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避難スレ

1ルシファー@掲示板管理人 ◆8hviTNCQt.:2007/06/08(金) 02:31:57 ID:6n09DZuE
とりあえず避難用のスレ。
使うことは少ないかもしれないですが、規制された時にでも使用して下さい。

2名無しのスフィア社社員:2007/06/08(金) 02:40:54 ID:s1G3mEZg
とりあえずこっちに書かせてもらうぜぇ〜!
心底乙ッ!

修正云々のやりとりがし易くなるからありがたいです

3名無しのスフィア社社員:2007/06/08(金) 08:24:25 ID:AOR4HlFs
超GJ!
なんとなく避難所があると落ち着くw

4名無しのスフィア社社員:2007/06/09(土) 14:08:25 ID:GYjoZti2
お前の命掛けの行動、僕は敬意を表するッ

>>3
わかるわかるww
没作品投下スレと一時投下スレあたりは近い内に立つかもね
死者スレは……どうなんだろw

5名無しのスフィア社社員:2007/08/04(土) 11:46:24 ID:C6x0Whg2
2chはずっと規制されてるみたいなのでこっちに投下。

 ttp://smallup.dip.jp/uploader/upload.cgi?mode=dl&file=358
現時点での生存者の現在地をまとめてみた。
 (ちなみに72話までの状況、8月4日未明時点のWikiの内容を参考にした)
赤印が交戦中、赤文字が現時点でマーダー寄りのキャラ。
場所があやふやなキャラについては適当に置いておいたので、そこの所はご了承。

6名無しのスフィア社社員:2007/10/22(月) 13:20:17 ID:qfaASegI
2chにはやっぱり書き込めないのでこっちに投下。
「力が無ければ頭を使え!」終了時点での現在位置と状況メモでも。

【G−2/昼】
 ・ミカエル
  平瀬村にて絶賛引きこもり中。
  放送後から全く動きがないのが気がかり。
【B−3/真昼】
 ・リドリー
  鎌石村内海岸付近にて。
  定時放送を挟んだため、ほうきのエネルギーは充電済か。
  拠点にするにはいいと思っているようだが、数時間後には続々と人が集まるぞ!
【C−4/真昼】
 ・ロキ
  首輪研究中の自転車マスターLv3。
  昼の時点ではこの位置だが、夕方にはD−2付近に移動している模様。
  エルネスト達とどう接触するのかが気になるところ。
【E−2/真昼】
 ・マリア、クレス
  クレスが絶対安静状態なので、少なくとも次の放送までは足止めを喰らっている。
  クレスが目覚めた後どうするかは未定。
 ・ボーマン
  一応殺し合いには乗ったものの、心の中には迷いや自己嫌悪が渦巻いている模様。
  なるべく人との接触を避けて行動したいが、どこへ向かっているかは不明。
【F−3/真昼】
 ・ミランダ
  チェスターかルシオについていくと決めたもののどっちについていったかはまだ不明。
  一応殺し合いに乗っているのだが……その、がんばってください。
【I−6/真昼】
 ・レオン
  氷川村内探索中。
  首輪についていろいろと考えているものの、今のところ誰一人接触を果たせていないのが不安要素。

7名無しのスフィア社社員:2007/10/22(月) 13:20:50 ID:qfaASegI
上げてしまった、すまん

【E−4/午後】
 ・チサト、ガルヴァドス、チェスター
  ホテル跡前にて一悶着あった後。
  クロードを追うかどうかは不明。
 ・クロード
  勘違いされまくりの光の勇者。
  ひとまず南東に逃走中だが、下手するとアシュトンと遭遇の危機が!
  そして3人の誤解を解ける日は来るのか!?
【F−2/午後】
 ・洵、ルシオ
  平瀬村にいる間だけ共に行動。
  その後どうするかは不明。
【H−4/午後】
 ・アーチェ
  拡声器フラグで死ななかったものの、精神的に相当追い詰められている模様。
  とにかく西へと走行中。
【H−5(G−5とH−5の境界付近)/午後】
 ・アリューゼ、プリシス、ジャック
  ジャックはアーチェを追いたいようだが、どう動くかは不明。
  そういえば作中で双龍の男が〜と言っていたが、プリシスはアシュトンだと気づいているのか?
【H−6/午後】
 ・アシュトン
  源五郎池付近の東部にて潜伏?中。
  ディメンジョン・スリップがなくなった以上、もう無茶はできないが……。
【I−6/午後】
 ・アルベル
  氷川村散策中。
  メイド服、どうするんですかwww
【H−7/午後(もうまもなく夕方)】
 ・ガブリエル
  焼場建物内部にて絶賛引きこもり中。
  ミカエルもそうだが、十賢者は引きこもるのが大好きなのか?
 ・無人君(意思持ちランダムアイテム)
  どこかへ逃走中。
  果たして誰に拾ってもらえるのだろうか……?

8名無しのスフィア社社員:2007/10/22(月) 13:21:36 ID:qfaASegI
更に夕方組。

【C−6/夕方】
 ・レナス、ソフィア、レザード
  観音堂にて、レザードの個人レッスン中。
  3回目放送(深夜)までに鎌石村に到着したいところ。
 ・ブラムス
  レナスたちとは別れて単独行動で鎌石村へ。
  夜が近いので徐々に本調子に戻りつつある。
  いまだ外す気配は皆無だが、いつになったらヅラを外すのか!?
 ・IMITATIVEブレア
  鎌石小中学校校舎内の教室にて拷問手段を思案中。
  どこへ向かうかは2回目の放送次第。
 ・ガウェイン
  こちらも鎌石村へ。
  ガセ情報を流す約束をしたものの、ブレアの事を完全には信用しきっていない模様。
【D−2/夕方】
 ・エルネスト、クラース、フェイト
  とりあえず鎌石村へ。
  しかし付近にはロキが! 逃げて逃げてー!
【I−7/夕方】
 ・ディアス、レナ
  診療所前にて。
  とりあえずオペラを弔うが、その後の方針は未定。
【C−4/夕方(まもなく第2回放送)】
 ・ミラージュ
  鎌石村役場内にて潜伏中。
 ・すず
  鎌石村中心部、民家の一室にて潜伏中。
 ・クリフ、ルーファス組
  ミラージュの書置きを見つけ、役場に向かって猛ダッシュ中。
  放送でアリーシャの死を知る事になるルーファスがどう動くのかも気になるところ。

どう見ても鎌石村が修羅場になりそうです、本当に(ry
夕方の時点で4人、更に目的地にしているのが5人、付近にいるのが約1名、
約1名も昼から離れなければ鎌石村近辺に潜伏、深夜までに到着予定が3人と、
生存者の約3分の1が関わる事になりますね。

98の訂正:2007/10/23(火) 16:01:13 ID:6pa..hNI
Wikiに書かれていたからからそのまま書いたが、
マップを見ていて引っかかる部分があるなと思ったら
ガウェインと偽ブレアは【C−6】ではなく【D−6】っぽくないか?

訂正しようにも作者さんの事もあるし、勝手に修正するわけにも行かないし、
本スレに書き込めないから率先して確認取るわけにもいかないからな……。
誰か気づいた方、作者さんに確認とっていただけると嬉しい。

10 ◆wNjp7OZc.s:2007/10/24(水) 03:20:19 ID:loMTEbQs
ブレアとガウェインはD−6ですね。こちらのミスだったようです。
wikiの方も修正しておきますね。
失礼しました。

11名無しのスフィア社社員:2007/10/24(水) 17:14:15 ID:MfATrF0M
作者さん本人降臨ktkr!
訂正乙です!

12 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:40:18 ID:V9mKCRT6
続きを投下します

13 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:42:14 ID:V9mKCRT6

―――目を覚ますのだ。
―――リドリー・ティンバーレイクよ。

誰かが私を呼んでいる。
私はまだ寝ていたいのに声の主はそれを邪魔する。
目蓋に明かりが灯る。
あれほどあった痛みが治まっている。
リドリーは軽くなった身体を起こし、辺りを見渡す。
「ここは…金龍城」

金龍城。
目を覚ました場所はかつて自分の中に金龍を宿した場所。
自分が銀龍に殺された場所だった。

―――ドックン

『リドリーーー!! オレだ! ジャックだ!』

―――ドックン―――ドックン

『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』

―――ドックン―――ドックン―――ドックン

「リドリーよ」
「!?」
突如の声にリドリーはハッと声の元を振り向く。

14 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:44:16 ID:V9mKCRT6

黄金の神殿の中央に光の粒子が集まり、形を成していく。
そこには、毅然と佇む一匹の龍。
全身を金色の鱗を覆わせ、神々しいまでに金色のオーラを漂わせる金の龍。
金龍―――クェーサーである。

クェーサーはリドリーを見据えると。
「時は満ちた。銀龍フォティーノ亡き今、お前は器として役目を果たす時が来たのだ」
リドリーは表情を変えず向き合う。
「我は銀龍に代わって、歪みに満ちた世界を正し、新たな世界を創造し、監視せねばならない。
 我らは復活したのだ。運命はもう近くまで来ている。
 我らは融合し、一つになった。だが、フォティーノがいる限り、交代することは叶うことはなかった。
 しかし、フォティーノは死んだ。この殺し合いの舞台で消え去ったのだ。
 銀龍をも屠る力を有する者がこの舞台に蔓延っているのだ。
 我らは人間如きに殺されるわけにはいかない――――この意味が分かるな?」
「はい」
リドリーは小さく頷く
「そうだ。リドリーよ。お前の力では最後まで生き残れない。
 我らはトゥトアスの秩序を監視しなければならないのだ。ここで倒れるわけにいかないのだ」
「………」
「さて、始めようではないか。案ずることはない。
 お前の意識は取り込まれ、完全に我のものとなる。
 お前は何も心配いらな――――」

「――――クェーサー……」

15 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:46:00 ID:V9mKCRT6
リドリーはイグニートソードを取り出し、自分の首元に剣を当てる。

「私と一緒に死にましょう」

「何…!?」
金龍の顔が強張る。
「私にはどうしても守りたい人間がいます。
 ですから、我が命をもって使命を終わらせます」
「何だと!? 貴様は気は確かなのか?
 一人の人間のために世界を滅ぼしていいのか?
 人間を野放しにしておけばトゥトアスの大地はどうなる?
 お前一人の勝手の行動がアルガンダースを蔓延させ、世界を滅ぼすことになるのだぞ」
「私も―――」

リドリーは金龍城に再び戻って、あることを思い出していた。
何故忘れていたのであろう? こんなに大切なことを。

+++

16 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:47:56 ID:V9mKCRT6
金龍の器。
私には宿命があった。私には成就しなければならない理由がある。
だから、私はもう引き返せない。
霊継ぎの儀式を受けてから自分の存在意義を考えてきた。
そして、決心したのだ。
トゥトアスの歪みを救えるのなら喜んでこの身を金龍に捧げようと。

騎士たるもの常に冷静であり、正しい判断をしなければならない。
国と民を守る者は国と民のためならば個人的な感情に流されてはならない。
私は幼いころからそう教わってきた。
そうか―――ならば私は皆の見本になるために貴族の名に恥じない立派な騎士になろう。
そのために不要のことは一切排除しよう。
そう決意した。
それからというものずっと寒かった。私の心は城壁のように凍えていた。
でも、自分を殺し、前に進まなければならなかった。

だって……それが一番正しいことだから――――……

17 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:51:28 ID:V9mKCRT6

後悔はなかった。私が死ぬことで世界が救われるのだから。
トゥトアスはもう疲弊しきっていた。
人間たちの傲慢が世界を枯渇させ、アルガンダースを蔓延させる原因を生んだ。
人間たちがこのまま繁栄しつつければ、世界は近いうちに滅び去ってしまう。
だから、私は一度世界を創り直すために、金龍の器になることを望んだ。
―――この私…リドリーという存在を失ってでもいいと
―――自分が自分でなくなっていいと

金龍が光臨すれば、私の意識は失われ、人間たちの滅亡は必至である。
でも、トゥトアスが救われるなら、私は全てを擲った。
人間たちを裏切ってでも、私は成さなければならい。
唯一自分だけが世界を救えるのだ。自分と人間たちを犠牲にすれば、世界の秩序が守られる。
そう、自分に言い聞かせる。

18 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:53:38 ID:V9mKCRT6
度に―――アイツのことが頭に浮かんだ。
でも、世界を救うためには私を捨てなければならない。
そう、また言い聞かせた。
でも、また―――アイツの事が心に浮かんだ。

私はアイツを振り切るように世界の果てへと金龍降臨の地へと向かった。
……いや、今思えば逃げていたかもしれない。

そして、私は金龍の器へとなろうとしていたとき。
『リドリーーー!! オレだ! ―――だ!』
それでも
アイツは
アイツは
追いかけてきてくれた。

19 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:54:16 ID:V9mKCRT6

―――ドックン

嬉しかった。
初めて会ったときと変わらないまま、何も変わらないまま、呼んでくれた。
その瞬間、意識が薄れる。銀龍の攻撃を一身に受けたのだ。
死。
命の灯火が薄れるのが分かった。
それでも、アイツは心配そうに私を抱きしめくれた。

―――ドックン―――ドックン

暖かい抱擁。永遠に解けることのないと思っていた心が満ちていく。
そして、また呼んでくれた。
『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』
私の名前を―――リドリーを。私として呼んでくれた。

―――ドックン―――ドックン―――ドックン

その瞬間、分かったんだ。
『……嬉しい。また名前を呼んでもらえた』
困惑するアイツの顔、見物だったな。
『…私はお前と…』

+++

20 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:56:05 ID:V9mKCRT6

「私も初めは金龍に全てを捧げるつもりでした。
 そのためにかつての仲間を殺めることになっても、宿命に従うことが正しいことだから。
 でも、アイツは何度傷つけても、私を仲間だと家族だと言ってくれた。
 何もなかった私に。
 想いを
 意志を
 教えてくれたのは彼だった」
頬が温かくなっていく。

アイツを想えば
       笑みがこぼれる。
アイツを想えば
       胸が締めつけられる。
アイツを想えば

―――生きていると実感する

21 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:57:59 ID:V9mKCRT6
悲しくないのに涙が溢れてくる。
「私は―――ジャックが愛おしい。
 愛しくて
 愛しくて
 たまらない」
本当は嫌だ。
自分が自分じゃなくなるのは嫌だ。
私が私でなくなれば、この想いもなくなってしまう。
ジャックに対する愛しい想いも消えてしまう。
ジャックは私の希望だ。だから命に代えて彼を『守りたい』。
自力では金龍を抑えられない。しかし、好機は今であった。
金龍が私の意識に融合する前に手を打つ。
強制的に入れ替わる前に自分を殺す。
私たちは一心同体、私の精神を殺せば、同時に金龍も殺せる。
これは使命でもなんでもない。
これは紛れもなく自分の意志。

暖かい愛しい涙が頬中に伝い落ちていく
「出会ってくれてありがとうジャック。
 ―――大好き」
瞳を閉じ、覚悟を決める。最後の戦い。
人類の敵である金龍クェーサーを倒すべく、リドリーは剣を自分の心臓に振り翳す。
愛しき者を守るため、少女は自分の想いを身体に刻む。

22カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:02:29 ID:V9mKCRT6


―――どうしてあなただけ助かろうとするの?

か細い生気のない声が耳朶を打つ。
「え…!?」
リドリーは閉じていた目を見開く。その瞬間、金縛りにあう。
そこには、褐色肌の少女と凛とした風貌の女性、長い金髪の女性が私を覗きこんでいた。
その目は生気がなく恨めしそうに私を魅入っていた。彼女たちは皆この舞台で私が殺した者たちであった。
一同は一斉に壊れたオルガンのように訴えかける。

「「「どうしてあなただけ助かろうとするの?」」」

三人の身体から夥しい血が溢れ出る。それは私が刻み込んだ箇所から止め処なく吹き出る。口元から蛇口のように零れ出る。
「「「痛かったよ」」」「「「苦しかったよ」」」「「「死にたくなかったよ」」」「「「生きたかったよ」」」
「「「報われなかったよ」」」「「「家族のところ帰りたかったよ」」」「「「愛する人のところに戻りたかったよ」」」
「「「助かりたかったよ」」」
「「「でもどうしてあなただけ助かろうとするの?」」」
「「「私たちはあなたに対して何もしなかったのにどうしてこんなことするの?」」」
「「「どうして殺したの?」」」

「ちっちがう!!」
リドリーは後退しながらも頭を左右に振り必死に否定する。
恐怖から涙が滲み出る、目を背けられない。
言い聞かせる。これは幻だと、性質の悪い幻覚だと。

23カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:05:02 ID:V9mKCRT6
しかし、悪夢は覚めない。死体達は生々しく私を睨みつける。
「ククク、リドリー・ティンバーレイク。これがお前が背負ってきた道程だ。
 どの人間よりも業に満ちておる。足下を見るがいい」
どこからか金龍の声が聞こえる。その声に咄嗟に足元を見る。
足元には積み上げてきた死体の数々。
人間。妖精。ライトエルフ。ダークエルフ。ブラッドオーク――――
ありとあらゆるの種族が無造作に積み上げられていた。
数十万という死体の山の上でリドリーは足を踏みしめていた。

あまりの凄惨な光景に思考が停止する。何も考えられない。
「そうだ、すべてお前によって引き起こされた戦争で死んだ者たちだ。
 お前はその頂点に立っている。お前が望もうと望むまいと本来唾棄される存在」
「違う、私は私は―――」
突然死体たちがコーラスを上げるように絶叫する。

「「「「「「「「「「「「「――――――――」」」」」」」」」」」――――――――

24カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:06:40 ID:V9mKCRT6
終わりのない怨恨の言葉、罵声、呪詛。
耳が脳が全身が引き裂ける。精神が粉々に砕かれてしまう。
「リドリーよ。意志には関係なく、償わなければならない。
金龍の器として、お前は使命を完遂しなくてはならない」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
リドリーはジャックのことを想い、剣を手に取る。
これら全ては金龍が見せている幻だ。
今のうちに始末をつけないと手遅れになる。
リドリーは自らの命を絶つべく剣を振り下ろす。

だが、身体が動かない。
持っていた剣をカランと地面に落とす。
周囲は地獄のような光景ではなく、元の金龍城へと変わっていた。

「ククク……助かったよ。お前が躊躇している内に身体のほとんどをのっとることができた」
自分が自分でなくなる感覚が蝕んでいく。精神が腐蝕していく。
いいようのない嫌悪感が広がる。
「そんな……」
思考が絶望に塗り潰されていく。
そんなリドリーを見て金龍は満足げに笑みを浮かべる。
吐き気を催すぐらい邪悪な笑み。

「人間ごときがこの私に敵うと思ったか!? 愚か者がッ!!」

その瞬間、身体は完全に自分ではなくなった。
―――ジャック、ごめんね……

+++

25カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:09:02 ID:V9mKCRT6

ソファの上で横たわっていた少女は身体を起こす。
ここは鎌石局の待ち受けの一室。少女は戦闘で傷ついたケガを癒すために、休息を取っていた。
あれほど悩ませていた全身の激痛は治まっている。
ケガはまだ残っているが戦闘に支障はきたすことのない微々たるものだ。
突如、少女は大声で笑い出す。
「あはははははははははははははははははははは。
 ああ、なんて気分がいい! 最高に気分がいいよ!
 やっとこの手で直接いたぶれる。人間どもをいたぶれる」
そこには、姿形は少女のなりをしているが、全てにおいて元の少女とは違った。
そいつは金龍クェーサー。トゥトアスの監視者。秩序を調停する者。
人類にとって紛れもなく悪。全人類を脅かす敵。
クェーサーが今そこに吼えていた。

