したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

455March and winter:2007/02/16(金) 21:18:25 ID:p43BYa3k
確かにそうだ。冬弥の言う事は…理に適っている。
「俺には…もう由綺以外の望みなんてありませんから、褒美なんていりません。だから、仇だけは取るつもりです」
だが…もし、万が一にでも、『それ』が本当だとしたら? もし、森川由綺がこの世界に戻ってこれるとしたら?
冷静な、普段の篠塚弥生がその考えを必死で否定しようとする。だが――こんなにも多くの参加者、来栖川財閥、倉田家の礼嬢までもこの殺し合いに参加させている彼らなら…そんな事も可能なんじゃないか?
弥生の額に、冷たい汗が流れ落ちる。
恐らく――藤井冬弥が弥生のような考えに至らなかった理由は、単純に由綺の仇を討つということに固執しているのでそこまで考えていない、ということかもしれない。あるいは違うかもしれない。
だが、もし弥生の考えている通りだとしたら。
由綺の仇をとった後、彼はどうするだろうか。もしかしたら――自殺を図る可能性すらある。
ここで、彼女に新たな疑問が生じる。
仮に生きかえらせることが出来たとして、果たして『何人』生きかえらせることが出来るのだろうか?
一人か、あるいは何人でも、か? その辺りの事を尋ねてみようかとも思った弥生だが、すぐにその考えを打ち消す。
冬弥が知っているはずがないと思い至ったからだ。主催者のことだ、生きかえらせることができる、とだけ言ったに違いない。それに、下手に聞けば――冬弥に、敵だという疑念を抱かせることにもなりかねない。
代わりに、弥生はもう一度尋ねてみた。
「藤井さん…藤井さんは、このゲームに乗っているわけではない、ということですよね」
為された質問に首をかしげながらも、冬弥は言う。
「ええ…まあ、一応は。敵ならば容赦なく撃ちますが、こっちに害を及ぼさないのなら」
そうですか、と弥生は答える。そして、それが引き金となった。
「なら、私は協定を破ります」
何のことだ、と冬弥が問おうとしたときには、弥生が冬弥の肩から、P-90を奪い取っていた。
「藤井さん。朗報を教えてくださって感謝します。これで…私はまた、戦う理由ができました」
冬弥の顔面に、P-90を押しつける。唖然としていた冬弥だが、すぐに大声を上げて反論した。
「まさか…あの与太話を信じてしまったんですか!? あんなもの、大嘘に決まっているでしょう!」
「万が一、ということもあります」
「そんな理由で!」
冬弥が大声を上げるのを遮るかのように、さらに強く銃口を押しつける。ぐっ…と声を詰まらせる。
「信じがたい話ではあります。ですが…信じなかったところで、由綺さんは帰ってきません。なら、それが悪魔の所業だとしても私はそれに賭けようと思います。私には…由綺さんしか、由綺さんしか、いません。私の人生は…由綺さんそのものなんです」
冬弥がまた反論しようと口を開けたが、いたずらに刺激するだけだと考えたのか、堅く口を結ぶ。
「藤井さんは私とは違います。私よりは、よほど強い人間。だから…まず手始めに」
言い終わる前に弥生の次の行動を察知した冬弥が、思いきり体を捻った。
銃弾が、何発か冬弥の脇をすり抜けていく。
間髪いれず冬弥が、部屋を脱出して廊下へと駆ける。逃がすまいと思った弥生だが、大ぶりなP-90ではすぐに第二射を放てない。
連射を諦め、弥生も冬弥の背中を追った。

456March and winter:2007/02/16(金) 21:19:09 ID:p43BYa3k
【時間:2日目7:00】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】

篠塚弥生
【持ち物:支給品一式、P-90(46/50)】
【状態:ゲームに乗る。冬弥の殺害を狙う。脇腹の辺りに傷(痛むが行動に概ね支障なし)】

藤井冬弥
【場所:C−6・観音堂(移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:逃走、マーダーキラー化】

457March and winter:2007/02/16(金) 21:21:02 ID:p43BYa3k
すいません、訂正お願いします
藤井冬弥
【場所:C−6・観音堂(移動済み)】
【所持品:支給品一式】
【状態:逃走、マーダーキラー化】



【場所:C−6・観音堂(移動済み)】

を削っておいてください

458March and winter:2007/02/16(金) 23:24:25 ID:p43BYa3k
すんません、さらに追加…

B-10です、本スレ950の人、指摘サンクス

459Mother:2007/02/18(日) 06:11:38 ID:swIjNkyk
朝の激闘から、時を経る事六時間以上。
ようやく意識を取り戻した水瀬秋子は、すぐさま診療所を発つべく玄関に向かった。
そこで那須宗一とリサ=ヴィクセンに遭遇し、二人に見送られる形となった。
幾分かマシにはなっているが――秋子の顔色は優れているとは言い難い。それも当然だ、もう何度も無理をしているのだから。
秋子は、体の不調を気力だけで埋めようとしている。そんな彼女を気遣い、リサが声を掛ける。
「一応の処置は済ませたけど……あまり無茶するとまた傷口が開きかねないわ。それでも行くつもりなの?」
「愚問です。私にはもう名雪しかいませんから……こんな所でぐずぐずとしている訳には行きません」
取り付く島も無いとは、この事だろう。秋子は考え込む仕草すら見せずに、断言した。
「……OK。私はこれ以上力になれないけど、健闘を祈るわ」
「ありがとうございます。それから――宗一さん」
秋子はそう言って、視線を宗一の方へと移した。秋子と宗一は、一度完全な敵同士として戦闘している。
その事が原因か、宗一は険しい表情をしていた。
「何だ?」
「謝っても許されるとは思いませんが……本当にすみませんでした。私の軽率な行動で……こんな結果に……!」
秋子は何も守る事が出来なかった。澪も祐一も、死なせてしまい、みすみす自分だけ生き残ってしまった。
俯きながら、彼女は微かに肩を震わせた。宗一の位置からその表情を窺う事は出来なかったが、おおよそ推測は出来る。
宗一は諦めたように目を閉じ、そして言った。
「……過ぎた事を悔やんでも仕方無いさ。それより、これからどうするべきかを考えた方が良いぞ。
それに――俺はあんたみたいな美人には甘いんだ」
宗一はそう言うと、表情を緩め、微笑んで見せた。まるで、気にするなと言わんばかりに。
秋子は一瞬きょとんとした顔になったが、やがて頬に手を当て、笑顔を形作ろうと努力した。
強引に作られた表情は秋子本来のものとは程遠かったが、それでもそれは笑顔と呼べるものだった。
「重ね重ね、ありがとうございます。それでは失礼します――あなた方も、どうかご無事で」
「ああ、あんたもな」
宗一とリサに向けて、最後に一礼する。そうして秋子は、診療所を飛び出した。
今度こそ、罪の無い子供達を守る為に。己の命に代えてでも、最愛の娘を守る為に。

460Mother:2007/02/18(日) 06:12:38 ID:swIjNkyk



「あの人、大丈夫かしら……」
リサは不安げに呟いた。秋子の怪我の深さは、治療をした自分が一番知っている。
「正直不安は残るが、これ以上俺達がしてやれる事は無い。後は本人次第、ってトコだろうな」
「……そうね」
次々と大事な人間を失った秋子を、穏便に引き留めるのは不可能だ。無理に休ませようとすれば、また争いになりかねない。
それだけは絶対に、避けなければならなかった。自分達が倒すべき相手は主催者であって、他の参加者達ではないのだ。
「ところで宗一。さっきあなたが言った事についてなんだけど……」
秋子を見送る為に、宗一との話し合いは途中で中断してしまっていた。その時の話題を思い出し、リサが尋ねる。
「優勝者への褒美、についてか?」
「ええ。どうしてあなたは、あれが本当だと思ったの?」
どんな願いでも叶えられる――その事に関して、宗一とリサはまるで正反対の意見を持っている。
リサは主催者の話をまるで信じていなかった。ただの扇動に過ぎぬと、そう考えていた。
ならば、褒美の話を肯定する宗一の考えに疑問を持つのも当然の事だった。
「このゲームには、裏の世界や表の世界で名を馳せる人間達が、多数参加させられている。
それだけの面子を、僅か1日で強制的に集めれる者――それはもはや、人と呼んで良い存在じゃない。
そんな化け物ならば、願いを叶えるという事も不可能では無い筈だ」
「……それは否定しないわ。だけど『叶えられる』という事と、『叶える』という事は、イコールでは繋がらない」
「そうだな。主催者が約束を破る可能性だって、勿論ある。だが俺は……褒美を与えるというのは嘘じゃないと思う」
言われて、リサはとても意外そうな顔をした。
「Why?」
「そもそも、こんなゲームに何の意味がある?俺には、主催者の酔狂で行なわれているとしか思えない。
そう、奴はきっと遊んでいるだけなんだ――なら、最後に約束を破って興を削ぐような真似はしないだろう。
俺の経験則から言って、こんな事を考え付くような連中は、自らが作ったルールだけはきちんと守るもんさ」
もっとも自分にとって害になるような願いは受け入れないだろうけどな、と宗一は付け加えた。
「でも……優勝した人間の反撃を恐れて、首輪を爆発させる可能性も考えられるわ」
「それは無い。主催者にとって俺達はただの駒、復讐なんて警戒していないさ」

461Mother:2007/02/18(日) 06:15:18 ID:swIjNkyk

――その通りだった。主催者は、少なくともこれまでは参加者を完全に手玉に取っている。
参加者を警戒しているのならば、とっくの昔に首輪を爆発させているだろう。
思い通りに弄ばれてしまっている現状を再認識し、リサは爪をガリッ、と噛んだ。
「逆に考えれば主催者のその余裕こそが、俺達が付け入れる唯一の隙なんだ。連中が油断してる以上、突破口はある。
そして、正しく状況を判断する為には……主催者を倒す為には、もっと情報が必要だ」
「――そうね。まずは診療所にいる他の人達だけとでも、情報交換しましょうか」
現状では情報が圧倒的に不足している。これ以上憶測だけで話を続けるよりも、情報を集めるべきだ。
二人は席を立ち――そして、何かの音が近付いてくるのを聞き取った。
「これは……車か?」
「そのようね。私が様子を見てくるわ」
外敵の警戒は、五体満足な自分の役目。リサはすぐに銃を手に取り、玄関の外へと向かった。



【時間:2日目16:05】
【場所:I-7】

リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:健康、診療所を守る】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数12/20)】
【状態:左肩重傷・右太股重傷・腹部重傷(全て治療済み)、まずは情報を集める】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(再治療済み)、何としてでも名雪を探し出して保護】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、ベアークロー、携帯電話(GPSレーダー・MP3再生機能・時限爆弾機能(爆破機能1時間後に爆発)付きとそのリモコン】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】

藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は十分、車は診療所方向に向かってます

(→601)
(→557)
→663
→687
→699

462Distrust:2007/02/18(日) 19:43:37 ID:GmBnvYnc
――すれ違い。
運命の悪戯というものだろうか。確かにすぐ近くに来ていたのに。声を掛けられる距離に居たのに。
渚が目を醒ました時にはもう、朋也の姿は何処にも無かった。
事の顛末を説明された渚が、それを確かめるように秋生に声を掛ける。
「それじゃ朋也君は……」
「ああ。役場に行く、つって出て行っちまった」
「そんな……!」
それは余りにも無謀な行動。包丁1本で、朋也は過酷な戦いの場へ身を投じようとしているのだ。
容易に想像出来る凄惨な結末に、見る見るうちに渚の顔が青褪めていく。
娘の悲痛な表情を目の当たりにして、秋生は思わず顔を逸らしてしまう。
お互い何も言えなくなり、暫しの間沈黙が場を支配する。やがて渚が意を決し、声を発した。
「お父さん、お願いがあります」
「……何だ?」
「わたし、朋也君を助けに行きたいです」
「――!」
言われて、秋生は眉を顰めた。渚は縋るような瞳でこちらを見ている。
これは本来、予測しておくべき事態。渚に朋也の事を話したのは、秋生の完全な判断ミスだった。
秋生の愛娘である古河渚は元来、自分自身よりも他の者を大事にしてしまう心優しい娘だ。
そんな彼女が他ならぬ朋也の窮地を、放っておく筈が無かったのだ。
しかし――秋生は静かに首を振った。
「駄目だ。悪いがその頼みは聞けねえ」
「なっ……どうしてですか!?」
「どうしてもこうしてもねえよ。小僧が、なんで一人で行ったのか分からねえのか?
俺達を……いや――お前を危ない目に遭わせたくねえからだろ」
秋生は朋也が一人で向かったのは、負傷してしまっている渚を気遣っての事だと思っていた。
にも関わらず、ともすれば阿鼻叫喚の危険地帯となりかねない場所に向かっては、朋也の想いを無駄にしてしまう。
いくら渚の頼みとは言え、そう簡単に頷く訳にはいかなかった。

463Distrust:2007/02/18(日) 19:44:47 ID:GmBnvYnc

「でもっ……!」
「何度言われても、こればっかりは譲れ――」
「みちるも岡崎朋也を助けに行きたい!」
なおも食い下がろうとする渚を、断固とした態度で撥ね付けようとした所で、突然叫び声が聞こえた。
見ると、朋也が連れて来た少女――みちるが、何時の間にか目を覚ましていた。
「岡崎朋也はね、とっても苦しんでるんだよ……。友達を守れなかったって、きっと今も心の中では泣き続けてる……」
「――え?」
みちるは、彼女らしくないとても悲しそうな顔で、まだ秋生達が知らぬ悲劇について語り始めた。







「あのガキは折原の知り合いか?……にしても、どうやらタダじゃ済みそうにねえ雰囲気だな」
黒髪の青年と、その青年に銃を突き付けている青い髪の男。視界にその二人を認めた途端、浩平は走って行ってしまった。
高槻達が近くまで来た時には既に、浩平は殺気立った様子で銃を構えており、これから起こりうる事態は充分に予想出来る。
「面倒くせーが、ちょっくら行ってくる。お前らはここで待っとけ」
「また……あたし達は待ってるだけなのね」
レミィが殺された時と同様に待機を命じられ、若干不満気味な郁乃。だが高槻は、まるで取り合わない。
「うっせーな。今はどう見てもやべえ事になってるんだ、文句なら後にしてくれ」
ぶっきらぼうにそう言うと、郁乃と七海を置いたまま、高槻はポテトだけを連れて浩平の傍まで歩いていった。
「おい、折原。これはどうなってやがんだ?」
浩平の横に並んで問い掛ける。無論コルトガバメントはいつでも構えられるよう、もう手に持っている。
「……そっちの腹を押さえてる奴は、俺の知り合いの七瀬彰だ。あっちの銃を構えてる男の方は、知らない」
高槻は改めて、二人の青年を見比べた。
浩平の知り合いである七瀬彰という青年の方は、腹部から血を流していた。
逆に浩平の知り合いでは無い男、岡崎朋也の方は、こちらに注意を払いながらも銃口は彰に向けたままだ。
「――そうか。つまりあの青い髪のガキの方が、ゲームに乗っているんだな」
状況を飲み込んだ高槻は、眉を吊り上げて、コルトガバメントの銃口を朋也へと向けた。

464Distrust:2007/02/18(日) 19:46:20 ID:GmBnvYnc


マーダーを排除しようとしているだけなのに、度重なる妨害を受けている。朋也は当然、現状を良しとしない。
自分に掛かった疑惑を否定するべく、そして彰の正体を伝えるべく、言葉を洩らす。
「お前ら何か勘違いしてねえか?俺はゲームに乗ってなんかいないし、この男は凶悪な殺人者だぞ?」
「違う、そんなの言い掛かりだっ!」
「――テメェ。また性懲りも無く、嘘を吐く気かよ!」
事情を教えようした朋也だったが、またも彰の厚顔無恥な出任せによって邪魔されてしまう。
この場において、自分は決定的な証拠を持ってはいない。その点に関しては彰も同じだ。
だが、二人には決定的な差があった。
「おい彰、こいつの言ってる事は――」
「嘘だ。信じてくれ折原、僕はゲームになんて乗ってない!」
この場で唯一の知り合いの浩平に対し、必死の演技で訴えかける彰。
それを援護するかのように、高槻も自分なりの推論を述べる。
「俺様も、七瀬って奴の言ってる事が正しいと思うぞ。大体その青い髪の野郎がゲームに乗ってないなら、その手に持ってる銃は何だってんだ?」
「そうだな。それに俺は彰と一緒に行動してた事があるけど、襲われたりはしなかった」
「…………っ」
朋也にとって、絶望的な会話が続く。
朋也は彰を殺害しようとしている所を見られてしまっているし、潔白を証明してくれる知り合いもこの場にはいない。
二人から銃を向けられている今、自身の銃を手放す訳にも行かない。
護身の為に絶対必要な銃だったが、その存在が誤解に一層拍車をかけてしまっていた。

465Distrust:2007/02/18(日) 19:47:46 ID:GmBnvYnc

【時間:二日目・13:40】
【場所:B−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】



【時間:二日目・14:10】
【場所:C−3】
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(2/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:マーダーへの激しい憎悪、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害】
湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
七瀬彰
 【所持品:薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:彰の救出、朋也に強い疑い、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:朋也に強い疑い、岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意、郁乃の車椅子を押しながら浩平の下へ】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:高槻に追従、光一個】

→672
→706

466とんだ再会:2007/02/19(月) 02:25:01 ID:lyyld6YM
「くっそ、えらい目にあったよ・・・・・・」

思い出すだけで肌が粟立つ、思わず自らを抱きしめるように柊勝平は身を縮めた。
それでも足を動かすことは止めない、万が一あの男が目覚めた場合先ほどの悲劇が舞い戻ってくるとしたらたまったものではない。
今、彼は校舎二階の廊下を歩いていた。
辺りは静かで、聞こえてくるのは勝平が踏みしめる木造の床が軋む音のみ。

(あいつ等、まだ下にいるのかな)

反対側を探索しているはずの、相沢祐一と神尾観鈴のことを思い浮かべる。
そんな余裕が出てきたからこそ、彼等と過ごした時間も一緒に脳裏を掠めてきた。
たった数時間、一緒に食事をしたりちょっとした会話をしたこと。
そして見張を押し付けられ、観鈴にあの質問をされ。

『勝平さんは、誰か守りたい人とかっている?』

それは、随分昔のことのような気がした。
あの時彼女に問われた際、勝平はそれに答えることができなかった。
今ではどうか。

(・・・・・・そっか。僕、杏さん殺しちゃったんだよね。椋さんにどんな顔して会えばいいんだか)

しかし、これは勝平にとっては予定調和な出来事である。
祐一と、そして藤林杏に復讐することを目的として彼はここまでやってきたのだから。
そして目的の一方は達成され、あとは祐一を排除すれば彼の復讐は幕を閉じる。
では、この復讐が終わった後。どうするのか。

「・・・・・・」

467とんだ再会:2007/02/19(月) 02:25:27 ID:lyyld6YM
そのビジョンを、勝平は全く持っていなかった。
思い描けない未来の変わりに、その隙間を最期まで自分を非難してこなかった少女の姿が埋めていく。
自分の受けた屈辱を味あわせたかったのに。
あの悔しさを、身をもって教えたかったのに。
それなのに。

