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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

70自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:20:50 ID:VMImqlO.
貴明とマナは銃を下ろし名雪を見た。
見るからに名雪は怯えている。それに肩には既に治療済みだが刺し傷があった。
(そうか……ゲームに乗った奴に襲われたんだな………)
そう確信した貴明はマナとささらに「任せてくれ」と目で合図した。
マナとささらもそれに気づき黙って頷いた。

「お母さん、助けてよ……お母さん、お母さん……!」
貴明が顔を先ほど向いていた方へ戻す。
名雪は頭を抱えながら部屋の隅で震えていた。
「ねえ君……」
「ひっ!」
名雪が恐る恐る振り返る。その顔は涙と鼻水、そしてここまで走って逃げてきたことによる疲労でぐしゃぐしゃになっていた。
「……ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。ただ……俺たちも生き残るために必死だから……
俺たちは殺し合いには乗っていないし、君に危害を加えるつもりは無いよ。だから落ち着いて話を聞いてくれないかな?」
貴明は銃を床に捨て、両手を上げながら名雪に近づく。

――普通の人間ならこれで騒ぎは終わっていた。だが、貴明のこの行動は今の名雪には貴明が自身を殺そうと近づいてきているようにしか見えなかった。
それほどまで名雪の精神はズタズタになっていたのだ。

「く……来るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、名雪は恐ろしい形相でポケットから取り出したソレを貴明に向けた。
―――支給品のルージュ型拳銃だ。
「!? 貴明さん!!」
「えっ!?」
刹那、危険を察知したささらが貴明を突き飛ばし、それと同時に……

ドン!

―――1発の銃声が民家に響き渡った。

71自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:21:38 ID:VMImqlO.
―――もちろん、名雪は自身に支給されたルージュが実は拳銃だったなんて気づいてはいなかった。
ただ恐怖心により、藁にもすがる思いで持っていたルージュを貴明に向け、偶然トリガーを引いてしまっただけだ。



「っ……」
僅かな呻き声を発し、ささらが床に崩れ落ちた。
「久寿川先輩!?」
「久寿川さん!?」
すぐに貴明とマナがささらに駆け寄る。
「だ…大丈夫………です…………」
ささらは左手で右肩を押さえていた。そこに弾が当たったんだなとすぐに貴明とマナは理解した。
それと同時に、ささらの制服の右肩部と床はみるみるうちに鮮血で真っ赤に染まっていった。
「すぐに止血をしないと………弾は……貫通してる…のか?」
ささらの背中を見ると制服の背中にも穴があったので、弾は貫通したと貴明は判断した。
「あなた……なんてことを………!」
マナはキッと名雪を睨みつける。名雪は先ほど以上に怯えていた。
「違う……違うもん………私………わたし……ワタシ……い…嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そう叫ぶと名雪はルージュを投げ捨て、民家を飛び出していった。
「あっ……待ちなさい!」
「観月さん。それよりも今は先輩を……!」
「たかあきさん……マナ…さん……彼女を追ってください………」
「なっ……何言ってんだよ先輩!?」
「そうよ。このままじゃ久寿川さんが………」
「私は本当に大丈夫ですから………だから………」
貴明はささらの目を見た。間違いなくささらのその目は貴明に何かを伝えていた。
(―――! そうか……そういうことなんだな………先輩!)

72自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:26:29 ID:VMImqlO.
ささらが伝えたかったことを自分なりに理解した貴明はほんの少し、ほんの数秒の間口を閉ざしたが、やがてゆっくりと口を開いて言った。
「………悪いけど、それは無理だよ先輩……」
「そう…ですか……」
「そうよ。当たり前じゃ……」
「――追うのは俺だけだ。観月さんには残って先輩を見てもらう」
「はぁ!?」
「………はい……」
それを聞いたささらは右肩の激痛に苦しみながらもにっこりと微笑んだ。
「観月さん。先輩を頼むよ!」
貴明はそう言うと自分の武器とデイパックを持って家を飛び出していた。
「ちょ……ちょっと………あ〜もう!!」
取り残されたマナはそう叫ぶと仕方なくささらの応急処置を始めた。
「これは借りにしとくからね………絶対にあの子を連れて戻ってきなさいよ………」
「大丈夫…ですよ………たかあき……さん…なら……」
ささらはまた微笑んでマナに言った。

73自分がやるべきこと:2006/12/13(水) 14:27:09 ID:VMImqlO.



【時間:2日目5:45】

河野貴明
 【場所:C−4・5境界(移動済み)】
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、名雪を追う(もちろん殺すつもりはない)】

観月マナ
 【場所:C−4・5境界】
 【所持品:ワルサー P38(残弾数8/8)、予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)携帯電話、支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)、ささらの応急処置中】

久寿川ささら
 【場所:C−4・5境界】
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、ほか支給品一式】
 【状態:右肩負傷(重症・出血多量・弾は貫通)、マナに応急処置をしてもらっている】

水瀬名雪
 【場所:C−4・5境界(移動済み)】
 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:かなり錯乱している、観音堂(C−6)方面に逃亡(貴明が追ってきていることには気づいていない)】

【備考】
・赤いルージュ型拳銃(弾残り0発)はマナたちのいる民家に放置

74何を信じるか:2006/12/14(木) 07:27:48 ID:m.IzredY
定時放送が流れたのは、雅史と椋が目覚めた直後だった。
二人共、黙って放送を聞く。


「宮内さんに…来栖川先輩、それに琴音ちゃんまで…」
放送が終わった後、雅史は下を向きながら大きく溜息をついた。
「お知り合いの方が?」
「うん…同じ学校の人が4人。それに昨日会ったセリオを入れれば5人か…。椋さんは?」
「あ、はい、私の方は大丈夫です…す、すみません…」
「いや、椋さんが謝る事はないよ」
ペコペコと頭を下げる椋に、雅史は少し苦笑する。
その後、再び沈黙が訪れた。

「と、とりあえずもう一回パソコンをチェックしてみようか。何か新しい情報があるかもしれない」
雅史はそう言って沈黙を破り、ノートパソコンを起動する。
『ロワちゃんねる』を開くと、『安否を報告するスレッド』に新しい書き込みがされていた。

75何を信じるか:2006/12/14(木) 07:28:21 ID:m.IzredY
「岡崎さん…!」
その書き込みを見た椋は思わず声を上げる。
「この岡崎朋也って人…確か椋さんが探していた…」
「はい、私と同じクラスの方です」
そう言うとともに椋は民家から走って出ていこうとする。
雅史は慌ててその手を取った。
「ちょっと!どこ行くつもり?」
「どこって…そこに書いてある鎌石村へ…」
「ダメだ!危険だよ!」
思わず怒鳴ってしまう。
確かに椋のクラスメートに会いたいという気持ちは分からないでもない。
しかし、ここに書かれている橘という男のような奴だっているのだ。迂闊に信用するのは危険だ。
が、「知り合いでも簡単に信じるな」とは言いにくいので別の言い訳を考える。
「殺し合いに乗ってる人が、書き込みを見て鎌石村に来る可能性だってある。それに鎌石村はここから反対方向でかなり遠いし…」
椋を説得しようと必死に訴える雅史。
それが通じたのか、椋は俯きながらも「はい…」と小さな声で返事をした。

一安心した雅史は、自分も何か書き込んでおこうと再びパソコンに向かう。
(さて、何て書こうか…)
雅史がキーボ−ドに手をつけようとした時。
「…ごめんなさい。私、やっぱり…」
「え?」と雅史が振り向くと、既に椋の姿は無かった。
「椋さん!くそっ、しまった…!」
慌ててパソコンの電源を落とすと、雅史も民家を出て椋の後を追った。

76何を信じるか:2006/12/14(木) 07:28:56 ID:m.IzredY


【時間:2日目午前6時半過ぎ】

佐藤雅史
【場所:I−7】
【持ち物:金属バット、ノートパソコン、支給品一式(食料二日分、水二日分)】
【状態:椋を追う】

藤林椋
【場所:I−7】
【持ち物:包丁、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、支給品一式(食料と水二日分)】
【状態:14時までに鎌石村役場に向かう】

77名無しさん:2006/12/14(木) 21:34:00 ID:m.IzredY
ぐあすいません、ルート書き忘れてましたね。
B-9〜B-13、J-2
関連:431、485
でお願いします

78目覚めの朝(1/6):2006/12/15(金) 00:52:42 ID:LinICPVM
・・・体が、だるかった。
泣き疲れて眠ってしまった、その事実に気づいた時はもう朝だったようで。
窓から差し込むうっすらとした陽の光で、古河渚は目を覚ます。

「・・・え、これは・・・」

起き上がると、その見覚えのある景色に驚いた。いや、それ以前の問題でもある。
スプリングは少し固めだけれど眠るにはちょうどいいベッド、柔らかい布団。
・・・それは、安全であった頃に自分が早苗の庇護のもと休んでいたあのベッドだった。

「目が覚めたか?」

戸惑う渚にかけられた声、気がついたら一人の男が部屋の入り口に立っていた。
見覚えのない人物に対する警戒心よりも、この把握できない現状に混乱してしまう渚。
ただ何がどうなっているかを理解しようと頭を動かすが・・・あの、父を亡くした場面から先の記憶はなく。
むしろ、それで思い出してしまった昨日の出来事に胸が締め付けられてしまう。

「妙にドンパチでっかい音がしたと思って来てみたら、もう俺が来た時には全部終わってた。
 ・・・血の海の中で身動きするあんたを見た時はびっくりしたよ」

話しかけても答えてこない渚の様子を気にせず、男はゆっくりと近づいてきてベッドの横に添えつけられた椅子に腰掛けた。
目が合うと少し微笑み返してくる彼は、近くでみると思ったよりも幼い顔つきで。
同年代の男の子特有のやんちゃ加減が見え隠れする様は、少し朋也のことを彷彿させた。

「そう、ですか・・・」

そんな彼に対し、渚はただそれだけを返した。
男の言葉は昨日の全てを物語っていて、あの悲しみが現実の出来事だということを物語る。
瞼の裏に焼きついた光景を浮かべるだけで、渚の心は一気に疲弊した。
・・・思い返すだけで悲しくなる、溢れそうになる涙を必死に堪えた。

79目覚めの朝(2/6):2006/12/15(金) 00:53:52 ID:LinICPVM
「知り合い、だったか?」

男の気遣うような言葉。渚は目を伏せたまま、静かに頷いた。

「はい、おと・・・父と、母が」
「そうか、そりゃつらかったな・・・」

会話が止まる。
渚はきゅっと膝にかかったままの布団を握り締め、ひたすら堪え続けていた。
もう、何もできないまま泣き崩れるのだけは嫌だった。それで救える命などないことは、前日説明されていたのだから。

「俺は那須宗一。あんたは?」
「古河渚、です」
「俺はこれから、知り合いを探しに島を歩き回ろうと思う。勿論、ゲームになんて乗らないさ。
 ・・・あんたは、どうする?」

問いかけ。それの指す意味に対し、渚の顔に戸惑いが浮かぶ。
これは自分も同行してよいのだろうか、それともただ単にお互いのこれからを話し合うためだけの話題なのか。

『一緒に行ってもいいですか』

それは、いつもの彼女なら答えだであろう台詞。
遠慮がちに、相手の出方を窺うように。
・・・だが、もう受身でいるのはごめんだった。それで好転するなんてことがないことも、前日説明されていたのだから。

「わたしも一緒に、連れて行ってください」

だから彼女はこのような答え方をした。言葉に一つの、覚悟を決め。

80目覚めの朝(3/6):2006/12/15(金) 00:55:03 ID:LinICPVM
「あの、お役に立てるかは分かりませんが・・・でも。
 もう、誰も死なせたくないです。こんな争いは充分です」

大切な人を失ってしまった、もうこのような事態を繰り返さないために。
このような思いを、誰かにさせないために。
それが渚の出した思いの結論であった。

「あんた、いい根性してるな」
「え・・・?」

そんな彼女の様子に、宗一は小さく苦笑いを浮かべる。
自嘲気味に顔を歪ませる彼の指す態度の意味が分からず、渚は意味を問うよう彼に視線を向けた。
少し間を空けてから、宗一は静かに語りだす。

「・・・俺の知り合いがさ、放送で呼ばれたんだ。優しい子だったんだ、凄く好きだった。
 へこんだよ、守れなかったことに対する後悔も大きかった」
「那須さん・・・」

悲しい語り。しかし、それに続けられた言葉は渚の予想を超えることになる。

「ごめん、俺あんたに嘘ついた。昨日の夜、この診療所で何か起きてた時・・・俺、近くにいたんだ」
「・・・え?」
「全てが片付くの見計らって、中入ってったんだよ・・・こん中に、俺の知り合いがいないの知ってたから」

言いながら、彼は懐から支給品であるFive-SeveNを取り出しそれを渚に向けて構える。
その慣れた手つきと突然の告白、二つの驚きで渚の体は硬直してしまい動けなくなる・・・が。
銃弾は放たれることなく、次の瞬間Five-SeveNは渚の懐に投げ込まれた。

81目覚めの朝(4/6):2006/12/15(金) 00:55:50 ID:LinICPVM
「あいつが死んだっていうの知った時、俺はこのゲームに乗ってもいいと考えちまった。
 大事な仲間以外、撃ち殺してもいいと思った・・・俺には、それをするだけの能力が与えられていたからな。
 ここが騒がしかった時も、全てが終わった後に何かいい支給品でもあったら回収しようと思ったんだよ・・・」

表情が、ますます険しくなる。
・・・宗一が何をもってこれを伝えているのか、その意図を渚が上手く理解することはできなかった。
だから、彼女は問う。ストレートに、彼の本心を知るために。

「・・・何故、殺さなかったんですか?」

静かな声に、伏せめになっていた宗一の顔が上げられる。

「では、何故わたしのことを殺さなかったのですか」
「それは・・・」
「何故、そのことを話してくれたんですか。
 ・・・そんなことを言われても、わたしがあなたに対し良い感情を持つわけはありません」
「分かってる、だからそれをあんたに渡したんだ」

自動拳銃FN Five-SeveNは、今渚のもとにある。
彼女はそれに手をつけようとしなかったが、それでも武器は与えられたという状況。その指す意味は。

「わたしに、撃たれたいんですか?」
「・・・それが、あんたの親を見殺しにした、俺の責任でもあると思ったから」

ひどくつらそうな宗一の様子に、渚はやっと何かを理解したような感覚を得た。
そう。この人は、今でも後悔している。

守れなかった大事な人を失った時から、ずっと。
そして、誰かにとっての『大事な人』を奪う可能性を持っていたことに対し。
そう。実際渚にとっての『大事な人』を見殺しにしたということに対し、罪の意識を持っているのだと。

82目覚めの朝(5/6):2006/12/15(金) 00:56:39 ID:LinICPVM
渚は一つ息を吐き、改めて宗一の目を見つめた。
彼はまだ笑い続けている。口元だけを緩ませ、死んだ目でこちらを見返している。
彼は、罰せられるのを待っていた。

「・・・いりません。そんなもの、そんな覚悟。
 それでお父さんもお母さんも返ってくるわけではありません」

言い切った。受身でいる宗一を、突き放すべく。
渚に攻められることで免罪符を勝ち取ろうとする彼の態度を、彼女は許さなかった。
・・・そして、渚自身も。自らの罪を、告白をする。

「それに・・・わたしも同じなんです。わたしも、一度は逃げましたから」

父なら大丈夫だと思ったから。
父なら、絶対あの状況をひっくり返してくれると思ったから。
出て行けと言われたからというのもあるが、やはり信じていたという部分が強かったから。
そんな言葉で期待を押し付け、渚はあの場から逃げ出した。
・・・確かに信じていた、父なら何とかしてくれると。そして実際、あの場自体は何とかなった。

