39 ID:HMTwEesM
 才人はいよいよ核心に入る。
「それじゃあ……リーヴルが隠してることって何だ? あいつは俺たちに、何をさせようとしてる?」
 しかし、肝心なところでガラQは、
「分かんない」
「おま……仮にも使い魔なのに、主人のやろうとしてることを知らないってのかよ! 
かばってるんじゃないだろうな?」
 厳しくにらみつける才人だが、ガラQの答えは変わらなかった。
「ホントに、何も教えてもらってないよ。リーヴル、最近何をやってるのか何も言わない」
「……どういうことでしょうか。使い魔にも秘密にしてるなんて」
 シエスタの問いかけに、タバサが考え込みながら答えた。
「何かは分からないけど、よほどのこと」
「でもこの赤いのからは、これ以上何も聞き出せそうにないのね。きゅい」
 肩をすくめるシルフィードだが、ガラQはこう告げた。
「でもリーヴル、何だか苦しそう。それだけは分かる」
「苦しそう……?」
『単純に、リーヴル自身に野望とかがあるってことじゃないみたいだな』
 ゼロの推測にうなずいた才人は、ガラQに呼びかけた。
「ガラQ、お前リーヴルが心配か?」
「心配……」
「じゃあ俺たちに協力してくれ。リーヴルに何か、やむにやまれぬ事情があるっていうのなら
俺たちもそれを解決してやりたい。だからリーヴルについて何か分かったことがあったら、
俺たちに教えてくれ。約束してほしい」
 才人の頼みを、ガラQは快く引き受けた。
「分かった! 約束!」
「よし、頼んだぜガラQ!」
 約束を取り交わしたところで、リーヴルが今日の本の旅の準備を整えた旨の連絡が来たのだった。

 控え室にやってきたリーヴルは残る四冊の『古き本』を机に並べ、才人を促した。
「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」
 三番目に入る本を、才人がゼロと相談しながら吟味する。
『ゼロ、次はどれがいいと思う?』
『そうだな……。M78ワールドの歴史を題材とした本はあと一冊だ。それを先に片づけちまおう』
 本の世界とはいえ、故郷のM78ワールドはゼロにとって活動しやすい世界。それを優先する
ことに決まる。
「よし、それじゃあこの本だ!」
「お決まりですね。では、どうぞ良い旅を……」
 リーヴルが一冊目、二冊目と同じように才人に魔法を掛け、本の世界の旅へといざなっていった……。

   ‐ウルトラマン物語‐

 ここはM78星雲ウルトラの星、クリスタルタウン。その外れの渓谷地帯で、一人の幼い
ウルトラ族の少年が熱意を滾らせていた。
「よぉーし! 今日も頑張るぞー!」
 彼の名はウルトラマンタロウ。ゾフィーやウルトラマン、セブンら兄の背中に一日でも早く
追いついて、立派な一人前のウルトラ戦士になることを夢見るウルトラマンの卵である。
「ほッ! やッ!」
 谷底に降りたタロウは一人、格闘技の自主練習を開始する。それをひと通り済ますと、
次の訓練に移る。
「よぉし、光線の練習だ!」

463ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:59:57 ID:HMTwEesM
 タロウは近くの適当な岩を持ち上げると、それを高く投げ飛ばして的にする。
「えぇいッ!」
 腕をL字に組んで、タロウショット! ……しかしへなへなと飛んでいく光線は、落下する
岩に命中しなかった。
「駄目かぁ〜……! よし、もう一度だ!」
 めげずに練習を重ねるタロウだが、何度やってもただ放物線を描くだけの岩に一度も当たらない。
何度か思考錯誤を重ねるも、やはり上手くはいかなかった。
「くぅ〜……! 今度は飛行の特訓だ!」
 気を取り直してタロウは、崖の上に再度登って空を飛ぶ練習を行う。
「行くぞ! ジュワーッ!」
 しかし勢いよく飛び立ったものの、すぐにコントロールを失って谷間に真っ逆さまに転落
していった。
「うわッ!? うわーッ! あいたぁッ……!」
 大きくスッ転んだタロウの姿に、どこからか笑い声が起こる。
「ワキャキャワキャワキャ!」
「誰だ!? どこにいるんだ!」
 タロウが呼ぶと、崖の陰から緑色の、タロウと同等の体格の怪獣がひょっこりと姿を現した。
M78星雲に生息する怪獣の一体、ドックンだ。
「ワキャキャキャキャキャ!」
 ドックンはタロウを指差してゲラゲラ笑い声を上げた。
「あー笑ったな!? 僕だって大きくなったら、兄さんたちみたいな立派なウルトラ戦士に
なって、悪い怪獣をやっつけるんだからな!」
 憤ったタロウがそう宣言すると、ドックンは余計に笑い転げた。
「ワキャキャワキャキャキャキャ!」
「もぉー! 見てろ、お前を怪獣退治の練習台に使ってやるッ!」
 ますます怒ったタロウはドックンに飛びかかり、ボコボコと殴ってドックンを張り倒した。
「ははぁー! どんなもんだーい!」
 しかしこれにドックンの方が怒り、起き上がってタロウに逆襲を始めた!
「キュウウゥゥゥッ!」
「う、うわぁー!? 来るなー! 助けてぇー!」
 途端に怖がったタロウは一目散に逃げ出すが、ドックンは執拗に追いかけ回す。その鬼ごっこの
末に、タロウは崖の中腹に登って追いつめられてしまった。
「誰かー! 助けてー!」
「キュウウウウウウ!」
 降りられなくなったタロウを目いっぱいに脅すドックン。――そこに一人のウルトラ戦士が
ふらりと現れた。
『そこまでにしてやりな』
「キュウ?」
 振り向いたドックンの頭に、青と赤のウルトラマンがポンポンと手を置いてその怒りをなだめた。
『そいつはもうお前を攻撃するつもりはねぇよ。だからそんなに脅してやるな』
 ドックンを落ち着かせた見知らぬウルトラマンを見下ろして、タロウが尋ねかける。
「お兄さん、誰? 何だかセブン兄さんに雰囲気が似てるけど……」
『俺はゼロ。旅のウルトラ戦士さ』
 端的に名乗ったウルトラ戦士――ゼロは、タロウを見上げて言いつけた。
『お前はこいつに謝らないといけねぇぜ。お前さんがこいつに乱暴を働いたから、こいつは
こんなにもおかんむりだったんだろ』
「でも、そいつが僕のこと笑ったのが悪いんだよ?」
『ちょっと笑われたくらいでムキになるようじゃ、立派なウルトラ戦士になんてなれねぇぜ? 
本当に強い戦士ってのは、他人に何と言われようともどっしり構えてるもんさ』
 ゼロに諭されて、タロウは考えを改めた。
「……分かった。僕、ドックンに謝るよ!」
『よし、いい子だ。さッ、降りてきて仲直りの握手をしてやりな』
「うん!」

464ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:03:55 ID:HMTwEesM
 崖の中腹から降りてくるタロウをゼロが受け止め、タロウはドックンと握手を交わす。
「ごめんね、ドックン」
「キュウウゥ」
 タロウと握手をして怒りを収めたドックンは、のそのそと自分の住処へ帰っていく。
「さよならー!」
『じゃあな。元気でやれよ!』
 タロウとゼロに見送られて、ドックンは渓谷の向こうへ去っていった。それと入れ替わるように、
『ウルトラの母』がタロウたちの元にやってくる。
「まぁ、タロウ! その人はどなた?」
「あッ、お母さん!」
 タロウは『ウルトラの母』の方へ駆け寄っていった。……その間に、才人がゼロに囁きかける。
『まさか、あのウルトラマンタロウの子供の姿が見られるなんてな……』
『それも本の世界ならではってとこだな』
 この三冊目『ウルトラマン物語』はどうやら、ウルトラマンタロウを主役に据えた成長譚の
ようであった。しかしウルトラマンが地球で活躍していた時代に、タロウが子供となっている。
本来ならこの時点でタロウはとっくに大人になっているので、本当ならあり得ないことだ。
『でもそれ以上に驚きなのは……あの『ルイズ』の姿だよ……』
『ああ……。よりによってウルトラの母の役に当てはめられるなんてな……』
 ゼロは微妙な目で、ウルトラの母……の役にされているルイズを見つめた。
 フジ、サトミのようにこの本でもルイズは登場人物の誰かになり切っていることは予測できたが、
今回はまさかのウルトラの母……。この本はウルトラ族の視点であり、女性が他に登場しないからと
言って、こんなのアリなのだろうか。胴体から下はウルトラ族で、顔はルイズというチグハグ加減
なのでものすごい違和感がある。もうルイズがウルトラの母のコスプレをしているようにしか見えない
ので、ゼロと才人は気を抜いたら噴き出してしまいそうで内心苦しんでいた。
 そんなゼロたちの心情は露知らず、ルイズはタロウから事情を聞いてゼロに向き直った。
「タロウがお世話になったようで、ありがとうございます。よろしければ、何かお礼を
したいのですが……」
『いやぁ、いいんですよ。旅は道連れ世は情けってね』
 ゼロが遠慮すると、また新たな人物がこの場に姿を見せた。
「ほう、なかなかの好青年だな。顔立ちも含めて、セブンを彷彿とさせる」
「お父さん!」
 頭部に雄々しい二本角を生やした、偉丈夫のウルトラ戦士。タロウが父と呼んだその
ウルトラ戦士こそ、宇宙警備隊大隊長にしてタロウの実父であるウルトラの父だ。
 ウルトラの父はゼロを見据えると、こう切り出してきた。
「君は旅の者だそうだが、不躾だが一つ頼みごとがある。聞いてもらえないかな」
『何でしょう?』
「見たところ、君は結構……いや相当腕が立つと見た。それを見込んで、このタロウに稽古を
つけてやってほしいのだ。今のタロウには練習相手がいない。私もいつも面倒を見てはやれない
ので、少し悩んでいたのだ。どうだろうか?」
「えぇッ!? 僕が、この人に?」
「まぁ、あなたったら。いきなりそんな無理をお願いするなんて、失礼ですよ」
 ルイズはウルトラの父をたしなめたが、ゼロは快諾した。
『いや、いいですよ。新たなウルトラ戦士の誕生にひと役買えるってのなら、こっちとしても
望むところですよ!』
「おお、やってくれるか! ありがとう!」
「まぁ、本当ですか? 重ね重ね、どうもありがとうございます」
 ゼロの承諾にウルトラの父とルイズは喜び、タロウもまた諸手を挙げる。
「わーい! 僕に先生が出来たー!」
「よかったな、タロウ。彼の下で一層訓練に励んで、早く立派なウルトラ戦士になるんだぞ」

465ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:06:01 ID:HMTwEesM
「あんまり失礼のないようにしてちょうだいね。常にウルトラ戦士の誇りを持って、恥ずかしい
ことのない振る舞いを心がけなさい」
「うんッ! 僕頑張るよ!」
 タロウ親子の微笑ましい家族の会話。ゼロも思わず苦笑したが、同時につぶやく。
『何だか複雑な気分だな……。俺があのタロウの先生だなんて。立場が逆転してるぜ』
 現実のタロウは、ゼロの訓練生時代から宇宙警備隊の筆頭教官の立場に就いていた。ゼロは
故あってレオの管理下に置かれ、タロウから教えを受けていた時間は短かったが、それでも
確かに立場が現実世界とそっくり入れ替わっている。
 それはともかく、幼きタロウはゼロの前に立って、深々とお辞儀した。
「これからよろしくお願いします、ゼロさん!」
『ああ、こっちこそビシバシ行くからな! 覚悟しとけよ!』
 この本を完結させるには、タロウを一人前のウルトラ戦士に育て上げるのが最も手っ取り
早い道のようだ。ゼロは張り切ってそれに取り掛かることにした。

 そして始まる、ゼロからタロウへの指導。レオ仕込みのスパルタ教導は、タロウ相手でも
手を緩めることを知らなかった。
「やぁッ!」
 ゼロが放ったゼロスラッガーを標的にして、タロウがタロウショットを撃つが、静止している
スラッガーにもかすりもしない。
『駄目だ駄目だ、そんなんじゃ! まるで腰が入ってねぇぜ! 射撃は土台がしっかりしてねぇと
照準なんて絶対合わねぇ。腕じゃなくて、身体全体で射線を固定するんだ!』
「は、はい!」
 タロウはゼロの指示通りに腰を据えて、じっくりと撃とうとするが、スラッガーの動きが
変わって自分に向かって飛んできたので思わずのけぞる。
「うわぁッ!」
『ひるむな! 攻撃するのをじっと待ってる奴なんかいやしねぇ。敵は必ず反撃してくる! 
いちいちビビってたら戦いになんかなりゃしねぇぞ。恐れずに相手の動きをよく見て、
しっかりと当てていけ!』
「わ、分かりました!」
 厳しいながらも的確な指導を受けて、タロウはスラッガーの軌道をよく観察する。
『そこだッ!』
 そして飛びかかってきたところを射撃。初めて光線が命中した。
「やったぁー! 当たったぞぉ!」
『よーし、その調子だ! どんどん行くからな!』
 タロウに対するゼロの特訓は進む。……本の世界の時間経過は早い。物語が進むにつれ、
タロウは少年の姿からみるみる内に青年の姿へと変わっていった。

466ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:07:28 ID:HMTwEesM
 しかしゼロもそうそう簡単には抜かれない。タロウとの組手であっさりと一本を取る。
「うぅッ! 一撃も当たらない……!」
『小手先の動きに惑わされるから当たらねぇのさ。視点はもっと広く取って、戦う相手の
全体を見ろ! 集中力も足りねぇぞ。自分のやってる戦いの意味は何なのか、何を背にして
戦ってるのか、それを思えば集中できねぇなんてことはないはずだッ!』
「はいッ!」
 ゼロに熱心に鍛え上げられ、タロウの実力はめきめきと上がっていった。そしてその末に、
タロウ念願の時がやってきたのだった。
「ゼロさん! 父さんから指令がありました。私が地球に派遣される時がやってきました!」
『そうか、やったじゃねぇか!』
「はい! 今地球では、メフィラス星人がセブン兄さんに倒されたエレキングを復活させて
暴れさせてるようです。その退治を私が行うことになったんです!」
 メフィラス星人にエレキングとは、現実ではほぼ接点のない組み合わせ。まぁそれはいいだろう。
『遂に初めての実戦ってことだな。けど本当の戦いってのは、どんな訓練よりも険しいもんだ。
お前のことは随分と鍛え込んだが、だからって一瞬たりとも油断すんじゃねぇぞ』
「承知してます! それでは私の初陣、どうか見守っていて下さい!」
『ああ。俺も後から地球に行く。そこでお前の戦いぶりをじっくりと見物させてもらうぜ。
張り切って使命を果たしな!』
「お願いします! タァーッ!」
 ゼロに一礼すると、タロウは両腕を高く振り上げて宇宙へ向けて飛び上がった。
 いよいよタロウのウルトラ戦士としての初戦の時が来た。悪い怪獣をやっつけて、地球を
守るのだ! がんばれ、ウルトラマンタロウ!

467ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:08:56 ID:HMTwEesM
ここまでです。
今回は大分明るめ。

468ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:49:27 ID:hwFD3p2w
ウルゼロの人、乙です。自分もウルトラ5番目の使い魔、54話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

469ウルトラ5番目の使い魔 54話 (1/12) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:51:25 ID:hwFD3p2w
 第54話
 ここは夢の星だった
 
 カオスヘッダー 登場!
 
 
 この物語は、地球の少年平賀才人が、ハルケギニアの魔法使いルイズに召喚され、ゼロの使い魔となったことから始まった。
 彼らは数々の冒険や戦いを乗り越え、幾たびもハルケギニアを救ってきた。
 しかし、そもそも……なぜ彼らの冒険は始まらなくてはならなかったのだろうか? なぜ彼らの前に、宇宙を揺るがすほどの危機が次々と訪れなくてはならないのか。
 それは突き詰めれば、ハルケギニアという世界があるためだ。
 この世に、舞台なくして起きる出来事などはない。畑がなければ作物はとれず、空がなければ鳥は飛べず、水がなければ魚は泳げず、大地があるからこそ人は歩ける。
 かつて地球で無数の怪獣が暴れる怪獣頻出期があったのも、地球にそれだけの怪獣が生息できるだけの環境があったからだ。
 ならば、ハルケギニアがこれほどの異変に見舞われるだけの下地とはなんなのだろう? それは、才人とルイズの物語が始まるよりもはるか前。ハルケギニアの起源にさかのぼらねばならない。
 
 ハルケギニアの始まりのすべてを知る者。すなわちハルケギニアを作った張本人である人物、始祖ブリミル。だが現代にやってきた彼が子孫たちに告げた内容は、天雷の直撃のような衝撃を持って子孫たちの頭上に叩きつけられた。
「この星の住人ではないということは……始祖ブリミル、あなたはまさか……う、ウチュウ、人、なのですか?」
「君たちから見ればそうなるね。もっとも、サイトくんは薄々感づいていたようだけど」
 愕然とするハルケギニアの人々を見渡して、ブリミルは憂鬱そうに言葉を返した。その表情には、だから言いたくなかったんだという色がありありと浮かんでいる。
 この反応になるのは予想できた。ハルケギニアの人々にとって、宇宙人は現在では侵略者と同義語として認識されている。自分たちの敬愛する聖人が、自分たちがもっとも敵視するものと同一と聞かされたときの衝撃は、教皇の正体があばかれたときのそれにも勝るだろう。
 だが、そんなブリミルの様子に、才人は狼狽するハルケギニアの人間に代わって、彼をフォローするように話の続きを促した。
「ブリミルさんは隠し事は下手そうでしたからね。あんだけ長くいっしょにいたら、そりゃいくらおれでもちっとは怪しいって思ってたぜ……でも、おれの見てきた限りじゃあなたは悪い人じゃない。なにか事情があったんでしょ? それを説明してくださいよ」
 するとブリミルは、少しほっとした様子になり、それから何かを吹っ切ったように小さな笑顔を見せた。

470ウルトラ5番目の使い魔 54話 (2/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:53:27 ID:hwFD3p2w
「ああ、ありがとう。そうだね、サイトくんの言うとおりだ。まずは、話すべきことを話してからにしよう。少し長くなるけどね……とりあえずは、宇宙のことについてざっと予備知識として説明しておこうか」
 ブリミルはイリュージョンの魔法を併用しつつ、宇宙の基礎知識をまずは語った。この世界は宇宙という広大な空間であり、ハルケギニアはその中のひとつの星の中の一部であることを。
 それだけでも、ハルケギニアの人間にとってのショックは大きかった。彼らにとってはまだ神話のレベルである”この世のしくみ”を説明されたのだから当然である。エレオノールやルクシャナも内容を飲み込むのに必死で、全体として漠然としか伝わっていない。
 そんなブリミルを、才人は複雑な思いで見ていた。ブリミルもまた、ハルケギニアの外からやってきた異邦人。自慢ではないが、地球人の自分がこの世界に与えてきた影響は少ないものではない。増して、地球人よりはるかに進んだ宇宙人のもたらす影響などは想像もつかない。
 聞くことが怖い。しかし、聞かないわけにはいかない。やがて、前知識の解説を終えたブリミルはひと呼吸を置くと、サーシャとうなづきあって話の本題に入った。
「では、僕も覚悟を決めたから話そう。君たちも、少し酷かもしれないがまずは聞いてくれ。僕らマギ族はね、遠い昔から宇宙をさまよい続けてきた、あてどもない流民だったんだ」
 
 ブリミルはイリュージョンの魔法で記憶の光景を再現しながら、ゆっくりと自分たちの歴史を語り始めた。
 彼らマギ族が、元々どこの星から来た何星人だったのかはわからない。だが、彼らは遠い昔になんらかの理由で母星を失い、それ以来、移住できる惑星を求めて、長い長い宇宙の放浪の旅に出た。
 それがどれほどの時間を費やし、何世代に渡って続いたのかも、もはやわからない。しかし、彼らは自分たちのルーツも忘れてしまうくらいに長い時間を、たった一隻の宇宙船でさすらってきた。
「僕も故郷を知らないで、船の中で生まれた世代さ。いや、僕の生まれたころには、マギ族の本来の故郷を知る人間はひとりも残っていなかった。僕らの寿命は君たちと同じだから、少なくとも数百年は旅を続けていたんだろうね。けど、僕らが移住できるようなところは、なかなか見つからなかった」
 マギ族の宇宙船は宇宙をさまよい続け、移住できる星を探し続けた。しかし、生物が住んでいる星にはたどり着くことはできても、そのすべてが彼らの移住には適さないものばかりだったのだ。
 単純に、人間が住むのに適さない温度や気候条件の星だったことが一番多かったが、ようやく住めるだけの環境を持った星を見つけても、それらのほとんどには先住民がいた。移住はことごとく拒否され、彼らは再び宇宙へと追い出されていった。
 この事に、ルイズやティファニアは「ひどい」と感想を持ったが、アンリエッタが難しそうな様子でそれを否定した。
「たとえ最初は数千人でも、時間が経てば数は増えていくわ。それに、一度受け入れたら、同じような人たちが来たらまたそれを受け入れなくてはいけなくなるの。非情なようだけど、元々住んでいた人の平和を守るためには仕方がないことなのよ」
 ウェールズやカリーヌも、そのとおりだとうなづいている。地球で過去にも、地球に定住した宇宙人はいたが、いずれも少数で、隠れ潜んで住み着いている。たとえ悪意がなくとも、よそ者というそれだけで危険視されるに充分な理由だということを彼らは心得ているのだろう。決して地球人が排他的だというだけではない。
 もう何回目になるかわからない拒絶を受けても、マギ族は旅を続けた。宇宙のどこかには自分たちの永住できる星が、きっとあると信じて。
 しかし、現実は彼らの期待を裏切り続け、移住可能な惑星はどれだけ旅を続けても見つかることはなかった。もはやどれだけ旅を続けても無意味なのではないか? 絶望感が彼らを支配しかけていたときである。船のひとりの技術者が、超空間開門システムを完成させたのは。

471ウルトラ5番目の使い魔 54話 (3/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:56:23 ID:hwFD3p2w
「ちょう……なんですの、それは?」
「超空間開門システム。簡単に言えば、まったく違う世界と世界をつなぐことができる門を作り出す機械と思ってくれればいい。この世界に自分たちの住める星はなくても、別の世界にならあるかもしれないという望みが、僕らにとっての最後の希望だったんだ」
 才人は、「なるほど、つまり前に我夢さんが見せてくれたアドベンチャー号に似たもんか」と納得した。そしてルイズは、ブリミルの説明を聞いて、ふとあることに気がついた。
「それって、虚無の魔法にある『世界扉』と似ているわね」
「いいところに気がついたね。その魔法も関係してくるんだが、それは追々説明するよ。ともかく僕らは、一縷の望みをかけて次元の門を開いた。そして、その先にたどり着いたのが、この星の聖地だったというわけなんだ」
 それが始祖降臨の真実なのかと、場を戦慄が支配した。始祖は、神に命じられて降り立ったのではなく、神頼みで流れ着いたのだというのか。
 突きつけられる現実、しかしブリミルの話は続く。
「僕らは狂喜したよ。なにせ、僕らが夢見続けてきた理想の世界がここにはあったんだから。僕らが住むのにちょうどいい気候に、豊富な自然、なによりも発達した文明を持った先住民族がいない。そのころの僕は五歳くらいだったけど、よく覚えているよ。狭い船の中の生活から、無限の広さを持った青空の下で生活できるようになった喜びは、忘れられない」
 しみじみとブリミルは語った。
 マギ族はたどり着いた惑星を丹念に調査し、ここが移住に最適の地だとわかると早速入植を開始した。
 なにせ彼らは宇宙船の中だけで、数百年ものあいだ生活サイクルを続けられたほど高い科学力を持った種族である。それが、広さも資源も無尽蔵な惑星に解き放たれたのだから、開拓は見る見る間に進んでいき、聖地を中心にわずかな期間で、周辺には大都市が建造された。
 そこでは、東京都庁もかくやという巨大ビルディングが並び立ち、その中には王城のようにあらゆる生活設備がかねそろえられていた。マギ族はそこに住み、さらに地下にはオートメーション化された工場が配置されており、豊富な資源を元にあらゆるものが生産され、彼らはなに不自由ない生活を謳歌できた。才人の目から見てさえ、それは科学が生んだ理想郷とさえ言える巨大なメガロポリスであった。
「東京都心どころじゃねえ。ニューヨークやドバイだってここまでいかねえぞ」
 地球のどんな大富豪でさえできないであろう、究極の贅沢がそこにあった。願えばどんなものでもすぐに作り出され、食べ物はどんな珍味も簡単に合成され、その量に際限はなかった。
 これに比べたらトリスタニアなどは子供が砂場に作った城であろう。ハルケギニアの人間たちは圧倒され、エルフの都であるアディールでさえ田舎町にしか見えない規模にルクシャナも開いた口がふさがらないでいる。
 しかし、ついさっきまで宇宙船で流浪の旅を続けるばかりだった彼らが、いくら科学力があろうともここまでの都市を築けるとは行きすぎな気がした。これほどの力があるのならば、不毛の惑星のテラフォーミングもできたであろう。その疑問に、ブリミルはこう答えた。

472ウルトラ5番目の使い魔 54話 (4/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:57:26 ID:hwFD3p2w
「僕らをこの星に導いた超空間開門システムは、想定外の恩恵を僕らにもたらしてくれたんだ。つまり、ゲートの向こうの別の宇宙から、まるで雨が高いところから低いところに降るようにして、無尽蔵にエネルギーを取り出せるようになったんだよ」
 それがマギ族の短期間の発展の理由であった。別の宇宙からこの宇宙に流れ込んでくる無限のエネルギーは、マギ族に使いきれないほどの力をもたらしたのだ。
 けれども、彼らはそれだけで満足したわけではなかった。彼らは願い続けた生存権の確立はできたものの、彼らの人数はわずか数千人、都市にいるのは他にはロボットだけ、彼らが孤独感を感じ始めるのは当然であった。
 そこで彼らは生存権を広げるのと同時に、この星の先住民族との交流をはかり始めた。
「当時のこの世界には、発達した文明こそはないが、原始的な狩猟や農業をおこなっている人間たちの集落が点在していた。僕らは彼らを自分たちのコミュニティに加えようと試みたんだ」
 マギ族は事前に先住民族の文化・言語などを分析することで、彼らにもっとも有効なアプローチを用意して接触し、友好的な交流を築き上げていった。
 その様子はブリミルのイリュージョンの魔法で部屋に映画のように映し出され、ルイズたちはその友好的な様子を目の当たりにして、頬をほころばせていた。
 しかし、エレオノールやキュルケの顔はうかない。王家に伝わる、あの伝承が彼女たちの脳裏に蘇っていたからだ。
 そして、現地民に神のごとく敬われ、マギ族は勢力圏を爆発的に拡大していった。
 聖地、現在のサハラ地方を中心に、東方、西方は現ハルケギニアのガリア中部からゲルマニア中部までの村落が早々に影響下に置かれた。生活様式も、それまでは原始的な家屋が少数集まった集落がバラバラに点在したり、遊牧民的な生活を送っていたことから一転して、マギ族の用意した都市に多数が集まる中世的な様式へと変貌していったのだ。
 それはまさに文明の洪水であった。マギ族は現地民たちに自分たちの道具、技術を与え、さらに睡眠学習装置なども併用して知識、制度のレベルまでも高めた。
 ほんの数年で、粗末な小屋やテントしかなかった村は、現代のハルケギニアと見まごうばかりの都市へと変貌し、それが各地に続々と増えていった。その速度はまさに圧倒的で、エルフの技術に自信を持ってきたルクシャナでさえ感嘆として見ていた。
「まさに、人知を超えたこの世ならざる者の所業ね。普通なら、何百年、何千年もかけておこなう変化を、たった数年で。しかも先輩、あの都市の作り方、見覚えがあるでしょ?」
「ええ、アボラスとバニラが封じられていた悪魔の神殿にそっくり、いえ、そのものね。やっぱり、この時代に作られたものだったのね」
 ふたりは、各地でたまに見つかる高度な技術で作られた遺跡が、この時代の遺産であったことを確認してうなづきあった。あれほど高度な技術が用いられた遺跡が、いったいどうやって作られたのかはずっと謎だったのだが、最初から人間の作ったものではなかったというなら当然のことだ。

473ウルトラ5番目の使い魔 54話 (5/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:58:37 ID:hwFD3p2w
 マギ族の与える文明は、現代のハルケギニアよりもやや進んだ程度のレベルを基本として、それからもあらゆる方向へと進んでいった。農耕、漁業、牧畜の発展で食料は有り余るほど手に入るようになり、医療は化学工場で作られた薬品とロボットドクターによって病の恐れが消え、文字の普及によって本が作られるようになって娯楽の幅が広がり、さらには半永久電池による照明は焚き火しか明かりを知らなかった人々に爆発的に広がっていった。
 
 それは、文明が努力と失敗の積み重ねでできていると信じる者からしたら、まさに”反則”としか言いようの無い光景であった。
 
 地球でも、例えば明治維新のように社会制度と文明の流入による急速な発展の事例はあるが、これはその比ではなかった。例えるならば、明治維新は日本という白黒の下絵の上に文明開化という絵の具で絵を作ったようなもので日本という絵そのものは変わっていないが、マギ族のやったことは題名も決まっていない白紙のカンバスの上に文明のカラーコピーをしたようなものである。
 それでも、先住民族の文明化は止まらなかった。マギ族は先住民族が自分たちを神も同然の存在として受け取るように計算して接触しており、しかもマギ族の与えるものは確実に生活を豊かにしてくれたからである。苦痛には人は耐えられても快楽に耐えられる人間はそうはいないという理屈だ。
 都市化、文明化の波は、やがてこの星から夜の闇を消し去るほどに広まった。それに要した時間は、ほんの十年足らず……ほんの十年で、それまで野で獣を追い、狭い畑で粗末な野菜を育てるだけだった人間たちは、都市で夏は涼しく冬は暖かく、山海の珍味を季節によらず口にし、遊びきれないほどの娯楽に囲まれる生活を手に入れたのだ。
 マギ族は、聖地に建設した近代都市に住まい、世界中を統治した。そこはまさしく神の居城であり、通信を使って都市にいながら支配地に指令を出し、ときおりUFOに乗って支配地に降臨する彼らは神そのものであった。
 広大な支配地と支配都市の数々を、マギ族ひとりが少なくともひとつの都市を所有するようになっていた。その中には十五歳になったブリミルもおり、彼らは自分の支配地をいかに発展させるのかを最大の娯楽とするようになっていた。
「まさに、神の遊び。なにも知らない無垢な人々に、いろいろ吹き込むのはさぞ楽しかったでしょうね」
 サーシャが皮肉げに言うと、ブリミルはばつが悪そうに苦笑いした。
「まったく君はずけずけと言ってくれるね。だが、まったくそのとおりだよ。僕らは最初、友が欲しくて人々に接触していたけれど、いつしか調子に乗りすぎていってしまったんだ……そして君たち、これまでの様子を見てきて、なにか気づいたことはないかい?」
 真顔に戻ったブリミルがそう尋ねると、一同は顔を見合わせあった。
 違和感。そう、今まで見てきた中で、なにか現代のハルケギニアとは決定的に違う何かがあることを一同は感じ始めていたのだが、それが具体的に何かは一部の者を除いてわからなかったのだ。
 すると、一同の中からルクシャナが一歩前に出た。