呪詛の一つでも吐いて欲しかった、それを聞いて優越感に浸りたかった。
それなのに。

「ああもう!くそっ!!」

もやもやとした憤りに苛立ちを覚え、思考を中断させる。
・・・・・・考えても仕方のないことであった。とにかくそれら全ての問いに対し、今の勝平が出せる答えはないのだから。

(先のことよりもそうだよ、まずは目の前の問題を終わらせよう。その後、考えればいいんだから・・・・・・)

一応は、それで無理矢理自身を納得させるしかなかった。
そうでないと、手にした電動釘打ち機の引き金が引けなくなる時がきてしまう。
そんな不安が確実に生まれてしまったことに対する戸惑いを、勝平は隠せなかった。




それから少ししてのことだった。
今まで聞こえなかった物音、そう。複数の足音が、勝平の耳に入る。
音は、正面から聞こえてきた。

「は、離してな、一体どこまで行くのかな・・・・・・」

思わず構えた電動釘打ち機を握る手から、力が抜ける。
その聞き覚えのある口調、声。

468とんだ再会:2007/02/19(月) 02:25:52 ID:lyyld6YM
「お前、何でここに・・・・・・」
「か、勝平さんっ?!」

現れたのは、小柄な少女と彼女に手を引かれて歩く観鈴であった。

「か、勝平さん助けてぇ」
「はぁ?」

思わず、見合う。
距離的にも近くなったことから、双方とも既に足を止めていた。
観鈴は懸命に少女の拘束を解こうとしていたが、掴まれた腕はびくともしないらしく結局は現状を維持するしかないようで。

「お前、相沢はどうした。一緒じゃないのか?」

まず気になったことはそれだった、共に行動していた彼の不在に勝平は疑問を持つ。
見知らぬ少女のことも気にかからない訳ではないが、祐一は勝平にとって復讐をすべき相手である。
優先すべき確認は、まずそれだった。

「がお・・・・・・祐一さんは・・・・・・」
「おとこはころす」
「は?」

俯き加減に観鈴が悲しそうな声をあげる、しかしそれを遮るように重なった音がある。
見知らぬ少女の声だった。
ただ一言、彼女は呟くように声を出す。

「おとこはころす」

繰り返す。勝平の疑問符を、打ち消すべく。
少女はこちらに目を合わせず、下を向いたまま微動だにもしなかった。
そんな少女の様子を見て、勝平は今になってやっと彼女の異様さに気づくのだった。

469とんだ再会:2007/02/19(月) 02:26:17 ID:lyyld6YM
・・・・・・改めて見ると、彼女の佇まいは悲惨であった。
見る者が見ればすぐ分かる暴行の跡、ぼさぼさの髪に張り付く粘液の正体に吐き気が沸く。

そんな少女は、左手で観鈴の利き腕をしっかりと掴んでいた。先ほど抵抗していたが結局観鈴が振りほどけなかったその手は、蒼白だった。
しかし、何故かもう片方の手は鮮やかな赤に染まっていて。
その手に握りこまれたカッターナイフにも滴っている。そして服の袖口まで染み込まれているように思えるそれの正体は、彼女の台詞で憶測がついた。

「成る程、お前が殺したのか」
「・・・・・・」

少女は答えない。しかし、次の瞬間観鈴が声を張り上げた。

「し、死んでない!祐一さんは死んでないっ」
「どういうことだ?」
「死んでないもん・・・・・・ゆ、祐一さん、お腹刺されてたけど死んでなかったっ」
「・・・・・・」

やはり、少女は答えなかった。その代わりと言っては何だが、観鈴の嗚咽が場に響く。

「死んで・・・・・・ないもん、死んで・・・うぇ・・・えぇ・・・」

二人の様子を見守るが、結局どちらが真実かは勝平には分からなかった。
ただ、自らの手をくださずに事が済んだかもしれないという一つの事実に対し。
勝平には、何の感情も沸きあがってこなかった。
自分で止めを刺せず悔しかった、とか。ざまーみろ、とか。
そのような思い描けるであろう可能性を、今の勝平は。全て、否定していた。
そして、自身も戸惑っていた。

胸の中に広がる空洞の指す意味、再び思い描くのは杏の最期の姿。
恨み言も何も吐かず、ただ勝平の言葉を否定し続けた彼女は―――――――――。

470とんだ再会:2007/02/19(月) 02:26:38 ID:lyyld6YM
「違う!間違ってない、間違ってない!!」

これ以上、先を考えてはいけない。目を瞑り、勝平は思考を中断させる。
理解しようとしてはいけない、前に進めなくなってしまう。

(でも、相沢が死んだっていうなら・・・・・・僕は一体、これからどこに進むっていうんだ?)

浮かんだ疑問に対し、汗が止まらなくなる。
耳を塞ぐ。頭を振るが、それでも杏の姿は決して消えない。

「どうして、どうしてだよっ!!」

何故か涙腺まで緩んでくるが、ここで感情に流されることだけは嫌だった。
懸命に自身と戦い続ける勝平は、もう周りのことなど一切気にかけていなかった。見向きもしなかった。
だから、彼女の接近にも気づかなかった。

「おとこはころす」

うっすらと目を開けると、あの少女が目の前にいた。
隣には、今だ腕を掴まれたままの観鈴。まだ泣き続けているのか、しきりに瞼を擦っている。

「おとこはころす」

少女は、もう一度呟いた。その手にはカッターナイフが握られていた。
・・・・・・ああ、ここで終わるのも悪くない。ふと、そのような考えが頭を過ぎる。
勝平の手には電動釘打ち機があった、なので反撃などいくらでもできた。
しかし今の彼に、その気力は全くなかった。

何だか全てが面倒になっていた。自暴自棄と言えばいいのか。
もう、どうだって良かった。だから、勝平は事態に身を任せるつもりだった。
が。

471とんだ再会:2007/02/19(月) 02:27:45 ID:lyyld6YM
「おんなはつれていく」

次の瞬間響いたのは、木製の床の上を何かが跳ねる旋律だった。
視線をやると、少女の手から離れたカッターが転がっていく姿が目に入る。
では、空いた彼女の右手はどこにいったのか。
考えると同時に、力強い感触が勝平の左腕に伝わった。
視線を動かすと、赤く染まった少女の手が見える。
それは、確かに勝平の腕を掴んでいた。

「おんなはつれていく」

そして、彼女は繰り返す。勝平の疑問符は、さらに倍増するばかり。
ぐいっと手を引かれる、どうやら少女は観鈴と共に勝平を連行しようとしてるらしい。

「ちょ、待て!おい、お前まさか・・・・・・」

嫌な予感がした。

472とんだ再会:2007/02/19(月) 02:28:19 ID:lyyld6YM
柊勝平
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:由依に連れて行かれそうになっている】

神尾観鈴
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:すすり泣き、由依に連れて行かれている】

名倉由依
【時間:2日目午前2時15分過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階】
【所持品:ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)+祐一の上着】
【状態:少し勘違い気味、岸田に服従、全身切り傷と陵辱のあとがある】

由依の支給品(カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、荷物一式、破けた由依の制服)は職員室に放置
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

カッターナイフはそこら辺に落ちています

(関連・662・700)(B−4ルート)

473.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:39:26 ID:uUkMQoNg
                    ______
                   |MISSION LOG|
                     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
激闘の末、ようやく岸田を追い払う事に成功した高槻達。
しかし岸田との戦闘でこちらも沢渡真琴(五十二番)を失い、さらに
新入隊員の折原浩平(十六番)も身体中に怪我を負い、ほしのゆめみ(支給品)
も腕が動かないという事態に陥った。
そんな折、新たに現れた女、藤林杏(九十番)と、
あわや戦闘になりかけたが誤解だと分かり、行動を共にすることになった。
現在、彼らは鎌石村への街道を歩いている…
_________________________________
                    ______
                   |  E X I T  |
                     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

474.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:40:18 ID:uUkMQoNg
…とまあ、いつも拝啓おふくろ様(以下略 では芸がないので今回はハードボイルドっぽくあらすじを書いてみたぞ。どうだ、中々カッコイイだろ?
いつの間にやら仲間がどんどん増えて当初の目的など場外ホムーランしてしまった俺様だが、まだまだ美女をゲッツするってのは諦めちゃいない。
こうなったらヤケだ。いっそのこと折原以外が全員女なのをいいことにハーレムを作ってやろうという結論に達した。(ちなみに折原は召使いだ)
そう言えば、これは最近(ゆめみにこっそり聞いた。勉強家だろ?)知ったことなのだが、ハードボイルドというのは「固ゆで卵」の意から転じて冷徹、非情の意を表すらしい。
なるほど、俺様にピッタリだ…と思えなくなってきたのは何でだろうな…

「そう言えばさ、ここ一連のゴタゴタで言い忘れてたことがあるんだけど…」
俺様の悲嘆をよそに、藤林に車椅子を押してもらっている郁乃が(俺様は前衛。ポイントマンというそうだ)七海のデイパックを指して言った。
で、そのデイパックの持ち主の七㍉さんは折原の背中ですやすやと寝て…あいや、気絶していらっしゃる。ゆめみが片腕を使えないし、俺様は前述の通り前衛でコイツしかいないから仕方がないんだが…
べ、別にめんどくさいとか疲れるからだとか、そんな理由だからじゃないんだからねっ、勘違いしないでよっ!
郁乃風に言い訳してみたが、気持ち悪くて仕方ない。やはり男には似合わないな。
「七海のデイパックにフラッシュメモリがあるでしょ? あれをゆめみに調べてもらっていたんだけど、役に立ちそうなファイルがいくつかあったのよ」
ほう。それは朗報だ。いくつかということはファイルは複数あるということだ。情報が圧倒的に足りない俺様にとってはたとえ主催側からの情報であってもありがたい。
これを足がかりに奴らに噛みついてやる。窮鼠猫を噛む。
「バカ、これは追い詰められた時に使う言葉じゃない」
「…おい、俺様の崇高な心の声を読むんじゃない」
俺様の的を射た言葉をバカという2文字で完全否定する小牧郁乃嬢に反論…って、待て。
「郁乃、お前って人の心が読めたのかっ!?」
「…本当にバカね。自分で声に出してたじゃない」
『バカ』の追撃。言葉の矢が突き刺さる。

475.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:40:55 ID:uUkMQoNg
「…ね、折原。コイツがあんたらを窮地から助けたって、ホント?」
「オレも信じたくない」
後方にて藤林と折原の援護射撃。もずくに浸かってパズルを食べて、俺様の心はボロボロだ。
ダディアナザーン! オンドゥルウラギッタンディスカー!!
「あ、あの…小牧さん、お話を続けた方が…高槻さんがかわいそうです」
ゆめみが非情な助け舟を出してくれる。ちくしょう、俺様がアホの子みたいじゃないか。ハードボイルドなのはこいつらだと思うんだが、どうよ?
それもそうね、と郁乃が言ってゆめみに例のメモリを取り出してもらう。それから「もう一度お願いできる?」と続けた。もう一度? 何をするのやら。
わかりました、とゆめみは心なしかこちらを気にするようなそぶりを見せてから後ろを向く。カチャカチャという機械音が聞こえて、次にゆめみが振り向いた時にはフラッシュメモリがイヤーレシーバーの横にあるUSBポートに接続されていた。
「へぇ…最近のロボットっていうのはよく出来てるのね」
藤林が感嘆の声を上げる。ありがとうございます、とゆめみが照れ臭そうに応じた。パソコンみたいなロボットだよな…なんだったっけか、どっかにそんな感じの漫画があったな…
「ゆめみ、出してくれる?」
郁乃が一声かけると、同じくイヤーレシーバーから光が出て、目の前にホログラフを作った。
スクリーンなしで映るのかと思ったが実に綺麗に画面が映っていた。最新式のコンパニオンロボは伊達ではないらしい。
俺様を含めた全員が画面に見入る。テキストファイルやら、何かの実行プログラムやらがいくつか並べられている。
「私とゆめみが見たのが、これ」
『今ロワイアル支給武器情報』という文字を郁乃が指した。郁乃の説明によれば、文字通りこのファイルには全参加者の支給武器の詳しいデータが載っているという。
俺様や藤林、折原も確認してみたが郁乃が気になったもの以外はめぼしいものはなかった。
「オッサンの支給品はやっぱポテトだったんだな…」
オッサン言うな折原。で、その話題の支給品はと言うとウリ坊(ボタン)と仲良く遊んでいた。
この野郎、一人だけ幸せそうに…
「春原…芽衣…妹さんが…預かってくれてたんだ、ボタン」
俺様がポテトへのやつあたりを計画していたところ、藤林がらしくない、涙ぐんだ声で漏らす。意外と人情家なのかもしれない。
「知り合い、だったのか?」
春原芽衣という名前はすでに放送で呼ばれている。
俺様が訊いたところ、藤林は首を横に振った。
「直接会ったことはないんだけど…よく陽平…春原陽平ってあたしの悪友がよく言ってたのよ。『僕の妹はよく出来てんだぞ』って」

476.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:41:34 ID:uUkMQoNg
数奇な運命だな…と柄にもなく感慨に耽ってしまう。そういや、俺様と郁乃&七海も…いや、気にしないでおこう。
「みんなもういい? それじゃ、次に行くわよ?」
いつのまにやら仕切り役になっている郁乃がファイルを閉じるように指示する。コイツ、学校では委員長だったに違いない。
「後残っているのは…ええと、『エージェントの心得』と、『HMXシリーズ用プログラムインストーラ』ですね。どうしますか?」
「何でエージェントなんかについてのファイルがあるんだ?」
折原が不思議そうな声を上げる。ふふん、ここで俺様の知識の見せ所だ。FARGOで培ったアングラサイト知識を見せてやろう。
「知らんなら教えてやる。エージェントってのはだな、まあ要するにスパイだ。任務中は常に命の危険に晒されてる。従って一流のエージェントってやつはサバイバル知識も豊富なわけよ。で、これにはその秘伝が書かれてるってことだ」
久々に鼻高々。見ろ、あの郁乃や藤林でさえも感心した目つきじゃないか。やはり俺様は頭脳派だ。これからはポアロ・高槻と名乗ることにしよう。
「…ってことはここにはサバイバル知識や戦闘術が書かれてるのね。参考にはなりそうだけど…今見る必要はないんじゃないかしら。こっちは大人数。敵も迂闊には手を出してこないはずよ」
「そうね…安全そうなところについてから改めてみた方がいいわね。じゃあこれは後回しってことで」
…が、やはり話の主導権は郁乃と藤林の女連中に握られていた。見ろ折原。亭主関白という言葉はもはや死語になりつつあるのだよ。
「オッサン、なんでそんな目でオレを見る」
理解してもらえなかった。これだから優男というやつは…そうか、きっとこいつはMなんだな。そうに違いない。
「…だから何だよオッサン、その哀れむような目は」
オッサンオッサン言ってるのには目をつむっておこう。
一方話の主導権を握っている女連中はホログラフを見ながらきゃあきゃあ言っている。弱者の意見など聞いてもらえそうにない。
「このインストーラってええっと…来栖川エレクトロニクスのメイドロボシリーズにしか使えないんでしょ? ゆめみはどうなんだっけ?」
郁乃の質問に、ゆめみは頭も動かさず答える。

477.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:42:11 ID:uUkMQoNg
「はい、わたしはコンパニオンロボということになっていますが…基本のOSはHMX系統のものを用いておりますので恐らく、ではありますけど使用できるのではないかと思います。ただ…わたしは試験体ですので最新型のHMXのアップデートに対応しているかは…判断できません」
なるほど、要は最新型のメイドロボをWindows vistaだとすればさしずめゆめみはMeってところだな。
「ってことはインストーラも使えるのね。それじゃ…んふふ、ゆめみさんを改ぞ…じゃなくて、機能拡大してみましょうか?」
藤林がマッドサイエンティストばりの笑みを浮かべる。のんびり屋のゆめみも流石に藤林のただならぬ雰囲気を感じ取ったらしく、カメラアイをあっちこっちに動かしている。
さらばゆめみ。俺様はお前の事を、永遠に記憶の片隅にとどめておくであろう。シャボン玉のように華麗ではかなきロボットよ。
俺様と折原は黙って背を向けた。…まあ実はゆめみの歩行能力にはいささかの不満もあったので機能が良くなることについて異存はない。折原もそれは分かっているようだった。
「ポチッとな」という声が聞こえて(実際起動するのはゆめみだが)、インストールが始まった。
「郁乃ー、どんくらい時間はかかる?」
「んー? ホログラフを見ると…あ、2、3分で終わるって」
何だ、意外と早いじゃないか。これなら退屈せずに済みそうだ。
「ん…うーん…」
などと思っていると、折原の背中から呻き声が。子泣き爺ではない。
「おっ、立田が起きたみたいだ」
折原が起きそうなのを悟って地面にゆっくりと下ろす。ほどなくして七海が目を覚ました。
「あ…あれ、ここはどこ…ですか?」
きょろきょろと周りを見まわしている。そりゃそうか、目覚めたら外の世界だもんな。
「七海、今はわけあって鎌石村まで移動中だ。それから、ゆめみが今…」
俺様がゆめみのことを口にしようとした時。
「更新が完了致しました、通常モードへ復帰します」
やたらと事務的な声が聞こえて、ゆめみのほうも終わったようだった。
「ゆめみさんが、どーしたんですか?」
純粋な疑問の瞳で聞いてくる七海。俺様は冗談半分で、言った。
「パワーアップして帰ってきた」

478.yumemi//機能拡大:2007/02/19(月) 16:43:00 ID:uUkMQoNg
【時間:2日目・07:30】
【場所:D−8】

ポアロ・高槻
【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:外回りで鎌石村へ。岸田と主催者を直々にブッ潰す】

小牧郁乃
【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】

立田七海
【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
【状態:目覚めた。支障などはない】

ほしのゆめみ
【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ。左腕が動かない。色々パワーアップ】

折原浩平
【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
【状態:全身打撲、打ち身など多数(どちらもそこそこマシに)。両手に怪我(治療済み)。外回りで鎌石村へ】

藤林杏
【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:外回りで鎌石村へ】

ボタン
【状態:ポテトと遊んでいる】
→B-10

479凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:57:04 ID:XmV31TEA
「あたし達、これを調べようと思って」

そう言う広瀬真希の指差す先には、彼女の首にはめられた首輪があった。

「もし脱出するにしても、一番のネックはこれだろうし。何とか解決策を見つけられたらと思って」
「成る程、確かに問題ではあるな」

霧島聖も改めて自分の首輪に触れて、その命があくまで主催者側に握られているという事実を思い知る。
俯く少女達、その中で一ノ瀬ことみだけは飄々としていた。

「あんたは呑気でいいわねぇ・・・・・・」
「?」
「はぁ、あたしも楽観的になりたいものだわ」
「むしろ、あなた達が何でそんなに頭を抱えているか分からないの」
「ちょっと、話聞いてなかったの?!」
「くー・・・・・・」
「美凪も?!」
「ことみちゃんはちゃんと聞いてたの、その上で言ってるの」

