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避難用作品投下スレ2

535人形遣いの奮闘と再出発:2007/06/08(金) 00:01:44 ID:Lh4liMJc0
苦笑しつつパン人形を地面に置き、手に力を込める。このくそったれゲームの主催者曰く『能力は制限されている』らしいがクソ食らえだ。法術の力をナメんな。
しかしやはり能力は制限されているようで、中々動く気配を見せない。普段ならもうとっくに動いているはずだというのに…
これ以上続けるとせっかく収まりがついてきた腹がまた催促を始めるのでやめようかとも一瞬思ったがそれは芸人のプライドが許さないしこのデス・ゲームの主催者に思い通りにされているようで腹が立つので続けることにした。クソ食らえ。
その思いが実を結んだのかようやくパン人形がぴくぴくと僅かながらも動きを見せ始める。
ほら見ろ。俺の人形劇はそんなチャチなもので止められはしないのさ。
ニヤリと笑いながら、往人は久しく言葉にしていなかった芸の前口上を告げる。
「さあ、楽しい人形劇の始まりだ。見てみろ、神岸」

名前を呼ばれたあかりが暗い表情を往人に向けて、いや正確には往人の足元へあるパン人形へと目を向けた。不細工なそれが人の形をしていると分からないのか、首をかしげるあかり。
「本当なら相棒の人形を使う予定だったんだが生憎奴は家出しちまっててな…代わりにこいつで我慢してくれ」
集中を切らさぬままあかりに言い、動けとパン人形に命じる。往人の念を受けてパン人形は動き始めたが本物の人形と違い関節などが動くように出来ていないので紙相撲に使う力士のようなギクシャクとした動きしかできなかった。
おまけに制限のお陰で完全に操ることが出来ずそれは人形劇というにはあまりにも稚拙な、そして滑稽過ぎる代物になっていた。
しかし劇の内容は、唯一の客人であるあかりには関係なかった。種も仕掛けも無くひとりでに物体が動いているのである! 文句をつける以前に、その不思議さにあかりは見惚れていた。
「どうだ、凄いだろう?」
こくりとあかりが頷く。だが芸人である往人としてはそれだけでは面白くない。最後に空中でパン人形を回転させて劇を締めようと計画していた。
一層の力を集中させ、空を舞うパン人形の姿を思い描く。イメージの中のパン人形が地面に着地した瞬間に、往人は力をパン人形に注ぎ込む!
ずるっ。
…しかしパン人形は宙に舞うことすらなく無様に地面を滑り、転倒していた。そして、その後いくら念じてもパン人形は二度と動こうとしなかった。
大失敗。なんという最悪のタイミングで力が切れるのか。もしかしてこれも主催者の陰謀じゃなかろうかとさえ往人は思った。

「…ぷっ、あは、あはははっ」
失敗した言い訳を考えようとしたら、突然あかりが笑い出した。何がそんなに可笑しいのか、腹をかかえて笑っている。
さっぱり理由の分からない往人が言葉を探しあぐねていると、まだ笑いが収まらないあかりが途切れ途切れに言った。
「分からないんです、でも、何だかおかしくって…本当に面白かったんです」
未だに要領を得ない往人ではあったがとにかく、経緯はどうあれ上手くいったのだから万々歳である。


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