失ってから圧し掛かってくる後悔は、今もまだ続いている。
もしあの場に留まっていたとしても、渚にできたことなどなかったかもしれない。
でも、それでもと。思考は、ループし続ける

・・・そんな可能性を考えたら、キリなどないのだ。
だから渚は、もう後ろを振り返ろうとは思わなかった。
今の自分にはまだ未来があるから、今の自分には今度こそできることがあるだろうから。

「わたしは、父を犠牲にした分もう新たな犠牲を出さないために何かしたいです。
 ・・・でも、思いだけでは、守りきれないんです」

83目覚めの朝(6/6):2006/12/15(金) 00:57:24 ID:LinICPVM
渚は今一度宗一と目を合わせ、そして。

「那須さん、力を貸してください」

今度は自分から、協力を仰いだ。

「この件に関する償いは望まないです、でも。・・・わたしには、那須さんの力が必要です。
 ゲームを止めたいです、この島にいるみなさんを救いたいです。勿論、那須さんのお友達もです。
 ・・・これ以上誰かの大事な人が傷つくことのないよう、力を貸してください」

普段の彼女らしからぬ強い姿勢、凛とした強固なる意志は決して曲げられることのない思いの証。
そんな彼女と見つめ合ううちに、宗一も心のモヤと化した部分が晴れていくような気分を味わう。
・・・こんな、何の力も持たないような少女がこれだけ言ってのけているという現実。
力があるからこその悩みができた宗一、でもそれを塗り替えるチャンスは今目の前にあった。
口の端をきゅっと結び、表情を改める。再び顔を上げた彼の迷いは、既に消えていた。

「・・・分かった」

返されたのは短い一言、これで会話は終わる。協定は、結ばれた。

84補足:2006/12/15(金) 00:58:08 ID:LinICPVM
古河渚
【時間:2日目・午前6時前】
【場所:I−7・診療所】
【持ち物:なし】
【状態:宗一と行動・ゲームを止める】

那須宗一
【時間:2日目・午前6時前】
【場所:I−7・診療所】
【所持品:FN Five-SeveN(残弾20/20)、他支給品一式】
【状態:渚に協力】

【備考:早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。秋生の支給品も室内に放置】

(関連・281b・306)(B−4ルート)

358が佳乃の有無、宗一の状態で当てはめられなかったので、こちらを該当していただければと思います・・・

85少女・医者・銃撃戦:2006/12/17(日) 18:22:46 ID:h7BRp8CY
「先生…もう大丈夫なの?」
ことみが心配そうに聖に問いかける。
「ああ。何時までも足を止めているわけにはいかないしな…」
それにこのまま泣き続けていたら佳乃に笑われてしまう、と言うと聖は自分の荷物を持って立ち上がった。
「さて……では行くとしようか」
「うん……あ……」
「ん? どうした、ことみ君?」
「人が来るの………」
「なに?」



「はぁっ……はあっ……」
「あ…あの子結構速いしスタミナあるな……いつまで走るんだ……」
名雪と貴明の距離はどんどん広がっていく一方であった。
いくら疲労がたまっているとはいえ陸上部部長の名雪と朝遅刻ギリギリで学校に駆け込む程度の貴明ではさすがに実力差があった。
「ま…待って………」
ついに息切れした貴明の足が止まってしまう。
そんな貴明にはお構いなしで名雪はどんどん遠くへと走り去っていき、先ほどまでは豆粒ほどだった彼女の姿もとうとう見えなくなってしまった。
「ああ………」
名雪が走り去っていく方を呆然と見つめながら貴明は膝を付いた。
「先輩……観月さん……ごめん」
貴明は今は鎌石村にいるささらとマナに一言謝罪すると近くの木にもたれかかった。

「ふぅ……」
デイパックから水を取り出し少し飲んだ。喉や体が生き返っていく感じがした。
(――あの子、何も持っていなかったみたいだけど……大丈夫かな?)
脱水症状とかにならなければいいけど…、と思いながら貴明はペットボトルをしまい、立ち上がった。
「とりあえず鎌石村の先輩たちのところへ戻ろう……」
貴明が村へと引き返そうとしたその時であった。

86少女・医者・銃撃戦:2006/12/17(日) 18:23:40 ID:h7BRp8CY
「―――もうマラソンはお終いか?」
「!?」
先ほど貴明たちが走ってきた方からかなり殺気がこもった声がした。
貴明は急いで振り返ろうとしたが、それよりも先に身体が動いていた。

ぱららら……!
銃声……それもマシンガンの類が連続で弾を撃つ音がする。
銃声が聞こえる直前に貴明は大地を転がっていた。
その際、貴明の左足に何かがかすった。もちろんかすったものは木の枝などではない。銃弾である。
「っ!?」
若干左足に痛みが生じたが、そんなことはお構いなしで体勢を立て直すと貴明はすぐさま近くの木々や茂みの中に身を隠した。

(皮肉な話だよな――俺よりも年下のガキがこんな殺人ゲームに乗るなんて……!)
貴明が身を隠した方を睨みながら藤井冬弥は再びP90を構えた。
「お前みたいな奴がいるから由綺たちやみんなが死んじゃうんだろーーーーーーっ!!」
そして次の瞬間には冬弥は貴明が隠れていそうな場所に問答無用で銃を撃ちまくった。
銃声とともに木が草が周辺に木片と葉っぱを撒き散らしていく。
「な…なにを!?」
わけが判らない貴明は木陰に身を隠しながらレミントンを構えた。
「人を殺そうとしているのはあんたのほうじゃないか!」
「!?」
そして貴明も銃弾が飛んでくる方へレミントンを1発放った。
ドンという音とともに散弾が冬弥の方へと飛んでいく。
しかし、貴明の銃は近距離ではその威力を発揮する代物であるが今回のような中距離以降からなる銃撃戦にはあまり向いていない。
結果として貴明が放った弾はとっさに回避運動をとっていた冬弥の近くをかすめていくだけで終わった。

87少女・医者・銃撃戦:2006/12/17(日) 18:24:18 ID:h7BRp8CY
「ちっ!」
すぐさま冬弥も弾が飛んできた方にP90を撃つ。
「こいつ!」
さらにお返しに貴明も1発。
もはややったりやられたり、やられたらやり返すな状況である。




「う…あ……」
名雪はただ走り続けていた。
もう意識も朦朧として目もかすんできた。
それに喉も水分不足により息をするたびにひゅーひゅーと音を鳴らしていた。
―――逃げなきゃ殺される。ただその一心で足を動かしていた。
だが、その足もついに限界が来た。
「あうっ……!?」
突然名雪の足ががくんと膝を折り、名雪は地面に倒れ付す。
(そ…そんな………)
さらに自分の意識も急激に遠のいていくのが名雪には判った。
(いや…いやだよ……死ぬのは怖いよ………お母さん……おかあ…さん………)
そして名雪は意識を失った。
最後に自分に心配そうに駆け寄ってくる誰かの姿をうっすらと確認しながら。

88少女・医者・銃撃戦:2006/12/17(日) 18:24:54 ID:h7BRp8CY
「先生、この子……」
「ふむ……軽い脱水症状だな。それと、疲労によりやや衰弱している」
名雪の様子を見ながら聖はデイパックからタオルを取り出すとそれを水で塗らして名雪の額に置いた。
「恐らく少し休ませれば問題ないだろう。ことみ君、たしかこの近くにはお堂があったな?」
「うん。観音堂っていうお堂があったの」
「よし。来た道を戻ることになってしまうが、この子をそこまで運ぼう。さすがに路上で休ませるのは危険すぎる」
「わかったの」
聖が名雪を抱き上げようとしたその時、銃声が2人の耳に聞こえてきた。
それはちょうど自分たちが引き返そうとしていた観音堂の方から聞こえてきた。
「先生……今の……」
「―――私が先に行って様子を見てくる。ことみ君はその子を頼むぞ」
「あっ…」
それはいくらなんでも危ない、とことみが聖に言おうとした時には既に聖は自分のデイパックを持って先ほどまで歩いてきた道へと駆け出していた。


(これいじょう人が傷つく姿も――死んでいくのも私は見たくない………ふ…佳乃。どうやらお姉ちゃんはこんな時でも医者のようだ………)
職業病だな、と呟いてふっと苦笑すると聖は銃声が聞こえる方へとどんどん足を進めていく。
銃声はどんどん近くで聞こえてくる。それと同時に、かすかに若い――まだ少年くらいの男の人の声も聞こえてきた。
銃撃戦かと聖は思った。そして、そう思った次の瞬間には
「――その争い、ちょっと待った!!」
気がつけば銃撃戦をしているであろう者たちに聞こえるくらいの大きな声を茂みの方に叫んでいた。

89少女・医者・銃撃戦:2006/12/17(日) 18:25:34 ID:h7BRp8CY
【時間:2日目6:40】

 霧島聖
 【場所:C−6(観音堂周辺)】
 【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】
 【状態:一度観音堂へ引き返す。が、今は貴明たちの争いを止める】

 河野貴明
 【場所:C−6(観音堂周辺)】
 【所持品:Remington M870(残弾数2/4)、予備弾(12番ゲージ)×24、SIG・P232(残弾数2/7)仕込み鉄扇、ほか支給品一式】
 【状態:左腕に刺し傷(治療済み)、左足にかすり傷、冬弥をマーダーと思い銃撃戦の真っ最中】

 藤井冬弥
 【場所:C−6(観音堂周辺)】
 【所持品:FN P90(残弾24/50)、ほか支給品一式】
 【状態:貴明をマーダーと思い銃撃戦の真っ最中】


 一ノ瀬ことみ
 【場所:C−6】
 【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】
 【状態:聖が心配。今は名雪の看病】

 水瀬名雪
 【場所:C−6】
 【所持品:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り、起動後1時間で爆発)、青酸カリ入り青いマニキュア】
 【状態:気絶中】

90少女・医者・銃撃戦:2006/12/17(日) 18:26:47 ID:h7BRp8CY
【備考】
・冬弥の投げた十円玉の出た面は不明
・名雪の携帯の時限爆弾は手動による起動後1時間で爆発するように設定。起動方法は後続の書き手さんにおまかせします

91補足:2006/12/17(日) 18:31:21 ID:h7BRp8CY
関連
ルートB-13
→506
→561

92苦難・修正版:2006/12/18(月) 10:56:14 ID:sOVraX7M
―――午前六時。
祐一達は氷川村にほど近い場所で第2回放送に聞き入っていた。

……
……
24 神尾晴子
……

「か、神尾晴子さんって、観鈴の―――」
「ああ。観鈴君の母親だろうね」
「くそっ、やっぱり……」

祐一は不安気味に、英二の背中で眠っている観鈴に視線を寄せていた。
今は眠っているが後でこの事実を知ったらどういう反応をするのだろうか。
きっと心にまで大きな傷を受ける事になるだろう。
だが放送はそんな祐一達の不安を意にも介さないように続けられていく。

……
52 沢渡真琴
……
……
……
99 美坂香里
……

93苦難・修正版:2006/12/18(月) 10:57:44 ID:sOVraX7M


(―――タカ坊や雄二は無事だったみたいね)
向坂雄二や河野貴明、朝霧麻亜子の番号が呼ばれる事は無く既に死者発表はそれ以降の番号へと移っている。
学校での揉め事のその後の顛末は分からないが貴明と麻亜子は共に命を落とさずに済んだという事だろう。
その事は環にとっては間違いなく喜ぶべき事であった。だが今回は前の放送の時とは違い仲間の身内が死んでいる。
神尾晴子は自分にとっては突然襲い掛かってきた敵に過ぎないが、観鈴にとっては唯一無二の大切な母親だったのだ。
環はとても安堵の息を漏らす気にはなれなかった。



「真琴……香里……」
呼ばれた同居人と級友の名に、祐一は唖然としていた。また一つ、彼にとっての"日常"が欠けてしまった。
だが同時に、あゆや芽衣の死を知った時ほど自分が動揺していないとも思った。
祐一は僅か1日で何度も大切な人や仲間の死を経験している。きっと、慣れてしまったのだ。
だが悲しみまでもが無くなるわけではない。祐一はもう二度と見れぬ香里の少し冷めた笑顔と、残された栞の事を思って。
真琴との楽しかった日々を思って。静かに目を閉じた。
しかし得てして不幸は連続で訪れるものである。これで終わりでは無かった。


……
115 柚原このみ
116 柚原春夏


「う……嘘……でしょ……?」
大切な幼馴染の死に、環はがくんと膝から崩れ落ちた。
このみが死んだなんて信じたくない……しかしこの島ではいつ誰が死んでもなんら不思議ではない。
その事を十分に思い知っている環には、受け入れがたい現実を否定する事も出来ずただ両の瞳から涙を零す事しか出来ない。
英二も祐一も大切な者をなくした時の辛さは既に味わっている。環に対してなんと声を掛ければ良いか分からなかった。

94苦難・修正版:2006/12/18(月) 10:58:59 ID:sOVraX7M







このみの死を知った環は心が張り裂けそうな痛みを感じていた。
彼女の"日常"が音をたてて崩れていく。傍に居て当然の存在が理不尽な形で奪われてしまったのだ。
環はこの結果を予想していなかった訳ではない。
貴明や雄二ならそう簡単に死ぬ事は無いだろうと思っていた。だがこのみだけは別だった。
このみはどう考えても殺し合いには不向きであり、一番危ない事は分かっていた――――分かっていたのに何もしてあげれなかった。
環の心は悲しみと後悔の念で覆いつくされていた。


だが今は感傷に浸っている余裕など欠片も無いのだ。貴明も雄二もまだ生きている。
きっと二人共今の放送で相当なショックを受けているだろう。
こんな時こそ彼らの姉として生きてきた自分がしっかりしなくてどうする。
環は涙を拭き、少しふらつきながらもしっかりと立ち上がっていた。
まだ笑顔を作る余裕は無かったけれど、それでも凛とした表情を取り戻していた。
まだ大切な存在は残っているから―――確かな強さを環は持つ事が出来た。







「すいません……もう大丈夫です。診療所はもう遠くない筈ですし急ぎましょう」
「環くん……良いのか?」

95苦難・修正版:2006/12/18(月) 11:00:26 ID:sOVraX7M

放送から少し時間が経過した後口火を切ったのは環だった。
英二が心配そうに尋ねるが環は静かに首を横に振った。

「観鈴が危ないんです……こんな所でゆっくりとはしていられません。
それに私達が無事にここまで来れたのはタカ坊が頑張ってくれたおかげです。
それを無駄にするような真似なんて出来ません」
「――分かった。もう明るくなったし奇襲される心配は少ないだろう……ペースを上げていこう。
それと、神尾晴子さんの事は暫く観鈴君には秘密にしておこう。今これ以上の負担をかけるべきじゃない」
「そうですね……。それじゃ向坂、英二さん、次は俺が観鈴を背負います。診療所へ急ぎましょう」

英二が先頭を歩き、環と観鈴を背負った祐一がその後に続く。
全員何かに耐えるような表情をしながらも前へ向かって歩いていく。
これまでのゲームの中での彼らの道のりは苦難の連続で、体も心も傷付きながらも彼らは生きてきた。
どうやらそれはこれから先も同じようで。


「―――あれは?」
診療所まで後数百メートルの所まで迫った時、彼らは二つの人影を発見した。
それは遠目には何の異常も見られない向坂雄二とマルチの姿だった。




【時間:2日目午前7:00】
【場所:I-07】
向坂環
【所持品:支給品一式】
【状態:疲労、後頭部に殴られた跡(行動に支障は無い)】

96苦難・修正版:2006/12/18(月) 11:02:31 ID:sOVraX7M
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(8/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症、祐一に担がれている】
向坂雄二
【所持品:金属バット・支給品一式】
【状態:マーダー、精神異常 服は普段着に着替えている】
マルチ
【所持品:歪なフライパン・支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている】