いつの間にか用意していた湯のみに口づけ、さも当たり前のことという風にことみは言ってのけた。

「そんなの簡単なの」
「はぁ?」
「チョチョイのチョイなの」
「あんた、自分で何言ってんのか分かってんの?」
「証拠を見せてあげてもいいの」
「・・・・・・からかってんなら、マジで怒るわよ」
「ふぅ、短気は損気なの」

480凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:57:33 ID:XmV31TEA
怒りを通り越し呆れたかにも見える、そんな真希の視線にもことみはケロッとしていた。
それがますます沸点の低い彼女の感情を刺激しているのだが、当の本人は気づかない。
囲んでいるちゃぶ台をいつひっくり返してもおかしくないだろう、そんな真希を止めたのは彼女の隣にて押し黙っていた遠野美凪であった。

「真希さん、しー」
「はぁ?」

徐に鞄の中からこの島を取り出し、ひっくり返す美凪。
手にしたシャープペンシルで、さらさらと走り書きをする。

『盗聴の可能性あり』

今度は彼女が首輪を指差しながら、周りを見渡した。

「あ・・・・・・」

真希も北川潤と話し合ったことを思い出したのだろう、はっとしたように口を閉じる。

「それは、本当なのか?」

驚いたように声を上げたのは聖だった。そのようなことを考えたことがなかったらしい彼女は、口元に手をあて考えるように身を乗り出す。

「よく気がついたの、褒めてあげるの」
「あんたはあんたで一体何様なのよ?!」
「・・・・・・いじめる?」
「いや、いじめやしないけどさ」
「あっそ」
「おま、本気でシメたろか?!!」
「真希さん、しー」

481凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:57:59 ID:XmV31TEA
一方、ことみはというと相変わらずの調子であった。

「でも、ちょこっと見直したの」
「何よ・・・・・・」
「ちゃーんと分からなきゃいけないことは見抜いてるの、これなら一緒にいても一安心なの」

そう言って自らも筆記用具を手にし、ことみは美凪の走り書きの下にちょこちょこと文字を書き始める。

『私たちは脱出をしようと思ってるの』
『そのためにも、キーとなるのは以下の4つなの』

『①現在地の把握』
『②脱出路の確保』
『③主催側の人間の目的』
『④首輪の解除』

『①については、灯台にてこれから確認を取るの』
『それがまず分からない限り、②を考えるのも難しいのでこっちは後回しなの』
『④については、心配しないで欲しいの。何とかできるの』

「ちょっと待って、だから何でそんな簡単に済ませようとするのよ!」

引き続き文字列を増やそうとしていくことみに対し、真希がつっこみを入れる。

「・・・・・・?」
「これが一番厄介なのよ、下手したら死んじゃうのよ?!」
「・・・・・・」

言葉で答えず、ことみは再び視線を下げ書き込みを行った。

482凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:58:35 ID:XmV31TEA
『さっき言った通りなの、数分前のことを蒸し返されても困るの』
『これぐらいならちょっとした工具があれば解体できるの』

書き終わったと同時に、ブイッと元気よく右手を上げることみ。
眉を潜めた真希は、またもや胡散臭そうに彼女を見やる。

「本当なの」
「あのねぇ、ふざけてたらマジでブン殴るわよ?」
「信じて欲しいの」
「・・・・・・」
「やってやれないことはないの」
「ここにきて不安を煽る発言やめてよ?!」

しかしそう言うことみの表情は相変わらずではあったが、確かにその言葉に真剣さは含まれていた。ようにも感じる。

『ただ、今は外すべき状況ではないと思うの』
『主催側の人間が、私がそういうことできるってこと。知らないとは思えないの』

「と、言うと・・・・・・」

『あっちの出方が分からない限り、変に目をつめられたくないの。
 この首輪には仕込んでいないと思うけど盗撮されている可能性もなくないの、死んだ人間がカメラに映ったらおかしいの』

483凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:59:07 ID:XmV31TEA
「成る程。だがことみ君、一体どうやってそれは調べるつもりなんだ?」
「・・・・・・」
「ことみ君?」
「考えてないの」
「ブン殴る!!」
「真希さん、しー」
「んー、何かしら外と通じることができるモノが手に入れば・・・・・・」
「例えばどんなものだ」
「パソコンとか、携帯電話とか。何でもいいの」
「こんな辺鄙な場所では、パソコンは期待できないな」
「え、携帯電話ならあたし持ってるけど」

俯くことみと聖に向かい真希が差し出したのは、彼女の私物である携帯電話。
ぱっと聖が目を輝かせたが、通話はできないと聞くとその表情はすぐ落胆のものになる。
ことみは何か考えているようだった、その間にと真希は彼女の書き込んでいた用紙に自らも筆記用具を用意し書き込みをはじめる。
そして、チョイチョイと指を差す。

『これはあくまであたし達の推測だけど、この島には妨害電波があると思うの』
『赤外線での番号の交換はできたんだ、でも通話はできない。だからそうじゃないかって』

『よく分かんないけど、あたしはこれを最初っから持ち込めたの。あっちが回収し忘れたみたい。
 で、もう一人、持ち込んでる参加者もいる。さっきそいつから電話がかかってきたんだけど、そいつは支給品として配られた携帯電話を使ってきたらしいの』

「それは、本当?」
「勿論よ」
「ふざけてたらマジでブン殴るの」
「真似すんじゃないわよ!」

そんなやり取りをしながら、ことみもボールペンを走らせていた。
会話が終わったと同時に、先の真希と同じようにチョイチョイと指を差す。

484凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 00:59:41 ID:XmV31TEA
『ジャミングの線は多分合ってると思うの。
 それを破ることができる支給品ということなら、改造すれば外と繋がる電話にすることも可能かもしれないの』

「ちょ、ちょっと、本当に?!」

コクン。静かに頷くことみ、集まる視線は驚愕そのもの。
すくっと立ち上がり周りを見渡してから、ことみは宣言する。

「決まりなの。当面の目的は学校を通って灯台へ行くの、あとはその携帯電話を手に入れればこっちのもんなの」
「そうね、また北川から電話かかってくるかもしれないし・・・・・・その時に合流できるよう伝えるわ!」
「頑張るの」
「頑張りましょう!」

がっちりと握手を交わしながら見つめあうことみと真希の間に、何やら熱い空気が流れる。

「ぱちぱちぱち・・・・・・」

そんな二人の新しい門出を祝うかのように、美凪も拍手を贈る。

「してないの、口で言ってるだけなの」
「っていうか別に頑張るのあたし達だけじゃないわよ、あんたもやるんだからね!」

はしゃぐ三人娘、一歩下がり聖は楽観的な彼女達を見つめていた。
幸先は決して悪くない、真希達の情報とことみの能力が交差したことにより自分達は誰よりも脱出を可能にすることができる参加者になったであろう。

(ただ、こんなに簡単に進んでいいものなのだろうか・・・・・・)

聖は一人、今後の展望に対する不安を拭えずにいるのだった。

485凹□地味+つき添いの先生2:2007/02/22(木) 01:00:56 ID:XmV31TEA
【時間:二日目午前5時過ぎ】
【場所:B−5・日本家屋(周りは砂利だらけ)】

一ノ瀬ことみ
【持ち物:毒針、吹き矢、高圧電流などを兼ね備えた暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、お米券×1】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

広瀬真希
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

遠野美凪
【持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式(様々な書き込みのある地図入り)、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:健康。まず学校へ移動・北川を探す】

(関連・673)(B−4ルート)

486LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:05:44 ID:19DpzjK.

じゃり、と嫌な音がした。
窓枠を超えて侵入してきた男の靴底が、割れ落ちた硝子の破片を踏みしだく音だった。

「ひ……ああ……」

七瀬彰は、声にならない悲鳴を上げ、ベッドの上で身をよじった。
その眼は恐怖に潤んでいる。

「ケケ……いいな、その顔……」

男が、爬虫類じみたその顔を笑みの形に歪ませ、彰ににじり寄る。
頬を紅潮させて震える彰の手を、男は強引に掴むと一気に引き寄せた。

「あっ……!」

なす術もなく、たくましい男の胸板に飛び込むかたちになる彰。
高熱に蝕まれ、頭がうまく働かない。
男は彰のおとがいに手をかけると、軽く上向かせた。
蛇のような眼に見据えられ、彰は身動きが取れなくなる。

「んっ……」

頬に、気味の悪い感触。
べろりと、男の舌が彰の頬を舐め上げていた。
舌は、蛞蝓のように彰の顔を這い回る。
紅潮した頬から涙の溜まった目尻、震える瞼を経て、鼻筋へ。

「や……だ……、んんっ……!?」

ぽろぽろと涙を流しながら呟いた口唇を、奪われた。
慌てて口を閉じようとするが、男の手が彰の頬を強く押さえ、それを許さない。
強引に開かれた彰の口腔を、男のヤニ臭い舌が侵蝕する。
歯茎の裏を舌先で擦られ、そのおぞましさに彰はただ涙を零した。
ねっとりとした男の長い舌が、彰のそれを絡め取る。
粘膜同士が触れあう感触に、彰の鼓動が早くなる。

「ん……ふ……」

鼻から漏れる吐息が、次第に荒くなっていく。

487LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:06:10 ID:19DpzjK.
(こんなの、やだ……)

と、男の舌が彰の口腔から抜ける。
はぁっ、と深く息を吸い込む彰。
だが次の瞬間、彰の視界は九十度回転していた。

「え……?」

ぎし、とスプリングが鳴る。
ベッドに押し倒されたのだ、と理解するよりも早く、彰の着ていた服がまくりあげられた。

「や……っ!」

慌てて押さえようとした、その手を逆に掴まれた。
赤く指の跡が残るほどの強い力に抗えず、彰は男のなすがままに身体をまさぐられる。
薄く浮いたあばらを、骨に沿ってなぞるように、男の舌が這い回った。

「この肌……白くて、すべすべしてらぁ……。ケッケ、たまんねぇな……!」

無精ひげが彰の腹を擦る。
臍の中までも、男の舌に蹂躙された。

「いや……だぁ……」

頬を紅潮させ、かぶりを振る彰。
その恥辱に歪む表情に嗜虐心をそそられたか、男の無骨な手が、彰の服を乱暴に胸の上まで捲る。

「……ん? お前……」
「……っ!」

薄いココア色の乳首をまじまじと眺めて、男が神妙な顔をする。
その表情に、彰の中に最後まで残っていた意地が、弾けた。

「そ……そうだよっ……! 僕は……僕は、男だっ!」

白を基調とした室内に、静けさが下りる。

「……」
「……」

嫌な沈黙だと、彰は思った。
ねっとりとした重苦しい空気が、手足を絡め取っているように感じられた。
しばらくの間を置いて、ゆっくりと、男が口を開いた。

「……安心しろ」
「え……?」

ひどく優しげな笑みを、男が浮かべたように、彰には見えた。
ぬるりと濁った眼が、ヤニで黄色く染まった歯が、笑みの形のまま、彰に近づいてくる。

「―――俺は男の方にも慣れてるからな。ケッケッケ」

絶望が、かたちを成して彰の前にあった。

488LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:06:33 ID:19DpzjK.
「んんっ……! ぁ……!」

再び、唇を奪われた。
男の空いた手が、彰の腹をまさぐる。
指先で一番下の肋骨をなぞるようにしながら、手を彰の背に回していく。

「ひ……あぁ……」

くちゅくちゅと音を立てて唾液を混ぜ合わせられながら、男の手の動きに翻弄される彰。
つう、と背筋を引っ掻くように辿る、男の爪の感触に、彰は身を捩ろうとする。

「あ……ら、や……」

唇を甘噛みされた。
眼を白黒させる彰の隙を縫うように、男の手が彰のベルトにかかる。
そのまま片手だけで、実に素早く、ベルトが抜かれた。
ズボンの隙間から、男の手が侵入する。

「や……やぁぁぁっ……!」

高熱のせいでいつもより熱を持っている逸物を、男の指が探る。
柔らかいままのそれが、男の爪にかり、と引っかかれた。ぴくりと震える。

「ん……くぅ……」

男はそのまま、広げた掌で撫でさするように、彰の逸物を嬲る。
ねっとりとした愛撫に、彰のそれが、徐々に滾っていく。

「ひ……うぁっ……!」

尿道を親指で擦られた。
逸物が、一気に肥大化する。
男の手を押し退ける勢いで膨らんだそれが、突然冷たい空気に晒された。

「ん……く、ぁ……?」

ズボンが、下着ごと下ろされていた。
ぶるん、と勢いよく反り返る彰の逸物が、男に掴まれる。

「何だ、お前……顔に似合わず立派なモン、持ってんじゃねえか……?」
「や……だぁ……」

涙を流しながら、ふるふると首を振る彰。
恥らう彰をニヤニヤと眺めていた男だったが、何を思ったか突然にその手を離した。
彰の耳元に口を寄せ、獣じみた息を吹きかけながら、囁く。

「ま、いいさ……今日は、こっちは使わねえからな」

489LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:06:55 ID:19DpzjK.
こっちは、使わない。
その言葉が意味するところの理解を、彰の思考は拒絶した。
悲鳴だけが、彰の口から迸っていた。

「いやだ……いやっ……いやあああああっっっ!!」

心の底から、殺してくれ、と願った。
懐かしい日常も、心安い仲間達も、あんなにも恋焦がれたはずの澤倉美咲の笑顔でさえ、
その瞬間の彰は、思い出すことができなかった。
ただ、目の前の絶望から逃れたいと、それだけを思った。

そして同時に、それはひどく不思議なことだったが、彰の心に浮かんだ、もう一つの願いがあった。
殺してくれという願いと同じだけの重さで、生きたいと、七瀬彰は思った。
誰のためでもなく、ただ、生きたいと願った。

殺してくれ。生きたい。
絶望から逃れたい。生きたい。
助けて。生きたい。なんでもする。生きたい。
助けて。なんでもする。生きたい。生きたい。助けて。助けて。助けて―――

「―――助けて、僕を、僕を助けて、誰か……っ!」

願いが、言葉となって迸った。

瞬間。
光が、射した。

「―――」

響き渡ったはずの轟音は、彰の耳には聞こえなかった。
ただ、光の中に佇むひとつの影を、彰は凝視していた。

壁を木っ端微塵に破壊して、その男は立っていた。
風が、吹き抜けた。

「―――失せろ、下種」

その声すら、天上からの響きのように、彰には感じられていた。

490LoVE & SPANNER,and LOVE(前編):2007/02/22(木) 04:07:16 ID:19DpzjK.
【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校保健室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱】

御堂
 【所持品:拳銃】
 【状態:異常なし】

U−SUKE
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:ラブ&スパナ開放】

→665 707 ルートD-2

491おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:46:18 ID:WkK.7gNg
まずい、実にまずい。
雛山理緒は自らが招いてしまった(と勘違いしている)状況にどうするどうすると思考回路をフル稼動させて打開策を考えていた。
(どどど、どないしよ、これは所謂橘さんのピンチというやつでないでっか、いや、芸人になってる場合とちゃうねん、つーかこの言葉遣いをまずやめんかいっ!)
「…なんや、挙動不審なやっちゃなー」
理緒本人は頭だけを働かしているつもりだったのだがそこかしこで腕や足がひっきりなしに動いている。そのあまりの挙動不審っぷりに晴子は苦笑するしかなかった。
この分かりやすさ。それが、どこか観鈴と似ていた。姿かたちは全然似てないが。
敬介が彼女と行動を共にしている理由が何となく分かったような気がした。
「…もうええわ。バラすんだけは勘弁したる。さっさと武器や食料置いてどこへでも行きぃ」
「…見逃してくれるのか?」
「でなかったら何や? ええんやで、死にたいなら撃っても」
不敵に、晴子が笑った。敬介は手を上げると、「分かった、もう何も言わずに去るよ」と言って理緒に荷物を捨てるよう指示する。
理緒はびくびくしながらもさっさと荷物を下ろして、敬介の後ろへ引き下がった。
「よーし、そのまま後ろへ下がるんや…ヘンな真似するんやないで」
VP70で牽制しつつ敬介と理緒を後ろへ下がらせる。
さて、どんな武器を持っているのやら。いつでも荷物を取り出せるようにだろう、半分開いているデイパックをちらりと覗いてみる。
「何やこれ」
思わず、呆れた声を出してしまった。鋏、アヒル隊長、トンカチ…とても役に立ちそうなものとは思えない。
「敬介。アンタ、ピクニックかなんかに来てるんか?」
「せめてクジ運が悪かった、って言ってもらえないか」
元々敬介はヒキの悪い男だと思っていた晴子だが…これは、流石に。
「なんか、無駄弾を撃ってしもうて損した気分やわ…はは」
敬介のために激昂して一発撃ってしまったことが今更ながら悔まれた。肩を落としかけていた晴子だが、ふとデイパックに未開封のものがあることに気付く。
「そういや、荷物がみっつあるんやな。誰のや、これは」
晴子の疑問に、今度は理緒が答える。
「それは…その、一人の女の子の…遺品なんです」

492おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:46:44 ID:WkK.7gNg
「誰や」
晴子の声が、険しくなる。放送で呼ばれてないだけで、それが観鈴のものである可能性も否めなかった。その剣幕にたじろぎながらもはっきりと理緒は言った。
「名前は…分からないんですけど、茶髪で短い髪の女の子でした」
「そうか…ならええわ」
観鈴のものではないことに安心し、中身を確認する。晴子としては、この先拳銃一丁では心許ない。できればもう一丁は拳銃が欲しいと思っていた――のだが。
「なんや、ハズレか」
かつての椎名繭の支給品はノートパソコン。相応の技術を持つ人間ならこれ以上ない支給品だが生憎そんな知識など持ち合わせていない晴子にとっては重たいだけの文字通り『お荷物』であった。
「あんたら、ホンマにヒキが悪いねんな」
「「余計なお世話だ!(です!)」」
ハモりながら反論する二人に、今度こそ晴子は本当の笑みを漏らす。何でかは知らない。とにかく、さっきまでまとめて殺そうとしていたとは思えないくらい、無性におかしかった。
「…何がおかしいんだ、晴子」
「知るかい。ウチにも分からん。…ま、こんなん持っててもしゃーないわ。そのノートパソコンだけは嬢ちゃんが持って行きぃ。遺品なんやろ?」
「…いいんですか?」
理緒はおろか、敬介でさえも予想しえなかった言葉に目をぱちくりさせながら、理緒は答える。
晴子は「重たいだけや、こんなん」と言うとデイパックに封をして理緒に投げ渡した。その重さによろめきながらも、しっかりとそれを受け取る。
「ありがとうございます…」
「礼なんていらんわ、ウチの得にならんと思うただけや」
憎まれ口を叩きながらも晴子の言葉には棘がなかった。しかし、すぐにそれを修正するかのようにドスの利いた声で「もう交渉は終わりや、早よ消えんかい」と言った。
敬介としても丸腰は危険だと思い、早急にその場を去ろうとして、その時、視界の隅にとある二人組を見つけた。うち一方は――銃を構えている! 狙いは…晴子!
「晴子っ、後ろだ!」
敬介の大声に反応して、すぐさま晴子が地面を蹴って、転がる。刹那、晴子のいた場所を『何か』が通りぬけて行く感触がした。
「チッ…ホンマにヒキが悪い…」
反撃しようと銃を構えた、その時。
「た、た…橘さぁんっ!」
今にも泣き出しそうな、少女の声。振り向くと――そこには、胸から血を流して息も絶え絶えな敬介の姿があった。
何があったんだ、と一瞬混乱しかけた晴子だがすぐにその原因が分かった。

493おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:47:07 ID:WkK.7gNg
「あのアホ…流れ弾なんかに当たりよってからに!」
自分で警告しといて自分で当たれば世話ない。間抜けだ、と晴子は思ったが一方で怒りも感じていた。どうしようもないアホだが…対立していたが…それ以前に、橘敬介は晴子の『友人』であった。
「誰や! 卑怯くさいマネしおって! 出てこんかい!」
大声で叫ぶと、ようやくその『犯人』が姿を現した。天沢郁未と、来栖川綾香。
一方は知らない人間だったがもう一方は見覚えがある。こんなところで借りを返せようとは。晴子はにやり、と口元を歪める。
これほどまで…ほれほどにまで、こんなに気分が高陽していたことはない。妙に感覚が研ぎ澄まされている。ハダで微妙な空気の動きまでも分かるほどに。
(敬介。ウチはこのゲームを止める気はあらへん。観鈴が生き残るには殺して回るしかあらへんのや。…だけどな、アンタのカタキくらいはとったるわ!)
VP70を気高く、猛々しく、綾香に向けて敵意たっぷりに言ってやる。
「ほぅ…いつか邪魔をしたクソジャリかいな。なんや、今は人殺し街道邁進中か?」
「あら…いつかのオバサンじゃない。久しぶりね、今のは仲間?」
「アホ。昔の知り合いっちゅうだけや。それにウチはオバハンやない、まだ十分に『おねーさん』言える年齢や」
「気にするってことはそれくらいの年なんじゃないの、オバサン」
ピク、と晴子の血管が引き攣る。さっきの台詞は綾香のものではなく、郁未のものだったからだ。
「じゃかあしいわ! 見ず知らずのアンタに言われたかないねん、いてまえクソジャリ!」
言葉は激しいものだったが、行動は冷静だった。無闇に銃を撃つことはせず、敬介から奪い取ったトンカチを、思いきり投擲したのだ。二人固まっていた綾香と郁未が驚き、やむなく森側へ散開した。
晴子の考えは一つ。
敬介を撃ち殺したアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

494おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:47:27 ID:WkK.7gNg
【時間:1日目午後11時30分】
【場所:G−3】

神尾晴子
【所持品:H&K VP70(残弾、残り15)、支給品一式】
【状態:綾香に攻撃、激しい怒り】
雛山理緒
【持ち物:繭の支給品一式(中身はノートパソコン)】
【状態:敬介の側に】
橘敬介
【持ち物:なし】
【状況:胸を撃たれ致命傷(息はまだある)】
来栖川綾香(037)
【所持品:S&W M1076 残弾数(2/6)予備弾丸28・防弾チョッキ・トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・支給品一式】
【状態:興奮気味。腕を軽症(治療済み)。麻亜子と、それに関連する人物の殺害。ゲームに乗っている】
天沢郁未
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、ヤル気を取り戻す】

【その他:鋏、アヒル隊長(13時間半後に爆発)、支給品一式は晴子の近くに。(敬介の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置)。トンカチは森の中へ飛んで行きました】

→B-10

495おろかなるものへ:2007/02/22(木) 13:51:10 ID:WkK.7gNg
すみません、以下の部分に訂正させてください

>>493
>敬介を撃ち殺したアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

>敬介を撃ったアホを始末し、銃を奪い取る。それだけだった。

によろしくお願いします

496LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:28:29 ID:IZffcNZk
「―――失せろ、下種」

鎌石小学校の外壁を、まるで障子紙を破るように破壊してのけた男の名を、芳野祐介という。

「ゲェェーック! 何だ、貴様……ッ!?」

咄嗟に振り向いた御堂が、しかしその瞬間、凍りついたように動きを止めた。

「ゲ……ゲェェ……ック」

七瀬彰を嬲る間も肌身離さずに持っていた拳銃を抜き放とうとする手が、震えていた。
瞬く間に、御堂の全身に嫌な汗が噴き出す。

「ほう……少しはやるようだな。互いの力の差くらいは理解できるか」
「き……貴様、何者だ……!?」

だらだらと汗を流しなら、御堂が声を絞り出す。
芳野が、鋭い眼差しで御堂を射抜きながら口を開く。

「―――雑魚に名乗る名は持ち合わせていない。……そいつから離れろ」
「グ……ち、畜生……」

絞り出すような声で呻く御堂。
ぎり、と奥歯を噛み締める。

「聞こえなかったのか? ……もう一度言う。そいつから、離れろ」
「こいつ……こいつ、は……俺の……!」

御堂が言い終わる前に、芳野の手が動いていた。
風通しの良くなった室内に、軽い音が響く。

497LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:29:00 ID:IZffcNZk
「が……っ! なん、だと……!?」

驚愕に慄く御堂を、芳野はただ静かに見つめている。
はらり、と何かが宙を舞っていた。

「き、貴様……、俺の……軍服を……!」

震える声で唸る御堂は、いまや一糸纏わぬ姿であった。
舞い散っていたのは、御堂の着込んでいた軍服の切れ端である。
御堂の戦慄も無理からぬことであった。
芳野がしたことは、ただ差し出した手の先で、指を鳴らしてみせたという、それだけのことだった。
ただそれだけの動作で、御堂の軍服は千々に切り裂かれ、ズボンに挿していた拳銃は輪切りにされ、
そして、御堂自身にはかすり傷一つついてはいなかったのである。
達人の使うという剣圧の類と見当はつけてみても、御堂は動けない。
否、何気ない仕草でそれをやってのける技量が推し量れるからこそ、御堂は身じろぎ一つできないでいた。
それだけ、彼の眼前に立つ男の力量は圧倒的であった。

「―――勘違いするなよ、下種」

全裸の御堂を見据えたまま、芳野が淡々と言う。

「お前を殺さないのは、そいつに血を見せたくないからだ」

そいつ、と口にした一瞬、芳野が御堂の背後、彰へと目をやる。
その視線にどす黒い殺意を掻き立てられながら、御堂は芳野を睨み返した。
敵う相手ではなかった。一矢を報いることすらできぬと、わかっていた。

「ゲ……ゲ……ゲェェェーック!」

ベッドの上で中腰になった御堂が、じりじりと、円を描くように動く。
芳野との距離を詰められぬまま、壁に空いた大穴へと近づいていった。
最後にちらりと彰を見ると、御堂が言う。

「ケッケッケ、覚えてろよ……俺はいつでも、お前の傍にいるからな……!」
「次に顔を見たら、素っ首叩き落す。そのつもりでいろ」
「……ゲェーック! ゲェーック!!」

芳野の視線から逃れようとするかのように、御堂が飛び退いた。
そのまま振り返らずに走っていく。
校庭を横切り、森に入ってその後ろ姿が見えなくなるまで、芳野は厳しい眼でそちらを見据えていた。


******

498LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:29:35 ID:IZffcNZk

「……もう、大丈夫だ」

振り向くと、芳野は普段の彼を知る者が見れば驚くような、柔和な笑みを浮かべて言った。
慈しむようなその視線は、真っ直ぐに彰へと向けられている。
ベッドの上で、握り締めたシーツで身体を隠すようにしている彰へと、そっと手を伸ばす。
だが、その雪のように白い肌に触れようとした瞬間。

「……っ!」

彰が、声にならない悲鳴をあげて身を震わせた。
何か眩しいものを見るようだったその瞳も、怯えた小動物を思わせる色を浮かべている。

「す……すまん」

慌てて手を引く芳野。何をしているのだ、と自省する。
目の前の少年はたった今、強姦されかかったのだ。
見も知らぬ人間を警戒するのは当たり前だった。

「い、いえ、僕のほうこそ助けてもらったのに……すいません」

そう言って、涙目のまま頭を下げる彰。
その姿を目にしたとき、芳野は不思議な温かさが全身に広がるのを感じていた。
ずっと感じていた胸の中の棘が大きくなるような、それでいて転がる棘が決して痛みだけではない何かを
もたらすような、奇妙な感覚。
それはひどく甘やかで、懐かしい感情だった。
目の前の少年のことを、もっと知りたいと思った。

「俺……俺は、芳野祐介。お前の名前を、聞かせてくれないか」
「あ……、僕は七瀬、七瀬彰です」
「彰、か……いい名前だな」

彰、あきら。
その名を舌の上で転がすように、何度も小さく繰り返す芳野。

「その、ありがとうございます……芳野さん」
「祐介でいい。……俺も、彰と呼ぶ」
「はい……祐介さん」

上目遣いで見上げながら己の名を呼ぶ少年の瞳を見返した瞬間、芳野は心拍数が跳ね上がるのを感じていた。
動揺を誤魔化すように目を逸らし、咳払いしながら口を開く。

499LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:29:59 ID:IZffcNZk
「そ、それより早く服を着てくれ。その格好は、その……目に、毒だ」
「え……、あ!」

全裸に近い格好のまま、シーツで前を隠しているだけの彰が、己の姿に気づいて赤面する。
白い肌が、一気に紅潮した。
赤く染まった耳と細く白い肩のコントラストから視線を剥がすのに苦労しながら、芳野はようやく口を開く。

「き、着終わったら声をかけてくれ」

そう言うと、後ろを向く芳野。
背後から、小さな衣擦れの音が聞こえてくる。
目を閉じるとあらぬ妄想が浮かんできそうで、芳野は瞬きもせず己が破壊した壁の向こうに見える景色を凝視していた。
風が吹きぬける音だけが響く静けさの中で、時が流れていく。
しばらくそうしていた芳野だったが、とうとう痺れをきらして声をかけた。

「も、もういいか……?」
「……まだ、です」
「そ、そうか」

どこか恥らうような声。芳野は自身の堪え性のなさに内心で頭を抱える。
自分にとってはひどく長い時間に感じられたが、もしかすると実際には数秒しか経っていなかったのかもしれない。
そんな風にすら思えた。
明らかに平静ではない己の精神状態が、しかしひどく心地よくて、その二律背反に芳野はまた悩む。
胸の中の棘が、転がった。
痛痒いその感覚に、胸を掻き抱いて蹲り、思う様叫び出したい衝動に駆られる。

「……ね、祐介さん」

歯を食い縛って衝動に耐える芳野の背後から、小さな声がした。
恥じ入るような、それでいながらどこか鼻にかかったような、囁き声。

「なん―――」

振り向こうとした芳野の腰に、白い腕が回されていた。

500LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:30:18 ID:IZffcNZk
「な……!?」

彰が、芳野に抱きついていた。
見下ろした彰の、ミルク色の細い肩のラインがひどく艶めかしくて、芳野は正視できない。
彰は、その身に何も纏っていなかった。

「なに、を……」
「―――お礼が、したいんです」

芳野の腹の辺りに顔を埋めながら、彰が言う。
服越しに感じる吐息の熱さと声の振動に、芳野は体の芯から何かがせり上がってくるのを感じていた。

「さっき、とっても怖かった」

言いながら、彰は芳野のベルトに手をかける。

「ひどいことされて、殺されるって、思った」

かちゃかちゃと音を立てて、ベルトが抜き取られた。

「助けてって、思ったんです。誰か助けて、って」
「クッ……や、やめ……!」

ジッパーが、そっと下ろされていく。

「そうしたら、来てくれた。僕を助けに来てくれたんです。祐介さんが」

反射的に彰を突き飛ばそうとして、芳野は必死で己を抑える。

(駄目だ……! 今の俺がそんなことをすれば、こいつは……!)

加減のきかない力は、彰の華奢な身体をいとも簡単に破壊してしまう。
壁に叩きつけられて物言わぬ屍となる彰の姿が、脳裏をよぎる。

「……だから、祐介さんにお礼がしたいんです」

言葉と共にボクサーパンツが下ろされていくのを、芳野はなす術なく見守るしかなかった。

「僕にできることなんでもしてあげたいって、そう思ったんです。だから―――」

そう言うと、彰は躊躇なく、芳野のモノを口に含んだ。


******

501LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:30:46 ID:IZffcNZk

―――汚らしい。

七瀬彰は、芳野のモノを舌の上で転がしながら、そう思う。
瞬く間に大きく、硬くなりはじめたそれを、一旦口から出すと、そそり立つモノに舌を這わせる。
舌全体を広く使いながら、亀頭を舐め上げていく。

「くぅ……」

芳野の、獣じみた吐息。
こいつも同じだ、と彰は内心で唾を吐く。
高槻と、軍服の男と、同じ種類の生き物だ。
汚らしい、獣欲にまみれた、畜生以下の屑どもだ。

「どう……? 気持ちいい……?」

そうして自分は、そんな屑に奉仕している、最低の人種だ。
玉袋に添えた指をやわやわと揉むように動かしながら、エラの張った雁首を、舌先でつつくように刺激してやる。

助けて、と願った。
誰か助けて、と。何でもする、生きたい―――と。
その結果が、この様だ。
どこか遠くにいる神様が、意地悪な顔で笑っているような気がした。
どうした、生き延びるためなら何でもするんじゃなかったのか。
男に身体を差し出すくらいが何だ、その程度でお前を助けてやろうというのだ、安いものじゃないか―――。
そんな声が聞こえてくるような気すら、していた。

(ああ、やってやるさ……何だって、ね。だからそこで……黙って見ていろ、クソッタレの神様め)

たっぷりと唾液をまぶした舌で、裏スジを上下に舐める。
空いた指の腹で雁首を擦りながら、上目でちらりと芳野の様子を窺う。

「う……あ、彰……」
「ん、ふぅ……」

眼が合うや、頬を真っ赤にして視線を逸らす芳野。
予想以上の反応に呆れながらも、彰は一つの確信を得ていた。

502LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:31:28 ID:IZffcNZk
(僕には……一つの才能が、ある)

潤んだ瞳。
高く、薄い声。
少女じみた童顔。
細く華奢な体つき。
白くキメの細かい肌。
それら、これまでの人生ではコンプレックスの種でしかなかった自分の身体的な特徴が、
今のこの島では、大きな財産になり得る可能性を秘めていた。即ち、

(僕の身体は……一目で、男を惹き付ける)

特にその効果は、青年期を過ぎた男性に顕著なようだった。
高槻は出会って間もなく自分を愛していると断言し、文字通り身体を張って自分を守り通した。
軍服の男は、即座に自分を犯そうとした。
そして今、芳野祐介だ。
人間離れした能力を持ったこの男は、明らかに自分に惹かれている。
ならば、と彰は考える。

(なら、もう僕から離れられないようにしてやる……)

そのためならば、こうして奉仕することも厭わない。
口先と身体だけの愛ならば、いくらだって捧げてやる。
それほどに、芳野祐介の力は圧倒的だった。この男といれば、この場を生き延びるどころか、
ターゲットを殺害しての帰還すら現実的なものとなると、彰は思う。
澤倉美咲と合流したとしても、うまく誤魔化す自信があった。
何しろ自分の身体に群がる男たちの思考回路など、獣以下だ。

(そのためにも……今、頑張らないと)

先走り液を指に絡ませながら、彰は竿をしごき上げる。
亀頭は口にすっぽりと含んでいた。
口蓋と舌とで包み上げると、頭ごと前後に動かすようにして刺激を強める。

503LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:31:56 ID:IZffcNZk
「く……うぅっ、彰……」

びくり、と芳野のモノが震えた。
限界が近いらしいことを感じ、彰は最後の仕上げに取り掛かった。
わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら、咥内のモノを出し入れする。
竿に這わせた指の力を、少しづつ強めていく。裏スジを、爪の先で掻いた。
速いペースでしごき上げながら尿道を舌先でつついた瞬間、

「あ、あき、ら……くっ、うぁ……あぁああっっ……!」

どくり、と芳野のモノから、濁った液体が溢れ出した。
あまりの濃さに、白濁を通り越して黄色がかった粘液が、びゅくりびゅくりと彰の顔を汚していく。
頬といわず鼻筋といわず、芳野の精にまみれる。
垂れてきた液体を、ぺろりと舌を出して受け止める彰。
おぞましさを噛み潰しながら、上目遣いで芳野に照れたような笑みを見せる。

「祐介さんの……いっぱい、出てる……。……え?」

彰の表情が、凍った。
見上げた芳野の様子が、おかしかった。

「う……うぁ……ぉぉ……と、とまら……ない……くぉぉ……っ」

苦悶に顔を歪めながら、芳野が呻いていた。
そしてその言葉通りに、射精も止まる気配を見せない。
明らかに異常な量を放出していながら、いまだに粘液を吐き出し続けていた。

「祐介さん……! 大丈夫、祐介さ、……う、うわぁぁぁぁっ!?」

我知らず、彰は悲鳴を上げていた。
涙すら流して苦しむ芳野の、その顔が、彰の見る前で急速に痩せ衰えていた。
瞬く間に頬がこけ、眼窩は落ち窪み、肌に皺が刻まれる。
死が色濃く見て取れる老人の如く、芳野が枯れ果てていく。


******

504LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:32:12 ID:IZffcNZk

「ぐ……おぉぉぉぉッ!」

絶望と苦悶の中で、芳野祐介は己の過ちを悟っていた。
超絶的な肉体が、禁欲と過剰薬物のバランスによって成立していることを失念していた。
天秤の片方から錘を取り除いてしまえば、そのバランスは崩壊するのが自明といえた。

精液と共に、己を支えていた無数の生殖細胞が体外へと排出されていくのがわかる。
超速移動によって断裂した全身の筋細胞が、死滅していく。
回復能力を失った骨が、そこかしこで砕けるのを感じた。

死を前にして、芳野はひどく冷静に、思う。

(―――ああ。ようやくわかった)

しばらく前から、胸の中を焦がす感覚の正体。
射精によって肉欲が薄れ、ようやくにして思い出すことができていた。

(恋、か―――)

かつて、伊吹公子と出逢った頃に感じていた、胸の高鳴り。
ざわめき、揺れ、身悶えするほどに高まった、感情。
七瀬彰という少年との出会いは、そういうものに、似ていたのだ。

(すまん、公子……俺は、最期までどうしようもない男、だったな―――)

既に視力も失われ、黒一色に染まった視界の中に、たった一人の女性を思い浮かべながら。
芳野祐介は、その波乱に満ちた生涯を終えた。


******

505LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:32:31 ID:IZffcNZk

木乃伊の如き遺骸を前に、七瀬彰は呆然と座り込んでいた。
どうして、とそればかりが頭をよぎる。

何も残らなかった。
汚辱と恐怖とに耐えながら築き上げようとしたものは、芳野祐介と共に文字通りの灰燼に帰した。
破壊しつくされた室内。床と、壁と、そして己を穢す、栗の花の臭い。
吐き気がした。堪えきれず、白濁液が溜まる床にぶちまける。
びちゃびちゃと撥ねる吐瀉物が、白濁液と混ざり合ってマーブル模様を作り出し、その様にまた
悪心がこみ上げてきて、更に吐く。胃液に刺激されて、涙が出てきた。

