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日本大陸を考察・ネタスレ その148
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これまでの試合のスピーディな終わり方と違い、両者の出だしは緩やかなものだった。
最初、二人は一礼すると5メートルほどの距離を開け、ラウールはレイピアとバックラーを前方に突き出す第六の構えと呼ばれる姿勢で、甚助は木刀の柄に手すら
置かず自然体で対峙し始める。
お互いの剣が絶対に届かない間合いから、二人の足がそろりそろりと動き出す。
少しずつ距離を詰めながら、相手の側面に回るように弧を描いて歩を進めていく姿は上から見れば剣牙虎などの猫科の獣が間合いを詰めていく動作にも通じ、あるいは
太極のマークを描いているかのようにも見えた事だろう。
「甚助殿も、遊びに入りましたな」
「まあ楽しまねば損ですからな」
景兼に忠明が笑って返すのを聞いてか聞かずか、対峙し合うフランスと日本の剣士二人の顔には緊張感はなく、むしろ薄く笑みが浮かんでいた。
無論、ふざけている訳は毛頭なく、ラウールの頬に汗が伝い落ちていく。
『さすがだな。やはり特大の猫かぶりだ』
この間合であれば、ほんの僅か、呼吸のほんの一瞬の間があればラウールは一気に間合いを詰めて突きを食らわせる事ができる自信がある。
だが、そうはできない。
縁側で日向ぼっこをしているような甚助なのに、まるで彼が突き込める隙が無いのだ。
逆に、少しずつ少しずつ防御の間を削り取られているような気がするのは錯覚ではないだろう。
抜いても神速だが、抜く前から勝負を決めにかかっているらしい。
最速の突きが勝つか、最速の抜刀が勝つか
知らず知らずの内に日本とフランス双方ともに黙り込み、固唾を呑んで二人を見守り始めている。
空気が次第に張り詰め、人の息遣いしか聞こえてこない。
「っ!」
その静寂を破ったのはラウールだった。
まるで呼吸を合わせるかのように歩を合わせていたのを、突如として一気に駆け出すが、甚助の間合いに入るまでもう僅かだというのに、彼は柄に手をやろうとすらしない。
なぜ?と皆がそう思った瞬間、
「思い切りましたなあ」
景兼が感嘆の声を出すのと、ラウールが斜め右横……甚助から見て左側に一気にジャンプするのは同時だった。
そして、跳躍する瞬間、僅かに身を捻りながら跳んだラウールはそのまま勢いをつけて回転し、自身の体重と回転の遠心力が一気に乗ったレイピアを甚助へ突き出す。
中国拳法にも駆けながら相手の横へと跳躍し、回転して背後から蹴りを入れてしまう大技があるが、ラウールも自身の研究によって似たような技を身に着けたのだろう。
奇襲の効果と、十分なスピードと体重の乗った一撃を、それも防ぎづらい頭上からの一撃とあれば達人とて防ぎようが無い。
誰もがそう思ったが、
「え?」
誰かがキョトンとした声を出した。
ラウールが絶対の自信を持って突き出したレイピアが届く寸前、到達する筈だった甚助の上半身が消失していた。
無論、消えた訳ではない。
甚助の頭も上半身もちゃんとある。
だが、その位置は先程まで見ていた場所になく、そこからずっと下がったところにあった。
ラウールが跳躍し、回転を始めるのに合わせて甚助は相手の方を向くや体を開いて身を沈め、最初に見せた趺踞と呼ばれる胡座に片膝立てた姿勢になっていたのだ。
こうなると、突き技や跳躍技の弱点……一度体重を乗せてしまえば、容易に方向を変えれないのが仇となる。
ラウールのレイピアの切っ先が耳横を掠めるほどの近い場所を通るのと、甚助が抜刀しながら立ち上がるのは同時だった。
一瞬で抜刀した甚助の木刀は方向転換出来ないラウールを一刀で仕留める。
誰もがそう思っていただろうが、
『あなたなら、きっと俺の突きをも破るだろうと信じていたぞ! ハヤシザキ殿』
ただ一人、甚助がそうするであろうと信じていたラウールは、最後の奥の手を用いた。
だが、剣豪達以外で誰が彼のとった戦法を見極められただろうか。
甚助の木刀が下から斬り上げてくるのをバックラーで受け止めるのでなく、滑らせるようにして衝撃を受け流すや、ラウールは小手で木刀を掴み、地面へと着地しようとする
自分の体重を乗せて捻ったのである。
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