※雄二とマルチの血まみれの制服・死神のノートは雅史の死体がある家(I-7)に放置。武器に付着した血は拭き取ってある
※548話の真琴死亡に対応させました。お手数ですが宜しければ現行の534話「苦難」と差し替えをお願いします>まとめ様

97to heart:2006/12/19(火) 23:20:52 ID:IwxI/s..
「・・・」
「ちょ、ちょっといきなり立ち止まらないで・・・ぐはっ!」

柚原春夏の元から逃げ出した川澄舞、長岡志保、吉岡チエの三人はひたすらあの場から離れるべく走り続けていた。
耕一の稼いでくれる時間がどれくらいになるか分からない、背面で起こる銃声に涙を堪えながらもひたすら足を動かす一行。
何も考える余裕はなかった。恐怖がチエの思考を乗っ取る、志保の余裕を金繰り捨てる。
そんな、走ることだけに夢中であった二人に気にも留めず、舞はいきなり立ち止まった。
フラフラになったチエはその場にしゃがみこみ、志保はというと勢い余って前のめりに転倒する。
連れの二人には目もくれず、舞はいきなりキョロキョロと視線を周囲へと這わせ始めた。

「・・・誰かいる」

抑揚のない声、だが幾分の緊張感の含まれたそれ。
いきなりの発言に、後ろの二人も気が引き締まる。

「ま、またゲームに乗った人っスか・・・」
「分からない」

怯えに満ちたチエの問い、舞は一歩前に出て気配の出所を探ろうとした。
・・・そして、一点を見つめ、止まる。
チエ、志保と繋いでいた手を無造作にほどき、素早く鞄にさしていた日本刀を取り出す舞。
手馴れた手つきで鞘から刀身を抜き、彼女は近くの茂みに向かって切っ先をつきつけた。

「そこ、出てきて」
「・・・何や、できるようやな」

98to heart:2006/12/19(火) 23:21:41 ID:IwxI/s..
返答は、即座に返ってきた。
思いがけない場所からの声に、チエは震え志保は固まる。
それでも表情を崩さず刀を構え続ける舞の元に姿を現したのは・・・二人の、志保と同じ制服を着た少女であった。

「ほ、保科さん・・・」
「笹森さん、下がっとき」

不安が隠せない様子の笹森花梨を庇うよう、保科智子は支給品である捕獲用ネットの入ったバズーカーの照準を舞に合わせる。
普段は明るい花梨の様子もここでは読み取れない、彼女もそれくらい場に対する警戒心を強めていた。
森に身を隠していた二人を突如襲った銃声、距離的にはそこまで近いとも思えなかったが連続して鳴るそれの正体を確かめるべく二人はここまでやってきた。
争いに混ざる気はない、ただ様子を確認しに来ただけである。
・・・距離的にもまだまだあったから油断した。舌打ちする智子の様子を見ても、舞は特別慌てることなく相手の出方を窺っていた。
これが彼女にとっての普通なのだが、それが智子に通じることもなく。
一見余裕にも見える舞の様子に、智子は内心の焦りを悟られぬよう強気な態度で声をかけた。

「けったいなことやってるようやな、こっちまで響いたで」
「・・・私達が仕掛けたんじゃない」
「それを、信じろ言うん?」

両者の間に冷え切った空気が流れていた時であった。

「え?あらららあららっ!ほーしなさんっ」
「・・・あんたは、確か」

呑気な明るい声が響く、倒れていた志保はすかさず体を起こし智子の下へ駆け寄った。

「し、志保さん、知り合いっスか」
「モチよモチの大モチよんっ、良かった〜知り合いに会えるなんて志保ちゃん超ラッキーッ!」

99to heart:2006/12/19(火) 23:22:30 ID:IwxI/s..
確かに面識はあったがそこまで馴れ馴れしくされる筋合いもなかった・・・が、それは野暮というものであろう。
嬉しそうに腕に抱きついてくる志保の様子に、智子は少し呆れながらも微笑み返す。

「保科さん、そちらは?」
「ああ、こっちで知り合ったんや」
「ど、どもです、笹森花梨です」

その後チエ、舞も軽く自己紹介をし事態の説明を行った。
智子曰くここら辺の森には、他に人もいないらしい。取りあえずの安全は手に入ったことになる。
ようやくほっとできる瞬間に出会え、志保もチエも安心したようだった。
そんな二人の様子を確認し、舞は改めて智子に言う。

「・・・二人を、お願い」
「あんたはどうするんや」
「戻る」
「え?!」

驚きにもれたチエの声、だが舞は気にせず話を続けた。

「耕一を置いてきた。助けに行く」
「ちょ、ちょっとちょっとっ、でも危ないわよ死んじゃうわよっ?!」
「二人をお願い」
「・・・分かった」
「保科さん?!ちょっと、止めてよ」
「とりあえずここら辺の森に隠れてるさかい、何かあったら呼んでや」
「ありがとう」

背を向けた舞にまだ掴みかかろうとする志保を智子が止める。
どうして、という視線に対し智子はそれを明確な言葉にして伝えた。

100to heart:2006/12/19(火) 23:23:49 ID:IwxI/s..
「あんたが行っても、足手まといってことやろ」
「で、でも・・・っ」
「無駄死にか、あるいは足引っ張って川澄さん自身に何か危害が加わるか。そんなん嫌やろ」

智子の言い分に言葉を失う・・・確かに、今の志保は舞にとって足手まとい以外の何物でもないだろう。
そして、それはチエも同じく。

「舞さん、あの・・・」
「?」
「気をつけてっス・・・役に立てなくて、ごめんなさいっス・・・」

涙声混じりのチエの台詞に、一同も言葉を失う。
そう、あの時舞が耕一に説得され逃げるという選択肢を選んだのも、ひいては自分達が邪魔な存在であったからである。
舞は、とんだ回り道をさせられたのだ。
耕一という犠牲で自分達の安全は確保されたという事実が、改めてチエに重くのしかかる。
その上で、生まれた悪循環を改善させる策を、彼女は持ち得ない。
・・・すっかり落ち込んでしまった様子のチエ、舞は彼女に向き直り慰めるようその項垂れ気味な頭をポンポンと撫でた。
反応は返ってこない。少し首を傾げた後、舞は刀を持っていない方の空いた片手で自分の髪を結っていたリボンをほどく。
一つにまとめられていた黒髪がさらっと広がる。そのままリボンをチエに差し出し、俯く彼女にそれを押し付けた。

「これ、よっちに貸す」
「え・・・?」
「よっちは友達、この島で一番にできた友達。大切だから守る、私は守れるだけの力もあるから」

リボンを手にポカンとするチエに対し、舞は小さく微笑んだ。

「返して、私が戻ってきた時に。それで、おかえりって言って」
「舞、さん・・・」
「いってくる」
「いって、らっしゃい・・・っス・・・ぐすっ」

101to heart:2006/12/19(火) 23:24:34 ID:IwxI/s..
チエの声を背に受け舞は再び走り出す、もう振り返ることはしなかった。
そして、ただ彼女の無事を見守る少女たちだけがそこに取り残される。

「まい、さん・・・」

チエの手の中、大事そうに抱きしめられた舞のリボンが彼女のいた証だった。
死地とも呼べる場所へ向かう彼女の安否を、チエはひたすら願うのであった。




花梨が駆け寄りチエの背を撫でる、その光景を志保と智子は少し後ろから眺める形で佇んでいた。
ポスン。瞬間、智子の肩に温もりが移る。

「・・・長岡さん?」

いきなりの志保の行動に戸惑う智子、顔を押し付ける形で智子の左肩を占領する志保はさっきまでのふざけた調子が抜け妙に大人しかった。

「はは、は・・・不謹慎だけど、今になって思い出したっつーか、ね。もち、忘れちゃいけないことだったけど」

寄り添うように顔を押し付けてられ、そのまま片腕もぎゅっと捕られる。
彼女の様子は明らかにおかしかった、その突然の行為のさす意味を図ろうと智子は彼女の後頭部を見つめ続ける。

「何か、あったんか?」

声をかけると、志保の背中が一際大きく震えた。彼女が話し出すまで、智子は今度は静かに待つ。

102to heart:2006/12/19(火) 23:25:21 ID:IwxI/s..
「はは、あはは・・・ほら、志保ちゃんってばこういう湿っぽいのダメじゃない?
 いつも明るくハキハキと、これが志保ちゃん原理なワケよ。
 あたしはどんな場でも盛り上げ役に徹するのが空気読んでるっていうか・・・」

覇気のない語り。意を決したように、彼女は一つ深呼吸をしてそれと一緒に言葉を吐いた。

「あたしがさ、いけなかったんだ」

か細い呟きは、智子の耳にやっと届くくらいの声量で。
ぎゅっと、腕を掴む力が強くなる。その状態で、ポツポツと志保は話を続けた。
自分の出した犠牲のことを。それは逃げることに必死になっていたため、今の今まで疎かになってしまったこと。
・・・明るい彼の雰囲気が、気まずいムードを一転させた優しさが失われたのは余りにも一瞬だったとういうことを。

「住井君殺したのもあたしだよ・・・何も考えてなかった、あたしの我侭のせいなんだよぉ・・・」

あの湿った森の中にい続ければ、頂上へ行こうなどと言わなければ。確かにマーダーとは遭遇しなかったかもしれない。
無用心に、見張り役の二人と談笑などしていなければ、マーダーに気づかれなかったかもしれない。

「調子乗ってたのよ、あたし。死体があった、だから村から出たっていうのに。
 あ、あまり、にも・・・平、和だった・・・からぁっ・・・!」

志保の体を抱きなおし、智子は優しく彼女の背中を擦った。
あやすように。ただ、その動作を繰り返す。

「ほな、その住井君の変わりに今度は長岡さんが笑わんとな」

智子の言葉に、小さく頷く志保。

103to heart:2006/12/19(火) 23:25:51 ID:IwxI/s..
「大丈夫や、柏木って人もきっと川澄さんが何とかしてくれる。信じよ、な?」

うん、と。もう一度、小さく頷く。
そして、心の中で誓う。もう同じミスは繰り返さないと。
明るくおしゃべりなだけの自分とは、これでさようならだ。



チエの思い、志保の思い。
チエの思いは舞に届いた。改めて二人の心は通うことができたから、チエも前を向いて歩ける。
志保の思いは今は亡き住井護に届くだろうか。それはこれからの彼女の行動が示してくれるであろう。

二人は何の力も持たない少女であった、でも。
それでも足掻くのだ。生きている限り、精一杯自分にできることを。

104to heart:2006/12/19(火) 23:26:58 ID:IwxI/s..
【時間:2日目午前3時】
【場所:E−5北部】

川澄舞
【所持品:日本刀・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:耕一のもとへ戻る、祐一と佐祐理を探す】

吉岡チエ
【所持品:舞のリボン、他支給品一式(水補充済み)】
【状態:舞を見送る、このみとミチルを探す】

長岡志保
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・他支給品一式(水補充済み)】
【状態:舞を見送る、足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】

保科智子
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り2発)、支給品一式】
【状態:舞を見送る】

笹森花梨
【所持品:特殊警棒、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)】
【状態:舞を見送る】

(関連・331・515)(B−4ルート)

105つかのま:2006/12/21(木) 23:00:44 ID:Xfu/cr7Q

「……ねえ琴音ちゃん、どうして私のお鍋つついてるの?」

松原葵の素朴な疑問に大仰に驚いてみせたのは、姫川琴音であった。
雨を避けた、大樹の陰である。

「ひどいっ……!!」

たちまち琴音の目尻から涙が溢れ出す。
涙の粒をきらきらと輝かせながら、琴音は首を振ってみせた。

「ひどいわ、葵ちゃん……! わたし、あと5時間もしたら儚く散ってしまう命なのよ……!
 最後に少しくらい、おいしいご飯を食べたいって思ったらいけないの!?」
「っていうか、私の朝ご飯、なくなっちゃうんだけど……」

朝食にと作った鍋がどんどん琴音の胃袋に収まっていくのを見ながら、葵は溜息をつく。
どうせ食べ終わったらまた逃げるフリするんだろうなあ、と思っている。
一晩中、人の少し先を行きながら、わざと姿が見え隠れするように歩き通した琴音の図太さは伊達ではない。

「っていうかホントに爆発するの、その首輪……?」
「さあ」

首を傾げる琴音。白菜を噛み締めている。

「さあ、って……」
「でもそう言われたんだもの。本当だったら怖いじゃない!」
「いや、怖いっていうか死んじゃうけどね……」
「何でそんなこと聞くの?」

よく煮えた椎茸を口に放り込みながら、琴音。

106つかのま:2006/12/21(木) 23:01:09 ID:Xfu/cr7Q
「いや、その割には元気そうだなあ、って思っただけだけど……」
「ひ、ひどい……!」

人参の欠片を汁ごと飲み込んでから、器用に涙を流して口元を覆う琴音。

「わたしはこんなに怖がってるのに……!
 そんなこという葵ちゃん、透視してあげる! えい、クレアボヤンス!」
「セクハラ禁止」

いつも通りの超能力、いつも通りの回避。
物騒なやり取りも、二人にとってはコミュニケーションだった。
後は言葉もなく、黙々と食事に集中する。

鍋をあらかた空にしてから、琴音は立ち上がった。

「じゃあね、葵ちゃん……お鍋、おいしかったわ」
「あー……もう行くの?」
「ええ、追ってきたりしちゃダメよ……? 絶対だからね?」
「はいはい」

ひらひらと手を振ってみせる葵。
そんな葵を、すがるような目で見てから踵を返す琴音。
しかし琴音が走り出そうとしたそのとき、葵が何かに気づいたような声を上げた。

「あ」
「……な、何、葵ちゃん?」

つんのめりそうになりながら、恨みがましい目で振り返る琴音。
とりあえず荷物を置き、葵のほうに向き直る。

107つかのま:2006/12/21(木) 23:01:48 ID:Xfu/cr7Q
「今、気づいたんだけどさ」
「うん」
「琴音ちゃん、テレポートできるじゃない」
「まぁ超能力者のたしなみだし、かじった程度だけど、一応……それが、どうしたの?」
「飛んだらいいんじゃない?」
「……?」

顔一杯で疑問を表現する琴音。
こういう素でアホなところ、男に見せてやればいいのになあ、と思いながら、葵は続ける。

「だから、その首輪」
「首輪が、どうしたの」
「テレポートで外せるんじゃないの?」
「無理よ、やってみたもの」

言下に否定する琴音。
だが葵は意に介することなく問いかける。

「服ごと飛んだでしょ」
「当たり前じゃない、葵ちゃん変態?」
「自分の身体だけ飛ぶこと、できるでしょうが」
「……?」
「ほら、体育が水泳のときとか、やってたじゃない」

葵の言葉に、傾げられた琴音の首の角度が90度に近くなっていく。

「すぽーん、って。時間ないときさ」
「…………あー!」

ぽん、と手を打つ琴音。

108つかのま:2006/12/21(木) 23:02:18 ID:Xfu/cr7Q
「ストリーキングジャンプね!」
「いや、そんな名前付けてたの……?」

こめかみを引き攣らせる葵の様子を気にすることもなく、琴音はうんうんと頷いている。

「確かに、あれならいけるかも……」
「まあ、今はまだ雨も降ってるし、後で試してみたら……ってもういないし!?」

ぱさり、と軽い音がした。続いて、コトリ、という小さな金属音。
琴音の着ていた制服が、そして忌まわしい首輪が地面に落ちた音であった。

「うわちょっと、外した途端に爆発するような仕掛けだったらどうする気なの……!」

慌てて飛び退く葵だったが、首輪は一向に爆発する様子がない。胸を撫で下ろす葵。
と、遠くから葵を呼ぶ声がした。

「やった……やったわ、葵ちゃん! これでわたしは自由の身なのね!」

言わずとしれた、姫川琴音の声である。
遠目に見れば、丘の上、雨中全裸で両手を大きく振っている琴音の姿が見えた。

「何やってんだか、あの子は……」

軽い頭痛を感じ、こめかみを揉み解す葵。
琴音が駆け寄ってくる。
舞い上がっているのか、上も下も隠すことなく喜色満面の様子だった。

「あのね、年頃なんだからちょっとは恥らおうよ……って、琴音ちゃん?」

109つかのま:2006/12/21(木) 23:02:42 ID:Xfu/cr7Q
一目散に走ってきた琴音は、脱ぎ捨てられた制服を省みることもなく、裸のままで自分の荷物を漁りだした。
あれでもない、これでもないと散らかし始める琴音。

