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避難所用SS投下スレ11冊目

1名無しさん:2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

401ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:22:13 ID:UgHbZZAM
 だが、話しかけてきたキュルケに対してルイズが返した言葉は予想外のモノであった。
「いや、多分これは…ワタシ一人で出来ると思うから、周囲に敵が来ないかだけ見てくれれば良いわ」
 鞄を漁っていた手を止め、中に入れていたであろう道具を一つずつ両手で取り出したルイズからの返答に、キュルケ達は驚いた。
 無理もないだろう。彼女が言った事を解釈すれば――あの魔法が使えない『ゼロ』ルイズが、一人でアルビオン艦隊を止めて見せる。という事なのである。
 まだ霊夢や魔理沙…それに協力を申し出たキュルケやタバサ達の力を借りれば、一桁であっても勝率と言うものはあるかもしれない。
 だが彼女はそれを自らの手で大丈夫といって跳ね除けた。一桁だった勝率を限りなくゼロにまで下げる行為を、いとも容易く行ったのである。

「ちょ…ちょっと、馬鹿言いなさいなルイズ!いくら何でも、貴女一人だけじゃあ…」
「そうよルイズ!いくら失敗魔法が爆発だからって、空の上にいる戦艦を撃ち落とそうとか考えてるんじゃないでしょうね!?」
 すかさずキュルケとモンモランシーが、とち狂った(ようにしか見えない)ルイズを再び説得し始めた。
 その二人に背中を向けているルイズは「…うん」や「そうだけど…」と先程の威勢の良さはどこへやら、歯切れの悪い相槌を打っている。
 しかし…そんな相槌を繰り返す裏で、彼女は右手で鞄から取り出していた指輪を左手の薬指にゆっくりと嵌めていく。
 指輪に台座に嵌った宝石は、まるで澄んだ海の水をそのまま固めたような青く神秘的な輝きを放っている。
「モンモランシーの言うとおりだよルイズ。『レキシントン』号クラスの戦艦じゃあ…ちょっとやそっとの爆発じゃ大したダメージにはならないぞ!」
「………?」
 自分のガールフレンドに同調するかのようなギーシュの隣にいたタバサは、この時ルイズが指にはめた指輪の事に気が付いた。
 そして、彼女の左腕には…同じく鞄へ入れていたであろう古ぼけた一冊の本が抱えられている事にも。
 まるでお化け屋敷の中で拾って来たかのような、誰からも忘れ去られて朽ちていくしかない現れな運命に晒された一冊。
 そんな本をまるで腹を痛めて産んだ我が子の様に腕で抱えているルイズの姿は、タバサの目には何処か奇妙に映っていた。

 そして…素っ頓狂な事を口にしたルイズに、当然の如く霊夢と魔理沙の二人も反応していた。
 何せ、正々堂々と突っ込もうとした矢先に急に止めに入られたかと思いきや――今度は自分一人で倒してみるという始末。
 別にこの二人でなくとも、気が狂ったとしか思えないルイズにちょっと待てと言いたくなるのも無理はないだろう。
「ちょっとアンタ、馬鹿にしてはいないけどさぁ、…何処かで頭でも打ってるんじゃないの?」
「それを言うなら、毎度毎度トチ狂ったような弾幕をヒョイヒョイと避けてるお前さんのも相当なモンだぜ?」
『このバカッ!今はそんな事いってる場合じゃねぇだろ。…にしても一体どうしたってんだ娘っ子、急にあんな事言うなんてよぉ?』
 霊夢と魔理沙だけではなく、デルフからも問い詰められてから、ルイズはようやっとその顔皆の方へと向ける。
 目前に迫りつつあるアルビオン艦隊を倒せると豪語し、今度はソレを他人ではなく自分の力だけで倒して見せるという狂言を放ったルイズ。
 ついさっきまで、皆に背中を向けて何かをしていた彼女の顔には――――二つの表情が入り混じっていた。
 まるで十六歳まで平和に生きていた少女が、ある日天からの導きで始祖の生まれ変わりだと告げられたかのような…信じられないという驚愕。 
 そして自らの始祖の力を用いて、これから多くの人たちをその力で導かなくてはいけないという――否応なしに受け入れるしかない決意。
 
 二つの表情が入り混じり、どこか泣き笑いか苦笑いとも取れる表情を見せるルイズは霊夢達に向かって口を開いた。
「レイム―――信じてくれないだろうけどさぁ?……あの吸血鬼の言葉、本当に当たってたみたい」
 そう言ってルイズは、左腕に抱えていたボロボロの本―――『始祖の祈祷書』を右手に持ち、左手でページをゆっくりとひらいていく。
 青い宝石の指輪―――『水のルビー』を嵌めた左手で、触れただけで壊れてしまいそうなその本のページをひらいた直後―――
 
 まるでこの時を待っていたかのように…『水のルビー』と『始祖の祈祷書』が眩く光り出したのである。

402ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:24:03 ID:UgHbZZAM
「何、ワルド子爵が戻ってこんだと…?」
 空いた手持ちのグラスに、秘蔵のワインを注いだばかりのジョンストンは伝令が伝えに来た情報に首を傾げた。
 先程帰還した偵察の竜騎士隊から伝令を承った水兵は、お飾りの司令長官の言葉に「ハッ!」と声を上げて報告を続ける。
「偵察隊の一員として加わったワルド子爵は、他の者たちが気づいた時には姿を消していたとのことです!」
「んぅ…、一体どういう事だ?誰も子爵が消えた所を見ていないというのか」
「それに関しては、子爵は竜の調子が悪いと言って最後列を飛んでいた為に確認が遅れたとのこと!」
「成程、……まぁ良い。子爵も祖国への情が湧いたのだろう、放っておきなさい……ンッ」
 一水兵として、模範的な敬礼を崩さぬまま報告する若き水兵とは対照的なジョンストンはそう言って、グラスに注いだワインを飲み始めた。
 既に酔っているのか彼の頬はほんのりと赤く染まっており、水兵の鼻は彼の体から仄かなアルコールの臭いを嗅ぎ取っている。
 
 グラスに並々注いでいたワインの半分を一気に飲み込んだジョンストンは、そこでグラスを口から離した。
 「プハァッ…!」と場末の酒場で仕事の後のワインを煽る労働者の様な酒臭い息を吐いて、伝令に話しかける。
「この状況、もはや子爵一人裏切っただけでは戦況など覆らん!我々を止めるモノなど一人もおらんからな!」
「りょ…了解しました!伝令は以上です!」 
 半ば酔っぱらっているジョンストンに怯みながらも、伝令は最敬礼した後自分の持ち場へと戻っていく。
 まだまだ入って間もない若者の背中を見ながら、赤ら顔の司令長官はブツブツと独り言を呟きながら残ったワインをちびちびと飲み始めた。

「全く、これだから外国人は…何を考えているかわからんわい…まぁよい、これでワシは…閣下に英雄として称えられて…フフフ…」
  既に酔いの段階が爽快期に突入しているジョンストンの姿は、『レキシントン』号の甲板の上では異様な存在に見える。
 事実周りでキビキビと動きまわる水兵や下士官、士官や出撃直前の竜騎士たちは彼を奇異な目で見つめていた。
 そんな中でただ一人、『レキシントン』号の艦長でボーウッドはお飾りの司令長官に背を向けてただひたすらに夜空を見ている。
 彼の思考は既にこの艦隊の進む先にいるであろう敵――ゴンドアで籠城するトリステイン軍とどう戦うか、その方法を練っている最中であった。
「…その報告は確かか?」
「はい、偵察から帰ってきた竜騎士の話によれば間違いなく王軍の増援が来ているとの事です」
 ジョンストンへ報告した者とは別の水兵が、ジッと夜空を見つめているボーウッドに淡々と報告していく。
 ワルド子爵がいなくなった後も偵察隊は任務を続行し、見事その務めを果たしていた。
「ふぅむ…、街で縮こまっているというトリステイン艦隊が死にもの狂い攻撃してくれば、こちらも無傷で勝てるという戦いではないな…」
 果たしてこの艦を含めて、何隻生き残るか…。心の中で呟きながら、彼はようやく背後で酔っている司令長官の方へと視線を向けた。

 トリステイン艦隊がゴンドアで縮こまり、キメラにより止むを得ず撤退した地上軍からの攻撃も無い故に順調な進軍。
 最初の交戦で何隻か失ったものの、未だ神聖アルビオン共和国の艦隊が今この周辺にいる戦力の中で最も強い事は変わっておらず、
 有頂天になったジョンスントンは先ほどの進軍開始の合図として打ち上げた花火で更にテンションを上げてしまい、とうとうワインを飲み始めたのである。
 最初こそそれを諌める者はいたが、あろうことか彼は杖を抜いて「司令長官のささやかな一杯に口出しする気か!」と逆上したのだ。
 こうなっては誰も止める者はおらずボーウッドも、そのまま酔っていてくれれば作戦に口出ししてくる事はないと放置している。

(まぁ最も、トリステイン軍との交戦が開始したら…酔いなど吹っ飛んでしまうだろうけどな)
 精々今の内に喜んでいるといい。軽蔑の眼差しを司令長官殿に向けながら、ボーウッドが心の中で呟いた直後―――
 『レキシントン』号の見張り台から、地上の様子を見張っていた水兵が双眼鏡を片手に大声を上げた。

「タルブ村の高台にて、謎の発光を確認!繰り返す、謎の発光を確認!」

403ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:26:04 ID:UgHbZZAM
 ルイズの指に嵌められた『水のルビー』と、古ぼけた『始祖の祈祷書』。
 彼女が鞄の中にこっそりしまっていたとのステイン王家の秘宝が、まるで地平線から顔を出す太陽の様に眩い輝きを放っている。
 あまりにも激しいその輝きは、当然の様に周囲にいる者たちの目を容赦なく眩ませていく。
「ちょ…!?ちょっと、ちょっと!今度は何?何が起きてるのよ!?」
 突如、ルイズの手元から迸った激しい光にモンモランシーは手で目を隠しながら悲鳴を上げた。
 しかし彼女の疑問に答える者は誰もいない。いや、正確に言えば皆が皆それに答える程の余裕が無かったと言えばいいか。
 ギーシュとキュルケも彼女と同じように突然の光に目が眩み、あのタバサさえも目を瞑って顔を光から反らしている。
 シルフィードは器用に前足で顔を隠して、きゅいきゅいきゅい〜!?と素っ頓狂な鳴き声で喚いていた。
 
「うぉっ!眩しッ…っていうか、何だこりゃッ!?」
「くっ…ルイズ、アンタ…!」
 そして霊夢と魔理沙の二人もまたルイズが手にした二つの秘宝から発する光に目をつむるほかなかった。
 だが、それでも光は防ぎきれず魔理沙は両腕で目を隠したうえで更に顔まで反らしている。
 霊夢もこの黒白に倣って同じような事をしたかったが、それを敢えて我慢して彼女はルイズの様子を見守っていた。
 それは彼女が先ほど…『始祖の祈祷書』と呼ばれていたあのボロボロの本を開く前に呟いた言葉が気になったからである。 

 ――――……あの吸血鬼の言葉、本当に当たってたみたい
 
(あの吸血鬼…もしかして、レミリアの事?)
 久々に聞いた様な気がする紅魔館の幼き主人の名前が、ルイズの口から出たのには少し驚いてしまった。
 そして思い出す。かつて彼女と共に一度幻想郷へと帰ってきた際の集会で、あの吸血鬼――レミリア・スカーレットが言っていた事を。

 ――霊夢の左手には貴方達の種族が『伝説』と呼んで崇める存在が使役した使い魔のルーンが刻まれているんでしょう?
     という事は、貴女にはそいつと同等の力をもっているという事じゃないかしら。貴女がそれを自覚していないだけで

 かつてこの地に降臨し、この世界を作り上げた始祖ブリミル。その始祖が使役した四つの使い魔の内『神の左手』ガンダールヴ。
 そのルーンは今や霊夢の左手の甲に刻まれ、かつては千の敵を屠ったという力でワルドとも互角に渡り合えた力。
 そして…そのルーンを持つ霊夢――ーひいては使い魔を使役するルイズは、つまり―――――…。
 レミリアの言葉を思い出して、思考の波へ埋もれかけた霊夢はハッとした表情を浮かべると首を横に振る。
(でも…ルイズの事と今の光には何の関係が――――…ん?)
 霊夢が心の中で呟いていた最中、それまで周囲を乱暴に照らしていた光がスゥ…と小さくなり始めた。
 まるで東から昇ってくる太陽が、ゆっくと西の空へと沈んでいくかのように光はゆっくりとその激しさを失っていく。 
 そして一分と経たぬうちにあんなに激しく迸っていた乱暴な光は姿をひそめ、それに気づいたキュルケ達がようやっと目を空けられるようになった。

「な、何だったのよ今のはぁ〜…?」
「さ、さぁ…。けれど、ルイズが手に持っている本から光が出てきた様に僕には見えたが…」
 もうウンザリだと顔で叫んでいるモンモランシーが落ち込んだ声で放った質問に、未だ困惑から抜け出せないギーシュが曖昧に答える。
 彼の言ゔ光の源゙であろう『始祖の祈祷書』は今や、ルイズの顔を寂しく照らす程度の光しか放っていない。
 それでも、ページが光っているだけでもボロボロの本は今やその見た目以上の価値を持っている事は明らかであろう。

404ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:28:04 ID:UgHbZZAM
「ちょっとちょっと…!ヴァリエール、今の光は何なのよ?…っていうか、その光ってる本は一体…」
「う〜ん…ちょっと待って頂戴キュルケ。…こればっかりは、私もどう説明したら良いか…――――ん?」
 光が収まった事でようやく目をつむるのをやめたキュルケが、真っ先にルイズへ質問する。
 しかし、光を発した二つの道具をカバンから取り出したルイズもいまいち把握してない様な事を言おうとしたとき、その表情が変わった。
 眩い光を放った二つの秘宝の内の一つ―――『始祖の祈祷書』の開いたページ光に目がいったのである。
 否、正確に言えば何も書かれていなかったページに現れていた『発光する文字』に。
「何…?これ?」
 本来なら結婚するアンリエッタ王女とゲルマニアの皇帝へ送る詔を清書するために用意された白紙のページ。
 ゴワゴワで少しページの端を引っ張っても破れてしまいそうな紙の上に、光文字がいつの間にか綴られていたのである。
 しかも光っている事を抜きにその文字は、普段ルイズたちが目にするどの文字とも似て非なるものであった。
 
 ルイズの怪訝な言葉に気付いたのか、ルイズが左手に持っている『始祖の祈祷書』のページを横から見た。
「ん…?ちょっと待って!…これってもしかして……文字が光ってるの?」
 一番近くにいたキュルケが声を上げると、モンモランシーや霊夢達も何だ何だと周囲に集まってきた。
「えぇ、ちょ…何よ?このボロボロの本はマジックアイテムか何かっていうの?っていうか、何で光ってるの?」
「いや、だから僕に聞かれても答えようが…」
 モンモランシーの目から見て使い方も分からないそのボロボロの本が見せた意外な一面に驚き、
 彼女に次々と疑問を吹っかけられているギーシュは首を横に振りながら、ただただ呆然とした表情で祈祷書を見つめている。
「おっ?ルイズ、これってお前が中々出来なかったて言ってた詔か?中々良さそうじゃないか。全然読めないがな」
「違うわよこの黒白!」
「今は魔理沙の事なんか放っておきなさい。で、ルイズ…これって一体どういう事なのよ?急にあのボロボロな本がこんな事になるなんて」
 魔理沙は魔理沙で何かを勘違いしているのか、的外れな感想でルイズを怒らせていた。
 そんな二人の間に割り込む形で霊夢がルイズの前に出て、彼女に何が起こったのかを聞こうとする。
 ルイズは一瞬言葉を詰まらせるものの、やがて決心がついたのかフゥッと一息ついてから淡々と話し始めた。

「レイム…それがちょっと、私にも良く分からないのよ。…さっき気絶している時に変な夢で誰かが『指輪を嵌めて、祈祷書を開け』って…」
「気絶しているときに見た夢?あぁ、ワルドに攫われた後の事ね」
「何、何々?何か面白そうな話が聞けそうな気がするんだけど?」
 ルイズの言う事に心当たりのあった霊夢がその時の事を思い出し、キュルケのレーダーが二人の話に気を取られた時…
 霊夢の少しだけ蚊帳の外にいたタバサがルイズの持つ『始祖の祈祷書』のページへと目を向けると、ポツリと呟いた。


「これ…もしかして古代のルーン文字…?」
 タバサの言葉に祈祷書を持っていたルイズは再びページへと目をやり、コクリと頷いた。
 彼女の言うとおり、ページの上で光る見慣れぬ文字は全て古代の人々が文字として使っていたルーン文字である。
「確かにそうだわ…これって大昔…つまり私達のご先祖様が使ってたっていう文字だわ」
「古代ルーン文字って…ちょっとちょっと、何で貴女がそんなスゴイモノを持ってるのよ?」
「おいおい何だ。詔かと思ったら、これまた随分とスゴイものが書かれていたじゃないか!」
 マジック・アイテムの蒐集が趣味である魔理沙はここぞとばかりに目を輝かせている。
 何せ魔導書にもなりそうにないボロボロの本が一変して、古代の貴重な文明の一端を記しているマジックアイテムへと早変わりしたのだから。

405ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:30:03 ID:UgHbZZAM
 黒白が喜んでいる一方でルイズはゆっくりと、人差し指で文字を追いながらゆっくりと読み始めた。
 幸いにも古代史の授業をしっかりと真面目に受けていた事と、祈祷書に書かれている文字の状態が良かったからなのだろう。 
「『…序文。これより我が知りし真理をこの書に記す。』…」
 その一文と共に、ルイズは自らの世界にのめり込んでいく幼子の様に祈祷書の文字を読んでいく。
 背中で見守る知り合いたちを余所に、…そして唯の一人険しい表情で自分の背中を見つめている霊夢の事など露知らずに…。

 ―――この世のすべての物質は、小さな粒より為る。
 ――――四の系統はその小さな粒に干渉し、かつ影響を与え、変化せしめる呪文なり。
 ―――――その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。

「つ、つまりどういう事なんだい…?」
「私達がいつも使ってる魔法は、この世界にある小さな粒を刺激して行使できてるって事を書いてるのよ?」
 分かりなさいスカポンタン。イマイチ分かっていないギーシュに、マジメに聞いているモンモランシーが文句と共に補足する。
 そんな二人をよそに、ルイズははやる気持ちを何とか抑えて次のページを捲っていく。
「っていうか、何でこんなボロボロの本なんかにそんな御大層なことが書かれてるのよ?」
「それは、すぐに分かると思う」
 キュルケが最もな疑問を口にし、タバサはそれに短く答えつつもルイズの横に立って文字を目で追っていた。
 一方のルイズはまるで耳が聞こえなくなったかのように周囲の喧騒に惑わされる事無く、祈祷書の内容を読んでいる。

 ―――神は我に更なる力を与えてくれた。
 ――――四の系統が影響を与えし小さな粒は、更に小さな粒より為る。
 ―――――神が我に与えし系統は、四の何れにも属せず。
 ――――――我が系統は更なる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。

「……゙我が系統゙?つまりコレを書き残したヤツってのは四系統の魔法よりも更に上位の魔法使…メイジだったって事か」
 ルイズが読む『始祖の祈祷書』を聞いていくうちに、最初はおちゃらけていた魔理沙も真剣な表情へと変わっている。
 本の状態から考えてこの著者が存命していたのは大昔―――それも、人間なら気の遠くなる程の。
 そんな大昔にこの分を後世の者達へ遺して死んでいった者は、なんの意図を込めているのだろうか?
 魔理沙の頭の中に浮かんだ知的好奇心はしかし、祈祷書を読むルイズによって解決されてしまう。

 ―――――四にあらざれば零。
 ――――――零すなわちこれ『虚無』。
 ―――――――我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。

 ルイズの口からその一節が言葉として出てきた瞬間、四人のメイジは一斉の目を丸くした。
 まるでジグソーパズルのピースのように、前の一節と合致するその文章。
 平民すら知っているこの世界でメイジが仕える四つの系統魔法に属さぬ、もう一つの魔法。
 その実態は果てしなく遠い過去へ取り残され、今や誰もその正体すら知らぬ謎のベールに包まれている『五つ目の系統』。
 かつてこの地に降臨した始祖ブリミルしか使いこなせ無かったと言われ、神の力とも呼ばれた『虚無』

406ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:32:04 ID:UgHbZZAM


「ねぇギーシュ?今、虚無の系統ってルイズ言ったわよね?」
「あ、あぁ…僕も聞いたよ間違いない」
 目を丸くしたモンモランシーは、同じような目をしたギーシュに自分の聞き間違いでないかどうかを確認している。
 タバサは無言であったもののその口はほんの少し開かれ、丸くなった目と合わせてどこか間抜けな表情を浮かべていた。
 そしてキュルケは、突然光る文字が現れ、伝説の系統が書かれていたそのボロボロの本と、それを持っていたルイズを交互に見比べている。

 先程まで成長したなと感心し、手で触れるもののほんのちょびっとだけ離れた彼女が、一気に手の届かぬところへ行ってしまったかの様な喪失感。
 今、光文字で覆い尽くされた古びた羊皮紙の本へと視線を向ける彼女の背中は、まるでルイズとは思えぬ程別人に見えてしまう。
 ルイズのライバルであり、常に彼女の隣りに付き纏う筈だった自分は、とっくの昔に置いて行かれてしまっていたのだろうか?
「ルイズ、貴女は一体…」 
 キュルケが何かを言おうとする前に、ルイズは更にページを捲って新しい文を読み始める。
 まるでそれが今の自分がするべき使命だと感じているかのように、キュルケの声は届いていない。
 ただ、己の鼓動だけがやたらと大きく聞こえた。 

―――これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐ者なり。
――――またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱う者はこころせよ。
―――――志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。
――――――『虚無』は強力なり、また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。
―――――――詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。

―――したがって我はこの書の読み手を選ぶ
――――たとえ資格なき者が指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
―――――選ばれし読み手は『四の系統の指輪』を嵌めよ。さればこの書は開かれん。


 そこまで読んだところで、ルイズは深呼吸をした。
 まるで戴冠式に臨む王位継承者のように、自分を待ち受けているだろう運命を想像したときのように…。
 そして自分の言葉一つで国の生き死にを左右する程の力を得る事の覚悟を、受け入れるかのように――――
 深く、そして長い深呼吸の末にルイズは序文の最後に書かれた者の名を、ゆっくりと告げた。

「―――――――ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・・ヴェー・バルトリ…」

 ルイズとシルフィードを除く、その場の誰もが驚愕を露わにした。
 モンモランシーとギーシュは言葉も出せないのか、互いに見開いた目を合わせながら硬直している。
 無理もないだろう。何せこれまで歩んできた人生の中で最も刺激的な体験を既に幾つもこなしているうえで、更に超弩級的な話まで聞いてしまったのだ。
 限界まで回っていた頭の中の歯車がとうとう煙を上げてしまい、ただただ驚くことしかできない状態なのである。
「マジかよ…?ルイズのヤツ、確かに他の連中とは違う魔法を使うとは思ってたが、正に『みにくいアヒルの子』ってやつだな…」
「…………」
 一方で、以前にルイズの゙失敗魔法゙を間近で見ていた魔理沙は思わぬ事実を聞いて目を丸くしていた。
 そして子供の頃に聞いた外の世界の童話を思い出し、話の主役であるみにくいアヒルの子―――もとい白鳥と今のルイズの姿を重ね合わせていた。
(成程ね…、レミリアや紫の言っていた通りだった…という事ね)
 霊夢は霊夢で、怪訝な表情を浮かべつつもルイズが『始祖の祈祷書』を開く前に言っていた言葉に納得していた。

407ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:34:02 ID:UgHbZZAM
「る、ルイズッ!ちょっと、これは一体どういう事なのよ……ッ!?」
 驚愕と同時にルイズの肩を掴んだキュルケは、余裕を取り繕う暇も無く彼女に問い詰めようとする。
 しかしルイズは口を開くことはせず、自分の肩を掴むキュルケの手を優しく取り払うとスッと軽い動作でその腰を上げた。

 この時、タバサは気が付いた。ルイズがあらかじめ指に嵌めていた指輪の正体を。 
 最初にそれを目にした時は似たようなアクセサリーの類かと思ってはいたが、あの文章を聞けば誰もが彼女と同じ答えに達するであろう。
 青く光る宝石の指輪。それはトリステイン王家に古くから伝わる『四系統の指輪』の一つ、『水』のルビー…だと。
 唯一の疑問は、何故名家と言えどもまだまだ子供でしかない彼女がそれを持っているのかという事だが、それは本人に聞かねば分からない。

「ルイズ、それはもしかして――――…゙『水』のルビー゙なの?」
「タバサ…!」
 もう一人の親友が口にしたその言葉にキュルケは思わず大きな声を上げてしまう。
 彼女は認めたくなかったのだろう。本に書かれていた内容を思い出し、これからルイズに降り掛かるであろう運命を。

 したがって我はこの書の読み手を選ぶ
 たとえ資格なき者が指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
 選ばれし読み手は『四の系統の指輪』を嵌めよ。さればこの書は開かれん。

 彼女が指に嵌めている、本と同じく青色に輝く宝石が台座に嵌った指輪。そしてその通りに開かれた本。
 そしてそれを開き、読みし者がこれから受け入れるしかないであろう運命が、決して楽ではないという事。
 だからキュルケは不安だった。いつも自分の事だけで精一杯で、それでも必死に背伸びして頑張ってきたルイズの゙これから゙が。

 しかしそんなキュルケの大声も空しく、立ち上がったルイズは二人の方へと顔を向けると、
「―――ごめん、二人とも。詳しい話は私達の頭上にあるアイツらを片付けてからにして頂戴」
 二人に向かってそう言ったルイズは、右手に持った杖を頭上のアイツラ―――もといアルビオン艦隊へと向ける。
 この十六年、苦楽を共にし、異世界へも一緒に行った古い友人の様な杖をルイズはしっかりと握り、魔力を込めていく。
 何度呪文を唱えようとも失敗し、その度に大きな爆発を起こしつつも決してその爆発で折れる事は無かった。
 そして今は、今までそうしてきた様に魔力を込めているが…これから唱えていくであろう呪文は初めて詠唱するもの。
 今まで見てきた呪文の中で、恐らく最も長いであろうその魔法が何を起こすのかまでは良く知らない。
 けれども…唱え終わり、杖を振った後に起こり得るべき事象はルイズには予測できた。
 何故ならば、左手に持った『始祖の祈祷書』にはその魔法の呪文の横に名が記されていたのだから。
 その名前を見た時、彼女は確信した。今まで自分が爆発させてきたのは、決して失敗では無かったという事を。 
 
 ただ、やり方が分からなかっただけなのだ。
 魔法の才能があると見出された子供が、いきなりスクウェアスペルの魔法にチャレンジするかのように。

 ―――――以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
 ――――――初歩中の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』

(私の魔法は失敗じゃなかった…!ちゃんと唱えるべき呪文があったんだ!)
 ルイズは胸の内で歓喜の叫び声を上げると、ついではやる気持ちを抑えようと軽い深呼吸をする。
 『始祖の祈祷書』に書かれていた事が確かならば、指輪を嵌めて祈祷書の内容を読むことのできた自分は、まさに『虚無』の担い手ではないのか?
 幻想郷で出会った吸血鬼のレミリア・スカーレットが言うとおりに、自分の本当の力はこれまで目覚めていなかったのかもしれない。
 あの世界では一際強力な力を宿した人間の霊夢を召喚し、あまつさえ彼女は伝説の使い魔『ガンダールヴ』となっている。

408ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:36:06 ID:UgHbZZAM
 そして、ワルドに眠らされた時に見たあの変な夢。
 あの時、夢の中で自分に話しかけてきた男の人は確かに言っていた。『水』のルビーを嵌めて、『始祖の祈祷書』を開け、と。
 見ていた時にはハッキリと聞こえなかったあの言葉が、今になって鮮明に思い出せる。
 確かに、鞄の中にはお守りの代わりにアンリエッタから貰った『水』のルビーと『始祖の祈祷書』を入れていた。
 その事を何故、あの夢の中にいた男の人は知っていて、それを身につけページを開けと伝えてきた理由までは知らない。
 所詮は夢の中…と言えばそれで良いのだろうが、ルイズにはあの男の人が『単なる夢の中の存在』だとは思えなかった。
 今にして思い出してみると、耳に入ってくるあの人の声色やしっかりとした靴音は、夢とは思えないくらいに生々しかったのである。
 まるでワルドの魔法で気を失った自分の意識だけが、どこか別の空間に移っていたかのような…。
 そして夢から覚める前に、彼はこんな事を言っていた。
 
 ――――君ならば…―――制御でき―――る…。
 ――――使い道を、間違え…――――あれは、多くの…人を――――無差別に…―――――――殺…せる

 君ならば制御できる。そして、多くの人を無差別に殺せる…と。
 目覚めた直後は何を言っていたのか分からなかった。
 しかし夢で言われたとおりに指輪を嵌め、ページを開いた祈祷書に書かれている゙エクスプロージョン゙の名と呪文を見て、確信した。
(どうしてかは知らないけれど、きっとあの男の人はこれの事を言っていたんだ。私が上手くその力を制御して、アルビオン艦隊を止めろって…)
 頭上に迫るアルビオン艦隊。その進む先には大好きなカトレアがいるであろう屋敷に、王都トリスタニア。
 後退したトリステイン軍ではあれを防ぎきれるかどうか分からない、もし破られればトリステインは一方的に蹂躙されるかもれしない。

(なら、私がやるしかない。こんなタイミングで、『虚無』の使い手だと発覚した私が…止めるしかないのよ)
 だからこそ彼女は祈祷書に猿された呪文を唱えるのだ。その小さな背中にあまりにも大きすぎる荷物を背負って。
 杖を振り上げ、遠い遠い歴史の中に冴えて言った伝説の呪文を唱えるその後ろ姿はあまりにも危うげで、しかしどこか勇猛さえ垣間見えた。

 ―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

 ルイズの口から低い詠唱の声が漏れ出している。
 その声は妙に落ち着いていており、子供のころから唄っている子守唄の様にしっかりとした発音。
 キュルケやモンモランシーもその詠唱を聞いて口を閉ざし、今やそれを静聴する観客の一人となっている。
 既にアルビオン艦隊は間近にまで迫ってきており、近づけば近づくほど船の周囲で警戒にあたっている竜騎士たちに見つかりやすくなる。
 タバサはその時の為に呪文を耳に入れつつもその視線は上空へと向けて、近づいてくる艦隊と竜騎士に警戒していた。
 一応この中で唯一の男子であろうギーシュも警戒に当たっていたが、恐らく一番頼りないのも彼なのも間違いない。
 何にせよ気づかれれば一触即発。ハルケギニア一の竜騎士とうたわれるアルビオンの竜騎士隊との戦いは避けられないであろう。
 
「全く、あっちはあっちで盛り上がってるぜ。私のこの逸る気持ちを放っておいてさぁ」
 ルイズの落ち着いた声と聞き慣れぬ呪文の詠唱が周囲に聞こえる中、魔理沙は口をとがらせて上空を睨んでいた。
 森の中では上手く戦えず、ワルドには眠らされた挙句にようやく自分らしい戦いが出来ると思いきや…ルイズからのお預けである。
 本当ならばルイズはルイズで呪文を唱えている間にひとっ飛びでもして、あの艦隊と竜騎士たちに喧嘩を売りに行きたい気分だというのに…。
 まるでエサ皿を前に「待て」と言われた飼い犬の様に大人しくしていた魔理沙であったが、彼女がそう易々という事を聞くはずがなかった。

409ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:38:07 ID:UgHbZZAM
 ルイズが艦隊へと杖を向けて詠唱し、キュルケ達がそんな彼女の背中を黙って見ている状況。
 五人の後ろにいた魔理沙はキョロキョロと辺りを見回すと、音を立てずにそっと箒に腰かけようとする。
「まぁいいか。ルイズはルイズで頑張れば良いし、私はちょっくらちょっかいを掛けにでも…―――…って、うぉっ!?」
 そして、そんな事を呟きながら飛び立とうとした彼女は…後ろにいた霊夢に襟を掴まれて強制着陸してしまう。
 幸いにも飛び立とうとする直前であった為に、地面にしりもちをつくという情けない姿を掴んできた相手に見せる事はなかった。
「全く…アンタは何、そう他人事みたいに言って、一人で突っ込もうとするのよ?ったく、世話が焼けるわね」
 世話の焼ける子供を相手にする年上のようなセリフを言ってきた霊夢を、魔理沙は苦虫を噛んだ様な表情で睨み付ける。
「……おい霊夢、コイツは一体どのような了見かな?自分一人だけ満足するまで戦っておいて、私の時だけ邪魔するのは良くないと思うぜ?」
「アンタとは違って私は別に戦いが好きってワケじゃないわよこの弾幕バカ」
 ルイズの詠唱を邪魔せぬ程度の声量で、二人は喧嘩にならない程度の口げんかと会話を同時に進めていく。
 一方でルイズの詠唱を見守っていたタバサがチラリと霊夢たちの方を垣間見るが、二人はそれに気づかずに会話を続けていた。

「にしたってよぉ、本当は私等三人でアレを倒すつもりだったっていうのに…まさかルイズ一人に取られるとはなぁ」
 霊夢に止められて一旦は諦めが付いたのか、箒に腰かけるのをやめた魔理沙が未練がましく呟く。
 そんな彼女を見ていた博麗の巫女は、相も変わらずドンパチ好きな知り合いにため息をつきつつも話しかけた。
「別に邪魔するつもりじゃあ無かったのよ。ただ、今ルイズが唱えているあの呪文の事で、ちょっとイヤな予感を感じただけよ」
「……!ちょっと待て、お前さんの言ゔイヤな予感゙ってのはあまり耳にしたくは無いんだが…私を引きとめたって事はそんなにヤバイのか?」
 勘の良さに定評のある霊夢の口から出た言葉に、魔理沙が物騒なモノを見るかのような表情を浮かべてしまう。
 しかしそんな魔法使いに構うことなく、彼女は上空の艦隊を見上げながら呟いた。

「何が起こるのかまではまだ分からないけど…これはちょっと、洒落にならない事がおこるかもね?」
「マジかよ…」
 いつも暢気にしている霊夢が真剣な表情で呟いた言葉に、魔理沙はようやく大変な事が起ころうとしている事に気が付く。
 事あるごとに鋭い勘を働かせ、異変解決に勤しんできた霊夢の真剣な様子と物言いは決してバカにできないと知っているからだ。
「まぁアンタも私も、何かあったときはお互い動ける様にはしときましょうか」
「何か私だけお預けを喰らった気分だが、しゃーない!これは借りにしておくからな」
 ルイズの口から漏れ続ける、失われし系統『虚無』の呪文が耳に入ってくる状況の中、魔理沙はふと気が付く。
 霊夢の左手の甲に刻まれたルーン―――今は休眠状態にある『ガンダールヴ』のルーンが、薄らと光り出した事に。



