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日本大陸を考察・ネタスレ その148

401六面球:2018/11/09(金) 15:22:31 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp
 物理的に突き技は剣術の技でも最も早い部類に入る技術だが、ここまでの技を……木剣で羊皮紙を貫いてしまうほどの鋭さと速さを持つ技を会得するには、どれほどの
才能と修練を要するか。
 それを知るがゆえに、甚助は素直に感嘆してみせる。

「お褒めに預かり光栄だ」

 突き技だけでなく、架空の相手を前にするかのようにバックラーと小手で防御しながら倒す技や様々な得意技を披露し、そうラウールは甚助に優雅な動作で一礼する。
 仕草の一つ一つが洒落ているのが、伊達男の特権なのかもしれない。

「某に技を見せて良かったのかね?」
「勝つも負けるも時の運なら、納得できるようにしておきたいのだよ、ハヤシザキ殿」

 そう、フランス人騎士は甚助に言い切る。
「手の内を見せなかったが故に勝てた。それじゃあ当たり前の話だろう? 手の内を知らせておいて、なお勝つ。これこそが誰も卑怯と謗れない、誰もが納得できる決闘の勝ち方だ。
それが俺の流儀だよ……馬鹿だとは思うがね」
「いやいや、そうでもござらんよ」

 まるで負けん気の強い孫をなだめるような笑顔で甚助が手を振る。

「武において敵を考えるのは下の下、向き合うべきは己だと言いますしな」

 そう言って、ラウールから間合いを離すと甚助はどっかと座ってあぐらをかくと片膝を立てる。

「さて、フランスの御仁が得意技を見せたと言うなら、こちらも相応の礼を取らねば恥でしょうな」

 言って、松田にベンチに置いてある袋から何か投げるように指示し、良いのかという顔をした彼がままよとばかりに取り出して投げるや……


「お見事」


 次の瞬間には、からからと大広間の床に硬いものが転がる音と共に、ラウールの賛辞が続く。
 皆が気づくと、甚助はいつの間にか立ち上がり、鞘から本物の刀のように薄く削られた木刀を抜き放った状態から、するりと再び鞘に収めるところだった。

 彼から少し離れたところに転がったのは、殻付きの胡桃。
 食べるつもりだったのか、袋に入れていた胡桃を投げさせた甚助は立ち上がるのと同時に抜き放った木刀で、それを砕くのでも割るのでもなく、断ち切ってみせたのだった。
 こちらもまた、常人には不可能な真似をしてみせたのは剣豪の茶目っ気か、ラウールへの返礼か。


「それも四つ割りとはね。どう斬ったのかは俺も見えなかった」

 床に転がった胡桃は、四つの破片に綺麗に分割されている。
 抜き放って斬るのは分かるが、もう一度はどう斬ったのか、それを見えたのは何人もいないだろう。

「それに、見事な剣の抜き方だ。その長い刀をどう抜くのかと思っていたが、まさかそんな風に抜く方法があったとはね」

 だが、彼がどう刀を抜いてみせたのかはラウールにも分かった。
 抜きやすいと思われる水平方向でなく、甚助はほぼ垂直に刀を抜いて見せたが、原理は単純なものだった。

 甚助は立ち上がりながら抜刀するのに合わせて鞘も同じ方向に抜き、ある地点で鞘だけを元の位置へと急激に引き戻したのである。
 こうすれば立ち上がる時には刀は抜き放たれ、そのまま相手へと放たれる。


 卍抜け


 甚助が抜刀の神髄を得るために神社に百日籠もり、満願の日に夢に出た白髪の老人から学んだという、いかなる状況でも刀を抜き放てる技。
 林崎流の根幹とも言える技術である。
 言ってみれば単純な原理だが、それを可能とするための技術と……それを身につけるためにどれほどの修練をしてのけたのか、ラウールは痛いほどそれがわかったから賛辞の声を惜しまない。

「ま、見せられた以上はこちらも見せねばなりませんでな」

 太刀の木刀を収めた甚助は、今度はラウールの盾や小手の技へ返すように小太刀を抜くと、ひょいひょいと振ってみせる。
 こちらもまたラウールには見事に見えるが、先程の卍抜けほどのインパクトは無い。
 するりと抜いたかと思えば軽やかに振り、ピタリと静止した状態になって再び納刀する。


「林崎先生、今回は小太刀の技も使うんですかね」
「……長生きはするもんだの」
「へ?」


 甚助の演武を見ていた松田の背後から、景兼の聞いたこともないような声音でそんな言葉が届いた。

「松田殿、よう見ておくがいいぞ? 絶対に損はありませんで」

 振り向くと、珍しく驚いたような顔になった景兼の顔が、にんまりとした笑顔になる。

 それはどういう……

 そう問おうとしたのと、第三の試合が始まるのは同時だった。




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