「ちょっと琴音ちゃん、何してるの……って、……え?」

琴音が取り出したのは、掌に収まるほどの小さな拳銃であった。
鼻歌すら歌いだしそうな雰囲気で、琴音はそれを掴み出すと、おもむろに銃口を咥えた。
止める間は、なかった。

小さな小さな発砲音。
姫川琴音の脳漿が、鮮血と共に飛び散った。

110つかのま:2006/12/21(木) 23:03:05 ID:Xfu/cr7Q

どれくらいの間、そうしていたのか分からない。
ほんの一瞬だったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。
松原葵は、じんじんと痛む頭を軽く押さえながら、その光景をじっと見ていた。

凍りついた時間を動かしたのは、一つの声であった。

「どうしたんだ、大丈夫かい、君……?」

心配そうな、男の声だった。
歩み寄ってきた男が、血みどろの光景を目にしたらしく、呻いた。

「うわ、これはひどいな……。やったのは君……、じゃなさそうだね」

琴音の遺体の状況をつぶさに確認し、男が葵の方を向いて声をかける。
声と同様、心配そうな表情だった。

「自殺……かな? 何があったかは分からないけど、こんなところで立っていたら危ないよ。
 良かったら僕と一緒に……」
「―――ひとつだけ」

葵が、口を開いた。静かな声だった。

「ひとつだけ、聞いておきます」

淡々としたその声に、男は怪訝そうな様子で問い返す。

「何かな……? 僕に答えられることだったら、何でも……」
「どうして、殺したんですか」
「……え?」

111つかのま:2006/12/21(木) 23:03:25 ID:Xfu/cr7Q
唐突な言葉に、男の表情が固まる。
葵は無表情のまま、問いを繰り返す。

「どうして、琴音ちゃんを殺したんですか?」
「な、何を言っているんだ、君……?」

す、と。
葵の視線が、動いた。
近くに立つ大樹の陰を、真っ直ぐに見据える。

「―――それとも、あちらの方に聞いた方が、よろしいですか?」

葵の言葉に、男が目を見開いた。

「……チッ!」

舌打ちして飛びかかろうとする男を、葵は静かに見つめていた。
僅かに片足を引き、軽く右の拳を握る葵。
次の瞬間、男は葵に迫る勢いのまま、正反対の方向へと吹き飛ばされていた。
泥を跳ね上げて倒れ伏す男。
それを追撃するでもなく、葵は再び大樹へと目を戻した。

「……この、頭がチリチリする感じ。これが琴音ちゃんを殺した力ですか」

葵の言葉に答えるように、大樹の陰から細い人影が現れた。
つい、と足を踏み出したその姿は、病的に白い肌とどこか焦点の合わない瞳を持った、痩身の少女であった。
少女は葵の視線を受け流して、嗤う。

「くすくす、酷いことするねえ。……大丈夫、お兄ちゃん?」
「……ああ。ああ、大丈夫だよ、瑠璃子」

112つかのま:2006/12/21(木) 23:03:51 ID:Xfu/cr7Q
げたげたと笑いながら、男―――月島拓也が立ち上がる。
だらりと垂れ下がった左腕を、空いた手で掴む拓也。
ゴグリ、と鈍い音がした。脱臼した肩を、強引に戻したのである。

「ほぅら、大丈夫。痛くないから心配しないでおくれ、瑠璃子」

少女、月島瑠璃子へと視線を向けた拓也は、そう言ってにっこりと微笑んでみせた。
どろりと濁った細い目が、半月型の弧を描く。ひどく醜悪な笑みだった。

「……もう一度だけ、聞きます」

雨に濡れるその身体を庇おうともせず、葵が粛然と口を開く。

「どうして、琴音ちゃんを、殺したんですか」
「……言ったら、信じてもらえる?」
「……信じますよ。本当のことなら」

視線を交わさぬまま続けられる、低く、静かなやり取り。
ほんの少しだけ間を置いて、瑠璃子が、嗤った。

「―――人を壊すのに、理由なんか要るのかな」

くすくすくす。
げたげたげた。
兄妹の笑い声が、輪唱となって雨を侵した。

「そうですか。……ありがとうございます」

葵が、礼を言いながら視線を下げた。
俯いたままの葵を、瑠璃子の視線が舐る。

113つかのま:2006/12/21(木) 23:04:47 ID:Xfu/cr7Q
「よかった。信じてもらえたみたいだね」
「はい」

葵が、顔を上げる。
その瞳には静かに、しかし隠しようもなく確かな、憤怒の炎が宿っていた。

「……理由もなく人を害するものを、私は悪と呼称します」

握られた拳が、顎の前に引かれる。

「そして友人に災禍をもたらすものを、私は敵と名付けます」

踵が、大地を踏みしめる。

「覚悟してください。私は、悪であり敵であるあなたを―――赦さない」

松原葵が、走った。

114つかのま:2006/12/21(木) 23:05:14 ID:Xfu/cr7Q
 【時間:2日目午前7時ごろ】
 【場所:E−7】

松原葵
 【持ち物:お鍋のフタ、支給品一式】
 【状態:戦闘開始】

姫川琴音
 【状態:死亡】

月島拓也
 【所持品:支給品一式】
 【状態:電波全開】

月島瑠璃子
 【持ち物:鍵、支給品一式】
 【状態:電波使い】

→382、426 ルートD-2

115本スレ「変わらない答え」の補足続き:2006/12/22(金) 05:40:02 ID:vENApPe6
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。聖とことみの死体を発見】
藤林杏
 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:聖とことみの死体を発見】

水瀬名雪
 【所持品:なし】
 【状態:いつのまにか逃亡、後続任せ】
霧島聖
 【状態:死亡】
一ノ瀬ことみ
 【状態:死亡】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア・携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付き)
・冬弥のデイバック(支給品一式)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料少々)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分で道なりに氷川村→平瀬村へと向かう予定

連投規制くらったので仕事で出なきゃいけないからこっちへ・・・
本スレ>>w89uw1U60氏回避thx-

116折れない心:2006/12/25(月) 00:17:29 ID:F.iHNdPY
「うわぁぁぁぁぁ……」
「栞……」
午前6時、放送があった。
――――香里が死んだ。

栞はリサの背中で泣き続けた。
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがっ……」
耳元で栞が泣き声を上げ続ける。
詳しく話を聞いた訳では無いが、姉の話をする時の栞の表情は明るかった。
声のトーンも高くなっていた。
よほど大事な、きっと世界で一番大事な人だったのだろう。
その姉が、死んだ。
その事実が栞に与えた衝撃の大きさと心の傷の深さは計り知れない物がある。
下手な慰めの言葉はきっと逆効果だ。
だからリサは、優しく栞の頭を撫でた。
何度も何度も。
ほんの僅かでも栞の支えになれる事を願って。
ほんの僅かでも栞の気持ちが安らぐ事を祈って。




――――そしてリサは今もまだ、栞を背負って歩いている。
栞は泣き疲れて眠ってしまっていた。
無理もない、ただでさえ衰弱している状態の上に追い討ちのように心にまで深い傷を負ったのだから。
そして傷を負ったのは栞だけではない。
リサの大切な仲間の一人であるエディもまた、放送の中で名前を呼ばれていた。
リサが涙を流す事は無かったが、エディの陽気な笑顔が心の中で浮かんでただひしりと心が痛んだ。

117折れない心:2006/12/25(月) 00:21:25 ID:F.iHNdPY

そしてリサは同時に焦りを覚えていた。
いや、元々焦りはあったのだ―――更に焦りが強くなったというべきだろう。
もうあまりにも人が死に過ぎた。
そして――――
「優勝すればどんな願いでも叶える、ね……。何ともタチの悪い扇動の仕方だわ」
主催者のやってきた事は今までのリサの常識ではおおよそ信じ難い事だった。
主催者は各界の実力者・権力者をたった一日でこの島に集め、その生殺与奪すら完全に握って見せたのだ。
そのような者ならば一個人の願いなら―――人を生き返らせるという願いですら、叶えられるかもしれない。

「でももしそうだとしても……叶えるはずが無いわね。願いを叶えるより首輪のスイッチを押す方がずっと楽でしょうから」
主催者が約束など守るはずがない、とリサは考えていた。
主催者は参加者に餌を見せてゲームに乗らせようとしているだけに過ぎない。
大体このような事を考える者なのだ、優勝者に対して情けをかけるとはとても思えなかった。
つまり、優勝しても助からない(もっともリサは、優勝すれば助かるという事が確定していたとしてもゲームに乗る気は微塵も無かったが)。
そして――――もし主催者が、人間離れした圧倒的な力のようなものによってこのゲームを成り立たせているのなら状況は絶望的だ。
万全の状態の篁をただの一参加者として扱い掌の上で躍らせれるような化け物が相手では何をやっても勝てないだろう。


だが連中が参加者の拉致に成功したのには何か裏があるかも知れない。
主催者はゲームの開始時に言った……『人外の力はある程度制限されている』、と。
そして実際に柳川は、鬼の力を制限されていると言っていた。

自分にはもうよく理解出来ない領域の話だが――――
各界の実力者を実力者たらしめている特別な力を『制限』もしくは『封印』出来るような何かがあるのなら。
そしてそれによって制限を行なったからこそ、今回の殺し合いの舞台を整える事に成功したのなら。
付け入る隙はまだある。

118折れない心:2006/12/25(月) 00:24:15 ID:F.iHNdPY
自分は人外の力を持っている訳ではないから制限など関係無い。
それでも主催者に一人で立ち向かえるとは到底思えなかったが、宗一や協力してくれる人間と合流出来れば勝機は見えてくる。
もし自分達では力が及ばなかった場合でも、制限を成立させている何かを崩壊させる事に成功すればきっと柳川が何とかしてくれる。
主催者を打倒出来る可能性は、ある。

「Yes,……そうよ、きっと道はあるわ」
苦境に立たされているリサだったが、とてもか細い希望を信じながら。
彼女は今この時も強く在り続ける。

【時間:2日目午前7時30分頃】
【場所:H−8】
リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【状態:焦り、栞を背負いつつ診療所に向かっている】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:酷い風邪で苦しんでいる、睡眠】

※栞を背負っているので、リサの歩く速度は少し遅めです
※関連487 ルートB13

119名無しさん:2006/12/25(月) 00:44:58 ID:ccUjRQvg
制限抜きでも銃さえあればリサと宗一はエルクゥより強くないかと思うんだが

120羅刹血華:2006/12/29(金) 17:46:57 ID:kEvf//Bo

黄金の聖猪と白銀の魔犬が激しい戦闘を再開した、そのすぐ傍で、舞と耕一は向かい合っていた。
雨は、降り続いている。舞の長い黒髪を伝って、幾つもの水滴が零れ落ちていく。
濡れた革靴の、嫌な感触を足裏に感じながら、舞は摺り足のまま間合いを計っている。
対する耕一は涎と共に荒い息を吐きながら、腕をだらりと垂らして真紅の眼で舞を睨んでいた。
呼吸に合わせて、小山のように盛り上がった肩がゆっくりと上下している。

鬼の呼吸のタイミングを正確にカウントしながら、舞はじりじりと動き続ける。
魔犬の杖による打撃は、おそらく肋骨に達していた。
今のところ内臓に損傷はないようだが、戦闘が長引けば長引くほど不利になる。
痛みは無視すれば済むが、不随意筋の緊張による呼吸の乱れは時に生死を分けると、舞は理解していた。

彼我の打撃力、そして防御力の差の大きさは、先刻の一合で思い知らされていた。
完全な不意打ち、それも背中側からの胴薙ぎが、通らなかった。
それはつまり、敵は全身に鎧を着込んでいるようなものと考えなければならないということだ。
生半可な斬撃では、皮一枚も貫けない。
そしてまた、大木を苦もなく折り砕き、振り回した挙句に投擲してみせたあの膂力。
武器の類は手にしていないようだが、しかし硬い外皮、巨大な体重と合わせて考えれば、
まさしく全身が凶器といえた。まともに受けることすらも、ままならない。

一撃が致命傷となる緊張感を、舞はしかし黙って飲み下す。
元より魔物と呼ばれるモノたちと戦うために身につけた、剣だった。
相手が鬼と変わった、それだけのことと己を鼓舞しながら、舞は刀を握りなおす。
正眼に構えた剣先が、雨に濡れて煌いている。

魔犬の吐いた吹雪の名残が、舞と耕一の間を吹き抜けていく。
視界が白く煙る一瞬、両者は同時に動いていた。

121羅刹血華:2006/12/29(金) 17:47:21 ID:kEvf//Bo
耕一が、舞を抱きすくめるように黒い腕を伸ばす。
真上に跳んだ舞が、耕一の腕を踏み台にしてその頭上を飛び越えた。
予想外の動きに慌てて振り向く耕一の、その無防備に空いた胸を目掛けて、銀の刃が走る。
狙い澄ました突きは、しかし高い音を立てて鬼の皮膚に弾かれた。
一瞬動きを止めた舞に、耕一の拳が唸りを上げて迫る。

「―――っ!」

しかし舞は至近に迫るそれを、無理に回避しようとはしなかった。
咄嗟に刀を立て、峰に自らの腕を押し付けると、そのまま鬼の拳に身を預けるようにして後方へと跳んだのである。
細身の少女を粉砕する悦楽に顔を歪めた耕一が、そのあまりにも軽い手応えに疑念を抱く。
果たして、数メートルを吹き飛ばされたかに見えた舞が、空中で華麗に後転、しなやかに着地を決めた。
力に逆らうことなく自ら跳んでみせることで、その威を後ろに逃がしたのだった。
鬼の剛拳をかわしきれぬとみた、舞の妙技である。

「こ……のッ!」

なおも迫り来る耕一に対し、舞は逆にその懐へと身を飛び込ませた。
振り回される腕を掻い潜り、一刀を叩き込む。弾かれた。追撃が来るよりも早く、脇から駆け抜ける。
ぬかるむ足場を利用して体重移動だけで反転。そのまま遠心力を利用して、耕一の足を薙ぐような軌跡で刀を振るう。
高い音。膝関節を外から叩いても、鬼の巨体は微動だにしなかった。足を止めずに、走る。

122羅刹血華:2006/12/29(金) 17:47:45 ID:kEvf//Bo
一連のやり取りで、舞には幾つかの確信が生まれていた。
ひとつは、鬼の理不尽なまでの堅牢さである。
継ぎ目のない鎧を着ているようなその外皮は、打ち払いの類をいとも容易く退ける。
突きならばあるいは、と思ったが、分厚い胸には通じなかった。
自らの体重の軽さを、舞は呪う。
圧倒的な体重差があっては峰打ちによる昏倒、あるいは内部関節の破壊も狙えそうになかった。

だが、その軽い体重が利点となることもあった。
それが二つめの確信、彼我の速度の差である。
鈍重とは言わぬ。巨体からは考えられない敏捷性を、鬼は秘めていた。
しかし、それは同程度の体型、同程度の体重をもつ野生動物などと比較しての話である。
先程の打ち合いの際には、舞の剣捌きに対応するどころか、疾走の速度にすらついてこられていない。
斬りつけること、そしてまた回避すること自体は、難しくなかった。

