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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

138異変:2006/12/30(土) 19:20:00 ID:1JVtKIyQ
宮内レミィ 死亡

ささら・真琴・郁乃・七海の支給品は部屋に放置
(スイッチ&他支給品一式・スコップ&食料など家から持ってきたさまざまな品々&他支給品一式・写真集二冊&他支給品一式・フラッシュメモリ&他支給品一式)

【備考:食料少し消費】
(関連・428・442・539)(B−4ルート)

139謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:06:04 ID:I.kDtdm6
「・・・あけまして、おめでとう」
「なぁ、ぶっちゃけ二番煎じなんか寒い以外の何物でもないんじゃないのか」
「いいの。何もしないより、まし」
「そんなもんかよ・・・」
「こちら、避難板にてお送りしますは川澄舞と」
「柊勝平になります・・・って、何で俺等この寒空の中実況してんだよ!寒いよ凍えるよ徹夜は禁止されてんだよっ!!」
「・・・?」
「あーもうつっこめよ!既に終わってるってつっこめよっ!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・所詮、裏方。おこたにみかんは我慢する」
「そっちじゃねー!!!!」
「・・・?」
「もういい、もういい・・・先いってくれ・・・」
「昨年は、色々あった」
「良かったな、俺は殺されてばっかで語ることがなくて困るよ」
「私が耕一の姉に殺されたり、私が耕一を両断したり」
「おい?!新年早々縁起の悪い話題を出すな!」
「次は、あなたが両断される」
「あんたイヤな奴だな?!!」
「次は、あなたが凍結される」
「されないよ?!まだ生きてんだからそういうこと縁起でも言うなよっ!」
「・・・」
「・・・で、俺等ん所にはさ、何か電報みたいなのないのか?」
「ぽんぽこたぬきさん」
「いや、さ、ほらでっちげでもいいからそこは否定するなよ・・・」
「はちみつくまさん」
「どっちだよ?!」
「・・・これなら、ある」
「ああ?なになに・・・って、これ来週予告じゃないかよ・・・」

140謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:06:52 ID:I.kDtdm6
「大丈夫。耕一の見せた決意は他のルートがカバーするから」
「そうなりゃいいけどよ」
「安心して、B-13の耕一は永眠すべし。私もするから」
「いや、ちょ・・・しんみりさせるなよ・・・」
「B-13の勝平も永眠すべし」
「もうしてるよ?!!」
「・・・他ルートも、もっと盛り上がって欲しい・・・D-2の私はかっこいいからオススメ」
「いや、でも正直厳しいんじゃね?多分これが凄い的を得ていると思うけど」



561 :名無しさんだよもん :2006/12/12(火) 17:54:43 ID:kAyq0lzeO

言うのは簡単だけど書いて見ると結構きついんだよなあ
キャラごとの関係が複雑になるに連れて全部のルートのキャラ把握なんか混乱して無理…
出来るだけいろんなルートで使い回せる話書いてたりもしたけど さすがに限界感じて一つに絞ったなあ
書いてればわかるから書き手は感じてると思うけど、読み手に比べて目茶苦茶少ないんだよね
とりあえずどのルートでも良いから書いて欲しい、ここじゃなくて投稿スレで盛り上げて欲しいと思いました

141謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:08:02 ID:I.kDtdm6
「・・・他ルートのまとめサイトも、あればいいのに。そうすれば事実関係確かめるのも楽チン」
「前にまとめサイト作りたいって言ってた人は、もういないのかね・・・あの頃はまだB-9とB-10だったっけか」
「・・・本当に需要があるのであれば、私が作ってもいい。
 でもB-13以外書く時間が取れないっていう書き手が多いなら、結局は意味がないと思う」
「ちょ、自己解決しないでよ、ボクに意見求めてよ」
「私は分規制を分岐制として楽しみたい、その上で色々な展開を見たい。
 今はアナザーという楽しみ方もあるけれど、既存のルートをとにかく凍結させるだけというのは分岐制を生かしきれていなくて勿体無いと思う」
「だから、それは書き手の負担がだな・・・」
「B-11が凍結した今、既存のルートは少なくとも一人は書き手が残っている状態。
 これにより凍結は免れる、ペースも早くないし思いついたネタを暖めて後で投下とかもできる。
 メインみたいに即続きが投下されることなんてほとんどないんだから、予約発言をしても悪くないと思う」
「うーん、とにかくそれは書き手の興味の問題にもなっちまうからな・・・」
「それなら、例えばB-13に出そうと思っていたけれど話が被ってしまい投下できなくなった作品とかはどうだ。
 少し前、芳野長森コンビを書こうとおっしゃっていた方はそれをボツにされたようだけれど、あれはB-10なら当てはめることができたんだ。
 そういう意味で、あくまで視点をB-13だけに絞らず視野を広く持って欲しいと思う。それが私の意見」
「・・・いや、やっぱりそれは書き手の意思なんだから難しいって。変に押し付けるべきではないだろう」
「勿論分かってる。だから私の意見だと、言った。っていうか私が見たかったんだ、芳野長森コンビ」
「お前の好みかよ?!」
「メインもだけれど、既存のルートも皆頑張ろうと。それが言いたかったっていうのがメイン」
「そうだな、両立まではいかなくても上手くついていきたいな・・・」
「せっかく来週予告で触れられたから、この機を逃せないと慌てて話を振ったかいがあった」
「そういうことは言わなくていいんだけどっ?!!」
「とにかく、出番は終わり」
「そうか、これでやっと家に入れるのか・・・もう体冷え切ってるよ、たっく病人になんてことさせるんだか・・・」

川澄舞
【持ち物:なし】
【状況:ご機嫌】

柊勝平 体調悪化で死亡

142謹賀新年その2:2007/01/01(月) 03:09:45 ID:I.kDtdm6






「こら!状態を捏造するなっ、生きてるよ生きてる!!!」
「勝平、あっち。最後に別れの挨拶しないと帰れない」
「ああ?!もうさっさと終わらせてくれよ・・・」
「長文失礼しました、今年もよろしくお願いします」
「今年もよろしくお願いします!」
「ショウヘイヘ〜イ」
「呼んでどうするっ?!」




川澄舞
【持ち物:来週予告の紙】
【状況:ご機嫌】

柊勝平
【持ち物:なし】
【状況:つっこみ】

【備考:二番煎じスマソ】

143中盤戦:2007/01/03(水) 20:31:17 ID:PdnnCCjM
「ぐっ……」
「そ、宗一君……」
宗一が苦痛に顔をしかめる。
秋子が放った銃弾のうちの一つが、宗一の右太股の端を抉り取っていた。
自分が隠れている位置を中心に集中砲火を浴びせられたのだ。
それでも普段の彼なら余裕を持って凌げる攻撃だったが、今は条件が悪すぎる。
負傷して動きが鈍っている上に敬介を抱えての回避行動では、避け切る事が出来なかった。


「ヤバイな……次にダイナマイトがきたらもう凌げるか分からない……」
宗一は激しい痛みを気に留めず、冷静に戦況を分析していた。
足の状態は万全とは程遠く、俊敏な動きは望むべくも無い。
出血は……今すぐ動けなくなる程ではない。
だが、戦いが長引くに連れて体力は否応無しに削られていくだろう。
これらの条件から導き出される答えは一つ――――

「どうする?」
「あんたに頼みがある……一つだけ打開策を思い付いた。それは―――」







「呻き声がしたわ。何処に当たったか分からないけど、きっと敵の動きは鈍っている」
秋子はそう言いながら銃に新しいカートリッジを装填している。
カチャッ、と音を立てて決着を着ける為の弾丸が銃に補充された。

144中盤戦:2007/01/03(水) 20:33:24 ID:PdnnCCjM

「作戦はさっきと同じよ。私が拳銃であぶりだすから、澪ちゃんはダイナマイトでトドメを!」
澪がこくんと頷くのを確認して、秋子は壁から身を乗り出して銃を撃とうとし―――目を見開いた。

橘敬介が茂みから飛び出して、診療所の、秋子達が隠れている場所とは反対側の角に向かって走っていた。
(―――挟み撃ちにされる!?)
実際には敬介は何も武器を持っていない……裏に回られようと大した脅威には成り得なかった。
だがその事を知らない秋子にとって彼の行動は、十分過ぎる陽動となった。
秋子は焦りながらも銃口を敬介に向けるが、意表を付かれた上に相手が走っているこの状況下ではプロでも無い限り命中させる事は困難だ。
2発、3発と連続して弾丸を放つが当たらない。


―――そして予想外の出来事は連続して起きる。
「うおぉぉ!」
茂みから宗一が飛び出してきたのだ。
直後、宗一の銃が火を噴く。
秋子は咄嗟の判断で壁に身を隠していたので、その銃撃だけは何とかやり過ごせた。
だが宗一はそのまま勢いを止める事無く、激痛で痛む足を酷使し、壁に隠れる秋子に向かって突撃する。







「秋子さん!」
祐一は驚愕していた。
診療所にようやく到着しそうになった時、彼の目に飛び込んだのは見慣れた服装の人間だったからだ。
その女性は銃を手にし、壁の向こうを警戒しているようだった。
まだ距離があるので顔までははっきりと見えないが、あの服装は間違いない―――水瀬秋子だ。

145中盤戦:2007/01/03(水) 20:35:37 ID:PdnnCCjM
秋子の少し後ろでは、見知らぬ少女も秋子を援護しようとしていた。
「少年、知り合いか?」
「ええ、そうです!知らない女の子も一緒だ……きっと襲われてるんだ、助けにいきましょう!」
「ああ、分かった!」

急いで祐一達は走り始める。
祐一達の位置からは宗一が茂みから飛び出してくる様もよく見て取れた。
祐一は秋子本来の穏やかな人柄をよく知っている。
この状況で見知らぬ人間と秋子のどちらを信用するかなど、天秤にかけるまでもない。
祐一達は秋子の敵がゲームに乗った人間だと、すっかり勘違いをしていた。








(まだ……まだ駄目よ……)
秋子は宗一の足音にのみ意識を集中させ、冷静に距離を判断していた。
もう何度もチャンスは無いだろう―――引き付けて一撃で仕留める!
相手の正体は分からないが明らかに素人では無い……近距離で撃たなければきっと避けられてしまう。
だから秋子は、一撃に賭けていた。

(もう少し……もう少し―――――――――――今よ!)
秋子は壁から体を乗り出し、乗り出した時にはもう足音のした方へと撃っていた。
足音で距離を読むという事は、即ちおおよその位置も把握するという事。
素人である秋子の読み程度では誤差はあるが、それも近距離でならば許容範囲内に収まる筈だった。
引き付けて、最低限の動作による必殺の一撃が放たれた。
両者の距離は約5メートル……並大抵の回避動作では、絶対にかわせない。

146中盤戦:2007/01/03(水) 20:37:56 ID:PdnnCCjM

しかし―――本気になったNasty Boyはその上をいっていた。

「―――そんな!?」
秋子が驚愕の声を上げる。
Nasty Boy……日本語訳では『無茶苦茶小僧』。
彼は何よりも相手の驚いた顔を見るのが好きであり、相手の裏を掻くのが得意だった。
秋子の行動を予期していた宗一は銃を口で咥え、地面に滑り込むようにヘッドスライディングの態勢で宙を舞っていた。
放たれた銃弾は宗一の遥か頭上を通り過ぎるだけに終わる。

そのまま無事な右手を地面に乗せて、その手を支点に縦回転し強烈な踵落としを放つ。
予想しようの無い展開の連続に、秋子は全く反応が出来ていない。
「が……っ」
勢いをつけたその一撃は秋子の首に命中し、彼女の意識を奪っていた。

もう一人―――ダイナマイト役がいるのは分かっている。
宗一は澪を打ち倒すべく彼女の姿を探し―――次の瞬間には地面に転がり込んでいた。
それまで宗一がいた空間を銃弾が切り裂いてゆく。

澪は独断でダイナマイトによる攻撃は諦め、銃による援護に切り替えていたのだった。
地面に転がり込んだままの姿勢の宗一。
この状況で澪の攻撃を凌ぐには、もう手は一つしか残されていない。
態勢は圧倒的に不利だったが、素人とエージェントの銃の発射動作の速度には圧倒的な差がある。

「殺したくは無かったが――――許せ」
澪が再び狙いを付ける前に、宗一は口に咥えていた銃を手にし澪の胸を撃ち抜いた。
宗一の放った銃弾―――FN Five-SeveNの特殊弾は貫通力に優れる。
それは一撃で澪の体を破壊し、その命を奪いつくしていた。

だが―――同時に宗一も腹を押さえて吐血した。

147中盤戦:2007/01/03(水) 20:39:27 ID:PdnnCCjM
「な……ん……だと……!」
振り返って見上げる宗一の視界に。
太陽を背負って二人の男が立っていた。

「よくも少年の知り合いを……!」
―――そこには怒りに震える緒方英二と相沢祐一が立っていた。
英二のベレッタM92の銃口からは僅かに煙が上がっている。

【時間:2日目・午前8時05分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数13/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(怪我の程度は後続任せ)】

橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:陽動は終了、これからの行動は後続任せ】

上月澪
【所持品:H&K VP70(残弾数1)、包丁、ダイナマイトの束(3本消費)、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:死亡】

水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療済み)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。気絶】

148中盤戦:2007/01/03(水) 20:40:49 ID:PdnnCCjM

緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、怒り】

相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、怒り】

神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】

マルチ
【所持品:支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。迂回しつつ診療所へ回りこむ】

鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式】
【状態①:肩に軽症(手当て済み)右大腿部銃弾貫通(手当て済み、動けるが痛みを伴う)。一応マーダー】
【状態②:これからの行動は後続任せ】

(関連622)

149名無しさん:2007/01/03(水) 20:42:29 ID:BmSXu/UM
いくらなんでもそれじゃ宗一は気づくだろ
もっと距離はなしてほとんどまぐれで当たったことに+太陽を遮って影作って気づかれやすくなるような間抜けな真似はやめさせた方がいい

