したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

避難用作品投下スレ5

465さよならを教えて:2009/11/12(木) 23:40:57 ID:tq0nwEpg0
イルファの機械染みた声が震える、掠れる。
暫く口を開いていなかったイルファの音声は、優しい彼女の暖かさが全く感じられないくらいのひどいものだった。
最早雑音。
ぷすぷすといった異音も、彼女の口以外の場所から漏れている。
かたかたと震えるイルファの全身から、湯気が噴出す。

「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

大気を引き裂くノイズを発しながら、オーバーヒートしたイルファはそのまま前のめりに倒れそうになった。
崩れていくロボットの体を、浩平が慌てて受け止めに行く。

「熱っ!!」

予想以上の温度を持ったイルファの機体に戸惑いながら、浩平もやっと理解した。
この美しい少女達が、彼女が命よりも大切にしていた存在だったということを。
彼女達のことだけを考え、奮闘していたイルファの姿を浩平は少ない時間ではあるが隣で見てきた。
そんなイルファにとって、この光景はあまりにも。
あまりにも、酷だった。





それから暫く経ち、午前六時。
流れた放送が、姫百合姉妹の絶命を告白する。
目視していた浩平からすれば、ただ裏付けが取れただけの現実だ。
また見知った仲間達の名前も次々と呼ばれたことで、浩平の心もどんどん暗く落ち込んでいっていく。

466さよならを教えて:2009/11/12(木) 23:41:14 ID:tq0nwEpg0
自分と世界を繋ぎとめた友人達とは、もう会えないということ。二度とだ。
消えた温もりに縋りたくとも、今や浩平は一人だった。
誰もいない。
動きを止めたロボットは、鷹野神社の境内にて安置されている。
再起動する気配はいまだなかったが、浩平はもう彼女が動くことはないと思い込んでいる。

呼ばれたのだ。彼女、イルファも。
ちょうど浩平が、こうして境内の入り口、見張りを兼ねたその場所にて頭の中を整理しようとした時である。
そのタイミングで流れた放送の中に、イルファの名前はひっそりと含まれていた。
あぁ、壊れたのだと。
浩平が納得するのに、時間はかからない。
主君を喪ったショックであろうと、簡単に予測をつけることは可能だった。

「これから、どうするかな……」

浩平の小さな囁きは大気に溶け、そのまま消え入る。
呆けながら周囲を眺めているだけでも、時間というものは刻々と過ぎていく。
ため息を一つ吐き、浩平はとりあえずそのままにしていた姫百合姉妹の遺体を葬ってやろうと、立ち上がった。


         



『起きて』

誰かの声。少女の囁き。
境内の中、こもった音が響き渡る。
横たわるイルファはまだ、回路が回復していない状態だった。

467さよならを教えて:2009/11/12(木) 23:42:00 ID:tq0nwEpg0
『起きて』

再び少女が呼びかける。
相も変わらず反応は返されなかったが、どうやら少女も簡単には諦める気がないのだろう。
それから幾度に渡って、少女はイルファに声をかけ続けた。

『むう』

目を覚まさないイルファに対し、少女が不満から膨れるような声を出した時だった。
微かな機械音が、鳴り始める。
その出所はイルファだった。
小さな呻きが漏れる。
その出所も、イルファの口元だ。
ゆっくりとイルファの瞳が開かれるが、情報を整理している途中なのかその眼はどこか空ろである。
そうしてイルファは、静かにゆっくりと起動した。






【時間:2日目午前6時半】
【場所:F−6・鷹野神社】

折原浩平
【所持品1:仕込み鉄扇、だんご大家族(だんご残り90人)、イルファの首輪、他支給品一式(地図紛失)(食料少し消費)】
【所持品2:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 4/5 +予備弾薬5発、他支給品一式×2】
【状態:姫百合姉妹を葬る、ゆめみ・七海の捜索】

イルファ
【所持品:無し】
【状態:首輪が外れている・右手の指、左腕が動かない・充電は途中まで・珊瑚瑠璃との合流を目指す】

(関連・905)(B−4ルート)

468終演憧憬(3):2009/11/13(金) 14:35:42 ID:lHAFtzZg0
 
「―――なんで! なんでよ!」

叫んだ長岡志保が、思い切り木製の机を叩く。
じんじんと痺れる手を握って、もう一度。
それでも飽き足らずに額を打ちつけて、その痛みがどこか頭と胸との中で暴れ回る棘の塊を
抑えつけてくれるような気がして、もう一度額を勢いよく振り上げて、

「長岡さん」

ひどく静かな声に、止められた。
苛立ちのままに振り返る、志保の顔はところどころが撥ねた泥に汚れている。

「……でも、早苗さん!」
「お気持ちは分かります」

沈痛な面持ちで頷く古河早苗の傍らに、古河渚の姿はない。
隣の診療室で寝台に寝かされている春原陽平の様子を見守っているはずだった。
早苗が、常になく真剣な眼差しで志保を見つめる。

「ですが、今できることを、しましょう」
「そんなこと言ったって! あたしたちだけじゃ……!」

乱暴に首を振った志保が、窓の外を見る。
次第に朱く染まりつつある空には、しかしいつの間にか薄い灰色の雲が湧き出して、
既に天球の半分を覆い隠していた。

469終演憧憬(3):2009/11/13(金) 14:36:01 ID:lHAFtzZg0
「嵐が近づいてる、船を出すのは待てないって……! お医者さんも来てくれないって……!」

絞り出すように呟いた、それが長岡志保が疾走の末に得た結果だった。
指定の集合場所まで走り、軍の担当官と押し問答を続けて、そして何も得られなかった。
帰還便の出航は二時間後の午後六時。
南からの熱帯性低気圧の接近に伴い二時間以内の降水確率は九十%。
風と波は次第に高くなると予想され出航の延期は認められない。
そもそも帰還便には出産行為に対応する医療設備は存在せず、回収人員の拠出自体は可能だが
出航時刻までの帰還は絶対条件であり、現地での長時間にわたる滞在は認可できない。
最大限の譲歩、と語頭に付された、それが最終的な回答だった。

「春原さんはもう、ここから動かせる状態ではありませんし……仕方ありません」
「なんでよ! なんで聖さんもいないのよ!」

早苗の言葉をかき消すように、志保が叫ぶ。
やつ当たりでしかないと、分かっていた。
分かっていて、止まらない。
つい今し方にもそれで取り返しのつかない事態を招いておきながら、
それを悔やんでおきながら、しかし、変われない。
省みるにも、学ぶにも、変わっていくにも、時間が必要だった。
今の長岡志保に与えられない沢山のものの、それは一つだった。

470終演憧憬(3):2009/11/13(金) 14:36:33 ID:lHAFtzZg0
「どうすればいいのよ……」

滲む涙は、逃避でしかない。
それで救えるものは、何もない。
理解していた。理解で止まるなら、苦労はなかった。
胸を割り裂いて掻き毟りたくなるような焦燥が、目には見えない傷に沁みていた。
傷の名を、甘えという。
それは、自己憐憫という種を言い訳という衣で包んだ砂糖菓子だ。
甘えていた。
長岡志保は、己に甘え、己以外の何もかもに、甘えようとしていた。
春原陽平のために走ったつもりだった。
少年を救うためにと。
それが自分にできる唯一のことだと。
言い訳に、過ぎなかった。
志保は単に、恐れていただけだった。
己が手に、何かを壊した罪の臭いが染みつくのが、怖かった。
拭い去る機会がほしくて、手近な行為に縋りついた。
血に飢えた殺人鬼も、狂気に駆られた参加者もいなくなった夕暮れの森を
せいぜい数キロ走った程度で、無様に転んで生傷を幾つか作ったくらいで、
何かが赦されると、思っていた。
愚かしい、勘違いだった。

必要とされていたのは行動ではなく、結果だった。
そしてそれは贖罪などではなく、義務だった。
己が衝動のままに悪化させた事態への応急処置でしかなかった。
それすら、満足にこなせなかった。
目尻に溜まった涙の滴が志保の頬を伝って一筋、零れ落ちた。
無力で、無価値で、醜い涙だった。

「―――お湯を沸かしてください」

涙が机の天板を叩く音に浸ろうとしていた志保が、驚いたように顔を上げる。
静かな、しかし有無を言わさぬ強さを持った古河早苗の、それは声だった。
戸惑い辺りを見回す志保を、早苗はじっと見据えている。

471終演憧憬(3):2009/11/13(金) 14:37:13 ID:lHAFtzZg0
「長岡さん」

響いた声は、叱咤ではない。
怒声でも、なかった。
ただ淀みなく指示を出すだけの、感情の篭らない声。
それが優しさなのか、厳しさなのか、それとも他の何かであったのか、志保には分からない。
それでも、縋りつくより他に、なかった。
後悔と自己憐憫の泥濘が、自らの足首までを捉えているのは、理解していた。
いずれ抜け出すこともできなくなると分かっていて、動けずにいた。
それでもいいと囁く、諦め混じりの声があった。
何もできない。何も為せない。何も掴めない。
そういう無力を、何もかもが長岡志保に強いるなら、抗うのはやめてしまおうと。
仕方がないのだと、時期が悪い、相手が悪い、状況が悪い、運が悪い、それは仕方がないことなのだと。
何が悪かったのか、誰が悪かったのか、後でゆっくりと、ゆっくりと噛み締めよう。
噛み締めて、悔やんで、涙して、諦めて、諦めきれずに、また涙して、そうして眠ってしまおう。
眼を閉じよう。歩みを止めよう。力を抜こう。横たわろう。
そうしてそのまま、朽ちていこう。
そんな風に囁く、穏やかな声があった。
温かく、やわらかく、安らかな声であるように、思えた。
何かが違うと、そういうものに成り果てたくはないという感じ方を容易く捻じ伏せるほどに、
その声は長岡志保の傷に染み渡ろうとしていた。

「あなたに言っています、長岡さん」

だからそれは、細い糸だった。
粘りつく泥に足を取られた志保の眼前に垂らされた、細く儚い、蜘蛛の糸。
こわごわと、手を伸ばす。
触れて、掴んで、握り締める。
これが、最後の機会だと、思った。
この手を放せば、何かが永遠に失われると、そうしてそれは二度と取り返せないのだと、
それだけを、感じた。

472終演憧憬(3):2009/11/13(金) 14:37:27 ID:lHAFtzZg0
「……」

こく、こく、と何度か小刻みに首を縦に振ってみせた志保に、早苗がひとつ頷き返す。

「はい。ではまず、キッチンと診療室から器になりそうなものをなるべく沢山集めてください」
「……」

返事をすれば涙声が漏れそうで、しゃくり上げそうになるのを堪えながら、言われるままに
のろのろと志保が立ち上がった、そのとき。

「―――ッっっ!」

ひぃ、という悲鳴と、ぐぅ、という呻きの入り混じった奇妙な声が、室内を満たした。
開け放った診療室との境の扉の向こうから、それは聞こえていた。
ほんの僅かな小康状態で眠っていた春原陽平の、目を覚ました合図の呻き声だった。
それが、幕開けだった。

「お母さん!」
「―――渚はタオルとガーゼ。長岡さんはお湯を。できるだけ早く」

矢継ぎ早に指示を出した早苗が、扉から顔を出した渚を追って診療室に駆け込んでいく。
その背を見送った志保が、一秒、二秒の間を置いて、弾かれたようにキッチンに走る。

ぽつり、と。
雨垂れの最初の一粒が窓を叩く微かな音には、誰も気がつかなかった。

473終演憧憬(3):2009/11/13(金) 14:37:49 ID:lHAFtzZg0
 
 
【時間:2日目 午後4時ごろ】
【場所:I-7 沖木島診療所】

長岡志保
【状態:健康】

古河早苗
【状態:健康】

古河渚
【状態:健康】

春原陽平
【状態:分娩移行期】

→1102 ルートD-5

474終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:11:27 ID:AVTkPbzE0
 
「あるとき、一人の女性が勝ち残った」

「強かったね、彼女は。……ああ、そういう意味じゃない。
 いや、そういう意味でも強かったけどね」
「世界で最後の一人になってからも、随分と耐えてたんだよ。
 耐えて耐えて、考えて考えて、狂気に身を委ねることもなく」

「そうして彼女は、今も考え続けてる」
「その内、色んなことに気がついて、色んなことを滅茶苦茶にするんじゃないかな」

「いいんだ、それは」
「それで壊れるなら、だって、僕らにも諦めがつくじゃない」


「ああ、やっぱり、生まれなくていいんだ……って」




******

475終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:11:53 ID:AVTkPbzE0
 
 
それは、きらきらと輝いている。
永遠にくすむことのない、黄金。

さわ、と。
吹き渡る風に揺れる麦穂が、涼やかな音を立てる。
まるで本当の水面のように波打つ、黄金の海原。
青い空の下、どこまでも広がる麦畑の中に、私は立っていた。

「―――」

黄金の海原。
それは、私の起こした奇跡。
蒼穹と麦畑。
それは、私のなくした過去。
約束の場所。
それは、私の思い描いた嘘。

今はもうない、私の護るべきすべて。
なくしたくないと駄々をこねる子供の、泣き疲れて眠る夢の中の楽園。
目の前にある煌きはそういうもので、そこにいるのは、だから―――私自身だった。
黄金色の波間に佇む、小さな影。

476終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:12:14 ID:AVTkPbzE0
「みつけた」

私の望んだ嘘の中、私の願った夢の中。
それは、幼い頃の私の姿をしている。
語りかければそれは、こちらを見て、小さく微笑んだ。
微笑んで、しかしそれだけで、互いの距離は縮まらない。
一歩を踏み出して、麦穂を掻き分けて二歩、三歩を歩んで、しかし少女は、近づかない。
さわさわと揺れる黄金の海の中、少女の微笑は遠くにあって、いくら歩を進めても辿り着けない。
逃げ水のように、蜃気楼のように、それは手の届かぬ向こうから、ただ微笑んでいる。

そうだろう、と思う。
幼い少女は、私のついた嘘のかたちだ。
何も護れなかった私の、最後に縋りついた夢の残滓だ。
必要だから、それを切り捨て。
必要だから、それを忘れた。
必要だから、夢を見続けるために必要だから、私はそれを、棄てたのだ。
汚れた襤褸を、火にくべるように。

ほんの少しだけ勢いを増した火は私を温めて、私は温もりの中で微睡んでいた。
他愛のない、幸福な夢を貪っていた。
灰となり、塵となった嘘を、代償に。

だからそれは、私の手を取ろうとは、しない。
駆け寄らず、近寄らせることもせず、ただ微笑んでいる。
交わらぬ道を歩むように、やわらかく私を拒絶する。

477終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:12:39 ID:AVTkPbzE0
足を止めず、思う。
私の棄てたものが、何であったのかと。
それは力。それは嘘。それは奇跡。
私の中に並ぶ答えは、どれもが近くて、どれもが違う。
それは夢。それはきざはし。それは飢え渇く者に施される、一杯の清水。
私の中に浮かぶ答えは、次第にぼやけて、ずれていく。

私は何を棄てたのか。
私は何を失って、それは私を、どう変えた。
考えて、答えはなく。
だから幼い影は、近づかない。
少女の浮かべるその微笑が、綺麗だと。
そんなことを、ぼんやりと思った。

綺麗。
そうだ。
それは、とても綺麗なものだ。
とても、とても綺麗で、眩しくて。

だから私は、それが嫌いだった。

478終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:13:35 ID:AVTkPbzE0
ああ、そうだ。
記憶の淵の泥沼の、汚れた岸辺に打ち上げられた古い糸を手繰り寄せれば、
ずるずると引き揚げられるそれは、嫌悪の情だ。

きらきらと輝くそれは、がたがたと隙間風に揺れる罅の入った窓から見える景色と違いすぎて。
瞼を閉じてなお目映いそれは、言葉もなく貼りついたように薄い笑みだけを浮かべる、
私の護れなかったものの白く濁った眼差しからは、あまりにも遠すぎて。
手を伸ばせば温かいそれは、私を余計に苦しめて。

だから私は、それが嫌いだった。
許せなかったのだ。
そういうものが存在しているということ、そのものが。
許せないままにそれを棄てて、綺麗で眩しくて温かいものを棄てた私は、だから醜く澱んでいて。
弱く、弱く、在り続けた。

私の心臓を取り出して、薄い刃で傷をつければ滲み出してくるのは血だ。
黒く粘つく、溜まり澱んで腐った血だ。
たいせつなものと綺麗なものと、そういうものが欠け落ちた、それが私の心臓だ。

それを赦し、そんなものでいることを赦し、私は在った。
喪失を許容し、ただ事実や過去や、その程度に膝を屈して。
抗うことを、戦うことを、肯んじぬことを、忘れていた。

口を開けて待っていた。
救済を。奇跡を。誰かを。何かを。
怠惰に安眠を享受していた。
だから、私には、何も与えられなかった。
縋りついたはずの救いの糸は、幻想でしかなく。
幻想であることをすら、認めようとしなかった。
そんな私に齎されるものなど、何一つとしてありはしない。
腐敗。
それが、川澄舞への、抗うことを忘れた者への、罰だった。

479終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:13:52 ID:AVTkPbzE0
 
 (―――君は、生きたいか?)


