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日本大陸を考察・ネタスレ その148
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日本剣術と西洋剣術の最大の違いの一つがこれで、相手の剣の刃ごと刀身を掴んで制する技術がヨーロッパには数世紀に渡って伝承されてきた。
無論、日本剣術にも相手の刀の刀身を掴むなどして制圧する技法はあるが、刃ごと握って制圧してしまう前提で組み立てられた技術はまず存在しない。
例え剣豪である甚助と言えど、初見殺しとも言えるやり方で、なおかつ経験した事がまず無いであろう技を使われたら、絶対に引っかからないとは言えないだろう。
卑怯とは思わない。
先程、自身の手の内を見せた時、実際は相手の刃を小手で掴んで倒す技も見せていた。
説明こそしていないが、彼ほどの剣豪に見せたというのは教えたというのと同じことなのだから、何ら恥じるものをラウールは感じていない。
それに加え跳躍しての奇襲もブラフとして、ラウールは最初から甚助の木刀をまず奪ってしまうつもりで、そのためなら、受け止めた盾を固定した前腕と木刀を掴む小手の
中を折り砕かせる事すら構わない心づもりでいたのだ。
恥じるものは何一つ無く、そして、そこまでの覚悟をもって挑んだ彼の賭けは成功した。
梃子の要領で木刀の切っ先を掴まれて捻られた甚助は、そのまま体を持っていかれないように手を離してしまう。
地面に転がるように素早く着地したラウールが膝立ちとなって、人体の構造上避けにくい下方向から甚助への意趣返しをするかのように突きを繰り出すのと、甚助が小太刀を
抜くのは同時だった。
だが、小太刀とレイピアではリーチが違いすぎる。
フランス側の全員と、日本側の何人かもラウールの勝利を幻視してしまう。
本当に、一瞬の後にはそんな光景が広がっていると誰もがそう思った。
「……教えてくれないか、ハヤシザキ殿」
「何でも構わんよ」
「あなたの実力なら、俺の奇襲も木刀を奪う技も見抜いて破れていたのではないか? なぜ、敢えて付き合ってくれた?」
「そうですなあ」
ラウールの問いに甚助は首をひねる。
「武術とは、絶体絶命の危機から生を拾い上げる術。ならば、敢えて危機に体を晒した時にこそ、逆に勝利の目が見えるというもの。そういう事ですよ」
「なるほど、それは真理ですな」
言われてラウールの口元に晴れやかな笑みが浮かぶ。
その喉元には甚助の小太刀の木刀が突きつけられているが、ラウールのレイピアは甚助の体に届いていない。
「何が……」
傍で見ていた松田にも訳が分からなかった。
甚助が小太刀を抜刀したところまでは、誰もが見えていたが、その次の瞬間が訳が分からなかった。
まるで木の枝でも振るかのような軽やかな振りでラウールのレイピアは撃ち落とされ、跳ね上がった小太刀はそのまま彼の喉元へと突きつけられたのだ。
その動きが、さっき甚助が小太刀を抜いて見せた動きそのままのものであったのに気づいたのは、剣豪たちを除いて僅かにしか存在しなかった。
実戦で相対する相手に見せた形そのままで技をやり遂げてしまうなど、離れ業にも程がある。
「だから、よう見ておくように言ったであろう? 松田殿」
景兼の声が背後から届く。
「儂も卜伝先生に見せてもらった時以来、久々に見たでな」
「へ? じゃあ、あれが……塚原卜伝の」
景兼が頷き、ようやく松田にも合点がいった。
一之太刀
戦国時代最強にして最高の剣豪の一人として、塚原卜伝の名を挙げない者はいないだろう。
生涯無敗のまま世を去った剣聖の奥義として、名前だけ知られている技が一ノ太刀。
史実では足利義輝や北畠具教に伝授したと伝えられる幻の技であるが、史実でも林崎甚助は卜伝に一ノ太刀を伝授されたという伝承が存在する。
伝える派によっては一子相伝で伝えられ、小太刀を用いる技として伝えられているという。
この大陸日本の世界でもまた甚助は卜伝から教えを受けていたようで、抜いた小太刀でラウールのレイピアを撃ち落とすと同時に、彼の喉元へと突きを放ってみせたのだった。
最初から、甚助は奥の手のさらに奥の手を見せ、きっちりそれを使って勝利したのである。
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