「さーて、身体の馴染み具合はどうかな」
クェーサーは手を翳す。無尽蔵といえる魔力によって形成された武器が現れる。
器となった少女が得意としていた武器―――黄金の斧が具現化する。
「……」
金龍はいまいち納得いかず、頭を掻く。
今度は両手を合わせ魔力を込め、正面に振り下ろす。収束させた魔力を放出させる。
爆音と共に正面に巨大な穴が出来上がる。
手加減をしているとはいえかなりの威力である。

26カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:11:19 ID:V9mKCRT6
「これが、ルシファーが言っていた制限か?
 ……違うな」
確かに真の力が開放できない。
いまいち魔力が練り上がらない。
だが、内部から自分の能力を抑えている奴がいる。

「あははは。リドリーめ。無駄な足掻きを」
微力ながら、リドリーが自分の動きを拘束するために抗っている。
所詮は海原に石を投げ込むぐらいの抵抗。本当に微力なものだ。
だが、鬱陶しい。この私に付き纏うな羽虫が。
金龍は考える。リドリーの思考を完全に融合させるにはどうすればいいのか。
答えは簡単だ。
「だったら、お前が守ろうとし、愛していた者を殺そう。お前のひどく絶望する様を見届けよう」

今後の行動方針? 否、もうすでに決まっている。
金龍の胸には、心に決めていたものがある。銀龍フォティーノとジャック・ラッセルの邪魔が入ったために、叶えられなかった願い。
渇望、切望、熱望していた。
金龍は望む―――
殺戮を。抹殺を。惨殺を。虐殺を。根絶を。絶滅を。殲滅を。死滅を。滅亡を。
すべてを人間どもに刻み込むのだ。
それだけが金龍クェーサーが求める最上級の望みだから。

27カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:13:52 ID:V9mKCRT6
【C−4/夜中】
【リドリー・ティンバーレイク】[MP残量:80%]
[状態:金龍クェーサー、腹部に激しい痛み、肋骨にヒビ、自己治癒中]
[装備:イグニートソード@SO3]
[道具:グラビティレイザー(エネルギー残量[90/100])@SO3、忍刀菖蒲@TOP、アーチェのホウキ@TOP
    他クレアとスフレの支給品幾つか(0〜4)、荷物一式×3]
[行動方針:人間の根絶、最後まで生き残る]
[思考1:ジャックを殺す]
[思考2:人間を殺す]
[現在位置:鎌石局受付]
※ミラージュの荷物(支給品一式、ルーズリーフ、及びそれに記したメモ)は役場内に放置されています
※リドリーの意識はまだ消えていません
※制限により金龍化はできません。
 魔力を増幅するようなデバイスがあるなら別。


【イグニートソード】
封印された魔人の憤怒により刀身が赤く染まった魔剣。
・低確率で火球が飛び出す。

【グラビティレイザー】
重力衝撃波を利用した銃。
SO3本編最強のフェイズガン。EXダンジョンは除く。

28 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:15:02 ID:V9mKCRT6
投下完了。
指南のほどお願いいたします

29名無しのスフィア社社員:2008/04/29(火) 15:09:24 ID:ceK6emJ2
スレに書こうと思ったら規制とか\(^o^)/
避難スレの存在に意味があるんだかないんだかよくわかんないけど保守しておこう


>>本スレ111
期待!
放送時には鎌石村が修羅場になると思いきや、修羅場はどうやらD-5になりそうだ
更なる修羅場の種はまだまだ残っているしなぁ……

1人D-5でブーンしている不審人物は幸運だったのか、それとも不幸だったのか─

30 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:27:40 ID:Sq4t0KR6
携帯から支援しようとしたら携帯もつながらなくなってたのでこちらに続きを投下します

31不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:29:12 ID:Sq4t0KR6
――そんな打算的な思惑通りにいくほど、この殺し合いは甘くはなかった。
チェスター君に頼みはしたものの、正直宛てにはなりそうもない。
そのうえチェスター君を行かせてしまった私にクレス君は少なからず不満を抱いたと思う。
「マリアさん……僕は……間違っているのでしょうか……」
そして何よりの失策はクレス君の自信を喪失させた事。折角仲間の死を乗り越えられたというのにこれでは不味い。
生き残っている仲間を救うためにも、復讐ではなく脱出のための策作りを優先する。そのこと自体は正しい。むしろ最善の選択だ。
かと言って、このままチェスター君を放っておいて見殺しにするのが善であるわけでもない。
あちらを立てればこちらが立たず。難しい問題だ。
「いいえ、間違っていないわ。貴方も、そしてチェスター君も」
正義の反対はまた別の正義である。非常によく聞く言葉だ。それこそ野球ゲームですら聞けるフレーズだろう。
だが、頻繁によく耳にするという事はそれ相応の理由があるからだ。
つまり、この考えは正しい。少なくとも大衆が支持する程度の正しさは持っている。
「チェスター君と意見がぶつかるのはこれが初めて、なんてことはないはずよ。共に冒険をしていれば衝突することぐらいある。
 ただ今までと違うのは、どちらかが折れるまで話し合う時間がないことと、どちらかを後回しに出来るほどの時間もないということ。
 まったくこの殺し合いはよく出来てるわ……今までの冒険と違って圧倒的に時間がない。パーティー全員の要望を聞けなくすることで、最終的な目標が同じ者同士を分断させる狙いがあるのかもしれないわね」
この殺し合いのルールは非常によくできている。腹立たしいが、そう評価せざるを得ないだろう。
これが普通の旅ならば、優先順位で揉めることはあれど基本的に最後は全員の希望を叶えられる。
だがここではそうも行かないのだ。仮に複数のやりたい事があって、それらがまったく同じであっても、それらの優先順位が違う者とは決して共に行動出来ない。
だからこそクレス君には念を押していたのだ。仲間が死んでも、その優先順位を変えないように。私と別れ、敵討ちや仲間の埋葬に行ったりしないように。
「仲間の仇を討とうとする気持ちも、仲間の死を乗り越えて生きてる仲間を救おうとする気持ちも、正しい事に変わりはないわ。
 ただその二つの優先順位が、貴方とチェスター君とで違っちゃっただけ。それだけの話よ」

未だにクレス君は俯いている。これでいいのかと自問自答しているのか、無力感に打ちひしがれているのかは分からないけど。
それでも、彼には立ち上がってもらわなければいけない。私一人でどうにか出来るほど、ルシファーは甘くないのだから。
「……チェスター君を追いたい気持ちは分かるわ。だけど、私達の怪我じゃ何も出来ない。出来るとしたら足を引っ張ることぐらいよ」
「こんな怪我ぐらい、気になりません」
「……クレス君、落ち着いて。貴方も本当は分かっているはずよ。怪我人二人がサイキックガン一つでどうこう出来るわけがないって。
 分かっていて、“何かが出来るのに何もしなかった”と思い込むのはやめなさい。自分を責めるのは簡単だけど、それで行動を起こす事を止めるのはただの逃げよ」
クレス君は喋らない。きつい言葉で凹んでいる、ということなら可愛らしいの一言で済むのだが、そういうわけでもなさそうだ。
おそらく彼は、頭の隅に浮かんでしまった邪な考えを振り切れずにいる。感情の赴くままにそれを叫びたくなっている。
それでも彼の理性がそれを押し留めているのだろう。仲間の死に呆然とするだけだった先程までと比べると、それは成長とも取れた。

32不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:33:02 ID:Sq4t0KR6
『救えるかも分からない見ず知らずの人間の命よりも、目の前にいる大切な人の命を守りたい』
その考えは、決して責められるものじゃない。人間なら誰もがそう思うだろう。
クレス君の仲間だから信頼はするつもりだったが、チェスター君にかつての仲間達ほど思い入れがあるかと聞かれれば勿論ノーだ。
彼はつい1時間前に出会ったばかりの会話もろくすっぽした事のない、言わば“知人の知人”なのだ。私は彼がどんな音楽が好みなのかも知らないのだ。
そんな彼とかつての仲間を対等に扱っては、かつての仲間に失礼というものだ。
だけどそれは決して口に出してはならない。その考えは、一歩間違えれば『他者を犠牲にしてでも生かしたい者を生かす』という思想に繋がる。
それになにより口に出されて良い気はしない。無用な不信感は与えないべきだ。
クレス君もそれが分かっているからこそ、口に出さずにいるのだろう。
『大切な親友を見殺しにして、見知らぬ者達と共に脱出することに意味なんてない。今すぐにでも彼を追う』と。
だから私もその考えを言葉に出して否定はしない。それがおそらく、その考えを押し殺す彼に対する礼儀というやつだろうから。

「それに、アーチェを追って来なかった事から察するに、クロードはすでに移動を始めているはずよ。こちらには現れなかったし、おそらく次の獲物を求めてアーチェとは違う進路を選んだんでしょうね。
 あれからそこそこ時間も経っているし、よほど運が悪くない限りすぐには遭遇はしないはずよ」
「……今思えば、どうしてそのクロードって人が追って来ないのか、ちゃんと考えるべきでしたね……」
クレスが自嘲めいた笑みを浮かべる。どうやら彼は責任感が強すぎるらしい。
「アーチェが死んだか確認にも来なかったほどだもの、よほど自信のある技だったんだと思うわ。彼女がここに辿り着いた時には、おそらく既に手遅れだった」
そうは言ったものの、大がかりな準備もなしにそんな事が本当に出来るのか怪しいものだ。クロードが犯人じゃない可能性も大いにある。
だからこそ次にボーマンに会っても無条件で信頼したりはしないし、むしろ疑ってかかるべきだと思っている。
もっとも、今のクレス君にはこれ以上負担をかけるわけにいかないので当分ボーマン犯人説は胸の内にしまっておくが。
とは言え、クロードを警戒しておくに越したことはない。彼が殺し合いに乗っていることは確実なのだ。最悪の事態を想定しておいて損はない。
仮に本当にアーチェがクロードによって殺害されていた場合、それはクロードから逃亡することは不可能ということ指し示す。如何に不利な状況になろうと、先程の戦いのように逃走することは出来ない。
いずれクロードは倒さねばならないが、その時までには万全の準備をしておきたいものだ。
出来れば、接近せずに倒せるような策も欲しい。
「……そう、ですね。すみません、くだらないことを言って」
「気にしないで。それより、この村で使えそうなものがないか探しましょう。私達にも出来ることが、きっとあるはずよ」
「……はい!」
やはりクレス君は強い。もう少しウジウジされるかと思ったけど、彼は素直に従ってくれる。
おそらく彼の胸には強い決意が秘められているのだろう。決して挫けないという、強い決意が。
(……その決意が砕けないよう、気をつけなくちゃね)
強い決意程、“決意を破らねば決意を貫き通せぬ場面”に弱い。今回のように大勢を救うために仲間を見殺しにする可能性が高い行動を、彼は次も選べるのだろうか?
仲間のために決意した意思を貫くため、彼は仲間を犠牲にするような非情な選択を出来るのだろうか?
答えはまだ、わからない。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

33不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:40:39 ID:Sq4t0KR6





「アシュトン! アシュトンじゃないか!」
それは全くの偶然だった。ホテルを目指し走り始め、間もなく見慣れた横顔を発見したのだ。
だがしかし、ここは過酷な殺し合いの場。不意に声をかけたのがいけなかったのか、ドラゴンブレスで迎撃される。
が、これはなんとかスターガードで防ぐことができた。ジャックの遺品を持ってきたのは正解だったようだ。
その際にエネミーサーチが警告を発してきたが気にしない。
ただの警戒レベルでも反応してしまうということはアーチェの件で学習済みだ。
ここでアシュトンに剣を向けて今までと同じ失敗を犯す程馬鹿じゃない。
「あぁ……なんだ、クロードか」
ほら、こうして剣を向けず敵意がない事をきちんと示せば、ちゃんと相手にも伝わるんだ。
アシュトンはギョロとウルルンを制止し、バツが悪そうに眉を下げた。。
「ごめんごめん、ちょっとピリピリしててさ。駄目だよ二人とも、クロードに攻撃しちゃあ」
「まったく、気をつけてくれよ」
返す言葉に怒りの念は含めない。ただただ軽い、冗談を飛ばす口調で言う。
みんなで旅していた頃の事を思い出し、自然と顔が綻んだ。
「ごめんごめん。それよりクロード、今まで……」
「ごめん、アシュトン。今は時間が惜しいんだ……あの煙が上がっている場所に、チサトさん達がいるかもしれない」
そう、誤解を与えずアシュトンと合流できた今、一刻も早くチサトさんの所に戻らなくては。
アシュトンがいればチサトさん達の誤解も簡単に解けるだろう。
「……チサトさんが? もしかしてクロード、チサトさんと会ったの?」
「ああ……詳しくは行きながら説明する。ついてきてくれるか?」
不安が全く無かったと言えば嘘になる。ここはこんな島だ。ろくすっぽ説明もされずついてこいと言われたら拒絶したっておかしくない。
それでもアシュトンは微笑んでくれた。話を聞く前から、頷いてくれた。
「勿論だよ。だって僕らは親友じゃないか」
「ありがとう。さ、行こう!」
ああ、そうだな。普段はどこかヘタレてるのに、こういう時は本当に頼もしく思えるから困る。
……ありがとうアシュトン。急いでたから適当に喋ってるように聞こえたかもしれないけど、本当に感謝しているよ。
さすがは僕の親友だ。

「……チサトさんの他に仲間はいるのかい?」
移動しながら、アシュトンが聞いてくる。まぁ当然の質問だろう。仲間は多いに越したことはないのだから。
「いや、それが……分からないんだ」
誤解を解くためにも、どの道アシュトンには真実を伝えねばならないだろう。
アシュトンにまでいらぬ誤解を受けぬよう言葉を選び、正直に告白を始める。
「実はチサトさんには誤解を受けちゃってね……僕がこの島で人を殺して回ってるって」
「何でまたそんな誤解を?」
「いやさ、化け物からチサトさんを助けようとして攻撃したんだけど、それが原因みたいなんだ」
思わず苦笑いが漏れる。
確かに短絡的だったかもしれないが、仲間を守るための行動がまさかここまで話を拗れさせる事になるとは。
「あ、そうそう、これは仲間の話に繋がるんだけど、その時青い髪の青年にも襲われたんだ」
「青い髪の青年?」
「ああ。何でか知らないけど僕が女の子を殺したって言って、チサトさんと一緒になって襲ってきたんだ。
 一応正義感は強いみたいだったし、チサトさんと一緒にいるとは思う。誤情報を流したいだけの悪者って可能性もないわけじゃあないけど、ちょっと考えにくいかな?
 あと、倒したはずの化け物も普通に起き上がって僕を攻撃してきたから、共通の敵を持った者同士ってことで一緒にいる可能性も……」
「はは、クロードも敵が多いんだね」
おかしそうに笑みを浮かべるアシュトン。苦笑いならともかく普通に笑みを浮かべられたことに違和感を感じるが、どうおかしいのか上手く表現できそうにないので口に出さないでおいた。
まったく、笑い事じゃないんだけどな……
「……ん? クロード“も”?」
そこで気づいた。クロードも、という表現に。
もしかしてアシュトンも僕と同じように誰かから誤解を受けたのだろうか?
アシュトンなら大いにあり得る。というか誤解を受けない方が難しいだろう。

34不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:42:02 ID:Sq4t0KR6
「ああ、うん。ピンクの髪の女の子を逃がしちゃってね」
「……まさか、アーチェか!?」
驚いたな。まさか同じ人物に誤解されているなんて。
逃がしちゃって、という事は僕と同じように誤解を解こうと追い回したのだろう。
彼女があれだけ怯えていたのは、凶暴そうなドラゴンを背負った青年に追いかけまわされてたからなのかもしれない。
「……クロードの知り合いなの?」
一瞬、アシュトンの目が凍てつくような冷たさになった。いや、なった気がしただけかもしれないが。
それでも、やっぱり何かおかしい気がした。もっとも僕もこの島に来てからどうも空回りばかりしているから、この島独自の雰囲気が人を変えてるのかもしれないけど。
だからアシュトンの異変は特に気にしないことにした。きっとチサトさんの目に映った僕も今までの僕とは違うのだろうし、それが原因でまた仲間と仲違いなんて御免である。
「あー、うん、知り合いっていうか何って言うか……僕の事も誤解してる娘なんだ。
 ジャックっていうアーチェの仲間が誤解を解いてくれるはずだったんだけど……」
ジャック・ラッセル。この島にきてまともに会話できた最初の人物。
彼が死んだのは僕の失策のせいだと言えるだろう。あの時僕が付いて行ってれば、今頃は……
「そう……死んだんだ、彼……」
どうやらアシュトンもジャックの事を知っているらしい。どの程度の知人なのかは分からないが。
「ねえ、クロード」
「ん?」
もう二度とジャックの時のようにはならない。
そう誓った矢先だった。アシュトンから、思いがけない言葉が聞けたのは。
「ごめん。僕達ここで別れよう」





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





まったく、俺はネーデ人に何か縁でもあるのだろうか?
あと数時間で禁止エリアになる場所に留まる奴はいないだろうと判断し通り抜けようとしたD-04で、俺はノエルと再会した。
仲間に会うのはこれで二人目。これで目出度く二人しかいないネーデ人の知り合い両方に再会したことになる。
もっとも、ノエルの方はとうの昔に冷たい体になっているのだが。
(……念のため診ておくか)
時計で時間を確認する。大丈夫だ、禁止エリアになるまでにはまだ時間がある。
本格的な検死なんて勿論無理だが、ゆっくり死体を眺められるほど安全なエリアなどそうそうない。
殺害犯の獲物ぐらいしか得られる情報はなさそうだが、情報はあって困るものじゃないからな。