474ウルトラ5番目の使い魔 54話 (6/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:59:46 ID:hwFD3p2w
「エルフの姿を見なかったわ。どの都市にも、住んでいるのは普通の人間ばかりで、わたしたちの同族はひとりも見なかった。いいえ、翼人も獣人も、人間以外のどんな人種も見かけなかった。ねえ、わたしたちの祖先はどこにいるの?」
 言われて皆ははっとした。確かに、これだけの巨大都市が乱立しているというのに、そこに住んでいるのは今で言う平民ばかりで、どこを見てもエルフのような亜人はおらず、それに家畜も馬や牛や豚ばかりで見慣れたドラゴンやグリフォンなどの姿はどこにもなかった。才人がタイムスリップした時にはいたのに、である。
 今のハルケギニアでは当たり前に見られるものが見えない。それになにより奇妙なことに、ハルケギニアならいなければおかしいはずのメイジ……魔法を使う人間が一切見当たらない。それが不自然すぎる。
 ここがハルケギニアの過去なら、この不自然さはいったい? 違和感の正体に一同は首を傾げたが、ふとルイズが思い出したように言った。
「確か、ブリミル教の教義では始祖ブリミルが魔法の力を授けたとあるわ。もしかして、それがこれからなんじゃないの?」
 ルイズのその言葉に、ブリミルはゆっくりとうなづいた。しかしその表情はとても重く、やがて彼は血を吐くように話し出した。
「僕らマギ族は、この星の人々に与えられるものを次々に与えていった。それは、さっきも言ったとおり最初のうちは僕らの仲間を増やしたいという純粋な思いからだったけれど、この星で無垢な人々を相手に神のように力を振るい続けているうちに、いつしか僕らは自分たちが本当の神であるかのように思い上がるようになっていったんだ」
 ブリミルの言葉とともに、繁栄を謳歌していた都市に異変が起こり始めた。それまでは各都市が自由に交流をできていたのが、突然人の行き来が禁止され、それぞれの管理者の都市ごとに隔離されてしまったのだ。
 いったいなにが起きたのか? その答えは困惑する面々の前に、もっとも残酷な形で現れた。
 
「えっ? 人間同士で……戦いが!?」
 
 マギ族の支配する都市同士での戦争、それが破局の始まりであった。
 ブリミルは語った。
「人々を支配しきり、星を完全に開拓しきった後のマギ族は、とほうもない”退屈”に襲われたんだ。やるべきことをやりきって、やらなきゃいけないことがなくなってしまったマギ族は、新たな”楽しみ”を探し求めた」
 
 マギ族は、惑星開拓という大事業に成功した後の喪失感を埋めるための、退屈しのぎを追い求めたのである。
 最初、それはマギ族同士で自分の支配する都市の充実具合を競い合うものであったが、彼らはすぐにそれに飽きて、より直接的な刺激を求めるようになった……
 それがすなわち、自分の都市の住人を兵士に仕立てての戦争ゲームである。
 もちろん最初から殺し合いをさせたわけではない。彼らにもちゃんと良心はあり、武器は殺傷能力のないものを持たせて、様々なルールを作って勝ち負けを競った。サバイバルゲームの大規模なものだと思えばいい。住人たちも、神々の命ずることだからと無抵抗に従った。

475ウルトラ5番目の使い魔 54話 (7/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:00:39 ID:hwFD3p2w
 だが、彼らはこの遊びを甘く見すぎていた。この世で、自分が傷つくことがないならば戦争ほど楽しいゲームはほかにない。そしてサバイバルゲームならば、いくら熱中しても社会的制裁を恐れてルールは厳密に守られるが、彼らマギ族をしばる社会的なたがは何もなかった。
 マギ族は、この戦争ゲームに泥沼のようにはまっていった。当初はそれこそ、模造の剣や槍だけを使った中世的な戦争ごっこだったものが、すぐさま銃や大砲を大量に用いて砦を攻め落とすようなものに、規模も複雑さも増して行き、さらに住民たちも強力な武器を用いて傷つくことなく好きなように暴れられるこのゲームに熱中した。
 アンリエッタやウェールズは、ハルケギニアの王族の中にも退廃した享楽に溺れた例はあると聞いたが、ケタが違うと戦慄した。他の面々も、顔色をなくし、冷や汗をかきながらようやく見つめている。
 
 ただ、この時点で踏みとどまることができれば、まだ遊びで済んでいただろう。しかし、彼らは知らず知らずに超えてはいけないラインへ踏み入り、遊びに入れてはいけない要素を取り入れてしまった。
 賭けの登場である。
 マギ族はお互いに直接戦うだけでなく、他人の勝負をダシにして賭けに興じるようになった。質に使われたのは住民から都市そのものまで幅広い。
 が、賭け事とは愚者の道楽である。しかも、個人がはまる分にはそいつひとりが破滅して他者の冷笑の的にされるだけだが、責任ある立場の者が賭け事にはまるとおおむね他人を巻き添えにする。
 地球の歴史上も、国を担保に賭けをして悲劇を巻き起こした王や軍人は枚挙に暇が無い。そしてその例は、ここでも完全に再現された。
 賭けに負けて、自分の所有する都市や領民を巻き上げられたマギ族の者は、怒りからさらに賭けに没頭した。しかし賭けるものがすでに無い彼らは、賭けの質を自ら作り出し始めた。それはすなわち、戦争ごっこをより魅力的に刺激的に変えることのできる、新たな駒の製造である。
 画像が、マギ族の所有する工場の内部へと切り替わったとき、一同の顔は驚愕と恐怖に彩られた。
「ドラゴンが……グリフォンが……つ、作られている」
 そこでは、大きな水槽の中で様々な生き物が改造されている様が鮮明に映し出されていた。
 トカゲやワニが大きくなってドラゴンになり、鷲とライオンが合成されてグリフォンになり、ただの馬に角が生やされてユニコーン、翼が生やされてペガサスになった。それらの目を疑うばかりの光景を、ブリミルは淡々と説明した。
「バイオテクノロジー。簡単に言えば、猪を飼いならして豚に変え、犬や猫の交配を繰り返して新しい品種を作り出すことを極限まで進歩させた技術だと思ってくれればいい。マギ族はこれを使って、次々に新しいしもべとなる生き物を作り出していったんだ」
 もはや誰も言葉も無かった。ドラゴンやグリフォンの他にも、魔法騎士隊で使われているヒポグリフやマンティコア、火竜や風竜、サハラに生息する水竜や海竜が作られている。また、戦闘用の幻獣の他にも、ただの鳥から極楽鳥が作られて、愛玩用に売却されていくのも映っていた。

476ウルトラ5番目の使い魔 54話 (8/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:02:00 ID:hwFD3p2w
 才人はこれで、なぜ地球とほとんど同じような環境をしたハルケギニアで、地球とまったく違う生物が存在しているのかを知った。ハルケギニア固有の生き物は、全部とは言わないがドラゴンのように攻撃性が強くて軍事利用が容易なものか、家畜として利用価値の高いものが多いのは、最初から人間が利用するために作り出した人工種だったからというわけだったのだ。
 地球でも実用化が進んでいる技術だが、マギ族のやるそれは文字どおり次元が違った。小さなものは人語を解する動物から、大きなものは船のような鯨竜まで、それらが粘土細工のように生産されていく様は恐怖でしかない。特に、人語を話す風竜、つまりシルフィードと同じ韻竜が生み出されているのを目の当たりにしたときにはタバサでさえひざを突いて嗚咽した。
「タ、タバサしっかりして!」
「だ、だいじょうぶ……大丈夫だから」
 ルイズとキュルケが慌てて助け起こしたが、タバサの顔は蒼白そのものだった。他の面々も大なり小なり青ざめていて、エレオノールはここにカトレアを連れて来ていなくてよかったと心底思っていた。生命の創生はまさに神の御技だと思ってきたが、まさかこんな遊びの一貫でおもちゃのように作り出されていたとは。
 しかし、これはまだ序の口でしかなかったのだ。作り出されたドラゴンなどの人造生命体は、戦争ごっこに投入されると、その様相を劇的に変貌させた。それはまさにファンタジックかつスリリングな光景で、火を吹くドラゴンに乗って空から舞い降りてくる騎士の姿にマギ族は歓喜し、幻獣同士の肉弾戦に歓声を上げ、さらに激しくのめりこんでいった。
 だがその一方で、戦わされている人間たちは果てしなく続く茶番劇にすでに飽きてしまっていた。彼らにとっては戦勝のたびにもらえる適当なご褒美以外にはうまみがなく、それどころか戦うたびに主人が変わったり、新しい主人のところへ強制的に移らされたりするので、戦闘の興奮に飽きてしまうと後は一気に冷めてしまったのだ。
 マギ族と先住民とのあいだに溝が生まれ、それは急激に開いていった。マギ族は相変わらず戦争ごっこと賭けに狂奔していたが、先住民たちは神に等しいマギ族に逆らう術などなく、仮に逆らう気力があったとしても、かつての貧しい生活に戻ることなどできようはずもなく、ただただ戦いに駆り立てられていった。
 ひたすら繰り返される死なない戦争。武器は派手に見えてもすべて殺傷力はなく、ドラゴンの攻撃に対してもボディスーツに仕込まれたバリヤーが働いて、戦闘不能判定が出るだけで無傷で済む。万一なんらかのアクシデントで負傷しても即座に治療されて再び戦場に舞い戻らされる。その繰り返しにより、ノイローゼになる者も続出した。
 アンリエッタやウェールズは、かの無能王でもここまでむごいゲームはするまいと戦慄に身を震わせる。恵みの神はいつしか、人々を弄ぶ悪魔へと堕落してしまっていた。
 
 だが、カリーヌやエレオノール、キュルケは知っていた。王家に伝わる伝承、成人した人間しか知ることの許されないほどの危険な秘密が語る六千年前の真実は、まさにこれからが本番だということを。
 
 マギ族の精神的退廃はその後も急激に進み、彼らはもはや傲慢な支配者以外の何者でもなくなってしまっていた。
 そして、彼らはついに戦争ごっこにも賭けにも飽きてきた。

477ウルトラ5番目の使い魔 54話 (9/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:05:49 ID:hwFD3p2w
 もっと刺激を! もっと楽しいことを!
 欲というものは満たされ続ける限り、無限に肥大化して終わりがない。そして歯止めの利かない欲望は、ついに彼らの良心を深奥まで蝕んでいった。
 自分より多く領地を持っているあいつが憎い。嫉妬はついに爆発し、戦争ごっこはとうとう惑星の支配権を賭けたマギ族同士の本物の覇権戦争へと拡大していったのだ。
「武器は実弾に変わり、戦闘は完全に奪い合いに変わった。僕自身も例外じゃなく、自分の領地で近隣の同胞と争っていたよ」
 ブリミルの領土はどこかの湖のほとりで、若い彼はそこで多くの同胞と同じように住民を駆り立てていた。それは現在の温厚な彼からは信じられないほどの冷酷な様で「突撃しろ! 退く奴は後ろから撃て」などと叫んでいた。
 聖人のかつての信じられない姿に呆然とする一同。だがその光景に、エレオノールはカリーヌに確信を持って言った。
「お母様、わたくしたちの祖先が水の精霊から聞いたという古代の伝承は……正しかったのですね」
「ええ、古代のラグドリアン湖の周辺を支配し、争っていた異邦人。その中の一人の名が……ブリミル。そして伝承のとおりなら、この後……」
 そう、秘匿に秘匿されてきたハルケギニア最大の秘密がこの先にある。
 ブリミルは暗い声で、感情を押し殺して淡々と続けた。
「戦いは激化し続けた。けれど、僕らには優れた医療技術があったおかげで、仮に致命傷を受けたとしても治すことが可能だったために、勝敗はなかなかつかずに長引き続けた。当然、もっと強い武器をと僕らは考え……ついに最後のタブーさえも犯してしまったんだ」
 イリュージョンの再現映像が、着陸しているマギ族の円盤を映し出した。そして、その中に住民たちが連れ込まれている様子が映し出され、中でなにが行われているのかに切り替わったとき、今度こそ全員の眼差しが恐怖に染まりきった。
 
「に、人間が……人間が改造されている」
 
 円盤の内部の部屋には、ドラゴンを作り出していた工場にあった水槽と同じようなものが並べられており、その中には連れ込まれてきた近隣の人々が浮かべられていた。
 死んでいるのか? 水槽の中に浮かべられている人間たちは目をつぶったまま身動きしないが、水槽の中の液体は不思議な明滅を続けており、中の人間に何らかの手が加えられているのは誰の目にもわかった。
 そして、水槽から出された人は、自分の身に何が起こったのかを理解できていない様子だったが、ロボットから一本の棒を渡されると、何かに気づいたようにそれを振った。
 その瞬間、すべての謎は解かれた。
 
『ファイヤーボール』
 
 呪文とともに棒……いや、杖から炎の玉が放たれると、誰もがすべてを理解した。

478ウルトラ5番目の使い魔 54話 (10/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:08:14 ID:hwFD3p2w
「ま、魔法……」
 それは間違えようも無く、ハルケギニアの人間ならば知っていて当然の魔法……魔法そのものであったのだ。
 水槽から出されてきた人々は次々と杖を渡され、水槽内ですでに脳に使い方を刷り込まれていたのか苦も無く魔法を使い始めた。エア・カッター、ウィンドブレイク、錬金、今のハルケギニアで当たり前に使われている魔法が完全にそこに再現されていた。しかも、使っているのはそれまで魔法を使ったことなど無い普通の人間たちである。
 魔法の力を得て、戸惑いながらも歓喜する人々。それを見て、エレオノールは冷や汗を流しながら言った。
「ま、魔法の力は脳の働きに由来するっていう説があるわ。メイジの脳は、ほんの少しだけど平民の脳より大きいから、きっとその部分が魔法を使うために必要なんだろうって。だから、なんらかの方法で人間の脳をいじることができれば、理論上は平民でも魔法が使えるようにはなる、のが学者の中ではささやかれてたけど……私たちの技術では絵空事に過ぎなかった。だけど、もしも私たちよりはるかに技術の進んだ誰かが、過去にいたとしたら」
 学者たちの中で密かに流れていた、決して表立って言うことのできない魔法の起源説。しかしそれは、もっとも残酷な形で的を射ていたのだ。
 ブリミルは補足説明をした。
「僕らは長い旅の中で様々な超能力を持った宇宙人たちと会い、その能力を記録し続けていた。その能力を人間の脳に刻み込み、呪文というワードをキーにして解放できるようにした。それが、君たちの言う魔法の正体だ」
 ただし、人間の脳を改造するということは、これまではマギ族たちもやりすぎだと忌避してきた。しかし熱狂する彼らは、その羞恥心さえも捨て去ってしまったのだ。
 魔法を使える兵隊の投入は、戦場をさらに激しく変えた。現在でも、メイジと平民の間に大きな差があるのは周知の事実だ。それを近代武装をした兵士が持ったとしたらどうか? 単純な話、グリーンベレーやスペツナズが魔法を使えるようになったらもはや手がつけられないだろう。
 メイジを戦線の主軸に添えたマギ族の軍隊は支配領域の大幅な拡大に成功した。しかしそれは一時的なものに過ぎず、相手もこちらと同じ技術力があるなら新兵器は簡単に模倣される。すぐにどのマギ族もメイジを量産し、戦いはふりだしに戻った。
 すると、メイジ以上の兵隊を欲するのが当然だ。マギ族は今度は人間の直接の強化に乗り出した。
 バイオテクノロジーのモラルを失った乱用は、人間をベースに考えられる限りの強化が行われた。背中に翼を植えつけて直接の飛行能力を持たせたり、獣の遺伝子を配合して身体能力の強化を狙ったり、逆に人間の遺伝子を豚や牛に植えつけることで最低限の知能を有する使い捨ての突撃兵を量産したりもした。
「翼人、獣人、オーク鬼にミノタウルス……」
 ルイズが震えながらつぶやいた。それらの亜人たちが人間を材料にして次々と量産され、戦場へと投入されていくごとに混沌は深まっていった。
 しかしそれは、確実に現代のハルケギニアの光景に近づいてきていることでもあった。そして遂に、マギ族は戦闘用改造兵士の最高傑作と呼ぶべき一品を作り上げた。
 メイジよりはるかに強い魔法の力を持ち、人間より優れた肉体で寿命が長く、そして遺伝子操作によって男女問わず美貌を持つ新人類。それが改造用水槽から姿を現したとき、ティファニアとルクシャナはこれが悪夢であることを心から願った。

479ウルトラ5番目の使い魔 54話 (11/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:09:51 ID:hwFD3p2w
「エ、エルフ……」
 同族であるルクシャナにははっきりとわかった。いや、間違えるほうが困難であろう。
 透き通るような金髪、ひとりの例外もない美貌、そして人間よりも長く伸びた両耳。それはすべて、彼女たちエルフのそれそのものであったのだ。
 エルフまでもが『作られている』。しかも、人間をベースにしてである。先住魔法も本物だ……ルクシャナは、自分の歯がカチカチと鳴っているのを止めることができなかった。
 戦場に投入されたエルフは、ハルケギニアの歴史で何度も繰り返された聖戦で展開された光景同様に、強力な先住魔法で人間の軍隊を蹴散らしていった。近代武装を持つ上に先住魔法を駆使するエルフの軍隊の威力は、たとえ地球の軍隊であったとしてもかなわないかもしれないほどの強さを見せていた。
 しかしそれも一時のことで、戦いはすぐにエルフ対エルフの戦いへと転換する。その繰り返し……繰り返し……繰り返し。
 
 ブリミルが説明を切って、イリュージョンのビジョンを閉じると、一同の中で顔色を保っている者はいなかった。才人も言葉を失い、カリーヌも拳を強く握り締めたままで立ち尽くしている。部屋の入り口で見張りについているアニエスとミシェルも、冷や汗を隠しきれていない。
 これが……これが事実ならば、今のハルケギニアという世界は。誰もが認めたくないという思いを抱いている中で、タバサが勇気を振り絞ってブリミルに問いかけた。
「なら、今ハルケギニアにいる、幻獣や亜人たち、エルフ……そして、メイジというのは」
「そう、すべて僕らマギ族が”兵器”として作り上げた人造人間なんだよ」
 完全なるブリミルの肯定が、一同のすがった最後の甘い藁を焼き払った。
 ハルケギニアとは、そこに住む生き物とは、そのすべてが作り物だった。
 アンリエッタがあまりのショックによろめいて倒れかけ、ウェールズに慌てて支えられた。ルクシャナは部屋の隅で激しく嘔吐し、ティファニアに背中をさすられている。そのティファニアも今にも泣きそうだ。
 エレオノールはルクシャナの気持ちがわかった。自分たちが始祖ブリミルの伝説が虚構であったことを知ったのと同様、頭の回転の速いルクシャナは、自分たちの信じる大いなる意思というものが宇宙人の能力の移植によって感じられるだけの虚構かもしれないと思い至ったからだ。
 大厄災の以前の記録が一切残っていないのも至極当然だ。それ以前の歴史など、最初から存在しなかったのだから。この星の魔法を使えない人間以外の知恵ある生き物はすべてが、六千年前に突然現れた箱庭の人形に過ぎないというのか。
 自分の信じるものが音を立てて崩れていく絶望。なにもかも、自分自身さえもが虚構であると知らされて平静でいられる者はいるまい。もしこの事実が公になれば、人間社会もエルフの社会も大混乱に陥ってしまうだろう。
 その中で、なんとかルイズとキュルケは深呼吸をしながら自分を保っていたが、ルイズはやがて歯を食いしばると激昂してブリミルに杖を向けた。

480ウルトラ5番目の使い魔 54話 (12/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:13:33 ID:hwFD3p2w
「あんたは、あんたたちは! この世界をなんだと思ってるのよ!」
「ちょっ、ルイズ落ち着きなさい!」
 キュルケが慌てて抑えたが、ルイズの怒りは止まらなかった。エレオノールや才人も止めに入るが、ルイズは両手を押さえられながらも涙を流しながら杖を振り回している。
「離して、離してよ! 全部、全部こいつらのせいじゃない。こいつらさえ来なかったら」
 今にもエクスプロージョンを暴発させそうな勢いのルイズに、とうとうカリーヌが手を出しそうになったときだった。ブリミルは深々と頭を下げて言った。
「すまない、君の言うとおりだ。すべては僕らの犯した罪、侘びのしようもない」
「謝ってすむ問題じゃないでしょ! ハルケギニアは、あんたたちのおもちゃじゃないわ」
「そのとおりだ。きっと、僕らが本来の故郷を失ったのも、その傲慢さがあったからなんだろう。僕らは、なんの罪もないこの星の人々に取り返しのつかないことをしてしまった」
 ブリミルは心からかつての自分を悔いていた。しかし、ルイズの怒りがそれでも収まらなかったとき、サーシャがブリミルをかばうように前に出た。
「待ちなさいよ。こいつに手を出すのは、私が許さないわ」
「なによ、あんただって元は人間でしょ。そいつの肩を持つの?」
「まだ話は終わってないわ。怒るのは、最後まで聞いてからにしてからでも遅くはないんじゃない? それに、こいつは一応は私の主人だからね、こいつをしばくのは私の特権よ」
 え? それ普通は逆じゃない? と、ルイズは思ったが、心の中でツッコミを入れたおかげで少し冷静さが戻って体の力を抜いた。
 部屋の空気にほっとしたものが流れる。結果的にだが、ルイズが暴れたことが適度なガス抜きになってくれたようだった。
 ルイズが引いた事でブリミルも頭を上げた。そしてサーシャに「すまないね」と声をかけると、再び杖を持ってイリュージョンの魔法を唱えた。
「もう少しだけ続くので、すまないが付き合ってくれ。エルフも加え、マギ族の戦争は激化の一途を辿った。だが、長引く戦乱とそれによる星の環境の破壊は、僕らも想定していなかった事態を招いた。戦火に釣られるようにして、この星の中に眠り続けていたものたちが次々と目覚め始めてしまったんだ」
 大地の底から目覚める無数の巨大な影。それが破局の始まりであった。あまりに星の環境を変えすぎてしまったことが、この星のもうひとつの先住種族である怪獣たちの眠りを妨げたのだ。
 土煙をあげて地の底から次々と現れる巨大怪獣たち。
 
 ゴモラ、レッドキング、ゴルメデ、デットン、キングザウルス、キングマイマイ、パゴス、リトマルス、ガボラ、ボルケラー、バードン。
 
 一挙に目覚めた怪獣たちは、まるで眠りを妨げたものがなんであるのかを知っているかのように人間たちに襲い掛かっていった。

481ウルトラ5番目の使い魔 54話 (13/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:16:01 ID:hwFD3p2w
 巨体で暴れ、火を吹く怪獣たちの前には、マギ族の軍隊もまるで無力であった。一体や二体ならまだしも、怪獣たちはどんどんと現れてくるのだ。しかも戦争中だった彼らは、怪獣と戦っている背中から敵に狙われるのを恐れて連携などまるでとれなかったのだ。
 怪獣たちの猛威に、マギ族の中にも少なからぬ犠牲者が現れた。サハラの首都にいた者は別だが、各地方都市で戦争の陣頭指揮に当たっていた者は直接の被害を受けてしまったのだ。
 しかし、マギ族はこの事態になっても戦争をやめようとはしなかった。それどころか、むしろ怪獣たちを操って戦争の道具にしようとさえし始めたのだ。
「なんて愚かな。守るべきものも、大儀すらない戦争になんの意味があるというのだ」
 ウェールズがアンリエッタの肩を支えながらつぶやいた。レコン・キスタとの戦いで数多くのものを失った彼の言葉は重く、皆をうなづかせた。
 それでも、マギ族の優れた科学力は何体かの怪獣を従わせることに成功した。そして従えた怪獣たちを使って、戦争は続いていく。もはや、この戦争の落としどころをどうするのかなど、誰も考えてはいなかった。
 だが、これがマギ族が破滅を回避することのできる、本当に最後のタイミングであったのだ。マギ族は惑星原産の怪獣にはなんとか対抗できたものの、星の動乱に引き付けられるようにして、宇宙から多数の宇宙怪獣までもが来襲するようになったのである。
 
 ベムスター、サータン、ベキラ、メダン、ザキラ、ガイガレード、ゴキグモン、ディノゾール、ケルビム、そしてアボラスにバニラ。
 
 これらでさえ氷山の一角なほど、宇宙怪獣たちは先を争うかのように惑星に殺到し、その凶悪な能力を駆使して大暴れを始めた。
 たちまちのうちに炎に包まれ、灰燼に帰していく都市。摩訶不思議な超能力を駆使する宇宙怪獣の大軍団を相手にしては、いかなマギ族の超科学文明とても敵うものではなかったのだ。
 地方都市は次々に壊滅し、マギ族は従えた怪獣で宇宙怪獣に対抗しようとしたものの、しょせんは焼け石に水。軍隊は人間も亜人もエルフも疲弊しきり、士気もないも同然。まして、マギ族同士は今日まで戦争をしてきた相手を信用などできず、連携などはまったくできない。
 すでに戦争どころではないにも関わらず、それでも戦争は続いていた……まさに愚行の極み。だが、この世のすべてのものには終わりがある。
 そう、終わりを導く本当の破滅が現れたのだ。
 戦乱渦巻く世界に、空から舞い降りてくる金色の光の粒子。「あれは!」と、才人は叫んだ。
「すべての秩序が崩壊した混沌の世界に、そいつはやってきた。ヴァリヤーグ……我々はそう呼んだ、宇宙からやってきた、光の悪魔」
 ブリミルがそうつぶやく前で、光の粒子が地上の怪獣、宇宙怪獣問わずに取り付いて、凶悪な変異怪獣へと変えていった。そして強化・凶暴化した怪獣たちの前に、マギ族の武力は無力であった。
 一方的な破壊が文明を、マギ族の築き上げてきたすべてを炎の中に消し去っていく。マギ族の終わりの始まりが、夢の終わりの時が来たのだ。
 ヴァリヤーグ? あの光の粒子はいったい……戦慄する面々の中で、ティファニアだけがまるで知っていたかのように、ひとつの名をつぶやいた。
「カオスヘッダー……」
 無数のカオス怪獣の猛攻にさらされ、青く美しかった星は赤黒く塗り替えられていった。
 そして、廃墟の中をカオス怪獣に追われて逃げ惑う少年ブリミル。虚無の系統と、始祖の伝説の誕生……本当の愛と勇気と希望のために歩き始める、語られない歴史がここから始まる。
 
 
 続く

482ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:17:36 ID:hwFD3p2w
今回は以上です。ウル魔版の始祖ブリミルの伝説、その始まりです。
思えばずいぶん前から伏線を引いてきたことですが、ようやくここで回収です。
それにしてもイリュージョンの魔法は便利です。もし四系統にこれがあったらギーシュあたりがエロいことに使いまくりそうですね。
では、次回は大厄災の真実に迫ります。

483名無しさん:2017/01/25(水) 08:50:30 ID:PBuWQPRI
ウルトラ乙
5番目の人の設定見て、SAMURAI DEEPER KYOを思い出したのは私だけだろうか

484名無しさん:2017/01/25(水) 21:05:11 ID:Zb3fg5l.
ブリミルがまだ子供〜少年の間に起きた事件だったんですか……

485名無しさん:2017/01/26(木) 16:54:53 ID:pvlTCPiQ
乙です。
ブリミル達とハルケギニアの人達の関係は、ヤプールと超獣の関係とさほど変わらないなんて・・・。
そりゃ涙も流すし、吐きもするだろう。
さらにその先の真実。次回も楽しみにしています。

486ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:39:50 ID:utWO93KQ
どうも皆さま今晩は、無重力の人です。
特に何もなければ21時43分から79話の投稿を開始したいと思います

487ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:43:06 ID:utWO93KQ
 八雲紫は夢を見ていた。ほんのちょっと前の出来事で、けれども決して取り戻せないとわかってる昔の思い出。
 冬眠の時に見る近くて遠い世界の出来事ではなく、自分が造りあげ、そして残酷で優しい仕組みを持ったこの世界での思い出。
 彼女たち妖怪にとって「ほんのちょっと前」と軽く言える月日は人間にとって十数年前と言うそれなりに長い月日の過去。
 あの頃の記憶を夢の中で見ていた紫は、幻想郷と外の世界の境目である博麗神社の境内に立っていた。 

「………ちょっと暑くなってきたわね」
 彼女はこれを夢の中と知っていながらも、身に着けている白い導師服をそろそろ季節外れだという事に気が付く。
 あの時と同じだ。夢の中と同じく季節が春から初夏へと移ろいゆく時期、自分は確かにここにいた。
 肌を撫でる゙暖かい゙気温が緩やかに、しかし確実に゙暑い゙熱気へと変わっていくそんな時期。
 今目の前に見える『数十年前の博麗神社』の中にいる、まだまだ幼く放ってはおけない゙彼女゙の様子を見に来ていたのである。

 白色ながらも、頭上の太陽と境内の大理石を反射する熱気という挟み撃ちで流石の八雲紫もその顔に一筋の汗を流してしまう。
「参ったわね、夢の中だというのに…こうも暑いと感じてしまうなんて…――ーそういえば、この時は…」
 衣替えはやっていたのかしら?一人呟きながらも、彼女は右手の人差し指で何もない空間にスッと『線を引く』。
 瞬間、人差し指で引いた線が縦へ大きく開いだスキマ゙となり、幾つもの目玉が彼女を覗く空間から愛用の日傘が飛び出てくる。
 紫は右手でその日傘を掴むと、まるで役目を終えたかのように゙スキマ゙は閉じ、跡形も無く消滅した。
「…確か、この年は外の世界の影響を少し受けてしまっていたのよね?あの時は…色々と大変だったわぁ」
 ゙彼女゙の先代―――つまり三十一代目の巫女がいた頃の当時を思い出しながら、傘を差した時―――
 懐かしくて愛おしくて―――今の゙彼女゙も思い出してほしい、当時の幼ぎ彼女゙が背後から声を掛けてきた。