「んぅ〜…?何だぁ、船首が騒がしいぞぉ…」
 お気に入りのワインを五分の二ほど飲んだジョンストンが騒ぎに気付いたのは、それ程遅くは無かった。
 最初の奇襲が失敗し、待ち伏せしていたトリステイン軍の伏兵に地上から攻撃された後、彼は気つけ薬として酒を飲んでいた。
 最初はエールを軽く一杯チビチビと飲んでいたが、切り札であるキメラ軍団の活躍を聞いてから、エールの入った瓶はすぐに空になった。
 部屋にあったエールを一瓶飲み干し、タルブ村一帯まで占領したという情報が入ってきてから、彼はとうとう秘蔵のワインに手を出したのである。
 それから後はトントン拍子に酔ってしまい、花火を打ち上げてそれを進軍の合図にしたりと既に気分は勝利者の状態なのであった。
 今の彼は周りの水兵や将校達からは放っておかれている状況であったが、程よく酔っている今の彼にはどうでも良いことでしかない。
 
 しかし、そんなジョンストンではあったが船首に集まっている何人かの将校を見つけることは出来ていた。
 『レキシントン』号に乗船したている士官や艦長のボーウッドまで船首から首を出して、望遠鏡で何かをじっと見ている。
 まるで子供の頃に親に買ってもらった望遠鏡で星空を眺めるかのように、一生懸命右目をレンズに当てて地上の様子を観察しているのだ。
 大の大人…ましてやボーウッド程の軍人が子供じみた真似をしているのを見て、思わずジョンストンは口の端をゆがめて笑ってしまう。

410ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:40:17 ID:UgHbZZAM
(全く、この私の前であれ程偉そうなに振舞っておいて、自分は部下たちを引き連れてトリステインの田舎観察とはな)
 既に頭の中も酒気に中てられたジョンスントンは、そんな事を思いながら「ハッ!」と小さな笑い声を上げる。
 しかし、笑うと同時に気にもなった。あのボーウッドや士官たちは自分たちの仕事ほ放っぽり出してまで、何を必死に見ているのだろうか?
「……うぅ〜む。一体なんだ、何を見ているのだ?…気になる、気になるぞ」
 呂律が回らなくなってきた口で一人ぶつぶつと呟きながら、ジョンストンは少し危なっかしい足取りで艦長たちの方へと歩いていく。
 途中何人かの水兵が彼の背中に声を掛けてきたものの、それ等を無視してお飾りの司令長官はボーウッドの下へとたどり着いた。

「おぉうボーウッドよ、夜空の上から眺める地上とやらは綺麗かな?」
「……!サー、ジョンストン司令。一体何用でございますか」
 背後から酔っ払いのジョンスントンに声を掛けられたボーウッドは、慌てて彼に向かって直立し、次いでビシッと敬礼を決めた。
 他の士官たちも酔っぱらった司令長官が来た事に気が付いたのか、皆望遠鏡を下ろしてから急いで敬礼をしていく。
 相変わらず生真面目なヤツらだと思いながら、ジョンストンは赤くなった顔でニヤニヤ笑いつつボーウッドの左手の望遠鏡を指さして言う。
「いや何、アルビオン共和国が王国だった頃から働いてると君たちが子供の様に望遠鏡を覗く姿に興味が湧いてね。…で、どうだい?星でも見えるのかい?」
 酔いの勢いもあってか、朝方の弱気な態度が消えたジョンスントンへの苛立ちを隠しつつ、ボーウッドは敬礼の姿勢を崩さぬままこう答えた。
「いえ実は…先程からタルブ村の小高い丘の上で、怪しい動きを見せている者たちがおりまして」
「何だと?少し借りるぞ」
 ボーウッドの報告を聞いて笑顔が一転怪訝な表情へと変わったジョンストンはそう言った後、彼の手から望遠鏡をひったくった。
 お飾りとはいえ司令長官の命令には逆らえず、他の士官仲間たちが残念に…と言いたそうな表情を向けてくる中、ボーウッドはひたすら冷静を装っている。
 アルビオン王国時代から空軍が愛用し続ける望遠鏡を手に取った司令長官は、他の者達かしていた様に船首から地上の様子を観察した。
 最初こそどこにいるか探る為に十秒ほどの時間が掛かったものの、森へと通じる小高い丘にボーウッドの言ゔ者達゙の姿を発見する。

「おぉ、あヤツらか…。ふむ、確かに怪しいな…ひぃ…ふぅ…合わせて七人…おぉ小さいが風竜もいるなぁ」
 ジョンストンが望遠鏡越しに覗く先には、怪しい七人と一匹の青い風竜――――ルイズたちが見えていた。

 その内五人がマントを羽織っているのを見て貴族だと気が付くが、望遠鏡越しに見ても軍人とは思えないほど身の細い者達ばかり。
 更に残りの二人の内一人…黒髪の少女は異国情緒漂う変な格好をしており、紅白の衣装は夜中と言えども酷く目立っている。


「あれは一体何のつもりだ?まさかたったの七人で我が艦隊を止めるとでも…いや、まさかな」
 ジョンストンの独り言から、彼も自分たちが見ていたモノを発見した事に気が付いた士官の一人が、咄嗟に説明を入れた。
「実は船首で地上警戒に当たっていた水兵が彼女らを見つけまして…我々も何た何だと見ていたのです」
「そうか……ん?」
「どうしました?」
 望遠鏡は下ろさず、そのまま士官の説明を聞いていたジョンストンは、ふとある事に気が付く。
 その七人の内唯一男子であろう派手なシャツを着た少年を覗き、六人がそれなりいい年の美少女だという事に。
「ふぅむ、ここからだと顔は良く見えんが。流石はアルビオン謹製の望遠鏡!この距離でも相当綺麗な乙女ばかりと辛うじて分かるぞ!」
「……そ、そうですか」
 聞いてもいないのにそんな事まで言ってくるジョンスントンに、士官たちは声を上げなかったものの皆呆れた表情を浮かべている。
 ボーウッドもボーウッドで冷静を装いつつも、自分に絡んできた酔っ払いをこれからどうしようか考えあぐねていた。
 そんな風にお荷物な司令長官に呆れてしまっていた時、その司令長官であるジョンストンが怪訝な表情を浮かべて言った。

「いや…待てよ、七人の内の一人だけ…ピンク色?の頭の少女…あれは何を…杖を向けて、呪文を唱えているのか?」
 実況するかのように望遠鏡越しに見える少女の様子を喋っていたジョンストンの言葉に、ボーウッドたちは再び船首から身を乗り出した。

411ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:42:04 ID:UgHbZZAM
 目まぐるしく状況が変化しているのは、何もアルビオンやトリステイン軍、そしてルイズ達だけではない。
 霊夢や魔理沙たちもまた、この戦場と呼ぶにはあまりにも静かすぎる空間の中で目まぐるしい状況の変化を味わっていた。

 ―――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

「……何これ?一体どうなってるの?」
 『始祖の祈祷書』に現れた虚無のスペルを唱えるルイズの声が響き渡る中、ふと雑音の様な巫女の声。
 薄らと光り出した左手の甲に刻まれた使い魔の証――『ガンダールヴ』のルーンを見て、霊夢が怪訝そうに呟いたのだ。
 今のところ持てる力を使い切ってお休み状態になっていた筈だというのに、まるで息を吹き返したかのように光り始めたのである。
「おいおいどうしたんだよ霊夢?何だか知らんが、使い魔のルーンがやけに調子良さそうじゃないか」
 霊夢よりも先に気が付いていた魔理沙は、元気?を取り戻していく使い魔のルーンを見つつ、面白いモノを見るかのような目で言った。
「まるで他人事みたいに…まぁアンタには他人事だろうけどね。……って、うわッ…ちょ…何これ、力が…」
 そんな黒白を無視せずに悪態をつこうとした霊夢はしかし、ルーンの発光と共に自分の身に異変を感じ、思わず驚いてしまう。
 気のせいなのだろうか。否、気のせいと思いたいのか、ルーンからほんの僅かだが力が湧き出しているののに気が付いたのだ。
 まるでスコップで掘った地面の穴から温泉が徐々に滲み、湧き出てくるようにゆっくりと自分の体の中をルーンから流れる力で満たされていく。

(ちょっと嬉しい気持ち半面、気持ち悪いわねェ…―――でも、そういえば一度だけ…)
 一体どういう気まぐれなのか、恐らく体力を使いすぎた自分を労わってくれているであろうルーンに、霊夢は複雑な気持ちを感じてしまう。
 そもそも使い魔のルーンに感情何てあるのかどうかすら知らなかったが、ふと彼女は思い出す。一度だけ、今と似たような状況に遭遇したことが。
 ルイズに召喚されたばかりの頃、まだ紫が迎えに来る前の事。あのアンリエッタが持ってきた幻想郷録起を手掛かりに、アルビオンへ赴いた時の事。
 偶然見つけた浮遊大陸の底に出来た大穴、そこを通って辿り着いた森で出会った長耳に金髪の少女。
 昼食を頂いた後で襲い掛かってきたミノタウロスに止めを刺そうとした直前、杖を手にした彼女が唱えた呪文。
(あの時とは違うけど…似ている。彼女の呪文は心が安らいで…消えてたルーンがまた戻ってきて…そしてルイズのこの呪文は…――――…ッ!?)
 『ガンダールヴ』のルーンを通して、自分に力を与えてくれている。そこまで考え付いた時、霊夢は気が付いた。
 呪文を唱えているルイズの体から漂ってくる魔力が、際限なく膨れ上がっていくのを。

 ――――ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシェラ

 ルイズが詠唱を続けていくごとに、彼女の体の中に蓄積していく魔力が膨れ上がりつつも一定の形へと姿を変えていく。
 まるで地面から盛り上がった膨大な土の山に緑が生い茂り、巨大な霊峰へとなっていくかのような、魔力の突然変異。
 そうとしか言いようの無い魔力の形成が、年端もいかぬルイズの体内で起こっている事に、霊夢と魔理沙は――いや、キュルケ達も薄々気が付いていた。
「霊夢…!こいつは…」
「一々言わなくても良い、分かってるわよ」
 先ほどルーンが光っていた事を小馬鹿にしていた魔理沙は、真剣な表情でルイズを見つめている。
 魔法使いであるが故か、この世界の魔法使い…もといメイジであるルイズの魔力に気付いて、額から冷や汗が流れ落ちた。
「お前さんの勘が当たったなぁ?何が起こるかまでは分からないが…もし、あれだけの魔力を攻撃に使ったら…」
 そこから先の言葉を唾と一緒にグッと飲み込んだ彼女を見て、霊夢は思わず背中に担いでいたデルフに喋りかける。
「ちょっとデルフ、これ一体どういう事よ?ルイズのヤツ、虚無の魔法がどうたらとか言って、呪文を唱えてるだけどさぁ…」
 始祖の使い魔について妙に詳しかったこの剣の事だ、きっと何か知っているかもれしない。そんな期待を抱いて、話しかけた。

412ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:44:03 ID:UgHbZZAM
『……………。』
 しかし、ワルドと戦いだしたときはあんなに饒舌だったインテリジェンスソードは、その口?を閉ざしていた。 
 眠ってるわけではないのだろうが、あのお喋りな剣が黙りこくっていることに霊夢は不安を感じてしまう。
「――……ちょっと、聞いてる?デルフー?」
『―――…え?あ、あぁ悪りぃ悪りぃ!俺とした事が久々の『虚無』の呪文を聞いて呆気に取られちまったぜぇ…!」
 念のためもう一度声を掛けた直後、まるで止まっていた時が動き出しすのようにデルフが喋り出した。
 暫しの沈黙を破ったインテリジェンスソードの声には抑揚がついており、その言葉からは嬉しそうな響きが混じっている。
 霊夢はため息をつきつつも、変に嬉しそうなデルフを鞘から抜くと面と向かって彼に話しかけた。
「ちょっとアンタ、その様子だとルイズが今唱えてる『虚無』とかいうのに詳しそうじゃないのよ。何か知ってるの?」
 彼女の質問はしかし、テンションが上がっているデルフの耳?には入らず、彼は一人捲し立てている。
『いやー何!あの娘っ子が『虚無』の担い手だったとなはぁ…、まぁ人間のお前さんを召喚して『ガンダールヴ』にしちまったんだから…当然―――ッウォ!』
 ダミ声と金属音が一緒くたになって重なり合い、下手くそな音楽になりかけた所で、苛立った霊夢が思わずデルフを地面へと突き刺した。
 雑草を切り裂き、程よく固い土と土の合間に入り込むようにめり込んだところで、ようやっとデルフは我に返る事ができた。

「だぁーかぁーらぁーッ!私はその『虚無』とやらを詳しく知りたいワケ!アンタの一人語り何てどうでもいいのよ!」
 ハッキリとした苛立ちを顔に浮かべた霊夢の怒気を感じ取った魔理沙が、「おぉ、怖い怖い」とデルフと彼女を交互に見つめて笑っている。 
 その間にも詠唱を続けるルイズの体から漂う魔力は先鋭化していっており、魔理沙の笑顔もどことなく硬い表情であった。
『わ、分かった分かったって…ったく、おっかねぇなぁレイム。ちゃんと説明するつもりだったんだよ』
「だったら今質問するからそれに答えなさい。…ルイズが今唱えてるのが『虚無』だとして、『エクスプロージョン』ってどういう魔法なのよ」
『えぇ?……あぁ、思い出した。確かにそうだな、この呪文は確かに『エクスプロージョン』のだな。『虚無』の中でも初歩中の呪文だ』
 霊夢の質問にデルフがそう答えると二人からちょっとだけ離れていた魔理沙がふらりと近づき、デルフに質問を投げかける。
「なぁデルフ。ルイズが今唱えてる呪文…名前からして爆発系の魔法なんだろうが、あの魔力の貯め方だと相当な威力が出るんだろ?」
 普通の魔法使いからの質問には、なぜか数秒ほど考える素振りを見せてから、金具を動かして喋り出した。

『あぁ…―――まぁそうだなぁ〜…。娘っ子が『虚無』を初めて扱うにしても、手元を狂わせる事は…しないだろうなぁ』
「手元を狂わせる…?何だよ、何かヤケに不吉な言い方だな?」
『不吉って言い方は似合わんぜマリサ。もし娘っ子が『エクスプロージョン』の制御に失敗したら…』
 そこでまたもや喋るのを止めたデルフの沈黙の間に入るようにして、

 ――――ジェラ・イサ・ウンジューハガル・ベオークン・イル…

 ルイズの詠唱が辺りに響き渡った直後、意を決した様に言った。
『―――――俺もお前ら全員。跡形も無く消えちまう…文字通りの『死』が待っているんだぜ?』 
 直後、そこで詠唱を止めたルイズは一呼吸置いた後にアルビオン艦隊へと向けた右手の杖を軽く振り上げた。
 すると彼女の体内で溜まっていた魔力の塊が一気に杖へと流れ込み、ルイズの体内から魔力を削り取っていく。
 
 そして…体内に溜まっていた魔力をほんの僅かだけ残し、残りが全て杖へと注がれた瞬間。
 ルイズは振り上げたその杖で、頭上のアルビオン艦隊を斬り伏せるようにして―――振り下ろす。
 直後。詠唱と共に練り上げられたルイズの魔力は『エクスプロージョン』として発動し、その効果を発揮した。

413ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:46:03 ID:UgHbZZAM
 
「ん…―――――ッ」
「うぉ…――――ッ!」
『おぉッ…!』
 眩しい、眩しすぎる。
 ルイズが発動した『エクスプロージョン』を一目見ようとした霊夢と魔理沙は、偶然にも同じ感想を抱いていた。
 最も、それを言葉として出すよりも先に二人して小さい悲鳴が口から漏れ出し、目の前を覆い尽くす白い閃光に目を瞑らざるを得なかったが。
 魔理沙はともかくとして霊夢は目の前を覆う白い光に目をつぶり、顔を背けつつも何が起こったか把握しようとしている。
「何これ…!眩しい…、ちょっと魔理沙!」
「私に聞かないでくれ!今は目ぇ瞑ってるだけでも精一杯なんだからさぁ…!」
 しかし、彼女の目で見えるのはすぐ横にいる魔理沙と地面に突き刺したままのデルフだけで、ルイズとその近くにいたキュルケ達は見えない。
 魔理沙も魔理沙で直視すれば失明の危険すらある程の眩しい光と対峙する勇気はないのか、必死に顔を背けていた。
「ちょ…ッ!何よこれ、何が起こったっていうの!?」
「!…キュルケ、アンタ…さっきまで立ってた場所にいるの?」
 その時であった。彼女たちのいた場所からあのキュルケの叫びが聞こえてきたのは。
 姿は見えないにしても会話を邪魔するような騒音が無いために、姿は見えずとも彼女と自分の声だけは鮮明に聞き取れていた。

「れ、レイム…何だか、大変な事になっちゃっってるわねぇ…!?」
「こんな時に楽しそうに喋れるアンタの気楽さを見習いたいもんだわ…!」
 ギーシュやモンモランシーと一緒に、ルイズの傍にいたであろう彼女は自分達よりもっと大変な目に遭っているかもしれないが、
 珍しいモノが見れたと思っているのか、抑揚のついた声で話しかけてきたキュルケに霊夢は思わず苛立ちの声を上げてしまう。
「で、ルイズはどうなの、無事なのッ!?」
「大丈夫!ルイズはいる、僕たちの傍にいるよ!モンモランシーは気を失っちゃったけどね!」
「タバサも大丈夫、私の傍にいるわ!」
 ついで確認したルイズの安否にはギーシュが答え、自分のガールフレンドが倒れた事も報告してくる。
 キュルケも無口であるタバサの安否を確認し、彼女の使い魔であるシルフィードが返事替わりに「きゅいー!」と一鳴きした。

 ひとまずこの場に居た全員の安否を確認した霊夢は、光の発生源であろうルイズの事を思って舌打ちした。
「くっそ…!ルイズのヤツ、こんな事が起こるっていうなら先に言っておきなさいよ!」
『なぁに、この閃光は長くは続かないぜレイム。娘っ子のヤツは無事に『エクスプロージョン』を成功させたぜ!』
 思いっきり理不尽な物言いをする霊夢を励ますかのように、唯一目を瞑る必要すらないデルフが、嬉しそうな様子でそう言った直後―――光が晴れ始めた。
 まるで霧が晴れていくようにして薄まっていく光が彼女たちの視界から消え失せ、周囲は再び夜の闇に包まれていく。

「…光が消えた?………――ん?…―――…ッ!」
 光が晴れた事で、無事に視界が元に戻った霊夢はふと頭上を見上げ―――――目を見開き絶句した。 
「お、やっと光が晴れ……て…――――…はぁッ!?―――えぇ…ッ?」
 彼女の隣にいた魔理沙もようやく視界を取り戻した直後、彼女に倣うかのように頭上を見上げ、驚愕する。
 そして信じられないと言わんかのように何度も両目を擦り、もう一度頭上を見上げて驚いて見せた。

414ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:48:02 ID:UgHbZZAM
「………ははっ、何よコレ?」
「―――――…どういう事なの」
 キュルケは目立った反応こそ見せなかったものの、明らかに引き攣った笑みを浮かべて夜空を見上げていた。
 タバサもまた動揺を抑える事ができず、丸くなった目でゆっくりと地面へと落ちていぐソレ゛を見つめている。
「る…る、る…ルイズ…?ま、まさか君が…君がやったのかい…゙アレ゙を」
 気を失ったモンモランシーを抱きかえているギーシュは限界まで見開いてしまった目で、すぐ横にいるルイズを見つめた。
 アルビオン艦隊が゙いだ場所へ杖を向けたままの姿勢で固まっている彼女は、ジッと夜空を見上げている。
 暗い闇に包まれていた地面を照らす太陽の様に激しく燃え盛る炎が幾つも舞い、落ちてくる夜空を。

『ほっほぉ〜?奴さんたちの被害を見るに…娘っ子のヤツ、相当溜めてたみたいだねぇ?』
 ルイズとモンモランシーを除いた皆が驚きを隠せぬ中で暢気に喋るデルフは、夜空に浮かぶ炎へと視線を向ける。
 夜空に浮かぶ炎の正体。それは見るも無残に炎上するアルビオン艦隊であった。
 全ての艦の帆に、甲板に火がつき、その灯りで地上を薄らと照らしてしまうほどに燃え盛っている。
 そして不思議な事に、あれだけ快調に進んでいた艦船群全てが、艦首を地面へ向けて墜落していくのだ。
 まるで火山灰に巻かれ、成す術も無く地上へ落ちていく渡り鳥のように。
「冗談だろ…?まさか、これ全部、ルイズのあの魔法一発で…」
「少なくとも、幻想郷であんなの使ったら…大変な事になるわね」
 自分たちを照らしつつ緩やかに墜落していくアルビン艦隊を見つめながら呟いた魔理沙に、霊夢が相槌を打つ。
 魔理沙も魔理沙で破壊力のある弾幕を放つことはあったが、ルイズが発動したであろう『エクスプロージョン』は格が違った。
 あれはあくまでも弾幕ごっこで使う弾幕であり、それ以上でもそれ以下でもない。しかし、目の前の艦隊を全滅させた『エクスプロージョン』は違う。
 弾幕ごっこは人と妖が対等に戦える遊戯かつ幻想郷流の決闘でもあり、どんな弾幕でも避けれるチャンスはあるが、あの『虚無』にはそれが無かった。
 一方的な攻撃かつ徹底的な破壊、それが一瞬で行われる。妖怪ならまだしも、人間の少女であるルイズがあの魔法を幻想郷で放てば一大事になるだろう。
 均衡を保っていた人間と妖怪のパワーバランスが崩壊してもおかしくはない、ルイズが見せてくれた『虚無』はそれだけの力を持っていた。


『そう、これが『虚無』の一端。かつてこの地に降臨して、今の世の礎を築いた始祖ブリミルが使っていた第五の系統さ』
 唖然とする二人を見ていたデルフがまるで自慢するかのように言った直後、キュルケが悲鳴を上げた。
「ルイズ!ちょっと、大丈夫…!?」
「う、うぅん…ん…」
 見れば先ほどまで二本足で立っていたルイズは糸が切れた人形の様に、地面へと倒れている。
 悲鳴を上げたキュルケは彼女の傍に寄り添い体を揺するが、ルイズ本人は呻き声を上げるだけで一向に目を開けない。
「ルイズ!」
 霊夢の隣にいた魔理沙も気になったのか、ルイズの使い魔である知り合いよりも先に彼女の下へと走る。
 一方の霊夢も一足遅れて近づこうとしたが、ふと甲板と帆を炎上させて墜落していく『レキシントン』号を見て、苦々しく呟いた。

「何が魔法よ…!こんなの、魔法のレベルを超えてるじゃない。私から言わせれば……強いて言わせれば―――――」

――――――『粒を操る程度の能力』だわ…!
 最後の言葉を心の中で叫んだ彼女は、デルフをその場に突き刺したままルイズの下へと駆けていく。

 霊夢は思い出していた、ルイズが読んでいた『始祖の祈祷書』に書かれていたであろう内容を。
 この世の物質は小さな粒から為り、四系統の魔法はその粒に干渉し、『虚無』はそれより更に小さな粒に干渉できる。
 ならばルイズが放った『エクスプロージョン』は、その小さき粒を刺激し変化させ、艦隊の周囲で爆発させたのだ。

 だから彼女はルイズの゙魔法゙を、幻想郷で言ゔ能力゙と位置付けた。
 使い方次第では神にも大妖怪にも為り得る、強大過ぎるルイズの『虚無』を。

415ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:51:35 ID:UgHbZZAM
以上で、78話の投稿は終了です。
今年も大晦日に投稿する予定でしたが、帰省の都合で前日の投稿となってしまいました。

なにはともあれ、もう2016年も終わりですね。
どうか皆様、来年もよろしくお願いいたします。
ではこれにて。ノシ

416ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:07:10 ID:dfGzk3W6
皆様、明けましておめでとうございます。新年最初の投下を致します。
開始は20:10からで。

417ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:10:31 ID:dfGzk3W6
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十一話「二冊目『わたしは地球人』(その1)」
蛸怪獣ガイロス
恐竜
地球原人ノンマルト 登場

 トリステイン王立図書館にあった六冊の『古き本』に精神力を奪われ、目覚めなくなって
しまったルイズ。才人はルイズを救うために、司書リーヴルの力を借りて本の世界の攻略を
始める。そして一冊目の『甦れ!ウルトラマン』を激闘の末に、完結に導くことに成功したが、
残念ながらルイズに変化は見られなかった。
 それから一夜明け、才人は二冊目の攻略に臨む。

「……シエスタ、ルイズの様子はどうかな」
 ルイズを寝かせている図書館の控え室で、才人は昨日からルイズの看護に加わったシエスタに、
ルイズの容態を尋ねた。が、シエスタは残念そうに首を振った。
「昨日から、同じままです。悪くなる気配もなければ、目を覚ます気配もありません」
「そうか……。やっぱり、残る本の世界を完結させて、ルイズの精神力を取り戻す以外に
方法はないってことか」
 つぶやいた才人が依然変わらぬルイズの寝顔に目を落とし、改めて誓った。
「ルイズ、待っててくれ。必ず、お前を本の世界から助け出してやるからな」
 それから待機済みのリーヴルの方に振り返る。彼女は才人に告げる。
「こちらの準備は完了してます。次に入る本をお選び下さい」
 テーブルに並べられている五冊の『古き本』。才人はそれらを手に取りながら、心の中で
ゼロと相談する。
『ゼロ、次はどの本にする? 結局は、全部に入らなきゃいけないんだろうけど……』
『……次は、その左端の奴にしてくれ』
 ゼロが指示した本を手に取る才人。
『これか? この本は……ウルトラセブンが主役……!』
『次は親父の物語を完結させたい。やってくれるよな?』
『ああ、もちろんだ』
 相談が終わり、才人は手に取った本をリーヴルに差し出した。
「次はこいつにするよ」
「お決まりですね。では、そこに立って下さい」
 これから二冊目の本の旅に出ようとする才人に、シエスタたち仲間が応援の言葉を向けた。
「サイトさん、どうかお気をつけて!」
「俺がいなくとも、しっかりやんな! 油断すんなよ!」
「がんばってなのねー!」
「パムー!」
 ただ一人、タバサだけは目だけをリーヴルに向け、一挙手一投足を観察していた。彼女は
昨日のミラーたちとの話し合いの通り、行動に不審なところの多いリーヴルを、密かに監視
しているのだった。
 だが今のところ、リーヴルに怪しいところは見られなかった。
「では、どうぞ良い旅を……」
 昨日と同じようにリーヴルが才人に魔法を掛け、才人は本の中に入っていった……。

   ‐わたしは地球人-

 中国奥地の砂漠地帯。断崖絶壁と、その崖に彫り込まれた巨大な仏像に囲まれた地に、
中国軍の一部隊が到着した。彼らはこの地の地下に発見された、謎の遺跡の調査にやって
来たのだ。
 地下に潜った部隊を迎えたのは、仏のような壁画や石像で構成された遺跡。だがこのような
遺跡は、ありえないはずだ。何故なら、

418ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:14:27 ID:dfGzk3W6
『殷の文明より古い……』
『この地層から言うと、一万五千年以上前……』
『そんな古い時代に……考えられない……』
 一万五千年前というと、仏教伝来どころか稲作すら始まっていない。そのような時代に
こんな高度な遺跡が築かれていたということを、こうして実際に目にしなければ誰が信じる
だろうか。
 兵士たちが呆気にとられていると、突然の地震が発生し、遺跡の天井から礫岩がこぼれ落ちてきた。
身の危険を感じた兵士たちは後ずさると、震動によって遺跡の壁の一部が崩れて穴が開いた。遺跡が
その奥に続いているのだ。
 調査隊はその穴を潜っていくと……そこは部屋のようになっており、内部には恐竜型の
怪物が刻まれた石板と、謎の紋様が刻まれた棺らしきものだけが置いてあった。
 これら出土品――オーパーツは、ウルトラ警備隊が護送することが、地球防衛軍上層部により
決定された。

 1999年。三十年余りもの時を隔てて、地球防衛軍は、その有り様を全く変えてしまった。
カジ参謀の主導する、かつてのR1号計画を拡張した、地球への侵略者になり得る宇宙人の
生息する星に先制攻撃を仕掛けて破壊することを目的とした「フレンドシップ計画」を掲げ、
宇宙に対して牙を剥くようになったのだ。計画反対派のフルハシ参謀が死去してからは、
その傾向は強まる一方。
 ――ウルトラセブンは、かつての地球が外宇宙からの侵略者の脅威に晒され、滅亡の危機に
あったがために、無力だが美しい心を持つ地球人に代わって侵略者と戦っていた。だが今の
地球は、強大な力を背景に他の星を脅迫している。少しでも間違えれば、地球の方が侵略者に
なってしまうような状況になっていた。……今の地球を守護することが、宇宙正義足りえるのか……
心に迷いを抱えながらも、セブンはそれを振り切るように怪獣、宇宙人と戦い続けていた。
 そんな中での、オーパーツとはいえ単なる出土品を護送し、防衛軍のトップシークレット
「オメガファイル」として封印するという不可解な任務。訝しむセブン=カザモリの周囲には
謎の女が出没し、「オメガファイルを暴き、地球人の真実を確かめろ」と囁く。女に導かれる
ようにオメガファイルに接近したカザモリだが、カジ参謀に発見され、拘束された末にウルトラ
警備隊の任から外されてしまった。
 頑なに隠されるオメガファイルの正体とは何なのか……。それが封印されている防衛軍の
秘密施設に、怪獣が迫り出した。

「ギャアアオウ!」
 秘密施設に最も近い海岸から上陸し、まっすぐ施設に向かっているのは、八本の足と身体中に
吸盤を持った怪獣。頭頂部にある二つの眼が黄色く爛々と光る。蛸怪獣ガイロスである。
 また陸を横切るガイロスの近くの土中から土煙が勢いよく噴出し、また別の怪獣が地表を
突き破って出現した。
「グイイィィィィィ!」
 体長こそガイロスと同等であるが、見た目はずばり恐竜そのもの。これはメトロン星人が
二度目の地球侵略をたくらんだ際に、恐竜を生体改造して怪獣化したものである。
「ギャアアオウ!」
「グイイィィィィィ!」
 ガイロスと恐竜。この二体の怪獣が森の中を練り歩いていく様を、カザモリと『サトミ』が
見上げた。
「例のオーパーツが運び込まれた施設のある方向に向かってるわ! これって偶然なのかしら……?」
「……」
 カザモリは懐に入れているウルトラアイに手を添えたが、側には『サトミ』がいる。彼女の前で
変身することは出来ない。
 そうでなくとも、今セブンに変身して戦うことが出来るのか……自分がどうすべきか決めかねる
ところがあった。
(偶然ではない。あの怪獣たちは、確実にオーパーツに引き寄せられている。だが何故怪獣が
古代遺跡の出土品を狙う? 防衛軍がひた隠しにすることと言い、あれは何だというのだ……)

419ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:16:53 ID:dfGzk3W6
 考え込んでいると、『サトミ』が不意に大きな声を発した。
「あッ! ウルトラセブンだわ!」
「えッ!?」
 そんな馬鹿な、とカザモリが顔を上げた。
 その視線の先、ガイロスと恐竜の進行先に、青と赤の巨人――ウルトラマンゼロが巨大化して
現れた。怪獣たちは驚いて一瞬足を止める。
「セェアッ!」
 ゼロは登場直後に前に飛び出し、ガイロスと恐竜に全身でぶつかっていく。ゼロを警戒していた
怪獣二体も、ゼロの行動を受けて腕を振り上げ迎え撃つ。
 怪獣たちと戦闘を開始したゼロを見上げ、『サトミ』は怪訝に目を細めた。
「……いえ、セブンじゃない。別の巨人だわ! どことなく似てるけど……」
「……」
 カザモリもまた、ゼロを見つめて神妙な顔つきになる。
「シャアッ!」
 一方のゼロは二体の怪獣の間に割り込み、巧みな宇宙空手の技で数のハンデを物ともせずに
善戦していた。触手を振り回すガイロスの胴体の中心に掌底を打ち込んで突き飛ばし、その隙に
恐竜の首を抱え込んでひねり投げる。
「ギャアアオウ!」
「グイイィィィィィ!」
 ガイロスも恐竜も必死にゼロに抗戦するが、この二体は肉弾しか攻撃手段がなく、特別破壊力に
優れている訳でもない。そんな怪獣は、二体がかりでも宇宙空手の達人のゼロの敵ではないのだった。
「ハァッ!」
 怪獣両方に打撃を連発して弱らせたところで、ゼロはとどめの攻撃に移る。
 まずはゼロスラッガーを投擲し、ガイロスの六本の触手を根本から切断。
「ギャアアオウ……!!」
 腕となる部分を失ったガイロスは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
「セアッ!」
 ゼロは振り返りざまに、恐竜にエメリウムスラッシュを撃ち込んだ。
「グイイィィィィィ!」
 恐竜はレーザー攻撃で爆破炎上を起こし、ガイロスと同じく絶命したのだった。
「シェアッ!」
 あっという間に怪獣たちを撃破したゼロは、流れ星のような速さで空に飛び上がってこの場から
去っていった。それを見届けた『サトミ』がポツリとつぶやく。
「行ってしまったわ……。あの巨人は何者だったのかしら? やっぱり、セブンと同じように
この地球の守護者なのかしら」
 一方のカザモリ=セブンは、突如として現れた怪獣のことを気に掛けていた。
(これで終わりだとは思えない。オーパーツへまっすぐ向かう怪獣たちの行動……それに、
奴らは一度私と戦い、倒されたものたちだ。それがどうして復活したのか……。しかも片方は、
あのノンマルトと関係があった怪獣のはずだ。……もしそうならば、私の周りに現れたあの
女性は、まさか……)
 それから――ゼロのことも、次のように考えた。
(……あの戦士は、M78星雲人なのか? 何者なんだ……)

 ガイロスと恐竜を倒し、森の中で変身を解除した才人は、ゼロに話しかけた。
「この本の世界には、一冊目のウルトラマンみたいに、セブンしかウルトラ戦士がいないみたいだな」
 ウルトラセブンは、今となっては初代ウルトラマンと同じM78星雲人であるということが
周知の事実となっているが、地球に姿を現したばかりの頃は、ウルトラマンとは大分異なる
容姿であったために同種族だとは思われていなかった。この世界は、その当時の説を採用した
ような、地球を守る戦士がウルトラセブンのみという歴史で成り立っているようだ。地球の
防衛隊も、セブンとともに活躍していたウルトラ警備隊が現在に至るまで存続しているという
設定のようである。

420ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:19:30 ID:dfGzk3W6
「……でも、一冊目とは違って何だか重苦しい雰囲気の世界だな……」
 才人はそのことを考え、眉間に皺を寄せた。一冊目の科学特捜隊は、ハヤタがスランプに
陥っていた以外は終始明るく和やかな雰囲気であったが、この世界の地球防衛軍は正反対に
ひどくきな臭い様子である。「フレンドシップ」とは名ばかりの、行き過ぎた地球防衛政策を
推し進め、またそれが何なのかは知らないが、ある事象を頑なに隠そうとし、非人道的な手段に
まで手を染めている。人間の負の面が前面に出てしまっているような世界だ。おまけに、主人公
カザモリの周りには怪しい女の姿が見え隠れしている。こんな物語を無事に完結に導くのは、
一冊目よりもずっと困難かもしれない。
『ああ、そうだな……』
 そんな才人の呼びかけに、ゼロはどこか気のない返事で応じた。
 彼は、「自分の父親ではない」ウルトラセブンのことを考えていたのであった。

 怪獣たちが倒された後、カザモリは『サトミ』に連れられて北海道に向かった。そこには、
ヴァルキューレ星人事件の際に殉職したフルハシの墓があるのだ。
 カザモリ……ダンは、フルハシの墓に向かって、今の自分の抱える悩みを吐露したのだった。
「私があなたと出会った時代、地球人は今のような強い力を持っていなかった。もっと美しい
心を持っていた! 地球人は変わってしまったのか……それとも……」
「いいえ。地球人は変わっていないわ、ウルトラセブン」
 ダンの前に、またしても例の女が現れた。女はダンに、今の地球人の姿こそが地球人の
本性であること、自分たちは今「地球人」を名乗る者たちに追いやられた地球の先住民で
あることを訴えた。その証拠は、防衛軍が隠している例のオーパーツ……。
 女がそこまで語ったところで、ウルトラ警備隊が現場に駆けつけた。カザモリが一度拘束
された際に調べられた脳波から、現在のカザモリはダンが姿を借りている姿、つまり宇宙人で
あることが発覚してしまったのだ。そしてウルトラ警備隊は、カジ参謀の命令で、カザモリを
拿捕するためにやって来たのだ……。
「動かないで!」
 墓地でカザモリは、『サトミ』――一冊目のフジと同じようにその役になり切っている
ルイズに、ウルトラガンを突きつけられた。
「カザモリ君が、異星人だったなんて……」
 カザモリの背後からはシマとミズノも現れ、カザモリは退路を塞がれる。
「いつから……いつからカザモリ君に入れ替わったの!?」
「待ってくれ! 君は誤解している!」
「近づかないで!」
 ルイズに歩み寄っていくカザモリを、ルイズは恫喝した。
「これ以上近づくと、撃つわ。脅しじゃないわ!」
 ルイズの指が、ウルトラガンの引き金に掛けられる――。
 その時に、才人が林の中から飛び出して、カザモリの盾となった!
「やめろッ!」
「!? あ、あなた誰!?」
 突然のことに動揺するルイズたち。それはカザモリも同じだった。
 才人はその隙を突いて、ゼロアイ・ガンモードの光弾でルイズたちの手に持つウルトラガンを
弾き落とした。
「きゃッ!」
「な、何をするんだ!」
「テメェ、侵略者の仲間か!?」
 血気に逸ったシマが才人に殴りかかっていくが、才人の素早い当て身を腹にもらって返り討ちに
された。
「うごッ……!?」
「この人に、手出しはさせないッ!」
 才人の鬼気迫る叫びに、ルイズとミズノは思わずひるんだ。
 ルイズたちが立ちすくんでいる間に、才人はカザモリの手を取って引っ張っていく。
「さぁ、こっちに!」
「あッ! き、君!」

421ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:23:24 ID:dfGzk3W6
 ウルトラ警備隊からカザモリを連れて逃げる才人。追ってくる彼らをまいたところで、
カザモリは才人と向き合った。
「君は……怪獣と戦った、あの戦士なのか?」
「……」
「どうして僕を助けたんだ?」
 カザモリの問いに、『才人』は答えた。
「理由は、「あなた」には分かりませんよ……」
「……?」
 今の『才人』は――ゼロであった。カザモリ=セブンの危機に、才人と交代して助けたのだ。
 だが自分が、あなたの息子である、ということは話すことが出来なかった。何故ならば、
この本の世界ではセブンに『ウルトラマンゼロ』という息子がいるという『設定』はないからだ。
「ともかく、助けてくれたことはありがとう。でも……僕は行かなくちゃ」
 カザモリが踵を返して、ウルトラ警備隊のところに戻ろうとするのを呼び止めるゼロ。
「待って下さい! 駄目です、危険ですッ!」
「いや、このまま逃げ続けることは、自分が侵略者だと言ってるようなものだ。僕は自分の潔白を、
この身を以て証明しなければ」
 と言うカザモリを、ゼロは説得しようとする。
「潔白を証明したとしても……あなたがウルトラセブンだということが知られても! オメガファイルに
近づいたというだけで、今の防衛軍はあなたを殺すかもしれないんですよッ!」
「……!」
 その言葉には、カザモリも流石に足を止めたが……。
「……僕は、自分が守ってきた地球人を、信じる……!」
 そう言い残して、再び歩み去っていった。ゼロも、今の言葉を聞いてしまっては、これ以上
カザモリを止めることは出来なかった。
「……」
 取り残されたゼロの背後に、例の女がどこからともなく出現した。
「お前は何者だ。何故我々の邪魔をする」
 振り返ったゼロは、女に言い返した。
「それはこっちの台詞だ。あんたこそ何者だ? どうしてあの人を、オメガファイルに近づけようと
するんだ。怪獣を操ってたのはあんたか? だとしたら、怪獣を使ってまで暴こうとするオメガファイルの
正体は、何だ!」
 問い返された女は、ゼロに端的に回答した。
「我々は、真の地球人。一万年以上も前に、今地球人を名乗る者たちによって追放された。
オメガファイルの中身は、その証拠だ」
「!! ノンマルト……!」
 ノンマルト。それは1968年、一時地球防衛軍を騒然とさせた謎の集団が名乗った名前である。
海底に居を構え、人間の海底開発の全面中止を訴えて地上を攻撃してきたのだが……彼らは、
元々地球に栄えていた種族は自分たちであり、今の地球人は後からやって来て自分たちに成り
代わった種族だと主張したのである。
 その言葉が真実であったか否かは、本来のM78ワールドの歴史では、ノンマルトが二度と
姿を現すことがなかった故に不明のままで終わった。しかしこの世界では……それが『真実』
として取り扱われているのかもしれない。
「このことが白日の下に晒されれば、今の地球人はこの星を出ていかなければならなくなる。
それ故に、防衛軍はあの棺をオメガファイルとして封印しているのだ」
 女――目の前にいるノンマルトもまた、そのように主張した。そしてそれは筋が通っている。
ノンマルトの語ることが全て真実ならば、今の人間は全て、この地球に暮らす権利を全宇宙文明
から認められなくなるのだ。
「……」
 ゼロは一切の言葉をなくす。するとノンマルトは畳みかけるように告げた。
「お前が何者かは知らないが、軽率な行動は慎むべきだ。たとえ誰であろうと、侵略者に
加担したならば、お前もまた全宇宙から罪人として扱われ、居場所を失うのだ」
 そう言い残して女はいずこかへと去っていく。ゼロはその場に立ち尽くしたまま。
 才人は彼に呼びかけた。
『……とんでもない物語の中に来ちまったな。俺たち、これからどうしたらいいと思う? ゼロ……』
「……」
 ゼロは才人の問いかけに、無言のまま何も返さなかった……。

422ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:24:09 ID:dfGzk3W6
以上です。
新年一発目から暗い!

423名無しさん:2017/01/04(水) 23:17:15 ID:2G1OT/tU
平成セブン! うわーゼロがこの世界に来るのはつらい……!

424名無しさん:2017/01/09(月) 00:57:52 ID:DPHQNaxI


425ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:16:01 ID:iyLiJ5JY
こんばんは、焼き鮭です。また続きの投下を始めます。
開始は1:18からで。

426ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:18:22 ID:iyLiJ5JY
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十一話「二冊目『わたしは地球人』(その2)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場

 『古き本』に精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅立ちを決意した才人。
一冊目の『甦れ!ウルトラマン』を完結させ、次に入ったのはウルトラセブンの世界。
……だがそこは正史の歴史から枝分かれした、地球防衛軍が過剰防衛に走ってしまって
いる危うい世界であった。更に中国奥地から発掘され、何故かトップシークレットとして
封印されたオーパーツを巡り、セブンの周りにノンマルトを名乗る女の影が見え隠れする。
果たして才人は……ゼロは、己の父ではないセブンを導き、この世界を無事完結に至らす
ことが出来るのだろうか。

 地球防衛軍に宇宙人であることが知られてしまった、カザモリの姿を借りているセブンは、
一度はゼロに助けられるものの、己の潔白を証明するために自らウルトラ警備隊に捕まった。
カザモリは防衛軍の隔離施設で、シラガネ隊長に地球の未来を救うには、地球人自身の手で
オメガファイルの封印を解き、侵略者の過去から文明人に進化したことを宇宙に証明する他は
ないことを訴えた。
 しかし、そのカザモリ=セブンに命の危機が迫っていた……。

「カザモリ隊員の処刑が決定した、だと……!?」
 防衛軍基地の周辺で、身を潜めながら超感覚で防衛軍の動向を見張っていた、才人の身体を
借りているゼロが、基地内の発表を盗み聞きして愕然とつぶやいた。
 オメガファイルの秘密を隠し通そうとしているカジ参謀は、相手が何度も地球人を守ってきた
ウルトラセブンと知ってなお、秘密を闇に葬ることを優先したのだ。残念ながら、ゼロの危惧した
通りになってしまった。
 才人が焦り気味にゼロに呼びかける。
『ゼロ、これはまずいぜ! セブンが処刑されたら、ルイズも助けられなくなっちまう……!』
「ああ、分かってるぜ……!」
 ゼロは固い決意を表情に示し、踵を返した。
「それがなくても……本の中の別人といえども、俺の親父は殺させやしねぇぜ!」
 ゼロが向かう先は、カザモリの囚われられている隔離施設――ではなく、ウルトラ警備隊基地であった。

 ウルトラ警備隊の司令室では、カザモリの処刑を知らされた隊員たちが重苦しい空気の中、
相談をし合っていた。
「わたしたち、これでいいの? このまま、仲間を見捨てて……」
 ルイズが声を絞り出すようにつぶやくと、シマが奥歯を軋ませながら言う。
「奴はカザモリじゃなかった……。侵略者だったんだ……」
「それはカジ参謀の下した結論でしょ!? わたしたちは、もっとカザモリ君のことを知っている
はずじゃない!」
 ルイズが立ち上がって反論した。すると、
「ああ、そうだ。他人から与えられた結論じゃなく、あなたたち自身で答えを出してもらいたい」
 司令室の扉が開き、ゼロが当然のように入ってきたことに隊員たちは仰天した。
「君は、北海道の……!」
「お、お前! どうやってここに入ってきた!?」
 シマが血気に逸ってウルトラガンを抜こうとしたが、それをゼロは手で制する。
「待て! あなたたちに危害を加えに来たんじゃない。今防衛軍に捕まってる……カザモリ隊員を
一緒に助けてほしいと、お願いしに来たんだ」
「助けてほしい? 俺たちに侵略者の手助けをしろって言いたいのか!?」

427ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:20:04 ID:iyLiJ5JY
 敵意を向けてくるシマを正面に置いて、ゼロは冷静に隊員たちに訴えかけた。
「口で侵略者ではないと言うのは簡単だ。けどそれじゃあ納得しないだろう」
「当たり前だ!」
「だから、あなたたち自身で考えてほしい。カザモリ隊員のこれまでの行いを振り返って、
彼が本当に侵略者なのかどうかを」
 ゼロの頼みに、シマたちは戸惑いを見せる。
「俺たち自身で、考えろと……?」
「仮にあなたたちの助けがなくとも、俺は一人でもあの人を助けに向かうつもりだ。だがその前に、
確かめたいんだ。あの人の気持ちが、あなたたちの心に届いてるかどうかを」
 ゼロの言葉を受けて、最初に口を開いたのはミズノだった。
「……僕は、カザモリを信じたい」
「ミズノ!」
 振り返るシマ。ミズノは続けて語る。
「カザモリはいい奴だ。あいつに、何度も命を救われたよ……。カジ参謀がどう言おうと、
あいつが侵略者だとは信じられないんです」
 ミズノに続いて、ルイズもこう言った。
「その子の言う通り……カザモリ君が宇宙人だったとしても、侵略者だとは限らないわ」
「このまま上に任せとくんですか!? それで後悔しないんですか!」
 ルイズとミズノの説得を受けて……シマは、デスクの上のヘルメットを手に取った。
「シマ隊員……!」
 一瞬身を乗り出したゼロに、シマが告げる。
「俺は、お前やカザモリを信じた訳じゃない。しかし仲間として、カザモリ自身から本当の
ことを聞きたいんだ」
 隊員たちは互いに顔を見合わせると、重い表情から一転して、微笑みながらうなずき合った。
「ありがとう……!」
 ひと言礼を告げたゼロが踵を返したところ、ルイズがその背中に問いかけてきた。
「一つだけ教えて! あなたはカザモリ君の仲間なの?」
「……いや、そういう訳じゃない」
「だったら、どうしてそんなにカザモリ君のことに執着するの? あなたは一体……」
 それにゼロは、次のように答える。
「……あの人は、俺の大切な人なんだ。あの人自身も知らないことだが……」
「それはどういう……」
 ミズノの聞き返しを最後まで聞かず、ゼロは司令室を飛び出していった。

 防衛軍の隔離施設では、拘束されているカザモリが防衛軍兵士に連行されながらどこかへと
向かわされていた。
「極東基地に輸送されるんじゃないのか? 軍法会議に掛けられるのなら、あそこに行くはずだろう」
「違うわ!」
 カザモリが聞いたところ、ルイズの声が響いて、彼らの行く先から姿を出した。
「この通路の行き止まりは、粒子レベル分解システムルーム。どんな物質も、分子、原子に
バラバラに分解して破壊してしまう!」
 驚くカザモリ。ルイズは小銃を向けてきた兵士たちにウルトラガンを構えるが、
「銃を捨てろ」
 横から、こめかみに拳銃の銃口を向けられた。カジ参謀だ。
「異星人に美しい友情など必要ない」
「――それがあんたの出した結論かよッ!」
 その時ゼロがバッと跳躍しながらカジに飛びかかり、拳銃を叩き落とした!
「何ッ!?」
「あんたみたいな人間がいるからッ!」
 兵士も反応が出来ていない内に、ゼロは当て身を食らわせてカジを昏倒させた。
「ぐあッ……!」

428ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:22:03 ID:iyLiJ5JY
 更に兵士たちは、シマとミズノが撃った麻酔弾でバタバタ倒れていった。
「大丈夫ですか!? 危ないところだった……!」
「君は……!」
 ゼロはカザモリの拘束を手早く解いていく。そこに騒ぎを聞きつけた警備兵が駆けつけて
くるのを察知して、シマがゼロとルイズに首を向けた。
「ここは俺たちに任せろ! お前とサトミ隊員はカザモリを!」
「分かりました!」
 シマとミズノが警備兵を足止めしている間に、ゼロとルイズはカザモリを連れて防衛軍施設から
脱出していく。
 外にも防衛軍の兵士が待ち構えていたが、ルイズとゼロの手によって無力化されていった。
ほとんどはゼロの格闘技によるものであった。
「はぁッ!」
「ぐッ!?」
「ぐあぁッ!」
 瞬く間に兵士を気絶させていくゼロに、ルイズとカザモリは驚いていた。
「やるわね。屈強な防衛軍の隊員を、まるで子供扱い……」
「すごい腕前だな……」
「……あなた譲りさ」
「えッ?」
「いや、何でもない」
 ポツリと漏らしたゼロがごまかした。
 空が夕焼けに染まり出した頃、外の兵士を全員無力化すると、シマとミズノが追いついてきて
合流した。
「大丈夫だったか?」
「はい。そっちこそご無事で」
 落ち着いたところで、ルイズがカザモリに呼びかける。
「あなたが何者であっても、わたしたちはあなたを信じるわ」
「ウルトラ警備隊は家族みたいなもんだ。何があっても、一蓮托生さ」
 ミズノも、シマもカザモリにうなずいてみせた。
「ありがとう、みんな……!」
 礼を述べたカザモリに、ゼロが告げた。
「シラガネ隊長の方も、オメガファイルの封印を解き、真実を突き止める努力をしてます。
どうか、地球人をまだ信じてやって下さい」
「ああ。君もありがとう……。僕のために、また力になってくれて」
 カザモリがゼロにも礼を言った直後、ルミからの通信をシマのビデオシーバーが着信した。
『外部からの通信が入ってます! ビデオシーバーにつなぎます!』
 ビデオシーバーの映像が切り替わると、覗き込んだカザモリとゼロの目の色が変わった。
「君は……!」
 映っているのはノンマルトの顔だった。ノンマルトはカザモリに向かって告げる。
『あなたなら、秘密を探り出してくれると思った。でも……あなたの力は頼らない!』

 ノンマルトはテレパシーで、防衛軍の首脳部に呼びかけた。
「地球防衛軍に要求する! 隠蔽している証拠を解除せよ! さもなくば、我々は実力を以て、
これを全宇宙に公開するだろう!」
 その言葉の直後に、オメガファイルを封印している秘密施設の周辺区域の地面が突然裂け、
地中から鳥型の怪獣が出現した!
「キャッキ――――イ!」
 翼の部分は鋭利な刃物状になっているが、眼光はそれ以上に鋭く、憎悪に煮えたぎっている……。
地球人の惑星破壊爆弾の最初の犠牲となったギエロン星、その星の生物が放射能で変異してしまった
再生怪獣ギエロン星獣である!

 ゼロは険しい目つきで、防衛軍の秘密施設に向かっていくギエロン星獣をにらんだ。
「怪獣にオメガファイルを暴かれたら、地球人は……!」

429ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:24:02 ID:iyLiJ5JY
 地球人の手ではなく、ノンマルトによって真実を公開されれば、今の地球人は侵略者のままに
なってしまい、地球に留まる権利を失ってしまう。それだけは何としても阻止せねばならない。
 そう考えたゼロは、カザモリに向き直って申し出た。
「ここは俺が時間を稼ぎます! あなたは、どうか地球人の助けになってあげて下さい! 
……ウルトラセブン!」
「えッ!?」
「カザモリが、セブン……!?」
 ルイズたちはカザモリの顔に振り返った。その間に、ゼロはギエロン星獣の方向へ駆け出していく。
 その背中を呼び止めようとするカザモリ。
「待ってくれ! 君は……!」
「……」
 ゼロは一瞬だけ立ち止まったものの、すぐにまた駆け出して彼らの前から離れていった。
 そしてウルトラゼロアイを顔面に装着して変身を行う。
「デュワッ!」
 才人の身体からウルトラマンゼロに変身を遂げて、巨大化しながらギエロン星獣の正面に着地した。
「シェアッ!」
「キャッキ――――イ!」
 戦闘の構えを取ってギエロン星獣に立ちはだかったゼロに、ノンマルトがテレパシーを向けてきた。
『青き戦士よ、この期に及んでまだ我らの障害になろうというのか。その怪獣を見ろ!』
 ノンマルトはギエロン星獣を示す。
『その怪獣は、今の地球人の横暴な行いによって理不尽に故郷の星を奪われた。それが地球人の
真の姿なのだ! それでもかばおうというのか!』
 見せつけられる、地球人の残酷性を前に、ゼロは答える。
『たとえそうであっても……俺は、あの人が信じる地球人を、最後まで信じるぜッ!』
 覚悟を決め、ゼロスラッガーをギエロン星獣へと飛ばした!
「セアァッ!」
「キャッキ――――イ!」
 だがスラッガーは刃状の翼によって弾き返された。ギエロン星獣は翼を閉ざすと、手と手の
間をスパークさせてリング光線をゼロに放つ。
「グッ!」
 ギエロン星獣の攻撃を素早く回避するゼロだが、ギエロン星獣の口から黄色いガスが噴射された。
ギエロン星を爆破したR1号の放射能が大量に含まれたブレスだ。
「グゥゥッ!」
 ギエロン星獣のガスを浴びせかけられたゼロが胸を抑えて苦しんだ。そのガスには放射能のみ
ならず、ギエロン星獣の苦痛の記憶と憎悪の感情も乗せられている。その負の力がゼロを苛む。
 だが、ゼロはここで退く訳にはいかないのだ。
『おおおおおッ!』
 スラッガーを片手にして、全身に力を入れ、毒ガスを一気に突き抜けていく。そしてギエロン
星獣の喉笛を見据えると、
『すまねぇッ!』
 すれ違いざまに、喉をひと太刀で切り裂いた!
「キャッキ――――イ!!」
 仰向けに倒れ込んだギエロン星獣は、そのまま目を閉ざし、再びの永遠の眠りに就いていった。
 地球人の所業のせいで、散々に苦しみ抜いたギエロン星獣をこれ以上苦しませることはないと
考えた、急所の一点のみを狙った捨て身の一撃であった。
 これでギエロン星獣は倒されたが、ノンマルトの攻勢はこれで終わりではなかった。
『あくまで地球人の側につくというのか。だが我々とて諦めはせん! 地球人によって葬られた
ものたちの、怨念の声を聞け!!』

430ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:25:55 ID:iyLiJ5JY
 その言葉の後にまたしても地割れが発生して、今度は一気に五体もの怪獣がゼロの前に
姿を現してきた。
「キイイイイイイイイ!」
「ギャ――――――ア!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウオオオオッ!」
「グオオォォォ!」
 トリステインにも現れたことのあるエレキングを中心に、発泡怪獣ダンカン、硫黄怪獣
サルファス、太陽獣バンデラス、植物獣ボラジョが出現してゼロと対峙した。
『ちッ……! どれだけ怪獣を復活させようと、こっちだって負けるつもりはねぇぜ!』
 一度に五体を前にしてもひるむことはないゼロだが……離れた場所で土煙が柱のように立ち上った。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 そしてまた新たな怪獣が地上に姿を現した。今度のものは再生させられた怪獣ではなく、
棺と一緒にあった石碑の壁画の生物とほぼ同じ姿をした怪獣であった。胸には棺にもあった
紋様――ノンマルトの印が刻まれている。
 ノンマルトの直接の配下であり、守り神でもある神獣ザバンギである。
『! あっちが本命かッ!』
 一心不乱に防衛軍施設に向かい始めるザバンギの方へ回り込もうとしたゼロだったが、
それをエレキングたちにさえぎられた。こっちが足止めされてしまった。
『くそッ、邪魔だお前ら!』
 どうにか怪獣たちのディフェンスを抜けようとするゼロだが、五体の怪獣はしつこくゼロの
前に立ちふさがる。このままではザバンギが施設を襲ってしまう。
 しかしその時に、カザモリの声が響き渡った。
「ウインダム、ミクラス、行け!」
 同時に二つの光がザバンギの前で膨らみ、二体の怪獣の姿に変化した。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
『カプセル怪獣……!』
 ゼロもよく見覚えのあるウインダムとミクラスの姿。しかしゼロが出したものではない。
彼のカプセル怪獣は、デルフリンガー同様に連れてこられないので現実世界に置いてきている。
 このカプセル怪獣は、本の世界のセブンのものだ。ゼロの応援として、送り出してくれた
ものに違いない。
「デュワッ!」
 そしてカザモリ自身もまた、ウルトラアイを装着してウルトラセブンに変身したのであった。
 変身を完了したセブンは等身大のまま一旦空に飛び上がり、垂直落下して防衛軍施設の
地下に突入。そのままオメガファイルの元まで向かっていく。
 これを見届けたゼロが、一層の活力に溢れて怪獣軍団に向き直った。
『ウルトラセブンが頑張ってるんだ……。そいつを無駄にはさせねぇぜ! 来るなら来やがれッ!』
 ザバンギにぶつかっていくウインダム、ミクラスとも同調するように、ゼロは一気に怪獣たちの
間に切り込んでいった!

431ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:28:02 ID:iyLiJ5JY
ここまでです。
明日を懸けた対決。

432ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:54:57 ID:LzEFD1MA
あけましておめでとうございます、皆さん。ウルトラ5番目の使い魔、53話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

433ウルトラ5番目の使い魔 53話 (1/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:56:56 ID:LzEFD1MA
 第53話
 始祖という人
 
 未来怪獣アラドス 登場!
 
 
 長い、本当に長かった夜が明けようとしていた。
 
『メタリウム光線!』
『ガルネイトボンバー!』
 
 ウルトラマンAとウルトラマンダイナの必殺技が、ゼブブとビゾームに炸裂する。
 陽光取り戻したトリスタニアにあって、二大怪獣の最期が、そして破滅招来体の陰謀の終幕がやってきたのだ。
 まずはビゾームがガルネイトボンバーの灼熱の奔流に焼かれ、微塵の破片に爆裂しながら焼き尽くされた。
 そしてゼブブもメタリウム光線に貫かれ、断末魔の叫びをあげながら最期を迎えていた。
「ぐわあぁっ! ま、まさかぁっ。で、ですが覚えておきなさい。我らはただの使いに過ぎないということを。人間たちが愚かな行為を続ける限り、いずれ主がこの星をーっ!」
 捨て台詞を残し、ゼブブもまた大爆発を起こし、微塵の破片になってトリスタニアの地に舞い散った。
 破滅招来体の二大怪獣の最期。それと同時に、残っていたドビシやカイザードビシもすべて活動を停止した。
 構えを解くふたりのウルトラマン。爆発の轟音が収まると、辺りは静寂に包まれ、ふたりのカラータイマーの音だけが規則的に流れる。
 終わったのか……? 人々は、長く続いた悪夢のような戦いがこれでやっと終わったのかということがすぐには納得できず、押し黙った。しかし、ドビシの黒雲が取り払われて青さを取り戻した空からさんさんと降り注いでくる陽光に肌を温められ、穏やかな風がすっとほおをなでていったのを感じると、困惑は一転して歓喜の叫び声に変わった。
「やった、ついに、ついに、これで、これで」
「トリステインに、ハルケギニアに朝が戻ってきたんだ。ばんざーい!」
「これで戦争も終わる。生きて帰れるのか、夢のようだ」
 ドビシに空が覆われてから今日まで、何ヶ月もの間人々は二度と朝が来ない恐怖に耐えてきたが、それがついに終わりを告げたのだ。

434ウルトラ5番目の使い魔 53話 (2/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:58:07 ID:LzEFD1MA
 太陽は再び空に輝き、雲は白く空は青い。そんな当たり前のことがこんなにうれしいとは、多くの人々にとって想像したこともなかった。太陽とは、まさに自然が与えてくれる最高の恵みであり、光とは人間にとってなくてはならない支えだったのだ。
 失ってみて初めて人はそのものの価値を知ることが出来る。今度の戦いでは、多くの人がそれを実感したに違いない。太陽しかり、大切な人しかり、国や信仰しかり、なにげなくあるそんなものでも、まさに『タダより高いものはない』のだ。
 そして、これで俺たちの役割も終わったと、エースとダイナはうなづき合うと、共に青空を見上げて飛び立った。
「ショワッチ!」
「デュワッ!」
 自然の輝きを取り戻した空へ飛んでいく、銀色の巨人と赤い巨人。それが真に戦いの終幕を告げ、人々は太陽に向かって消えていく平和の使者を見送った。
 
 だが、戦いは終わっても、まだ戦争は閉幕ではない。後始末が残っている。むしろ、そちらのほうが難題かもしれない。
 ロマリア教皇が侵略者であり怪物だったという事実は、人々の拠り所であった信仰心を根底からひっくり返すものだった。ブリミル教はハルケギニアの人間の精神の根幹を成す土台であり、簡単に代替の効くものではない。想像してみるといい、あなたにとって長年尊敬してきた親や教師が本当は悪人だったとしたら、はたしてあなたは平静でいられるだろうか?
 ブリミル教は正しいのか? それとも悪魔の造形物なのか? その答えを教えてくれる人は、この世界にひとりしかいない。人々の眼差しは自然と、トリスタニアの城壁の上で立っているブリミルその人に向けられ、やがてブリミルのところにアンリエッタとウェールズが飛竜に運ばれて駆けつけ、その前にひざまづいた。
「始祖ブリミル、お目にかかることができ、心から光栄であります」
「いやいや、よしてくれ。僕はそんな、人に頭を下げられるような立派な人間じゃないよ。まあ、君たちの立場じゃ対面上仕方ないかな。なら、せめて顔くらいは上げてもらえるかい?」
「は、はい……」
 ブリミルの穏やかというか、暢気ささえ感じられる声に、アンリエッタとウェールズは緊張しつつも顔を上げてブリミルの姿を見た。
 そこにいたのは、どこにでもいるような普通の青年だった。教皇のような聖人のオーラなどは微塵も無く、美男子でもなければたくましくもない。衣服も何度も繕い直された跡が見えて、どちらかといえばみすぼらしいとさえ言えた。
 しかし、この平凡な青年こそがハルケギニアの基礎を築いた偉大な男なのだ。声も以前始祖の首飾りから聞こえてきたものとまったく同じ。とてもそうは見えなくても、先ほどの戦いで見せた、人知を超えた虚無の力がなによりの証拠。だが始祖ブリミルといえば六千年も昔の人物だ、それがどうして今の時代に降臨なされたのか、ウェールズが畏れながらそれを尋ねると、ブリミルは複雑な表情をしつつ答えた。
「うーん、説明は難しいけど……一言で言えば、僕は時を越えてやってきたんだ」
「時を、でありますか?」
「そう、僕は昨日まで、今から六千年前の世界を旅していたんだ。けど、未来で子孫たちが大変なことになってるってお告げを受けてね。神様の奇跡でこの時代にやってきたってわけさ」
 これはブリミルがとっさに思いついた方便であった。聡明な彼は、本当のことを話すのはなにかと面倒だと判断し、奇跡という名目で、そのあたりのお茶を濁したのだった。要は、大切なところが伝わればいい。

435ウルトラ5番目の使い魔 53話 (3/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:59:13 ID:LzEFD1MA
「すると、あなたは我々の知っている始祖ブリミルとは……」
「察しが早くて助かるね。正確に言えば、僕は君たちが信仰してる始祖ブリミルであって、そうではない。君たちの知っている始祖ブリミルというのは、なにもかもを終えて亡くなった後のものだろう? 僕はまだ、このとおりの若造さ。君たちが子孫なのはなんとなくわかるけど、僕自身はまだ子供のひとりもいないよ」
 若かりしころの始祖ブリミル……ウェールズとアンリエッタは、目の前のブリミルが自分たちと同じくらいの年齢である理由がまたとんでもないことを知って驚いた。このブリミルは化身でもなければ幽霊でもない。生前の始祖ブリミル、ご本人なのだ。
 だが、まさかブリミルがこんな平凡な容姿の人間だったなどとは誰が想像しただろうか? ブリミルの素性に関してはロマリアが独占していたので、ハルケギニアの基礎を築いた偉大なメイジということ以外はほとんど知られておらず、その素顔についても、始祖の姿を偶像化することは不敬だということで、始祖像は意図的に形が崩されているために伝わっていない。地球で、ブッダがパンチパーマみたいな頭をしていたり、イエスが某有名ミュージシャンみたいな顔していたりみたいなイメージがあるのと違って何も無いのだ。
 これが素の始祖ブリミル……アンリエッタは、すがるように尋ねかけた。
「始祖ブリミルよ、どうか、お教えください」
「どう、とは、どういうことかな?」
「わたしたち、この時代の民は、ハルケギニアを築いたとされるあなたの教えを心のよりどころとして今日まで生きてきました。けれど、その教えを伝えてきた教皇は悪魔の使いで、わたしたちは何が真実なのかわからなくなってしまったのです。どうか、始祖ブリミルご本人の口からお教えください。我々は、いったいなにを信じればよいのでしょう?」
 それは、全ハルケギニア人の懇願の代表であった。教皇の作った幻影の魔法の効力はまだ残り、世界中の人々がこの場を注視している。
 崩れてしまったブリミル教の信頼。しかし人は心になんの支えも無く生きていけるほど強くは無い。何百万もの人々が答えを待ち望み、そしてブリミルは口を開いた。
「うーん……僕にはもう、君たちに教えることは残ってないと思うよ」
「えっ、それはどういう」
「君たちはもう、僕らの時代で夢見た世界を実現してくれている。僕らの時代、ハルケギニアには本当になにもなかった。それを、ここまで繁栄した世界にしてくれたんだ。感無量だよ」
「ですがわたくしたちは、まだあの教皇のような悪魔の甘言に乗り、愚かな戦争を繰り返す未熟な者たちです。正義と平和には、ほど遠い世界です」
「そうだね。けど、僕のような過去の人間から見れば、今のこの世界は夢のようなところだ。大切なのは、そこじゃないかな? 君たちは、今の世界で自分の信じるものを信じて、昔の人間から見たらすばらしいと思える世界を作った。つまりそれは、君たちのやってきたことが、全部ではないにせよ正しかったということだと思うよ」
 ブリミルの言葉を受けて、アンリエッタとウェールズの顔に少し赤みが差した。

436ウルトラ5番目の使い魔 53話 (4/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:01:12 ID:LzEFD1MA
「もし君たちのやってきたことが間違いなら、世界はとっくに滅んでいてもおかしくないだろう。でも、君たちは今こうして破滅を乗り越えている。それが証拠さ」
「しかし、我々の信じてきたブリミル教の教えは、悪魔の使いたちが広めていたものです」
「それでもさ。例え言い出したのが悪者でも、それで救われて、自分を不幸じゃないと思えるようになれる人がいるなら、それはいい教えだってことだよ。逆に、たとえ僕が言い出したことでも、それで迷惑してる人がいるなら、それは間違った教えだってことだ」
「教えは、誰が言い出すかは問題ではないということですか?」
「僕はそう思うよ。この世には、救う人もいれば救われる人もいる。たとえ救おうとする人に下心があっても、それで救われた人にとってはその人は神様さ。そうだね……ちょっとしたたとえ話をするけど、僕の率いているキャラバンに、小さな子供のいるお母さんがいるんだ。ある日、その子供がお母さんのためにと、ちょっとしたお手伝いをしたことがあった。その子は、お母さんに褒められたいという下心があったかもしれないけど、お母さんはとても喜んだ。だから僕は、その子供のやったことをとても尊いと思っているんだ」
 その言葉に、世界中で神父やシスターが泣いていた。
「教えはしょせん言葉さ。誰が言い出したものでも、正しく使えば人を救えるし、悪用すれば不幸にしてしまう。だから君たちは、無理に考えを変える必要なんてない。これまでに、よいと思ってきたことは続ければいいさ。今日より明日がよい日になるよう、努力し続けながらね」
 これで、ハルケギニア中のブリミル教の関係者たちが救われた。教皇が侵略者であったとしても、世界中のほとんどの神父やシスターは善意で働いていたのだ。ブリミル教の根幹が否定されて、彼らは絶望の淵にいたところを救われた。人のためになるのなら、今の教えを変えなくてもいい。彼らの存在意義は、消えなくてすんだのだ。
 だが、もうひとつ重大な疑問が残っている。
「我々も、子孫がよりよい世界を築けるよう努力します。ですが、我々は始祖のため、神のためとすでに争いを起こしてしまいました。同じ過ちを繰り返さないために、もうひとつお答えください。あなたは、その……そちらのご婦人とはどういうご関係なのですか?」
 非常に言いづらそうながらもアンリエッタが問いかけた先には、話を見守っていたサーシャがいた。
「ああ、僕の使い魔だよ。もっとも、使い魔らしいことはほとんどしてくれないけど」
「なによ、救世主らしくない救世主に言われたくないわね」
 むっとして、サーシャはブリミルの隣に並んだ。すると、平凡な容姿のブリミルに対して、美貌のサーシャの姿が映えて輝くように見えた。