150中盤戦:2007/01/03(水) 20:50:26 ID:PdnnCCjM
確かに太陽を背負わせる+距離をここまで近づける意味は無いかも、、、

どうやっても何で宗一が〜〜ってのはあるだろうし、
他にも色んな意見ある人いるだろうから、
それらを見た上での修正版を1日後に出してみます

一応ルート指定はしてないからルート指定対立項投稿で分岐回避は可能

154管理人★:2007/01/04(木) 14:10:40 ID:55XbKUUA
申し訳ありませんが、当スレッドでは作品投稿以外はご遠慮ください。
以降、削除対象とさせていただく場合があります。

155中盤戦・作者:2007/01/04(木) 15:28:29 ID:MoOSuYpg
>>147の本編部分を以下のように変更お願いします。状態表は変化無しです


「な……ん……だと……!」
横に振り向いた宗一の視界に。
二人の男の姿が入った。
遠目でその表情までは読み取れない。
しかしそのうちの一人は拳銃を構えており、狙撃してきた張本人がその男である事は疑いようが無い。







「よくもあんな女の子を……!」
緒方英二と相沢祐一は怒りに震えていた。
英二のベレッタM92の銃口からは僅かに煙が上がっている。

――――宗一の集中力は完全に澪との撃ち合いに向けられていた。
英二が必死に少女を救おうとした結果、宗一の数少ない隙を突く事になったのだ。
更に宗一にとって不幸な事に、まだ距離があるにも関わらず、英二の弾は奇跡的に狙い通りの位置へと飛んでいった。
様々な偶然の積み重ねが、この結果を生み出していた。

156夜は更けて:2007/01/04(木) 21:27:21 ID:.mCEsJ4s
先程の春原の大スベりの後、澪とるーこは互いに自己紹介を始めていた。
「『澪なの』」
「るーは、るーこ・きれいなそら。るーこと呼べ、うーみお」
うーみお、という珍妙な呼ばれ方に首をかしげる澪。
「ああ、気にしなくていいよ。これはるーこなりのフレンドリィなスキンシップなんだ。なに、1時間もすりゃ慣れるって」
「まるでるーが奇妙な習慣を持つ部族のように言うな。これはるーに代々伝わる伝統的な…」
「はいはいわかったわかった、薀蓄はもういいよ」
「るーっ、バカにするのか! うーへいと言えども許さんぞ!」
まるで子供の喧嘩のような状況についていけない澪。
「…あ、ごめん。話が反れちゃったねぇ」
「むっ、るーとしたことがつい取り乱してしまった、許せ。うーみお」
ようやく落ちついたところで、三人は再び話を始めた。
「そっか、澪ちゃんはまだ秋子さん以外に誰とも会っていないのか…」
「『ずっと秋子さんと一緒だったの』」
澪はまたスケブを開くと文字を書きこんでいく。
「『折原浩平、深山雪見、川名みさきっていう人と会わなかった?』」
「うーゆきとうーさきのことか?」
るーこの言葉を聞いた瞬間、澪が身を乗り出す。
「『知ってるの!?』」
「お、落ちつきなよ澪ちゃん。会ったには会ったんだけどさ…」
興奮する澪を引き離して春原が離散するまでのことを話す。そして、春原たちが彼女らを探していることも。
話を聞き終えた澪は若干落胆していた。手がかりが掴めたかと思ったのに行方知れずではそれも当然だろう。…もっとも、雪見はすでにこの世からいなくなってしまっているが。そのことは彼らは知る由もない。
「もちろん、うーゆきやうーさきは見捨てはしない。あいつらもまた探すつもりだ」
「そうだ、どうせなら澪ちゃんも付いて来なよ。目的は同じなんだし」
春原の提案に頷きかけて、澪はそれをためらった。
「どうしたのさ? 探しに行きたいんじゃないの? それとも待ち合わせしてるとか」
ううん、と首を振る澪。その動作には心なしかここから離れることに躊躇しているように見えた。
「どうした、相談があるなら言ってみろ。聞いてやるぞ」

157夜は更けて:2007/01/04(木) 21:28:23 ID:.mCEsJ4s
その言葉を聞いて、澪は下を向いて少しの間考えた後、スケブに書きこんでみた。
「『恐いの』」
「恐いって、何がさ?」
春原の疑問に、澪はページをめくって続きを書く。
「『先輩達は探しに行きたいけど…でも、もし銃をもった人達が狙ってきたら』」
春原とるーこは顔を見合わせる。どうやら攻撃されることを恐れているようだ。当然といえば当然の考えなのだが…
「うーみお、だからといってこんなところにじっといても探し人が見つかるわけじゃないぞ」
「『でも…』」
なお渋る澪に対して、るーこは肩をすくめて告げる。
「この島で危険じゃないところなんてあるのか」
そう言われると、澪は何も言えなくなった。そこに追い撃ちをかけるようにるーこは冷たく言い放つ。
「もっとも、そんな心構えではついてこられても困る。イザというときに邪魔だ」
「おい、そこまで言うこともないだろ。誰だって身を危険に晒したくないのは当然なんだから…僕だってそうさ」
るーこの発言を咎める春原だが、るーこは首を振る。
「それはるーも同じだ。だが、中途半端な考えでは逆に身の危険を招くぞ。だったら、ここにいたほうが外に出るよりは安全だ」
そう言うと、るーこは再び澪の方を向く。
「よく聞け、うーみお。うーみおにとって本当に『恐い』こととは何だ? 誰かに襲われることか? それとも主催者の首輪爆弾か? …本当に『恐い』ことは、うーさきやうーゆきを失うことなんじゃないのか」
失う、という言葉にビクッと体を震わせる澪。
「『自分が最善だと思える』ことが何かできるなら、何かをしたほうがいい。それがここに留まることでも、外に出て行くことでも構わない。もし『最善じゃない』ことをした結果自分が後悔するなら…るーはそれが一番『恐い』。だから後悔しないためにるーは行動を続けている」
澪は黙ったまま、微動だにしなかった。そのまま沈黙が続き、たっぷり10分くらいが経過したころ、居間から秋子の声がかかった。
「澪ちゃん、陽平君、るーこちゃん、お夜食が出来ましたから、一度下に下りてきませんか?」
「…一旦食事にするか。うーみお、るー達が出て行くまでに時間はまだある。それまでに自分の行動を決めておけ。行こう、うーへい」

158夜は更けて:2007/01/04(木) 21:28:58 ID:.mCEsJ4s
るーこは立ちあがると、さっさと行ってしまった。春原も立ちあがり、澪に手を差し出す。
「…ま、とりあえずメシにしようぜ。るーこだって、悪気があってああ言ったわけじゃないんだ。でもな、後悔しないように行動する、ってのは僕も同じ意見だ。行動しなかった後悔より、行動した結果の後悔のほうがマシだからね」
澪はうん、と小さく頷くと春原の手をとって立ちあがった。
     *     *     *
気がつけば既に日付も変わり、否が応にも時間が経過していると春原は危機感を抱かざるを得なかった。
本音では今すぐにでもここを出立し、妹や朋也を探しに行きたかったが疲労や空腹もあるし、何よりも自分一人だけの都合で動くわけにもいかない。単独行動も考えないわけではなかった。
秋子も敵意のないるーこに関しては手出しはしないだろう。しかしるーこが自分の単独行動を許してくれるとは思えない。ここまで一緒に行動してきたところ、るーこの性格はおおよそ掴めている。
どこか抜けたようなことを言う事もあるが、基本的には冷静で、自分のように暴走することもない。仲間意識も強く、一度仲間、あるいは味方と判断した人間にはそこそこ親しく接している。
一方でそれ以外の人間に対しては警戒心が強すぎるというところはあるが、それくらいでちょうどいいのだろう、少なくとも、自分にとっては。
(結局、結論は二人で行動したほうが色々とバランスがとれてていいってことなんだけどね)
最も、今まで自分はるーこに守られ通しだったが。
それも分かってはいたので、春原は軽くため息をついた。今のところ、まだ称号としては「ヘタレ」の段階だ。「漢」には程遠い。
居間につくと、そこには夜食がずらりと並べられていた。メニューはおにぎりに味噌汁と至って普通なのだが量が半端じゃない。おにぎりが山のように積まれている。
「ごめんなさいね。ちょっと多く作りすぎてしまったみたいで…」
秋子が困ったような表情で続ける。
「男の子がいますから、たくさん作ろうと思ったのですけど…」
「い、いやあ…そんなことないっすよ。男冥利につきます、はい」
笑う春原だが、とても全部食べきれる自信がない。しかし作ってくれた秋子の手前そう言うしかなかった。
「どうした、青ざめた顔をしているが」
「な、何でもないよっ。それより早く食おうぜ。澪ちゃんも」
るーこと澪を席につかせ、誤魔化す春原。

159夜は更けて:2007/01/04(木) 21:29:47 ID:.mCEsJ4s
「『いただきますなの』」
「いただくぞ、うーあき」
「…いただきます」
澪は悩んだままの表情、るーこはいつも通りの無表情、春原は固まった笑顔のまま三者三様の食事が始まった。
     *     *     *
数十分の(春原にとっては)格闘の後、燃え尽きたように春原は机に突っ伏していた。そう、彼は勝った、おにぎりの山に勝利したのだ。
引き換えに、もう2週間は白米を見たくない、という気持ちを残してはいたが。
「どうした、うーへい。飯を食べた後にすぐ寝ると『もー』になるぞ。というか、寝ている暇もないぞ」
春原を叩き起こそうと必死に揺さぶってみるるーこだが、春原には逆効果だった。
「う゛っ…やめてくれ…デス&リバースする…」
「あらあら…無理せずにおっしゃってくださればよろしかったのに」
せっかく作ってくれた手前、そんなこと言えるわけないでしょうとも反論することすらできず、しわがれた声でるーこに告げる。
「ごめん…朝まで休ませてくれない? マジで動いたら死ぬ。氏ぬじゃなくて死ぬ」
「それは困るな…分かった。朝まで待とう。もう夜も遅いしな。暗闇の中を歩き回るより安全かもしれない」
ありがとう、と春原は呟くとそれきり返事をしなくなった。るーこはそれを確認すると秋子の方へ向き直る。
「というわけで、今晩はここで休ませてもらうぞ。もちろんるーも見張りはしよう。いいか、うーあき?」
「ええ、それは構いませんよ。でしたら…三時まではわたしが見張りをしておきますからそれまで休んでいてください。澪ちゃんも」
澪はこくり、と頷いて、それからるーこの方を見た。
「…考えはまとまったか」
「『まだだけど…少し、お話してもいい?』」
「それは構わない。けど、るーも少しは休みたいから少しだけだぞ」
うん、と頷き澪はるーこを引っ張っていって縁側のある部屋まで連れていった。
    *     *     *

160夜は更けて:2007/01/04(木) 21:30:32 ID:.mCEsJ4s
さて、予定外の出来事で朝まで居座る事になってしまったが…果たして他の皆は無事なのだろうか。
縁側に腰掛けて、るーこはぼんやりと考え事をしながら星空を見ていた。
故郷の星は、一体どこにあるのだろう。普段見慣れているはずの星空が、何故か季節がまったく変わってしまったように移ろっている。むしろ、この空の配置は冬よりだ。
おかしい、とるーこは思う。気温は別段暑くも寒くも無いのに、星は冬を示している。
異常気候か? いや、それ以前に今の季節は冬だったか? ここに来る前のことを思い出そうとするが、いまいちぼんやりとしてよく掴めない。
記憶操作か…とも思う。しかし、それだけの科学力が果たして『うー』にあっただろうか?
いや、主催者そのものが『るー』同様の宇宙人ということも有り得る。…結局のところ、今は推測すら出来ない状況下だ。そんなことより、今は生き残る方が先決だろう。
「…で、お話とは何だ? いいかげんに話し始めたらどうだ、うーみお」
話しがあるといいながら未だに話を始めない澪に対して、るーこはため息をつきながら言った。それを受けて澪がようやく決心したようにスケブのページを開く。
「『あのね』」
「『やっぱり、一緒についていこうと思うの』」
「そうか」
いつも通りの声で応じるるーこ。敵でなければ、いくら人数は増えても支障はない。しかし、るーこが問題にしていたのは別にあった。
「で、本当にそれでいいのか。別に無理してついてくる必要はない。うーさきやうーゆきがここに来る確率だって、皆無ではないぞ。待つというのも選択肢のひとつだ」
再度、るーこは聞き直す。ゲーム開始直後は他人の事などあまり気にかけていなかったが春原を初めとした仲間と行動を続けているうちに次第に人のことを気にかけるようになっていた。
うーへいの人の良さが移ったのだろうな、とるーこは思う。
聞かれた澪は、それでもぶんぶんを首を横に振った。
「『やっぱり、まだちょっと恐いけど』」
澪はまたページをめくり、次のページに書きこんでいく。
「『でも、隠れてるだけじゃきっと会えないと思うから』」
「『恐いのは、大切なひとがいなくなっちゃうことだと思うの』」
優しく、しかし臆病でもある澪がその決断を下すには、どれほどの勇気が必要だっただろうか。けれども、澪は恐怖を乗り越え、勇気を持って一歩を踏み出そうとしていた。
それを知ってか知らずか、るーこは「えらいぞ」と言って澪の頭をぽんぽんと叩いた。気恥ずかしそうに、澪が頭をすぼめる。それから、また文字を書きこんだ。
「『えっと、話はおしまいなの。ありがとう』」
「ああ。…それじゃ、るーは少し休むぞ。うーみおも一緒に寝るか?」

161夜は更けて:2007/01/04(木) 21:31:09 ID:.mCEsJ4s
「『うんっ』」
仲の良い姉妹のように肩を並べながら、二人は床で横になった。
     *     *     *
ようやく、胃の中の消化物が減ってきた頃にはすでに約束の三時に近づいてきていた。
「陽平さん、お体の具合はどうですか?」
秋子が未だぐったりしている春原に向かって声をかける。
「…はい、もうそろそろ大丈夫っす」
横にしていた顔を起こして、体調を確認する。一応、問題はない。
「へこんでますね…」
「はい?」
「いえ、机の跡が…」
ずっと同じ体勢でいたせいか、机の跡がついて頬の部分がへこんだようになっている。そう言えば、かつて朋也にも同じことを言われたような気がする。あの時は確か智代に…って、そんなことを考えてる場合じゃない。
春原はるーこが残していったのであろう、ウージーサブマシンガンを手に取る。重たい、鉄の感触がずっしりと伝わってくる。よく考えれば、銃を持つのは初めてだった。
「るーこちゃんと澪ちゃん、起こしてきましょうか?」
秋子が、恐らくるーこと澪が休憩を取っているであろう部屋を指差す。だが春原はいや結構です、と首を振る。
「女の子ですから朝まで休ませてやりましょうよ。…って、秋子さんも女性でしたっけ、はははっ」
おどけた調子の春原の声に、くすりと笑う秋子。
「そうですね、そうしましょうか。それじゃあ、見張りは二人でしましょう?」
「秋子さんは休まなくていいんすか?」
「徹夜なら、慣れていますから」
おハダに悪いですよ、とジョークを入れようかとも思ったがそんな場合でもない。買って出てくれるというなら、それに甘えるのもいいだろう。何せ、ここは殺し合いの場なのだ。見張りは多いほどいい。
「なら、頼みますよ秋子さん」
春原はウージーほかスタンガンなどを持って、見回りを始めた。夜が明けるのは、もう少し。

