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修正作品&試験投下スレ

1ルシファー@掲示板管理人 ◆8hviTNCQt.:2007/06/11(月) 01:23:42 ID:WrdARUbI
本スレ節約の為、修正した作品はこちらに投下して下さい。
また本投下する前に作品の内容や展開に不安がある時の試験投下の利用もどうぞ。

19追い詰められし者の牙(修正ver):2007/08/24(金) 06:35:07 ID:BgfcJG1E
額目掛けて飛んできた矢を、ガブリエルは顔を反らし、寸でのところでかわした。
視線をアリーシャに戻した彼だったがその姿は既にそこにはない。
(どこだ?)
地面に突如影が現れた。咄嗟に振り向くと彼女は空中で戦斧に全体重を乗せた一撃を撃ち下ろそうとしていた。
アリーシャは矢を放つと素早くボーガンを捨て、その矢目掛けて光子を放ち転移していたのだった。
「やあああぁぁぁぁっ!!」
彼女の放つ一撃は天を裂く雷光の様に鋭く、激しい。
流石に受けきれないと判断したガブリエルはサイドステップでそれを回避した。
地面を深々と戦斧は切り裂いた。
「獲った!」
アリーシャの頭部目掛けて刀を唐竹に振り下ろす。
またも光子を撃ちだすアリーシャ。
今度の標的は一矢目の壁に突き刺した矢だった。
カブリエルの剣閃は矢を真っ二つにするだけにとどまった。
壁を蹴り一気に間合いをつめたアリーシャは戦斧をフルスイングした。
肢閃刀でそれを受け止めるガブリエル。
キィンッ!と金属同士がぶつかり合う音と共に火花が散る。
ガブリエルはそのまま剣を押し込み鍔迫り合いに持ち込んだ。
腕力と体重の差から見て負ける要素は無いからだ。
思惑通りに徐々に押し込んでいっている。
(そろそろまずい。あの女の詠唱が完了してしまう)
そう判断すると刀を手前に引き、押し込まれまいと力を加えていたアリーシャの体勢を崩した。
すかさず彼女に足払いをかけ転倒させると、セリーヌ目掛けて刀を腰だめに構え突進した。
「まずは貴様からだ!セリーヌ・ジュレス!!」
地に伏せたアリーシャは背筋に冷たいものを感じた。
「いけない!」
この体勢ではガブリエルの行く手を阻めそうに無い。
これだけは最後の手段だったが迷っている暇など無かった。
アリーシャはセリーヌ目掛けて光子を連射した。
光子が命中したセリーヌは1射目で凍結、2射目で眩い光を放った。
ガブリエルはそれには構わず、刀を光の中にある人影に突き刺した。
確かな手応えを感じたガブリエルだったが、刀で突き刺した相手は先程まで対峙していた少女だった。
「貴様っ!あの女と入れ替わったのか!?」
刀を引き抜こうとするがその手を少女は力強く掴んで離さない。
「はい。もうこうする…しかなかったから…」
口からこぼれる言葉は擦れ始めていたが、手に込めた力は一向に緩くならない。
「人間同士の転移が可能ならば、私と入れ替われば…」
「それだと、ダメです…。あの人の魔法の…照準が定…まらないから」
「クソッ!放せっ!!」
ほぼ密着状態の上、右腕は刀傷によりまともに使えない。必死に体を振り動かすもこの少女は腕を放さない。

20追い詰められし者の牙(修正ver):2007/08/24(金) 06:37:38 ID:BgfcJG1E
キィンッ!と金属同士がぶつかり合う音が前方から聞こえてきた。
(もう少し耐えてくださいませ)
そう思いながらセリーヌは、己の中に秘めた魔力を込めながら自分の習得した最強の呪文『メテオスォーム』を放つため詠唱を続けていた。
続けてどさりと何かが地面に倒れる音が聞こえたかと思うと、何者かがものすごい勢いで近づいてくる気配を感じた。
目を開けて回避したい衝動に駆られたが、その衝動を押しとどめた。
(私が命を預けたあの娘は時間を稼ぐと約束してくれました。それに、私はあの娘の命を預かりました。
あの娘の命を救うにはガブリエルを今一度倒す他ありませんわ。だから私は詠唱をやめるわけにはいきませんの!)
そう思った刹那。体に何か魔力のかたまりの様な物が触れたかと思うと、離れた位置で刃物が肉を突き刺す嫌な音が聞こえてきた。
「貴様っ!あの女と入れ替わったのか!?」
ガブリエルの叫びが聞こえる。
「はい。もうこうする…しかなかったから…」
あの娘の次第に擦れてくる声が聞こえる。
「人間同士の転移が可能ならば、私と入れ替われば…」
「それだと、ダメです…。あの人の魔法の…照準が定…まらないから」
「クソッ!放せっ!!」
尚も詠唱を続けるセリーヌ。もうまもなく術は完成する。
「刺し違えてでもこの私を倒したいかっ!?小娘!!」
「ええ…。貴方はこの暴力が支配する…島にいてはいけない…。
貴方の振りかざす拳は…、この殺し合いに…抗う者達の命を奪ってしまう…。私は…この島に来る…前、確かに死にました。
貴方の…様に、この殺し合いの…主催者の様に、強大な力を…己のために使い、弱者を虐げる…暴君を討つ為…戦って死にました…。
でも、気付くと…なぜかこの島にいました…。けどきっと…ここにいるのは意味があるのだ…と思います…。
最初はルーファスと…もう一度会って…ここから抜け出す事だと思って…いました。けれど、それは間違っていました…。
生前…果たす事の出来なかった…事を成す為。弱者を虐げる…者の蛮行を…止める為。きっと私は…ここにいる! 
だから…私は貴方を止めるっ! 命を賭してでも…貴方を止めるっ!!」
(そこまでの覚悟がおありでしたのね…。ならば私も貴女の想いに応えます!)
最後の呪詛の言葉を紡ぎ術は完成した。
標的の再確認のため目を開く。
少女と一瞬目が合った。
(私に構わずこの男を倒してください!)と瞳が告げている。
体内に溜め込んだ精神力と魔力を解放し呪文を発動させた。
「メテオスォーム!!」
仮想空間のエクスペルの遺跡内部で見つけた呪文書に記されし、失われた太古の呪文にして最強の呪文。
次元を切り裂き無数の隕石を召喚して操る呪文。
隕石の全てを過去最大の敵であったであろう男目掛けて降り注がせた。

21追い詰められし者の牙(修正ver):2007/08/24(金) 06:38:22 ID:BgfcJG1E
辺りにはエクスプロードの時以上に煙が昇っている。
地面には無数のクレーターが出来上がっている。
自身の放った呪文『メテオスォーム』の残した爪跡を見てセリーヌは身震いをした。
(相変わらずとんでもない呪文ですわ)
突如眩暈を感じその場に跪いた。
(いつも以上に堪えますわね。これも制限の影響ですのね)
まだ精神力は枯渇してないが中級魔法一発も満足に撃てそうにない。
(これでも止めをさせてなければ…)
突然煙がはれた。
強い衝撃波がセリーヌを襲った。
(これは…?ガブリエルのディバインウェーブ!?)
大きく後方に弾き飛ばされるセリーヌ。
頭を振り、頭上を回る星を振り払って前を見据える。
はれた煙の向こうには、やはりガブリエルが立っていた。
その体には『エクスプロード』の時以上のダメージが見て取れたが、ガブリエルは尚も生きている。
少女の死体を自分に覆い被せ直撃を防いでいたらしい。
(実は光子で転移する為の一時的な凍結により詠唱が途絶え、
術が完全な威力を発揮することができなかった事もガブリエルを倒しきれなかった要因となっていた)
ガブリエルは少女を貫いた刀を振り払い無造作に死体を抛った。
セリーヌは歯噛みした。
彼女の死体をゴミ同然に扱ったガブリエルに。
そして、それ以上に自分で任すようにと頼んでおきながら、仕留める事の出来なかった自分の無力さに。
「今の…は、かなり…堪えた…。だが、もう…仕舞いだ…。
いくら今…の私が傷ついて…いようが、壁役の…いない術師を始末…する事は…容易い」
一歩一歩とこちらに近づいてくるガブリエル。
彼の言うとおり前衛のいない術師は大した抵抗も出来ないだろう。
だがそれでもセリーヌは詠唱を始めた。
(私にはこれしかございませんものね。それに、ここで諦めてはあの娘に申し訳が立ちませんわ! 
せめてもう一撃。でないと死んでも死に切れませんものっ!)
そう思ったところでセリーヌの目に予想もしなかった光景が映った。
なんと、死んだと思っていたジェストーナが立ち上がり、ガブリエルを羽交い絞めにしているではないか。

22追い詰められし者の牙(修正ver):2007/08/24(金) 06:40:12 ID:BgfcJG1E
羽交い絞めしたガブリエルが叫ぶ。
「貴様っ!!大人しく死んだ振りを続けていれば見逃してやったものを!」
あっ、やっぱばれてたか。
「何故今になってその様な真似を!?」
あぁ、なんでだろうな?
俺はもっと賢しく生きていたはずなんだけどなぁ。
ただ理由はなんとなく察しがつく。
俺は過去に子供を盾に取り、敵に自害を迫るという鬼畜な事をした。
何故かって?あいつらを止めないと俺がダオス様に殺されちまうからだ。
クレス一行を殺せと命じられれば何としてでも殺さねばならない。
例えどんな汚い手を使おうとな。
きっと草葉の陰で息子も泣いていたに違いない。
まぁ、息子はおろか嫁すらいなかったわけだが。
けどそんな事を本心からしたかったわけじゃなかったんだ。
そう、言うなれば俺もダオス様という強者に虐げられる弱者だったんだ。
生きるためには仕方が無い。ダオス様の命令に逆らったら死が待っている。イヤだがやるしかない。そんな想いがどこかにあった。
そしてそこに来て少女Aのセリフだ。
(生前…果たす事の出来なかった…事を成す為、弱者を虐げる…者の蛮行を…止める為、
きっと私は…ここにいる! だから…私は貴方を止めるっ! 命を賭してでも…貴方を止めるっ!!)
俺の抱えていた憤りに対して少女Aはそう言った。
もし少女Aと過去に出会っていたら、もしかしたら俺にも、まともな生き方が出来ていたのかもしれない。
それに、窮地を救ったとはいえ(主にセリーヌだが)見ず知らずの俺達(こっちも主にセリーヌだが)を信頼して命を賭けやがる。
こんな年端もいかない少女がだ。
そんな熱い想いを見せられて、このまま死体の振りを続ける程、俺様は腐っちゃいないぜ。
「放せ!この下等魔族が」
俺の戒めを解こうと、ものすごい力で暴れるガブリエル。
あのバカみたいな威力の呪文を食らって、死に掛けなんじゃねぇのかよ?
「へっ、確かに俺はあんたの言うような下等魔族かも知れねぇ。あんたに手も足も出せなかった下等魔族かも知れねぇ。
だがな、そんな俺でも呪文の詠唱時間を稼ぐことぐらいならできる。流石にその傷じゃあもう一発も耐えられねえだろ? 
あんたはその下等魔族が稼いだ時間で死ぬんだ!」
「ちっ」
ガブリエルは悪態をつくと呪文の詠唱を始めた。
「無駄だ無駄だ。セリーヌの詠唱速度を侮っちゃあいけねえ。あの人より先に呪文を撃とうなんざ無理だね。
良くて同時発動で相打ち。普通に行けば発動することなくてめえは死ぬ」
呪文を完成させたらしいセリーヌがこちらを見て微笑みを浮かべている。
(ありがとうジェストーナ。あなたは良くやってくれたわ)とでも言いたげな表情だ。
恐らく俺も呪文に巻き込まれて死ぬだろう。
けど死ぬ前に見た光景が、これ程素敵な美女の微笑み(服装がかなり奇抜でぶっ飛んでいるが)なら俺は地縛霊となる事もなく天に召されるだろうさ。
そう思わせるほど魅力的な微笑みだった。
今目にしている光景を一枚の絵にしてタイトルを付けるなら、俺だったらこう付けるね『勝利の女神の微笑み』ってさ。

23追い詰められし者の牙(修正ver):2007/08/24(金) 06:41:40 ID:BgfcJG1E
「スターライト!」
セリーヌが今唱えられる最大威力の呪文に、極限まで魔力を込め発動させたその次の瞬間。
「スターフレア!」
ガブリエルも呪文を発動させた。
星々の光の奔流が混ざり合い地表に降り注いだ。
その光は術者以外の全ての者をなぎ払った。


辺りに静寂が訪れた。
この場にただ一人立った勝者がつぶやいた。
「危険な…、賭けであった…」
ジェストーナに羽交い絞めにされ、セリーヌの詠唱を阻止できない絶望的な状態においてガブリエルは咄嗟に閃いた。
それは今戦っていた者達が、死を間際にして見せた最後の抗いに似ていた。
アリーシャはガブリエルの攻撃を阻止できないと悟ると、その身を犠牲にしてセリーヌを守った。
あまつさえその傷ついた体のどこに秘めているのか分からないような握力でガブリエルの自由を奪った。
セリーヌは前衛がいない絶望的な状況の中、不屈の闘志を見せガブリエルにせめて一噛み牙を突きたてようと呪文を唱えガブリエルを追い詰めた。
ジェストーナはそんな二人の姿に心を打たれ、自らも決死の覚悟を伴い時間を稼ごうと、
彼の生涯で恐らく最初で最後であったであろう、圧倒的な力の差を持つ者に逆らってみせた。
そんな追い詰められし者達の最後の抵抗が、力の差が歴然としている相手ガブリエルをとうとう追い詰めた。
だが、彼らが見せたようにガブリエルも最後の抵抗をした。
ガブリエルの場合、それはこの窮地を脱する閃きだった。
彼は紋章術同士の干渉を引き起こす事を思い立った。
紋章術の干渉とは、同属性または、それに近い属性。もしくは、対立する属性同士の紋章術がほぼ同時に発動した場合に起こる現象で、
威力の強い術の方が弱い術を飲み込んで、威力まで取り込み標的を襲う。
過去に戦った経験があるが、それでもあの場でセリーヌが放つ呪文の属性は予測する事しかできない。
仮に予測と一致したとしても、術の完成がもう少し遅かったりしたらこの現象は引き起こせなかった。
干渉を起こせても自分の術のほうが飲み込まれるリスクもあった。
そうなれば確実に自分が死んでいただろう。
一種の賭けであったがそれでも、あの状況はそれを狙わねばならぬ程切迫していた。
そして、閃きを実行し、その賭けに勝った。
その賭けの払い戻しとして敵を駆逐する事ができた。
「一寸の虫にも五分の魂とは、よく言ったものだな…。いや、この場合は窮鼠猫を噛むか…。
これからは、何か事を起こされる前に手早く始末すべきだな。」
ガブリエルは3つの死体の持つバックを戦利品として回収すると再び焼き場の建物の中に消えていった。

24追い詰められし者の牙(修正ver):2007/08/24(金) 06:42:21 ID:BgfcJG1E
[現在位置:H-07 焼場建物内部/現在時刻:午後(もうまもなく夕方)]
【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:10%]
状態:右の二の腕を貫通する大きい傷。右腕は使えない。右肩口に浅い刺し傷。太ももに軽い切り傷。右太腿に切り傷。
左腕をはじめとする全身いたるところの火傷と打撲傷(ジェストーナの火炎、エクスプロード、メテオスォームによるもの)
装備:肢閃刀@SO3+ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界
道具:荷物一式 *4+セントハルバード@SO3+ボーガン@RS+矢*28本
+暗視機能付き望遠鏡@現実世界+????(0〜2)(セリーヌからの戦利品)
行動方針:フィリアの居ない世界を跡形も無く消し去る
思考1:コンテニュー
思考2:参加者の人数が減るまで行動はしない
思考3:潜伏先に侵入者が現れた場合は排除する。その際は何か手を打たれるような暇も与えず殺す
思考4:体の傷を癒す

備考:3人の死体は焼き場前に放置されています。原形はとどめているので知人なら誰だか識別できるでしょう。
スターネックレス@SO2はセリーヌの首にかかったままです。
無人君は次なる主を求めどこかに逃げました。特にどこに向かった等は指定しませんので、使えると思った書き手の方使ってください。
【アリーシャ 死亡】
【セリーヌ 死亡】
【ジェストーナ 死亡】


【残り36人】

25 ◆yHjSlOJmms:2007/08/24(金) 06:44:04 ID:BgfcJG1E
主な変更箇所は>>19>>20です。

26本スレ>>99修正 ◆Zp1p5F0JNw:2007/09/14(金) 20:52:14 ID:3AR7MfEQ
(来ましたね!)
やはり少女は逃げていなかった。
姿を消して数分、少女は再びミラージュの前に現れた。先程と違い鎧を付けている。
姿を見せると同時に凄まじい速さでミラージュに襲いかかる。

(速い…でも、見切れない速さじゃない!)
少女が放った斬撃をサイドステップでギリギリ回避。
攻撃後の隙を狙い、ミラージュが踏み込む。
「インフィニティ・アーツ!」
ミラージュの蹴りが一発、二発と息吐く間もなく放たれた。
防御態勢を取る事も出来ない女にその連撃が叩き込まれていく。
合計十一発。ミラージュの全力を込めたキックの雨は、全てクリーンヒットした。


(決まった!)
フィニッシュで少女を吹っ飛ばし、ミラージュは勝利を確信した。
十一発全てに手応えがあった。今の技をまともに喰らえば、あの少女もさすがに…。


しかし次の瞬間、ミラージュの顔が驚愕に染まった。
吹っ飛ばされた少女はノックダウンされるどころか、空中で体勢を立て直し、着地と同時に攻撃を仕掛けてきたのである。
反応が遅れたミラージュは回避行動を取るも、左頬を剣がかすった。
見ると少女はダメージを負うばかりか、体に殴られた痕すらも残ってなかった。
(まさか…!あの攻撃をまともに受けてダメージをほとんど受けてないなんて…)
クリフや多くの魔物を沈めてきたミラージュの攻撃が全く効いていない。
「忍法五月雨!」
今度は少女の連撃がミラージュを襲う。
ステップを取る暇はない。一太刀一太刀身を捻って攻撃を避ける。
だが少女の猛攻は止まらず、ミラージュは次第に後ろに下げられていった。

首輪から声が聞こえてきたのは、その時だった。

27本スレ>>103修正 ◆Zp1p5F0JNw:2007/09/14(金) 20:53:00 ID:3AR7MfEQ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『首輪爆破まで後20秒』
首輪から二度目の警告が聞こえる。
ミラージュの体は痺れたまま動かない。このままでは首輪の爆発で自分は死ぬ。状況は絶望的だ。
だが諦めるわけにはいかない。まだ爆発まで20秒ある。
その間にこの危機を乗り越える方法を考えようと、ミラージュは必死で頭をフル回転させた。
ここに人が来て助けてもらうのが一番確実だが、ここに人が来る可能性は限りなく低い。
一発逆転ができそうなアイテムも無い。
自分で何とかするしかない。何か、何かないか。この禁止エリアから脱出する方法は。


…一つだけ思いついた。
幸いにもその方法を行えるように、今自分はうつ伏せで倒れている。
上手くいくかは分からないし、失敗する可能性の方が高い。
だがやってみるしかない。
『首輪爆破まで後10秒』
痺れながらも全員のエネルギーを一点に―胸の前に集中させた。


「マイト・ディスチャージ」

瞬間、ミラージュの体と地面の間に爆発が起こる。
その衝撃で彼女は空中へ投げ出された。

麻痺しているため受け身も取れず、地面に叩きつけられる。
そして…首輪の警告が止まった。


成功したようだ。
自分と地面の間で爆発を起こし、自分の体を吹っ飛ばす。
運良くC-04エリアの方向へ飛んでくれたおかげで、ギリギリC-05から脱出できた。
ミラージュは安堵の溜息を吐く。
どうやら麻痺が解けたようで、体を動かすことが可能になった。
起きあがろうとするが、体中に激痛が走る。何とか近くの塀まで這っていって寄りかかるが、立てそうにない。
「…無様、ですね」
自分は何をやっているのだろうか。
開始早々油断して気絶させられ、目が覚めたのは放送後。
荷物は無くなり、禁止エリアも、仲間の安否を確認することもできず。
そして殺し合いに乗った者を止める事にも失敗し、残ったのは自身へのダメージだけだ。

ともかく、この状態では何もすることは出来ない。
しばらくは傷の回復に専念するしかない。
「…本当に、無様です」
これまで何もできず、そして今も何も出来ないのが、たまらなく歯痒かった。

28本スレ>>104修正 ◆Zp1p5F0JNw:2007/09/14(金) 20:55:26 ID:3AR7MfEQ
【C−4/午後】
【ミラージュ・コースト】[MP残量:70%]
[状態:疲労大、全身に傷痕(特に前の上半身に集中、深い傷もあり)、左頬に切り傷、衣服ボロボロ]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:このゲームから脱出してルシファーを倒す]
[思考1:体力の回復]
[思考2:鎌石村で仲間及び参加者を探す]
[思考3:第一放送についての情報を集める]
[思考4:煙の発生場所(G−3平瀬村分校跡)に行く]
[現在位置:C-04北東、C-05との境界線付近]
[備考:第一放送は聞いていません。(C-05が禁止エリアという事は把握)]



【藤林すず】[MP残量:0%]
[状態:疲労極大]
[装備:アントラー・ソード@VP]
[道具:サーペントトゥース@SO2、ブラッディーアーマー@SO2、ノエルの支給品×0〜2(本人確認)、荷物一式×3]
[行動方針:生き残る]
[思考1:次の放送まで休息]
[思考2:暗くなったら行動開始]
[思考3:自分が死んだ場合はクレス、チェスター、アーチェ、クラースの誰かに優勝して欲しい。そのため四人の殺害には消極的]
[現在位置:C-04中心部 民家の一室]
[備考:ミラージュ(名前は知らない)は死んだと思っています]

29 ◆Zp1p5F0JNw:2007/09/14(金) 20:57:32 ID:3AR7MfEQ
修正個所は
・ミラージュの技をフラッシュチャリオット→インフィニティ・アーツへ変更、それに伴い一部の文章を修正
・ミラージュの倒れ方を仰向け→うつ伏せに修正
・すずの状態欄に備考の欄を追加

の三つです。

30名無しのスフィア社社員:2007/09/15(土) 16:42:06 ID:f0CokdPY
激しく乙

31本スレ投下話の状態表 ◆wNjp7OZc.s:2007/10/02(火) 03:36:56 ID:.HV52BlA



【C-06/夕方】

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔100/100〕@SO3]
[道具:万能包丁@SO2、荷物一式]
[行動方針:参加者にできる限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:]放送を待って行き先を決定。特に思う所が無ければホテル跡を目指す
[思考2:]レザードがマーダーだと広める
[思考3:]もしまた会ったら、レザードには出来る限りの苦痛を与えて殺す
[現在位置:鎌石小中学校校舎内の教室]
[備考]:※クロード、ルシオ、ルーファス、クリフの特徴を聞きました。
     ガウェインとは彼らがマーダーだと広めるように約束しています。
     名前は聞いていませんが、前持って人物情報を聞かされているなら特定しているかもしれません。


【ガウェイン・ロートシルト】[MP残量:100%]
[状態:左肩、左わき腹脇腹裂傷(処置済み)、後悔]
[装備:グランスティング@SO2]
[道具:確認済の支給品×0〜2、荷物一式]
[行動方針:リドリーを優勝させる]
[思考1:]鎌石村へ向かう
[思考2:]レザードがマーダーだと広める。ブレアについては保留
[現在位置:鎌石小中学校から北西へ少し進んだ道沿い]

32 ◆yHjSlOJmms:2007/10/17(水) 01:10:15 ID:Deg3Z3Wo
『待ち合せ』の訂正に来ました。
修正箇所はほんの少しなので、本スレの>>176のみ変更をかけます。

33待ち合せ(本スレ176の修正):2007/10/17(水) 01:12:24 ID:Deg3Z3Wo
二人の男が地面に座り込み昼食を摂っていた。
一人はすらっとした長身に緑色の長髪、切れ長な瞳が印象的な青年。
もう一人はまばゆい金髪を短く刈り込んだ大男だ。
「で、これからどうするわけ?」
一足先に食べ終えた緑髪の青年ルーファスは、大男の方クリフに尋ねた。
「どうするって嬢ちゃん達はどこに行くか聞いてなかったのか?」
支給されたブロック状のレーションを食べる手を止めクリフは答えた。
「あぁ、あの二人なら鎌石村に行くって言ってたな。凶悪な魔物がいるから止しとけって言っといたんだがな」
午前中に遭遇した魔物の顔を思い出す。
言葉を話す事ができたから高位の魔物であることは間違いない。
「なら、俺たちもそこに行くぞ」
最後の一口を飲み下したクリフはそう告げた。
「正気か?今やばい魔物がいるっつったばかりじゃねぇか」
ある程度そんな返事がくると予測はしていたが、あの魔物とまた遭遇すると思うとあまり気乗りがしない。
「だからだよ。俺の読みだと嬢ちゃんの能力はルシファーを倒すのに不可欠だ」
頭上に?マークを浮かべるルーファス。
「あのソフィアがか?正直ルシファーって野郎を倒す切り札になる力は無さそうだけどな」
と少し前に別れた童顔少女の顔を思い出す。
「まぁ、これも勘の域をでないんだがな。ルシファーは今どこから俺達を監視してると思う?少なくともこの島にはいないだろう。
以前戦った時同様に別の次元世界から監視してるに違いねぇ。
そこで、嬢ちゃんの力『コネクション』の出番だ。あの力は別次元への入り口をこじ開けることができる。
ルシファーの声で放送があったから、少なくとも奴の居場所とこの島は完全に隔離されてねぇ。
この島のどこかに接点となる場所があるはずだ。そこに連れていければ野郎の居場所に行けるわけよ。
だがまだ問題があって、別次元にいるルシファー側からすれば俺たちは紙に書いた絵のようなもの。
そこで、まだ二人程力が必要な人間がいる。俺と一緒に一回ルシファーを倒した、マリアとフェイトだ。
マリアの力『アルティネイション』で俺達を別次元に存在できるように、
フェイトの力『ディストラクション』で俺達の世界の物理法則を別次元世界の中で通用するようにそれぞれ改編させる。
この三つが合わさればルシファーの所に殴り込みに行けるって寸法よ。
それに加えるなら、マリアとフェイトはそんじゃそこらのヤツに遅れをとるほど弱くはねぇ。
となると戦闘能力に不安の残るソフィアの嬢ちゃんの保護が最優先って訳よ」
確証は無いが、ルシファーの性格を考えるにFD空間の様な所からあれこれ干渉しているのは間違っていないはずだ。
仮に同じ次元世界から監視していたとしても放送用の電波を逆探知すれば、ルシファーの居場所は簡単に判明できる。
通信機とソレを改造できるような工具、然るべき知識を持つ人間が揃えば容易に可能だ。
ここから判明した場所への移動手段に心当たりがないが、まぁ何とかなるだろう。
「いまいちわかんねぇけど、その三人が揃えばこの島から出られるんだな?」
「まぁ、そういうこった。但し、能力を制限しているこの首輪を外さないとな。
ルシファーもバカじゃねぇ。あの三人の力は首輪のせいで発揮出来ねぇはずだ」
自分の首を指差し告げた。
「お前以外と考えてるんだな。勢いに任せて行動するタイプに見えたんだが」
肩をすくめ立ち上がると、ルーファスは体を鎌石村の方向に向けた。
「けっ、言ってろ。とにかくさっさと鎌石村に行くぞ」
クリフも立ち上がり、北へ向かい歩き始めた。

34名無しのスフィア社社員:2007/10/18(木) 02:40:42 ID:AybIFvDo
超乙!