だから、死は贖いで。
そしてまた、川澄舞が川澄舞に戻れる、ただ一度の機会でもあった。
この薄汚れた心臓を切り裂いて、澱み濁った血を流しきって。
そうして私はようやく、弱く在ることを、やめた。
やめることが、できた。
たいせつなものと。
綺麗なものと。
醜いものと。
弱いものとを、棄て去って。
ただ、始まりの私に、戻れた。

空っぽの川澄舞は、だからひとつづつ、取り戻す。
取り戻すために、ここにいる。
死や、流れゆく時や、取るに足らぬ何もかもを組み伏せ。
棄て去ったすべてを、奪い返し。
あるべき姿にないありとあらゆるものを赦さず。
久遠を、抗おう。

そうして私は、護れなかったものを、護りたかったものを、喪ったものを、喪いたくなかったものを、
この胸に、抱き締めるのだ。


***

480終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:14:06 ID:AVTkPbzE0
 
見渡す。
黄金の海原は静かに揺れている。
嘘と断じる。
こんなものは、存在しない。

麦穂が、消えた。
風が途絶え、空が割れ、地面が音もなく失われた。
色が薄れ、灰色の世界が塵になってさらさらと崩れていく。


瞳を閉じる。
在る、と断じた。
川澄舞は喪失を赦さない。
ならば、喪われたものが、喪われたという程度のことで、喪われることなど、あり得ない。

眼を開ければ、そこには風が吹いている。
きらきらと輝く黄金色の麦穂は、風に揺れて波打っている。
金の海原はどこまでも続いて地平線で空の青と融けあい、そのすべてが一点の曇りもなく煌いて、
朗々と久遠を謳い上げていた。


これは嘘だ。
偽りで、幻で、どこにも存在しない、だが、それだけだ。
幻想で、夢想で、だが私が、ここに在ると決めた。
妄想で、空想で、だが私は、それを認め、蹂躙する。

川澄舞は、事実の如きを踏み躙る。
踏み躙って君臨し、この手のすべてを、離さない。

この手に掴む、この手を掴む、すべてを。


***

481終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:14:39 ID:AVTkPbzE0
 
差し伸べた手の先に、少女がいた。
辿り着けなかったはずの距離は、既に零に等しかった。
川澄舞の取り戻すと決めたその前に、交わらぬ道など、交わらぬというだけでしか、ない。

「―――あたしは」

少女が、静かに口を開く。
その瞳は真っ直ぐに私を見上げ、揺らがない。

「あたしは、明日が今日よりもいい日だ、って思う心。
 そうじゃなきゃ許さないって願う力。そういうもの」

答えず、見据える。
それは少女の、かつて川澄舞の棄てたものからの、川澄舞に告げる断罪であり、
同時に真摯な祈りであり、そしてまた、切実な願いでもあるように、聞こえた。

「だから名付けて。あなたに還る前に」

それは、ひとつの戦いの終わりだ。
栄光を手に高揚を胸に凱旋する、足音も高らかな行軍だ。

「あたしの本当の名前を呼んで。そうしたら―――」

同時にそれは、長い戦いの始まりだ。
無限の勝利を前提に築かれる楽園の、嚆矢を引き絞る弓の軋みだ。
ならばそれは、その希求するのは贖罪などではなく。
釈明でも、償いでも、ありはせず。

「そうしたら、あたしは―――」

ただ一言、すべてを手にする歩みの、その最初の一歩であるならば、
それは。



 ―――希望、と。




.

482終焉憧憬(3)/Light colors:2009/11/21(土) 21:15:06 ID:AVTkPbzE0

【三層 開放】



 
【時間:すでに終わっている】
【場所:???】

川澄舞
 【所持品:村雨】
 【状態:生還】

希望
 【状態:帰還】


→1034 1100 ルートD-5

483心に従って:2009/11/22(日) 20:31:27 ID:hownmo4k0
 流れ込む夜風が藤田浩之の顔を撫でて、人のいない廊下へと吹き去ってゆく。
 広がる空は墨を撒いたように黒に塗り潰されていて、夜明けはまだ遠いのだなという感想を抱かせた。

 ここに連れてこられてから丸々二日が過ぎ、昼には三日目になる。
 たったそれだけの時間。日常の中では短すぎるはずの時間で、自分はこんなにも変わってしまった。
 どう変わったのかと言われると、自分でもはっきりと答えることができない。
 感じているものの断片を手繰り寄せて言うならば、『大切なものを手に入れて、大切なものを失った』と表現すべきなのだろう。

「……そういえば、泣いてないな」

 自答してみてようやく気付く。乾ききった目元は久しく水気を覚えておらず、今となっては見るための役割しか果たしていない。
 理由はすぐに思い当たった。泣かないのではなく、泣けない。
 あまりにも辛いことが多すぎたから。大切な人を失ってしまったから。
 だから一度は心を閉ざし、やらなければならないことに衝き動かされ、どんなに苦しいことも我慢して歩いてきた。
 泣いてしまえば自分が状況に押し潰されていた。乗り越えられないなら、自分の心から目を背けるしかなかった。

 そして今も俺は、おれは逃げている。

 川名みさきを殺し、姫百合珊瑚を殺し、向坂環を殺し、神尾観鈴も、相沢祐一も死に追いやった藤林椋の姉。
 その人の目の前に立つことを恐れている。自身と向き合い、どうなってしまうか分からず恐がっている。
 人のために感情を発露させることはできても、こと自分になると手を引いてしまうのは男だからなのだろうか。
 守らなければならないという意思が、男の義務だと断じている意思がそうさせているのか。
 何であるにしても、昔に戻るには遠すぎる。
 そう結論して、深く吸い込んだ息を夜空へと向けて飛ばす。

「幸せが逃げてまうで」

 背後からかけられた声に浩之は振り返る。柔らかい表情の姫百合瑠璃が立っていた。
 いつの間に話は終わっていたのかと思う一方、今までに見たことのないような可愛げのある瑠璃に呆然とする感覚があった。
 一瞬、本当に瑠璃かと思ってしまうくらいに。

484心に従って:2009/11/22(日) 20:31:44 ID:hownmo4k0
「……溜息じゃねーよ」

 わけもなく動揺してしまっていた浩之は乱暴な物言いになっていた。すぐさま、何をやってるんだおれは、という感想が浮かび、
 しかし取り繕う術も分からず無意味に頭を掻きながら「終わったのか」と型通りの話題しか出せなかった。

「まあね。意外と、すっきりした」

 隣に並ぶ瑠璃の言葉は俄かには信じられないもののように思えた。
 辛く、苦しいことに対面し、受け止めるのはあまりにも重いはずなのに。
 一体どんなことを話したのだろうと気にはなっても、浩之は踏み込む気にはなれなかった。
 否、踏み込むことが恐かった。自分の感情と対面して、受け止めきれないのは目に見えていたからだ。
 その意味でどこか清々とした瑠璃の横顔に、強いと思うより信じられない、と思ったのだった。

「浩之はずっと空を見てたん?」
「……ああ」

 夜明けが遠い空。先も見通せない暗いそこは、現在のために何かはできても、
 過去や未来のことになると何も思い浮かばない自分そのもののように思えた。
 自分のため。反芻してみると本当に何もしてこなかったのだなという奇妙な感慨が涌いた。
 それは同時に、生きて帰れたとしてこれからどうなるのだろうという不安にもなった。

 ここで死んでいった人間を忘れることはないだろう。
 しかしそうだとしても、その人達に恥じないような生き方ができると断言することができるだろうか?
 望んではいないのかもしれない。死者に追い立てられるような生き方なんてここで出会い、
 死んでいった人達はそんなことはしなくていいと言ってくれているのかもしれない。
 だが決して忘れようのない記憶、川名みさきの記憶がもうひとつの自分――『おれ』となって囁くのだ。

485心に従って:2009/11/22(日) 20:32:03 ID:hownmo4k0
 忘れるな。お前は守れなかった。無力だという事実があるということを。
 ……だから、俺はもうこれ以上手放さないために、瑠璃を掴んだんだ。
 そうだ。お前はそれでいい。それだけを考えていればいいんだ。自分のことさえ考えなければ、おれは優秀だ。
 ……でもそれでいいのか? そんなことしなくたって、どうにかなるって教えてくれた人達がいるのに?
 だがお前は、それを信じられずにいる。何度も裏切られ続けて、自分の手足しか信じないようになった。
 ……反論は出来ないな。だけど、俺はそれでも。
 『おれ』は『俺』だ。そして『俺』は『おれ』だ。お前がどうしようが、おれには知ったこっちゃない。応援する気はない。
 ……だろうな。
 お前も思い知ったはずだ。世界のどこにも希望はない。絶望から身を守るだけで精一杯なんだ。
 ……そうだな。人は、そうして寄り集まっているに過ぎない。友達を作ったり、恋人になったりするのも、そうなんだろう。

 『おれ』が目を細め、今ある事実を首肯して色のない瞳をこちらに寄越した。
 本能的に嫌悪感を感じながらも、浩之は『おれ』の論理を打ち崩す言葉を持てずに俯くしかなかった。
 分かっていた。奴の言葉もまた、正しさを含んでいる。希望よりも絶望を信じるようになり、
 それに対処する術は身につけても豊かさを生み出す原動力とはなり得ていないことが証拠だった。
 喋らない『俺』を見ている『おれ』が、また何かを言いかけようと口を開こうとして、唐突に阻まれた。

「浩之?」

 肩に手をかけ、心配そうに見ている瑠璃の姿が浩之を現実へと引き戻した。
 また来るさ。最後にそんな声が聞こえ、ゆらりとした動作で背を向けて去ってゆく『おれ』に、一種の優越感が窺えた。
 辛いことに向き合うのを避けるのも、希望を信じられないのも同じことなのかと浩之は思いを結実させた。
 ならどうすればいい。答えを求められないのも、また信じていないということか。
 浩之は苦笑した顔を瑠璃に向けるしかなかった。

「なあ、あいつとどんな話をしたんだ」

 僅かに目を泳がせ、身を引いた瑠璃を見て、自分の顔はひどいものなのかもしれないと浩之は感じた。
 泣き笑いのような顔かもしれない。自分のことなのになにひとつ分からなかった。

「事実を、全部」
「それで?」
「それだけ。……許すも許さないもなかったよ。知っておきたいことを互いに打ち明けただけ」

486心に従って:2009/11/22(日) 20:32:21 ID:hownmo4k0
 嘘だろう、と反射的に言いそうになった口をすんでのところでつぐむ。
 もう少し何かがあると思っていた。いや期待していたのだろうか?

「……浩之は、今でも藤林椋が……杏さんの妹さんを許せない?」

 不意に核心を突いた言葉に、浩之は今度こそ押し込めることが出来ず「当たり前だ」と言ってしまった。
 だから瑠璃の近くにはいようとしても、あの場に対峙できる勇気はなかった。
 無用な争いを生み、禍根を残すだけかもしれない。この局面にそうしたわだかまりを残しておきたくなかった。
 そうした理性と、我慢し続けることを習い性としてしまった自分とが結論し、足を踏み止まらせた。

「ウチも同じや」

 また虚を突かれた思いで、浩之は俯けていた顔を瑠璃に向けた。

「許せるわけがない。だってさんちゃんが殺されたんやで?
 関係ないって分かってても、あいつの家族だけって部分で許せないところがある。
 向こうにしても同じやった。杏さんからしてみれば、ウチが妹さんを殺したんやもん。
 唯一無二の家族を。……そら、許せへんよ。ウチがそうやもんな」

 珊瑚のことを思い出しているのか、表情を険しくする瑠璃の目尻には涙があった。
 許せない。あいつさえいなければ――世界に希望はないと囁いた『おれ』の言葉が重なり、
 自分もやはり何もかもを許せなくなっているのではないだろうかという思いを浩之に結ばせた。
 他人に自分を許さず、常に警戒して距離を取っているからこそ希望を信じられない。
 お笑い種だ、と浩之は思った。

487心に従って:2009/11/22(日) 20:32:40 ID:hownmo4k0
 自分自身で希望はある、人の本心を分かろうとすれば見えてくるものがあると言いながら、
 自身が全く行っていないばかりか信じてさえいない。
 或いは、瑠璃に近づきすぎたからそう思うようになったのだろうか。
 大切だと思う気持ちが生まれ、守りたいと思う気持ちが生まれ、失いたくないと思うあまりに警戒心を抱くようになってしまった。
 分かってはいても変えられないのは人間の本能であるから。
 喪失の痛みを知りすぎた人形の行き着く先は、結局のところ椋と変わらないのではないのか。
 ふと息苦しさを覚えた浩之は「でもそれだけやない」と続けられた声に意識を向けた。

「許せないのはお互いに同じ。でもそこで終わりじゃない。
 その先の未来で、心を触れ合わせることだって出来るかもしれない。
 そうじゃなければ、寂しすぎるからって……」

 現在は絶望しかない。でも未来はそうじゃないかもしれない。少なくとも、生み出してゆける可能性が自分達にはある。
 そう断言するような瑠璃の表情は、縋ることをやめた者の光があり、自分の足で歩こうとする意志があった。
 儚い希望だなと即答した自分がいる一方、寂しすぎるという言葉にそうだなと頷く自分を発見して、
 浩之は何かしら胸のつかえが取れたような気がしていた。
 同時に、今の瑠璃には敵わないとも思った。これが女の強さか、と納得の行き過ぎる結論を得て、
 浩之はようやく、背負い続けていた荷物を下ろす気になったのだった。

「……そういうものなのかな。今すぐ、全部を解決しなくたっていいのか……な?」
「時間なんて、いくらでもあるやん。これから、ウチらには、いくらでも」

 子供をあやす母親の口調で言って、浩之の頭をよしよしと撫でながら抱きしめる。
 そこでやっと、浩之は自分が泣いていることに気付いた。

 ――ああ、『俺』はまだ泣けるんだ。

 可能性の一端を掴めたと確信したところで、脳裏にまた『おれ』が現れる。

488心に従って:2009/11/22(日) 20:32:59 ID:hownmo4k0
 忘れるな。世界のどこにも希望はない。
 ……今はそうかもな。だったら、俺が、俺達が生み出していけばいい。
 やれやれだな。そんなこったろうと思ったよ。かったりぃな、お前は。
 ……お前は『俺』だよな。
 そうだ。お前は『おれ』だ。
 ……一つ言っとくぜ。お前は何も間違っちゃいない。でも、それだけだと寂しすぎる。だろ?
 分からねえな。儚い希望だぜ。
 ……でも、希望の一部はここにある。今はそれでいいんだ。
 いいだろう。だが、おれはまた来る。お前が何よりも絶望を信じたときにまた、な。
 ……その時は、もう一度勝負してやるよ。

 ニヤと笑った『俺』に、『おれ』もまた同じように笑った。
 それを境にして『おれ』の輪郭が消えてゆく。
 あいつはまた来るだろう、と浩之は思った。

 何故なら、あれは自分であるから。決して相容れないものではない、寧ろ不気味なほどにカチリとはまるものであるから。
 今度やってきたときに勝負して、勝てるかどうかは分からない。
 何もかもがまだ不明瞭で一体どうなってしまうのかも分からない、果てのない道だ。
 けれども、もう決めてしまったことだ。自ら望んで進もうと決めた道だ。

 一歩、一歩ずつ。

 ひだりてとみぎてを繋いで。

 まだ見ぬ明日へ。

 現在をを越えるために。

 歩こう。心に従って。

489心に従って:2009/11/22(日) 20:33:18 ID:hownmo4k0
【時間:3日目午前04時00分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

『自由行動組』何を、誰とするかは自由。小中学校近辺まで移動可

姫百合瑠璃
【状態:死ぬまで生きる。浩之と絶対に離れない。珊瑚の血が服に付着している】

藤田浩之
【状態:歩けるだけ歩いてゆこう。自分を取り戻した】

→B-10

490心に従って:2009/11/22(日) 23:46:22 ID:hownmo4k0
誤字があったので修正です…orz

 忘れるな。世界のどこにも希望はない。
 ……今はそうかもな。だったら、俺が、俺達が生み出していけばいい。
 やれやれだな。そんなこったろうと思ったよ。かったりぃな、お前は。
 ……お前は『俺』だよな。
 そうだ。お前は『おれ』だ。
 ……一つ言っとくぜ。お前は何も間違っちゃいない。でも、それだけだと寂しすぎる。だろ?
 分からねえな。儚い希望だぜ。
 ……でも、希望の一部はここにある。今はそれでいいんだ。
 いいだろう。だが、おれはまた来る。お前が何よりも絶望を信じたときにまた、な。
 ……その時は、もう一度勝負してやるよ。

 ニヤと笑った『俺』に、『おれ』もまた同じように笑った。
 それを境にして『おれ』の輪郭が消えてゆく。
 あいつはまた来るだろう、と浩之は思った。

 何故なら、あれは自分であるから。決して相容れないものではない、寧ろ不気味なほどにカチリとはまるものであるから。
 今度やってきたときに勝負して、勝てるかどうかは分からない。
 何もかもがまだ不明瞭で一体どうなってしまうのかも分からない、果てのない道だ。
 けれども、もう決めてしまったことだ。自ら望んで進もうと決めた道だ。

 一歩、一歩ずつ。

 ひだりてとみぎてを繋いで。

 まだ見ぬ明日へ。

 現在を越えるために。

 歩こう。心に従って。 

491最後の放送:2009/11/27(金) 23:36:13 ID:VJZMEooY0
 時間だ。

 電波時計を眺めて、デイビッド・サリンジャーはなにひとつ変わりもしないモニタに向かって舌打ちした。
 結局死者は出ず仕舞い。件の動物も幽霊のように現れてはまた姿を眩ます始末で、
 そのことも神経質なサリンジャーに苛立ちの波を立たせる理由になっていた。
 物理的な被害は糧秣以外皆無に近いものの、侵入されたという一事がサリンジャーの精神に屈辱を与えた。

 自分と『神の軍隊』以外何人も立ち入れないはずの聖地を、たかが動物に荒らされたという屈辱。
 無遠慮に押し入り、そればかりかサリンジャーの不明をも曝け出されたことへの腹立ちもあった。

 いつもそうだ。いつも肝心なところで誰かが邪魔をする――

 学会で受けた、自分を拒否する目。妥協と懐柔しか知らないはずの日本人が一致団結の意思を持って自分を否定した目を思い出し、
 サリンジャーは『ふざけるな』と胸中に吐き捨てた。
 だから自分は支配する。そのために一度は転落した舞台からここまで這い上がってきたのだ。
 篁総帥が死亡し、指揮権が移ったのもたまたまではなく、天が与えてくれた好機に他ならない。
 ここを逃せば自分は一生敗北者だ。みじめでしがない生活から抜け出すために、己が力を思い知らせてやらなければならなかった。
 所詮この世は誰もかもが独りで、他人を追い落として栄華を手に入れるようにしか出来ていないのだから。