35不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:48:34 ID:Sq4t0KR6
――俺は弱い。この先生き残るためには、その事実を素直に受け入れるしかないだろう。
紋章術者のようにデカい一発も持ってなければ、剣士のようにリーチがあるわけでもない。
これが殺し合い開始直後なら、得意武器を持てなかった剣士くらいになら勝てるのだろうが、すでに12時間も経っている。
武器を得られなかった者達は既に全滅しているだろう。そして彼らを殺した強者達は、奪った支給品でさらに強力になっているはずだ。
そんな連中に真っ向から挑んで勝てると思う程、俺は自信過剰じゃない。そんなものは己の命を縮めるだけだ。
大事なのは現状をしっかりと把握すること。そしてその把握した手札をうまく使ってゲームを進めることだ。
そして今の俺の手札は、正直相当なものである。勿論悪い意味で。
大富豪の最強カードが11だった時に感じる「何だこれ」という感想をそっくりそのまま抱けるだろう。
まず自分の支給品がアクアベリーオンリー。子供の遠足のリュックサックにだってもう少し何か入っているぞ。
しかもそのアクアベリーすらアドレー相手に無意味に消費してしまった。いや、残っていても特に使い道はなかった気もするけど。
しかしアドレーの支給品だけは唯一のアタリと言っていいだろう。普通の人にとっては使えない代物かもしれないが、薬剤師の自分にとってはこの上なく有難いアイテム。
実際調合セットに含まれたアイテムを利用して先程2人も殺すことが出来た。まさに大富豪における八切りの8。弱い手札の中じゃ実質一番強いカードだ。
しかしこのカードはもう切れない。アルテミスリーフが半分ほど残っているだけなのだ。
そこまでして得たものは、正直割に合わない物ばかり。
まず七色の飴玉。これは論外。舐めると楽しい気分になるとか。アホか。
そしてパラライチェック。本来ならばアタリにも思えるのだが、これを装備したチサトがしっかり麻痺するのを見てしまっている。
じっくり見てもよく分からないが、模造品か出来そこないなのだろう。まぁ、「麻痺は効かないぞ」というハッタリにはなりそうなので装備しておくが。
最後の一つはフェイトアーマー。装備しているとHPが少しづつ回復するというよく分からない仕組みの鎧だ。
凍結も無効にするらしく、紋章術師との戦いに非常に有効に思われるが、如何せん武器がない。
これだけ付加効果のある鎧なのだ。素手で撲殺する間敵の攻撃を防ぎ続けてくれるほど頑丈な出来ではないだろう。
一応痛みを和らげるために装備はしとくが、過度に期待して無茶をすることはよした方がよさそうだ。
やはり武器だ、武器がいる。素手なのとナックルがあるのとじゃ天と地ほどの差があるからな……
だがしかしそう簡単に武器など手に入るものだろうか?
先程も言ったように、この殺し合いももう中盤に入っている。武器を持った人間を殺して奪うのには骨が折れることだろう。
チサト達にやったように騙し打ちで毒を盛ろうにも盛るための毒物がない。それになにより、俺を信用してくれる奴があとどれほどいると言うのか。
チサトとノエルだけでなく、すでにセリーヌとオペラが死亡している。クロードはゲームに乗っている。ディアスはかつての仲間ってだけで信用してくれるほどお人よしではないだろう。
つまり無条件で俺を信じれくれそうな人間は残すところあと5人。レナにアシュトン、レオンにプリシス、それからエルネスト。
俺を除いて現在生存者が33人と仮定すると、俺を信じてくれそうなのはだいたい6人に1人ということになる。
俺の予想ではこれは殺し合いに乗った奴と遭遇するよりも低い確率である。
そして未だに殺人鬼には会っておらず、無条件で信頼してくれる者には会ったばかり。確率からいって無条件で信頼してもらえる仲間には当分会えないと思った方がいいだろう。
だとしたら誰かとの同盟を考えるべきなのかもしれない。信頼を得ることは難しいが、利害が一致する人間を見つけることは容易いはず。
人間的に信頼できなかろうが構わないのだ。すでに周りは敵だらけで、これ以上悪い事にはなりようがない状況なのだから。

36不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:49:11 ID:Sq4t0KR6
「ん……? こいつは……ッ!」
数多くつけられたノエルの傷。それらを見ながら視線を足もとまでずらしていき、そして気付いた。
バーニィシューズ。
普段走り回らない紋章術師だろうとバーニィ並みの俊足を得られる魅惑のアイテム。これを求めてバーニィレースで破産する者も少なくはないらしい。
(ノエルを殺した奴はバーニィシューズの効果を知らなかったのか?)
とすると、ノエル殺人犯への認識を改める必要がある。てっきりノエルすら一撃でしとめられない人間だと思っていたが、どうやらバーニィシューズを履いたノエルを逃がさない程の実力者のようだ。
正直俺ならバーニィシューズを履いた奴にあっさりと逃げられる自身がある。犯人は機動力に優れているのか……
バーニィシューズを頂くとするが、これで安心だとは思わない方がよさそうだ。特にこの傷の大きさに合う剣を持つ機動力の高い殺人鬼と戦う際は逃げるという選択肢を消した方が良さそうだ。
そうなった時に一人ではやはり不利。俺が生き残るのに仲間の存在は必要不可欠だ。
だが一枚岩の大集団ではいけない。優勝狙いとばれた途端、その結束力で俺の前に立ち塞がれる。
利害関係のみで成り立っている集団か、もしくは武器はよくても本人に運動能力のない集団が望ましい。そういう所なら裏切る際にも勝算がある。
とりあえずノエルから脱がせたバーニィシューズを履き、金髪の青年の死体を診る。
大きな刺し傷以外に特に傷は見受けられず、大した情報は得られそうにない。
若干痙攣の後が見られるが、短い時間で道具もなしじゃ麻痺攻撃を食らったのかは分からなさそうだ。まあだが麻痺攻撃を警戒しとくに越したことはないだろうな。

「さて……行くか」
目的地は変更だ。本当ならここを突っ切って釜石村まで行きたかったが、今の手札じゃあそこに行くメリットがない。
拠点にぴったりの場所に潜む殺人者がいる場合そいつの狙いはまず間違いなく奇襲であり、それはすなわち話を聞く気がない事を指す。
殺し合いをする気のない者がいる場合は集団と見ていいだろう。
『前衛が少ない場合は前衛になると言って武器を貰い、前衛がいる場合は前衛の連中が消耗するまで守ってもらう』というのが当初の作戦だったが、この作戦ももう使えない。
仮に後者になった場合、まず間違いなく前衛の奴にバーニィシューズを譲渡するはめになる。
現段階でバーニィシューズは俺の手札の最強カードになったのだ。それを早々に手放すわけにはいかない。
武器の譲渡をしなくて済みそうな、本当に利害関係のみのチームを組む。そのために俺は今から森へと引き返す。
生に執着し傷ついた奴が単独でいるとしたら、他者に見つかりにくい森の中だろう事が一点。
そして予想以上に煙を上げるホテルには自然と人が集まるであろうことが一点だ。
現れたのが話の通じない相手の場合今の装備ではピンチになるが、例の逃走が不可能そうな剣士が相手じゃない限りバーニィシューズで逃げられるはずだ。
まだガソリンが付着したままだから逃走経路が限られるが……その程度のギャンブルは仕方がないと割り切るしかあるまい。
山分けという条件を持ちかけて取りに行ってもらえば回収し損ねたガルヴァドスの支給品も手に入るかもしれないのだ。
この賭けのリターンは決して低いものじゃない。どちらかと言えばローリスク・ハイリターンな方。
だったら答えは決まっている。コールだ。鬼が出るか蛇が出るか、その賭けに乗ってやる。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

37不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:55:32 ID:Sq4t0KR6
「別れようって……一体どうして!」
「クロードは誤解されてるんだし、その方がいいよ。」
誤解されているんだから、一緒に行かない方がいい。
かつて僕がジャックに提案し、そして後悔する原因になった提案を、今アシュトンはしてきている。
「駄目だ! この島では何があるのか分からないんだ、別行動なんて危険すぎる!」
アシュトンに悪気がないのは分かっているのに、つい声を荒げてしまう。
また同じミスを犯すわけにはいかないんだ!
「心配しないでよ。これでも一応クロードの足は引っ張らずにきたつもりだけど?」
「分かってるよ、アシュトンが弱いだなんて思っちゃいない。でもこの島には十賢者だって……」
「だから別れるんだよ、クロード」
アシュトンが急に立ち止まる。置いて行っては本末転倒なので、仕方なしに足を止めた。
「ねえクロード。プリシスを見てないかい?」
「いや……見てないけど……」
「僕は会ったよ。殺し合いが始まってすぐに、池の近くで」
プリシスに会った。それは素直に喜べることだ。プリシスは大切な仲間の一人だし、首輪を外せる可能性がある数少ない人物だ。
だけど、どうしても喜びの言葉が口から出ない。
プリシスに会ったのなら、何故アシュトンは単独行動をしているのだろう?
いつもの彼なら、プリシスを一人になんかしないはずなのに……
「でもね、僕は拒絶されちゃったんだ。だから傍にはいられない。心配だけどね」
馬鹿な……プリシスがアシュトンを拒絶したって?
確かにアシュトンに恋愛感情を持ってるってわけじゃなかったのかもしれないが、少なくとも嫌ってなんかいなかったはずだ。
それなのに、どうして……
「ああ、いいんだよクロード、そんな顔をしなくても……この島は“そういうルール”なんだもん。かつての仲間だって拒絶される可能性はあるよ」
確かにそうだ。一人しか生き残れないというルール上、仲間だろうが手放しでは信用できない。
積極的に仲間を殺して回る人がいなくても、疑わしい仲間を避けるのは当然のことと言える。
それでもやっぱりプリシスがアシュトンをっていうのは考えにくいけど、僕とチサトさんの前例がある。
何かしらの誤解を受けて拒絶されたという可能性もあるだろう。
「それよりも、クロードにはプリシスの護衛を頼みたいんだ」
「プリシスの……?」
「うん。変な大男が傍にいたみたいだけど、彼一人じゃちょっと心配だからね。クロードなら実力的に申し分ないし、プリシスに拒絶される心配もないからさ」
そう言ったアシュトンの表情はどこか悲しそうだった。
本当は自分で守ってあげたいんだろう。だけど、きっと彼はそれが出来ないでいるのだ。
理由は聞けない。見ただけで分かる戦闘の痕が、おそらく関係してくるのだろう。
僕のように戦闘する姿を見られたか、もしくは……誰かを殺すところを見られたのかもしれない。
暗いうえに服の色に溶け込んでいてわかりづらいが、アシュトンの体には血痕が付いている。
とはいえ、さっきからアシュトンが僕を襲って来ないことからも分かる通り、アシュトンに自ら仕掛ける気などない。
おそらくはあの冒険の時みたいに襲ってきた者を倒したにすぎないのだろう。
だがそんなことただの目撃者には分からない。分からせようにも逃げられたらどうしようもない。
僕がアーチェやチサトさんの誤解を解けなかったように、アシュトンもまた誤解を解くのに失敗したのだろう。
「だから、チサトさんは僕に任せて、クロードはプリシスの元に向かってほしいんだ。
 クロードが言ったように、十賢者みたいな強い奴らがたくさんいる今、プリシスの護衛は多いに越したことがないからね」
「でも、だからって……」
「頼むよ、クロード…………君にしか出来ないんだ」

38不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:56:18 ID:Sq4t0KR6
君にしかできない。
そう言われて、僕の心は揺らぎ始めた。
確かに、もう12時間近く経っているのだからのんびりしている時間はないし、アシュトンには倒すとまでは行かなくても十賢者から逃げ果せるだけの実力がある。
その怪我の原因かもしれない馴れない両手剣が不安材料ではあるが、ギョロとウルルンのおかげで奇襲には対処できるだろう。
実際僕と違い自力で修羅場も乗り越えてきたように見える。
……あれ? むしろ未だに修羅場を乗り越えたことがない僕の方がおかしいのか?
ま、まあとにかく、確かにアシュトンの言う通り僕は心配しすぎなのかもしれない。
何よりアシュトンの誤解を解けるのは、実際にアシュトンが殺し合いに乗っていないと知ってる僕だけかもしれないんだ。
それぞれ仲間がいなくて誤解までされている身。誤解は広まりつつあるのかもしれないし、被害を少しでも減らすよう一刻も早く誤解を解いて回り仲間を作るか?
それこそ、今やらなければ後悔する事なのかもしれない。被害が大きくなりすぎてどうにもならないことになったら目も当てられない。
ジャックの時のように間抜け面して待っているのではなく、かと言って非効率的にも固まって行動するでもなく、僕は僕にしか出来ないことをやるべきじゃあないのか?
「……プリシスはどこに?」
「今は分からない。けど、僕もクロードも見てないってことは氷川村の方にはいないんだと思う」
「そうか……じゃあ、こうしよう。もうちょっと行けば確か分かれ道があるはずだ」
デイパックから地図を出して確認する。G-05で道が二股に別れていた。
「僕はここを右に行こうと思う。神社を覗いて、それから山を反時計回りに移動しながらプリシスを探す」
「……なるほど。じゃあ僕はホテル跡に寄って、それから平瀬村やらを覗いて反時計回りに移動してくよ」
決まりだ。一旦ここで別れて、それぞれ自分にしか出来ない事に全力を出す。
そして仲間を集めて合流し、プリシスと一緒に首輪を外す方法を考える!
「待ち合わせ場所は、そうだな……釜石村にしよう。どんなに遅くても次の次の放送までには釜石村に来ること」
「オーケイ、分かったよ。9時間後にはプリシスと会えるんだね……頑張らなくちゃ」
いや、僕がプリシスを見つけられるとは限らないんだが。
そう思ったが口には出さない。やる気を出してるならそれを殺ぐことはないだろう。
「ああ、そうだ、これ……使ってないし、アシュトンに渡しておくよ」
そう言って、ジャックの形見のレーザーウェポンを差し出す。
アシュトンの事を誤解したまま死んでしまったジャックは僕を恨むかもしれないが、これからのアシュトンの行動を見ていればきっと許してくれるはずだ。
「使い方はまだよく分かってないんだけど、ジャックが装備してたものだから使えるものだと思うんだ」
「……いいのかい? クロードにだって必要かもしれないじゃないか」
「いいさ。僕には愛用の剣があって、楯もあって、そのうえ敵意のある者を教えてくれるアイテムなんかも持っているんだ。これ以上僕が持ってたら罰が当たっちゃうよ」
そう言って、半ば強引にアシュトンへ押しつける。
これで少しでもアシュトンが生き残る確率が上がればいいな。
「それじゃ、僕は行くよ。後悔しないよう少しでも早く行きたいから」
「あ、うん、分かったよ。クロードの事を誤解してる人がいたら、ちゃんと誤解を解いておいてあげるから安心して。
 ……クロードが殺し合いに乗った、なんて聞いたら、きっとプリシスは泣いちゃうもんね」
「アシュトン……」
寂しそうにアシュトンが笑う。それからすぐにアシュトンは僕に背を向け走り出した。「それじゃ」と、ただそれだけ続けて。
「僕も……僕もちゃあんと誤解を解いて回るから! だから、だから死ぬなよ、アシュトーンッ!」
危険を顧みず大声で叫ぶ。素直な気持ちを伝えたかったから。声が届いたかは分からないけど。
アシュトンの誤解は解いておくから、アシュトンの居場所は作っておくから、無事にもう一度再開したい。
この気持ちに嘘はない。だから僕も走り始める。もう二度と同じ過ちを繰り返さないように。
迷いも吹っ切った。頭は冷静になった。僕にしか往けない道を見つけた。だったら後は走るだけだ。それでいいんだよね、父さん、ジャック――



放送の内容を聞き忘れた事を後悔するのは、それから数十分後の事だった。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

39不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:58:38 ID:Sq4t0KR6
煙を見せつけられたのは、一体これで何度めだろうか。
走り始めてしばらくすると、木々の上に見える夜空に煙が立ち上るのが見えた。
最初に思い出したのはあの日襲われたトーティス村で、次に浮かんだのは焼け落ちた学校。
それからアミィ、名前も知らない女の子の亡骸、そしてアーチェ。
憎悪が腹の底から溢れ出し顔面に現れるのが自分でも分かるようだった。
「あの野郎……ッ!」
あの煙で分かった。奴はあそこにいる。あいつがまた誰かを焼き殺そうとしてやがるんだ。
そしてその場所も大体の見当がついている。
「くそっ、待ってろよ、チサト!」
あの時一緒にクロードと戦った一人と一匹。
あいつらは決して悪い奴なんかじゃなかった。時間があればゆっくり話もしたかった。
いや、過去形なんかじゃない。もう一度あいつらと話して、出来れば一緒にクロードの野郎と戦いたかった。
だけどもうそれは難しい事なのかもしれない。
前回は準備が出来ていなかったからか何もすることなく撤退したが、クロードはご丁寧にアーチェを爆殺するほどの残忍な男。
目撃者は全員消すぐらいのことを平気でしかない男なのだ。
その男が俺達三人を野放しにしてくれるはずがなかったんだ!
「くそっ、くそっ」
もっとだ、もっと速く走るんだ俺!
もう二度とあんな想いはしたくないんだろ! 救える命を救いたいんだろ!
必死の思いで草を掻き分け前へと進む。走りやすい道を探す時間も惜しい。
ただ今は、今度こそ誰かを救えると信じて足を動かすだけだった。

どれだけ時間が経ったのか分からない。ただ恐ろしいまでに長く感じた。
頭の隅で、冷静な自分がこう告げる。「クロードの野郎はもう行っちまってるよ。チサト達は諦めて、息を整えたらクロード探索を始める方がいいんじゃないか」と。
それでも俺は止まらなかった。止まれなかった。
クレスみたいに完璧じゃないけど、時空の戦士の出来損ないもいいとこだけど、それでも何かが出来る筈だって。そう思いたくて、俺は森を駆け抜ける。
するとようやく森を抜け、俺の細い目に爛々と輝く炎が映った。
残念ながら見間違いの類ではない。どこからどう見てもあの時のホテルだ。
「ちく……しょおォ!」
この現実に動揺したのか、はたまた全力疾走したツケか、心臓が破裂するんじゃないかと思う程胸はバクバク言っている。
それでもそんなことを気にする余裕、俺にはなかった。
足に鞭打ちホテルの中に飛び込んで、精一杯声を出す。
「おい、誰か……誰かいないのか……!?」
その時だ。頭にコンと何かが当たった。クロードかと思い慌てて振り向く。
『男の腕には若干きついため火傷した手に優しくない』
そんな理由でエンプレシアを拳から外していたことを一瞬後悔し、石を投げた人物の姿を見てそれが徒労だったと知った。
ホテルからそれなりに離れた木陰から小石を放ったその影は、全く予想していなかった、だが予想出来ないわけじゃなかった人物の者だった。
「よう、数時間ぶりだな。金髪の兄ちゃんには会えたかチェスター?」
ボーマンの口元が笑みを形作る。その歪みが邪悪なものに見えたのは、おそらくは揺らめく炎のせいだろう。
そんな風に見えてしまうとは、どうやら俺は相当疲れているらしい。
「どうだ、俺の自慢の秘仙丹は効いたかい?」
その言葉に、俺の胸がチクリと痛んだ。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

40不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:00:18 ID:Sq4t0KR6
短い眠りから目を覚まし、冷静になった頭で今までの行いを思い出して以来、アシュトン・アンカースは猛烈に後悔していた。
遊び間隔で男の傷口を抉ったことを。
紋章術師と思われる女性をいたぶるように何度も何度も斬りつけたことを。
変った服を着た少女の頭部を踏み潰したことを。
そして、レオンに対して行ったことを。
それら全てを、アシュトンは心の底から悔いていた。
(僕は馬鹿だ。何てことをしたんだ……)
休息を取る間は警戒をギョロとウルルンに任せ、自身は極力神経を摺り減らさないようにするはずだったが、“呑気に他事を考えられる程度の余裕”はアシュトンに冷静さと深い後悔を与えてしまった。
その事に気付いていたがずっと黙っていたギョロが、ようやくその口を開き本人へと尋ねてみた。
「……ふぎゃー(……どうした、アシュトン)
 ふぎゃふぎゃ、ふぎゃっふ(ホテルのある方向には既に火の手が上がっている。疲労が溜まっているなら無理してチサトを殺しに行く必要はない)
 ……ふぎゃっふぎゃぎゃ(……それとも、何か気になることでもあるのか?)」
気になること。それの中身が、今の二匹は気になっている。
アシュトンは今、何を考えている? 一体今のアシュトンはどうしたいんだ?
「ううん、そうじゃないよ…………ただ、今まで僕が殺してきた人達の事を考えちゃってさ」
「…………」
「少し、後悔してる。あの時の僕は馬鹿だった。ギョロ達にも迷惑だったよね、ごめん」
二人に申し訳なさそうに頭を下げ、これからのことを考える。
(ちゃんと反省しなくちゃな……)
情けなく眉を下げ、かつて光の勇者ご一行の台所番として活躍していたころのアシュトンの表情で。
アシュトンは、心の底から反省をする。

(次からは遊ばないでさっさと殺さなくっちゃね)

――致命傷を与えた後で首を撥ねずに暢気に男をいたぶったせいで、紋章術師に反撃の余地を与えてしまった。
――紋章術師を嬲り殺しにすることに時間を裂いたせいで、獲物を一人逃がしてしまった。
――少女の首を意味なく踏み砕く事に時間を使い、残りの人間を殺す時間を失ってしまった。
――レオンに要らない事をペラペラ喋るのに体力を使い、レオンを仕留め損なった。