35 ◆pLCc.qkfzw:2007/11/04(日) 00:51:02 ID:M5hvvKqU
『光の勇者の不幸(解決編)』
の後半部分の修正、投下します。

36 ◆pLCc.qkfzw:2007/11/04(日) 00:53:05 ID:M5hvvKqU
(まいったな……)
クロードはため息を吐きながら森の中を歩いていた。
(完璧にチサトさん達に誤解されたよなぁ。あの時はとりあえず撤退したけど、考えてみると状況が悪化してるかもしれない。
チサトさん達はこれから会う人会う人に『クロードはこのゲームにのった』って言うわけだよなぁ。
かといってあの時チサトさん達を追ってたら、最悪死人が出てたかもしれないし………どうしたら良かったんだろ?
……ハハッ泣きたくなって来た)
クロードはチサト達の攻防の後、南東にしばらく走った後、一旦足を休め、これからの事、自分のことを考えていた。
今来た道を戻ったり進んだりの繰り返しで、ある一定の場所からほとんど動かず、ウロウロする状態で、
先ほど起こったことから引き起こされる事象を検討していた。
(今僕にとって一番良い状況は、チサトさん達の誤解が解けることだ。それにはおそらく、第三者を介してが一番だろう。
できればかつての仲間達がいい。欲を言えば、頭が良くて、状況判断が適切で、パーティーでの発言力、信頼度がある人。
そう、ボーマンさんなんかがベスト…)
「クロードか?」
そんな事を考えていたクロードの少し離れた前方に、白衣を着た今クロードが思ったその人、
ボーマン・ジーンが現れた。

クロードの思考は一瞬停止した。

そしてすぐに思考が再起動した。
(え!?え、何で!?何で!?何でボーマンさんがここにいるの!?いや、そんなこと言ってる場合じゃない!
これはチャンスだ、クロード・C・ケニー!!この人に事情を説明して、チサトさん達の誤解を解いてもらえば!!
そうだ、正に最高のタイミングで最適の人選に巡り合えたんだ!珍しく僕は憑いてる!間違った、ついてる!)
「ボーマンさ…」
「それ以上近づくな」
だが、クロードがボーマンに話しかけようとしたのに対し、ボーマンからの返答は、拒絶だった
クロードは一瞬何を言われたが解からなかったが、すぐに気を取り直し、
「ど、どういうことですか?」と訊ねた。
「チサトからお前の事を聞いた」

クロードの目の前が真っ暗になった。

そしてすぐに気を取り戻した。
「ち、違うんです!誤解です!チサトさんは誤解してるんです!」
クロードは誤解を解こうとボーマンに迫った。
ボーマンは近づいてくるクロードに対し一定の距離を保ちながら、言葉を返した。
「だから近づくなと言ってるだろう。安心しろ、チサトから言われた事を全部鵜呑みにしたわけじゃない。
勘違いしてるということもあるからな。だから武器を捨ててあの時何が起こったか説明してみろ。
それ聞いてチサトの話と矛盾した事が無ければ、信用しよう。ただ、お前が嘘をついてると解かった場合、
悪いが殺らせてもらう。それでいいな?」
クロードは心の底から安堵したような顔をして、武器を下に起き、あのとき何があったのか、
事の顛末を話し出した。

37 ◆pLCc.qkfzw:2007/11/04(日) 00:54:27 ID:M5hvvKqU

「なるほどな」
なるほど、そう言うことだったか。確かに今のクロードの説明ならチサトの証言とも合うし、チサトが何故勘違いしたのかも頷ける。
しかし……俺はやはり今になって覚悟が決め切れてない。一番最初にクロードを見かけた時。
襲い掛からずに『声をかける』と言うところまでに留めたのも、あの時は『様子をみるため』と言い訳した。
単に怖かったからだ。
クロードが話すために武器を捨てたとき、見送ったのも、『まずは話を聞いてから』と言う見苦しい言い訳に頼ったためだ。
いや、今ここに来ている理由とて、考えてみれば、チサト達にクロードが一人らしいと言われたから、
よし、三人を相手するよりクロード一人のほうが殺しやすいぞ、と思いここに来た
(勿論チサトの話を確かめる半ば好奇心みたいなものもあったが)。
今から思えばなんて見苦しい言い訳だ。
そして今。一思いにやろうと思えばできるはずなのに、『様子を見る』という言い訳に頼っている。
…なんて、自分は醜いんだろう。
「…解かった。嘘はなさそうだ。信用しよう。これからチサト達のとこに行って、それを言えばいい。
俺も口添えするから十中八九大丈夫だろう。ところで……お前はこのゲームを……どうするか…考えがあるか?」
「ルシファーを倒します」
…ほう、迷わず言ってのけやがった。
「こんなふざけたゲームを行うルシファーを、僕は絶対に許せない。必ず倒して、元いた場所に帰ります!」
「…何か策はあるのか?」
「…ありません。ですが、この島にはまだ仲間がいます。頼りになれる仲間が。皆と一緒なら必ず、必ずルシファーを倒す事ができるはずです!」

…ああ。

思い出した。

この目だ。

俺がクロード達と旅をしようと決意した理由。

大切なニーネを置いてまで、旅をしようと思った理由。

この目だ。

この、クロードの、真っ直ぐな瞳。

これに惹かれた。

この、何者にも染まらず、また、何者にも染まる。

己の意思の堅固さと純粋さを絵に描いたような、この瞳。

これに俺は惹かれた。

と同時に今までの俺の行動がとんでもなく恥ずかしくなってきた。

そうだ、俺は、俺は今まで何を考えていたんだ?

俺が、旅に同行したのは、こんなクロードの様な瞳を持ちたかったからじゃないのか?

この瞳を、傍で見ていたからじゃなかったのか?

俺は、ようやく気づいた。

俺が進む道を


「……………クロード………怪我、してるみたいだな?秘仙丹食うか?」


少し経ち、森でかすかな爆発音がした。

38光の勇者の不幸(解決編):2007/11/04(日) 00:57:21 ID:M5hvvKqU

ボーマンは、かつてクロード"だった"モノを見下ろしていた。
秘仙丹だといって実際は破砕弾を渡し、爆死させる。

これで二度目だ。

元々二つは同じ"丸薬"であり、少々偽装すれば、素人目にはどっちがどっちか見分けがつかなくなるようにするなど、
ボーマンにとっては朝飯前だった。
現に、クロードは何の疑いもなく口にほうばり、今の現状に至っている。
クロードの骸は、かつてのアドレーのように、上半身がほぼ爆散された状態で、
地面を真っ赤に染め、顔などは"原型"が全く解からない状態で、言葉で表すなら
『無残』
の一言に尽きた。
それを見下ろしているボーマンの瞳は、クロードの死体を見ているようで、見ていないようでもあり、
また、果てしなく澄んでいるかのような色なのに、果てしなく濁っているようでもあった。

「迷わず、成仏するんだな」

ボーマンは、ポツリと、呟いた。

 ◆ ◆ ◆

「ん?……おい、戻ってきたようだぞ」
「え?ホント!?」
チェスターが言った通り、ボーマンが森の中からホテル焼け跡前に戻ってきた。

「どうだった!?ボーマン!?」
チサトが聞いた。
「ああ……。お前らの言った通りだったよ。クロードは…俺を見るなり…攻撃してきた…」
「やっぱり!それで、クロードは?」
「ああ……俺は……俺は、自分の身を守る、ためとは言え……クロードを…この手で…殺して……殺してしまっ…」
ボーマンは悲痛な声を出した。本当に、喉が擦り切れそうな声で、呻き、泣いているようだった。
チサトはそれを聞き、クロードが死んだとの悲しみ以上に、ここで自分が励まさなければ、
ボーマンは壊れてしまうのではないかと感じた。
「…そんなのアンタが気にすることじゃあない」
チェスターも、それを察知したのか、ボーマンを励ます言葉を言った。
「……そうよ、ボーマン。クロードのことは……確かに、確かに残念だったけど、クロードも、きっと、
覚悟してやっていたことでしょう?私達がクロードの分まで背負って、生きていかなくてはいけないわ」
チサトもボーマンを擁護した。
「………そうだな」

39光の勇者の不幸(解決編):2007/11/04(日) 00:58:54 ID:M5hvvKqU

そうだったな。

俺には、迷う資格なんて無かったんだ。

アドレーを殺したときから。

なあ、クロード。

俺は、お前のようになりたかったんだ。

純粋で、真っ直ぐで、頑固な。

そんな瞳を持ったお前に。

だが、既に、俺は道を誤った。

俺は地獄に堕ちるだろう。

かまわない。

もう、止まる止まらねぇの次元じゃないんだ。

歩き続けよう。

最後まで。

クロード。

ありがとよ。

気付かせてくれて。


──もう、迷いはしない。

40光の勇者の不幸(解決編):2007/11/04(日) 00:59:41 ID:M5hvvKqU
【E-4/夕方】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:80%]
[状態:迷いが解消された気分(良)]
[装備:エンプレシア@SO2]
[道具:調合セット一式+荷物一式*3+エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP+昂魔の鏡@VP]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:もう迷いは無い]
[思考2:自分が確実に殺せると判断した時のみ、行動に移る(ステルスマーダー?)]
[思考3:チサト達とはこの後別れるかどうか、検討中]
[思考4:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考:調合用薬草の内容はマンドレイク、ローズヒップ、アルテミスリーフ、トリカブトがそれぞれ一枚づつ。
      マンドレイクとアルテミスリーフは1/3づつ位消費]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【チサト・マディソン】[MP残量:70%]
[状態:全身に軽度の筋肉痛(大分回復]
[装備:パラライチェック@SO2・フェイトアーマー@RS]
[道具:七色の飴玉×3@VP・荷物一式]
[行動方針:主催者打倒、首輪をどうにかするために味方を集める]
[思考1:仲間を探す(レオン・プリシス優先)]
[思考2:ボーマンとこの後も行動を共にしたい]
[思考3:クロードが死んだことへの少なからぬショック]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【ガルヴァドス】[MP残量:100%]
[状態:左ひざに打撲、上半身に無数の打撲、顔面に中程度の火傷(大分回復)]
[装備:なし]
[道具:パラスアテネ@SO2・ガソリン入りペットボトル×2・荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残る?強き者に従う]
[思考1:チサトの言う事に従う]
[思考2:???]
[現在位置:ホテル跡前]
※ ガソリンは合計で4リットルあります。

【E−4/夕方】
【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷(大分回復)、左手の掌に火傷(大分回復)、胸部に浅い切り傷、精神的疲労(軽度)、焦り]
[装備:なし]
[道具:スーパーボール@SO2]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先) ]
[思考1:ホテルでクレスの捜索]
[思考2: クレス・アーチェ・クラース・力のない者を探す]
[思考3:クレス・アーチェ・クラースと子供を除く炎系の技や支給品を持つ者は警戒する]
※ホテル跡にいるのがクレスだと思っています]
[現在位置:ホテル跡前]
[備考:チサト、ガルヴァドス、チェスターはクロードがマーダーで分校に火を放った人物だと思っています]

※クロードの装備・道具は全てボーマンが回収しました。

【クロード・C・ケニー@SO2 死亡】


【残り 35人】

41光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:11:59 ID:8.Og8BXA
上の修正したものを、投下します。

42光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:12:29 ID:8.Og8BXA
(まいったな……)
クロードはため息を吐きながら森の中を歩いていた。
(完璧にチサトさん達に誤解されたよなぁ。あの時はとりあえず撤退したけど、考えてみると状況が悪化してるかもしれない。
チサトさん達はこれから会う人会う人に『クロードはこのゲームにのった』って言うわけだよなぁ。
かといってあの時チサトさん達を追ってたら、最悪死人が出てたかもしれないし………どうしたら良かったんだろ?
……ハハッ泣きたくなって来た)
クロードはチサト達の攻防の後、南東にしばらく走った後、一旦足を休め、これからの事、自分のことを考えていた。
今来た道を戻ったり進んだりの繰り返しで、ある一定の場所からほとんど動かず、ウロウロする状態で、
先ほど起こったことから引き起こされる事象を検討していた。
(今僕にとって一番良い状況は、チサトさん達の誤解が解けることだ。それにはおそらく、第三者を介してが一番だろう。
できればかつての仲間達がいい。欲を言えば、頭が良くて、状況判断が適切で、パーティーでの発言力、信頼度がある人。
そう、ボーマンさんなんかがベスト…)
「クロードか?」
そんな事を考えていたクロードの少し離れた前方に、白衣を着た今クロードが思ったその人、
ボーマン・ジーンが現れた。

クロードの思考は一瞬停止した。

そしてすぐに思考が再起動した。
(え!?え、何で!?何で!?何でボーマンさんがここにいるの!?いや、そんなこと言ってる場合じゃない!
これはチャンスだ、クロード・C・ケニー!!この人に事情を説明して、チサトさん達の誤解を解いてもらえば!!
そうだ、正に最高のタイミングで最適の人選に巡り合えたんだ!珍しく僕は憑いてる!間違った、ついてる!)
「ボーマンさ…」
「それ以上近づくな」
だが、クロードがボーマンに話しかけようとしたのに対し、ボーマンからの返答は、拒絶だった
クロードは一瞬何を言われたが解からなかったが、すぐに気を取り直し、
「ど、どういうことですか?」と訊ねた。
「チサトからお前の事を聞いた」

クロードの目の前が真っ暗になった。

そしてすぐに気を取り戻した。
「ち、違うんです!誤解です!チサトさんは誤解してるんです!」
クロードは誤解を解こうとボーマンに迫った。
ボーマンは近づいてくるクロードに対し一定の距離を保ちながら、言葉を返した。
「だから近づくなと言ってるだろう。安心しろ、チサトから言われた事を全部鵜呑みにしたわけじゃない。
勘違いしてるということもあるからな。だから武器を捨ててあの時何が起こったか説明してみろ。
それ聞いてチサトの話と矛盾した事が無ければ、信用しよう。ただ、お前が嘘をついてると解かった場合、
悪いが殺らせてもらう。それでいいな?」
クロードは心の底から安堵したような顔をして、武器を下に起き、あのとき何があったのか、
事の顛末を話し出した。

43光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:13:16 ID:8.Og8BXA

「なるほどな」
なるほど、そう言うことだったか。確かに今のクロードの説明ならチサトの証言とも合うし、チサトが何故勘違いしたのかも頷ける。
しかし……俺はやはり今になって覚悟が決め切れてない。一番最初にクロードを見かけた時。
襲い掛からずに『声をかける』と言うところまでに留めたのも、あの時は『様子をみるため』と言い訳した。
単に怖かったからだ。
クロードが話すために武器を捨てたとき、見送ったのも、『まずは話を聞いてから』と言う見苦しい言い訳に頼ったためだ。
いや、今ここに来ている理由とて、考えてみれば、チサト達にクロードが一人らしいと言われたから、
よし、三人を相手するよりクロード一人のほうが殺しやすいぞ、と思いここに来た
(勿論チサトの話を確かめる半ば好奇心みたいなものもあったが)。
今から思えばなんて見苦しい言い訳だ。
そして今。一思いにやろうと思えばできるはずなのに、『様子を見る』という言い訳に頼っている。
…なんて、自分は醜いんだろう。
「…解かった。嘘はなさそうだ。信用しよう。これからチサト達のとこに行って、それを言えばいい。
俺も口添えするから十中八九大丈夫だろう。ところで……お前はこのゲームを……どうするか…考えがあるか?」
「ルシファーを倒します」
…ほう、迷わず言ってのけやがった。
「こんなふざけたゲームを行うルシファーを、僕は絶対に許せない。必ず倒して、元いた場所に帰ります!」
「…何か策はあるのか?」
「…ありません。ですが、この島にはまだ仲間がいます。頼りになれる仲間が。皆と一緒なら必ず、必ずルシファーを倒す事ができるはずです!」
…ああ。

思い出した。

この目だ。

俺がクロード達と旅をしようと決意した理由。

大切なニーネを置いてまで、旅をしようと思った理由。

この目だ。

この、クロードの、真っ直ぐな瞳。

これに惹かれた。

この、何者にも染まらず、また、何者にも染まる。

己の意思の堅固さと純粋さを絵に描いたような、この瞳。

これに俺は惹かれた。

と同時に今までの俺の行動がとんでもなく恥ずかしくなってきた。

そうだ、俺は、俺は今まで何を考えていたんだ?

俺が、旅に同行したのは、こんなクロードの様な瞳を持ちたかったからじゃないのか?

この瞳を、傍で見ていたからじゃなかったのか?

俺は、ようやく気づいた。

俺が進む道を


「……………クロード………怪我、してるみたいだな?秘仙丹食うか?」

44光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:15:06 ID:8.Og8BXA

「あ、いただきます」
クロードはボーマンが差し出した"ボーマン曰く秘仙丹"を受け取ろうとした。
その時、クロードの目の前に赤い球の様な物がポウッと浮き出た。

え?

クロードは戸惑った。それはそうだろう。長年の、それも命を共にした仲間が、
エネミーサーチにより"敵"と判断されたのだ。
(な、何で!?ボーマンさんは味方だ!ずっと一緒に旅をしてきた!今だって僕の話を
聞いてくれたし、これからの事を考えてくれた!な、何より、もし、もし万が一、
ボーマンさんがヤル気だったなら、ボーマンさんと会った瞬間エネミーサーチ
が発動しているはずだ!…解からない…解からない……でも、今は)
「どうした?クロード?」
ボーマンがクロードの様子が変なことに気づき、尋ねた。
「あ、何でもありません。大丈夫です。僕には活人剣がありますんで。
秘仙丹は、この先のためにとっておいてください」
クロードは、今の所"様子を見る"に徹した。
「そうか?解かった」
ボーマンはそう言い、秘仙丹をしまった。
(どうしたらいい?エネミーサーチの効力は…多分本当だ。でも……だからと言って、
ボーマンさんを、仲間を疑うなんて……いや、でも最初の時みたいに、この島は、
何が起こるか解からない。警戒だけは…して、損は無いだろう)
クロードは猜疑心と、仲間に疑いを持っている自分に対する自己嫌悪に、気分を悪くした。
そんなクロードの様子を目にし、ボーマンは言った。
「どうしたクロード?本当に大丈夫か?」
その言葉は更にクロードの自己嫌悪を増幅させた。
(う……すいません、ボーマンさん…。でも、でも今は……とりあえず武器を…)
そう思ってクロードは、ボーマンに話すために、地面に置いておいた剣を
そのままにしてあったことに気付いた。
そしてそれをとろうとした。しかし
(……あれ?)

45光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:19:52 ID:8.Og8BXA

剣が、無かった。

すぐ下に置いてあった筈の剣が、無かった。

だが、すぐに見つかった。剣は、クロードから十数メートル離れた草むらにキラリと光るのが見えた。
まるで、邪魔だとばかりに蹴飛ばされたかのように。

「どうした、クロード」

もはや疑問系ですらなく、それでもボーマンはクロードに"尋ねた"。
「……ボ、ボーマンさん?」
クロードは
「あ、あの、ボーマンさんは、このゲームに乗って、ません、よね?」
尋ねた。
「あははははは、オイオイ、クロード、まさか俺が乗ったと思ってんのか?
あ、はははははははは」
ボーマンは笑った。
笑った。
それに釣られてクロードも、笑った。
「あ、あはは、そ、そうですよね?ボーマンさんがそんな…あははははははははは」

「正解だ」

瞬時にクロードは後ろに飛んだ。
しかしボーマンも速かった。
後ろに飛んだクロードに、瞬時間合いを詰め、蹴りを放った。
その蹴りをクロードは手でガードした。
手を通しても伝わる痛みに耐えながらクロードは判断した。
剣が無い徒手格闘技で、しかも見た限り、ナックルを装備しているボーマンに勝つのは無理だ。
一旦退くしかない。
だが…できるだろうか?
そう考えている内にボーマンは再び間合いをつけて来た。
繰り出される拳をクロードは何とか受け流し、再び距離をはかる。
それを見たボーマンは、クロードを追いながら胸ポケットに手を入れる。

46光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:25:13 ID:8.Og8BXA

胸ポケットから破砕弾を取り出し、クロードに投げつける。
瞬時にクロードははるか上空へと脱出した。
"兜割り"である。
上空へ脱出した直後に、破砕弾の爆発音がクロードの耳に聞こえる。
(間一髪だった)
クロードはそう思いながら、上空で体勢を立て直し、ボーマンの位置を把握しようとした。
着地地点で待ち伏せでもされたら、待っているのは死だ。
だが、
(……いない!?)
ボーマンの姿は無かった。
破砕弾の爆発地も、その周辺にも、ボーマンの姿形は無かった。
その直後、空中にいながら背後に気配を感じる。
クロードが気配に気づいたと同時に、首を腕で絞められる。
腕は的確にクロードの頚動脈を締め付ける。
(……し、しまっ…)
クロードは自分の愚かさを呪った。
自分には"兜割り"がある。だが、ボーマンにも"首枷"があった。
読まれていた。
どこまで読まれていたのかは解からない。
もしかしたら最初からかもしれない。
(…何てこった……)
人間は頚動脈を絞められると約6、7秒でおちる。
そんなことを以前どこかで聞いた気がする。
薄れ行く意識の中、クロードはボーマンの顔を見ようとした。
だが、ガッチリ腕に絞められているため、首が回らなかった。
「…ボー……マ…さ……な…何……で…」
蚊が鳴くような声で、クロードはそれだけを言い、また、それだけしか言えず、
意識を失った。


 ゴキン


森で人の首を折ったような、鈍い音が響いた。

47光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:26:19 ID:8.Og8BXA

ボーマンは、かつてクロード"だった"モノを見下ろしていた。

クロード"だった"モノは、首の骨が本来はありえない方向に曲がったまま、ピクリとも動かなかった。

それを見下ろしているボーマンの瞳は、クロードの死体を見ているようで、見ていないようでもあり、
また、果てしなく澄んでいるかのような色なのに、果てしなく濁っているようでもあった。

「皮肉なモンだな」

ボーマンは自嘲めに呟いた。

人を助けたいから医学を学んだ。

人を守りたいから武術を学んだ。

その二つをもって、かつての戦友の命を奪った。

「…迷わず、成仏するんだな」

ボーマンは、ポツリと、呟いた。

 ◆ ◆ ◆

「ん?……おい、戻ってきたようだぞ」
「え?ホント!?」
チェスターが言った通り、ボーマンが森の中からホテル焼け跡前に戻ってきた。

「どうだった!?ボーマン!?」
チサトが聞いた。
「ああ……。お前らの言った通りだったよ。クロードは…俺を見るなり…攻撃してきた…」
「やっぱり!それで、クロードは?」
「ああ……俺は……俺は、自分の身を守る、ためとは言え……クロードを…この手で…殺して……殺してしまっ…」
ボーマンは悲痛な声を出した。本当に、喉が擦り切れそうな声で、呻き、泣いているようだった。
チサトはそれを聞き、クロードが死んだとの悲しみ以上に、ここで自分が励まさなければ、
ボーマンは壊れてしまうのではないかと感じた。
「…そんなのアンタが気にすることじゃあない」
チェスターも、それを察知したのか、ボーマンを励ます言葉を言った。
「……そうよ、ボーマン。クロードのことは……確かに、確かに残念だったけど、クロードも、きっと、
覚悟してやっていたことでしょう?私達が背負って、ルシファーを倒して、生きていかなくてはいけないわ」
チサトもボーマンを擁護した。
「………そうだな」

