したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

避難用作品投下スレ

919一筋の涙:2007/04/11(水) 00:47:31 ID:Jq.Kvs9U0
「んん……」
昼間に寝すぎた所為か、睡眠は約半刻程しか続かなかった。
視界が正常に機能する事を許容せぬ漆黒の闇の中、鹿沼葉子は目を醒ました。
意識を取り戻した葉子は、自分の頬に違和感を覚え、疑問を解決するべく手を伸ばす。
すると生暖かい液体の感触が、掌に伝わった。
「これは……涙……?」
葉子は困惑を隠し切れない声で呟いた。
どうして涙を流しているのか、その理由にはすぐに思い当たった。
とどのつまり、自分の心は――予想以上に、天沢郁未の死を嘆き悲しんでいたのだ。
「ふふ……まさか私がいつまでも泣いてるような、女々しい人間だとは思いませんでした」
僅かばかりの悲しみと、強い自嘲の念を込めて、言葉を紡ぐ。
本当に意外だった。
郁未は唯一心を開いて接する事の出来た存在ではあったが、まさかここまで自分の心に影響を与えているとは思わなかった。
それ程までに郁未の存在は自分にとって大きかったのだ。
この島で郁未と交わした約束を思い出す。
「郁未さんと私が最後まで生き残ったら決着をつけましょう、か……。馬鹿ですね、私。
 私が郁未さんを殺せる筈が無いのに。その時が来てしまえば、きっと私は黙ってこの命を差し出すしか無かったのに……」
すっと目を閉じて、郁未の顔を思い出す。もう素直に本心と向き合おう。
年相応の脆さと冷淡な強さを併せ持った郁未が、大好きだった。
自分に生きるという事を教えてくれた郁未が、大好きだった。
自然に目の奥から涙が溢れ出し、閉じた瞼の隙間から流れ落ちる。
でもこの一筋の涙で最後。もう泣かない。もう悲しまない。
ここで自分まで死んでしまっては、郁未がこれまで何の為に生きてきたか分からなくなる。
あの施設の仲間達も、もう死んでしまった。
だからこそ、郁未から掛け替えのない物を沢山教えられてきた自分だけでも、絶対に生き延びなくてはならない。
泥を啜ってでもこの島より生還し、外の世界で、郁未の想いを心の奥底に刻み込んで生き続ける。
ならばこれ以上感傷に浸っている暇など無いのだ。
まずはこれからの方針を、より具体的且つ効率的なものに絞ってゆかねばならないだろう。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板