「あっ、ゆかりー!ゆかりだー!」
 今の゙彼女゙に聞かせたら、思わず赤面して耳を塞いでしまうような舌足らずな声。
 日傘を差し終えたばかりの紫はその声に後ろを振り向くと、小さな巫女服を着た女の子がこちらへ走ってくるのが見えた。
 まだまだ年齢が二桁にも達していない子供特有の無邪気な笑顔を浮かべ、服と別離した白い袖を付けた腕を振り回しながらこちらへと駆けてくる。
 やや茶色みがかった黒髪と対照的な赤いリボンもまだまだ小さいが、却ってそれがチャームポイントとなっていた。
 笑顔で駆けつけてくれた小さな゙彼女゙に思わずその顔に笑みを浮かべつつ、紫ば彼女゙の体をスッと抱きかかえる。
 妖怪としてはあまり体力がある方とは言えないが、それでも゙彼女゙の体重は自分の手には少し軽かったと紫は思い出す。
「久しぶりねぇ…お嬢ちゃん。元気にしていたかしら?」
「うん!」
 ゙彼女゙は快活に頷き、ついで小さな両手で自分を抱いている紫の頬を触ってくる。
 ようやく柔らかい皮膚の下にある骨の硬い感触が少しだけ伝わってくる゙彼女゙の手。
 いずれはこの小さくも大切な世界の一端を担う者の手はほんのりと暖かく、微量ではあるが霊力の感じられる。
 まるで素人が見よう見まねで作った枡のように、ほんの僅かな隙間から零れていく酒のように゙彼女゙の力が漏れ出していく。
 この夢の中ではまだまだ幼い子供である゙彼女゙が、霊力を制御できるほどの知識や技術を知ってはいなかった事を紫は思い出す。

(そういえば、この頃はまだまだコントロールしようにもできなかったっけ…)
 霊力でヒリヒリと痛む頬と、今の自分の状況をを知らずに無邪気に障ってくる゙彼女゙の笑顔を見て紫は苦笑いを浮かべる。
 こうして夢の中で思い出してみれば、やはり゙彼女゙には恵まれた素質があったのだとつくづく納得してしまう。
 それは後に、この夢の中より少しだけ大きくなった彼女の教師兼教官役となった紫自身の思いでもあった。
(まぁ、後々教師役となる私が言ってしまうと…色眼鏡でも付けてるんじゃないかってあの娘に言われてしまいそうだけど…―――…ん?)
 夢の中でそんな事を思いつつ、まだまだ小さい゙彼女゙を抱きかかえていた紫は、ふと背後に何者かの気配を感じ取る。
 それは自分を除いて今この場に居る人間の中で最も力強く、下手すれば彼かまわず傷つけようとする凶悪な霊力の持ち主。
 故に妖怪だけではなく人間からも怖れられ、゙彼女゙と共に暮らしていた三十一代目博麗の巫女の気配であった。

488ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:45:04 ID:utWO93KQ
「あら、何やら胡散臭い気配がすると思ったら…アンタだったのね」
 まるで刃物の様に研ぎ澄まされ、少しドスを利かせれば泣く子が思わず黙ってしまう様な鋭い声。
 その声も今は共に暮らしている小さかっだ彼女゙がいるおかげか、どこかほんのりと落ち着いた雰囲気が漂っている。
 ここが夢の中だと自覚してはいるものの、実に十数年ぶりに聞いた三十一代目の声に紫の頬も自然と緩んでしまう。
「あらあら、随分大人しくなったわね?ちょっと前までは、境内に足を踏み入れただけで威嚇してきたというのに…」
「人を獣みたいに言うなっての」
 口元を袖で隠しながら呟いた紫に、巫女は苛立ちをほんの少し見せた言い方でそう返した直後、
「あっ、お母さん!」
 紫が抱きかかえていだ彼女゙がそう叫んで地面に着地すると、まるで脱兎の如き足の速さで巫女の下へと駆け寄っていく。
 そして巫女の近くまで来ると一旦足を止め、自分を見下ろす巫女を中心にグルグルと走り回る。
「こらっチビ!あんたねぇ、朝食が済んで早々神社の外へ出るなってアレほど…ちょ、人の話を聞けっての!」
 何やら巫女ば彼女゙に軽いお説教をしてやりたいのだろうが、肝心の゙彼女゙は忙しなく動き回っている。
 紫はそんな二人に背中を見せていたが、その時の光景は夢として見る前の現実でしっかりと目にしていた。
 両手を広げて笑顔で走り回る幼ぎ彼女゙と、そんな彼女にほとほと呆れながらもほんの少しだけ口元を緩ませていた巫女。

 ゙彼女゙がこの幻想郷の住人となったのは、この夢の中では半年も前の事。
 寒い寒い冬の山中。外の世界へと通じる針葉樹の森の中で、゙彼女゙は巫女に助けられた。
 その時、周囲に転がっていた炎上する鉄塊と身に着けていた服で、外の世界からやってきた者だと一目で分かった。
 当然の如く身寄りなどいるはずもなく、右曲折の末に゙彼女゙は巫女の下で育てられことになる。
 なし崩し的に゙彼女゙と暮らし始めてからというものの、孤独に暮らしていた巫女は他人というモノを初めて知ることが出来た。
 三十一代目には色々と問題があり、人里との付き合いも希薄であった故に゙彼女゙を受け入れてくれた時、紫は安堵のあまり胸をなで下ろしたものである。
 
(懐かしいわね…何もかも。―――夢とは思えないくらいに…)
 背後から聞こえる楽しそうな゙彼女゙の嬌声を耳に入れながら、紫はその場に佇んでいた。
 今夢で追体験しているこの日は、自分と巫女…そしで彼女゙にとってとてつもなく大きな転換点とも言える日。
 当時の紫は思っていた。やむを得ない事情で三十一代目となった巫女の為に、゙彼女゙の今後を決めておかねばならないと。
 制御しきれぬ力を抱え、一度タガが外れれば狂犬となってしまう巫女を助けようとして…幼ぎ彼女゙に次代の巫女になって貰うという事を。
 そして、それが原因で巫女との仲違いとなり――――結果として、彼女を幻想郷を消さねばならなくなったという過ち。

 いまこうして立って体感している世界は全て自分の過去であり、拭える事のできない過ち。
 それを分かっていながらも、紫は心のどこかでこれが現実であれば良いのにと願っていた。
 まるで人間が無茶な願いを流れ星に込めるように、最初から叶う筈がないとと知っていながら。



 目を開けて最初に見たものは、自分の棲家―――マヨヒガの見慣れた天井であった。
 天井からぶら下がる電灯を寝るときに消すのがいつも面倒で、いつの日か改装したいと思っている忌々しい天井。
 そして頭を動かして周囲を見回せば案の定、マヨヒガの中にある自分―――八雲紫の部屋である。
 夢の過去から戻ってきた紫は早速自分の体を動かそうとした瞬間、胸の中を稲妻が駆け抜けるようにして痛みが走った。
「―――――…ンッ!」
 思わず呻き声を上げてしまった彼女は、これが原因で自分は目をさましたのだと理解する。
 全く酷い寝起きね…。心の中で愚痴を漏らしつつ、ふと自分はどうして布団で寝ているうえに体がこんなに痛むのか疑問に思った。

489ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:47:10 ID:utWO93KQ
 自分の記憶が正しいのであれば、トリスタニアで霊夢を探していたルイズと魔理沙に彼女の居場所を教えた後で、幻想郷に戻ってきたのは覚えている。
 思いの外苦戦していた霊夢に助太刀しようかとあの時は思っていたが、あの二人ならば大丈夫だろうとその場任せる事にしたのだ。
 そしてハルケギニアを後にし、然程時間を掛けずに自分の棲家へ戻ったのは良かったが……そこから先の記憶は曖昧であった。
 まるで録画に失敗したテレビ番組の様に、そこから先の記憶がプッツリと途切れているのだ。
「確かあの後は…マヨヒガに戻ってきたのは覚えてるけど……その後は…――」
「本棚の整理をしていた私を無意識にスキマで引っ張ってきて、半ば無理やり看病させてたのよ」
 思い出そうとした紫に横槍を入れるかのように鋭く、それでいて冷たい声が右の方から聞こえてきた。

 その声に彼女が頭だけを動かすと、丁度襖を開けた声の主が天の川の様に白く綺麗な髪をなびかせて入ってくる。
 紺と赤のツートンカラーの服に、頭には赤十字の刺繍が施されたナースキャップ。そして寝込んだ自分へと向ける射抜くような瞳。
 かつては月の頭脳と崇められ、今は裏切り者として幻想郷に住まう月人にして…不老不死の蓬莱人―――八意永琳。
 幻想郷を支配する八雲紫自身も、油断ならない奴と思っていた彼女が何故ここに…?寝起きだった紫はそんな疑問を浮かべてしまう。
 そして寝起きだったせいか、ついつい表情にもその疑問が出てしまったのを永琳に見らてしまった。
「……その顔だと、記憶にございませんって言いたそうじゃないの?」
 彼女からの指摘でその事に気が付いた紫はハッとした表情を浮かべ、それを誤魔化すかのようにホホホ…と笑った。
「あらやだ、私とした事がうっかりしていましたわね……ふふ?」
「まぁ私も連れてこられた直後に見た貴女を見て驚いてしまったから、これで御相子という事にしましょう」
 そう言って永琳は紫の枕元に腰を下ろすと、彼女に「体を起こせる?」と聞く。
 ここは威勢よく頷いてスクッと上半身を起こしていきたいところなのだが、生憎先ほどの痛みではそれも難しいだろう。
 ほんの数秒ほど考えた紫が首を横に振ったのを見て、永琳は小さなため息をついてから彼女の肩に手を掛ける。
「とりあえずもう少し寝かせておくのが良いけど、生憎そうも言ってられないから手伝うわ」
「あら?何か物騒な言い方じゃないの―――…ってイテテ…!」
 
 幸い永琳の介助もあってか、紫は何とか上半身を無事起こす事が出来た。 
 まだ胸はチクチクと痛むものの、気にかかる程度で立ったり歩いたりする程度には何の支障にもならない程である。
「全く…貴女ともあろう妖怪が、こんなみっともない醜態をあのブン屋天狗に見られたら一大事よ?」
「完璧に見える者ほど、その裏では醜態を晒している者ですわ……ふぅ」
 ようやく布団から出て来れた紫は、永琳が着せてくれたであろう寝巻をゆっくりと脱ぎ始めた。
 汗を吸い、冷たくなった紺色のそれを半分ほど脱いだところで、ジッとこちらを見ている永琳へと視線を向ける。
 向けられたその視線から紫の言いたい事を察した永琳は、キッと目を細めて言った。
「着替えなら自分の能力で出せるでしょう。ちょっとは自分で動きなさい」
「……まだ私、何も言ってないんですけど?」
 あわよくば着替えを取ってくれるかもと思って向けた視線を一蹴された紫は、愚痴を漏らしながらスキマを開く。
 いつも身に着けている白い導師服と下着、それにいつも身に着けている帽子がスキマから零れ落ちてくる。
「それぐらい、視線で分かるわよ。……姫様も似たような視線を向けてくるから」
「あちゃ〜…既に予習済みだったというワケねぇ?」
 用済みとなったスキマを閉じた紫は既に慣れっこだった永琳にバツの悪そうな笑みを浮かべて、手早く着替えを済ませた。

490ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:49:05 ID:utWO93KQ
 着替えを済ませた紫はその後、じっと見守っていた永琳と共にマヨヒガの廊下を歩いていた。
 彼女曰く「長話になるだろうから居間で話したい」と言っており、まぁ確かに空気が籠っているさっきの部屋で話すよりマシなのだろう。
 紫自身は別にあの部屋でも良かったのだが、特に拒否する理由も無かったのでほんの少し痛む胸をそのままに廊下を歩いていた。
 廊下に面した窓から見える空は、外の世界で良く見る排ガスのような曇天であり、ふとした拍子で雨が降ってしまいそうである。
「それにしても、話したい事って一体どういうお話なのかしら」
「貴女なら、仮に私が逃げたとしても捕まえられるでしょう?だったら慌てる必要は無いというものよ」
 部屋を出て十秒ほどしたところで繰り出した紫の質問にしかし、永琳は答えをはぐらかす。
 まぁ確かにその通りなのだが、不思議とマヨヒガの中にいる彼女は威厳があるなぁ…と紫は思った。
 ついついそんな事を思ってしまった事が可笑しいのか、クスクスと笑いながら再び永琳に話しかける。
「私の家のはずなのに、何故だか貴女の方がマヨヒガの事を知ってそうね?」
 半分冗談で言ったつもりであったが、永琳はやれやれと言いたげな顔で肩を竦めて、
「そりゃあ一月と半分も貴女の看護で監禁されていたのよ、ここの掃除や炊事をしていく内に大体の事は把握できたわ」
 あっさりと言い放ってくれた事実に、流石の紫もその場で足を止めてしまう。
   
「――――…一月と、半分…?」
 真剣な様子で言われた言葉に、紫は思わず目を丸くし怪訝な表情で反芻してしまう。
 てっきり一日か数日の間気を失っていただけかと思っていたというのに、彼女の口から告げられた事実は予想の範囲をほんの少しだけ超えていた。
「何よ、てっきり数百年か千年ほど眠っていたと思ったのかしら?」
「…奇遇ね。貴女とは真逆の方向で考えていましたわ」
 そんな相手の様子を見かねてか、自分なりの冗句を飛ばした永琳に紫は気を取り直しつつも言葉を返した。
 一体自分の身に何が起こったのだろうか…?そんな疑問がふと頭の奥底から湧いてくる。
 幸いにも心当たりはある。今抱えている異変の初期に゙あの世界゙への侵入を試み、霊夢を召喚したであろう少女の遭遇。
 その時に出会い、襲い掛かってきたあの白い光の人型。それを追い払うために一撃お見舞いする時にもらった、あの一太刀…。

(でもまさか…傷自体はすぐに治ったし、あれ以降特に体調には変化は無かったけどねぇ)
 心当たりと言えばそれくらいなものだし…もう一つあるとすれば、少し賞味期限が切れた芋羊羹を茶菓子に食べた程度である。
 とはいえ妖怪がその程度で倒れて一月過ぎも倒れてしまうと、それはそれで物凄い名折れになってしまうが。
(もしかしてこの前、スキマに隠してて忘れてた最中を食べたのがいけなかったのかしら…?)
 思い当たる節がそれくらいしかない紫が、寝起きの頭をウンと捻りながら思い出そうとしており、
 永琳はそんな彼女の心の内を読んだかのように呆れた目で見つめつつ、心の中では別の事を考えていた。

(どうやら、本当に憶えてないらしいわね…この様子だと)
 暢気な妖怪だと思いつつ、やはりその姿から滲み出る『余裕』とでも言うべき雰囲気に永琳は感心していた。
 去年の秋、永夜事変と呼ばれるようになったあの異変で顔を合わせて以降、油断ならない相手だと認識している。
 あの巫女とは違いどこか浮ついていて、時折何をやっているのかと思う事はあっても、常にその体から『余裕』が滲み出ていた。
 例えるならば剣術に長けたものが相手の目の前でわざとおふざけをし、いざ切りかかってきた瞬間にそのまま一刀の元に切り伏せてしまう『余裕』。
 傲慢とも取れる強者だけが持ち得る『余裕』を放つ八雲紫は正に、いかなる戦いでも勝ちを手に取る事の出来る真の強者。
 博麗の巫女以上に警戒すべき妖怪であり、この幻想郷で生きていく上では絶対に逆らってはいけない支配者なのである。

491ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:51:04 ID:utWO93KQ
(けれど、どうやら゙相手゙の方が一枚上手だったようね…)
 無意識のスキマで連れ去られ、半ば強引に彼女の治療をさせられていた永琳は紫の容態を把握していた。
 あの日…永遠亭の自室で空いた時間を利用した本棚の整理していた最中に、彼女はスキマによってここへ連れて来られた。
 突拍子も無く足元の床を裂くようにして現れたそのスキマには、流石の永琳でも避ける暇は無かったのである。
 しかし、結果的にそれがマヨヒガの玄関で倒れていた紫を助けることに繋がり…信じられない様な事実さえ知ることができた。
 恐らく彼女はそれを自覚していないかもれしない。もしそうであるならば今の異変に深く関わるもうあの世界への評価を数段階上げなければいけない。
 いまその世界にいる博麗霊夢…ひいては幻想郷そのものに、これまでとは次元の違う異変を起こした異世界――ハルケギニアを。

「……あっ、こんな所にいたんですかお二人とも!」
 マヨヒガの廊下で立ち止まった二人が各々別の事を考えていた時、二人の耳に聞きなれた少女が呼びかけてきた。
 咄嗟に紫が前方へと顔を向けると、そこにいたブレザー姿の妖獣の姿を見て「あら!」と声を上げる。
 二人へ声を掛けた少女もとい妖獣は永琳と同じく月に住む兎――玉兎にして、彼女の弟子である鈴仙・優曇華・イナバであった。
 足元まで伸ばした薄紫色の髪、頭には変にヨレヨレでいつ千切れても可笑しくなさそうな兎耳が生えている。
 この場に居る三人の中では最も名前が長くそして頼りなさそうな雰囲気を放っているが、その能力は三人の中では最も性質が悪い。
 とはいえ本人はそれを悪用するほどの大胆さは持たず、それを仕出かす性格ではないので今は永遠亭で大人しく過ごしている。
 そんな彼女が何故この永遠亭にいるのだろうか?その疑問を知る前にひとまずは挨拶をしてみることにした。

「誰かと思えば、永遠亭のところの臆病な……え〜っと、月兎さん…?じゃあありませんか」
「え?あ、あの…月兎とは言わないんだけど…それはともかくとして、お久しぶりです紫さん」
 紫が自分の種族名を呼び間違えたことを指摘をしつつ、鈴仙は目の前にいる大妖怪におずおずと頭を下げる。
 無論彼女たち月の兎の正しい呼び方は知っているが、そこを敢えて間違えてみたが彼女は怒らない。
 やり過ぎればそれはそれで面白いモノが見れそうなのだが、それは自分の手前いる彼女の師匠が許さないであろう。 
「あら、優曇華じゃないの。もしかして、待てない゙お客さま゙に促されたのかしら?」
 鈴仙の師匠である永琳が右手を軽く上げつつ、何やら気になる単語を口にしている。
 ゙お客様゙…?自分の隙間が無意識に連れ込んだというのは、永琳だけではなかったのか…?
 小さく首を傾げつつも、ひとまず紫は次に喋るであろう鈴仙の言葉を聞いてから口を開くことに決めた。

「はい…、この天気だと雨が降りそうなので手早く済ませたいと…後、姫様もまだ起きないの?とかで…」
「あらあら…どうやら私が寝ている間に、御大層な見舞い客達が来てくれたようねぇ」
 二人の話を横から聞いていた紫は、頼りない玉兎が口にした言葉で永琳の言ゔお客様゙の姿を何となく想像する事が出来た。
 自分が居間へ来るのを首を長くして待っているのだろう、ならばここで時間を潰している場合ではない。
 笑顔を浮かべながらそう言った紫にしかし、永琳は苦笑いの表情を浮かべてもう一度肩を竦めて見せる。
「まぁ、そうね。貴女が倒れたと聞いて、何人かが見舞いに来てくれているけど…けど、」
「けど?」
「今日は今まで眠っていた分、たっぷりと話すことになるでしょうから、喉を潤すのを忘れないで頂戴」
 

 案内役が二人となり、やや狭くなった廊下を歩いていると窓越しに何か小さな物が当たったような音がする。
 何かと思い目を向けると、丁度曇天から振ってきた幾つもの水滴が窓を叩き始めた所であった。
 彼女の後ろにいた鈴仙も聞こえ始めた雨音に思わず兎耳が動き、窓の方へと顔を向ける。
 これから梅雨入りの季節である、恐らくこの雨は連日続く事になるだろう。

492ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:53:10 ID:utWO93KQ
「……ふふ」
 パタパタと揺れ動く黒い蝙蝠の羽根に紫が思わず微かな笑い声を口から漏らした直後、レミリアの顔がすっと後ろを振り向く。
 気づかれちゃった…?一瞬そう思った紫ではあったが、幸運にも彼女の耳には入らなかったようだ。
「ほら、何やってるのよ。アンタがを覚ますのを首を長くして待ってたのは、私やそこの薬師だけじゃあないのよ?」
「それは大変ね。主役が遅れては、物語の本筋が進まないのと同じ事だわ」
 吸血鬼の呼びかけに紫は笑顔を浮かべたままそう答えると、再び居間へと向けて歩き始める。 
 レミリアが空けた襖の向こう、自分の記憶が正しければその先にはマヨヒガの居間がある。
 彼女と永琳に弟子の玉兎…そしてその兎が゙姫様゙と呼んだ未だ見ぬ゙お客様゙を含めた複数人の見舞い客。
 きっと彼らは自分の事を待っているのだろう。今現在、あの世界と自由に行き来できる自分から情報を得る為に。

「一月と半分ぶりのお話ですもの、たっぶりと口を動かしたいものだわ」
 紫は一人呟きながら、わざわざ出迎えにきてくれたレミリアの後をついていくように足を進めた。

 
(全く、一時はどうなる事かと思ったわ…)
 一触即発の空気を無事に抜き終えた永琳は、内心ホッと一息胸を撫で下ろす。
 最初に両者互いに言葉の売買を始めた時はどうしようかと思ったモノの、思いの外上手くこの場を収める事が出来た。 
 この先にいるのはあの吸血鬼の従者と、この異変に興味を見せ始めた永遠と須臾を操る自分の主。
 そして紫とは古い付き合いである華胥の亡霊ともう一人―――彼女と共にやってきた規格外の゙来客゙がいる。
 どうして彼女がわざわざ八雲紫の元へ見舞いに来たのか、本来なら目を覚ました紫に自分の許へ呼び出せる立場にあるというのに。
 本人は紫に直接話したい事があると言って、今日で三回目の見舞いに来てくれていた。

『さぁ〜?私に聞かれても分からないわよぉ。でもまぁ、彼女なりに紫を気遣ってくれてるんじゃない?』

 思わずその゛来客゙を最初に連れてきた亡霊に聞いても、そんな返事しかしなかった。
 埒があかずその゙来客゙本人に聞いてみるも、彼女も彼女であの八雲紫に話があると言って見舞いに来たの一点張り。
 紫とはまた別に厄介な、自分の考えを曲げない断固たる意志と威圧感を体から放ちながら゙来客゙は言った。

『ちゃんと貴女方にも伝えます。けれども、一番話を聞くべき本人が眠っていては意味がありません』

 つまりは八雲紫に直接口頭で伝えるべき事があるらしいが、それが何なのかまではイマイチ分からないでいる。
 しかし永琳は何か予感めいたものを感じていた。あの゙来客゙が紫の前で口にすることは、決して自分たちには関係ない事ではないと。

 そんな風にして永琳が襖の向こうにいるであろゔ来客゙の後姿を思い浮かべていた時、情けない声が背後から聞こえてくる。
「あ、ありがとうございます師匠。全く地上の妖怪同士のイザコザってのは危なっかしいものですね」
「それを言う暇があるなら、せめて私が動くより先に止める事をしてみなさい…」
 声の主、弟子の鈴仙が前を進む妖怪と悪魔を見遣りながら言ってきた言葉に、永琳はやれやれと肩をすくめた。
 薬学の覚えも良く頭の回転は速いし、自分の能力の使い方や運動神経も良しで、彼女は決して出来の悪い弟子ではない。

493ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:55:07 ID:utWO93KQ
 ただどうも臆病なのが致命的短所とも言うべきか、ここぞという所で動かないのである。
 先ほどの紫とレミリアが相対した時のような場面に出くわすと、何というか空気に徹してしまうのだ。
 特に自分がいなくても誰かが代わりに止めてくれると思っていると、尚更に。
 無論この前の異変の様に後に引けなくなれば押してくれる。呆気なくやられてしまったが。

「師匠の私としては、貴女のその臆病さを改善しないといけないって常々思います」
「えぇ〜…でも、でもだって怖いじゃないですか?あの八雲紫と吸血鬼の間に入るなんてぇ〜…!」
 鈴仙は元々白みが強い顔を真っ青にし、ワナワナと体を震わせながらついつい弱音を吐いてしまう。
 吸血鬼や亡霊の従者たちとは違い、ここぞという時に臆病さが前に出て全く動いてくれない玉兎の若弟子。
 いずれ落ち着いた時が来れば、その臆病さを克服できる゙何がをさせなければいけないと、永琳は心の中のメモ帳に記しておくことにした。




 トリステイン王国の首都、トリスタニアのチクトンネ街にある一角。
 通称゙食堂通り゙と呼ばれるそこは、文字通り幾つもの飲食店が店を構えていた。
 ブルドンネ街のリストランテやバーとは違い、主に下級貴族や平民などを対象とした店が多い。
 今日も仕事へ行く下級貴族たちが朝食を済ませ、急ぎ足で後にしていった食堂にはそれを埋め合わせるかのように平民の客たちが来る。
 その大半が劇場や役所の清掃員や、夜間の仕事を終えて帰宅する前の食事といった感じの者たちが多い。
 したがって客の大半は男性であり、この時間帯ば食堂通り゙を財布の紐がキツイ男たちが行き来する事になる。

 そんな通りにあるうちの一軒、主にサンドイッチをメインメニューにしている食堂「サンドウィッチ伯爵のバスケット」という店。
 朝食セットを選べば無料でスープとサラダが付いてくる事で名の知れたここには、今日もそれなりの客が足を運んでいた。
 カウンター席やテーブル席、そしてテラス席にも平民の男たちが占有して大きなサンドイッチを頬張っている。
 それはおおよそ女性や婦女子が食べるような小さなものではなく、いかにも男の料理らしいボリューミーなものばかりだ。
 程々にぶ厚いパンに挟みこまれているのは、これまた分厚いハムステーキや鶏肉に、目玉焼きのひっついたベーコンなど…
 入っている野菜も野菜でトマトやピクルス、レタスなどもいかにも男らしく大きめに切られて肉類と一緒に挟みこまれている。
 更に、少し財布の紐を緩めればトリステイン産のパストラミビーフのスライスを二十枚も入れた豪勢なサンドイッチも食べられるのだ。

 そんな店の外、テラス席に座った二人の平民の男たちがサンドイッチを片手に何やら話をしていた。
「なぁおい、この前のタルブ村で起こったっていう『奇妙な艦隊全滅』の話しの事なんだが…―――…ムグッ」
「あぁ、知ってるぜ?何でも、大声じゃあ言えないが親善訪問直前で裏切ったアルビオンの艦隊が火の海になったって事件だろ?」
 同じ職場の同僚もとい友人にそんな事を言いながら、彼は頼んでいたロブスターサンドを豪勢に頬張る。
 ロマリアから直輸入されたレモンの汁とオリーブオイルが利いたドレッシングが、朝一から彼にささやかな幸せを与えてくれる。
 ほぼ同年代の友人が食うサンドイッチを見つつ、自分が頼んだ目玉焼きサンドに胡椒を振り掛けながら相槌を打つ。
 この平民の男が言う『奇妙な艦隊全滅』の噂は、トリスタニアを中心にトリステインのあちこちへ広がりつつあった。
 噂の根源は既に行方知れずであるものの、多くの者たちがトリステイン軍の兵士や騎士達からその話を聞いている。
 証言者である彼らは先日親善訪問護衛の為にラ・ロシェールへと出動し、その一部始終を見ていたのだから。



 曰く、親善訪問の為にやってきたアルビオンを艦隊が、わざわざ迎えに来たトリステイン艦隊を突如裏切り、攻撃してきたのだという。
 しかし、事前に警戒していたトリステイン艦隊司令長官はギリギリでこれを回避、被害を最小限に留めたのた。
 不意打ちが失敗したアルビオン艦隊は追撃しようとしたものの、郊外の森で『偶然訓練の最中であった』トリステイン国軍が助太刀の砲撃。
 ゲルマニアから貰った対艦砲によってアルビオン艦隊は士気を挫かれたものの、白旗を上げるどころか見たことも無い怪物たちを地上へ放ったのである。
 国軍の兵士曰く「あまりにも身軽連中だったと話し、ラ・ロシェールで警護についていた騎士は「亜人でもない、幻獣でもない怪物に我々は浮足立った」と悔しそうに呟いていた。

494ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:59:03 ID:utWO93KQ


 森から砲撃していた国軍は止むを得ずラ・ロシェールまで後退し、警護の為町へ訪れていた王軍と合流したものの…。
 化け物たちの勢いはそれでも止まらず、とうとう王軍も町を放棄してタルブ村まで撤退するが、そこでも抑えきれなかったらしい。
 避難し遅れていた村人やラ・ロシェールの人々を連れて王軍、国軍は少し離れたゴンドアまで撤退し、そこに防衛線を築いた。
 王軍、国軍の地上戦力二千と、アルビオン艦隊との正面衝突では負けると判断し後退していたトリステイン艦隊を合わせれば三千の勢力。
 対する敵は国軍からの砲撃を喰らったものの無傷とも言えるアルビオン艦隊と、トリステイン軍の偵察が確認した地上戦力を合わせて四千。
 千という差はこの戦いではあまりにも大きく、更に国軍と王軍を退けた化け物がいる以上トリステイン軍は万全を期して敵を待ち構える事にした。

 ところがどうだ、敵は怪物たちを使ってタルブ村を乗っ取った後ピタリと前進をやめたのである。
 偵察に出た竜騎士曰く、まるでそこが終着駅であるかのように化け物たちは進むのを止めてタルブ村やラ・ロシェールを徘徊していたのだという。
 この時王軍代表の将校として指揮を執っていたド・ポワチエ大佐はその報告に首を傾げたが、なにはともあれ敵は前進を止めた。
 彼はそのチャンスを無駄にすまいと王宮へ伝令を飛ばし、町そのものを使った防衛線をより強固にするよう命令した。
 その内日が沈み、日付けが変わる頃には即席の要塞と化したゴンドアへ、ようやくアンリエッタ王女率いる増援が到着したのだ。
 たちどころに士気が上がり、籠城していた者たちは皆歓声を上げ、アルビオン王家を滅ぼした侵略者たちをここで食い止めて見せると多く者が誓った。

 しかし、彼らの予想に反して空と地上で行われる激しい攻防戦が始まることは無かった。
 圧倒的に精強な艦隊と無傷の地上戦力に、見たことも無い怪物たちを操っていたアルビオンが勝ったわけではなく、
 かといって防衛線を固め、王女率いる増援を迎え入れたトリステインが勝利したと言われれば、本当にそうなのかと首を傾げる者たちがいる。
 その多くが実際の光景を目にしたトリステイン軍の兵士や将校達と、彼らよりも間近でソレを目にしたアルビオン軍の捕虜たちであった。
 出動した魔法衛士隊の隊員はその時目にした光景を、「一足早い夜明けが来たのかと思った」と証言している。
 一方でアルビオン側の捕虜…とくに甲板にいた士官たちはこう証言している。「我々の目の前に小さな太陽が生まれ、船と帆を焼き払った」と――――。
 それが『奇妙な艦隊全滅』こと『早すぎた夜明け』―――――アルビオン側の捕虜たちの間で『唐突な太陽』と呼ばれる怪現象だ。

 アンリエッタ率いる増援が町へ到着し、息を整えていた時に…突如ラ・ロシェールの方角から眩い光が迸ったのである。
 そのあまりに激しい光に繋がれていた馬や幻獣たちは驚き、乗っていた兵士や将校たちを振り落としかねなかったそうな。
 この時多くの者たちが何の光だとは叫び戦き、あるモノはアルビオン軍の新兵器かと警戒し、またある者は夜明けの朝陽と勘違いした。
 光は時間にして約一分ほどで小さくなっていき、やがて完全に消えた後…代わりと言わんばかりに山を照らす程の火の手が上がり始めたのである。
 急いで出動した偵察の竜騎士が見たのは、ついさっきまでその威圧漂う偉容で空を飛んでいたアルビオン艦隊が、一隻残らず火の手を上げて墜落していく姿であった。
 艦首を地面へ向けてゆっくりと落ちていくその姿は正に、太陽の熱で翼を焼かれた竜の様に呆気ない艦隊の゙最期゙だったという。