48光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:27:00 ID:8.Og8BXA

そうだったな。

俺には、迷う資格なんて無かったんだ。

アドレーを殺したときから。

なあ、クロード。

俺は、お前のようになりたかったんだ。

純粋で、真っ直ぐで、頑固な

そんな瞳を持ったお前に

だが、既に、俺は道を誤った

俺は地獄に堕ちるだろう

かまわない

もう、止まる止まらねぇの次元じゃないんだ

歩き続けよう

最後まで

クロード

ありがとよ

気付かせてくれて


──もう、迷いはしない。

49光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:36:53 ID:8.Og8BXA
【E-4/夕方】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:80%]
[状態:迷いが解消された気分(良)]
[装備:エンプレシア@SO2]
[道具:調合セット一式+荷物一式*3+エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP+昂魔の鏡@VP]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:もう迷いは無い]
[思考2:自分が確実に殺せると判断した時のみ、行動に移る(ステルスマーダー?)]
[思考3:チサト達とはこの後別れるかどうか、検討中]
[思考4:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考:調合用薬草の内容はマンドレイク、ローズヒップ、アルテミスリーフ、トリカブトがそれぞれ一枚づつ。
      マンドレイクとアルテミスリーフは1/3づつ位消費]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【チサト・マディソン】[MP残量:70%]
[状態:全身に軽度の筋肉痛(大分回復)、仲間の死による精神的疲労]
[装備:パラライチェック@SO2・フェイトアーマー@RS]
[道具:七色の飴玉×3@VP・荷物一式]
[行動方針:主催者打倒、首輪をどうにかするために味方を集める]
[思考1:仲間を探す(レオン・プリシス優先)]
[思考2:ボーマンとこの後も行動を共にしたい]
[思考3:クロードが死んだことへの少なからぬショック]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【ガルヴァドス】[MP残量:100%]
[状態:左ひざに打撲、上半身に無数の打撲、顔面に中程度の火傷(大分回復)]
[装備:なし]
[道具:パラスアテネ@SO2・ガソリン入りペットボトル×2・荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残る?強き者に従う]
[思考1:チサトの言う事に従う]
[思考2:???]
[現在位置:ホテル跡前]
※ ガソリンは合計で4リットルあります。

【E−4/夕方】
【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷(大分回復)、左手の掌に火傷(大分回復)、胸部に浅い切り傷、精神的疲労(軽度)、焦り]
[装備:なし]
[道具:スーパーボール@SO2]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先) ]
[思考1:ホテルでクレスの捜索]
[思考2: クレス・アーチェ・クラース・力のない者を探す]
[思考3:クレス・アーチェ・クラースと子供を除く炎系の技や支給品を持つ者は警戒する]
※ホテル跡にいるのがクレスだと思っています]
[現在位置:ホテル跡前]
[備考:チサト、ガルヴァドス、チェスターはクロードがマーダーで分校に火を放った人物だと思っています]

※クロードの装備・道具は全てボーマンが回収しました。
※2クロードの死体はE−4、E−5、F−4、F−5の丁度中間にあります。

【クロード・C・ケニー@SO2 死亡】


【残り 35人】

50光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:40:42 ID:GnuqT5uU
「ハア…ハア…」
ジャック達から逃げ出したアーチェは、一人森の中を彷徨っていた。
もうどこに向かって進んでいるのかも、どこにいるのかも分からない。
彼女の頭にあるのは仲間に会いたいという一心のみ。
それだけが、今のアーチェを動かしていた。


今どこにいるんだろう?
既に彼女は走っておらず、その歩みは疲労のためか遅い。
さっきまで全力疾走を続けていた為に、彼女の疲労は既に限界の所まで来ていた。
それでも仲間を探し、アーチェは進む。


やがて前方に道が見えてきた。
どこへ通じているか分からないが、ここを進めばどこかの村へ出れるかもしれない。
村に行けばきっと誰かがいるはず。
クレスか、クラースか、チェスターか、すずか、ミン…
ミントの名が浮かんだところでアーチェは気付く。
もうミントはいないという事を。
彼女は死んだ。もう二度と会えない。
放送で知らされた死亡者13人の中に、彼女が含まれていた。
きっと次の放送では、目の前で死んだ夢瑠とネルの名前も呼ばれる。
夢瑠は自分が呼び寄せてしまった男によって殺された。
ネルはその男と戦って致命傷を負い、自分がとどめを刺して…。
ふとその時の光景が思い浮かぶ。
石化しながら、自分を睨み付けてきたネル。冷たい目でこちらを見つめるジャック。
二人の顔が、アーチェの精神を蝕んでいく。
(ごめんなさい…ごめんなさい…)
殺すつもりは無かった。あの薬は確かにエリクシールだと思ったのに。
だがいくら言い訳しても謝っても、ネルを死に追いやったのは事実。
きっとネルは自分を恨み憎んでいる。最後に見せたあの表情こそその証。
罪の意識に思考を奪われているその時、突然アーチェを現実に呼び戻す事が起こった。


『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』

51光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:41:14 ID:GnuqT5uU
え、何?何!?
この声、首輪から?
爆発?首輪が?あたしの?
爆発したら?死ぬの?あたしが?

「いやあああっ!」

突然首輪から伝えられた警告に、アーチェは我を失って混乱する。
とにかく逃げなければと反射的に走り出す。
嫌だ、嫌だ。死にたくない。死にたくない!
『首輪爆破まで後20秒』
首輪からは相変わらず警告が流れる。
アーチェはさらに混乱し、錯乱したかのように走り続けた。
どこでもいい。首輪が爆発しない場所まで、疲労も忘れてひた走る。


ひたすら走った後、アーチェはようやく首輪からの警告が終わっていたと気付く。
いや、実際はもっと前に禁止エリアからは出ていた。
そもそも爆発まで30秒しかないのに、それ以上経過しても爆発しない時点で安全な場所まで移動できていた事になるのだ。
「はは…何やってんのよ…」
そんな事も考えずに走りまくった自分に対して、馬鹿らしくなったアーチェは自虐的に呟く。
同時に再び疲労が身体を襲い、彼女はその場に倒れ込んで意識を失った。



ガサガサ…

(…何の音?)

ガサガサ…

(そういえばあたし、どうしたんだっけ?)

ガサガサ…

(首輪から声が聞こえて…走って逃げて…それから…!)

52光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:42:03 ID:GnuqT5uU
はっとアーチェの意識が覚醒する。疲労で眠り込んでしまったようだ。
辺りは既に暗くなり始めている。
(そっか…あたし…寝ちゃったんだ…)
何て無防備極まりないんだと思いながらも目を覚まそうと頭を振る。
幸か不幸か、眠ったことで多少体力は回復したようだった。
(そういえば…何か音が聞こえたような…)
そんな事を考えた時だった。

ガサガサ…

近くの茂みが動く。
そうだ。この音で自分は起きたんだ。
などと呑気な事を考えている暇は無い。
誰かが近くいるんだ。
「だ、誰よ!」
声を荒げて、音のする方へ叫ぶ。
やがて茂みの中から、その人物が姿を現した。

「君は…」

アーチェははっとする。
金髪で、何となく頼りなさげな外見。
だがどこか意志の強さのような物を感じさせるその雰囲気。
それは、彼女の知るある人物に酷似していた。
会えた。ようやく会えたんだ。心を許しあえる仲間に。


「クレス…!」
「え?」

クレスと呼ばれた青年は目を丸くする。
何を驚いているのかアーチェには分からなかったが、すぐその理由に気付いた。

53光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:43:02 ID:GnuqT5uU
「違う…」

よく見ると違う。
確かに少し似ているが、格好も、声も全然違う。
クレスじゃ、無い。

だったら誰?
この人は誰?

ふと彼の全身を見る。
その手には剣を持ち、身体のあちこちに血が付いていた。
血。
真っ赤な血。

その血が記憶を蘇えらせる。
歓喜の笑みを浮かべながら血の海を作りだした、あの男の。

全身に血を付けたこの男は何?
剣を持って、こっちに近づいてきて。
何をする気?

決まってるじゃないか。


「嫌…」

怯えながらアーチェは後ずさる。
青年は疑問に思ったのか、もう一歩アーチェに近づいた。
「ねえ、君…」

「来ないでっ!」
青年を拒絶するように叫ぶ。
叫ばれた青年は一瞬表情が曇ったかと思うと――

一歩アーチェから離れ、持っていた剣を構えた。


「ひっ……」
剣を向けられたアーチェは震えながら青年を見る。
その眼は双龍の男と同じ、酷く歪んで見えた。

54光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:43:51 ID:GnuqT5uU
「な、何なんだよ…」
悲鳴を上げて走り去った少女ポカンと見つめ、クロードは愚痴る。


ホテル跡からある程度離れたながら、クロードはどうするべきかを考えていた。
時間を確認すると既に正午過ぎ。ルシファーが言っていた定時放送は終わっている。
誰か知り合いが死んでしまったかもしれないという不安がよぎるが、それより自分自身が一番危ない。
放送で発表される禁止エリアを聞き逃してしまった。
加えて、自分自身の状態も決して良好とは言えない。
何よりホテルにいた三人にからは殺人鬼と誤認されている。
彼らに自分を殺人鬼だと広められたら非常に厄介だ。

まずすべき事は二つ。
放送で発表された死亡者、禁止エリアを把握する事。
そしてチサト達の誤解を解くことだ。
(どっちも、他の参加者に会わないと実行できないな)
とにかく誰か、他の参加者に会わなければならない。
だがこの島に来た直後は、何も考えずに参加者と接触してしまったせいで酷い目に遭っている。
先程もあの化け物を攻撃したせで殺人鬼と間違われてしまった。
今度参加者を見つけた時は冷静にいこうと固く心に誓う。

ホテルのように目立つ施設に行けば高確率で誰かに会えるだろう。
そう考えたクロードは、現時点でホテル以外に一番近い建物である分校跡とやらへ行って参加者を捜し、
誰もいなければ平瀬村へと向かうことにした。
誰か殺し合いに乗っていない人物を見つけたら、一緒にホテルへ行って誤解を解いて貰おう。


分校を目指すうちに日が暮れてきた。
早く誰かに会わないと禁止エリアに進入してしまうかもしれない。
それにチサト達がいつまでもホテルにいるとは限らないのだ。

そしてようやく、彼は参加者を発見することが出来た。
森を移動中に、座り込んだピンク色の髪をした少女が目に入ったのだ。
とりあえず茂みに身を隠して様子を伺おうとしたが。

「だ、誰よ!」

どうやら気付かれてしまったらしい。
(気付かれた以上、様子を探るのは難しいな…)
また変に警戒されて殺人鬼と勘違いされてはたまらない。
こっちに声をかけてきたという事は、とりあえず襲う気は無いのだろう。
そう判断し、クロードは少女の前に姿を現すことにした。

「クレス…!」
「え?」
姿を現したと同時に、少女が声をかけてきた。
少し驚くが冷静に考える。自分の名前はクロードだ。クレスでは無い。そんな名前の参加者がいたような気もするが…。
辺りは暗くなってきているし、多分誰かと勘違いしているのだろう。
間違いを訂正して、早く情報交換をしよう。

だが、その少女は人違いに気付いたのか、こちらを見ながらガクガク震えて始めた。
クロードの頬に冷や汗が流れる。
待て待て。
また嫌な予感がしてきた。
OK、落ち着こう。うん、落ち着け僕。
僕は何もしてないぞ。
脅かすような事もしていないし、別に見た目で怖がられるような姿格好もしていない筈だ。
大丈夫大丈夫。何も問題は無い…多分。

55光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:44:25 ID:GnuqT5uU
「ねえ、君…」
「来ないでっ!」

相手をなだめようとすると、今度は拒絶されてしまう。
その時だった。
クロードの視界に、突然赤い光を放つ球体が現れたのは。

(これは…確かエネミー・サーチの警告!?)

説明書によれば、「エネミーサーチは、自分に敵意を持っている人物に反応する」と書かれていた。
周囲には自分と少女以外誰もいない。そしてエネミーサーチが反応しているという事は…。
何てこった。彼女はこちらを殺そうとしているというのか。
(仕方が無い…!)
一歩下がって、クロードはエターナルスフィアを構えた。この怪我でどこまで戦えるか分からないが、ここで死ぬわけにはいかない。
少女は丁度レナと同じ位の歳だろうか。そんな少女と戦うのは心苦しい。
何とか殺さずに済ませたいけど…。

だが、クロードが剣を構えると。
「キャアアアッー!」
少女は突然悲鳴を発して、クロードから逃げていったのだ。


呆気に取られたクロードだったが、気を取り直してすぐに少女を追った。
もうエネミーサーチの反応は出ていない。反応したのは、あの時だけだった。
エネミーサーチの説明を思い出す。

「自分に『敵意』を持っている人物に反応する」

(つまり…反応したからって必ずしも『殺そうとしている』と思っている訳じゃないという事か…?)
もし彼女が、自分を殺人鬼だと思わなくても『敵』と思っていたとしたら…それを『敵意』と解釈されてもおかしくは無い。
(また僕の判断が甘かって言うのかよ!)
しかも剣を構えてしまった。向こうからしてみれば、どう考えたって殺されると思ってしまうだろう。
冗談じゃない。
これ以上殺人鬼に間違えられるのはごめんだ。
どうしようか。
彼女を追いかけて弁解するか、それとも予定通り分校へ行くか?


それにしても、本当についていないと思う。
やることが何から何まで全て裏目に出てしまっている。
自分は殺し合いなんてするつもりは無いのに、何故こうも状況が悪い方向ばかりに向かってしまうんだ。

「全く…ホントこういうのはアシュトンの役目だよな…」
愚痴っても始まらない。
少女を追うべきか追わないべきか、クロードは決断を下した。

56光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:45:29 ID:GnuqT5uU
【G−4/夕方(まもなく放送)】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:70%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、武器を振り回すには難あり)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(チェスターによって殴られ傷が再発)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP]
[道具:荷物一式、昂魔の鏡@VP]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:ピンク髪の少女(アーチェ)を追って誤解を解くか、すぐに平瀬村分校跡へ向かうか決める]
[思考2:分校跡へ行き、参加者と接触できなければ平瀬村へ向かう]
[思考3:自分の潔白を証明してくれる人か仲間を探す(懐柔できればアーチェでもいい)]
[思考4:思考2で見つけた人と共にホテル跡に戻り、チサト達の誤解を解きたい]
[思考5:第一回放送の内容の把握]
[現在位置:G−4、F−4の境界付近]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:目覚めたのが放送後なので放送内容は把握していません]


【アーチェ・クライン】[MP残量:95%]
[状態:絶望感 罪悪感 重度の疑心暗鬼]
[装備:無し]
[道具:ボーリング球・拡声器]
[行動方針:仲間を探す]
[思考1:クロードから逃げる]
[思考2:チェスターに会いたい]
[思考3:みんなに会いたい]
[現在位置:G−4、F−4の境界付近]

※クロードは怪我の痛み、アーチェは疲労の為二人の走る速度はかなり遅めです。

57 ◆yHjSlOJmms:2007/12/06(木) 01:23:52 ID:NF.Ff0ws
暮れ行く世界。空と大地を染め上げる朱の色は、まるでこの地の惨劇によって流れた血の様な赤だった。

黄昏時の静寂を破る男の声と共に、茜色の空は一瞬にして暗転した。
まるでその者が抱く復讐心を象徴したかの様な漆黒の中に、ルシファーの姿が浮かび上がる。

「フフン…、こんばんは諸君…。この会が始まってようやく半日が経過したわけだが、いかがお過ごしかね?
今回の定時放送には、ちょっとした耳寄りな情報も含めてある。是非耳を傾けて欲しい…。
それではまずは死亡者の名前から発表しよう。
『ヴォックス』
『ノートン』
『メルティーナ』
『ロジャー・S・ハクスリー』
『ビウィグ』
『エイミ』
『シン』
『夢留』
『ネル・ゼルファー』
『アリーシャ』
『ジェストーナ』
『セリーヌ・ジュレス』
『オペラ・ベクトラ』
以上の13名だ。相変わらずのハイペースで嬉しく思うぞ。

続いて禁止エリアの発表だ。
今回も時間の進行に応じて増やしていくので用心するのだな。
19時にH-07、21時にI-07、23時にD-04の三箇所だ。
アレだけ警告しておいたというのに既に何人か足を踏み入れているようだが…全く、愚かな事だ。
さて次の放送は0時。今から6時間後に行おうと思う。それまで精々殺し合ってくれ。
何度も言うがここから出られるのは最後まで生き延びた一人だけなのだからな!



そうそうすっかり忘れていたが、その生き延びた一人には素敵なご褒美を用意してある。
内容はまだ秘密にしておこうか…。だが安心しろ、誰もがきっと気に入ってくれる。
残った36人で張り切って殺し合ってくれたまえ…。フフッ、フハハハハハッ!」
ルシファーの下卑た笑い声が響き渡る中、声の主の姿が次第に消えていく。
真っ暗だった空もいつの間にか元の夕焼け空に戻っていた。
静寂を取り戻した沖木島で狂気の宴はまだまだ続く。
主催者・ルシファーの思惑通りに。
【第2回放送終了】
【19時H-07、21時I-07、23時D-04が禁止エリアになります】

58 ◆yHjSlOJmms:2008/01/14(月) 06:07:34 ID:xSUPrhKQ
一応書いてみたのですが展開にちょっと無理がある気がするので審議して欲しいと思います。

59タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:09:17 ID:xSUPrhKQ
ガルヴァドスの腹の虫が盛大に鳴いたので、少し早いが夕食にする事になったチサトとガルヴァドス。
支給品の食料で済ませようかとも考えたのだが、現在位置は跡と言っても元ホテルだ。
それなりのキッチンを備えているだろうと踏んだチサトは料理の腕を振るう事にした。
キッチンに着いたのはいいが、肝心の食材を蓄えているであろう冷蔵庫が見当たらなかった。
しばし捜し歩いた後、食材備蓄庫なる場所を見つけたチサト達。
食材一種類の量は大した事ない上、賞味期限が怪しい物も目立ったが、種類だけはたくさんある。
「何かリクエストとかある?」
なにを作ろうか迷ったチサトはガルヴァドスに尋ねた。
「何デモ、構わナイ。オ前が食べたい物デイイ」
「そうねぇ、じゃあ、ニンジンが少ないけどカレーにしましょう。キッチンはあっちだから材料運ぶの手伝って」
「心得タ」
ガルヴァドスを引き連れ食料庫を出たチサトの耳にこの場にはいない、だが聞き覚えのある声がはいってきた。
「フフン…、こんばんは諸君…。この会が始まってようやく半日が経過したわけだが、いかがお過ごしかね?―――
どうやらもう2回目の放送みたいだ。
ホテル跡に着いてからはいろいろな出来事があったので、時間の経過に気付かなかった。
何やら耳寄りな情報があると言っているが、そんな事に興味はない。
それよりもかつての仲間達や、さっき別れたチェスターの安否の方が気になった。
「それではまずは死亡者の名前から発表しよう」
そんな彼女の心情を察したわけではないだろうが、最初に死亡者の名前が挙げられるようだ。
(みんな…無事でいてよ!)
仲間達の無事を祈りながらルシファーの声に耳を傾ける。
『ヴォックス』
『ノートン』
『メルティーナ』
『ロジャー・S・ハクスリー』
『ビウィグ』
一人、また一人と読み上げられる犠牲者達。
10人目の名前が呼ばれる。
『アリーシャ』
まだ仲間の名前は呼ばれてはいない。
『ジェストーナ』
11人目。
まだ呼ばれるの?だがこの名前も知らない人物だ。
(このまま誰も呼ばれないで…)
しかし、そんな彼女の願いは叶わなかった。
『セリーヌ・ジュレス』
『オペラ・ベクトラ』
12人目の犠牲者と、13人目の犠牲者に彼女の仲間の名があった。
呆然とした彼女は、抱えていた食材を落としてしまう。
セリーヌとオペラは同じ性別で、かつ年齢が近い事もあり、特に仲が良かった。
そんな二人がネーデ人の同胞ノエルに続き、この地で何者かの凶刃によって倒れたのだ。
チサトはしばらくそのまま立ち尽くしたまま、仲間達のことを考えていた。

60タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:11:30 ID:xSUPrhKQ
いつの間にか放送は終わっていた。
「ドウシタ?」
背後に立っているガルヴァドスが尋ねてきた。
「えっ? ええっと、仲間が呼ばれたからちょっとビックリしちゃって…」
慌てて落とした食材を拾い集める。
「大丈夫カ?」
「えっ?」
意外なガルヴァドスの一言に目を丸くし、振り向くチサト。
「我ラ、ブラッドオークモ同胞の死ヲ嘆くトイウ事はスル。ダカラ、オマエノ今の感情ハ理解デキル」
「フフッ、見た目は怖いけど意外と優しいじゃない?」
チサトの言葉を聞いたガルヴァドスは赤い色の顔をよりいっそう赤くした。
「でも、ほんとに大丈夫よ! それに腹が減ってはってねっ! 晩御飯食べながらこれからの方針を改めて決めましょう!」
本当はまだ、二人の死がチサトの胸を痛めていたが、ガルヴァドスを心配させないようにと明るく振舞った。

キッチンは意外と狭く、かつ少し一人でいたかったからガルヴァドスにはこのホテルのロビーで待つように言った。
やはりと言うべきか、このキッチンには包丁やナイフといった刃物類は存在しなかった。
なんとか棚を漁ってピーラーを見つける。
野菜の皮はこれで剥き、形はしょうがないので砕いたり割いたりして整えた。
淡々と調理を進めながらも、やはり彼女の心を支配していたのは仲間の死という事実。
(くっ、今度は2人…。さっきのクロードはなんとか退ける事ができたけど、まだ私はこの殺し合いを止める為何も出来ていない!
もしかしたらさっき呼ばれた人の中に、逃がしたクロードが手にかけた人物が含まれているかもしれない…。
今度こそ誰であろうと殺し合いに乗っている人間を止めてみせる! それが殺された人達へ、今私が出来る事!)
彼女は改めて決意を固めた。
後はカレーを煮詰めるのと、米が炊けるのを待つだけだ。
(少し気分を変えてこようかしら…。ここで火が使えるって事はお湯も出るわよね?)
外で動き回ったせいか、体に汗とホコリが纏わりついている。
彼女は客室のシャワールームを利用しようと、キッチンを後にした。

浴室に入り身に付けているものを脱ぎさる。
鎧は料理の邪魔になるだろうし、パラライチェックも今すぐ必要になる事は無いだろうと思い、二つともデイパックにしまった。
シャワーを浴びてホコリや汗を洗い流すべく頭と体を洗う。
シャンプーやらボディーソープは備え付けてあったものを使った。
神宮流体術免許皆伝の豪傑である彼女でも女性だ。
そのボディーラインは女性特有の曲線で彩られていた。
ショートカットの髪の下から覗くうなじ。
細くともすらりと引き締まった腕と太腿が彼女の健康美を更に強調していた。
同時に鍛え抜かれた彼女の脚線はえもいわれぬような緊張感をかもしており、まさしくネコ科の野生動物かのごとき美しさを誇っている。
そんな彼女の体の曲線を、泡が撫でるように伝い落ちる。
体の汚れやホコリは洗い流せたものの、彼女の悲しみは洗い流される事はなかった。
むしろ、浴室という閉塞的な空間にいる事で、先程抱いた陰鬱な感情が呼び起こされる。
立ち昇る湯気の中、壁に手をつき項垂れる。
彼女の頬を伝い落ちる液体はシャワーのお湯か、はたまた彼女の涙か…。
一頻りそうしていた後に浴室を出る。
脱衣所の鏡が自分の裸身を映した。鏡に映った自分の顔は、普段の活力に満ちた自分とは遠くかけ離れていた。
(なんて顔をしているのかしら? こんなの、らしくないじゃないか。
そう、今は仲間の死に捕らわれ立ち止まっている場合じゃない! 前へ、前へ進む事が私のすべき事!)
頬を両の手で思いっきりはたき、自らに喝を入れた。
着替えを済まし脱衣所を出る。
(もう、完成している頃かしら?)
調理を再開すべく、再びキッチンの方向へ歩き始めた。

61タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:12:50 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「また13人…か」
チェスターを見送り、しばらく西に進んでいた最中、ボーマンは2回目の放送を聞いた。
予想以上に多い。自分は昼から夕方にかけては誰も手にかけていない。
それなのに13人の死亡者がでたという事は、返り討ちにあったゲームに乗った人物もいるだろうが、自分も含めて6,7人ぐらいは殺し合いに乗っているのではないだろうか?
(現在の生存者は36名。内殺し合いに乗った人数を7人と仮定すると大体5人に1人か…。このまま外で夜を迎えるのはいささか危険かも知れんな)
彼は現在位置から目と鼻の先にあるホテル跡を目指し歩き始めた。
狩る側にとってはそういった場所に集まるだろうと目星を付けやすいだろうが、それでも外で全周囲を警戒しながら一夜を過ごすよりは遥かにましだろう。
それにホテルの部屋ならば、出入り口に破砕弾によるトラップを仕掛けておけば、寝込みを襲われる心配も少ない。
(そういえば、さっきチェスターに渡した破砕弾でストックが切れていたな)
ボーマンは新たに3個の破砕弾と2個の毒気弾、1個の秘仙丹を生成する。
ついでに戦闘時の調合は不可能だと思いつき、戦闘時に補助的な役割を果たしそうなものを作って懐にしまっておいた。
そうこうしているうちにホテル跡が見えてきた。
そして、なぜかそのホテルの一室からはカレーの臭いが漂ってきている。
窓からその部屋の様子を伺うと部屋の中は無人だ。
火がついたガス台の上にはカレールーで満たされた鍋と、その横で米を炊いている鍋があるだけだった。
改めて誰もいない事を確認し、ボーマンは窓から部屋に侵入した。
(誰かがここで料理をしているんだろうな…。どうやら先客がいたらしい。どうする? 殺し合いに乗った人間だと厄介だな…)
だが、彼はその可能性が薄いことに気付く。
(いや、この米とルーの量は明らかに1人で食べる量じゃない。
という事は複数人いるわけか、その場合はアドレーやマリアのように主催者打倒を目指している連中の可能性が高いな…。
このゲームの勝者は1人だけというルールがある以上、殺しに乗った人物は基本的に一人で行動するはずだからな)
鍋の中を覗き込む。
(このカレー、やけにニンジンが少ないな、それに野菜の形が歪だ)
理由はすぐにわかった。まな板には腐ったニンジンとピーラー、それと細かく砕かれた野菜の破片。
包丁などがここにはなかったのだろう、仕方なくこの料理人は叩くなり潰すなりして大きさを調整したと思われる。
そこで彼の中の悪魔がボーマンに囁いた。
(今自分の持っている物にニンジンに酷似しているイイ物があるじゃないか)
「マンドレイク…」
彼は呟くと同時に、デイパックの中からそれを取り出した。
クレスの治療の際1/3使ってしまっているが、コイツ単体ならばかじっただけで人を死に至らしめる事が可能だ。
自分の手を直接汚さずに人を殺せる。
尚も人を直接殺す事に抵抗があった彼には、それがとても魅力的な行為に思えた。
自然と手は動き、マンドレイクの皮をピーラーで剥き始めていた。

62タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:14:14 ID:xSUPrhKQ
マンドレイクの皮を全て剥き終えたその時。
「誰っ!? 両手を上げてこちらにゆっくり振り向き…って、あなた、ボーマンじゃない!」
キッチンに戻ったチサトと鉢合わせてしまった。
ボーマンは焦った。よりにもよって、ここで料理をしていたのが、かつての仲間だったなんて。
「何してたの?」
こちらに歩み寄りながら質問してくるチサト。
「ん? ああ」
あやふやな返事をするボーマン。
(さて、どうしたものか?)
「あれ? これニンジン? 丁度少なくて困ってたの。食料庫にはもう無くってさ」
まな板の上のマンドレイクを覗き込んで、チサトは見事にニンジンと勘違いをしたようだ。
根元に特徴的な二股がある植物だが、その部位はクレス治療の際に使っている。
こうなってしまえば、素人目にはニンジンにしか映らないだろう。
「あ? ああ。丁度ここを通りかかったらカレーの匂いがしてな。失礼して覗いてみたらニンジンが異様に少ないのに気付いてな、丁度支給品に紛れていたから使おうかと思ったんだが…皮を剥き終えた後包丁が無くて、どうしたものかと考えていたんだ」
我ながら苦しい言い訳だな、と思ったがチサトは、
「そう。助かったわ。サイズは見てくれがアレになるけど…」
と言いマンドレイクをへし折る。それでも尚大きな部分は、引き裂いてドバドバッとマンドレイク片を鍋に入れた。
「まぁ、なにより無事でよかったわ。ロビーに同行者を待たしているの。話したいこともあるし、一緒に食べましょう。そっちの鍋運んでくれる?」
少し煮詰めた後に、鍋を抱えてチサトはボーマンを促した。
(まずい事になった…。だがここで断っても怪しまれる。一先ずは同意するしかないな)
「わかった」
動揺を表情に出さないよう、気を遣いながら彼はチサトの後についていった。

63タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:15:14 ID:xSUPrhKQ
ロビーまで連れてこられたボーマンは再び驚く事となる。
今まで見たことのない化け物が、ソファーに腰を掛けていたからだ。
(なんだ? あれは?)
思わず怪訝顔をしてしまっていたのだろう。
そんな彼の顔を見てチサトはガルヴァドスの事をボーマンに紹介した。
「見た目はかなり凶悪な魔物って感じだけどいい奴よ。ガルヴァドスっていうの」
ガルヴァドスと呼ばれた化け物がこちらを見て何やら考え込むような表情をした。
「ガルヴァドス、心配しなくていいわ。彼は私の仲間のボーマンよ。信頼できる人間だわ」
化け物に笑顔で自分の事を説明するチサト。
(おいおい…、こんな簡単に信頼していいのかよ。俺は…既に1人殺している。コイツの信頼を受ける資格なんざ無い)
だが、その信頼が心地よかった。
かつての仲間というだけで、無条件で自分を受け入れてくれたチサトが眩しく見える。
チサト自信ももう少し警戒すべきなのかも知れないが、仲間の死や裏切り(これは彼女の勘違いだが)という出来事が立て続けに起こった中での仲間との再会。
自然と彼女はボーマンを疑うという事はしなかった。
これ以上、仲間達との繋がりが絶たれるのが嫌だったのかもしれない。
「さあ、ご飯にしましょう!」
チサトがそれぞれの皿にカレーライスを盛り始める。
(どうする? このままでいいのか?)
数瞬の迷いの後、
「待て!」
予想以上に声が大きくなってしまった事に驚きながらも続けた。
「飯の前にちょっと…」
「あぁ、いいわよ。いってらっしゃい」
「?」
いきなり訳のわからないことを口走るチサトに困惑する。
「ご飯の前に中座なんて、行き先は一つしかないでしょ?」
(こいつ…、俺が便所に行きたがってると思っているのか?)
一先ずその勘違いに乗ることにする。
「ああ、行って来る」
「戻ってくるまで待っているから早くしてよね?」
ボーマンは彼女の呼びかけに手をひらひらと振り、無言で答えロビーを離れた。

64タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:16:19 ID:xSUPrhKQ
改めて考えをまとめようと洗面台に手をつく。
(このまま、悩み続けていてはならない…。ここでチサトを殺したら俺は二度と戻れない。
今決断するんだ! 俺がこれから取るべき行動を! そして、その決意を二度と曲げるな!)
かつての仲間達の姿。殺されてしまった3人を含めて11人との思い出を蘇らせる。
楽しい事ばかりではなかった、辛く、何度となく死にかけもした。
そんな状況を共に生き抜いた仲間達。
(やはり、あいつらはかけがえのない俺の仲間だ。殺したくなんて、死んで欲しくなんてない。だけど…)
この島に来てからの自分の行動を振り返る。
エクスペルに戻れる可能性が高い方を選び、自分と同じく父親であるアドレーを手にかけた。
その後、今度は脅迫に近かったとはいえ瀕死の人間の命を救った。
人を1人殺したという罪が軽くなった気がしたのは事実だ。
だが今度は、救った人物の親友を名乗る男に、治療薬と偽り破砕弾を渡した。
彼らが上手く再開したら、おそらくクレスと呼ばれた少年は死ぬだろう。
チェスターもその事実に絶望し気が狂うかもしれない。
マリアが彼を放っておくわけもないだろう。
我ながら鬼畜な事をしたものだ。
(そんな俺が今更…)
葛藤をしていた彼の脳裏に、」ニーネとエリスの笑顔がちらついた。
(俺は…、もう一度二人に会いたい! それに…)
エリアルタワーで十賢者との初遭遇後、訳のわからぬまま辿り着いたネーデのセントラルシティ。
そこの市長ナールから告げられた母星エクスペルの崩壊。
それとともに悟ったニーネの死。
(もし、俺がここで死んだらあの時感じた絶望をニーネとエリスに与える事になる。
それだけは絶対にさせるわけにはいかない! そうだ! もう俺は迷わない! 例え誰であってもこの手にかけてやる!)
彼もまた、決意を固める事となった。
(おそらくロビーに戻れば食事になる。何とかマンドレイクを避け二人が口にするのを待つしかないか…)
ボーマンはその決意をより強固な物にするため、仲間殺しをする覚悟を決めた。

洗面台で顔を洗い、気を引き締める。
なんとか自然体な表情を装ってトイレから出ようとした時、ズシィーンと巨大な何かが倒れる音がした。
外からは、なにやら叫び声を上げているチサトの声が聞こえてくる。
ボーマンは意を決してロビーへと向かった。

65タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:16:52 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

チサトは何が起きたかわからなかった。
もう待ちきれない様子だったガルヴァドスに、先に食べていていいわよと声を掛けた矢先の出来事である。
カレーを口にしたガルヴァドスが、白目をむき卒倒したのだ。
(えっ? なになに? そんなに私のカレーがまずかったの?)
いや、だが明らかに様子がおかしい。
いくら口に合わないもの食べてもこうはならないだろう。
(とにかくボーマンを呼ぼう。素人の私よりこういったものには詳しいはずだ)
そう思いトイレの方に振り向いた時、丁度ボーマンが出てきた。
「聞いてよ! カレー食べたらいきなり倒れたの! 食中毒とかでもないと思うけど、お願い! 診てあげて!」
「いや、原因はわかっている」
どこかいつもと違う、冷え冷えとしたボーマンの声。
「マンドレイク毒の症状だ。俺が用意して、お前がカレーに入れた」
「なっ、何を言ってるの?」
「カレーに毒を盛ろうとしたんだ…俺が」
突如として向けられた本気の殺意。
直観的にやばいと悟り、後方に大きく跳び退く。
今までいた場所が爆発で包まれていた。
爆風が頬をなぶり、飛ばされた破片が雨のように降り注ぐ。
立ち昇る爆煙を振り払い、ボーマンが迫る。
鋭い踏み込みと共に、矢の様に鋭い拳が打ち出された。
正面からそれをガードするチサト。
ガードした体勢のまま押し返し、開いた間合いを利用して胴に蹴りを見舞う。
大きく距離が開く二人。
(まさか、彼まで…)
チサトは未だにボーマンが言ってることを理解できなかった。
いや、したくなかった。
だが、彼の口からそれは告げられた。
「俺はニーネとエリスの下に帰るため優勝を狙うことにしたんだ…。恨むなとは言わない。だが、俺の目的の為に…死んでくれ!」
白衣の内ポケットより取り出した丸薬を炸裂させる。
チサトの周囲に毒素を孕んだ霧が生じる。
直接的な殺傷力は乏しいが、長時間吸っていては悪影響が出るだろう。
なによりこのままこの場にとどまれば、更なる丸薬のいい的だ。
裏を掻くためあえて霧の先、ボーマンがいると思われる方向へと突進。
立ち込める毒霧の中でボーマンを捉える。
チサトのこの行動を予期していなかったボーマンは、彼女に先手を許す事となった。
チサトは突進のスピードを活かし拳打、肘打ち、掌打と流れるような連打を放つ。
神宮流体術奥義『昇龍』だ。
ボーマンは防御に徹することで、なんとか痛撃を受けるのを免れた。
攻防によって巻き起こる風で霧が晴れ、正面から視線がぶつかる。

66タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:17:56 ID:xSUPrhKQ
「あなたもなのね? ボーマン…」
ボーマンに向けて呟くチサト。
信じられなかった。信じたくなかった。クロードに続いて彼まで…。
確かに、この二人の目的は理解できる。
だけど、自分達の絆はこんな簡単に断たれてしまう物なのか?
「も? 他にも誰か殺し合いに乗ってるのか?」
「クロードもよ…。直接聞いたわけではないけれど、いきなり襲ってきたわ。
きっとレナを生き残らせる為に、他の人間を皆殺しにするつもりなんだわ」
「そうか…」
クロードの事を聞いたボーマンは、哀しげな表情をした。
彼もクロードがそんな事をするはずがないと思っているに違いない。
その姿を見て、まだボーマンは迷っているのかもしれないと思った。
「考え直すつもりはないの?」
決めたはずだった。殺し合いに乗った者は誰だろうと止めると。
もしここで彼が考えを改めてくれるなら、まだやり直せると思った。
だから、これは彼に対しての最終勧告。
しかし、ボーマンの決意は固かった。
「俺は既に一人殺している…。今更…後戻りなんぞ…できん!」
叫ぶや否やボーマンが一気に間合いを詰め、突きを繰り出してきた。
チサトも素早くこれに応戦。
突きを腕で受け流し、ボーマンの延髄目掛けて回し蹴りを見舞う。
ボーマンも空いてる方の腕でこれをガード。
チサトはそのガードごと脚を振りぬき、間合いを離す。
陣宮流体術は足技主体の流派だ、対してボーマンは拳打主体の格闘スタイル。
当然、懐に入られたらチサトは不利になる。
だが、ボーマンには遠距離攻撃の手段がある。
『気功撃』
拳にオーラを纏わせ打ち出す技。
向かって左にそれを回避。
離しすぎた間合いを詰めようとしたが、こちらの出鼻を挫く様にもう一発飛んできた。
それも左に回避。だがこれはボーマンの誘いだった。
左側には迫る壁と、その近くには朽ちかけた円柱。しまったと思った時には遅かった。
爆発音とともに彼女の頭上に円柱の瓦礫が倒れてきていた。

67タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:19:08 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「済まない…」
巻き上がる粉塵に向かって呟く。
恐らくチサトは、あの瓦礫に押しつぶされて死んだだろう。
だが、見つめる粉塵の中に拳を突き上げたようなシルエットが浮かんできた。
「一日に二回もこれを使うなんてね…」
よく見たらチサトの両腕がおかしな事になっている。
(俺の知らない技? 恐らく肉体強化系の気功の類だろう)
チサトの分析をしていたボーマンの視界から彼女が消えた。
刹那。チサトはボーマンに肉迫していた。
そのまま自分に放たれた膝蹴りをガード。
その蹴りは強力で、ガードの上からでもダメージを受ける程だった。
「くっ!」
思わず苦悶の声を洩らしてしまう。
「一気に決めるわ! 神宮千裂拳!」
ガルヴァドスの巨体おも吹き飛ばす強力な連撃。
ガードを抜かれ、連打を浴びるボーマン。
フィニッシュブローで大きく吹き飛ばされたボーマンは、壁に激突してようやく止まった。
体があちこち痛み、意識が混濁する。
(ここまで、なのか…)
だが彼にも意地がある。仲間を殺してでも帰ることを選んだボーマンは、心に湧いた弱気を振り払った。
(そうだ…。決めたんだろ? なんとしても生きて帰るんだと。なら、死ぬその瞬間まであきらめるものか!)
飛びそうになる意識を、気迫でなんとか繋ぎとめる。
(まだ…戦える! それにチサトのあの技。あの手の強化系の気功ならそんな長時間効果が続くものでもないだろう。
それどころかあれだけの爆発力を発揮する技なら反動も物凄いはずだ…。まだ勝機はある)
壁にすがる様に立ち上がった彼は、一先ず時間を稼ぐべく最後の毒気弾をチサトと自分の間に放った。
再びロビー内が毒気を帯びた霧で満たされる。
チサト自身も先刻この技を使用して持続時間の短さと、反動の大きさは把握している。
見るからに毒々しい色をした霧を無視し、ボーマンに詰め寄る。
(くそっ! 速さまで増してやがんのか?)
先のダメージもあり、満足に動けない彼は防御に徹せざるを得なかった。
回し蹴りが死角から迫る。回避は不可能と判断し、腕を使ってガードする。
だが尚も、彼女の攻撃の勢いは止まらない。
回し蹴りの余勢を活かし、そのまま下段、中段と回し蹴りによるコンビネーションを繋げる。
神宮流奥義『旋風』
容赦なく迫る嵐のような脚技。その一撃一撃は重く、正面から受け止める事も容易ではない。
堪らず攻撃の切れ目に合わせて空中に退避。
しかしチサトの執拗なまでの攻めは続く。後を追う様に跳躍しボーマンに追いすがる。
苦し紛れに放ったボーマンの蹴りを掴むと、その勢いを利用しカウンター目掛けて投げ飛ばす。
「っ!」
あまりの衝撃に肺の中の空気が漏れる。ぼやける視界に捕らえたのは空中より迫り来るチサトの姿。
獲物を狩る猛禽類さながら、降下と共に一撃。
だが、顔面に打ち込まれた拳は、予想していた物よりも遥かに軽かった。
チサトの表情が強張る。どうやら時間切れのようだ。
『気功撃』
ゼロ距離で闘気を纏わせた拳をチサトに叩き込む。
拳の衝撃と、放った闘気の衝撃とで彼女を吹き飛ばす。
(今の一撃、チサトに俺を殺す余力はなさそうだな。俺も満身創痍だがこちらにはこれがある)
最後の一個。切り札として取っておいた破砕弾の感触を白衣の上から確かめた。

68タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:20:25 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(肝心な時に時間切れなんて…)
全身にのしかかる鉛のように重たい疲労感。とてもじゃないが今までのようには動けない。
ボーマンを見る限り、かなりのダメージは見て取れるが、こちらにはもう致命打を入れる余力は無い。
状況は明らかに不利だと培ってきた勘が告げていた。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。ここで彼を止めなければ更なる被害者が出る。
じりじりと距離を詰めてくるボーマン。
(なんとか対抗する手立ては?)
彼女はまだ諦めずに反撃の手段を求めた。周囲を見回すと床に転がるデイパックを捕らえる。
誰の物かはわからないが、もし自分のものならあの中に鎧をしまった筈だ。
紐を掴み、振りまわす事で強力な武器に成り得る。
最後の希望を込めて拾い上げると、ズシリと重い。
迫り来るボーマン目掛け、思いっきり振り上げる。
アゴに強力な一撃を叩き込まれた衝撃にたたらを踏むボーマン。
撒き散らされる内容物。
地図、筆記用具、食料、水、そしてこの鼻を突く臭いは、
(ガソリン?)
確かガルヴァドスの荷物にガソリンがあったはずだ。このデイパックはガルヴァドスの物だったらしい。
それらを頭から被ったボーマンの体は、ガソリン塗れになった。
最後に見せたチサトの足掻きが彼女に勝機をもたらした。
特製の名刺は武器として認識されたらしく『バーニングカーズ』用の名刺は無くなっていた。ただ一枚だけを残して。
その一枚は、クロード達を隠れて取材していた最中に紅水晶の洞窟で落とした物だった。
それがきっかけとなり、彼女も彼らの旅に同行することになった。この名刺が自分とクロード達を引き合わせたのだ。
だから、この一枚だけは例え古くなって武器として機能しなくなってしまっても、肌身離さず持っていた。
その一枚の名刺を取り出す。
名刺に気を送り込み、纏わせた闘気を炎へと変化させる。
前述の通り、古くなったこの名刺の攻撃力は無に等しい。だが彼女が掴んだ勝機を活かすにはこれで十分であった。
「バーニング…」
(自分とクロード達とを繋いでくれたこの名刺で、仲間の命を絶つことになるなんて)
カードを振りかぶるチサトの目が微かに滲む。
(それでも誓ったんだ。この地で散った仲間達に。殺し合いに乗った人間を止めると。
例え相手が誰であっても! その相手が、かつての仲間であろうと!)
決意を胸に、仲間との絆を築いた代物で、その仲間の命を絶つべく名刺を放とうとした。
そう、放とうとしたのだが、
(体が、動かない?)
チサトは困惑を胸に抱きながら、正面で立ち尽くすボーマンを見つめる。
彼の手には、見覚えのある丸薬が乗せられていた。

69タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:21:41 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

彼は被った液体がガソリンだと理解していた。
そして、霞む視界の中で炎を纏った名刺を持つチサトの姿を捉えた。
その光景から導き出される結末は一つ。だから今しかないと思った。
ホテルに向かう道中調合しておいた霧状の薬品を散布させる。
その霧を吸った彼女の体はたちまち硬直を始める。
ローズヒップとトリカブトを調合する事で生成される『パラライズミスト』。
霧を吸った者を一時的に麻痺させる代物だ。
あの時ふと思い立った二人の行動が、彼らの明暗を分けた。
麻痺したチサトを見つめる。
(今から俺はコイツを殺す…。忘れるな、この光景を! 心に刻み付けろ、今抱いた感情を! 
俺はこれからこいつの屍の上に立ち、生き続けて行かねばならないのだから!)
懐から破砕弾を取り出すと、チサト目掛けて投げつけた。
思い描いたとおりの軌跡を描き彼女に命中した破砕弾は、チサトの体をバラバラに吹き飛ばした。
爆発によって生じた火の粉が、床を濡らしたガソリンに燃え移る。
ボーマンは自信の身の危険を感じ、その場を退避する。
出掛けに自分の荷物と、側においてあったチサトの荷物を抱えると、外に飛び出した。
(亡骸を弔うぐらいの事はしたかったんだがな…。この状態ではそれもままならないか…。
いや、今の俺にはかつての仲間を弔う資格すら無いんだよな…)
ロビーに上がった火柱は彼女達の遺体を焼き、ホテルの壁にまで浸食し始めた。
ボーマンはその光景をしばらく見つめ続けていた。

どれくらいの間見つめていただろうか。
このままここに居続ける訳にもいかないので、彼は北の方角へと歩き始めた。

【E-04/夜】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:40%]
[状態:全身に打身や打撲]
[装備:なし]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉*3@VP、フェイトアーマー@RS、荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:安全な寝床の確保]
[思考3:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:秘仙丹のストックが1個あります]
[備考3:ホテル跡は次回放送までには焼け落ちるでしょう]
[現在位置:ホテル跡周辺。やや北寄り]
【ガルヴァドス 死亡】
【チサト 死亡】
【残り33人】

70 ◆yHjSlOJmms:2008/01/14(月) 06:23:13 ID:xSUPrhKQ
審議の対象は、チサトのパラライチェックが外れているのは都合良すぎないかってところです。
製作時の流れを追っていきますと、

以前から暖めていた案である、マンドレイクを食わせて毒殺と言うネタを使おうと筆を取る。

バトルも書きたかったので、なんとかその様な展開まで持っていく。

勢いに任せてバトルパートを書ききる。

実の所ボーマンを勝たせたかったのに気付いたら、チサトがガソリン被ったボーマンに止めを刺そうとするところまで書いてしまっていた。

これはいかんと攻略本を漁るといい感じの調合アイテムを発見し俺歓喜。

軌道修正して完成。

推敲を済ませ、最終チェック中にチサトの装備品にパラライチェックを発見し俺涙目。

今ここ→一応チサトからパラライチェックを外す展開を書き足す。

なんですがいかがでしょうか?
叩かれるのも覚悟でやってみましたが、ダメっぽかったら当初書いていた通りチサト勝利verを本スレに投下しようと思います。

71名無しのスフィア社社員:2008/01/24(木) 01:25:16 ID:F9iZd7oU
パラライズミストってお香じゃなかったんだっけ?

