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避難用作品投下スレ3

93幸いを信じ少年は荒野を目指す:2007/12/11(火) 04:37:43 ID:VG.lI4Z60
「わけわかんねえ。追いかける義理、ねえし。あの人が、ついてきてたんだし。
 離れてくなら、それでいいんじゃねえかって、思うし。けど……けど、さ」

夜の森で見た瞳の色が蘇る。
月明かりすらない暗闇の中、深い、深い真紅の瞳は、確かに自分を映していた。
心臓に爪を突き立てて滲んだ血の色のような目に涙を浮かべて、漆黒の鬼は自分を見ていた。
その瞳の色が、忘れられない。

共に過ごしたのは、僅かな時間のはずだった。
それでも、二人で駆け抜けた山道の、夜明けの冷たさが忘れられない。
肩を並べて戦い、ついに包囲を切り抜けた瞬間の高揚を忘れられない。
焼け爛れた傷口から流れる膿の色が忘れられない。
何度言い直させても片言でタカユキと呼ぶ、たどたどしい声が忘れられない。
照れ隠しにしてみせる、インテリぶった口調が忘れられない。
鬼になる前に眼鏡を投げてよこす、格好つけた仕草が忘れられない。
ほんの先刻、かき抱いた体の重さを、忘れられない。

「俺、あの人のこと何も知らねえんだよ。名前はわかる、柳川祐也。
 刑事をやってた。鬼になる。けど……それだけだ。
 あとはわかんねえ。何で俺のことタカユキって呼ぶのか、タカユキって誰なのか、
 そいつがあの人の何なのか、……俺があの人の何なのか。
 何も……何も知らねえんだよ。けど、だから、わかんねえ」

知らないから、追いかけるのか。
知りたいから、追いかけるのか。
だが、知ってどうなる。
知らないのに、追いかけるのか。
知らないのに、追いかけるのが、許されるのか。

その資格があるのか。
それだけの何かが自分の中にあるのか。
或いは、それだけの何かが、柳川祐也の中に、あるのか。
それが、わからなかった。

怖かった。
柳川は、去っていったのだ。
七瀬彰を庇って、自分を振り払って、走り去っていった。
追いかけて、追いついて、その後どうすればいいのか、わからなかった。
確かめるのが、怖かった。
柳川祐也の中にあるタカユキという言葉の意味、七瀬彰の存在、そして何より―――藤田浩之の価値を。


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