“それらの事を”アシュトンは猛烈に後悔している。
後悔し、そして悪魔は成長する。
バーサーカーモードが解けて失ってしまった破壊力をカバーするように、頭はだんだん冴えてくる。
プリシスも大男という協力者を使っていた。光の勇者を始めとする歴代の英雄達には、必ずパートナーがいた。
一人で偉業は成せないのだ。むしろ仲間を上手く使ってこそ、ヒーローはカッコよくなれるのだ。エクスペルを救ったクロード・C・ケニーがそうであったように。
そこから殺人鬼は習んだのだ。仲間を作る事は大切である、と。

41不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:02:34 ID:Sq4t0KR6

もっとも、彼がクロードを仲間にしようとしたのはそういった理由からではない。
理由は簡単。クロードに言った通り、今クロードが死ぬとプリシスが悲しむから。
プリシスに好かれたいと思っているという事は、未だにプリシスはクロードの事を想っているのだと認めている事になる。
その事に気付いてしまえば、クロードの死がプリシスに何を齎すのか予想するのは簡単だった。
そして、アシュトンは決めたのだ。クロードだけはまだ殺さないと。
クロードを殺すのは、集めた首輪を見せてプリシスの一番になってからだと。そうすれば、プリシスは泣かないで済む。だって一番はクロードじゃないのだから。
(そうさ、僕は君のためならどんなことだって出来る)
今のアシュトンは、ギョロとウルルンが思った以上に強かった。
確かにレオンを斬りつける時まではプリシスを“殺人の言い訳”にしている節があった。毎回毎回プリシスの事を口に出していたのもそのためだ。
だが今の彼はそうではない。冷静に考えて、“彼は自分が誤っていることを認めた”のだ。
それでもなお、彼はプリシスのために殺し合いに乗ろうと決めた。泥を被ってでもプリシスの望みを叶えたいと思った。
何故なら彼はプリシスの事が好きだから。
だからアシュトンは無理矢理手プリシスを手に入れようとはしなかった。プリシスが笑ってくれなければ、奪い取っても意味がないと思ったから。
プリシス自らが自分を好きになってくれないと意味がないのだ。

――プリシスも、きっとそうなのだろう。

冷静になりプリシスの行動の不可解さに気付いたアシュトンは、ある一つの結論を出した。
それは『プリシスは最後の一人になるつもりなど無い』というもの。
もし仮に最後の一人になるともりでいるのなら、何故裏切るかも知れない大男を傍に置き、自分に惚れていると分かっている男を遠ざけようとするのだろうか。
告白した時の反応からも、特別自分が嫌われているわけじゃないことくらいは分かっていた。
理由は考えたらあっさりと出てきた。僕を殺す気などなかったのだ。そもそも最後の一人になりたいのなら、あそこで追いかけてくるのが自然である。
つまり賢いプリシスは一人だけしか生き残れないと分かって『この戦いに生き残りたい』と考えたのではなく、『一番好きな人を生き残らせたい』と考えたのだ。
自分と同じ事を考え、本当は人を殺したくないけどクロードを生き残らせるために仕方なく人を殺すことにした。
見るからに危なそうな自ら手を下す踏ん切りのつかないプリシスが雇った戦闘狂といったところか。
だとしたらプリシスが殺し合いに乗ったと広めてしまったのはプリシスにとって不本意かもしれない。
だが、それによってプリシスが殺し合いに乗れるのなら、それは喜ばしい事なのだ。踏ん切りをつけさせてあげられるなんて、こんなに嬉しい事はない。
『プリシスに好かれる事』と『プリシスに嫌われるかもしれないがプリシスの役に立てること』なら、迷いなく後者を選ぶ。
それがアシュトン・アンカースという男であり、それが新たな彼の行動方針を支えている。
今は嫌われてもいいからプリシスの役に立ちたいと。あの日プリシスが言ったように、いつか1番になれる日がくるのだから、その時まではどれだけ泥を被ろうが構わないと。
(プリシスは気付いているんだ。クロードに想いは届かないって。だから2番目に好きな僕に失恋の辛さを受け止めてもらおうと、あの時生かしておいたんだね)
軽快か足取りで、アシュトンはホテル跡へと向かっていく。
大切な人の笑顔を、なんとしてでも守り抜くために。

42不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:04:00 ID:Sq4t0KR6






☆  ★  ☆  ★  ☆





迂闊だった。バーニィシューズという強力なカードを手に入れたせいで、楽観的になっていた。
少し考えれば分かることじゃないか。何故この事に思い至らなかったのか。
『秘仙丹を飲み爆死した友人を見て怒りに駆られたチェスターが、俺と出会った場所まで復讐を果たすためにやってくる』
ホテルに戻らなければ簡単に避けれたはずの些細なトラブル。
だが、遭遇してしまった“些細なトラブル”は“何としても崩さねばならない高い壁”へと切り替わる。
奴は情報を握っている。俺が殺し合いに乗ったという情報を。
その情報は、スタンスを偽り殺し合う気のない者の中に潜伏することを不可能にする最悪のカード。
これを使われると話が通じるかどうか怪しい殺し合う気の者のみとしか手を組めなくなる。
ただでさえ少ないカードをこれ以上減らされては堪らない。奴は始末する。今、ここで!
(とは言ったものの、俺はこれ以上近付けないからな……あちらさんから来てもらうとするか)
考えてる内にチェスターの後姿が炎の中へと消えそうになる。これ以上中に入られたらまずい。
ガソリンのせいで近付けない以上、あちらから近づいてもらう必要がある。
放っておいて炎でやられるのを待ってもいいんだが、正面口以外から脱出された場合が厄介だ。
こちらは炎に近付けないせいで遠回りをしながら奴を追いかけるはめになる。
だから俺は足もとから適当にそれなりの大きさの石を拾い上げる。
コントロールには自信がないが、背中を狙えばどこかしらには当たるだろう。万が一外したとしても何かを投げられたことには気付くはずだ。
肉弾戦を主にやってるため遠くまで飛ばすだけの肩の力くらい持っている。
そして大きく振りかぶり、チェスター目掛けて投げつけた。
結果は予想外の大当たり。頭部という名の急所に当たるとは思わなかった。
当然こちらに気付いたチェスター。
思わぬ不意打ちを受けたからか、間抜けにも棒立ちになっている。こういう時に遠距離用の武器があればな……いや、なくてもガソリンさえなければ首枷で仕留めてやったのに。
「よう、数時間ぶりだな。金髪の兄ちゃんには会えたかチェスター?」
とにかく今はこちらに来てもらわない事には始まらない。
そう思い、これみよがしに笑顔を作り皮肉を言う。
金髪の青年の事を聞いた時の反応からして、チェスターは簡単に熱くなるタイプだ。ここまで小馬鹿にされてればキレて飛びかかってくるだろう。
手ぶらであるし、遠距離攻撃をされはしまいと踏み、木の陰から姿を現しとどめの一言を口にする。
「どうだ、俺の自慢の秘仙丹は効いたかい?」

43不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:05:40 ID:Sq4t0KR6
しばしの沈黙。飛びかかってくるかと身構えていた俺には予想外の事だった。
チェスターが顔を上げる。くしゃくしゃになったその顔は、憐れになるほどみっともなかった。
「俺、俺……すまねぇ……あんたが折角くれたってのに、無駄にしちまった……
 アーチェの奴が疲れてるみたいだからあげたら、すでにクロードの奴に何かされてたみたいで、爆発……しちまった……ッ!」
一体何を言っている? クロード、だと? もしかしてこいつは、俺が渡した秘仙丹の正体に気が付いてないのか?
何故クロードの仕業だと思っているのか分からないが、俺に対する敵意は全く感じられない。
それどころかむしろ俺の事を信頼しているようにも見える。
(おいおい、ひょっとしてこれはカミサマの贈り物ってやつか?)
よほど辛い出来事だったのか、チェスターはアーチェという奴の死を口にすることで感情のコントロールが効かなくなったらしく、その場でしゃがみ込んでしまった。
おいおい、泣きながら地面を叩くとか、そういう青臭い事はもう少し安全な場面でやった方がいいんじゃないのか?
「おい、まずはこっちに来い! そのままじゃ焼け死んじまうぞ!」
折角手に入れたカードをみすみす手放すことなど出来やしない。まずはチェスターを安全な場所に移してからゆっくりと同盟を結べばいい。
奴は俺を疑ってはいないようだし、クロードの情報を与えれば喜んで仲間になりそうだ。
「チサトもガルヴァドスも死んだ! 俺だけはガソリンを引っ被りながらもガルヴァドスの技のおかげで助かったが、他の二人は助からなかった!」
最初にチェスターと会った時、あいつはホテルの方から来た。チサトと情報交換をしている可能性はかなり高い。
が、ガルヴァドスの方は見た目が見た目だ。どんな効果のある技を使えるのかまで把握してるほどコミュニケーションはとっていないだろう。
「ガルヴァドスによって脱出させられたなら、どうしてガルヴァドスが死んだと断言できるんだ」と言われたら反論できないのが難点だが、その時は単身チェスターに確認に行ってもらうだけだ。
チェスターという手駒を失うのは痛いが、そうなっても俺自身には被害は出ない。
もっとも、精神的に参っているらしいチェスターは「そうか……」とだけ呟いてとぼとぼと歩いて来たのでそんな考えは全くの徒労だったわけだが。
ていうか分かったならサクサク動いて貰いたいものだ。チンタラしてたら焼け死んでしまうぞ。
……こんな状態じゃあガルヴァドスのデイパックは諦めた方が良さそうだな。
まぁそれでもいいさ。大して労せず仲間を得ることが出来たんだ。お釣りは十分くる。
まずは話を聞いてやり、それに合わせて二人の死をクロードのせいにする。それからクロードを倒すためという名目の元で協力させる。
……悪く思うなよ、クロード。どうせお前は乗っちまってるんだ。恨むなら自分が乗ったことを知る人間を生かした己の甘さを恨んでくれ。

44不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:15:46 ID:Sq4t0KR6





☆  ★  ☆  ★  ☆





(いたぶって遊ぶようなマネは論外だよなあ、百害あって一利なしって感じだし)
ホテル跡を目指しながら、僕は今後の戦い方を考える。
これまでのように自分が楽しむかのような戦い方をするわけにはいかない。あれは隙も大きくなるし無駄な体力を使ってしまう。
自分の命は、プリシスのために使わなくてはならないのだ。
自分の体力は、プリシスの夢を叶えるためだけに使わなくてはならないのだ。
弱者をいたぶる際の細やかな満足感のために時間とMPを使うなど、あってはならないことである。
(……それに、惨殺してやりたいほどの恨みがあるわけじゃないしね)
感情の高ぶりに身を任せて必要以上にいたぶった事には罪悪感を感じている。
そもそも、こんなことにならなければ恨みもない人間を自ら襲うなんてしない。人を斬ること自体別にそんなに好きじゃないのだ。
だからその点においても反省はしているし、悪かったなとも素直に思う。
素直に思うが、殺さなければよかったとは露ほども思わない。だって彼女達を殺したのは大切な人の笑顔を守るためなのだから。
(次からは首なり心臓なりを狙って楽に殺してあげなくっちゃ。そうすれば相手も苦しまないで済むし、僕も迅速に次の行動に移れる。うん、一石三鳥だ!)
だから僕は決意する。もう二度と遊んだりなんかしないと。無駄な事は絶対にしないと。
そうでもしなくちゃ、プリシスの笑顔は守れないから。
「……そうだ。次の放送でどの道立ち止まらなきゃいけないし、その時にでも遺書を書こう!」
「ふぎゃ!?(遺書!?)」
「ふぎゃっふー!(何を考えているんだアシュトン!)」
あ、2人とも怒ってる。もしかして遺書を書いてすぐに死ぬとでも思っているのだろうか。
プリシスを置いてさっさと死ぬわけなんてないのに……ずっと一緒にいるんだから、そんなことぐらい言わなくっても分かってほしいな。
「考えたんだ、僕が殺しちゃった人達にお詫びをする方法を。
 それでね、思い付いたんだけど、彼らにも家族や友達がいると思うんだ。
 だから、あの旅で稼いだ僕のお金を、全額僕が殺しちゃった人達の大切な人が受け取れるように遺言を書いとこうかなと思って」
勿論、そんなことで罪が消えるわけではないけれど、やらないよりはいいだろうと思った。
殺したくないけど殺さなくっちゃいけないのなら、せめてこれくらいはしなくっちゃね!
「ふぎゃー……(アシュトン、お前……)」
「ふぎゃ、ふぎゃふ!(待て、誰かいる、それも二人だ!)」
何だ、生きてたのか。それが正直な感想だった。煙が立ち込めてたし、てっきりもうチサトさんは死んでるものだと思ってたけど。
まあでも、生きてたなら生きてたで利用法はある。さっきまでと違って、今の僕なら何でも上手く利用できる気がしている。愛の力は偉大ってことかな?
とにかくチサトさんは生かしておこう。そしてクロードの誤解を解いて釜石村まで連れていくんだ。
そうすればきっとプリシスは喜んでくれる。プリシスの幸せが僕の幸せなように、クロードの幸せはきっとプリシスの幸せなんだ。
だからクロードの誤解を解いたことが分かれば喜ぶはずだし、目の前で首輪を取れば自分が殺したわけでもない死体から回収するなんてズルをしてないって証明にもなる。
チサトさんは道中で首輪集めるのに利用して釜石村でプリシスの目の前で死んでもらうとしよう。
勿論、痛くないように配慮して殺してあげる。それが誰にとっても幸せな選択肢だ。
(……それに、プリシスが変な誤解をして傷ついちゃったら嫌だしね)
クロードはいい奴だ。ずっと旅してきたからよく分かる。彼は自分のために殺し合いに参加するような奴ではない。プリシスもそれは分かっているだろう。
だからもしクロードが殺し合いに乗る場合、それはやはり自分ではなく“他の誰か”のためなんだ。そしてその“誰か”は、まず間違いなくプリシスじゃない。
だからプリシスがその事を考えないよう、クロードが殺し合いに乗ってるなんて誤解は片っ端から解かねばならない。
そして、万が一耳に入ってた時の事を考えて誤解だったと証明してあげなくてはならない。
まったく、罪作りな男だね、クロードは。

45不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:17:18 ID:Sq4t0KR6
「あれ……? ボーマンさん?」
敵意はない。そう示そうと敢えて堂々姿を見せたはいいものの、そこにいたのは見慣れぬ男とボーマンさんの二人だった。
化け物とやらの姿は勿論、チサトさんの姿もない。
「アシュトンか……」
どこか警戒したような雰囲気を出すボーマンさん。まあこの島では妥当な反応だろう。
隣にいる男はどこか呆けたようにこちらを見ている。その男の髪色は、クロードが言っていたチサトさんと共にクロードを襲った奴のそれだった。
(確かこの青い髪の男は殺し合いに乗ってない確率が高いんだったっけ……っていうことはボーマンさんも殺し合う気はないのかな?)
冷静に分析しながら二人を見る。
ボーマンさんはこちらの出方を窺うように、青髪の男は何かを考え込むようにしながら僕の方を見つめていた。
「アシュトン……お前はこのゲームに乗ってるのか?」
当然のように尋ねられる質問の答えを用意してなかった事に今更ながら気付いてしまう。
まいった、どうしよう。不誠実だろうがここは嘘をついて「乗っていない」と答えた方が得策だろうか。
悩んでいると、青髪の男が急にその目を見開いた。
「ドラゴンを……背負った男……ッ!」
男の顔が見る見る内に怒りに染まる。おかしいな、君とは初対面のはずなんだけど。僕、君に何かやったっけ?
考える間もなく、青髪の男が掴みかかって来た。勿論ぼけっと突っ立ってやられてあげるつもりはない。
バックステップで男と距離を取り、迎撃態勢に入る。
本当ならここで放ったドラゴンブレスが当たるものだと思っていたけど、ブレスを出すのが若干いつもより遅かったせいで当たらなかった。
もしかしたら二匹とも、僕にずっと付き合わせてたせいで体調不良なのかもしれない。
「いきなりどうしたんだチェスター!」
チェスターと呼ばれた青髪の男を押さえつけ、結果的に数秒遅れのドラゴンブレスからチェスターの命を救うことになったボーマンさんがチェスターに問う。
そこでチェスターから飛び出したのは、思いがけない言葉だった。
「そいつだ! アーチェを、アーチェを襲いやがった野郎は! 龍を背中に生やした男なんだッ!」
……やれやれ。反省した途端、調子に乗って時のツケがきた。僕って本当についてないなあ。
まあ、今回は高い授業料だと思っておこう。実際アーチェとかいう女を逃がしたのは僕の責任でもあるんだから。
だからとりあえずチェスターとやらを説得して、それが無駄なら……さっき決めたように、素早く手際よく殺しちゃおう。





☆  ★  ☆  ★  ☆

46不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:20:28 ID:Sq4t0KR6





こんなにも幸運が続いていいのだろうか?
チェスターは俺が思う以上にいい情報を持っていた。
(おいおい、あのアシュトンが乗ってたってマジかよ……)
アシュトンはてっきり殺し合い反対派だと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。
チェスターが叫んでいる言葉を鵜呑みにするなら、アシュトンはアーチェとやらの仲間を二人も惨殺したらしい。
見たところ使い慣れてなさそうな両手剣で二人もの人間を殺したのなら上出来じゃないか。正直、ここで手放すには惜しい存在だ。
アシュトンには少しでも多く殺してもらわなくちゃいけない。
すでにこれだけの傷だ、俺と戦う事になる前にはくたばってくれるだろう。万が一死ななくても重症のアシュトンになら勝てるはずだ。
「待て、チェスター、落ち着くんだ! お前は実際にアシュトンが殺すところを見たわけじゃあないんだろ?」
「くっ……確かにそうだけどよ、アイツは言ってたんだ、二匹の龍を背負った男に襲われたって!」
先程から叫んでいる内容は、アーチェという少女から聞いたものに過ぎないようだ。それも、外見的特徴しか聞いていないらしい。
「あのなぁチェスター。お前さんの常識ではどうか知らんが、背中に龍を背負った奴なんて山一つ越えりゃたくさんいるぞ」
呆れたような声を出す。少しわざとらしすぎた気もするが、チェスターはその事に違和感を覚えることなく「どういう意味だよ」と返してきた。
「お前の住んでる地域ではどうなのか知らんが、俺の住んでる国には龍を背負ったタルルートっていう種族がいるんだよ」
勿論嘘だ。そんな部族はいやしない。種族の名前なんざアシュトンが樽好きだったことを思い出して咄嗟に付けた適当極まりない名前だ。
だが、チェスターにはそんなこと分かりっこない。言っちゃ悪いが頭の方は良くなさそうだし、世界中の民族を暗記しているなんてことまず無いだろう。
「……くそっ、悪かったよ!」
バツが悪そうにチェスターが言う。どうやら疑いながらも納得してくれたようだ(もっとも、納得がいかなくてもこう言うしかないだろうが)
「……ボーマンさん?」
不思議そうにアシュトンが呟きを漏らす。まあそれも仕方がないだろう。嘘をついてまで殺し合いに乗ってると言われた人物を庇う理由など普通はないのだ。
「ま、これから俺達は仲間になるんだ。仲良くやろうじゃないか」
その疑問を解決するため、チェスターの肩に手を置いてからアシュトンの方へと歩み寄る。
そして耳元で囁いてやった。「事情は分からないが、信じているからな」と。
これでいい。これでアシュトンは俺の事を“限りなく怪しくてもかつての仲間をどんな信じようとする馬鹿”と見てくれるはずだ。
それでいい。アシュトンには『利用しやすい奴』と思い込ませておく。
「いつでも始末出来て、今はまだ使えている」と思われてるうちはアシュトンに襲われる事もないだろう。

