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避難用作品投下スレ2

223天空に、届け:2007/05/06(日) 05:15:17 ID:hwEAUQBA0
叫んで、笑う。
ひとしきり笑い終わると、秋生は腹這いになったまま、腕の力だけで移動し始める。
匍匐前進。足はもはや、何の感覚も返してこなかった。
遅々としたその移動の最中に、時折小さな愚痴が混じる。

「ぅ熱ィッ! ……くそったれ、鉄板焼きじゃねえんだぞ……」

進み行く先では、いまだ地面から陽炎が立っていた。
そこかしこで煙が上がり、小さな炎が燻っているところもあった。
ずるずると身体を引きずりながら、秋生はゆっくりと目的の場所へと近づいていく。
熱さは、すぐに感じなくなった。
尖った岩に顔をしかめ、焼けた斜面に血痰を吐きながら、秋生は進む。

「……ちったぁ、バリアフリーってもんを考えやがれ、ってんだ……なぁ?」

長い時間をかけてようやく辿り着いた目的の場所で、秋生はそう毒づいた。
上体を起こす。見上げた視線の先に、立ち尽くす人影があった。

「はン、ノーリアクションたぁ、冷てえな」

苦笑して、項垂れる。
身を起こしているのすら、ひどく億劫だった。
喉がひりつくのに苦労しながら息を整えると、傍らを見やる。

「まぁ、いい。……どうやら俺たちの勝ちみてえだぜ、爺さん。
 ……どうする? 勝負の続きと、洒落込むかい?」

言葉は、返ってこなかった。

「……おい、爺さん? おい……」

伸ばしかけた手が、止まる。溜息を一つ。
戻したその手で尻ポケットをまさぐると、秋生が何かを掴み出した。
くしゃくしゃによれた紙箱のような物から、細長い何かを一本、摘んで口に銜える。
それは、ぼろけた煙草だった。
銜え煙草のまま寝転がると、先端を焼けた地面に押し付けて息を吸う。
小さな炎が灯り、紫煙が立ち昇った。
胸一杯に紫煙を満たし、すぐに咳き込んで身を捩る。唾と一緒に血を吐いた。
たん、と小さな音がした。
秋生が、力なく地面を叩いた音だった。

「最後まで……小僧呼ばわりかよ……!」

風が、吹き抜けた。
細かな塵が舞う。
黒い粉塵は、秋生の傍らに立つ人影から、舞い散っていた。
右の豪拳を天空へと突き上げた格好のまま立ち尽くす人影。
膨大な熱量に焼き尽くされたその骸は、黒く炭化してなお、そこに立っていた。
それが、長瀬源蔵という人物の、最期の姿だった。


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