そして、三つめの確信。
相手は文字通り化け物じみた膂力の持ち主だが、しかしその筋力を活かしきれていないと、舞は推し量っていた。
素性の知れぬ相手との戦闘の定石として、鬼と切り結んでいる間中、舞はつぶさにその肉体を観察していた。
身体の使い方を見れば、自然とその手筋は知れる。結果、舞は内心で驚嘆することになる。
大枠としては人間のそれと大差ない構造をしているようだったが、しかしそのコンセプトが決定的に異なると、舞は見た。
鬼の身体を褒めるのもおかしな話だったが、その筋肉はまさに近接戦、特に打撃における一種の理想型だった。
殴り、掴み、押し潰すことに、完全に特化している。
素手で獲物を狩る、という行為を最大限効率的に行うための、それは肉体だった。
おそらく本来は、牙と爪も重要な攻撃要素となるのだろう。
引き裂き、噛み破るために研ぎ澄まされたそれらが獲物の血に染まる様を、舞は容易に想像できた。
もしも鬼がその能力を余すところなく発揮していたなら、自分など数合打ち合うことすらかなうまいと、思う。
それほどに、その体躯は圧倒的だった。

123羅刹血華:2006/12/29(金) 17:48:15 ID:kEvf//Bo
だが、と舞は考える。
だが今、自分が向かい合っている鬼は、それらの力のどれ一つとして、有効に使いこなせていない。
殴るという動き一つをとっても、明らかに無駄が多すぎた。
体重移動、下半身の使い方、そして拳の軌道。どれもまるでなっていない。
足捌き、息の整え方、目配りの仕方、呼吸のテンポを隠すことの重要性。
理解がない。把握がない。認識がない。
そして何よりこの鬼には、相手の行動を先読みして動く戦闘経験というものが、完全に欠落していた。

野生を知ることなく育てられた、檻の犬。
舞は、己が敵をそう断じていた。

付け入る隙は、充分にある。
問題は、堅牢に過ぎる防護をどう貫くか、だった。
疾走しながら、舞は考えをめぐらせる。

「この、ちょこまかと……っ!」

焦りがそうさせるのか。
鬼が腕を振り回す。大振りで、単調な攻撃。
それを、拭いきれぬ経験の浅さと舞は判断する。
視界の外では魔犬と聖猪が激しい戦いを繰り広げていた。
ボタンの放つ炎熱の揺らめきを背に、舞は一気に踏み込む。
上から落とされる拳を、急加速して回避。そのまま胴を打ち払って駆け抜ける。
何らの痛痒も感じぬというように、鬼の蹴撃が追ってきた。
予測通りの展開に、舞は余裕を持ってそれをかわす。
同時に軸足の膝裏に、一撃。ウエイト差に弾かれかけるも、強引に振りぬく。

「ぬ……ぉっ!?」

バランスを崩しかけた鬼の、無防備な首を狙った一刀が、走る。

124羅刹血華:2006/12/29(金) 17:48:37 ID:kEvf//Bo
だが鬼は後方から襲い来るそれを、死角からの一撃を、耐えた。
かわすでも、受けるでもなく、ただ己が外皮の硬さに任せたのである。
食い込んだ刃を引き抜こうとする舞。
しかしそれよりも早く、鬼が左右に大きく身体をうち振るった。
体重の軽い舞の身体が面白いように振り回される。
遠心力によって食い込んだ刀が鬼の首から離れ、舞と共に飛んだ。
近くの木に叩きつけられる寸前、舞は体を入れ替えた。
飛び蹴りの要領で木を蹴りつけ、衝撃を相殺。接地する舞。

「残念だったなあ……俺たち、見た目より頑丈なんだ」
「……」

首の後ろ、皮に走った傷を撫でながら、おどけるように口を開く耕一。
無言のまま、舞は疾走を再開する。
実際のところ、答える余裕もなかった。
今の強引な衝撃の殺し方で、肋骨の違和感が酷くなっていた。
不規則に横隔膜が痙攣している。呼吸が整えられない。
決着を急ぐ必要があった。

125羅刹血華:2006/12/29(金) 17:49:11 ID:kEvf//Bo

「シカトかよ、冷たいな……っとォ!」

耕一もまた、走り出す。
舞の低い姿勢をどう見たか、耕一が口の端を歪ませる。
交差する一瞬に、舞があからさまに狙っているのは耕一の膝。先程叩かれた部位だった。

「……!」

転瞬、舞の振るう刀の軌道から耕一の足が消えていた。
交差する一歩手前、耕一は踏み出した足を無理矢理に地面へと叩きつけていたのである。
その強靭な骨格と巨大な体重を利用した、あまりにも強引なステップ。
フェイントにたたらを踏む舞の、その背中に鬼の拳が打ち下ろされる。

しかし次の瞬間、舞の刀が跳ね上がっていた。
掬い上げるような切っ先が、耕一の顔面を薙ぐように襲い掛かる。
耕一の仕掛けたフェイントを見透かした舞の、流れるようなカウンター。
覆い被さるように拳を落とそうとした耕一が、眼を見開いた。

「ぐ……おおおぉぉ!?」

瞬間、巨体に蓄えられた恐るべき筋力が、その威力を遺憾なく発揮しはじめた。
落としかけた腕を、肩の力だけで引き戻す。
同時に、フェイントで踏み込んだ左足を軸に、上体を重力に逆らって全力でスウェーさせる。
軋みを上げる骨格の悲鳴を、鬼の本能が上回った。
制動をかけた耕一の、その鼻先数寸を銀の刃が駆け抜ける。回避、成功。
しかし。

「―――ッ!?」

126羅刹血華:2006/12/29(金) 17:50:16 ID:kEvf//Bo
耕一の視界に映っていたのは、舞の透徹した瞳であった。
刹那、耕一の脳裏に幾つもの疑問符が浮かんでは消える。
何故、視線が交錯しているのか。
何故、振りぬかれたはずの切っ先が、刃を返してこちらを向いているのか。
何故、その姿勢は、寸刻のブレもなく維持されているのか。
―――まるで、最初から、この一瞬を狙っていたかのように。

煌く刃が、耕一の視界の右半分を、埋め尽くしていた。




ご、とも、あ、ともつかない声を上げて、鬼がのけぞる。
渾身の突き上げ。
狙い澄ました一刀は、正確に鬼の右目を貫いていた。
噴き出す血潮を全身に浴びながら、舞は己の勝利を確信する。

外皮は斬れぬ。関節を叩いてもまるでこたえない。ならば、どうするか。
舞の出した回答の一が、これであった。
継ぎ目がなければ、穴を狙えばいい。
鬼の眼が、果たして弱点となりうるのかは賭けであったが、舞はそれに勝った。

止めを刺すべく、舞が手にした刀の柄を握りこむ。
刃を返し、傷を更に抉り込まんとするその動きを、しかし押さえるものが、あった。

「―――ッ!?」

鬼の、手。
黒く奇怪なそれが、刀を握る舞の手を、その上から覆っていた。
見上げれば、じくじくと血の泡を噴き出しながら、それでもなお爛々と輝く鬼眼が、舞を捉えていた。

127羅刹血華:2006/12/29(金) 17:50:39 ID:kEvf//Bo
鬼が、哂う。

「ざぁぁぁんねん、だったなあ……?」

奇妙に掠れた、甲高い声。
眼から溢れた鮮血が、喉に流れ込んでいるものか。
金属を擦り合わせるような、不快な音を喉の奥から響かせながら、鬼が口を開く。
決して離すまいと柄を握る舞の手が、万力の如き力で締め付けられる。

「く……ぁ……っ!」

ごきり、と。
舞の左手から、不気味な音が響いた。指の骨が砕かれたのである。
思わず刀を手放したその左手が、鬼に掴み上げられる。
そのまま、片手一本で易々と吊るし上げられた。
ずるりと抜け落ちようとする刀を、舞はどうにか右手だけで保持する。

「ぉ俺さぁ、み、見た目よりが、頑丈、なんだよなあぁぁ……」

ぐずぐずと篭ったような声のまま、鬼が嬉しそうに哂う。
血の泡を溢し続けるその右目を、生臭い吐息がかかるほどの至近で見ながら、舞は今更ながらに思い知っていた。
鬼というものを、甘く見すぎていた。
眼に刃を突き入れれば、脳に達する。脳を傷つけられれば、生物は生きていられない。
そんな常識が、鬼に通用すると、思い違いをしていた。

深刻な打撃にはなっているようだが、それだけでは、鬼は討てない。
もっと決定的な、もっと根本的な致命傷が、必要だったのだ。
そして今、その機会は急速に失われつつあった。

128羅刹血華:2006/12/29(金) 17:51:07 ID:kEvf//Bo
「こぉぉなっちまったら、も、もう、何にもできないよ、なあぁぁ……?」

ひゅうひゅうと、鉄の臭いのする息を吐き出しながら、鬼が舞を揺する。
だらりと片手で吊るされる舞は、されるがまま。完全に脱力しているようだった。

「んんん……? なんだぁ、あ、諦めたのかぁぁ……?」

気味の悪い嗄れ声でくつくつと笑う鬼。肩が震えている。
その背後で、魔犬の吹雪が唸りをあげて吹き荒ぶ。
ボタンとポテトの戦いはいまだ続いているようだった。

「……」

無論、舞は諦めてなどいなかった。一念、逆転を狙っていたのである。
ただ状況は絶望的で、しかしそれを受け容れずにいようとするならば、無駄な抵抗によって
消耗できる体力など存在するはずもないという、それだけのことであった。

現在、枷になっている左手は、完全に潰されていた。
指先を動かそうとするだけで激痛が走る。
骨も、腱も使い物にならない。

反面、他の部位に目立った損傷はない。
相変わらず肋骨には過度な負担をかけられないが、内臓を傷つけるような骨折には至っていない。
逆転の一刀に全力を出すことはまだ可能と判断する。

129羅刹血華:2006/12/29(金) 17:51:28 ID:kEvf//Bo
最大の僥倖は、武器を手放さずに済んでいることだった。
垂れ下がった右手には、いまだ刀が握られていた。
脅威にならないと考えているのか、鬼はそれを奪おうとはしなかった。
確かに、ただでさえ外皮には一切通用しなかった斬撃である。
こうして吊るされた状態では踏み込むこともできず、体重も乗せられない。
速さも重さもない一刀を、鬼が恐れるはずもなかった。

視界の端を、聖猪が放つ灼熱の息吹が奔っていく。
ぐつぐつと哂い続ける鬼をその眼に映しながら、状況は絶望的、と舞は内心で繰り返す。
このままでは吊るされたまま、嬲り殺される。
反抗は無益。手にした一刀に有効な攻撃力は存在しない。
逆転の目は、ない。

―――吊るされたままならば、だった。

その瞬間、舞に迷いはなかった。
真っ直ぐな視線に、光が宿った。
手にした一刀が奔り、引き斬られる。
柔らかい皮を裂き、震える肉を断ち、腱を貫いて骨を砕き、川澄舞は、己が左手を、斬り落としたのである。

一瞬の出来事であった。
あまりにも躊躇なく行われたその暴挙に、鬼は反応すらできなかった。
鮮血が、真っ赤な霧となって視界を覆う。

真紅の霧を断ち割って、舞が、飛び出した。
大地を震撼させるが如き踏み込み。
その爆発的な速度のすべてを、脚から膝へ、膝から腰へ、腰から腹、胸、肩へと繋いでいく。
柄頭を腰溜めに、舞はその全身を一個の弾頭として、叩きつけた。

130羅刹血華:2006/12/29(金) 17:52:04 ID:kEvf//Bo
鬼の鳩尾、その一点が、歪む。
神速をもって生み出された突進力が、鬼の巨体をして、浮き上がらせる。
一瞬の間を置いて、鬼が、吹き飛んだ。

「ぐ……ぅぉぉぉぉ……ッ!?」

鬼の巨躯が、風を巻いて飛ぶその先に、二つの力があった。
炎熱と、烈寒。
聖猪と魔犬の撒き散らす、吹雪と灼熱。
ぶつかり合う力のその中心に、過たず鬼が、叩き込まれる。

「がぁぁぁぁ――――ッ!!」

神話の時代の力の中で、鬼が吼えた。
その恐るべき生命力のすべてをもって、鬼は己を保ち続ける。
灼熱に溶ける外皮が、瞬く間に再生されていく。
寒威凛烈の風の中、凍りついた外皮が剥がれ落ち、新たなる皮膚が現れる。

刹那の内に、幾度の再生を繰り返しただろうか。
ついに鬼は、神話の炎熱を、寒波を、耐え凌いでみせた。
再生の限界を超えた皮膚の欠片をぼろぼろと溢しながら、真っ黒な外皮に無数の皹を入れながら、
それでも鬼は立っていた。
圧倒的な死を乗り越えた鬼の雄叫びが、しかし、止まる。

131羅刹血華:2006/12/29(金) 17:52:45 ID:kEvf//Bo
「――――――」

一陣の風が、吹き抜けていた。
鬼が、肩口から二つに裂けた。

一刀、迅雷の如く。
雨中、川澄舞の隻手が、静かに血糊を払った。




 【時間:2日目午前6時すぎ】
 【場所:H−4】

川澄舞
 【所持品:村雨・支給品一式】
 【状態:肋骨損傷・左手喪失(出血多量)】

柏木耕一
 【所持品:不明】
 【状態:両断】


ボタン
 【状態:聖猪】

ポテト
 【所持品:なんかでかい杖】
 【状態:魔犬モード】
→606 ルートD−2

132異変:2006/12/30(土) 19:14:03 ID:1JVtKIyQ
妙に、荒い息遣いを耳元で感じる。
眠りについていたはずの立田七海の意識は、それで覚醒させられた。

(・・・・・・え?)