47不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:24:07 ID:Sq4t0KR6
アシュトンへの耳打ちを終えると、わざとらしく肩を組みチェスターの所まで連れて行く。
「今さっきの事は互いに忘れろ。もう俺達はチームだ。強敵であるクロードを倒すための、な」
「……ああ、そうだな。悔しいが、俺一人じゃアイツを倒せそうにねえ。力を貸してくれ」
弱弱しく頭を下げるチェスター。その無様な姿がとても憐れで、クロード討伐ぐらいは本当に付き合ってやろうとさえ思えてきた。
「ああ、勿論だ」
当然こう返事をしておく。ようやく強者ともそれなりに渡り合えるカードを手中に収めたのだ、自らカードの機嫌を損ねる事はない。
「……そう、だね」
アシュトンの返事が歯切れ悪い。相手がクロードということもあって気圧されたか?
もしくはチサトを殺すまでの俺みたいにかつての仲間を殺めることには抵抗があるのか……
まぁどちらだろうが関係ない。戦闘で壁としてきっちり働いてもらえばいいのだ。
「ああ、そうだ、誰か弓支給されてないか?」
思い出したようにチェスターが呟く。が、生憎二人とも首を横に振るだけだった。
「……なあ、チェスター、言わなくちゃいけないことがある」
「ん?」
「俺達は弱い。仲間を守ってやれる余裕なんかないほどに。だから今こうしてチームを組んでクロードに挑もうとしている」
チェスターにハッキリ言わなくてはいけないこと。それはチームを組む最大のデメリットである支給品の再分配について。
チーム全体の利益が最大になるよう分配すると、アシュトンにバーニィシューズを譲渡するはめになる。下手したらフェイトアーマーもだ。
折角得たバーニィシューズを手放す程俺は馬鹿じゃあない。
「俺達は戦闘の時自分の身を自分で守らなくちゃならない。なら支給品をどうするかは各自の自由だ。自分の身を守るのに必要だと思う者は無理に譲らなくてもいい」
「で、でもよ、折角仲間になったんだから……」
「ああ、だからまずは要らないと思った物だけを互いに挙げよう。そして合意が取れればそれらを交換すればいい」
あくまで等価交換。その言葉にチェスターは不満そうだが気に留めず話を進める。
「で、俺はパラライズチェックと七色の飴玉とかいうアイテムを要らないと思ってる。チェスターは何かないのか、交換に出してもいいアイテムは」
効果が期待できないパラライズチェックとどんな成分なのか一切不明な怪しい飴玉。
後者はともかく、うまくいけば前者の方は何かしらと交換できるかもしれない。
「……俺は弓も持ってないし、何でも交換していい」
そう言ってチェスターはデイパックからアイテムを出す。
地べたに置かれたアイテムは、スーパーボールに、それから……
「エンプレシアか」
エンプレシア。レナが使っていたナックルだ。
サイズが若干きついかもしれないが、ナックルは俺の待ち望んでいた武器だ。これを逃す手はない。
「チェスター、悪いがこいつをパラライズチェックと交換しないか? 何なら飴玉も全部やる」
気分が明るくなる薬物でも仕込まれているであろう飴玉は砕けば調合に使えたかもしれないが、エンプレシアと交換なら惜しくない。
何としてもここは武器を手に入れなくては……
「ん、ああ……あんたに任せるよ」
「おいおい……いいのか、そんな適当で」
言いながらもしっかりエンプレシアを試着する。
うーん、やはり少しばかりきついな。あまり長い間装備していると拳を痛めそうだ。
「ああ、ここ来るまでの旅じゃ仲間に要らないアイテムを譲るのは当たり前だったからよ……
 まあ、今思えばそういう風潮もクレスがリーダーをやってたからかもしれねえけど、俺はそういう方が気楽だから」
どうやらチェスターはかつての冒険の時と同じように在りたいらしい。甘い考えだ。
言えばスーパーボールもくれそうだが、そうしてしまったらチェスターが戦力外になるのでやめておく。
この場でチェスターを殺してアシュトンとだけ組んでもいいが、アシュトンが俺を殺そうとしてきた場合サシだと少々分が悪い。
チェスターには最小限の武装だけを与えておくのが得策だろう。
「ああ、そうだ。この飴玉は今舐めておけ。気分が明るくなるそうだ。仲間が死んで辛いのは分かるが、塞ぎ込んでちゃやれるものもやれなくなる」
足を引っ張らないように、というのもあるが、それ以上にこの怪しいアイテムの実験台にするためにチェスターに七色の飴玉を勧める。
チェスターは特に警戒をすることもなく言われるがままに飴玉を舐めはじめた。即効性はなさそうだが……まあ様子見だろう。

48不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:24:53 ID:Sq4t0KR6
「アシュトンは何かないのか、要らない物」
「……ないですよ。それに僕は今の武器でも何とかやれますから」
やれやれ、殺し合いに乗ってるだけあって上辺の付き合いもする気はないってか。
ま、確かに上辺だけでも仲良くしちまうと殺すのがつらくなるからな……だが俺はもう躊躇わない。家族の元に帰るためなら何だってやってやるさ。
「それより早く移動しよう。平瀬村には人もいそうだし、放送までには探索を終えちゃいたい」
アシュトンの提案に反対する理由は特にない。実際拠点にもってこいな村には獲物が少なからずいるだろう。
貧弱な武装で釜石村に向かおうとした時と違い、今の俺には仲間も武器もある。よほどの強敵と当たらない限り死ぬことはないだろう。
チェスターが殺し合いに乗り気じゃないっぽいのが難点だが……思考能力は低下しているようだし、うまく言いくるめられるかもしれない。
「あ……悪い。俺、平瀬村には行きたくねえんだ」
が、平瀬村行きは予想外にもチェスターの反対にあってしまう。アシュトンが露骨に不満を顔に出した。こんな状況でも分かりやすい奴だ。
「その、仲間が二人ほどいるんだけどよ、なんっつーかさ、あの二人は俺なんかより全然凄いっていうか、見てるものが違うっていうか……
 脱出のため何を優先すべきかが分かってるって言えばいいのかな。
 とにかく、今の俺じゃあ奴らの力になれそうにないんだ。それどころか足を引っ張るかもしれない。だから合流したくねえ。
 それに、俺はクロードの野郎を倒したいんだ。二人は平瀬村を拠点にするみたいだから、一緒にいたらそれもできねえ。
 ……だから、悪い。俺の我儘だけど、出来れば俺に付き合ってくれ」
再び頭を下げるチェスター。正直長々と喋られてもその気持ちはよく分からない。
だが反殺し合いの人間で、頭脳的で、なおかつ強大な力を持っているのだとしたら、そんな奴とは関わらない方がいいに決まっている。
自分が何人も殺した事に感づかれる恐れがあるうえに、最後の一人になるために“抜ける”ことが出来なさそうだからな。
かと言って十賢者すら蘇らせるような奴を倒せるとも思えないし、そもそも自分を倒せるような奴を参加させるほどルシファーとやらも馬鹿じゃあるまい。
そんな連中と組むにはリスクばかりが高すぎる。アシュトンは不満なようだが、平瀬村は避けた方が賢明だろう。
「おいおい、そんな顔するなよアシュトン。仲間が頭まで下げたんだ、付き合うしかないだろ」
「……分かりました。じゃあ、とりあえずは菅原神社ならどう?」
殺し合いに乗っているとはいえアシュトンはアシュトンか……
あのアシュトンが殺し合いに乗ったって言うから、てっきり「従わなければ殺す」ぐらいに理性がぶっ壊れたのかと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
どちらの方が利用しやすいのかは分からないから素直に喜んでいいものか微妙だが。
「ああ、悪いな……俺はそれでOKだ」
「俺も異論はない」
さて、チーム全体の方針は決まったな。あとはチェスターをうまく騙して人数を減らしていくだけだな。
……待ってろよ、ニーネ、エリス。絶対に家に帰るからな。





☆  ★  ☆  ★  ☆

49不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:32:30 ID:Sq4t0KR6
(やれやれ、困ったな)
ホテル跡を離れ数十分。アシュトンは一人考えていた。
ボーマンにより二人と組む事になったのは構わない(むしろ有難い)のだが、如何せん彼らはクロードを敵対視している。
クロードの性格上、自分が生きて帰るために殺し合いに乗ることはまずないだろう。
だから「クロードが殺し合いに乗った」と聞いた者は誰しもが「クロードはレナのために殺し合いに乗った」と考える。
おそらくプリシスの耳に入った場合、プリシスだってそう思うだろう。そしてその心はきっとどうしようもないぐらい傷つくのだ。
その事がアシュトンには許せないのだ。その後自分の物になりやすいとしても、プリシスが傷づかないに越したことはない。
そのためにも、プリシスの一番になれるまではクロードがゲームに乗ったと耳に入れさせてはいけないのだ。
唯一の救いはプリシスとの合流まで時間があることだが、それまでに誤解を解けるかどうか……
(だけど……悪いことだけじゃなかったし、うまくやれば今まで以上にプリシスの役に立てるかもしれない)
殺し合いに乗ったからと言って気が強くなるわけでもなければ発言力が強くなるわけでもない。
アシュトンがチームの行動方針を無理矢理決めることはほぼ不可能だ。だが……
(ボーマンさんは僕達に嘘をついている)
考えていることを予測出来れば、個人単位でならそれとなく誘導できるかもしれない。
情報を武器と扱うなら、アシュトンの手には今『クロードの正体』いう最強の武器がある事になる。
先程チサト達がどうなったかを聞いた際にボーマンから引き出せた「二人はクロードに殺された」の言葉――これが嘘だというのはその時クロードと居た自分自身が一番良く分かっている。
こんな嘘をつく理由なんて猿にだって分かる。自分がチサトとガルヴァドスを殺したのだ。
それはつまり、クロードの無実を晴らすと同時にボーマンを敵に回すことを示している。
だが今のアシュトンにとって同盟を結びプリシスの笑顔のため利用できる参加者は貴重である。
クロードの無実をどのタイミングで晴らすべきか。そのことだけをアシュトンは考える。
早く解かねばならないが、極力長い事ボーマンを利用したい。さて、最良のタイミングは一体いつだろうか?
(やれやれ、なかなか一人っきりにはなれそうもないし、これじゃあギョロとウルルンに意見を聞くこともできないや)

50不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:34:35 ID:Sq4t0KR6
そう、アシュトンは今ギョロとウルルンとコミュニケーションを取ることが出来ない。
二匹の声はボーマンたちには理解できないが、アシュトンの声は普通に聞こえてしまうのだ。
だから、彼らは一つになれない。二匹にとって目の前にいるのは、今までのように“言葉にしなくても考えの理解できるアシュトン”ではないのだから。
『首輪を狩る』
それが、彼らを繋ぐ共通の目的。
『プリシス・F・ノイマン』
それが、彼らに不協和音をもたらす存在。
(ふふ、でも頑張るよプリシス……君が笑顔でいてくれるなら、僕は何だって我慢できる……
 僕が“一番”になれるまでプリシスの笑顔を守れる人がクロードしかいないって言うのなら、僕はよろこんでクロードを君に会わせるよ。
 僕の“一番”は君なんだから。君の幸せは全部僕が叶えてあげるよ)
――プリシスのためなら死ぬことさえ辞さないアシュトン・アンカースは、およそ9時間後に訪れるであろう再会を糧に歩を進める。

(どうする……? アシュトンには悪いが、人間のために命を無駄に捨てる気はない。
 ……何を考えているのか分からない以上、プリシスに会うのは得策じゃないだろう。下手なフォローは裏目に出かねない。ウルルンもそこは分かっているだろう。
 赤髪の女を殺した後のように、なんとかしてプリシスに会わせないようにしなくてはな…… さっさと死んでくれるといいのだが……)
――死ぬつもりなど毛頭ないギョロは、プリシスが死ぬまでどのようにアシュトンを引き離しておくかを考える。
何かしら理由を考えてアシュトンを釜石村から遠ざけなければならない。アシュトンがプリシスのために自殺するのを避けるために。
そして同時にプリシスを失った際にどうフォローするかも考える。アシュトンがプリシスの後を追わないように。その後、プリシス蘇生のために優勝を目指すバーサーカーになるよう誘導する言葉を。

(クロードか……不味い事になったな。最後の数人での乱戦に縺れ込ませてその隙にプリシスを消すつもりだったが……
 仮に本当にプリシスが殺し合いに乗っていたとしても、アシュトンと同じように『愛しい人を生き残らせる』ことを考えてる場合、その場にはプリシスだけでなくクロードもいることになる……
 12時間経つというのに、奴は大きな傷を負っているように見えなかった……
 消耗させた方がいいかもしれないが、奴は殺し合いを止める気でいる……仲間を集め立ちはだかれては分が悪い……
 アシュトンが何を考えているのかは分からないが、クロードとプリシスは殺させてもらう、釜石村でッ)
――死ぬつもりなど毛頭ないウルルンは、アシュトンの生存の枷になる二人を如何にして殺すかを考える。
次で釜石村で会った時に、アシュトンに咎められぬよう出来るだけ事故を装うような形で殺す方法を。
そしてプリシスの蘇生を仄めかし、自分自身の生存を第一目標にさせる方法を。

彼らは、プリシスを中心にバラバラになりつつあった。

51不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:39:57 ID:Sq4t0KR6





☆  ★  ☆  ★  ☆





したくもない殺し合いを命じられた。別に誰が悪いわけでもないさ。
そう、バラバラの道を行く彼らだけど、根本にあることは何も変わっちゃいないんだ。
一人の勇者は同じ失敗を犯さないように何が何でも一人の大切な仲間を信じると決めて、
一人の剣士は二度と大切な人を失わないように折れかけの心に鞭を打ち、
一人の女性は大切な人を一人でも多く救うために感情を殺そうとし、
一人の夫は大切な家族を泣かせないために最善の選択を取り、
一人の青年はせめてこれ以上大切な者を殺されないように憎悪と殺意を原動力にし、
そして一人の男と二匹の龍は大切な者の笑顔と生存のために尽力しようとしている。
ただそれだけなのだ。誰もが皆、大切な人のために行動しているだけなのだ。
この中に誰か明確な悪人がいるわけじゃあない。これは倒すべき絶対悪がいる物語ではない。
ほんのちょっぴり個々の想いが強すぎて、不協和音を奏でてしまう。
要するに、これはそれだけの話なのだ。本当にただ、それだけの話。





【E-04/真夜中】
【アシュトン・アンカース】[MP残量:100%(最大130%)]
[状態:疲労小、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕にかすり傷(応急処置済み)、右腕打撲]
[装備:アヴクール@RS、ルナタブレット、マジックミスト]
[道具:無稼働銃、レーザーウェポン(形状:初期状態)、???←もともとネルの支給品一つ、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:第4回放送頃に釜石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考2:チェスター・ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考3:菅原神社に向かう]
[思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[備考1:ギョロとウルルンは基本的にアシュトンの意向を尊重しますが、プリシスのためにアシュトンが最終的に死ぬことだけは避けたいと思っています]
[備考2:ギョロとウルルンはアシュトンが何を考えてるのか分からなくなるつつあります。そのためアシュトンとの連携がうまくいかない可能性があります]
[現在位置:ホテル跡周辺。西]

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的、精神的疲労(重度)、クロードに対する憎悪、無力感からくるクレスに対する劣等感]
[装備:パラライチェック@SO2の紛い物(効果のほどは不明)、七色の飴玉(舐めてます)]
[道具:スーパーボール@SO2、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する]
[思考2:アシュトン・ボーマンと協力して弱い者や仲間を集める]
[思考3:今の自分では精神的にも能力的にもただの足手まといなので、クレス達とは出来れば合流したくない]
[思考4:菅原神社に向かう]
[備考:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[現在位置:ホテル跡周辺。西]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:40%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れ(気化するまで火気厳禁)]
[装備:フェイトアーマー@RS、バーニィシューズ]
[道具:エンプレシア@SO2、調合セット一式、七色の飴玉×2@VP、荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:秘仙丹のストックが1個あります]
[備考3:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[現在位置:ホテル跡周辺。西]

52不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:42:02 ID:Sq4t0KR6
【F-02/夜中】
【クレス・アルベイン】[MP残量:30%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、何も出来ていない自分に対する苛立ちと失望(軽度)]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:平瀬村を捜索し、武器(出来れば剣がいい)や仲間を集める]
[思考2:拠点になりそうな建物を探してそこで脱出に向けての話し合いをする]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つ]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:平瀬村を捜索し、武器(出来れば剣がいい)や仲間を集める]
[思考2:拠点になりそうな建物を探してそこで脱出に向けての話し合いをする]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:移動しても問題なさそうな装備もしくは仲間が得られた場合は平瀬村から出て仲間を探しに行くつもり]
[現在位置:平瀬村内北東部]



【G-05/夜中】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:85%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、武器を振り回すには難あり)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード]
[道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:神塚山を反時計回りに移動するルートで仲間を集め、第4回放送までに釜石村に行きアシュトンとアシュトンの見つけた仲間達に合流する]
[思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考3:アーチェを追って誤解を解きたかったが何処へ逃げたか分からないうえ行動に疑問を感じているので、今はただ会える事を祈るのみ。会えたら誤解をちゃんと解こう]
[思考4:第一回放送の禁止エリアの把握]
[思考5:リドリーを探してみる]
[現在位置:G-05、G-05とG-06の境界付近]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:第一回放送の内容の内、死亡者とG-03が禁止エリアという事は把握]

53不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:47:46 ID:Sq4t0KR6
投下終了。こんだけ長々やっておいてただの繋ぎですみません。
アシュトンのチート的強さと発狂っぷりはSO2の仲間が死んだ時の顔真っ赤な状態みたいなものだと解釈し、休息を挟んだら元に戻るんじゃないかなと思ってこうしましたがOKですかね?
一人で進めまくってよかったのかな……

「同じような解説を延々しててクドイ」等の苦情も歓迎。
どうすればすっきりした文が書けるのやら……

それと>>51のラストに
※三人がどこまで情報を共有しているのかは次の書き手さんにお任せします
の一文を追加しておいてください

54名無しのスフィア社社員:2008/05/03(土) 20:36:53 ID:tUraOXqw
まだ規制されてるのでこっちで

超長編乙!
そして志村、鎌石村鎌石村ーッ!

55 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 21:23:14 ID:aYGzKxeg
('A`)

wiki収録の際は釜石から鎌石に直しておきます……

56名無しのスフィア社社員:2008/06/12(木) 23:30:20 ID:lj43Rd/E
おまいら誰も更新しないからとりあえず二話分だけ更新してくるよ
現在状況とかやってくれる人がいるとありがたい

・・と思いきや無人君死亡話が長すぎて入らなかったorz
どこできればいいですかね?

57名無しのスフィア社社員:2008/06/22(日) 00:25:43 ID:TZJV6III
最近2ちゃんが重いし、書き込めないって人のために専ブラを紹介しとく
もうすぐ100話なんだし盛り上がっていこうぜ!