「ち……く、しょう……」

感情が、決壊した。
声をあげて、彰は泣いていた。
近くにある物を掴んで、手当たり次第に投げつけた。
そうして手の届く範囲に物がなくなると、ベッドに蹲って叫んだ。
くぐもった泣き声が、ただ響いていた。

506LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 16:32:52 ID:IZffcNZk

【時間:2日目午前10時過ぎ】
【場所:D−6 鎌石小中学校保健室】

七瀬彰
 【所持品:アイスピック】
 【状態:右腕化膿・高熱・慟哭】

芳野祐介
 【所持品:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
 【状態:死亡】

御堂
 【所持品:なし】
 【状態:全裸】

→717 ルートD-2

507LoVE & SPANNER,and LOVE(後編):2007/02/24(土) 17:11:39 ID:IZffcNZk
訂正です、「→717」ではなく「→716」でした。
申し訳ありません。

508Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:53:37 ID:R1aRfFxo
古河秋生は娘の渚を背負い、みちると共に走っていた。一直線に、役場を目指していた。
「あの大馬鹿野郎……何で俺に相談の一つもしねえんだっ!」
思い起こせば、朋也の様子はどこかおかしかった。先程別れた時の朋也は、必要以上に感情を抑えているように見えた。
自分の名前を騙っての扇動などという真似をされた日には、普段の朋也の性格ならば激怒している筈だ。
にも関わらず朋也は怒りを露にしようとせずに、逆に落ち着き払った様子で対応策を練っていた。
それもこれも、みちるから話を聞いて全て合点がいった。朋也は既に、かつての朋也では無くなってしまっていたのだ。
風子、そして秋生の知らぬもう一人の少女を守れなかった事。その事実がどれ程朋也を苦しめたか、想像するのは難しくない。
無力感と復讐心に苛まれた者が行動を起こすのならば、自身を犠牲にしてでも何かを成そうとするのものだろう。
人を救おうとするにしろ、マーダーへの報復を行うにしろ、捨て身の覚悟で行う筈だ。
そんな自殺行為は今すぐ止めさせなければならない。

前を走るみちるが、心配そうにこちらを振り返る。
「おじちゃん大丈夫?もう少しゆっくり走ろっか?」
傷付いた体で渚を背負い走る今の秋生の速度は、みちるよりも更に遅い。
左肩と脇腹より伝わる痛みで何度も身体がふらつき、その度に気力で堪えてきた。
「みちるちゃんの言う通りです。わたしはもう歩けますから、降ろしてください」
渚も、気遣うように声を掛けてくる。秋生は少女二人を不安にさせてしまっている己の不甲斐なさに、内心で舌打ちした。
「おいおい、俺はおじちゃんって呼ばれるほど、衰えてねえぞ。そんな俺だから当然……こんくれえ平気だ」
精一杯強がって見せる。それは明らかに空元気だったが、休んでいる時間は無いし、娘の足に負担をかけたくもない。
だから秋生はひたすら耐えて、走り続けた。


     *     *     *

509Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:55:08 ID:R1aRfFxo


岡崎朋也の最優先目標は、十波由真と伊吹風子を殺害した張本人――七瀬彰の殺害であった。
しかし朋也は高槻、折原浩平の両名に銃を突き付けられ、動きを封じられてしまっていた。
嘘を吐いているのは朋也の方だと判断した高槻が、棘々しい視線を送りつけてくる。
「残念だったなガキ。俺様を騙そうだなんて百年はええぜ」
「クソッ……」
追い詰められた朋也の心に、どす黒い感情が膨らんでゆく。
何故どいつもこいつも自分の言い分を無視して、彰のような極悪なマーダーを信じる?
もう、何を言っても自分の疑いが晴れる事はないだろう。なら、これからどうするべきだろうか?
仮にこの場から逃亡した場合、また彰と出会えるとは限らない。
故に離脱するというような事はしない。絶対に、その選択肢はありえない。ここで必ず、どんな手を使ってでも彰を殺す。
そうだ、もう自分に残された選択肢はここで決着をつける以外ないのだ。障害を排除して、そして彰を仕留める。
彰の味方をする気ならば、ゲームに乗っていない者でも容赦はしない。銃を向けてくる以上、逆に撃たれても文句は言えまい。
しかし、まずはこの――二人から銃を向けられている状況を何とかしなければ駄目だ。

朋也が打開策を模索している最中、高槻が刺すような冷たい声を掛けてくる。
「とっとと銃を下ろせ。そうしねえと――撃つぞ」
脅す高槻の目には、何の迷いも躊躇も見られない。従わなければ警告通り、発砲してくるだろう。
ここで逆らっても犬死にするだけだ。今は言うとおりにする他無い。
「分かったよ……」
短く答えて、朋也はS&W M60の銃口を下ろす。抵抗する意志が無いという事を、示すかのように。
「ようやく自分の立場が分かったみてえだな。そのまま、銃をこっちに投げな」
「ああ。ほら――――よっ!」
「――――っ!?」
朋也は物を投げる準備動作を小さく行って、そして――真横に跳ねて地面を転がった。銃を投げずにだ。
油断無く銃を構えていたつもりの浩平と高槻だったが、大人しく降伏するかに見えた相手の突然の行動に、一瞬硬直してしまう。
二人が慌てて銃弾を放った時にはもう、照準が合わさっていた位置には朋也の姿は無く、弾丸は空を切るばかりだった。
高槻は再度銃撃するべく朋也の姿を追い、そして朋也が銃を構えている事に気付いた。

510Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:57:22 ID:R1aRfFxo
「――!!」
「危ねえ、オッサン!」
幾分早く朋也の動きを察知していた浩平が、すんでのところで高槻の腕を引く。
「がっ……!!」
しかし、予めこの展開を予測していた朋也の方が早かった。朋也の手元より放たれたS&W M60の銃弾が、高槻の左肩を貫く。
突然の激痛に高槻は銃を手放してしまったが、それでも何とか踏みとどまって、すぐに上体を伏せた。
高槻の頭の上を、紙一重で弾丸がすり抜けていく。肌に伝わる風圧に、高槻の頬を嫌な汗が伝った。
「このっ……ナメやがって!」
浩平が朋也に向けて銃を構えるが、浩平の銃はH&K PSG−1――いわゆる狙撃銃であり、いかんせん狙いをつけるのに時間がかかる。
弾丸が切れた朋也は、小刻みに左右へ跳ねて浩平の銃撃を掻い潜り、一気に距離を縮める。
そのまま朋也は大きく左腕を後方に振りかぶり、全体重を乗せてS&W M60の銃身を振り下ろした。
「うおっ!?」
浩平は咄嗟にH&K PSG−1を盾にしてそれを受け止めようとしたが、甘い。殺し切れなかった衝撃で手が痺れ、浩平は銃を取り落としてしまう。
手を押さえて背を丸めている浩平目掛け、また銃を振りかぶろうとする朋也。だが、その視界を突然白いものが覆った。
「な、何だっ!?」
「ぴこーーーーっ!」
それは生物学的にはかろうじて犬に分類されるであろう、白い珍獣――ポテトだった。
ポテトは浩平の背を踏み台にして朋也の顔に飛びつき、そのまましっかりと張り付き、彼の視界を完全に奪い去っていた。

511Misunderstanding:2007/02/24(土) 18:58:49 ID:R1aRfFxo
「でかした、ポテトっ!」
相棒の作ってくれた隙を逃さず、高槻が動く。地面を蹴って、その推進力も上乗せした拳を朋也の腹へと放った。
「ぐがっ……」
高槻の硬い拳が腹にめり込んで、朋也は苦痛に顔を歪める。それでも――朋也は下がらなかった。
浩平と高槻の銃は地面に落ちたままだった。今距離を取れば、瞬く間に銃を拾い上げられるのは明らかである。
「邪魔を……するなあああっ!」
苦痛に耐え切った朋也は、がむしゃらに腕を振り回して高槻を押し退けた。そして右手でポテトを鷲掴みにして、そのまま勢い良く投擲する。
ポテトが投げつけられた先にいるのは――今にも朋也に殴りかかろうとしていた、浩平だった。ポテトは浩平の顔面に直撃し、両者に強い衝撃を与える。
「ぴこぉっ……」
ポテトはその衝撃を凌ぎ切る事が出来ず、その場でぐったりと倒れて気を失ってしまった。
「ぐっ……」
浩平は気絶こそしなかったものの、カウンター気味に受けた攻撃に、一瞬意識が飛びかる。
2対1の戦い――普通ならば高槻達が圧倒的に有利であったが、彼らのこれまで負った怪我が、勝負の行方を予想し難いものにしていた。


     *     *     *

512Misunderstanding:2007/02/24(土) 19:00:24 ID:R1aRfFxo


高槻達の戦いを、固唾を呑んで見守っている郁乃と七海。先ほどから七海は、仲間が――そして、朋也が殴られた時も、辛そうに目を閉じている。
優しすぎる性格の七海からすれば、人が傷付け合う事自体が耐え難い光景だったのだ。
七海はとうとう我慢出来なくなり、戦いを止めようと足を踏み出し始める。しかし、その後ろ手を誰かにがっしりと掴まれた。
「――郁乃さん?」
「駄目よ七海、危ないわ」
七海が振り返ると、郁乃が真っ直ぐな瞳でこちらを見つめていた。
「でもでも、このままじゃみんながっ!」
「私達が行ったって、邪魔になるだけよ……。あの馬鹿を――高槻を、信じよう?」
「……はい」
語る郁乃の手には、しっかりとS&W 500マグナムが握り締められている。しかし、それを使って援護する事は出来ない。
高槻達は今、殴り合いの混戦をしている。郁乃や七海のような子供が下手に銃を撃てば、誰に当たるか分かったものではない。
郁乃も七海も、歯を食い縛りながら人が傷付いていくのを見ているしかなかった。非力な、子供の身である自身を呪いながら。
しかしそんな彼女達に、救いの声が掛けられる。
「君達、ちょっと良いかな?」
その声を発した人物は、この戦いの元凶とも言える七瀬彰だった。郁乃にとって、彰は招かねざる存在である。
郁乃は彰に向けて、ジロリと疑いの視線を浴びせ付けた。当の彰は気にした風も無く、言葉を続ける。
「頼みがあるんだ。僕に――その銃を貸して欲しい。そうすれば、あの人達を助けられる」
「――――!」
郁乃は思わず息を飲んだ。確かに非力な子供の自分よりも、彰の方が数段上手く銃を扱えるだろう。
苦境に立たされている高槻達を救う事も、彼なら十分に可能かもしれない。
だが、そう簡単に信用していいものか?彰がマーダーで無いというのは、あくまで高槻と浩平の推測に過ぎぬ。
彰が嘘をついている場合も考えられるという事を、失念してはいけない。いつもの郁乃なら、ここで安易に銃を渡しはしなかった。
彰への疑念を捨てずに、この場で最善といえる対応を考え出そうとしていた筈である。
しかし――仲間の戦いを見守る事しか許されなかった郁乃にとって、彰の囁きはあまりにも甘く。
「分かったわ……お願い、彰さん。みんなを助けてっ!」
郁乃はS&W 500マグナムを、そして予備弾すらも、殺人者に手渡してしまった。

513Misunderstanding:2007/02/24(土) 19:01:50 ID:R1aRfFxo

【時間:二日目・14:10】
【場所:C−3】
古河秋生
【所持品:トカレフ(TT30)銃弾数(6/8)・S&W M29(残弾数0/6)・支給品一式(食料3人分)】
【状態:現在の目標は朋也の救出。疲労、左肩裂傷・左脇腹等、数箇所軽症(全て手当て済み)。渚を守る、ゲームに乗っていない参加者との合流。聖の捜索】
古河渚
【所持品:無し】
【状態:秋生に背負われている、目標は朋也の救出、右太腿貫通(手当て済み、痛みを伴うが歩ける程度には回復)】
みちる
【所持品:セイカクハンテンダケ×2、他支給品一式】
【状態:目標は朋也の救出と美凪の捜索】



【時間:二日目・14:20】
【場所:C−3】
岡崎朋也
 【所持品:S&W M60(0/5)、包丁、鍬、クラッカー残り一個、双眼鏡、三角帽子、他支給品一式】
 【状態:高槻、浩平と格闘中。マーダーへの激しい憎悪、腹部に痛み、現在の第一目標は彰の殺害、第二目標は鎌石村役場に向かう事。最終目標は主催者の殺害


湯浅皐月
 【所持品1:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:宝石(光3個)、海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金】
 【状態:気絶、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】

514Misunderstanding:2007/02/24(土) 19:03:22 ID:R1aRfFxo
七瀬彰
 【所持品:S&W 500マグナム(5/5 予備弾7発)、薙刀、殺虫剤、風子の支給品一式】
 【状態:腹部に浅い切り傷、右腕致命傷(ほぼ動かない、止血処置済み)、疲労、ステルスマーダー】
ぴろ
 【状態:皐月の傍で待機】
折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:朋也と格闘中、頭部と手に軽いダメージ、全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)】
ハードボイルド高槻
 【所持品:分厚い小説、コルトガバメントの予備弾(6)、スコップ、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:朋也と格闘中、左肩を撃ち抜かれている(怪我の度合いは後続任せ)、最終目標は岸田と主催者を直々にブッ潰すこと】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:待機中、車椅子に乗っている】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:待機中】
ポテト
 【状態:気絶、光一個】

【備考】
以下の物は高槻達が戦っているすぐ傍の地面に放置
・コルトガバメント(装弾数:6/7)、H&K PSG−1(残り2発。6倍スコープ付き)

→711

515Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:09:18 ID:F9ga/RUo
相楽美佐枝と長岡志保がその行く手を遮られたのは、午前十時を少し回ったあたりであった。

「み、美佐枝さん……」
「……わかってる」

不安げに声を上げる志保を庇うように、美佐枝が前に出ながら言う。
鋭く見据えたその視線の先には、数十人を遥かに超える少女たちがいた。
少女たちの異常性は、一見して明らかだった。
何しろ、そのすべてが同じ顔をしていたのである。

「どう見たって、マトモじゃないわね……」

そもそも、朝の放送の時点で参加者の残り人数は半数を割り込んでいたはずだった。
頭数の計算からして既におかしいし、何よりも手元の探知機にまるで反応していない。
となれば目の前の少女たちはイレギュラーな存在であるか、

「あるいは、何かの能力によって生み出された、とかね……」

自分がドリー夢の能力に目覚めたように、と美佐枝は考える。
いずれにせよ、採るべき道はそう多くなかった。

「何なの、あいつら―――?」

背後で怯えたように言う志保に、美佐枝は短く声をかける。

「長岡さん」
「なに、美佐枝さん……?」
「―――あなた、先に行きなさい」
「……え?」

516Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:09:33 ID:F9ga/RUo
虚を突かれたような声。
そのようなことを言われるとは、考えてもいなかったのだろう。
しかし、美佐枝は淡々と続ける。

「ここは私に任せて。あなたには先に行って、輸血の器具を探してほしいの」
「……そんな、美佐枝さん!」
「あたしたちが何のためにこうしているか、わかってちょうだい」
「でも……」
「いいから、早く!」

一喝する。
霧島聖の連れてきた少女の容態は、素人目にも一刻を争うものだった。
出立から既に数時間が経過している。
現時点で少女が存命しているかどうかすら、危うかった。
周囲を警戒しすぎて移動が遅れた、と悔やんでも遅い。

「あたしもここを片付けたら、すぐに追いかけるから」
「でも、美佐枝さん一人じゃ……」
「足手まといだって、言ってるの」
「……っ!」

方便ではあるが、事実だった。
敵の数は多い。包囲されれば、志保を庇いながら戦うのは難しかった。
彼女を戦線から離脱させるなら、今しかなかった。

「……わかったら、行って」
「っ……気を、つけてね?」

志保の言葉に、美佐枝は苦笑する。

「それはこっちの台詞。あたしが追いつくまで、無茶しちゃダメよ。
 怪しいヤツにあったら、すぐ逃げて」
「う……うん」
「……さ、それじゃ、早く」

517Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:10:10 ID:F9ga/RUo
そっと、志保の背中を押す。
心配そうな顔で何度も振り返りながら、志保は木立の中へと入っていった。
それを見届けて、美佐枝は前方へと視線を移す。

「さて、っと……」

自分の役目ははっきりしていた。
できる限り注意をひきつけて時間を稼ぎ、しかる後に離脱する。
全滅させる必要はない。肝心なのは、とにかく足止めをすることだ。
そう再確認して、美佐枝は一歩を踏み出す。

「鬼が出るか、蛇が出るか……」

見れば、前方に展開する少女たちが立ち止まっている。
こちらの存在に気づいたのだろう、と考えて、美佐枝は大きく息を吸い込む。

「どんなキャラになるのか分かんないけど、トウマだったらいいなあ、うん。
 ―――行くぞ、あたし!」

ぴしゃりと両の頬を叩いて、走り出す。
正面突撃。相手の手の内を見定めてから仕掛ける余裕は、なかった。

「―――」

洗礼は、光のシャワーだった。

「う……わ、っとぉ、熱ッ!?」

身体スレスレををかすめる光の束に、慌てて首をすくめる美佐枝。
見れば、光に触れた部分の肌が赤く腫れていた。

518Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:10:48 ID:F9ga/RUo
「火傷……? レーザー光線ってわけ……!」

距離をとれば一方的に攻撃されると判断。
足を止めずに、志保が向かった方向とは反対側の林に飛び込む。
遮蔽物のない林道では、近づく前に集中砲火を浴びるだけだった。
追いかけるように、幾筋もの光線が薄暗い林を照らし出す。

「よし、樹でも充分、盾になる……!」

下生えの草はそこかしこで煙を上げていたが、生育した樹を貫くほどの威力はないようだった。
少女たちが木立の中に踏み入ってくるのを確認し、美佐枝は再び走り出した。
木々の陰に隠れながら、徐々に距離を詰めていく。

「よし、思ったとおり……! これなら……」

美佐枝を見失って周囲を見回す少女たち。
その内の一人に、美佐枝は背後から近づいていく。
遭遇した際にも感じていたことだが、少女たちの視認能力はそれほど高くない、と美佐枝は確信する。
どうやらあの眼鏡は純粋に低い視力の補正に使われているらしい。

「せぇ、のっ!」

一気に飛び出し、羽交い絞めにする。
捕捉された少女は、しかし動きが鈍い。
声を上げようとすることもなく、のろのろと自身に回された美佐枝の手を振り解こうとする。

「悪いけど……しばらく眠っててもらうわ」

少女の体温は、人間のそれだった。
その温もりに嫌悪感を覚えながら、美佐枝は少女の首に回した腕に力を込める。
数秒を待たずに、少女の全身から力が抜けていった。
美佐枝が手を放すと、どさりと倒れる少女。

519Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:11:42 ID:F9ga/RUo
「次……っ!」

物音を聞きつけたのか、周囲に草を踏みしだく音が増えていく。
身を低くしながら、美佐枝は移動を再開した。程なく目の前に新たな少女を発見する。
背後からそっと近づき、少女の首に腕を巻きつけた、その瞬間。

「……ッ!?」

美佐枝は驚愕していた。
たった今捉えた少女を中心にして、それを取り巻くように少女たちの姿があったのである。
冷ややかに輝く無数の眼鏡が、美佐枝を囲んでいた。

(罠……!)