437ウルトラ5番目の使い魔 53話 (5/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:05:37 ID:LzEFD1MA
 けれども、サーシャの長い耳は、ハルケギニアの人間が長年畏怖してきたエルフのものである。それが、どうして始祖ブリミルと……? その疑問に対して、ブリミルはアンリエッタたちにこう答えた。
「彼女は、使い魔であると同時に僕のパートナーでもある。僕らの時代に、世界はほとんど破壊されつくして、あらゆる種族はほんの一握りしか生き残れなかった。彼女も、エルフの数少ない生き残りのひとりなんだ」
「そんな……いったい、始祖の時代に何があったというのですか?」
「巨大な侵略さ。僕らの世界を、ある日突然正体不明の悪魔のような敵が襲ってきた。数え切れないほどの怪獣や怪物に蹂躙されて、僕らの築いた文明は一度完全に滅ぼされてしまった。僕らはその攻撃に耐えながら、なんとか世界の復興を目指して旅をしているんだ」
 そんなことが……そういえば、始祖の首飾りにあったメッセージでもそれを知らせていた。ヴァリヤーグと呼ばれる強大な勢力との戦い、人々はそれを思い出した。
 すると、サーシャが「見せたほうが早いわよ」と言うと、ブリミルは杖を振るって『イリュージョン』の魔法を使った。そうすると、空に六千年前のハルケギニアの世界が映し出された。
 
 以前に始祖の首飾りに残されていた『記録』の魔法が見せてくれたものと同じ、完全に滅亡した文明の光景。それは人々を再び戦慄に陥れた。
 だが、そこを旅する一行の姿が映し出されると、人々は別の驚きに目を奪われた。
 ブリミルの率いるキャラバン隊……それは、あらゆる種族が共に生きている姿だった。翼人もいればエルフもいる。獣人や、ほかの亜人、まったく見たことも無い生き物も含めて、むしろ人間のほうが少ないのではと思うくらいに、異種族が混ぜあって助け合いながら旅をしていたのだ。
 今のハルケギニアではとても考えられない姿。あらゆる種族が、始祖ブリミルとともに助け合って生きている。これが、六千年前の真実だというのか。
 
 ブリミルは杖を振って幻影を消すと、再びアンリエッタとウェールズを見た。
「僕は、君たちのこの時代では伝説扱いみたいだけど、僕自身は僕の仲間たちと平和な世界を取り戻したくて戦っているだけさ。だから僕が君たちに望むのはただひとつ、君たち子孫が平和な世界で仲良く生き続ける。それだけさ」
 それを聞いて、ウェールズやアンリエッタだけでなく、多くの人々が涙を流していた。
「も、申し訳ありません。始祖の時代には、すべての生き物が手を取り合い生きていたというのに、わたくしたちは何千年も人間以外はすべて敵だという歴史を歩んできてしまいました」
 アンリエッタは嗚咽を漏らしながら懺悔した。自分もエルフとの和解を求めて、サハラに使者を差し向けたりもしたが、それはヤプールの攻撃に対抗するためという理由があってのことだ。
 しかしブリミルは咎める様子も無く言った。
「気にすることは無いさ。親子や兄弟だって争うことはあるんだ、ましてや違う種族同士が共存するのは難しいのはわかってる。僕らのときは数十人でも、何千何万と多くなれば軋轢も増えるよね」
 ブリミルはすべてを才人から聞いて知っていた。未来が理想郷などではないことを。けれど、彼はそんな未来を否定してはいなかった。

438ウルトラ5番目の使い魔 53話 (6/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:06:29 ID:LzEFD1MA
「人間ってさ、できることよりできないことのほうが多いからこそ素晴らしいんだと僕は思う。誰かと仲良くしたいけどできないってのもそれさ。僕だって、サーシャはすぐ怒るし」
「九割方あんたが原因でしょうが」
 こつんとサーシャにこづかれて、ブリミルは照れたような表情を見せた。
「でもね、できないことがあるからこそ、できることを夢見れるし、できたときにそれを大切にできると思うんだ。今、人間と人間以外が分かれているとしても、だからこそ結ばれたときに強い絆が生まれるかもしれない。それはとてもうれしいことじゃないか」
「では、ではもう我々は、エルフとも誰とも、戦わなくてもよいのですか?」
「それは僕が決めることじゃあない。人間という種族だって善人がいれば悪人もいる。何より僕の子孫だって、君たちのような者もいればさっきの教皇のような連中だっているのは見てきただろう? 今のエルフがどういうものなのかは君たちが見て決めるんだ。それで、友とできるなら手を取り合えばいい。無理だと思うなら離れればいい。ただ、エルフと人間はそんなに遠いものじゃない。君たちは僕の子孫であると同時に、おそらくサーシャの子孫だ」
 えっ? と、ウェールズとアンリエッタだけでなく、話をじっと聞いていた人々も思った。
”自分たちが、エルフの子孫? 自分たちの中に、エルフの血が流れている?”
 すると、ブリミルとサーシャは少し恥ずかしそうに言った。
「まあ、正直に話すと、僕とサーシャはその……もう、付き合ってるんだ。実は」
「し、しょうがないじゃない。こんなマイペースで能天気な男、私が守ってあげなきゃどうなるかわかんないもの」
 それは単純に、若いカップルの姿そのものであった。
 だが考えてみれば当然のことだ。始祖ブリミルに子孫がいるということは、当たり前だが伴侶がいないといけない。ただ、それがまさかエルフだったとは、想像を絶していた。
「僕らだけじゃないさ。君らもさっき見たろ? 僕らのキャラバンでは、もう種族を超えた恋仲や夫婦はたくさんいる。遠い時間で、この時代では血が薄れてしまったかもしれないけど、種族そのものが変わりきるなんてことは早々ないよ。無理にとは言わないけど、勇気を持って手を差し伸べてみてほしい。それでダメなら別の誰かに握手を申し込めばいい。そうしてるうちに、いつか君の手を握り返してくれる誰かに巡りあえるだろう。少なくとも僕は、君たち子孫に無駄な血を流してもらいたいなんて思ってないよ」
「はい……始祖ブリミル、やはりあなたは偉大なお方です」
 感涙しているウェールズに、ブリミルは照れくさそうにするばかりだった。

439ウルトラ5番目の使い魔 53話 (7/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:08:20 ID:LzEFD1MA
「そうかしこまらないでくれよ。僕はむしろ、君たち子孫に大変な役目を押し付けてすまないと思ってる。でも、もしも壁を乗り越えられたときには、君たちの未来はもっと広く羽ばたけるはずさ。もしもくじけそうなときは、遠い昔にあった小さなキャラバンのことを思い出してくれれば、僕は満足だよ」
「お心に添えるよう、ハルケギニアの民を代表して約束します。今は無理かもしれない、百年後でも無理かもしれない。けれど、いつかハルケギニアに、いかなる種族であろうと手を取り合える理想郷を作り上げるために、努力を怠らないことを!」
 ウェールズの言葉に、人々のあいだからわっと歓声があがった。
 もうエルフとの戦争なんかしなくてもいい。意味の無い恐怖に怯える必要はないんだ。
 これからブリミル教の経典から、エルフを敵視する記述は削除されていくだろう。いや、教皇が消えた今、ブリミル教自体が大きな変換を余儀なくされていくに違いない。
 時代は変わる。その中で、人もものも変われなければ生き残ってはいけない。
 トリステイン、アルビオン、そしてロマリアも新たな息吹を得て生まれ変わる。しかし、まだそうはいけない国がある、ガリアだ。
「我々はこれから、いったい誰を王とあおげばいいのだろう?」
 ガリア軍は教皇をあおぎ、教皇の認定したジョゼフを王として戦ってきた。しかし教皇は敵で、ジョゼフの権威も同時になくなった。ガリアの将兵たちは君主を失い、どうしていいかわからなくなってしまったのだ。
 もうジョゼフを王とはあおげない。ならば他国に吸収されるしかないけれど、彼らにもガリア人としての誇りがあった。
 始祖ブリミルよ。我々はいったいどうしたら……? ガリア人の哀願する眼差しが向けられるが、ブリミルにもそれはどうしようもなかった。
 ところがである。竜騎士たちも全員地に降りてひざまずいているところへ、かなたの空から一頭の竜がすごい速さでこちらへ近づいてくる羽音が聞こえてきたのだ。
「風竜? こんなときに一体誰だ?」
「まさか、始祖に仇なさんと無能王が送り込んできた刺客では」
 場が騒然となり始める。しかし、飛んでくる竜の姿が鮮明になってくると、アンリエッタははっとして迎撃態勢に入っていた者たちに命じた。
「待ちなさい! あれは敵ではありません。どうやらこちらに降りてくるようです。そのままで、手を出してはいけません」
 メイジたちが杖を下ろすと、こちらに撃ち落す意思がないことを確認したのか、竜はまっすぐに彼らのいる城壁の上へと降りてきた。
 それはアンリエッタの思い出したとおり、青い風竜シルフィード。その背からはキュルケと、アンリエッタも行方を心配していた青い髪の少女が降りてきたのだ。

440ウルトラ5番目の使い魔 53話 (8/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:11:24 ID:LzEFD1MA
「ミス・タバサ。いえ、ミス・シャルロット殿、あなたもご無事でしたか」
「アンリエッタ女王陛下、お久しぶりです。わたしも、つい先ほどハルケギニアに舞い戻ってきました。事情は理解しています、失礼ながら話は後で」
 タバサはアンリエッタに対して、彼女らしからぬほどの早口であいさつを済ませると、ブリミルのもとにひざまづいた。
「始祖ブリミル、お初にお目にかかります。わたしは……」
「いいよ、僕に気を使わなくても。君は君の役割があって来たんだろう? 僕の権威が役に立つなら好きにしなさい。今のうちだよ」
 後半部分を小声で告げたブリミルに、タバサは思わずびくりとした。やはりこの人はただのお人よしではない、自分と同様に、数多くの修羅場をくぐってきた洞察力を持っている。
 しかし、味方だ。タバサは後ろめたさを感じながらも、ブリミルの言葉に全面的に甘えさせてもらうことを決めた。自分には似つかわしくない仕事かもしれないが、父と母の愛した祖国であるガリアを滅亡から救えるのは自分しかいないのだ。
「ここに集まったガリアの民よ、わたしの話を聞いて欲しい」
 城壁の上からタバサはガリア軍に呼びかけた。すると、ガリア軍の視線がタバサに集まる。今のタバサはこの世界に戻ってきたときのXIGの制服ではなく、ベアトリスに貸してもらった社交用のドレスを身にまとっている。急いでいたが、幸いサイズが近くて助かった。
 その身をさらしたタバサの姿を、ガリアの将兵たちはまじまじと見つめた。
 
”誰だ? あれは”
”可憐な令嬢だ。どこぞの姫君か? いや、まてよ、あの青い髪は……まさか!”
”思い出した! あのお顔、若かりしころのオルレアン夫人とそっくりだ”
”いいや、俺はヴィルサルテイル宮殿で何度も見た。イザベラ様から口止めされていたが、あのお方は”
 
 ざわざわと、ガリアの将兵たちに動揺が広がっていく。
 そしてその波がある一点に達したところで、タバサは意を決して口を開いた。
「わたしは、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。現ガリア王ジョゼフ一世の弟、故シャルル大公の一子です」
 どよめきが驚愕に変わり、その機を逃さずにタバサは一気に畳み掛けた。

441ウルトラ5番目の使い魔 53話 (9/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:12:34 ID:LzEFD1MA
「わたしは今日までジョゼフの手により幽閉されていましたが、心ある人々の手で解放されてここに来ました。そして今ここで、始祖の命を受けてわたしは宣言します。ガリア王国を凶王の手から解放し、正当なる持ち主の手に取り返すことを」
 地を揺るがすほどの歓呼の叫びがガリア軍からあげられた。
 故・オルレアン公の子女がまだ生きていた! かつて神童と呼ばれたオルレアン公の名声を覚えていない者はガリアにはいない。先王が亡くなった時に、オルレアン公が跡継ぎになればと願ったのはガリア国民のほとんどであったろう。しかしオルレアン公は不慮の死を遂げられ、あの無能王ジョゼフの治世になってしまった。
 だが、神はガリアを見捨ててはいなかった。オルレアン公の子ならば、きっとガリアを正しい方向に導いてくださるに違いない。シャルロット姫万歳という叫びが次々とあがる。
 けれども、タバサはその歓呼のうねりを冷めた目で見ていた。我ながらなんとらしくない台詞を言っているのだろうとという気恥ずかしさもあるが、これはガリア王国が本当にギリギリまで追い込まれてしまっているという証拠の光景でもあるのだ。もし誰かがまとめなければ、ジョゼフに従わないガリアの貴族や軍人は互いに主導権を争って分裂し、ガリア王国はいくつかの小国に分裂した後に周辺国に吸収されて消滅するのはタバサなら容易に予想できた。
 だからこそ、不本意でもやるしかない。イザベラがいない今、ガリアの正当な血統を主張できるのは自分のほかにいない。
「ガリアの民たちよ。これまでの理不尽な仕打ちに耐えて、よく今日まで生き残ってくれました。申し訳ありませんが、もう少しの辛抱をお願いします。ですがこれよりは、わたしがあなた方と苦難を分かち合います。そして遠からぬ日に、平和なガリアを取り戻しましょう」
 ガリアの将兵たちは涙を流しながら喜びに打ち震えた。いまやタバサの姿は彼らには女王そのものに見え、その凛々しい姿を街の一角からジルも頼もしそうに見ていた。
 もちろん、タバサの姿はイリュージョンのビジョンを通して世界中、むろんガリアにも映し出されており、グラン・トロワではジョゼフがシェフィールドを前に呵呵大笑していた。
「シャルロットめ、やはり生きておったか。まったく、なんという強運、いやなんという才能か。シャルルよ、見ているか? お前の娘はすごいぞ。俺の姑息な策略で始末するのはやはり無理だったようだ。そして今、すべての運命が俺に死ねと言って迫ってきているようだ。その上無い愉快だと思わんか、なあミューズよ」
「はい、ジョゼフ様。これは聖戦などよりも、よほど楽しみがいのあるゲームになってきたようですわね。それだけでも、教皇と組んだのは正解だったでありましょう」
「まったくだ。この世は俺などの乏しい想像力では計りしれん理不尽で満ちている。さあミューズよ、シャルロットのために舞台を整えようではないか。次が正真正銘、俺とシャルロットの最後のゲームになることだろう」
「はい、御心のままに」
 シャルロットが来る。亡き弟の忘れ形見が、かつてない力で自分の首を取りに来る。素晴らしい、さあいつでも来るがいい。俺は逃げも隠れもしない。俺とお前の死、どちらでもいい。すべてを失ったその先に、俺の欲するあれを見せてくれ。
 ジョゼフの形無き挑戦状。タバサはここに立ったときから、それを受ける決意を固めていた。
 どのみち遅かれ早かれ、あの男とは決着をつけねばならないのだ。父の仇を取るためにも、もうこれ以上、ガリア王家のために運命を狂わされる人を作ってはいけないためにも。
 そのためには何でもしてやる。タバサは、アンリエッタとウェールズに向かい合うと、軽くだが頭を垂れて言った。

442ウルトラ5番目の使い魔 53話 (10/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:17:01 ID:LzEFD1MA
「お聞きのとおりです。ウェールズ国王陛下、アンリエッタ女王陛下。わたくしはガリア王家の正統後継者として、ガリア王国を凶王より奪還する使命を負いました。つきましては、両陛下にお願いしたきことが」
「わかっている。ガリア王国に秩序と平和を取り戻すためならば、我らは協力を惜しむものではない。ただし」
「援助は、資金および食料医薬品などの物資に限っておこないます。兵力、武器の提供は一切いたしません。それでよろしいですね?」
「アルビオンとトリステインの友情に、ガリア国民を代表して感謝いたします」
 三人とも、国政に触れたことのある身ならばわかっていた。ハルケギニアの安定のためにガリア王国の奪還が急務だとしても、ガリアの内戦に他国が直接的に介入しては後に遺恨を残すであろう。もしトリステインやアルビオン軍がガリアに入れば、抜け目ないゲルマニアが干渉してきて戦後の政治的にもガリアが不利になる。ガリアはなんとしてでも、ガリア人のみの手で奪還しなくてはならない。
 それでも、トリステインとアルビオンの後ろ盾が得られるのはありがたい。あのジョゼフに対して、正攻法の戦力がどれほどあてになるのかはわからないが、少なくとも将兵や国民たちの安心感は増すだろう。
 もちろん、トリステインとアルビオンにとってもガリアが安定して友好国になるのは望ましいことだ。ここに、暫定的、簡易的ながらも三国の同盟が結ばれ、アンリエッタ、ウェールズ、タバサの三者が手を取り合うと、今度はトリスタニア中から歓声があがった。
 人々は戦争の終結と、新たな秩序の到来の予感に沸き、希望という光が世に満ち満ちていく。
 そして、それを見届けると、ブリミルはサーシャを促して、三人の王族に告げた。
「さて、それじゃ僕の役目もこれまでのようだね。そろそろ僕らは、ここらでお暇することにするよ」
「えっ? お、お待ちください始祖ブリミル! わたしたちは、まだあなたはお教えいただきたいことがあるのです」
「僕が全部言って、君たちはそれを守るだけで、君たちはそれを子孫に誇れるのかい? 僕らはしょせん、大昔の人間さ。この時代の行く先は、この時代の君たちが考えて作るんだ。わかるだろ?」
 ブリミルが杖を振ると、彼の前に光る鏡のようなゲートが現れた。始祖の奇跡はここまで……三人はそれを認め、ひざまずいて最上級の礼をとると、ウェールズが代表して最後のあいさつをした。
「わかりました。始祖ブリミル、わたしたちは、あなたの残してくださったハルケギニアを、未来永劫守り続けていくことを誓います」
「がんばってくれよ、子孫たち。まあ僕は、人を傷つけたり、奪ったり、騙したり、そうした悪いことはしないで生きてくれれば大体なにやっても気にしないよ。じゃあね、僕らは過去でがんばるからさ」
「こいつの面倒は私たちでちゃんと見るから気にしなくていいわよ。それじゃ、期待してるからね。さよならっ」
 ブリミルとサーシャが鏡をくぐると、鏡はすっと消えうせて、あとには三人の王族のみが残された。
 まるですべてが長い夢であったかのようだ。だが、夢ではない。その証拠に、今の彼らは白い陽光をその全身に受け、誰と争う必要もない平和の穏やかさの中に包まれている。

443ウルトラ5番目の使い魔 53話 (11/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:18:54 ID:LzEFD1MA
 そう、目を開けたまま見る夢。長い悪夢がようやく終結したのだ。もはや太陽をさえぎるものはなにもなく、冷え切っていたハルケギニアに暖かさが帰ってきた。
 しかし、これはエピローグではない。むしろプロローグなのだ。アンリエッタは立ち上がると、空で消えかけているイリュージョンのビジョンにも届くように、あらん限りの声で叫んだ。
 
「トリステインの、アルビオンの、ゲルマニアの、ガリアの、ロマリアの、ハルケギニアのすべての人々に告げます。長く続いた偽りの夜は、今ここに終わりました。我らの頭上に、再び朝が帰ってきたのです。ですが、これは終わりではありません。偽のブリミル教によって狂わされた流れを正し、本当の始祖の御心に答えられる世界を作り上げるための戦いがこれから始まるのです。恐れることはありません。始祖は道を示してくれました。しかし道を歩まねばならないのは我々です。全世界の皆さん、皆で歩きましょう、共に汗を流し、苦労しましょう。六千年前に無人の荒野を歩んだ始祖ブリミルに習い、始祖の夢見た恐怖と破壊なき世界を、わたくしたちの子孫に残すための旅路を始めようではありませんか!」
 
 全世界からどっと歓声があがった。心ある者たちは始祖に感謝し、その御心に応えることを誓った。
 だが、その道筋はたいへんに険しい。教皇を失ったロマリアでは大混乱が起こるだろうし、これまで富を独占してきた神官たちも無事ではすまないだろう。
 世界中でもブリミル教の教義の切り替えで論争が起こるであろうし、信者たちに作り直した教義を納得させるのも大変だ。
 しかし、困難が待っているからといって何もしないのでは永遠に迷いから抜け出すことはできない。どんな不幸のどん底でも、自分で自分を助けようとあがきもしない人間は、芽を出さない種に水をやる人がいないように誰からも見放されていく。世界は、優しくはあっても甘くはないのだ。
 
 アンリエッタに続いてウェールズとタバサからも戦争の終結と未来への抱負が宣言され、続いてガリアとロマリア軍の武装解除が指示された。
「平民は剣を、メイジは氏名明記の上で杖を提出してください。帰国までの期間、トリステインが責任を持って預かります」
 戦争は終わったが、武器を持った人間はそれだけで脅威となる。今日までの戦争で互いに恨みつらみが重なってもいるので、面倒だがこれは必要な処置だった。
 ガリアとロマリアの将軍たちに命令されて、兵たちは続々と装備を捨てていった。始祖の威光がじゅうぶんに効いているので、秩序は保たれて混乱はほとんどない。メイジの命とも言える杖を手放すことについても、食料の配給券と引き換えであるので、ほぼ全員が素直に従った。
 この他にも、細かな指示はいろいろあるが、落ち着いたらロマリア軍は順次帰国、ガリア軍はトリステインの管理下に置かれつつ、いずれ起こるガリア奪還までの間、奉仕活動をしつつ再編に励むことになるだろう。
 平和の足音は聞こえてきた。しかしまだドアの先までやってきただけで、もてなしの準備を怠ればノックすることなく去っていってしまうだろう。

444ウルトラ5番目の使い魔 53話 (12/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:21:14 ID:LzEFD1MA
 本当に、すべてはこれからだ。我々が努力すれば、始祖はきっと見守っていてくださる。逆に努力を怠り愚行を繰り返せば、ゼブブが言い残したように破滅招来体によって今度こそハルケギニアは滅亡させられてしまうだろう。
 
 
 偉大なる聖人、始祖ブリミルへの信仰は消えるどころか強まってハルケギニアに広まっていった。
 六千年前の過去へと帰られた始祖ブリミルに誓って……と思われた始祖ブリミルだったが……実は、まだ帰っていなかった。
 あれからざっと半日後。ブリミルとサーシャは王宮の一室で夕食のもてなしを受けていた。
「うまいうまいうまい、こんなご馳走何年ぶりだろう。ああ、もう手が止まらない。涙が出てきたよ」
「ちょっと、もっと品よく食べなさいよ。私まで恥ずかしくなるじゃない。あ、おかわりお願いね、もう面倒だから鍋ごと持ってきてーっ」
「あ、あの。料理はまだありますから、どうか落ち着いて落ち着いて」
 普段は王族の食事で使われるホールで、ブリミルとサーシャは大量の料理をかきこんでいた。
 あっという間に、テーブルいっぱいの料理の皿が次々と空になっていく。その傍らでは、アンリエッタがルイズといっしょにそれをなかば呆然と見守っていた。
「す、すごい食欲ですわね。あのルイズ、ものすごく不敬に当たるとは思うのですが、あの方々はわたくしたちのご先祖様で間違いないのですよね?」
「は、はあ……なんとなくそんな感じはするんですけれども。自信なくなってきました」
 ふたりとも、始祖ブリミルが自分たちのイメージする聖人の形とはかなり懸け離れた人物なのは飲み込んだつもりでいたが、やっぱり身近でまじまじと見ると信仰が揺らぎそうになるのを感じていた。
 なお、食客はこの二人だけではない。
「てかサイト! あんたもいっしょになっていつまでバクバク食べてるのよ」
「モグモグ……仕方ねえだろ。あっちの時代じゃまともな料理なんて滅多に手に入らねえんだから、食えるときに食いだめする習慣がついちまってるんだよ」
 もう何ヶ月もいっしょにいたせいで才人もすっかりブリミルたちと同じ習慣に染まってしまっていた。行儀が悪いとは思っても、六千年前では本当にわずかな食料も無駄にできなかったし、食べ物を残すなどはもってのほかであったのだ。
 戦中の城であったので、あまり豪勢にとはいかなかったものの、それでも三人で十人前くらいはたいらげてやっと食事は終わった。
「ふぅ、食べた食べた。満腹で苦しいなんて、ほんともう何年ぶりかなあ。こんないい時代に連れてきてくれて、サイトくんには感謝しなくちゃねえ」
「なに言ってるんですか? てっきり帰ったのかと思ったら、物影から出てきて「サイトくん、ちょっとちょっと」って声かけられたときはびっくりしたぜ。そんで「おなかすいた」だもん。みんなに説明したおれの身にもなってくれよ」
 才人が、苦労したんだからなとばかりに肩をすくめると、ブリミルもすまなそうに頭をかいた。

445ウルトラ5番目の使い魔 53話 (13/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:22:40 ID:LzEFD1MA
「いやあごめんごめん。でもいくら僕でもタイムスリップする魔法なんかないもの。でもあの場にい続けたら確実に面倒なことになるじゃないか。なんとかいい具合で場をまとめた僕の努力も評価してくれよ」
 実は、あのときブリミルとサーシャが消えたのは小型の『世界扉』で、ふたりは城壁の上から街の路地に移動しただけだったのだ。
 タイムスリップしてきたのは、あくまで未来怪獣アラドスの力で、ふたりが帰るにはやはりアラドスに乗っていくしかない。そのアラドスはまだ眠り続けており、ブリミルはサーシャに目覚めるまであとどのくらいかかるのかを尋ねた。
「そうね、生命力の回復のきざしは見えるから、あの大きさの個体だと、あと半日から……遅くても一日くらいだと思うわ」
「よかった、そのくらいで済むのか……帰れなかったらさすがにまずいもんね」
 ブリミルはほっと胸をなでおろした。あっちの時代には多くの仲間を残している。万一戻れなかったり戻るのが遅れたらえらいことになるところだった。
 
 しかし、ということは最低あと半日はこちらの時代にいなければいけないということになる。ならばと、ルイズたちはこれまで謎に包まれてきた数々の事柄をブリミルに直接正していくことに決めた。
 
「ううん、あまり話したいことではないんだけどなあ。どうしても言わなきゃだめかい?」
「だめです。始祖ブリミル、この時代で起きている異変のほとんどはあなたの時代に端を発しているんです。聖地もヤプールに制圧されて久しいし、あなたが本当に子孫のことを思うのであれば、帰る前に洗いざらい説明していってください」
 ルイズに強い剣幕で押し捲られて、ブリミルはすごく困った様子であった。
 六千年前に、ブリミルが文明崩壊以前になにをしていたのか、何ヶ月もいっしょにいた才人にさえブリミルは何も語ってはくれなかった。それほどまでに語るのははばかられることなのだろうが、ルイズもここで引くわけにはいかなかった。
 聖地、虚無、あらゆる謎の答えを知っている人がここにいる。こんな機会は、逃したら絶対に二度とやってこない。
 そしてブリミルは、悩んだ末にサーシャに了解をとって、一度大きく深呼吸をするとルイズたちに答えた。
「わかった。すべてを話そう。ただ、本当におおっぴらにしては欲しくない話なんだ。聞くのは、本当に重要な人だけにしてほしい」
「わかりました。わたしたちの、信頼できる人だけを集めます。女王陛下、人払いの徹底をお願いします」
 アンリエッタはうなづき、すぐさまアニエスに命じるために室外に出て行き、ホールにはブリミルとサーシャ、才人とルイズだけが残った。

446ウルトラ5番目の使い魔 53話 (14/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:28:34 ID:LzEFD1MA
 ブリミルは決断したものの、思い出したくない過去に悩んでいるようにじっと考え込んでいる。いったいどれほどのことが彼らの過去にあったのだろう? 才人とルイズは、これから聞くことがもしかしたら「聞かなければよかった」と思うことになるかもという予感に背筋を寒くした。
 
 そして一時間後、ホールにはブリミルとサーシャの前に、才人とルイズ、アンリエッタとウェールズにタバサ。それからカリーヌ、アニエス、ミシェル、キュルケ、ティファニア、最後にエレオノールとルクシャナが固唾を呑んで立っていた。
「これはまた、けっこう大勢集まったねえ」
「すみません、これでも絞ったほうなんですが。でも、みんな口の硬さは保障します」
 やれやれと、ブリミルはため息をついた。しかし秘密厳守は徹底していて、盗聴がないように室内は調べ上げたし、入り口はアニエスとミシェルが神経を張って立っている。むろん室外も、銃士隊と魔法衛士隊が蟻の這い出る隙間もないほど固めていた。
 集まった者たちは皆、一様に緊張している。才人やルイズとの再会の喜びも冷めやらぬ間に、始祖から重大な秘密が語られようとしているのだ。
 長い間謎だった伝説が、ここに。ブリミルは集まった面々を見回すと、最後にサーシャに目をやって訪ねた。
「じゃあ、話すけどいいかな?」
「いいわ、私もサイトに未来のことを聞いたときから、いつかこの時が来るんじゃないかと思ってたの。話して、すべての始まりになった、あなたたちの一族の悲劇を」
「わかった」
 ブリミルは短く答えると、椅子から立ち上がり、その口を開いて語り始めた。
「要点から最初に話しておこう。僕は、いや僕の一族は、元々この星に住んでいた種族ではないんだ」
 
 えっ……?
 
 場を冷たい空気が包んだ。どういう、意味だ? という色が皆の顔に次々と現れ、ブリミルは沈痛な面持ちでゆっくりと続きを語っていった。
「僕は君たちに謝らなきゃいけない。とても贖罪になるようなことではないが、すべてを話すよ。僕らの一族が犯した罪と、その顛末を。なにもかもは、この時代から六千年前に、この時代では聖地と呼んでいる場所から始まった。ある日、聖地に流れ着いた一隻の船、そこに乗っていたのが僕と僕の一族、マギ族だったんだ」
 
 ブリミルの昔語り……それは、ひとつの星ならず、宇宙全体をも揺るがす大厄災のプロローグであった。
 すべては六千年前に、ほんの数千人くらいでしかないある種族が犯した罪から始まる。
 物語の暗部、伏線、裏……隠され、忘れられてきた歴史が蘇る。閉ざされた部屋の中で、灯りの炎が揺らめいて、静かにゆっくりと燃え続けていた。
 
 
 続く

447ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:31:04 ID:LzEFD1MA
決戦すんで、今回はまとめの回となりました。
自分はあまり宗教には詳しくはないのですが、なんとかまとめたので納得していただるとうれしいです。
しかし今回はネタ仕込むすきまがほとんどなかったです。まあ真面目な話ですから、ね。

では、次回は大きく伏線回収いきます。
本年度も、完結目指して頑張ります。よろしくおねがいいたします。

448名無しさん:2017/01/15(日) 00:47:57 ID:Vgintyy.
ウルトラ乙。
ここまで凄い長かったですね。そろそろ第3部も終わりでしょうか?
ところで、アスカどこ行ったんだ?