 サリンジャーは椅子から立つと、自ら沖木島の全域に通じるマイクを手に取った。
 傍らのアハトノインがちらりと目を寄越すのを見て「今回は私が放送をやる」と伝えると、すぐに元の作業に没頭する。
 そう、これが上に立つ者だ。言葉一つで屈服させる。その対象が世界規模になるまで、もう少し。
 最終段階だと胸中に呟いて、サリンジャーはマイクの送信釦に手をかけた。

492最後の放送:2009/11/27(金) 23:36:38 ID:VJZMEooY0
「はじめまして皆さん。私はデイビッド・サリンジャーと申します。
 この殺し合い……バトル・ロワイアルの運営を任されている者です。どうぞお見知りおきを。
 最初にあなた方にルールの説明をしたウサギさんがいたでしょう? あれは実は私でしてね。
 よく出来た変声機でしょう? 急場で作ったにしては中々いい出来だったと思いますよ。
 さて、無駄話を続けるのもあなた方は望んでいないでしょうから、本題に入りましょうか。
 何故私が、本来の声で、放送を始めたのか。それはですね、こちらにとっては喜ばしくないことに、
 今回の放送では死者が一人も出なかった……つまり、殺し合いが全く進行しなかったということでしてね。
 私としてはこれは大変困ることなんですよ。せっかく最後の二人まで生き延びられると言ってあげたのに、
 ピタリと止んでしまったのですからね。しかもですよ、私が優勝者の願いを叶えるというご褒美まであげようというのに、です。
 全て本当のことなのですがね……勿体無いことをしますね、日本人という連中は。
 ああ、失敬。日本人以外も何人かいましたね。まあそれはそれとして、殺し合いが立ち行かなくなるのはこちらには不都合なのですよ。
 まだこれから殺し合いを続ける……というのなら別に文句は言いませんが、
 この期に及んでこれが殺し合いなんだ、ってことを理解していない方もいらっしゃるようですしね。
 ですから、タイムリミットを設けることにしました。
 この放送から六時間後……次の放送までに死者が一人も出ていなかった場合、私の部下が『処理』しに行きます。
 首輪を爆破させれば早いことなのですがね。それでは部下の教育にもよろしくないわけなんですよ。
 ご心配なく。我が部下は優秀でしてね。あなた方のような普通の人間だって表情一つ変えずに殺せる優れものなんですよ。
 歯向かおうだなんて思わないで欲しいですね。まあこちらとしてはある程度抵抗してくれたほうが好ましいわけですが。
 殺し合いを続けるというのならば是非どうぞ。それはそれでこちらの目的は果たせるわけですから。
 どのように死ぬかはあなた方に選ばせてあげましょう。ここで全滅するか、自分だけ生き残ってみせるか。
 博愛主義を貫くのもいいでしょう。私は寛大です。好きなようになさるといいですよ。
 ああ、一つ付け足しておくと……あなた方に逃げ場はない。
 どこにいても、私の部下は必ず追い詰める。そのことをよく理解しておいてくださいね。
 それでは――神のご加護があらんことを」

493最後の放送:2009/11/27(金) 23:36:55 ID:VJZMEooY0
【場所:高天原内部】
【時間:三日目:06:00】

デイビッド・サリンジャー
【状態:昼になればアハトノインを送り込んで殲滅する】

→B-10

494終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:51:34 ID:FwPiRpck0
 
 †  †  †  †  † 





制服は、鎧だ。
纏って踏み出せば、そこを戦場に変える。
私にとって、誰かにとって、誰もにとって、日常なんてものは制服の分厚くて野暮ったい生地の
遥か向こう側にしかなかった。

戦い抜いて、生き抜いて。
その日、一日を駆け抜ける。
私も、私でない誰かも、誰もがそれだけを追い求めていた。

剣も、槍も、鉄砲も大砲もなかったけれど、それは確かに、戦場だったのだ。
噂や約束や陰口だって人を殺すことくらいはできたけれど、そういうことじゃない。
それはもっと即物的で、もっと刹那的で、もっともっと切実に、戦場だった。

私は、私たちは生きていて。
生きることは今よりももっとずっと、大変だった。
息をするのも、難しかった。
歩くことも、両足で立つだけのことだって、怖くて、苦しかった。
命がけだった。

気を抜けば死んでしまうと、私たちは信じていた。
誰にでもない、世界に殺されるのだと、正しい意味で理解していた。
信じることで、私たちは生きていた。

制服を着て、世界を戦場に変えて。
そうして戦い抜くことで、自分はまだ生きていると、誇っていた。
誇れて、いた。

辛くて、苦しくて、棘だらけの宝石みたいな毎日を、そうやって私は、私たちは生きていたのだ。

だから私は思い出す。
その制服を見るたびに、全身で思い出すのだ。

重くて分厚い生地の塊から解放された日の、体の軽さと。
トイレの隅に置かれた汚物入れの腥さとの、両方を。

495終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:51:55 ID:FwPiRpck0
 
「―――あなた、西園寺女子?」

唐突にそう切り出した私に、相手は一瞬だけ戸惑った表情を浮かべる。
それは、そうだろう。
あまりにも状況に似つかわしくない、それは第一声だった。

「……ええ」

怪訝な顔で答えたその子を包むのは深緑のスカートに、やわらかいイエローのサマーベスト。
襟元の細いリボンがシンプルなワンポイント。
私立西園寺女子高等学校。
通称・寺女の、それは制服だった。

「そう。……懐かしいわ」

懐かしい、と。
抱き締めたくなるような切なさと、胃の中の物を全部戻したくなる衝動との混じり合った感情を、
私はそう言い表す。
それはただの一言で片付けられるほどに遠く、ただの一言でしか口に出せないほどに、重い。
私の心の真中に刻まれた、それは罅割れた硝子の彫像だ。
眺めれば貴く、美しい。
触れれば砕け、欠片は私を傷つける。

「それで? ……同窓の誼で手加減してくれっていうのは、聞けませんけど、先輩」

そんな私の心中を知る由もなく、目の前に立つ子は眉を吊り上げる。
仕方のないことかとほんの少し笑って、それを笑ってしまえる自分の磨耗に、苦笑する。

生きることは戦いで、制服を着込めばそこは戦場で。
今、私の前に立つ子はそうやって毎日を駆け抜けている。
私はそれをずっと遠くから、あるいはずっと低いところから、ぼんやりと眺めているに過ぎなかった。
速さ。密度。輝きと言い換えてもよかった。
何もかもが、違いすぎた。
そこにいるのは、重い鎧から解き放たれて軽い身体に舞い上がって、広い空の中に
止め処なく拡散していくより前の、私や、私たちだった。

496終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:52:07 ID:FwPiRpck0
「―――」

沸き上がる情動を、笑みと共に噛み殺す。
と、それをどう受け取ったのか、相手は元々少しきつめなのだろう目つきに、素直な怒りの熱を乗せて
こちらを睨みつける。

「とぼけないで。ここにいる以上、あなたも選ばれているのでしょう―――『カード』に」

言って懐から取り出したのは、片手に収まるサイズの長方形。
きらきらとそれ自体が淡い光を放つのは、彼女が口にしたように、正しく一枚のカードだった。

「西園寺女子、三年七組―――緒方理奈。カードの盟約を履行する!」

名乗りを上げて見せたのは、騎士道精神の表れだろうか。
その真っ直ぐな眼差しに正面から見据えられて、私はほんの少しだけ、背筋を伸ばす。

「……梶原。梶原夕菜よ」

答えてスカートのポケットから抜き出した、手の指に挟むのは硬い感触。
緒方という子の持つものと寸分違わぬ、ただ放つ光の色だけが違う、一枚のカード。
指先から光と共に溢れる、ざわざわと皮膚を擦るような力の脈動を、声帯が形にするように。

「―――盟約を履行する」

その言葉を、口にする。

瞬間、私の持つカードと、彼女の持つそれと。
二枚のカードから、光が、溢れた。






そして、私たちは夢をみる。







  ―――つづく





 †  †  †  †  †

497終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:52:36 ID:FwPiRpck0
 
 
「つづく……、と」
「うわっ、何やってんですか先生!?」

驚いたような声が、狭い室内に響き渡る。
先生と呼ばれた男はその声に顔を上げると、椅子ごとくるりと振り返る。
暗い部屋の中である。
モニタの光に薄ぼんやりと照らされた男の顔には、怪訝そうな表情が浮かんでいた。

「ん? 何かね滝沢君。これからがいいところなのだが」
「なのだが、じゃありませんよ先生! 何しれっとムチャクチャ書いてるんですか!」
「ムチャクチャとは失敬な」
「梶原夕菜はいつから寺女の卒業生になったんです!? 緒方理奈だってもう高校卒業してますし!
 あとカードって何ですかカードって! またワケの分からないものを―――」
「大丈夫だ滝沢君。多少辻褄が合わなくても、私のRRなら現実のほうを改変する」
「それが駄目だって言ってるんです!」

滝沢と呼ばれた少年が、ぴ、とデスクの上に置かれた原稿用紙を奪い取る。

「ああ何をする滝沢君」
「まったく、ちょっと目を離すとこれなんだから……。
 だいたい、どうして急にこんなものを書こうと思ったんですか」

嘆息しながら、原稿用紙で器用に紙飛行機を折り始める滝沢。

「いやなに、めでたい第1111話に花を添えてやろうと思ってな。
 最近の流行語でいうとキリ番ゲトズザー、というやつだよ。
 ところでその原稿をどうする気かねああやめたまえ私の渾身の作品が」
「語彙が古いです先生。それ以前に、もう1111話は投下されてます」

498終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:53:00 ID:FwPiRpck0
完成した紙飛行機をつい、と指先から飛ばしながら滝沢少年が何気なく口にした一言を
男が理解したのは、こつんと壁にぶつかった紙飛行機を、必死にスライディングして
床に落ちる前に拾い上げた、その後のことである。
ぎぎぎ、と床に滑り込んだ姿勢のまま、男の首が回り、少年の方を見る。

「……今、何と言ったかね」
「第1111話は既に投下されています。これ、第1113話ですよ、先生」
「何だと……」

男の顔に、みるみる絶望感が広がっていく。
すっかり青ざめた男が、わなわなと震えながら口を開こうとする。

「ど……、 ど う す れ ば い い ん だ」

そんな男を見下ろして、滝沢少年がこの一日で何度めになるか分からない溜息をつく。

「とりあえず、諦めて大人しくしててください」
「む……」

言い切られた男が、力なく立ち上がると自らの椅子に腰を下ろす。
肩を落とし背中を丸めたその姿は、心なしか小さく見えた。
そんな傷心の男の背に、静かな声がかけられる。

「―――お話はお済みでしょうか、先生?」

少年のものではない。
妙齢の女性の声だった。
この狭い室内に存在する、三人目の人物。
男と少年の繰り広げる掛け合いをじっと微笑みながらやり過ごしていた女性が、口を開いていた。

「……ああ、すまないね、あだ……石原君。見苦しいところを」
「いえ。それより……」

腕を組んだ女が、男に向けて小さく頷く。
黒のスーツに身を包んだその美貌はひどく艶めいている。

「わかっている。次の操作だろう?」
「ええ、お願い致します、青紫先生」

薄暗い部屋の中、深い色に塗られた唇が照り光り、女が声を発するたびに妖しく蠢く。
ごくりと唾を飲んだ滝沢少年の脇で、男は表情を動かさずにくるりと椅子ごとモニタの方へと向き直ると、
お安い御用とでもいうように、ひらひらと手を振ってみせた。




******

499終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:53:31 ID:FwPiRpck0

 
 
 
「またあるときは一人の少女が生き残った」

「その子は……強くはなかった。少なくとも、その頃は。
 ただ護られて、助けられて、生き延びた。
 そうして、世界の最後の一人になる資格を、手にした」

「考えてみれば、残酷な話さ」
「力も覚悟もない子が、その無惨にも、孤独にも、耐えられるはずがないのに」

「だけど、その子は気づくんだ」
「自分の命をあっさり絶った、そのすぐ後に」
「もう、死は終わりなんかじゃないってことに」

「どんな気分だろうね?」
「死んでも死んでも終わらない」
「そんな永劫の罪過を、実の母親の手で与えられるっていうのは」

「護られて、助けられて、生き延びさせられて」
「生まれさせられて、罪を負わされて」
「そこに幸福は、あったのかな」



「ねえ―――教えてよ」




******

500終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:54:04 ID:FwPiRpck0
 
浮かんでいる。
落ちるでも、飛ぶでもなく。
それは正しく、ただ浮かんでいた。

蒼穹の、只中である。
ただ一歩、扉の向こうの闇を抜けたそこが遥か天空の高みであるという怪異を、
しかし水瀬名雪は特に感慨なく受け止める。

新鮮な芸当であるとは思った。
大規模で、これまでにあまり類を見ない仕掛けだった。
そして同時に、それだけでしかなかった。
何かに驚愕を覚えるような初々しさは、とうの昔に磨り減って、もうどこにもありはしない。
ただ、知らぬことが知っていることに置き換わったという、それだけが水瀬名雪の感じ方である。

真実。事実。現実。
知っていることは多すぎて、知らされたことは更に倍して、水瀬名雪は病んでいる。
老いという名の、それは病だった。
多くの先人がそうであったように、己の先が長くないことは、理解していた。
幾星霜を風雨に曝された心は老いさらばえて、続き続ける歩みには、もう堪えられない。
生きることに、倦んでいた。
生まれることが、怖かった。
しわがれた脚は自らを支えることもかなわず、杖に縋って、ようやく歩を進めている。
そんな生が、疎ましかった。
水瀬名雪の依って立つ杖を、終焉という。

501終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:54:28 ID:FwPiRpck0
終焉。
この世の終わり。
もう幾度も見つめてきた、仮初めの終幕などではなく。
本当の、終わり。
生に続かぬ死。
最早二度とは繰り返されぬ、三千世界の千秋楽。
そんなものが、もしもどこかにあるのなら。
それこそが水瀬名雪の追い求める、ただひとつ。
知りたいとは、思わなかった。
ただ、終わりたかった。
終わることを、赦されたかった。

水瀬名雪の見渡す空に、それはない。
だから、どこまでも広がる蒼穹など、ただそれだけのものでしかなく。
見晴るかす眼下に陸もなく海もなく、ただ点々と浮かぶ雲と、蒼天と、澄み渡る大気だけがある
その奇異も怪異も、水瀬名雪の精神に、ただ一筋の波紋をすら呼び起こすことはできなかった。

広い空には、己の他に誰もいない。
出迎える者も、待ち受ける敵もいない。
その空には、真に唯一人、水瀬名雪だけがあった。

青と白とが混じり合う、その蒼穹には、悲しみもなく。
身を切られるような辛さも、煮え滾るような怨嗟も、そこにはもう、ない。
その透き通るような大気にはもう、誰もいない。

502終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:54:55 ID:FwPiRpck0
「―――」

空を往く翼もなく、さりとて引き返す術も持たず、ただ浮かぶ水瀬名雪にとって、
それは無限の牢獄に等しい。
しかしその表情には焦燥も落胆もなく、水瀬名雪はただ、ゆっくりと目を閉じる。

「やがて終わる、どうせ終わる、今生も」

呟かれる声はぼそぼそとしわがれて、ひどく聞き取りづらい。

「終わって生まれて、繰り返す」

数え歌のような奇妙な節回しをつけて、言葉が漏れる。
それは壊れた糸車の、からからと紡ぐ糸もなく回り続けるような、薄暗い、独り言だった。

「終わって終わって、終われない―――」

どろどろと、大気を穢すように謡う水瀬名雪の声が、途切れた。
薄く閉じられていた瞼が、開く。
澱み、異臭を放つ沼の水面のような瞳が、空の一点を映す。

そこに、黒があった。
蒼穹に涌いた黴のような、一粒の染み。
染みは次第に拡がると、やがて渦を巻くように廻り出した。
廻りながら漆黒は蒼穹の青を溶かし、取り込んでいく。

503終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:55:13 ID:FwPiRpck0
「……」

瞬く間に大きさを増した漆黒の渦が、やがてふるりふるりと揺れながら近づいてくるのを、
水瀬名雪はじっと眺めていた。
他に動くものとてない空に、時を計る術はない。
一秒か、一時間か、一日か。
ひどく曖昧な時間をかけて、漆黒の渦は名雪の眼前にまで迫っていた。
手を伸ばせば、渦はその指先を嘗め回すように漆黒の先端を絡みつかせる。
ひんやりと冷たい感触は、渦自身の持つ温度であったものか。

「誰が……招く」

自らの身体にまとわりつく、ぞろりと濁った渦を見つめながら呟いた名雪の手足が、
ゆっくりと渦に呑み込まれていく。
呑み込まれたそれが、既にここにはないと、名雪は感じていた。
手先が、脚が、膝が、腿が、今この瞬間、脳髄と心臓の接続される先に、存在しない。
渦の中は、ここではない、どこかに繋がっている。
そんな奇妙な実感。

腹が、胸が、肩が、喉までが渦に呑まれ、消えた。
顎が、舌が、鼻が、耳が、それから最後に瞳が渦の中に呑まれ、




【四層 開放】




***

504終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:55:31 ID:FwPiRpck0
***




次の瞬間、水瀬名雪は、自らの足が大地を踏み締めているのを感じた。
そこはもう、空の中ではない。

咲き乱れる白い花が、名雪を囲んでいた。
見上げれば、夜空。

漆黒の空を統べる王の如く悠然と浮かぶ、ぼってりと朱い月を背に。
一人の少年が、そこには、いた。




******

505終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:55:55 ID:FwPiRpck0
 
 
「……こんなものかな」

薄暗い部屋の中、男が椅子ごと振り返る。

「ええ、お見事な手際でした。流石です、青紫先生」
「よせやい」

女、石原麗子の賛辞に思わず口の端を上げた男が、照れ隠しにもう半回転。
くるりとモニタの方へ向き直ったその背に向けて、石原の言葉は続く。

「RR……リアルリアリティ。因と果、本来不可分の二者を繋ぐ縁を歪め、事象を改変する力。
 あらゆる法則を超越し秩序を再構築する、神域の異能―――」
「おいおい、あまり持ち上げんでくれよ。ふう、ここは暑いな」
「……それって、単に脈絡のない話を押し通すってことなんじゃ……」