【時間:2日目4時30分】
【場所:F−02】

162夜は更けて:2007/01/04(木) 21:32:06 ID:.mCEsJ4s
水瀬秋子
【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、木彫りのヒトデ、包丁、スペツナズナイフ、殺虫剤、支給品一式×2】
【状態・状況:健康。主催者を倒す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて守る。ゲームに乗った者を苦痛を味あわせた上で殺す】
春原陽平
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、スタンガン・支給品一式】
【状態:朝まで見回り】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:支給品一式】
【状態:睡眠中。服の着替え完了】
上月澪
【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
【状態・状況:睡眠中、浩平やみさきたちを探す】
水瀬名雪
【持ち物:GPSレーダー、MP3再生機能付携帯電話(時限爆弾入り)、赤いルージュ型拳銃 弾1発入り、青酸カリ入り青いマニキュア】
【状態:肩に刺し傷(治療済み)、睡眠中。起きた後の精神状態は次の書き手次第】

【備考:B-10】

163中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:46:48 ID:GOCYf292
痛む首を抑えながらノロノロと身体を起こした秋子が最初に目にしたもの――それはずっと行動を共にしてきた澪の姿。
倒れている澪の周りには赤い地溜りが広がり、それが何を意味するのかは一瞬で理解できた。
だが彼女の心はそれを拒むように絶叫する。
(……嘘よね、澪ちゃん――)
身体を起こそうとするも足に力が入らず力なく身体が地面へと舞い戻される。
ここまで無理をしすぎて走ったせいか、宗一との戦闘の影響か。腹部の傷口は開き、秋子の服を真っ赤に染め上げていた。
必死に手を伸ばすも届かない澪の身体に涙が零れ落ち、激しい憎悪と共に顔を上げ宗一を見据える。
……だがその怨敵であろう宗一もまた、腹部から血を流し地面にひざまずいていた。
わけもわからず宗一の視線の先に目を向けた秋子が見たものは――


「秋子さんっ!!」
名前を叫びながら駆け寄ってくるのは甥である少年、相沢祐一だった。
近づいてくる顔は不安に曇っていたが、秋子が生きていることに気付き祐一の顔に安堵の光が灯ったのがわかった。
釣られる様に秋子も思わぬ再会に顔を綻ばせた。
名前を呼ぼうと衝動的に口を開くが、腹部の激痛に襲われ、口から出てきたのは血の塊だけだった。
秋子の満身創痍の姿を見ると祐一は苦々しく顔をしかめる。
そして銃口は宗一から離さず、観鈴を背負った祐一を全身で庇いながら祐一と宗一の直線上に歩を進め、英二は言葉を発した。
膝をつく宗一の顔をじっと睨みつけ、握られたFN Five-SeveNへの警戒は怠らない。
「あんな小さな子まで撃つなんて……」
宗一から視線は全く離さずに言い放った英二の胸中には芽衣が殺された時の悲しみが渦巻いていた。
けして死ななければいけない理由なんて無かったはずなのに……それでも芽衣は守ることすら出来ずに死んでしまった。
理奈や由綺にしたってそうだ。
悲しみが怒りへと変わっていくのを英二は感じていた。
彼の理性ははじけ飛びそうなほどに、目の前の宗一にたいして憎悪が湧き上がる。
衝動に飲み込まれそうになるのを必死に抑えながら
「その銃を捨ててくれ。そうしなければこのまま……撃つ」
一呼吸の後、努めて冷静に英二は宗一に告げていた。

164中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:47:37 ID:GOCYf292


英二の言葉に宗一は必死に頭を回転させる。
自身の怪我の状況から現れた二人の行動言動まで全てをひっくるめて。
どう考えてもこれでは一方的に自分に非があるようにしか捉えられて無いだろう。
確かに自衛のためとは言え人を殺したのには変わりは無い。
それを一から説明する余裕もない。
腹部から流れる鮮血が、押さえている左手を真っ赤に染めていた。
(やるしか……ないのか?)
怪我は酷いが動けないほどではない。
無意識のうちに宗一は右手のFN Five-SeveNへと意識を集中させていた――


「――もうやめてくれっ!!」

直線状に並び立ち合う四人の耳に届いたのはそんな絶叫だった。
均衡を崩すように響いたその言葉に振り返ると、胸から血を流し倒れた澪の死体を抱える敬介の姿――
両の眼からは臆面も無く涙が零れ落ち、小柄な身体を抱きしめていた。

誰よりも信じられないと言った表情を浮かべ、秋子はその光景に息を呑んでいた。
敵と信じて疑わなかった者の行動とは思えないほどの悲痛な表情。
この状況でこんな演技をする必要はあるのだろうか?
自分と言う最大の障害を排除するならば澪のダイナマイトを投げれば全て一瞬でカタがつく。
それなのに何故――

165中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:48:04 ID:GOCYf292


「また……僕は何も出来なかった。助けられなかった」
無力感に押しつぶされそうになりながら、敬介は小さな呟きを漏らし続けていた。

……そしてそれは何も言えないまま宗一たちが敬介から視線を逸らすようにそれぞれの顔を見合わせた直後の出来事だった。

「――っ!」
突如背中に走った衝撃に呼吸が止まり、澪を抱きしめる手から力が抜け敬介の身体が崩れ落ちる。
背後には無表情のままで敬介の背中に拳を当てたマルチが立っていたのだった。
気配も感じさせず現れたマルチに驚愕しながらも宗一は身体をマルチのほうへと翻す。
「くそっ! 環君はっ!?」
思わぬ人物(正確にはロボットだが)の乱入に、英二の頭には例えようの無い不安がよぎりながらも銃口をマルチへと向ける。
だがマルチは敬介の身体を支えるように自身の盾にすると
目の前に散らばるダイナマイトとH&K VP70を手に取り口元を緩ませ歪んだ笑みを浮かべていた。

「これでなんとか雄二様に面目が立ちそうです」
マルチはポツリと呟くと、一瞬の迷いも見せず行動に移る。
誰もが状況を整理する間もなく、手にしたダイナマイトが二本、放物線を描くようにマルチの手から放たれていた。
一本は宗一と英二の真正面に、そしてもう一本は秋子と祐一の頭上に――

166中盤戦・その2:2007/01/04(木) 22:48:31 ID:GOCYf292

【時間:2日目・午前8時10分】
【場所:I−7】

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数13/20)】
【状態:左肩重傷(腕は動かない)、右太股重傷(動くと激痛を伴う)、腹部を銃で撃たれている(怪我の程度は後続任せ)】
橘敬介
【所持品:支給品一式、花火セットの入った敬介の支給品は美汐の家に】
【状態①:左肩重傷(腕は上がらない)・腹部刺し傷・幾多の擦り傷(全て応急手当済み)。観鈴の探索、美汐との再会を目指す】
【状態②:意識はあるが背中に激痛悶絶、マルチに捕まっている、観鈴にはまだ気付いていない】
水瀬秋子
【所持品:ジェリコ941(残弾10/14)、澪のスケッチブック、支給品一式】
【状態:腹部重症(治療はしたが再び傷が開いた)。名雪と澪を何としてでも保護。目標は子供たちを守り最終的には主催を倒すこと。】
緒方英二
【持ち物:ベレッタM92(7/15)・予備弾倉(15発×2個)・支給品一式】
【状態:疲労、怒り】
相沢祐一
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(15/15)支給品一式】
【状態:観鈴を背負っている、疲労、怒り】
神尾観鈴
【持ち物:ワルサーP5(8/8)フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:睡眠 脇腹を撃たれ重症(容態少し悪化)、祐一に担がれている】
マルチ
【所持品:H&K VP70(残弾数1)、ダイナマイトの束(3本消費)、支給品一式】
【状態:マーダー、精神(機能)異常 服は普段着に着替えている。敬介を盾にしている】

【備考:澪の持ち物は死体の周辺に(包丁、携帯電話(GPS付き)、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
(関連:624「中盤戦」の続き)

167義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:38:26 ID:4DX8RKNg
時折草が擦れ合う音のみがする穏やかな空間。
月島拓也の祈りが通じたのか長森瑞佳の容態は小康を保っていた。
「ふぁ……僕自身死にそうだ、眠くてたまらん」
早朝から瑞佳を抱えて歩き通しだっただけに、疲労は相当の物である。
横なって目を閉じると、眠りが訪れるのに時間はかからなかった。

どのくらい時間が経ったのか、目元を拭われる感触があった。
眠っているうちに泣いていたのか、瑞佳に涙を拭われていた。
「瑠璃子さんの名をずっと呼んでましたよ。よほど妹思いのお兄さんなんですね」
「ああ、瑠璃子は僕にとって人生の総てだったんだ。それなのに、瑠璃子、僕の瑠璃子、瑠璃子よぉ……」
瑞佳は日常なら少し引くような愛情表現を、肉親を喪った悲しみによるものと素直に受け止めていた。

一頻り独演を終えると、拓也は水筒を呷りそのまま固まる。
もうあと一口ほどしか残っていなかった。
水のことはおくびにも出さないようにしていたが、瑞佳に心の内を見透かされてしまう。
「わたしのことはもう結構です。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」
瑞佳は最後の一口を丁重に辞退した。
「村へ行けばなんとかなる。もう少しの辛抱だ」
「いえ、月島さんが一刻も早く目的を果たされるためにも、ここで別れましょう」

心の中でもう一人の拓也──黒拓也が囁く。
(せっかく彼女から別れようって言ってるんだ。お荷物なんだから素直に受けようじゃないか)
この辺で縁を切るいい機会かもしれなかった。

168義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:40:06 ID:4DX8RKNg
しかしなぜか去り辛い、否、去る気にはなれなかった。
情が移ってしまったのだろうかと考えてみる。
(そんなことはない。今まで毒電波でもって悪徳非道なことをやって来たではないか)
瑠璃子と比較するとどうしても総ての面で瑞佳が見劣りしてしまうのだが。
(……もう! なんでコイツのことがこんなにも気になるんだぁっ」
雑念を払うかのように瞑目して思いを凝らす。
汗と涙と泥に塗れた瑞佳はスッピンなら更にその美貌を増すだろう。
否、そんなことよりも好感が持てるのは、彼女の性格が醸し出す独特の雰囲気である。
何もしなくても、ただ傍に居るだけで癒されるという不思議な魅力。
だからこそ、瑞佳を拾ってからは穏やかな気分でいられるに違いない。

(僕は彼女に瑠璃子の代わりを求めようとしているのだろうか?)
妹に度の過ぎた溺愛をしただけに、心にぽっかりと空いた穴は大きかった。
冷静に考えてみる。瑠璃子の代わりなんて、あまりにも虫が良すぎるではないか。
──それでも瑞佳なら支えになってくれそうな気がした。彼女ならきっと。

(電波を応用できれば一時的に救えるかもしれない。あくまでも電波が使えればの話だが……)
精神の操作はほんの僅かでも、身体の弱った瑞佳には十分効果がありそうな気がした。
問題なのは電波は人の精神を操るものであり、怪我や病気を治す類のものではないことである。
しかも今の瑞佳の精神を本気で操作して失敗しようものなら、死んでしまうのは間違いなかった。

熟考の末、拓也は延命の策があることを告知した。
低い成功率や衰弱の具合から一度限りしかできない旨を聞くうちに、瑞佳の表情は翳りを帯びる。
「本来なら治療を受けて安静にしてなきゃいけないが、力尽きるのは時間の問題だ。やってみるか?」
「……わかりました。お願いします」
瑞佳は深々と頭を下げた。

169義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:44:23 ID:4DX8RKNg
少しリラックスさせた方がいいかもしれない……。
瑞佳の頭に手を伸ばすと髪留めのリボンをほどく。
型崩れして、もはやハーフポニーの縛めをなしていなかった髪がはらりと落ちる。
「リボンは手首に巻きつけておこうな。願い事が適うという話を聞いたことがあるから」
ほどいたリボンを瑞佳の手首にほどよい締め付けで結ぶ。
訝しむ瑞佳を目で制し、八徳ナイフからフォークを引き出すと彼女の長い髪を梳かす。
「気休めにしかならないがオシャレをしてやろう」
丁寧に何度も何度も梳かしていると、瑞佳の目から涙が零れ落ちた。
「ありがとうございます。こんなにも大切にしていただいて……」

十数分後、場は沈鬱な空気に包まれていた。
電波を思うように使えないこともあり、衰弱した瑞佳に浸透するのは想定通り困難だった。
「ごめん……上手くいかなかった」
「そんなことないですよ。幾分身体が楽になりました」
確かに顔色は良くなっていた。
ただし、これは悪魔でもカンフル剤を打ったに等しい一時的なもの。
出来るだけ早く治療を受けさせる必要があった。
鎌石村へ辿り着くのは命懸けだが、着いても治療を受けられそうには思えなかった。
それでも僅かの希望を持って行かなければならない。ここに居てもジリ貧である。
二人はすぐさま出立した。
瑞佳を背負い歩きながら、拓也の脳裏にある考えが浮かんでいた。
心の内に秘めていた方が良いのかもしれないが、彼女を景気付けるかもしれないと思い、口にする。
「真面目な話があるんだ。笑わずに聞いてくれるかい?」
「なんでしょう」
「こうして出会ったのも何かの縁。より絆を固めるべく、義理の妹になってくれないか?」
「えぇっ! 義理の妹、ですか? 瑠璃子さんの代わりなんて、できませんよ」
思いもよらぬことに瑞佳は目を丸くする。
「瑠璃子亡き今、僕がまともで居られるのは君のお陰なんだ。もう電波を使わなくて済みそうなんだ」
「まともって……今まで悪いことをしてきたんですか? その、電波っていったい何ですか?」
瑞佳から見て、身を預ける眉目秀麗なその少年が犯罪に手を染めるようには思えなかった。