もぞもぞと、背中から抱きすくめられる形を取られ瞬間体が強張る。

「え、だ、誰ですっ?!」

息遣いは止まない、低い声に一瞬男かという怯えも走るが体を弄る手の感触はあくまでか細い。
首を捻り凝視する、電気をつけていないので目視するのは厳しいがそれでも特徴のある髪型でそれが誰だかはすぐに分かった。

「え・・・ゆめみ、さん?」

答えはない。そのまま肩を取られ仰向けに押し倒され、七海は彼女・・・ほしのゆめみと、向かい合うような形にさせられた。

「・・・んな、おんな・・・久しぶりのぉ、女ぁぁぁ・・・」
「え、きゃ、きゃあっ!そ、そんな所触らないでください・・・っ」

遠慮なく服の上から胸部をまさぐられ、思考が飛びそうになる。
荒い愛撫に戸惑いを隠せず、両手でゆめみを押し返すようつっぱるが・・・彼女は、ビクともしなかった。

「おんな・・・おんなだぁ、久しぶりだぜこの感触ううぅぅっ」

ブツブツと呟くゆめみの声に震えが走る、明らかに彼女の様子は変であった。

「あの体に閉じ込められてから・・・いくら待ったか・・・」
「ゆ、ゆめみさん?おち、落ち着いてくださ・・・」
「やわらけぇ、ああ・・・これだ。俺の求めていた感覚はこれだあぁぁ」
「きゃうっ?!す、スカート上げちゃダメですっ」

133異変:2006/12/30(土) 19:15:22 ID:1JVtKIyQ
捲り上げられたスカートから、幼い作りのパンツが現れる。
小さな地丘を目にし、ゆめみはますます興奮したように七海にしゃぶりつこうとした時だった。

「・・・ちょっと、二人何やってんのよ。五月蝿いんだけど」
「い、郁乃さん助けて〜」

冷ややかな声は、車椅子に座った少女が発したもの。
七海の力ない助けを聞き、小牧郁乃は絡まりあう寸前の二人の所まで近づいた。

「夜中にいい加減にしてよね、眠れないったらありゃしない」
「女?!ここは天国かよぉ、最高だぜ・・・ギャフッ?!」
「ゆめみ、あんた寝ぼけてんの?」

自分に向かって両手を広げて突っ込んでくるゆめみに、容赦なくグーパンチを浴びせる郁乃。
その冷ややかな視線を受け、ゆめみの表情も一転した。

「調子に乗るなよ、ガキが」
「な、何よ・・・きゃっ!!」

黙ったまま郁乃に近づき、ゆめみはその車椅子を渾身の力を込め蹴飛ばした。
勿論、乗っていた郁乃は弾き出される。受身も取れず側面から床にダイブすることになり、思わずその痛みを声に漏らした。

「郁乃さん?!ゆ、ゆめみさん、おふざけにも程が・・・」
「ああ?何言ってんだカス、お前誰にモノ聞いてんだコラァッ!」
「・・・なに、それがあんたの本性ってワケ?騙されたものね」

起き上がることができず、顔だけゆめみに向けて郁乃は悔しそうに毒づいた。

134異変:2006/12/30(土) 19:16:16 ID:1JVtKIyQ
「騙すもクソもねえよ、俺は今ひっっさしぶりに目が覚めたんだからよ」
「どういうことよ」
「さあな、知らねえな。・・・ただ、どうにも体が縮んだ気はするが。確かこう、もっとでっかかった気がしたんだがな・・・」

そう言って、自分の姿を確認するようにターンするゆめみ。
とにかく・・・今までの、優しい彼女ではないということだけは確かだった。

「まぁ、いつまで保つかは分からなねえが。俺の意思がはっきりと表に出せるうちは、もう好き勝手やらせてもらうしかねーよな」
「な、何する気ですかっ・・・」
「ああ?当たり前だろ、セック・・・」

言いかけて、止まる。
ゆめみの体をした別人は、ゆっくりと自分の下半身に向けて視線を落とした。
ピラっと、躊躇いなく前掛けのようなスカーを捲る。「きゃあっ!は、はいてない?!」という黄色い声が飛ぶが気にしない。
・・・パサ。スカートが重力通りに落ちると、ゆめみは頭を抱えて叫んだ。

「チンがねぇ!!タマも!!」
「ゆ、ゆめみさん女の子ですから・・・」
「絶望した!!」
「あんたが絶望する前に、こっちはとっくの昔に絶望してるわよ」
「触手はないのか?バイブ機能は?!」
「が、ガイドロボットって言ってました・・・ゆめみさん。そんなえっちなの、ついてないと思います・・・」
「くそっ、やられた!!」
「アホ」
「アホで結構コケコッコー、あちきが天才だと思えば誰でも天才さ。
 そう、それはまーりゃん脳の中では天化が取れるという素晴らしい法則。
 感謝していいぞよ、でもちみのリアクションは凡才判定かな?」

135異変:2006/12/30(土) 19:17:15 ID:1JVtKIyQ
ガラっと襖が開き、これまた新手が飛び出してくる。
一同呆然。そのインパクトで場は静まるが、参入者により入れ替わった空気で一気に活気は元に戻った。

「く、くさいですっ」
「何よこの臭いは?!」
「庶民にはこのスメルの魅力が分からんのかね〜、まぁ私にもワカランが」

朝霧麻亜子は汚臭の染み付いた着物を揺らし、さらにその芳しい香りを撒き散らした。

「な、何なのよ一体・・・」
「ふはは、死神は臭いも腐ってるってな。これまたちょうどいい具合だと思わないかい?ところでキミ、お名前は」
「た、立田・・・七海、です・・・」
「そうかいそうかい、いい名前だい。親御さんのセンスがうかがえるね。
 だが、そんなシックスセンスはお前様には受け継がれなかったのな。
 そう、予想外の処刑人の登場など想像つかなかっただろう?
 死ぬぜぃ、ここにいるヤツは皆死ぬぜぃ・・・とりあえず、ななみんお前を殺す」
「え、わ、私?」
「桜舞い散る季節に訪れる出会いと別れ、あちきはあんたを忘れない。
 迎えにきたよななみんちゃん、スーパーまーりゃんと無学寺で握手ってな。
 え、何さどうしていきなりあたしがここに現れたかって?
 それは秘密さ禁則事項さ、とにかく涙がチョチョ切れちゃうけど我慢してくれろ。自分の屍越えてゆけ!」

着物の裾から取り出されたボーガンの矢が放たれたのは、そう麻亜子がまくしたた直後だった。
狙いは宣言通りの七海、半身を起こしただけの彼女はいきなりの攻撃に全く反応ができていない。
矢は、七海の顔面に突き刺さる。そのはずであった。
瞳孔を開いたまま身動きを取らない七海の襟首が唐突に引かれる、乱暴なその仕草と彼女の座っていた場所をボーガンの矢が通り過ぎたのはほぼ同時であった。

「困るぜガキ、こっちもガキとは言え女を殺されちゃあタマんねぇ。ここにいる女は全員俺の肉奴隷なんだからな」

136異変:2006/12/30(土) 19:18:06 ID:1JVtKIyQ
いまだ何が起きたか理解していない七海を片手に言い放つゆめみ、鋭い視線を送られ麻亜子も一瞬たじろぐが次の瞬間には不敵な笑みを浮かべてくる。

「あらまぁ女同士でハレンチな。そんなロリハーレムなら、お姉さんにも参加資格はあるかに?」
「武器を捨て、従うんなら考えてやってもいい」

対峙する二人の女、台詞はともかく緊張感が場に走った。






(ちょ、ど・・・どうなってんのよ?!)

沢渡真琴は、そんな背後で起こるコケティッシュな展開に乗り遅れていた。

137異変:2006/12/30(土) 19:18:49 ID:1JVtKIyQ
【時間:2日目午前0時30分】
【場所:F−9・無学寺】

立田七海
【持ち物:無し】
【状況:驚き、ゆめみに襟首捕まえられている、郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索】

小牧郁乃
【持ち物:車椅子】
【状況:驚き、車椅子から落ちている、七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】

沢渡真琴
【所持品:無し】
【状態:寝たふりで様子をうかがっている】

ほしのゆめみ?
【所持品:支給品一式】
【状態:まーりゃんと対峙】

朝霧麻亜子
 【所持品:SIG(P232)残弾数(4/7)・ボウガン・バタフライナイフ・投げナイフ・仕込み鉄扇・制服・支給品一式】
 【状態:ゆめみと対峙、着物(臭)を着衣(防弾性能あり)。貴明とささら以外の参加者の排除】

138異変:2006/12/30(土) 19:20:00 ID:1JVtKIyQ
宮内レミィ 死亡

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

【備考:食料少し消費】
(関連・428・442・539)(B−4ルート)

139謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:06:04 ID:I.kDtdm6
「・・・あけまして、おめでとう」
「なぁ、ぶっちゃけ二番煎じなんか寒い以外の何物でもないんじゃないのか」
「いいの。何もしないより、まし」
「そんなもんかよ・・・」
「こちら、避難板にてお送りしますは川澄舞と」
「柊勝平になります・・・って、何で俺等この寒空の中実況してんだよ!寒いよ凍えるよ徹夜は禁止されてんだよっ!!」
「・・・?」
「あーもうつっこめよ!既に終わってるってつっこめよっ!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・所詮、裏方。おこたにみかんは我慢する」
「そっちじゃねー!!!!」
「・・・?」
「もういい、もういい・・・先いってくれ・・・」
「昨年は、色々あった」
「良かったな、俺は殺されてばっかで語ることがなくて困るよ」
「私が耕一の姉に殺されたり、私が耕一を両断したり」
「おい?!新年早々縁起の悪い話題を出すな!」
「次は、あなたが両断される」
「あんたイヤな奴だな?!!」
「次は、あなたが凍結される」
「されないよ?!まだ生きてんだからそういうこと縁起でも言うなよっ!」
「・・・」
「・・・で、俺等ん所にはさ、何か電報みたいなのないのか?」
「ぽんぽこたぬきさん」
「いや、さ、ほらでっちげでもいいからそこは否定するなよ・・・」
「はちみつくまさん」
「どっちだよ?!」
「・・・これなら、ある」
「ああ?なになに・・・って、これ来週予告じゃないかよ・・・」

140謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:06:52 ID:I.kDtdm6
「大丈夫。耕一の見せた決意は他のルートがカバーするから」
「そうなりゃいいけどよ」
「安心して、B-13の耕一は永眠すべし。私もするから」
「いや、ちょ・・・しんみりさせるなよ・・・」
「B-13の勝平も永眠すべし」
「もうしてるよ?!!」
「・・・他ルートも、もっと盛り上がって欲しい・・・D-2の私はかっこいいからオススメ」
「いや、でも正直厳しいんじゃね?多分これが凄い的を得ていると思うけど」



561 :名無しさんだよもん :2006/12/12(火) 17:54:43 ID:kAyq0lzeO

言うのは簡単だけど書いて見ると結構きついんだよなあ
キャラごとの関係が複雑になるに連れて全部のルートのキャラ把握なんか混乱して無理…
出来るだけいろんなルートで使い回せる話書いてたりもしたけど さすがに限界感じて一つに絞ったなあ
書いてればわかるから書き手は感じてると思うけど、読み手に比べて目茶苦茶少ないんだよね
とりあえずどのルートでも良いから書いて欲しい、ここじゃなくて投稿スレで盛り上げて欲しいと思いました

141謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:08:02 ID:I.kDtdm6
「・・・他ルートのまとめサイトも、あればいいのに。そうすれば事実関係確かめるのも楽チン」
「前にまとめサイト作りたいって言ってた人は、もういないのかね・・・あの頃はまだB-9とB-10だったっけか」
「・・・本当に需要があるのであれば、私が作ってもいい。
 でもB-13以外書く時間が取れないっていう書き手が多いなら、結局は意味がないと思う」
「ちょ、自己解決しないでよ、ボクに意見求めてよ」
「私は分規制を分岐制として楽しみたい、その上で色々な展開を見たい。
 今はアナザーという楽しみ方もあるけれど、既存のルートをとにかく凍結させるだけというのは分岐制を生かしきれていなくて勿体無いと思う」
「だから、それは書き手の負担がだな・・・」
「B-11が凍結した今、既存のルートは少なくとも一人は書き手が残っている状態。
 これにより凍結は免れる、ペースも早くないし思いついたネタを暖めて後で投下とかもできる。
 メインみたいに即続きが投下されることなんてほとんどないんだから、予約発言をしても悪くないと思う」
「うーん、とにかくそれは書き手の興味の問題にもなっちまうからな・・・」
「それなら、例えばB-13に出そうと思っていたけれど話が被ってしまい投下できなくなった作品とかはどうだ。
 少し前、芳野長森コンビを書こうとおっしゃっていた方はそれをボツにされたようだけれど、あれはB-10なら当てはめることができたんだ。
 そういう意味で、あくまで視点をB-13だけに絞らず視野を広く持って欲しいと思う。それが私の意見」
「・・・いや、やっぱりそれは書き手の意思なんだから難しいって。変に押し付けるべきではないだろう」
「勿論分かってる。だから私の意見だと、言った。っていうか私が見たかったんだ、芳野長森コンビ」
「お前の好みかよ?!」
「メインもだけれど、既存のルートも皆頑張ろうと。それが言いたかったっていうのがメイン」
「そうだな、両立まではいかなくても上手くついていきたいな・・・」
「せっかく来週予告で触れられたから、この機を逃せないと慌てて話を振ったかいがあった」
「そういうことは言わなくていいんだけどっ?!!」
「とにかく、出番は終わり」
「そうか、これでやっと家に入れるのか・・・もう体冷え切ってるよ、たっく病人になんてことさせるんだか・・・」

川澄舞
【持ち物:なし】
【状況:ご機嫌】

柊勝平 体調悪化で死亡

142謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:09:45 ID:I.kDtdm6






「こら!状態を捏造するなっ、生きてるよ生きてる!!!」
「勝平、あっち。最後に別れの挨拶しないと帰れない」
「ああ?!もうさっさと終わらせてくれよ・・・」
「長文失礼しました、今年もよろしくお願いします」
「今年もよろしくお願いします!」
「ショウヘイヘ〜イ」
「呼んでどうするっ?!」




川澄舞
【持ち物:来週予告の紙】
【状況:ご機嫌】

柊勝平
【持ち物:なし】
【状況:つっこみ】

【備考:二番煎じスマソ】

143中盤戦:2007/01/03(水) 20:31:17 ID:PdnnCCjM
「ぐっ……」
「そ、宗一君……」
宗一が苦痛に顔をしかめる。
秋子が放った銃弾のうちの一つが、宗一の右太股の端を抉り取っていた。
自分が隠れている位置を中心に集中砲火を浴びせられたのだ。
それでも普段の彼なら余裕を持って凌げる攻撃だったが、今は条件が悪すぎる。
負傷して動きが鈍っている上に敬介を抱えての回避行動では、避け切る事が出来なかった。


「ヤバイな……次にダイナマイトがきたらもう凌げるか分からない……」
宗一は激しい痛みを気に留めず、冷静に戦況を分析していた。
足の状態は万全とは程遠く、俊敏な動きは望むべくも無い。
出血は……今すぐ動けなくなる程ではない。
だが、戦いが長引くに連れて体力は否応無しに削られていくだろう。
これらの条件から導き出される答えは一つ――――

「どうする?」
「あんたに頼みがある……一つだけ打開策を思い付いた。それは―――」







「呻き声がしたわ。何処に当たったか分からないけど、きっと敵の動きは鈍っている」
秋子はそう言いながら銃に新しいカートリッジを装填している。
カチャッ、と音を立てて決着を着ける為の弾丸が銃に補充された。

144中盤戦:2007/01/03(水) 20:33:24 ID:PdnnCCjM

「作戦はさっきと同じよ。私が拳銃であぶりだすから、澪ちゃんはダイナマイトでトドメを!」
澪がこくんと頷くのを確認して、秋子は壁から身を乗り出して銃を撃とうとし―――目を見開いた。

橘敬介が茂みから飛び出して、診療所の、秋子達が隠れている場所とは反対側の角に向かって走っていた。
(―――挟み撃ちにされる!?)
実際には敬介は何も武器を持っていない……裏に回られようと大した脅威には成り得なかった。
だがその事を知らない秋子にとって彼の行動は、十分過ぎる陽動となった。
秋子は焦りながらも銃口を敬介に向けるが、意表を付かれた上に相手が走っているこの状況下ではプロでも無い限り命中させる事は困難だ。
2発、3発と連続して弾丸を放つが当たらない。


―――そして予想外の出来事は連続して起きる。
「うおぉぉ!」
茂みから宗一が飛び出してきたのだ。
直後、宗一の銃が火を噴く。
秋子は咄嗟の判断で壁に身を隠していたので、その銃撃だけは何とかやり過ごせた。
だが宗一はそのまま勢いを止める事無く、激痛で痛む足を酷使し、壁に隠れる秋子に向かって突撃する。







「秋子さん!」
祐一は驚愕していた。
診療所にようやく到着しそうになった時、彼の目に飛び込んだのは見慣れた服装の人間だったからだ。
その女性は銃を手にし、壁の向こうを警戒しているようだった。
まだ距離があるので顔までははっきりと見えないが、あの服装は間違いない―――水瀬秋子だ。

145中盤戦:2007/01/03(水) 20:35:37 ID:PdnnCCjM
秋子の少し後ろでは、見知らぬ少女も秋子を援護しようとしていた。
「少年、知り合いか?」
「ええ、そうです!知らない女の子も一緒だ……きっと襲われてるんだ、助けにいきましょう!」
「ああ、分かった!」

急いで祐一達は走り始める。
祐一達の位置からは宗一が茂みから飛び出してくる様もよく見て取れた。
祐一は秋子本来の穏やかな人柄をよく知っている。
この状況で見知らぬ人間と秋子のどちらを信用するかなど、天秤にかけるまでもない。
祐一達は秋子の敵がゲームに乗った人間だと、すっかり勘違いをしていた。