シャツの襟をはだけ、扇いだ手で風を送るような仕草をみせる男に、
傍らの少年が口の中でぼそりと呟いた。

「何か言ったかね?」
「いえ、別に」

耳聡く聞きつけた男の横目で睨むのを、少年はさらりと受け流す。
そんな二人を見て、石原が口元に手を当ててころころと笑う。

506終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:56:11 ID:FwPiRpck0
「あらあら、お弟子さんなら先生のお力を疑ったりしてはいけないわ」
「で、弟子……?」

少年の驚いたような表情を気に留めた風もなく、石原は笑みを含んで続ける。

「私が今、お願いしたことだって、先生でなければ成し得ないことだったの。
 無限の時、無限の空間、無限の世界……あの『塔』の中に広がるのは、そういうもの。
 その中から正しい道筋を選び出すのは、砂漠に一粒の金を探し出すよりも難しいわ。
 無量の可能性を一点に収束させて正解を描き出せるのは、青紫先生しかおられないのよ」
「は、はあ……そういうもんですか」

石原の饒舌な擁護に、少年はただ頷くより他にない。
そんな少年の脇で、きぃ、と椅子が鳴る。
再び振り返った男が、じっと石原を見据えていた。

「あら、何か?」
「正解……、かね」

何かを考え込むような、真剣な表情。

「私は君の依頼通りに彼女らを導いただけだよ、石原君」
「……ええ、ありがとうございます」
「彼女らの内の誰を、何処に差し向けるか……何をもって正しいとするのか。
 私には分からないそれが……君にはまるで、初めから見えていたかのようだ。
 君は、一体―――、」
「―――女には」

男の言葉を遮るように、石原の唇が動く。

「女には、色々な秘密があるものですわ、先生」
「……むぅ」

507終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:56:31 ID:FwPiRpck0
言い切った石原の瞳に宿る光に、男が口を噤む。
モニタの光を反射しているに過ぎないはずのそれは、ゆらゆらと妖しく揺らめいて、
見つめればその仄暗い水面に吸い込まれそうで、男は目を逸らすのが精一杯だった。

「……君も、大変なのだな」
「それほどでもありません」

言って笑んだ石原の、

「母とは皆、そういうものですわ」

静かな言葉が、狭い室内に反響して、不思議な韻律を帯びる。
その奇妙な余韻が、壁に、床に、天井に、耳朶に染み渡るように消えようとした、刹那。


『―――母なるは仙命樹』


暗がりから響く、聲があった。

508終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:56:58 ID:FwPiRpck0
「……ッ!?」
「な、なんだ……!?」

文字通り飛び上がって辺りを見回す男と少年の視界には、しかし聲の主は映らない。
狭い室内の中、人影は三つ。
男と少年、石原麗子の他に立つ影は、なかった。
しかし。


『この星に足掻く、すべての種を誘うもの―――』


聲は、響く。
囁くように、呟くように、低く、低く、響く。

「せ、先生……?」
「お、おおお落ち着きたまえ滝沢君、君の感じている感情は、せ、精神的疾患の一種だ」
「し、しずめる方法は?」
「私が知りたいくらいだ!」

震え上がる二人をよそに、部屋の隅に立つ石原は眉筋一つ動かさない。
表情に浮かぶ微かな笑みも、消えることはなかった。


『時の輪廻、既になく―――来し方より足掻き足掻く命の行く末、決するは近く』


響く聲に、石原の笑みが深くなる。
ほんの僅かに頷いて、濃密に彩られた唇が、ゆっくりと開く。
紡ぐは、一言。

「……望みは?」

ほんの僅かな間も置かず、聲が応える。


『この世の赤の、最果てを―――まだ見ぬ青の、最果てに』


すう、と。
弓の形に吊り上がったのは、石原の口の端だった。
微笑でも、嘲笑でもない、今にも哄笑へと変じそうな、深く、昏い笑み。
笑んだ石原が、歩を進める。
打ち放しのコンクリートに高いヒールは、しかし硬い音を立てることもない。
水面を滑るように、狭い室内をただ一歩踏み出して、

「―――」

おもむろに、身を屈める。
見つめた床の、何の変哲もないはずのコンクリートが、ぞろりと蠢いた。

509終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:57:14 ID:FwPiRpck0
「う、うわっ……!」
「せ、先生……! あ、あれ……!」

そこに浮かんだのは、貌である。
身を屈めた石原と向かい合うように床に浮き出しているのは、人の貌だった。
蜂蜜色の、髪が見えた。

雨に打たれたように濡れそぼる豊かな髪が貌に絡み付いて、表情は判然としない。
しかしそれは、少女の貌である。
青白い肌に、纏わりついた髪の束。
おぞましくも美しいその貌の中心には、爛々と光る、瞳があった。
眼窩に宿る色は、赤。
鮮血とも、紅玉とも、葡萄酒とも違う、混じり気のない、赤の一色。

この世ならざる異形を思わせる少女の貌を、しかし石原は笑みを浮かべたままじっと見据えると、
ゆっくりと手を伸ばす。
そこへ、

「た、たたた滝沢君、滝沢君! 手が! 手が!」
「痛い、痛いしがみつかないでください先生痛い!」

ずるりと、石造りの水面から、伸びるものがあった。
細くたおやかな、腕である。
纏った薄い茶色の毛織物は、やはり袖まで濡れている。
ぽたぽたと、雫をすら垂らしながら伸びたその手に、掴まれる何かがあった。

真紅と桃色と、乳白色と薄黄色が混じり合ったような、奇妙な色合い。
ぬらりぬらりと照り光るそれは、よく見れば、小さく震えている。
否。震えているのではない。

それは―――小さく、脈打っていた。

幽かに、微かに、しかし力強く鼓動を打つ、それは。
紛れもない、人間の、心臓だった。

510終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:57:35 ID:FwPiRpck0

【時間:すでに終わっている】
【場所:???】

水瀬名雪
 【所持品:くろいあくま】
 【状態:過去優勝者】

少年
 【状態:???】



【時間:???】
【場所:沖木島地下の超先生神社】

超先生
 【所持品:12個の光の玉】
 【状態:私は知らない、私に任せるのはやめたまえ!】

滝沢諒助
 【状態:せせせ先生そんな無責任な】

石原麗子
 【状態:???】

里村茜
 【状態:???】

→999 1030 1100 ルートD-5

511終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:21:58 ID:SBtIE0MU0
 
窓の外には雨が降り出していた。
灰色の空が、薄暗い診療室内に奇妙な陰影を作り出している。

「じ、冗談……だよね?」
「いいえ」

にべもなく答えた古河早苗の、その瞳には一片の戯れも混じっていない。
ひどく困惑したような表情を浮かべる春原陽平が、口の端を苦笑のかたちに吊り上げる。

「ま……またまた早苗さんは、そ、そうやって人をからかって……」
「春原さん」

静かな診療室の白い寝台の上に横たわりながら、額にじっとりと滲んだ汗を拭った春原に、
噛んで含めるように、早苗が繰り返す。

「あなたは、妊娠しています」
「い、意味わかんねえよ!」

途端、春原が表情を硬くする。

「何言ってんだあんた!? 僕は男だよ!?」
「理屈は、分かりません。ですが、そのお腹には、新しい命が宿っています」
「頭おかしいんじゃねえの!?」

耳を塞いだ春原が、激しく首を振る。

512終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:22:15 ID:SBtIE0MU0
「先程から感じていらっしゃる痛みは陣痛でしょう」
「あり得るわけないじゃん、そんなの!」
「赤ちゃんは、もうすぐ生まれてきます。お産はもう始まっているんです」
「聞けよ、人の話を! ……ぐ、あ、痛ぅ……」

激昂し、起き上がりかけた春原が、呻き声とともに再び寝台へと身を横たえる。
苦しげな表情のまま大きく張り出した腹部を抱えるように、くの字に身を曲げた春原を見下ろしながら、
早苗が淡々と言葉を接ぐ。

「陣痛の間隔が短くなってきています。もう動かない方がいいかもしれません」
「ざっけ……な……」

だらだらと、珠になるような脂汗を垂らしながら、春原が早苗を睨みつける。

「僕ぁ帰る……! 船は六時に出るんだろ……!」
「説明した通りです……あちらに向かっても、もう」
「いいから、どけよっ!」

僅かに目を伏せた早苗の言葉を振り切るように、春原が無理矢理に身を起こす。
寝台から降りようとして、

「あ、くぅ……!」

突然沸き上がってくる、締め付けるような痛みに、バランスを崩した。

513終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:23:11 ID:SBtIE0MU0
「春原さん!?」
「ちょ、あんた!」

慌てて支えたのは、それまで早苗の背後で口を閉ざし、二人の会話を見守っていた
古河渚と長岡志保である。

「は、離せよっ!」
「きゃあっ!」

両脇を抱えられるような姿勢の春原が、乱暴に二人の手を払おうとする。
狭い診療室の中、よろけた渚の背が薬棚の硝子戸に当たってがしゃりと音を立てた。

「あんた、いい加減に……!」
「……ベッドに戻りましょう、春原さん」

思わず怒鳴り声を上げようとした志保を制するように手を翳し、静かな口調で語りかけたのは早苗だった。

「確かに、信じられないのも無理はありません。私たちだって、こんなことは初めてです。
 だけど……春原さん、あなたが一番よく分かっているはずなんです」

翳した手を、そっと下ろしていく。
触れるのは、薄い貫頭衣のような寝間着に包まれた、春原の大きな腹部。

「……この中に息づく、新しい命の温かさを」

どくり、と。
早苗の言葉に応えるように、震えるものがあった。
胎動。それは何よりも雄弁に、感覚として春原に訴えかける、命の証左である。

514終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:23:26 ID:SBtIE0MU0
「……、そん……な……」

呆然と呟いた春原が、力なく寝台に腰を下ろす。
小刻みに痙攣する瞼と、落ち着きなく左右を見回す視線とが、内心の動揺を如実に示していた。

「春原さん……」
「気持ちは分かるけど……」

心配げに見つめる渚や志保の言葉にも、春原は答えようとしない。

「はは……ないよ……ない、ない」

親指の爪を噛みながら、ぶつぶつと呟いていた春原が、ふと何かに気づいたように顔を上げる。

「……そうだ」
「どうか、しましたか」

訊いた早苗の方を、春原は向かない。

「トイレ、行ってこよう」
「……」

表情は、笑みを形作っている。
しかしゆらゆらと不規則に揺れるその瞳は、何の感情も浮かべてはいなかった。
空虚の二文字をもって表される、仮面のような笑みを貼り付けたまま、春原が呟く。

515終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:23:52 ID:SBtIE0MU0
「そうだよ僕、考えてみたらずっとトイレ、行ってなかったんだ。
 だからお腹がこんなに張ってるんだ。痛いのも当たり前だ。うん、そうだった」
「はぁ……!?」

足元が見えないほどに大きく膨らんだ自らの腹を見下ろして、春原がゆっくりと拳を握る。

「いやあ、我ながら頑固なお腹で困っちゃうね。少し、ほぐさないと……」
「ちょっと、あんた何言って……!」
「だから、こんなの、ちょっとこうしてやれば……」

すう、と拳が、振り上げられる。

「……! いけません、春原さん!」

弾かれたように叫んだ、早苗の制止も間に合わない。
ぼぐ、と。
奇妙な音が、診療室内に響いた。
人の、否、生物の持つ遺伝子が、その存在を根絶せよと命じるような、音だった。

「ぐ、ぅ……! あ。ぁああ……!」

おぞましい悲鳴を漏らしながら寝台に倒れ込んだのは、自らの腹を殴りつけた、春原自身である。
その悲鳴に、凍りついたように足を止めていた三人が、ようやく動き出した。

「春原さん……!?」
「この、バカ……!」
「……」

渚と志保が、慌てて寝台へと身を乗り出す。
早苗はといえばそんな二人の背と、そして呻く春原をほんの僅か間、じっと見据えると、
無言のまま振り返っている。
その視線の先には、薬品や備品を仕舞った戸棚があった。

516終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:24:15 ID:SBtIE0MU0
「春原さん、大丈夫ですか春原さん!」
「ぃた、痛い……けど、これで……いいんだよ……」
「あんた……!」
「だ、大丈夫……もっと叩けば、すぐに……ぜんぶ、出てくる……は、はは……」

だらだらと脂汗を撒き散らしながら引き攣った笑みを浮かべる春原の腕が、
寝台に横たわったまま、もう一度振り上げられる。

「ダメです春原さん、春原さん!」
「い、いい加減にしなさいよこのバカ……!」

伸ばされた腕を二人がかりで抑えた、その背後から、声がした。

「―――渚、長岡さん」

冷静な、声だった。
ぞっとするほどに揺らがない、それは古河早苗の声。
十数年を同じ屋根の下で暮らした、渚でさえ聞いたことのないような、声。

「そのまま、抑えていてください」
「え……?」

思わず振り返った渚の目に、早苗の持っている物が映る。
まるでフィルムケースのような、小さな白い円筒形は、

「包帯……?」

渚が呟くのと、ほぼ同時。
無言で歩を進めた早苗が、その手にした包帯の留め金を、指先だけで取り去る。
はらりと、白く長い布地が寝台に零れた。

517終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:24:43 ID:SBtIE0MU0
「な、何だよ……」

異様な雰囲気に、春原が身を捩ろうとした瞬間には、もう遅い。
伸ばされたその腕に、包帯がくるりと巻き付いている。

「おい、何してんだよ……!?」
「……」

悲鳴のような春原の声には、答えない。
無言のまま、早苗は春原の腕に包帯を二度、三度と巻き付けていく。

「そちらもお願いします」
「え……?」
「そちらの腕です」

戸惑う渚と志保に、淡々と指示を出す早苗。

「離せ! 離せよ! おい! 僕は、僕は……!」

瞬く間に、春原の両腕が幾重にも巻かれた包帯で拘束されていく。
ぐるぐると白い布地に巻かれた腕を、最後に寝台の枠に固定する。

「く、くそ……っ! こんなもの……っ!」
「二人でそちらの足を。体重をかけて」
「は、はい……」

暴れようとする春原の機先を制するように、早苗が二人を動かす。
両腕を頭の上で縛られた格好の春原は、張り出した己の腹にも邪魔されてうまく力を込められない。
数分の後には、両腕に加えてそれぞれの足も、すっかり寝台に縛り付けられていた。

「ちくしょう……! 何だよ! 何なんだよ!」
「……これ以上暴れると、お腹の子に障ります」

ぎしぎしと寝台を軋ませて身を捩ろうとする春原を見下ろして、早苗が口を開く。
その悲しげな表情は、既に常の早苗のそれに戻っていた。

「だから! だからそんなの、」
「もう、この子は外に出たがっているんです」

強制的に両足を開かされた格好の、春原の大きく膨らんだ腹部を、早苗の手がそっと撫でる。

「春原さん」

笑みはない。
ただ悲しげに眉根を寄せて、

「この子は―――生まれたがっているんですよ」

それだけを、口にした。




***

518終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:25:02 ID:SBtIE0MU0
***




僕だって、本当は気付いてる。
気付いてるから、言えるんだ。

たとえばこれは、愛から生まれるものじゃない。




***

519終演憧憬(4):2009/12/05(土) 18:25:20 ID:SBtIE0MU0



【時間:2日目 午後4時すぎ】
【場所:I-7 沖木島診療所】

春原陽平
【状態:分娩移行期】

古河早苗
【状態:健康】

長岡志保
【状態:健康】

古河渚
【状態:健康】


→1109 ルートD-5

520終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:16:11 ID:lPNSF8sU0
 
目の前には、一面の銀世界が広がっている。

「……寒いね」
「まあ、息も白くなりますし」
「つーか、吹雪いてるよね」

呟いた天沢郁未の、開いた口に飛び込む雪の結晶の感触が、舌の上で融けていく。

 ―――こっちだよ。

風に舞う雪に阻まれて、視程はほんの数メートルもない。

「さっきまでは南の海で、今度は雪国? ……ったく、はあ、もういいけどさ」

肩に降り積もる雪を払う郁未が、一陣の風の吹き抜ける間に再び白く染め上げられる。

 ―――こっちだよ。

そんな郁未の徒労に軽く肩をすくめて、鹿沼葉子が静かに口を開く。

「別段、凍えることはないでしょうが……鬱陶しくは、ありますね」
「不可視の力ってのは便利だね、こういうとき。……で、」

睫毛に積もる雪を指先で弾いて、郁未がつまらなそうに葉子を見やる。

521終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:16:27 ID:lPNSF8sU0
 ―――こっちだよ。

視線を受けた葉子が、ほんの少し、首を傾げた。

「何でしょう」
「この声に従えばいいわけ?」
「さあ」

すげない答えに、郁未が責めるように目を細める。
素知らぬ顔で視線を逸らす葉子へ不満げに唇を突き出してみせた郁未の耳に、

 ―――こっちだってば。

もう何度目になるかもわからない声が、響いた。
ぼうぼうと轟く吹雪の中、その声はひどく遠く、しかし風の音に紛れることもなく、
常には決してあり得ぬ確かさをもって郁未たちの耳朶に直接響いてくるようであった。

「ただ、こういった場所も三度目ですし」

とん、と。
足先を地面に突いて靴に積もった雪を落としながら、葉子が言う。

「今まで通りであれば、此処にもいるのでしょう。主とでもいうべき、誰かが」

そうして声の聞こえてくる方へと向き直る葉子。
そんな相方を横目でちらりと見て、郁未が小さく溜息をつく。

「……ま、他にアテがあるわけでもないしね」

呟いて踏み出した足の下、さくりと踏みしだく感触は、新雪のそれだった。


***

522終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:17:02 ID:lPNSF8sU0
 
「ねえ、これ……」
「でしょうね、おそらく」

戸惑ったような声を漏らす間に睫毛に積もった雪の重みで、ジリジリと瞼が下がっていく。
吹雪はますます酷くなっていた。
猛烈に吹き荒ぶ風と、叩きつけるように落ちる豪雪と、更には既に積もった雪が風に舞い上げられて
地表面近くを白い津波のように流れていくブリザードとで、数歩先も見えない。
そんな中、郁未が相方と共に立ち止まっていたのはひとえに、その眼前に存在する奇妙な物体故である。

猛烈な風の音と白一色の単調な世界は、容易に五感を狂わせる。
数分、数十分、或いは数時間か数日か、とうに麻痺した時間感覚の中、声に導かれるままに歩き続けた
郁未の耳に響いた、

 ―――とうちゃーく!

