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避難用作品投下スレ4

282青(4) この泥濘を這うような戦いを:2008/12/10(水) 14:31:59 ID:witdPNHU0
要であった青年を喪って、勢力は即座に瓦解した。
プログラムへの対抗という一つの目的に向かっていたはずの彼らは、青年たちに合流する以前の集団単位で分裂。
保持する武装をもって、互いに殲滅戦を開始したのだ。
そして、多数に分裂した集団の殆どから狙われたのが、死んだ青年を中心としたグループだった。
青年を喪ったとはいえその火器は勢力中で最大を誇っていたのが脅威であったのかも知れないし、或いは
かつての結束の象徴であった彼らが、多くの者にとって精神的な枷であったのかも知れない。
いずれにせよ窮地に立たされた彼らを救ったのは、一人の男だった。
男は青年の親友だった。
智謀をもって青年を支え、雄弁をもって彼らを最大勢力に導いた男は、青年を喪った悲しみに浸ったまま
抗戦の意思を見せない友人たちを叱咤し、銃を手に取らせた。

―――諸君、反撃だ。

青年の遺骸を抱いた返り血で顔を赤く染めながら、男は笑ったという。
笑って走り出した、男のその後の記録は凄惨に満ちている。
奇襲、夜襲、伏兵、罠。
あらゆる手段を駆使して敵集団を分断し、かつて手を結んだ人間たちを皆殺しにしている。
時に再びの融和を呼びかけておきながら、最悪の状況で裏切りをかけて死に追いやり、
そうして敵と味方の全てを巻き込んだ鬼謀の果てに、男は勝利した。
生き残ったのは、最初から青年の友人であった者たちだけだった。
その他の全員を男は殺し、そして運営に携わっていた当時の特別人口調査室の人間と接触している。
どのような取引があったものかは知れない。
長い協議の果てに出た結論だけが、現在の事実として残っている。
即ち―――その時点での生存者全員が、第一回プログラムの優勝者であった。

文字通り完膚なきまでの勝利を収めた男は、ただ一つの喪失について何の言葉も残していない。
あらゆる公式の場で青年の死に触れることは、一切なかった。

プログラム終了後、男は国家への所属を決める。
約束された厚遇に甘んじる青年の友人たちと袂を分けて選んだ道は、陸軍士官学校への編入である。
プログラムで見せた神算鬼謀を証明するように男は入学当初から頭角を現した。
幹部候補生として陸軍士官となった後も結果を出し続けた男は、やがて陸軍大学校へ進学。
類稀な成績を残して卒業し、俊才として上層部の目に留まることとなった。
有力な人脈を得た男が幾つかのポストを経て就任したのが、憲兵隊司令部付副官の役職である。
この間の男の職掌に関しては一切の記録が残されていない。
しかし犬飼首相との距離を急速に縮めたのがこの時期であったことを考え合わせれば、議会及び官庁へ派遣される
特務憲兵を統率する役職にあった男が、政府首脳や軍部に批判的な人物の発言内容やそれに起因する攻撃材料を入手し、
それを政治的に活用したことは想像に難くない。
著しく灰色の手法で犬飼首相の政治基盤を堅固なものとし、その影響を背景に発言力を強めていった男は、
同時にこの時期、積極的な論述を各方面に展開している。
機関紙への投稿を始めとして、著書、講演など枚挙に暇がない。
本来、秘密裏の任務に従事すべき憲兵の責任者が大々的に思想信条を公言するのは極めて異例である。
だがその破天荒が血気盛んな多くの若手将兵の尊崇を集め、より発言力を強める結果となった。
犬飼首相を積極的に支持し、公然とその恩恵を受けながら思想面で軍部の旗振り役となった男は、
崇拝者を三軍に増やしていく。
その先鋭な主張や放言をよしとしない人物も櫛の歯が抜けるように失脚し、彼が遂に将官にまで登り詰めたのは、
実に二年前のことである。


***


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