449名無しさん:2017/01/15(日) 17:25:50 ID:Meedbyhc
おつ

450ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:10:18 ID:ztVJl3Jg
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下をさせていただきます。
開始は23:14からで。

451ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:14:11 ID:ztVJl3Jg
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十三話「二冊目『わたしは地球人』(その3)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場

 精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅に出た才人とゼロ。二冊目は地球防衛軍が
暴走してしまっているウルトラセブンの世界。その世界は現行地球人と地球原人ノンマルトの
対立の真っ最中であった。今の地球人が外宇宙からの侵略者の子孫だという証拠であるオメガ
ファイルの開示を迫り、ノンマルトは怪獣軍団を差し向けてくる。セブンは地球人の手で真実を
明らかにし、今の地球人が地球に留まれる権利を与えるべく行動する。ゼロは彼の助けになる
べく、それまでの時間稼ぎのために怪獣たちに立ち向かう。果たしてこの世界の明日はどの方向へ
向かうのであろうか。

「キイイイイイイイイ!」
 ゼロを取り囲む五体の怪獣がいよいよ攻撃を開始してきた。一番手のエレキングが口から
楔状の放電光線を、ゼロの足元を狙って撃ってくる。
『おっと!』
 飛びすさってかわしたゼロに向かって、ダンカンが前のめりに飛び出してきた。
「ギャ――――――ア!」
 そのまま丸まって転がりながらゼロに突進していく。
 しかしゼロはダンカンが迫った瞬間に振り返ってがっしりと受け止めた。
『そんな手は食らうかッ!』
 遠くへ投げ飛ばして地面に叩きつけようとするも、そこにサルファスが硫黄ガスを噴出する。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
『うわッ!』
 高熱のガスを顔面に浴びせられて視界をふさがれたダンカンを手放してしまった。更に
バンデラスの全身がまばゆく発光し、強力な熱波を繰り出す。
「ウアアアア―――――ッ!」
『ぐッ!』
 高熱攻撃の連続にうめくゼロだが、これを耐えてビームゼロスパイクで反撃。
『せいッ!』
「ウオオォッ!」
 食らったバンデラスが麻痺して熱波が途切れた。今の内に反撃に転じようとしたゼロであったが、
「グオオォォォ!」
 ボラジョが高速できりもみ回転して砂嵐を発生させ、それをぶつけてきたのだ。
『くぅッ!』
 足を踏み出しかけたところに砂嵐に襲われ、踏みとどまるゼロ。が、砂嵐が収まった瞬間に
ボラジョの蔦とエレキングの尻尾が伸びてきて、己の身体に巻きつく。
「グオオォォォ!」
「キイイイイイイイイ!」
 二体の怪獣は拘束したゼロに高圧電流を食らわせる。
『ぐああぁぁッ!』
 二体がかりの攻撃にさすがに苦しむゼロ。更にバンデラスの胸部に並んでいる球体から
撃たれる怪光線も浴びせられる。
『ぐううぅぅぅッ……! さすがに苦しいぜ……!』
 五体の怪獣を同時に相手取るのはやはり、ゼロにとっても厳しい戦いだ。しかも怪獣たちは
ノンマルトの現地球人に対する積年の恨みが乗り移っているかのように猛っている。その勢いは、
簡単に抑えられるようなものではない。
 ゼロが手を焼いている一方で、ウインダムとミクラスもまたザバンギを相手にひどく苦戦を
していた。

452ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:16:34 ID:ztVJl3Jg
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 カプセル怪獣たちは同時にザバンギに激突していくものの、ザバンギの規格外の怪力の前に
弾き飛ばされてしまった。ザバンギはオーソドックスなタイプの怪獣であるが、ノンマルトの
守護神と称されるだけあって、その力の水準は通常の怪獣を大きく上回っているのであった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ザバンギは倒れ伏したウインダムを、無情にも踏み潰そうと足を振り上げる。
「シェアッ!」
 だがその時に飛んできたゼロスラッガーがザバンギの身体を斬りつけた!
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ダメージを負ったザバンギは後ずさり、ウインダムから離れた。その間にウインダムと
ミクラスは体勢を立て直す。
 今のスラッガーはもちろんゼロが放ったものだ。彼はボラジョとエレキングに捕まりながらも、
カプセル怪獣たちを助けるために力を振り絞ったのだ。
 そしてゼロの力はまだそんなものではない!
『あいつらが頑張ってるんだ! 俺がこんくらいで根を上げてちゃいられねぇぜッ!』
 拘束されたままストロングコロナゼロに変身すると、跳ね上がった筋力により蔦と尻尾を
振り払った。
「セェアァァッ!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウアアアアァァァッ!」
 自由になったゼロにすかさずサルファスとバンデラスが硫黄ガスと怪光線を放ってきたが、
ゼロはその身一つで攻撃を受け止めた。
『どぉッ!』
 そして片足を地面に振り下ろすと、凄まじい震動が起こって周囲の怪獣たちのバランスを
崩した。戦いの流れを変えることに成功した!
「ギャ――――――ア!」
 ダンカンが転がりながら突進してきたが、ゼロはカウンターとして燃え上がる鉄拳で迎え撃つ。
『せぇぇあああぁぁぁぁぁッ!』
 燃える拳がダンカンを一発で破裂させ、遂に怪獣軍団の一角を崩したのであった。
『よしッ!』
 ぐっと手を握り締めるゼロだが、その時に超感覚で防衛軍秘密施設の地下に潜行していった
セブンの様子をキャッチした。
 ゼロたちが戦っている間、セブンはオメガファイルの真実を確かめるため、棺が封印されている
最奥のシェルターに近づいていたのだが……その前に、最後まで抵抗するカジ参謀が兵士の一団を
引き連れてセブンの前に立ちはだかったのだ。
 地球防衛にこだわりすぎて、あくまで強硬姿勢を崩さないカジは、兵士たちに攻撃命令を
下したのだ。
「目標は、ウルトラセブン!」
 地球人から放たれる銃弾が、セブンに浴びせられる――。
『ぐッ……!』
 それを感じて、ゼロは己が撃たれているかのように胸を痛めた。
 超人たるウルトラ戦士にとって、地球人の携行火器など豆鉄砲にも劣る威力。……だが、
あれほど地球人を愛し、命を燃やして戦い抜いてきたセブンが、その地球人から攻撃される
という事実……本人の心はどれほど痛いのだろうか。想像が及ばないほどであろう。
 しかしゼロはセブンを信じ、セブンが信じる地球人の心を信じ、戦いに集中する。
『はぁぁぁぁぁぁッ!』
「グオオォォォ!」
 ボラジョがまたも砂嵐を発してきたが、ゼロは力ずくでそれを突破。ボラジョに飛びかかって
鷲掴みすると、無理矢理地面から引っこ抜く。

453ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:19:13 ID:ztVJl3Jg
『ウルトラハリケーンッ!』
 竜巻の勢いでボラジョを頭上高くに投げ飛ばし、右腕を突き上げる。
『ガルネイトバスターッ!!』
 灼熱の光線がボラジョを撃ち、空中で爆散させた。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
 体当たりしてきたサルファスをいなし、ブレスレットからウルトラゼロランスを出す。
『どおおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 それをストロングコロナの超パワーで、サルファスに投擲した!
 ランスは頑強な表皮を貫いてサルファスを串刺しにし、痙攣したサルファスの眼から光が
消えて爆散した。
「キイイイイイイイイ!」
「ウオオオオオ―――――!」
 エレキングの尻尾の振り回しをかわしたゼロだが、バンデラスの念力に捕まって宙吊りにされる。
『はぁッ! ルナミラクルゼロ!』
 しかしゼロはルナミラクルになってこちらも念力を発し、バンデラスの力を打ち消して
自由になった。そして振り返りざまにエレキングへゼロスラッガーを投げつける。
『ミラクルゼロスラッガー!』
 分裂したスラッガーがエレキングの角、首、胴体、尻尾を瞬く間に切り裂き、エレキングも
たちまち爆裂する。
 五体の内、最後に残ったのはバンデラス。ゼロは戻したスラッガーを手に握り締めると、
地を蹴って宙を飛行していく。
『はぁぁぁぁぁッ!』
 そうしてスラッガーを構えて高速でバンデラスに突撃する。
「セアァッ!」
 すれ違いざまに目に留まらぬ速度でスラッガーを振るい、バンデラスは全身が切り刻まれた。
更に着地したゼロが振り向くと同時にバリアビームを浴びせて、バンデラスを覆う。
 内に秘めた太陽のエネルギーに引火し、凄絶な大爆発を起こしたバンデラスだったが、
覆われたバリアが衝撃を封じて被害は外に拡散しなかった。
『残るはあいつだ!』
 五体の怪獣を撃破したゼロはすぐに駆け出し、ウインダムとミクラスの救援に回ってザバンギの
前に立ちはだかった。
「シェアッ!」
 左右の手のスラッガーを上段、中段に構えてザバンギを威嚇するゼロ。ウインダムとミクラスも
うなり声を発して、それに加勢した。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 さしものザバンギも足を止めて警戒していたが、この時にゼロの意識にノンマルトからの
テレパシーの声が響いたのだった。
『そこまでだ! 真実は白日の下に晒された。正義は我々にある! これ以上の戦いは、
宇宙正義に背くものとなるぞ!』
「!!」
 振り向くと、ウルトラセブン……モロボシ・ダンが地上に戻ってきていた。彼はウインダムと
ミクラスをカプセルに戻す。
「ミクラス、ウインダム! 戻れ!」
 同時にザバンギも活動を止め、ダラリを腕と尻尾を垂らした。これを見てゼロも、一旦変身を解く。
「ジュワッ!」
 才人の姿に戻ってゼロアイを外し、ダンの元へと駆けていく。
「セブン! オメガファイルの真実を確かめたんですね」
「ああ……疑いようのない人の口からね」
 オメガファイルの棺の中身は……フルハシ参謀であった。ヴァルキューレ星人事件の際に
殉職したかに思えたフルハシだったが、彼を最も信頼できる証人として選んだノンマルトに
よって、タキオン粒子に乗せられた情報体となって数万年前の地球に送られてそこで再生
されたのであった。

454ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:22:14 ID:ztVJl3Jg
 そしてフルハシは見届けた。かつて地上に栄えていたノンマルトを宇宙からの侵略者が
追いやり、その侵略者が徹底的に原住民族に扮して地球人として成り代わったのを。今の
地球人は、確かに侵略者の子孫だったのだ。
 真実を知った二人の前に、ノンマルトの女が現れる。
「分かったか! 地球人は、侵略者だった。この地球は我々のものだ!」
 そう主張するノンマルトに、ダンは訴えかけた。
「聞いてほしい! この星には、既に百億の民が住んでいる。彼らに、かつての君たちと
同じ悲しみを味わわせたくない!」
 しかしノンマルトはダンの訴えを聞き入れようとはしなかった。
「セブン。地球人に味方をすることは、宇宙の掟を破ることになる。それがどういう結果に
なるか、君なら知っているはずだ」
 そう告げられても、ダンはあきらめずに説得し続ける。
「彼らを、許してやってほしい。彼らは悔い改め、今宇宙に向かって、真実を発信し始めた!」
 地球人のために戦っているのは、ゼロやセブンだけではない。ウルトラ警備隊もまた、
上層部を説得してオメガファイルの情報を宇宙へ発信し、真実を受け入れて地球人を救う
行動を取っているのだ。
 だが、ノンマルトの回答は、
「それは出来ない! 故郷に戻ること、それは、我々に認められた権利だ!」
 頑ななノンマルトに、ゼロも説得に乗り出した。
「ともにこの星で生きていけばいいじゃないか! 地球人にも過ちを認め、平和を愛する
心がある。どっちかが星を去るとかじゃなく、同じ文明人として同じ土地で共存していく
ことは十分に出来る!」
 しかしそれでも、ノンマルトの姿勢に変化はない。
「滅びてしまった仲間たちは、もう蘇らない。彼らの無念を忘れ、地球人との共存など出来ない!」
「過去に囚われて何になる! 仲間の遺志を受け継ぐことも大切だ。けど恨みを継いでも、
何も得るものはない。虚しいだけだ! 本当に大切なのは、今を生きる人間がどうしていくか
だろうが!」
 精一杯の感情を込めて説くゼロであったが、ノンマルトは、
「我らが守護神によって、発信装置を壊す! そうすれば、地球人がオメガファイルを解放した
証拠は残らない!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ノンマルトの言葉を合図とするように、ザバンギが再び動き始めた。その足が向けられる先は、
オメガファイルの情報を宇宙に発信しているパラボラ塔。
「やめろッ! それはもう正義じゃねぇ!」
「ああそうだ。復讐のための復讐は、宇宙の掟も許してはいない!」
 ゼロとセブンでノンマルトに考え直すよう呼びかけたが、やはりノンマルトは翻意する
ことがなかった。
「たとえ復讐であろうとも、我々は散った仲間の無念を、あの日の侵略者の子孫に思い知らせるのだッ!」
 暗い情念に染まり切ったノンマルトの瞳を覗き見て、ゼロは理解した。ノンマルトは既に、
『人間』ではなくなっている。故郷を追い立てられ、滅ぼされた憎悪に取り憑かれた『怨霊』と
化してしまっているのだ。こうなってはどんな言葉が投げかけられようとも、どれだけの血を
吐こうとも、復讐の足取りを止めることはないだろう。
 地球人を救うには、ザバンギを力ずくにでも止める以外はない。故にダンは宣言した。
「これ以上力を行使するなら、私はこの星の人々のために戦う!」
 するとノンマルトが脅迫してくる。
「同じ星の民族同士の争いに介入すれば、全宇宙の文明人を敵に回すことになる!」
「……!」
 それを突きつけられても、ダンの考えは変わらなかった。彼はフルハシと、己が守り続けた
地球人を信じてウルトラアイを取り出す。
 その隣で、ゼロも再度ウルトラゼロアイを出した。
「セブン、あなただけに戦わせはしません」

455ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:23:49 ID:ztVJl3Jg
「……下手をしたら、君まで宇宙の漂流者となるかもしれないんだぞ」
「承知の上です」
 ダンはゼロの顔に振り向いて問う。
「どうしてそこまで……私の力に」
「……」
 ゼロは何も答えないまま、ダンとともに変身を行う。
「「デュワッ!」」
 巨大化したセブンとゼロ、二大戦士がパラボラ塔を背にして、ザバンギに対する盾となった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ザバンギは二人を排除しようと肉薄してくるが、ゼロの横拳が返り討ちにした。
「ゼアッ!」
 更にセブンのミドルキックが入り、ザバンギは後ろに押し出される。
「デャッ!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 セブンとのコンビネーションで、ゼロが一回転しての裏拳をザバンギに見舞った。
「ハァァッ!」
 ノンマルトの守護神ザバンギも、さすがにセブンとゼロの両者を同時に相手できるほどの力を
持ち合わせてはいなかった。
 だが、二人はなかなかザバンギにとどめを刺そうとしない。ノンマルトの代表たるザバンギに
それをすることは……侵略者への加担を決定づけることになるのだ。そうなればもう言い逃れする
ことは出来ない。
「……!」
 しかしゼロはスラッガーを手にして、ザバンギの頸動脈に目をつける。そんなゼロを才人が
呼び止めた。
『待て、ゼロ! お前の手で決着をつけてしまったら、本の世界が完結しない可能性があるぞ!』
 『古き本』を完結させる最低条件は、その本の登場人物によって物語に幕を下ろさせること。
ゼロが本来の主役を差し置いて最後の怪獣にとどめを刺すことは、それに反する行いだ。どうなって
しまうものか、分かったものではない。
 しかしそれを承知してなお、ゼロは迷っていた。
『けど、たとえ本の中の存在でも……あのセブンに、暗闇の中を歩かせるのは……!』
 ゼロがセブンを、宇宙の全ての光から追放された身に落とさせることなど出来るものだろうか。
……自分の父親なのだ。
『だから……俺はッ!』
 ゼロがスラッガーを振り上げる!

456ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:25:26 ID:ztVJl3Jg
『ゼロぉぉぉッ!』
「――デュワーッ!」
 ゼロの手が振り下ろされるより早く……セブンの握るアイスラッガーが、ザバンギの首筋を
切り裂いていた。
『えッ……!?』
「ギャアアアアアァァァァァ……!」
 裂かれた傷口から血しぶきが噴き出し、ザバンギはがっくりと倒れ伏した。そのまま胸の
模様から光が消え……絶命を果たした。
『セブン……どうして……』
 ゼロは呆然としたまま、本物のカザモリをウルトラ警備隊の基地に返還したセブンに叫ぶ。
『どうしてそんなことを! これであなたは、宇宙から居場所を……!』
 セブンはゼロに振り向き、答えた。
『いいんだ。私には、このことに関して何ら恥じるところはない。私はこの地球を、地球人を
愛している。愛する地球人のために戦った……何の後悔もない』
 語りながら、目を合わせたゼロに告げる。
『君が私を守ろうとしてくれた気持ち、それだけで十分だ。私は心の底から嬉しく思う。
ありがとう。本当に、ありがとう……』
『息子よ』
 最後のひと言に、ゼロはハッと息を呑み――。
 視界がまばゆい光で覆われていく――。

 ――気がつけば、才人は一冊目の時と同じように、現実世界に帰ってきていた。初めの時の
ように、ガラQが元気のいい声を発する。
「オカエリー!」
「お帰りなさいませ、サイトさん! ご無事で何よりです!」
 シエスタも安堵しながら才人に呼びかけたが、才人は立ったままぼんやりしている。
「サイトさん……? まさか、どこかお怪我をされたのでは!?」
 シエスタ、タバサたちが心配すると、才人は我に返って手を振った。
「い、いや、怪我なんてどこにもしてないよ。大丈夫だ、ありがとう」
 シエスタたちを落ち着かせると、才人はこっそりゼロに呼びかけた。
「ゼロ……セブンのことは助けられなくて、残念だったな。でも、最後にお前のことを……」
『……なぁ才人』
 ゼロは才人に、こう言った。
『俺の親父は、本の世界でも偉大な人だった。……お前も見てくれたよな?』
 才人は一瞬虚を突かれ、次いでやんわりと微笑んだ。
「ああ、しっかりとな」
 こうして二冊目の『古き本』も終わらせた才人とゼロ。だがルイズはまだ目覚める様子がない。
残る本は四冊。まだまだ彼らの戦いは続くのだ。

457ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:26:06 ID:ztVJl3Jg
以上です。
息子の愛にむせび泣く男、ウルトラセブンッ!

458名無しさん:2017/01/17(火) 00:40:24 ID:5P5tbEFw
乙です

そういえば昔、ダーマが召喚された小ネタあったなぁ…
レオパルドンのソードビッカーでどんな敵も瞬殺w

(本家のアメコミで、レオパルドン込みでなら
 あらゆる世界のスパイダーマンの中で最強扱いされた東映版凄えwww)

459名無しさん:2017/01/21(土) 23:16:47 ID:H7w8IsIU
遅ればせながら五番目の人もウルゼロの人も乙
敵が神に等しい力を先に得てなければあっという間に事件は解決してたかもしれない
というレオパルドンw

460ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:53:12 ID:HMTwEesM
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を始めます。
開始は19:56からで。

461ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:56:06 ID:HMTwEesM
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十四話「三冊目『ウルトラマン物語』(その1)」
小型怪獣ドックン 登場

 ルイズの精神力を奪い、彼女を昏睡状態にしてしまった六冊の『古き本』の攻略に臨む才人とゼロ。
二冊目の『わたしは地球人』では、暴走した地球人と地球原人ノンマルトの確執にウルトラセブンが
翻弄され、最後には宇宙の追放者となってしまうというゼロにとってこれ以上ないほどの苦い物語で
あったが、それでも本の完結には成功した。しかし三分の一が終了した現在も、ルイズにはまだ目に
見えた変化がなかった。
 ルイズを救出する本の旅も三日目を迎えた。三冊目の旅に向けて心の準備を固めていた
才人だったが、そこにタバサとシルフィードがやってきた……。

 眠り続けているルイズと看護するシエスタ、それから才人たちのいる控え室に入ってきた
タバサとシルフィードに対して、才人は一番に尋ねかけた。
「シルフィード、その抱えてる袋は何だ? そんなの持ってたっけ」
 シルフィードは何故かズタ袋を大事そうに抱えている。訝しむ才人に、シルフィードは
早速袋の中身を披露する。
「中身はこれなのね!」
 机の上で袋を開き、逆さにして振ると、赤く丸っこい物体は転げ落ちてきた。
「キュー! 狭かったぁ」
「ガラQ!?」
 それはリーヴルの使い魔である、ガラQであった。才人たちはあっと驚く。
「お前たち、これどうしたんだ?」
「まさかさらってきたんですか、ミス・タバサ!?」
 シエスタの発言に、何の臆面もなくうなずくタバサ。
「リーヴルについて、知ってることはないか聞き出す」
「気づかれずに捕まえるのは大変だったのね。このハネジローがパタパターって近づいて
上から鷲掴みにしたのね」
「パムー」
 シルフィードの頭の上のハネジローがえっへんと胸を張った。
「よくやるな……。まぁでも、これはありがたいよ。ちょうど聞きたいことがあったんだ」
 才人はガラQに対して、真っ先にこう問いかけた。
「ガラQ、見たところお前は生物じゃないな? けどハルケギニアで作られたものでもない。
どこか別の場所で作られた小型ロボットだ。そうだろ?」
 ガラQの質感は明らかに有機物ではない上に、ハルケギニアでは見られない材質のようであった。
この問いについて、ガラQはあっさり答える。
「うん。ガラQ、チルソニア遊星で作られたの」
 その返答にシエスタたちは驚きを見せた。
「まさかミス・リーヴルの使い魔が、ハルケギニア外の技工物だったなんて!」
「まあおかしな見た目してんなーとは思ったがな」
 これを踏まえた上で、才人は続く質問をぶつける。
「じゃあお前、今俺が完結させてる『古き本』の文字を読めるんじゃないか? 宇宙人が
作ったロボットだってのなら、日本語が読めても何らおかしくない」
「読めるよ」
 これまたあっさりとした回答だったが、シエスタはまた驚くとともに疑問を抱いた。
「ミス・リーヴルの話では、『古き本』の文字はどれも読めないのではなかったのですか?」
『偽証に違いない』
 ジャンボットが断言した。
「嘘吐いてたってこと!? でも何のために?」
 シルフィードがつぶやくと、タバサがうつむき気味に答えた。
「リーヴルはやはり何かを隠そうとしている。それにつながりそうな事柄に関しては、知らぬ
ふりをしてる。恐らくはそれが理由」
「俺たちに話せないことがあるってか。いよいよきな臭くなってきたね」
 デルフリンガーが柄をカチカチ鳴らして息を吐いた。

462ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:57:39 ID:HMTwEesM
 才人はいよいよ核心に入る。
「それじゃあ……リーヴルが隠してることって何だ? あいつは俺たちに、何をさせようとしてる?」
 しかし、肝心なところでガラQは、
「分かんない」
「おま……仮にも使い魔なのに、主人のやろうとしてることを知らないってのかよ! 
かばってるんじゃないだろうな?」
 厳しくにらみつける才人だが、ガラQの答えは変わらなかった。
「ホントに、何も教えてもらってないよ。リーヴル、最近何をやってるのか何も言わない」
「……どういうことでしょうか。使い魔にも秘密にしてるなんて」
 シエスタの問いかけに、タバサが考え込みながら答えた。
「何かは分からないけど、よほどのこと」
「でもこの赤いのからは、これ以上何も聞き出せそうにないのね。きゅい」
 肩をすくめるシルフィードだが、ガラQはこう告げた。
「でもリーヴル、何だか苦しそう。それだけは分かる」
「苦しそう……?」
『単純に、リーヴル自身に野望とかがあるってことじゃないみたいだな』
 ゼロの推測にうなずいた才人は、ガラQに呼びかけた。
「ガラQ、お前リーヴルが心配か?」
「心配……」
「じゃあ俺たちに協力してくれ。リーヴルに何か、やむにやまれぬ事情があるっていうのなら
俺たちもそれを解決してやりたい。だからリーヴルについて何か分かったことがあったら、
俺たちに教えてくれ。約束してほしい」
 才人の頼みを、ガラQは快く引き受けた。
「分かった! 約束!」
「よし、頼んだぜガラQ!」
 約束を取り交わしたところで、リーヴルが今日の本の旅の準備を整えた旨の連絡が来たのだった。

 控え室にやってきたリーヴルは残る四冊の『古き本』を机に並べ、才人を促した。
「それでは始めましょう。サイトさん、本を選んで下さい」
 三番目に入る本を、才人がゼロと相談しながら吟味する。
『ゼロ、次はどれがいいと思う?』
『そうだな……。M78ワールドの歴史を題材とした本はあと一冊だ。それを先に片づけちまおう』
 本の世界とはいえ、故郷のM78ワールドはゼロにとって活動しやすい世界。それを優先する
ことに決まる。
「よし、それじゃあこの本だ!」
「お決まりですね。では、どうぞ良い旅を……」
 リーヴルが一冊目、二冊目と同じように才人に魔法を掛け、本の世界の旅へといざなっていった……。

   ‐ウルトラマン物語‐

 ここはM78星雲ウルトラの星、クリスタルタウン。その外れの渓谷地帯で、一人の幼い
ウルトラ族の少年が熱意を滾らせていた。
「よぉーし! 今日も頑張るぞー!」
 彼の名はウルトラマンタロウ。ゾフィーやウルトラマン、セブンら兄の背中に一日でも早く
追いついて、立派な一人前のウルトラ戦士になることを夢見るウルトラマンの卵である。
「ほッ! やッ!」
 谷底に降りたタロウは一人、格闘技の自主練習を開始する。それをひと通り済ますと、
次の訓練に移る。
「よぉし、光線の練習だ!」

463ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 19:59:57 ID:HMTwEesM
 タロウは近くの適当な岩を持ち上げると、それを高く投げ飛ばして的にする。
「えぇいッ!」
 腕をL字に組んで、タロウショット! ……しかしへなへなと飛んでいく光線は、落下する
岩に命中しなかった。
「駄目かぁ〜……! よし、もう一度だ!」
 めげずに練習を重ねるタロウだが、何度やってもただ放物線を描くだけの岩に一度も当たらない。
何度か思考錯誤を重ねるも、やはり上手くはいかなかった。
「くぅ〜……! 今度は飛行の特訓だ!」
 気を取り直してタロウは、崖の上に再度登って空を飛ぶ練習を行う。
「行くぞ! ジュワーッ!」
 しかし勢いよく飛び立ったものの、すぐにコントロールを失って谷間に真っ逆さまに転落
していった。
「うわッ!? うわーッ! あいたぁッ……!」
 大きくスッ転んだタロウの姿に、どこからか笑い声が起こる。
「ワキャキャワキャワキャ!」
「誰だ!? どこにいるんだ!」
 タロウが呼ぶと、崖の陰から緑色の、タロウと同等の体格の怪獣がひょっこりと姿を現した。
M78星雲に生息する怪獣の一体、ドックンだ。
「ワキャキャキャキャキャ!」
 ドックンはタロウを指差してゲラゲラ笑い声を上げた。
「あー笑ったな!? 僕だって大きくなったら、兄さんたちみたいな立派なウルトラ戦士に
なって、悪い怪獣をやっつけるんだからな!」
 憤ったタロウがそう宣言すると、ドックンは余計に笑い転げた。
「ワキャキャワキャキャキャキャ!」
「もぉー! 見てろ、お前を怪獣退治の練習台に使ってやるッ!」
 ますます怒ったタロウはドックンに飛びかかり、ボコボコと殴ってドックンを張り倒した。
「ははぁー! どんなもんだーい!」
 しかしこれにドックンの方が怒り、起き上がってタロウに逆襲を始めた!
「キュウウゥゥゥッ!」
「う、うわぁー!? 来るなー! 助けてぇー!」
 途端に怖がったタロウは一目散に逃げ出すが、ドックンは執拗に追いかけ回す。その鬼ごっこの
末に、タロウは崖の中腹に登って追いつめられてしまった。
「誰かー! 助けてー!」
「キュウウウウウウ!」
 降りられなくなったタロウを目いっぱいに脅すドックン。――そこに一人のウルトラ戦士が
ふらりと現れた。
『そこまでにしてやりな』
「キュウ?」
 振り向いたドックンの頭に、青と赤のウルトラマンがポンポンと手を置いてその怒りをなだめた。
『そいつはもうお前を攻撃するつもりはねぇよ。だからそんなに脅してやるな』
 ドックンを落ち着かせた見知らぬウルトラマンを見下ろして、タロウが尋ねかける。
「お兄さん、誰? 何だかセブン兄さんに雰囲気が似てるけど……」
『俺はゼロ。旅のウルトラ戦士さ』
 端的に名乗ったウルトラ戦士――ゼロは、タロウを見上げて言いつけた。
『お前はこいつに謝らないといけねぇぜ。お前さんがこいつに乱暴を働いたから、こいつは
こんなにもおかんむりだったんだろ』
「でも、そいつが僕のこと笑ったのが悪いんだよ?」
『ちょっと笑われたくらいでムキになるようじゃ、立派なウルトラ戦士になんてなれねぇぜ? 
本当に強い戦士ってのは、他人に何と言われようともどっしり構えてるもんさ』
 ゼロに諭されて、タロウは考えを改めた。
「……分かった。僕、ドックンに謝るよ!」
『よし、いい子だ。さッ、降りてきて仲直りの握手をしてやりな』
「うん!」

464ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:03:55 ID:HMTwEesM
 崖の中腹から降りてくるタロウをゼロが受け止め、タロウはドックンと握手を交わす。
「ごめんね、ドックン」
「キュウウゥ」
 タロウと握手をして怒りを収めたドックンは、のそのそと自分の住処へ帰っていく。
「さよならー!」
『じゃあな。元気でやれよ!』
 タロウとゼロに見送られて、ドックンは渓谷の向こうへ去っていった。それと入れ替わるように、
『ウルトラの母』がタロウたちの元にやってくる。
「まぁ、タロウ! その人はどなた?」
「あッ、お母さん!」
 タロウは『ウルトラの母』の方へ駆け寄っていった。……その間に、才人がゼロに囁きかける。
『まさか、あのウルトラマンタロウの子供の姿が見られるなんてな……』
『それも本の世界ならではってとこだな』
 この三冊目『ウルトラマン物語』はどうやら、ウルトラマンタロウを主役に据えた成長譚の
ようであった。しかしウルトラマンが地球で活躍していた時代に、タロウが子供となっている。
本来ならこの時点でタロウはとっくに大人になっているので、本当ならあり得ないことだ。
『でもそれ以上に驚きなのは……あの『ルイズ』の姿だよ……』
『ああ……。よりによってウルトラの母の役に当てはめられるなんてな……』
 ゼロは微妙な目で、ウルトラの母……の役にされているルイズを見つめた。
 フジ、サトミのようにこの本でもルイズは登場人物の誰かになり切っていることは予測できたが、
今回はまさかのウルトラの母……。この本はウルトラ族の視点であり、女性が他に登場しないからと
言って、こんなのアリなのだろうか。胴体から下はウルトラ族で、顔はルイズというチグハグ加減
なのでものすごい違和感がある。もうルイズがウルトラの母のコスプレをしているようにしか見えない
ので、ゼロと才人は気を抜いたら噴き出してしまいそうで内心苦しんでいた。
 そんなゼロたちの心情は露知らず、ルイズはタロウから事情を聞いてゼロに向き直った。
「タロウがお世話になったようで、ありがとうございます。よろしければ、何かお礼を
したいのですが……」
『いやぁ、いいんですよ。旅は道連れ世は情けってね』
 ゼロが遠慮すると、また新たな人物がこの場に姿を見せた。
「ほう、なかなかの好青年だな。顔立ちも含めて、セブンを彷彿とさせる」
「お父さん!」
 頭部に雄々しい二本角を生やした、偉丈夫のウルトラ戦士。タロウが父と呼んだその
ウルトラ戦士こそ、宇宙警備隊大隊長にしてタロウの実父であるウルトラの父だ。
 ウルトラの父はゼロを見据えると、こう切り出してきた。
「君は旅の者だそうだが、不躾だが一つ頼みごとがある。聞いてもらえないかな」
『何でしょう?』
「見たところ、君は結構……いや相当腕が立つと見た。それを見込んで、このタロウに稽古を
つけてやってほしいのだ。今のタロウには練習相手がいない。私もいつも面倒を見てはやれない
ので、少し悩んでいたのだ。どうだろうか?」
「えぇッ!? 僕が、この人に?」
「まぁ、あなたったら。いきなりそんな無理をお願いするなんて、失礼ですよ」
 ルイズはウルトラの父をたしなめたが、ゼロは快諾した。
『いや、いいですよ。新たなウルトラ戦士の誕生にひと役買えるってのなら、こっちとしても
望むところですよ!』
「おお、やってくれるか! ありがとう!」
「まぁ、本当ですか? 重ね重ね、どうもありがとうございます」
 ゼロの承諾にウルトラの父とルイズは喜び、タロウもまた諸手を挙げる。
「わーい! 僕に先生が出来たー!」
「よかったな、タロウ。彼の下で一層訓練に励んで、早く立派なウルトラ戦士になるんだぞ」

465ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:06:01 ID:HMTwEesM
「あんまり失礼のないようにしてちょうだいね。常にウルトラ戦士の誇りを持って、恥ずかしい
ことのない振る舞いを心がけなさい」
「うんッ! 僕頑張るよ!」
 タロウ親子の微笑ましい家族の会話。ゼロも思わず苦笑したが、同時につぶやく。
『何だか複雑な気分だな……。俺があのタロウの先生だなんて。立場が逆転してるぜ』
 現実のタロウは、ゼロの訓練生時代から宇宙警備隊の筆頭教官の立場に就いていた。ゼロは
故あってレオの管理下に置かれ、タロウから教えを受けていた時間は短かったが、それでも
確かに立場が現実世界とそっくり入れ替わっている。
 それはともかく、幼きタロウはゼロの前に立って、深々とお辞儀した。
「これからよろしくお願いします、ゼロさん!」
『ああ、こっちこそビシバシ行くからな! 覚悟しとけよ!』
 この本を完結させるには、タロウを一人前のウルトラ戦士に育て上げるのが最も手っ取り
早い道のようだ。ゼロは張り切ってそれに取り掛かることにした。

 そして始まる、ゼロからタロウへの指導。レオ仕込みのスパルタ教導は、タロウ相手でも
手を緩めることを知らなかった。
「やぁッ!」
 ゼロが放ったゼロスラッガーを標的にして、タロウがタロウショットを撃つが、静止している
スラッガーにもかすりもしない。
『駄目だ駄目だ、そんなんじゃ! まるで腰が入ってねぇぜ! 射撃は土台がしっかりしてねぇと
照準なんて絶対合わねぇ。腕じゃなくて、身体全体で射線を固定するんだ!』
「は、はい!」
 タロウはゼロの指示通りに腰を据えて、じっくりと撃とうとするが、スラッガーの動きが
変わって自分に向かって飛んできたので思わずのけぞる。
「うわぁッ!」
『ひるむな! 攻撃するのをじっと待ってる奴なんかいやしねぇ。敵は必ず反撃してくる! 
いちいちビビってたら戦いになんかなりゃしねぇぞ。恐れずに相手の動きをよく見て、
しっかりと当てていけ!』
「わ、分かりました!」
 厳しいながらも的確な指導を受けて、タロウはスラッガーの軌道をよく観察する。
『そこだッ!』
 そして飛びかかってきたところを射撃。初めて光線が命中した。
「やったぁー! 当たったぞぉ!」
『よーし、その調子だ! どんどん行くからな!』
 タロウに対するゼロの特訓は進む。……本の世界の時間経過は早い。物語が進むにつれ、
タロウは少年の姿からみるみる内に青年の姿へと変わっていった。

466ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:07:28 ID:HMTwEesM
 しかしゼロもそうそう簡単には抜かれない。タロウとの組手であっさりと一本を取る。
「うぅッ! 一撃も当たらない……!」
『小手先の動きに惑わされるから当たらねぇのさ。視点はもっと広く取って、戦う相手の
全体を見ろ! 集中力も足りねぇぞ。自分のやってる戦いの意味は何なのか、何を背にして
戦ってるのか、それを思えば集中できねぇなんてことはないはずだッ!』
「はいッ!」
 ゼロに熱心に鍛え上げられ、タロウの実力はめきめきと上がっていった。そしてその末に、
タロウ念願の時がやってきたのだった。
「ゼロさん! 父さんから指令がありました。私が地球に派遣される時がやってきました!」
『そうか、やったじゃねぇか!』
「はい! 今地球では、メフィラス星人がセブン兄さんに倒されたエレキングを復活させて
暴れさせてるようです。その退治を私が行うことになったんです!」
 メフィラス星人にエレキングとは、現実ではほぼ接点のない組み合わせ。まぁそれはいいだろう。
『遂に初めての実戦ってことだな。けど本当の戦いってのは、どんな訓練よりも険しいもんだ。
お前のことは随分と鍛え込んだが、だからって一瞬たりとも油断すんじゃねぇぞ』
「承知してます! それでは私の初陣、どうか見守っていて下さい!」
『ああ。俺も後から地球に行く。そこでお前の戦いぶりをじっくりと見物させてもらうぜ。
張り切って使命を果たしな!』
「お願いします! タァーッ!」
 ゼロに一礼すると、タロウは両腕を高く振り上げて宇宙へ向けて飛び上がった。
 いよいよタロウのウルトラ戦士としての初戦の時が来た。悪い怪獣をやっつけて、地球を
守るのだ! がんばれ、ウルトラマンタロウ!

467ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/24(火) 20:08:56 ID:HMTwEesM
ここまでです。
今回は大分明るめ。

468ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:49:27 ID:hwFD3p2w
ウルゼロの人、乙です。自分もウルトラ5番目の使い魔、54話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

469ウルトラ5番目の使い魔 54話 (1/12) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:51:25 ID:hwFD3p2w
 第54話
 ここは夢の星だった
 
 カオスヘッダー 登場!
 