誤算だった。
少女たちを、完全に侮っていた。
簡単に自分を見失って辺りを見回す仕草に、あるいは自分を振り解こうとする動きの鈍さと非力さに、
勝手に愚鈍な少女たちというイメージを作り上げていた。
じり、と包囲の輪が狭まる。

「こりゃちょっと……マズい、かな……?」

頼みのドリー夢能力は、いまだに発動しない。
そりゃ必殺技はピンチになってからって決まってるけど、と美佐枝は焦燥と共に思う。

(武装はもう少し早くたっていいと思うのよね……)

鼓動が、極端に早くなっていくのを感じる。
少女たちの無数の視線が、美佐枝一人に向けられていた。

(ち、ちょっと勿体つけすぎ、じゃない……!?)

ぎらりと、少女たちの広い額が、輝いた。
思わず目を閉じる美佐枝。

520Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:12:22 ID:F9ga/RUo
(―――!)

瞬間、風が唸りを上げた。
同時に、何か重いものが地面に転がるような音。
目を開けた美佐枝が見たのは、

「……大丈夫?」

言いながら、倒れ伏した眼鏡少女のこめかみから何か長いものを引き抜く、一人の少女の姿だった。
波打つ長い髪に、意志の強そうな瞳。
ベージュのセーターに眼鏡少女の返り血が飛ぶのも気にせず、美佐枝を見ている。

「え、あ……」

咄嗟に言葉が出てこない。
言いよどむ美佐枝を安心させるように微笑むと、少女は手にした物を勢いよく振るう。
少女の背丈ほどもあるそれは、

「槍……?」

時代劇にでも出てくるような、それは一本の長槍だった。
長い柄には豪奢な刺繍布で意匠が施されているそれを、少女は脇に手挟むと、何気ない仕草で
くるりと回ってみせた。

「え……?」

それは、魔法のような光景だった。
少女の回転に合わせて回る槍の穂先は、周囲の眼鏡少女たちの首を、正確に切り裂いていたのである。
血煙が、上がる。

521Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:13:12 ID:F9ga/RUo
「―――」

赤い霧の中心に、踊る少女がいた。
少女が舞踏する。長い髪と、豪奢な槍が、ゆったりと回る。
その度に、数人の眼鏡少女が、悲鳴を上げることもなく斃れていく。
狭い木立の中、ゆらりと槍を操る少女の姿はただ美しく、その足元に伏す幾体もの骸すら、
まるで舞台に置かれた小道具のように、美佐枝には見えていた。

ふうわりと、少女のスカートが翻る。
最後に、とん、とステップを踏んで、少女がその舞いを終えても、美佐枝は身じろぎひとつできなかった。

「……はい、おしまい」

少女の言葉に、美佐枝がはっとする。

「あ……ありが、とう……」

上手く声が出せない。喉が渇ききっていた。
どうにか言葉を搾り出すようにして、美佐枝が礼を口にする。

「た、助かっ―――」
「ああ、いいわよ、そんなの」

ぴ、と槍を振るって血を払いながら、少女が苦笑する。

「で、でも……」
「別にあんたを助けたわけじゃないから」

何気ない一言。
しかし、美佐枝は思わず言葉を止めていた。
少女の声音は、なぜだかひどく酷薄に、聞こえていた。

522Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:13:40 ID:F9ga/RUo
「そういえば、自己紹介が遅れたわね」
「あ、あたしは……」
「結構よ。あんたの名前になんか興味ないから」

切り捨てるような言葉に、美佐枝は絶句する。

「はじめまして。GL団最高幹部、”鬼畜一本槍”……巳間晴香よ」
「じ、ジーエル……?」
「どうやら、もう一人は逃げたようだけれど……」

戸惑ったような美佐枝の呟きを無視して、少女は艶然と微笑む。

「まあ、餌は一人いれば充分ね」

少女はそう言って、笑った。

523Dancing in the Forest:2007/02/25(日) 19:14:05 ID:F9ga/RUo

 【時間:2日目午前10時すぎ】
 【場所:H−5】

相楽美佐枝
 【所持品:ガダルカナル探知機、支給品一式】
 【状態:混乱】

長岡志保
 【所持品:不明】
 【状態:疾走】

巳間晴香
 【所持品:長槍】
 【状態:GLの騎士】

砧夕霧
 【残り29932(到達0)】
 【状態:進軍中】

→654 682 690 ルートD-2

524破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:33:10 ID://a6FKMA
「wow……堂々と車を乗り回すなんて、なかなかやるわね」
それが診療所の近くで停止した車を見た時に、リサが抱いた第一感想だった。
こんな殺し合いの最中ならば普通は目立つ事を避けようとする筈だ。
自分や宗一ならばともかく―――それ以外の者がこんな判断をするとは、思ってもみなかった。

車を使用して移動するという判断は間違いではない。
高速で移動する車を狙って狙撃する事がどれ程難しいか、リサはよく知っている。
燃料にさえ気をつけていれば寧ろ安全と言える移動手段なのだ。
あの車の搭乗者達の判断は的確だ。
だからこそ、油断出来ない。
何事においても、相手の能力が高ければ高いほど警戒せねばならない。
それが幼い頃から過酷な環境で生きてきたリサにとっての鉄則だった。

自分の腕ならばどんな銃を使ってもスナイパーライフル並の精度を出す事が出来る。
相手が何か怪しい動きを見せたら―――即座に撃つ。

停まったまま動きを見せない車に向けて、リサはM4カービンを深く構えていた。
だがその警戒は杞憂だったようで、相手は何も武器を持たずに車を降りてきた。
車から出てきた二人の男女は、まるで警察官の集団に囲まれた犯人のように両手を挙げている。

525破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:34:24 ID://a6FKMA
リサは構えを緩めないままつかつかと二人に歩み寄り、距離を10メートルほど置いた位置で足を止める。
リサが何か話す前に、女性の方が先に話し掛けてきた。
「最初に言っておきます……私達は殺し合いをする気はありません。貴女はどうですか?」
ともすれば冷淡に見える目が印象的な、整った顔立ちの綺麗な女性だった。
向けられた銃に怯える様子は微塵も見受けられない。
大したものだ、とリサは思った。
「私がそのつもりだったら、あなた達はとっくに蜂の巣にされてるんじゃないかしら?」
銃口を下ろして軽い調子で答えると、女は軽く肩をすくめて見せた。
「私はリサ……リサ=ヴィクセンよ。貴方達の名前は?」
「こちらの方は藤井冬弥さんです。そして私は――篠塚弥生と言います」
「―――!?」
その名前を聞いた直後リサは動いた。
注意していても目で追いきれない程の速度で、M4カービンを再度構える。
すると、男―――藤井冬弥の方が息を飲むのが分かった。

しかし肝心の篠塚弥生の方は、いまだに凛とした表情をしている。
肝が据わっている―――それも至極当然の事だった。
緒方英二から聞いた話によれば篠塚弥生はゲームに乗っているのだから。
「口は災いの元よ?私は貴女がゲームに乗っていたという話を聞いた事がある。浅はかな嘘は控える事ね」
「嘘など言っていません。確かに私はゲームに乗っていましたが……それは過去の話です。今はもう、そんなつもりはありません。
大体ゲームに乗っているのなら、二人で行動なんてしないと思いますが?」
そう言って、弥生は冬弥の方へと視線を移した。
冬弥はリサの銃口から視線を外さずに、けれど黙って二人の話を聞いていた。

526破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:35:48 ID://a6FKMA
確かに弥生の言う事にも一理ある。
このゲームで生き残れるのは最終的には一人。
ならばゲームに乗った者は基本的に単独行動を取る筈である。
誰かを騙して利用するという手も考えられるが、弥生がゲームに乗っていたという事を聞いても冬弥は驚かなかった。
弥生が冬弥を謀っているという事は無いだろう。
それでも―――
「それだけじゃ貴女がゲームに乗っていないという証明にはならない」
「そうですね。信用出来ないというのなら大人しく去りますが―――どうしますか?」







―――現状を説明すると、だ。
Nastyboyこと俺、那須宗一は診療所にいる人間を全員待合室に集めていた。
入り口近くにある、窓際の椅子に俺は腰を落とす。
部屋の中央にあるテーブルを囲む形で、栞にリサ、敬介、葉子が座っている。
そして俺とリサ達に挟まれる形で、篠塚弥生と藤井冬弥が立っていた。
弥生と冬弥の肩にデイバックはかかっていない……置いてこさせたのだ。

527破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:37:46 ID://a6FKMA
武器を携帯しない事、そして情報交換が終わったら速やかに立ち去る事。
これが俺とリサが弥生達に示した条件だった。
勿論ポケットなどに何か仕込んであるかもしれないが、その可能性も考えて今の配置にしてある。
俺とリサで挟んでいる限り、相手が何かしようとしても余裕を持って対応出来る筈だ。

「葉子、足の具合はどうだ?」
「おかげ様でだいぶ楽になりました、ありがとうございます」
「そうか、そりゃ残念だ。ずっと足が治らないようだったら俺がオンブしてやったのにな」
「遠慮させてもらいます。どさくさに紛れて色んな所を触られそうですし」
「ちぇっ、釣れないなあ」
軽い冗談を飛ばしあう。
葉子の顔色はすっかり回復しており、足の具合が良くなったという言葉に嘘は無いだろう。
いざ移動する段になった時に、まだ歩けません、となったらどうしようかと思っていたので、俺はほっと胸を撫で下ろした。

「……さて、と。話を始めようか」
俺は手にしていた紅茶を置くと、弥生の目を見据えながら言った。
「はい。それではまず、私から知っている事をお話しますね」
「ああ、そうしてくれ。取り敢えず情報が欲しい。マジで、知ってる事は全部話してくれ。
何がこのゲームをぶっ壊す鍵になるか分からないからな」
最初に弥生から話をさせる理由は簡単、相手の本性を見極める為だ。
嘘を吐かれる可能性もあるが、相手が信用できるかどうか判断材料が多いに越した事はない。

528破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:40:27 ID://a6FKMA



「―――そして、今に到ります」
……滞り無く弥生の話は終わった。
弥生の話は上手く要点が纏められており、実に分かりやすかった。
簡単に説明すると森川由綺の死を知った弥生は、復讐の為にゲームに乗ろうとしていた。
しかし英二にお灸を据えられて頭を冷やし、現在は知り合いの藤井冬弥と共に脱出を目指しているという事だった。
だが……残念な事に俺にとって有用な情報は無かった。
せめて皐月や七海と出会っていてくれれば、その場所次第ではあいつらを探すという選択肢も出てきたんだが。

軽くリサに目線を送る―――「信用出来そうか?」と。
するとリサは、他の奴には勘付かれないくらい小さく首を振った。
恐らく判断しかねているのだろう、そしてそれは俺も同じだ。
弥生の、エージャント顔負けの落ち着き払った様子からは何の感情も見えてこない。
今ある情報だけでは何とも言えなかった。

「―――そう言えば」
俺が考えを纏めていると、高い声が聞こえてきた。
それはリサの連れ人、美坂栞のものだった。
「由綺さんって……柳川さんが戦ったって人じゃ?」
「――――!」

瞬間、リサが息を飲むのが分かった。
そして一秒後には、冬弥がどんと席を立っていた。
「何だって!?その話、詳しく聞かせてくれ!由綺は俺の大事な……恋人だったんだ!」
「え……あの、その……」
困惑する栞に、今にも掴み掛らんばかりの勢いで冬弥が叫ぶ。
もっとも、リサが険しい顔つきで銃を向けていたので冬弥が実際に詰め寄る事は無かったが。
栞はどうにか言葉を搾り出そうとしたが、それをリサが手で制した。

529破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:41:45 ID://a6FKMA
「私から話すわ。柳川祐也―――昨日私が出会った人の話によると、森川由綺さんはゲームに乗っていたそうよ。
それで柳川は仕方なく由綺さんを殺害したらしい」
厳しい視線、鋭い眼光で、リサが容赦なく告げていた。
俺もリサから聞いてその事は知っていた。
教えるべきじゃないと思っていたんだが……こうなった以上はそうもいかないだろう。
「……ハハハ、何の冗談だよ?あの由綺がゲームに乗ってただなんて、ねえ?」
冬弥は話を真に受けていないのか、苦笑いをしながら弥生に目線を移した。
しかし弥生はただ黙って、話の続きを待っていた。

「信じないならそれで良いわ。でも柳川が嘘をついてるとはとても思えないし、私は彼を信じる」
「馬鹿な事を……!由綺が人を襲ったりするわけ―――」
「藤井さん」
冬弥の言葉が途中で遮られる。
向けられた銃口すらも無視してリサに食って掛かろうとした冬弥の肩を、弥生が掴んでいた。
仮面をかぶっているかのように無表情だった弥生の顔に、ほんの少しだけ翳りが見られた。
「信じるも信じないも個人の自由、不毛な論争は止しましょう」
「…………そうですね、すいません」
それで落ち着いたのか、冬弥はこれ以上この事を追求しようとはしなかった。
口を閉ざした冬弥の代わりに、弥生が質問を続けた。
「それでリサさん、柳川祐也という人物はどのような外見をしておられるのですか?出来れば直接会って話を伺いたい」
「―――柳川は白いカッターシャツを着て眼鏡をかけている、長身の男性よ」
「そうですか、ありがとうございます」
そう言うと、弥生はペコリと一礼した。

530破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:43:22 ID://a6FKMA
―――冬弥の気持ちは良く分かる。
俺だって皐月やゆかりがゲームに乗ったと言われれば、冬弥と同じような反応をするだろう。
しかしこのゲームでは何が起こっても不思議ではない。
葉子の話によれば、あの穏やかに見えた佳乃でさえもがゲームに乗ってしまったという。
少なくとも俺と一緒にいた時の佳乃はとてもそんな事をする子じゃなかった。
けれどエージェントという仕事柄、人の黒い部分を嫌と言うほど見てきた俺には分かる。
たとえ普段はどんなに聖人君子に見える奴でも―――いざって時には、何をするか分からないと。
この島に満ちた狂気が、極限まで追い詰められた状況が、人を狂わせるんだ。

「藤井さん、さっき渡したアレを―――」
「ん、ああ……そうだね」
弥生に促されて、冬弥はポケットに手を入れた。
まさか、銃か―――!?
思わず俺はFN Five-SeveNを構えていた。
しかし冬弥が取り出したのは何てことは無い、ただの携帯電話だった。
弥生は冬弥からそれを受け取ると、俺の方へと歩いてきた。

「これは私が支給された道具なんですが、どう思いますか?」
「……実は俺達も似たようなんを持ってる。話が終わったら改造しようと思ってたトコだ」
「そうですか。私達が持っていても使い道がありませんし、要りますか?」
そう言われて、俺は少し考えた。
改造に成功して電話が繋がるようになったとしても、携帯電話が一個では効果が薄い。
それよりも携帯電話を二個持って、連絡を取り合いながら別々に動く方が遥かに効率が良い。
とりわけ―――俺とリサで一個ずつ携帯を持って動けば、情報が集まる速度はそのまま倍になるだろう。
結論、携帯電話は二つ必要だ。

531破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:44:34 ID://a6FKMA
「そうだな。良ければ貸して欲しい」
「分かりました。では―――」
弥生は携帯を俺の目の前に差し出してきた。
俺がそれを受け取った瞬間―――弥生が動いた。

「―――ッ!?」
弥生はまだゲームに乗ったままだったのだ。
腰を落として、弥生は俺の左手に握られている銃を奪い取ろうとしている。
しかし所詮素人、その動きは大した速さじゃない。
リサや醍醐のオッサンに比べれば、その動きはスロー再生しているかのように見えた。
弥生の後ろからは、冬弥がこちらに向かって走ってきている。
二人纏めてここで組み伏せる事も十分可能だったが―――俺は敢えて銃を手放し、リサ達の方へと大きく跳んだ。
距離を取り、そして弥生と冬弥を孤立させる。
「リサァッ!」
「イエッサーーーーーッ!」
何も怪我をしている身体で、無理に不確定要素の多い近距離戦をする必要は無い。
今の俺には心強い仲間―――米軍エースエージェント、リサ=ヴィクセンがいるのだから。
ここはM4カービンの斉射に巻き込まれない位置に逃げて、彼女が攻撃しやすい状況を作るのがベストだ。

弥生と冬弥は俺が下がったのを見て、これ以上攻撃しようとはせずに入り口から逃げ出そうとしていた。
しかしそうは問屋が、女狐さんが卸さない。
俺の目には、リサがしっかりと弥生達の背中に照準を定めるのが映って―――
「―――え?」
俺の手元の携帯から、閃光が発された。

532破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:46:53 ID://a6FKMA






―――誰かの泣き声が聞こえる。
その泣き声で、橘敬介の意識は現実世界へと呼び戻された。
「う……僕は一体……?」
倒れた姿勢のまま目を開けると、軽くヒビが入っている白い天井が見えた。
すぐに、直前の記憶が蘇ってくる。
弥生と冬弥の突然の行動、そしてその後に起こった―――

「そうだ、みんなは!?」
痛む身体を起こした敬介の目に飛び込んで来た光景。
辺りに散らばっている、黒く焦げた木材。
立ち尽くす栞に、地面に座り込んで泣いているリサ。
そして。

「そ……宗一君……?」
黒く焼け焦げた、宗一の姿だった。
敬介はよろよろとした足取りで宗一の所へと歩いていった。
周囲の至る所に小さな赤い塊が散乱している。
敬介はゆっくりと、宗一の身体を抱き上げた。

533破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:48:35 ID://a6FKMA
体の右半分はまだ割と綺麗だったが、携帯電話を持っていた左腕の側は損傷が酷く、見るに耐えない状態だった。
しかし敬介は、目の前の光景をそう簡単には信じられなかった。
「け……怪我をしているだけに決まっている……かるい怪我さ……ほら……喋りだすぞ……今にきっと目をあける……。
宗一君……そうだろ?僕達を驚かして楽しもうって……ちょっと茶目っ気を起こしただけだろう?もうちょっとしたら何事も無かったみたいに起きてくれるんだろ?」
語りかけるが、宗一の口から言葉が紡がれる事は無い。
敬介の腕の中の宗一の身体からは、重力以外の力は何も伝わってこない。
「ほら、リサ君達が悲しんでいるよ……もう良いだろ?起きて……起きてくれ……!頼む……起きてくれ宗一君っ!」
敬介は宗一の体を乱暴に揺さぶって、それからはっと気付いて宗一の手首を握り締めた。
「そ……そんな、馬鹿な……あっけ……無さ過ぎる……」
宗一の脈は無かった……鼻と口に手を当てたが、呼吸もしていなかった。

脈と呼吸が無い状態で生命活動を維持していられる人間はいない。
もう、疑いようも無い。
冷たいように見える時もあるが本当は暖かい男。
秋子に追われていた敬介を身を挺して救ってくれた男。
そしていざという時は、どんな大人よりも遥かに頼りになる男。
世界Topエージェント―――Nastyboy、那須宗一は死んだ。