 当初トリステイン側は、アルビオン艦隊が火薬の不始末か何かを起こして爆発を起こしてしまったりのかと思っていた。
 だがそれにしてはあまりにも火の手が激しく、最新鋭の艦隊がこうも簡単に沈むとは到底考えられない。
 更に不思議な事に、墜落現場へと魔法衛士隊や竜騎士隊が一番乗りしてみるとアルビオン側の者たちは殆ど無傷だったのだという。
 何人かが墜落する際の騒ぎで怪我した者はいたが、輸送船に乗っていた地上戦力も含めて死者はいなかったのである。
 いくら何でもそれはおかしいと多くの者たちが思い、士官や司令長官達に尋問を行った所…奇妙な証言をする将校たちがいた。
 彼らは皆あの巨艦『レキシントン』号に乗船していた者達で、先頭にいた彼らはあの光を間近で見ていたのだ。
 その内の一人であり、王党派よりであった『レキシントン』号の艦長ヘンリー・ボーウッドが以下の様に証言している。

495ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:01:16 ID:utWO93KQ
「あの時。いざゴンドアへ向けて前進しようとタルブ村を超えかけた所で、私は遥か真下から強い光が迸るのを見た。
 まるで暗い大海原で見る灯台の灯りの様に眩しく、遥か上空からでもその光を目にする事が出来た。
 何だ何だと私を含め多くの士官たちが駆けより、とうとう景気づけに酔っていた司令長官まで来た直後―――あの光が迸った。
 小さな太陽とはあれの事を言うのだろうか、最初我々の頭上に現れたソレに目を焼かれたのかと錯覚してしまった程眩しかった。
 私自身の口と周りにいた士官仲間や司令長官、そして周りにいた水兵たちの悲鳴が一緒くたになり、耳に不快な雑音となる。
 そうして一通り叫んだところでようやく光が消え去り、焼かれる事の無かった目で周囲を見回した時……辺りは火の海になっていた。
 そこから先は八方塞がりだったよ。帆は焼け落ち、船内の『風石』も燃え上がって…緩やかに地面へ不時着するほか手段がなかった」

 彼を始め、尋問で話してくれた多くの者たちがある程度の差異はあれど同じような証言をしている。
 突如自分たちの頭上に太陽と見紛う程の白い球体の光が現れ、船の甲板と帆に船内の『風石』だけを焼き払って消え去った。
 艦隊が成す術もなく墜落していった原因はこれであり、調べてみたところ確かに『風石』だったと思われる灰の様なものも確認している。
 この不可解な現象に流石のトリステイン王国の政治上層部も素直に喜んでいいのか分からず、更なる調査が必要だと議論の真っ最中であった。
 一方で軍上層部―――俗にいう制服組の一部には「奇跡の光」と呼んで、余計な犠牲が出ずに済んだことを喜ぶ者たちがいた。
 自軍の艦隊はほぼ無傷であるのに対し、敵側となったアルビオンは『レキシントン』号をはじめとする精鋭艦隊をゴッソリ失ったのである。
 地上戦力は国軍、王軍の現役将校たちを含め約五百名以上が亡くなったものの、戦略上ではさしたる被害にはならない。



 ―――――…とはいえ、此度の戦には不可解な現象が幾つも起きており。
 アルビオン艦隊の全滅と共に姿をくらました怪物たちや、例の光に関しては早急なる調査が必要である。』…とのことです」


「ご苦労でしたマザリーニ枢機卿。…さて、と…ふぅ」
 妙に長かった報告書をやっと読み終えたマザリーニ枢機卿が一息つくと、アンリエッタは右手を軽く上げて礼を述べた。
 場所は執務室、白をパーソナルカラーとしているトリステイン王宮の中では異彩を放っている渋い造りとなっている一室である。 

 ゴンドアから戻ってきてから幾何日、ようやく戦闘後の事後処理が済みかけていると実感しつつ、まだまだ気は抜けないと実感してしまう。
 報告書にも書かれていたが、今回ラ・ロシェールとタルブで起きた戦闘は一言でいえば゙奇怪゙であった。
 トリステインの情報網には全く引っ掛らなかった謎の化け物たちに、艦隊を全滅させた謎の光。
 そして艦隊が無力化されたと同時に、まるで霞の様に姿を消してしまった怪物たちの事など…数え上げればキリがない。
 形式的には勝利したものの、枢機卿を含めた多くの政治家たちにとって、腑に落ちない勝利とも言えよう。

「とはいえ…我が国を無粋にも侵略しようとした不届き者どもを退けられた事は、素直に喜びたいところですわ」
 アンリエッタは枢機卿の読んでいた報告書の内容を頭の中で反芻しながら、ソファの背もたれに自らの背中を沈ませた。
 王宮に置かれている物だけあって程々に柔らかく、硬い背もたれは緊張続きだった体を優しく受け止めてくれる。
 ついで肺の中に溜まっていた空気を軽く吐き出していると、自分の口ひげを弄るマザリーニが話しかけてきた。
「左様ですな。それに我々の手の内には彼奴らがこの国で内部工作を行っていた証拠もあります」
「そうですね。今私達の両手には杖と短剣が握られており、相手は丸腰の上手負いの状態…しばらく何もないことを祈りましょう」
 アンリエッタはマザリーニの言葉にそう返すと姿勢を改め、自分と枢機卿の前にいる゙者達゙へと話しかけた。

496ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:03:06 ID:utWO93KQ


「そしてルイズ、レイムさんにマリサさん――そして他の方々も…此度の件は、本当に助かりました」
「えっ…?あのッ…その、姫さま…そんな、貴女の口から賛辞を言われる程の事は…」
 暖かな笑みと眼差しと共に口から出た彼女の賛辞は、向かいのソファに座るルイズ、霊夢、魔理沙の三人の耳にしっかりと届いた。
 あの戦いから幾何日か経ち、すっかり元気を取り戻したルイズは親友からの礼に思わずたじろいでしまう。
 ルイズは先ほどの報告書でも出ていた『艦隊を全滅させた奇妙な光』を放ったのは自分だと確かに憶えている。
 しかし…だからといってあの光を―――『エクスプロージョン』を自慢していい類の力だと彼女は思っていなかった。
 だから今、こうしてアンリエッタに褒められても素直に喜ぶことができないでいた。

 一方でルイズの右に腰を下ろした霊夢はティーカップを持っている左手を止めて、チラリと横目でルイズを見遣る。
(全く、変なところで不器用なのね)
 自分の横で若干慌てながらもシラを切ろうとしている彼女の姿に、おもわず肩を竦めたくなってしまう。
 唇に紅茶の熱い湯気が当たるのを感じながら、謙虚な態度を見せるルイズに思わず言葉を投げかけた。
「良かったじゃないの、アンリエッタに褒められて?アンタもあんだけ、気合入れてぶっ放した甲斐が……」
「……ッ!ちょ…レイム、その事は喋るなって言ったでしょうに…!」
 いきなり真相を喋ろうとしていた巫女を制するかのように、ルイズは咄嗟に大声を上げた。
 体は小さくとも、まるで成熟したマンティコアの様な大声で叫ばれた霊夢は、思わず顔を横へ逸らしてしまう。
 反射的に怒鳴ってしまった後、それに気づいたルイズがハッとした表情を浮かべた直後、今度は魔理沙が絡んでくる。
「ほうへんふぉんするなひょ?ひゃいひょひゃびびっひゃけど、あへはふぅーふぅんひまん―――――ウグゥ……ッ!?」
「口にお菓子咥えたまま喋るなッ!」
 霊夢とは反対方向に座っていた普通の魔法使いは、茶請けのフィナンシェを口に咥えたまま喋っていた。
 結果的にそれがルイズの怒りに触れてしまい、張り手の様に突き出された右掌で無理やりフィナンシェを口の中へと突っ込まれてしまう。
 幸いにもフィナンシェは半分ほど食べていたおかげで、喉に詰まるという最悪のハプニングに見舞われることは無かった。

 自分のペースで食べる筈だった硬めの焼き菓子が、一気に押し込まれるという突然の出来事。
 たまらず目を見開いて驚いた魔理沙は辛うじて飲み込み、急いで手元のコップを手に取り中に入っていた水を一気に煽った。
 しっかりと冷たいそれが口の中で滅茶苦茶になったフィナンシェを解し、何とか空気が入る余地を作る。
 そして水をゆっくりと飲み、柔らかくなったお菓子を口の中で噛み砕いていきゆっくりと嚥下していく。
 時間にすればたった三秒ほどであったが、魔理沙にとってこの三秒は人生の中で五本指に入る程の危機であった。
「ウッ―――く、…ゲホッ!お、おまえなぁ…なにもいきなりあんなことをするなんて…!」
「悪いけどさっきのアンタからは、非しか見えなかったからね?」 
「そうねぇ。むしろ、トリステイン王家の傍にいるトリステイン貴族を前にして流石にあれは無茶だわ」
 何とか飲み込めたものの多少咳き込みながら恨めしい視線を向けてくる魔理沙に、ルイズは冷たくあしらう。

 まぁ確かに彼女の言うとおりであろう。その様子をルイズたちの後ろから眺めていたキュルケが、頷きながら続く。
 そこへギーシュもウンウンと同じように頷きながら、薔薇の造花が目立つ杖で口元を隠しながら魔理沙をジッと睨み付けた。
「全くだよ。こともあろうに、王女殿下の目の前であのような態度…!場所が場所なら大変な事になっていたよ」
 本人としては十分決まったであろうセリフにしかし、魔理沙は怯えるどころか面白そうな表情を浮かべている。
 ついさっきまでお菓子で窒息死しそうになった癖に、相も変わらず霧雨魔理沙は元気のようだ。

497ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:05:06 ID:utWO93KQ
「お、何だ何だ?決闘騒ぎにでもなってくれるのか?」
「それなら安心しなさい。ギーシュのヤツ、そこの巫女さんに喧嘩吹っかけといて呆気なく負けてるから」
 楽しそうな表情を浮かべる黒白に対し、彼氏の隣に立っていたモンモランシーが呆れた表情を浮かべて言った。
「も、モンモランシー…それは言わないでおくれよ…!」
「はは、そう心配するなよ。あの霊夢に喧嘩を売ったっていうなら、それだけでも十分凄いぜ。まぁ痛い目も見ただろがな?」
 一方でガールフレンドに梯子を外されたギーシュに、魔理沙は満面の笑みを浮かべながら彼を励ます。
「もぉ〜…!何やってるのよアンタ達はぁ…!」
「ま、まぁこれは元気があって大変よろしいというか…心配する必要はないといいますか…あはは…」
 四人のやり取りを横目で見やりながらルイズは怒りを露わにし、アンリエッタはそんな彼女に寄り添うかのように苦笑いでフォローを入れる。
 一昔前のルイズなら魔理沙たちに激怒していただろうが、今では一応注意こそすれ怒り過ぎると却って逆効果になると知ってからはそれ程怒ることは無くなっていた。
 とはいえ、大切な姫様の御前というのに良くも悪くも自分のペースを崩さない魔理沙と、それにつられてしまうキュルケ達に頭を抱えたくなってしまった。
 そして霊夢はスッと一口紅茶を飲んでから…自分の後ろにタバサへと話しかけた。
「今ここで騒がしくしてるのが、アンタみたいに静かだったらどれ程良かったかしらね?」
「……そうでもない」
 ずれたメガネを指で少し直しながら、青い短髪の少女はボソッとそれだけ呟いた。 

 ルイズと霊夢達の事が気になり、彼女たちの後を追いその秘密を知ってしまったキュルケ、タバサ、モンモランシーにギーシュ。
 この四人もまた先日、あの戦の後にトリステイン軍に保護され、王宮の中で一時的に暮らしている。
 『エクスプロージョン』で艦隊を全滅させた後、気絶したルイズや疲労困憊していた霊夢達と共にトリステイン軍に保護されたのだ。
 当初は何故魔法学院の生徒がここにいるかと問われたものの、そこは口八丁なキュルケ。
 学院の夏季休暇が前倒しになったという事実を利用して、タルブ村への観光くんだりで戦いに巻き込まれたと説明してくれていた。
 よもやルイズと共に来ていた霊夢と魔理沙…それに前とは変わってしまったルイズを追いかけて来たとは言わなかった。
 その後全員がゴンドアへと連れて行かれ、以降あの戦の事を知る重要参考人として王宮で監禁生活を送っている。

「あ〜…―――ゴホンッ!」
 魔理沙が端を発し、盛り上げていた会話はしかし、アンリエッタの背後から聞こえてきた咳払いによって中断させられる。
 何かと思いルイズと霊夢、それにアンリエッタも後ろを見遣ると、渋い顔をしたマザリーニ枢機卿が口に当てていた握り拳をそっと下ろした。
「……あー、お話し中のところすみませぬが、そろそろ静かにしてもらえますかな?」
 まだ話は続いている途中です故。最後にそう付け加えた後、魔理沙につられていたキュルケ達は思わず背すじをピッと伸ばしてしまう。
 流石平民の身にして、伝統あるトリステイン王国の枢機卿にまで登り詰めただけあって、その言葉には不可視の重圧があった。
 ルイズとアンリエッタも崩れかけていた姿勢を正し、その一方で魔理沙は咳払いでこの場を黙らせてしまった枢機卿に思わず感心する。
「へぇ〜?見た目はヒョロヒョロとしてるけど、中々強かな爺さんじゃあ…――――」
「失礼ですが!私はこう見えても、まだまだ四十代ですのであしからず」
 態度を正さぬ魔理沙の口から出だ爺さん゙と言う単語に流石のマザリーニもムッとしてしまったか、
 キッと彼女の顔を睨みつけながら、さりげなく自分の年齢をカミングアウトした。
 

「――――――…あぁ〜悪い、次からは誰かを褒める時は年齢を聞いてからにするよ」
 流石の黒白の魔法使いもこれはバツが悪いと感じたのか、視線を逸らして申し訳なさそうに謝った。
 枢機卿の睨み付ける鋭い目つき、まるで獲物を見つけた猛禽の様な睨みが普通の魔法使いを怯ませたのだろうか。
 何はともあれ、アンリエッタの前で好き放題していた魔理沙には彼の目つきは丁度良い薬となったようだ。

498ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:07:07 ID:utWO93KQ

(流石ですマザリーニ枢機卿…!)
 ルイズが内心で彼にエールを送る中で霊夢は茶を飲み、タバサは相変わらずジッと佇んでいた。
 ひとまず、自分が入り込んだおかげで部屋が再び静かになったのを確認してから、マザリーニは小脇に抱えていた書類をアンリエッタに手渡す。
「では殿下、この書類の方に件の内容が記しておりますので」
「有難うございます枢機卿。…さて」
 何やら気になる事を言った彼から書類を受け取ったアンリエッタは、まず軽く目を通し始めた。
 読みやすいよう小さい画板の様な板に留められている書類の内容を目で追いながら、不備が無いかチェックする。
 そして書類を受け取って十秒ほど経った頃であろうか、アンリエッタはルイズたちの前でその口を開いた。

「神聖アルビオン共和国艦隊旗艦。『レキシントン』号艦長、ヘンリー・ボーウッド殿からの追加証言……」
 タイトルであろう最初の一文に書かれた文字を、アンリエッタはその澄んだ声でスラスラと読み始める。
 報告書自体はものの五分程度で読み終える程のものであったが、書かれていた内容はルイズを大いに驚かせた。

 以下、要点だけを挙げれば報告書には以下の様な内容が記されていた
 あの『レキシントン』号の艦長を勤めていたというボーウッドと言う将校の他、何人かの士官が一人の少女を見たのだという。
 丁度タルブ村からアストン伯の屋敷へと続く道がある丘の上で、杖を片手に呪文を唱えていたというピンクブロンドの少女を。
 更に彼女の周りには幼い風竜が一匹、そして彼女とほぼ同年代と思える五人の少女に一人の少年の事まで書かれている。
 何だ何だと船の上から望遠鏡でみていた矢先、呪文を唱えていた少女が杖を振り下ろしたと同時に―――あの『奇妙な光』が発生した。
 そして最後に、ボーウッド殿は地上にいた少女達が何者なのか興味を抱いている…という一文で報告書は終わっている。

 自ら報告書を読み終えたアンリエッタはまたもやふぅと一息ついて報告書をテーブルに置き、ついで手元のティーカップを持ち上げる。
 まだほんのりと湯気が立つそれを慎重に飲む姿を目にしつつ、最後まで聞いていたルイズは目を丸くして口を開く。
「……そ、そこまでお調べになっていたんですか?」
「ゴンドアにいた私達も見ていた程なのよルイズ。隠し通せる思っていたら随分と迂闊だったわね」
 ため息をつくよりも驚くしかなかったルイズを尻目に、喉を潤したアンリエッタは微笑む。
 モンモランシーとギーシュもルイズと同じ様な反応を見せていたが、キュルケは「まぁそうですよね」と肩を竦めながらそう言った。
 何せあの規模の艦隊をたったの一撃で全滅させたのだ。調べられないと思う方が可笑しい話である。
 タバサは相も変わらず無表情で突っ立っているだけであったが、その目が微かに呆然としているルイズの背中へと向いていく。
 彼女も彼女であの光を発現させた彼女に興味ができたのであろうが、その真意は分からない。 

 一方で、霊夢と魔理沙の二人も意外とこちらの事情が筒抜けであった事にそれなりに意外だったらしい。
 お互いの顔を一瞬だけ見合わせてから、こちらに笑みを向けるアンリエッタにまずは魔理沙が話しかけた。
「こいつは驚いたぜ、まさかあの『エクスプロージョン』の事まで知ってたなんてなぁ」
「『エクスプロージョン』…?爆発?それがあの光の名前なんですの?」
「ちょ、バカ…アンタ!そこまで言う必要はないでしょうに!」
 先に口を開いた黒白はさっきまでのシュンとしていた様子は何処へやら、再び快活な表情を浮かべている。
 アンリエッタは魔理沙の口から出た単語に首を傾げ、その言葉が出るとは予想していなかったルイズが咄嗟に反応してしまう。
 三人の間にほんの少し入りにくい空気ができたのだが、それを無視する形で霊夢が話に割り込んできた。

499ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:09:03 ID:utWO93KQ


「―――…ッ!?い、いけません姫さま!こんな危険な二人に爵位を授けるなどと…!」
「ちょっ…ひどくないかしら、その言い方!」
「随分ストレートに拒否したなぁおい」
 幻想郷の二人に爵位を授ける…。それを聞いたルイズがすかさず拒絶の意を示し、流石の二人も驚いてしまう。
 博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人と一緒に過ごしてきたルイズだからこそ、ここまで拒絶することができるのだろう。
 だからといって、それを駄目だと言うのにあまりにも全力過ぎやしないだろうか?
「アンタねぇ…もうちょっとこう、オブラートに包みつつ必要ないですって言えないの?」
「だってあんた達に爵位何て授けたら、それこそ何に悪用されるか分かったもんじゃないわよ…!特に魔理沙は」
「……あぁ、成程。アンタの考えてる事は大体分かったわ」
「ちょっと待て…!それは流石に聞き捨てならんぞ」
 最後に付け加えるようにして魔理沙の名が出た時、霊夢はルイズがあそこまで拒絶した意味を理解した。
 魔理沙に貴族の位を与えようものなら、確かに色々とトリスタニアから消えていくに違いない。主に本とマジックアイテムが。
 キュルケやギーシュたちも今日にいたる幾日の間に魔理沙の事を霊夢からある程度教えてもらっていた為、何となく理解していた。
「まぁ例えなくても盗みに行きそうだけど…ほら、ちゃっちゃっと話を続けて頂戴」
「え…?あ、はい…すみません」
 唯一理解してない本人の怒鳴り声を聞き流す事にした霊夢は、苦笑いを浮かべるアンリエッタに話の続きを促す。
 いきなり大声を上げたルイズに驚いていた彼女は気を取り直しつつ、再び話し始めた。

「ルイズ…報告書でも書いていた通り、あの光が出現する直前まで杖を振っていたのは貴女でしょう?
 ならば教えてくれるかしら?タルブでアルビオン艦隊と対峙した貴女が、あの時何をして、何が起こったのかを」

 単刀直入にあの光――『エクスプロージョン』の事を問われ、ルイズはどう答えていいか迷ってしまう。
 幾らアンリエッタと言えども、あの事を素直に言っていいのかどうか分からないのである。
「そ、それは……あぅ…」
 回答に窮し狼狽える親友を見てその内心を察したのか、アンリエッタはそっと寄り添うように喋りかける。
「安心して頂戴ルイズ。私も枢機卿も、ここで貴女から聞いたことは絶対に口外しないと始祖の名の許に誓うわ」
 アンリエッタがそう言うと、マザリーニもそれを肯定するかのようにコクリと頷く。

 確かに、この二人なら何があったとしても決して自分の秘密を余所にバラす事は無いだろう。
 それでも不安が残るルイズは、後ろにいるキュルケ達の方へと視線を向けると、彼女たちもコクコクと頷いていた。
「まぁ私から乗りかかった船だしね。それに貴女が船頭なら怒りはするけど沈みはしないだろうし、付き合ってあげるわ」
 先祖代々の好敵手でもあり、実家も部屋もお隣のキュルケがこれからの事を想像してか自身ありげな笑みを浮かべて言う。
 次いでモンモランシーも、戸惑いを隠しきれないのか二度三度と口をパクパクさせた後、勢いよく喋り出す。
「私は何も見てなかったし、聞かなかった!だ、だからアンタのあの事は黙っといてあげるわよ!」
 半ば自暴自棄気味な宣言にキュルケがニヤついている中、今度はギーシュが薔薇の造花を胸の前に掲げて、声高らかに宣言した。
「同じく、このギーシュ・ド・グラモンも!彼女ミス・ヴァリエールの秘密については一切口外しない事をここに誓います!」
「…グラモン?グラモンといえば、あのグラモン元帥の御家族なのですか?」
「左様。彼はあのグラミン伯爵家の四男坊であります」
 まるで騎士のような堅苦しい姿勢でそう叫んだ彼の名を耳にして、アンリエッタが思い出したようにその名を口にする。
 そこへすかさずマザリーニが補足を入れてくれると、ギーシュは自分が褒められた様な気がして更に姿勢を硬くしてしまう。
 まるで胡桃割り人形のように固まってしまった彼氏を見かねてか、モンモランシーが声を掛けた。
「ちょっと、アンタ何でそんなに自慢げに気をつけしちゃってるのよ?」
「い、いやーだって、だってあのアンリエッタ王女の前で枢機卿が僕の事を紹介してくれたんだよ?」

500ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:11:04 ID:utWO93KQ

「全く、相変わらずの二人ねぇ……ん?」
 一人改まっているギーシュにモンモランシーが軽く突っ込みを入れているのを余所に、今度はタバサがルイズの肩を叩いた。
 何かと思い後ろへ視線を向けると、先ほど見た時と違わず無表情な彼女がじっと佇んでいる。
「…?……どうしたのよタバサ」
 急に自分の肩を叩いてきた彼女にルイズがそう聞いてみると、タバサは右手の人差し指をそっと唇に当てた。
 たったそれだけして再び彼女の動きは止まったが、今のルイズにはそれが何を意味するのか大体察する事が出来る。
「もしかして…黙っておいてくれる…ってこと?」
 思わずそう聞いてみると彼女はコクリと小さく頷き、そっと人差し指を下ろす。
 他の三人と比べてあまりにも小さく、そして目立たないその誓いにルイズはどう反応したらいいか、イマイチ分からなかった。
 そんな彼女をフォローするかのように、一連の出来事を隣で見ていたキュルケが嬉しそうに話しかけてくる。
「良かったじゃないのヴァリエール。タバサなら絶対に他言無用の誓いを守ってくれるわよ?」
「というか、私も私だけど…アンタもよくあれだけの小さな動作で把握できたわね…」
「ふふん!こう見えても彼女とは一年生からの付き合いなのよ?もうすっかり慣れちゃったわよ」
 思わず嫉妬してしまう程の大きな胸を張りながら、キュルケは自慢気に言った。 

 互いに入学当初から出会い、今では二人で一緒にいるほど仲が良いと言われているのは伊達ではないらしい。
 噂ではタバサの短すぎる一言で何を言いたいのか察する事ができると囁かれているが、あながち間違いではないようだ。
「まぁいいわ…で、後は…」
 ひとまずはあの場に居だ元゙部外者達が自分の秘密を守ってくれると確認できたルイズは、ふと自分の左にいる霊夢を見遣る。
 カップの中に入っていた紅茶を飲み終えた幻想郷の巫女は、ふと自分の方へ目を向けてきたルイズの視線に気づく。
 ―――――――今更どうしようも無いが、まぁひとまずは言っておいた方が良いだろうか?
 鳶色の瞳から垣間見える感情でルイズの意図を察した霊夢は、コホン!とワザとらしい咳ばらいをした後、ルイズと目を合わせて言った。

「安心しないさいな。アンタが仕出かしちゃった事は、墓場までは無理だけどなるべく言わないでおいたげるわ」
 傍目から見れば、割とクールな感じで秘密にする事を誓った霊夢であったものの、
「…そこは普通「墓場まで持っていくわ」じゃないの?ってか、なるべくってどういう意味よなるべくって…」
「まぁ良いじゃないか。人の口に戸は立てられないモノだし、そっちの方がまぁお前らしくていいと思うぜ」
 思ってたのと少し違う言葉に思わずルイズは突っ込みを入れてしまい、魔理沙は嬉しくない賞賛をくれた。
 二人の反応を見て「私らしいってどういう事よ…?」と気分を害した霊夢を余所に、ついで魔理沙も親指を立ててルイズの前で誓いを立てる。

「というわけで、私もお前さんの事は喋らないでいるが…まぁ口が滑った時は笑って許してくれよ?」
 口の端を吊り上げ、悪戯好きな彼女らしい笑みを浮かべた魔理沙の誓いに、ルイズもまた笑顔で頷いた。
「分かったわ。……とりあえずアンタの口には常時テープを貼るか包帯を巻いておいてあげるから」
「アンタの場合だと、本気でそれを実行しそうね。…まぁ止めはしないけど」
「おぉう、軽い冗談のつもりで言っただけだが…怖い、怖い」
 ――――ー口は災いの元っていうが、案外今でも通用する諺だな。
 普段からの自分を棚に上げながら、魔理沙は他人事のように笑いながら思った。

 その後、ルイズは自分の口からアンリエッタへあの光の源――『虚無』の事について詳しく説明する事となった。
 彼女から頂いた『始祖の祈祷書』と『水のルビー』が反応し、自分があの伝説の『虚無』の担い手であったと判明した事。
 古代文字が浮かびあがっちた祈祷書に、あの光――『エクスプロージョン』の呪文が記されていた事。
 そしてそれを唱え、発動して一瞬のうちにアルビオン艦隊を壊滅させた事までルイズは事細かにアンリエッタに話した。

501ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:13:05 ID:utWO93KQ

「『虚無』の系統…か。まさか僕が生きている内に、お目に掛かれたなんてなぁ…」
 ルイズの説明をかの聞いていたギーシュは思わず独り言を呟いてしまうが、キュルケ達も同じような感想を抱いている。 
 六千年続いていると言われるハルケギニアの歴史の中では、『虚無』はかの始祖ブリミルだけが持つと言われている伝説の系統。
 歴史書を紐解けば、時折『虚無』と思しき普通の魔法とは思えぬ゙奇跡゙を起こした者たちがいと記録はあれど、それが本当かどうかまでは分からない。
 所詮は大昔にあった出来事。その事実がただの文字となってしまえば、その゙奇跡゙が本物かどうかは誰も知ることはできない。
 
 だから貴族たちの中には始祖ブリミルを信仰こそするが、始祖が使いし幻の系統を信じる者たちは少ない。
 実際キュルケやモンモランシー達もその信じない方の人間であり、本当に『虚無』があるとは信じていなかった。
 しかし、ルイズが唱えたあの『エクスプロージョン』を見てしまった以上、もう信じないなど口が裂けても言う事はできないだろう。
 たった一人の人間―――それも今まで『ゼロ』という二つ名で揶揄されていた少女が、艦隊を壊滅させるほどの爆発を起こした。
 それこそ正に、歴史書や聖書の中に記されている゙始祖の御業゙という表現が一番似合うに違いない。

 ルイズからの話を聞き終えたアンリエッタは、一呼吸おいてからそっとルイズに語りかける。
 それは母であるマリアンヌ太后から聞かされた、ずっと昔から語り継がれている始祖と王家に関係する昔話であった。

「知ってる?ルイズ。始祖ブリミルは、自らの血を引く三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺したの。
 我がトリステインに伝わっているのは、以前貴女に渡した『水』のルビーと…世界中に偽物が存在する始祖の祈祷書よ
 そしてハルケギニアの各王家には、このような言い伝えがあります。始祖の力を受け継ぐ者は、王家から現れると……」

 そこで一旦喋るのを止めたアンリエッタは、マザリーニから水の入ったコップを手に取る。
 丁度コップの真ん中くらいにまで注がれたソレをゆっくりと飲み干した後、ルイズは怪訝な表情で口を開く。
「しかし、私は王家の者ではありません。けれど、私は『虚無』の呪文を発動できた…これは一体どういうことなんですか?」
「ルイズ、ヴァリエール公爵家は元を辿れば王家の庶子。なればこそ公爵家なのですよ」
「あっ…」
 ルイズが抱いた疑問を、水を飲み終えたアンリエッタが一瞬のうちに解してしまう。
 確かにヴァリエール家は古くからトリステイン王家との繋がりは深く、古い歴史の中で個人間の゙繋がり゙もある。
 だから、正式には王家の一族とは認められていないが、その血脈は確実にルイズの中に根付いているという事だ。

「ねぇ魔理沙、庶子ってどういう意味よ?」
「要は正式に結婚していない両親から生まれた子供さ。それだけ言えば…、後は分かるだろ?」
「…あぁ、大体分かったわ。ついで、ルイズとアンリエッタが私達を睨んでる理由も」
 左右に座っている霊夢と魔理沙の不届きな会話は、王家と公爵家の眼光によって無理やり止められる。
 確かに庶子という意味を砕けた言葉で言ってしまうと、王家の立場的には色々とまずいのである。
 必要のない事を口に出そうとした魔理沙が黙ったのを確認してから、アンリエッタは軽い咳払いをして再び話し出す。