 
 この物語は、地球の少年平賀才人が、ハルケギニアの魔法使いルイズに召喚され、ゼロの使い魔となったことから始まった。
 彼らは数々の冒険や戦いを乗り越え、幾たびもハルケギニアを救ってきた。
 しかし、そもそも……なぜ彼らの冒険は始まらなくてはならなかったのだろうか? なぜ彼らの前に、宇宙を揺るがすほどの危機が次々と訪れなくてはならないのか。
 それは突き詰めれば、ハルケギニアという世界があるためだ。
 この世に、舞台なくして起きる出来事などはない。畑がなければ作物はとれず、空がなければ鳥は飛べず、水がなければ魚は泳げず、大地があるからこそ人は歩ける。
 かつて地球で無数の怪獣が暴れる怪獣頻出期があったのも、地球にそれだけの怪獣が生息できるだけの環境があったからだ。
 ならば、ハルケギニアがこれほどの異変に見舞われるだけの下地とはなんなのだろう? それは、才人とルイズの物語が始まるよりもはるか前。ハルケギニアの起源にさかのぼらねばならない。
 
 ハルケギニアの始まりのすべてを知る者。すなわちハルケギニアを作った張本人である人物、始祖ブリミル。だが現代にやってきた彼が子孫たちに告げた内容は、天雷の直撃のような衝撃を持って子孫たちの頭上に叩きつけられた。
「この星の住人ではないということは……始祖ブリミル、あなたはまさか……う、ウチュウ、人、なのですか?」
「君たちから見ればそうなるね。もっとも、サイトくんは薄々感づいていたようだけど」
 愕然とするハルケギニアの人々を見渡して、ブリミルは憂鬱そうに言葉を返した。その表情には、だから言いたくなかったんだという色がありありと浮かんでいる。
 この反応になるのは予想できた。ハルケギニアの人々にとって、宇宙人は現在では侵略者と同義語として認識されている。自分たちの敬愛する聖人が、自分たちがもっとも敵視するものと同一と聞かされたときの衝撃は、教皇の正体があばかれたときのそれにも勝るだろう。
 だが、そんなブリミルの様子に、才人は狼狽するハルケギニアの人間に代わって、彼をフォローするように話の続きを促した。
「ブリミルさんは隠し事は下手そうでしたからね。あんだけ長くいっしょにいたら、そりゃいくらおれでもちっとは怪しいって思ってたぜ……でも、おれの見てきた限りじゃあなたは悪い人じゃない。なにか事情があったんでしょ? それを説明してくださいよ」
 するとブリミルは、少しほっとした様子になり、それから何かを吹っ切ったように小さな笑顔を見せた。

470ウルトラ5番目の使い魔 54話 (2/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:53:27 ID:hwFD3p2w
「ああ、ありがとう。そうだね、サイトくんの言うとおりだ。まずは、話すべきことを話してからにしよう。少し長くなるけどね……とりあえずは、宇宙のことについてざっと予備知識として説明しておこうか」
 ブリミルはイリュージョンの魔法を併用しつつ、宇宙の基礎知識をまずは語った。この世界は宇宙という広大な空間であり、ハルケギニアはその中のひとつの星の中の一部であることを。
 それだけでも、ハルケギニアの人間にとってのショックは大きかった。彼らにとってはまだ神話のレベルである”この世のしくみ”を説明されたのだから当然である。エレオノールやルクシャナも内容を飲み込むのに必死で、全体として漠然としか伝わっていない。
 そんなブリミルを、才人は複雑な思いで見ていた。ブリミルもまた、ハルケギニアの外からやってきた異邦人。自慢ではないが、地球人の自分がこの世界に与えてきた影響は少ないものではない。増して、地球人よりはるかに進んだ宇宙人のもたらす影響などは想像もつかない。
 聞くことが怖い。しかし、聞かないわけにはいかない。やがて、前知識の解説を終えたブリミルはひと呼吸を置くと、サーシャとうなづきあって話の本題に入った。
「では、僕も覚悟を決めたから話そう。君たちも、少し酷かもしれないがまずは聞いてくれ。僕らマギ族はね、遠い昔から宇宙をさまよい続けてきた、あてどもない流民だったんだ」
 
 ブリミルはイリュージョンの魔法で記憶の光景を再現しながら、ゆっくりと自分たちの歴史を語り始めた。
 彼らマギ族が、元々どこの星から来た何星人だったのかはわからない。だが、彼らは遠い昔になんらかの理由で母星を失い、それ以来、移住できる惑星を求めて、長い長い宇宙の放浪の旅に出た。
 それがどれほどの時間を費やし、何世代に渡って続いたのかも、もはやわからない。しかし、彼らは自分たちのルーツも忘れてしまうくらいに長い時間を、たった一隻の宇宙船でさすらってきた。
「僕も故郷を知らないで、船の中で生まれた世代さ。いや、僕の生まれたころには、マギ族の本来の故郷を知る人間はひとりも残っていなかった。僕らの寿命は君たちと同じだから、少なくとも数百年は旅を続けていたんだろうね。けど、僕らが移住できるようなところは、なかなか見つからなかった」
 マギ族の宇宙船は宇宙をさまよい続け、移住できる星を探し続けた。しかし、生物が住んでいる星にはたどり着くことはできても、そのすべてが彼らの移住には適さないものばかりだったのだ。
 単純に、人間が住むのに適さない温度や気候条件の星だったことが一番多かったが、ようやく住めるだけの環境を持った星を見つけても、それらのほとんどには先住民がいた。移住はことごとく拒否され、彼らは再び宇宙へと追い出されていった。
 この事に、ルイズやティファニアは「ひどい」と感想を持ったが、アンリエッタが難しそうな様子でそれを否定した。
「たとえ最初は数千人でも、時間が経てば数は増えていくわ。それに、一度受け入れたら、同じような人たちが来たらまたそれを受け入れなくてはいけなくなるの。非情なようだけど、元々住んでいた人の平和を守るためには仕方がないことなのよ」
 ウェールズやカリーヌも、そのとおりだとうなづいている。地球で過去にも、地球に定住した宇宙人はいたが、いずれも少数で、隠れ潜んで住み着いている。たとえ悪意がなくとも、よそ者というそれだけで危険視されるに充分な理由だということを彼らは心得ているのだろう。決して地球人が排他的だというだけではない。
 もう何回目になるかわからない拒絶を受けても、マギ族は旅を続けた。宇宙のどこかには自分たちの永住できる星が、きっとあると信じて。
 しかし、現実は彼らの期待を裏切り続け、移住可能な惑星はどれだけ旅を続けても見つかることはなかった。もはやどれだけ旅を続けても無意味なのではないか? 絶望感が彼らを支配しかけていたときである。船のひとりの技術者が、超空間開門システムを完成させたのは。

471ウルトラ5番目の使い魔 54話 (3/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:56:23 ID:hwFD3p2w
「ちょう……なんですの、それは?」
「超空間開門システム。簡単に言えば、まったく違う世界と世界をつなぐことができる門を作り出す機械と思ってくれればいい。この世界に自分たちの住める星はなくても、別の世界にならあるかもしれないという望みが、僕らにとっての最後の希望だったんだ」
 才人は、「なるほど、つまり前に我夢さんが見せてくれたアドベンチャー号に似たもんか」と納得した。そしてルイズは、ブリミルの説明を聞いて、ふとあることに気がついた。
「それって、虚無の魔法にある『世界扉』と似ているわね」
「いいところに気がついたね。その魔法も関係してくるんだが、それは追々説明するよ。ともかく僕らは、一縷の望みをかけて次元の門を開いた。そして、その先にたどり着いたのが、この星の聖地だったというわけなんだ」
 それが始祖降臨の真実なのかと、場を戦慄が支配した。始祖は、神に命じられて降り立ったのではなく、神頼みで流れ着いたのだというのか。
 突きつけられる現実、しかしブリミルの話は続く。
「僕らは狂喜したよ。なにせ、僕らが夢見続けてきた理想の世界がここにはあったんだから。僕らが住むのにちょうどいい気候に、豊富な自然、なによりも発達した文明を持った先住民族がいない。そのころの僕は五歳くらいだったけど、よく覚えているよ。狭い船の中の生活から、無限の広さを持った青空の下で生活できるようになった喜びは、忘れられない」
 しみじみとブリミルは語った。
 マギ族はたどり着いた惑星を丹念に調査し、ここが移住に最適の地だとわかると早速入植を開始した。
 なにせ彼らは宇宙船の中だけで、数百年ものあいだ生活サイクルを続けられたほど高い科学力を持った種族である。それが、広さも資源も無尽蔵な惑星に解き放たれたのだから、開拓は見る見る間に進んでいき、聖地を中心にわずかな期間で、周辺には大都市が建造された。
 そこでは、東京都庁もかくやという巨大ビルディングが並び立ち、その中には王城のようにあらゆる生活設備がかねそろえられていた。マギ族はそこに住み、さらに地下にはオートメーション化された工場が配置されており、豊富な資源を元にあらゆるものが生産され、彼らはなに不自由ない生活を謳歌できた。才人の目から見てさえ、それは科学が生んだ理想郷とさえ言える巨大なメガロポリスであった。
「東京都心どころじゃねえ。ニューヨークやドバイだってここまでいかねえぞ」
 地球のどんな大富豪でさえできないであろう、究極の贅沢がそこにあった。願えばどんなものでもすぐに作り出され、食べ物はどんな珍味も簡単に合成され、その量に際限はなかった。
 これに比べたらトリスタニアなどは子供が砂場に作った城であろう。ハルケギニアの人間たちは圧倒され、エルフの都であるアディールでさえ田舎町にしか見えない規模にルクシャナも開いた口がふさがらないでいる。
 しかし、ついさっきまで宇宙船で流浪の旅を続けるばかりだった彼らが、いくら科学力があろうともここまでの都市を築けるとは行きすぎな気がした。これほどの力があるのならば、不毛の惑星のテラフォーミングもできたであろう。その疑問に、ブリミルはこう答えた。

472ウルトラ5番目の使い魔 54話 (4/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:57:26 ID:hwFD3p2w
「僕らをこの星に導いた超空間開門システムは、想定外の恩恵を僕らにもたらしてくれたんだ。つまり、ゲートの向こうの別の宇宙から、まるで雨が高いところから低いところに降るようにして、無尽蔵にエネルギーを取り出せるようになったんだよ」
 それがマギ族の短期間の発展の理由であった。別の宇宙からこの宇宙に流れ込んでくる無限のエネルギーは、マギ族に使いきれないほどの力をもたらしたのだ。
 けれども、彼らはそれだけで満足したわけではなかった。彼らは願い続けた生存権の確立はできたものの、彼らの人数はわずか数千人、都市にいるのは他にはロボットだけ、彼らが孤独感を感じ始めるのは当然であった。
 そこで彼らは生存権を広げるのと同時に、この星の先住民族との交流をはかり始めた。
「当時のこの世界には、発達した文明こそはないが、原始的な狩猟や農業をおこなっている人間たちの集落が点在していた。僕らは彼らを自分たちのコミュニティに加えようと試みたんだ」
 マギ族は事前に先住民族の文化・言語などを分析することで、彼らにもっとも有効なアプローチを用意して接触し、友好的な交流を築き上げていった。
 その様子はブリミルのイリュージョンの魔法で部屋に映画のように映し出され、ルイズたちはその友好的な様子を目の当たりにして、頬をほころばせていた。
 しかし、エレオノールやキュルケの顔はうかない。王家に伝わる、あの伝承が彼女たちの脳裏に蘇っていたからだ。
 そして、現地民に神のごとく敬われ、マギ族は勢力圏を爆発的に拡大していった。
 聖地、現在のサハラ地方を中心に、東方、西方は現ハルケギニアのガリア中部からゲルマニア中部までの村落が早々に影響下に置かれた。生活様式も、それまでは原始的な家屋が少数集まった集落がバラバラに点在したり、遊牧民的な生活を送っていたことから一転して、マギ族の用意した都市に多数が集まる中世的な様式へと変貌していったのだ。
 それはまさに文明の洪水であった。マギ族は現地民たちに自分たちの道具、技術を与え、さらに睡眠学習装置なども併用して知識、制度のレベルまでも高めた。
 ほんの数年で、粗末な小屋やテントしかなかった村は、現代のハルケギニアと見まごうばかりの都市へと変貌し、それが各地に続々と増えていった。その速度はまさに圧倒的で、エルフの技術に自信を持ってきたルクシャナでさえ感嘆として見ていた。
「まさに、人知を超えたこの世ならざる者の所業ね。普通なら、何百年、何千年もかけておこなう変化を、たった数年で。しかも先輩、あの都市の作り方、見覚えがあるでしょ?」
「ええ、アボラスとバニラが封じられていた悪魔の神殿にそっくり、いえ、そのものね。やっぱり、この時代に作られたものだったのね」
 ふたりは、各地でたまに見つかる高度な技術で作られた遺跡が、この時代の遺産であったことを確認してうなづきあった。あれほど高度な技術が用いられた遺跡が、いったいどうやって作られたのかはずっと謎だったのだが、最初から人間の作ったものではなかったというなら当然のことだ。

473ウルトラ5番目の使い魔 54話 (5/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:58:37 ID:hwFD3p2w
 マギ族の与える文明は、現代のハルケギニアよりもやや進んだ程度のレベルを基本として、それからもあらゆる方向へと進んでいった。農耕、漁業、牧畜の発展で食料は有り余るほど手に入るようになり、医療は化学工場で作られた薬品とロボットドクターによって病の恐れが消え、文字の普及によって本が作られるようになって娯楽の幅が広がり、さらには半永久電池による照明は焚き火しか明かりを知らなかった人々に爆発的に広がっていった。
 
 それは、文明が努力と失敗の積み重ねでできていると信じる者からしたら、まさに”反則”としか言いようの無い光景であった。
 
 地球でも、例えば明治維新のように社会制度と文明の流入による急速な発展の事例はあるが、これはその比ではなかった。例えるならば、明治維新は日本という白黒の下絵の上に文明開化という絵の具で絵を作ったようなもので日本という絵そのものは変わっていないが、マギ族のやったことは題名も決まっていない白紙のカンバスの上に文明のカラーコピーをしたようなものである。
 それでも、先住民族の文明化は止まらなかった。マギ族は先住民族が自分たちを神も同然の存在として受け取るように計算して接触しており、しかもマギ族の与えるものは確実に生活を豊かにしてくれたからである。苦痛には人は耐えられても快楽に耐えられる人間はそうはいないという理屈だ。
 都市化、文明化の波は、やがてこの星から夜の闇を消し去るほどに広まった。それに要した時間は、ほんの十年足らず……ほんの十年で、それまで野で獣を追い、狭い畑で粗末な野菜を育てるだけだった人間たちは、都市で夏は涼しく冬は暖かく、山海の珍味を季節によらず口にし、遊びきれないほどの娯楽に囲まれる生活を手に入れたのだ。
 マギ族は、聖地に建設した近代都市に住まい、世界中を統治した。そこはまさしく神の居城であり、通信を使って都市にいながら支配地に指令を出し、ときおりUFOに乗って支配地に降臨する彼らは神そのものであった。
 広大な支配地と支配都市の数々を、マギ族ひとりが少なくともひとつの都市を所有するようになっていた。その中には十五歳になったブリミルもおり、彼らは自分の支配地をいかに発展させるのかを最大の娯楽とするようになっていた。
「まさに、神の遊び。なにも知らない無垢な人々に、いろいろ吹き込むのはさぞ楽しかったでしょうね」
 サーシャが皮肉げに言うと、ブリミルはばつが悪そうに苦笑いした。
「まったく君はずけずけと言ってくれるね。だが、まったくそのとおりだよ。僕らは最初、友が欲しくて人々に接触していたけれど、いつしか調子に乗りすぎていってしまったんだ……そして君たち、これまでの様子を見てきて、なにか気づいたことはないかい?」
 真顔に戻ったブリミルがそう尋ねると、一同は顔を見合わせあった。
 違和感。そう、今まで見てきた中で、なにか現代のハルケギニアとは決定的に違う何かがあることを一同は感じ始めていたのだが、それが具体的に何かは一部の者を除いてわからなかったのだ。
 すると、一同の中からルクシャナが一歩前に出た。

474ウルトラ5番目の使い魔 54話 (6/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 21:59:46 ID:hwFD3p2w
「エルフの姿を見なかったわ。どの都市にも、住んでいるのは普通の人間ばかりで、わたしたちの同族はひとりも見なかった。いいえ、翼人も獣人も、人間以外のどんな人種も見かけなかった。ねえ、わたしたちの祖先はどこにいるの?」
 言われて皆ははっとした。確かに、これだけの巨大都市が乱立しているというのに、そこに住んでいるのは今で言う平民ばかりで、どこを見てもエルフのような亜人はおらず、それに家畜も馬や牛や豚ばかりで見慣れたドラゴンやグリフォンなどの姿はどこにもなかった。才人がタイムスリップした時にはいたのに、である。
 今のハルケギニアでは当たり前に見られるものが見えない。それになにより奇妙なことに、ハルケギニアならいなければおかしいはずのメイジ……魔法を使う人間が一切見当たらない。それが不自然すぎる。
 ここがハルケギニアの過去なら、この不自然さはいったい? 違和感の正体に一同は首を傾げたが、ふとルイズが思い出したように言った。
「確か、ブリミル教の教義では始祖ブリミルが魔法の力を授けたとあるわ。もしかして、それがこれからなんじゃないの?」
 ルイズのその言葉に、ブリミルはゆっくりとうなづいた。しかしその表情はとても重く、やがて彼は血を吐くように話し出した。
「僕らマギ族は、この星の人々に与えられるものを次々に与えていった。それは、さっきも言ったとおり最初のうちは僕らの仲間を増やしたいという純粋な思いからだったけれど、この星で無垢な人々を相手に神のように力を振るい続けているうちに、いつしか僕らは自分たちが本当の神であるかのように思い上がるようになっていったんだ」
 ブリミルの言葉とともに、繁栄を謳歌していた都市に異変が起こり始めた。それまでは各都市が自由に交流をできていたのが、突然人の行き来が禁止され、それぞれの管理者の都市ごとに隔離されてしまったのだ。
 いったいなにが起きたのか? その答えは困惑する面々の前に、もっとも残酷な形で現れた。
 
「えっ? 人間同士で……戦いが!?」
 
 マギ族の支配する都市同士での戦争、それが破局の始まりであった。
 ブリミルは語った。
「人々を支配しきり、星を完全に開拓しきった後のマギ族は、とほうもない”退屈”に襲われたんだ。やるべきことをやりきって、やらなきゃいけないことがなくなってしまったマギ族は、新たな”楽しみ”を探し求めた」
 
 マギ族は、惑星開拓という大事業に成功した後の喪失感を埋めるための、退屈しのぎを追い求めたのである。
 最初、それはマギ族同士で自分の支配する都市の充実具合を競い合うものであったが、彼らはすぐにそれに飽きて、より直接的な刺激を求めるようになった……
 それがすなわち、自分の都市の住人を兵士に仕立てての戦争ゲームである。
 もちろん最初から殺し合いをさせたわけではない。彼らにもちゃんと良心はあり、武器は殺傷能力のないものを持たせて、様々なルールを作って勝ち負けを競った。サバイバルゲームの大規模なものだと思えばいい。住人たちも、神々の命ずることだからと無抵抗に従った。

475ウルトラ5番目の使い魔 54話 (7/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:00:39 ID:hwFD3p2w
 だが、彼らはこの遊びを甘く見すぎていた。この世で、自分が傷つくことがないならば戦争ほど楽しいゲームはほかにない。そしてサバイバルゲームならば、いくら熱中しても社会的制裁を恐れてルールは厳密に守られるが、彼らマギ族をしばる社会的なたがは何もなかった。
 マギ族は、この戦争ゲームに泥沼のようにはまっていった。当初はそれこそ、模造の剣や槍だけを使った中世的な戦争ごっこだったものが、すぐさま銃や大砲を大量に用いて砦を攻め落とすようなものに、規模も複雑さも増して行き、さらに住民たちも強力な武器を用いて傷つくことなく好きなように暴れられるこのゲームに熱中した。
 アンリエッタやウェールズは、ハルケギニアの王族の中にも退廃した享楽に溺れた例はあると聞いたが、ケタが違うと戦慄した。他の面々も、顔色をなくし、冷や汗をかきながらようやく見つめている。
 
 ただ、この時点で踏みとどまることができれば、まだ遊びで済んでいただろう。しかし、彼らは知らず知らずに超えてはいけないラインへ踏み入り、遊びに入れてはいけない要素を取り入れてしまった。
 賭けの登場である。
 マギ族はお互いに直接戦うだけでなく、他人の勝負をダシにして賭けに興じるようになった。質に使われたのは住民から都市そのものまで幅広い。
 が、賭け事とは愚者の道楽である。しかも、個人がはまる分にはそいつひとりが破滅して他者の冷笑の的にされるだけだが、責任ある立場の者が賭け事にはまるとおおむね他人を巻き添えにする。
 地球の歴史上も、国を担保に賭けをして悲劇を巻き起こした王や軍人は枚挙に暇が無い。そしてその例は、ここでも完全に再現された。
 賭けに負けて、自分の所有する都市や領民を巻き上げられたマギ族の者は、怒りからさらに賭けに没頭した。しかし賭けるものがすでに無い彼らは、賭けの質を自ら作り出し始めた。それはすなわち、戦争ごっこをより魅力的に刺激的に変えることのできる、新たな駒の製造である。
 画像が、マギ族の所有する工場の内部へと切り替わったとき、一同の顔は驚愕と恐怖に彩られた。
「ドラゴンが……グリフォンが……つ、作られている」
 そこでは、大きな水槽の中で様々な生き物が改造されている様が鮮明に映し出されていた。
 トカゲやワニが大きくなってドラゴンになり、鷲とライオンが合成されてグリフォンになり、ただの馬に角が生やされてユニコーン、翼が生やされてペガサスになった。それらの目を疑うばかりの光景を、ブリミルは淡々と説明した。
「バイオテクノロジー。簡単に言えば、猪を飼いならして豚に変え、犬や猫の交配を繰り返して新しい品種を作り出すことを極限まで進歩させた技術だと思ってくれればいい。マギ族はこれを使って、次々に新しいしもべとなる生き物を作り出していったんだ」
 もはや誰も言葉も無かった。ドラゴンやグリフォンの他にも、魔法騎士隊で使われているヒポグリフやマンティコア、火竜や風竜、サハラに生息する水竜や海竜が作られている。また、戦闘用の幻獣の他にも、ただの鳥から極楽鳥が作られて、愛玩用に売却されていくのも映っていた。

476ウルトラ5番目の使い魔 54話 (8/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:02:00 ID:hwFD3p2w
 才人はこれで、なぜ地球とほとんど同じような環境をしたハルケギニアで、地球とまったく違う生物が存在しているのかを知った。ハルケギニア固有の生き物は、全部とは言わないがドラゴンのように攻撃性が強くて軍事利用が容易なものか、家畜として利用価値の高いものが多いのは、最初から人間が利用するために作り出した人工種だったからというわけだったのだ。
 地球でも実用化が進んでいる技術だが、マギ族のやるそれは文字どおり次元が違った。小さなものは人語を解する動物から、大きなものは船のような鯨竜まで、それらが粘土細工のように生産されていく様は恐怖でしかない。特に、人語を話す風竜、つまりシルフィードと同じ韻竜が生み出されているのを目の当たりにしたときにはタバサでさえひざを突いて嗚咽した。
「タ、タバサしっかりして!」
「だ、だいじょうぶ……大丈夫だから」
 ルイズとキュルケが慌てて助け起こしたが、タバサの顔は蒼白そのものだった。他の面々も大なり小なり青ざめていて、エレオノールはここにカトレアを連れて来ていなくてよかったと心底思っていた。生命の創生はまさに神の御技だと思ってきたが、まさかこんな遊びの一貫でおもちゃのように作り出されていたとは。
 しかし、これはまだ序の口でしかなかったのだ。作り出されたドラゴンなどの人造生命体は、戦争ごっこに投入されると、その様相を劇的に変貌させた。それはまさにファンタジックかつスリリングな光景で、火を吹くドラゴンに乗って空から舞い降りてくる騎士の姿にマギ族は歓喜し、幻獣同士の肉弾戦に歓声を上げ、さらに激しくのめりこんでいった。
 だがその一方で、戦わされている人間たちは果てしなく続く茶番劇にすでに飽きてしまっていた。彼らにとっては戦勝のたびにもらえる適当なご褒美以外にはうまみがなく、それどころか戦うたびに主人が変わったり、新しい主人のところへ強制的に移らされたりするので、戦闘の興奮に飽きてしまうと後は一気に冷めてしまったのだ。
 マギ族と先住民とのあいだに溝が生まれ、それは急激に開いていった。マギ族は相変わらず戦争ごっこと賭けに狂奔していたが、先住民たちは神に等しいマギ族に逆らう術などなく、仮に逆らう気力があったとしても、かつての貧しい生活に戻ることなどできようはずもなく、ただただ戦いに駆り立てられていった。
 ひたすら繰り返される死なない戦争。武器は派手に見えてもすべて殺傷力はなく、ドラゴンの攻撃に対してもボディスーツに仕込まれたバリヤーが働いて、戦闘不能判定が出るだけで無傷で済む。万一なんらかのアクシデントで負傷しても即座に治療されて再び戦場に舞い戻らされる。その繰り返しにより、ノイローゼになる者も続出した。
 アンリエッタやウェールズは、かの無能王でもここまでむごいゲームはするまいと戦慄に身を震わせる。恵みの神はいつしか、人々を弄ぶ悪魔へと堕落してしまっていた。
 
 だが、カリーヌやエレオノール、キュルケは知っていた。王家に伝わる伝承、成人した人間しか知ることの許されないほどの危険な秘密が語る六千年前の真実は、まさにこれからが本番だということを。
 
 マギ族の精神的退廃はその後も急激に進み、彼らはもはや傲慢な支配者以外の何者でもなくなってしまっていた。
 そして、彼らはついに戦争ごっこにも賭けにも飽きてきた。

477ウルトラ5番目の使い魔 54話 (9/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:05:49 ID:hwFD3p2w
 もっと刺激を! もっと楽しいことを!
 欲というものは満たされ続ける限り、無限に肥大化して終わりがない。そして歯止めの利かない欲望は、ついに彼らの良心を深奥まで蝕んでいった。
 自分より多く領地を持っているあいつが憎い。嫉妬はついに爆発し、戦争ごっこはとうとう惑星の支配権を賭けたマギ族同士の本物の覇権戦争へと拡大していったのだ。
「武器は実弾に変わり、戦闘は完全に奪い合いに変わった。僕自身も例外じゃなく、自分の領地で近隣の同胞と争っていたよ」
 ブリミルの領土はどこかの湖のほとりで、若い彼はそこで多くの同胞と同じように住民を駆り立てていた。それは現在の温厚な彼からは信じられないほどの冷酷な様で「突撃しろ! 退く奴は後ろから撃て」などと叫んでいた。
 聖人のかつての信じられない姿に呆然とする一同。だがその光景に、エレオノールはカリーヌに確信を持って言った。
「お母様、わたくしたちの祖先が水の精霊から聞いたという古代の伝承は……正しかったのですね」
「ええ、古代のラグドリアン湖の周辺を支配し、争っていた異邦人。その中の一人の名が……ブリミル。そして伝承のとおりなら、この後……」
 そう、秘匿に秘匿されてきたハルケギニア最大の秘密がこの先にある。
 ブリミルは暗い声で、感情を押し殺して淡々と続けた。
「戦いは激化し続けた。けれど、僕らには優れた医療技術があったおかげで、仮に致命傷を受けたとしても治すことが可能だったために、勝敗はなかなかつかずに長引き続けた。当然、もっと強い武器をと僕らは考え……ついに最後のタブーさえも犯してしまったんだ」
 イリュージョンの再現映像が、着陸しているマギ族の円盤を映し出した。そして、その中に住民たちが連れ込まれている様子が映し出され、中でなにが行われているのかに切り替わったとき、今度こそ全員の眼差しが恐怖に染まりきった。
 
「に、人間が……人間が改造されている」
 
 円盤の内部の部屋には、ドラゴンを作り出していた工場にあった水槽と同じようなものが並べられており、その中には連れ込まれてきた近隣の人々が浮かべられていた。
 死んでいるのか? 水槽の中に浮かべられている人間たちは目をつぶったまま身動きしないが、水槽の中の液体は不思議な明滅を続けており、中の人間に何らかの手が加えられているのは誰の目にもわかった。
 そして、水槽から出された人は、自分の身に何が起こったのかを理解できていない様子だったが、ロボットから一本の棒を渡されると、何かに気づいたようにそれを振った。
 その瞬間、すべての謎は解かれた。
 
『ファイヤーボール』
 
 呪文とともに棒……いや、杖から炎の玉が放たれると、誰もがすべてを理解した。

478ウルトラ5番目の使い魔 54話 (10/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:08:14 ID:hwFD3p2w
「ま、魔法……」
 それは間違えようも無く、ハルケギニアの人間ならば知っていて当然の魔法……魔法そのものであったのだ。
 水槽から出されてきた人々は次々と杖を渡され、水槽内ですでに脳に使い方を刷り込まれていたのか苦も無く魔法を使い始めた。エア・カッター、ウィンドブレイク、錬金、今のハルケギニアで当たり前に使われている魔法が完全にそこに再現されていた。しかも、使っているのはそれまで魔法を使ったことなど無い普通の人間たちである。
 魔法の力を得て、戸惑いながらも歓喜する人々。それを見て、エレオノールは冷や汗を流しながら言った。
「ま、魔法の力は脳の働きに由来するっていう説があるわ。メイジの脳は、ほんの少しだけど平民の脳より大きいから、きっとその部分が魔法を使うために必要なんだろうって。だから、なんらかの方法で人間の脳をいじることができれば、理論上は平民でも魔法が使えるようにはなる、のが学者の中ではささやかれてたけど……私たちの技術では絵空事に過ぎなかった。だけど、もしも私たちよりはるかに技術の進んだ誰かが、過去にいたとしたら」
 学者たちの中で密かに流れていた、決して表立って言うことのできない魔法の起源説。しかしそれは、もっとも残酷な形で的を射ていたのだ。
 ブリミルは補足説明をした。
「僕らは長い旅の中で様々な超能力を持った宇宙人たちと会い、その能力を記録し続けていた。その能力を人間の脳に刻み込み、呪文というワードをキーにして解放できるようにした。それが、君たちの言う魔法の正体だ」
 ただし、人間の脳を改造するということは、これまではマギ族たちもやりすぎだと忌避してきた。しかし熱狂する彼らは、その羞恥心さえも捨て去ってしまったのだ。
 魔法を使える兵隊の投入は、戦場をさらに激しく変えた。現在でも、メイジと平民の間に大きな差があるのは周知の事実だ。それを近代武装をした兵士が持ったとしたらどうか? 単純な話、グリーンベレーやスペツナズが魔法を使えるようになったらもはや手がつけられないだろう。
 メイジを戦線の主軸に添えたマギ族の軍隊は支配領域の大幅な拡大に成功した。しかしそれは一時的なものに過ぎず、相手もこちらと同じ技術力があるなら新兵器は簡単に模倣される。すぐにどのマギ族もメイジを量産し、戦いはふりだしに戻った。
 すると、メイジ以上の兵隊を欲するのが当然だ。マギ族は今度は人間の直接の強化に乗り出した。
 バイオテクノロジーのモラルを失った乱用は、人間をベースに考えられる限りの強化が行われた。背中に翼を植えつけて直接の飛行能力を持たせたり、獣の遺伝子を配合して身体能力の強化を狙ったり、逆に人間の遺伝子を豚や牛に植えつけることで最低限の知能を有する使い捨ての突撃兵を量産したりもした。
「翼人、獣人、オーク鬼にミノタウルス……」
 ルイズが震えながらつぶやいた。それらの亜人たちが人間を材料にして次々と量産され、戦場へと投入されていくごとに混沌は深まっていった。
 しかしそれは、確実に現代のハルケギニアの光景に近づいてきていることでもあった。そして遂に、マギ族は戦闘用改造兵士の最高傑作と呼ぶべき一品を作り上げた。
 メイジよりはるかに強い魔法の力を持ち、人間より優れた肉体で寿命が長く、そして遺伝子操作によって男女問わず美貌を持つ新人類。それが改造用水槽から姿を現したとき、ティファニアとルクシャナはこれが悪夢であることを心から願った。

479ウルトラ5番目の使い魔 54話 (11/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:09:51 ID:hwFD3p2w
「エ、エルフ……」
 同族であるルクシャナにははっきりとわかった。いや、間違えるほうが困難であろう。
 透き通るような金髪、ひとりの例外もない美貌、そして人間よりも長く伸びた両耳。それはすべて、彼女たちエルフのそれそのものであったのだ。
 エルフまでもが『作られている』。しかも、人間をベースにしてである。先住魔法も本物だ……ルクシャナは、自分の歯がカチカチと鳴っているのを止めることができなかった。
 戦場に投入されたエルフは、ハルケギニアの歴史で何度も繰り返された聖戦で展開された光景同様に、強力な先住魔法で人間の軍隊を蹴散らしていった。近代武装を持つ上に先住魔法を駆使するエルフの軍隊の威力は、たとえ地球の軍隊であったとしてもかなわないかもしれないほどの強さを見せていた。
 しかしそれも一時のことで、戦いはすぐにエルフ対エルフの戦いへと転換する。その繰り返し……繰り返し……繰り返し。
 
 ブリミルが説明を切って、イリュージョンのビジョンを閉じると、一同の中で顔色を保っている者はいなかった。才人も言葉を失い、カリーヌも拳を強く握り締めたままで立ち尽くしている。部屋の入り口で見張りについているアニエスとミシェルも、冷や汗を隠しきれていない。
 これが……これが事実ならば、今のハルケギニアという世界は。誰もが認めたくないという思いを抱いている中で、タバサが勇気を振り絞ってブリミルに問いかけた。
「なら、今ハルケギニアにいる、幻獣や亜人たち、エルフ……そして、メイジというのは」
「そう、すべて僕らマギ族が”兵器”として作り上げた人造人間なんだよ」
 完全なるブリミルの肯定が、一同のすがった最後の甘い藁を焼き払った。
 ハルケギニアとは、そこに住む生き物とは、そのすべてが作り物だった。
 アンリエッタがあまりのショックによろめいて倒れかけ、ウェールズに慌てて支えられた。ルクシャナは部屋の隅で激しく嘔吐し、ティファニアに背中をさすられている。そのティファニアも今にも泣きそうだ。
 エレオノールはルクシャナの気持ちがわかった。自分たちが始祖ブリミルの伝説が虚構であったことを知ったのと同様、頭の回転の速いルクシャナは、自分たちの信じる大いなる意思というものが宇宙人の能力の移植によって感じられるだけの虚構かもしれないと思い至ったからだ。
 大厄災の以前の記録が一切残っていないのも至極当然だ。それ以前の歴史など、最初から存在しなかったのだから。この星の魔法を使えない人間以外の知恵ある生き物はすべてが、六千年前に突然現れた箱庭の人形に過ぎないというのか。
 自分の信じるものが音を立てて崩れていく絶望。なにもかも、自分自身さえもが虚構であると知らされて平静でいられる者はいるまい。もしこの事実が公になれば、人間社会もエルフの社会も大混乱に陥ってしまうだろう。
 その中で、なんとかルイズとキュルケは深呼吸をしながら自分を保っていたが、ルイズはやがて歯を食いしばると激昂してブリミルに杖を向けた。