170義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:50:59 ID:4DX8RKNg
長い沈黙の後、拓也は幼少時の家庭の事情を打ち明けたが毒電波については言葉を濁した。
病院の院長だった伯父に妹と引き取られたこと。そこが安住の地ではなかったことは瑞佳の涙を誘った。
「僕は毎晩のように酷い目に遭い、性格が歪んでしまったんだ」
人格形成の時期に受けた殴打と、頭に染み付いて離れない、伯父に組み敷かれる女性の嬌声。
そんなことは露知らず、瑞佳は拓也を救えるのは自分しかいないのではないかと思い始めていた。

「浩平と少し似た境遇だったんですね。これから真人間になると約束するのでしたらいいですよ」
「おお、ありがたい! これからは僕のことをお兄ちゃんと呼ぶがいい」
一気にまくし立てながら拓也は赤面していた。
「お兄ちゃん? あはっ……なんだか恥ずかしい気がします」
「兄妹なんだから喋り方だってもっと砕けた調子でいいぞ」
「じゃあ、お兄ちゃん。ふつつか者だけどよろしくね」
「なんか嫁さんモードになってないか?」
瑞佳があまりにもノリノリなので返って戸惑ってしまう。
「そんなことないもん。こんなのってどう?」
「おい、それ止め……」
耳にフーッと息をかけられ、拓也は脱力し膝をついてしまった。
「あぁーっ、倒れるぅ!」
言葉通りそのままスローモーションで見るかのごとく、拓也は前のめりに倒れてしまった。
「うぅ、大事な部分がいてーや」
「ごめんね、男の子ってこうすると弱かったんだぁ」
折原浩平に試してみようかと考えたことはあったが、機会がなかっただけに瑞佳には意外な発見であった。

「ところでだ、瑞佳は学校でホルスタインとか呼ばれてなかったか?」
「えぇっ、なんで?」
「胸がすごく大きいぞ」
「もーっ! 大きくなんかないもんっ、ないもんっ、お兄ちゃんのバカバカバカッ」
「わかったわかった、貧乳って認めるから叩くなって、ハハハハ……」
瑞佳の陽気さに連られ、拓也は久しぶりに心の底から笑っていた。

171義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:57:00 ID:4DX8RKNg
「あーあ、汚れちゃった。変なことしてごねんね」
シャツやズボンに付いた汚れを瑞佳は手ではたいてくれる。
「ありがとう。もういいよ」
目と目が合った途端言葉が途切れ、微妙な沈黙が訪れた。

ごく自然に瑞佳の肩に手を置く。彼女は目を逸らし、頬を赤らめ戸惑う。
「あ、あの……」
「義兄妹の盟約として、キスしていいか?」
瑞佳は目を伏せ静かに頷いた。
肩に置いた手をそのまま首へ回し唇を重ねた。
しっかりと抱き締め、瑠璃子とはまた一味違う唇の柔らかさと温かさを堪能しながらキスをする。
微かに牛乳の味がしたのは気のせいか。

「話を聞く限りでは折原君と毎日のように羨ましいことをしてるみたいだなあ」
「そんなことないよぅ。浩平はわたしなんかよりも他の女の子と遊ぶのが好きなんだもん」
瑞佳は不満気に頬を膨らまかせている。彼女の本心を覗いたような気がした。
「顔良し、性格良し、スタイル良しと申し分ないのに不憫だなあ」
「でもね、一度デートに誘ってやろうかって言われたことはあるんだよ」
「ふうん、じゃあ、彼の心を掴むためにも朝は○○○○○で起こしてやれよ」
「○○○○○って、なあに?」
「……悪い、今のは聞かなかったことにしてくれ」
くだらないことを言ってしまったものだと後悔する。
戯れはほどほどにして、再び瑞佳を背負うと鎌石村への道程を急ぐ。
だが気が逸るものの体がついていかない。
拓也は早くも千鳥足になり、休憩を取るために茂みの中へと逃げ込んだ。
「いい加減疲れた。僕はもう寝る。瑞佳もしっかり寝ておけ」
「夜眠れなくなりそうだよ」
「いいから寝ろ……あっ、そうだ。アレを渡しておこう」
何を思ったか、拓也はデイバックから一本の矢を取り出した。

172義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 04:59:15 ID:4DX8RKNg
「もしかして……わたしを狙ったものなの?」
「ああ。まーりゃんは余程慌てていたのか、瑞佳に使った矢は回収しなかったようだ」
瑞佳の胸にこみ上げるものがあった。矢を胸に抱き締めながら瞑目する。
(この矢は、いつか必ずあの人に返そう、きっと……)

「夜間行軍する。日が暮れたら消防分署へ行こう。あそこなら水の補給ができる」
「待ち伏せされないかな。気を引き締めなくちゃね」
「無理はするな。現況はカンフル剤を打ってるようなものだ。いつまで持つかわからん」
肉体と精神を騙しながら酷使していることを瑞佳は痛感していた。
不安を覚えながらも拓也に寄り沿うように横になると、早くも眠りに就けそうだった。
目を閉じると程よい心地のはずが、草を掻き分ける音により背筋に戦慄が走る。
「お兄ちゃん、誰か来る」
耳元で囁くと拓也はすぐさま跳ね起きた。

拓也は八徳ナイフから抜き身を引き出し迎撃体勢を取る。
ほどなく、茂みを掻き分けながら一人の髪の長い少女──水瀬名雪がその姿を現した。
藪の中を歩き通しだったのか、上は制服から下はソックスに至るまで綻びが目立っている。
顔も手足も痛々しいほどに擦り傷を負っていた。
「コイツ目つきが危ない、殺そう!」
「待って! なんでいきなり殺すの? この人何も持ってないよ」

瑞佳は勇気を振り絞り、謎の少女と交渉してみることにした。
「ほら、わたし何も持ってないよ。怖いことしないから、ちょっとお話しようよ」
「いやっ! 来ないで」
腹部を血に染める瑞佳に名雪は怯え、後退る。

いつ逆襲されるともわからない瑞佳の勇姿を拓也は固唾を飲んで見守った。
瑞佳は腹部を片手でデイバックでもって隠し、精一杯の笑顔で問いかける。
身振り手振りの必死の説得が功を奏し、名雪はようやく警戒を解いた。

173義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 05:03:18 ID:4DX8RKNg
結局聞き出せた情報は拓也と瑞佳を落胆させることになる。
名雪が始めに語ったことは、霧島聖と一ノ瀬ことみの悲惨な最期であった。
「……その白衣の女性はたぶん医療関係者だろうな」
「水瀬さんもわたしと同じように地獄を見たんだね。わたし達がついてるから安心するんだよ」
「長森……さん? あなた、猫さんの臭いがする」
「うん、家で七匹飼ってるんだ。さすがに臭うって言われると困るねえ」
猫談義をするうちに、名雪の表情に明るさが表れ始めた。

和やかな少女達を尻目に拓也は困惑していた。
もう水も食料もない。銃もない。連れは重症の怪我人と精神不安定者。
こんな状態で狂気の世界を生き抜くことができるのだろうか。
場合によっては名雪を斬らねばならない。

「今度こそ寝るぞ。水瀬さんを同行できる状態に『教育』しておいてくれ」
「うん、なんとかするからぐっすり眠ってね」
「今夜中に消防分署へ行く。『教育』が上手くいかなかったら置いて行くかもしくは……」
「それ以上言わないで。精一杯頑張るから。ね、みな……」
名雪は瑞佳の肩にもたれたまま、スヤスヤと眠っていた。

振り返ると拓也は早くも眠りに落ちている。もう寝言は言わず寝顔は安らかだった。
「はぅ〜、あとで平謝りしなきゃいけないよぅ……もう、わたしも寝ちゃおっと」
名雪を起こさないよう、静かに横たえると自らも横になる。
身体を動かす度に脇腹の傷の痛みが微かに疼く。
(わたしに明日はあるのかな……ハッ、もっと前向きに考えなくちゃ)
ふと弱気になりかけたが、拓也が全身全霊で助けてくれているのだと叱咤する。
微睡に浸りながら瑞佳は復活への執念を燃やしていた

174義兄妹の盟約:2007/01/05(金) 05:04:54 ID:4DX8RKNg
狂気の世界で結ばれた義兄妹の盟約。
だが命を賭けた盟約には意外な脆さがあった。
参加者を煽る「優勝者はどんな願いもひとつ叶えられる」という謳い文句。
今後の放送が拓也に背信をもたらすなどとは、瑞佳にとって知る由もなかった。


【時間:2日目・14:00】
【場所:D−8、カーブ内側の茂み】

 月島拓也
 【所持品1:八徳ナイフ、トカレフTT30の弾倉、支給品一式(食料及び水は空)】
 【所持品2:支給品一式(食料及び水は空)】
 【状態:睡眠中】

 長森瑞佳
 【所持品1:ボウガンの矢一本】
 【状態:睡眠中、出血多量(止血済み)、傷口には包帯の代わりに拓也のYシャツが巻いてある】

 水瀬名雪
 【所持品1:なし】
 【状態:睡眠中、やや精神不安定】


【関連:100、490、546、560、576、592 B系】

【備考:拓也と瑞佳は名雪から篠塚弥生、藤井冬弥、霧島聖、市ノ瀬ことみ、河野貴明、観月マナ、
久寿川ささら(いずれも名前知らず)、水瀬秋子の身体的特徴などを聞いている。490までに出会った人物のことは聞いていない】

175名無しさん:2007/01/05(金) 14:24:32 ID:4DX8RKNg
>まとめさん

関連を以下に変更お願いします。
【関連:490、546、560、576、592 B系】

176CRISIS:2007/01/05(金) 19:48:49 ID:ZKFxbOxA

ご、と鈍い音がした。
拳が、肉を食む音だ。

松原葵の拳が月島拓也の胴を、肝臓の上から正確に叩く。
崩れ落ちる拓也。しかし、すぐにゆらりと起き上がる。

「……ぅ……ぃほぉぉぉ……」

言葉の体をなさない、不気味な唸り声。
声が出せないのだ。
拓也の顔面は、既に原形を止めていない。
ぶよぶよと膨れ上がった、青黒く、それでいながら赤黒い、気味の悪い塊の中から、
どろりと濁った一対の眼だけが葵を睨みつけていた。

「……ぅぅぅぅ、ぃほぉぉぉ……」

言葉にはなっていなくとも、何を言おうとしているのか、葵にはよく分かっていた。
瑠璃子。拓也の、妹の名だった。
瑠璃子。瑠璃子に手を出すな。瑠璃子には触らせない。瑠璃子、僕が助けてやるからな。
そう、言おうとしているのだろう。
葵の眼前に立つ男は、何度も何度も、その名前を繰り返していた。
殴り、蹴り、折り、潰し、砕き、常人ならば立てるはずもない、痛覚だけで絶命していても
不思議のない損傷を加えられながら、それでも月島拓也は立ち上がり続けていた。

「―――くすくすくす。頑張って、お兄ちゃん」

177CRISIS:2007/01/05(金) 19:49:37 ID:ZKFxbOxA
月島瑠璃子は、嗤っている。
ぶよぶよと動き続ける肉塊と、それを嗤う濁った少女の対比が赦せずに、葵は拳を振るう。
ぐしゃりと、血が飛んだ。
そうして拓也はまた立ち上がり、葵は一歩たりとも進めない。

「どうして……っ!」

その顔面に肘を叩き込みながら、葵は叫ぶ。

「どうして、笑っていられるんですか……!」

鼻骨を砕く感触は、既にない。
ただ、粘性の高い血が、ずるりと葵の肘から糸を引いた。

「どうして……?」

ころころと嗤いながら、瑠璃子は不思議そうに問い返す。
雨の中、濡れながら立つその姿は、さながら亡霊のようだった。

「どうしてって、おかしいから笑っているのだけれど。楽しいから笑っているのだけれど。
 幸せを笑って迎えては、いけない?」

その答えに激昂し、拓也の右膝を正確に蹴り下ろして砕くと、葵は叫び返す。

「何が幸せかっ!」

その顔には、拓也の吐いた反吐がこびり付いている。

178CRISIS:2007/01/05(金) 19:50:02 ID:ZKFxbOxA
「だって、そうでしょう?」

葵の形相を意にも介さず、瑠璃子はくつくつと嗤う。

「お兄ちゃんは、そんなになってまで私を守ろうとしてくれている。
 とうに死んでしまってもおかしくないのに、私を庇って立っている。
 砕けた膝で、立てるはずもない身体で、そうして立っている」

言葉通り、拓也が立ち上がっている。

「私を愛してくれているひとが、私のために死をも厭わず戦ってくれている。
 ほら、こんなに幸せなことってないと、思わない?」

心の底から這い出るように、瑠璃子の言葉は吐き出されていく。

「だから、私は笑っているのだけれど。何か、おかしいかな?」
「―――澱んでいるっ!」

拓也の喉、膨れ上がって顎と区別のつかなくなっているそれを貫手で突く葵。

「澱んでいる、濁っている、腐っている!」
「……そういうことは、もう少し綺麗なひとに言われたいね」

瑠璃子のどろりとした眼光が、葵の全身を這い回る。

「ねえ、ねえあなた、強いあなた。お兄ちゃんを殺そうとしているあなた。
 あなたは本当に、そういうことを言えるようなひとなのかな?」
「何を……っ!」

179CRISIS:2007/01/05(金) 19:50:40 ID:ZKFxbOxA
裏拳で拓也の目の辺りを叩くと、躊躇なく金的を蹴り上げる葵。
空気の抜けるような音を立てながら、拓也が悶絶する。

