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避難用作品投下スレ4

467儚くも永久のカナシ:2009/02/08(日) 01:01:30 ID:nKYEabcw0
 不思議な感慨を受け止めながら、有紀寧は「そうですか」と相槌を打つ。
 同時に、初音をだんだんと駒と見なせなくなってきている自分が生まれつつあることも自覚する。
 生き残るためには不要なものだと見なしておきながら受け入れようとしている己がいる。悪くはないと考えている。
 ただの情ではないと思っているのだろうか。同情や憐憫を超えた、
 いや言葉では量りきれない何かが初音との間にあるとでも言いたいのか。
 言い訳にしか過ぎないはずなのに、だが決定的に捨て切れていない自分は何なのだ……?

 そこでまた、有紀寧は自分について考えていることに気付く。
 先程打ち切ったはずなのに性懲りもなく悩んだりしている。どうかしている。
 胸中に吐き捨て、有紀寧はもう初音についてどうこう考えるのはやめにしようと思った。
 問題がなければいい。本当に考えすぎた。落ち度さえなければそれ以上深入りはしなくていいんだ。

「分かりました。ならわたしについてきて下さい」
「うん。あ、さっき皆殺すって言ったけど……有紀寧お姉ちゃんは私が守るからね、絶対」
「……ありがとうございます」

 笑顔のままクルツをかざす初音に、有紀寧は平坦な口調で応える。
 元からそんなつもりなどない。誰も信用せず、自分一人で生き抜くつもりだったのに……どうして、こんなに尽くす?
 一瞬、有紀寧の脳裏にはここに来る以前の、資料室のお茶会の風景が浮かんだ。
 毎日のように会いに来る兄の友達。初音はあまりにも彼らに似すぎている。
 誰でもできるような丁寧な物腰でしか対応していないのに、何故こんなに懐くのだろうか。

 家族。またその一語が出てくる。
 家族の亡霊を追いかけているはずのわたしが、家族と思われている。
 皮肉なものだと笑いながら、必要としている彼らの存在を再認識し、戻ろうと有紀寧は思った。

 あの資料室に。

 あの変わらない世界に。

 そうして玄関で靴を履こうとしたときだった。


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