480ウルトラ5番目の使い魔 54話 (12/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:13:33 ID:hwFD3p2w
「あんたは、あんたたちは! この世界をなんだと思ってるのよ!」
「ちょっ、ルイズ落ち着きなさい!」
 キュルケが慌てて抑えたが、ルイズの怒りは止まらなかった。エレオノールや才人も止めに入るが、ルイズは両手を押さえられながらも涙を流しながら杖を振り回している。
「離して、離してよ! 全部、全部こいつらのせいじゃない。こいつらさえ来なかったら」
 今にもエクスプロージョンを暴発させそうな勢いのルイズに、とうとうカリーヌが手を出しそうになったときだった。ブリミルは深々と頭を下げて言った。
「すまない、君の言うとおりだ。すべては僕らの犯した罪、侘びのしようもない」
「謝ってすむ問題じゃないでしょ! ハルケギニアは、あんたたちのおもちゃじゃないわ」
「そのとおりだ。きっと、僕らが本来の故郷を失ったのも、その傲慢さがあったからなんだろう。僕らは、なんの罪もないこの星の人々に取り返しのつかないことをしてしまった」
 ブリミルは心からかつての自分を悔いていた。しかし、ルイズの怒りがそれでも収まらなかったとき、サーシャがブリミルをかばうように前に出た。
「待ちなさいよ。こいつに手を出すのは、私が許さないわ」
「なによ、あんただって元は人間でしょ。そいつの肩を持つの?」
「まだ話は終わってないわ。怒るのは、最後まで聞いてからにしてからでも遅くはないんじゃない? それに、こいつは一応は私の主人だからね、こいつをしばくのは私の特権よ」
 え? それ普通は逆じゃない? と、ルイズは思ったが、心の中でツッコミを入れたおかげで少し冷静さが戻って体の力を抜いた。
 部屋の空気にほっとしたものが流れる。結果的にだが、ルイズが暴れたことが適度なガス抜きになってくれたようだった。
 ルイズが引いた事でブリミルも頭を上げた。そしてサーシャに「すまないね」と声をかけると、再び杖を持ってイリュージョンの魔法を唱えた。
「もう少しだけ続くので、すまないが付き合ってくれ。エルフも加え、マギ族の戦争は激化の一途を辿った。だが、長引く戦乱とそれによる星の環境の破壊は、僕らも想定していなかった事態を招いた。戦火に釣られるようにして、この星の中に眠り続けていたものたちが次々と目覚め始めてしまったんだ」
 大地の底から目覚める無数の巨大な影。それが破局の始まりであった。あまりに星の環境を変えすぎてしまったことが、この星のもうひとつの先住種族である怪獣たちの眠りを妨げたのだ。
 土煙をあげて地の底から次々と現れる巨大怪獣たち。
 
 ゴモラ、レッドキング、ゴルメデ、デットン、キングザウルス、キングマイマイ、パゴス、リトマルス、ガボラ、ボルケラー、バードン。
 
 一挙に目覚めた怪獣たちは、まるで眠りを妨げたものがなんであるのかを知っているかのように人間たちに襲い掛かっていった。

481ウルトラ5番目の使い魔 54話 (13/13) ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:16:01 ID:hwFD3p2w
 巨体で暴れ、火を吹く怪獣たちの前には、マギ族の軍隊もまるで無力であった。一体や二体ならまだしも、怪獣たちはどんどんと現れてくるのだ。しかも戦争中だった彼らは、怪獣と戦っている背中から敵に狙われるのを恐れて連携などまるでとれなかったのだ。
 怪獣たちの猛威に、マギ族の中にも少なからぬ犠牲者が現れた。サハラの首都にいた者は別だが、各地方都市で戦争の陣頭指揮に当たっていた者は直接の被害を受けてしまったのだ。
 しかし、マギ族はこの事態になっても戦争をやめようとはしなかった。それどころか、むしろ怪獣たちを操って戦争の道具にしようとさえし始めたのだ。
「なんて愚かな。守るべきものも、大儀すらない戦争になんの意味があるというのだ」
 ウェールズがアンリエッタの肩を支えながらつぶやいた。レコン・キスタとの戦いで数多くのものを失った彼の言葉は重く、皆をうなづかせた。
 それでも、マギ族の優れた科学力は何体かの怪獣を従わせることに成功した。そして従えた怪獣たちを使って、戦争は続いていく。もはや、この戦争の落としどころをどうするのかなど、誰も考えてはいなかった。
 だが、これがマギ族が破滅を回避することのできる、本当に最後のタイミングであったのだ。マギ族は惑星原産の怪獣にはなんとか対抗できたものの、星の動乱に引き付けられるようにして、宇宙から多数の宇宙怪獣までもが来襲するようになったのである。
 
 ベムスター、サータン、ベキラ、メダン、ザキラ、ガイガレード、ゴキグモン、ディノゾール、ケルビム、そしてアボラスにバニラ。
 
 これらでさえ氷山の一角なほど、宇宙怪獣たちは先を争うかのように惑星に殺到し、その凶悪な能力を駆使して大暴れを始めた。
 たちまちのうちに炎に包まれ、灰燼に帰していく都市。摩訶不思議な超能力を駆使する宇宙怪獣の大軍団を相手にしては、いかなマギ族の超科学文明とても敵うものではなかったのだ。
 地方都市は次々に壊滅し、マギ族は従えた怪獣で宇宙怪獣に対抗しようとしたものの、しょせんは焼け石に水。軍隊は人間も亜人もエルフも疲弊しきり、士気もないも同然。まして、マギ族同士は今日まで戦争をしてきた相手を信用などできず、連携などはまったくできない。
 すでに戦争どころではないにも関わらず、それでも戦争は続いていた……まさに愚行の極み。だが、この世のすべてのものには終わりがある。
 そう、終わりを導く本当の破滅が現れたのだ。
 戦乱渦巻く世界に、空から舞い降りてくる金色の光の粒子。「あれは!」と、才人は叫んだ。
「すべての秩序が崩壊した混沌の世界に、そいつはやってきた。ヴァリヤーグ……我々はそう呼んだ、宇宙からやってきた、光の悪魔」
 ブリミルがそうつぶやく前で、光の粒子が地上の怪獣、宇宙怪獣問わずに取り付いて、凶悪な変異怪獣へと変えていった。そして強化・凶暴化した怪獣たちの前に、マギ族の武力は無力であった。
 一方的な破壊が文明を、マギ族の築き上げてきたすべてを炎の中に消し去っていく。マギ族の終わりの始まりが、夢の終わりの時が来たのだ。
 ヴァリヤーグ? あの光の粒子はいったい……戦慄する面々の中で、ティファニアだけがまるで知っていたかのように、ひとつの名をつぶやいた。
「カオスヘッダー……」
 無数のカオス怪獣の猛攻にさらされ、青く美しかった星は赤黒く塗り替えられていった。
 そして、廃墟の中をカオス怪獣に追われて逃げ惑う少年ブリミル。虚無の系統と、始祖の伝説の誕生……本当の愛と勇気と希望のために歩き始める、語られない歴史がここから始まる。
 
 
 続く

482ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/01/24(火) 22:17:36 ID:hwFD3p2w
今回は以上です。ウル魔版の始祖ブリミルの伝説、その始まりです。
思えばずいぶん前から伏線を引いてきたことですが、ようやくここで回収です。
それにしてもイリュージョンの魔法は便利です。もし四系統にこれがあったらギーシュあたりがエロいことに使いまくりそうですね。
では、次回は大厄災の真実に迫ります。

483名無しさん:2017/01/25(水) 08:50:30 ID:PBuWQPRI
ウルトラ乙
5番目の人の設定見て、SAMURAI DEEPER KYOを思い出したのは私だけだろうか

484名無しさん:2017/01/25(水) 21:05:11 ID:Zb3fg5l.
ブリミルがまだ子供〜少年の間に起きた事件だったんですか……

485名無しさん:2017/01/26(木) 16:54:53 ID:pvlTCPiQ
乙です。
ブリミル達とハルケギニアの人達の関係は、ヤプールと超獣の関係とさほど変わらないなんて・・・。
そりゃ涙も流すし、吐きもするだろう。
さらにその先の真実。次回も楽しみにしています。

486ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:39:50 ID:utWO93KQ
どうも皆さま今晩は、無重力の人です。
特に何もなければ21時43分から79話の投稿を開始したいと思います

487ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:43:06 ID:utWO93KQ
 八雲紫は夢を見ていた。ほんのちょっと前の出来事で、けれども決して取り戻せないとわかってる昔の思い出。
 冬眠の時に見る近くて遠い世界の出来事ではなく、自分が造りあげ、そして残酷で優しい仕組みを持ったこの世界での思い出。
 彼女たち妖怪にとって「ほんのちょっと前」と軽く言える月日は人間にとって十数年前と言うそれなりに長い月日の過去。
 あの頃の記憶を夢の中で見ていた紫は、幻想郷と外の世界の境目である博麗神社の境内に立っていた。 

「………ちょっと暑くなってきたわね」
 彼女はこれを夢の中と知っていながらも、身に着けている白い導師服をそろそろ季節外れだという事に気が付く。
 あの時と同じだ。夢の中と同じく季節が春から初夏へと移ろいゆく時期、自分は確かにここにいた。
 肌を撫でる゙暖かい゙気温が緩やかに、しかし確実に゙暑い゙熱気へと変わっていくそんな時期。
 今目の前に見える『数十年前の博麗神社』の中にいる、まだまだ幼く放ってはおけない゙彼女゙の様子を見に来ていたのである。

 白色ながらも、頭上の太陽と境内の大理石を反射する熱気という挟み撃ちで流石の八雲紫もその顔に一筋の汗を流してしまう。
「参ったわね、夢の中だというのに…こうも暑いと感じてしまうなんて…――ーそういえば、この時は…」
 衣替えはやっていたのかしら?一人呟きながらも、彼女は右手の人差し指で何もない空間にスッと『線を引く』。
 瞬間、人差し指で引いた線が縦へ大きく開いだスキマ゙となり、幾つもの目玉が彼女を覗く空間から愛用の日傘が飛び出てくる。
 紫は右手でその日傘を掴むと、まるで役目を終えたかのように゙スキマ゙は閉じ、跡形も無く消滅した。
「…確か、この年は外の世界の影響を少し受けてしまっていたのよね?あの時は…色々と大変だったわぁ」
 ゙彼女゙の先代―――つまり三十一代目の巫女がいた頃の当時を思い出しながら、傘を差した時―――
 懐かしくて愛おしくて―――今の゙彼女゙も思い出してほしい、当時の幼ぎ彼女゙が背後から声を掛けてきた。

「あっ、ゆかりー!ゆかりだー!」
 今の゙彼女゙に聞かせたら、思わず赤面して耳を塞いでしまうような舌足らずな声。
 日傘を差し終えたばかりの紫はその声に後ろを振り向くと、小さな巫女服を着た女の子がこちらへ走ってくるのが見えた。
 まだまだ年齢が二桁にも達していない子供特有の無邪気な笑顔を浮かべ、服と別離した白い袖を付けた腕を振り回しながらこちらへと駆けてくる。
 やや茶色みがかった黒髪と対照的な赤いリボンもまだまだ小さいが、却ってそれがチャームポイントとなっていた。
 笑顔で駆けつけてくれた小さな゙彼女゙に思わずその顔に笑みを浮かべつつ、紫ば彼女゙の体をスッと抱きかかえる。
 妖怪としてはあまり体力がある方とは言えないが、それでも゙彼女゙の体重は自分の手には少し軽かったと紫は思い出す。
「久しぶりねぇ…お嬢ちゃん。元気にしていたかしら?」
「うん!」
 ゙彼女゙は快活に頷き、ついで小さな両手で自分を抱いている紫の頬を触ってくる。
 ようやく柔らかい皮膚の下にある骨の硬い感触が少しだけ伝わってくる゙彼女゙の手。
 いずれはこの小さくも大切な世界の一端を担う者の手はほんのりと暖かく、微量ではあるが霊力の感じられる。
 まるで素人が見よう見まねで作った枡のように、ほんの僅かな隙間から零れていく酒のように゙彼女゙の力が漏れ出していく。
 この夢の中ではまだまだ幼い子供である゙彼女゙が、霊力を制御できるほどの知識や技術を知ってはいなかった事を紫は思い出す。

(そういえば、この頃はまだまだコントロールしようにもできなかったっけ…)
 霊力でヒリヒリと痛む頬と、今の自分の状況をを知らずに無邪気に障ってくる゙彼女゙の笑顔を見て紫は苦笑いを浮かべる。
 こうして夢の中で思い出してみれば、やはり゙彼女゙には恵まれた素質があったのだとつくづく納得してしまう。
 それは後に、この夢の中より少しだけ大きくなった彼女の教師兼教官役となった紫自身の思いでもあった。
(まぁ、後々教師役となる私が言ってしまうと…色眼鏡でも付けてるんじゃないかってあの娘に言われてしまいそうだけど…―――…ん?)
 夢の中でそんな事を思いつつ、まだまだ小さい゙彼女゙を抱きかかえていた紫は、ふと背後に何者かの気配を感じ取る。
 それは自分を除いて今この場に居る人間の中で最も力強く、下手すれば彼かまわず傷つけようとする凶悪な霊力の持ち主。
 故に妖怪だけではなく人間からも怖れられ、゙彼女゙と共に暮らしていた三十一代目博麗の巫女の気配であった。

488ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:45:04 ID:utWO93KQ
「あら、何やら胡散臭い気配がすると思ったら…アンタだったのね」
 まるで刃物の様に研ぎ澄まされ、少しドスを利かせれば泣く子が思わず黙ってしまう様な鋭い声。
 その声も今は共に暮らしている小さかっだ彼女゙がいるおかげか、どこかほんのりと落ち着いた雰囲気が漂っている。
 ここが夢の中だと自覚してはいるものの、実に十数年ぶりに聞いた三十一代目の声に紫の頬も自然と緩んでしまう。
「あらあら、随分大人しくなったわね?ちょっと前までは、境内に足を踏み入れただけで威嚇してきたというのに…」
「人を獣みたいに言うなっての」
 口元を袖で隠しながら呟いた紫に、巫女は苛立ちをほんの少し見せた言い方でそう返した直後、
「あっ、お母さん!」
 紫が抱きかかえていだ彼女゙がそう叫んで地面に着地すると、まるで脱兎の如き足の速さで巫女の下へと駆け寄っていく。
 そして巫女の近くまで来ると一旦足を止め、自分を見下ろす巫女を中心にグルグルと走り回る。
「こらっチビ!あんたねぇ、朝食が済んで早々神社の外へ出るなってアレほど…ちょ、人の話を聞けっての!」
 何やら巫女ば彼女゙に軽いお説教をしてやりたいのだろうが、肝心の゙彼女゙は忙しなく動き回っている。
 紫はそんな二人に背中を見せていたが、その時の光景は夢として見る前の現実でしっかりと目にしていた。
 両手を広げて笑顔で走り回る幼ぎ彼女゙と、そんな彼女にほとほと呆れながらもほんの少しだけ口元を緩ませていた巫女。

 ゙彼女゙がこの幻想郷の住人となったのは、この夢の中では半年も前の事。
 寒い寒い冬の山中。外の世界へと通じる針葉樹の森の中で、゙彼女゙は巫女に助けられた。
 その時、周囲に転がっていた炎上する鉄塊と身に着けていた服で、外の世界からやってきた者だと一目で分かった。
 当然の如く身寄りなどいるはずもなく、右曲折の末に゙彼女゙は巫女の下で育てられことになる。
 なし崩し的に゙彼女゙と暮らし始めてからというものの、孤独に暮らしていた巫女は他人というモノを初めて知ることが出来た。
 三十一代目には色々と問題があり、人里との付き合いも希薄であった故に゙彼女゙を受け入れてくれた時、紫は安堵のあまり胸をなで下ろしたものである。
 
(懐かしいわね…何もかも。―――夢とは思えないくらいに…)
 背後から聞こえる楽しそうな゙彼女゙の嬌声を耳に入れながら、紫はその場に佇んでいた。
 今夢で追体験しているこの日は、自分と巫女…そしで彼女゙にとってとてつもなく大きな転換点とも言える日。
 当時の紫は思っていた。やむを得ない事情で三十一代目となった巫女の為に、゙彼女゙の今後を決めておかねばならないと。
 制御しきれぬ力を抱え、一度タガが外れれば狂犬となってしまう巫女を助けようとして…幼ぎ彼女゙に次代の巫女になって貰うという事を。
 そして、それが原因で巫女との仲違いとなり――――結果として、彼女を幻想郷を消さねばならなくなったという過ち。

 いまこうして立って体感している世界は全て自分の過去であり、拭える事のできない過ち。
 それを分かっていながらも、紫は心のどこかでこれが現実であれば良いのにと願っていた。
 まるで人間が無茶な願いを流れ星に込めるように、最初から叶う筈がないとと知っていながら。



 目を開けて最初に見たものは、自分の棲家―――マヨヒガの見慣れた天井であった。
 天井からぶら下がる電灯を寝るときに消すのがいつも面倒で、いつの日か改装したいと思っている忌々しい天井。
 そして頭を動かして周囲を見回せば案の定、マヨヒガの中にある自分―――八雲紫の部屋である。
 夢の過去から戻ってきた紫は早速自分の体を動かそうとした瞬間、胸の中を稲妻が駆け抜けるようにして痛みが走った。
「―――――…ンッ!」
 思わず呻き声を上げてしまった彼女は、これが原因で自分は目をさましたのだと理解する。
 全く酷い寝起きね…。心の中で愚痴を漏らしつつ、ふと自分はどうして布団で寝ているうえに体がこんなに痛むのか疑問に思った。

489ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:47:10 ID:utWO93KQ
 自分の記憶が正しいのであれば、トリスタニアで霊夢を探していたルイズと魔理沙に彼女の居場所を教えた後で、幻想郷に戻ってきたのは覚えている。
 思いの外苦戦していた霊夢に助太刀しようかとあの時は思っていたが、あの二人ならば大丈夫だろうとその場任せる事にしたのだ。
 そしてハルケギニアを後にし、然程時間を掛けずに自分の棲家へ戻ったのは良かったが……そこから先の記憶は曖昧であった。
 まるで録画に失敗したテレビ番組の様に、そこから先の記憶がプッツリと途切れているのだ。
「確かあの後は…マヨヒガに戻ってきたのは覚えてるけど……その後は…――」
「本棚の整理をしていた私を無意識にスキマで引っ張ってきて、半ば無理やり看病させてたのよ」
 思い出そうとした紫に横槍を入れるかのように鋭く、それでいて冷たい声が右の方から聞こえてきた。

 その声に彼女が頭だけを動かすと、丁度襖を開けた声の主が天の川の様に白く綺麗な髪をなびかせて入ってくる。
 紺と赤のツートンカラーの服に、頭には赤十字の刺繍が施されたナースキャップ。そして寝込んだ自分へと向ける射抜くような瞳。
 かつては月の頭脳と崇められ、今は裏切り者として幻想郷に住まう月人にして…不老不死の蓬莱人―――八意永琳。
 幻想郷を支配する八雲紫自身も、油断ならない奴と思っていた彼女が何故ここに…?寝起きだった紫はそんな疑問を浮かべてしまう。
 そして寝起きだったせいか、ついつい表情にもその疑問が出てしまったのを永琳に見らてしまった。
「……その顔だと、記憶にございませんって言いたそうじゃないの?」
 彼女からの指摘でその事に気が付いた紫はハッとした表情を浮かべ、それを誤魔化すかのようにホホホ…と笑った。
「あらやだ、私とした事がうっかりしていましたわね……ふふ?」
「まぁ私も連れてこられた直後に見た貴女を見て驚いてしまったから、これで御相子という事にしましょう」
 そう言って永琳は紫の枕元に腰を下ろすと、彼女に「体を起こせる?」と聞く。
 ここは威勢よく頷いてスクッと上半身を起こしていきたいところなのだが、生憎先ほどの痛みではそれも難しいだろう。
 ほんの数秒ほど考えた紫が首を横に振ったのを見て、永琳は小さなため息をついてから彼女の肩に手を掛ける。
「とりあえずもう少し寝かせておくのが良いけど、生憎そうも言ってられないから手伝うわ」
「あら?何か物騒な言い方じゃないの―――…ってイテテ…!」
 
 幸い永琳の介助もあってか、紫は何とか上半身を無事起こす事が出来た。 
 まだ胸はチクチクと痛むものの、気にかかる程度で立ったり歩いたりする程度には何の支障にもならない程である。
「全く…貴女ともあろう妖怪が、こんなみっともない醜態をあのブン屋天狗に見られたら一大事よ?」
「完璧に見える者ほど、その裏では醜態を晒している者ですわ……ふぅ」
 ようやく布団から出て来れた紫は、永琳が着せてくれたであろう寝巻をゆっくりと脱ぎ始めた。
 汗を吸い、冷たくなった紺色のそれを半分ほど脱いだところで、ジッとこちらを見ている永琳へと視線を向ける。
 向けられたその視線から紫の言いたい事を察した永琳は、キッと目を細めて言った。
「着替えなら自分の能力で出せるでしょう。ちょっとは自分で動きなさい」
「……まだ私、何も言ってないんですけど?」
 あわよくば着替えを取ってくれるかもと思って向けた視線を一蹴された紫は、愚痴を漏らしながらスキマを開く。
 いつも身に着けている白い導師服と下着、それにいつも身に着けている帽子がスキマから零れ落ちてくる。
「それぐらい、視線で分かるわよ。……姫様も似たような視線を向けてくるから」
「あちゃ〜…既に予習済みだったというワケねぇ?」
 用済みとなったスキマを閉じた紫は既に慣れっこだった永琳にバツの悪そうな笑みを浮かべて、手早く着替えを済ませた。

490ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:49:05 ID:utWO93KQ
 着替えを済ませた紫はその後、じっと見守っていた永琳と共にマヨヒガの廊下を歩いていた。
 彼女曰く「長話になるだろうから居間で話したい」と言っており、まぁ確かに空気が籠っているさっきの部屋で話すよりマシなのだろう。
 紫自身は別にあの部屋でも良かったのだが、特に拒否する理由も無かったのでほんの少し痛む胸をそのままに廊下を歩いていた。
 廊下に面した窓から見える空は、外の世界で良く見る排ガスのような曇天であり、ふとした拍子で雨が降ってしまいそうである。
「それにしても、話したい事って一体どういうお話なのかしら」
「貴女なら、仮に私が逃げたとしても捕まえられるでしょう?だったら慌てる必要は無いというものよ」
 部屋を出て十秒ほどしたところで繰り出した紫の質問にしかし、永琳は答えをはぐらかす。
 まぁ確かにその通りなのだが、不思議とマヨヒガの中にいる彼女は威厳があるなぁ…と紫は思った。
 ついついそんな事を思ってしまった事が可笑しいのか、クスクスと笑いながら再び永琳に話しかける。
「私の家のはずなのに、何故だか貴女の方がマヨヒガの事を知ってそうね?」
 半分冗談で言ったつもりであったが、永琳はやれやれと言いたげな顔で肩を竦めて、
「そりゃあ一月と半分も貴女の看護で監禁されていたのよ、ここの掃除や炊事をしていく内に大体の事は把握できたわ」
 あっさりと言い放ってくれた事実に、流石の紫もその場で足を止めてしまう。
   
「――――…一月と、半分…?」
 真剣な様子で言われた言葉に、紫は思わず目を丸くし怪訝な表情で反芻してしまう。
 てっきり一日か数日の間気を失っていただけかと思っていたというのに、彼女の口から告げられた事実は予想の範囲をほんの少しだけ超えていた。
「何よ、てっきり数百年か千年ほど眠っていたと思ったのかしら?」
「…奇遇ね。貴女とは真逆の方向で考えていましたわ」
 そんな相手の様子を見かねてか、自分なりの冗句を飛ばした永琳に紫は気を取り直しつつも言葉を返した。
 一体自分の身に何が起こったのだろうか…?そんな疑問がふと頭の奥底から湧いてくる。
 幸いにも心当たりはある。今抱えている異変の初期に゙あの世界゙への侵入を試み、霊夢を召喚したであろう少女の遭遇。
 その時に出会い、襲い掛かってきたあの白い光の人型。それを追い払うために一撃お見舞いする時にもらった、あの一太刀…。

(でもまさか…傷自体はすぐに治ったし、あれ以降特に体調には変化は無かったけどねぇ)
 心当たりと言えばそれくらいなものだし…もう一つあるとすれば、少し賞味期限が切れた芋羊羹を茶菓子に食べた程度である。
 とはいえ妖怪がその程度で倒れて一月過ぎも倒れてしまうと、それはそれで物凄い名折れになってしまうが。
(もしかしてこの前、スキマに隠してて忘れてた最中を食べたのがいけなかったのかしら…?)
 思い当たる節がそれくらいしかない紫が、寝起きの頭をウンと捻りながら思い出そうとしており、
 永琳はそんな彼女の心の内を読んだかのように呆れた目で見つめつつ、心の中では別の事を考えていた。

(どうやら、本当に憶えてないらしいわね…この様子だと)
 暢気な妖怪だと思いつつ、やはりその姿から滲み出る『余裕』とでも言うべき雰囲気に永琳は感心していた。
 去年の秋、永夜事変と呼ばれるようになったあの異変で顔を合わせて以降、油断ならない相手だと認識している。
 あの巫女とは違いどこか浮ついていて、時折何をやっているのかと思う事はあっても、常にその体から『余裕』が滲み出ていた。
 例えるならば剣術に長けたものが相手の目の前でわざとおふざけをし、いざ切りかかってきた瞬間にそのまま一刀の元に切り伏せてしまう『余裕』。
 傲慢とも取れる強者だけが持ち得る『余裕』を放つ八雲紫は正に、いかなる戦いでも勝ちを手に取る事の出来る真の強者。
 博麗の巫女以上に警戒すべき妖怪であり、この幻想郷で生きていく上では絶対に逆らってはいけない支配者なのである。

491ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:51:04 ID:utWO93KQ
(けれど、どうやら゙相手゙の方が一枚上手だったようね…)
 無意識のスキマで連れ去られ、半ば強引に彼女の治療をさせられていた永琳は紫の容態を把握していた。
 あの日…永遠亭の自室で空いた時間を利用した本棚の整理していた最中に、彼女はスキマによってここへ連れて来られた。
 突拍子も無く足元の床を裂くようにして現れたそのスキマには、流石の永琳でも避ける暇は無かったのである。
 しかし、結果的にそれがマヨヒガの玄関で倒れていた紫を助けることに繋がり…信じられない様な事実さえ知ることができた。
 恐らく彼女はそれを自覚していないかもれしない。もしそうであるならば今の異変に深く関わるもうあの世界への評価を数段階上げなければいけない。
 いまその世界にいる博麗霊夢…ひいては幻想郷そのものに、これまでとは次元の違う異変を起こした異世界――ハルケギニアを。

「……あっ、こんな所にいたんですかお二人とも!」
 マヨヒガの廊下で立ち止まった二人が各々別の事を考えていた時、二人の耳に聞きなれた少女が呼びかけてきた。
 咄嗟に紫が前方へと顔を向けると、そこにいたブレザー姿の妖獣の姿を見て「あら!」と声を上げる。
 二人へ声を掛けた少女もとい妖獣は永琳と同じく月に住む兎――玉兎にして、彼女の弟子である鈴仙・優曇華・イナバであった。
 足元まで伸ばした薄紫色の髪、頭には変にヨレヨレでいつ千切れても可笑しくなさそうな兎耳が生えている。
 この場に居る三人の中では最も名前が長くそして頼りなさそうな雰囲気を放っているが、その能力は三人の中では最も性質が悪い。
 とはいえ本人はそれを悪用するほどの大胆さは持たず、それを仕出かす性格ではないので今は永遠亭で大人しく過ごしている。
 そんな彼女が何故この永遠亭にいるのだろうか?その疑問を知る前にひとまずは挨拶をしてみることにした。

「誰かと思えば、永遠亭のところの臆病な……え〜っと、月兎さん…?じゃあありませんか」
「え?あ、あの…月兎とは言わないんだけど…それはともかくとして、お久しぶりです紫さん」
 紫が自分の種族名を呼び間違えたことを指摘をしつつ、鈴仙は目の前にいる大妖怪におずおずと頭を下げる。
 無論彼女たち月の兎の正しい呼び方は知っているが、そこを敢えて間違えてみたが彼女は怒らない。
 やり過ぎればそれはそれで面白いモノが見れそうなのだが、それは自分の手前いる彼女の師匠が許さないであろう。 
「あら、優曇華じゃないの。もしかして、待てない゙お客さま゙に促されたのかしら?」
 鈴仙の師匠である永琳が右手を軽く上げつつ、何やら気になる単語を口にしている。
 ゙お客様゙…?自分の隙間が無意識に連れ込んだというのは、永琳だけではなかったのか…?
 小さく首を傾げつつも、ひとまず紫は次に喋るであろう鈴仙の言葉を聞いてから口を開くことに決めた。

「はい…、この天気だと雨が降りそうなので手早く済ませたいと…後、姫様もまだ起きないの?とかで…」
「あらあら…どうやら私が寝ている間に、御大層な見舞い客達が来てくれたようねぇ」
 二人の話を横から聞いていた紫は、頼りない玉兎が口にした言葉で永琳の言ゔお客様゙の姿を何となく想像する事が出来た。
 自分が居間へ来るのを首を長くして待っているのだろう、ならばここで時間を潰している場合ではない。
 笑顔を浮かべながらそう言った紫にしかし、永琳は苦笑いの表情を浮かべてもう一度肩を竦めて見せる。
「まぁ、そうね。貴女が倒れたと聞いて、何人かが見舞いに来てくれているけど…けど、」
「けど?」
「今日は今まで眠っていた分、たっぷりと話すことになるでしょうから、喉を潤すのを忘れないで頂戴」
 

 案内役が二人となり、やや狭くなった廊下を歩いていると窓越しに何か小さな物が当たったような音がする。
 何かと思い目を向けると、丁度曇天から振ってきた幾つもの水滴が窓を叩き始めた所であった。
 彼女の後ろにいた鈴仙も聞こえ始めた雨音に思わず兎耳が動き、窓の方へと顔を向ける。
 これから梅雨入りの季節である、恐らくこの雨は連日続く事になるだろう。

492ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:53:10 ID:utWO93KQ
「……ふふ」
 パタパタと揺れ動く黒い蝙蝠の羽根に紫が思わず微かな笑い声を口から漏らした直後、レミリアの顔がすっと後ろを振り向く。
 気づかれちゃった…?一瞬そう思った紫ではあったが、幸運にも彼女の耳には入らなかったようだ。
「ほら、何やってるのよ。アンタがを覚ますのを首を長くして待ってたのは、私やそこの薬師だけじゃあないのよ?」
「それは大変ね。主役が遅れては、物語の本筋が進まないのと同じ事だわ」
 吸血鬼の呼びかけに紫は笑顔を浮かべたままそう答えると、再び居間へと向けて歩き始める。 
 レミリアが空けた襖の向こう、自分の記憶が正しければその先にはマヨヒガの居間がある。
 彼女と永琳に弟子の玉兎…そしてその兎が゙姫様゙と呼んだ未だ見ぬ゙お客様゙を含めた複数人の見舞い客。
 きっと彼らは自分の事を待っているのだろう。今現在、あの世界と自由に行き来できる自分から情報を得る為に。

「一月と半分ぶりのお話ですもの、たっぶりと口を動かしたいものだわ」
 紫は一人呟きながら、わざわざ出迎えにきてくれたレミリアの後をついていくように足を進めた。

 
(全く、一時はどうなる事かと思ったわ…)
 一触即発の空気を無事に抜き終えた永琳は、内心ホッと一息胸を撫で下ろす。
 最初に両者互いに言葉の売買を始めた時はどうしようかと思ったモノの、思いの外上手くこの場を収める事が出来た。 
 この先にいるのはあの吸血鬼の従者と、この異変に興味を見せ始めた永遠と須臾を操る自分の主。
 そして紫とは古い付き合いである華胥の亡霊ともう一人―――彼女と共にやってきた規格外の゙来客゙がいる。
 どうして彼女がわざわざ八雲紫の元へ見舞いに来たのか、本来なら目を覚ました紫に自分の許へ呼び出せる立場にあるというのに。
 本人は紫に直接話したい事があると言って、今日で三回目の見舞いに来てくれていた。

『さぁ〜?私に聞かれても分からないわよぉ。でもまぁ、彼女なりに紫を気遣ってくれてるんじゃない?』

 思わずその゛来客゙を最初に連れてきた亡霊に聞いても、そんな返事しかしなかった。
 埒があかずその゙来客゙本人に聞いてみるも、彼女も彼女であの八雲紫に話があると言って見舞いに来たの一点張り。
 紫とはまた別に厄介な、自分の考えを曲げない断固たる意志と威圧感を体から放ちながら゙来客゙は言った。

『ちゃんと貴女方にも伝えます。けれども、一番話を聞くべき本人が眠っていては意味がありません』

 つまりは八雲紫に直接口頭で伝えるべき事があるらしいが、それが何なのかまではイマイチ分からないでいる。
 しかし永琳は何か予感めいたものを感じていた。あの゙来客゙が紫の前で口にすることは、決して自分たちには関係ない事ではないと。

 そんな風にして永琳が襖の向こうにいるであろゔ来客゙の後姿を思い浮かべていた時、情けない声が背後から聞こえてくる。
「あ、ありがとうございます師匠。全く地上の妖怪同士のイザコザってのは危なっかしいものですね」
「それを言う暇があるなら、せめて私が動くより先に止める事をしてみなさい…」
 声の主、弟子の鈴仙が前を進む妖怪と悪魔を見遣りながら言ってきた言葉に、永琳はやれやれと肩をすくめた。
 薬学の覚えも良く頭の回転は速いし、自分の能力の使い方や運動神経も良しで、彼女は決して出来の悪い弟子ではない。

493ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:55:07 ID:utWO93KQ
 ただどうも臆病なのが致命的短所とも言うべきか、ここぞという所で動かないのである。
 先ほどの紫とレミリアが相対した時のような場面に出くわすと、何というか空気に徹してしまうのだ。
 特に自分がいなくても誰かが代わりに止めてくれると思っていると、尚更に。
 無論この前の異変の様に後に引けなくなれば押してくれる。呆気なくやられてしまったが。