「ほら、それだよ」

瑠璃子が指差した先で、拓也はもう折れる歯すらない口を噛み締めて、立ち上がる。
ひゅうひゅうという吐息に、時折血が混じっていた。

「まただ。あなたは、またお兄ちゃんを殺さなかった。これで、何度目かな?」
「……ッ!」
「ひどいよねえ。殺せるんだ。いつだって殺せるんだよ、あなたには。
 立てるはずがないのに立っていたって、首をねじ切ってしまえばきっと死ぬのに。
 生きているはずがないのに生きていたって、殺してしまえば死んでしまうのに」

拓也の髪を掴んだ葵が、空いた手で掌底を叩き込む。
ずるりと、血のついた毛根ごと髪が抜ける。

「そうやってずっと、死なない程度にずっと、あなたはお兄ちゃんを虐めている。
 どうしてだろうね? 殺してしまえば、すぐにも私を殺すことができるのに」

何かに気づいたように、芝居がかった仕草で仰々しく手を叩く瑠璃子。

「ああ、ああ、そうだ。きっとそうなんだね。あなたは。
 あなたはそうやってずっとお兄ちゃんを、お兄ちゃんのかたちを削りながら、」

白い貌の真ん中で。
真っ赤な口が、笑みの形をつくる。

「―――楽しんでるんだ」

180CRISIS:2007/01/05(金) 19:51:08 ID:ZKFxbOxA
葵の膝が、拓也の鳩尾に叩き込まれる。
胃液と血と痰の混じった反吐を葵の体操着に擦りつけながら、拓也が崩れた。
葵の視界の中、瑠璃子が嗤っている。

「黙ってください」

倒れた拓也の手を、全体重を乗せた踵で踏み抜きながら、葵が口を開く。

「楽しいよねえ、人を壊すのは。ひとを、ぐずぐずに崩していくのは、楽しいよねえ?」
「黙れ」

のたうつ拓也の腹を蹴って動きを止めると、身体を丸めて激しく咳き込むその背に、何度も脚を落とす。

「ああ、ああ、そんなにしたら死んじゃうよ?
 あなたの大切な玩具が、私のたいせつなお兄ちゃんが、死んでしまってもいいの?
 そうなってしまったらもう、壊して遊べなくなってしまうけれど、それでもいいの?」

瑠璃子が、嗤う。

「―――黙れと言っているんだ……っ!」

激昂に任せて下ろされた葵の脚が、拓也の頚骨を踏み砕いた。
けく、と小さな音が、した。

「……ああ、ああ、死んじゃったね」
「……!?」

思わず視線を下ろす葵。
何度も、何度でも立ち上がってくるはずの拓也は、ぴくりとも動かない。

181CRISIS:2007/01/05(金) 19:51:43 ID:ZKFxbOxA
「―――そうして、こころを乱した」

瑠璃子の声が、響いた。

「駄目だよ、そんな風に揺れては。
 人を壊して遊んでいたひとが、人を殺したくらいでそんな風に驚いちゃいけない」

声は、葵の耳朶を侵す。

「もっと楽しそうにしなきゃ。もっとつまらなそうにしなきゃ。
 楽しく遊べてありがとう。もう終わってしまったのか、さようなら。
 あなたはそういう風に、思わなければ、いけない」

気がつけば、すぐ目の前に、瑠璃子の眼が、あった。

「楽しく。楽しく。楽しく、ひとを壊しましょう。
 ゆっくりと、時間をかけて、たっぷりと、感謝をこめて」

すう、と。
瑠璃子の顔が、近づいてくる。

「―――だからこれは、契約の証」

唇を、奪われた。

「壊しにきて。あなたのたいせつなひとを壊した私を。
 追いかけてきて。私のたいせつなお兄ちゃんを壊したあなた。
 もっと、もっと遊びましょう。楽しく、楽しく、楽しく―――」

頭蓋の内側に響くその言葉を最後に、葵は意識を喪った。

182CRISIS:2007/01/05(金) 19:52:32 ID:ZKFxbOxA

******


眼を開いたとき、葵がまず行ったのは、己の拳を見ることだった。
血に染まっていた。すべて、月島拓也の血だった。

空を見上げた。
雨が、弱まっていた。
雨粒と、涙が入り混じって、流れた。

身を起こし、辺りを見回して、二つの死体を見つけ、葵は思う。

 ―――こんなものも、あったな。

涙を流しながら、葵は立ち上がる。
振り返ることもせず、歩き出した。

野ざらしの骸は、物言わずただ、葵の背を見つめている。

183CRISIS:2007/01/05(金) 19:52:58 ID:ZKFxbOxA
 【時間:2日目午前10時ごろ】
 【場所:E−7】

松原葵
 【持ち物:支給品一式】
 【状態:健康】

月島拓也
 【状態:死亡】

月島瑠璃子
 【持ち物:鍵、支給品一式】
 【状態:電波使い】

→591 ルートD-2

184それぞれの想いと変化:2007/01/05(金) 22:08:14 ID:7pibsTiM
るーこは自分の目を疑っていた。共に走ってきた留美達もただ呆然と立ち尽くしている。
その光景はまさに惨状そのものだった。
自分達を先に逃がしてその場に残った仲間たちは、その殆どがもう動かぬ骸と化している。
そこら中に飛び散った血がこの場でどれだけ激しい戦いがあったかを証明していた。
るーこたちが戻ってきた事に気付いた陽平が、おぼつか無い足取りでるーこの方へ歩いてきた。
「…るーこ」
「うーへい!」
すぐさまるーこは陽平の体を支えた。近くで見ると陽平のこめかみの上あたりから血が流れていた。
るーこは陽平の髪をかき上げその傷口を観察した。傷は深くは無かったが、部位が部位だけに楽観視してはいけない。
(確か…救急箱はよっちが持っていたな)
きょろきょろと周りを見渡すと、チエの姿はすぐに確認する事が出来た。
「舞先輩………志保先輩………」
チエはがっくりと肩を落としていた。るーこが彼女を気遣いその肩に手を乗せる。
牛丼の一件以来行動を共にし力を合わせて生き延びようと誓い合った仲間たちが死んでしまった。
よりにもよって同じ仲間だった耕一とその家族の手によって。それなのに――
「なんで…舞先輩は、こんな安らかな顔をしてるんっスか…」
「るーには分かる、これは何かをやり遂げた者の顔だ」
「るーこ先輩…」
「恐らくそこのうーひろ達が何か事情を知っているんじゃないか」
チエはるーこが目を走らせている方向を追った。
その先には浩之や、柳川の治療を行なっている佐祐理がいた。
視線に気付いた浩之が全員を呼んで事情の説明を始めた。

185それぞれの想いと変化:2007/01/05(金) 22:10:33 ID:7pibsTiM




「そうスか…舞先輩は最後に佐祐理先輩を守り抜いたんっスね…」
「川澄が守ったのは倉田だけでは無い。正直な所俺は耕一の相手をするだけで手一杯だった…。川澄が千鶴を食い止めていなければ全員殺されていただろう」
――そう語る柳川の体にもまた、新たな痕が刻まれている。
彼の体には肩から胸に掛けて襷の様に新たな包帯が巻かれており、元からしていた包帯も合わせるとその上半身はまるでミイラのようだった。
その姿は彼がこれまでいかに厳しい道のりを歩んできたかを物語っていた。
(みんなこんなに頑張ってるのに…あたしは何をやっていたんスか…。ただ戸惑い続けるだけで、何も出来なくて…。
あたしはみんなに迷惑を掛けていただけじゃないっスか…)
気付くとチエは拳を握り締めていた…その手がじんと痛んだ。
しかしもう取り乱すような事は無い――あるのは唯一つの決意。
(あたしはみんなの分まで生きないといけない…舞先輩や住井先輩、志保先輩のように、強く…今度こそ、誰も死なせないように…。
じゃないと河野先輩にも、死んだこのみやちゃるにも合わせる顔が無いよ…!)
想い人と今は亡き親友たちの顔を思い出して、ともすれば弱気になりかねない自分自身を奮い立たせる。
少女は、仲間の死を乗り越えるたびに確実に成長していた。

「耕一先輩は…?」
「…ああ。耕一さんって人なら柳川さんに胸を撃ち抜かれて死んだよ…。死体は千鶴さんが逃げる時に運んでいった」
「言い訳させてもらうが、耕一はまるでこちらの話に聞く耳を持たなかった。奴を放っておけば必ず夥しい数の犠牲が出る…。
なら俺はそれを見過ごす事などしないし、出来ない」
「俺もそれを咎めるつもりは無いよ…あそこでやらなければ俺達がやられていたしな。俺だって、ああなるのが分かっていて爆竹を投げ込んだんだ」
説得などとても考えられる状況ではない、それ程の激戦だったのだ。
浩之と柳川の意見に異を唱える者はいない――ただ一人を除いて。
詩子の横で留美がわなわなと肩を震わせていた。
次の瞬間、彼女は溜まりに溜まった感情を爆発させた。
「何で………何でみんな殺しあっちゃうのよ!こんなの絶対おかしいよ!!」
腹の底からありったけの、一瞬雷が落ちたかと思えるくらいの声量で叫ぶ。
それくらい鬱憤が蓄積していたのだ。この理不尽なゲームに対して。

186それぞれの想いと変化:2007/01/05(金) 22:11:52 ID:7pibsTiM
だが柳川はその迫力にもたじろぐ事は無い。
「さあな、理由など分からん。ただ、やる気になっている者がいたのなら俺は容赦しない。そうしなければ自分が死ぬし、俺が守るべき者たちも危険に晒されるからだ」
「――っ …でも…でもっ…!」
納得していないがその気持ちを言葉にする手段が見つからない、といった感じの留美。
浩之はそんな彼女に諭すように言った。
「七瀬…で良いんだよな。俺も最初はそう思っていたよ。諦めずに話し合えばきっと分かり合えるってな」
「そうよ…心の底から殺し合いをしたいって思ってる人なんて、きっといないんだから!」
「――だけど俺は今日、もう二回もやる気になっている奴にあったんだ。それでもう、分かってしまったんだ。
戦わないといけない時には戦わないと大事なものを全部失っちまうって事を…」
これまでの戦いの中で浩之もその事だけは認めざるを得なくなっていた。
綾香との戦いの時も耕一たちとの戦いの時も、柳川が戦わなければもっと被害は広がっていただろう。
頑なに殺人を拒んできた浩之だったが、もう彼に柳川の言葉を否定する資格は無い。
そしてそれは留美にも通じる事だった、彼女も自分の身を守るために巳間良裕と戦ったのだから。
「………」
留美は返す言葉が思いつかなくなり、それきり俯いてしまった。
場に沈黙が流れる。助け舟を出すように詩子が小さく呟いた。
「とにかくさ…いがみ合ってても仕方が無いし、死んじゃった人たちを埋めてあげようよ…」
その意見に反対する者はいない…一行は何グループかに分かれて各々の作業に移行した。




他の者が埋葬を行なっている間るーこは陽平の頭に包帯を巻いていた。脇腹の治療は既に済んでいる。
彼女の故郷でも包帯を用いた治療が行なわれているかは分からないが、その手つきは手慣れていた。
程なくして作業は終わりを迎える。
「よし、これで治療は終わりだ」
「うん、ありがとう」
「全く………鉄パイプなどで無茶をするからだ。ああいうのは勇気ではなくて、無謀と言うんだぞ」
「いきなり酷い言い草ですねえ!? 大体僕が――」
冷ややかな罵倒を受けた陽平が何か言おうとしたが、それが最後まで言い切られる事は無かった。

187それぞれの想いと変化:2007/01/05(金) 22:12:56 ID:7pibsTiM
――るーこが陽平の背に縋るように抱きついていた。
陽平はるーこの体が微かに震えているのを感じた。
「るーこ…?」
「うーへい…もうあんな無茶をするな。うーへいが死んでしまったら、るーは………るーは………!」
「………ごめん」
それきり二人とも喋らなくなった。黙ってほんの一時の間、寄り添い合う。
彼女たちの心にはお互いが無事だった事への安堵と、仲間の死に対する悲しみが混在していた。




「…倉田、本当にもう良いのか?」
「ええ、珊瑚さんたちも心配してるでしょうし急ぎましょう」
佐祐理は荷物を分配した後、周りにいる人間に出発を促がした。
柳川はもう少しゆっくりしていっても構わないと言ったが、彼女はそれを拒んだ。
佐祐理もまた、親友の死を乗り越えて変わりつつあった。
最後に一行は手を合わせ静かに冥福を祈る。もう現実を受け入れていない者はいない。
一人、また一人と別れの挨拶を済ませて顔を上げる。
最後に佐祐理が顔を上げ彼女たちは出立した。それぞれの想いをその胸に抱いて。

歩きながら話し合った結果、まずは珊瑚たちと合流して全員で情報を交換しあう事にした。
この場にいる人間はそれぞれ別々の目的がある、すぐに別行動になってしまうだろう。
だが最終的な目標は皆同じ…協力し合える部分は協力し合うべきだった。
そんな中、留美は一行の少し後ろを肩を落としながら歩いている。
浩之が歩く速度を落として彼女の横に並びかけた。
「なあ、七瀬」
「…何?」
「一体何が正しくて、何が間違いなんだろうな…。俺にはもう分からない…」
「…そんなのきっと、誰にも分からないわよ」

188それぞれの想いと変化:2007/01/05(金) 22:14:19 ID:7pibsTiM
浩之も留美も己の目的を果たす為の強い意志は持っている。
しかし迷いが消える事は無い。
――『これから君たちには殺し合いをしてもらう』
この狂った島で行なわれているのは殺し合い…その圧倒的な現実の前に、少年少女の想いはあまりにも無力。

【時間:2日目12:00頃】
【場所:F-2】

春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、珊瑚達の所へ戻る】
柳川祐也
【所持品:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)、日本刀、支給品一式×2】
【状態:左肩と脇腹の治療は完了したが治りきってはいない、肩から胸にかけて浅い切り傷(治療済み)、疲労、珊瑚達の所へ戻る】
倉田佐祐理
【所持品1:舞と自分の支給品一式、救急箱、吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、投げナイフ(残り2本)】
【状態:普通、珊瑚達の所へ戻る】
藤田浩之
【所持品:日本刀、ライター、新聞紙、護と志保の支給品一式】
【状態:守るために戦う決意、珊瑚達の所へ戻る】
七瀬留美
【所持品1:デザートイーグル(.44マグナム版・残弾6/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1】
【所持品2:H&K SMG‖(6/30)、予備マガジン(30発入り)×4、スタングレネード×1、何かの充電機、ノートパソコン、支給品一式(3人分)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、目的は冬弥を止めること。千鶴と出会えたら可能ならば説得する、人を殺す気、ゲームに乗る気は皆無】