「やられましたね……」
半ば放心状態にある敬介の横から、落ち着いた声が掛けられる。
それは鹿沼葉子のものだった
「彼らの本命は奪った銃による攻撃ではなく―――恐らくはあの携帯に仕込んであった、爆弾……」
葉子は淡々とした口調で分析を続けている。
敬介は宗一の死体をそっと地面に横たえて、それから立ち上がった。
「な、何で……君は何でそんなに落ち着いているんだ?」
やり場の無い怒りを籠めて、冷たい顔をした葉子を睨み付ける。
「宗一君は君の仲間だっただろう!?僕達の仲間だっただろう!?彼が死んだっていうのに、何で平気そうな顔をしているんだっ!」
「―――黙りなさい」
捲くし立てる敬介の声が、ぴしゃりと一発で撥ねつけられる。

534破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:50:03 ID://a6FKMA
「騒いでも宗一さんは生き返りません。それよりも今やれる事をしなさい。少なくとも私はそうします」
葉子はくるっと踵を返して、敬介達がいる方とは反対側に足を踏み出した。
「何処へ?」
「決まっているでしょう。私はこれから弥生さん達を追って―――殺します」
無論の事、それは嘘だった。
ただこのメンバーから離脱する理由が欲しかっただけだ。
リサの真の実力を知らない葉子にとって、宗一を失ったこの面子には何の利用価値も無かった。
足手纏いの世話などするよりも、郁未を追って合流するべきなように思えた。

「そういう訳ですので、私はこれで失礼します。では―――」
葉子はそう言うと、唖然としている敬介の方をもう一瞥もせずに入り口の扉を開けて歩き去っていった。







―――あの爆発の瞬間。
リサが驚異的と言える反射速度で栞を抱えて後退した甲斐あって、栞は殆ど無傷だった。
しかしその代償はあまりにも大き過ぎた。
那須宗一の身体は、栞とリサの視界の中で爆発に飲み込まれた。

535破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:51:50 ID://a6FKMA


そして今、リサは力無く地面にうずくまっている。
栞は信じられない思いだった。
あのリサが―――とても強くて気丈なリサが、泣いている。
「わ……わた……私が……あの人達を……中に入れたから……」
「リ、リサさん……」
「私が……うっ、うわぁぁぁぁぁぁっっ!」
「リサさん、リサさんっ!しっかりしてください!」
栞は叫びながら座り込むと、リサの肩を掴んで懸命に言葉を投げかけた。
しかしその言葉が今のリサの耳には届いていないのか―――リサの嗚咽は止まらない。

「だ……め……駄目よ……。私のせいで……宗一は……」
「リサさん、落ち着いてください!リサさん一人の責任じゃありません!」
「いっそわたしも宗一の後を追って死ねば―――」
そこで、パチンという高い音が聞こえた。
「そんな事言う人……嫌いです」
栞がリサの頬を叩いたのだ。
リサは頬を押さえて、眼前にいる人物をまじまじと見つめた。
震える肩、潤んだ大きな瞳、そして―――白くて小さい手。
栞はこんな華奢な身体で、リサを励まそうとしている。
その姿がリサに再び立ち上がる気力を与えた。

リサは掌でごしごしと涙を拭き取り、両の足で地面を踏みしめて直立した。
そして手を差し出して、栞も立ち上がらせる。
「ごめんなさい……今は泣いてる場合じゃないわね」
「リサさん……」
「ともかくこの場を離れましょう、ゲームに乗った人間に知られた以上診療所はもう危険よ」
弥生達が再び襲撃してくる可能性は十分にある。
正面勝負なら自分が負ける事はありえないが……間違いなく弥生達は正面からは仕掛けてこないだろう。
何か策を講じて、勝算が生まれてから動くはず。
ならばこちらも警戒して動かなければいけない。
一般人など相手にならないという油断が―――宗一を死なせてしまったのだから。

536破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:52:58 ID://a6FKMA
リサと栞は立ち尽くしている敬介の方へゆっくりと歩を進めた。
敬介はいまだ心ここにあらずといった感じで、何かを考えているようだった。
「敬介、ここは危ないわ。移動しましょう」
リサが切り出すと、敬介は申し訳無さそうにゆっくりと首を横に振った。
「すまない、僕にはしなくちゃいけない事があるんだ」
「と言うと?」
敬介は軽く息を吸って、それからリサの目を真っ直ぐに見ながら言った。
「僕は観鈴を探してくるよ。国崎君との約束もあるし……何より僕自身がそうしたいんだ」
「……分かったわ。それじゃここでお別れね」
「ああ。僕が無事に観鈴を保護出来て、また会う事があれば……その時は一緒にこの殺し合いを管理している人間を倒そう」
「あの……敬介さん。どうか―――ご無事で」
栞の言葉に頷くと、敬介は体を翻して診療所の外へと走り出した。

リサと栞も荷物を持って外に出て、敬介の背中が森の中に消えるまで見守っていた。
だがその時、リサの頭の中に浮かんでいたのは敬介の安否を気遣う心では無かった。
職業病の域にまで達している彼女の冷静な思考は、既に今後の展望を考えていた。
(エディも……宗一も……死んでしまった。いまだ脱出の手掛かりも無い…………。私は本当にこのゲームを止められるの……?)
リサは焦る気持ちを誤魔化すように親指の爪を噛み続けていた。

537破滅への序曲:2007/02/26(月) 19:54:27 ID://a6FKMA
【時間:2日目16:30頃】
【場所:I-7診療所】

リサ=ヴィクセン
【所持品:鉄芯入りウッドトンファー、支給品一式×2、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)、携帯電話(GPS付き)、ツールセット】
【状態:診療所を離れる、体は健康】
美坂栞
【所持品:無し】
【状態:リサに同行、体は健康】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態:観鈴の捜索、身体の節々に痛み、左肩重傷(腕を上げると激しい痛みを伴う)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て治療済み)】

鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態①:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、激しい動きは痛みを伴う)。マーダー】
【状態②:まずは郁未の捜索】

篠塚弥生
 【所持品:包丁、FN Five-SeveN(残弾数12/20)、ベアークロー】
 【状態:マーダー・脇腹に怪我(治療済み)目的は由綺の復讐及び優勝】
藤井冬弥
 【所持品:暗殺用十徳ナイフ・消防斧】
 【状態:マーダー・右腕・右肩負傷(簡単な応急処置)目的は由綺の復讐】

那須宗一
【所持品:無し】
【状態:死亡】

【備考】
・FN P90(残弾数0/50)
・聖のデイバック(支給品一式・治療用の道具一式(残り半分くらい)
・ことみのデイバック(支給品一式・ことみのメモ付き地図・青酸カリ入り青いマニキュア)
・冬弥のデイバック(支給品一式、食料半分、水を全て消費)
・弥生のデイバック(支給品一式・救急箱・水と食料全て消費)
上記のものは車の後部座席に、車の燃料は残量75%程度、車の移動方向は後続任せ

(関連:710)

538夜明け前より闇色な:2007/02/26(月) 23:59:07 ID:hEHeXMMM
距離が近かったせいか、運がいいかどうかは知らないが、まあとにかく一ノ瀬ことみ&霧島聖の頭脳派コンビは目的地の学校まで辿りつくことが出来た。
まだ時刻が夜明け前だからだろうか、鎌石村小中学校は闇に照らされて不気味にそびえ立っている。それはあたかも、怪物がまさに獲物を呑み込もうと大口を開けているようにも見える。
一ノ瀬ことみはその一種独特な雰囲気に飲まれそうになるが、頭の中で般若心経を一回唱えることで解決した。
心頭滅却すれば火もまた凉し。ぶいっ。
「――で、ここに来た理由を説明してもらおうか、何故かは知らんがVサインをしていることみ君」
どうやら行動に出してしまっていたらしい。ことみは「特にVサインに理由はないの」としれっと言った後、校舎を見上げて言葉を続ける。
「それは…また後で。取り敢えず私についてきてほしいの」
トントン、と首輪を指で軽く叩く。聖はそれで事情を察して、黙って頷いた。
「…分かった。どこに行くつもりだ?」
「職員室」
言いながら、ことみは首を振って目的地がそこでないことを示す。聖が再び頷く。
「分かった、行こう」
口裏を合わせる。ことみは聖が聡明な人で良かった、と思う。頭の中に浮かぶ友人の面々は…悪いとは思ったが、絶対にしくじりそうだと思った(特に杏ちゃん)。
校舎の方へ歩いて行くと、部屋の一部分に明かりが灯っているのに気付いた。同時に、いくつかの窓が割れているのにも。
「…先客がいるらしいな」
聖がベアークローを構える。ことみも慌てて十徳ナイフを取り出す。正直な話、戦闘にはまったく自信がない。頼りは聖だが…果たして、戦闘能力はどれほどなのか。職業、性別、(見た目から判断した)年齢、性格から計測すると――
「ちーん、沖木島に墓標がふたつ」
「…おい、何を物騒な想像をしている」
ぎらりっ、とベアークローの刃がことみを向いて、光る。
「冗談でもそんな想像はするんじゃない」
「ご、ごめんなさい…」
半殺しにされた挙句また治療されて以下無限ループでは洒落にならないと思ったので素直に謝る。それに、さっきのはいきすぎた、と自分でも思った。
「ことみ君よ、君は私の事を弱いと思っているんだろうが…」
にやり、と聖が笑う。違うの? と言いかけて今度こそ半殺しになると思ったので、言わない事にした。
「私は強いぞ。それはもう、並大抵の…そうだな、人形遣いくらいは楽勝だ」
比べる対象がいまいち分かりにくかったがとにかく腕っ節に自信があることは分かった。

539夜明け前より闇色な:2007/02/26(月) 23:59:38 ID:hEHeXMMM
そうこうしているうちに開いている扉を発見する。どうやらここから入れるようだった。無論、侵入者には警戒しなくてはならない。
聖を前衛に、抜き足差し足で潜入する。聖が前方を、ことみが後方を警戒する。しばらく進んでみるが…異様なほど、静かだった。音はと言えば、木製の床がゆっくりと軋む音くらいだ。
「やけに静かだ。物音一つしないな…どうする、ことみ君」
どうする、というのはこのまま真っ直ぐことみの考える目的地へ向かうか、それとも警戒して別の部屋から探索していくかということだ。
ここに潜んでいるマーダーがじっと身を潜めている可能性はある。あるいは怯えた参加者の一人がいるということもある。誰もいないという可能性もあった。考えていけばキリがない。
ならば行動は迅速。下手に動き回って危険に身を晒す可能性を高めるよりも素早く目的地へ行き、目的を達成するのが最上だ、とことみの脳内コンピュータが叩き出す。
「真っ直ぐ、視聴覚室へ」
了解、と一声応じて再び歩き出す二人。…が、同時にあることに気付いた。
「「視聴覚室って、どこ?」」
     *      *     *
結局あちこち歩き回った挙句視聴覚室を見つけて入った時には、二人からは当初の緊張感は失われていた。かなり動き回ったにもかかわらず物音が何もしないので、『ここには誰かがいたがもう用済みになって出ていった』ということで一応の結論をみた。
「まったく…電気が付けっぱなしになっているから慎重になってみたが…拍子抜けしたぞ」
「ともかく、一応は安全だと分かってめでたしめでたし」
電気がついていた部屋は二箇所あったが、誰かが潜んでいる可能性を考えてこの二部屋は後回しにしたのだ。明かりが消えている部屋のどこにも視聴覚室はなく、残された二つのどちらを調べるか、ということになり一階よりは三階にありそうだ、とのことでこちらから探した。
「しかし、視聴覚室に明かりがついている、そしてここにあるパソコンの電源がまだついているということは」
「…誰かが、パソコンをいじったということになるの」
今は二人でそのつけっぱなしになっていたパソコンを、ことみがあれこれいじくり回している。
聖には何やら分からぬプログラム言語をあれこれ打ち込んでいるが時折警告音が鳴るだけで、成果は芳しくない、ということは聖にも分かった。
「うーん…やっぱり俄仕込みの知識じゃ限度があるの」
ことみが首を捻る。どうもだめということだろう。
「で、結局何をしようとしていたんだ? そろそろ私にも教えてくれないか」
「えーっと…」
ことみがマウスを動かし、メモ帳を開いた。これで会話しろ、ということか。
聖にもキーボードを打つくらいの操作はできる。
『しばらくどうでもいい会話をするから、口裏を合わせて欲しいの』

540夜明け前より闇色な:2007/02/27(火) 00:00:05 ID:lO49iZVw
コクリ、と聖が頷いたのを確認して、ことみが言葉を続ける。
「何か首輪に関するデータがないかと思ってあちこち調べてたんだけど…結局何もなかったの」
「まあ当然だろうな、外されたらそもそも殺し合いなど成り立たなくなる。そんなものが都合よくあるわけがない」
『先生、お上手』とことみが打ち込む。ニヤリ、と聖が笑った。
「うん、でも些細な事でも情報が欲しかったから」
「まあな…だが、ここには何も無さそうだな。ここでは打つ手はないのか?」
「私達だけで出来ることは…もうほとんどないと思うの」
さも深刻そうに言って、ことみが『本当は、ハッキングを試みていたの。首輪を管理するにはそれ相応の大きさのコンピュータが必要だと思ったから』と打ちこんだ。
この演技派め、と聖は思いつつ横から打ちこむ。『で、それは失敗したわけか』
「だから、誰か技術を持っている人を探せれば…」
そう言いながら、器用にことみは文字を打ってみせる。『うん、私の得意なのはコンピュータじゃなくて、物理学とかの理論なの。まあそれはおいといて…さてここで問題です。この島の電力はどこでまかなっているでしょう?』
いきなりクイズか? と思ったが聖も疑問に思った。地図で見る限り、発電所などはどこにもない。本来の沖木島なら本土からの送電もあり得るが…前に考察した通り、ここは本物の沖木島ではない。
ことみが続けて打ちこむ。
『可能性としてはみっつ。この島から離れた…そう、どこかの大陸か、海中か、あるいはこの島の地下』
「ああ、なるほど…」
仮初めの会話にも、筆談にも通じる言葉で応じる。ことみが『…先生、面倒くさがり』と不満そうに打ちこむ。
『…でも、一番可能性が高いのは地下なの。海中なら電力ケーブルは不可欠だから、もし切れたら大惨事。大陸でも万が一首輪を外されたら確認しに行くのが大変。下手したら乗ってきた船ごと強奪されてあら大変』
まあよくもこんな軽口を叩けるものだと聖は感心する。
「しかし、ことみ君でも出来ない事はあるんだな。物知りだからパソコンも詳しいと思ったんだが」
聖が言っている間にもことみがキーを叩き続ける。『だから、首輪を外された時でもすぐに確認に行けるように中枢部は地下にあると考えるのが妥当。そして、その入り口は必ずこちらからも入れるようなところにあるはず』
一旦切ると、仮初めの会話に戻ることみ。
「人間そんなに上手くはできてないの。ハッキングなんてだめだめのぷー」
よく言うよ、と内心で笑う。『しかし、島のどこを探す? ハッキングできない以上位置も調べようがないんじゃないか? 首輪をわざと外しておびき出すのもいいが…』

541夜明け前より闇色な:2007/02/27(火) 00:00:34 ID:lO49iZVw
『いい線行ってるの、先生。最終的にはそれを使うけど…まず用意するものがあるの』
「…ま、それは仕方ないな。それじゃあ人探しか…どこから探す?」
言いながら、打ちこむ。
『何を?』
『爆弾』
ニヤリ、と今度はことみが笑った。聖は絶句しかけたが…ことみは余裕で続ける。
『作り方さえ知っていれば案外簡単に作れるの。極端な話、ナトリウムを水の中にどぼーんと入れるだけでも十分に爆弾足り得る性能があるから』
なるほど。医者の勉強をする過程で化学はやっていたが…確かに、色々方法はある。
『何を使うんだ? ここが学校ということは…そこから頂戴するんだろう? 材料を』
「えっとね…」
『冴えてるの、先生。元々ここにはそのつもりで寄ったから。それで、必要なのは…硝酸アンモニウムと、灯油と…それから、雷管』
「まずは、予定通り灯台へ向かったほうがいいと思うの」
『雷管はまた別に作るけど…家庭用品で作ろうと思えば作れるから』
『ちょっと待て』
聖が止めに入ったのを、『???』と打ちこんで疑問の意を表すことみ。構わず、聖はツッコむ。
『どうして雷管の作り方なんて知ってるんだ』
物知りだとは思っている。が、これはおかしいんじゃないか。仮にも学生だ。そんなことを知っているわけがないのである。爆弾とは言っても火炎瓶だとかそれくらいの簡易的なものだと思っていた。しかし、ことみはさも当然のように、打ちこんだ。
『ご本で読んで覚えたの』
『何のご本、なんじゃーーーーいっ!!!』
叫びたいのをギリギリ、理性で押さえてチョップでツッコむ聖。
『いぢめる? いぢめる?』
目の端に涙を浮かべるアブナイ天才少女ことみちゃん。更にツッコもうとした聖だが会話が途絶えるのを危惧して本当に言いたい事を喉の奥に押しこみ、冷静な口調を装って言った。
「…そうだ、な。灯台へ行こう。佳乃も…探したいし、な」
『ち、ちなみに図書館に寄贈されてあった化学の専門書で、内容は』
『説明せんでええわいっ!』
メモ帳の中で喧嘩漫才を繰り広げる仲良しコンビ聖&ことみ、略してNHK。あーそこそこ。料金滞納は勘弁してくださいねぇ。
「…まあ、その前に、ちょっと休憩しよう、か。慎重に探っていたせいで疲れただろう?」
このまま二重に会話を続けるのに疲れ始めた聖はメモ帳の会話だけに集中したいと思い、そう提案した。ことみは未だ涙目ながらも素直に「うん。それじゃ各々ちょっとお休みなの。私はもうちょっとパソコンをいじるけど」と言った。

542夜明け前より闇色な:2007/02/27(火) 00:01:13 ID:lO49iZVw
キーを叩く音を感づかれるのを警戒しているのだろう。聖はゆっくりと頷いた。
はぁ、と一息いれて窓の外を見る。日はまだ見えないが、もう少ししたら夜明けだ。
だが…この漫才はまだまだ続きそうだ、と聖は思うのだった。

【時間:二日目午前5時半】
【場所:D-6】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:精神的に疲労】
一ノ瀬ことみ
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯】
【状態:健康。爆弾作りを目論む】

B-10

543ココニイルトイウコト(前編):2007/02/28(水) 20:31:49 ID:fLx5V8H2
「ふう。ここまでは何とか無事にこれたけど……」
「貴明さん、本当に大丈夫なんですか?」
「そうよ。ただでさえそんなズタボロな体なのに……」
梓、皐月と別れた貴明たち一行は神塚山を経由して氷川村へと急いでいた。
しかし、貴明が藤井冬弥、少年との戦いで受けた傷のダメージは、ささらたちが負った怪我とは違い、未だ癒えたわけではない。
それが災いし、3人の足取りは決してスムーズというわけにはいかなかった。
「先輩たちの気持ちは嬉しいですけど、さすがに今は弱音なんて吐いていられませんよ。
まーりゃん先輩が他の罪もない人たちを殺すのを止めるためにも、俺たちは一刻も早く人が集まりそうな場所へ行ってあの人を見つけなきゃ……」
「ですが……」
「貴明、確かにあなたも男とはいえ――――ん? ねえ2人とも……」
「なんだ?」
「はい?」
ふと貴明に意見しようとしたマナが何かに気が付いたように足を止め貴明とささらを呼び止めた。
「――何か聞こえない?」
「えっ?」
マナがそう言ったので、貴明とささらも耳を済ませてみる。
すると――――