「師匠の私としては、貴女のその臆病さを改善しないといけないって常々思います」
「えぇ〜…でも、でもだって怖いじゃないですか?あの八雲紫と吸血鬼の間に入るなんてぇ〜…!」
 鈴仙は元々白みが強い顔を真っ青にし、ワナワナと体を震わせながらついつい弱音を吐いてしまう。
 吸血鬼や亡霊の従者たちとは違い、ここぞという時に臆病さが前に出て全く動いてくれない玉兎の若弟子。
 いずれ落ち着いた時が来れば、その臆病さを克服できる゙何がをさせなければいけないと、永琳は心の中のメモ帳に記しておくことにした。




 トリステイン王国の首都、トリスタニアのチクトンネ街にある一角。
 通称゙食堂通り゙と呼ばれるそこは、文字通り幾つもの飲食店が店を構えていた。
 ブルドンネ街のリストランテやバーとは違い、主に下級貴族や平民などを対象とした店が多い。
 今日も仕事へ行く下級貴族たちが朝食を済ませ、急ぎ足で後にしていった食堂にはそれを埋め合わせるかのように平民の客たちが来る。
 その大半が劇場や役所の清掃員や、夜間の仕事を終えて帰宅する前の食事といった感じの者たちが多い。
 したがって客の大半は男性であり、この時間帯ば食堂通り゙を財布の紐がキツイ男たちが行き来する事になる。

 そんな通りにあるうちの一軒、主にサンドイッチをメインメニューにしている食堂「サンドウィッチ伯爵のバスケット」という店。
 朝食セットを選べば無料でスープとサラダが付いてくる事で名の知れたここには、今日もそれなりの客が足を運んでいた。
 カウンター席やテーブル席、そしてテラス席にも平民の男たちが占有して大きなサンドイッチを頬張っている。
 それはおおよそ女性や婦女子が食べるような小さなものではなく、いかにも男の料理らしいボリューミーなものばかりだ。
 程々にぶ厚いパンに挟みこまれているのは、これまた分厚いハムステーキや鶏肉に、目玉焼きのひっついたベーコンなど…
 入っている野菜も野菜でトマトやピクルス、レタスなどもいかにも男らしく大きめに切られて肉類と一緒に挟みこまれている。
 更に、少し財布の紐を緩めればトリステイン産のパストラミビーフのスライスを二十枚も入れた豪勢なサンドイッチも食べられるのだ。

 そんな店の外、テラス席に座った二人の平民の男たちがサンドイッチを片手に何やら話をしていた。
「なぁおい、この前のタルブ村で起こったっていう『奇妙な艦隊全滅』の話しの事なんだが…―――…ムグッ」
「あぁ、知ってるぜ?何でも、大声じゃあ言えないが親善訪問直前で裏切ったアルビオンの艦隊が火の海になったって事件だろ?」
 同じ職場の同僚もとい友人にそんな事を言いながら、彼は頼んでいたロブスターサンドを豪勢に頬張る。
 ロマリアから直輸入されたレモンの汁とオリーブオイルが利いたドレッシングが、朝一から彼にささやかな幸せを与えてくれる。
 ほぼ同年代の友人が食うサンドイッチを見つつ、自分が頼んだ目玉焼きサンドに胡椒を振り掛けながら相槌を打つ。
 この平民の男が言う『奇妙な艦隊全滅』の噂は、トリスタニアを中心にトリステインのあちこちへ広がりつつあった。
 噂の根源は既に行方知れずであるものの、多くの者たちがトリステイン軍の兵士や騎士達からその話を聞いている。
 証言者である彼らは先日親善訪問護衛の為にラ・ロシェールへと出動し、その一部始終を見ていたのだから。



 曰く、親善訪問の為にやってきたアルビオンを艦隊が、わざわざ迎えに来たトリステイン艦隊を突如裏切り、攻撃してきたのだという。
 しかし、事前に警戒していたトリステイン艦隊司令長官はギリギリでこれを回避、被害を最小限に留めたのた。
 不意打ちが失敗したアルビオン艦隊は追撃しようとしたものの、郊外の森で『偶然訓練の最中であった』トリステイン国軍が助太刀の砲撃。
 ゲルマニアから貰った対艦砲によってアルビオン艦隊は士気を挫かれたものの、白旗を上げるどころか見たことも無い怪物たちを地上へ放ったのである。
 国軍の兵士曰く「あまりにも身軽連中だったと話し、ラ・ロシェールで警護についていた騎士は「亜人でもない、幻獣でもない怪物に我々は浮足立った」と悔しそうに呟いていた。

494ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 21:59:03 ID:utWO93KQ


 森から砲撃していた国軍は止むを得ずラ・ロシェールまで後退し、警護の為町へ訪れていた王軍と合流したものの…。
 化け物たちの勢いはそれでも止まらず、とうとう王軍も町を放棄してタルブ村まで撤退するが、そこでも抑えきれなかったらしい。
 避難し遅れていた村人やラ・ロシェールの人々を連れて王軍、国軍は少し離れたゴンドアまで撤退し、そこに防衛線を築いた。
 王軍、国軍の地上戦力二千と、アルビオン艦隊との正面衝突では負けると判断し後退していたトリステイン艦隊を合わせれば三千の勢力。
 対する敵は国軍からの砲撃を喰らったものの無傷とも言えるアルビオン艦隊と、トリステイン軍の偵察が確認した地上戦力を合わせて四千。
 千という差はこの戦いではあまりにも大きく、更に国軍と王軍を退けた化け物がいる以上トリステイン軍は万全を期して敵を待ち構える事にした。

 ところがどうだ、敵は怪物たちを使ってタルブ村を乗っ取った後ピタリと前進をやめたのである。
 偵察に出た竜騎士曰く、まるでそこが終着駅であるかのように化け物たちは進むのを止めてタルブ村やラ・ロシェールを徘徊していたのだという。
 この時王軍代表の将校として指揮を執っていたド・ポワチエ大佐はその報告に首を傾げたが、なにはともあれ敵は前進を止めた。
 彼はそのチャンスを無駄にすまいと王宮へ伝令を飛ばし、町そのものを使った防衛線をより強固にするよう命令した。
 その内日が沈み、日付けが変わる頃には即席の要塞と化したゴンドアへ、ようやくアンリエッタ王女率いる増援が到着したのだ。
 たちどころに士気が上がり、籠城していた者たちは皆歓声を上げ、アルビオン王家を滅ぼした侵略者たちをここで食い止めて見せると多く者が誓った。

 しかし、彼らの予想に反して空と地上で行われる激しい攻防戦が始まることは無かった。
 圧倒的に精強な艦隊と無傷の地上戦力に、見たことも無い怪物たちを操っていたアルビオンが勝ったわけではなく、
 かといって防衛線を固め、王女率いる増援を迎え入れたトリステインが勝利したと言われれば、本当にそうなのかと首を傾げる者たちがいる。
 その多くが実際の光景を目にしたトリステイン軍の兵士や将校達と、彼らよりも間近でソレを目にしたアルビオン軍の捕虜たちであった。
 出動した魔法衛士隊の隊員はその時目にした光景を、「一足早い夜明けが来たのかと思った」と証言している。
 一方でアルビオン側の捕虜…とくに甲板にいた士官たちはこう証言している。「我々の目の前に小さな太陽が生まれ、船と帆を焼き払った」と――――。
 それが『奇妙な艦隊全滅』こと『早すぎた夜明け』―――――アルビオン側の捕虜たちの間で『唐突な太陽』と呼ばれる怪現象だ。

 アンリエッタ率いる増援が町へ到着し、息を整えていた時に…突如ラ・ロシェールの方角から眩い光が迸ったのである。
 そのあまりに激しい光に繋がれていた馬や幻獣たちは驚き、乗っていた兵士や将校たちを振り落としかねなかったそうな。
 この時多くの者たちが何の光だとは叫び戦き、あるモノはアルビオン軍の新兵器かと警戒し、またある者は夜明けの朝陽と勘違いした。
 光は時間にして約一分ほどで小さくなっていき、やがて完全に消えた後…代わりと言わんばかりに山を照らす程の火の手が上がり始めたのである。
 急いで出動した偵察の竜騎士が見たのは、ついさっきまでその威圧漂う偉容で空を飛んでいたアルビオン艦隊が、一隻残らず火の手を上げて墜落していく姿であった。
 艦首を地面へ向けてゆっくりと落ちていくその姿は正に、太陽の熱で翼を焼かれた竜の様に呆気ない艦隊の゙最期゙だったという。

 当初トリステイン側は、アルビオン艦隊が火薬の不始末か何かを起こして爆発を起こしてしまったりのかと思っていた。
 だがそれにしてはあまりにも火の手が激しく、最新鋭の艦隊がこうも簡単に沈むとは到底考えられない。
 更に不思議な事に、墜落現場へと魔法衛士隊や竜騎士隊が一番乗りしてみるとアルビオン側の者たちは殆ど無傷だったのだという。
 何人かが墜落する際の騒ぎで怪我した者はいたが、輸送船に乗っていた地上戦力も含めて死者はいなかったのである。
 いくら何でもそれはおかしいと多くの者たちが思い、士官や司令長官達に尋問を行った所…奇妙な証言をする将校たちがいた。
 彼らは皆あの巨艦『レキシントン』号に乗船していた者達で、先頭にいた彼らはあの光を間近で見ていたのだ。
 その内の一人であり、王党派よりであった『レキシントン』号の艦長ヘンリー・ボーウッドが以下の様に証言している。

495ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:01:16 ID:utWO93KQ
「あの時。いざゴンドアへ向けて前進しようとタルブ村を超えかけた所で、私は遥か真下から強い光が迸るのを見た。
 まるで暗い大海原で見る灯台の灯りの様に眩しく、遥か上空からでもその光を目にする事が出来た。
 何だ何だと私を含め多くの士官たちが駆けより、とうとう景気づけに酔っていた司令長官まで来た直後―――あの光が迸った。
 小さな太陽とはあれの事を言うのだろうか、最初我々の頭上に現れたソレに目を焼かれたのかと錯覚してしまった程眩しかった。
 私自身の口と周りにいた士官仲間や司令長官、そして周りにいた水兵たちの悲鳴が一緒くたになり、耳に不快な雑音となる。
 そうして一通り叫んだところでようやく光が消え去り、焼かれる事の無かった目で周囲を見回した時……辺りは火の海になっていた。
 そこから先は八方塞がりだったよ。帆は焼け落ち、船内の『風石』も燃え上がって…緩やかに地面へ不時着するほか手段がなかった」

 彼を始め、尋問で話してくれた多くの者たちがある程度の差異はあれど同じような証言をしている。
 突如自分たちの頭上に太陽と見紛う程の白い球体の光が現れ、船の甲板と帆に船内の『風石』だけを焼き払って消え去った。
 艦隊が成す術もなく墜落していった原因はこれであり、調べてみたところ確かに『風石』だったと思われる灰の様なものも確認している。
 この不可解な現象に流石のトリステイン王国の政治上層部も素直に喜んでいいのか分からず、更なる調査が必要だと議論の真っ最中であった。
 一方で軍上層部―――俗にいう制服組の一部には「奇跡の光」と呼んで、余計な犠牲が出ずに済んだことを喜ぶ者たちがいた。
 自軍の艦隊はほぼ無傷であるのに対し、敵側となったアルビオンは『レキシントン』号をはじめとする精鋭艦隊をゴッソリ失ったのである。
 地上戦力は国軍、王軍の現役将校たちを含め約五百名以上が亡くなったものの、戦略上ではさしたる被害にはならない。



 ―――――…とはいえ、此度の戦には不可解な現象が幾つも起きており。
 アルビオン艦隊の全滅と共に姿をくらました怪物たちや、例の光に関しては早急なる調査が必要である。』…とのことです」


「ご苦労でしたマザリーニ枢機卿。…さて、と…ふぅ」
 妙に長かった報告書をやっと読み終えたマザリーニ枢機卿が一息つくと、アンリエッタは右手を軽く上げて礼を述べた。
 場所は執務室、白をパーソナルカラーとしているトリステイン王宮の中では異彩を放っている渋い造りとなっている一室である。 

 ゴンドアから戻ってきてから幾何日、ようやく戦闘後の事後処理が済みかけていると実感しつつ、まだまだ気は抜けないと実感してしまう。
 報告書にも書かれていたが、今回ラ・ロシェールとタルブで起きた戦闘は一言でいえば゙奇怪゙であった。
 トリステインの情報網には全く引っ掛らなかった謎の化け物たちに、艦隊を全滅させた謎の光。
 そして艦隊が無力化されたと同時に、まるで霞の様に姿を消してしまった怪物たちの事など…数え上げればキリがない。
 形式的には勝利したものの、枢機卿を含めた多くの政治家たちにとって、腑に落ちない勝利とも言えよう。

「とはいえ…我が国を無粋にも侵略しようとした不届き者どもを退けられた事は、素直に喜びたいところですわ」
 アンリエッタは枢機卿の読んでいた報告書の内容を頭の中で反芻しながら、ソファの背もたれに自らの背中を沈ませた。
 王宮に置かれている物だけあって程々に柔らかく、硬い背もたれは緊張続きだった体を優しく受け止めてくれる。
 ついで肺の中に溜まっていた空気を軽く吐き出していると、自分の口ひげを弄るマザリーニが話しかけてきた。
「左様ですな。それに我々の手の内には彼奴らがこの国で内部工作を行っていた証拠もあります」
「そうですね。今私達の両手には杖と短剣が握られており、相手は丸腰の上手負いの状態…しばらく何もないことを祈りましょう」
 アンリエッタはマザリーニの言葉にそう返すと姿勢を改め、自分と枢機卿の前にいる゙者達゙へと話しかけた。

496ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:03:06 ID:utWO93KQ


「そしてルイズ、レイムさんにマリサさん――そして他の方々も…此度の件は、本当に助かりました」
「えっ…?あのッ…その、姫さま…そんな、貴女の口から賛辞を言われる程の事は…」
 暖かな笑みと眼差しと共に口から出た彼女の賛辞は、向かいのソファに座るルイズ、霊夢、魔理沙の三人の耳にしっかりと届いた。
 あの戦いから幾何日か経ち、すっかり元気を取り戻したルイズは親友からの礼に思わずたじろいでしまう。
 ルイズは先ほどの報告書でも出ていた『艦隊を全滅させた奇妙な光』を放ったのは自分だと確かに憶えている。
 しかし…だからといってあの光を―――『エクスプロージョン』を自慢していい類の力だと彼女は思っていなかった。
 だから今、こうしてアンリエッタに褒められても素直に喜ぶことができないでいた。

 一方でルイズの右に腰を下ろした霊夢はティーカップを持っている左手を止めて、チラリと横目でルイズを見遣る。
(全く、変なところで不器用なのね)
 自分の横で若干慌てながらもシラを切ろうとしている彼女の姿に、おもわず肩を竦めたくなってしまう。
 唇に紅茶の熱い湯気が当たるのを感じながら、謙虚な態度を見せるルイズに思わず言葉を投げかけた。
「良かったじゃないの、アンリエッタに褒められて?アンタもあんだけ、気合入れてぶっ放した甲斐が……」
「……ッ!ちょ…レイム、その事は喋るなって言ったでしょうに…!」
 いきなり真相を喋ろうとしていた巫女を制するかのように、ルイズは咄嗟に大声を上げた。
 体は小さくとも、まるで成熟したマンティコアの様な大声で叫ばれた霊夢は、思わず顔を横へ逸らしてしまう。
 反射的に怒鳴ってしまった後、それに気づいたルイズがハッとした表情を浮かべた直後、今度は魔理沙が絡んでくる。
「ほうへんふぉんするなひょ?ひゃいひょひゃびびっひゃけど、あへはふぅーふぅんひまん―――――ウグゥ……ッ!?」
「口にお菓子咥えたまま喋るなッ!」
 霊夢とは反対方向に座っていた普通の魔法使いは、茶請けのフィナンシェを口に咥えたまま喋っていた。
 結果的にそれがルイズの怒りに触れてしまい、張り手の様に突き出された右掌で無理やりフィナンシェを口の中へと突っ込まれてしまう。
 幸いにもフィナンシェは半分ほど食べていたおかげで、喉に詰まるという最悪のハプニングに見舞われることは無かった。

 自分のペースで食べる筈だった硬めの焼き菓子が、一気に押し込まれるという突然の出来事。
 たまらず目を見開いて驚いた魔理沙は辛うじて飲み込み、急いで手元のコップを手に取り中に入っていた水を一気に煽った。
 しっかりと冷たいそれが口の中で滅茶苦茶になったフィナンシェを解し、何とか空気が入る余地を作る。
 そして水をゆっくりと飲み、柔らかくなったお菓子を口の中で噛み砕いていきゆっくりと嚥下していく。
 時間にすればたった三秒ほどであったが、魔理沙にとってこの三秒は人生の中で五本指に入る程の危機であった。
「ウッ―――く、…ゲホッ!お、おまえなぁ…なにもいきなりあんなことをするなんて…!」
「悪いけどさっきのアンタからは、非しか見えなかったからね?」 
「そうねぇ。むしろ、トリステイン王家の傍にいるトリステイン貴族を前にして流石にあれは無茶だわ」
 何とか飲み込めたものの多少咳き込みながら恨めしい視線を向けてくる魔理沙に、ルイズは冷たくあしらう。

 まぁ確かに彼女の言うとおりであろう。その様子をルイズたちの後ろから眺めていたキュルケが、頷きながら続く。
 そこへギーシュもウンウンと同じように頷きながら、薔薇の造花が目立つ杖で口元を隠しながら魔理沙をジッと睨み付けた。
「全くだよ。こともあろうに、王女殿下の目の前であのような態度…!場所が場所なら大変な事になっていたよ」
 本人としては十分決まったであろうセリフにしかし、魔理沙は怯えるどころか面白そうな表情を浮かべている。
 ついさっきまでお菓子で窒息死しそうになった癖に、相も変わらず霧雨魔理沙は元気のようだ。

497ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:05:06 ID:utWO93KQ
「お、何だ何だ?決闘騒ぎにでもなってくれるのか?」
「それなら安心しなさい。ギーシュのヤツ、そこの巫女さんに喧嘩吹っかけといて呆気なく負けてるから」
 楽しそうな表情を浮かべる黒白に対し、彼氏の隣に立っていたモンモランシーが呆れた表情を浮かべて言った。
「も、モンモランシー…それは言わないでおくれよ…!」
「はは、そう心配するなよ。あの霊夢に喧嘩を売ったっていうなら、それだけでも十分凄いぜ。まぁ痛い目も見ただろがな?」
 一方でガールフレンドに梯子を外されたギーシュに、魔理沙は満面の笑みを浮かべながら彼を励ます。
「もぉ〜…!何やってるのよアンタ達はぁ…!」
「ま、まぁこれは元気があって大変よろしいというか…心配する必要はないといいますか…あはは…」
 四人のやり取りを横目で見やりながらルイズは怒りを露わにし、アンリエッタはそんな彼女に寄り添うかのように苦笑いでフォローを入れる。
 一昔前のルイズなら魔理沙たちに激怒していただろうが、今では一応注意こそすれ怒り過ぎると却って逆効果になると知ってからはそれ程怒ることは無くなっていた。
 とはいえ、大切な姫様の御前というのに良くも悪くも自分のペースを崩さない魔理沙と、それにつられてしまうキュルケ達に頭を抱えたくなってしまった。
 そして霊夢はスッと一口紅茶を飲んでから…自分の後ろにタバサへと話しかけた。
「今ここで騒がしくしてるのが、アンタみたいに静かだったらどれ程良かったかしらね?」
「……そうでもない」
 ずれたメガネを指で少し直しながら、青い短髪の少女はボソッとそれだけ呟いた。 

 ルイズと霊夢達の事が気になり、彼女たちの後を追いその秘密を知ってしまったキュルケ、タバサ、モンモランシーにギーシュ。
 この四人もまた先日、あの戦の後にトリステイン軍に保護され、王宮の中で一時的に暮らしている。
 『エクスプロージョン』で艦隊を全滅させた後、気絶したルイズや疲労困憊していた霊夢達と共にトリステイン軍に保護されたのだ。
 当初は何故魔法学院の生徒がここにいるかと問われたものの、そこは口八丁なキュルケ。
 学院の夏季休暇が前倒しになったという事実を利用して、タルブ村への観光くんだりで戦いに巻き込まれたと説明してくれていた。
 よもやルイズと共に来ていた霊夢と魔理沙…それに前とは変わってしまったルイズを追いかけて来たとは言わなかった。
 その後全員がゴンドアへと連れて行かれ、以降あの戦の事を知る重要参考人として王宮で監禁生活を送っている。

「あ〜…―――ゴホンッ!」
 魔理沙が端を発し、盛り上げていた会話はしかし、アンリエッタの背後から聞こえてきた咳払いによって中断させられる。
 何かと思いルイズと霊夢、それにアンリエッタも後ろを見遣ると、渋い顔をしたマザリーニ枢機卿が口に当てていた握り拳をそっと下ろした。
「……あー、お話し中のところすみませぬが、そろそろ静かにしてもらえますかな?」
 まだ話は続いている途中です故。最後にそう付け加えた後、魔理沙につられていたキュルケ達は思わず背すじをピッと伸ばしてしまう。
 流石平民の身にして、伝統あるトリステイン王国の枢機卿にまで登り詰めただけあって、その言葉には不可視の重圧があった。
 ルイズとアンリエッタも崩れかけていた姿勢を正し、その一方で魔理沙は咳払いでこの場を黙らせてしまった枢機卿に思わず感心する。
「へぇ〜?見た目はヒョロヒョロとしてるけど、中々強かな爺さんじゃあ…――――」
「失礼ですが!私はこう見えても、まだまだ四十代ですのであしからず」
 態度を正さぬ魔理沙の口から出だ爺さん゙と言う単語に流石のマザリーニもムッとしてしまったか、
 キッと彼女の顔を睨みつけながら、さりげなく自分の年齢をカミングアウトした。
 

「――――――…あぁ〜悪い、次からは誰かを褒める時は年齢を聞いてからにするよ」
 流石の黒白の魔法使いもこれはバツが悪いと感じたのか、視線を逸らして申し訳なさそうに謝った。
 枢機卿の睨み付ける鋭い目つき、まるで獲物を見つけた猛禽の様な睨みが普通の魔法使いを怯ませたのだろうか。
 何はともあれ、アンリエッタの前で好き放題していた魔理沙には彼の目つきは丁度良い薬となったようだ。

498ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:07:07 ID:utWO93KQ

(流石ですマザリーニ枢機卿…!)
 ルイズが内心で彼にエールを送る中で霊夢は茶を飲み、タバサは相変わらずジッと佇んでいた。
 ひとまず、自分が入り込んだおかげで部屋が再び静かになったのを確認してから、マザリーニは小脇に抱えていた書類をアンリエッタに手渡す。
「では殿下、この書類の方に件の内容が記しておりますので」
「有難うございます枢機卿。…さて」
 何やら気になる事を言った彼から書類を受け取ったアンリエッタは、まず軽く目を通し始めた。
 読みやすいよう小さい画板の様な板に留められている書類の内容を目で追いながら、不備が無いかチェックする。
 そして書類を受け取って十秒ほど経った頃であろうか、アンリエッタはルイズたちの前でその口を開いた。

「神聖アルビオン共和国艦隊旗艦。『レキシントン』号艦長、ヘンリー・ボーウッド殿からの追加証言……」
 タイトルであろう最初の一文に書かれた文字を、アンリエッタはその澄んだ声でスラスラと読み始める。
 報告書自体はものの五分程度で読み終える程のものであったが、書かれていた内容はルイズを大いに驚かせた。

 以下、要点だけを挙げれば報告書には以下の様な内容が記されていた
 あの『レキシントン』号の艦長を勤めていたというボーウッドと言う将校の他、何人かの士官が一人の少女を見たのだという。
 丁度タルブ村からアストン伯の屋敷へと続く道がある丘の上で、杖を片手に呪文を唱えていたというピンクブロンドの少女を。
 更に彼女の周りには幼い風竜が一匹、そして彼女とほぼ同年代と思える五人の少女に一人の少年の事まで書かれている。
 何だ何だと船の上から望遠鏡でみていた矢先、呪文を唱えていた少女が杖を振り下ろしたと同時に―――あの『奇妙な光』が発生した。
 そして最後に、ボーウッド殿は地上にいた少女達が何者なのか興味を抱いている…という一文で報告書は終わっている。

 自ら報告書を読み終えたアンリエッタはまたもやふぅと一息ついて報告書をテーブルに置き、ついで手元のティーカップを持ち上げる。
 まだほんのりと湯気が立つそれを慎重に飲む姿を目にしつつ、最後まで聞いていたルイズは目を丸くして口を開く。
「……そ、そこまでお調べになっていたんですか?」
「ゴンドアにいた私達も見ていた程なのよルイズ。隠し通せる思っていたら随分と迂闊だったわね」
 ため息をつくよりも驚くしかなかったルイズを尻目に、喉を潤したアンリエッタは微笑む。
 モンモランシーとギーシュもルイズと同じ様な反応を見せていたが、キュルケは「まぁそうですよね」と肩を竦めながらそう言った。
 何せあの規模の艦隊をたったの一撃で全滅させたのだ。調べられないと思う方が可笑しい話である。
 タバサは相も変わらず無表情で突っ立っているだけであったが、その目が微かに呆然としているルイズの背中へと向いていく。
 彼女も彼女であの光を発現させた彼女に興味ができたのであろうが、その真意は分からない。 

 一方で、霊夢と魔理沙の二人も意外とこちらの事情が筒抜けであった事にそれなりに意外だったらしい。
 お互いの顔を一瞬だけ見合わせてから、こちらに笑みを向けるアンリエッタにまずは魔理沙が話しかけた。
「こいつは驚いたぜ、まさかあの『エクスプロージョン』の事まで知ってたなんてなぁ」
「『エクスプロージョン』…?爆発?それがあの光の名前なんですの?」
「ちょ、バカ…アンタ!そこまで言う必要はないでしょうに!」
 先に口を開いた黒白はさっきまでのシュンとしていた様子は何処へやら、再び快活な表情を浮かべている。
 アンリエッタは魔理沙の口から出た単語に首を傾げ、その言葉が出るとは予想していなかったルイズが咄嗟に反応してしまう。
 三人の間にほんの少し入りにくい空気ができたのだが、それを無視する形で霊夢が話に割り込んできた。

499ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:09:03 ID:utWO93KQ


「―――…ッ!?い、いけません姫さま!こんな危険な二人に爵位を授けるなどと…!」
「ちょっ…ひどくないかしら、その言い方!」
「随分ストレートに拒否したなぁおい」
 幻想郷の二人に爵位を授ける…。それを聞いたルイズがすかさず拒絶の意を示し、流石の二人も驚いてしまう。
 博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人と一緒に過ごしてきたルイズだからこそ、ここまで拒絶することができるのだろう。
 だからといって、それを駄目だと言うのにあまりにも全力過ぎやしないだろうか?
「アンタねぇ…もうちょっとこう、オブラートに包みつつ必要ないですって言えないの?」
「だってあんた達に爵位何て授けたら、それこそ何に悪用されるか分かったもんじゃないわよ…!特に魔理沙は」
「……あぁ、成程。アンタの考えてる事は大体分かったわ」
「ちょっと待て…!それは流石に聞き捨てならんぞ」
 最後に付け加えるようにして魔理沙の名が出た時、霊夢はルイズがあそこまで拒絶した意味を理解した。
 魔理沙に貴族の位を与えようものなら、確かに色々とトリスタニアから消えていくに違いない。主に本とマジックアイテムが。
 キュルケやギーシュたちも今日にいたる幾日の間に魔理沙の事を霊夢からある程度教えてもらっていた為、何となく理解していた。
「まぁ例えなくても盗みに行きそうだけど…ほら、ちゃっちゃっと話を続けて頂戴」
「え…?あ、はい…すみません」
 唯一理解してない本人の怒鳴り声を聞き流す事にした霊夢は、苦笑いを浮かべるアンリエッタに話の続きを促す。
 いきなり大声を上げたルイズに驚いていた彼女は気を取り直しつつ、再び話し始めた。

「ルイズ…報告書でも書いていた通り、あの光が出現する直前まで杖を振っていたのは貴女でしょう?
 ならば教えてくれるかしら?タルブでアルビオン艦隊と対峙した貴女が、あの時何をして、何が起こったのかを」

 単刀直入にあの光――『エクスプロージョン』の事を問われ、ルイズはどう答えていいか迷ってしまう。
 幾らアンリエッタと言えども、あの事を素直に言っていいのかどうか分からないのである。
「そ、それは……あぅ…」
 回答に窮し狼狽える親友を見てその内心を察したのか、アンリエッタはそっと寄り添うように喋りかける。
「安心して頂戴ルイズ。私も枢機卿も、ここで貴女から聞いたことは絶対に口外しないと始祖の名の許に誓うわ」
 アンリエッタがそう言うと、マザリーニもそれを肯定するかのようにコクリと頷く。

 確かに、この二人なら何があったとしても決して自分の秘密を余所にバラす事は無いだろう。
 それでも不安が残るルイズは、後ろにいるキュルケ達の方へと視線を向けると、彼女たちもコクコクと頷いていた。
「まぁ私から乗りかかった船だしね。それに貴女が船頭なら怒りはするけど沈みはしないだろうし、付き合ってあげるわ」
 先祖代々の好敵手でもあり、実家も部屋もお隣のキュルケがこれからの事を想像してか自身ありげな笑みを浮かべて言う。
 次いでモンモランシーも、戸惑いを隠しきれないのか二度三度と口をパクパクさせた後、勢いよく喋り出す。
「私は何も見てなかったし、聞かなかった!だ、だからアンタのあの事は黙っといてあげるわよ!」
 半ば自暴自棄気味な宣言にキュルケがニヤついている中、今度はギーシュが薔薇の造花を胸の前に掲げて、声高らかに宣言した。
「同じく、このギーシュ・ド・グラモンも!彼女ミス・ヴァリエールの秘密については一切口外しない事をここに誓います!」
「…グラモン?グラモンといえば、あのグラモン元帥の御家族なのですか?」
「左様。彼はあのグラミン伯爵家の四男坊であります」
 まるで騎士のような堅苦しい姿勢でそう叫んだ彼の名を耳にして、アンリエッタが思い出したようにその名を口にする。
 そこへすかさずマザリーニが補足を入れてくれると、ギーシュは自分が褒められた様な気がして更に姿勢を硬くしてしまう。
 まるで胡桃割り人形のように固まってしまった彼氏を見かねてか、モンモランシーが声を掛けた。
「ちょっと、アンタ何でそんなに自慢げに気をつけしちゃってるのよ?」
「い、いやーだって、だってあのアンリエッタ王女の前で枢機卿が僕の事を紹介してくれたんだよ?」

500ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2017/01/31(火) 22:11:04 ID:utWO93KQ

「全く、相変わらずの二人ねぇ……ん?」
 一人改まっているギーシュにモンモランシーが軽く突っ込みを入れているのを余所に、今度はタバサがルイズの肩を叩いた。
 何かと思い後ろへ視線を向けると、先ほど見た時と違わず無表情な彼女がじっと佇んでいる。
「…?……どうしたのよタバサ」
 急に自分の肩を叩いてきた彼女にルイズがそう聞いてみると、タバサは右手の人差し指をそっと唇に当てた。
 たったそれだけして再び彼女の動きは止まったが、今のルイズにはそれが何を意味するのか大体察する事が出来る。
「もしかして…黙っておいてくれる…ってこと?」
 思わずそう聞いてみると彼女はコクリと小さく頷き、そっと人差し指を下ろす。
 他の三人と比べてあまりにも小さく、そして目立たないその誓いにルイズはどう反応したらいいか、イマイチ分からなかった。
 そんな彼女をフォローするかのように、一連の出来事を隣で見ていたキュルケが嬉しそうに話しかけてくる。
「良かったじゃないのヴァリエール。タバサなら絶対に他言無用の誓いを守ってくれるわよ?」
「というか、私も私だけど…アンタもよくあれだけの小さな動作で把握できたわね…」
「ふふん!こう見えても彼女とは一年生からの付き合いなのよ?もうすっかり慣れちゃったわよ」
 思わず嫉妬してしまう程の大きな胸を張りながら、キュルケは自慢気に言った。 

 互いに入学当初から出会い、今では二人で一緒にいるほど仲が良いと言われているのは伊達ではないらしい。
 噂ではタバサの短すぎる一言で何を言いたいのか察する事ができると囁かれているが、あながち間違いではないようだ。
「まぁいいわ…で、後は…」
 ひとまずはあの場に居だ元゙部外者達が自分の秘密を守ってくれると確認できたルイズは、ふと自分の左にいる霊夢を見遣る。
 カップの中に入っていた紅茶を飲み終えた幻想郷の巫女は、ふと自分の方へ目を向けてきたルイズの視線に気づく。
 ―――――――今更どうしようも無いが、まぁひとまずは言っておいた方が良いだろうか?
 鳶色の瞳から垣間見える感情でルイズの意図を察した霊夢は、コホン!とワザとらしい咳ばらいをした後、ルイズと目を合わせて言った。

「安心しないさいな。アンタが仕出かしちゃった事は、墓場までは無理だけどなるべく言わないでおいたげるわ」
 傍目から見れば、割とクールな感じで秘密にする事を誓った霊夢であったものの、
「…そこは普通「墓場まで持っていくわ」じゃないの?ってか、なるべくってどういう意味よなるべくって…」
「まぁ良いじゃないか。人の口に戸は立てられないモノだし、そっちの方がまぁお前らしくていいと思うぜ」
 思ってたのと少し違う言葉に思わずルイズは突っ込みを入れてしまい、魔理沙は嬉しくない賞賛をくれた。
 二人の反応を見て「私らしいってどういう事よ…?」と気分を害した霊夢を余所に、ついで魔理沙も親指を立ててルイズの前で誓いを立てる。

「というわけで、私もお前さんの事は喋らないでいるが…まぁ口が滑った時は笑って許してくれよ?」
 口の端を吊り上げ、悪戯好きな彼女らしい笑みを浮かべた魔理沙の誓いに、ルイズもまた笑顔で頷いた。
「分かったわ。……とりあえずアンタの口には常時テープを貼るか包帯を巻いておいてあげるから」
「アンタの場合だと、本気でそれを実行しそうね。…まぁ止めはしないけど」
「おぉう、軽い冗談のつもりで言っただけだが…怖い、怖い」
 ――――ー口は災いの元っていうが、案外今でも通用する諺だな。
 普段からの自分を棚に上げながら、魔理沙は他人事のように笑いながら思った。

 その後、ルイズは自分の口からアンリエッタへあの光の源――『虚無』の事について詳しく説明する事となった。
 彼女から頂いた『始祖の祈祷書』と『水のルビー』が反応し、自分があの伝説の『虚無』の担い手であったと判明した事。
 古代文字が浮かびあがっちた祈祷書に、あの光――『エクスプロージョン』の呪文が記されていた事。
 そしてそれを唱え、発動して一瞬のうちにアルビオン艦隊を壊滅させた事までルイズは事細かにアンリエッタに話した。


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