「あなたも、このトリステイン王家の血を引き継いでいる身。『虚無』の担い手たる資格は十分にあるのです」
 そう言ってから、今度は気まずさゆえに視線を逸らしていた霊夢の左手の甲についたルーンを一瞥する。
「レイムさん、貴女の左手の甲に刻まれたルーンは…私の推測が正しければ、かの『ガンダールヴ』のルーンとお見受けしますが…」
「ん…?良く知ってるじゃないの。そうよ、オスマンの学院長が言うには、ありとあらゆる武器兵器を使いこなせる程度の能力とか…」
 以外にもガンダールヴの事を知っていたお姫様に、霊夢は彼女の方へとキョトンとした表情を向けて言う。
 アンリエッタは霊夢の言葉にコクリと頷くと、そこへ補足するかのように書物で得た知識を言葉として伝えていく。
「王宮の文献によれば、始祖ブリミルが呪文詠唱の時間確保の為だけに、生み出された使い魔とも記されています」
「……なーるほど、確かに『エクスプロージョン』の詠唱は…長かったような気がするわね」
 あの時の様子を思い出した霊夢が一人呟くと、そこへすかさずルイズがアンリエッタへと話しかける。

502ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:15:40 ID:utWO93KQ
「では、私は間違いなく『虚無』の担い手なのですね…?」
「そう考えるのが、正しいようね」
 半ば最終確認のような自分の言葉にアンリエッタが肯定した直後、ルイズは深いため息をついた。
 ルイズはこれまで、魔法が使えず多くの者たちから見下されながらも自前の強い性格と努力で、それなりに平凡な人生を歩んできた。
 しかし二年生の春、使い魔召喚の儀式で霊夢を召喚してしまった以降、彼女の運命は大きく変わり始めている。
 幻想郷という霊夢が住まう異世界の危機に、戦地と化したアルビオンへの潜入、そして許嫁の裏切り。
 霧雨魔理沙という黒白に、謎のキメラ軍団とシェフィールドという謎の女…―――『虚無』の復活。
 
 春から夏の今に至るまで、ルイズは自分が歩んできた十六年間の間に積み重ねた人生よりも濃厚な出来事に遭遇している。
 平民はおろか、並みの貴族でさえも経験した事の無いようなそれ等は同時に彼女を危険な目に遭わせていた。
 そしてそんな彼女を畳み掛ける様にして、今度は自分があの『虚無』の担い手だと発覚したのである。
(まぁ魔法が仕えるようになったのは素直に嬉しいけれど、よりにもよって『虚無』の担い手だなんて…一体どうすればいいのかしら)
 タルブ村での時と比べ、それなりに平常心を保っているルイズは突然手渡された力をどうするか悩み、ため息をついたのだ。
 これがまだ四系統のどれか一つならば、家族や他の者たちに充分自慢できたかもしれない。
 しかし…六千年も前に失われ、幻と化した『虚無』の担い手になったと言っても、一体何人がそれを信じてくれるか…。
 さらに言えば、あの光を自分か作りましたと告白すれば、今に良くない事が起こるかもしれないという予感すらしていた。
 ため息をつくルイズの、そんな心境を読み取ったのかアンリエッタは顔を曇らせて彼女と霊夢たちへ話しかける。

「さて…これで私が、貴女たちの功績を褒め称えるという事ができない理由が分かりましたね?
 仮に私が恩賞を与えれば、必然的にルイズの行ったことが白日の下に晒してしまう事となる…。
 それは危険な事です。ルイズ、貴女が始祖の祈祷書から手に入れた力は一国ですらもてあますものよ。
 ハルケギニア一の精強と謳われたあのアルビオン艦隊でさえ、手も足も出す暇なくたった一発の光で消滅させた…。
 それがもし敵にも知れ渡れば、彼らはなんとしてでも貴女達の事を手中に収めようと躍起になるでしょう。敵の的になるのは私だけで十分」

 そこまで言ったところで一旦言葉を止めたアンリエッタを、タバサを除くルイズやキュルケ達貴族は強張った顔で見つめていた。
 確かに彼女の言うとおりだろう。恩賞や褒美を授ける際には必ずその貴族の功績を報告する絶対義務がある。
 過去にはやむを得ぬ事情で真実とは違う偽りの功績を称え、王家の為に暗躍していた貴族たちもいた。

 しかしルイズたちの場合は軍人でないうえに、学生である少女達が何故最前線にいて、しかも恩賞まで授かられるのか?
 それを疑問に思う貴族は絶対に出てくるであろうし、そうなればありとあらゆる手を使って調べる者たちも出てくるだろう。
 当然、敵であるアルビオン側もその事を知って八方手を尽くして調べ、必要とあらばルイズを攫うかもしれない。
(ウチの国じゃあ、ちょっと前まで゙御伽噺の中のお姫様゙とか呼ばれてたけど…、なかなかどうして頭が回る器量者じゃないの)
 キュルケは学院訪問の際に見た時とは印象が変わり始めているアンリエッタに、多少なりとも関心を示していた。

 一方で、霊夢と魔理沙の二人もそこまで考えていたアンリエッタになるほど〜と納得していた。
 最も、魔理沙はともかく霊夢としては所詮は一時滞在でしかないこの世界で爵位をもらっても使い道が無いとは思っていたが。
(まぁそれである程度今より便利になるならそれも良いと思うけどね〜)
 一瞬だけ手元に出てきて、すぐに手の届かぬ場所へと消えた爵位に中途半端な未練を彼女は抱いてた。
 そんな霊夢の心境を知らぬ魔理沙は、ふとアンリエッタの話を聞いて疑問に思った所があるのか「なぁちょっと…」と彼女に話しかけた。
「はい、何でしょうか?」
「さっき敵の的になるのは自分だけで十分…とか言ってたけど、それだと現在進行形で狙われてます…って言い方だなぁーと思ってさ」
 魔理沙の口から出たこの言葉で、ある事実に気付いたルイズとギーシュがハッとした表情を浮かべる。
 ついで霊夢も緩くなっていた目を鋭く細め、顔を曇らせて黙っているアンリエッタへと向けた。

503ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:17:05 ID:utWO93KQ
「姫さま…もしかして…」
「えぇ、残念な事に…敵は王宮の中にもいるのです。―――――獅子身中の虫という、厄介な敵が」
 その直後、執務室に置かれていた大きな柱時計の針が十二時を指すと同時に甲高い時鐘の音が鳴の響く。
 ゆっくりと、それでいて確実に時が進んでいると教えるかのように…柱時計は執務室にいる者たちすべてに時を告げていた。




「…あら、誰かと思えば御寝坊さんなこの屋敷の主さまじゃないの」
 襖を開け、レミリアと並んで居間へと入った紫の目に入ったのは、
 まるで我が家の様に寛いだ様子で茶を飲んでいた、腰より長い黒髪を持つ小さなお姫様であった。
 左手には茶の入った来客用の湯飲みに、右手にはこれまた戸棚に置いていた塩饅頭を一つ持っている。
 お茶はともかくとして、恐らく饅頭の方は無断で持ってきたのだろう。そう判断しつつ紫はそのお姫様に軽く会釈した。
「こんにちは、良い雨ですわね。ところで…そのお饅頭はどこから持ってきたのかしら」
「あぁこれ?永琳に何か無いって言ったら持ってきてくれたのよ。中々良い饅頭じゃない……あ〜ん」
 そう言った後、お姫様は右手に持っていた白いお菓子を躊躇なく口の中に入れ、そのままむぐむぐと咀嚼していく。
 本来ならば、屋敷に置かれていた物を無断かつ目の前で食べる事自体相当失礼な事であろう。
 ましてやその主はかの八雲紫。下手すれは死より恐ろしく辛い目に遭ってから追い出されても、文句は言えないだろう。

 だが、その饅頭を無断頬張る黒髪のお姫様の顔には嬉しそうに笑みが浮かべている。
 まるで自分があの饅頭を食べること自体が悪い事と思っていないかのように、見た目相応の少女の笑み。
 彼女にとって自分が欲しい、食べたい、やりたい事はすぐ目の前にあり、誰にもそれを邪魔する資格は無いと信じている。
 それは彼女にとって当然のことであるし、常人たちの様にそれを実行する為に越えねばならない壁など存在しないのだ。
 黒髪のお姫様こと――――蓬莱山 輝夜は、つまるところ我が侭なのであった。

「ングッ…―ン…―…ふぅ。お茶との相性もピッタシだし、これを買ってきた貴女の式はとても有能ね」
 うちのイナバと交換してあげたいくらいだわ。食べた後にお茶を一口飲んでから、輝夜は満面の笑みで紫に言った。
 家主である紫の許可なしにお菓子を食べたうえで、罪の意識すら感じさせない言葉に紫は「相変わらずですわね」と言う。

 かつては月の姫として、何一つ不自由ない生活の中で暮らしてきたがゆえに培った、自分本位な性格。
 それは今や彼女を縛る足枷ではなく、輝夜という月人のアイデンティティとして確立されていた。
 だから紫は怒らなかった。仮に゙際限なぐ怒ったところで彼女は反省するどころか、コロコロと笑い転げるだろう。
 例え、それで文字通り゙八つ裂ぎにされてしまうおうとも、彼女にとっては単なる゙治る怪我゙で済んでしまうのだから。

「全く、貴女は相変わらずですわね」
「残念だけど、この性格は月の頃からずっと続いてるから変えようと思っても単なる徒労で終わっちゃいそうだわ」
 呆れを通り越した苦笑いを浮かべる紫に輝夜はそう言うと、もう一口湯飲みの茶を啜る。
 その時、テーブルを挟んだ先の縁側からフワフワ〜と浮遊しながら紫の古くからの友人が姿を現した。
 水色に月柄という少し変わった着物を纏い、頭には死者の頭に着ける三角布とふわっとした丸帽子を被っている。
 何やら楽しそうに鼻歌を口ずさみながら、窓に当たる雨粒が少々喧しい縁側から居間へと入ろうとしたとき、
 ふと右へ向けた視線の先に、今日までの間ずっと目を開けなかった親友の姿を見て紫の友人―――西行寺 幽々子は思わず「あら!」と声を上げた。

「紫じゃないの!もしかして、今起きたところなのかしら?」
 足を畳から浮かせた状態のまま、ふわふわと自分の傍にまで近づいてきた亡霊の姫君に紫は右手を上げてあいさつする。

504ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:19:04 ID:utWO93KQ

「おはよう幽々子。どうやらその様子だと、随分と退屈していたんじゃないかしら?」
「勿論よ。眠り込んでいる間は幽体離脱でもして、私の所に遊びに来てくれると思ってたもの」
「それは出来たとしても、流石に遠慮していたとおもうわよ?」
 とんでもない事をサラッと言ってのけた幽々子に、紫の横にいたレミリアがジト目で睨みながらさりげなく突っ込みを入れる。
 まぁ彼女の言う事も間違いではない。うっかり魂だけで冥界へ行くという事は、飢えたライオンの檻の中に身を投げるようなものだ。
 心の中では同意しつつも、敢えて口には出さなかった紫はとんでもない冗談をかましてくれた幽々子に苦笑いしていた。
 幽々子も幽々子で本当に冗談のつもりで言ったのだろう、「それはそうよねぇ」と言ってコロコロと笑う。

「相変わらず楽しそうよねぇ、あの亡霊姫…―――――………お?」
 それを机の上に肘を付きながら見ていた輝夜が、ふと背後から感じた気配に思わず顔を縁側の方へと向ける。
 輝夜の声に紫たち三人と――後から入ってきた永琳と鈴仙の二人も縁側の方へと視線を向ける。
 彼女たちの目が見ている先、窓越しに空から落ちてくる梅雨の雨が見える縁側に――――――゙彼女゙はいた。

 左右で長さの違う緑色のショートヘアーに、頭にばこの世界゙とは違ゔあの世゙における重要な職務に就く者のみが被れる帽子。
 右手には悔悟棒と呼ばれる杓を握っており、それもまだ彼女゙という存在を確立する為に必要な道具の内の一つ。
 身長は紫より低いものの、レミリアよりかは大きい。だというのに周囲の空気は彼女から発せられる気配に蝕まれていく。
 永琳の後ろにいた鈴仙は思わず口の中に溜まっていた唾をのみ込み、幽々子に突っ込んでいたレミリアは渋い表情を浮かべる。
 畳に足が着いていなかった幽々子もいつの間にか浮かぶのを止め、縁側に立づ彼女゙を見つめていた。

 そしで彼女゙へ向けて恭しく頭を下げるとスッと横へどき、目覚めたばかりの紫の掌を上に向けた右手で指す。
「御覧の通り、八雲紫はたったいま目覚めてございましてよ」
 幽々子の言葉に゙彼女゙もまた頭を下げて一礼すると、ゆっくりと右足から今の中へと入っていく。
 永琳は自分と輝夜にとって最も遠い位置にいて、そして最も自分たちを嫌っているであろゔ彼女゙に多少なりとも警戒している。
 一方で輝夜は他の皆が立っているにも関わらず一人腰を下ろしたまま、六個目になる塩饅頭をヒョイッと手に取った。

 そんな輝夜を無視する形で、今へと入っだ彼女はテーブルを壁にして紫と見つめ合う。
 名前と同じ色の瞳を持つ紫と、何もかも見透かしてしまいそうな澄んだ宝石のような緑色の瞳を持づ彼女゙。
 互いに視線を逸らさず、静かなにらみ合いを続けたまま。゙彼女゙が先に口を開く。


「お久しぶりですね、八雲紫。何やら、随分と手痛い目に遭ったようですね」
「まぁそれは薬師から耳にしましたけど、わざわざ格下である私の見舞いに来てくれるとは…随分情けを掛けられたものですわね?」

 ―――――閻魔様?最後にそう付け加えた後、紫はフッと口元を歪ませ笑う。
 対しで彼女゙、大妖怪から閻魔様と呼ばれた少女―――――四季映姫・ヤマザナドゥは笑わない。
 ヤマザナドゥ(桃源郷の閻魔)は無表情と言ってもいいくらい感情の欠けた表情で、じっと紫を睨み続けていた。

505ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:21:21 ID:utWO93KQ
以上で79話の投稿を終わります。
2017年が始まって早くも一月たちますが、今年もよろしくお願いします。
それではまた、二月末にでもお会いしましょう。ノシ

506名無しさん:2017/02/01(水) 00:43:35 ID:ZyhOyyMU
おつぅ

507ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:41:44 ID:B.yuTipo
夜分遅くに失礼します。投下を行います。
開始は3:44からで。

508ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:44:26 ID:B.yuTipo
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十五話「三冊目『ウルトラマン物語』(その2)」
月光怪獣再生エレキング
悪質宇宙人メフィラス星人
宇宙の帝王ジュダ
ジュダの怪獣軍団 登場

 ルイズを救うための本の旅を行う才人とゼロ。三冊目の本は、ウルトラマンタロウの成長物語
であった。この世界では、最初は少年の年代になっているタロウをゼロは鍛えて立派なウルトラ
戦士にしていく。そしてタロウが青年に育つと、彼に地球で暗躍するメフィラス星人とその手下の
エレキングの退治の命令が下った。タロウはゼロに見守られながら、地球に向かって出発したのだった!

 ウルトラ族が使用する宇宙船に当たる赤い球により、タロウはM78星雲からはるばる太陽系
銀河への移動を完了した。赤い球を解くと、宇宙空間から青い地球をじっと見つめる。
「これが地球か……。ウルトラの星に似て、美しい惑星だ」
 いつも兄たちの活躍の話に聞くだけで、実際に目にしたことは一度もなかった地球の光景に、
タロウは感慨を覚えた。
 だがそんな時間も長くはなかった。タロウの超聴力が、地球の人間たちが怪獣の暴力によって
苦しむ声を捉えたのだ。
「はッ、いかん! 人々の悲鳴が聞こえる! 急がねば!」
 我に返ったタロウはまっすぐ地球に向かって飛んでいき、大気圏を抜けて地上へと急いでいった……。

 その頃、地球の大地の上では、メフィラス星人の放った怪獣が火を吹いて地方の村を襲い、
大きな被害を出し続けていた。
「カ―――ギ―――――!」
 黄色い体色、目の代わりに伸びた二本のアンテナの役割を果たす角。エレキングである。
しかしただのエレキングではない。ウルトラセブンに倒された個体の屍が月光の力により
変質し、新たな命を得た再生エレキングである。
「カ―――ギ―――――!」
 再生エレキングは蘇生前にはなかった、手先からの火炎噴射能力で村を瞬く間に火の海に
変えていく。このままでは大勢の人たちが炎に巻かれて殺害されてしまう!
「とぉッ!」
 それを救うべく今地上に降り立ったのがウルトラマンタロウだ! タロウは即座に合わせた
両手からウルトラシャワーを噴射し、エレキングの起こした火災を瞬く間に消し止めていく。
「カ―――ギ―――――!」
 エレキングは破壊活動の邪魔をするタロウに背後から殴りかかった。消火活動後の隙を
突かれたタロウは殴打を食らってゴロゴロ転がる。
「うッ!」
「カ―――ギ―――――!」
 エレキングが更に飛びかかってきたが、タロウもやられてばかりではない。相手の勢いを
利用した巴投げで仕返しした。
 エレキングを投げ飛ばして立ち上がったタロウだが、エレキングはそこに尻尾からの火炎
放射を浴びせる。
「カ―――ギ―――――!」
「うわあぁぁッ!」
 高熱火炎に焼かれて苦しめられたタロウだがそれを耐え、火炎が途切れた隙をすかさず
突いて距離を詰めると、エレキングの尻尾を抱え込んで振り回し、転倒させる。
「ふッ! ふッ!」
 タロウは仰向けに倒れたエレキングに馬乗りになって、顔面に連続チョップを叩き込んで
弱らせていく。タロウ優勢だがしかし、そこに乱入者が現れた。
『私の改造エレキングを追い詰めるウルトラ戦士! 何者だ!』
 煙とともに現れたのは、エレキングを再生させた犯人であるメフィラス星人だ! タロウは
メフィラス星人を警戒してエレキングの上から飛びのいた。

509ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:46:48 ID:B.yuTipo
「ウルトラマンタロウだ!」
『ウルトラマンタロウ! よくも私の地球侵略を妨害してくれるな。しかし、これを見ろッ!』
 メフィラス星人が見せつけた手の平の中には、地球人の子供たちが捕らわれていた!
「うわーん! 助けてー!」
『クックックッ、この子供たちがどうなってもいいというのかな?』
 メフィラス星人は分かりやすくタロウを脅迫する。
「何ッ! 卑怯だぞ、メフィラス星人!」
『卑怯もラッキョウもあるものかぁッ! 改造エレキングよ、今の内にやってしまえ!』
「カ―――ギ―――――!」
 メフィラス星人の卑劣なる策略により身動きの取れなくなったタロウの首に、エレキングの
尻尾が巻きついて締め上げる。
「ぐぅぅッ……!」
『ワハハハハ! メフィラスの悪賢さ、思い知ったかぁ!』
 タロウを一方的に痛めつけさせて、メフィラス星人は高笑いして勝ち誇った。
 しかしそこに青い流星が飛び込んでくる!
「シェアッ!」
 ルナミラクルゼロだ! 後から地球にやってきたゼロはタロウの戦いぶりを見守っていたのだが、
メフィラス星人の卑怯なやり口に我慢ならずに、タロウの助けに飛んできたのだった。
『何ぃッ!?』
 ゼロは高速ですれ違う一瞬の間に、メフィラス星人の手の中から子供たちを救い出した。
そのまま地上に下ろして逃がしていく。
「わーい! ありがとう!」
『おのれ、仲間がいたか! 余計な真似をぉ!』
 激昂したメフィラス星人が突進してきたが、ストロングコロナゼロの裏拳によって返り討ちにされた。
『うわぁぁーッ!』
『タロウ、メフィラス星人は俺に任せろ! お前はエレキングの方を先にやっつけな!』
「ありがとうございます、ゼロさん!」
 タロウは力ずくでエレキングの拘束から逃れ、勝負を仕切り直しにした。ゼロは宣告通りに、
その間にメフィラス星人の相手をする。
『よくもやってくれたな! 邪魔する者は誰であろうと許しておかん!』
 立ち上がったメフィラス星人がゼロに肉弾戦を挑むが、筋力ならば右に出るもののいない
ストロングコロナゼロ相手にはあまりに無謀であった。超パワーと宇宙空手の技が組み合わさった
ゼロの拳によって軽く押し返される。
「セェアッ!」
『ぬぅぅッ!? これならどうだぁ!』
 すぐに分が悪いと判断したメフィラス星人は距離を取り、目からレーザーを発射したが、
ゼロは射線を見切ってウルティメイトブレスレットでそれを難なく受け止めた。
『何だとッ!?』
『はぁッ!』
 直後にゼロは飛び蹴りで襲い掛かり、メフィラス星人を弾き飛ばした。
「カ―――ギ―――――!」
 ゼロがメフィラス星人と戦っている一方で、エレキングは口から火炎を吐いてタロウを
攻撃していた。電気エネルギーによって熱量の高められた火炎は、あらゆるものを焼き尽くす
ような地獄の業火だ。
 しかしタロウはゼロの特訓によって、如何なる苦しみにも耐え得る忍耐力を身につけていた。
身を焦がすような灼熱も、今のタロウには通用しない!
 またタロウは勤勉であった。ウルトラの星に記録されていたセブンとエレキングの戦闘の
映像によって、エレキングの弱点を見抜いていた。
 タロウはその弱点を突くべく、炎の中から高々と跳躍してエレキングに飛びかかり、角に
引っ掛かっているロープに手を掛けた。

510ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:49:16 ID:B.yuTipo
「エレキングの弱点は、この角だッ!」
 ウルトラ念力でロープを鎖に変えて強度を増し、角に幾重にも巻いて力の限り引っ張る。
角をがんじがらめにされたエレキングは大いに狼狽している。
「たぁーッ!」
 そしてタロウは地を蹴り、空中に浮き上がったまま発光して驚異のウルトラパワーを発揮した。
それにより、遂にエレキングの角が頭部から引っこ抜かれる!
「カ―――ギ―――――……!」
 エレキングの角は目に代わる感覚器官であり、普通でも失えば前後不覚に陥るが、再生
エレキングは肉体を動かす月光のエネルギーを吸収する器官でもあるのだ。つまり、角を
失った再生エレキングは完全に力を失い、その場に倒れ込んだのであった。
 ゼロの方もメフィラス星人を捕まえ、渾身の力で投げ飛ばした。
『ウルトラハリケーン!』
『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 メフィラス星人は竜巻によって吹っ飛ばされ、真っ逆さまに転落。ゼロはちょうどエレキングを
倒したタロウへ叫ぶ。
『タロウ、今だッ!』
「はいッ!」
 タロウは頭上に右腕を掲げ、そこに左腕を重ねてスパークを起こし、両手を腰に添えることで
大気中のエネルギーを自身に集中させた。エネルギーの高まったタロウの全身が虹色に輝く。
 そうして右腕を水平、左腕を垂直にして両腕でT字を作り、必殺光線を発射した!
「ストリウム光線!!」
 これがタロウの編み出した最強必殺技、ストリウム光線だ!
『ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ―――――――!!』
 ストリウム光線の直撃をもらったメフィラス星人はその場に膝を折り、斃れると同時に
跡形もなく消滅していった。
 エレキング、メフィラス星人を立て続けに撃破したタロウは、大喜びしてゼロに向き直った。
「ゼロさん、やりました! これで私も、ウルトラ戦士も仲間入りですよね!」
『ああ! 見事だったぜ』
 ゼロは固くうなずいて、タロウの大健闘を褒めたたえたのだった。

 しかしタロウは地球での戦闘後、すぐにウルトラの星に呼び戻された。宇宙警備隊本部の
トレーニングルームで、ウルトラの父からあることを言い渡される。
「タロウ、訓練はまだ終わった訳ではないぞ」
「えッ!? まだ特訓をやるんですか? どうして私だけ、そんな重点的に……」
 疑問を持つタロウと、話に立ち会っているゼロに対して、ウルトラの父は打ち明ける。
「タロウ……この話はまだ早いと思っていたが、お前は私の予想以上に鍛え上げられた。
よってお前に与えられた最重要任務の内容を教えよう!」
「私に、最重要任務!?」
「心して聞け」
 念押しして、ウルトラの父が語り聞かせる最重要任務とは。
「お前は宇宙の歪みが生み出した、宇宙最大の悪魔、ジュダを倒す超ウルトラ戦士にならねばならん!」
「宇宙最大の悪魔!?」
 ジュダ。ゼロはその名前を知っていた。数万年周期でよみがえり、破壊の限りを尽くして
宇宙全土を恐怖のどん底に叩き落とす恐るべき宇宙の帝王。現実のM78ワールドでも、ウルトラ
戦士との死闘の末に退治されたという話を聞いたことがある。
 そうか、この本の世界の最終目的は、ジュダを打ち倒して世界に平和をもたらすことだったのか。
「ジュダは宇宙の歪みそのものであり、実体がない。そんなジュダを倒すには、宇宙の歪みを
正す以外方法はないのだ。そしてそれには莫大なエネルギーが必要なのだ! それが出来るのは、
私と同じウルトラホーンを持つタロウ、お前以外にいない!」

511ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:51:43 ID:B.yuTipo
 ウルトラホーン。タロウやウルトラの父に生えている角だが、これはただの突起ではない。
他のウルトラ戦士の全てのエネルギーを吸収することが出来る神秘の器官なのだ。現実の
タロウも、ウルトラベルを入手するのにウルトラ族の肉体でも耐えられない環境を作っている
ウルトラタワー内に立ち入る際に、ウルトラホーンの力でウルトラ兄弟と合体し、スーパー
ウルトラマンとなったことがある。
「私は年老いた。ジュダを倒すには、若いお前の力が必要なのだ! 早速超ウルトラ戦士に
なるための特訓を始めるぞ!」
「はいッ!」
 タロウに施す特訓に取り掛かろうとするウルトラの父に、ゼロが問いかける。
『ウルトラの父、俺にも何か手伝えることはないでしょうか?』
 しかしウルトラの父はゼロの申し出を断った。
「気持ちはありがたいが、いつまでも君に頼りっぱなしではいられない。それにこの特訓は
エネルギーの消耗が激しい、危険なものだ。他人に任せる訳にはいかない」
『けど……』
「大丈夫だ。年老いたこの身だが、己の息子に稽古をつけるだけの力は残っている。君はタロウが
超ウルトラ戦士の資格を得ることに成功することを祈っていてくれ」
『……分かりました』
 ウルトラの父にそこまで言われては、反論することは出来ない。ゼロも大人しく身を引いた。
 タロウの最後の特訓は、ウルトラの父が放つエネルギー光線をウルトラホーンで受け止め、
エネルギーを余すところなく吸収するというものである。しかし己の許容量を超えるエネルギーを
その身に受け止めるなど、容易に出来るものであるはずがない。ゼロに丹念に鍛えられたタロウに
とっても非常に困難なことであった。
「うぅッ、くぅッ……!」
 それでもタロウは、何度失敗しようともめげずに特訓に向き合い、チャレンジしていった。
全ては宇宙の悪魔ジュダを打ち破り、真の平和を世界にもたらすため。本当のウルトラ戦士に
なるという熱い思いが、タロウの身体を支えているのだ。
 だがしかし、ジュダはタロウの特訓の完了を待ってはくれなかった!

 暗黒宇宙で、復活を果たしたジュダが高笑いを発する。
『ワハハハハハハ! わしは遂に復活した! ウルトラの戦士たちよ、五万年前の恨みは
必ず晴らしてやるからな!』
 ウルトラ戦士への復讐を目論むジュダは、その手始めとして地球に目をつけた。
『わしがひと声掛ければ、全ての悪の怪獣が動き始めるのだ! ウルトラの戦士よ、お前たちが
愛した地球を、我が怪獣軍団が破壊し尽くしてくれるわ! 行けぇッ、怪獣たちよ!』
 ジュダの命令により、地球に恐怖の怪獣たちが押し寄せる!

「ギャアアアアアアアア――――――!」
 ジュダの命令の影響により、東京を走る河川の中から、液体大怪獣コスモリキッドが出現!
「アハハハハハ! アーハハハハハハハハハッ!」
 更に河川敷の地中からは再生怪獣ライブキングが現れた!
 二体の怪獣は口から火炎を吐き、町を手当たり次第に焼き払い始める!

「ゲエエゴオオオオオオ!」
 コンビナートにはムルロア星から飛来した宇宙大怪獣ムルロアが襲来した!

「キイイィィィィィ!」
 野山を突き破り、百足怪獣ムカデンダーが姿を現して町を攻撃する!

『ウオオォォォ―――――!』
 市街地には泥棒怪獣ドロボンが侵入し、棍棒を振り上げて建物を叩き潰す!

「ギイイイイイイイイ!」

512ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:53:24 ID:B.yuTipo
 そして工事現場にはえんま怪獣エンマーゴが出現し、口から吐く黒煙で草木を枯らし、
辺りを死の大地に変えていく!

『フハハハハハハ! このジュダ様の力を思い知れぇッ!』
 地球を怪獣たちに襲わせ、ジュダは満悦気味に大笑いを上げた。そしてジュダの狙いは、
ただ地球を破壊するだけではなかった。
『今ウルトラの星では、わしを倒すためにウルトラマンタロウが特訓を受けている。それが
完了する前に奴をおびき寄せ、葬ってくれる! そうすれば最早わしを止められる者は
いなくなるのだぁ!』

「大変です! 地球にジュダが怪獣軍団を送り込みました!」
 地球の異変は、ルイズによって特訓中のタロウとウルトラの父にもたらされた。
「何ですって!? 地球が危ないと!?」
「ゾフィーからエースまでの五人が緊急出動しましたが、まだ手が足りていません。せめて
後一人、地球に向かわなくては……」
「うむ……」
 ルイズからの報告に考え込むウルトラの父。そこにタロウが申し出る。
「私が行きます! 地球の人たちの危機に、黙っている訳にはいきません!」
「いや、タロウよ。お前には特訓を完了させて超ウルトラ戦士になる任務が残っている! 
ここは私が行こう」
「ですが父さん、その消耗し切った身体では危険です!」
 ウルトラの父はずっとタロウの特訓につき合ってエネルギー光線を放射し続けたため、
既に消耗が重なった状態にある。そんな身体で戦いに赴くのは危険すぎる。
「しかし……」
『大丈夫です!』
 そこに飛び込んできたのは、我らがゼロだった。
『俺が行って、怪獣たちを片づけてきますよ!』
「ゼロさん! やってくれるんですか!?」
『あったり前さ! タロウ、地球のことは俺に任せて、お前は早いとこ特訓を終わらせちまいな』
 ゼロの申し出を、ウルトラの父とルイズがありがたく承諾した。
「何から何まですまない。私も出来るだけ早くタロウを鍛え上げて、応援として地球に向かわせよう」
「くれぐれも気をつけて下さい。これは恐らくジュダの罠です。何が待ち受けているか、
分かったものではありません」
『了解です!』
 ウルトラの父たちに敬礼したゼロは宇宙警備隊本部を飛び出し、地球に向かって飛び立った。
「ジュワッ!」
 怪獣軍団の脅威に晒されている地球に急行するゼロ。ジュダのたくらみを粉砕して、この本の
世界にも平穏を与えるべく、進めウルトラマンゼロ!

513ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/01(水) 03:54:03 ID:B.yuTipo
以上です。
卑怯もラッキョウもあるものか!