という声。
その声と同時に、一面の白を割って視界に飛び込んできたものが、あった。
それほどに大きなものではない。
高さにして、郁未の背丈より少し低い程度。
横幅は二メートルもないだろう。
奥行きにしても、似たようなものだった。
しかし、郁未を戸惑わせていたのは、その拍子抜けするような小ささではない。
材質である。
薄茶色をベースに、カラフルなラインや様々なマーク、幾つかの文字。
そんなカラーリングを施された正方形や長方形の板が、鱗のように貼り合わされ繋ぎ合わされている、
それは郁未たちにも見慣れた、

「……段ボールハウス、って」

およそ建築と呼ぶにもおこがましい、子供じみた安普請である。
果物や、野菜や、缶詰や、他愛もない菓子や、調味料や生活雑貨や、そういうものが詰め込まれていたと思しき
大量の段ボールが、そこには積み重ねられ、貼り合わされ、一個の塊となって存在していた。

523終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:17:36 ID:lPNSF8sU0
「いや、これはちょっと……ここまで来て……ねえ?」
「まあ、雪山に浮浪者でもないでしょうが……。とはいえ」

戸惑う郁未の視線を受けて、しかし葉子は厳しい表情を崩さない。

「普通の段ボールハウス……というわけでは、流石にないようですね」
「え?」

驚いたように見やる郁未に小さく溜息をつくと、葉子はおもむろに、肩に積もった雪を払い落とす。
その手がそのまま、眼前の素朴な建築物を指さした。

「……このペースで降り続いたら、こんなものは一時間も経たずに潰れます」
「あ」

言われて気づいた郁未が、改めて段ボールの山を見直す。

「積もってないね、確かに」
「側面にも、雪の付着がありません」
「温州みかん……って読めるしね。ってことは……」

奇妙な立地条件に、更に倍して。
この猛烈な吹雪の中、雪に埋もれることも、覆い隠されることも、その重みに潰れることもなく。
ただの厚紙の塊が平然と存在することそのものが、正しく異常と呼べる事象であった。

「……虎穴に入らずんば、って感じ? やだなあ、そういうの」

うるさいくらいに繰り返し響いていた声は、到着の言葉を最後にやんでいる。
自らの視線よりも少し低いところに位置する、数枚の段ボールを組み合わせて扉を模したらしき
長方形の板を見つめて、郁未が眉根を寄せる。
書かれた文字は『キャベツ 御殿場』。
小さく首を振れば、頭上に積もった雪がばらりとまとめて地面に落ちた。

「何を今更。ここはもう、とうの昔に虎の巣の中ですよ」
「この先が胃袋の中でなけりゃいいけどね」

軽く鼻を鳴らして言い放った葉子が、無造作に扉らしき一枚に手を伸ばす。
半ば無意識に近く歩調を合わせて踏み出しながら、郁未がもう一枚、『特選しょうゆ 1.5l』の扉を掴んだ。
次の瞬間、目配せを交わすこともなく、まったくの同時に、二枚の扉を、引き開ける。


***

524終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:18:17 ID:lPNSF8sU0
 
「―――なにしてたの、そんなところで。かぎとか、かけてない」

扉の隙間から漏れ出す薄い光に向かって飛び込んだ二人を迎えたのは、そんな言葉だった。
声は、ここまでの道のりを導いたそれに、違いない。

「……」
「……」
「さむいからちゃんとしめてね」
「……」
「……はい」

言われるがまま、後ろ手に扉代わりの一枚を元通りに下ろす。
内部は、僅かに橙色じみた薄明かりに照らされている。
身を屈めなければ頭がつかえてしまうほどの低い天井から、小さなカンテラがぶら下がっていた。

「ここ、すわって」
「……」
「……どうも」

ぱんぱん、と小さな手が、やはり段ボール敷の床を叩く。

「……狭いな」
「もう少し、詰めてもらえますか」
「ん」

二人が座ればすっかり埋まってしまうような、狭い空間。
身じろぎすれば肩が触れるほどの間隔で腰を下ろした郁未と葉子を前に、

「さて、あらためて」

こほん、と。
小さく咳払い。
すう、と息を大きく吸って、

「―――ようこそ、ひみつきちへ!」

満面の笑みで告げたのは、まだ幼い少女であった。


***

525終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:18:46 ID:lPNSF8sU0
 
「……」
「……また、ちびっ子か」

溜息混じりに呟いた郁未が、文字通りの意味で膝を突き合わせている幼女を、改めて見据える。
外見上は、明らかに就学年齢にも達していない。
四、五歳といったところだろうか。

「みずかおねえちゃんたちに、あってるね」

しかし、眼前の少女がその外見通りの存在であるはずもない。
異界とすら呼べる、この吹雪の山中に居を構え、声ならぬ声を響かせるもの。
麦畑の主や、羊の海の少女と同質の、異形。

「みんな子どもなのは、『あの子』がそうだから。
 ちかいものだけが、のこった」
「―――『あの子』?」

郁未の表情が変わる。
それを見て、葉子が静かに目を閉じた。
口元を引き結ぶその顔は、何かを堪えているようにも見えた。

「今、なんて……」
「わたし? わたしはうしお。ほんとうはまだ、なまえをつけてもらってないんだけど。
 いつもうしおだから、うしおでいい」
「聞いてない!」

苛立ちを隠そうともせずに言い放つ郁未。
しかしうしおと名乗った幼女は、にこにこと浮かべた笑みを崩さない。

526終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:19:21 ID:lPNSF8sU0
「あなたたちのこと、しってる。ここでずっとみてたから」
「おい……!」
「ほら、テレビと、ふぁみこん」
「ッ……、―――」

嬉しそうに狭い室内のあちこちを指差すうしおを睨む郁未が、細く細く、長い息を吐く。
同時にその顔から、すう、と感情の色が消えた。

「テレビ、なんでもうつるんだよ」

と小さな手がぺちぺちと叩いた、四角い面を縁取るようにクレヨンで枠線の引かれたベニヤ板のモニタも。

「ふぁみこんで、つうしんもできるし」

奇怪な落書きとしか見えない色とりどりの紋様が描かれた、スケッチブックの端切れで構成される
無数の計器類やコンソールも。
空になった菓子袋の食料庫も、透明なガラス玉の宝石も。
雑多なそれらを、ひとつづつ説明するうしおの顔も。
郁未は何も、見ていない。
一切の興味を失ったかのように、段ボールでできた壁の一点をじっと見つめて押し黙っている。

「でも、すごいね」

ひどく狭苦しい部屋の中、そんな郁未の様子に気づかぬはずもない。
それでも曇りのない笑みを崩すことなく、うしおは言葉を続ける。

「もうずっと、ここまでくる人なんていなかったのに」
「……」
「むかしはね、まおうとか、まほうつかいとか、いたんだ。かっこよかったんだよ。
 だけど、いなくなっちゃった。もう、うまれてくるのは、いやだって。
 それで、うまれない子たちだけが、のこったの」
「……」
「……わたしは、ちがうけど」

言葉が、途切れた。
橙色の灯火に伸びた影が、ゆらりと揺れる。

527終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:19:47 ID:lPNSF8sU0
「……きょうみ、ないよね」
「……まあ」

その答えに、喜色を満面に湛えるようだったうしおの笑顔が、崩れる。
口の端は上げたまま、涙を浮かべることもなく、しかし眉だけが、微かに下がっていた。
ほんの少しだけ遠くを見つめるような、淋しげな微笑。
それは到底、幼い少女の浮かべる笑みでは、なかった。

「……」
「……」

吐息をすら感じる距離にいながら、視線も会話も噛み合わない。
二人を見つめる鹿沼葉子も、一言も口を挟まない。

「……じゃあ、いっこだけ」

僅かな間をおいて、うしおがそっと口を開く。

「いっこだけ、しつもん」
「……」

郁未は視線を動かさない。
許容も拒絶も意味しない沈黙だけが、返っていた。

「あの子は、ずっと」

乾いた笑みが、

「ここでずっと、わらったり、ないたり、してきたんだ。それは……」

疲れたような、笑みの形の貌が、
静かに、息を殺して謳われる、祈りのように。

「それは、うまれて、いきてるのとは、ちがうのかな」

言葉を、紡ぐ。



***

528終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:20:24 ID:lPNSF8sU0
 
「―――」

張り詰めた沈黙の、それは無視ではなく。看過でも、なく。
天沢郁未が、ゆっくりと視線を、視線だけを、動かす。

「―――ふうん」

細めた瞳が、射貫くように、幼い少女を捉えていた。

「まあ。―――うん、」

ひどく、素っ気なく。

「続けてよ」

肯定でも、否定でもなく。
ただ一言、促す。

「……うん」

その返答を、どう受け取ったのか。
淋しげな笑みは、そのままに。
うしおが、小さく頷く。

529終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:20:53 ID:lPNSF8sU0
「わたしはね」

歌をうたうように。
触れれば割れる、泡沫のような声が、独白を始める。

「わたしは、うまれるんだ。せかいでさいごに。いっつも、さいご。
 せかいでさいご。うまれてさいご。しぬのもさいご。なまえはうしお。
 そういう、きまり」

独白の他に、音はない。

「わたしのおわりが、せかいのおわり。おわって、もどって、やりなおし。
 やりなおしてまたおわり。ずっとおんなじ、やりなおし」

ただ、風が、あった。

「やりなおせるのは、神さまがいたから。神さまのちからが、あったから。
 だけど、神さまはもういない。さっき、しんじゃったから、もういない」

狭い、狭い屋内に。

「だからせかいは、もうおわり。こんどおわれば、もうおしまい。
 それでもいいって、あの子がいった。おわっていいって、あの子はいった」

橙色の薄明かりを、揺らして。

「あの子はずっと、まってたの。うまれてもいいせかい。うまれたいとおもうせかいを。
 だけど、いつも、だめだった」

音もなく、色もなく。

「せかいのびょうきは、なおらない。がんばっても、がんばっても。
 やりなおして、かんがえて、なんども、なんどもがんばって、それでも」

風が、吹き抜ける。

「わたしが、うまれるの。それで、だれも、のこらない。
 あの子は、だから、うまれない」

名も知れぬ、彼方から。

「たたかいは、そのあいず。もうだめだって、あの子がおもったら、はじまる。
 せかいでいちばんの、かのうせいをあつめて」

此処ではない、何処かへと。

「はじまりのせかいは、むげんのかのうせい。だけどかのうせいは、きえていく。
 じかんがながれて、せかいはどんどんかたまって、かのうせいは、しんでいく」

頬を、唇を、掠めながら。

「かのうせいがぜんぶきえて、だから、せかいはおわるの。だから、わたしはうまれるの。
 だめだって、たすからないってきまったせかいのおわりを、ずっとまつのは、つらいから」

詠うように紡がれる、言葉を運ぶように。

「だから、おわらせるの。あのしまの、あのたたかいで。
 せかいのかのうせいの、ぜんぶをころして」

何かを、伝えるように。

「だけど、もう、たたかいはおわって。かのうせいのぜんぶは、しなないで。
 だから、わたしはうまれない。まだ、ほんのすこし、うまれない」

誰かに、伝えるように。

「もう、やりなおしはなくて。まだ、せかいはおわらなくて。
 だけど、あの子は、うまれない。うまれようと、しない」

祈りに近い、何かを。

「こわいの。うまれるのが。うまれて、しあわせになれないのが。
 こわいの。うまれて、おわるのが。あの子は、だけど―――」

そうして、

「だけど、わたしは、わたしたちはずっと、ねがってる。
 あの子が、いつかだれかと、てをつないであるけますように、って」

風が、やむ。



***

530終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:21:21 ID:lPNSF8sU0
 
 
長い独白が、終わった。
降りたのは、沈黙。
静かな、しかし虚ろならざる、濃密な静謐。
天沢郁未の瞳は、今や真っ直ぐにうしおを見据え、微動だにしない。
その言葉の、真偽ではなく。真意でもなく。
ただその色彩を見極めんとするが如く、じっとうしおを見詰めている。
時が、過ぎ。

「―――ふうん」

郁未が、ゆっくりとひとつ、頷く。
小さな、小さな笑みをその貌に浮かべて。
冷笑ではなく。苦笑でもなく。失笑でもなく。嘲笑でもなく。哄笑でもなく。
幽かな、幽かな微笑が、雪の下、人知れず花を咲かせるように。
そっと、言葉を、紡ぐ。

「それが、どうした―――?」

その表情には、一片の悪意もなく。
ただ一欠片の、邪念もなく。
それは、どこまでも混じりけのない、透き通った問いだった。

「―――」

どうした、と問う。
それがどうした、と。
世界の成り立ちも、真実も、何もかもを貫いて。
疑うではなく。撥ねつけるでもなく。信じるでも、受け容れるでもなく。
理解も、共感も、認識も断絶も透徹して。
ただ一筋の揺らぎもなく問う、天沢郁未に射貫かれたうしおが、ほんの一瞬、
毒気を抜かれたように大きくその瞳を見開いて、

「……、……は、っ」

相好を、崩した。

531終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:22:07 ID:lPNSF8sU0
「あは、あはは……あはははは!」

笑みは、すぐに大笑へと変わる。

「そうだね、そうだよね!」

目の端から涙を零すほどに、笑う。
笑って、笑って、切れ切れに息を継ぎながら、うしおが郁未へと、手を伸ばす。

「私が言いたいのは、たったひとつだけ!」

伸ばされた手には、小指だけが立てられている。
小さく丸い、幼子の指。

「あの子を、うまれさせてね? ―――やくそく!」

その指を見やって、郁未が自らの手を差し出しながら、言う。

「あいつだけじゃない」
「……え?」

小指同士が、触れ合う。
触れて、絡んだ。

「あんたも。もう一遍くらい、やってみな。生まれて、生きるってやつ」
「でも、わたしがうまれたら……」

絡んだ小指が、振られる。
打ち立てられた旗印の、風を孕んではためくように。
力強く、高らかに。

「世界の決まりなんて、知らないよ。私は」
「私たち、は」

それまでじっと黙っていた鹿沼葉子の一言に、僅かに苦笑を返しながら、
郁未が言葉を続ける。

532終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:22:34 ID:lPNSF8sU0
「いつか、誰かじゃなくて。あんたが手を繋いで、それで一緒に歩くんだ。
 ……長い付き合いなんでしょ?」

答えはない。
絡んだ小指から、力が抜ける。
抜けていく。

「―――」

否、薄れていくのは、天沢郁未の指である。
導かれるのか、送り出されるのか。
いずれ、往くべき時が近いことだけが、分かった。

天沢郁未が、雪に覆われた小さな秘密基地で最後に見たのは、笑みだった。
晴れやかに、朗らかに、雲ひとつない青空のように笑う、幼子の笑みだ。


「ねえ、わたしたちは、きっと、ずっと、もっと、もっと―――しあわせに、なれるよね」


それは、笑みと共に紡がれる、新しい風だ。
悠久から生まれ、時の果てを越えて吹き続く、澄み渡る風だ。

音はなく。
色もなく。
それでも風は、吹いている。





【五層 開放】
【終層 解錠】

533終焉憧憬(5):2009/12/20(日) 17:23:19 ID:lPNSF8sU0
  
【時間:すでに終わっている】
【場所:???】

天沢郁未
 【所持品:薙刀】
 【状態:不可視の力】

鹿沼葉子
 【所持品:鉈】
 【状態:光学戰試挑躰・不可視の力】


 【状態:???】


 →1068 1103 ルートD-5

534終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:08:58 ID:n/ibY28g0



 
生まれた!

生まれた、生まれた、生まれた!

生まれた! 生まれた! 生まれた! 生まれた! 生まれた!



.

535終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:09:20 ID:n/ibY28g0
 
涸れた喉で、何度も何度も、僕は叫んでいた。
苦しみの時間は、いつの間にか終わっていた。
全身を支配していた激痛が、指先の方から溶けてなくなっていくのを感じる。
代わりに僕を満たしていくのはこれまでに感じたことのないような充実感と底抜けの安堵で、
そして僕の外側を包むのは、本当にどこまでもやわらかくて、あたたかい空気だった。

涙と笑顔とが三つ、僕に向けられていた。
どれもこれもくしゃくしゃの泣き顔は、だけど口々に祝福をしてくれていて、
まるでそれが伝染したみたいに僕もほんの少しだけ、涙を滲ませる。ほんの少しだけ。

白いおくるみを抱えた早苗さんが、ぽろぽろと涙を零しながら、僕の前に立っていた。
そうして、ほら、抱いてあげてください、可愛い男の子ですよ、と。
そんな風に言われて差し出された、真っ白な布に包まれた、その桃色の泣き顔を
初めて見た瞬間のことを、僕は忘れない。たぶん、この先の生涯も、ずっと。

感動とか、感激とか、そういうものでは、なかった。
そういう風に言い表せるものじゃあ、なかったんだ。
それは、うん、とても大袈裟で恥ずかしいのだけれど。
だけど、他に言いようがないから、言ってしまう。

それはたぶん、生きる意味を見つけた瞬間だった。
僕の、生きる意味。
生きてきた意味。
生きていく意味。
何ひとつとしてやり遂げてこなかった僕が、ただ流されながら時間を潰していただけの僕の人生が、
何のためにここまであり続けていたのか、何のためにこの先あり続けるのか。
その答えが、目の前で真っ赤な顔をして、泣いていたんだ。

536終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:09:37 ID:n/ibY28g0



それがもう、何年も前の話になる。


.