ファミ通の攻略本にアイテムの説明文載って無いし、うろ覚えなんで自信無いけど(汗

72 ◆yHjSlOJmms:2008/01/24(木) 02:15:18 ID:OJLjMumo
相変わらずの規制中。

こっちに投下します。
>>71微妙ですね…。言われてみればそんな気も…。
一先ずは霧状の薬品って事で行って、やっぱお香だったってなったら修正しますね。

73決断の時:2008/01/24(木) 02:24:15 ID:OJLjMumo
ガルヴァドスの腹の虫が盛大に鳴いたので、二人は少し早いが夕食にする事にした。
支給品の食料で済ませようかとも考えたのだが、現在位置は跡地と言っても元ホテルだ。
それなりのキッチンを備えているだろうと踏んだチサトは料理の腕を振るう事にした。
キッチンに着いたのはいいのだが、肝心の食材を蓄えているであろう冷蔵庫が見当たらない。
しばし捜し歩いた後に、食材備蓄庫なる場所を見つけたチサト達。
食材一種類の量は大した事ない上に、賞味期限が怪しい物も目立ったが、種類だけはたくさんある。
「何か、リクエストとかある?」
何を作ろうか迷ったチサトは、ガルヴァドスに尋ねた。
「何デモ、構わナイ。オ前が食べたい物デイイ」
「そうねぇ、じゃあ、ニンジンが少ないけどカレーにしましょう。キッチンはあっちだから材料運ぶの手伝って」
「心得タ」
ガルヴァドスを引き連れ食料庫を出たチサトの耳に、この場にはいない、だが聞き覚えのある声が入ってきた。
「フフン…、こんばんは諸君…。この会が始まってようやく半日が経過したわけだが、いかがお過ごしかね?―――
どうやらもう2回目の放送みたいだ。
ホテル跡に着いてからいろいろな出来事があったので、時間の経過に気付かなかった。
何やら耳寄りな情報があると言っているが、そんな事に興味はない。
それよりもかつての仲間達や、さっき別れたチェスターの安否の方が気になった。
「それではまずは死亡者の名前から発表しよう」
そんな彼女の心情を察したわけではないだろうが、最初に死亡者の名前が挙げられるようだ。
(みんな…無事でいてよ!)
仲間達の無事を祈りながらルシファーの声に耳を傾ける。
『ヴォックス』
『ノートン』
『メルティーナ』
『ロジャー・S・ハクスリー』
『ビウィグ』
一人、また一人と読み上げられる犠牲者達。
10人目の名前が呼ばれる。
『アリーシャ』
まだ仲間の名前は呼ばれてはいない。
『ジェストーナ』
11人目。
(まだ呼ばれるの?)
この名前も知らない人物だ。
(このまま誰も呼ばれないで…)
しかし、そんな彼女の願いは叶わなかった。
『セリーヌ・ジュレス』
『オペラ・ベクトラ』
12人目の犠牲者と、13人目の犠牲者に彼女の仲間の名があった。
呆然とした彼女は、抱えていた食材を落としてしまう。
セリーヌとオペラは同じ性別で、かつ年齢が近い事もあり、特に仲が良かった。
そんな二人がネーデ人の同胞ノエルに続き、この地で何者かの凶刃によって倒れたのだ。
チサトはしばらくそのまま立ち尽くしたまま、仲間達のことを考えていた。

74決断の時:2008/01/24(木) 02:24:50 ID:OJLjMumo
いつの間にか放送は終わっていた。
「ドウシタ?」
背後に立っているガルヴァドスが尋ねてきた。
「えっ? ええっと、仲間が呼ばれたからちょっとビックリしちゃって…」
慌てて落とした食材を拾い集める。
「大丈夫カ?」
「えっ?」
意外なガルヴァドスの一言に目を丸くし、チサトは振り向いた。
「我ラ、ブラッドオークモ同胞の死ヲ嘆くトイウ事はスル。ダカラ、オマエノ今の感情ハ理解デキル」
「フフッ、見た目は怖いけど、意外と優しいじゃない?」
チサトのそんな言葉を聞いて、ガルヴァドスは赤い色の顔をよりいっそう赤くした。
「でも、ほんとに大丈夫よ! それに腹が減ってはってねっ! 晩御飯食べながらこれからの方針を改めて決めましょう!」
本当はまだ、二人の死がチサトの胸を痛めていたが、ガルヴァドスを心配させないようにと明るく振舞った。

キッチンは意外と狭くかつ、少し一人でいたかったから、ガルヴァドスにはロビーで待つように言った。
やはりと言うべきか、このキッチンには包丁やナイフといった刃物類は存在しなかった。
棚を漁って、なんとかピーラーを見つける。
野菜の皮はこれで剥き、形はしょうがないので砕いたり割いたりして整えた。
淡々と調理を進めながらも、やはり彼女の心を支配していたのは仲間の死という事実。
(くっ、今度は2人…。さっきのクロードはなんとか退ける事ができたけど、まだ私はこの殺し合いを止める為何も出来ていない…。
もしかしたらさっき呼ばれた人の中に、クロードが手にかけた人物が含まれているかもしれない…。
今度こそ誰であろうと殺し合いに乗っている人間を止めてみせる! それが殺された人達へ、今私が出来る事!)
彼女は改めて決意を固めた。
後はカレーを煮詰めるのと、米が炊けるのを待つだけだ。
(少し気分を変えてこようかしら…。ここで火が使えるって事はお湯も出るわよね?)
外で動き回ったせいか、体に汗とホコリが纏わりついている。
彼女は客室のシャワールームを利用しようと、キッチンを後にした。

浴室に入り、身に付けているものを脱ぎ去る。
鎧は料理の邪魔になるだろうし、パラライチェックも今すぐ必要になる事は無いだろうと思い、二つともデイパックにしまった。
シャワーを浴びて、ホコリや汗を洗い流すべく頭と体を洗う。
シャンプーやらボディーソープは備え付けてあったものを使った。
神宮流体術免許皆伝の豪傑である彼女でも女性だ。
そのボディーラインは女性特有の曲線で彩られていた。
ショートカットの髪の下から覗くうなじ。
細くともすらりと引き締まった腕と太腿が、彼女の健康美を更に強調していた。
同時に鍛え抜かれた彼女の脚線は、えもいわれぬような緊張感をかもしており、まさしくネコ科の野生動物のごとき美しさを誇っている。
そんな彼女の体の曲線を、泡が撫でるように伝い落ちる。
体の汚れやホコリは洗い流せたものの、彼女の悲しみは洗い流される事はなかった。
むしろ、浴室という閉塞的な空間にいる事で、先程抱いた陰鬱な感情が呼び起こされる。
立ち昇る湯気の中、壁に手をつき項垂れる。
彼女の頬を伝い落ちる液体はシャワーのお湯か、はたまた彼女の涙か…。
一頻りそうしていた後に浴室を出る。
脱衣所の鏡が自分の裸身を映した。
鏡に映った自分の顔は、普段の活力に満ちた自分とは遠くかけ離れていた。
(なんて顔をしているのかしら? こんなの、らしくないじゃないか。
そう、今は仲間の死に捕らわれ立ち止まっている場合じゃない! 前へ、前へ進む事が私のすべき事!)
頬を両の手で思いっきりはたき、自らに喝を入れた。
着替えを済まし脱衣所を出る。
(もう、完成している頃かしら?)
調理を再開すべく、再びキッチンへ向かった。

75決断の時:2008/01/24(木) 02:25:29 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「また13人…か」
チェスターを見送ったボーマンは、西に進んでいた最中に2回目の放送を聞いた。
予想以上に多い。自分は昼から夕方にかけては、誰も手にかけていない。
それなのに13人の死亡者がでたという事は、返り討ちにあったゲームに乗った人物もいるだろうが、自分も含めて6,7人ぐらいはいるのではないだろうか?
(現在の生存者は俺を除いて35名。内殺し合いに乗った人数を7人と仮定すると大体5人に1人か…。
このまま外で夜を迎えるのは、いささか危険かも知れんな)
彼は安全な場所を確保すべく、現在位置から目と鼻の先にあるホテル跡を目指し歩き始めた。
狩る側にとってはそういった場所に集まるだろうと目星を付けやすいだろう。
それでも、外で全周囲を警戒しながら一夜を過ごすよりは遥かにましだろう。
それにホテルの部屋ならば、出入り口に破砕弾によるトラップを仕掛けておけば、寝込みを襲われる心配も少ない。
(そういえば、さっきチェスターに渡した破砕弾でストックが切れていたな)
ボーマンは新たに3個の破砕弾と2個の毒気弾、1個の秘仙丹を生成した。
ついでに、戦闘時の調合は不可能だと思いつき、戦闘時に補助的な役割を果たしそうな物も作って懐にしまっておく。
そうこうしているうちにホテル跡が見えてきた。
そのホテルの一室からは、なぜかカレーの臭いが漂ってきていた。
不審に思い、窓からその部屋の様子を伺うと部屋の中は無人だ。
火が点いたガス台の上にはカレールーで満たされた鍋と、その横で米を炊いている鍋があるだけだった。
改めて誰もいない事を確認し、ボーマンは窓から部屋に侵入した。
(誰かがここで料理をしているんだろうな…。
どうやら先客がいたらしい。どうする? 殺し合いに乗った人間だと厄介だな…)
だが、彼はその可能性が薄いことに気付く。
(いや、この米とルーの量は明らかに1人で食べる量じゃない。という事は複数人いるわけか…。
その場合はアドレーやマリアのように主催者の打倒を目指している連中の可能性が高いな…。
このゲームの勝者は1人だけというルールがある以上、殺しに乗った人物は基本的に一人で行動するはずだからな)
鍋の中を覗き込む。
(このカレー、やけにニンジンが少ないな、それに野菜の形が歪だ)
理由はすぐにわかった。まな板にはピーラー、それと細かく砕かれた野菜の破片。
包丁等がここにはなかったのだろう、仕方なくこの料理人は叩くなり潰すなりして大きさを調整したと思われる。
そこで彼の中の悪魔がボーマンに囁いた。
(今自分の持っている物にニンジンに酷似しているイイ物があるじゃないか)
「マンドレイク…」
彼は呟くと同時に、デイパックの中からそれを取り出した。
クレスの治療の際1/3使ってしまっているが、コイツ単体ならばかじっただけで人を死に至らしめる事が可能だ。
自分の手を直接汚さずに人を殺せる。
尚も人を直接殺す事に抵抗があった彼には、それがとても魅力的な行為に思えた。
自然と手は動き、マンドレイクの皮をピーラーで剥き始めていた。

76決断の時:2008/01/24(木) 02:26:00 ID:OJLjMumo
マンドレイクの皮を全て剥き終えたその時、
「誰っ!? 両手を上げてこちらにゆっくり振り向き…って、あなた、ボーマンじゃない!」
キッチンに戻ってきた人物――チサトと鉢合わせてしまった。
ボーマンは焦った。よりにもよって、ここで料理をしていたのが、かつての仲間だったなんて。
「何してたの?」
こちらに歩み寄りながら質問してくるチサト。
「ん? ああ」
あやふやな返事をするボーマン。
(さて、どうしたものか?)
「あれ? これニンジン? 丁度少なくて困ってたの。食料庫にはもう無くってさ」
まな板の上のマンドレイクを覗き込んで、チサトは見事にニンジンと勘違いをしたようだ。
根元に特徴的な二股がある植物だが、その部位はクレス治療の際に使っている。
こうなってしまえば、素人目にはニンジンにしか映らないだろう。
「あ? ああ。丁度ここを通りかかったらカレーの匂いがしてな。
失礼して覗いてみたらニンジンが異様に少ないのに気付いてな…。
丁度支給品に紛れていたから使おうかと思ったんだが…皮を剥き終えた後包丁が無くて、どうしたものかと考えていたんだ」
我ながら苦しい言い訳だな、と思ったがチサトは、
「そう。助かったわ。サイズは見てくれがアレになるけど…」
と言いマンドレイクをへし折る。それでも尚大きな部分は、引き裂いてドバドバッとマンドレイク片を鍋に入れた。
「まぁ、なにより無事でよかったわ。ロビーに同行者を待たしているの。
話したいこともあるし、一緒に食べましょう。そっちの鍋運んでくれる?」
少し煮詰めた後に、鍋を抱えてチサトはボーマンを促した。
(まずい事になった…。だがここで断っても怪しまれる。一先ずは同意するしかないな)
「わかった」
動揺を表情に出さないように気を遣いながら、彼はチサトの後についていった。

77決断の時:2008/01/24(木) 02:26:32 ID:OJLjMumo
ロビーまで連れてこられたボーマンは再び驚く事となる。
今まで見たことのない化け物が、ソファーに腰を掛けていたからだ。
(なんだ? あれは?)
思わず怪訝顔をしてしまっていたのだろう。
そんな彼の顔を見て、チサトはガルヴァドスの事をボーマンに紹介した。
「見た目はかなり凶悪な魔物って感じだけどいい奴よ。ガルヴァドスっていうの」
ガルヴァドスと呼ばれた化け物が、こちらを見て何やら考え込むような表情をした。
「ガルヴァドス、心配しなくていいわ。彼はボーマン、私の仲間よ。信頼できる人間だわ」
化け物に笑顔で自分の事を説明するチサト。
(おいおい…、こんな簡単に信頼していいのかよ?)
だが、その信頼が心地よかった。
かつての仲間というだけで、無条件で自分を受け入れてくれたチサトが眩しく見える。
チサト自信も、もう少し警戒すべきなのかも知れないが、仲間の死や裏切り(これは彼女の勘違いだが)という出来事が立て続けに起こった中での仲間との再会。
自然と彼女はボーマンを疑うという事はしなかった。
これ以上、仲間達との繋がりが絶たれるのが嫌だったのかもしれない。
「さあ、ご飯にしましょう!」
チサトがそれぞれの皿にカレーライスを盛り始める。
(どうする? このままでいいのか?)
数瞬の迷いの後、
「待て!」
ボーマンは自分の声が予想以上に大きくなってしまった事に驚きながらも続けた。
「飯の前にちょっと…」
「あぁ、いいわよ。いってらっしゃい」
「?」
いきなり訳のわからないことを口走るチサトに困惑する。
「ご飯の前に中座なんて、行き先は一つしかないでしょ?」
(こいつ…、俺が便所に行きたがってると思っているのか?)
一先ずその勘違いに乗ることにする。
「ああ、行って来る」
「戻ってくるまで待っているから早くしてよね?」
ボーマンは彼女の呼びかけに手をひらひらと振り無言で答え、ロビーを離れた。

78決断の時:2008/01/24(木) 02:27:07 ID:OJLjMumo
改めて考えをまとめようと洗面台に手をつく。
(このまま、悩み続けていてはならない…。ここでチサトを殺したら俺は二度と戻れない。
今決断するんだ! 俺がこれから取るべき行動を! そして、その決意を二度と曲げるな!)
かつての仲間達の姿。殺されてしまった3人を含めて11人との思い出を蘇らせる。
楽しい事ばかりではなかった。辛く、何度となく死にかけもした。
そんな状況を共に生き抜いた仲間達。
(やはり、あいつらはかけがえのない俺の仲間だ。殺したくなんて、死んで欲しくなんてない。だけど…)
この島に来てからの自分の行動を振り返る。
エクスペルに戻れる可能性が高い方を選び、自分と同じく父親であるアドレーを手にかけた。
その後、今度は脅迫に近かったとはいえ瀕死の人間の命を救った。
人を1人殺したという罪が軽くなった気がしたのは事実だ。
だが今度は、救った人物の親友を名乗る男に、治療薬と偽り破砕弾を渡した。
彼らが上手く再開したら、おそらくクレスと呼ばれた少年は死ぬだろう。
チェスターもその事実に絶望し気が狂うかもしれない。
マリアが彼を放っておくわけもないだろう。
我ながら鬼畜な事をしたものだ。
(そんな俺が今更…)
葛藤をしていた彼の脳裏に、ニーネとエリスの笑顔がちらついた。
(俺は…、もう一度二人に会いたい! それに…)
エリアルタワーで十賢者との初遭遇後、訳のわからぬまま辿り着いたネーデのセントラルシティ。
そこの市長ナールから告げられた母星エクスペルの崩壊。
それとともに悟ったニーネの死。
(もし、俺がここで死んだら、あの時感じた絶望をニーネとエリスに与える事になる。
それだけは絶対にさせるわけにはいかない! そうだ! もう俺は迷わない! 例え誰であってもこの手にかけてやる!)
彼もまた、決意を固める事となった。
(おそらくロビーに戻れば食事になる。何とかマンドレイクを避け二人が口にするのを待つしかないか…)
ボーマンはその決意をより強固な物にするため、仲間殺しをする覚悟を決めたのであった。

洗面台で顔を洗い、気を引き締める。
なんとか自然体な表情を装ってトイレから出ようとした時、ズシィーンと巨大な何かが倒れる音がした。
外からは、なにやら叫び声を上げているチサトの声が聞こえてくる。
ボーマンは意を決して、ロビーへと向かった。

79決断の時:2008/01/24(木) 02:27:38 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

チサトは何が起きたかわからなかった。
もう待ちきれない様子だったガルヴァドスに、先に食べていていいわよと声を掛けた矢先の出来事である。
カレーを口にしたガルヴァドスが、白目をむき卒倒したのだ。
(えっ? なになに? そんなに私のカレーがまずかったの?)
いや、だが明らかに様子がおかしい。
いくら口に合わないものを食べても、こうはならないだろう。
(とにかくボーマンを呼ぼう。素人の私よりこういったものには詳しいはずだ)
そう思いトイレの方に振り向いた時、丁度ボーマンが出てきた。
「聞いてよ! カレー食べたらいきなり倒れたの! 食中毒とかでもないと思うけど、お願い! 診てあげて!」
「いや、原因はわかっている」
どこかいつもと違う、冷え冷えとしたボーマンの声。
「マンドレイク毒の症状だ。俺が用意して、お前がカレーに入れた」
「なっ、何を言ってるの?」
「カレーに毒を盛ろうとしたんだ…俺が」
突如として向けられた本気の殺意。
直観的にやばいと悟り、後方に大きく跳び退く。
今までいた場所が爆発で包まれていた。
爆風が頬をなぶり、飛ばされた破片が雨のように降り注ぐ。
立ち昇る爆煙を振り払い、ボーマンが迫る。
鋭い踏み込みと共に、矢の様に鋭い拳が打ち出された。
正面からそれをガードするチサト。
ガードした体勢のまま押し返し、開いた間合いを利用して胴に蹴りを見舞う。
大きく距離が開く二人。
(まさか、彼まで…)
チサトは未だにボーマンが言っている事を理解できなかった。
いや、したくなかった。
だが、それは彼の口から告げられた。
「俺は、ニーネとエリスの下に帰るため優勝を狙うことにしたんだ…。恨むなとは言わない。だが、俺の目的の為に…死んでくれ!」
白衣の内ポケットより取り出した丸薬を炸裂させる。
チサトの周囲に毒素を孕んだ霧が生じる。
直接的な殺傷力は乏しいが、長時間吸っていては悪影響が出るだろう。
なにより、このままこの場にとどまれば、更なる丸薬のいい的だ。
裏を掻くためあえて霧の先、ボーマンがいると思われる方向へと突進する。
立ち込める毒霧の中でボーマンを捉える。
チサトのこの行動を予期していなかったボーマンは、彼女に先手を許す事となった。
チサトは突進のスピードを活かして、拳打、肘打ち、掌打と流れるような連打を放った。
神宮流体術奥義『昇龍』だ。
ボーマンは防御に徹することで、なんとか痛撃を受けるのを免れた。
攻防によって巻き起こる風で霧が晴れ、ボーマンを見つめる。
彼の表情には憂いに似た何かが浮かんでいた。

80決断の時:2008/01/24(木) 02:28:11 ID:OJLjMumo
「あなたもなのね? ボーマン…」
ボーマンに向けて呟くチサト。
信じられなかった…。信じたくなかった…。クロードに続いて彼まで…。
確かに、この二人の目的は理解できる。
だけど、自分達の絆はこんな簡単に断たれてしまう物なのか?
何故彼らは、自分と同じように皆と力を合わせて、ルシファーに立ち向かおうとしないのか?
「も? 他にも誰か殺し合いに乗ってるのか?」
「クロードもよ…。直接聞いたわけではないけれど、いきなり襲ってきたわ。
きっとレナを生き残らせる為に、他の人間を皆殺しにするつもりなんだわ」
「そうか…」
クロードの事を聞いたボーマンは、一瞬だけその表情に哀しみの影をよぎらした。
そんなボーマンの表情の変化を捉えたチサトは、まだボーマンは迷っているのかもしれないと思った。
「考え直すつもりはないの?」
決めたはずだった。殺し合いに乗った者は誰だろうと止めると。
もしここで彼が考えを改めてくれるなら、まだやり直せると思った。
だから、これは彼に対しての最終勧告。
しかし、ボーマンの決意は固かった。
「俺は既に一人殺している…。今更…後戻りなんぞ…できん!」
叫ぶや否やボーマンが一気に間合いを詰め、突きを繰り出してきた。
チサトも素早くこれに応戦。
突きを腕で受け流し、ボーマンの延髄目掛けて回し蹴りを見舞う。
ボーマンも空いてる方の腕でこれをガード。
チサトはそのガードごと脚を振りぬき、間合いを離す。
陣宮流体術は足技主体の流派だ、対してボーマンは拳打主体の格闘スタイル。
当然、懐に入られたらチサトは不利になる。
だが、ボーマンには遠距離攻撃の手段がある。
『気功撃!』
拳にオーラを纏わせ打ち出す技。
向かって左にそれを回避。
離しすぎた間合いを詰めようとしたが、こちらの出鼻を挫く様にもう一発飛んできた。
それも左に回避。だがこれはボーマンの誘いだった。
左側には迫る壁と、その近くには朽ちかけた円柱。
しまったと思った時には遅かった。
爆発音とともに彼女の頭上に円柱の瓦礫が倒れてきていた。

81決断の時:2008/01/24(木) 02:28:56 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「済まない…」
巻き上がる粉塵に向かって呟く。
恐らくチサトは、あの瓦礫に押し潰されて死んだだろう。
だが、見つめる粉塵の中に拳を突き上げたようなシルエットが浮かんできた。
「一日に二回もこれを使うなんてね…」
よく見たらチサトの腕がおかしな事になっている。
(俺の知らない技? 恐らく肉体強化系の気功の類だろう)
チサトの分析をしていたボーマンの視界から彼女が消えた。
刹那。チサトはボーマンに肉迫していた。
そのまま自分に放たれた膝蹴りをなんとかガードする。
その蹴りは強力で、ガードの上からでもダメージを受ける程だった。
「くっ!」
思わず苦悶の声を洩らしてしまう。
「一気に決めるわ! 神宮千裂拳!」
怯んだボーマン目掛け、ガルヴァドスの巨体おも吹き飛ばす強力な連撃を見舞う。
ガードを抜かれ、連打を浴びるボーマン。
フィニッシュブローで大きく吹き飛ばされたボーマンは、壁に激突してようやく止まった。
体があちこち痛み、意識が混濁する。
(ここまで、なのか…)
だが彼にも意地がある。仲間を殺してでも帰ることを選んだボーマンは、心に湧いた弱気を振り払った。
(そうだ…。決めたんだろ? なんとしても生きて帰るんだと。なら、死ぬその瞬間まであきらめるものか!)
飛びそうになる意識を、気迫でなんとか繋ぎとめる。
(まだ…戦える! それにチサトのあの技。あの手の強化系の気功なら、そんな長時間効果が続くものでもないだろう。
それどころかあれだけの爆発力を発揮する技なら反動も物凄いはずだ…。まだ勝機はある)
壁にすがる様に立ち上がった彼は、一先ず時間を稼ぐべく、最後の毒気弾をチサトと自分の間に放った。
再びロビー内が毒気を帯びた霧で満たされる。
チサト自身も先刻この技を使用して持続時間の短さと、反動の大きさは把握している。
見るからに毒々しい色をした霧を無視し、ボーマンに詰め寄る。
(くそっ! 速さまで増してやがんのか?)
先のダメージもあり、満足に動けない彼は防御に徹せざるを得なかった。
回し蹴りが死角から迫る。回避は不可能と判断し、腕を使ってガードする。
だが尚も、彼女の攻撃の勢いは止まらない。
回し蹴りの余勢を活かし、そのまま下段、中段と回し蹴りによるコンビネーションを繋げる。
神宮流奥義『旋風』
容赦なく迫る嵐のような脚技。
その一撃一撃は重く、正面から受け止める事も容易ではない。
堪らず攻撃の切れ目に合わせて空中に退避。
しかし、チサトの執拗なまでの攻めは続く。後を追う様に跳躍しボーマンに追いすがる。
苦し紛れに放ったボーマンの蹴りを掴むと、その勢いを利用しカウンター目掛けて投げ飛ばす。
「っ!」
あまりの衝撃に肺の中の空気が漏れる。ぼやける視界に捕らえたのは空中より迫り来るチサトの姿。
獲物を狩る猛禽類さながら、降下と共に振り下ろされる一撃。
だが、顔面に打ち込まれた拳は、予想していた物よりも遥かに軽かった。
チサトの表情が強張る。どうやら時間切れのようだ。
『気功撃!』
ゼロ距離で闘気を纏わせた拳をチサトに叩き込む。
拳の衝撃と、放った闘気の衝撃とで彼女を吹き飛ばす。
(今の一撃、チサトに俺を殺す余力はなさそうだな。俺も満身創痍だが、こちらにはこれがある)
最後の一個。切り札として取っておいた破砕弾の感触を白衣の上から確かめた。

82決断の時:2008/01/24(木) 02:29:29 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(肝心な時に時間切れなんて…)
全身にのしかかる鉛のように重たい疲労感。とてもじゃないが今までのようには動けない。
ボーマンを見る限り、かなりのダメージは見て取れるが、こちらにはもう致命打を入れる余力は無い。
状況は明らかに不利だと培ってきた勘が告げていた。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。ここで彼を止めなければ更なる被害者が出る。
じりじりと距離を詰めてくるボーマン。
(なんとか対抗する手立ては?)
彼女はまだ諦めずに反撃の手段を求めた。周囲を見回すと床に転がるデイパックを捕らえる。
誰の物かはわからないが、もし自分のものならあの中に鎧をしまった筈だ。
紐を掴み、振りまわす事で強力な武器に成り得る。
最後の希望を込めて拾い上げると、ズシリと重い。
迫り来るボーマン目掛け、思いっきり振り上げる。
アゴに強力な一撃を叩き込まれた衝撃にたたらを踏むボーマン。
その衝撃により、撒き散らされる内容物。
地図、筆記用具、食料、水、そしてこの鼻を突く臭いは、
(ガソリン?)
確かガルヴァドスの荷物にガソリンがあったはずだ。このデイパックはガルヴァドスの物だったらしい。
それらを頭から被ったボーマンの体は、ガソリン塗れになった。
最後に見せたチサトの足掻きが彼女に勝機をもたらした。
特製の名刺は武器として認識されたらしく『バーニングカーズ』用の名刺は無くなっていた。
ただ一枚だけを残して。
その一枚は、クロード達を隠れて取材していた最中に紅水晶の洞窟で落とした物だった。それがきっかけとなり、彼女も彼らの旅に同行することになった。
この名刺が自分とクロード達を引き合わせたのだ。
だから、この一枚だけは例え古くなって武器として機能しなくなってしまっても、肌身離さず持っていた。
その一枚の名刺を取り出す。
名刺に気を送り込み、纏わせた闘気を炎へと変化させる。
前述の通り、古くなったこの名刺の攻撃力は無に等しい。だが彼女が掴んだ勝機を活かすにはこれで十分であった。
「バーニング…」
(自分とクロード達とを繋いでくれたこの名刺で、仲間の命を絶つことになるなんて)
カードを振りかぶるチサトの目が微かに滲む。
(それでも誓ったんだ。この地で散った仲間達に。殺し合いに乗った人間を止めると。
例え相手が誰であっても! その相手が、かつての仲間であろうと!)
決意を胸に、仲間との絆を築いた代物で、その仲間の命を絶つべく名刺を放とうとした。
そう、放とうとしたのだが、
(体が、動かない?)
チサトは困惑を胸に抱きながら、正面で立ち尽くすボーマンを見つめる。
彼の手には、見覚えのある丸薬が乗せられていた。