514名無しさん:2017/02/01(水) 15:50:33 ID:5e.9VNXI
↑その言葉は、メフィラス紳士の証!

515名無しさん:2017/02/01(水) 18:42:10 ID:s1nJJD5k
>子供
ああ、TV版でエレキングに張り合ってた子供たちがここで絡むのか!
そしてタロウ怪獣の目白押しですな。

516ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:48:55 ID:zuXS1mac
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を行わせてもらいます。
開始は1:52からで。

517ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:52:11 ID:zuXS1mac
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十六話「三冊目『ウルトラマン物語』(その3)」
宇宙の帝王ジュダ
ジュダの怪獣軍団
暴君怪獣タイラント 登場

 『古き本』の攻略もいよいよ半分の三冊目に突入。三冊目はウルトラマンタロウの成長物語
であり、ゼロは本の中のタロウを一人前のウルトラ戦士にするべく熱心に鍛え抜く。その甲斐あり、
タロウは見事地球を攻撃する再生エレキングとメフィラス星人を撃破した。しかしウルトラの父が、
宇宙の悪魔ジュダの復活の時が近いことを告げる。ウルトラの父はタロウを、ジュダを倒せる
超ウルトラ戦士にするべく最後の特訓を施す。だがそれを妨害しようと、ジュダは先手を打ってきた。
地球を襲う凶悪怪獣軍団! ゼロはタロウに代わって地球を守護するべく、ウルトラ五兄弟とともに
ジュダの軍勢に立ち向かっていくのであった。

「ギイイイイイイイイ!」
 ジュダが繰り出した怪獣軍団の一体であるエンマーゴは、口から大量の黒煙を吐いて辺りの
木々を立ち枯れさせていく。エンマーゴの吐く煙は、如何なる生物もたちまち死滅してしまう
恐るべき悪魔の武器なのだ。このままでは、周囲一帯が草木一本も生えない死の大地になってしまう。
 そこに駆けつけたのがウルトラマンゼロ! エンマーゴの凶行を阻止すべく、颯爽と戦いを挑む。
『そこまでだ! 食らえッ!』
 ゼロは先手必勝とばかりにワイドゼロショットを放ったが、エンマーゴは左手の盾を構えて
光線を遮断した。
『フハハハハッ! そんなものがこの俺様に通じるかッ!』
 ワイドゼロショットを防御したエンマーゴが得意げに高笑いした。
『何ッ! 傷一つつかねぇだと!』
『っていうかしゃべった!?』
 驚く才人。エンマーゴは確かに怪獣と言うよりは、名前の由来の閻魔大王そのままの姿で
あるが、口を利く能力は持っていなかったはずだ。
「ギイイイイイイイイ!」
 エンマーゴはそんなことお構いなしに右手の剣を突きつけながらゼロににじり寄ってくる。
同時に黒煙も吐き出すため、ゼロも迂闊に飛び込むことは出来ない。
『くッ、こいつを食らうのは危険だぜ……!』
 黒煙の殺傷力はゼロにとっても無視できないほど強力だ。ゼロはじりじりと後退するが、
少しずつ距離を狭められ追いつめられていく。
 やがてゼロのかかとが突き出た岩にぶつかった時、好機と見たエンマーゴが一気に飛び込んできた。
『その首級もらったぁッ!』
 エンマーゴの殺人剣がゼロの首を狙う! 危うし!
『はッ!』
 だがゼロは瞬間、ブレスレットからウルトラゼロランスを出し、その柄で剣を受け止めた。
『何ぃッ!』
『武器での勝負なら負けねぇぜ!』
『小癪な! 俺様の恐ろしさをとくと教えてくれるわぁッ!』
 ゼロランスでエンマーゴと激しく切り結ぶゼロ。武器の腕ならばゼロに軍配が上がるのだが、
エンマーゴには黒煙もある。剣とともに繰り出される黒煙のために、なかなか攻勢に出ることが
出来ない。
『だったらッ!』
 そこでゼロは額のビームランプからエメリウムスラッシュを発射する構えを見せた。だが
光線攻撃を察したエンマーゴがすかさず盾を構えて防御態勢を取る。

518ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:54:23 ID:zuXS1mac
 しかしそれはゼロのフェイントだった。
「セェイッ!」
 ゼロはエンマーゴの構えた盾を、下から思い切り蹴り上げる! 予想外の方向からの衝撃に、
盾はエンマーゴの手を離れて放り飛ばされていった。
『何だとぉッ!?』
 動揺するエンマーゴ。その隙を逃すゼロではない。
「テェアッ!」
 後ろに跳びながらゼロランスを投擲し、まっすぐ飛ぶランスがエンマーゴの身体の中心を
貫通した。
「ギイイイイイイイイ!!」
「セアッ!」
 苦しむエンマーゴに改めてエメリウムスラッシュが撃ち込まれ、エンマーゴは一瞬にして
爆散。その脅威は取り払われたのだった。
 だがこれで終わりではなかった。むしろここからが戦いの本番であった。
『よくもやってくれたものだな、青きウルトラ戦士よ! このわしの邪魔をしようとは、
身の程知らずな奴よ!』
 突然空が夜になったかのように暗くなり、角を生やした魔人の虚像がいっぱいに映し出された。
それを見上げたゼロが指を突きつける。
『お前がジュダだな!』
『左様! 愚かな貴様に、わしの偉大な力を見せてくれるわッ!』
 ジュダが宣言するとともに、暗転した空に妖しい光の瞬きが複数出現した。星の光ではない。
あの不気味な光は……怪獣の悪霊の魂だ!
『宇宙に散らばる悪魔の魂よ、集まれぇぇぇぇッ!』
 ジュダの命令により、怪獣たちの魂が地上に落下してきてゼロの前で一つに合体していく。
そして一体の大怪獣の姿へと変貌した。
「キイイイイィィィィッ!」
 それは複数の怪獣のパーツが組み合わさって一個の怪獣の形となっている、ゼロも才人も
見覚えのある怪獣であった。暴君怪獣タイラントだ!
 タイラントは既に倒したことがあるが、油断はならない。一冊目のゼットンの例がある。
あの時のようにイレギュラーな事態が発生するかもしれないし、暗黒宇宙の帝王ジュダが
その手で作り上げた怪獣が簡単に行くとは思えない。
 果たして、ジュダは生み出したタイラントに向けて告げた。
『合体獣タイラントよ、お前にわしの力を授けよう!』
 ジュダの両目から暗黒のエネルギー光線が放たれ、タイラントに吸収された。
 その途端、タイラントに異変が発生する!
「キイイイイィィィィッ!」
『うおッ!?』
 その全身が激しくスパークしたかと思うと、メリメリ音を立てて膨れ上がり、また変形を起こす。
そうして瞬く間に、体高がゼロの二倍近くにまで巨大化した。
「キイイイイィィィィッ!!」
 ただ巨大化しただけではなく、肉体にゴモラの後ろ足とジェロニモンの羽根飾りが追加され、
ケンタウロスを思わせるような体型に変化を果たしていた。この姿を目の当たりにしたゼロが
舌打ちする。
『くッ……EXタイラントか!』
『ゆけぇッ、タイラントよ! ウルトラ戦士を叩き潰し、地球を滅茶苦茶に破壊してやるのだぁぁぁッ!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 ジュダのエネルギーを得てはるかにパワーアップしたEXタイラントが左腕を振り回す。
すると鎖が伸びて鉄球自体が飛んできて、ゼロを横殴りした。
『うあぁぁッ!』
 鉄球だけでもすさまじい質量。攻撃を食らったゼロが大きく吹っ飛ばされて、山肌に叩き
つけられた。
『つぅ……! 半端じゃねぇパワーだ!』
「キイイイイィィィィッ!!」

519ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:57:30 ID:zuXS1mac
 うめいたゼロにタイラントは四本の足で地響きを起こしながら突進してくる。自分の倍以上の
巨体が突っ込んでくるのはものすごい迫力だが、ゼロはひるまなかった。
 ウルトラの星では、タロウがジュダを倒すための特訓を今もなお続けている。彼がやり遂げる
ことを信じて、今は自分がEXタイラントの暴威を食い止めるのだ。
『おおおぉぉッ!』
 ゼロは鬨の声を上げて、タイラントに自分から向かっていった。

 ゼロが必死に戦っている頃、別の場所に現れた怪獣たちは、ウルトラ五兄弟が相手をしていた。
「ギャアアアアアアアア――――――!」
「ヘッ!」
 コスモリキッドの相手をしているのはゾフィーだ。ゾフィーはコスモリキッドにチョップ、
キックを繰り出すが、肉体が液体に変化する能力を持つコスモリキッドには打撃が全てすり抜けて
しまい、全く効果がない。逆に殴打を食らって地面を転がる。
「ギャアアアアアアアア――――――!」
 通常攻撃を全て無効化する恐ろしい怪獣。普通なら勝ち目などないと絶望してしまうだろうが、
ウルトラ兄弟長兄にして宇宙警備隊隊長のゾフィーは、持ち前の冷静な頭脳によって既にコスモリキッドを
倒す作戦を思いついていた。
『ウルトラフロスト!』
 伸ばした両腕の指先から、猛烈な冷却ガスを噴出。それをコスモリキッドに浴びせる。
「ギャアアアア……!」
 ガスを浴びたコスモリキッドはたちまち凍りつき、一歩も身動きが取れなくなった。液体の
怪獣なので、全身が凍りついてしまえば全く動くことが出来なくなってしまうのだ。
 そしてゾフィーはとどめとして稲妻状の光線、Z光線を撃ち込む。これによってコスモリキッドは
瞬時にバラバラに砕かれた。全身を凍らされた上で粉微塵にされては、コスモリキッドもどうする
ことが出来なかったのだった。
「アハハハハハハ! アーハハハハハハハハ!」
「ヘアァッ!」
 他方ではウルトラマンエースがライブキングを激しく殴り合っていた。エースは相手のボディに
重いパンチを何発も見舞うが、タフネスに優れるライブキングは全く以て平気な顔であった。
エースはライブキングに突き飛ばされる。
「アハハハハハハハハ!」
「ダァッ!」
 立ち上がったエースは額のランプに両手を添えて、パンチレーザーを発射。レーザーは
ライブキングの口内をピンポイントで撃つ。
 口の中を攻撃されてはライブキングもひとたまりもない……そう思うかもしれないが、
それでもライブキングはまるでへっちゃらだった。
「アーハハハハハハハハハッ!」
 ライブキングは再生怪獣。心臓さえ無事なら、そこからでも完全復活が出来るほど生命力が
強い肉体は、攻撃を受ける端から回復してしまうので、まともに攻撃していても焼け石に水なのだ。
 エースも手がないかと思われたが……それは違う。エースはライブキングに肉薄すると、
その巨体を頭上に抱え上げる。強力な投げ技、エースリフターだ。
「イヨォッ! テヤァッ!」
 投げ飛ばして地面に叩きつけたライブキングは、さすがに一瞬動きが止まって隙が生じる。
エースはそれが狙いだった。
「ヘアッ!」
 合わせた手の平から液体を噴出し、ライブキングに浴びせかける。そうするとライブキングの
肉がドロドロと溶けていく。
 エースが放っているのはただの液体ではない。怪獣の身体もこのように溶かしてしまうほどの、
非常に溶解性の強いものだ。普通の攻撃が通用しないような相手のために開発した技、ウルトラ
シャワーである。
 ライブキングも肉体を跡形もなく溶かされては、再生することはかなわない。やがて完全に
溶解されて消滅したのであった。

「ゲエエオオオオオオ!」
「シェアッ!」

520ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 01:59:49 ID:zuXS1mac
 ウルトラマンはムルロアを相手に取っていた。が、宇宙大怪獣であるムルロア相手にかなりの
苦戦を強いられていた。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ウアァッ!」
 ムルロアは身体中に生えた管から大量の黒い煙を噴射しながらウルトラマンに体当たりして
突き飛ばす。更に口から鋼鉄もあっという間に溶かす強力な溶解液を飛ばしてきて、ウルトラマンは
危ないところでかわした。
 ムルロアが噴出する煙は光を完全に閉ざしてしまい、現実世界では地球全体がムルロアの
煙に覆われて太陽光を遮断されてしまったこともあった。光の種族たるウルトラ戦士にとっても
この特性は非常に危険であるため、ウルトラマンはまだ煙の量が少ない今の内にどうにかしなければ
ならないと判断する。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ヘッ! ダァッ!」
 そしてムルロアの一瞬の隙を突いて、ウルトラアタック光線を照射。これが命中したムルロアは
身体が硬直する。
 この間にウルトラマンはムルロアに駆け寄って、巨体をあらん限りの力で抱え上げた。
「ヘアァッ!」
 持ち上げたムルロアを天高く放り投げ、ウルトラ念力を集中して爆破させた。ムルロアは
危ないところで、ウルトラマンの作戦によって撃破されたのだった。

「キイイィィィィィ!」
「ダァーッ!」
 ムカデンダーと戦っているのはウルトラセブンだ。セブンはムカデンダーの振り回す右手の指が
変化したムチをかわし、アイスラッガーを投擲してムカデンダーの首を綺麗に切り落とした。
 簡単に決着がついたかと思われたが、切断されたムカデンダーの首は何と独立して動き、
セブンの肩に噛みついてきた!
「グワァーッ!」
 これがムカデンダーの最大の特徴と言ってもいい特殊能力。首が胴体と別々に行動することが
可能で、その変則的な動きに敵は惑わされるのだ。
 だがセブンは歴戦の戦士。このような小細工で狼狽えたりはしなかった。
「デュッ! ジュワァッ!」
「キイイィィィィィ!」
 素早くムカデンダーの首を捕らえて肩から引き離し、頭部に何度も拳骨を浴びせる。すると
首が物理的に離れていても感覚はつながり続けている胴体が苦しんでドタバタもがいた。
 大きくひるんだムカデンダーの首をセブンは空高く投げ飛ばし、エメリウム光線を発射!
「ジュワッ!」
 首は空中で爆発。残った胴体も、L字に曲げた右腕の手刀から発したハンディショットで粉砕した。

 ウルトラマンジャックはドロボンと一対一の決闘を繰り広げていた。
『うおおおおお―――――!』
「アァッ!」
 しかしジャックはドロボンの金棒によって滅多打ちにされる。意外かもしれないが、ドロボンは
ZATに「エネルギー量ならこれまでの怪獣の中で一番」と評されたほどのパワーを有しているのだ。
その圧倒的攻撃力にはジャックも大いにてこずらされていた。
「ウアァッ!」
 金棒の突きでジャックは大きく吹っ飛ばされ、大地の上を転がった。ジャックはこのまま
やられてしまうのか?

521ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:02:20 ID:zuXS1mac
 いや、ジャックにも強力な武器があるのだ。立ち上がった彼は左手首に嵌まっているそれを
手に取った。セブンから授けられた、あらゆる宇宙怪獣と互角に戦えるウルトラの国のスーパー
兵器、ウルトラブレスレットである!
「ジェアッ!」
 ジャックはブレスレットをウルトラスパークに変形させて掲げると、まぶしい閃光が焚かれ、
それを浴びたドロボンの動きが一瞬停止した。
 その隙に投擲されたウルトラスパークが宙を飛び、悪を断つ刃となってドロボンの右腕、
左腕、そして首を瞬く間に斬り落とした。崩れ落ちたドロボンの肉体はエネルギーが暴走して
爆破炎上する。
「シェアッ!」
 ドロボンを討ち取ったジャックは空に飛び上がり、EXタイラントに苦戦しているゼロの元へと
急行していった。他の兄弟たちもまた、同じようにゼロの元を目指して飛行していた。

『だぁぁぁッ!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 ゼロは果敢にEXタイラントにぶつかっていくが、如何せん体格差が違いすぎる。ゼロは
ひと蹴りで弾き飛ばされてしまった。
『ぐぅッ……だが負けねぇぜ……! タロウが必ずここに来てくれる!』
 そのことを信じてめげずに戦い続けるゼロ。そんな彼に応援が駆けつけてくれた。
「シェアッ!」
『あッ! ウルトラ兄弟だ!』
 才人が叫んだ通り、ゾフィーからエースまでのウルトラ五兄弟が到着したのだ。彼らは
EXタイラントに向けて、M78光線、スペシウム光線、ワイドショット、シネラマショット、
メタリウム光線の必殺光線一斉発射攻撃を加えた。
「キイイイイィィィィッ!!」
 だがタイラントは五人分の光線を、ベムスターの腹で吸い込んでしまい、ダメージを
受けなかった。これにはウルトラ兄弟も動揺を覚える。
『フハハハハ! このジュダ様の力、思い知ったか! 貴様らウルトラ戦士を、地球ごと
粉砕してくれるわぁッ!』
 勝ち誇って豪語するジュダ。偉大なウルトラ兄弟の力が加わっても、EXタイラントを倒す
ことは出来ないのか?
 だがその時、この戦場に彼方から赤い火が迫り来る! それを見上げたゼロが歓喜に震えた。
『来た! 遂に来たか! タロウッ!』
 その言葉の通り、赤い球の中から現れたのはウルトラマンタロウだ! 彼はゼロや兄弟たちに
一番に告げる。
「お待たせしました! 特訓を終え、ジュダを倒せる力を習得してきました!」
『よくやったぜ! そんじゃあ……!』
 タロウが駆けつけたことで気合いを入れ直したゼロが、EXタイラントに振り返る。
『俺も師匠としてひと踏ん張りしねぇとな! はぁぁぁぁぁッ!』
 気勢とともに空高くに跳躍し、全力のウルトラゼロキックを繰り出す! 流星のような
飛び蹴りがタイラントの脳天に命中した。
「キイイイイィィィィッ!!」
 さすがのタイラントも、頭蓋に強い衝撃をもらったことで動きが弱った。
『よし、今だ!』
「はい! 兄さんたち、お願いしますッ!」
 この間にタロウは、兄たちのエネルギーをウルトラホーンに集めた! 五人のウルトラ戦士の
身体が消え、タロウと一つに合体する。
「むんッ!」
 タロウは、兄たちのエネルギーを全てウルトラホーンに吸収し、スーパーウルトラマンとして
立ち上がったのだ!
『タイラントよ、タロウを倒せぇッ!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 ジュダはEXタイラントをタロウにけしかける。しかしウルトラ六兄弟の力を一つにした
タロウは計り知れないパワーを全身にみなぎらせて、それを迎え撃つ。

522ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:04:21 ID:zuXS1mac
「たぁぁッ!」
 タロウのジャンピングキックがタイラントに炸裂。すると体格ではるかに上回っているはずの
タイラントが押し返されたのだ!
『すげぇ!』
 ゼロたちはその光景に驚愕した。六兄弟の力が合わさると、純粋なパワーでもあれほどの
大怪獣を凌駕するほどになるのか。
「キイイイイィィィィッ!!」
 タイラントは鉄球を飛ばして反撃してくるが、タロウは手の平で鉄球を打ち払った。そして
両腕をT字に組み、ストリウム光線を発射。
「とあぁーッ!」
 タイラントの顔面に直撃したストリウム光線は、炸裂を引き起こしてタイラントに大ダメージを
与えた。
 タロウは圧倒的なパワーでタイラントを追い詰めていく。だがジュダがそれに黙っていなかった。
『このままでは済まさんぞぉ! 最後の手段だッ! タイラントよ!!』
「キイイイイィィィィッ!!」
 命令を受けたタイラントが鉄球を飛ばす。だが矛先はタロウでもゼロでもなく、はるか天空だ。
「何をする気だ!?」
 伸びていく鎖は途中で止まり、引き戻される動きとなる。そうして雲の向こうから戻ってくる
鉄球は……何と巨大な隕石に突き刺さって、地表に向けて引きずり落としていた!
「!! あれを地球に落とすつもりかッ!」
『地球もろとも、宇宙の藻屑となれぇぇぇぇッ!』
 巨大隕石が地球に落下したら、どれだけの犠牲者が出るか分かったものではない。とんでもない
ジュダのあがきだ。
 しかしゼロはそれをみすみす許したりはしなかった。ゼロスラッガーを胸部に接続しながら
タロウに呼びかける。
『タロウ、隕石は俺が破壊する! お前はタイラントとジュダを倒すんだ!』
「はいッ!」
 ゼロは上空から落下してくる隕石に向かって、ゼロツインシュートを発射!
『でぇあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッ!』
 気合い一閃、超絶破壊光線が鉄球ごと隕石を粉砕し、地上に影響が出ることはなかった。
 そしてタロウは右腕の先から脇腹に掛けての広い範囲から、M78星雲史上最強の必殺光線を、
満を持して放った!
「コスモミラクル光線!!」
 光線はEXタイラントに叩き込まれ――一瞬にして爆発四散せしめた!

『ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!』
 暗黒宇宙で、タイラントの撃破と同時に己の闇のエネルギーも強い光のエネルギーでかき消された
ジュダが、断末魔を発しながら消滅したのだった。

 EXタイラントとジュダに勝利したタロウが合体を解き、ウルトラ兄弟がタロウの前に現れる。
「兄さんたち、ありがとう!」
 ウルトラ兄弟はおもむろにうなずき、タロウの健闘を称えた。
 次いでタロウは、ゼロに向き直って彼にも礼を告げる。
「ゼロさんも、今まで本当にありがとうございました。私たちの勝利は、あなたがいたからこそです」
『なぁに、どうってことないさ。ウルトラ戦士は助け合いだからな』
 気さくに返したゼロが踵を返す。
『ここはもう大丈夫だ。俺は旅の続きに戻るぜ』
「もう行かれるのですか? せめて、ウルトラの星で改めてお礼を……」

523ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:05:49 ID:zuXS1mac
『それには及ばねぇっての。俺は風来坊さ。一つの戦いが終われば、またどこかで俺の助けを
求めてる人がいるところにひとっ飛びするのが俺の生きる道なんだ』
 ゼロは去り際に、タロウに首を向けてサムズアップした。
『じゃあなタロウ。平和になったお前たちの世界、ずっと見守ってるぜ』
 本の外からな、とゼロは心の中でつけ加えた。
「はい! 私もゼロさんのご健闘を、ずっとお祈りしてます!」
『へへッ……そんじゃあ、達者でな!』
 タロウたちウルトラ六兄弟に見送られながら、ゼロは地球を――この本の世界を後にしたのであった。

 ――『ウルトラマン物語』も完結させた才人が、今回もまた無事に現実世界に帰ってきた。
「これで半分だ……。そろそろルイズに変化が起きてもいいんじゃないか?」
 そんな才人の独白に応じるかのように、ルイズの方からかすかに声が聞こえた。
「ん……」
「ルイズ!?」
 顔を向けると、それまでずっと眠り続けていたルイズがゆっくりと上体を起こしたのだった。
これに才人たち一同は驚き、安堵した。
「ルイズ、よかった……。やっと目を覚ましたんだな!」
「ミス・ヴァリエール……おはようございます。ご無事にお目覚めになられて、わたし安心しました……」
「ほんとよかったのねー! 一時はどうなることかと思ったのね」
「パムパム!」
 才人たちは感激してルイズに呼びかけたが、ルイズはぼんやりと彼らの顔を見つめ返していた。
「ルイズ? 起き抜けで頭がはっきりしてないのか?」
 訝しんだ才人が近寄ろうとするのを、タバサが制した。
「待って。様子が変」
 タバサのひと言の直後に、ルイズは才人たちに対して、このように尋ねかけた。
「あなたたちは……誰ですか?」
「え……?」
 それに才人たちは思わず固まってしまった。シエスタが戸惑いながら聞き返す。
「ど、どうしたんですかミス・ヴァリエール? 長く眠り過ぎて、ぼけちゃいましたか?」
「ミス・ヴァリエール……? それが、わたしの名前ですか……?」
「もう、何言ってるのね? こんな時に冗談はよすのね!」
 シルフィードが大きな声を出すと、ルイズはビクッ! と身体を震わせて縮こまった。
「ご、ごめんなさい! わたし、何か悪いことしましたか……?」
「え、え……?」
 普段のルイズからは想像もつかないほど怯え切った様子に、シルフィードも唖然とする。
タバサはルイズを脅かしたシルフィードをポカリと杖で叩いて、言った。
「ルイズは記憶を失ってる。……まだ戻ってない、と言った方がいいかもしれない」
「そ、そんな……」
 呆然と立ち尽くす才人。一方でルイズは、周りのもの全てに怯えているかのように震えた。
「わたし、分からないんです……。自分の名前も……どんな人だったのかも……」
 どうやら、『古き本』の攻略はまだ続けなければいけないようだ。

524ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/02/07(火) 02:06:50 ID:zuXS1mac
以上です。
いよいよ折り返し地点。

525名無しさん:2017/02/07(火) 16:49:09 ID:NHl5bkrc
乙 
ウルトラマンの映画ならまだアレが残ってますな。ウルトラ兄弟と、あいつの

526名無しさん:2017/02/09(木) 21:19:31 ID:IcQmyecs
ラッシュハンターズとの共闘も見たいと思ったけど難しいかな

527暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:36:46 ID:Z7JqIaTI
みなさんお久しぶりです。
かなり間が空いてしまい申し訳ないです
よろしければ22時45分から投下しようかと思います

528暗の使い魔 ◆PMgCVlzHGk:2017/02/11(土) 22:45:06 ID:Z7JqIaTI
赤くかがやく焔が、目前の無数の人々を包んでいくのを眺め、『彼ら』は割れんばかりの歓喜の声を上げた。
地を埋め尽くす群衆。その、一人ひとりが武装した軍団の中心で、煙にまかれて砦が燃える。
赤みを帯びた夕焼けの空へ、高く高く黒煙が昇っていった。
炎の中から響く無数の断末魔にも耳を貸さず、彼らは叫ぶ。
見ているか、と。
革命を掲げる『彼ら』にとって、その狼煙とも言える黒煙は、ある者どもへの何よりのメッセージである。
――岬の城に籠った脆弱なる王家よ、見えるか?貴様らを助けに行く者どもはもはやこの地にいない。助けられるものもいない――
ここから遠く離れた王党派の居城ニューカッスルからも十分に目視できるほどの大火であった。
砦を囲むから声が上がりオオオ――と鬨の声が上がる。王を廃した貴族派による、新たな政治を夢見る彼らには、最早迷いも躊躇いも無い。
目前のすべてを塗り替えて新たな時代を作るのだ、と息巻くのだ。
「諸君!」
と、突如の大声量が鳴り響く。全軍団が、一糸乱れずそちらへ向き直る。
彼らの視線の先には、燃え落ちる砦を背景に立つ、一人の男。
まるで僧のような恰好だが、手に握りしめた杖ときらびやかな装飾から、男の位の高さが伺える。
そして表情は岩のようだが、そのぎらついた眼はむしろ溶岩を連想させる。
静かにたたずむ群衆の目前で、彼は口を開いた。
「見よ、王軍に与する最後の支城は焼け落ちた。これより我らは、ニューカッスルに籠る本軍を叩く」
仰々しく手を広げ、彼は続ける。
「みたまえこの光景を!炎を!これは灯である。我らの行く末をきらびやかに照らす未来のともしびである!」
それを聞き、全軍から再び割れんばかりの歓声が巻き起こる。
彼らは口々に叫んだ。
「クロムウェル陛下万歳!」
「神聖アルビオン万歳!」
それを聞き彼、貴族派総司令オリヴァー・クロムウェルは、静かに笑みを浮かべた。そして再び声を張り上げた。
「全軍!ニューカッスルの部隊と合流せよ!愚かな王家を討ち滅ぼし、あらたな夜明けを迎えるのだ!」
号令とともに、全軍が動きだした。黒い軍団が、うねるよに大地を飲み込んでいく。
それを見て、クロムウェルはますます笑みを強めた。
その時。
「陛下」
突如、黒いローブの人影が彼の背後から歩み寄り、彼に声をかけた。
細身の体の人間、そしてそれに合致するような年若い女の声である。
クロムウェルは振り返ると、変わらぬ笑みで彼女を迎えた。
「おお、ミス!ご苦労だったな!して、状況はいかがかな?」
影がクロムウェルに近づき、耳元で囁く。
「ふむ、そうか順調か。多少の狂いはあったが、無事進行しているようだな」
報告を聞き、彼は満足そうに頷く。
「いよいよ明後日、我らの目的は果たされる。彼ならば必ずやり遂げるだろう。だが――」
突如クロムウェルが言葉を閉ざす。先ほどと変わり少々笑みを曇らせ、彼は押し黙る。
意図を察した彼女が静かに呟いた。
「ご心配なく、陛下。あ奴に関しては、此度の計画に手出しは無用と釘はさしております」
それを聞き、クロムウェルはむぅと唸る。
「万に一つ動くようなことがあれば、あの程度の異邦の者など――」
「成程、わかった」
一通り聞いたクロムウェルが彼女のこれ以上の言を制す。落ち着いた仕草だが、そこには何かを避けたいような様子が見え隠れする。
「ミス・シェフィールド」
「はい」
名を呼ばれた彼女が、彼に向き直る。
クロムウェルは彼女に背をむけながら、静かに呟いた。
「くれぐれも、頼んだぞ」
シェフィールドはそれを聞き、静かに応答する。
しかし、彼女は聞き逃さなかった。
そのクロムウェルの声の、微かな震えを。


暗の使い魔 第二十一話 『ニューカッスルの夜』


「な、なななっ……!」
黒田官兵衛は、わなわなと、実に分かりやすく動揺していた。
長曾我部と船で戦い、気を失い数時間。たった今目覚めた自分が、置かれているこの状況に。
「全部……」
震える声で、彼は叫んだ。
「全部終わっただとーーーーーっ!!?」
ぎゃんぎゃんと、屋内に響く叫び声に耳を塞ぎながら、ルイズはため息をついた。
「そうよ。あんたが寝てる間に皇太子殿下との話は終わったわ。あとはこの手紙を無事姫様に届ければ――」
「任務は完了だよ、使い魔君」
ルイズの言葉を引き取って、ワルドが答えた。
目覚めたベットに腰かけたまま、官兵衛は頭を抱えた。