(まだ……まだ駄目よ……)
秋子は宗一の足音にのみ意識を集中させ、冷静に距離を判断していた。
もう何度もチャンスは無いだろう―――引き付けて一撃で仕留める!
相手の正体は分からないが明らかに素人では無い……近距離で撃たなければきっと避けられてしまう。
だから秋子は、一撃に賭けていた。

(もう少し……もう少し―――――――――――今よ!)
秋子は壁から体を乗り出し、乗り出した時にはもう足音のした方へと撃っていた。
足音で距離を読むという事は、即ちおおよその位置も把握するという事。
素人である秋子の読み程度では誤差はあるが、それも近距離でならば許容範囲内に収まる筈だった。
引き付けて、最低限の動作による必殺の一撃が放たれた。
両者の距離は約5メートル……並大抵の回避動作では、絶対にかわせない。

146中盤戦:2007/01/03(水) 20:37:56 ID:PdnnCCjM

しかし―――本気になったNasty Boyはその上をいっていた。

「―――そんな!?」
秋子が驚愕の声を上げる。
Nasty Boy……日本語訳では『無茶苦茶小僧』。
彼は何よりも相手の驚いた顔を見るのが好きであり、相手の裏を掻くのが得意だった。
秋子の行動を予期していた宗一は銃を口で咥え、地面に滑り込むようにヘッドスライディングの態勢で宙を舞っていた。
放たれた銃弾は宗一の遥か頭上を通り過ぎるだけに終わる。

そのまま無事な右手を地面に乗せて、その手を支点に縦回転し強烈な踵落としを放つ。
予想しようの無い展開の連続に、秋子は全く反応が出来ていない。
「が……っ」
勢いをつけたその一撃は秋子の首に命中し、彼女の意識を奪っていた。

もう一人―――ダイナマイト役がいるのは分かっている。
宗一は澪を打ち倒すべく彼女の姿を探し―――次の瞬間には地面に転がり込んでいた。
それまで宗一がいた空間を銃弾が切り裂いてゆく。

澪は独断でダイナマイトによる攻撃は諦め、銃による援護に切り替えていたのだった。
地面に転がり込んだままの姿勢の宗一。
この状況で澪の攻撃を凌ぐには、もう手は一つしか残されていない。
態勢は圧倒的に不利だったが、素人とエージェントの銃の発射動作の速度には圧倒的な差がある。

「殺したくは無かったが――――許せ」
澪が再び狙いを付ける前に、宗一は口に咥えていた銃を手にし澪の胸を撃ち抜いた。
宗一の放った銃弾―――FN Five-SeveNの特殊弾は貫通力に優れる。
それは一撃で澪の体を破壊し、その命を奪いつくしていた。

だが―――同時に宗一も腹を押さえて吐血した。

147中盤戦:2007/01/03(水) 20:39:27 ID:PdnnCCjM
「な……ん……だと……!」
振り返って見上げる宗一の視界に。
太陽を背負って二人の男が立っていた。

「よくも少年の知り合いを……!」
―――そこには怒りに震える緒方英二と相沢祐一が立っていた。
英二のベレッタM92の銃口からは僅かに煙が上がっている。

【時間:2日目・午前8時05分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数13/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(怪我の程度は後続任せ)】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:陽動は終了、これからの行動は後続任せ】

上月澪
【所持品:H&K VP70(残弾数1)、包丁、ダイナマイトの束(3本消費)、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:死亡】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。気絶】

148中盤戦:2007/01/03(水) 20:40:49 ID:PdnnCCjM

緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、怒り】

相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、怒り】

神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】

マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。迂回しつつ診療所へ回りこむ】

鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態①:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、動けるが痛みを伴う)。一応マーダー】
【状態②:これからの行動は後続任せ】

(関連622)

149名無しさん:2007/01/03(水) 20:42:29 ID:BmSXu/UM
いくらなんでもそれじゃ宗一は気づくだろ
もっと距離はなしてほとんどまぐれで当たったことに+太陽を遮って影作って気づかれやすくなるような間抜けな真似はやめさせた方がいい

150中盤戦:2007/01/03(水) 20:50:26 ID:PdnnCCjM
確かに太陽を背負わせる+距離をここまで近づける意味は無いかも、、、

どうやっても何で宗一が〜〜ってのはあるだろうし、
他にも色んな意見ある人いるだろうから、
それらを見た上での修正版を1日後に出してみます

一応ルート指定はしてないからルート指定対立項投稿で分岐回避は可能

154管理人★:2007/01/04(木) 14:10:40 ID:55XbKUUA
申し訳ありませんが、当スレッドでは作品投稿以外はご遠慮ください。
以降、削除対象とさせていただく場合があります。

155中盤戦・作者:2007/01/04(木) 15:28:29 ID:MoOSuYpg
>>147の本編部分を以下のように変更お願いします。状態表は変化無しです


「な……ん……だと……!」
横に振り向いた宗一の視界に。
二人の男の姿が入った。
遠目でその表情までは読み取れない。
しかしそのうちの一人は拳銃を構えており、狙撃してきた張本人がその男である事は疑いようが無い。







「よくもあんな女の子を……!」
緒方英二と相沢祐一は怒りに震えていた。
英二のベレッタM92の銃口からは僅かに煙が上がっている。

――――宗一の集中力は完全に澪との撃ち合いに向けられていた。
英二が必死に少女を救おうとした結果、宗一の数少ない隙を突く事になったのだ。
更に宗一にとって不幸な事に、まだ距離があるにも関わらず、英二の弾は奇跡的に狙い通りの位置へと飛んでいった。
様々な偶然の積み重ねが、この結果を生み出していた。

156夜は更けて:2007/01/04(木) 21:27:21 ID:.mCEsJ4s
先程の春原の大スベりの後、澪とるーこは互いに自己紹介を始めていた。
「『澪なの』」
「るーは、るーこ・きれいなそら。るーこと呼べ、うーみお」
うーみお、という珍妙な呼ばれ方に首をかしげる澪。
「ああ、気にしなくていいよ。これはるーこなりのフレンドリィなスキンシップなんだ。なに、1時間もすりゃ慣れるって」
「まるでるーが奇妙な習慣を持つ部族のように言うな。これはるーに代々伝わる伝統的な…」
「はいはいわかったわかった、薀蓄はもういいよ」
「るーっ、バカにするのか! うーへいと言えども許さんぞ!」
まるで子供の喧嘩のような状況についていけない澪。
「…あ、ごめん。話が反れちゃったねぇ」
「むっ、るーとしたことがつい取り乱してしまった、許せ。うーみお」
ようやく落ちついたところで、三人は再び話を始めた。
「そっか、澪ちゃんはまだ秋子さん以外に誰とも会っていないのか…」
「『ずっと秋子さんと一緒だったの』」
澪はまたスケブを開くと文字を書きこんでいく。
「『折原浩平、深山雪見、川名みさきっていう人と会わなかった?』」
「うーゆきとうーさきのことか?」
るーこの言葉を聞いた瞬間、澪が身を乗り出す。
「『知ってるの!?』」
「お、落ちつきなよ澪ちゃん。会ったには会ったんだけどさ…」
興奮する澪を引き離して春原が離散するまでのことを話す。そして、春原たちが彼女らを探していることも。
話を聞き終えた澪は若干落胆していた。手がかりが掴めたかと思ったのに行方知れずではそれも当然だろう。…もっとも、雪見はすでにこの世からいなくなってしまっているが。そのことは彼らは知る由もない。
「もちろん、うーゆきやうーさきは見捨てはしない。あいつらもまた探すつもりだ」
「そうだ、どうせなら澪ちゃんも付いて来なよ。目的は同じなんだし」
春原の提案に頷きかけて、澪はそれをためらった。
「どうしたのさ? 探しに行きたいんじゃないの? それとも待ち合わせしてるとか」
ううん、と首を振る澪。その動作には心なしかここから離れることに躊躇しているように見えた。
「どうした、相談があるなら言ってみろ。聞いてやるぞ」

157夜は更けて:2007/01/04(木) 21:28:23 ID:.mCEsJ4s
その言葉を聞いて、澪は下を向いて少しの間考えた後、スケブに書きこんでみた。
「『恐いの』」
「恐いって、何がさ?」
春原の疑問に、澪はページをめくって続きを書く。
「『先輩達は探しに行きたいけど…でも、もし銃をもった人達が狙ってきたら』」
春原とるーこは顔を見合わせる。どうやら攻撃されることを恐れているようだ。当然といえば当然の考えなのだが…
「うーみお、だからといってこんなところにじっといても探し人が見つかるわけじゃないぞ」
「『でも…』」
なお渋る澪に対して、るーこは肩をすくめて告げる。
「この島で危険じゃないところなんてあるのか」
そう言われると、澪は何も言えなくなった。そこに追い撃ちをかけるようにるーこは冷たく言い放つ。
「もっとも、そんな心構えではついてこられても困る。イザというときに邪魔だ」
「おい、そこまで言うこともないだろ。誰だって身を危険に晒したくないのは当然なんだから…僕だってそうさ」
るーこの発言を咎める春原だが、るーこは首を振る。
「それはるーも同じだ。だが、中途半端な考えでは逆に身の危険を招くぞ。だったら、ここにいたほうが外に出るよりは安全だ」
そう言うと、るーこは再び澪の方を向く。
「よく聞け、うーみお。うーみおにとって本当に『恐い』こととは何だ? 誰かに襲われることか? それとも主催者の首輪爆弾か? …本当に『恐い』ことは、うーさきやうーゆきを失うことなんじゃないのか」
失う、という言葉にビクッと体を震わせる澪。
「『自分が最善だと思える』ことが何かできるなら、何かをしたほうがいい。それがここに留まることでも、外に出て行くことでも構わない。もし『最善じゃない』ことをした結果自分が後悔するなら…るーはそれが一番『恐い』。だから後悔しないためにるーは行動を続けている」
澪は黙ったまま、微動だにしなかった。そのまま沈黙が続き、たっぷり10分くらいが経過したころ、居間から秋子の声がかかった。
「澪ちゃん、陽平君、るーこちゃん、お夜食が出来ましたから、一度下に下りてきませんか?」
「…一旦食事にするか。うーみお、るー達が出て行くまでに時間はまだある。それまでに自分の行動を決めておけ。行こう、うーへい」

158夜は更けて:2007/01/04(木) 21:28:58 ID:.mCEsJ4s
るーこは立ちあがると、さっさと行ってしまった。春原も立ちあがり、澪に手を差し出す。
「…ま、とりあえずメシにしようぜ。るーこだって、悪気があってああ言ったわけじゃないんだ。でもな、後悔しないように行動する、ってのは僕も同じ意見だ。行動しなかった後悔より、行動した結果の後悔のほうがマシだからね」
澪はうん、と小さく頷くと春原の手をとって立ちあがった。
     *     *     *
気がつけば既に日付も変わり、否が応にも時間が経過していると春原は危機感を抱かざるを得なかった。
本音では今すぐにでもここを出立し、妹や朋也を探しに行きたかったが疲労や空腹もあるし、何よりも自分一人だけの都合で動くわけにもいかない。単独行動も考えないわけではなかった。
秋子も敵意のないるーこに関しては手出しはしないだろう。しかしるーこが自分の単独行動を許してくれるとは思えない。ここまで一緒に行動してきたところ、るーこの性格はおおよそ掴めている。
どこか抜けたようなことを言う事もあるが、基本的には冷静で、自分のように暴走することもない。仲間意識も強く、一度仲間、あるいは味方と判断した人間にはそこそこ親しく接している。
一方でそれ以外の人間に対しては警戒心が強すぎるというところはあるが、それくらいでちょうどいいのだろう、少なくとも、自分にとっては。
(結局、結論は二人で行動したほうが色々とバランスがとれてていいってことなんだけどね)
最も、今まで自分はるーこに守られ通しだったが。
それも分かってはいたので、春原は軽くため息をついた。今のところ、まだ称号としては「ヘタレ」の段階だ。「漢」には程遠い。
居間につくと、そこには夜食がずらりと並べられていた。メニューはおにぎりに味噌汁と至って普通なのだが量が半端じゃない。おにぎりが山のように積まれている。
「ごめんなさいね。ちょっと多く作りすぎてしまったみたいで…」
秋子が困ったような表情で続ける。
「男の子がいますから、たくさん作ろうと思ったのですけど…」
「い、いやあ…そんなことないっすよ。男冥利につきます、はい」
笑う春原だが、とても全部食べきれる自信がない。しかし作ってくれた秋子の手前そう言うしかなかった。
「どうした、青ざめた顔をしているが」
「な、何でもないよっ。それより早く食おうぜ。澪ちゃんも」
るーこと澪を席につかせ、誤魔化す春原。

159夜は更けて:2007/01/04(木) 21:29:47 ID:.mCEsJ4s
「『いただきますなの』」
「いただくぞ、うーあき」
「…いただきます」
澪は悩んだままの表情、るーこはいつも通りの無表情、春原は固まった笑顔のまま三者三様の食事が始まった。
     *     *     *
数十分の(春原にとっては)格闘の後、燃え尽きたように春原は机に突っ伏していた。そう、彼は勝った、おにぎりの山に勝利したのだ。
引き換えに、もう2週間は白米を見たくない、という気持ちを残してはいたが。
「どうした、うーへい。飯を食べた後にすぐ寝ると『もー』になるぞ。というか、寝ている暇もないぞ」
春原を叩き起こそうと必死に揺さぶってみるるーこだが、春原には逆効果だった。
「う゛っ…やめてくれ…デス&リバースする…」
「あらあら…無理せずにおっしゃってくださればよろしかったのに」
せっかく作ってくれた手前、そんなこと言えるわけないでしょうとも反論することすらできず、しわがれた声でるーこに告げる。
「ごめん…朝まで休ませてくれない? マジで動いたら死ぬ。氏ぬじゃなくて死ぬ」
「それは困るな…分かった。朝まで待とう。もう夜も遅いしな。暗闇の中を歩き回るより安全かもしれない」
ありがとう、と春原は呟くとそれきり返事をしなくなった。るーこはそれを確認すると秋子の方へ向き直る。
「というわけで、今晩はここで休ませてもらうぞ。もちろんるーも見張りはしよう。いいか、うーあき?」
「ええ、それは構いませんよ。でしたら…三時まではわたしが見張りをしておきますからそれまで休んでいてください。澪ちゃんも」
澪はこくり、と頷いて、それからるーこの方を見た。
「…考えはまとまったか」
「『まだだけど…少し、お話してもいい?』」
「それは構わない。けど、るーも少しは休みたいから少しだけだぞ」
うん、と頷き澪はるーこを引っ張っていって縁側のある部屋まで連れていった。
    *     *     *