83決断の時:2008/01/24(木) 02:30:05 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

彼は被った液体がガソリンだと理解していた。
そして、霞む視界の中で炎を纏った名刺を持つチサトの姿を捉えた。
その光景から導き出される結末は一つ。だから、今しかないと思った。
ホテルに向かう道中、調合しておいた霧状の薬品を散布させる。
その霧を吸った彼女の体はたちまち硬直を始める。
ローズヒップとトリカブトを調合する事で生成される『パラライズミスト』
霧を吸った者を一時的に麻痺させる代物だ。
ふと思い立った二人の行動が彼らの明暗を分けた。
麻痺したチサトを見つめる。
(今から俺はコイツを殺す…。忘れるな、この光景を! 心に刻み付けろ、今抱いた感情を!
俺はこれからこいつの屍の上に立ち、生き続けて行かねばならないのだから!)
懐から破砕弾を取り出すと、チサト目掛けて投げつけた。
思い描いたとおりの軌跡を描き彼女に命中した破砕弾は、チサトの体をバラバラに吹き飛ばした。
爆発によって生じた火の粉が、床を濡らしたガソリンに燃え移る。
ボーマンは自信の身の危険を感じ、その場を退避する。
出掛けに自分の荷物と、側においてあったチサトの荷物を抱えると、外に飛び出した。
(亡骸を弔うぐらいの事はしたかったんだがな…。この状態ではそれもままならないか…。いや、今の俺にはかつての仲間を弔う資格すら無いんだよな…)
ロビーに上がった火柱は彼女達の遺体を焼き、ホテルの壁にまで浸食し始めた。
ボーマンはその光景をしばらく見つめ続けていた。

どれくらいの間見つめていただろうか。
このままここに居続ける訳にもいかないので、彼は北の方角へと歩き始めた。

84決断の時:2008/01/24(木) 02:30:35 ID:OJLjMumo
【E-04/夜】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:40%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れ(気化するまで火気厳禁)]
[装備:なし]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉*3@VP、フェイトアーマー@RS、パラライチェック@SO2、荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:安全な寝床の確保]
[思考3:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:秘仙丹のストックが1個あります]
[備考3:ホテル跡は次回放送までには焼け落ちるでしょう]
[現在位置:ホテル跡周辺。やや北寄り]
【ガルヴァドス 死亡】
【チサト 死亡】
【残り33人】

85 ◆yHjSlOJmms:2008/01/24(木) 02:32:28 ID:OJLjMumo
投下完了です。

86 ◆Jl03K2DT.Y:2008/02/04(月) 01:23:13 ID:PszzqiYI
本スレの2度目の書き込みトリミスってるしorz
直したんで確認してください。

87第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:24:28 ID:PszzqiYI
「さあ、どういう事か説明してもらおうか!」
ネルはアルベルに銃口を向け強い口調で問いただした。
アルベル自信は別に自分がどう思われようが気にしない性格だったが、殺してもいないのに殺人の容疑をかけられていい気分などしない。
「おい!そこのガキ! 俺はあのまま死体を放置しとくのも哀れだったんで弔ってやろうとしただけだ」
夢留を睨み付け言い放った。
「ほう、あんたがそんなことをするようなやつだったとは思ってもみなかったよ。
私の知っているあんたはこの状況を幸いとして人殺しを楽しむタイプの人間のはずだよ」
尚も銃を向けつつアルベルを睨み付けているネルが割り込んできた。
「俺を見くびるなよ糞虫が!俺は無抵抗な人間を殺したり、弱いものイジメをするような趣味は無いんだよ!それに」
そう言うと左手のガントレットの鉤爪でドアを思いっきり引っ掻いて見せた。
だが、そのドアには傷一つつく事はなかった。
「見た目は愛用の手甲だが鉤爪部分はナマクラもいいとこ、こんなんじゃあ人を殺したくても殺せねぇよ」
そう言ったところでアルベルは自分の無実を証明する名案を閃いた。
「おい!そこのガキ。てめえは俺が女を殺したのを見たって言っていやがったな。
その時の死体は見たか?見てたならわかると思うがあんなに血塗れにするには相当斬れる獲物が無いと無理だ。見てのとおり今の俺はそんな獲物を持ち合わせていない」
「確かに、あの女の人一目で死んでいるとわかるぐらい血だらけだったけど…。あなた武器を隠し持っているんじゃないの?」
「何なら荷物の中身でも見てみるか?ろくなもんが出てこねえけどな」
そう言うと担いでいたバックを腕に抱えた。
「わかった。荷物をそこに置いて向こうの壁まで下がりな。妙な真似したら撃ち抜くからね!悪いけどあんたはこっちで荷物の確認をしてくれるかい?」
夢留は頷き、アルベルも渋々ネルの言われたとおり荷物を置いて壁まで下がった。

88第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:25:03 ID:PszzqiYI
「こっちのバックには特に目立ったものは無いみたい」
そういうと2つ目のバックを探り始めた。
「うわぁ、なにこれ?メイド服?」
夢留はバックからメイド服を広げながら取り出した。
「あんたがメイド好きだったとはね。しかもこれスフレのじゃないか。ロリコンの気まであるのかい?弱い者イジメの趣味は無いかわりにいい趣味してるじゃないか」
先程とはうってかわって軽蔑の眼差しをアルベルに向けた。
「なっ、ちっちげーよ阿呆が!それはそこのガキが俺に向かって投げつけてきた荷物に入ってたんだよ!」
「え〜。私こんなの知らないしぃ〜」
夢留は珍しそうにメイド服を眺めながら言った。
「そっそんなことより武器は出てきたのかよ?」
二人は夢留の方を見たが彼女は首を横に振った。
「どうやらあんたは白みたいだね。」
そう言うとネルは銃を下ろした。

オペラは終止三人のやり取りを見ていた。
あの場に乱入して三人殺すことも考えたが、男と赤毛の女の身のこなしは見ただけで只者ではないとわかるものだったのでその案は実行しなかった。
どうやらこのままバラけることもなさそうだし次のチャンスを伺うことにしよう。
そう思い出口に身を翻したその時。
「そこのあんた!私が気づいていないなんて思っているのかい?両手を挙げてゆっくりこっちに来な!」
部屋の中から女の怒鳴り声が聞こえてきた。
(気づかれた?どうする?姿を見られてはいなそうだけど…。いや、ここはうまく近づくチャンスだわ。)
すばやく考えをまとめオペラは言われた通り両手を挙げながら部屋に入った。

89第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:26:48 ID:PszzqiYI
「あんた、あんなところで何をしてたのさ?」
ネルはオペラに問いただす。
オペラの側からは窓からの光で表情まではうかがい知れなかった。
「この建物を通りかかったときに声が聞こえたから気になって様子を伺ってたのよ」
「じゃあ、何でコソコソと隠れていたのさ?どこから見てたか知らないけど私たちはゲームに乗ったりしてる様子はしてなかったはずだよ」
「突然出てってもあなたたちを驚かすことになりそうだったからよ」
そういうとオペラは前髪をかきあげ額にある第3の目を見せた。
「こんな容姿をしているから特に疑われやすいのよ」
ネルは彼女の言い分に納得すると表情を和らげた。
「そうだったのかい。すまなかったね、いきなり脅かすような真似をしてさ。 こんなことになってるんだ警戒するに越したことないからね」
そう言うと銃口を下げオペラの方に歩み寄った。
オペラとネルの距離が2メートルぐらいになったその時、しばらく黙っていたアルベルが口を開いた。
「待て。その女が危険人物かどうかわかってねぇだろうが」
アルベルはネルを制止するとオペラにたずねた。
「お前はこの殺し合いをどう思ってる?」
「やってられるわけないじゃない。突然分けわかんないところに連れてこられて最後の一人まで殺しあえ?冗談じゃないわ!」
ここに来てからの彼女の行動は今の発言とは正反対だったが本心だった。
何も好き好んでミントを殺したわけではない。ただ愛する人の為そうするしかなかったのだ。
アルベルは尚も探るように問いかける。
「ほう、じゃあまだ人を殺したりしてねぇよな?」
「とっ当然じゃない。襲われたりしないかぎり好き好んで殺したりなんかしないわ。」
真実を言えば自分の立場が危うくなると思いとっさに嘘をついた。
「嘘をつくんじゃねえよ糞虫が!だったら何でてめえの荷物から血の臭いがしやがるんだ!?」
確かにミントを切り捨てた剣はバックの中にあるが、そんな臭いを嗅ぎ分けれるわけがない。
「そっそんなの言い掛かりだわ!」
「いいや、数多の戦場で人を、モンスターを切り捨ててきた俺の鼻がこの臭いを嗅ぎ違えるわけがねえ!その荷物の中身見せてもらうぜ!」
そう言うとアルベルは左手を伸ばしてオペラの荷物を掴もうとした。
その左手は荷物を掴むことは無かった。代わりに彼の左腕に焼けるような痛みが走った。
オペラが飛び退きざまに彼の腕を隠し持っていた剣で切りつけたのだ。
オペラの気配の変化を素早く嗅ぎ取ったアルベルは一瞬早く手を引いていたので手首を切断される事はなかった。
「やっぱり嘘をついていやがったのか、このまま俺たちと同行し隙を見て皆殺しにするつもりだったんだろ?
大方あの道で死んでた女を殺ったのもてめえの仕業だな。そんな太刀筋じゃあ不意打ちじゃなきゃ殺れねえもんな?」
アルベルは切られた左手の傷を舐めながら鋭い殺気を込めた眼光をオペラに向けた。
「アルベルよしな!その剣とてつもない魔力を持ってるよ。
3対1だけどまともにやりあえばこっちもただじゃ済まない。一旦退くよ!」
「はっ!この臆病者が!こんな糞虫潰すのなんざ素手で十分だ。 この糞虫に身の程ってやつを教えてやる!やる気がないならさっさとそのガキ連れて逃げな!」
「アルベルあんたねえ。」
臆病者という言葉にカチンと来たネルは言い返そうとした。
「もしかしてあの人私たちを逃がすための時間を稼ぐつもりかも。」
そんな二人の様子を眺めていた夢留がボソッとつぶやいた。
「なっ、ちっちげーよ!阿呆が!!お前らのためなんかじゃねえ!
足手まといがいても邪魔なだけなんだよ!いいからさっさと逃げろよ!」
思わぬ一言を耳にしてアルベルは少し動揺したように声を上ずらせて返した。
(今度はツンデレかい?忙しいやつだね)
ネルは少し呆れたがこの少女を危険にさらすわけにもいかないのでアルベルの言葉に従うことにした。
「わかった。好きにしな。けど、あんたみたいな奴でもルシファーを倒す大事な戦力なんだ。 こんな所で野垂れ死ぬんじゃないよ」
そう言い残すと夢留と共に窓から外に飛び出した。

90第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:27:29 ID:PszzqiYI
オペラは逃げる二人には目もくれずアルベルをじっと睨み付け剣を青眼に構えた。
対するアルベルは左手足を前に出し半身になりその右手に闘気を込めてオペラを睨みつけている。
(今の俺が出せる技で一番破壊力があるのはこれだ。乱発はできねえ、一撃で決めてやる)
アルベルは一足飛びで仕掛けられる間合いにするべく半歩踏み込んだがオペラも半歩下がった。
(太刀捌きは微妙だったが今の間合いの取り方といい、相手の動きを点で捉える目の動きといいこの女相当修羅場をくぐって来てやがるな)
そう思うと少し楽しくなりニヤリと口元を歪めた。
ルシファーを倒して以来アーリグリフ国内に彼に敵う者もいなくシーハーツとの戦争も終結し闘争に飢えていた。久しぶりのこの空気はやはり彼にとっては心地の良い物らしい。

しばらくお互い相手の間合いのギリギリのところで様子を伺っていた。
アルベルは相手の剣を受ける術を持たないので隙を探していた。
対するオペラは剣術のイロハも知らない素人、下手な小細工はできるはずも無い。
ただ手製のランチャーを振り回していたスイングスピードには自信があった。
相手が仕掛けてきた一瞬の隙に一太刀浴びせるつもりだ。
(この緊張感は心地良いがいい加減飽きたな。仕方ねえ仕掛けるか)
両足に力を込め床を蹴る。一気に間合いをつめオペラの剣がギリギリ届かない位置に着地した。
オペラはその着地の隙を逃さず一歩踏み込みつつ剣を振り上げ一気に振り下ろした。
その剣閃はアルベルの脳天をしっかりと捕らえていた。
「チィ」だがアルベルもその動きを見切り体を右にそらした。
危うく左肩から先が無くなる所ではあったがなんとかこの一撃を回避できた。
相手は隙だらけ、振り下ろした剣で二の太刀を打ち込んでくる気配も無い。
右手に渾身の力を込めオペラの左わき腹に拳を叩き込み同時に練り上げていた闘気を解き放った。
「吼竜破!」
アルベルが叫びと共に放たれた闘気は竜の形を成しオペラに襲い掛かった。
「かはっ」
オペラはそのまま反対側の壁に叩きつけられくぐもった声を上げた。
オペラは剣を杖代わりにして立ち上がろうとしたが、掌打を叩き込まれた左わき腹に激痛が走りそれはかなわなかった。
アルベルは確かな手応えを感じオペラに歩み寄る。
「その様子じゃあもう戦えないだろ、抵抗できない奴に止めを刺すのは主義に反するがてめえみたいな危険人物を生かしておくわけにもいかねぇ。
せめて一思いに殺してやる」
そう言うと再度右手に闘気を込めだした。
オペラは立てひざを突いたまま左手でジャケットのポケットを探った。
不審な動きをしたオペラを見てアルベルは「動くんじゃねえ!」と叫び、とどめの一撃をいれるべく飛び掛ったが遅かった。
オペラは一枚の札を取り出すとそれを掲げた。
オペラの体はまばゆい光に包まれその光がおさまる頃には姿は消えていた。

オペラは気がつくと氷川村すぐ近くの道端にいた。
彼女の窮地を救ったアイテム神速の護符はその手から消えている。
オペラの荷物に入っていた支給品のひとつだった。
(いざという時に使うつもりだったけどこんなにも早い段階で使うことになるなんて。
とにかく傷の手当をしないと、このままじゃあまともにやりあっても返り討ちが関の山だわ)
フラリと立ち上がるとまたもやわき腹に激痛が走り意識が飛びかけた。
剣を地面に突き刺し自身を支え呼吸を整えた。
「まだよ、まだ死ねないの。エルのためにもっと、もっと殺さないと…」
うわごとの様に呟くと沖木島診療所の方へ歩き始めた。

【I-07北部/昼】
【オペラ・べクトラ】[MP残量:100%]
[状態:右肋骨骨折:右わき腹打撲]
[装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP]
[道具:???←本人確認済 +荷物一式*2]
[行動方針:参加者を殺し、エルネストを生き残らせる]
[思考1:怪我の治療をすべく診療所へ行く]
[思考2:誰かと遭遇しても不意打ちが確実に決まる状況で無いならスルー]

91第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:28:39 ID:PszzqiYI
「ふう」
何とかオペラを退けたアルベルは一息ついた。
のどが渇いたので水を取り出そうとしたが、辺りには荷物が1セットしかなかった。
(あのガキちゃっかり自分の荷物持って行きやがって。)
水を取り出そうとバックに歩み寄るとバックが妙に膨らんでいるのに気づいた。
少し嫌な予感がしたので中身を確認するとそこには
〔こういうの好きなら私いらないからあげるね☆〕と書かれたメモとともにメイド服が出てきた。
「だからこんなもん好きじゃねぇー!!」
メモとメイド服を切り裂こうとしたが、生憎左手首の切り傷が痛んでそれは適わなかった。
メモを丸めて捨てると仕方がないので、かさばらない様にメイド服を綺麗にたたんでバックにいれた。
服をたたんでいる時ふと(俺なにやってんだろorz)と悲しくなった。

【I-07/昼】
【アルベル・ノックス】[MP残量:70%]
[状態:左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘には支障があり)]
[装備:なし]
[道具:メイド服(スフレ4Pver)+荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒す、基本的に単独行動するつもり]
[思考1:武器の調達]
[思考2:しばらく氷川村での散策を続ける]

「ここまで来れば大丈夫そうだね」
ネルはそういうと足を止めた。かなりの距離を走ったがほとんど息を切らせてなかった。
「はぁ、はぁ、ちょっ、ちょっと速すぎですよ〜」
方や夢留はネルに追いついていくのがやっとだった。
立ち止まったネルにようやく追いつくと、膝に手をつき肩で息をした。
普段は訓練された者達と走ることがほとんどなので、夢留が一般人ということをネルはうっかり忘れていた。
「大丈夫かい?あそこの木陰で少し休憩しようか」

二人は木陰に座わり互いの自己紹介を交わした後夢留はたずねた。
「ネルさんはこれからどうするつもりですか?」
「そうだね、私の知り合いにこいつをどうにか出来そうな奴がいるから探すつもりさ」
ネルは首につけられた爆弾を指しながら言った。
「じゃあ、私もついて行っていいですか?私の知り合いも何人かこの島に来てるみたいなんですけど宛てもないし…」
「私はかまわないけど、多分最後にはこの会の主催者との戦いになる。そうなれば最悪の場合返り討ちにあうかもしれないよ?」
「大丈夫ですよ。私こう見えても魔法が使えますから。きっと役に立って見せますよ」
「そうかい。じゃあ改めてよろしく頼むよ夢留」
「はい!」
そういうと二人はかたく握手を交わした。



【H−06/昼】
【ネル・ゼルファー】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2]
[道具:????・????←本人確認済 +荷物一式]
[行動方針:仲間を探す(フェイトら文明人、ブレアを優先)]
[思考1:氷川村は危険かもしれないので平瀬村にて仲間の捜索]

【H−06/昼】
【夢留】[MP残量:100%]
[状態:疲労]
[装備:なし]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ネルについていく]
[思考1:ネルについていく]
[思考2:アルベルって人大丈夫かな?]

92名無しのスフィア社社員:2008/02/04(月) 03:08:51 ID:TWshJP1U
確認しました
個人的には喉乾いた、じゃなくて傷の手当の方が良いと思います
あとメイド服は置いておいて手首の治療を先にした方が…
戦闘に支障がある程の傷治療しないでメイド服を畳むのは不自然かな…と

93 ◆90i6FhrsRM:2008/02/25(月) 22:47:06 ID:vt7k7VYw
二回目の放送が終わってから一時間程経過した頃には、プリシスとアリューゼは目的地である氷川村に到着していた。
道中、放送を聞く為に立ち止まることもあったが、それ以外には特に問題も起こらず順調に進んでいる。
強いて問題を挙げるとしたら、二人とも放送で知り合いの名が呼ばれたことにより、口数がちょっとだけ減ったくらいである。

「少しいいか?」
アリューゼは背負っていたデイパックを地面に下ろしながら呟いた。
ランタンを取り出して火を灯す。この手の道具の扱いには慣れているのか、作業は本当に少しで終了した。
「へ〜、見かけによらず器用なんだ。でもさぁ、別に明かりは必要なくない?」
辺りは暗くなってはいるものの、別に彼らは明るい場所から急に暗い場所へ行った訳ではない。既にこの暗さに目が慣れている。
おまけに、今夜の月はとても明るかった。まさに月夜に提灯ならぬ月夜にランタンである。
「ああ、別に夜道を歩く分には必要ないな」
「? じゃあ何で?」
「そうだな……この村を良く観察してみな。普通の村の風景と比べると、何か違和感を感じないか?」
プリシスは言われた通り村を観察すると、確かに何かが違和感を感じた。ただ、その正体までは分からない。
「ヒント、今は夜。ただし暗くなってはいるが、時刻はまだ7時」
このヒントを聞いて、プリシスはやっと違和感の正体に気づいた。
「あっ! 明かりがついてる家が一つもないんだ!」
その答えに満足したのか、アリューゼは僅かながら笑みを零す。
「その通りだ。この島には住人のいない、住人のいない家に明かりなんてつく筈がない。逆に言えば……」
「明かりがある場所には誰かがいるってことね」
アリューゼは頷くと、左手で持っているランタンをプリシスに見せるように少し持ち上げた。
「そうだ。つまりこいつは夜道を歩く為の照明じゃねえ、他の奴らを誘き寄せる為の餌って訳だ」
「う〜ん……でも、それって危なくないの? ゲームに乗った人たちも呼んじゃうじゃない」
「別に構いやしねえよ」
構わないという発言に対し、プリシスは何か言おうとしたが、
「むしろ、本命はアシュトンって奴だ」
アシュトンの名を出されて言葉が詰まる。
「お前、そいつに言いたいことがあるんだろ? 話すチャンスくらいはくれてやる」
「…………」
「ただ、聞く耳を持たなかった場合は容赦はしねえぞ。こっちも仲間を殺されてるんでねえ、そいつを殺す理由はあるんだよ」
プリシスは無言で頷いた。それを確認すると、アリューゼは右手を差し出して声をかける。
「分かったならさっさと動くぞ。取り敢えずお前もランタンを出せ。点けてやるから」
「いいよ、それくらい自分でやるから!」
そう言ってプリシスはランタンを弄り出した。ランタンの明かりは直ぐに点いた。点灯までの時間はアリューゼの時より遥かに早い。
「準備オッケー! さ、早く行こうアリューゼ」
アリューゼは無言で頷き、二人並んで歩きだした。



94 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:51:57 ID:vt7k7VYw


暗い部屋の中で、アルベルはこれからの人生に関わる(かもしれない)問題を前に頭を抱えていた。
その問題の発生源は、同じ部屋にいる猫耳メイドだ。いや、正確には猫耳メイドがいることが問題なのではない。
猫耳メイド【レオン・D・S・ゲーステ】性別♂。アルベルはこのレオンの姿を見て、思わず「可愛い」と思ってしまった。
彼はこのことを、男として踏み込んではいけない領域のように感じていたのだ。
(落ち着け。俺はこんな餓鬼を見て「可愛い」なんて考える奴だったのか? 断じて否ッ!)
……別に、可愛いものを可愛いと思ってはいけないなんてことはないのだけど。
「アルベル」
「うおっ!?」
そんなくだらないことを考えているとき、突然後ろから名前を呼ばれた。振り返った先にいたのは、先ほど寝たはずのディアスであった。
「お前、寝たんじゃなかったのか」
「どうも寝付けなくてな。そんなことより、お前に貸して置く物がある」
ディアスは右の拳を差し出す。その拳をゆっくりと開くと、中には小さなピアスが一つだけあった。
「あん……ピアス?」
「着けてみれば分かる。左耳にな」
アルベルは言われた通りにピアスを身に着ける。すると不思議なことに、視野が広がり感覚が研ぎ澄まされたではないか。
「な、何だ!?」
「魔眼のピアス。見張りには持って来いだろう?」
確かに便利な道具だとアルベルは思った。だが、直ぐに疑問が浮かぶ。
「おい、こんな便利なもんがあるならさっさと出せよ」
ディアスはアルベルに一枚の紙切れを見せる。魔眼のピアスの説明書だ。
「先程も言ったが、寝付けなくてな。荷物整理をしていてたまたまこれを見つけた。……このピアスは俺の物ではない。後で必ず返してくれ」
「成程、お前の物じゃないってんなら仕方ない。分かったからお前はおとなしく寝て……ん?」
会話の途中にも関わらずにアルベルは、魔眼のピアスにより研ぎ澄まされていた感覚のお陰であることに気づき、急いで窓際へ移動する。
窓から外の様子を窺うと、夜の暗がりの中に浮かぶ二つの明かりを見つけた。
「どうした?」
「見てみな、どうやら間抜けがいるようだぜ」
その明かりをディアスも確認するが、彼は怪訝な表情を受けべる。
「……罠じゃないのか?」
「んなもんどっちだって構わねえ。誰かいるってんならやることは一つだろ。丁度剣の試し切りもして置きたかったところだ」
アルベルはピアスを外すと、ディアスに投げ渡した。
「おい、待てアルベル!」
「ここはお前に任せた。話の分かる相手だったらここに連れてくる、そうじゃないなら殺す。これで構わないよな?」
アルベルは返答も聞かなで、玄関を潜り明かりの方へ駈け出した。
ディアスは慌てて後を追いかけてアルベルを引き留める。彼の怪我した左肩に掴みかかって。
「〜〜〜〜ッ!!! てめぇ、何しやがる!」
「悪い、わざとじゃないんだ」
絶対わざとだろ! と言おうとしたが、ディアスの話がそれを遮る。
「相手が誰であれ、ゲームに乗っている者なら思う存分暴れて構わない。それが例えアシュトンだとしてもだ。だが、もしプリシスだったときは少し待って欲しい」
「? 何でだ?」
「お前は、プリシスのことはアシュトンから聞いたのだろう? しかし、俺もお前もプリシス本人には会ってはいない。つまり……」
「つまりあれか、そいつはゲームに乗ってない可能性もあるから様子を見てから攻撃しろってことか?」
「ああ、その通りだ。付け加えるなら、出来るだけ彼女を仲間に引き入れたいという理由もある。彼女の持つ技術は有用だ」
アルベルは少し考えてみた。確かに不確定な情報で動くのは愚の骨頂だ。実際、見た目だけでゲームに乗った者扱いされた彼には特に良く理解できる。
「ちっ、しゃーねえな。だが、そいつが本当にゲームに乗っていた場合は容赦しないからな」
そして、アルベルは駈け出して行った。

