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避難用作品投下スレ2

102娘の願い、母の願い:2007/05/01(火) 15:16:50 ID:RYnJ3lb.0
日はすっかり沈み、周辺を映す光は何もない無学寺の一室。
水瀬秋子と水瀬名雪は寄り添いあいながら休息を取っていた。
月島拓也を迎撃し彼らと別行動を開始した後、二人は終始無言で歩きつづけた。
再会は出来た、だがこれで終わりなどではない。
むしろこれからが重要なのだ。自分は手負いの中、なんとしてでも娘を守らなければならない。
疲労と、怪我と、そしていつまた襲われるとも限らない危機感に、秋子はとても安堵に浸る余裕などなくなっていた。
それを感じ取ったのか、隣を歩く名雪も秋子の腕にしがみつきうつむいたまま寄り添いながら歩きつづけ、何事もなく目的地に着いたのが数刻前の出来事。
惨劇の島に閉じ込められながらも,初めて訪れた親子水入らずの一時。
小さく寝息を立てる名雪の頭をひざに乗せ優しく撫でるその顔は、娘を慈しむ一人の親の顔で。
とても怒りに人を殺したなどとは思えないほど慈悲に満ち溢れていた。

「―ーう……ん……、ゆう……い……ち……」
閉じた瞳から一筋の涙が零れると同時に、名雪の口が小さく開く。
不意に発せられた人名に秋子の手がピタリと止まっていた。
娘の大好きだった甥っ子、そして自身も二人を見ていて暖かい気持ちになれていた。
……だがそんな彼も目の前で死なせてしまった。
寺に向かう道中名雪と交わした唯一の会話を思い返す。
『祐一の名前が呼ばれちゃったんだ……』
秋子の胸がちくりと痛む。
あの時自分がもっと冷静にだったならば、祐一も、そして澪もあのような事にならなかったのではないか。
少なくとも自分の行動が原因の一端を担っていると言っても間違いはない。
だからなにも答えることは出来なかった。
『その話は後でしましょう。今は安全な場所へ』
そう答えるのがやっとでしかなく、再び彼のことを聞かれた時いまだになんと答えればいいのか秋子は判断できなかった。
止めた手をゆっくりと下げながら名雪の頬に当て、流れ落ちたしずくをぬぐい考え続ける。
目の前で死んだ事を隠し彼の遺志までも握りつぶしてしまうべきなのか……いやそんなことは出来ない。
だが正直に話して、娘は自分を許してくれるのか……。

答えは出ないまま、極度の疲労が秋子を襲い、逆らうことも出来ずに意識は闇へと落ちていった。


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