160夜は更けて:2007/01/04(木) 21:30:32 ID:.mCEsJ4s
さて、予定外の出来事で朝まで居座る事になってしまったが…果たして他の皆は無事なのだろうか。
縁側に腰掛けて、るーこはぼんやりと考え事をしながら星空を見ていた。
故郷の星は、一体どこにあるのだろう。普段見慣れているはずの星空が、何故か季節がまったく変わってしまったように移ろっている。むしろ、この空の配置は冬よりだ。
おかしい、とるーこは思う。気温は別段暑くも寒くも無いのに、星は冬を示している。
異常気候か? いや、それ以前に今の季節は冬だったか? ここに来る前のことを思い出そうとするが、いまいちぼんやりとしてよく掴めない。
記憶操作か…とも思う。しかし、それだけの科学力が果たして『うー』にあっただろうか?
いや、主催者そのものが『るー』同様の宇宙人ということも有り得る。…結局のところ、今は推測すら出来ない状況下だ。そんなことより、今は生き残る方が先決だろう。
「…で、お話とは何だ? いいかげんに話し始めたらどうだ、うーみお」
話しがあるといいながら未だに話を始めない澪に対して、るーこはため息をつきながら言った。それを受けて澪がようやく決心したようにスケブのページを開く。
「『あのね』」
「『やっぱり、一緒についていこうと思うの』」
「そうか」
いつも通りの声で応じるるーこ。敵でなければ、いくら人数は増えても支障はない。しかし、るーこが問題にしていたのは別にあった。
「で、本当にそれでいいのか。別に無理してついてくる必要はない。うーさきやうーゆきがここに来る確率だって、皆無ではないぞ。待つというのも選択肢のひとつだ」
再度、るーこは聞き直す。ゲーム開始直後は他人の事などあまり気にかけていなかったが春原を初めとした仲間と行動を続けているうちに次第に人のことを気にかけるようになっていた。
うーへいの人の良さが移ったのだろうな、とるーこは思う。
聞かれた澪は、それでもぶんぶんを首を横に振った。
「『やっぱり、まだちょっと恐いけど』」
澪はまたページをめくり、次のページに書きこんでいく。
「『でも、隠れてるだけじゃきっと会えないと思うから』」
「『恐いのは、大切なひとがいなくなっちゃうことだと思うの』」
優しく、しかし臆病でもある澪がその決断を下すには、どれほどの勇気が必要だっただろうか。けれども、澪は恐怖を乗り越え、勇気を持って一歩を踏み出そうとしていた。
それを知ってか知らずか、るーこは「えらいぞ」と言って澪の頭をぽんぽんと叩いた。気恥ずかしそうに、澪が頭をすぼめる。それから、また文字を書きこんだ。
「『えっと、話はおしまいなの。ありがとう』」
「ああ。…それじゃ、るーは少し休むぞ。うーみおも一緒に寝るか?」

161夜は更けて:2007/01/04(木) 21:31:09 ID:.mCEsJ4s
「『うんっ』」
仲の良い姉妹のように肩を並べながら、二人は床で横になった。
     *     *     *
ようやく、胃の中の消化物が減ってきた頃にはすでに約束の三時に近づいてきていた。
「陽平さん、お体の具合はどうですか?」
秋子が未だぐったりしている春原に向かって声をかける。
「…はい、もうそろそろ大丈夫っす」
横にしていた顔を起こして、体調を確認する。一応、問題はない。
「へこんでますね…」
「はい?」
「いえ、机の跡が…」
ずっと同じ体勢でいたせいか、机の跡がついて頬の部分がへこんだようになっている。そう言えば、かつて朋也にも同じことを言われたような気がする。あの時は確か智代に…って、そんなことを考えてる場合じゃない。
春原はるーこが残していったのであろう、ウージーサブマシンガンを手に取る。重たい、鉄の感触がずっしりと伝わってくる。よく考えれば、銃を持つのは初めてだった。
「るーこちゃんと澪ちゃん、起こしてきましょうか?」
秋子が、恐らくるーこと澪が休憩を取っているであろう部屋を指差す。だが春原はいや結構です、と首を振る。
「女の子ですから朝まで休ませてやりましょうよ。…って、秋子さんも女性でしたっけ、はははっ」
おどけた調子の春原の声に、くすりと笑う秋子。
「そうですね、そうしましょうか。それじゃあ、見張りは二人でしましょう?」
「秋子さんは休まなくていいんすか?」
「徹夜なら、慣れていますから」
おハダに悪いですよ、とジョークを入れようかとも思ったがそんな場合でもない。買って出てくれるというなら、それに甘えるのもいいだろう。何せ、ここは殺し合いの場なのだ。見張りは多いほどいい。
「なら、頼みますよ秋子さん」
春原はウージーほかスタンガンなどを持って、見回りを始めた。夜が明けるのは、もう少し。

【時間:2日目4時30分】
【場所:F−02】

162夜は更けて:2007/01/04(木) 21:32:06 ID:.mCEsJ4s
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
春原陽平
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、スタンガン・支給品一式】
【状態:朝まで見回り】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:支給品一式】
【状態:睡眠中。服の着替え完了】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:睡眠中、浩平やみさきたちを探す】
水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷(治療済み)、睡眠中。起きた後の精神状態は次の書き手次第】

【備考:B-10】

163中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:46:48 ID:GOCYf292
痛む首を抑えながらノロノロと身体を起こした秋子が最初に目にしたもの――それはずっと行動を共にしてきた澪の姿。
倒れている澪の周りには赤い地溜りが広がり、それが何を意味するのかは一瞬で理解できた。
だが彼女の心はそれを拒むように絶叫する。
(……嘘よね、澪ちゃん――)
身体を起こそうとするも足に力が入らず力なく身体が地面へと舞い戻される。
ここまで無理をしすぎて走ったせいか、宗一との戦闘の影響か。腹部の傷口は開き、秋子の服を真っ赤に染め上げていた。
必死に手を伸ばすも届かない澪の身体に涙が零れ落ち、激しい憎悪と共に顔を上げ宗一を見据える。
……だがその怨敵であろう宗一もまた、腹部から血を流し地面にひざまずいていた。
わけもわからず宗一の視線の先に目を向けた秋子が見たものは――


「秋子さんっ!!」
名前を叫びながら駆け寄ってくるのは甥である少年、相沢祐一だった。
近づいてくる顔は不安に曇っていたが、秋子が生きていることに気付き祐一の顔に安堵の光が灯ったのがわかった。
釣られる様に秋子も思わぬ再会に顔を綻ばせた。
名前を呼ぼうと衝動的に口を開くが、腹部の激痛に襲われ、口から出てきたのは血の塊だけだった。
秋子の満身創痍の姿を見ると祐一は苦々しく顔をしかめる。
そして銃口は宗一から離さず、観鈴を背負った祐一を全身で庇いながら祐一と宗一の直線上に歩を進め、英二は言葉を発した。
膝をつく宗一の顔をじっと睨みつけ、握られたFN Five-SeveNへの警戒は怠らない。
「あんな小さな子まで撃つなんて……」
宗一から視線は全く離さずに言い放った英二の胸中には芽衣が殺された時の悲しみが渦巻いていた。
けして死ななければいけない理由なんて無かったはずなのに……それでも芽衣は守ることすら出来ずに死んでしまった。
理奈や由綺にしたってそうだ。
悲しみが怒りへと変わっていくのを英二は感じていた。
彼の理性ははじけ飛びそうなほどに、目の前の宗一にたいして憎悪が湧き上がる。
衝動に飲み込まれそうになるのを必死に抑えながら
「その銃を捨ててくれ。そうしなければこのまま……撃つ」
一呼吸の後、努めて冷静に英二は宗一に告げていた。

164中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:47:37 ID:GOCYf292


英二の言葉に宗一は必死に頭を回転させる。
自身の怪我の状況から現れた二人の行動言動まで全てをひっくるめて。
どう考えてもこれでは一方的に自分に非があるようにしか捉えられて無いだろう。
確かに自衛のためとは言え人を殺したのには変わりは無い。
それを一から説明する余裕もない。
腹部から流れる鮮血が、押さえている左手を真っ赤に染めていた。
(やるしか……ないのか?)
怪我は酷いが動けないほどではない。
無意識のうちに宗一は右手のFN Five-SeveNへと意識を集中させていた――


「――もうやめてくれっ!!」

直線状に並び立ち合う四人の耳に届いたのはそんな絶叫だった。
均衡を崩すように響いたその言葉に振り返ると、胸から血を流し倒れた澪の死体を抱える敬介の姿――
両の眼からは臆面も無く涙が零れ落ち、小柄な身体を抱きしめていた。

誰よりも信じられないと言った表情を浮かべ、秋子はその光景に息を呑んでいた。
敵と信じて疑わなかった者の行動とは思えないほどの悲痛な表情。
この状況でこんな演技をする必要はあるのだろうか?
自分と言う最大の障害を排除するならば澪のダイナマイトを投げれば全て一瞬でカタがつく。
それなのに何故――

165中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:48:04 ID:GOCYf292


「また……僕は何も出来なかった。助けられなかった」
無力感に押しつぶされそうになりながら、敬介は小さな呟きを漏らし続けていた。

……そしてそれは何も言えないまま宗一たちが敬介から視線を逸らすようにそれぞれの顔を見合わせた直後の出来事だった。

「――っ!」
突如背中に走った衝撃に呼吸が止まり、澪を抱きしめる手から力が抜け敬介の身体が崩れ落ちる。
背後には無表情のままで敬介の背中に拳を当てたマルチが立っていたのだった。
気配も感じさせず現れたマルチに驚愕しながらも宗一は身体をマルチのほうへと翻す。
「くそっ! 環君はっ!?」
思わぬ人物(正確にはロボットだが)の乱入に、英二の頭には例えようの無い不安がよぎりながらも銃口をマルチへと向ける。
だがマルチは敬介の身体を支えるように自身の盾にすると
目の前に散らばるダイナマイトとH&K VP70を手に取り口元を緩ませ歪んだ笑みを浮かべていた。

「これでなんとか雄二様に面目が立ちそうです」
マルチはポツリと呟くと、一瞬の迷いも見せず行動に移る。
誰もが状況を整理する間もなく、手にしたダイナマイトが二本、放物線を描くようにマルチの手から放たれていた。
一本は宗一と英二の真正面に、そしてもう一本は秋子と祐一の頭上に――

166中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:48:31 ID:GOCYf292

【時間:2日目・午前8時10分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数13/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(怪我の程度は後続任せ)】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:意識はあるが背中に激痛悶絶、マルチに捕まっている、観鈴にはまだ気付いていない】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療はしたが再び傷が開いた)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、怒り】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、怒り】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】
マルチ
【所持品:H&K VP70(残弾数1)、ダイナマイトの束(3本消費)、支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。敬介を盾にしている】

【備考:澪の持ち物は死体の周辺に(包丁、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
(関連:624「中盤戦」の続き)

167義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:38:26 ID:4DX8RKNg
時折草が擦れ合う音のみがする穏やかな空間。
月島拓也の祈りが通じたのか長森瑞佳の容態は小康を保っていた。
「ふぁ……僕自身死にそうだ、眠くてたまらん」
早朝から瑞佳を抱えて歩き通しだっただけに、疲労は相当の物である。
横なって目を閉じると、眠りが訪れるのに時間はかからなかった。

どのくらい時間が経ったのか、目元を拭われる感触があった。
眠っているうちに泣いていたのか、瑞佳に涙を拭われていた。
「瑠璃子さんの名をずっと呼んでましたよ。よほど妹思いのお兄さんなんですね」
「ああ、瑠璃子は僕にとって人生の総てだったんだ。それなのに、瑠璃子、僕の瑠璃子、瑠璃子よぉ……」
瑞佳は日常なら少し引くような愛情表現を、肉親を喪った悲しみによるものと素直に受け止めていた。

一頻り独演を終えると、拓也は水筒を呷りそのまま固まる。
もうあと一口ほどしか残っていなかった。
水のことはおくびにも出さないようにしていたが、瑞佳に心の内を見透かされてしまう。
「わたしのことはもう結構です。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」
瑞佳は最後の一口を丁重に辞退した。
「村へ行けばなんとかなる。もう少しの辛抱だ」
「いえ、月島さんが一刻も早く目的を果たされるためにも、ここで別れましょう」

心の中でもう一人の拓也──黒拓也が囁く。
(せっかく彼女から別れようって言ってるんだ。お荷物なんだから素直に受けようじゃないか)
この辺で縁を切るいい機会かもしれなかった。

168義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:40:06 ID:4DX8RKNg
しかしなぜか去り辛い、否、去る気にはなれなかった。
情が移ってしまったのだろうかと考えてみる。
(そんなことはない。今まで毒電波でもって悪徳非道なことをやって来たではないか)
瑠璃子と比較するとどうしても総ての面で瑞佳が見劣りしてしまうのだが。
(……もう! なんでコイツのことがこんなにも気になるんだぁっ」
雑念を払うかのように瞑目して思いを凝らす。
汗と涙と泥に塗れた瑞佳はスッピンなら更にその美貌を増すだろう。
否、そんなことよりも好感が持てるのは、彼女の性格が醸し出す独特の雰囲気である。
何もしなくても、ただ傍に居るだけで癒されるという不思議な魅力。
だからこそ、瑞佳を拾ってからは穏やかな気分でいられるに違いない。

(僕は彼女に瑠璃子の代わりを求めようとしているのだろうか?)
妹に度の過ぎた溺愛をしただけに、心にぽっかりと空いた穴は大きかった。
冷静に考えてみる。瑠璃子の代わりなんて、あまりにも虫が良すぎるではないか。
──それでも瑞佳なら支えになってくれそうな気がした。彼女ならきっと。

(電波を応用できれば一時的に救えるかもしれない。あくまでも電波が使えればの話だが……)
精神の操作はほんの僅かでも、身体の弱った瑞佳には十分効果がありそうな気がした。
問題なのは電波は人の精神を操るものであり、怪我や病気を治す類のものではないことである。
しかも今の瑞佳の精神を本気で操作して失敗しようものなら、死んでしまうのは間違いなかった。

熟考の末、拓也は延命の策があることを告知した。
低い成功率や衰弱の具合から一度限りしかできない旨を聞くうちに、瑞佳の表情は翳りを帯びる。
「本来なら治療を受けて安静にしてなきゃいけないが、力尽きるのは時間の問題だ。やってみるか?」
「……わかりました。お願いします」
瑞佳は深々と頭を下げた。

169義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:44:23 ID:4DX8RKNg
少しリラックスさせた方がいいかもしれない……。
瑞佳の頭に手を伸ばすと髪留めのリボンをほどく。
型崩れして、もはやハーフポニーの縛めをなしていなかった髪がはらりと落ちる。
「リボンは手首に巻きつけておこうな。願い事が適うという話を聞いたことがあるから」
ほどいたリボンを瑞佳の手首にほどよい締め付けで結ぶ。
訝しむ瑞佳を目で制し、八徳ナイフからフォークを引き出すと彼女の長い髪を梳かす。
「気休めにしかならないがオシャレをしてやろう」
丁寧に何度も何度も梳かしていると、瑞佳の目から涙が零れ落ちた。
「ありがとうございます。こんなにも大切にしていただいて……」

十数分後、場は沈鬱な空気に包まれていた。
電波を思うように使えないこともあり、衰弱した瑞佳に浸透するのは想定通り困難だった。
「ごめん……上手くいかなかった」
「そんなことないですよ。幾分身体が楽になりました」
確かに顔色は良くなっていた。
ただし、これは悪魔でもカンフル剤を打ったに等しい一時的なもの。
出来るだけ早く治療を受けさせる必要があった。
鎌石村へ辿り着くのは命懸けだが、着いても治療を受けられそうには思えなかった。
それでも僅かの希望を持って行かなければならない。ここに居てもジリ貧である。
二人はすぐさま出立した。
瑞佳を背負い歩きながら、拓也の脳裏にある考えが浮かんでいた。
心の内に秘めていた方が良いのかもしれないが、彼女を景気付けるかもしれないと思い、口にする。
「真面目な話があるんだ。笑わずに聞いてくれるかい?」
「なんでしょう」
「こうして出会ったのも何かの縁。より絆を固めるべく、義理の妹になってくれないか?」
「えぇっ! 義理の妹、ですか? 瑠璃子さんの代わりなんて、できませんよ」
思いもよらぬことに瑞佳は目を丸くする。
「瑠璃子亡き今、僕がまともで居られるのは君のお陰なんだ。もう電波を使わなくて済みそうなんだ」
「まともって……今まで悪いことをしてきたんですか? その、電波っていったい何ですか?」
瑞佳から見て、身を預ける眉目秀麗なその少年が犯罪に手を染めるようには思えなかった。


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