537終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:10:01 ID:n/ibY28g0
あいつは今日も幼稚園から帰るなり、外へ飛び出していった。
元気なのは何よりだけど、元気すぎて心配になってしまう。
鉄砲玉みたいなやつだから、今日はどこで怪我をこさえてくるか、気が気じゃない。
もっともこれまで大きな病気をするわけでもなく育ってくれているんだから、
それ以上を望むのは贅沢というものかも知れない。

そういえば、最近は渚ちゃんのところの女の子が気になっているらしい。
あの子は二つも年下だっていうのに、ませたやつだ。
まったく、誰に似たんだろう。


あいつと出会えたあの島のことは、もうよく覚えていない。
渚ちゃんや早苗さんとは家も近いからよく顔を合わせるけど、あのときの話は殆どしない。
結局、新聞やテレビでは何も報道されなかった。
あの後は国全体が色々大変だったから、それどころではなかったのかも知れない。
長岡のやつは随分と腹を立てていたみたいだったけど、僕は子育てで忙しくて、
やっぱりそれどころではなかった。
気がつけばあっという間に時間は経っていて、記憶はもう、毎日の生活に摩り下ろされて
ひどく曖昧だった。

538終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:10:16 ID:n/ibY28g0
夢みたいな、だけど夢じゃない、ぼんやりとした記憶。
確かなのはたったひとつ、あいつが、僕の子供が、あの島で生まれたってこと。
それだけだった。

分かってるのはそれだけで、だけど、それだけで充分。
他に必要なことなんて、なかった。

あの子は今、ここにいる。
色々あったけど、僕は今、幸せで。
きっとあいつにも、幸せでいてもらえていると、思う。
だから、それでいい。

僕たちは、幸せに暮らしていく。
いつまでも、いつまでも。

それはだから、たとえば僕の、春原陽平の物語があるとしたら。
その最後は、こんな風に締めくくられるということだ。

即ち―――めでたし、めでたし。

なんて、ね。




.

539終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:10:33 ID:n/ibY28g0
******












そんなはず、なかった。












******

540終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:10:56 ID:n/ibY28g0
 
 
聞こえるのは声だ。

幾つもの声。
その全部が、僕を苦しめる声。

「暴れないで! 力を抜いて!」
「そっち! 解けてる! もう一回縛って! きつく!」
「それじゃ舌を噛みます! 大丈夫ですから! 息を深く吸って!」

分からない。
何を言っているのか、分からない。
痛くて。辛くて。苦しくて。
引き攣けを起こすみたいに息を吸わされて。
だから、吐くのは叫びと、喉から出る血だ。

「あ、アア、ああああアアアアアアあああああ……!!」

叫んで、吐いて、少しだけ楽になって。

「口の中、血だらけ……! 水、飲める……? きゃぁっ!」
「長岡さん!? 春原さん、大丈夫、大丈夫ですから! 落ち着いて!」
「もう少し、あと、ほんの少しですから! 頑張ってください!」

痛みの波が引いた後の、砂浜に打ち上げられるのは、恨みと、怒りだ。

541終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:11:33 ID:n/ibY28g0
「い、つ……だよ……!」
「……!? 何ですか、春原さん!? 今、何て!?」
「……いつ、だよ……! もう少しって……! 離せ、離せ、もう嫌だ……!」

ああ、だけど。
胸いっぱいに溜まったものを、思いきり吐き出したつもりなのに。
僕の声は、まるで他人事みたいに遠くで響いている。

「さっきも! さっきも、同じこと……!」
「もう、だいぶ下がってきてるんです! あとちょっと頑張れば、頭が見えてくるはずです!」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! もう痛いのは嫌だ! ああああ、アアアアアあああああ!!」
「落ち着いて! 深く息をしてください!」
「助けて! 助けて!」
「そんなに力を入れたら、赤ちゃんも春原さんも辛くなるだけです! 大丈夫ですから!
 力を抜いて! 痛みを逃がしてください!」
「ああああ、アアアア! 僕は……こんなの、あああ、産みたい、わけじゃない……ッ!」

また、痛いのが。
僕を、襲う。
張り裂けそうに痛いのに。
それを押さえる腕は、頭の上で縛られて。
身体を丸めて、蹲りたいのに。
両足は堅くベッドに結ばれて。
傷口は、開いていく。

「そんな……!」

音が、遠くなる。

「……生まれちゃいけないなんて、生まれなかったほうが良かったなんて、
 そんなことは絶対にないんです! そうさせちゃ、いけないんです……!」

遠い音。

「誰だってみんな、幸せになるために生まれてきてるんです!
 それは、それだけは、本当に……!」

他人事の、音。



***

542終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:11:55 ID:n/ibY28g0
***



音の消えた世界で、思う。

たとえば、生まれてきたとして。
僕は、この命を、愛せない。



***

543終演憧憬(5)/聖誕祭:2009/12/24(木) 19:12:16 ID:n/ibY28g0
 


【時間:2日目 午後5時すぎ】
【場所:I-7 沖木島診療所】

春原陽平
【状態:児頭娩出期】

古河早苗
【状態:健康】

長岡志保
【状態:健康】

古河渚
【状態:健康】

 →1114 ルートD-5

544クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 22:58:20 ID:kC2wWlvQ0
「じんぐるべーるじんぐるべーるすずがーなるー」
「どうしましたか、そんな棒読みのクリスマスソングなんか歌って」
「あーはいそういうわけでクリスマス特別企画ー、葉鍵ロワイアル3B−10ルートの現生存者の解説を行おうと思いまーす」

「無視されました。あ、B−10屈指の清涼剤こと伊吹風子です。今日はバッチリキメてます。文章では表現できないのが残念です」
「いつものまーりゃんだよー。なんかねー、最近はリア充が多くってさー。あちきグレちゃう」
「ああ、独り身の夜風が身にしみるんですね」
「ぐはっ! ううううるさいよ! どどどど童貞じゃありません!」
「どうてい? 美味しいですか?」
「天然記念物……ってほどでもないか。でも食べられるよ」
「ほう。風子はグルメですが一度食してみたいものです。じゅるり」
「ま、チビ助のよーな性格も肉体も幼女な女の貰い手なんていないだろうけどさ。はっはっは」

「まーりゃんさんのことですね分かります」
「うるさいよ! あたしゃ性格は大人だってーの!」
「風子も大人です(キリッ)」
「(キリッ)」
「えっ」
「お前ボケるか突っ込みに回るかはっきりしろよ」
「風子はボケでも突っ込みでもありません。淑女です(キリリッ)」

「あーーーーもーーーーやりにくいーーーーーーーーーーーー!!! もっとこう弄られキャラを相方に回せー!」
「仕方ありません。だって男がらみがない売れ残りはまーりゃんさんと風子だけらしいですし」
「売れ残り言うなコンチクショウ! っていうかことみん(一ノ瀬ことみ)とルーの字は!?」
「ことみさんは亡き岡崎さんに惚れていたと明言されるシーンがありますし、ルーシーさんは言わずもがな」
「未亡人状態ってわけですな……」

「ってことで売れ残りチームです。頑張りましょう」
「絶望した! ロリコンがいないB−10に絶望した!」
「まあまあ。16歳で熟女、18歳でババアと呼ばれる時代らしいですし」
「あのさ、自分で言ってて悲しくならない?」
「風子はコンビニとヒトデがあれば生きていけます。まーりゃんさんのようないき遅れとは」
「いき遅れ違うわーーー!!! 永遠のじゅうよんさいとして、アイドル街道を……もういいです、はい」

「うむうむ。人生は諦めが肝心と言います」
「ちくしょう、たかりゃんやさーりゃん相手みたいなセクハラ下ネタも通じそうにないしなー……」
「淑女にそんなことするなんて失礼です。まーりゃんさんは一度玄界灘に沈んで神に命を返すべきです」
「そこまでのことした覚えないっつーの! あ、いや4人ほど殺してるけど……はい、すんません……」
「アップダウンの激しい人ですね。そんなんじゃ将来社会で働いていけないと思います」
「チビ助の将来はさぞ安泰だろうね……」

545クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 22:58:44 ID:kC2wWlvQ0
「ってこんなことしてる間に時間を浪費しちゃったじゃないですか! 最悪です! まーりゃんさんが時間を湯水の如く使うから!」
「おいお前が言うな。っていうかそれあたしの台詞だし!」
「ではいき遅れのまーりゃんさんとっとと進行お願いします」
「ナチュラルにひどいこと言ってますよね!? なんであたしの方がペース握られ通しなの!? ガッデーム!」
「知りません。では風子はヒトデと戯れてます。……♪」
「それ、ベツレヘムの星だからさ。あ、クリスマスツリーのてっぺんにあるあの星のことね。まーりゃんの豆知識」
「……♪」

「あのさ、反応くらいしてよ……」
「はっ。ああはいはい。風子とっても驚きました。わー」
「性格最悪だこのチビ助ー! ボケも突っ込みも出来ないしっ! どういうことなの・・・」
「仕方ないね」
「……もういいよ、独身いき遅れ女はひとりでやってますよーだ……ぐすん、あたしゃ悲しい」

「まあまあ。いつかきっと多分他のルートでお相手が現れるかもしれないじゃないですか」
「他のルートじゃあちき死んでるって!」
「死んだくらいで諦めるな馬鹿者!」
「あーもー! またあたしが言いたい台詞をーーーー!! なにさこいつー!?」
「淑女です(キリッ)」

「い、いかん、この天下無敵の天衣無縫のまーりゃんが匙を投げたくなってきたぞ……ぐぬぬぬっ」
「何を悩んでいるかは知りませんが、頑張ってください。風子応援してます」
「ああ、あんたそういう純真なところもあるんだったっけ……もういいよ、うん。じゃー始めよっか」
「わーぱちぱちぱち。で、何するんでしたっけ」
「だああああ! またあたしのボケタイムをー!」
「おやまーりゃんさんもう更年期障害ですか? 風子心配です」

「だ、ダメだ……こいつ出来すぎる……この南斗まーりゃん拳でさえ勝てぬとは……」
「まーりゃんさん、くじけてないで早く始めてください。もう60行も使ってます」
「うう、もう死兆星が見えるよお師さん……えーと、生き残りキャラ解説だったね。じゃあまずは手堅く高槻ちゃんから」
「最多登場を誇る人気者ですね。まあ真の人気者は風子ですが」

(も、もう反応するものかっ……! でもまた言われた……悔しいっビクンビクン)
「ねえどんな気持ち?」
「心の声に反応しなくていいから。もう真面目に解説モードだから。仕事しよう、な?」
「そうですね、給料泥棒はいけません」

546クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 22:59:01 ID:kC2wWlvQ0
「えーと簡単に経歴を説明するよ。
 まず七海と郁乃のロリっ娘コンビをウォッチングしていたところをどさくさ紛れの騒ぎで誤解されてそのまんま犬とコンビを組むことに。
 んで罠に引っかかって国崎と奇妙な会話を交わして犬に助けられて再び行進開始。
 行き着いたお寺で前述のロリっ娘たちを助け出し、何の因果かフラグを立て損ねてロリコン認定。
 そこを目撃ドキュンした鎌石村カルテット(ささら、真琴、レミィ、ゆめみ)に殺されかけるも何とか和解する。
 しかしあたし……じゃなくて麻亜子が便所から狙撃したことによりレミィは死亡。
 そのまま逃走した麻亜子を追って探偵高槻は助手のささらと真琴を携えて追跡を開始。
 その後向かった学校で岸田とこれが最初の因縁の対決を交えつつ、生徒会組(ささら、麻亜子、貴明)が運命の再会。
 ただし説得は実らず麻亜子は逃走。高槻は追おうとしたがささらに阻まれ一旦取って返すことに。これがささらとの最後になるとも知らずに。
 んで引き返した寺ではまたもや岸田が大暴れ。真琴の犠牲を伴いながらも何とか撃退して、
 一行はささらを追うべく新たに仲間となった杏を加え進むのであった。
 しかし、進んだ先でばったりと出くわしたのはマーダー千鶴。パーティーは分断。高槻は海に落ちた郁乃を追ってゆめみと共に飛び込む。
 漂流した先で岸田と最後の対決。郁乃はここで死亡してしまい、高槻は大きく考え方を変えることになる。
 無事再会した杏と芳野という新しい仲間を加え、一行は脱出のためのアイテムを探すことに。
 その途中で主催の手駒であるアハトノインと遭遇。辛くも撃退したが高槻は己の力の小ささを実感するのであった。
 芳野に付き従ってついた先の学校には様々な人間が集まってくることに。
 まーりゃんとの因縁を解消しつつ、高槻はその中で会議メンバーに指名される。
 果たして、彼が進む道の先は一体、どうなってしまうのか……」

「続く」
「まあだいたいあってる説明なのでした。前半は典型的なギャグキャラだったけど、
 後半は自分を知って、独立した人間とはどんなものかー、って思い始めてるね」
「風子と似たような感じですか」
「そうとも言えなくはないね。貴重な大人のキャラでもあり、ギャグ担当でもあり、幅は広いよ。まるであたしのような」
「大人……?」
「はーっはっはっはー! どーだ見たかチビ助! ボケてやったボケてやったー!」
「仕事中にふざけないで下さい」

「……ねえ、なんでそんなひどいのさ?」
「風子はいつだって真面目なんです。いつもは馬鹿やってるみたいな言い方しないでください」
「ち、チビ助がいじめる……あちきだって泣いちゃうぞ、女の子だもん☆」
「どうでもいいですが、早く続きをお願いします」

547クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 22:59:20 ID:kC2wWlvQ0
「この子、突っ込みの存在自体を知らないんじゃないだろうか……と思うまーであった。はいはい、続けるよユーモアの分からんばかちんがっ。
 じゃあ次はほしのゆめみことゆめみんね。ゆーりゃんにしちゃうと被るからさ、色々と。んじゃあ……
 まあ大体は高槻と同じ。支給品として鎌石村カルテットに組み込まれて、寺を目指す。
 寺についた後は郁乃の護衛をして、岸田に襲われる。幸いロボットだったから左腕が動かなくなるだけで良かったが、
 真琴は死亡。死を悼みつつその後の行動は逐一高槻と一緒。もうパートナーといって差し支えないレベルだね」

「とはいってもお互い抱いている感情はドライなものですが」
「んだね。高槻はロボットとしてしか見ていないし、ゆめみも人間の模範という形でしか見ていない。
 でもその間には確かな信頼がある。事実、二人ともお互いに影響されているしね」
「高槻さんが丸くなったのはある意味でゆめみさんのお陰ですね」
「かもなー。ゆめみんも事あるごとにたかちーの真似をするようになってる」

「たかちーって無理矢理ですね」
「だってたかりゃんだと被るもん……被るの多すぎて書いてる人も困るって言ってた」
「ルーシーさんは?」
「るーりゃんだとなんか言いにくい」
「風子は?」
「ふーりゃんってなんかイメージに合わない。チビ助で結構」
「納得いかないです……」

「げへへへ、チビ助はかわええのう」
「ふーっ!」
「にょほほほほ、そんな駄々っ子パンチなんぞ効かんぞえ。そーだこれだよ、これなんだよあたしの望んでいた展開は!
 イッツパーフェッ! あたしヘブン状態!」
「気が済みましたか? では続きをお願いします」
「……あのさあ、そのいかにも『演技してました』ってのはよしてよ」
「何が演技ですか。風子はいつだってマジなんです」

548クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 22:59:37 ID:kC2wWlvQ0
「釈然としねーなぁ……まあいいか続けんべや。んじゃ流れに乗ってきょーりゃんで行くかね。
 えっとね……杏が最初にやったことは島で使える特殊掲示板『ロワちゃんねる』への書き込み。殺し合いに負けるかってな書き込みをした。
 もっともロワちゃんねるの存在、もう殆ど忘れ去られてるけど……B−10書いてる人も正直使い道が……ゲフンゲフン。
 んでその後何の手違いか勝平を誤殺してしまいショックの余り気絶。
 だが強靭な精神力で復活を遂げた杏は妹探しのために介護してくれていた祐一達との同行の誘いを断って一人で出発する。
 その後冬弥と出会いつつ高槻のチームに合流する。だが妹はまだ見つからず、それどころか遭遇した千鶴に半殺し。
 浩平の救助の甲斐あって聖に救援を求めることができ、何とか一命を取り留めたもののここから動けない状態が続く。
 芳野にあられもない姿を見られたというハプニングはあったものの、さしたる異常もなく歩けるほどには復活。
 芳野と組んで再び妹探し兼爆弾の材料集めをすることに。その道中で高槻達と再会。
 郁乃が亡くなったことにガックリしつつも再会を喜び合うのであった。だが直後放送で妹の死を知ってさらに落ち込む。
 どうしたらいいのか分からなくなっていたが、ゆめみの励ましでやることを見つけ出す。
 爆弾の材料は見つかったので学校に帰還することに。そこで学校に集まってきた様々な人物と交流。
 友達のことみ、渚。瑠璃との新しい関係。その過程で杏は自分の力量を確認するとともにはっきりとした目的を見つけ出すのであった」