『―――ぴー!』
『ちょ――まちな――タン!!』
『杏さ――待ってくだ――』

何かの動物の鳴き声と2人の女の子の声が微かに聞こえてきた。
そしてそのうちの1つはささらには馴染みある人物の声であった。

544ココニイルトイウコト(前編):2007/02/28(水) 20:32:22 ID:fLx5V8H2
「この声は――ゆめみさん?」
「ゆめみ?」
「それって、ささらや真琴たちと一緒に行動していたって言うあのコンパニオンロボットの?」
「はい。あ……」
その時、ゆめみのことをもう少し詳しく2人に説明しようとしたささらの目の前を1匹のウリ坊が駆けていった。
もちろん貴明とマナもすぐさまそれに気づいた。

「……猪の子供?」
「うん。そう……よね?」
「なんでこんな所に……ん?」
この島には獣の類である野生動物も結構いるのだろうか、などと貴明が思っていると、ウリ坊が走ってきた方から今度は2人の少女が息苦しそうに走ってくることに気が付いた。
――1人はストレートに伸ばした髪にリボンをした学生服の少女。もう1人はツインテールで見慣れない服をした少女であった。
そして後者の子は貴明がささらから聞いたほしのゆめみというロボットの特徴とぴったりと一致していた。
「そうか、あの子が……」
「ゆめみさん!」
貴明が言い終わるよりも早く、2人の少女の存在に気づいたささらが彼女たちに向かって叫んだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ちょっと、本当にどうしたのよボタンは!?」
目の前を黙々と突っ走るボタンを追いながら杏はゆめみに尋ねる。
「わ……わたしに聞かれましても〜〜〜…………」

話は少し前に戻る。
休憩を終えた後、荷物が重いからという理由で杏はデイパックからボタンを出していた。
その後、一向は高槻が言っていた暗くて長いトンネルを迂回しようと南へしばらく歩いていた。
その途中、ボタンが何かを感じとったのか、それとも見つけたのか知らないが、いきなり猪突猛進とばかりに神塚山の方へ走り出したのである。
それは本当に突然の出来事であった。

545ココニイルトイウコト(前編):2007/02/28(水) 20:32:54 ID:fLx5V8H2
「杏さん。ボタンさんのこういう行動は今までもあったんですか?」
「う〜ん……たま〜にあったような、なかったような…………。それにしても……この山……結構きついわね……」
「だ…大丈夫ですか?」
「ま、まだまだ大丈夫よ……ん?」
杏がゆめみに苦笑いを浮かべながら言い返すと同時に、すっと前方に3人の人影が姿を見せた。
「あれ? 人がいる……?」
「え? あ……! あの人は…………」
前を向いたゆめみが前方の人影のうち、1人の正体に気づいたのと同時に――
「ゆめみさん!」
ゆめみが会いたかった人の1人の声が杏とゆめみの耳に聞こえた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「――――ということは、杏さんもこのゲームには乗っていないんですね?」
「あったりまえでしょ」
やや風が強くなってきた山を歩きながら、貴明たち5人はボタンを探していた。これまでそれぞれの身に起きたことを一通り説明し、情報を交換しながら――――
「そうですか……あの後またあの男の人が……」
「はい。そして沢渡さんは……」
「――もしかして、その岸田って男も私たちが倒した少年と同じ主催者側の人間……」
「いえ……それはないと思います。あとから気づいたのですが、あの人は首輪を付けていなかったので……」
「興味半分、面白半分で殺し合いに乱入したってこと?」
「おそらく…………」
「――許せないな……そいつ…………」
貴明は誰にも聞こえないようにボソリとそう呟いた。

(――殺し合いを楽しんでいるっていうのか? ――ふざけるな! 人は……人の命は遊びの道具じゃない! これならまだ少年の方が遥かにマシだ!!
――ただ己の自己満足を満たすためだけに罪もない弱者を踏みにじるこの殺人ゲームの主催者……そして岸田洋一……俺は…いや、俺たちはお前たちだけは絶対に許さない!!)
貴明の中で主催者に対する怒りの炎が燃え上がった。

546ココニイルトイウコト(前編):2007/02/28(水) 20:34:37 ID:fLx5V8H2
「それと、これは鎌石村に行く途中だったんだけど………あっ。いたいた……ボタン!」
「ぷぴっ!」
しばらく歩いていると、貴明たちは無事にボタンを見つけ出した。
「もう、急にどうしたのよ? 私心配して……っ!?」
ボタンに駆け寄ろうとした杏だったが、突然その足を止めた。
「? どうしたの杏さ……うっ!?」
不思議に思い、マナたちも杏に近づく。すると、マナたちの目にも『ソレ』が映った。

――矢が刺さったデイパックと黒いコート。そして……銃で撃ち殺された1人の男の死体――――

「――ボタン……これの匂いを嗅ぎつけたのね?」
「ぷぴっ……」
ボタンをそっと抱き上げる杏をよそに貴明たちは男の亡骸と、彼の物であろうコートとデイパックに目を向けた。
「この矢は……もしかして…………」
「ああ、間違いない……まーりゃん先輩の持ってたボウガンの矢だ……」
「そんな……」
「それにこの人、銃か何かで背中から胸を撃ち抜かれて殺されている……。ということは今のまーりゃん先輩は銃も持っているってことだ……」
貴明のその言葉を聞いたささらたちに重い空気が流れた。
――自分たちは遅すぎたのか? もうあの人を止めることは出来ないのか、と……
「出来ることなら、別の誰かが先輩からボウガンを奪い取ってこの男を殺したと思いたい……」
そう言うと貴明は男の亡骸を仰向けに寝かせ、両手を胸の当たりで組ませた。簡単な弔いである。
「貴明さん……」
「――行こうか」
そう呟くと貴明は男の者であろう黒いコートを手にゆっくりと山を下りていった。
そんな彼の背中はささらたちには寂しそうにも見え、そして、恐ろしく見えた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇

547ココニイルトイウコト(前編):2007/02/28(水) 20:35:08 ID:fLx5V8H2
貴明たちが神塚山を下りた頃には既に夕陽が西の空に沈みかかっていた。
そのため、貴明たちはやむなく近くの鷹野神社に立ち寄り、翌日の朝まではそこを拠点として急速を取ることにした。
本当は貴明はすぐに氷川村にも行きたかったのだが、ささらとマナがそんな彼に対して「さすがに今日はもう無理をしないほうがいい」と言い出し、杏やゆめみにまで「休んだほうがいい」と言われてしまったためついに折れてしまったのである。

「――わかったよ……その代わり、少し周辺を見回りしてきていいかな? それが終わったら休むから……」
そう言って貴明はささらたちにステアーと鉄扇以外の物を預けると、周辺の見回りをすることにした。



――――ふと感じる。
俺の中から『何か』が少しずつ削り取られ、代わりに『何か』がゆっくりと侵食していくのが。

それが何なのか俺には判る。

――削り取られているのは『掛け替えのない日常』。侵食していくのは『怒り』や『憎悪』といったどす黒い感情だ。
そしてその黒い感情は主催者や岸田という男のような人間に対するものであると同時に、まーりゃん先輩のようなゲームに乗り人を殺す人たちに対するものだ。

失ってからはじめて判る、掛け替えのない大切なもの――それを失った俺の怒り矛先はどこにいくのだろう?
――――決まっている。主催者、そしてゲームに乗った奴らにだ。

もしかしたら、まーりゃん先輩も俺の手で…………



(――こればかりは久寿川先輩たちに言えないよな……)
神社に戻ろうとした貴明であったが、その時、茂みの中に日の光を反射して何か光るものを見つけた。

548ココニイルトイウコト(前編):2007/02/28(水) 20:36:40 ID:fLx5V8H2
「これは……銃? ――って、重っ!? リボルバーみたいだけど、皐月さんのリボルバーよりも遥かにデカいし重いっ!」
貴明は茂みの中に見つけたソレ――フェイファー ツェリザカを手に取ると、その重さと大きさに一瞬度肝を抜かれた。
「弾丸は……弾切れみたいだな…………誰かが放棄したのか? まあ無理もないか……こんなに重――――」
重いんだから荷物になっちゃうよな――そう言おうとした貴明であったが、その言葉が彼の口から出ることはなかった。

――なぜなら、貴明は見つけてしまったから……
「イルファ……さん……………?」
そう。かつてイルファと呼ばれていたメイドロボの成れの果てを…………



 【時間:2日目・17:15】

河野貴明
 【場所:鷹野神社周辺】
 【装備品:ステアーAUG(30/30)、予備マガジン(30発入り)×2、仕込み鉄扇、良祐の黒コート】
 【所持品:フェイファー ツェリザカ(0/5)】
 【状態:左脇腹、左肩、右腕、右肩を負傷・左腕刺し傷・右足、右腕に掠り傷(全て応急処置および治療済み)、半マーダーキラー化】
 【思考】
  1)イルファさん……
  2)俺は……下手をしたらまーりゃん先輩も殺すかもしれない……
  3)主催者を……殺す!
 【備考】
  ※情報交換により岸田洋一を危険人物、抹殺対象と認識しました
  ※聖、ことみの死については杏が未だ話していないので知りません


※ルートB−13
※他のキャラの状況、所持品は後編にて

549深夜の奇襲4:2007/03/01(木) 01:19:04 ID:Homp4jlU
「動かないで」

告げられた言葉に、逃げ場のないことを思い知らされる。
構えたマグナムの引き金を引くのと、自分の首にあてがわれた日本刀が振り払われることのどちらが速いか。
いや、速さだけならばほぼ同時かもしれない。しかしそれでは意味がない。
自分が命を落としてしまっては、本当に意味がない。

「・・・・・・降参よ」

だから、柚原春夏は静かにマグナムを放ると共に両手を万歳の体勢に持っていき、そう宣言したのであった。





「耕一、大丈夫?」

俯いたまま大人しくしている春夏のその向こう、仲間の一人に問いかける。

「ああ、マジ助かった」

柏木耕一の答えを聞き、彼の窮地に間に合うことができたということを実感できた川澄舞は、ほっと一つだけ息を吐くのだった。
鼓動の高鳴りはまだ続いている、表には出さないが本気で走り続けてきたので体力自体はかなり消耗している。
そんな彼女の元へ、春夏の剥き出しであった敵意に抑制がかかったことにより身動きをとることができるようになった耕一はすかさず回りこんできた。

「長岡さんと吉岡さんは・・・・・・」

一緒に逃げたはずの二人が見当たらないことからだろう、不安そうに聞いてくる。
長岡志保の知り合いでもある保科智子等と合流した旨を伝えると、彼もやっと安心したような笑みを浮かべた。

550深夜の奇襲4:2007/03/01(木) 01:20:00 ID:Homp4jlU
・・・・・・短時間とはいえ、足止め役として場に残らせてしまった耕一の疲れは目に見えている。
早く彼を休ませるためにも、吉岡チエ等の下に戻らなければ。
しかし、そのためには春夏を何とかしなければいけない。

「・・・・・・」

すっかり大人しくなってしまった来襲者の背中を見やる、敵意はもう感じない。
どうしたものか。このまま首を撥ねることも可能だが、そのような行動を取る気は舞自身全くなかった。

そう、刀を構え続ける舞の脳裏に思い浮かぶのは、誰よりも大切な存在である倉田佐祐理の笑顔であり。
舞の中では彼女が悲しむような選択は消去されていた、それに敵意のある殺戮者ならまだしもこうして敗北を認めている様を見せつけられてしまっては手を出しづらいというのもある。

しかし、それでは埒が明かない。
殺さず野放しにした所で、また人を襲うかは分からない。
また、それではこのゲームに乗ってしまった人間を説得し更正出来るのかと言うと、口下手な自分では正直自信はもてない。
無言で舞が悩んでいる時だった。

「よくも・・・・・・住井君をやってくれたな」

いつの間にか来襲者が手放したマグナムを拾い上げた耕一が、彼女に向けてそれを構えていた。
反抗の兆しはない。静かに瞼を閉じた来襲者は、ただ最期の時を待っているようで。
怒りの形相でマグナムを構える耕一に、舞のような戸惑いの色は一切ない。
いつでも彼は、その引き金を簡単に引くことができたであろう。

「・・・・・・耕一」

声をかける。反応はない。

「耕一」

551深夜の奇襲4:2007/03/01(木) 01:20:42 ID:Homp4jlU
もう一度、声をかける。顔だけこちらを向けた彼の瞳には、絶対零度の冷ややかさが秘められていた。
彼がこのような残忍な表情を持つとは意外であったが、特に驚いた様子もなく舞は黙ってそれを見つめ返す。
耕一が口を開くことはない、舞の言葉を待っているのだろう。
しかし、話しかけたものの何と言えばいいのか。そもそも、この声かけには何の意味があるのだろう。
少しまた悩んだが、そうやって考えれば自然と台詞は口をついた。

「殺すの?」

ぽそりと何気ない調子で放たれたそれに対し、厳しい表情の耕一はますますそれを歪めながらも一応は問いに答えてくる。

「当たり前だ、こいつは俺達をめちゃめちゃにした。こんな・・・・・・こんなゲームに乗った人殺しは、人間の屑だ!」
「だから、耕一も殺すの?」
「・・・・・・何が言いたい」

もはや、修羅と呼んでもいいほどの迫力。しかし舞がそれに屈することはなかった。
普段通りのまま表に感情を出すことなく佇んでいる、あくまで冷静に事を進めようとしているのであろう。

そう、目の前の彼からは先ほどまでの疲労の色が一切消えてしまっていた。
怒りの方が上回っているのだろう、理性的に物事を考えようとしないのもそのせいかもしれない。

「何が言いたいんだって、聞いてんだよっ」

怒声を浴びせられても尚、舞は動じない。それが余計に耕一を苛立たせているのかもしれないが、舞に伝わるはずもなく。





そんな、気がついたら二人だけのやり取りを。舞と耕一は、していた。
春夏はそれに対し、ずっと耳をすませ続けていた。
耕一がマグナムを拾い上げた瞬間、もう自分の命は終わったものだと彼女も半分諦めていた。
しかし予想外、まさか乱入してきた少女の方が彼を止めるなんて。
二人の雲行きは怪しい、このままいけば仲間割れになるかもしれない。

552深夜の奇襲4:2007/03/01(木) 01:21:10 ID:Homp4jlU
・・・・・・春夏は待った、上手くいけば逃げおおせることも可能かもしれない。
銃口が逸れてさえくれば、相手も拳銃に対してはそこまで正確な射撃が出来ないことが先の撃ち合いで分かっている。
それまでは抵抗せず、どうなるか場を見極めることに対し注意を向け続けていた。

「川澄さん! 何で分かってくれないんだよ!!」

男が叫ぶ。正直この状況を自分が男の立場になった場合でも、春夏は同じような行動をとったであろうとふと考えた。
そう、もし目の前でこのみが殺されてしまったとしたら。殺害した参加者には必ず自ら手をかけ復讐を行うであろう。
だからこその憤り、ここでは「人を殺してはいけない」というモラルが上回る人間は厄介な存在になる。

(・・・・・・ふふっ、しっかり殺人鬼色に染まってきちゃったわね)

思わず自嘲、それは悲しい笑みだった。
しかし、今こそチャンスでもある。
男の矛先は自分には全く向いていない、春夏はしっかりと肩にかけたデイバックを握り締め走り出す準備をした。
そして、ついに男の銃口の角度がぶれだしたその時。

春夏は脱兎のごとく、駆け出した。







「なっ?!」

舞も、耕一も唖然となってその背中を見送るしかない。

「待てっ!」

553深夜の奇襲4:2007/03/01(木) 01:21:33 ID:Homp4jlU
叫ぶ耕一、手にしたマグナムで無茶苦茶に発砲を繰り返すものの手ごたえは全く感じられないようだ。
連射したことによる痺れが利き腕を支配し始めるが、耕一は止めることなく引き金を引き続けた。
そして、カチッカチッと弾切れの合図が出たところで。ゆっくりと、マグナムを降ろすのだった。

「耕一・・・・・・」

舞が呟くように声をかける。しかし耕一はそれを無視して、呆然と春夏の去っていった方向を見つめるばかりで。

「何でだよ・・・・・・」

渇いた声。こちらに振り返ることなく、耕一は吐き捨てるように言葉を紡ぐ。

「何でだよっ、何で止めたんだ!! あいつは住井君を殺ったんだぞ、俺達をめちゃくちゃにしたんだぞっ?!」
「耕一、落ち着いて」
「落ち着いてられるかよ、これが! なんつーことしてくれたんだ・・・・・・」
「耕一」

舞の言葉はあくまで平坦であった、そこに焦りと言ったものは全く見え隠れしない。
耕一だけが叫んでいた、耕一だけが感情を高ぶらせていた。これでは先ほどと同じである。

彼にとってそれすらも怒りの対象となっているという事実に、舞は気づいていないのであろう。
彼女は焦った面を覗かせることもなく、淡々と耕一に問いかけた。

「耕一は、そんな簡単に人を殺そうと思うの?」
「そういうんじゃない、そういうんじゃないんだよ! 俺はただ、住井君の敵を・・・・・・」
「本当に?」
「当たり前だろう!!」
「今の耕一は、ストレート過ぎる。周りが見えていない。敵とかじゃない、あの人を殺すことを目的にしていた気がする」
「何だよ、それ・・・・・・」

554深夜の奇襲4:2007/03/01(木) 01:21:55 ID:Homp4jlU
言い返してはいるが、耕一の語気は明らかに弱弱しくなっている。そこを舞は見逃さなかった。

「私は違う。絶対、そんなことはしない」
「・・・・・・どういう、ことだよ」
「悲しませるようなことは、しない」
「何がだよ! あいつの家族や、友達が泣くからとかそういう理由なのか?! そんなの・・・・・・」
「佐祐理が悲しむから。だから殺さない」

きっぱりと、言い放たれたその二言。
佐祐理。倉田、佐祐理。耕一の頭の中でリフレインするその固有名詞は、知り合った頃に舞の口から聞いた覚えがあるものだった。

「祐一も、きっと悲しむ。私は魔物を討つ者だ、そのためにずっと剣を振るってはいた。でも、人を殺めるのとそれは、違う」

口数の少ない彼女が、嫌に流暢に話す様を。耕一は、じっと見つめていた。
そして、そんな舞の言葉を噛み砕きながらゆっくりと瞼を閉じ。
冷静に、彼女の言い分を考察しようとする。

「・・・・・・死ぬんだぞ」

ぼそりと。
脅すかのような低い声色、意識した物ではなくそれは自然と漏れたものだった。
短い髪をクシャッと掻き分け、目を逸らしながら耕一は抗議する。

「相手が殺る気ならこっちだって殺らないと・・・・・・死んだら、お終いなんだぞ」
「そうならないために、私も努力する。守ってみせる」
「誰をだよ、この島にいる全員をか?! 馬鹿げてる」
「・・・・・・」
「だから、殺さないのか?」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板