529暗の使い魔 ◆PMgCVlzHGk:2017/02/11(土) 22:47:41 ID:Z7JqIaTI
官兵衛が目覚めたここは、アルビオン大陸の先端岬に位置する居城ニューカッスル、その一室である。
長曾我部の襲撃騒ぎから数時間、官兵衛が寝込んでる間に、ルイズたちは無事ニューカッスルの城についた。
現在貴族派の大群に囲まれているニューカッスルの城へは、陸路やまともな方法では入城できない。
そこで彼らは、アルビオン大陸の真下にもぐりこむ航路をとった。
その先には、王軍だけが知る秘密の港があったのだ。
ルイズの話に官兵衛が舌を巻く。
「大陸の真下を通るだと?目隠ししながら航行するようなもんじゃないか」
巨大な大陸の下は太陽の光も届かない。一歩間違えば闇の中、大陸の岩肌に衝突して一巻の終わりだ。
それを彼ら王軍は涼しい顔で航行してのけたという。
その時のウェールズの話では、それは空を知り尽くした軍人には造作もないことだだ、という。
無粋な貴族派に空を制すことはできない。
彼らが裏で空賊に扮した行動をとれたのは、この航空技術によるところが大きいという。
話を聞き終えた官兵衛は、思わず感嘆の息を漏らした。
案外、王軍もやるじゃないかと。
しかしその時ふと、官兵衛の脳裏に、ある疑問が浮かんだ。
「(確かにその技術はすごいが、それだけでここまで持ちこたえられるのか?)」
考えが浮かんだらすぐ口に出したくなる官兵衛。
おい、とルイズに呼びかけようとした、その時だった。
不意にガチャリと戸が開き、部屋に初老の男性が入ってきた。
「失礼いたします。お連れの方がお目覚めになられたと聞きまして。」
実に丁寧に一礼する男性。ルイズとワルドもそれに合わせる。
そして男性は官兵衛にも同じように一礼すると名乗った。
「わたくし王族付きの執事を務めさせていただいております、パリーと申します」
官兵衛も、その丁寧で洗礼された仕草に対して、礼をする。
「小生は、黒田官兵衛。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの……その、使い魔だ」
使い魔の部分をやや声をひそめて言う。
パリーは嫌な顔一つせず、にこやかに言った。
「クローダ様、ようこそアルビオンへ。皇太子殿下もお目覚めを心待ちにされておりました。」
「ああ……ん?」
返事をして、ふと言葉が止まる。やや呆けた表情で、官兵衛は思わず聞き返した。
「皇太子、ああいや!皇太子殿下がなんだって?心待ち?」
それに対してパリーは柔和な笑みを浮かべる。
「ええ、ぜひ一目お会いください。今夜は盛大なパーティでございます。」
再びパリーが礼をして、扉の外へ視線を向ける。そこにはすでに、宴参加の準備をしようと、多数の侍女が控えていた。


「うおっ!うおおこりゃすごい!」
「相棒〜。はしゃぎすぎだよ」
夕日が沈みかけた頃、官兵衛は、宴の会場を訪れた。
官兵衛はデルフを携帯し、背中に背負っている。
背中から掛かる、うるさい声などものともせずに、官兵衛は声を上げた。
「こいつぁまた随分と豪華な。学院の宴とはまた一味違うな!」
城内で最も広いであろうそのダンスホールでは、所狭しと人々が並び、きらびやかに着飾って談笑している。
ホール中央の巨大なテーブルには、ローストされた巨大な鳥がソースに塗られて光っており、周りにはデザートからオードブルまで様々な食事が山盛りになっていた。
てんやわんやで、今朝から何一つ食事をとってない官兵衛は、腹の虫が鳴りっぱなしであった。
「飯、飯、飯!とりえず鳥か。あとは……!」
「相棒ー。あんまがっつくなって!一応王様主催のパーティなんだからな?」
「へいへい、わかってる。目立たんようにコッソリ、仰山!たらふく食うぞ!」
官兵衛が息巻くのを見て、デルフリンガーはやれやれと言う。
「相棒、わるいけどそりゃもう無理そうだぜ」
「あん?なんでだ」
「周り……みてみ?」
その言葉にはっとして見回したときはもう遅かった。
周囲の人間が、食事の手を止め、ぱちくりと官兵衛を見据える。
「…………あぁ、ハ、ハジメマシテ」
収束する視線の中、はぎこちない笑顔でほほえむ。
この瞬間から、鉄球を引きずったまま剣と会話する男が、一斉に宴の話題になったのだった。

530暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:49:51 ID:Z7JqIaTI
すいません、トリップ間違えてました汗


そのころ、パーティ会場から下へ下へと階段を下り、地下の秘密港へ続く階段の途中。
そこから分かれた岩壁の通路を進んだ、その先の牢獄、そこにその二人はいた。
「チクショウ!俺様をこんなところに閉じ込めやがって!開けやがれってんだ!」
「あーあ終わったねアタシら。よりにもよって王軍最期の戦場真っただ中に連れてこられたんだから」
鋼鉄の扉で閉ざされた狭い牢獄の中で二人、長曾我部とフーケは思い思いの言葉を吐いた。
2メイル四方程度の狭い牢獄内は窓もなく、小さなともしびが揺れてるのみ。
壁は分厚い石壁である。その壁に両足を鎖でつながれた二人は、暇な時間を無駄口を叩きながら過ごしていた。
「まったく!あんたがさっさと王様を押さえてりゃあこうはならなかったのにさ!」
「あぁん!?おめえがあんな髭にあっさり捕まるのが悪いんだろうが!」
壁を背にして座り込んだ二人は、仲良く並んで罵り合う。
「あたしゃあガッツリ時間は稼いだだろうさ!あんな狭い船で逃げ回るのがどれだけ大変かわかってんの!?」
「うーるせえぃ!俺だってあんにゃろうの妨害がなきゃあとっくに――!」

――ぐうぅううううぅ……――

むなしい腹の音が、二重奏を奏でた。
その間の抜けた音色と、底知れない空腹感に、二人は静かに閉口し、うなだれた。
「腹ぁ減った」
「あたしも」
はああ、と深いため息が同時に漏れる。
これ以上しゃべると余計に腹が減ることを察したのか、二人は押し黙ってじっとしていた。
するとどこからか、なにやら鼻腔をくすぐる香りが、漂ってくる。
場所としてはおそらく看守室だろう。夜勤の牢番が食事でもとってるのか。
「おい牢番さんよ!うまい飯くれよ!」
「そうさ!あたしらはお客人だよ!ちょっと挨拶が手荒だっただけじゃないのさ!飯くらいまともなのおくれよ!」
とうとう我慢できなくなったか、二人はぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。それを聞きつけ、牢番が飛んでくる。
「ええいさっきからうるさい奴らめ!殿下の身を危険にさらした賊にかける慈悲などあるか!食事ならそこに転がってるパンとスープでも食らっておけ!」
いうや否や、牢番は持ち場へ戻っていく。
「けっ!仕方ねえ」
長曾我部は短く言うと、床のトレイに置かれたパンをかじり始めた。
乾いてカチカチになったそれを、苦い顔でかじりながら長曾我部は言う。
「ほういや、ふーへよ」
「口にもの入れながら喋るんじゃないよ。行儀悪い」
ごっくんとパンを嚥下しながら長曾我部が改めて言う。
「んぐっ。そういや、フーケよ。俺たちゃこれからどうなんだ?まあ大方予想はつくがよ」
長曾我部の問いに、フーケがため息をつく。
「まー王様の裁量に任されてるとこだろうけど」
彼女が一息おいて言う。
「まあこのまま城とともに放置されて死ぬのか、処刑てとこかね。なんせ王族を襲ったんだから」
「だよな」
それを聞いて、長曾我部もまたため息をついた。
「まあただの密航者ならトリステインに送り返されるだけだったろうけど。それでも監獄に逆戻りするだけだしねぇ。あー成功してりゃあ……」
人質さえとれてればうまくいったのに、とフーケは愚痴を漏らした。
「まあしょうがねえ。終わっちまった事は」
長曾我部も仕方なさげに首を振る。
「それよりよフーケ……」
その時、ふと長曾我部が声をひそめてしゃべり始めた。
「なにさ」
フーケも牢番に気づかれないよう身を寄せる。
「お前、あの髭に捕まったよな。何があった?」
「なんだい、失敗したのはお互い様だろ?もうこのやり取りは止めようよ」
「ちげえ、気になるんだよ」
「何が?」
ぶつくさ言いながらフーケも聞き返す。
「あいつは王軍が扮した賊につかまってて、丸腰だったよな。でお前はあいつの杖がある武器庫にいたと」
「ああ」
未だに質問の意図がわからないまま、彼女は聞く。
「あの髭、丸腰じゃなかったってことか?」
その瞬間、フーケはハッとした。
自分は突如あらわれたあいつに――
「そう、そうだよ!あいつは確かに杖を持ってた!隠し持ってたのさ!」
そうだ、自分は出合頭に何か魔法をくらってそのまま意識を手放した。奴の手には、短い杖が光ってたのだ。
「やっぱりな」
聞くや否や、長曾我部は黙り込んだ。
「どういうこと?」
「こいつはやべえかもな……」
それからだった。長曾我部が一言も発しなくなり、静かに鎮座したままになったのは。
「あんた?おいモトチカ?」
幾度の呼びかけにも答えない。
何時間だっただろうか。
やがてある事が起こるその時まで、彼はフーケと言葉を交わすことはなかった。

531暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:52:01 ID:Z7JqIaTI
「おお!あなたがトリステインからいらしたクロード殿ですな!」
「クローベ殿!空の旅は快適でしたかな!」
「さあさあこのワインを!旅の疲れなど吹き飛びましょうぞ!」

波が押し寄せるように、人がわんさか寄ってくる。

「あーいや!ありがとさん、ありがとさん!ちょっと待ってくれ!」

官兵衛はそれを、手に持ったチキンで制しながらやり過ごす。

「おお!黄金鳥の蒸し焼きですな!それよりこちらのパティでもいかがか!」
「ややや!脂っこいもの続きではもたれてしまいますぞ!こちらの果物でも!」
「さあさあさあ!しかし鉄球とは面白い!トリステインでは新しい試みが多いと聞きますが、まさに!はっはっは!」

「(いやいやありがたいんだが、さすがに簡便してくれっ!)」

好意が過ぎると逆効果な好例だろうか。官兵衛はやや疲れ始めていた。
パーティが始まって一時間くらいは過ぎただろうか。官兵衛は怒涛のもてなしを受けていた。
なぜ自分にこうも人が集まるんだろうか。そりゃあ鉄球つけてれば目立つが、それでもよほどな状況である。
官兵衛はそんな群れをやりすごし、パーティ会場の片隅に座り込む。
「……でもまあ、無下にはできんよなあ」
「そうさね相棒。なんせあいつらにとっちゃあ、今日は最期の晩餐だからね」
官兵衛はしみじみと言う。
「だな」
官兵衛は上座の人々を見る。
そこにはウェールズ皇太子と無数の付き人。戦時中にもかかわらず、さわやかな笑みを浮かべ、臣下と会話に花を咲かす。
そして、そのさらに上座に鎮座する人物。
見るからに老いた風体。しかしその白髪の上には、紛れもなく王たるを示す冠が輝く。
アルビオン王国の現国王、ジェームズ一世である。
臣下に支えられながらよろよろと歩く姿から、すでに体も衰えているのだろう。
官兵衛は静かに視線を落とす。先ほどのジェームズの演説が思い起こされた。

「皆の者よく聞け!貴族派は、明日の午後に総攻撃を開始する!
皆、よくぞこれまでこの無能な王に付いてきてくれた。明日の戦いは、もはや戦いではなく、一方的な虐殺になるであろう」
かすれた声で精いっぱいの声を張る。そしてひと際大きな声で言い放つ。
「よって朕は諸君らに暇を出す!明日この城から、非戦闘員をのせた難民船が飛び立つ!
それに乗り込み、この忌まわしき大陸を離れるがいい!」
言い終わるやいなや、王は激しくせき込んだ。
殿下、と付近の臣下が背をさする。
演説から、状況から、そして何より弱弱しいその王の姿が、この王国がじきに消え去ることを連想させた。
しかし、それに返ってくる言葉はなんとも活力に満ち溢れていた。
「陛下!我らはただ一つの命しか望みませぬ!全軍前へ!全軍前へ!今宵は酒のため、それ以外の命は聞こえませぬぞ!」
「耄碌するにはまだ早いですぞ!命じてくだされ!」
次々と、王に付き従う声が上がっていく。
勇ましい忠誠の声に、ジェームズは涙をぬぐった。

その光景を脳裏に浮かべ、官兵衛はグラスのワインをぐっとあおった。
旅の道中口々に聞く、戦争の情報から、勝敗はわかってはいた。
王党派は明日、最後の攻撃で一人残らず討ち死にする。
ゆえに今この宴があるのだ。
最期の最後に、貴族派に精いっぱいの勢いを見せつけてやろう。
我らの活力を見せつけよう、と。
だからこそ彼らは官兵衛に、異国の男に、その様を伝えようと関わってくるのだ。
それを無下にできようものか、と官兵衛はデルフに言うのだった。
「……腹が減ったな」
「おう、いつも以上に食うね!」
デルフが茶化すように言う。
ただ官兵衛は、とにかく食べたかった。
のしのし歩いて、テーブルからごっそり肉を盛る。
そしてかっこむ。
途中でまたもや話しかけられたが、官兵衛は楽し気に話を進める。
それが、こういう場での習わしだと感じた。
アルビオンの人々は、終わり際に必ず『アルビオン万歳!!』と叫んで帰っていく。
官兵衛はそんな彼らを無言で見送った。
「うむ!うまいな!こっちの飯はあんま食いなれてないが、何か、とりすていんとは味が違うな!デルフ」
「そだね。まあ俺は剣だからわからねえがね」
官兵衛は何でもない風に、料理を堪能していた。
デルフがどうでもよさげに言う。
その時ふと、官兵衛に声がかけられる。
「ああ、その料理はハーブが効いてるからね。アルビオン特有のものさ」
「ほう、はーぶ?山椒みたいな、もの、か……」
後ろから聞こえた親切な説明に振り返った官兵衛は、その瞬間面食らった。
「やあ、楽しんでくれてるかな?」
ウェールズ皇太子が、変わらぬ笑みでそこにいた。

532暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:54:07 ID:Z7JqIaTI
「ウェールズ皇太子……殿下!」
とっさに敬称を付け加えながら、官兵衛は言った。
ウェールズが笑いながら言った。
「ははは、ウェールズでいいとも、クロダ殿」
「あ、ああ……」
とりあえず口に詰まった食事を咀嚼しながら向き合う官兵衛。
そんな彼にウェールズは気兼ねなく話しかける。
「先ほどは大変そうだったね、すまない」
「ああ、いや。気にしなさんな」
先ほどからもてなしで休む暇がなかった官兵衛を気遣ってのことだろう。
官兵衛は気にした風もなく返す。
「……こういう時だからね。みんなは異国の大使がそうとう珍しいと見える」
相も変わらず笑顔だが、どことなく寂しげにウェールズは言う。
「嬉しいのさ。最後に、我らの誇りを見に訪れてくれた客人が」
そうか、と官兵衛は静かに呟く。
しばし、二人の間に沈黙が流れる。
パーティーのにぎやかな喧噪だけが、ほんの少し遠くに聞こえた。
やがてどちらからか口を開く。そこから楽しげな談笑が始まった。
官兵衛はといえば、アルビオン大陸を初めて見た時の感動、空を飛んだ感動、雲、空。
果ては長曾我部のことまでと、なんでも口にした。
出身については異世界などと言えないので、遥か離れた東方の地、ということで誤魔化す。
ウェールズもそれをたのしげに聞き、時には問いかける。
程よく酒も入り良い気分だ。
そして不思議とその時は、時間がたってもだれも二人に介入しようともしなかった。
「そうか!我がアルビオンはそんなに美しいかね!」
「おう!なかなか見れるもんじゃないねえ!」
互いにグラス一杯のワインを飲み干しながら、笑いあった。
そのとき、やや間をおいて官兵衛が問いかける。
「いいのか?皇太子殿下がずっとここにいて」
「なに、一通りの話は済ませたさ。君やヴァリエール嬢、ワルド子爵と話をしたいからね」
ふん?と官兵衛が言う。
「君らがいたから、僕はこうして最後の地に戻ることができた。君ら三人の活躍があったからね」
ウェールズが続ける。
「おそらく、皆同じ気持ちさ。君らは単なる大使殿ではない。恩人なのさ」
そういって微笑むウェールズに、官兵衛は若干申し訳ない気持ちになった。
船を襲った長曾我部と自分は面識がある。共謀を疑われると思っていたからだ。
それゆえに官兵衛は、パーティのさなかも警戒していたのだ。
最も、今のウェールズの言葉を本心だと過信はできないが。
「疑わないのか?」
官兵衛は問いかける。それに対してウェールズはきょとんとする、が、ややおいて。
「ふっ!ははは!それもそうか、いやすまない」
大きく笑いながら言った。
「突然失礼。いやなに、ヴァリエール嬢と話をしたんだ。短い間だったが、君の話は色々聞いてしまってね」
ルイズが、と官兵衛が言う。
「なに、僕はともかく周りの家臣は疑ったさ。みんな君とあの賊との話を聞いていたからね。君が賊を引き込んだんじゃないかと」
ウェールズが真顔になる。しかしウェールズは、だが、と続けた。
「彼女は言うんだ。カンベエにそんなこと大それたこと出来るわけがない、とね!」
ウェールズは表情を緩め、再び笑った。
官兵衛はあっけにとられて話を聞いていた。
「それに僕は思うよ。あの素直で優しい大使殿の使い魔殿さ。疑う余地はない、とね」
ウェールズはふう、と息をつくと言った。
「滅びゆく王国は、みな正直なのさ。誇り以外守るものも無い。僕らのことは信じてほしい」
頭を下げるウェールズを見て、官兵衛は言った。
「すまん」
顔を上げ、ウェールズも言う。
「いいさ」
二人は再び笑いあった。

533暗の使い魔 ◆q32nIpOrVY:2017/02/11(土) 22:56:16 ID:Z7JqIaTI
ニューカッスル最後の宴、その喧噪はどこまでも響き渡った。
それは敵の貴族派の陣営にも。
突き出た岬のニューカッスルを見下ろすように、その艦船は上空を浮遊していた。
大きさは、王軍のイーグル号のゆうに二倍はあろう。
要塞と見まごうほどの巨体のその船は、貴族派艦隊旗艦レキシントン号。
彼らが初めて、反乱を成功させた町の名だ。
この戦争も、この船の反乱から始まったのだ。
そんな貴族派にとって、最も重要ともいえるこの船に乗るのは、艦隊提督、そして。
「耳を澄ませたまえ。あの熱に」
静かで、落ち着いた声色が、傍らの影に語り掛ける。
二つの人影が、甲板で気流に晒されながら、岬の城を見つめていた。
「幾度か出会った光景ではあるが、卿はあれに何か感じるかね?」
宴の喧噪について、声がもう一方の影に語り掛ける。しかし返答はない。
もう一方、細身の影はただじっと黙して佇むのみ。その手に、身の丈ほどの得物を握りながら。
「なんだ。卿も言葉を失くしていたのか。残念だ」
声の主は、ややつまらなそうに呟く。
が、やがて吹き荒れる甲板が飽きたか、風が肌障りか、踵を返して歩き出す。
「私は一足先に戻るよ。卿は、そうだな……精々懸命に動き給え」
声の主は、静かに船内へと消えていった。
残された細身の影は、静かに甲板の縁へと立つ。
ゆっくり目的の城を見下ろし、そして天を仰ぐ。
夜も更け、輝く星空でも見えるかと思ったが、どうにも雲行きは悪いようだ。
分厚い雲が空を、星を、月を覆おうとしていた。
「闇夜か。有難い」
年若い声が、するりと甲板から落ちていった。
眼下に広がる居城では、いまだに賑やかな喧噪が鳴り響いている。
ニューカッスルの、長い長い夜が始まろうとしていた。






以上で投下完了です。
ありがとうございました。

534ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:08:11 ID:J6G7hD4w
おはようございます。ウルトラ5番目の使い魔、55話完成です。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

535ウルトラ5番目の使い魔 55話 (1/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:09:12 ID:J6G7hD4w
 第55話
 ブリミルとサーシャ 愛のはじまり
 
 カオスヘッダー 登場!
 
 
 今や、惑星は歯止めの利かない滅亡へのベルトコンベアの上をひた走っていた。
 数え切れないほどの怪獣の群れ。それを強化・凶暴化させる光のウィルスにより、マギ族の文明は壊滅し、マギ族も先住民族も……いや、惑星すべての生命が絶滅の危機に瀕していた。
 光のウィルス、ブリミルたちがヴァリヤーグと呼ぶそれは、マギ族の科学力を持ってしても解析も対抗も不可能であった。正体、目的、知性があるのかすら謎。わかっていることは、こいつに取り付かれると怪獣は手がつけられないほど凶暴化し、たとえ倒してもいくらでも次がやってくるということだけである。
 才人も、過去の戦いで何度もこれに遭遇していたが、才人のいた世界でも記録のないこれらには何も出来なかった。
 ところがである。一同の中で、もっとも話についていけていないと思われていたティファニアが、まるでこれを知っているかのように名前をつぶやいたのだ。
「カオスヘッダー……」
「えっ? テファ、今なんて?」
 皆の視線がティファニアに集まる。今の言葉は何だ? なにか知っているのかという視線にさらされて、彼女ははっとして慌てふためいた。
「あっ、いや、その。わたしは、その、あの、今のはわたしじゃなくて」
 顔を真っ赤にして懸命にごまかそうとはしているものの、皆の怪訝な表情は変らない。さっき、ティファニアは確かに何かを確信してそれをつぶやいたのだ、うやむやにはさせられない。
 しかし、ティファニアが困り果てていると思わぬところから救いの手が延びた。ティファニアの前にサーシャが無遠慮に歩み寄ってきたかと思うと、ティファニアの顔をまじまじと見つめて言ったのだ。
「へー、ふーん。なるほど、あなたがこの時代のそうなのね」
「えっえっ? あの、なんですか?」
「いいえ、なんでもないわ。わかったわ、なぜ彼がこの時代に来れなかったのか。ブリミル、話を進めましょう」
「は? いやしかし」
 突然サーシャに促されてブリミルは戸惑ったが、サーシャはかまわずに告げた。
「いいのよ。今はこれは置いておいて、後で全部わかるから。それよりも、ここからが大切な話でしょ? ヴァリヤーグがやってきて、あなたたちはどうなったのかを」
 サーシャの強い様子に、ブリミルは気圧されるようにうなづいた。他の面々もサーシャに「あなたたちもそちらのほうが大事なんじゃない?」と言われ、やや納得していない様子ながらも引き下がった。
 けれど引っかかる。ティファニアは何を知っているのだ? そして、サーシャは何に気がついたのだ? だが、無理強いしてもサーシャに止められそうな雰囲気ではあった。

536ウルトラ5番目の使い魔 55話 (2/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:11:12 ID:J6G7hD4w
 カオスヘッダー……気になる名前だ。才人はなんとなくだが、あの光の悪魔にはヴァリヤーグよりも似合う名前だと思った。英語の成績はさっぱりだが、前に何かのマンガでカオスとは混沌のことだと見た覚えがある。混沌に付け込んで混沌を広げていく、あれにはまさにふさわしい名前ではないか。
 
 小さな謎を残しつつ、ブリミルは話を再開した。
 マギ族による戦争の混沌を突いて現れたヴァリヤーグによって、マギ族は甚大な被害を被った。各地に築かれた都市は怪獣たちによってことごとく破壊され、地方に散っていたマギ族の多くが死亡し、惑星到着時には千人を数えた頭数もすでに五百人を割ってしまっていた。
 もはや、マギ族にとって安全な場所は最初にサハラに築いた首都のみとなっていた。生き残ったマギ族はここに集結し、ようやく戦争どころではないことを認め合って話し合った。
「今のところは都市の周囲に張り巡らせたバリアーと防衛砲台で怪獣どもの侵入は防げているが、これもいつまで持つかわからん。諸君らには、これから我々がどうするべきか忌憚無く意見を述べていただきたい」
 会議は紛糾したが、もっぱらの課題はヴァリヤーグと名づけた謎の敵に対する方針をどうするかとなった。
 すなわち、ヴァリヤーグに対して、このまま交戦を続けるか、和解の方法を探るか、ひたすら首都にこもって身を守り続けるか、惑星ごと放棄して逃げ出すか。この四つである。
 まず第一の方針は、すでにマギ族の持つ軍事力が疲弊しきっていることから不可能とされた。工場施設と資源はあっても、若い男性のほとんどは地方で自ら軍を率いていたために怪獣たちの餌食となり、残っていたのは大半が女子供や老人ばかりだったのである。
 また、ヴァリヤーグとの和解であるが、これも相手が知性を有するのかすら不明であるため、研究に時間がかかりすぎると却下された。
 首都での篭城は問題外。増え続ける怪獣たちが押し寄せてくれば、あっというまに押し潰されてしまうだろう。
 残った道は、せっかく手に入れた安住の地を捨てて逃げ出すことだけであった。
 もちろん、惑星を放棄することは多くの者が難色を示した。しかし、ほかに有効な手立てもない以上は生存のためには仕方なく、それに何年かすれば怪獣やヴァリヤーグも去っているかもしれないという期待が彼らを決断させた。
「まことに残念ではあるが、我らが生き延びるには他に手が無い。生き残ったマギ族はすべて宇宙船に乗り込むべし」
 それは、ノアの箱舟ともいうべき逃避行であった。ノアと違うところは、神に選ばれたのではなく神に見捨てられたのだというところであるが、マギ族は最初に乗ってきた宇宙船に可能な限りの物資を積み込んで脱出準備に入った。
 まるで夜逃げだ。ウェールズは、レコン・キスタに押されて王党派が何度も撤退を余儀なくされていた頃のことを思い出して重ねていた。あのレコン・キスタの反乱も、事前に防ごうと思えば防げた、早期に鎮圧しようと思えばできたのに、伝統と格式というぬるま湯につかりきっていた王党派はすべてが後手後手の中途半端に終わり、ぼやで済む火事を大火にしてアルビオンを全焼させかけてしまった。皮肉な話だが、自分がヤプールに洗脳されていなければアルビオン王家は滅亡し、今のアルビオンはまったく違った姿に変わり果てていたかもしれない。
 都市から灯が消え、マギ族は脱出準備を整えた。どこへ逃げるかだが、宇宙は今でも宇宙怪獣たちがやってきているために危険すぎるため、聖地のゲートを通って逃れることに決まった。
 宇宙船が離陸し、亜空間ゲートに近づいていく。その光景を、才人すら複雑な表情で見つめていたが、ややすると耐えられずに尋ねた。

537ウルトラ5番目の使い魔 55話 (3/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:12:54 ID:J6G7hD4w
「つまりブリミルさんたちはいったんハルケギニアから離れて、ほとぼりが冷めてから戻ってきたってわけですか?」
 しかしブリミルはゆっくりと首を横に振った。
「いや、僕はあの船には乗っていなかったよ」
「えっ? でもそれじゃあ」
 才人が聞き返そうとした、その瞬間だった。今まさにゲートを潜ろうとしていた宇宙船の頭上から三本の稲妻のような光線が降り注いできたかと思うと、宇宙船は大爆発を起こして墜落してしまったのである。
「なっ、なんだとっ!」
 絶叫する才人の網膜に、空から舞い降りてくる巨大な金色の怪獣の姿が映る。その怪獣は墜落した宇宙船に向かって、再び三つの頭から光線を発射すると、炎上する宇宙船を完全に爆破してしまったのだ。
 唖然とする一同。宇宙船は原型をとどめないほど破壊され燃え盛っている。脱出できた人間は、ただのひとりもいなかった。
 勝ち誇るかのように甲高い鳴き声をあげる怪獣。都市を守っていたバリアーは、最後の最後で役割を果たせずに砕け散ってしまっていたのだった。
 怪獣は次に、主を失った都市への破壊を開始した。バリアーが消えたことで、外にいた怪獣たちも都市への侵攻を開始する。ブリミルは、破壊されていく超近代都市の凄惨な光景を悲しげに見ながら言った。
「僕は地方にいて、自分の船を壊されて帰れずにいたおかげで命拾いをした。この光景は、その後に都市の跡地で見つけた記録にあったものだ。首都と母船が破壊されて、マギ族もそのほとんどが死亡した……だが、問題はこれからだったんだ」
 ブリミルが映像の視点を動かすと、都市の郊外で放置されたままになっていた亜空間ゲートが映し出された。しかしなんということか、ゲートはしだいに歪みだし、まるで心臓のように不気味な脈動をしながら黒い球体と化していったのだ。
「開いたままで制御を失ったゲートは暴走を始めた。よその宇宙から流れ込んでいた膨大なエネルギーはゲートの周りに滞留し、どこの宇宙につながっているのかもわからないままで、手のつけようがない時空の特異点となってしまったんだ」
 それはまさに地上に出現した黒い太陽であった。直径百メートルほどの黒い球体は宙に浮かんだままで何も起こさないが、周辺には巨大な力場を形成しているらしく、近づこうとする怪獣でさえこれに捕まると粉々に分解されてしまった。
 とてつもないエネルギー量。マギ族の都市を輝かせていたエネルギーは、まるで出口を閉じられたダムのようにゲートそのものを飲み込んで停止している。ブリミルが手がつけられないと言ったのも当然だ、ひとつの宇宙に匹敵するエネルギー体にうかつに手を出せば、下手をすれば星ごと消滅させられてしまうかもしれない。
 けれど、これでひとつの謎が解けた。なぜヤプールが聖地を奪ったのか? それはまさに、このゲートを手中にしたかったからに違いない。
 才人はルイズに言った。
「そりゃ、こんな冗談みたいなパワーがあるなら、ヤプールでなくたって手に入れたがるだろうぜ」
「ロマリアがマークしてたのもわかるわね。教皇たち、あわよくばこれも手に入れようって思ってたんでしょうね。けど、ヤプールにまだ動きがないところを見ると、使いこなすまでには行っていないんじゃないかしら」
 始祖ブリミルでさえどうしようもない代物だ。いくらヤプールの異次元科学が進んでいるとはいっても、ひとつの宇宙に相当するようなエネルギーを万一にも扱い損ねればヤプールも自滅に直結することはわかっているだろう。ヤプールは人の心につけこんで操るのには長けているが、意思を持たないものを操ることは甘言では不可能だ。

