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避難用作品投下スレ3

742全き人:2008/06/15(日) 21:10:15 ID:d8Tu4ljw0
 口に出されるのは今まで意図的に隠してきた高槻という人間の姿。堰を切ったように避け続けてきたことを話し続ける。
 今更遅すぎるということは高槻にも分かっていた。それでも尚語りかける。
 最後に己の心情を吐露してくれた、そして信頼してくれた郁乃に応えるために。

「そんな奴だからよ、自分で何もかもを決めなきゃいけないこのクソッタレた島で何をすりゃいいのかなんて分かるわけもなかった。
 いつものような決まった仕事もない。おあつらえ向きの役割もない。それより何より、怖かった。
 自分のしたことが責任を伴うのが怖かった。誰のせいにも出来ない、責任転嫁ができないことが怖かった。
 誰かと出会って、信頼されて、それに応えることが出来ないのが怖かった。追及されるのが怖かったんだよ。
 そうして、居場所を無くすのがな。だからのらりくらりと適当に関係を作って、役割を作り上げようとした。
 無責任でいたかった。人を背負うのが嫌だったんじゃない、その重圧が嫌だったんだ。何かに対して『責』を負うことがな。
 だからバカなことを言って、『俺様』なんて虚像を作り上げて、ちょっとオチャメなナイスガイ、なんて役割を演じようとした。
 いや逃げようとした。人の想いを背負うことが怖くてたまらなかった。
 だから、ヒーローなんかじゃないんだよ。それ以下の、薄っぺらいチンピラ以下さ。
 お前らが、必死にそれを教えてくれようとしてたっていうのによ。……気付いたのが、今更さ」

 誤魔化して、嘘をついて、逃げ続けてきた人生。それが高槻という男の人生だ。
 考え直せば、そこから更生する機会は何度もあったというのに。
 全てを不意にした結果がこの有様だった。こんなちっぽけなことすら理解するために支払ったものはあまりにも大きすぎた。
 小牧郁乃という少女のウェイトは、いつの間にか高槻の中では大きなものを占めていたのだ。
 それは男女関係などというものではなく、敬愛の念に近く。
 いつだって必死に何かを考え、責任を真正面から受け止めてきた彼女の生き方が、本当に尊敬すべきものだと考えていた。
 それを、見ないようにしてきただけで。

「……今だって、そんなに考え方は変わっちゃいない。別にどこで誰が死のうが俺には関係ないし、涙を流せるほどお人よしになれない。
 だが、俺の目の前にいる奴らが、俺が逃げてしまったせいでこんな結果になるのは真っ平ご免だ。
 そんなのは他人任せの人生だ。人に責任を押し付けて、それでバタバタ死んでいくのを黙って見過ごせるほど、俺は根が腐っちゃいない。
 いや、もうそうしないと決めた。俺は俺に拠って立っていたい。お前ほど小気味良い生き方には出来ないがな。
 ヒーローになんてなれなくてもいい。今度こそ俺は自分の果たすべき責任を全うしたい。『生きる』って責任をな」


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