95 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:52:47 ID:vt7k7VYw
残されたディアスは、家の中に戻り、荷物の前で腰を下ろす。
(当初の予定とは違ったが、あの男を引き入れて置いて正解だったな)
元々アルベルは自分たちの用心棒として雇ったのだ。他の参加者を見つけてわざわざ接触に向かうなど想定の範囲外だ。
だが、ディアスはそれでも構わないと考えていた。
他の参加者と出来るだけ情報交換をして置きたい。その役目をアルベルがやってくれるなら、その間にレナたちを危険に晒すこともない。
仮に相手がゲームに乗った者だとしても、自分たちから離れた位置で戦ってくれるなら、こちらに被害が及ぶ可能性は低いだろう。
相手のスタンスが分からない内から、自分たちの寝床を話すほどアルベルも馬鹿ではない……と思いたい。
(問題は、俺がどこまでやれるのか……か)
荷物から三本の刃を取り出し、腰に差す。
そうなのだ、一人でレナとレオンの二人を守り切るのが難しいだろう。その為にアルベルを雇ったのだ。
だけど、アルベルを引き留めず敢えて行かせた。なら、自分が弱音を吐くわけにはいかない。二人は何があっても守り切らなければならない。
ディアスは一度大きな溜息を吐くと、魔眼のピアスを身に着けてからソファーに腰を下ろす。
そのとき、ピアスの力で鋭くなった感覚の中で、何か違和感を感じた。
「…………?」
より集中して違和感の正体を探ってみる。答えは直ぐに分かった。周囲に人の気配が三つあったのだ。今この部屋にいるのは、自分を除いて二人。
ではもう一人は誰だ。アルベルが戻って来たのか? と考えたが、この三つ目の気配からは、次第に敵意のようなものが感じられるようになってきた。
そしてこの気配を見つけてから数秒後、これもピアスの力なのか、ディアスの頭にハッキリと警報が鳴り響く。『敵襲』とけたたましく。
次の瞬間、彼の頭上――この家の天井が砕け、巨大な白い光弾が飛び込んで来た。



「ねえアリューゼ。今気づいたんだけどさぁ」
「ん……どうした?」
氷川村で“夜釣り”を始めてから数十分が経過した頃、プリシスが突然声をあげた。ちなみに夜釣りの成果は未だない。
「わざと目立つならさ、てきと〜な家に明かりを点けて、そこで誰かが来るのを待ってた方が楽じゃないの?」
それを聞いたアリューゼは、呆れたような表情を浮かべる。
「確かに楽だけどよ、家に明かりが点いてるってのは流石に怪しすぎるだろ。それじゃあ誰も近寄ってこないぞ」
「何でよ?」
「そりゃあ罠に見えるからに決まってんだろ。こうやって明かりを持ちながら歩くのと違ってな、本当に人がいるのか分からないんだ。多少の面倒は我慢しろ」
返答を聞いたプリシスは、頷きながら溜息を吐いた。
「う〜ん、人を誘き寄せるってのも大変なんだね」
疑問が解決したところで、二人は再び歩き出す。人を探す為に。そして、その目的はあっさり達成されることとなる。
「それで、お前らは人を誘き寄せて何しようってんだ?」
知らない男の声。アリューゼは、直ぐに声のした方にランタンを向ける。その際、プリシスを自分の後ろに下がらせることも忘れない。
ランタンの明かりに照らされたその男は、やたら露出の多い服を着ていた。そして、絵にかいたような悪人面であった。

96 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:53:51 ID:vt7k7VYw
「質問に答えな。何をするつもりなんだ?」
悪人面の男――アルベルは、睨みを利かせながら再度二人に問う。彼の右手は、腰に差している剣の柄に添えられており、直ぐにでも抜刀出来る状態だ。
「何って――アリューゼ?」
「プリシス、お前は下がってろ」
質問に答えようとしたプリシスを、アリューゼは右腕で制した。アルベルは確かに悪人面に見えたが、質問の内容はゲームに乗った者のするものではない。
だが、警戒に越したことはない。それがアリューゼの判断であり、その判断は決して間違いではない。いや、正解と言えるだろう。
しかし、もしここでプリシスが彼の質問に答えていれば、もしアリューゼが彼女の名前を出さなければ、ここから先の出来事は、大きく変わっていたかもしれない。
「プリシス……だと?」
アルベルはその名前を知っていた。彼と対峙した、龍を背負った男の言っていた名前。ディアスが言っていた名前。ゲームに乗った可能性がある者の名前。
先ほどこの二人が話していた「人を誘き寄せる」という言葉により強めていた警戒の度合が、この名前を聞いた途端一気に跳ね上がった。
「成程、龍を付けた阿呆の言ってたことは、強ち間違いではないようだな!」
叫びと共に腰の剣を抜き放つと、そのまま彼独特の構えを執る。
「龍……もしかしてアシュトンのこと!」
「下がってろと言ったはずだッ!」
アリューゼはプリシスに怒鳴りつけた後、鉄パイプを取り出し、臨戦態勢に入った。この男の目的は分からないが、相手剣を抜いた以上当然の行動だ。
「アシュトン? ああ、そんな名前だったな。だが、そんなことはどうでもいい。一応、お前は直ぐに殺すなと言われてるが……どうするべきかなぁ?」
アシュトンを知っている。プリシスは直ぐには殺すなと言われた。彼の言葉から分かったことはこの二つ。
ジャック・ラッセルの証言から、アシュトンの目的が「プリシスの望みを叶える為」ということは分かっている。
このことから、アシュトンがこの男に「プリシスは殺すな」と言われただろうということは、容易に想像できた。
こんなことをアシュトンから言われるような男なのだ、この男もアシュトン同様ゲームに乗っている可能性が極めて高いだろう。何より悪人面だし。
「……殺る気があるのかないのか聞いてるんだよ」
アリューゼは、アルベルを睨みつけたまま構えを解かない。それをアルベルは「殺る気がある」という意思表示と受け取った。
男二人は、睨み合ったまま動こうとしない。二人とも数多くの修羅場を潜って来た兵だ。下手に動ける訳がない。
しかし、少女を一人蚊帳の外にしたまま行われている睨み合いは、本人たちには予想外の出来事で、
アルベルの後方、割と近い場所から発生した光と轟音によってで終わりを迎えた。

97 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:54:29 ID:vt7k7VYw
「――――ッ!!」
先ほどまで自分のいた場所から、未だ彼の仲間がいるはずの場所から聞こえてきた音に、アルベルは一瞬気を取られてしまった。
その一瞬の隙をついて、アリューゼはアルベルに猛進する。
「くッ!」
不意をつかれた形となったアルベルだが、相手に向けて慌てずに剣を振う。
だが、その動きを読んでいたアリューゼは、その巨体に似合わぬ軽やかな動きでアルベルの背後に移動する。彼の世界では『ダーク』と呼ばれる戦闘技術だ。
アルベルは慌てて後ろに振り返るが、既に目の前には、回転を加えられた強烈な裏拳が迫っていた。
「グァッ!」
短い呻きと共に、アルベルの体は右方向へ吹っ飛ばされる。アリューゼは、それを見送る何てことはせずに、追撃を加える為再度突進する。
進路上に赤い靄が掛かっていることに気づかないで。
「ッ! な……んだとぉ!?」
靄に触れた途端、アリューゼに肉体的でなく精神的な負荷が幾度となく襲いかかる。
(ふん……意外と上手くいくもんだな)
アルベルは、吹き飛ばされながら魔掌壁を放っていた。
それも、普段この技に使用する左手ではなく剣を握ったままの右手でだ。これには、上手く使用出来たことに本人も少し驚いているくらいだ。
兎に角追撃は妨害出来た。口の中に溜まった血を吐き捨てながら立ち上がる。吐き出された血には白い固形物、即ち歯も混ざっていた。
(それにしても、一体何があった? あいつらが襲撃されたってのか?)
彼は魔掌壁によって出来た僅かな時間で考える。あの時の轟音は、まず間違いなく自分がいた民家の方から聞こえてきたものだ。
とすると、考えられる中で一番可能性が高いのは、あの民家が何者かに襲撃されるということだ。
(この阿呆共を放って置く訳にはいかないが……用心棒を頼まれている以上、あいつらを助けに行くべきだろうな)
結局彼は、ディアスたちを助けに行くことを選択する。
最悪の場合、この二人に向こうの襲撃者を加えた数を自分一人で相手にすることになるのだが、それこそ望むところだった。
そうと決めたら早速動かなければ。魔掌壁もそろそろ効果がなくなる頃だろう。
アルベルは民家の方へ向かおうとするが、突然飛来して来た光弾が、彼の足下にある土を抉り取った。
「動かないで!」
「……あん?」
完全に蚊帳の外だった少女からの攻撃に驚き、そちらに顔を向けると……先ほどとは別の意味で驚かされた。
少女が自分に向って銃を構えていた。別に銃を向けていたことに驚いたのではない。その銃に見覚えがあったのだ。
(あれは、確かネルが使っていた……)
彼はこの銃を突き付けられたことがあった。つまり目の前で見たことがあるのだ、間違える筈がない。
では、何故その銃をこの少女が持っているのか? その答えは考えるまでもなかった。いや、この銃のお陰で答えに辿り着いたと言える。
アシュトンはこの少女がゲームに乗ったと言っていた。ネルの名前は先の放送で呼ばれている。そして、この少女はネルの獲物を持っているのだ。
そこから導き出される答えは一つ――
「ハハ……成程、お前たちが殺ったのか」
「動かないでって言ったでしょ!?」
プリシスがまた警告を口にするが、アルベルはまるで聞いちゃいない。
魔掌壁から解放されたアリューゼが、プリシスに駆け寄っている姿も目に入ってはいるが、完全に無視だ。
ディアスたちを助けに行こうとしていたことも、今この瞬間は忘れてしまっていた。本人に自覚はないだろうが、今、彼の脳内を満たしているものそれは、
「見逃してやらなくて正解だった……死ねッ! クソ虫ッ!!」
仲間を殺した者への怒り。ただそれだけであった。



98 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:55:00 ID:vt7k7VYw
僅か数秒前までの綺麗に整えられた部屋は、今は瓦礫に覆われて見る影もない。天井には穴が空いており、そこから月明かりが漏れている。
そんな状態の部屋で、ディアスは少年に声をかけながら必死に揺さぶっていた。
「レオン、おいレオン、起きろレオン!」
「ん……あ……」
うめき声が聞こえた。どうやら意識戻ったようだ。
「レオン、俺のことが分かるか?」
「え……ディアス……お兄ちゃん?」
どうやら、寝起きの割には意識もはっきりしているようだ。ディアスは安心して大きく息を吐く。
「ああ、そうだ……立てるかレオン?」
「うん、大丈……あれ?」
左腕を使って立ち上がろうとしたが、上手くいかずに倒れてしまう。ディアスはそれを見て慌てて支える。
「そういえばお兄ちゃんどうして……そうだ、確かルシファーって奴に殺し合えって……」
「残念だがその殺し合いはまだ続いている。詳しく状況を教えてやりたいところだが、今は時間がない」
ディアスは一枚の地図をレオンに手渡す。そこには、丸印が一つとバツ印が六つ記入されていた。
「いいかレオン。今俺たちはこの丸印の場所、つまり氷川村にいる。そして、バツ印は禁止エリアの位置だ。ここまではいいな?」
レオンが頷くのを待ってから、ディアスは話を再開する。
「その内、H-07は既に禁止エリアとなっている。そして、今から約二時間後にI-07が禁止エリアとなる。
 今からお前には、レナを連れてI-07を通過し、I-08へ行ってもらいたい」
「ええ!! ちょっとどういうこと? って言うかレナお姉ちゃんいたの?」
どうやらレオンは、今になって自分の隣にレナが寝かされていることに気づいたらしい。まあこの暗がりではしょうがない。
「だから時間がないと言ったのだ。詳しいことは、レナが起きた後彼女から聞いてくれ」
「レナお姉ちゃんは起こさないの?」
「ああ、今は起こす訳にはいかない。それと、俺もお前たちとは一緒に行けない」
レオンは抗議の声を上げようとするが、ディアスはその行動をさせない。護身刀“竜穿”を引き抜くと、それをレオンの眉間に突き付ける。
「いいから言うことを聞け! 正直に言おう、お前たちは足手纏いだ。俺にはそんな奴を連れ歩く余裕はない」
抗議をしたくても、剣を向けられては出来る筈がない。レオンは、ただ黙ってディアスを見つめることしか出来なかった。
その僅かな沈黙の中、彼はディアスの頭から血が滴り落ちていることに気づく。
「あ……ディアスお兄ちゃん、血が……」
ディアスは、空いた手で血を拭ってから、静かに語り出した。
「言った筈だ、殺し合いはまだ続いていると……今、この周辺にはゲームに乗った奴がいる。
 お前たちには万が一のときにそなえて、そいつが移動できない場所……禁止エリアの向こう側へ移動して欲しい」
「なっ……馬鹿にしないでよ、僕だって戦え「では、だれがレナを守るのだ」……あ」
反射的に隣にいるレナを見る。彼女は未だに目を覚ます気配がない。
「もし俺が敗れたとき、お前はレナを守りながらそいつと戦えるのか?」
「…………」
「それに、お前は俺と違って戦いだけした能がない者ではないのだぞ。お前は戦いのことではなく、その頭脳でこの状況を打開する方法を考えろ。
 俺のような人間は、お前たちのような人間の邪魔となる者を出来る限り排除する。そうするべきではないか?」
それを聞いてレオンはハッとした。そうなのだ、自分の役割は首輪を外してこの殺し合いを終わらせることなのだ。断じて自ら戦いを挑むことではない。
「分かったよ、言う通りにすればいいんでしょ」
ディアスは肯定の言葉を聞くと、二人の出発準備に取り掛かる。レオンにレナを背負わせ、さらに落ちないようにシーツを使って固定する。
デイパックは、嵩張らないよう一つにまとめてから持たせた。取り敢えずこれで準備は終了。
比較的損傷の少なかった窓を開け、そこから外へ出る。
「言われるまでもないとは思うが、制限時間は約二時間だ。辛いとは思うが、頑張ってくれ」
「うん……お兄ちゃんも死なないでね」
「心配するな。さあ、もう行くんだ」
ディアスに促され走り出すレオン。その姿を最後まで見送ることもぜずに、ディアスもまた走り出した。目的は、勿論自分たちを襲撃したものを倒す為。
彼は襲撃された瞬間、自分に支給された三つ目の道具『セフティジュエル』を使用していた。
この道具の効果が説明道理なら、敵は動けずにいる筈だ。レオンを逃がす時間を作れたのもこの道具のお蔭である。
そして、予想道理家の近くで固まっている人物を見つけるが、ディアスはそれを見た瞬間大きな舌打ちをしていた。

99 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:55:32 ID:vt7k7VYw
屋根の一部が崩れ落ちた民家、その前に男が一人立っていた。その男は、半壊した民家を、自分の手で起こした破壊の跡を見上げて渋い表情をしている。
(サザンクロスでさえ……この程度の破壊しか出来ないか)
この男――ガブリエルは、潜伏先が禁止エリアとなった為、新たな潜伏先を探すべくこの村へやって来ていたのだ。
村に到着後直ぐに、ガブリエルは二つの小さな明かりを見つけた。それが何だかは知らないが、積極的に係る気はなかった。
今の彼の状態は酷いものであり、おまけに魔力も残り少なかったからだ。しかし、その明かりの正体くらいは確認しよう考え、暗視機能付き望遠鏡を取り出す。
そして、明かりの方を見ようとしたところ、明かりを見る前にそれとは別の二人組を見つけてしまったのだ。二人組の内、片方は彼もよく知っている相手である。
暫く見ていると、知らない方の男は何処かへ走り去り、知っている方の男は近くの民家に入って行った。勿論彼らはガブリエルに気づいていない。
ガブリエルはこれを好機と考えた。相手の潜伏先が分かっているなら、その家を外から破壊してしまえばいい。運がよければそれだけで相手を殺せるかもしれない。
仮に相手に手傷を負わすことすら失敗しても、瓦礫となった家からは直ぐに出て来れないだろう。つまり、撤退に必要な時間は十分に取れると考えていたのだが、
(今の状況も……上手く行かないものだ)
ガブリエルは、今になって見上げるのを止めて体の向きを変えた。彼は、攻撃後から今にいたるまで一歩も動いていなかったのだ。っていうか、動けなかった。
理由は分からないが、サザンクロスを放った直後から、まるで金縛りにあったように動けなくなってしまったのだ。
そして今、漸く動けるようになったにも関わらず、彼の表情は相変わらず厳しいものだった。
目の前には、自分が先ほど攻撃をした男――ディアスが、その殺気を隠そうともせずに立っていたのだ。
「ガブリエル……貴様だったのか」
「……愚かな。どんな手を使ったかは知らないが、逃げておけばよかったものを」
ディアスは、腰に差した咎人の剣の柄を握るとそれを勢いよく引き抜いた。


【I-06/夕方】
【アルベル・ノックス】[MP残量:90%]
[状態:怒り、左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、口内出血、左の奥歯が一本欠けている]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、荷物一式]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法? 知るか!]
[思考1:まずはこの二人(プリシスとアリューゼ)を殺す]
[思考2:傷を治してもらうまでディアス達の用心棒をする]
[思考3:後方で何が起こっているのか気になる]
[思考4:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:I-06 町中]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:不安、アシュトンがゲームに乗った事に対するショック]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔25〕〔25/100〕@SO2]
[道具:ドルメラ工具セット@SO3、????←本人&アリューゼ確認済み、首輪、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒]
[思考1:目の前の男(アルベル)に対処する]
[思考2:氷川村で情報収集]
[思考3:仲間、ヴァルキリーを探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:どこかで首輪を調べる]
[現在位置:I-06 町中]

【アリューゼ】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:鉄パイプ@SO3]
[道具:????←本人&プリシス確認済み、荷物一式]
[行動方針:ゲームの破壊。ルシファーは必ず殺す]
[思考1:目の前の敵(アルベル)を殺す]
[思考2:プリシスを守る]
[思考3:氷川村で情報収集]
[思考4:ジェラードとロウファの仇を討つ。二人を殺した者を知りたい]
[思考5:必要とあらば殺人は厭わない]
[思考6:ヴァルキリーに接触]
[現在位置:I-06 町中]

100 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:56:08 ID:vt7k7VYw
【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:25%]
[状態1:右の二の腕を貫通する大きな傷(右腕使用不可能)、右肩口に浅い切り傷、太腿に軽い切り傷、右太腿に切り傷]
[状態2:左腕をはじめとする全身いたるところの火傷と打撲]
[装備:肢閃刀@SO3、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界]
[道具:セントハルバード@SO3、ボーガン+矢×28@RS、暗視機能付き望遠鏡@現実世界、????×0〜2、荷物一式×4]
[行動方針:フィリアの居ない世界を跡形も無く消しさる]
[思考1:ディアスに対処。ただし無理はしない]
[思考2:参加者が減るまで適当な家に潜伏する。潜伏先に侵入者が現れた場合は排除する]
[思考3:体の傷を癒す]
[現在位置:I-06 町中]

【ディアス・フラック】[MP残量:100%]
[状態:頭部流血]
[装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、護身刀“竜穿”@SO3]
[道具:クォッドスキャナー@SO3、どーじん@SO2、どーじん♀@SO2、ミトラの聖水@VP、荷物一式(照明用ランタンの油は2人分、水は未開封3本)]
[行動方針:ゲームに乗った参加者の始末]
[思考1:ガブリエルはここで確実に仕留める]
[思考2:アルベルと合流。約束を破ったことを謝る]
[思考3:アシュトンとプリシスを警戒]
[現在位置:I-06 町中]
※ディアスの3つ目の支給品はセフティジュエル@SO3でした。
※荷物一式×3はディアス達のいた民家(半壊)に放置されています。

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:左腕に違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3]
[道具:幻衣ミラージュ・ローブ、どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドラーバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式×2]
[行動方針:首輪を解除しルシファーを倒す]
[思考1:ディアスに言われた通り移動する]
[思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する]
[思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考4:レナお姉ちゃん重い……]
[備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません]
[備考2:白衣、上着は血塗れの為破棄。自分がメイド服を着ていることに気づいていません]
[備考3:第二回放送は聞き逃しましたが、禁止エリアについては知っています]
[現在位置:I-06 町中]

【レナ・ランフォード】[MP残量:10%]
[状態:精神力枯渇が原因で気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:仲間と一緒に生きて脱出]
[思考1:?]
[現在位置:I-06 町中]

101もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:34:00 ID:QcFZTHrE


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「う、ううん…」
体が痛い。頭の中が朦朧としている。
だがこうして意識を保っているという事は、僕は無事なのだろうか?
「目が覚めた?」
マリアさんの声がする。
そうか。マリアさん、無事だったのか。
僕もこうして生きているって事は、あの男から逃げることが出来たのか…。

痛む頭を抑えながらクレスは起き上がった。
どうやら森の中のようだ。あの男に襲われた時、最後に力を振り絞って空間翔転移を放ったのは覚えているのだが…。
その後の記憶は全く無い。
既に周囲は暗くなり始めている。随分長い時間気を失っていたようだ。
「マリアさん、大丈夫でしたか?」
近くにいたマリアに話しかける。
「ええ、私は大丈夫。クレス君の方が遙かに重傷よ。自分の体を心配しなさい」
「あ、すいません」
「別に謝る事じゃないんだけど」
マリアはそう言うが、クレスは歯痒い思いだった。
ミントの死に動揺して、マリアを危険な目に合わせて。
結局襲ってきたあの男を倒すことも叶わず、離脱できたのはいいがここまでずっと気を失っていたなんて…。
(情けないな…)
自分は何をやっているのだろう。何がアルベイン流剣術師範代だ。何が時空剣士だ。
女性一人も、愛する人も守れずに。
「クレス君」
俯くクレスにマリアが話しかける。
「あまり自分を責めるのは止めなさい。少なくとも、私は貴方に命を助けられたわ。貴方もまだ生きている以上、出来ることがある筈よ。
今は落ち込んでる暇なんて無いわ。後悔するのはルシファーを倒してからにしなさい」
ピシャリとそう言い切るマリア。
クレスは無意識の内に思わず「は、はい」と返事をしてしまった。
どうもこの人には逆らえない。彼女が自分の母親と同じ名前である事も原因かもしれないが。
「ところで…僕はどの位気を失っていたんですか?もう結構遅い時間のようなんですけど…」
「大体4時間程度かしら?クレス君が目を覚ます少し前に二回目の放送があったから」
「放送が…!?」
クレスの顔に動揺の色が浮かぶ。
また誰か仲間の名前が呼ばれたのではないか。そう考えると気が気でない。
「安心して。クレス君の仲間の名前は呼ばれていないわ」
そんなクレスの心情を察したのか、マリアはそう前置きした。
そしてこれまでの経緯…自分達が転移した後、ボーマンという薬剤師に助けられた事などを話した後、放送内容を語った。

102もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:35:03 ID:QcFZTHrE
「これで26人…もうそんなに…」
確かに死亡者の中にクレスの仲間の名前は無かった。むしろ敵であるジェストーナの名前が呼ばれたのは朗報だ。
人質を取ったりと卑怯な手を使う奴だ、この殺し合いにも乗っていたに違いない。
実際は強敵を倒すために自ら犠牲になったなど思いもしないだろう。
しかしチェスター達が無事なのは良かったが、命を落としてしまった13人の人達の事を考えると手放して喜ぶことはできない。
それに…。
「マリアさん…」
「どうしたの?」
「その…ロジャー君って子とネルさんという人は…」
そう、ロジャーとネル。放送で呼ばれたという彼らはマリアの仲間だったはずだ。
だがマリアには悲しんでいる様子はほとんど無い。
「私の事は心配しなくてもいいわ。それにお互い敵対していた人物も死んだようだし、悪い事ばかりじゃないわよ」
「…」
悲しくないんだろうか?
いや、仲間が死んだのだ。幾らなんでも全く平気という訳では無いだろう。
そこまで冷酷な人とも思えないし、きっと心の中では――。

「もし自分の仲間が命を落としたとしても、それに耐える事ができる?」

マリアと会った時に聞かれた質問を思い出す。
あの時自分は「耐えてみせる」と言った。それなのにこのザマだ。
恐らく耐えているであろうマリアに申し訳が立たない。
あの時自分が言った事を思い出し、クレスは今一度決意を固めた。
ルシファーを倒すまで、絶対に自分は挫けないと。


「それじゃ悪いけど、すぐに移動を開始するわ」
「今からですか?」
「ええ、平瀬村へ向かうわよ。これから夜になって見通しが悪くなるし、いつまでも森の中へいるのは危険だわ」
「分かりました」