538ウルトラ5番目の使い魔 55話 (4/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:14:00 ID:J6G7hD4w
 そしてもうひとつ、エレオノールやルクシャナもひとつの答えを得ていた。
「聖地の向こうから、不可思議なものがやってくる理由もわかったわね。異世界への扉が開きっぱなしになってるなら、どこかの世界と偶然つながることもあるってことかも。ルクシャナ、もう落ち着いたでしょ? あんたなら、わかるわよね」
「ええ、それで偶然つながった先から吐き出されてきたものが、中にはわたしたちの手に入ることもある。ヤプールが目をつけたのはそのへんもあるのかも……」
 いずれにせよ推測だが、ヤプールの手中にとんでもない爆弾があることだけは確かなようだ。ヤプールはいまのところおとなしいが、地震が地底深くでゆっくりと圧力を高めていくように、その侵攻が再開されるときはかつてないものになるに違いない。
 始祖の祈祷書などでも聖地について言及してある理由も、こんな危険なものをそのまま放置しておけば何かのはずみで星ごと滅亡することもあるかもしれないからだ。制御が不能ならば、せめて管理して余計な刺激を与えないようにするしかない。
 ともかく、聖地とは名ばかりの地獄の門であることに変わりは無い。ブリミルは深くため息をつくと、聖地を見つめて言葉を続けた。
「あれを封じることが、僕に課せられた最後の仕事だと思っている。でも、どうやらこの時代でも危険なままのようだね。本当に侘びようがないことだが、僕がこれを知ったときには、もうどうしようもないくらいにひどくなっていたんだ。もっとも、この頃の僕は別の意味でそれどころじゃないことになっていたんだけどね」
 ブリミルは映像を変えた。聖地から再び、地方の戦場へと。しかしそれはもう戦場とは呼べず、一方的な虐殺の場でしかなくなっていた。
 母船の破壊で、マギ族はその人口の大半を失った。そして、地方でわずかに生き残っていたマギ族もまた、次々と命を奪われていたのだ。
 ある者は怪獣の餌食となり、またある者は虐げていた人々の復讐によって殺された。
 ブリミルも例外ではなく、船も領地も領民もすべてを失い、身一つで廃墟の中を逃げ惑っていた。
「どうして、どうしてこんなことになってしまったんだ……?」
 天を仰いで嘆くブリミルに答える者はいなかった。因果応報ではあるが、いざとなってそれを自覚できるものは少ない。
 彼に味方は誰もいない。彼の領民だった者は暴君だったブリミルを皆恨んでおり、マギ族は能力的にはほとんど人間と変わらないため、彼にできることはメイジや亜人からも逃げ回ることだけだった。
 飢えて震えて、行くところも帰るところもない逃避行にブリミルは涙した。しかし、それすらも長くは続かなかった。
「怪獣だぁ! 逃げろぉ」
 彼の元領地の生存者たちの集まっている集落を怪獣が襲撃したのである。
 深夜に、地底からいきなり現れた怪獣の前に、寝入りを襲われたメイジも亜人たちもろくな対応はできなかった。しかもこの怪獣は肉食性らしく、住民たちを次々に捕食し、夜の闇の中でも光る角と敏捷な動きで逃げ惑う人々を捕らえ、集落を全滅に追い込んでしまったのだ。

539ウルトラ5番目の使い魔 55話 (5/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:15:43 ID:J6G7hD4w
 ブリミルは集落の外れで食料を盗みに来てこれに遭遇し、集落が全滅するのを後ろに必死に逃げ出した。だが、村一つの人間を食い尽くしてもなお食い足らない怪獣は、大きな耳で足音を捉えて追いかけてきたのだ。
「う、うわぁぁぁっ!」
 その怪獣は、才人から見てパゴスやガボラなどの地底怪獣と似た体つきをしていたが、動きは比べ物にならないほど素早かった。
 ブリミルは夜の道を馬を走らせ、馬が倒れたら馬が食われている間に走り、ひたすら逃げ回った。だがもはやこれ以上は逃げられないとあきらめかけたときである、彼の目の前にマギ族の誰かが乗り捨てて行ったと思われる円盤が姿を現した。
「これは……まだこんな船が残っていたのか」
 着陸している円盤は、マギ族が自家用機として惑星内を移動するときに使用していたもので、直径五十メートルほどの大きさがあった。形は特徴らしいものはなく、強いてあげればイカルス星人の円盤に似ている。見たところ、これといった損傷はなさそうだった。
 動くか? ブリミルは迷ったが、考えている暇は無かった。怪獣はすぐ後ろまで来ている。ブリミルは円盤に乗り込むと、すぐさまコントロールルームに飛び込んだ。
「頼む、動け、動いてくれ」
 一縷の望みを託してブリミルは操縦パネルを起動させた。
 エネルギーが回り、パネルが光りだす。ようし、こいつはまだ生きている、ブリミルはすぐさまエンジンを起動させて離陸しようと試みた、が。
「なんでだ! なんで動かない? 反重力バイパスが烈断? ちくしょう!」
 円盤はすでに飛行能力を失っていた。望みに裏切られて、ブリミルは拳をパネルに叩き付けたが、すぐに円盤を激しい揺れが襲って彼は座席から投げ出された。怪獣が円盤に取り付いて壊し始めたのである。
 怪獣のパワーの前では、多少頑丈なだけの円盤など、立てこもる場所にはならなかった。ブリミルは、この円盤もすぐに壊されてしまうと、外に逃げ出そうとコントロールルームから通路に飛び出した。だがそこへ、怪獣が円盤を横倒しにした衝撃でブリミルはそばの部屋に転がり込んでしまった。
「うう……こ、ここは。生体改造施設、か」
 そこは、この円盤の持ち主が自分の領民をメイジや亜人に改造していたと思われるバイオ設備の部屋であった。人間を作り変えるためのカプセルや、コントロールパネルが半壊の状態で散乱している。
 体を強く打ったらしく、ブリミルはコントロールパネルに這い上がって、やっと立つのが精一杯だった。だが、怪獣はにおいを嗅ぎつけてついにこの部屋まで破壊の手を伸ばしてきた、壁が破られ、その向こうに鋭い牙を生やした怪獣の顔が迫っている。

540ウルトラ5番目の使い魔 55話 (6/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:18:34 ID:J6G7hD4w
 もう逃げ場は無い。ブリミルは、自分がこれから食われるのだと、明確に理解した。
「い、いやだ……誰か、誰か助けて」
 目の前に迫ってくる逃げられない死。部屋が破壊されて、怪獣の口が目の前に迫ってくる。
 だが、そのときブリミルの寄りかかっていたコントロールパネルのスイッチが、彼が手を滑らせたことで偶然にも入った。すると、彼が円盤のメイン動力を起動させていた影響でエネルギーを受けていた生体改造設備は、半壊状態でその機能を発動させたのだ。
「なんだ? う、うわぁぁぁぁっ!?」
 改造カプセルが破壊されていたので、エネルギーはすべてブリミルの体に直接流し込まれた。彼の体がプラズマのように輝き、エネルギーとともに、コンピューターに記録されていた膨大な数の超能力のデータも注ぎ込まれていく。
 しかし、改造は本来はカプセルの培養液の中で安定させた上で数時間かけておこなうものだ。こんな無茶な方法で強制的に人間の体にエネルギーと情報を流し込んで無事ですむわけが無く、ブリミルは言語を絶する苦痛の中でのたうった。
「ぎぃあぁぁーーーっ!」
 その凄惨な光景に、アンリエッタやティファニアは思わず目をそむけかけた。まるで電気椅子にかけられた死刑囚のように、ブリミルはそのまま死んでしまうのではないかと思われた。
 いや、ブリミルは死なない。この運命は、すでに経過済みであるからだ。円盤に残っていたエネルギーのすべてを流し込まれて、ブリミルはそのまま床に倒れこんだ。
「う、あ……」
 あと一秒でも苦痛が続いていたらショック死していたかもしれない衝撃に、ブリミルは動くこともできずに床に倒れ付していた。
 しかし、怪獣は突然の出来事に驚いていったんは離れたものの、光が止んだことで安心して再びブリミルを餌食にしようと迫ってくる。ブリミルは逃げられない。だがそのとき、ブリミルの手元に一本の杖が転がり込んできた。
「これ、は……はっ!」
 杖を持った瞬間、ブリミルの頭の中で無数の文字が踊り狂って呪文の形を成していった。現代のメイジは時間をかけて自分の杖と契約を成立させるが、この時代のメイジは杖を持った瞬間にすべての魔法が使えるようにインプットされた状態で作り出される。しかも、秩序無くありとあらゆるデータを流し込まれた影響からか、ブリミルの頭の中に浮かぶ呪文は、これまで使われたことの無い新魔法として彼の口から流れ出た。
「我が名は、ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール。わ、我の運命に、し、従いし」
 途切れ途切れながらもはっきりした呪文がブリミルの口から流れる。そしてその呪文のルーンを聞いたとき、ルイズは……いや、その場にいたメイジ全員がはっとした。それは現代では特別な魔法でもなんでもなく、メイジなら誰もが知っていて当然の、サモン・サーヴァントの呪文だったからだ。

541ウルトラ5番目の使い魔 55話 (7/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:19:57 ID:J6G7hD4w
 ブリミルの杖が輝き、彼の傍らに光り輝く召喚のゲートが現れる。怪獣はその光に驚いて離れ、続いてゲートからはじき出されるようにして、ひとりの人影が飛び出してきた。
「うわ、あいったたぁ……え、ここどこよ? わたし、さっきまで森で怪獣に追われてて」
 事態を飲み込めない様子であたりを見回す少女、それが誰かは確かめる必要もなかった。短い金髪、活発そうな眼差し、それはまさにここにいるサーシャに間違いはなかったのだ。
 今のサーシャが不敵に笑い、昔のサーシャはうめき声を聞きつけて足元のブリミルを見つけた。しかし、身なりで彼がマギ族だとわかると、彼女は露骨に嫌悪感を示した。
「あんたマギ族ね。わたしをここに呼んだのはあんたなの?」
 足元のブリミルは答えなかった。いや、答えられなかった。彼自身、はじめて使う魔法の効果を理解できても、使い魔という存在がなんなのかわからなかったのだ。いわば、説明書だけを丸暗記させられたようなものだ。
 ブリミルは、見上げた先にいる女性が自分に敵意を持っていることを知った。しかし仕方ない、今やこの星でマギ族に恨みを抱いていない人間などひとりもいないと言っても過言ではない。
 それでも、ブリミルは一縷の望みにすがった。
「た、助けて……」
 そう言うだけで精一杯だった。くどくどした言い訳や命乞いを思いつく暇も無い、ただ本心の願いだった。
 サーシャはブリミルの頼みに、「なんでマギ族なんかを」と、見捨てて離れようと踵を返したが、ブリミルを餌食にしようと迫ってくる怪獣の口を見て一瞬躊躇した。
「なんでわたしが……もう、しょうがないわね!」
 苛立ちながらもサーシャは倒れているブリミルを抱えて飛び出した。次の瞬間には、ふたりのいた場所は怪獣に噛み砕かれて跡形もなくなる、サーシャは怪獣の頭の横を走って駆け抜けると、そのまま円盤の外に飛び降りた。
 円盤は完全に怪獣に押し潰されて大破し、サーシャはブリミルを背中に背負ったままで円盤に背を向けて全力で走る。
「ここどこなのよ! いったいどっちに逃げればいいの!」
「あ、ありが、とう」
「か、勘違いしないでよ。目の前で食われたらさすがに寝覚めが悪いだけよ、てかやっぱり追ってくるじゃない」
 怪獣はしつこくサーシャの後を追ってきた。サーシャは健脚であるものの、人一人を背負ったままではやはり力が出ない。

542ウルトラ5番目の使い魔 55話 (8/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:21:24 ID:J6G7hD4w
 このままではすぐ追いつかれる。映像を見ていた誰もがそう思って息を呑んだときだった。サーシャが……いや、映像の中のサーシャではなくて今ここにいるサーシャがはっとしたようにブリミルに詰め寄った。
「ちょ、ブリミルここカット」
「へ?」
「カットよカット! いいから五分くらい時間を飛ばしなさい! 早く!」
 なんだかわからないけど突然ものすごい剣幕で迫りだしたサーシャに、才人やルイズたちも「なんだなんだ?」と、怪訝な顔をする。
 なんか見られたらまずいものでもあるのか? と、思ったときにはサーシャはブリミルの後ろから羽交い絞めにしてでもイリュージョンの魔法を止めようとしていた。
「飛ばしなさい、い・ま・す・ぐ・に!」
「はっはっはー、なるほどそうはいかないよー。こうなったらもう全部見てもらおうじゃーないか。遠慮しなくてもいいよー」
「誰が! いいからこの、こんなときだけ強情なんだから」
 なんかブリミルもすごく悪い顔をしている。いったい何が始まるというんだ? 一同は考えてみた。えーっと、サモン・サーヴァントの後にするものといえば……なるほど。
 キュルケやアンリエッタが顔を輝かせた。カリーヌはつんとした様子になり、エレオノールは「けっ」と不愉快そうに視線をそらす。
 もちろんウェールズも気づいて、なにやら思い出深そうにうなづいている。ルイズが赤面しているのを才人が脇でつついて殴られた。アニエスははてなという様子だったがミシェルに耳打ちされて納得した。ティファニアがきょとんとしている横で、ルクシャナはこれからがとても楽しみだというふうにニコニコしている。タバサだけは表面上は無表情でいた。
 そして、その瞬間は無情にやってきた。昔のサーシャが走りながら背負ったブリミルの様子を見ようと振り返ったときである。
「ちょっとあなた、どこか逃げ込めるところはないの? さっきからなに背中でブツブツ言って、んんっ!?」
 おおっ! と、ギャラリー一同が興奮し、今のサーシャと昔のサーシャが同時に赤面した。
 そう、サモンサーヴァントの後にすることはコントラクト・サーヴァント。その方法は、人間と動物や幻獣などであればなんてことはないが、人間同士でやるにはすごく恥ずかしい行為、口付けである。
 ブリミルとサーシャの唇がしっかりと触れ合っていた。いや触れ合っているというよりしっかりと押し付けあっている。その熱い光景に、ギャラリー一同は状況も忘れ、キュルケとアンリエッタを筆頭に鼻息を荒くし、ティファニアさえ顔を覆った手のひらのすきまから見入っている。
 が、たまらないのは今のサーシャだ。ものすごく恥ずかしいシーンを大勢に暴露されてしまった。顔から湯気が出そうなくらい赤面し、恥ずかしさをごまかすかのようにブリミルの首を締め上げている。

543ウルトラ5番目の使い魔 55話 (9/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:31:41 ID:J6G7hD4w
 当然、当事者である昔のサーシャの反応もぶっ飛んでいた。
「なっ、なっなっ、なっ、なにすんのよこの腐れ蛮人がぁぁぁーーっ!」
 サーシャは思いっきりブリミルを投げ飛ばし、ブリミルの体は近くの立ち木の幹に思いっきり叩きつけられた。カエルのようなうめき声を残し、地面にずり落ちるブリミル。続いて立ち木がメキメキといってへし折れた。
 「ブリミルさん、死んだんじゃないのか?」。才人はありえないとわかっていながらも本気でそう思った。そりゃ、いきなり唇を奪われたら女性は誰だって怒る。ブリミルには悪気は無く、頭の中に浮かんできたコントラクト・サーヴァントの内容を無意識に再現したのだろうが、何も知らないサーシャにそんなことは関係ない。
 けれど、コントラクト・サーヴァントの効果はすぐに表れた。サーシャの左手が輝き、ガンダールヴのルーンが刻まれ始めたのだ。
「なにっ? きゃあっ、あ、熱い! いたぁぁぁいっ!」
 ルーンが刻まれる際には激痛を伴う。サーシャは左手を押さえて悲鳴をあげた。
 しかしルーンが刻まれるのに時間はかからず、すぐに痛みは治まった。それでも、訳がわからないサーシャはブリミルに何かされたのだと思って、腰に差していた短刀を引き抜いてブリミルに詰め寄ろうとした。
「あんた、いったいわたしに何を? えっ? ええっ!?」
 体を動かそうとしたサーシャは、自分の体が思ったよりも何倍も軽く動いたので驚いた。まるで重力がなくなったような抵抗のなさ、見ると剣を握っている左手のルーンが輝いている。面食らっているサーシャに、ブリミルはふらつきながら告げた。
「それが、君に与えられた力だ。なにかしら武器を持ってるあいだだけ、君の身体能力は何倍にも跳ね上がる」
「ええっ! って、人の許可も無しになにしてくれるのよ」
「すまない。それより、後ろだ」
「えっ? うわっ!」
 サーシャがとっさに飛びのいたところを怪獣の口が通り過ぎていった。アホなことをやっているあいだに追いつかれてしまったのだ。
 またも餌を食べ損ねた怪獣は機嫌を損ねた様子で吠え掛かってくる。サーシャが、もうこれまでかと覚悟しかけたそのとき、ブリミルが杖を握りながら彼女に言った。
「頼む、一分。いや、五十秒でいいから怪獣を引き付けておいてくれ、そうしたら後は僕が」
「はぁ? なによそれ。うわああっ!」
 サーシャの問いかけにもブリミルは答えず、彼は杖をかざして呪文を唱え始めた。もちろん、怪獣も遠慮なく襲い掛かってくる。
「ああもうっ! こうなったらもうやけくそだわ」
 完全に吹っ切れたサーシャは、襲い掛かってくる怪獣に短剣を振りかざして立ち向かっていった。

544ウルトラ5番目の使い魔 55話 (10/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:32:38 ID:J6G7hD4w
 怪獣の突進をガンダールヴのスピードでかわし、大きくジャンプすると怪獣の顔に飛び乗った。自分でも信じられないくらい体が軽い。ならばパワーはどうか? サーシャは短剣を両手で持つと、渾身の力で怪獣の眉間に突き立てた。
「ええーいっ!」
 刺さった! スピードといっしょにパワーもかなり上がっている。しかし短剣では長さが足りず、怪獣の分厚い皮膚の向こう側にまで通っていない。
 せめて槍、もしくは長剣でもあれば。悔しさをにじませるサーシャだったが、そこにブリミルの魔法の詠唱が聞こえてきた。
「スーヌ・ウリュ・ル……」
 不思議なことに、それを聞いたとたんにサーシャの心から恐怖や焦りが消えていき、代わって勇気と自信と、あの呪文をなんとしても完成させなくてはという使命感が湧いてきた。
「あと三十秒、それだけ時間を稼げばいいのよね!」
 サーシャは飛び降りると、怪獣の注意をブリミルからそらすために怪獣の視線をわざと横切っていった。
 当然、怪獣はサーシャへと襲い掛かる。それはほんの数十秒にしか過ぎないとはいえ、危険極まる行為であったが、才人には彼女の気持ちが理解できた。ガンダールヴとは、主の呪文の詠唱が完成するまで主を守るのが務めの使い魔なのだ。
 素早い動きで逃げ回り、サーシャは要求の五十秒を満たした。そしてブリミルは呪文を完成させ、ルイズにとってもっともなじんだあの虚無魔法を発動させた。
「ベオークン・イル……エクスプロージョン!」
 それは、この世に虚無魔法が誕生した瞬間であった。光とともに爆発が起こり、怪獣を巻き込んで吹き飛ばす。
 サーシャが次に目を開けたときには、怪獣はかなたに飛ばされていったのか、それとも欠片も残さないほど粉砕されたのか、いずれかはわからないが視界のどこにも存在してはいなかった。
 助かった……ほっとしたサーシャが短剣をさやに戻すとルーンの光は消えた。そしてサーシャは木の根元で倒れこんでいるブリミルのもとに歩み寄ると、その顔を見下ろして言ったのだ。
「説明してもらえるかしら。いったい何がどうなってるのよ?」
「ごめん、実を言うと僕にもさっぱりなんだ。ともかく、命を助けてくれてありがとう。ええと、君は」
「サーシャよ。めんどうだから名前くらい教えてあげる。あんたは?」
「ブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」
「ブリミルね。それでもう一度聞くけど、こんなどこだかわかんないとこに連れてきてくれて、いったいどうしろっていうの?」
「わからない。けど……うう、なんだか、とても、眠い、よ」
 ブリミルはそのまま、虚無魔法を使った反動で意識を失ってしまった。

545ウルトラ5番目の使い魔 55話 (11/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:34:04 ID:J6G7hD4w
 サーシャは呆れた様子だったが、ふと左手のルーンを見つめると、ため息をついてブリミルを担ぎ上げた。
「勘違いしないでよね。わたしは見も知らない土地を一人で歩き回るほどバカじゃないだけなんだから。それと、わたしの初めてを奪った報いは必ず受けさせてやるわ。それまであんたのことは蛮人って呼ぶから、覚悟しておきなさいよ」
 疲れ果てて寝息を立てるブリミルを背負って、サーシャは雨風をしのげる場所を探すために歩き始めた。この旅立ちが、彼女とその背の男の一生をかけたものになることをまだ二人は知らない。しかし長い夜は明け、しばしの安息を得よと告げるように、ふたりの歩む先から太陽がその姿を見せ始めていた。
 
 舞台は現代に戻り、ブリミルはそこでイリュージョンの映像を再び止めた。というか、サーシャの首締めで落ちて止まった。
 とはいえ、話を区切るには適当なタイミングだっただけに、一同は息をつくと顔を見合わせた。
「これが虚無の系統の誕生と、始祖ブリミルとミス・サーシャの出会いだったわけなのね」
「なんてドラマチックなのでしょう……」
「いや女王陛下、そこじゃないでしょう、そこじゃ」
 うっとりしているアンリエッタにツッコミを入れると、ルイズは考えを整理してみた。
 簡単にまとめると、マギ族はその文明とともにほとんどが死滅した。始祖ブリミルは、幸運に生き残った最後の一人。
 虚無の系統は、人造メイジを生み出す機械の暴走でイレギュラー的に生み出されたもの。常識はずれの効果を持つのはそれが理由だろう。
 サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントは、元々は虚無の魔法だった。しかしコモンマジックとしても使えたので、四系統の中にも組み込まれていった。
 そして、最初の使い魔として選ばれたのがサーシャだった。ある意味、これがハルケギニアの歴史のはじまりだったと言えるかもしれない。
 ほかの面々も感想はそれぞれだろうが、一様になにか深いものを感じたらしくうなづいている。始祖ブリミルは、異邦人であり侵略者であり暴君であり、人間だった。神は地に引きづり下ろされて人になった。
 そのころ、サーシャに締め落とされたブリミルがようやく息を吹き返してきた。
「う、うぅーん。ここは天国?」
「あいにくね、まだ現世よ」
 頑丈だなこの人は、と一同は思った。そういえばさっきもサーシャに思い切り木に叩きつけられていたのになんとか無事だったし、あれから今日まで日々鍛えられていたのだろう。見習いたいとは思わないが。
 目が覚めたブリミルは、首をコキコキと鳴らして脳に血液を送り込むと、一同に問いかけた。
「どうだったかな。僕とサーシャの出会い、たぶん期待したようなものじゃなかったと思うけど、楽しんでもらえたかな?」
 いや楽しむとかそういう類の問題じゃないでしょうが、と一同は思った。なにかスッキリした様子のブリミルはサーシャに軽く意趣返ししたつもりなのだろうが、頬を紅潮させたサーシャにさっそくどつかれている。

546ウルトラ5番目の使い魔 55話 (12/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:35:03 ID:J6G7hD4w
 私をさらしものにするとはいい度胸してるじゃないの蛮人、と言ってすごむサーシャと、いいじゃないの歴史は正確に真実を残さなくっちゃとうそぶくブリミル。だがまあいいものは見せてもらえた。それと豆知識がひとつ、蛮人という言葉の由来は「野蛮な人間」ではなく「ブリミルのボケナス」という意味だった。今のエルフたちは、自分たちが使っている蔑称が痴話げんかから生まれたと知ったらどう思うだろうか。
 それでも、まったく見ていて暖かい気持ちになれるふたりだ。けんかしても憎しみはなく、むしろ深い信頼があるからこそ好きなことを言い合える。カリーヌは若いころを思い出し、若い男女たちはそれぞれ「こんな夫婦になりたいな」と思った。約一名を例外として。
 しかし、痴話げんかで話をいつまでも脱線されても困る。才人は、このふたりに割り込める数少ない人間として、しょうがないなと思いつつ腰を上げた。
「あのー、それでブリミルさん。この後でおふたりはどうしたんですか?」
「ん? ああ、しばらくは二人旅が続いたよ。けど、正直このころが一番苦労したかもねえ。なにせサーシャは容赦ないからねえ、君は僕の使い魔になったんだって説明したときはボコボコにされたもんだよ」
 だろうねえ、と全員が思った。サーシャの気性からして、誰かに隷属するなんてありえない。というか、現在でも平気で主人をギタギタにしているんだから、打ち解けていなかった頃は毎日が血の雨だったのだろう。
 けれど、それでも二人は旅を続けたんだとサーシャは言った。
「仕方ないでしょ。見捨てたら確実にこいつ三日と持たずにのたれ死ぬし、こんなのでもいないよりはマシだもの」
 住民が全滅した土地で、生活力がほとんどないブリミルが生き延びるにはサーシャに頼るしかなかった。彼は虚無の魔法を会得はしたが、使いこなすには経験が圧倒的に不足しており、マニュアルを読んだだけで車に触れたこともない新人ドライバーも同然の状態だったのだ。
 ほぼ役に立たないも同然の虚無では食料を得ることもできず、サーシャは毎日方々を駆け回って二人分の食べ物をかき集めてきた。
 それは、ブリミルにとって自分が穀つぶしだと思い知らされるつらい日々であった。なに不自由ない飽食の生活から一転して、食べられるものがあるだけでも幸いな底辺の生活への転落で目が覚めた。子供でもなければ、自分がなにもせずに他人のお情けで食べさせてもらっているんだという境遇には後ろめたさを感じて当然だ。そしてブリミルにも人並みのプライドはあった。
 自分になにができるか、ブリミルは考えた。サーシャの真似事をしても彼女の足手まといになるだけだ、ならできることは、偶然とはいえ手に入れたこの力を役立てられるようにするほかない。
 そのときからブリミルは暇があれば自分の魔法の研究と訓練に明け暮れた。魔法の使い方だけはわかるが、エクスプロージョンひとつをとっても単に爆発を起こすだけから、広域の中の任意のものだけを破壊するまで加減の幅は広い。それに虚無魔法は効果のスケールの大きさゆえに非常に高度なイマジネーションが必要とされる。それを理解し、身に着けるには、ひたすらに数をこなしていく以外の道は存在しなかった。
 ルイズは試行錯誤をしながら訓練を続けるブリミルに、自分の姿を重ねた。失敗と落胆の積み重ねの幼少期、虚無に目覚めてからも、強すぎる系統は楽に言うことを聞いてはくれず、どう手なづけていくか悩み続けた。
 始祖ブリミルにも、人並みに苦労を重ねた時代はあった。そして、努力を続けることと、サーシャの厳しさや優しさに触れていくうちにブリミルの性格にも変化が現れ始めた。支配者時代の傲慢さは消え、謙虚さや思いやりを表に出すようになった。そうするうちにサーシャとも打ち解け、軽口や冗談を言い合うようにもなっていった。

547ウルトラ5番目の使い魔 55話 (13/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:37:07 ID:J6G7hD4w
 ある日の夕食。焚き火をはさんで、久しぶりに手に入ったパンをほうばるブリミルとサーシャ。笑いあい、語り合い、その話題には明日からどうしていこうかという希望と期待が満ちている。ふたりを暖める焚き火は、ブリミルが練習の末に最小威力で起こしたエクスプロージョンで着火したものだった。
「サーシャ、僕は最近なんだか毎日がとても楽しいんだ。なんか、充実してるっていうか、魔法がぐんぐんうまくなってるって実感があるんだよ」
「ふーん、あんたの魔法って奇妙だからよくわかんないけどあんたが楽しいならいいんじゃない? エクスプロージョンってのでイノシシの一匹でもとってくれたら助かるし。あ、でもこないだみたいに爆発起こして狼の大群を呼び寄せちゃったなんてのはやめてよね」
「あ、あれはまあ、はははは。でも君だってこないだ「珍しい果物を見つけてきたわよ」って喜んでたら、中から虫が出てきて悲鳴をあげて僕に投げつけたじゃない。痛いわ気持ち悪いわで大変だったんだから」
「う、つまらないことはよく覚えてるんだから。そんなことより、明日は新しくテレポートって魔法で山の向こうまで行ってみるんでしょ。余計なこと考えてないでさっさと寝ちゃいなさいったら」
「はいはい……今度こそ、誰か生き残ってる人に会えたらいいね」
「いるわよきっと、あんたでさえ生きてられるくらいなんだから」
「君のおかげだよ、感謝してる」
「そう思うなら明日はがんばってよ。間違って川にドボンなんてごめんなんだからね」
 いつの間にか、ブリミルとサーシャのあいだに信頼が生まれていた。サーシャはブリミルのがんばりを、ブリミルはサーシャの乱暴な優しさをそれぞれ認めあい、心を許し始めていたのだ。
 ふたりは助け合いながら旅を続けた。向かう先は現在のトリステイン地方から東へ、サハラにあるマギ族の首都の方角へである。人口は当然ながら首都の周囲が一番密度が大きく、そちらなら生存している人も多いだろうと思ったからだ。
 円盤で空を飛べばあっという間の距離も、徒歩ではとほうない遠さだった。しかも主要道路は各所で寸断し、山道は埋まり、橋は落ち、野性化したドラゴンやオークたちがエサを求めてうろついている。当然、まだ怪獣も多数徘徊しており、目立つ移動は極力避けねばならなかった。
 それでもふたりは希望を信じた。この世界はまだ滅んではいない、生き残った人々が集まれば再興のチャンスはきっとある。ヴァリヤーグや怪獣たちだって、永遠にのさばり続けるわけはない。たとえ電灯ひとつなく土にまみれた生活しかなくても、無意味な殺し合いの日々よりはよっぽどましだ。

548ウルトラ5番目の使い魔 55話 (14/14) ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:39:08 ID:J6G7hD4w
 旅は何ヶ月も続いた。その間、ふたりは自分たちが信じた希望が間違っていなかったことを見つけることができた。少しずつだが、各地で隠れ潜んで生き延びていた人々と出会うことができたのだ。
 仲間を増やしながらブリミルたちは旅を続けた。そのうちにブリミルの魔法の腕も上がっていき、少しくらいの幻獣の群れくらいならば撃退できるようになっていた。そうするうちにブリミルも頼られることも多くなり、しだいにリーダーとしての役割を果たすようになっていった。
 笑顔を増やしながら旅を続ける小さなキャラバンの誕生。アンリエッタやルイズは、こうしてブリミルが始祖と呼ばれる人物になっていったのだろうと思い、胸を熱くした。
 
 しかし、旅が終点に近づくにつれて、現在のブリミルとサーシャの表情は険しくなっていく。
 それと同時に、才人も違和感を感じ始めていた。ブリミルが仲間にしていく人々に、六千年前に才人もいっしょに旅をした仲間たちが一人も見当たらないのだ。
 
 希望を得て旅路を急ぐ六千年前のブリミルとサーシャ。
 だが、ふたりはまだ知らなかった。ヴァリヤーグによって荒れ果てていくこの星の惨状は、終息に向かうどころかこれからが本番だということを。
 さらに、小さな希望などをたやすく押しつぶすほどの巨大な絶望が旅路の先に待っていることをふたりは知らない。
 
 ブリミルが始祖と呼ばれる存在に生まれ変わるための最大の試練が、やってこようとしていた。
 そしてもうひとつ……破滅が押し寄せる星に向かって急ぐ、澄んだ青い光があった。始祖とその使い魔の伝説は、まだ終わっていない。
 
 
 続く

549ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/02/12(日) 08:41:13 ID:J6G7hD4w
今回はここまでです。ブリミルとサーシャの旅路、原作ではまだほんの少ししか語られていませんが、想像しているうちに楽しくてけっこう話を膨らませてしまいました。
でも、きっと笑いあり涙ありだったのは間違いないと思います。思ったよりも長くなりそうなブリミルの過去編ですが、もうしばらくお付き合いください。
そして、もうすぐ原作のブリミルたちの顛末も明らかになりますね。楽しみなようなや不安なようなやらがありますが、こちらではあくまでウル魔の歴史の中でのふたりを描きます。
しかし書いててなんですがすごい世界になってますね、まさに怪獣無法地帯、または怪獣総進撃。

最終巻の発売までにあと一話投稿できるかなあ。ともあれ、また次回で。


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