PC→JaneStyle
    ttp://janestyle.s11.xrea.com/

携帯→i2ch(家ゲーRPGの板入ってから『ロワ』で検索かければ表示される)
     ttp://i2ch.net/

58名無しのスフィア社社員:2008/06/24(火) 02:01:37 ID:xX1/QkIg
さるさんウゼエエエエエエエエエエエ

というわけで続きはこちらに
どなたか代理投下お願いします

59久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:02:16 ID:xX1/QkIg
「見えてきたな」
前方に見えてきた平瀬村を見ながら、エルネストがポツリと呟く。
その言葉からは緊張感を感じ取ることが出来た。
無理もない。嫌という程の実力を見せてきた男と、これから戦おうというのだから。
彼らは警戒を解かずに村に入り、そして自転車のベルを鳴らす。
フェイト達がそうであったように殺し合いに乗らない人間を集めるという目的もあるが、一番の目的はミカエルを誘き寄せるためである。
幸い三人もいるため、奇襲はまず防げるはずだ。
それならば、向こうに待ち伏せされる事を防ぐ意味も込めて自ら誘き出す方が得策である。
そう考え、ベルを鳴らしていたのだが――

「危ないッ!」
自転車から飛び降り、ロキを地面へと押し倒すフェイト。
彼らの首を揃って跳ね跳ばせたであろう軌道を、一陣の剣圧が通り過ぎる。
剣圧。ミカエルには使えぬはずの必殺技。
フェイトとロキが顔を上げると、案の定そこにいたのはミカエルではなかった。
そのことは、ミカエルを知らぬロキにでさえ理解できる。
何故なら、刀を構えて立っていたのは己も知ってる者なのだから。
「ジュン……だったな? 何だい、君は殺し合いに乗っているのかい?」
隙を見せず、ロキが洵に問いかける。
フェイトはロキを庇うように立ち、エルネストもまた自転車の向こう側からいつでもザイルで援護できる体勢を取っていた。
しばしの沈黙。洵にはまだ言葉を発するつもりがない。
「い、一体何を!?」
睨みあいに割り込んできたのは、驚きふためく少女の声。
彼女は洵がロキに不意打ちした事に驚いている。今洵に殺されては困るのだ。
それでは集めてから一網打尽にするという自分の計画が狂ってしまう。
しかしその本音を決して表には出さないで、少女ことミランダは洵を宥めようとする。
洵はミランダのそんな行動を待っていた。
ミランダが何故自ら仕掛けたのかを聞きに来て初めて作戦は成功するのだ。
ロキに仕掛けた段階で逃げられるという可能性が僅かにあったが、その危険は回避した。
漏れそうな笑みを堪え、あくまで真面目な表情を作りながら声を荒げる。
「黙れ。いいかミランダ、その男は殺し合いに乗っている」
「……ふうん、随分面白い言いがかりをつけてくれるじゃないか」
洵の言葉を聞き、ロキはクスクスと笑みを漏らす。
彼の考えでは、洵がそう言っている理由として考えられるのは2つだけ。
『殺し合いに乗っていて自分達を同士討ちさせたい』か、『ビヴィグの殺害現場を見られていたか』だ。
距離的に考えて後者は無いなと考えたロキは、洵が可笑しくてならなかった。
今から自分は目の前の馬鹿を論破する。追い詰められる洵の姿を想像すると、悪戯心に火が付くように思えた。
「言いがかりだと言うのならば答えてもらおう。ルシオを殺害し、ドラゴンオーブを使い神界の征服まで企んだような貴様が殺し合いに反対する理由が何処にある」
だが――その炎は、あっと言うまで掻き消された。その表情からも笑みが消え、この島にきて初めてロキの心に焦りが生まれる。
(なッ……!? そうか、クソ、迂闊だった……ルシファーが時間を操るってことは、何も参加者は“過去”だけとは限らないじというのに……ッ!)
『自分自身が誰かにとっての“過去の人”である』という事を考えていなかった己を呪い、ロキは洵への対応を考える。
無論洵は抹殺する。洵の側にいるあの女もだ。自分に疑念を抱いたのならエルネストも抹殺しよう。必要なのはフェイトだけだ。
一番の問題はこの場を切り抜けた後だ。最悪レナスやブラムスも自分の企みを知っている可能性がある。
そうなった場合、同盟を結べるものは皆無となるだろう。
(どうする……? この失態、どう取り返す!?)

他事を考えながらも隙がないロキ。彼の姿を横目で見ながら、フェイトは彼について考えている。
正直に言うならば、あまりロキにいい印象はない。
クラースに対する態度はお世辞にもいいものとは言えなかったし、所持していた支給品も本人と返り討ちにした者の二人分にしては多すぎるように思えた。
折角得た新たな仲間を失いたくないため黙っていたが、それは失敗だったかもしれない。
残り人数も少ないことで焦っていた可能性もある。とにかく、ロキを手放しに信頼したことは反省すべきなのかもしれない。
(もう一度、冷静に考える必要があるんじゃないのか? 本当にロキを信じていいのか……もしかしたら、目の前の二人を信じるべきなんじゃないのか……)、
フェイトは考える。心ここにあらずのままで、人形のように刀を構えて佇みながら。

60久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:07:30 ID:xX1/QkIg
『洵……聞こえるか』
再び懐から聞こえてきた声に、洵は僅かな苛立ちを覚える。
こちらの都合を少しは考え、通信を自重しようとは思わないのだろうか?
『悪いけど、もう限界だ……二人の内一人が殺された。もう一人も取り押さえられている。お前が何と言おうと助けにいく!』
自ら危険に首を突っ込むその姿勢に些かうんざりしながらも、折角のルシオからの通信は利用せねばと思い至った。
ミランダに目配せし、「取ってくれ」とだけ伝える。さすがに何の事か分かるらしく、洵の懐からコミュニケーターを取り出した。
「……気持ちは分かるが、こちらに来てもらいたいな。こちらも今戦闘中でな」
『なっ……本当か!?』
コミュニケーターから聞こえる声。その声に、ロキは聞き覚えがあった。
殺さなければならないと考えていた、かつて自分が使い捨てたエインフェリア。
「ああ、話してやれ。お前を騙し、ヴァルキリーを殺そうとした邪神とな」
にやりと笑い、洵はコミュニケーターを放り投げる。
俯いたままのロキに代わり、フェイトがそれをキャッチした。
コミュニケーターからは、未だにルシオの声が聞こえ続ける。
『ロキ……お前まさか、ロキなのか!?』
コミュニケーターの向こうから聞こえる声。その声が演技とは、フェイトにはとても思えなかった。
フェイトの手のコミュニケーターを、ロキのストライクアクスが乱暴に弾き飛ばす。
元はと言えばコインで決めたスタンスだが、それでも予定を狂わされるのは腹が立った。
『鬱陶しい、殺してやる』
後先なんて考えない。自分の力を過信しているわけではない。
ロキの頭は、至極冷静に「こいつらを全員殺したところで脱出プランに支障はない。最悪フェイトも殺せばいい」という答えを導き出したのだ。
ロキが動く。そして振り上げたストライクアクスは――

「危ない、左だ!」
「洵さん!」
エルネストとミランダの叫び声により、中断せざるを得なくなる。
ロキは己の力を過信しない。この迫りくる炎を受けられると思うほど、愚かな脳みそはしていない。
洵とロキは素早く回避し、そして炎が襲ってきた方向へと意識を向ける。勿論、互いへの牽制も忘れずに。
逸早く攻撃に気付いたミランダは、現在自分の取るべき行動を決めかねていた。
参加者を集め、一網打尽にしてしまいたい。だが、これだけ険悪な人間が手を取り合うなど出来るのだろうか?
(神よ……これも試練なのですか?)
ミランダは考える。洵に付いて援護すれば、人数を一気に減らす事が出来る。仲間に引き込むというステップは踏めなかったが、本来の目的は達成だ。
だが、問題もある。洵には時限爆弾の効果を偽っているため、下手な援護は疑心を与えるだけかもしれない。誰かが早々に死んでくれたら、そいつの武器を使えるのだが……
そしてミランダにとってそれ以上に問題となるのが『これが神の与えた試練かもしれない』という事である。
それが『この状況をどう切り抜けるか』という類のものならば上記の方法で切り抜けられるのだが、『如何にして彼らを結束させるか』を問われている可能性も否定できないのだ。
彼らを宥め、結束させ、当初の予定どおりそれからまとめて吹き飛ばす。それこそが求められている事だとしたら、上記の方法は使うわけにはいかない。
ミランダは考える。己がどう動くべきか。神は何を求めているのか。

「ミカエル……ッ!」
己の手足のようにザイルを使い、素早い回避の出来ないフェイトを手繰り寄せたエルネスト。
彼は僅かな疑心をロキに抱くも、すぐに自己解決へと至った。
ロキは殺し合いに放り込まれる前に悪事をしていた。それは事実だろうと思っている。
だが、ロキはまだ子供だ。本当の“吐き気をもよおす邪悪”というものを目の当たりにし、心を入れ替えたとしてもなんらおかしなことはない。
だとしたら、自分はどうするべきだろうか?
決まっている。ロキの仲間として、年長者として、ロキの分まで謝罪するのだ。そして許しを得、和解させる。
自分はロクでもない彼氏だった。愛する人の死に目にすら逢えず、短い間とはいえ共に戦った男すら止める事が出来なかった。
そんな自分でも、仲間を信じてやる事は出来る。手の差し伸べられる距離に仲間がいる。
死んでしまったオペラのためにも、『オペラの愛するエルネスト』でいるためにも、信じる心を失うわけにはいかないのだ。
そのためにも、まずはこの状況を切り抜けなければならない。

61久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:09:07 ID:xX1/QkIg
「よお……久しぶりだなお前らァ! ご丁寧に揃ってくれちゃってよォッ!」

仲間を偽り、この期に人数を減らしたい洵。
仲間を作るべきか否か、神の意思を知ろうとするミランダ。
仲間を想い、どちらに行くべきなのか悩むルシオ。
仲間を駒と考え、不都合な人物の抹消を目論むロキ。
仲間を信じ、意地でも正しくあり続けたいエルネスト。
仲間を信じたいからこそ、ロキに疑念を抱くフェイト。
仲間など作らず、本能のままに殺しつくしたいミカエル。

「ぶっ殺してやるぜェェェェッ! スピキュゥゥゥゥルッ!!」

様々な想いが入り混じり、平瀬村の大規模な戦闘が今、幕を開ける。




【F-02/夜中】
【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:健康]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、荷物一式]
[行動方針:知り合いと合流(特にレナス)]
[思考1:洵達の援護に行くか殺し合いに乗った二人組(クレス・マリア)に仕掛けるか決断する]
[思考2:洵、少女(ミランダ)と合流]
[思考3:平瀬村で仲間の詮索]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:平瀬村内北東部よりやや南]
[備考]:※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません
    ※マリアとクレスを危険人物と認識(名前は知りません)
    ※最初の通信時に驚いたのはアーチェ爆死を見たからです。
    ※洵とのやり取りの間にチェスターはクレスらと離別しました。すぐに駆けつけても97話に割り込む事はありません。



【F-01/夜中】
【ミカエル】[MP残量:50%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:この場にいる奴皆殺し]
[思考3:この場の人間を殺しつくしたらそろそろ借り場を他に移す]
[思考4:使える防具が欲しい]
[現在位置:平瀬村北西部]
[備考]:デコッパゲ(チェスター)と茶髪優男(ルシオ)は死んだと思っています。


【洵】[MP残量:90%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘に多少支障をきたす程度]
[装備:ダマスクスソード@TOP、木刀]
[道具:コミュニケーター@SO3、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない]
[思考2:ロキを殺害し、今後に備え支給品を充実させる]
[思考3:ロキの仲間も出来る事ならこの場で殺しておきたい]
[思考4:現時点でルシオとミランダを殺すつもりはないが、邪魔になるようなら殺す事も考える]
[思考5:ルシオを使ってレナスを利用もしくは殺害]
[思考6:ゲームボーイを探す]
[現在地:平瀬村北西部]

【ミランダ】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式]
[行動方針:神の御心のままに]
[思考1:神の意図を正しく理解し、この状況を何とかする]
[思考2:洵やルシオを利用して参加者を集める]
[思考3:直接的な行動はなるべく控える]
[思考4:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[現在位置:平瀬村北西部]

62久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:10:01 ID:xX1/QkIg
【ロキ】[MP残量:95%]
[状態:正常・自転車マスターLv4]
[装備:ストライクアクス@TOP、ママチャリ(ミカエルの炎により半壊)@現実世界]
[道具:10フォル@SO、グーングニル3@TOP、空き瓶@RS、デッキブラシ@TOP、スタンガン、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:洵・ミランダ・ミカエルの殺害]
[思考2:見つけ出してルシオを殺害]
[思考3:出来ればフェイトは手ゴマとして取っておきたい。エルネストは別にどうでもいい]
[思考3:自転車で街道を走って島を一周する。途中であった人間達にはいい加減な情報を与える]
[思考4:首輪を外す方法を考える]
[思考5:レナス、ブラムスの捜索(自分の悪事を知っているんじゃないかと警戒し始めている)]
[思考6:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[現在位置:平瀬村北西部]

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:100%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)、ロキに対する不信感]
[装備:ファルシオン@VP2]
[道具:鉄パイプ-R1@SO3、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ミカエルの打倒。洵達とは出来れば戦いたくない]
[思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考3:ロキを信用していいのか見極める]
[思考4:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[現在位置:平瀬村北西部]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:ザイル@現実世界]
[道具:荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間は絶対に守り抜く。フェイト・ロキは勿論出来れば洵達も死なせたくない]
[思考2:ミカエルを倒す。その後で生き残っていたら洵とミランダを説得しロキと和解してもらう]
[思考3:仲間と合流]
[思考4:炎のモンスターを警戒]
[思考5:平瀬村で医療品捜索後、ロキ達と島を一周。出来ればその後クラースと合流したい]
[現在位置:平瀬村北西部]



【C-02/夜】
【クラース・F・レスター】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:シウススペシャル@SO1、スケベほん@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:鎌石村へ行き、フェイトから得た情報を手土産に首輪の解析を進めるチームに入れてもらう]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:参加者が1/3になっても脱出方法が分からないようなら脱出は無理と判断し殺し合いに乗る]
[現在位置:D-02、道から少し外れた森の中を鎌石村方面へ移動中]

63久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:12:22 ID:xX1/QkIg
以上です
支援して下さった方、有難うございました
繋ぎで100話目かっさらってすみません。今も反省してない。

64 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:40:28 ID:SsOv3JnA
では、続きを投下します。

65 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:41:13 ID:SsOv3JnA
ミカエルは再度、ブラムスに躍りかかる。
拳対拳の、零距離も同然の激戦。
双方が双方の拳を受け、脚を止め、肘を払い、膝をいなすそのたびに、いくつもの炸裂音と閃光が迸る。
「てめえはぜってぇブチ殺してやる! それが終わったら残りの3人もまとめて皆殺しだぁ!!
覚悟しやがれこのコスプレ変態仮面野郎!!!」
「温い――真の戦士であれば『殺す』などと発言する前に、相手を『殺して』いなければならん。
『殺す』などと吠える前にな」
ブラムスはミカエルの渾身の突きを受け止め、その反動で一気に間合いを取る。
基本の構えを崩すことなく、ブラムスは静かにこの乱入者の分析を行っていた。
(なるほど――どうやら我が先ほど用いた小細工の正体には気付いていないようだな。
小技でかき乱せば、決して渡り合えぬ相手ではないか)
ブラムスが先ほどミカエルの初撃をかわした際に用いた小細工……その正体は『分身(レヴェリー)』と呼ばれる、
戦士にのみ使用を許された秘技である。
闘気によって練り上げた分身を身にまとい、分身にその動きをトレースさせることで、
一撃で二撃分の攻撃を敵に与えるこの技は、使おうと思えばこのような小細工にも使えるのだ。
すなわちブラムスは、先ほど闘気で練り上げた分身をミカエルの前面に展開し、
ミカエルの拳がその分身にヒットした隙に、がら空きになったミカエルの上空に跳躍。
そのままミカエルの拳の上に着地し、挨拶代わりの蹴りを彼の顔面に見舞ってやった――
これが、彼が行った小細工の全容となる。
もちろん、ブラムスはその真相をミカエルに講釈してやるつもりはなど、未来永劫微塵もないのだが。
(とはいえ、第三者がここに闖入してくるなどという事態は、我にも予想外だ。
ましてやこの男は、本来の実力は我とそう大きく変わるものではない――いささか危うい状況と言わざるを得まい)
ブラムスはミカエルの放った炎波の軌道を見切り、それを紙一重でかわし可能な限り隙を作らぬよう努める。
ブラムスの背後で、顎の外れた褐色の肌の青年が涙目になりながら、
そのとばっちりから必死で逃れようとズタボロの肉体を引きずるが、ブラムスはそれに必要最低限の注意のみを払う。
(だが我の考えの至らなさを省みるのは後からいくらでも出来よう。
今なすべきは、この状況の俯瞰と、選び取るべき次なる一手の吟味だ。
ひとまずこの局面、我にとって最悪の事態は、この男とロキが結託し結果的に二対一の戦いを強いられる事だが、
『残る3人も皆殺し』と言ったこの男の姿勢から、それはまずあり得ぬ事態だろう)
ミカエルの言っていた「3人」の内訳は、言うまでもなくエルネスト、フェイト、ロキのこと。
もちろんこの宣言がブラムスの読みを狂わせるために放たれたブラフ、という可能性も皆無ではないが、
この男の性格からしてそれはあり得ない、とブラムスは読み解く。
すなわち、この男はクラースの存在には気付いていない。
(――しかし、結託をされずとも結果的に挟み撃ちにされる可能性は十分に存在する。
ロキもいつまで沈黙しているか分からぬ。消耗を避けるという意味でも、可能な限り短期決戦を図るべきだろう)
ロキに止めを刺すことさえできれば、一気に戦局は自身に有利なものとなる。それにはあと、拳打の一撃で十分。
だが残念なことに、この男ほどの手練を前にしては、その一撃を与える隙すら作り出すのは至難の業。
下手に背を向ければ、その瞬間大火力の正拳突きが自らの背に炸裂するだろう。
ロキに止めの一撃を与えることを牽制されるこの局面、結果的にミカエルはロキを防衛し、
そしてロキに回復の時間を与えているという構図になる。

66 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:41:49 ID:SsOv3JnA
この状態でロキがその顎を再度嵌め終え、魔術の詠唱を再び可能としたなら……
そしてそのタイミングが、上手いことミカエルの攻撃と同期してしまったなら……
いかに夜の帳が己の力を後押ししているとは言え、その挟撃で窮地に立たされる危険性は極めて高い。
そしてロキの側はミカエルの攻撃と魔術を同期させることくらい、やって来ない方がおかしいだろう。
たとえミカエルと急ごしらえの同盟を結ぶことはないとは言え、
漁夫の利に対する目ざとさに関して、ロキほど優れた者はなかなかいない。
敵の敵は味方ではないが、敵の敵を味方として利用することなら、いくらでも可能なのだ。
(……となると、クラースなるあの男が、どこまで機転を利かせて動いてくれるかが勝負か。
それがもし当てに出来ぬ事態となったならば――)
最悪の場合、撤退も計算に入れねばならない。ブラムスはそう状況を読む。
もちろん、クラースとの約束はエルネストとフェイトの救助。それと引き換えに、自身は情報を得ることが出来る。
しかしそれにこだわり過ぎて自身が命を落とすようなことになれば、元も子もない。
その場合は遠慮なくクラースとの約束を反故にし、この場は撤退する。
この判断を冷酷非情と糾弾することはもちろん可能だが、必要に応じてその冷酷非情な判断を容赦なく下せない者に、
王の座に着く資格は無い。
それは人間の王であれ、不死者の王であれ、変わらぬ真理である。
ブラムスはその帝王学にのっとって、遥かなる過去から現代まで、ただの一度も下克上の憂き目に遭うことなく、
己の居城の玉座を守り続けてきたのだ。
ミカエルの繰り出した三連続のジャブをいなしたブラムスは、攻撃をかわしざまにしゃがみ込みながらの足払い。
それが虚空しか切れなかったの感じたブラムスは、瞬間後方宙返りで一気に転身。
あと一瞬後方宙返りが遅れていたなら、ミカエルの繰り出した烈火で全身を包まれていただろう。
ブラムスはミカエルの拳の軌道を回避行動と並行して分析。この男の癖を伺うことにする。
(さて、どうしてくれたものか――)
沖木島の夜を、再度闇と炎が禍々しく彩った。
ついでに、淋しく光るブラムスのヅラも。