189それぞれの想いと変化:2007/01/05(金) 22:15:29 ID:7pibsTiM
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)、鉈、包丁、他支給品一式】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、千鶴と出会えたら可能ならば説得する】
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:鉈・包丁・スペツナズナイフ・他支給品一式(2人分)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る、左耳一部喪失・額裂傷・背中に軽い火傷(全て治療済み)】
吉岡チエ
【所持品1:投げナイフ(残り2本)、救急箱、耕一と自分の支給品一式】
【所持品2:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)】
【状態:珊瑚達の所へ戻る】

【関連:619 B-13】

190修正:2007/01/05(金) 22:53:04 ID:7pibsTiM
>まとめサイト様
以下を修正願います

>>187
>佐祐理は荷物を分配した後、周りにいる人間に出発を促がした。        

佐祐理は荷物を分配した後、周りにいる人間に出発を促がした(アヒル隊長はもう用途が無いので、
爆発の規模を抑えれるよう少し離れた地面に埋めて廃棄した)。

>>188
>春原陽平
>【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
>【所持品2:鋏・アヒル隊長(1時間20分後爆発)・鉄パイプ・他支給品一式】
>【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、珊瑚達の所へ戻る】


春原陽平
【所持品1:スタンガン・FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2・他支給品一式】
【所持品2:鋏・鉄パイプ・他支給品一式】
【状態:全身打撲・数ヶ所に軽い切り傷、頭と脇腹に打撲跡(どれも大体は治療済み)、珊瑚達の所へ戻る】

お手数をお掛けして申し訳ございません

191医者は電気羊の夢を見るか:2007/01/06(土) 09:59:49 ID:HlWmjZ4k
霧島聖は薄暗くなった部屋の中でちらりと時計(家に備え付けてあった。当たり前か)を確認する。
――午前3時30分。
まだ少し出るには早いような気がしなくもないが、そろそろ出立の準備をしてもいいころだろう。
結局、交代で床についてもほとんど眠る事が出来なかった。そりゃそうだ、こんないつ襲撃されるか分かったもんじゃないこの出来の悪いふざけた演劇の舞台で、誰が眠れるって言うんだ?
聖は、脳裏にゲームの開始を告げた殴り心地の良さそうだった兎の人形を浮かべる。
――次に出会ったら、強烈なストレートをかましてやろう。それもただのストレートじゃない、二度と悪さ(それにしちゃ度が過ぎているが、クソ)出来ないように骨の髄まで砕けるようなストレートだ。
TKO。どんなもんじゃーい。
聖はことみが寝ているベッドまで近づいていき、ゆっくりと体を揺らした。
「ことみ君、起床時間だぞ」
言うと、ことみはぱっちりと目を開けて起き上がった。
「よく眠れたか?」
ううん、と首を振ることみ。
「何となく、寝つけなかったの。羊の数を数えてたら、14725匹になっちゃったの」
恐ろしい集中力だった。自分なら、100匹もいかないうちに放り出すだろう。
「今、何時?」ことみが尋ねる。3時30分、と答えてやると「こんなに早起きしたのは人生初なの」と言った。聖は仕事柄、こんな時間まで起きていることも珍しくはなかったが。
「さて、出発の準備だ。ことみ君、悪いが何か役に立ちそうなものを探してきてくれないか? 私は食料を探そうと思う」
「あいあいさー」
敬礼すると、ことみは押入れの中を探り始めた。聖は台所を漁り始める。
冷蔵庫にめぼしい物はなかったものの、戸棚の中から乾パンやカロリーメイト(用意のいい家だこと)を発見することができた。どうせなら、ミネラルウォーターでもあればなお助かったのだが、そこまで期待するのは酷というものだろう。
「――しかし、まるで泥棒みたいだな」
薬やばんそうこうなどを集めているときには思いもしなかったが、考えてみれば人様の家に勝手に入りこんだばかりか食料まで頂戴している。
霧島聖及び一ノ瀬ことみ、住居不法侵入罪。懲役10年。イエー。

192医者は電気羊の夢を見るか:2007/01/06(土) 10:00:38 ID:HlWmjZ4k
「正確には住居侵入罪なの。ついでに、法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金なの」
解説とツッコミ、ありがとう。
「――で、ことみ君は何か見つけたのか」
ツッコミのために顔を覗かせていたことみが、「えーっと」と言って色々取り出す。
「懐中電灯〜」
どこぞの青タヌキ型ロボットの口調を真似たかのようにことみが取り出す。大きさはペンより少し大きいくらいの、つまり俗に言う、ペンライトだった。
明るさとしてはやや頼りない気がするがこの際文句は言えまい。むしろ口にくわえて狭い場所も探索できるのでありがたい。
「100円ライタ〜」
見るからに安物(いや、実際百円ものだが)のライター。だが火をつけたり明かりを灯したり、用途は様々だ。火で炙って殺菌消毒も出来なくはない…はず。
「以上なの」
びっ、と敬礼して報告の終わりを告げることみ。まだ出会って間も無いが、彼女の見識は広いものがある、と聖は思っていたのでもうこれ以上役に立ちそうなものはないのだろう、と考えた。
「よし、じゃあ出発前に少し食べてから行くぞ。ほら、まだ少し早いが朝食だ」
ことみにカロリーメイトを投げ渡す。危なげなくことみはキャッチして、ぺりぺりと袋を開ける。
聖も一つ開けて一気に口に放りこむ。粉っぽいが、味は悪く無い。
十秒チャージ、2時間キープ。
「ひんへいは、ひがふほ」
同様に、リスよろしく両頬にカロリーメイトを頬張ったことみがまたもやツッコミを入れる。
「…キチンと飲みこんでから言って欲しいな」
――聖には届かなかったが。
それはことみも了解しているらしく、モグモグと時間をかけて飲みこんでから改めて突っ込む。
「品名が、違うの。それはウィダーインゼリー」
約一分後の、間を置いたツッコミだった。
食べ終えると、聖は地図を取り出して、現在地を確認する。
「さて、今我々がいるのはこのB−4だ。ここから灯台や氷川村に行くわけだが――ホテル側から迂回して氷川村から行くルートか、学校側から灯台へ向かうルート、どちらにする?」

193医者は電気羊の夢を見るか:2007/01/06(土) 10:01:26 ID:HlWmjZ4k
一直線に道なき道を通るという選択肢もあるにはあったが無駄に体力を使うわけにもいかない。妹も気がかりではあるが――まだ、無事であると信じたい。
「うーんと…先に行きたいところがあるけど、いい?」
言って、ことみが指し示したのは学校だった。灯台へのルートの途中にあるので遠回りにはならないが…
聖が尋ねようとしたところ、先に言葉を発したのはことみだった。
「ちょっと、調べたい事があって」
はっきりとは言わなかった。というより口に出すのを躊躇っているような感じだ。口に出して言えないようなことなのだろうか? 気にはなったが、追求は避けた。ことみなりに何か考えあってのことだろう。
「分かった。先にそちらに向かおう。ひょっとしたら、ここに佳乃がいるかもしれないからな」

【時間:二日目午前4時前】
【場所:B-4】

霧島聖
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式、乾パン、カロリーメイト数個】
【状態:健康。まず学校へ移動】
一ノ瀬ことみ
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯】
【状態:健康。まず学校へ移動】

194医者は電気羊の夢を見るか:2007/01/06(土) 10:02:36 ID:HlWmjZ4k
あ、書き忘れ

B-10です

195名無しさん:2007/01/06(土) 21:16:22 ID:Y5PL6XtQ
誓い(後編) 〜THE END OF JOKER〜


「なんとか無事に着いたんよ」
「ええ。ここが鎌石局ね…」
20分ほど歩いたところで皐月と花梨は鎌石局にやって来た。
早速2人は中に入り、しらみつぶしに局内を物色し始めた。
とはいえ、そう長居もできない。恐らく少年も自分たちを見つけようと今頃村中を徘徊しているだろう。
そのため一通り手短に調べ終わったらすぐに村から去ろうと2人は考えていた。

「なにか武器の変わりになるものでもいいんだけど………」
「そう簡単に見つかったら苦労はしないわよね………あれ?」
業務机の引き出しを立て続けに開けて中を調べていた皐月であったが、ふと1箇所だけ鍵がかかっていた引き出しを見つけた。
「ここだけ鍵がかかってる……」
「……なんか怪しいね。じゃあ早速開けてみるんよ」
そう言うと花梨はポケットから針金(ホテル跡で手に入れた奴。どうやらまだ持っていたらしい)を取り出し島に来て2度目のピッキングを敢行した。
前回同様、鍵穴に針金を差し込んでしばらく格闘していると『カチッ』という音が引き出しからした。
「よしっ。解除完了!」
「へえ。見事なものね。でも私ならもっと早く解除できたけど……」
「え? 皐月さん、今なんて?」
「ああ、なんでもない、なんでもない。とにかく開けてみましょ」
そう言って引き出しを開ける皐月。もちろん花梨とは違い罠が仕掛けられている可能性も考え伸張に開けていく。
―――引き出しの中にあったのは郵便局にあるには不自然すぎる銀色の鉄の塊だった。

「――これって……銃だよね? それに弾も……」
花梨が引き出しから取り出したもの。それはまぎれもなく拳銃だった。
引き出しの中には花梨が取った銃のものや他の銃のためのものであろう数種類の予備の銃弾があった。
「………ちーちゃんだ」
「えっ?」
花梨の持つ拳銃に皐月は覚えがあった。

196名無しさん:2007/01/06(土) 21:17:31 ID:Y5PL6XtQ
―――チーフスペシャル。そう。それは皐月も愛用していたアメリカのスミス&ウェッソン社製のリボルバー拳銃だった。
(もっとも、花梨の持っているそれは皐月の愛用するM36ではなく、その発展型であるM60・3インチモデルであったが……)


「――うん。ちょっとホコリ被ってるけど銃も弾も問題なく使えそうね」
手に入れた銃と弾を一通りチェックし終えると、皐月は制服のポケットにチーフスペシャルを、デイパックに弾をしまった。
ちなみに手に入った弾はM60の予備弾である.357マグナム弾20発(うち5発はM60に装填したため残り15発)と散弾銃用の12番ゲージ弾10発、FN ハイパワーのマガジンに入っていた9ミリパラベラム弾13発の以上3種類である。
「でも武器が見つかってよかったね。これで少しは安心なんよ」
「ええ。でもさ、本当に銃は私が持っていていいの?」
「うん。なんか判んないけど私よりも皐月さんのほうが使い慣れてるような気がするから」
(う…そりゃあねえ………)
そう思いながら苦笑いをする皐月。さすがに今は「銃はこの島に来る以前からたびたび使っていたことがあるから」とは言えない。

「じゃあ行きましょ。何時までもこの村に行くわけには行かないわ」
「ええ。由真やたかちゃんたちと無事に合流できればいいんだけど……」
「そうね。私も宗一やリサさんと合流できれば………っ!?」
――郵便局を出た瞬間、皐月は何か『嫌な予感』がした。
「花梨!」
「えっ?」
考えるよりも先に皐月の身体は動き出していた。咄嗟にバッと花梨に飛びつく。


――ガガガガガガ!

197名無しさん:2007/01/06(土) 21:18:29 ID:Y5PL6XtQ
「っ!?」
「皐月さん!?」
皐月が花梨に飛びつくと同時に銃声が周辺一帯に響き渡った。
さらにそれと同時に皐月の左肩から鮮血が噴き出す。
「さ…皐月さん血が………!」
「いいからこっちに!」
痛みに耐えながら皐月は立ち上がるとすぐさま花梨の手を引き物陰に滑り込んだ。

――敵の奇襲。誰の手によるものかは2人ともすぐに気づいた。

「少年っ!」
皐月と花梨は揃ってその襲撃者の名を口に出すと、皐月たちの隠れている物陰の向かい側に位置する民家の影から襲撃者は姿を現した。
アサルトライフルを手に佇む黒ずくめの姿―――そう。それは間違いなく先ほど自分たちを襲い、幸村と智子の命を奪った少年だった。


「――おかしいな…完璧な奇襲だったはずなのに仕留め損ねるなんて………どうやら君は見かけによらず良い戦闘センスを持っているみたいだね湯浅皐月……」
場に似つかわしくないフッとした笑みを浮かべながら少年は皐月と花梨が隠れている物陰を見つめていた。
「少年! あんた、本当にどういうつもりよ!」
皐月はそう叫ぶと手に入れたばかりのM60を少年に向け構えた。
「言ったでしょ? 僕の目的は君たちが持っている宝石を手に入れることだって……」
そう言いながら少年も皐月に対してステアーを構える。

「――悪いけど、さすがにもう今の僕は君たちを見逃すことは出来ないよ。それに無駄な労力は払いたくない……だから一思いに殺してあげるよ」
「やれるもんならやってみなさいよ………!」
お互い銃を握る手に自然と力が籠もる。2人ともすぐには動かない。
「…………」
「…………」
無言のまま睨み合う皐月と少年。数秒の時間がとても長い時間に2人は感じた。

198名無しさん:2007/01/06(土) 21:19:34 ID:Y5PL6XtQ
―――沈黙を破ったのは皐月――いや。皐月の陰に隠れていた花梨だった。
「こいつーーっ! なめるんじゃないんよーーーーーーっ!!」
花梨はそう叫ぶと自身の持っていたデイパックのうちの1つを少年に向けて勢い良く投げつけた。

「っ!?」
思わず少年はステアーの引き金を引いた。

ガガガガガ………!