「続く!」
「波乱万丈な人生ですなあ……身内関係のトラブルが多いこと多いこと」
「特に妹である椋さんはB−18の宮沢有紀寧並に恨みを買ってましたからね」
「事実を知らない人も多いんだけどね。そこは救いかねぇ。きょーりゃんは頑張ろうとしてるんだけど空回り、って典型だね」
「実際一回も活躍してませんから。負け越しです」
「そのせいで精神的に脆くなっちゃったね。女の子女の子ー」
「ただ自分の意思で解決しようとしているところが杏さんたるところですね」
「うむ。弱いけど強いヒロインさね。まるで」
「風子ですね」

「……」
「……」
「次行こうか」
「そうですね」

549クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 22:59:51 ID:kC2wWlvQ0
「流れに乗って芳野祐介! 呼び名どうしよう……ゆーりゃんで被りすぎなのぜ。ここはよしのんにしとこう。
 さて彼は一話目にして狂犬との異名を持つ醍醐を相手に祐一と一緒にではあるが勝利するという大金星を上げる。
 婚約者である公子を探すために祐一達とは別れるが、次の道中で今度は郁未と葉子に遭遇。襲われている瑞佳を助けつつ逃げることに成功。
 ただ次の放送で公子の死亡を確認してしまう。まだ風子が残っていると絶望するわけにもいかず、何とか気を保って捜索続行。
 ……で、今度は麻亜子から襲われる。愛について議論した後少々戦闘。やっぱり逃げる。
 逃げた先で今度は国崎と遭遇。あかりを預けられ、更に七瀬とはぐれた詩子を仲間に入れて半分ハーレム。でも全く気にしていない。
 だが行き着いた先の学校で分かれて捜索していたところ、瑞佳と詩子が岸田に襲われ殺害される。
 しかも襲ってきた千鶴にあかりまでを殺される。浩平の犠牲もあって千鶴は倒したものの、芳野の胸にぽっかりと穴が空いてしまう。
 杏と共に爆弾の材料探しをする過程で高槻達と出会う。高槻とは不思議に気が合うようだ。
 その後アハトノインを倒す過程でようやく心を取り戻し、本来の芳野に戻る。後は大体杏と同じ。
 会議組に選抜され、ことみと一緒に爆弾の製作開始」

「続く!?」
「突っ込まないよ。この人も大概不幸だよね。仲間にした女が全員ばったばったと」
「続け様でしたからね……おお、こわいこわい」
「この人に関しては因縁がまだ解決されてないの多いよね。あたしとか、往人ちんとか、チビ助とか」
「まあそれは仕方ないです。会議組でしたから。いずれ機会はあるでしょう。多分」
「大人の渋い会話にも期待したいところです。実質最年長者ではないでしょうか?」
「たかちーの方が年齢的には上なんだろうけど……まーあいつはねー」
「風子とのアダルトな会話にも期待ですっ」

550クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:00:06 ID:kC2wWlvQ0
「はいはい大人大人。では次行ってみよう。声繋がりで往人ちん。こいつもゆーりゃん。ないしゆきりゃんで被りまくりなんだよね。
 さて。えーこの人、初っ端に目つきの悪さから殺人犯だと誤解される。本人はラーメンセットを食べたかっただけだというのに。
 気絶していた拓也(月島兄)を拾ったが罠にかかる。高槻と馬鹿会話を交わしつつマナを説得して脱出成功。
 気絶にはほとほと縁があるらしく、今度はあかりを拾う。看病しているうちにいつの間にか月島兄は殺される。
 そこで少年と対決。なんとか撃退には成功したが放っておけないとして仲間の捜索より少年を打ち倒すことを決めた。
 襲われまくっていて、尚且つ放送で友達を失くし落ち込んでいたあかりを人形劇で励ます一方、出会った芳野という仲間もあり、
 彼にあかりを預けて単独行動に出ることに。ただ、あかりとはもう会えなくなってしまったが……
 ようやく鎌石村で少年と遭遇。既に戦っていた皐月、花梨と協力して少年を倒すことに成功。だが皐月は死んでしまう。
 (無理矢理ついてきた)花梨を仲間に加え、再び仲間の捜索をすることに。ホテル跡まで行くと、花梨はかつての仲間である由真と再会。
 これを機に往人は再び単独行動に。さらに行き着いた先の平瀬村。そこには惨劇の後の舞が呆然としていた。
 自殺しようとした彼女をなんとか押し留め、人形劇でなんとか立ち直らせる。
 ただ往人自身も放送で大切な人を失い、心に深い傷と後悔を背負ったのであった。
 直後放送を聞き錯乱状態になった麻亜子と戦闘に。何とか彼女を説得して、改心させることに成功。
 麻亜子は気絶してしまい、舞が様子を見ることに。その間往人はホテル跡に戻ることにした。
 ホテル跡にもう一度向かうと、ボロボロの風子が彰と戦っていた。これに加勢し、彰を倒して風子を救い出す。
 風子は身も心もボロボロで一度戻ったほうがいいと判断した往人は平瀬村に戻ることに。その際、花梨も由真も死亡したと聞いた。
 寂しいと思いながら戻った先で宗一と遭遇。どうやらホテル跡ではまだ戦いが続いているらしい。
 復活した舞、麻亜子を仲間に加え、風子をお留守番させてホテル跡に向かう一同。
 その先では郁未が待ち構えていた。苦戦の末渚の助力もあり郁未を倒すことに成功。
 疲れきった体で戻り、にぎやかになったパーティーで宗一の仲間が示す目的地に向かうことに。
 車やらバイクを使って移動。ついた学校では会議組からハブられる。代わりに舞とお風呂タイム。エロい。
 さて、今後の彼は……」

「続く?」
「イベント盛りだくさんだね。少年との対決、まいまいとの出会い、まーの説得劇、そして郁未との決戦。
 別れた仲間は殆どが死亡する中、それでも築き上げた新しい関係を軸に頑張る男……うーん主人公。にくいくらいにいい男」
「イケメンですね」
「AIR勢との別れは一応つけてるんだよね。心の中で。だから弱みも見せてない典型的な男でもある。馬鹿なことにねー」
「まあそこはパートナーと認識した舞さんとの絡みで」
「あのシーンはあちきの功績だよね! 萌えのプロフェッショナルのあたしにかかればこんなもんよ!」
「でもいき遅れ」
「うわああああああああ!!!」
「年長組の一人なのと、男なので男組との絡みにも期待。おっと風子はベーコンレタスではありません」
「果たして往人ちんの人形は見つかるのか。ほんと何処行ったんだろうね」
「神尾家にあるかもしれませんね。ただ忘れたダケー」

551クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:00:23 ID:kC2wWlvQ0
「次はそのパートナーのまいまいに行ってみよう。
 当初からマイペース。早期に牛丼組(住井、チエ、志保)を結成して牛丼をもりもり食べつつのんびり。
 耕一は家族を探すということで梓と一緒に別れたが、舞は牛丼組に残ることに。
 ところがここから悲劇が始まる。椋の策略により合流した貴明、ささら、マナ共々舞を除く全員が死亡。椋は逃げた。
 絶望する舞に更に放送が。大親友であった佐祐理も死亡してしまい自殺を試みるが国崎に止められる。
 必死の説得と人形劇で生きる気力を取り戻した舞。だが直後に麻亜子が襲ってくる。
 麻亜子は説得に成功したが気絶してしまい、舞が面倒を見ることに。国崎が留守の間麻亜子のお守りに。
 目を覚ました麻亜子と会話を交わして親交を深めたところで往人一行が戻ってくる。
 宗一の意見に従ってホテル跡に向かう。そこで郁未と対決。苦戦しながらも渚の助力で倒した。
 渚と麻亜子、舞の女の子三人でかしましい一時を過ごしつつ風子もルーシーも仲間になってさらに騒がしく。
 その後は学校に向かい、会議中は自由ということに。
 国崎とお風呂でお互いを信頼しあう時間を設け、舞は信頼を一層深めるのであった」

「続くー」
「まあ完全に往人ちんのヒロインですね」
「あ、嫉妬オーラが出てます。これだから」
「あーあーあー! 聞こえんなぁ!」
「そんなに独り身がつらいですか」
「……だってさぁ」

「まあそこは本編に委ねるとして。あの大虐殺が転換になりましたね」
「マイペースから一気にシリアスだしなー。しかも親友が死んだとなれば絶望だってするさね」
「まーりゃんさんもそうですね」
「うん。だからよく分かるよ。はっはっは、ゆえにまいまいとは友達なのさ」
「その割にはよく呆れられてますが」
「それがあちきよ!」
「まーりゃんさんだけじゃないですけどね。渚さんに杏さんに……友達は増えましたね」
「うむ。かの大親友もさぞ喜んでおろうぞ」
「……何気に境遇がまーりゃんさんと近いですね。だからあの説得もあった」
「まいまいいなけりゃあたし死んでたわ。あーくわばらくわばら」
「ヒロインというよりはヒロイックという言葉の方が合ってる気がします」

552クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:00:37 ID:kC2wWlvQ0
「だね。さあ次だ。ルーの字いくぞぉー。
 いきなり春原と出会ったかと思えばさらに雪見、みさき、浩之まで加わっていきなり大所帯。
 ここに梓まで加わるかと思えば、しかしすぐに良祐の襲撃によりバラバラに散った五人組。
 逃げる過程で少しずつ春原を信頼するようになってゆく。その後しばらく水瀬家、もとい秋子と澪のところで一段落。
 お得意の掛け合いをしつつ怖がっていた澪を説得することに成功。三人パーティーで出撃するかと思えば狂気の名雪が大暴走。
 澪を殺され、春原まで殺されたルーシーは絶望の淵に。しかし春原の仇を討つべく、るーこの名前を捨てて再出撃。
 道中で同じく仲間を名雪に殺された美凪と出会い、シンパシーから友情を深めてゆく。
 次に佳乃を殺された宗一と渚に遭遇。若干の警戒心はありながらも四人でパーティーを組むことに。
 施設探索で向かった廃校にて、偶然平瀬村から火事を発見する。
 渚達と馴染めず、復讐心を先立たせたルーシーと美凪は共に離脱。平瀬村へ向かう。
 やはり復讐など意味のないものだと気付かされたルーシーだったが、そこで積年の仇の名雪が襲撃。美凪を殺されるも渚と協力して名雪を倒す。
 渚を信じると決めたルーシーは美凪の遺品を身につけて、先に行った渚の後を追う。
 とある民家で風子と遭遇。のんびりとしていると郁未を倒してきた渚一行が帰ってきて再び大所帯に。
 その後学校へ向かい、余った時間で新しい仲間の麻亜子や風子と過ごしてゆくのであった」

「続くったら続きます」
「元宇宙人の子なんだけど、恋したり復讐に走ってたり、人間らしいよね」
「風子からすればまーりゃんさんの方が宇宙人です」
「チビ助が言うな。このヒトデマニアめ」
「マニアではありません。淑女と言っていただきたい(キリッ)」
「……ルーの字がよほど常識人に見えるね。ま、なんといってもすのりゃんの影響がでかい。まさしく生まれ変わった原因よ。
 中盤で死んだとはいえ、すのりゃんも本望じゃないかな」

「美凪さんの影響もそうですね」
「一人だと暴走してたかもねえ。そこはまーと同じっさ」
「最終的には渚さんの影響も受けて丸くなってますね。一番変わったキャラではないでしょうか」
「一人称すら変わってるしなー。『るー』から『私』だぞ? すごい変わりよう。ビックリビフォーアフター」
「ともかく変質という意味では一番変質してます」

553クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:00:49 ID:kC2wWlvQ0
「いいか悪いかはともかくとしてね。さあ次、次。渚ちんいってみよーか。
 初っ端から母親である早苗と合流。診療所に立て篭もっていたがそこに葉子と郁未が来訪。
 当時敵意はなかったので、後にやってきた宗一佳乃組と共に平和な一時を過ごしていたが、宗一が出て行ったのを機に早苗が殺害されてしまう。
 渚はここで戦いを拒否。やってきた秋生に命を救われるも秋生は葉子と相打ち。郁未も逃走し、佳乃と共に取り残される。
 戻ってきた宗一と共に秋生の埋葬を終え、出発したものの道中で再び郁未に、さらに仲間になっていた綾香にも襲われる。
 ここで佳乃が死亡してしまう。またも仲間を失い次第に無力さを思い知ってゆく渚。
 ルーシー、美凪が加わったものの胸中は重く、責任を取ることばかり考えていたが、廃校についたところで一変。
 朋也までもが死亡していた。呆然とする渚を宗一が支えようとする。活力を取り戻した渚だったが、続け様にルーシーと美凪が離脱してしまう。
 渚は二人を追うことに。追った先では名雪とルーシーが死闘を演じていた。渚のお陰で何とか名雪を倒せたが、美凪は死亡していた。
 それでも和解した二人は先に行けというルーシーの言葉に従って宗一の援護に向かう。
 着いた先のホテル跡では郁未が宗一達を追い詰めていた。これまた渚の援護でついに宿敵だった郁未を倒す。
 当面の目的を果たし、宗一との仲を深めつつリサとの合流地点である学校へ。
 学校ではかつての友達が待っていた。杏、風子、ルーシー、舞、ことみ、麻亜子などと交流する渚。
 彼女のやりたいことは見つかるのだろうか?」

「愛・続きますか?」
「さてさて、現状間違いなくB−10のヒロインと言えるのが渚ちんだぁね」
「渚さんに関わった人は例外なく渚さんに憧れてますね」
「強い子だから。うん、精神的には一番強いと思うよー。
 親の死を乗り越え、自分を見つめなおして、他者との関係を探りながら進んでゆく。これをヒロインといわずして何と言おうか」
「当初流されるだけだったのが自分の意志を示していくキャラになりましたね。大いに成長しています」
「宗一っつぁんとの関係はどうなってしまうのか!?」
「今のところ相思相愛みたいですが」
「おっとここから先は本編で、だぞ? 良い子のみんなは待っててくれっ」
「次いってみよー」

554クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:01:04 ID:kC2wWlvQ0
「わっしょいわっしょい。次は宗一っつぁんー。
 宗一も驚くくらいの無茶苦茶少女、佳乃と組んだ宗一は診療所で早苗、渚、郁未、葉子と出会う。
 宗一は脱出の方法を探すべく捜索に出たが、それが裏目に。早苗、秋生、葉子は死亡し、残された佳乃と渚で再び旅立つ。
 だが道中郁未と綾香に襲われ、佳乃が死亡してしまう。佳乃の願いを受け取り、宗一は渚を守る決意を固める。
 佳乃を埋葬する過程で新たな仲間、ルーシーと美凪に出会う。この四人で廃校を捜索することに。
 だが途中ルーシーと美凪が離脱してしまう。渚は二人を追い、宗一は別方向から上がった火の手を――ホテル跡に向かうことに。
 道中国崎、風子、舞、麻亜子と合流してホテル跡に。そこでは郁未が待ち構えていた。
 宿命の対決。苦戦しながらも宗一は渚の力も借りて郁未を倒す。だが、美凪は間に合わず死亡していたと伝えられた……
 ルーシーとも合流し、大所帯となった宗一達は同僚であるリサに連絡をとり、別地点で合流することに。
 移動先の学校で、ついにリサとも合流。その他集まった仲間と共に主催者への反抗を企てる。
 和田の残したメッセージを心に仕舞い、首輪の解読を続ける宗一の心境は……」

「つーづーくーぅぅぅぅぅ」
「世界No1エージェントと誉れ高い宗一っつあぁんだけど、前半は静かだったね。……まああるルートでは【禁則事項です】しちゃってるし」
「まったくけしかりません」
「ただし! 因縁の相手であるいくみんとのフラグは深いものがあったね! なんせ二回も勝ち逃げされてるし」
「世界一があの体たらくですからね……本人も自信喪失してたみたいですし」
「最終戦でも苦戦の末にようやく撃破。でもあの時は熱かった! 渚ちんとのフラグも立って絶好調だし」
「一気にキャラが立ってきた感じです。スロースターターです」
「まあ元々熱血気味のキャラだしね。こうもなるってもんさー」
「今のところ対主催側のキーキャラといって差し支えないですが、果たして最終戦でも活躍はしてくれるのでしょうか」

555クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:01:17 ID:kC2wWlvQ0
「無茶苦茶少年の名に恥じない戦いを期待したいっ! はい次、リサリサね。
 参加者の中に篁がいると知り、復讐心を燃やすリサ。そんな彼女の目の前に現れたのは栞だった。
 彼女を軍人として守ると決めたリサは栞に合わせて行動することに。途中で強力な味方である柳川、佐祐理とも再会の約束を誓いつつ、
 体調の悪くなった栞のために別れる。灯台で栞の体調もよくなり、再出発かと思われたが、栞が強くなりたいとリサに訓練を申し出る。
 栞の変化に戸惑いつつも、リサは銃の撃ち方を丁寧に教える。そこに氷川村から逃げてきた英二が現れる。
 大人としてリサの立場を理解してくれる英二にシンパシーを感じつつも、自分をどうしたいのか決められないリサは迷うまま、
 氷川村へと向かうのであった。そこでは修羅と化した柳川が待ち構えていた。栞と英二を先に行かせ、リサはかつての味方である柳川と対決。
 気合の差で打ち勝ち、英二たちの援護へ向かうリサ。だが栞は晴子との戦いで死亡し、英二も初音の凶弾に倒れる。
 自分の気持ちを理解したリサは怒りを力に変え、初音と椋を撃破する。
 途中で駆けつけてくれた浩之と瑠璃を加え、さらに怪我をしていたことみを介抱し、一同ことみの意見に従って学校へ行くことに。
 宗一とも連絡が繋がり、宗一達とも学校で再会することができた。
 学校では成り行きでリーダー役を務めることになったが、心持ちの変わったリサは年長者として引き受ける。
 会議を進めるリサ。和田の手紙で両親の生き様も見届けた彼女は、どう生きてゆくのか……」