67 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:42:35 ID:SsOv3JnA
【D−2/夜中】
【クラース・F・レスター】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:目前の乱戦に対応(召喚術を使う? 先にフェイトとエルネストを助ける? それとも……)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]


【ブラムス】[MP残量:75%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO、袈裟@沖木島、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
ソフィアのメモ、荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:情報収集(夜間は積極的に行動)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:クラースの機転を期待しロキと目の前の男(ミカエル)に対処。あわよくば撃破する]
[思考6:最悪の場合、クラースとの『取り引き』を反故にし撤退する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:スキル『レヴェリー』で作られたブラムスの分身は破壊されました。
この戦闘が決着するまで、再度分身を生み出すことは出来ません]


【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:80%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)ザイルで拘束中 気絶中]
[装備:無し]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP?]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考3:縄を切り、自由を得る]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)ザイルで拘束中 気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:縄を切り、自由を得る]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]

[備考]: フェイト、エルネストの装備と支給品はその場に放置されてます。


【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:正常・自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面が作画崩壊 顎関節脱臼 再起不能(リタイア)寸前 神生終了のお知らせ]
[装備:グーングニル3@TOP]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:首輪を外す方法を考える]
[思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考5:痛みに耐えて顎を嵌め直す]
[思考6:この状況に対応する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考1:現在顎が外れているため、これを整復するまで会話や呪文詠唱などはほぼ不可能です]
[備考2:なおロキは自分をフルボッコにした相手がブラムスだとは、今のところ気付いていません
(ただしブラムスの決め技「ブラッディカリス」を目撃して気付いた可能性もあります)]

【ミカエル】[MP残量:20%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)、図星を突かれて逆ギレ]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:目の前の変態仮面野郎をブチ殺す]
[思考3:それが終わったら残りの3人(フェイト、エルネスト、ロキ)もまとめて皆殺し]
[思考4:狩場を鎌石村に変更]
[思考5:使える防具が欲しい]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:デコッパゲ(チェスター)は死んだと思っています。]

68 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:44:16 ID:SsOv3JnA
以上で、本編の投下は終了です。

ちなみにこのSSのタイトルは
「今夜の沖木島は所により一時棺桶、その後に炎が降るでしょう。ご注意下さい」です。

69名無しのスフィア社社員:2008/10/20(月) 22:17:57 ID:85y711ac
畜生、昨日まで書き込めていたのに、書き込もうとしたら規制がかけられているとか何事だよ('A`)
ここに書いても気付いてもらえる可能性があまりに低すぎるが、書くだけ書いてみる

>>本スレ123
確かに制限はつけないとやりたい放題しすぎるのもまずいよな

制限の候補としてVP2みたいに使いすぎると力が弱まっていくっと言うのも挙げてみる
(安定の力を破壊の為に利用すれば何とかかんとかの部分から)

70闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:27:40 ID:bUVETw3U
あたりの雑木林は、まるで山火事にでもあったかのように、炎の真紅に染まり、揺らめく。
全身を引き裂くような苛烈な熱を前に、ブラムスもまた構える。
近寄れば輻射熱だけで体の焦げそうな業火を前に、それでもブラムスは怯もうとしない。
「さあ――今こそ共に舞おうではないか」
大地に仁王立ちするブラムスの全身を、濃密な闇が包み始め、ミカエルの輻射熱の浸透を阻む。
火に含まれる二大要素は、言うまでもなく光と熱。
しかし闇は光を遮り、そして光のもたらす熱をも防ぎ止める。
「我と貴様――最後まで舞い切るはただ1人の――」
ブラムスのまとう闇の密度は恐るべき速度で高まり、そして臨界点を超越するまでにそう時間はかからない。
鮮血色の闇――ブラムスの闘気のボルテージが極大を迎えようとしている証が、
そのまま彼自身にまとわれ、炎の光を頑ななまでに拒絶。
炎が闇を焼き払うか。
闇が炎を呑み込むか。
選び取られる結末は、どちらかただ一つきり。
それが決まるのは、次の一合。
「おおおおおあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」
ミカエルの姿が、黄金の残像と化す。
その光景を遠目から見る者は、その様相を何に例えようか。
ブラムスは、そんな叙情的な思索に耽りたい衝動に駆られなかったわけではない。
それほどまでに、彼の炎は鮮烈で、激烈で、それでいて純粋無垢だった。
炸裂すれば自らの身を灰になるまで焼き尽くす滅びの猛火が、周囲の空間そのものすらも焼き尽くさんばかりに、
唸りを上げて周囲に轟いた。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

71闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:28:54 ID:bUVETw3U
(よし――上手いこと挑発に乗ったか)
奥義のための『溜め』の体勢に入ったミカエルを見やり、ブラムスは自らの策が成ったことを知る。
ミカエルに対し吐いてみせた、けれん味たっぷりの口上――それらは全てが真実であり、全てが虚偽とも言える。
ブラムスは不死者でありながら、同時に拳士でもある。
不死者の持つ獣性と、拳士としての求道心が同居する彼の胸中は、
もちろん強大な敵との戦いで昂ぶりもするし、時にはその不正なる生すら賭けたいと思うほどに、
戦いという行為に飢えることもある。
しかしただ戦という行為自体を求めるだけであれば、所詮ブラムスはただ強いだけの不死者に過ぎない。
不死者の王を名乗るのであれば、求められるものはただ戦に酔うだけの獣性のみではないのだ。
あらゆる不死者をかしずかせる絶対のカリスマ、そして自らの誤りを許さない知性、
これらもまた、求められる。
そのブラムスの知性は、この目の前の敵が真に命を賭けるに値しない敵であると、彼自身に静かに告げていた。
(残念ながら、我の命ならざる命は、貴様のような痴れ者ごときにくれてやれるほど安くはない。
我は貴様のような手合いこそ、最も嫌悪するものだ)
ブラムスが最も嫌悪する存在――それは自らの弱さに絶望し不貞腐れ、
それ以降あがく事を放棄する意気地なしでもなければ、
常に他者をだまくらかし卑劣な策略に嵌めようと試みる、臆病者でもない。
自らに力があると理解しながら、その力を善事にも悪事にも用いようとせず、
ただ自らの破壊衝動の奴隷に成り下がり、けだもののようにしか振る舞えぬ愚か者である。
下級の不死者の中には、けだもののようにしか振る舞えぬ者達も決して少なくはなく、
むしろそれらの方が多数派とも言えよう。
けれども彼らが長年の戦いや偶発的な事由などにより、強大な力を持つに至ったのならば、
いつまでもけだもののごとき振る舞いを許しておくべきではないと、彼は心中で断じている。
人間にとっては、このような例えが適切だろう。
もし大の大人が赤子のように泣き叫び、自らの不満を感情的に叩き付ける事しかできなければ、
もしくは白痴のような愚劣な発言を行うことしかできなければ、周囲の人間はそれをどう評しようか?
言うまでもなく、周囲の人間は彼または彼女を蔑み、見下し、良くとも憐れむのが精々であろう。
ブラムスにとってのミカエルは、それと同じこと。
(念のため、奴にも『フレイを殺したのは貴様か?』と問おうかと、一瞬でも考えた我もまた愚劣なものよ。
それに関しては、我もまた恥じ入らねばならぬ)
ブラムスは、ゆえにミカエルに出会った時点で、彼がフレイ殺害の実行者では無いと断じた。
フレイはこの手の手合いに殺されるほどに、間抜けではない――
百歩譲って、本当にミカエルがフレイ殺害の犯人であったとしたなら、
フレイはそれだけ自身の見ぬ間に堕していたということ。
そんなフレイなど死んだところで、ブラムスの胸に哀悼の意など、雀の涙ほどにも湧いて来ない。
(では、早々に貴様は葬らせてもらうとするか。
たとえ虚言とは言え、貴様にあれほどの麗辞を送ったなど、思い出すだけでも胸が悪くなる)
ブラムスもまた、ミカエルに応じてその内なる魔力を練り上げるが、それもまた表面的なものに過ぎない。
この男の膂力は、不死者の怪力を持つ自身に匹敵し、下手をすれば凌駕する。
そしてミカエルは闇の力に耐性を持ち、対する自身はミカエルの炎を苦手とする。
先ほど「スピキュール」を「ブラッディカリス」で相殺したときは、
幸いにも炎と闇の秘めたエネルギーの絶対量がほぼ同値だったからこそ、無傷で相殺に成功したのだ。
もし何か一つでも不運な要素が起これば、「ブラッデイカリス」が押し負ける危険も十二分。
万一押し負けてミカエルの炎を直接浴びれば、ブラムスもただでは済まされない。
ならば真正面からぶち当たるなど、二度とあってはならない。それ以外に、手が残されていないときを除けば。
(貴様が『スピキュール』とやらを放つ瞬間に、我は貴様の背後を頂こう)
ブラムスが一見ミカエルを好敵手と認め、真っ向勝負を望む旨を吐露したのは、全て虚言。
その虚言でミカエルを挑発し、大技を誘ったところでミカエルの背後を取り、そこから不意打ちの一撃を見舞う。
それが、ブラムスの狙い。
仮に不意打ちに失敗したとしても、ブラムスの戦士としての勘は告げている――ミカエルの疲労具合を見れば、
おそらくあと一撃大技を撃たせれば、さしものミカエルとて疲労困憊となるだろう。
対するこちらは、可能な限り消耗を抑えた立ち回りを心がけている。
後はその残されたスタミナの差にものを言わせ、一気に畳み掛ければよい。

72闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:29:57 ID:bUVETw3U
(――が、我も念のため保険はかけておくとするか)
ブラムスは顔面を覆う仮面に、そっと手をかける。
ブラムスの仮面が外れ、その下から現れるは、遮られるものなき魔の眼光。
その眼光が、忽然と揺れる。
目の前で灼熱の炎に包まれるミカエルの姿が消えた。
その先は、上空。
「むう!?」
「炎を練ってたときに思っててんだけどよぉ……」
その強靭な肉体が可能とする、常人の数十倍の高度を稼げる超跳躍。
ミカエルは、舞った。
この急ごしらえの雑木林の、空き地の上空へ。
黄金の残像と残熱が尾を引きつつ、高空に留まる。
そこから放射される熱量は未だ衰えず――むしろ、増加する一方!
「何もてめえ相手に馬鹿正直にあたりに行かずとも、ここからパワー全開で『スピキュール』をブチかましゃあ……」
空に燃える、黄金色の熱。
ミカエルのまとう熱の密度はまさに太陽のそれを思わせるが、彼が空に昇る事で、
その姿はますます太陽に近いものとなる。
「この辺り一体、マグマの海に変える事くれえできなくはねえんだよなあ。つまり――」
ミカエルの直下の大地が、突如として巻き起こった焼け付く暴風に破砕される。
ミカエルから放射される熱が空気を異常加熱し、それが結果として風すらも呼ぶ。
にわかに巻き起こる火炎旋風――すなわち、山火事や震災後の広域火災の熱が巻き起こす、火炎そのものを含んだ竜巻。
破砕と同時に融解を起こす地面が、ミカエルの壮烈なまでの大破壊を彩る。
「てめえもそれ以外の3人もまとめていっぺんに焼け死ぬから、手間が省けて好都合ってもんよォ!!!」
ミカエルの肉体の一点を焦点とし、黄金の輝きが殺到。
言うまでもなく、その向かう先は彼自身の右手。
「ところで変態仮面野郎……太陽はどうしてあちぃか、知ってるか? その答えは簡単だ」
金色の光が、更なる臨界点を突破。
その結果が白色光――完全なる白色光。
量子力学の説くところの、温度無限大の黒体にのみ放射することを許される、超熱光に他ならない。
「太陽はその中心にそのパワーを集中させてっから、あれだけあちぃんだぜ!!
今のこの、俺様の右手みてぇになぁ!!!」
ミカエルの右手が、真っ白に燃える。
さながら光ですらもその内に呑み込むブラックホールのように、ミカエル自身を取り囲む熱を、光を、
余さず吸い上げ回収し、そこに自らが喚起した全ての熱エネルギーを凝縮する。
地上に生み出された小さな恒星――それが、ミカエルの今の右手の状態を形容するに、最もふさわしい言葉。
ミカエルの周囲から、全ての熱が消え去った。
それが意味するところは、災厄の回避ではない。
むしろ、災厄の前兆、嵐の前の静けさ。
「食らいな……この中心温度無限大の……最強最高温の『スピキュール』を!!!」
「それは御免被ろう!」
今の言葉の持ち主は、ブラムスではない。
ミカエルの足元の空間が、突如として歪む。
そこに穿たれるのは、極少のワームホール。
ミカエルがワームホールの出現を悟った瞬間に、そのワームホールは細長い何かを鋭く射出していた。
その正体は、ただ一筋の縄。
ワームホールを経由して伸びた縄が、自らの身をうねらせる。
狙うは、ミカエルの左足首。
「何だとぉッ!!?」
ミカエルの左足首は、そのまま縄に食いつかれた。
食いついた勢いそのままに、ミカエルの足首に絡みつく縄。
そしてミカエルは今空中に跳躍している――本来飛行できない彼が空中でこれを受けることが、
何を意味しているかは余りに明白。
「まさか……この技は!?」
「ようやく気付いたようだな。だが、時すでに遅し、と言わせてもらおうか」
絡みついた縄が、そのままワームホールの向こう側に帰還しようとする。
無論この程度の勢いならば、いくらでも縄の張力には対抗できるし、引き千切っても焼き払ってもいい。
だが、ここは空中。
そして、焼き払うための熱は全て、右手に集中。
すなわち、この縄の張力に対抗する手段は、この瞬間のミカエルには存在しない。
「『ディメンジョンウィップ』!!」
絡みついた縄がびん、と音を立て、ミカエルの体を宙で泳がせる。
ミカエルは焼け残った雑木林の影に佇む男を睨みながらも、たまらずに体勢を崩していた。
彼の瞳に焼きついていた人物、それは言うまでもなく金髪のテトラジェネスの男だった。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

73闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:30:59 ID:bUVETw3U
「お前がスピキュールを繰り出す瞬間、待っていたぞ」
自身の目前に穿たれたワームホールには目もくれずに、
エルネストは空中で縄に左足首を絡め取られたミカエルを不敵に睨む。
厳密に言えば、待っていたのはミカエルが「スピキュール」を放つ瞬間ではなく、
彼の周囲をまとう炎のオーラが消え去る瞬間であったが、特に「スピキュール」を放つ瞬間の隙は最高。
「お前の放つ『スピキュール』は体術の範疇に入るだろうが、
炎を右手に集約させる瞬間の隙は、どちらかと言えばその性質は紋章術の呪紋詠唱に近い。
よって一度妨害されれば、また溜めを最初からやり直さねばならないはずだ」
独り言のように言うエルネスト。
空に飛び上がったまま体勢を崩したミカエルは、何やら怒り狂ったような声を上げてはいるが、
エルネストはその内容を聞き流していた。
ふつ、と「ディメンジョンウィップ」で上空に放った縄の手応えが、ワームホールの向こうで途切れる。
ミカエルが上空で再度全身高温のオーラをまとわせ、縄を発火点まで加熱させて焼き切る様子が、
テトラジェネスの視力には鮮明に映る。
(さて、これでお前はあのブラムスなる男に数秒の時間を与える羽目になったが、どうなるかな?)
先端が無残に焼け焦げた縄が、ワームホールの向こう側から戻り、追ってワームホール自体も消滅。
「ディメンジョンウウィップ」――闘気で空間を歪め、ごく小規模のワームホールを形成し、
その向こうにいる敵をワームホール越しに鞭で打ち据える、エルネストの遠隔攻撃技である。
この技自体は、エルネストの技の中でも初級のものに入るが、この局面では他のどの技よりも有効なもの。
むしろ、エルネストがこの技を心得ていたからこそ、こんな奇襲が成立し、また成功したのだ。
エルネストは、フェイトに事前に自らの得意技を告げておいたことを、静かに正解だったと自己評価する。
(なかなかどうして、フェイトも随分と目端が利くようだな)
現在のところ、ロキは雑木林の空き地の向こう側で半無力化され、
ブラムスは雑木林の空き地でミカエルと格闘戦を行っている。
ならば、紋章術ほどの射程はないが、ピンポイント攻撃の可能なエルネストがミカエルを叩き、
紋章術の射程がなければ攻撃できないロキを、紋章術と召喚術を使えるフェイトとクラースが叩く。
それが、フェイトの提案した作戦内容。
エルネストが視線を移せば、作戦を提案した張本人であるフェイトはしゃがみ込んだまま、
左手で右手首を支え、紋章術の発動にかかろうとしている。
エルネストが「ディメンジョンウィップ」を放つ直前、一瞬限り指で示したその方向に、
右手手の平が向いている。
その手の平いっぱいに、青白い電光がスパークを起こし始めていた。
(紋章術はソフィアほど得意じゃないけれど――)
フェイトの遺伝子そのものに刻まれた、紋章の力が全身を駆け巡る。
彼自身の精神力が生体電流を捕まえ、整流し、同時に大気を引き裂くに足るほどの高電圧にまで、
そのボルテージを増幅させる。
(――即興のアレンジ、うまくいってくれよ!)
「ライトニングブラストッ!!」
フェイトの右手から、紫電が迸り駆け巡る。

74闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:32:17 ID:bUVETw3U
フェイトの放った雷は、秒速30万kmに迫らんばかりの超高速で雑木林跡の空き地を駆け抜ける。
そして雷が空き地の中間地点ほどに差し掛かった瞬間。
「広がれっ!!」
フェイトの命じた通りに、先ほどまでたった一筋しか流れていなかった雷が、数十にも分裂する。
まるで貴人の手により広げられ、その中の艶やかな絵画を披露する日本(ジャパン)の民芸品、扇子のように。
ブラムスとミカエルの乱戦区域を大きく外して撃ったため、拡散しても稲光は彼ら二者を襲うようなことはない。
辺りは瞬間的にカメラのフラッシュが焚かれたように白光で染め上げられ、たちまちに光度を増す。
人間の視力でも、空き地越しにロキの姿を視認できるレベルにまで。
これこそが、フェイトの用意した光源の正体。
ロキがその身を埋めている雑木林は樹木が乱立しているせいで、一つや二つ光源を用意したところで、
その全てを照らし出すことはできない。それだけではできる影も多過ぎて、暗闇という死角を無くしきる事はできない。
だが、光を数十もの角度から当てることができれば、その死角の数は十二分に減らすことはできよう。
フェイトは紋章術「ライトニングブラスト」をロキの沈んだ雑木林の辺りに撃ち込み、
その手前で稲妻を数十に分裂させることで、稲妻そのものを複数の角度から一気に雑木林内部を照らすための、
光源として用いたのだ。
この手法ならば、例え暗闇越しにでもロキの姿をおぼろげながら確認できるほどの、
テトラジェネス級の視力は要らない。
エルネストにある程度の方角さえ指示してもらえれば、その方角に「ライトニングブラスト」を撃ち込み、
手前で拡散させるだけでフェイトの役割は果たされる。
光源であるフェイトの「ライトニングブラスト」の方に、そこまで高い精度は要求されないためである。
仮にロキへ「ライトニングブラスト」が命中したのならば、それはそれで自身らにとっては望外の僥倖。
そして本命は、「ライトニングブラスト」の稲光でロキの姿を確認した、クラースの方にある。
詠唱待機を行っているクラースがロキの姿を視認した瞬間、彼には最期の瞬間が訪れる。
そのロキに向け、クラースの召喚術「オリジン」が――。
「!!!」
フェイトは、その光景に目を瞠った。
「ライトニングブラスト」に照らし出された雑木林の奥に、彼が見た光景とは――