銃声と同時にデイパックは蜂の巣となる。しかし次の瞬間、デイパックは破裂すると同時に白い煙が勢い良く少年の周辺に充満させた。
「!? なんだコレは!? ――小麦粉!?」
そう。それは今は亡きエディの支給品、大量の古河パンによる大量の小麦粉の煙幕だった。
さすがの少年もこれには視界を封じられた。
「皐月さん!」
「ええ!」
それを見て、急いでその場から離脱しようと皐月と花梨は走り出した。
普通ならば少年を倒す絶好のチャンスである。しかし、少年にはアサルトライフルの銃弾すら弾く強力な盾がある。そのため、いくら強力なマグナム弾を用いるM60を持っている今の皐月でも少年を攻撃しようなどとは思わなかった。

「一度村の中心部に戻るんよ! あそこなら物陰も多いからきっと逃げ切れる!」
「判ってるわ!」
先ほどと同じように振り返ることなく皐月と花梨は全速力で駆けていく。
しかし………
「―――言ったよね? 君たちを見逃すことは出来ないって………」
「えっ?」
不意に近くから少年の声が聞こえたので、花梨が振り返ると『パン! パン!』という音が近くで鳴り響くと同時に自身の胸と腹部から先ほどの皐月の左肩のように鮮血が噴き出した。
「あ………」
花梨は体中から力が抜けていくのを感じた。そして花梨はゆっくりと地面に倒れた。
「花梨っ!?」
それを見た皐月も思わず足を止めてしまう。しかしそれは少年に絶好のチャンスを与えてしまった。

199名無しさん:2007/01/06(土) 21:20:30 ID:Y5PL6XtQ
パン! パン! パン!

―――再び銃声。それも今度は3回だ。1つ目の銃声で皐月の左足に風穴が開き、2つ目の銃声で右腕にかすり傷が生まれ、3つ目の銃声で右わき腹が抉られた。
「あああああああああああああああっ!!」
迸る激痛に皐月は思わず叫び声を上げ、その後彼女も大地に崩れ落ちた。

「やれやれ……もう慣れてると思ったけど銃って本当に扱いが難しいものだね。未だにコツが掴めない………」
皐月が声のした方に目を向けるとそこにはステアーではなくグロックを持った少年の姿があった。
「能力者の能力を制限する……結構便利なルールだけど自分の能力も封じられてしまうというのは結構不便なものだよ。本来なら不可視の力で君たちを自身の死に気づかせることなく葬ることもできるのに………」
そう言いながら少年は動かなくなった花梨に近寄った。
「………」
皐月はただ黙って少年を睨みつける。
隙を突いてM60をお見舞いしてやろうとも思ったが、今の少年からは皐月にまったく隙を与えてくれる感じがしなかった。
「だけど、ようやくこれで全てを終わらせられるよ。この繰り返される悪夢のような殺し合いも、僕の役目も…………」
少年は花梨のデイパックを手に取り中を開ける。しかし目当ての宝石は入っておらず、中からは特殊警棒と貝殻と手帳が出てきた。
「これは……なるほど。猪名川さんか……確かに、彼女と彼女の仲間たちにはあの時に何度も苦汁を舐めさせられたよ………」
手帳を開いて目を通した少年はふっと笑った。発言からしておそらく前回行われた殺し合いのことを思い出したのだろうと皐月は思った。
「さて……こんなことをしている場合じゃあないよね?」
手帳を花梨のデイパックにしまい、それを置くと今度は花梨の方を調べる。
「やっぱりポケットの中かな?」
そう言って少年は花梨の制服のポケットに手を伸ばした。
その時―――

「にゃあー!」
「うわっ!? なんだこいつ!?」
(猫さん!?)

200名無しさん:2007/01/06(土) 21:21:10 ID:Y5PL6XtQ
突然皐月のデイパックから飛び出したぴろが少年に飛び掛った。
ぴろは花梨のポケットへと伸びていた少年の手を引っかくと、今度は少年の顔に張り付いた。
「くっ…こいつ……!」
「にゃ!?」
しかし、すぐさま少年に引き剥がされるとそのまま勢い良く地面に叩きつけられた。
「ふぎゃあ!」
そう叫ぶとぴろもぐったりと地面に倒れ伏した。
「くっ……こんな奴まで僕の邪魔をするなんて………」
少年はぴろを一瞬睨みつけるとすぐに花梨の方に目を戻した。
「困るんだよ……あと1歩というところで邪魔されるのは………」
「そうか。それは悪いことをしたな……」
「!?」
不意に誰かの声が聞こえた。少年は振り返ると同時に片方のデイパックを自身を守るように前に突き出した。

ズドン!
パン! パン!

2種類の銃声が聞こえると同時にデイパックが破裂し中に隠されていた盾が姿を現し、少年の身体には着弾の衝撃が伝わった。
(ショットガンか!)
そう判断すると同時に少年はその場から少し後退する。

――少年の眼前には、ショットガンをこちらに向けて構える少年と拳銃をこちらに向けて構える少女、そしてその後ろに同じく2人の少女が立ちはだかっていた。


* * * * *

201名無しさん:2007/01/06(土) 21:21:58 ID:Y5PL6XtQ
「笹森さん………」
ショットガンを構える少年――河野貴明は目の前に倒れている花梨と皐月にちらりと目をやった。
見知らぬ少女の方はまだ生きているようだが、花梨の方はその場に倒れたまま動いていなかった。胴体からは大量の血を流し、大きな赤い水溜りを形成していた。
目の前の惨劇に対する怒りにぎりっと奥歯を噛み締めた。そして目の前にいる少年をキッと睨みつける。
「――お前がやったのか………?」
「――僕じゃなかったら誰がやったっていうんだい?」
「……っ!」

ズドンッ!!

少年のそのその言葉が告げられると同時に貴明は少年にレミントンを撃っていた。
それが戦闘開始の合図となった。



貴明のレミントンが火を噴くのとほぼ同時に少年は貴明たちの視界から姿を消していた。
少年の持っていた盾だけがそこには存在していた。
(速い……!)
柏木梓は直感で隣にいた久寿川ささらの腕をぐいっと引っ張った。
貴明とその隣にいた観月マナも咄嗟に左右に転がるように場所を変える。

パン! パン! パン!

「くっ!」
次の瞬間、貴明たちのいた場所に数発の銃弾が貫いた。
まだ完全に癒えていない傷がズキンと痛んだが、今の貴明にそんなこと言っている暇はなかった。

202名無しさん:2007/01/06(土) 21:22:46 ID:Y5PL6XtQ
(固まっていたらやられる……!)
すぐさま貴明たちはそれぞれ物陰に身を隠す。
「梓さん! 久寿川先輩たちをお願いします!」
弾切れしたレミントンに急いで新しい弾を装填しながら貴明は梓の方に叫んだ。
「馬鹿! そんなこと言われなくても判ってるよ! こっちの心配をしてる暇があったら自分の心配をしろ!」
梓は物陰から飛び出すと、近くに倒れていた皐月を抱きかかえる。
「大丈夫か!?」
「あ…ありがとう………っ!?」
「梓さん、前!」
「!?」
マナの叫び声を聞き、梓が目を向けると前方の物陰から黒い影が一瞬横切った。
――少年だ。
「梓さん早くこちらに!」
「判ってる!」
急いでささらの隠れている物陰に身を隠そうとする梓。
しかし再びステアーに武器を持ち替えた少年がそんな梓と皐月に銃口を向けトリガーを引いた。
それとほぼ同時に梓の後ろから貴明とマナが飛び出し2人を守るためにレミントンとワルサーを、梓に抱きかかえられていた皐月も咄嗟にM60を取り出し少年に向けて発砲する。

203名無しさん:2007/01/06(土) 21:24:22 ID:Y5PL6XtQ
―――4種類の銃声が村に響く。
しかし少年に貴明たちの銃弾が当たった気配は微塵もなかった。
その代わり、貴明たち――特に皐月を庇った梓には容赦なく銃弾が襲った。
「ぐうっ!?」
「梓さん!?」
「大丈夫だ、このくらい!」
貴明たちは物陰に身を隠したおかげでなんとか無傷で済んだが、梓は右腕と右肩を負傷していた。
「何処にいったのあのすばしっこい奴!?」
マナが辺りを見回すが少年はまたしても姿を消していた。
「くっ…気配すら感じない……何なんだあいつは?」
「あいつは少年……前回この島で行われた殺し合いの優勝者で主催者が送り込んだ殺人鬼よ……」
「なんだと!?」
皐月のその言葉を聞いた梓たちは驚きを隠せない。
「あいつの目的は私と花梨が持ってる主催者の『計画』に必要な鍵といわれる宝石を狙ってるの………!」
「じゃあ、そのためにあの人は………!?」
ささらの問いに皐月はうんと頷いた。
「許さない………!」
マナはワルサーを握る手にさらに力を籠めた。
「絶対にあんただけは許さない!」
「それなら僕を殺してでも止めてみることさ」
「!?」

204名無しさん:2007/01/06(土) 21:24:59 ID:Y5PL6XtQ
突然マナの視界に少年が踊り出た。
咄嗟にワルサーを構えようとしたが、それよりも早く少年はそのワルサーを握るマナの手を蹴り飛ばした。
ワルサーがマナの手を離れ空中を舞い、地面に転がる。
続けざまに少年は蹴り上げた足をそのままマナの右肩に勢い良く叩き付けた。俗にいう『踵落とし』である。
「ああっ!?」
「観月さん!?」
それを見た貴明は咄嗟に少年の背中に向けレミントンを構える。
しかし少年は振り返ることなく腰にねじ込んでいた38口径ダブルアクション式拳銃を抜き取り、振り返りと同時に貴明に向けて撃った。
2発の銃声と共に放たれた2発の弾丸が一瞬で貴明の右腕を掠り、右肩を貫通する。
「―――ッ!!」
襲い掛かる激痛に貴明は声にならないうめき声を上げる。
そのためレミントンも照準が外れ、放たれた散弾も少年に掠ることなく終わった。

少年は弾切れになった銃を捨て、またしてもグロックを抜き取ると目の前で尻餅をついているマナに向けてその銃口を向ける。
「あっ―――」
瞬間。マナは死を覚悟した。


「させるかああああああああああ!」
「っ!?」
しかしそこへ特殊警棒を持った梓が少年に飛び掛る。
梓から振り下ろされた警棒は少年が左手に持った特殊警棒(花梨のデイパックから奪ったものだ)と激突し、激しい金属音を響かせた。
その隙を突いてマナは貴明のもとに駆け寄った。

205名無しさん:2007/01/06(土) 21:25:39 ID:Y5PL6XtQ
「往生際が悪いよ!」
瞬間、体勢を一気に下ろした少年が右手で梓の警棒を持つ右腕を掴むとそのまま巴投げのように彼女を投げ飛ばした。
「まだっ!」
しかし梓も制限されているとはいえ少年と同じく異端者である。
普通なら背中から地面に叩きつけられるところだが彼女も空中で体勢を代え両足で見事に着地した。
それでも少年は追撃を止めない。すぐさま右手にグロックを握り直し梓に向ける。
「なめるなああああ!」
しかし梓も持っていた警棒を少年の右手に勢い良く投げつけていた。
「くっ!?」
警棒は少年の右手に当たり、持っていたグロックを弾き飛ばす。
この時、少年は右手を軽く打撲した。つまり彼は今回の殺し合いで初めて負傷した。

「チッ……!」
少年は軽く舌打ちすると2、3歩後退する。同時にデイパックからステアーを取り出し梓に構えた。
「!」
それを見て梓もすぐさま皐月から借りたM60を取り出し少年に構えた。
今の少年は盾を持っていない。すなわち、撃てば少年に確実に致命傷を負わせることが出来る。

―――しかし、お互い銃口を向けたまま動かない。
確かに撃てば相手を倒すことは出来る。しかし同時に自身の命も奪われることになるのだ。
梓も少年もこんな所で死ぬわけにはいかなかった。
梓には千鶴を止め、初音を見つけ出すという使命が、少年には宝石を手に入れるという使命がある。
だが、ここで死んでしまえばそれも意味がなくなってしまう。死ねば全てが台無しになる。お互いそれだけは避けたかった。

少年はチラリとあたりを見る。自身のグロックと弾切れの38口径銃に盾、マナのワルサー、梓の警棒、あと先ほど自分を引っ掻いた猫は近くに転がっている。
梓のM60以外で唯一の障害となる武器―――貴明のレミントンは未だに貴明が持っているが当の貴明の姿はない。おそらく先ほどマナに連れられて物陰に身を潜めたようだ。
(しかし油断はできないよね…………)
そう考えながら目線を再び梓に戻す。

206名無しさん:2007/01/06(土) 21:26:21 ID:Y5PL6XtQ
「―――お互い、いつまでもこうしていたららちがあかないと思わないかい?」
「そうだな………」
「だけど、それでも続けるんだね」
「ああ。確かに今あんたを撃てばあんたを倒せるだろうが、あんたも同時にあたしを撃つだろ? それじゃあ結果は相打ちだ。
――あたしは千鶴姉と初音を見つけ出さなきゃならないからな。だから、こんなところで死ねない…!」
「――僕も『計画』の鍵である宝石を手に入れるという使命があるからね。だから死ぬつもりは微塵もないよ……」
最も、その役目もあらかた終わったようなものだけどね、と付け加えて僅かに肩をすくめてみせる少年。


―――その時、また潮風が吹いた。


刹那、再び少年が動いた。
すぐさま梓はM60を少年に撃った。しかし少年にはやはり当たらない。
黒い風が梓を横切る。直感で梓は地面を転がった。
それと同時に少年のステアーが梓の立っていた場所に向けて火を噴いていた。一瞬でも反応が遅れたら間違いなく梓は蜂の巣だっただろう。

―――だが、おかげで少年に一瞬でも隙を作らせることが出来た。そう。転がりながらも梓は少年を捉えていたのだ。
狙うは少年の胸元。そこへM60の銃口を向けた。
「これで………!」
「!?」
少年が反応したときには既に梓はM60を撃っていた。
M60から放たれたマグナム弾はスローモーションのようにゆっくりと(いや、実際は速いのだが梓たちにはそう見えたのだ)少年の胸元に吸い込まれる―――と思われた。

ガァンッ!!