「つじゅく」
「一匹狼だった雌狐さん、今は立派なママさん……じゃなくてリーダーさん」
「今までの方々とは反して、こちらは『喪失』がクローズアップされてますね」
「生い立ちもそうだけど、ここでさえ英二ちゃんやらしおりんやらを亡くしちゃったからね……ある意味、カワイソスクイーンだぜ。およよ……」
「それでも、その人たちの考えは確かに根付いています。リサさんも今や立派に生きている人です」
「引っ張ってゆく立場になってますます鋭さを増した狐さん。
 さあ敵の喉を食いちぎれるかっ!? 無茶苦茶小僧とのコンビネーションにも期待っ!」
「最後の戦いがどうなるか楽しみです」

556クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:01:33 ID:kC2wWlvQ0
「果たして『最後』があるかなあ? うっしっし。……次。ことみん行くぞぉー。
 聖との出会いを果たしたことみは二人で脱出の計画を練ることに。そのために爆弾を自前で開発することにしたことみは、
 材料を探すべくまずは拠点にするべく学校へと立ち寄る。そこでひとつ材料を発見したところで芳野、あかりと遭遇。
 さらに傷つきながらも杏を背負って現れた浩平とも協力の約束を取り付けたかに見えたが、
 直後の戦闘であかり、瑞佳、詩子、浩平を亡くしてしまう。悲嘆にくれながらも、大人の聖が先導して立ちなおらせる。
 二手に別れ、それぞれ爆弾の材料を探してくることに。だが爆弾の材料の一つを見つけたと思った矢先、
 氷川村から逃げてきた宮沢有紀寧と遭遇してしまう。聖の特攻とことみの反撃により有紀寧は倒れたが、聖も死亡してしまう。
 聖の思いを受け取り、医者になると誓ったことみ。だが有紀寧の抵抗で全身傷つき、視力も失ったことみは途中で倒れてしまう。
 リサに助けられて命は取り留めたものの、しばらく動ける状況ではなかった。幸いにして車があったので、リサに事情を説明し、
 浩之、瑠璃と共に学校まで戻ることに。学校に着く頃には歩けるようにもなり、さらにかつての仲間達と再会。
 喜びもそこそこに、会議組の主要メンバーとして参加することに。また後で、と言い残して会議に参加。
 会議の中で、和田のメッセージを見たことみは何を思うのか……」

「続くんです」
「ということで天才少女ことみんの波乱万丈人生なのである。いやー、片目失明したのにガッツに溢れてるよ」
「それだけ聖さんの存在が大きいってことですね」
「最初からずっと側にいたからね。生き方でも、大人としての立場でも、格好良く映ってたんだろうなー」

「お父さんとお母さんのフラグが思いも拠らぬ形で解決しましたね」
「なりたいようになれ。いい言葉よのう。Routesとクラナドのコラボだけど、いい感じにマッチしてたねぇ」
「懸念が殆どなくなって、もう年少メンバーの中でひとつ大人になった感じです。まーりゃんさんより」
「HAHAHA、まーは永遠のじゅうよん」
「でも」
「ごめん、子どもでいいです、はい」
「何も言ってませんが……」

557クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:01:47 ID:kC2wWlvQ0
「次、次行くよー! 次はひろりゃんとるりりんね。二人同時なのは殆ど概略が被るからなのだ。ごめんよっ。
 春原達とはぐれ、みさきと共に逃げてきた浩之。そこで出会ったのは千鶴に襲われ、イルファを盾にして逃げ延びてきた瑠璃と珊瑚だった。
 浩之が怪我をしていたこともあり、イルファが帰ってくるまで待つことにした四人だったが、既にイルファは帰らぬ人に。
 放送で真実を知った瑠璃は悲しみを背負いながらも、珊瑚を守ると決意して進むことにしたのだった。
 珊瑚の勧めにより、パソコンが使える場所を探して民家に立ち寄る一行。そこで腰を落ち付け、珊瑚はウィルスの製作に取り掛かる。
 その間に氷川村から逃げてきた祐一、観鈴、環と知り合った浩之たちは彼らを追ってきたマルチと雄二と対決する。
 かつての友達であるマルチを苦渋の決断で破壊した浩之。重傷を負いながらも雄二を止めた環。悲劇は収まった。
 環を治療するため、祐一たちと共に、道中加わった椋と共に氷川村へととって返す浩之たち。
 しかしそこでは椋殺害を目論む柳川の姿があった。誤解から乱戦となり、祐一は死亡。先に逃がしたはずのみさきと観鈴も、
 裏切った椋により殺害された。悲しみで自我を喪失した浩之は、虚ろな気持ちを抱えながら戻る。
 だがそこでも椋の手が伸びていた。不意討ちにより環も珊瑚も死亡し、瑠璃も絶望の淵に落ちていたのだった。
 傷ついた者同士、傷を舐め合う二人。浩之にはみさきへの淡い気持ちもなく、
 瑠璃は浩之を慰めの代償として利用していたところがあると気付いていながら。
 戦闘があると知り、急遽駆けつける二人。そこではリサが初音と椋相手に戦っていた。
 仇を討つ気持ちに支えられ、二人はリサに加勢する。協力して椋と初音を倒したが、椋には哀れだと思う気持ちしか持てなかった。
 空虚な心は収まらない。だがそれではいけないと思う気持ちが浩之を、そして瑠璃も少しずつ変えてゆく。
 ことみを加え、一行は学校へ向かうことに。学校で自由行動を許された二人は、椋の姉である杏と対談することに。
 一先ずの和解をした瑠璃とは対照的に、浩之は罪悪感に燻ったままだった。
 優しく受け止める瑠璃。彼女の思う気持ちに触れ、凍りついた心が溶け、自我を取り戻す浩之。
 ずっと生きてゆく。誓い合った二人の、先は――」

「続く……!」
「心に関する話が多いねー。そして今のところ随一のバカップル」
「風子、砂糖吐きそうでした」
「他のキャラとの交流はイマイチ少ない反面、この二人の心が繋がってゆく様は必見! ちょっぴりエロスもあるよ!」
「まあそもそもB−10では本番もあったわけですが」
「陵辱だけどね。おお、鬼畜鬼畜」
「ちょっと独特だけど、人間同士の繋がりという意味では面白い二人組なのだー」
「要チェックや! です」

558クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:02:02 ID:kC2wWlvQ0
「それでは本日のぉぉぉぉぉぉ、メーンイベントー!!! あちきの生き様とくと見よっ!
 愛する生徒会のために修羅になると決意した麻亜子は、手始めに直幸を殺害する。
 続いて策略によって雪見を殺害し、綾香を嵌める。
 尚も止まらない彼女はレミィを不意討ちで殺害して学校へと逃げる。そこへ追ってきたのが高槻とささら。
 貴明も現れ、観鈴を撃った麻亜子を止めようとマナも参戦。幸いにして観鈴は祐一と環によって連れ出されたが、麻亜子は貴明に苦戦。
 逃げようとしたところにささらに見つかり、気が動転。結局逃げ出すことになり、一つ迷いを抱える。
 その先で芳野達を襲撃しようとしたが、上手く行かない。続く良祐戦では首尾よく殺すことに成功したが、次でツキが果てる。
 耕一と梓を相手取って戦っていると、殺し損ねた耕一が鬼となって復活。共闘していた弥生とは離れ離れになり、山から転落。
 落ちた先で休息を取っていたが、その間の放送でささらも貴明も死んでいることを知ってしまう。
 錯乱した麻亜子は国崎と舞を襲うが敵わず、どうすればいいのか分からなくなる。
 だが舞の言葉によって、改心する麻亜子。安心した麻亜子は気絶した。
 目を覚まし、舞と話をしていると国崎や宗一、風子が現れる。彼らの言葉に従い、麻亜子もホテル跡に向かうことに。
 そこでは郁未が待ち構えていた。自己嫌悪の顕現ともいえる郁未を相手に戦い抜く麻亜子。郁未はその末に倒れた。
 戦いが終わり、一息ついた麻亜子は渚や舞、そして新しく加わったルーシーや風子と愉快な一時を過ごす。
 だがその内奥にはひとつの寂しさが生まれていた。
 行き着いた学校でも馬鹿を繰り広げる麻亜子だが、寂しさは除ききれていないようだった」

「続くのですよ!」
「うむ、流石まーだ。改心は死亡フラグなんていうけどどうってことないぜ!」
「ロワはまだ終わってないですが。最終回を終えるまでがロワです!」
「先生! バナナはおやつに入りますか!」
「入りません! いや入ります! ああでもやっぱりアウト!?」
「……なんか無駄にテンションあげちゃった。疲れた……」

「ですが、いつの間にか年少組の中心になってましたね」
「それがまーの生き方さっ☆」
「勝手に喋りまくりますからね。まったくはしたない。淑女の風子とは大違いです」
「にゃにおー? あたしはもうパンツの安売りをしていないのだぞっ。成長したと思いねえ」
「やったらドン引きです」
「いや、真顔で正論言われてもさ」
「失礼な。風子はいつだって真面目です」

559クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:02:19 ID:kC2wWlvQ0
「じゃあ最後にその淑女(笑)のチビ助いってみよーかっ。
 偶然から篁という大物を倒した風子だったが、本人は気付いていなかった」

「えええっ!?」
「おい途中だぞ」
「ふ、風子ラスボス倒してたんですかっ」
「あー、オフレコよ?」
「これはもう風子がNo1ヒーローですね。さあ続けてください。語尾に素敵です風子と付け加えながらっ」

「そのまま当てもなく歩いていると、殺し合いに乗っていた友里に見つかるが、見逃される。
 次でようやく知り合いである朋也と出会えたが、探し人である公子は既に死んでいた。
 朋也に慰められながら、とりあえず彼についてゆくことにした風子。
 しかし道中彰に奇襲され、みちるが死亡。朋也も風子と由真を庇って死亡してしまう。
 絶望に駆られかけたが、年上の意地を貫き、由真を立ち直らせる風子。そのままホテル跡の探索をする中で、
 由真は無事花梨と再会する。花梨の度重なるミステリ研への入会を拒みつつ、どうするか決めていると、
 そこに郁未、七瀬、愛佳が現れ、そこに彰や名雪までが襲撃をかけてくる。
 郁未と共に逃げようとした風子、由真、花梨、愛佳だったが、途中で郁未が裏切る。
 由真と花梨が殺され、発狂する愛佳。風子もほうほうの体で逃げ出したものの、由真を失った心は傷つき、自分を役立たずだと思うようになる。
 だがそんな風子の心など知る由もなく、彰が追撃してくる。なんとか振り切ろうとあの手この手を使うが、追い詰められる。
 そこに国崎が現れ、彼の援護を得た風子は彰を倒す。心も少し持ち直した。
 疲労の極地にあった風子は一旦山を降りて休憩することに。そこで国崎たちの帰りを待つ中で、ルーシーと遭遇。
 渚の知り合いであるという共通点から仲良くなる二人。そこに国崎たちが戻ってくる。
 賑やかになるパーティー。風子は少しずつ元の明るさを取り戻してゆく。
 風子は主に麻亜子やルーシーと組んで馬鹿をするようになる。決戦直前。自分に恥じない生き方をしようと決めた風子の未来は?」

「一体、どうなってしまうのか! あと華麗にスルーされました。ショックです。風子お嫁にいけません」
「そもそも貰い手がいないっての」
「むかっ! 失礼です。風子なら引く手数多です。まったく風子の魅力が分からない人ですね」
「……まあ、一部の人には大人気だろうさー」
「なんですかその同類を見るような目は。風子、まーりゃんさんのようなばかちんとは違います」
「はいはいはい。どんぐりの背比べ……って何だとー!」
「ふーっ!」
「ってこんなことしてる間に時間なくなってるじゃんよ! 締めの言葉を言う時間がn




――――――――――糸冬 了――――――――――

560クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:02:39 ID:kC2wWlvQ0













「ふ、風子のコメントは!? ああっまだ終わっちゃダメでs

561クリスマスだよもん、教えてまーりゃん&ふーこ先生!:2009/12/24(木) 23:03:30 ID:kC2wWlvQ0
さぁ〜て、クリスマスのハカロワ3は?

「デイビッド・サリンジャーです。ここでしか出番をもらえませんでした。はっはっは、私だって生存者なんですがねえ。
 泣いていいですかね? 私の人形達は全然慰めてくれないんですよ……
 さて次回は
・来年で葉鍵3は終わるのか
・サンタさんがどこかのルートを書いてくれるのか
・メリー・クリスマス!
の三本ですよ」

今週も葉鍵3のスレをチェックしてくださいねー、じゃーんけんぽんっ!ウフフッ

→B-10…には収録しなくていいですw ネタとして寛大な心で見てください

562名無しさん:2009/12/25(金) 17:06:48 ID:fqgC202s0
春原 「呼ばれて飛び出て」
るーこ「はいじゃんぷっ」
春原 「……ハイジャンプ?」
るーこ「はいじゃんぷだ、うーへい(ぴょーん ぴょーん)」
春原 「そ、そうなの……?(ぴょーん ぴょーん)」
るーこ「クリスマスだぞ。めでたいな、うーへい(ぴょーん ぴょーん)」
春原 「そ、そうだね、るーこ……そろそろ自己紹介を始めてもいいかな……(ぴょーん ぴょーん)」
るーこ「うむ。許可する」
春原 「それでは改めて。僕達は!」
るーこ「噂の刑事!」
春原 「陽平と!」
るーこ「るーこだ!」

春原 「……」

春原 「違うよ、るーこ……そこは『カップル』にして、『噂の刑事でしょ』って突っ込んで貰うところなんだから」
るーこ「どちらにしても、センスがぷーぷーのぷーなうーへいのネタでは場は盛り上がらないのだ」
春原 「ちょっとるーこ。根本的な所を否定されてしまうと、さすがの僕もつらいんだけど」
るーこ「よし。それじゃあB−4も、クリスマススペシャルを始めるぞ」
春原 「ねぇ、るーこ。僕、寒い」
るーこ「数年間出番のないるーが自分推しをできる機会は少ないからな。この場を活用させてもらうぞ」
春原 「心が寒いよ、るーこ……」

563名無しさん:2009/12/25(金) 17:07:24 ID:fqgC202s0
るーこ「それで、クリスマススペシャルとは何をするのだ」
春原 「ルートの現生存者の解説だって」
るーこ「ふむ。我々の所属するB−4ルートは……」
春原 「……」
るーこ「うーへい。何だ、これは」
春原 「僕達の所属する、B−4ルートの生存者一覧だよ」
るーこ「……キリがないぞ、うへーい」
春原 「そうだね、キリないね。うへーいになっちゃってるもんね、るーこかなり動揺してるね」
るーこ「よし。帰ろう、うーへい」
春原 「ちょっと、待って! ちょっと待ってるーこ!!!」
るーこ「るーは不毛なことは嫌いだ。うーへい、世の中にはできることとできないことがある」
春原 「全くもって!! でもさ、るーこ。今日は出番のない僕達が、自分アピールしに来たんだろう?」
るーこ「む」
春原 「今しかないって。仮にもし、来年一発目の話が僕達の話だったとしても、僕達が生存していることを知っている人が一体何人いると思う?」
るーこ「二人」
春原 「こら! こらだぞ、るーこ!!」
るーこ「いや、うーへいが言いたいことは分かっている」
春原 「ほ、本当に?」
るーこ「次にるー達が出てきた時、るー達の現状が分からないと見ている人もぱっぱらぱーになってしまうからな」
春原 「んんっ?! 確かにそれは、そうだけど」
るーこ「よし。うーへい。るー達は、今固まっている人間達がどうしているかのお浚いをしよう」
春原 「おお、グループ間か。それはいいね! ここに来てまともな提案をしてもらえたのは、かなり嬉しいよ」
るーこ「るーはできる子だからな」
春原 「偉い偉い、それでは行ってみよー」

564名無しさん:2009/12/25(金) 17:07:45 ID:fqgC202s0
るーこ「まずはるー達を追うぞ」
春原 「僕達は平瀬村の民家で休んだまま。放送聞いてません! 放送まで辿り着いてないよ、ちょっと!!」
るーこ「うーへいはまだいい。るーの止まりっぷりったらやばいぞ」
春原 「北川っていう秋子さんの知り合いが出てっちゃったので、今ここにいるのは……」
るーこ「うーあき、うーなゆ。それに」
春原 「秋子さんに、娘さんの名雪さんな。あと、上月の澪ちゃんだ」
るーこ「ふむ。そんな感じだ」
春原 「割烹着なんて萌えアイテムを譲り受けちゃった僕、いやはやそんなひとつウエノ男にるーこもメロメロに間違いないさ」

るーこ「るー達の近くにも、ちょこまかと人はいるみたいだ」
春原 「岡崎ん所も揉めてるのか? まさかの優勝狙いな風子ちゃんが飛び出しちまったらしい」
るーこ「今はその子を追おうとしてるのか?」
春原 「そうみたいだね。岡崎とみちるちゃんっていう小さい子はともかく、この十波由真って子には注意した方がいいかもしれない」
るーこ「いつ手をひっくり返すか分からないな」
春原 「うーん、僕達も身内に殺されるのは溜まったもんじゃないからね。気をつけよう」

春原 「で。まだ誰かいるみたいだね」
るーこ「おい。ここの家も飛び出されてで人が減ってでの展開だぞ、うーへい。どうなっている」
春原 「そういうつっこみは止めようよ、僕達自分で自分の首を締める羽目になるかもしれないから……」
るーこ「む?」
春原 「僕達は、放送を聞いていない。彼らは放送を聞いている。その差だってこと」
るーこ「む……」
春原 「ここでは神尾晴子っていう綺麗なスーツのお姉さんが、何か怒って出て行ったらしいよ」
るーこ「感情的になり、その場のノリで行動するのは危険だ」
春原 「そうだね。ズガンされないように、僕達も精一杯応援しよう」
るーこ「残っている二人も陰湿だな」
春原 「そう言ってくれるなよ、放送聞いてんだからさ……雛山理緒ちゃん、橘敬介さん! めげずに頑張ってくれよ!!」
るーこ「るーも応援するぞ。一応な」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板