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日本大陸を考察・ネタスレ その148
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「一つ頼みがある、ハヤシザキ殿」
「何でしょう?」
立ち上がりレイピアを鞘に収め、小手と盾を外しながらラウールは訝しむ甚助に左手を差し出した。
「あなたの国の習慣ではないかもしれんが、できれば握手してほしい。心臓に近い方の手で」
「これで良ければ」
なんとなく意味は察したのだろう。
木刀を納めた甚助もふんわりと笑いながら手を差し出し、二人の手がガッチリ握られる。
どちらの顔にも、先程までの真剣勝負の名残は微塵も見当たらない。
「勝てば栄光、負ければ惨めといいたいところだが、今回ばかりは誇りをもって敗者とならせていただくぞ、ハヤシザキ殿」
真剣勝負が終われば、もう敵ではないとばかりに快笑したラウールは大広間を見渡し、よく通る声で宣言する。
「この試合、ハヤシザキ殿の勝ちだ」
どよめく観衆を前に、手を離したラウールが優雅に相手に一礼すると、甚助もまるで打ち合わせでもしていたかのような完璧なタイミングと美しい一礼で応える。
「彼の勝利を称えてくれないか? フランス騎士の名が泣くぞ」
未だどよめく同僚たちをたしなめるように言いながら、ラウールは甚助に向かって困ったように片目をつぶって試合場を後にした。
「フランス人というのは洒落が効いていますな」
「甚助殿も遊びのコツを心得ておられますから」
「分からぬ野暮もいそうですがな」
「ま、本人は心得ておるでしょう」
景兼と定次の言葉に忠明がそんな事を言うが、重位がフランス側を見やりながら付け足す。
実際、ベンチに戻ったラウールに詰め寄る者もいたのだが、この貴公子然とした伊達男は苦笑しながら首を振った。
「よしてくれ。俺は敗北の苦い酒は甘んじて飲めるが、負け惜しみの腐った酒は飲めんのだ」
なお言い募る者に、ラウールは続ける
「それに、最初からハヤシザキ殿は俺との勝負に付き合う必要などなかった。あの最後に見せた技は太刀でも使えただろう。ならば、最初の一合で俺は破られていた。敢えて
俺の流儀に付き合い、その上で彼は勝ったのだ。……俺を負け犬と呼ぶのは構わんが、恥知らずにはなれんよ」
そう、全てを悟ったような顔で静かに告げた。
そこには、これ以上の文句があるならまず自分が受けて立つという意思表示が込められ、そうまで言われては誰も口を挟む事ができない。
「この交流会で思惑の崩れる者は多勢出るだろうし、話がどうなるか分からんが……」
黙った同僚たちを横目で見やりながら、ラウールは呟き、そして破顔する。
「あのような男たちが住まう日本という国、見たくなったぞ」
敗北してなお爽やかさを失わず、伊達男の挟持を崩さない男はそう言って自分の敗北を締めくくったのだった。
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