こうして二人は歩き出した。
森の中は見通しが悪く危険なため、注意深く辺りを見渡しながら進んでいく。
程なくして、二人は平瀬村まで到達した。

「どこか村内で拠点になりそうな所を探しましょうか」
「そうね。でも村は他の参加者に会える可能性も高いけど、敵も多く集まってくる可能性もあるわ。今まで以上に警戒するつもりでね」
特にクレス君は怪我もしてて武器も無いから特に用心する事」
「大丈夫ですよ。これでも少しは体術もできますし、武器が無くても多少は戦えます」
「そう。でも怪我をしてるのは変わらないのだから無理は禁物よ」
周辺は完全に闇に包まれている。ランタンなどを使えば多少明るくなるが、それではマーダーなどがいたら格好の獲物にされてしまう。
道を歩いていけば迷う事はないし、このままでいるのが得策だろう。
そして歩き始めて数分。

「クレ、ス…?」

103もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:36:33 ID:QcFZTHrE
背後からした少女の声にクレスは振り向く。
そこにいたのは、共に旅をした頼もしい仲間の一人。
底抜けに明るくて、パーティーのムードーメーカーだった少女。
アーチェ・クラインだった。

「アーチェ!無事だ…」
「クレス!クレスゥゥーー!!」

クレスが何かを言おうとする間も無く、アーチェは彼の下へと飛び込んできた。
「ちょ、ちょっと、アーチェ…」
「クレス…あ、あたし…ああ、あたし……!」
狼狽えるクレスだが、アーチェはそれをお構いなしといった風にクレスに抱きついたまま泣きじゃくった。
「…知り合い?」
背後からマリアが聞く。
「は、はい。僕の仲間です。アーチェといって…」
クレスはしどろもどろになりながら答えた。
そしてその最中、立て続けに再会が訪れる。

「クレス!」

聞こえた声の主は、頼もしい親友のものだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

104もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:37:12 ID:QcFZTHrE
『残った36人で張り切って殺し合ってくれたまえ…。フフッ、フハハハハハッ!』
ルシファーがそう言って二回目の放送は終わった。
午前中と同じく13人もの死者が出るなか、自分の知る名前が出なかったのは幸運だ。
だが喜べるわけがない。
犠牲者の中には子供や、戦う力の無い者がいたかもしれない。
そして今こうしている間にも命の危機に瀕している者がいるかもしれないのだ。
現にボーマンの話によると、クレスは怪我が酷いらしい。誰か、殺し合いに乗った奴と戦ったのだろうか?
「あのオッサンの話だと、この辺にいる筈なんだけどな…」
E−2の森までやって来てクレス達の姿を探すが、彼らを発見する事は出来ない。
その内に周囲は暗くなって、数m先も見るのが困難になってきた。
「もしかしたら、もう移動した後なのか?」
有り得ない話ではない。ボーマンは彼らと会ったと言ったがいつ会ったかは言っていない。
もしかしたら怪我も多少回復してどこかへ移動したという可能性も否めない。
チェスターは地図を広げ、もう僅かになった空の明かりを頼りにそれを見る。
「この周辺で移動しやすい箇所っていうと…やっぱ平瀬村だよな」
もし二人が移動済みだとしたら、やはりすぐ近くの村へ向かったと考えるのが妥当だろう。
元々平瀬村へ向かう予定だったのだ。それに運が良ければ昼間会ったルシオという男に再会できるかもしれない。
放送で名前が呼ばれてないのなら、彼もまだ生きている筈だ。


そしてやって来た平瀬村で、チェスターはクレスと再会する事となる。
しかも、彼だけでなく。

「アーチェ…お前も無事だったか!」

もう一人の大事な仲間とも。

105もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:38:09 ID:QcFZTHrE
良かった、本当に良かった。
ダオスを倒してから、一体どれほどこの時を待っていただろう。
ここまで色々な事があったけど。
例え今が殺し合いゲームの真っ直中だったとしても。
みんなに会えただけで、今までボロボロだったあたしの心は安心感に満たされていく。

あたしはこれまでの事を正直にみんなに話した。
最初にジャックに会ったこと。
得体の知れない男に襲われたこと。
ネルさんを誤って石化させてしまったこと。
そして金髪の男に襲われ…ジャックが目の前で死んでしまったこと。
全て話した。
ネルさんを石化させた話をした時、マリアという人の表情が一瞬変わったような気がしたけど、何も言わなかった。

「あの野郎、アーチェまで襲ってたのかよ!」
チェスターが何やら激高している。
こいつの話だとその金髪の男はクロードという名前で、分校で女の子を殺して燃やし、さらにホテルでも人を襲っていたみたい。
そんな奴に襲われて、よくあたしは無事でいられたなあ。

「大丈夫だよアーチェ。ミントの分まで僕達が頑張ってルシファーを倒してやろう」
クレスが励ましてくれる。
ミントが死んじゃって、一番悲しいのはクレスのはずなのに…。

「ネルは私の仲間だった人よ。でも、彼女は助けようとした人を恨むような人間じゃない事は保障するわ。安心しなさい」
やっぱりそうか。ネルさんとマリアは知り合いだったんだ。
彼女を殺しちゃったのはあたしなのに、マリアはあたしを許してくれるのだろうか?
…ううん、許してくれなくてもいい。でもそういう言葉をかけてくれるのが嬉しかった。

106もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:40:42 ID:QcFZTHrE
「おいおいどうしたよ、何かいつものアーチェらしくないじゃねえか」
チェスターが軽口を叩く。
いつもなら速攻で言い返す所だけど、もう体がクタクタで言い返す気力が無い。
とりあえず休みたいなあ。
「はは、アーチェも疲れてるんだろ。ここまでずっと走りっぱなしだったんだから」
クレスがあたしとチェスターの間に入る。こんな光景も久しぶりね。
全く、チェスターも少しはクレスを見習って他人への気配りってのを考えてよね。

「何だ、だらしねえな。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」
そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。
「チェスター、それは?」
「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」
「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」
「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」
「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」
何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。
全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。
「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」
そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。
今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。
ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。
ミントやネルさん、…ジャックの分まで。
あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。

そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。



どうなってんだよ。
これは体力が回復する薬じゃないのか?
何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ!
どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ!


「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」

爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。

107もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:41:28 ID:QcFZTHrE
【F-02/夜中】
【クレス・アルベイン】[MP残量:30%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、混乱]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:一体何が!?]
[思考2:平瀬村へ向かう]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有、混乱]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:状況の把握]
[思考2:平瀬村へ向かう]
[思考3:他の仲間達と合流]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的、精神的疲労(重度)、混乱]
[装備:なし]
[道具:エンプレシア@SO2、スーパーボール@SO2、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考:不明]
[備考:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【アーチェ・クライン 死亡】
【残り31人】

108 ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:43:35 ID:QcFZTHrE
投下終了。
またおにゃのこ殺しちゃってすいません…。
てか自分殺してるの女ばっかだな…そういうつもりは無いのに。

109 ◆Zp1p5F0JNw:2008/03/01(土) 00:53:21 ID:f14iV6Xo
しまった…クレスマリアの状態表がおかしくなってる
>>1068行目以降修正します


「何だ、だらしねえな。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」
そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。
「チェスター、それは?」
「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」
「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」
「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」
「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」
何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。
全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。
「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」
そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。
今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。
ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。
ミントやネルさん、…ジャックの分まで。
あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。

そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。



どうなってんだよ。
これは体力が回復する薬じゃないのか?
何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ!
どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ!


「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」

爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。


107 :もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:41:28 ID:QcFZTHrE
【F-02/夜中】
【クレス・アルベイン】[MP残量:30%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、混乱]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:一体何が!?]
[思考2:平瀬村を捜索]
[思考3:武器を探す(できれば剣がいい)]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有、混乱]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:状況の把握]
[思考2:平瀬村の捜索]
[思考3:他の仲間達と合流]
[現在位置:平瀬村内北東部]

110 ◆Zp1p5F0JNw:2008/03/01(土) 00:54:59 ID:f14iV6Xo
文章の方直し忘れてる…orz

「何だ、だらしねえな。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」
そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。
「チェスター、それは?」
「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」
「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」
「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」
「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」
何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。
全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。
「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」
そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。
今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。
ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。
ミントやネルさん、…ジャックの分まで。
あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。

そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


どうなってんだよ。
これは体力が回復する薬じゃないのか?
何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ!
どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ!


「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」

爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。

111 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:52:44 ID:7lpnnBgk
ちょっと作ったんですが設定とか用語があってるか怪しいんでこっちに投下します。

112 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:53:44 ID:7lpnnBgk
あれからどれくらいの時間がたっただろうか、レザードが用意したソフィアの術の取得は遅々として進まず、いたずらに時間だけが過ぎていた。
言われたように熱心に転送の術取得に取り組むソフィアだったがそもそも、レザードが扱う術と紋章術の形式が違う。それを一から学ぼうと言うのにはたかが数時間では短すぎた。
する事がなかったので何か情報が仕入れることができるかもしれないと思い精神集中をしてみた。
その中で見た光景はこれから起きる惨劇の一幕だった。


「止まれ! これ以上近付くんじゃねぇ!」
息を切らした男の声が響いてきた。
「いいかっ、もう一度だけ言う! こんな真似はよせ! お前が守ろうとした奴も決してそんな事は望んじゃいない!」
「だまれっ! そんな事はなぁ、俺が一番知ってんだっ! けどな、俺にはもうこの方法しか残されてねぇんだっ!
もう一度、共に同じ時間を生きたい…。その為にはあいつの望まないことだろうとなんだってしてやる!」
「ルー…フ……」
「お前には世話になった…だから、今だけは見逃してやるっ!俺の考えが変わる前に消えろっ!」
2人の声を荒げたやり取りの後にカチャリと金属の止め具を外すような音が聞こえた、
「ク……、てめえ何のつもりだ!?」
「一先ず話をしようじゃねえか! 俺はお前を説得しに来ただけなんだ。
傷つける気なんざサラサラない。だったらこんなもんいらねえじゃねえか!」
ジャリッと一歩踏みしめる音共に鋭い風切音が聞こえてきた。
「っつ!」
「言っただろ! これ以上近づくなってな…。次は外さねぇ…」
「…今ので確信したぜ。その気になってたらお前は間違いなく俺を殺せてた。それが出来ないって事はお前はまだ迷ってる。
迷ってるならそんな事をするんじゃない。アリーシャって奴が、今お前にして欲しい事は自分のためにお前が苦しむ事じゃない。
それにお前がしようとしていることは今のお前のような思いをする奴を作るだけだ。
そんな事してでも守りたい存在がいることは理解できる。けれど、大事な誰かを失う苦しみを知ってるお前が…」
「うるせぇっ! だったらてめぇはわかんのか!? 大事な誰かを…この身を捧げてでも守りたいと思った奴を失った俺の気持ちがっ!」
「わかるさ…。今までだって何人もの仲間を失ってきた。大勢の仲間を助けるために何人かを斬り捨てるような真似だってした。
その都度後悔もしたし苦しい思いもしてきた。残された俺たちができる事は、そいつのやろうとした事を引き継ぐ事だ。だから…ー…ス!
「くっそぉぉぉぉっ!!」
悲痛な叫びの後にドサリと大きな何かが倒れこむ音がした。
「畜生! 何で…何でなんだよ…。俺のことなんか放っておいてくれればこんな事には…」


聞こえてきた死に逝く者達の声はここで途絶えた。

113 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:54:40 ID:7lpnnBgk
(近いな…。もしかしたら止められるかも知れない…。1人が説得しようとしていたようだし。参加者が早くも半数近くになってる現状でルシファーとの決戦での戦力は1人でも多い方がいい)
「少しいいか?」
練習しているソフィアに聞いてみた。
「どうしたんですか?」
熱心に見ていたレザードのテキストから目を離し、レナスの方に視線を向けるソフィア。
「もうすぐこの近くで誰かが殺される。私はそれを止めに行きたいのだが、お前を置いて行く訳にもいかない。すまないが付き合ってくれ」
「また誰かの声が聞こえたんですか?」
「ああ、誰かまではやはりわからなかったが、これ以上参加者が殺されるのは止めたいんだ」
それを聞くや否や身支度を始めるソフィア。レナスも手早く用意をし始めたその時。
「恐れ多くながら進言させていただきますが、無用なリスクは避けるべきかと…」
今まで黙っていたレザードが口を開いた。
「貴様の意見は聞いてなどいない。付いて来るなら勝手だが、来る気がないならここでお別れだ。
貴様のような危険人物を野放しにする事になるが、今のところ害は少なそうだしな」
過去の事があるからだろう、未だにレザードを信用できないレナスは彼に対しての口調は敵意が込められた物になっている。
「やれやれ」
そんな言葉を聞いて肩をすくめるレザード。きつい言葉を投げかけられてもどこか彼の表情が恍惚としているのはやはり彼が変態だからだろうか。
「行きましょうレナスさん。私もこれ以上罪のない人が死ぬのなんてイヤですから」
最早そんな二人のやり取りにはなれたソフィアはレナスを促すとデイパックを背負うと、術の練習をしていた部屋を出た。
部屋に1人残されたレザードも荷物を背負おうと床に手を伸ばした時、彼はソフィアが残した術の残滓を感じた。
(あの女が言っていた紋章術と今この場に残った感覚とでは明らかに術式が違う…。
どちらかというと我々の魔法のそれに近い…。移送方陣の習得には程遠いが、一応成果はあるという事か?
ということはやはり私の仮説どおりに個々の能力は主催に害を及ぼす物だけを使用できないように書き換えられているだけで、追加で何かを習得する事はできる可能性が高いな…。
現状ではこれ以上の事は出来そうにはないが、脱出の為の鍵にはなりうるな…)
実験の成果が僅かながら出たことに確かな手応えを感じつつ、先に出た二人の後を追って観音堂を後にした。

114 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:56:16 ID:7lpnnBgk
(くそっ、いつまで追ってくるつもりだあの野郎)
役場を出てひたすらに西の方角へ走ったルーファスだったが、未だにクリフは声を荒げて自分を追ってくる。
(流石に俺もこれ以上走れない。覚悟を決めて追っ払うしか…)
ルーファスはその身を翻すと共に矢を構え、その矢先をクリフに向け叫んだ。
「止まれ! これ以上近付くんじゃねぇ!」
クリフは言われたとおりにその場に立ち止まるとルーファスに向かって負けじと叫んだ。
「いいかっ、もう一度だけ言う! こんな真似はよせ! お前が守ろうとした奴も決してそんな事は望んじゃいない!」
「だまれっ! そんな事はなぁ、俺が一番知ってんだっ! けどな、俺にはもうこの方法しか残されてねぇんだっ!
もう一度、共に同じ時間を生きたい…。その為にはあいつの望まないことだろうとなんだってしてやる!」
アリーシャと一緒にいた時間は自分の生涯過ごしてきた時間の中ではほんの一瞬にも満たないような期間だ。
しかし、その僅かな時間の中で抱いたこの感情は、それまでのルーファスの人生の中で感じた事のない掛け替えのない物だった。
「ルーファス…」
「お前には世話になった…だから、今だけは見逃してやるっ!俺の考えが変わる前に消えろっ!」
本当は撃てるかどうか自身はなかったが、これ以上クリフに説得を続けられたら自分が折れてしまうのではないかと思ったルーファスは苦し紛れに叫ぶ。
そんなルーファスの姿を見てクリフはその身に付けていたナックルを外し地面に放り捨てた。
「クリフ、てめえ何のつもりだ!?」
「一先ず話をしようじゃねえか! 俺はお前を説得しに来ただけなんだ。
傷つける気なんざサラサラない。だったらこんなもんいらねえじゃねえか!」
和睦を求める者が武器を持ってたら信用なんてしてもらえないという事を言いたいのだろうか。
武器を捨てたクリフだったが放つ気迫に変わりはない。真摯な瞳を真っ直ぐルーファスに向け一歩踏み出す。
気圧されたルーファスが一歩退くと共に手を伝う汗で矢が滑ってしまった。
しっかりとクリフの額目掛けて照準していた弓を反射的に反らしてしまう。
「っつ!」
頬を掠めた矢が彼方へと飛んでいった。
「言っただろ! これ以上近づくなってな…。次は外さねぇ…」
言っている事とやっていることの違いにうんざりしつつも再び矢を番える。
「…今ので確信したぜ。その気になってたらお前は間違いなく俺を殺せてた。それが出来ないって事はお前はまだ迷ってる。
迷ってるならそんな事をするんじゃない。アリーシャって奴が、今お前にして欲しい事は自分のためにお前が苦しむ事じゃない。
それにお前がしようとしていることは今のお前のような思いをする奴を作るだけだ。
そんな事してでも守りたい存在がいることは理解できる。けれど、大事な誰かを失う苦しみを知ってるお前が…」
クリフの言っている事はもっともだ。ルーファス自身も理解はしている。
しかし、クリフの言うとおりにするという事はアリーシャとの再会を諦めねばならないという事。
彼にはその行為がアリーシャの事を忘れる事と同位に思えて仕方がなかった。
クリフの説得を阻むべく声を荒げる。
「うるせぇっ! だったらてめぇはわかんのか!? 大事な誰かを…この身を捧げてでも守りたいと思った奴を失った俺の気持ちがっ!」
きっとこいつにはわからない。俺の気持ちが。もうどうしていいかすらわからないこの苦しみを。
「わかるさ…。今までだって何人もの仲間を失ってきた。大勢の仲間を助けるために何人かを斬り捨てるような真似だってした。
その都度後悔もしたし苦しい思いもしてきた。それはお前の今の苦しみとなんら違いがないはずだぜ。
残された俺たちができる事は、そいつのやろうとした事を引き継ぐ事だ。だから…ルーファス!」
更に一歩前に出てルーファスに手を差し伸べるクリフ。
錯乱状態に陥ったルーファスがとうとう構えた矢をクリフ目掛けて放とうとした。
「待って!」
そんなルーファスを遮るように澄んだ声が響き渡る。

115 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:57:38 ID:7lpnnBgk
その声はクリフ、ルーファス共に知っている人物ソフィアの声だった。
「ソフィア…」
「嬢ちゃん!」
突然現れた少女に目を向ける二人。
「ルーファスさん。辞めてください! 事情はわかります。さっきの放送で呼ばれた人の中にいましたよね?
貴方の大切な人が…。きっとそれでこんな事を…。でもアリーシャさんはこんな事を望んじゃいないはずです」
「うるせぇ! どいつもこいつも似たような事言いやがって! それでもあいつを生き返すためにはこれしかないんだよ!」
構えた矢をソフィアに向けるルーファス。
それを見てレナスはすぐさまにルーファスの前に剣を構えて立ちはだかる。
「言ったはずだ。次に会った時に考えを改めてなかったら刃を向けるとな!
貴様はまだ迷っているようだが、その矢を放った時はわかっているだろうな?」
睨みあうレナスとルーファスの間に更にもう1人割り込んできた。
「ヴァルキュリアよ。ここは私に任せていただけないでしょうか?」
「レザード? どういう風の吹き回しだ?」
「なぁに、主催との決戦に必要な戦力は多い方がいいですからね。それに用は彼が言ってる人物を生き返らせれば良いのでしょう?」
メガネの弦を押し上げかけ直すとレザードはルーファスの方に振り返った。
「なんだ? てめえは?」
ルーファスは突如目の前に躍り出た不審な男に矢を向ける
「お初にお目にかかります。我が名はレザード・ヴァレス。しがない錬金術師です。それと少々の魔術を嗜んでおりまして」
レザードはどこか芝居がかった様子で話し始めた。
「だからなんだってんだよ?」
一時的な錯乱状態から解放されていたルーファスはどこかレザードの話すことに惹きつけられていた。
最早ルーファスの声には敵意は込められていない。
「単刀直入に言いましょう。貴方の願いをかなえる手段を私は知っています」
そんなルーファスの様子を見て満足そうな笑みを浮かべつつ続けるレザード。
「!」
「見た所貴方はミッドガルドの住人ですね? 
ここにいるソフィアと違って私と同じ世界の住人という事は、元の世界に戻れば私の知識が活かせるという事です。
私達の世界では反魂の法という儀式がありまして。他の者の命を捧げる事で望んだ者を復活させる事ができるという術ですが、ご存知ありませんか?
私はその術の詳しいやり方を存じ上げています」
そう、その秘術さえ使えば人の蘇生は叶う。だがそれには代償がある。
「レザード! 貴様! 私がその様な行為を見逃すとでも思っているのか!? そもそもその術に用いる代償とする魂はどうするつもりだ?」
過去に自分もその秘術を用いてエインフェリアを迎えた事があったが、代償とする魂をレザードに集めさせたらろくな事にはならないと思ったレナスは反論した。
「その魂はこの会の主催の物でも構わないのではないでしょうか? どうせ貴方はこのような行いをした主催に対して慈悲はかけないのでしょう?
魂まで滅するのなら、この方が望む人物の蘇生に使った方が有意義だと私は思いますがね」
よもや、レザードの口からこのような言葉が出るとは思っていなかったレナスは口を噤んでしまった。
代わりにルーファスが声を荒げてレザードに問いかける。
「おいっ! 本当にアリーシャを生き返らせることができるのか!?」
今にも掴みかからんばかりの勢いだ。
「今は不可能ですが。ミッドガルドに戻ることが出来れば可能です。だからどうでしょう?武器を納めて我々と共に戦いませんか?
そもそもその方が死んだのは主催が原因ですし、彼を倒す事で貴方の望みも叶う。我々としても戦力は多い方がいい。
それに優勝してその方の蘇生を依頼したところで復活できる可能性は高くありませんしね。
だったら、蘇生方法を知っている私達側についておいた方が賢い選択だと思いますが?」
興奮した様子のルーファスをなだめる様に落ち着いた声色でレザードはルーファスに語りかけた。
それを聞いてとうとうルーファスは武器を取り落とした。
「アリーシャを生き返すことが出来るんだな…」
その目にはうっすらと涙を浮かべている。

116 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:58:10 ID:7lpnnBgk
「よかったな…ルーファス!」
そんな彼を見て満足そうな笑みを向け手を差し出すクリフ。
「クリフ…なんて言ったらいいか。アンタの彼女の事なんだが…」
申し訳ないといった様子でルーファスがクリフに言った。
「なっなにを言ってやがる! ミラージュはそんなんじゃねえんだって!
それにあいつならまだしぶとく生きてるぜ! お前の撃った矢は急所には届いてなかった。
っとこうしちゃいれねぇ。お前を追って随分遠くまで来ちまったな。早くあいつを迎えに行かないと」
「ミラージュさんとも会えたんですね? 良かったです!」
よく知る仲間の名を聞いて声を上げて喜ぶソフィア。
クリフやルーファスに続いて他にも知る仲間の無事を確認できたのだ無理もない。
「おう。嬢ちゃんも無事で何よりだ。ルーファスから話を聞いて心配してたんだぜ。
それにあんた達二人がいなけりゃルーファスを説得できなかったかも知れねぇ。
ありがとうな! 俺はクリフ・フィッターってんだ! これからもよろしく頼むわ!」
「私の事はレナスと呼んでくれ。こちらこそよろしく頼む」
「レザード・ヴァレスです。なに当然のことをしたまでです。フフフ…」
明らかに態度がおかしいレザードに懐疑の目を向けるレナスだったが、レザードの表情にはいつもの様な不気味な笑みしか浮かんでいない。
レザードの変貌振りにソフィアも気付き、いつもより1.5倍は距離をとっている。
「さて、どうやら彼もお急ぎのようですし、積もる話は歩きながらにしましょう。どちらまで向かうのでしょうか?」
そんな二人の態度は気にも留めずレザードはクリフに問いかける。
「おう。鎌石村の役場だ。ミラージュの事も心配だし話の続きはレザードが言うとおり歩きながらにしたいな」
「鎌石村なら私達も丁度目的地だ。今から向かえば予定通りの時間に着くかもしれないな。それに上手くいけばブラムスとも合流できる」
「はい! 急ぎましょう! 後ルーファスさん。傷の手当を」
「わりぃな。ソフィア」
意気揚々といった様子で歩き始めた4人を背後から見つめ怪しげな笑みを浮かべるレザード。
(フフフ…。まさかハーフエルフと引き合わせてくれるなんて…。やはり貴方は最高ですよレナス・ヴァルキュリア。
主神オーディンの魂の器であるハーフエルフ。彼の体を使えば私はヴァルキュリアと同格の存在となれる。すなわち、成長する事ができる神へと!
それに私の仮説が正しければ、この場でかけられている能力の変更は個人レベル。彼の体に私の魂を入れることが出来れば今私が使えない術も使用可能。
肉体の能力もオーディンと匹敵するものになり主催を倒す事も可能でしょう。
現在の私1人の力では輪魂の呪を行う事は難しいですが、ブラムスや強力な魔導師の力を使えばあるいは…。
フフフ…、レナス貴方をこの手にすることができる日もそう遠くはないのかもしれませんね)

117 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 21:06:31 ID:7lpnnBgk
以上です。
一先ず反魂の法と輪魂の呪って使い方とかあってますかね?

後微妙にやりたいこととかつかみにくいかと思うんで補足ですが、レザードをVP2の本編ラスボスモードにしたいんですよ。
で、レザード説の制限の話を活かしてレザード本体にかけられてる制限を取っ払おうと思いました。
脱出フラグ使えると思ったんですがどうでしょう?

私生活が忙しくなったんでとりあえず休みに勢いで作りたい奴の流れだけ作りました。
OKでても本投下は推敲とかもう少しした後になると思います。

意見や指摘をお願いいたします。

118 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:15:50 ID:M1AUfxZY
首輪考察回の試作品を投下します。


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