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日本大陸を考察・ネタスレ その148

400六面球:2018/11/09(金) 15:19:07 HOST:ipbfp004-030.kcn.ne.jp


【第三試合・林崎甚助】


「さて、お初にお目にかかる……ハヤシザキ殿?」

 そう挨拶したのは第三試合のフランス代表チームのリーダーである、ラウール・ド・キリアンであった。

 今年で三十半ばになるこの男は、一言で言えば現代日本人が想像する典型的なフランス系伊達男だ。
 スラリとした長身に誂えた胴着は高級さが一目で分かり、綺麗に撫で付けられた黒髪や口ひげの整い方も美しく、特にクリームなどで手入れしている訳ではないのに手や肌の
艶やかさは栄養や衛生の状態が良い身分の高さを見て取れる。

 貴族的な容姿に物腰も優雅で気品があり、言葉遣いも発音も美しいのは当然で子爵位を持つ貴族であり、戦の経験も少なくない人物だった。
 この時代の人間だから当然、決闘の経験も多く、今でも顔や手足に目立った傷もなく生きているのは彼の強さをさりげなく証明している。


「こちらこそ、お初にお目にかかる」


 対する林崎甚助の方も屈託なく自然に応える。
 景兼ほどではないが、来年で還暦になるから良い年の男である。
 フランス人騎士から見てずば抜けて長身という訳ではないが均整の取れた肉体をしており、よく鍛錬した剣のような鋭さとしなやかさを漂わせている。

 彼らは知らなかったが、十代で居合の極意に開眼し、各地を遍歴しながらその技を磨いてきた武名は高く、日本の武芸者で知らぬ者を探す方が難しいほどの男だ。
 もっとも、春風がふいているのを感じさせるようなふんわりとした雰囲気を持つ甚助を見て、彼が苛烈な技を持つ武芸者と思える者も少ないのだが異様な技を持つであろうことは分かる。
 何せ、彼が腰に差している木刀は、普段の愛刀と同じく刃長は三尺三寸(約1メートル)。
 フランス人から見ても、そう見劣りしない体格である甚助であっても、やはり異様な長さの武器を腰に据えているのだ。


『まったく日本人というやつは、どいつもこいつも特大の猫をかぶるのが得意らしい』


 日向ぼっこでもしに来たような様子の甚助に、ラウールは内心で苦笑する。
 先年、知り合いが彼の地で剣牙虎を見た時、世話をする日本人には子猫のようにじゃれつくのに、いざ戦となれば伝説の悪鬼すら屠ると思えるほどの戦闘力を見せたと聞いていたが、日本に
住まう者は己の恐ろしい部分をさりげなく隠す術を身に付けているのかも知れない。

 とは言え、これは試合であるが真剣勝負。

 彼とてフランス武者として負けっぱなしでいて平気でいられる厚顔さは無かったから、ここで踏ん張らねばならぬ。
 さり気なく決意を胸にしたラウールの右手にはレイピアを模した細身の木剣があり、もう片方の手には……

「ほう、それが西洋盾か」

 甚助がしげしげと眺めながら言った通り、ラウールのもう片方の手にはバックラーと呼ばれる小型の円形盾が前腕に括り付けられ、その横から頑丈な革製の小手の姿も見えた。
 貴族の誂えものであるから当然、盾の造りもしっかりしているし、小手も分厚いのに指の一本一本が可動するようにできているから、高価なものであるのは一目で分かる。


 現代に残された資料を見聞する限り、日本古武道と西洋の古典武術の基本的な技術に特に差は見受けられない。

 人体の構造が共通する以上当然の事だが、甚助の居合のようにそれぞれの国にしか無い技法も存在し、西洋剣術と日本剣術を大きく隔てているのが、この盾を使用する技法だった。
 騎乗時はともかく、徒歩の際は両手で刀を用いる事の多い日本剣術に対し、片手剣と盾が発達した西洋では、盾を用いて防御するだけでなく相手を殴りつけたり引っ掛けて転倒させたり、あるいは
盾に仕込んだ刃物やスパイクで殺傷してのけたりと、盾という道具の使いこなし方が無数に存在する。

 百戦錬磨の甚助にとっても、やはり間近で見るのは初めてであるから、お上りさんのようにしげしげと眺めてしまう。


「そう。そして、これが俺の技だ」

 甚助から十分に間合いを開けながら同僚に目配せすると、怪訝な顔をしつつも頼まれた通りに、手のひらほどの大きさに切られた羊皮紙を数枚バラバラに放り投げてくる。

 確かに、投げたように見えた。


「ほう、早い突きですな」


 次の瞬間、響いた甚助の感嘆の声は、大広間にいる者全員の感想でもあっただろう。

 放り投げられた羊皮紙は一枚たりとも床に落ちていない。

 全てラウールのレイピアに吸い寄せられるように貫かれ、束ねたような状態になっている。
 誰も、どう突いたかを見えた者は……甚助を始めとする剣豪達を除けばいなかった。

 恐るべき速さの突きを繰り出し、ラウールは地面に落ちる前に羊皮紙全ての中心を貫いて束ねて見せたのである。




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