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避難用作品投下スレ5

500終焉憧憬(4):2009/12/01(火) 14:54:04 ID:FwPiRpck0
 
浮かんでいる。
落ちるでも、飛ぶでもなく。
それは正しく、ただ浮かんでいた。

蒼穹の、只中である。
ただ一歩、扉の向こうの闇を抜けたそこが遥か天空の高みであるという怪異を、
しかし水瀬名雪は特に感慨なく受け止める。

新鮮な芸当であるとは思った。
大規模で、これまでにあまり類を見ない仕掛けだった。
そして同時に、それだけでしかなかった。
何かに驚愕を覚えるような初々しさは、とうの昔に磨り減って、もうどこにもありはしない。
ただ、知らぬことが知っていることに置き換わったという、それだけが水瀬名雪の感じ方である。

真実。事実。現実。
知っていることは多すぎて、知らされたことは更に倍して、水瀬名雪は病んでいる。
老いという名の、それは病だった。
多くの先人がそうであったように、己の先が長くないことは、理解していた。
幾星霜を風雨に曝された心は老いさらばえて、続き続ける歩みには、もう堪えられない。
生きることに、倦んでいた。
生まれることが、怖かった。
しわがれた脚は自らを支えることもかなわず、杖に縋って、ようやく歩を進めている。
そんな生が、疎ましかった。
水瀬名雪の依って立つ杖を、終焉という。


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