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

75闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:32:54 ID:bUVETw3U
(ほう、これはこれは)
仮面を右手に握り締め、その握り締めた右手を顎の辺りでわだかまらせていたブラムスは、
仮面の影からその様子を伺っていた。
ミカエルの足元に正体不明の縄が伸び、それがミカエルの動きを縛め、
ひいては「スピキュール」の溜めを無効化した、その様子を。
顔面から外された仮面は、早々に彼の懐へと消える。
一方で彼の両足は、即座に地面を強打していた。
この雑木林跡の空き地一体を支配する圧倒的な熱気を切り裂いて、ブラムスは飛鳥のように舞い上がる。
(陳腐な言い回しではあるが、言わせて頂こうか――)
「その隙、貰い受ける」
仮面を外され、素顔を夜風に晒すブラムスが跳躍した先は、もちろんのこと空中で姿勢を崩したミカエルのもと。
一体ミカエルの身に何が起こったのか、完全に把握はできないが、今この瞬間で重要なのは、
ミカエルが絶好の隙を見せてくれたということ。
ブラムスの背から、黒色の霧が立ち上る。
東の空にかかる月を、背に負う形でミカエルに飛びかかるブラムスの姿は、さながら巨大な黒翼を広げた蝙蝠。
更に言えば、背より蝙蝠の翼を広げ、闇夜を飛ぶ暗黒の王、ヴァンパイアの姿そのもの。
ブラムスはその身を不死者にやつして以来、長年の修業と研鑽を経た結果、
残念ながら本物の翼は失われ、また魔力による飛行すらも不可能となった。
それ以外にもヴァンパイアとしての力のいくつかは失われたが、それで得たものもまた大きい。
ヴァンパイアが持つ弱点のうちの一つ、ニンニクも彼には効かない。
雨や川などの流れ水に行動を阻まれることもない。
むしろ今では、流れ水よりも炎の方が彼に深刻な打撃を与えるくらいである。
聖印や聖水なども、真なる霊力のこもったものでなければ、恐怖など微塵も感じない。
そして不死者の最大の弱点である直射日光すら、今のブラムスは不完全ながらも克服している。
これらの弱点を克服することができたのであれば、翼を奪われたくらい嘆くには値しない。
今のブラムスの背を飾る黒霧の翼は、ゆえに正しくは翼ではない。
霧に転じつつある、彼の肉体そのもの。
体勢を崩したミカエルに肉薄する瞬間、ブラムスの全身は再度黒い霧に姿を変えた。
ミカエルと空中で正面衝突することなく、霧と化した彼の体はミカエルの背後へと回る。
『影討ち(ダーク)』を用いた彼の体は、ちょうど空中でミカエルの背を取る形で、再度実体化。
やはり首輪は外れないが、無防備な彼の背中を取ることができたのは、今は何物にも変えがたい好機。
ブラムスは右手を振りかざし、その五本の指を互いにぴたりと寄り添わせる。
繰り出すは、貫き手。
このまま右手をミカエルの背の左側に突き込み、肋骨の隙間から心臓に肉薄し、突き破る。
(貴様が『セーブツヘーキ』なる人外の存在とは言え、どうやら体内に血も流れているようだな。
ならば、心臓を貫けばいかな貴様でもひとたまりもあるまい!)
もはやこれが、本当に素手から繰り出される攻撃であるのかを疑いたくなるほどに鋭利な一撃が、ミカエルの背を強襲。
決まれば、この戦いの趨勢は完全に決していただろう。
ブラムスの右手手首が、後ろ手に回されたミカエルの右手に捻り上げられていなかったならば。
「むうっ!!?」
下手をすれば岩石すら握り潰しかねない握力が、ブラムスの貫き手を食い止める。

76闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:33:41 ID:bUVETw3U
「甘っちょれぇんだよ、変態仮面野郎――」
続き、ブラムスの左手手首すら、ミカエルの左手に掴み上げられる。
空中で全身を海老反りの状態にしたミカエルは、その両足で蟹挟みを繰り出し、ブラムスの両足をロック。
結果として、ミカエルはブラムスを背負った体勢で、彼に空中十文字固めをかけた形となる。
ミカエルの周囲の気温が、再度急激に上昇。
「この十賢者である俺様が、二度も同じ手を食うと思ったのかよォ!!?」
ミカエルの「スピキュール」は、エルネストの「ディメンジョンウィップ」で妨害され、結局発動することはなかった。
だが逆を言えば、ミカエルは再度、全身に炎のオーラをまとい直すことを許されたことになる。
たちまちのうちに、ブラムスの着る袈裟の裾が煙を上げ始めた。発火点に達するまでは、もう僅かの時間も無い。
「このまま俺様の炎を、零距離で浴びてもらうぜぇ! てめえもつくづく飛んで火に入る夏の――がぎえぇっ!!!」
ミカエルの言葉尻が、汚らしい悲鳴に潰れた。
ミカエルの首筋を、二つの激痛が走り抜ける。
途端、ミカエルの目の焦点が、どこにも定まらなくなった。
彼の全身が、まるで力という力が流れ出してしまったかのように弛緩する。
ミカエルの全身をまとっていた陽炎すら、夜空に散逸。
見れば、ミカエルは顔面蒼白――血の気が、完全に引いてしまっている。
せっかくブラムスにかけた空中十文字固めも、呆気なく解けてしまった。
「貴様にとっては残念やも分からぬが――」
ミカエルの背から解放されたブラムスは、離れざまにミカエルの背後から裏拳を見舞う。
その口元を、ミカエルの血で赤く染めながら。
その血でも赤く染まることのない、白い牙を剥き出しにしながら。
「――我とて貴様が同じ手を二度食うことなど、最初から期待していない」
ブラムスの裏拳が、ミカエルのこめかみを背後から強打。
空中で頭部に横方向の運動エネルギーを加えられたミカエルの体は、たちまち逆さまになる。
すなわち、足を天に、頭を地に向ける形に。
今度は、ブラムスがミカエルの体をロックする番。
ミカエルがブラムスに蟹挟みをかけたのと同様にして、ブラムスがミカエルに蟹挟みをかけ返す。
ブラムスの足が、ミカエルの両腕を挟み込み、彼が受け身を取ることを禁じる。
一方のブラムスの腕はミカエルの両足首辺りを掴み上げ、足の動きすらも封じ込める。
「――ところで、知っているかミカエルとやら?」
それが終われば、自由落下が始まる。
翼を持つ者、魔術により大地のいましめから解放された者を除けば、万物に等しく運命付けられた現象が。
「蝋燭の火というものは、その芯を押さえてやれば存外にたやすく消えるものなのだ」
空中に舞った二者に、大地が恐ろしいまでの勢いで迫ってくる。
ブラムス自身の攻撃は、闇の力に耐性を持つミカエルには効きにくい。
ならば、自身の肉体ではなく大地そのものを武器とすればよい。
そう判断したブラムスが、ミカエルへの引導に選び取った技はパイルドライバー。
相手を空中で逆さまの体勢でホールドしたまま、相手を脳天から地面に叩き落とし、
その頭部に2人分の全体重を炸裂させる、超人的大技である。
パイルドライバーは完全な形で決まれば、相手の両手両足の動きを完全に封じ、
必然的に受け身を取ることすらも許されなくなる。
その状態でミカエル自身とブラムスの2人分の全体重に、ブラムス自身の膂力までも加われば、何が起こるかは明白。
「例えるなら、今の貴様のようにしてな」

77闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:34:13 ID:bUVETw3U
大地が、ミカエルの脳天と激突した。
巻き起こる地響き。吹き上がる土煙。
ブラムスがミカエルにかけたパイルドライバーが見事に決まった、その証拠。
地面にクレーターを穿つほどの勢いで叩き付けられたミカエルの頭部から、鈍い音。
ブラムスは両手両足越しに、その音を静かに聞いていた。
(殺(と)った――いや、まだか)
ブラムスはミカエルの頭蓋骨が複雑骨折を起こしたことを、その手の内に残る感触で知りながら、
一旦はミカエルの懐より離脱。
万一彼が再度立ち上がってきたとしても、すぐさま格闘に応じられるよう、利き手を引き逆の手を前に出す。
ブラムスがミカエルから離れ、そして数瞬たった後に、舞う一陣の夜風。
土煙の中から、彼の姿は現れる。
ブラムスが作り上げたクレーターの中心部で、ミカエルは逆立ちしていた。
もし頭部が完全に地面に埋まった状態のまま、全身が天を向いた格好のまま硬直している状態を、
「逆立ち」と表現するのが正しければ、の話ではあるが。
ブラムスは再度、懐から取り出した仏像の仮面で、その赤く濡れた顔を覆う。
それにしても、この男の血は今まで味わったことの無い、奇妙な味だった、
とブラムスが口内に残る血液の後味を心の中で評した時、ミカエルの体は地面へとくずおれた。
その拍子に、地面に埋まっていたミカエルの首から上が、掘り返される形となる。
さすがはネーデ史上最強最悪の生物兵器、十賢者と言ったところか。
首から上も辛うじてではあるが、原形を留めてはいた。
彼の髪には自身の血で染まり、目に痛いまでの赤と化してはいたが。
「て……めえ……ッ……!」
「ふむ――頭蓋が砕け、脳が挫傷してもなお息があるとはな」
怨嗟の声を吐くミカエルの元に、ブラムスは首の骨を鳴らせながら、静かに近寄る。
うつ伏せになった状態で、辛うじて首をかしげ、ブラムスを視界に収めることに成功したミカエル。
かすみつつある彼の視界に映っているものは、あちこちが焼け焦げた袈裟をまとった、一体の悪魔だった。
悪魔はその両目に、血のように赤い眼光を燃やしながら、彼を静かに睥睨する。
その目にこもっている感情は、すでに敵への憎悪でも怒りでもない。
かといって、死に絶えつつある獲物を弄ばんとする、悪辣な嗜虐心でもない。
そこには、本当に何の感情もこもってはいなかった。
人間は道を歩く時、蟻一匹を踏み潰したところでほとんどの者は何の情感も覚えまい。
今のこの男も、それと同じこと。
もはやミカエルを、どうとも思ってはいない。
ミカエルに止めを刺すことなど、せいぜい消し損ねた熾火を踏みつけ、
完全に火を消そうとする程度にしか考えていない。
ブラムスの右足が、そっと持ち上がった。
「なればこそ、念のため止めは刺しておくとするか」
それが終わったなら、右足が振り下ろされる。
頭蓋が砕けた、ミカエルの頭部へと。
「下手に貴様のような痴れ者に食い下がられると、のちのち面倒が起こり兼ねんのでな」
ブラムスの右足は、ミカエルの首っ玉に叩き落された。
ブラムスの足の下で、ぐしゃりという湿った音が響いた。
ミカエルの頭部は、とうとう完全に原形を失った。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

78闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:35:27 ID:bUVETw3U
「……というわけでようやく一段落着いたので紹介する。
彼はヅラムス……じゃなくてブラムス。私がさっき逃げ出したとき、近場で偶然捕まえた助っ人だ」
残された雑木林の空き地の一角に、一同は集っていた。
ミカエルが残した多くのマグマの池はすでに冷えて固まり、飴状に融解したまま再凝固した、
不気味な傷跡が多く残る。
すでにこの一帯を焦がした熱量は主共々に死に絶え、周囲は夜の暗さと、わずかばかりの肌寒さを取り戻していた。
その中で再度小さな焚き火を囲み、一同は車座を組んでいたのだ。
クラースの紹介を受けたブラムスは、会釈も何もせずに、ひどく無愛想な様子で残る二者に名乗る。
「我はブラムス――ゆえあってこの辺りを偵察していたところ、
このクラースなる男に出会い、この喫緊の事態を知ってやって来た」
ブラムスの名乗りに応じるようにして、残る二者もまた自ら自己紹介を行う。
「フェイト・ラインゴッドです。よろしくお願いします」
「エルネスト・レヴィード。考古学を学んでいる。
ところでブラムスとやら、申し訳ないがあんたに早速質問がある」
「ほう? 何だ?」
エルネストは三つの目を同時にブラムスに向け――そして思い出したように彼の顔から視線を反らす。
それが原因か、彼の言葉の切れはいつにもなく悪い。
「その……つまり……単刀直入に聞こう。あんたはどうやら、ヴァンパイアか?」
「……ヴァンパイア?」
エルネストが突如として繰り出した言葉に、フェイトは怪訝な様子で疑問符を放つ。
エルネストは一つ頷き、今度はフェイトの方に視線を向けて語り出す。
「ああ、ヴァンパイア……すなわち、お前の故郷である地球の東欧(イースタン・ユーロップ)を発祥とする、
空想上の生き物だ。
確か元来は東欧(イースタン・ユーロップ)の民話に出てくる、ゾンビやその手の類の仲間だったのが、
地球暦で言うところの西暦1400年代、ルーマニアを統治していたヴラド三世の、
『串刺し公』の逸話と融合して生まれたものだった、と地球の民俗学の本に記述されていた気がするな。
ちなみにこのヴラド三世は自らのことを『ヴラド・ドラキュラ』と名乗ったとされるが、
彼をモチーフにして作られた地球の文学作品が『吸血鬼ドラキュラ』……
同じく地球暦の19世紀末期に、イングランドの小説家ブラム・ストーカーが著した怪奇小説だ」
エルネストはこともなげに、それだけの知識を披露。
フェイトはそれに、思わず目を剥く事を禁じえない。
「地球人の僕よりも詳しいんですね……エルネストさん」
「まあな。俺は自分の向かった惑星の、知的生命体に伝わるこの手の伝承は一通りチェックしておく主義でね。
これがその惑星の古代文明について考察する際、役立つこともままあるからな」
「それで、エルネストさんは何故、ブラムスさんがそのヴァンパイアだと思ったんですか?」
首をかしげるフェイトに対し、エルネストは「それはな」、と短く発言。
再度ブラムスの顔に目を向けようとして――結局直視することは諦めた。
「ブラムスが見せてくれた能力、そしてミカエルを空中で無力化した、とある攻撃が論拠だ」
エルネストは右手の親指のみを立て、彼らの車座の外側にある、それを指し示す。
「幸いミカエルの死体は首から下が原形を留めている。
何なら後でミカエルの首筋を見てみろ。
小さいながらもミカエルの頚動脈にまで達している、深い刺し傷が二つ残っているはずだ」
「……それは遠慮しておきます」
心底からの嫌悪感を露に、フェイトはぞっとしない思いでエルネストの提案を断った。

79闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:36:43 ID:bUVETw3U
確かにミカエルの死体の首から下は原形を留めてこそいるが、
首から上はブラムスの手により……もとい、足により踏み砕かれている。
フェイトとてその得物で多くのモンスターや、時には地球人をも含む知的種族を斬っては来たものの、
さすがにそんな惨殺死体を好きこのんで眺めたいと思うほどに、その精神は歪んでいない。
無論エルネストとて、その提案はあくまで冗談半分で行ったものだ、と軽く笑い飛ばすことも忘れはしないが。
「あの時フェイトはロキの方に注意が行っていたから、見逃していたかも知れないが、
実はこのブラムスという男は、俺の『ディメンジョンウィップ』でミカエルを怯ませたとき、
空中でミカエルの背後を取り、そこから不意打ちをかけようとしていた。
もちろんミカエルもただやられるままではなく、背中越しにブラムスの体を捕まえ、
自身からのゼロ距離熱放射でブラムスをこんがり焼くつもりだったんだろうが、
そこでブラムスは何と、ミカエルの首筋に噛み付いて、そこからミカエルの血を吸っていたのさ」
ブラムスはエルネストの説明を聞き届け、軽くその首を縦に振りエルネストを肯定する。
「実を言えばあの時、あのミカエルとやらが我の体を掴み取ってくれたのは、むしろ幸いであった。
奴が我の体を掴み、密着間合いまで引き寄せたことで、自然と我の口元は奴の首筋に持っていかれ、
更に我の牙に対する防御を自ら放棄した形になる。
我が奴の首筋に噛み付くための膳立てを整えたのは、皮肉にも奴自身というわけだ。
念のため奴の懐に飛び込む前に、この仮面を外しておいたのは正解であった」
ブラムスが言葉を放ち終えれば、会話の主導権は再度エルネストのものとなる。
「奴ら十賢者は、いかにネーデ史上最強の生物兵器とは言え、
生物をベースにして出来ている以上、生物にかけられた制約には逆らえない。
大量出血を起こせば失血死だってするし、そこまで行かずとも貧血になることは十分ありえる。
ましてやブラムスがさっき狙ったのは頚動脈――脳に直結する血管だ。
そんなものを破られて大出血を起こした挙句に、さらに血液まで吸い取られれば、
いかな十賢者ですらイチコロで意識を失わざるを得ない、というわけだな」
「そもそも常人ならば、我が首筋から吸血を行った時点で、頭から上に流れている血を全て失い、死に至るがな。
それなのに奴は我が吸血を行った上で、脳天から地面に叩き落としてすら、まだ辛うじて生きていた。
つくづく、出鱈目なまでの生への執着心よ」
ブラムスはひどく不満そうな、つまらなそうな、そんな憮然とした様子で首を一つだけこきりと鳴らせた。
一方のエルネストの言葉は、次をもって結論へと向かう。
「それ以前にも、ブラムスは自身の体を黒い霧に変えて、
霧になった体をミカエルの背後で再度実体化させた上で、不意打ちを行うという真似までやってくれている。
自らの体を霧に変えたり、二本の牙で吸血を行ったり、その手の能力は地球の伝承にあった、
ヴァンパイアと実に酷似していてね――それが、俺がブラムスをヴァンパイアではないかと推察した論拠だ」
「なるほど、分かりました」
疑問が氷解し、ようやくのことで腑に落ちたフェイト。
エルネストの持論については、ブラムス自身から若干の訂正が成されたのだが。
「厳密に言うなれば、我は不死者王(ノーライフキング)……不死者の王たるヴァンパイアの、そのまた王君ぞ。
――ひとたび玉座を離れしまっては、我の威光も伝わらぬやも分からぬがな」
(((伝わらねー理由はそこじゃねーし!!!)))
ブラムスのその発言を受け、奇しくも残る3人の心の叫びはぴたりと一致していた。
ここで改めて読者諸氏に問わねばなるまい――今のブラムスについて。
今のブラムスの姿は、あちこちが焼け焦げた袈裟を着込み、その顔面は仏像の仮面がへばりついている。
極めつけはその頭部に装着された、頭髪が絶滅危惧種扱いの文字通り不毛の荒野と化した頭皮をあしらった、
セミパーフェクトハゲのカツラ。
ミカエルの巻き起こす紅蓮の嵐を潜り抜けても、不自然なまでに焦げ跡が残らないそのヅラは、
光とついでに熱の反射率まで100%なのかと思わず疑いたくなる。
とにかくそんな姿の人間――歯に衣着せずに言えば、「一見気の触れた」人間しか見えない今のブラムスの姿は、
偉大なる不死者の王と自称されて納得する者はいなくとも、
寺の住職の変装をした上で、寺に今しがた火事場泥棒を敢行してきたこそ泥と言われれば納得できてしまえる
人間の方が多数派としか思えない、実にファンキーなスタイルと言わざるを得まい。
これこそが、今の今までこの場の3人が、ブラムスの姿を直視できずにいたその理由。


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