「な………!?」
梓は己が目を疑った。
M60の放った弾丸は少年に当たる直前、彼が地面から蹴り上げたソレに弾かれた。

207名無しさん:2007/01/06(土) 21:27:14 ID:Y5PL6XtQ
―――強化プラスチック製の盾。
過去にセリオのグロック(現在は少年のものだ)から、幸村のステアー(これまた現在は少年のものだ)から少年の命を守った実質彼の『切り札』ともいえるアイテム。
それが三度少年に九死に一生を得させたのだ。
少年はこの時『二度あることは三度ある』という言葉がありがたいものだと感じた。
「さすがに今回は少しヒヤッとしたけどね………」
そう呟き苦笑しながら少年はステアーのトリガーを引いた。


* * * * *


―――ふと目が覚めた。
身体が――特に胸元とおなかのあたりが激しく痛くて熱かった。
あたりは一面真っ赤だった。
目が霞んでいて周りはよく見えないが、それが何であるかはすぐ判った。

―――赤いのは血だ。私の血だ。
すごい血の量………自分の身体の中にはこれほどの量の血が流れていたのかと思わず驚いてしまう。

声が聞こえた。それも叫び声だ。
―――誰の声だろう? 皐月さんかな?

いや……違う。これは男の子の声だ。
どこかで聞いたことがある声―――これは………


(―――たかちゃん!?)


* * * * *

208名無しさん:2007/01/06(土) 21:28:11 ID:Y5PL6XtQ

「さすが柏木の人間――まだ生きてるなんてね…………」
弾切れになったステアーからマガジンを取り出しながら少年は目の前に倒れ伏す梓を見つめていた。
「ぐっ……ち、ちくしょう…………」
梓の腕や足などにはいくつもの風穴が開いていた。無論、少年のステアーによるものだ。
頭や胸など急所に被弾するのはギリギリ避けることができたが出血が酷い。いくら柏木の人間である梓でもこのままでは死んでしまう。
「だけどこれで終わりだよ………」
少年が予備のマガジンをステアーに入れようとした瞬間―――

「少年、お前だけは!!」

レミントンを構えた貴明が物陰―――それも少年の至近距離から飛び出した。
しかし、少年は最初からこう来ると判っていたかのように足元に転がっていた盾を拾い貴明めがけて思いっきり放り投げた。
盾はまっすぐ貴明に直撃する。その衝撃で貴明は尻餅をつき、レミントンも彼の手からすべり落ちた。
さらに少年は追撃とばかりに勢い良く貴明の胸を踏みつけた。
「ぐあっ!?」
「貴明さん!?」
「貴明!?」
「悪いけど動かないでもらえるかな?」
「!?」
すぐさま、ささらとマナ、そして2人に抱えられている皐月が物陰から飛び出すが少年が貴明に銃口を突きつけ3人を制止させる。
「そうだね――まずは君から始末したほうがいいかな貴明くん? なにも特別な力を持っておらず、なおかつそれだけの傷を負っていながらも僕に抗うその戦闘力……正直少し驚いているよ」
既に身体中傷だらけでずたぼろな貴明を見下ろしながら少年はふふと微笑む。その微笑は貴明やささらたちにはとても不気味に感じた。

209名無しさん:2007/01/06(土) 21:29:13 ID:Y5PL6XtQ

少年は嘘は言っていない。
正直、この殺し合いにおいて彼が最も恐れていた存在といえば彼と同じ不可視の力を有する天沢郁未や鹿沼葉子。鬼の血を引く柏木の人間。そして那須宗一や篁といった自身でも未知数の力を有する者たちだった。
だが、そのような者たちとは違う、何も特別な力など有していない一般人たちに彼はこれまで何度も阻まれてきた。
前回の殺し合いの時もそうだったし、今回もあと1歩というところで保科智子の手により1度宝石を手に入れ損ね、今だってあと1歩のところで貴明たちの妨害を受けた。
(本当――人間っていうのはよく判らないよ………だけど…だから面白いのかな……?)
そう思いながら少年は内心くすりと面白可笑しく笑った。


「本当ならこのまま君の命と引き換えに宝石を渡してもらうところだけど、君のような人間は生きているとこの先障害になりかねない……だから悪いけどここで消えてもらうよ」
「――俺は……こんなところで死なない…!」
「………最後の最後まで強情だね……」
そう言って少年はステアーのトリガーを引……
「少年!」
「!?」


* * * * *


―――僕が振り返るよりも先に何かが僕の背中に勢い良くぶつかって、そのまま僕を近くの民家の壁に叩きつけた。
身体中に衝撃が走る。
間違いない。これは人だ。誰かが僕に捨て身で体当たりをかましたのだ。

―――では、いったい誰だこいつは?
柏木梓は既に立ち上がれるほどの戦闘力は残っていないはずだ。それに彼女は僕の視界にもちゃんと映っていた。
同じく視界に映っていた河野貴明、久寿川ささら、観月マナ、そして湯浅皐月もその場から一歩――いや1ミリも動いてはいない。
ではこいつは……………

210名無しさん:2007/01/06(土) 21:29:57 ID:Y5PL6XtQ


少年は、ようやく振り返り自身に体当たりをした者の正体を確認した。
「笹森…花梨か……!?」
そう。先ほど少年のグロッグで胸と腹部を撃たれ、完全に死んだと思われていた笹森花梨であった。

「私……言ったよね………『絶対に宝石はあなたなんかに渡さない』って…………」
「くっ……」
少年はしがみ付く花梨を引き剥がそうとする。しかし、花梨は少年にがっしりとしがみ付いて放そうとしない―――否。放さない。

花梨の目は既に焦点を合わせていない。それに口からも大量に血を吐いている。既に事切れてもおかしくない状態であった。
(―――では、それなのに僕を完全に押さえつけているこの力はいったい何だ?)
少年は身震いを感じた。
不可視の力も――鬼の血も――毒電波や未だ未知の力も持っていないはずの一般人が…………なぜここまで戦えるのだ?

「なんなんだお前は………特別な力も持たないただの人間のはずなのに……………どこからこんな力が……」
「そん…なの……きまって……るでしょ…………?」

一度言葉を切る。
そしてふっと笑うと花梨は言った。

「人間だからよ…………!!」
「!?」


この時になって少年はやっと全てを理解した。

―――そうだ。前回の時も、あの時の保科智子も、そして今自分を押さえつけている笹森花梨もそうだ。
皆最後は己の命を懸けてでも守るべきものを守ろうとした。最後の最後で――己の命の全てを燃やして……………

211名無しさん:2007/01/06(土) 21:31:01 ID:Y5PL6XtQ

* * * * *


「笹森さん!?」
目の前で突然展開された光景を思わず呆然と眺めていた貴明たちであったが、次の瞬間ハッと我に返り貴明が叫んだ。

「たかちゃん!」
「!?」
それに答えるように花梨が貴明の方に振り返った。
「このまま私に構わずこいつを撃って!!」
「な―――!?」
その言葉を聞いた貴明たちは一瞬驚愕した。

花梨のその言葉を聞いた貴明は迷った。
レミントンは今自分の手元に転がっている。確かにこれを拾って撃てば確かに少年は倒せる。しかし………
(それは――笹森さんも殺すということじゃないのか………?)

貴明の目的――それは知り合いや仲間たちを守ることだ。決して殺すことではない。
殺し合いに乗った者が襲ってきたとき――そのとき人を殺すという覚悟は確かに出来ていた。
だが………仲間であるはずの者を自らの手で殺す覚悟など出来てはいなかった。完全に想定外だったし予想外だった。

「そんな……」
―――俺に笹森さんを…友達を撃てと………殺せっていうのか?
貴明の両手は震えて動かなかった。出来るわけがなかった。
自身が守るべきはずの人を自らの手で殺し、それを一生背負っていくなんて貴明にはできなかった。

212名無しさん:2007/01/06(土) 21:31:41 ID:Y5PL6XtQ

「貴明さん!」
「!?」
不意にささらの声がした。
「撃ってください!」
「なんだって!?」
ささらの発言に貴明は思わず振り返ってしまう。
「先輩までおかしくなっちゃったのか!?」
「いいえ。違います! 今…ここで撃たなかったら……きっと私たちは笹森さんを裏切ることになってしまいます………だから………!」
「!?」
ささらは既に泣いていた。その決断を貴明に下すことは彼女にとっても本当はとても辛かったのだ。
「そうだ貴明、撃て! あの子の気持ちを理解して答えてやれ! お前以外誰がやるっていうんだ!?」
「貴明、撃ちなさい!」
「………………」



「こいつっ!」
「ぐが…………」
少年が花梨の腹に拳を叩き込む。花梨の身体から力が抜けていく。花梨の身体がずるずると崩れていく。
それを確認するとすぐさま少年はステアーを構えなおし今度こそ貴明を――――

ズドン!

「がっ……!?」
撃とうとした瞬間、再び衝撃が少年を襲った。それも先ほどの比にもならないほどの大きな衝撃だ。まるで自動車ともろに衝突したかのような………
その衝撃で少年は無意識に血を吐き、ステアーも落としてしまった。いや。こういう場合落とさないほうが不自然というものだ。
目を向けると、その先にはレミントンを構えた貴明の姿があった。
そう。彼は撃った。少年を。少年を押さえつけていた花梨ごと…………

213名無しさん:2007/01/06(土) 21:32:28 ID:Y5PL6XtQ

* * * * *


―――レミントンから放たれたスラッグ弾は花梨の背中にクリティカルヒットとばかりに直撃し、その背中をを勢い良く吹き飛ばす。
そしてその衝撃は少年にも伝わり、彼の肋骨を粉砕していた。
周辺一帯に花梨の血飛沫が撒き散らかされ、その血飛沫の発生源である花梨も吹き飛んだ。

それを見ながら貴明はレミントンを投げ捨てると、少年に向かって駆け出していた。
まだ少年は死んではいない。確実に止めを刺さなければならない。
「これで…………!!」
貴明は腰にねじ込んでいた鉄扇を引き抜くと、すぐさまバッと開いた。
そして、少年をその範囲に捉えると同時に……勢い良く振り下ろす。

―――振り下ろされた鉄扇は美しい軌道を描きながら少年の首を一閃した。

切られると同時に少年の首からはまるで噴水のように大量の鮮血が噴出した。
「あ……あああああ……………!!」
少年はすぐさま両手で切られた箇所を押さえつけるが血は一向に止まる気配は無い。
身体中から徐々に力が抜けていくのを少年は感じた。

「僕が……こんなところで僕が……そんな…………!」
身体をがくがくと震わせながら少年はゆっくりと膝を付いていく。
「少年………」
「!?」
自身を呼ぶ声がしたのでそこへ目を向ける。そこには…………少年の返り血を浴びた貴明がM60の銃口を自身の顔に向けながら見下ろしていた。


「さよならだ…………」

214名無しさん:2007/01/06(土) 21:33:06 ID:Y5PL6XtQ

銃声――――

ビクンと一度震えると少年の身体はそれきり動かなくなり彼は地面に崩れ落ちた。





 終わるのか? 僕は……はここで………?

 ああ。終わるんだ。お前はここで…………でも、これで終わるよ。少なくとも……あんたの『悪夢』は…………

 そうか………



 ―――郁未……僕は……………





―――こうして1人の悪魔は己の中の繰り返される悪夢に終止符を打った。


* * * * *

215名無しさん:2007/01/06(土) 21:34:16 ID:Y5PL6XtQ


「笹森さん!」
少年の死を確認すると貴明はすぐさま花梨のもとに駆け寄った。
花梨のもとには既にささらやマナ、梓に皐月がいた。
「あ…………たか……ちゃん………?」
「ああ! 俺だよ笹森さん! ―――倒したぞ、少年は! あいつの悪夢は俺がこの手で終わらせた!」
涙をこぼしながら貴明は花梨に告げた。

(本当は……全てが終わるまでは泣かないって………決めていたのに…………!!)
必死に溢れ出す涙を止めようと貴明する貴明に梓とマナがぽんと肩を叩いて呟いた。
―――今は泣いていい、と………
「―――っ……!」
それを聞いた貴明は完全に崩壊し、今度こそ完全に涙を流した。

「―――そう……やったね…たかちゃん………」
そう言って普段貴明がよく知っているとびっきりの笑顔を作ってみせる花梨。
その顔は確かに貴明の方を向いていたが、その瞳はもう何も映してはいない。

「花梨……花梨ッ………!」
「皐月さん………宝石の…こと………あとで……たかちゃんたちに教えて…………」
「うんっ! うんっ! 教える! 絶対に教えるから!」
「よかった………」

216名無しさん:2007/01/06(土) 21:35:01 ID:Y5PL6XtQ
「笹森さん………」
「久寿川さん……それに……名前も知らない人たち………あとは……お願いね………?」
「………はい!」
「ああ。あとはあたしたちにまかせろ!」
「だから……あなたはゆっくり休んでいて………」
「うん…………たかちゃん…皐月さん……みんな……ありが………とう………」
そう言うと花梨はゆっくりと目を閉じて眠るように安らかに―――死んだ。

「笹森さん……………ッ!」
それを見て貴明は大粒の涙を流すと青空に向かって声にならない大きな叫び声を叫んだ。
ささらや梓たちもそんな貴明の様子を黙って見つめていた。

―――だから彼らはこの時は気づかなかった。花梨の制服のポケット、いや。正しくは花梨のポケットの中に入っていた宝石に2つの『光』が吸い込まれていくのを………

彼らがそのことに気づくのは少しした後の話である。


* * * * *


 ………これでよかったのかい本当に?

 うん。たかちゃんたちも私の思いにちゃんと答えてくれたから悔いはないんよ。

 でも、僕が倒れたところで主催者の『計画』は終わったわけじゃあない。これから先もあいつらは彼らを付け狙うよ?

 大丈夫、大丈夫。たかちゃんはこの花梨ちゃん一押しの人材だから、そう簡単にやられちゃうほどヤワじゃないんよ!

 ふふ…そうなんだ。少し羨ましいな彼が………

217名無しさん:2007/01/06(土) 21:36:00 ID:Y5PL6XtQ
 へ?

 ああ。なんでもないよ。気にしないでくれ。さて……じゃあ逝こうか? 僕と一緒というのは何かと気に食わないだろうが………

 そうね……ものすごく気に食わないんよ!

 ははは……正直な子だ………



* * * * *


「貴明、もう大丈夫なのか?」
「………いつまでも泣いてはいられませんよ」
「そうか……」
「――だけど、荷物をまとめたらすぐこの村を去ったほうがいいと思います。今の騒ぎを聞きつけて別の敵がくるかもしれませんので………」
高槻さんたちには悪いですけど……、と付け加えて苦笑いをする貴明。
「貴明さん、梓さん。それよりもまずは傷の手当をしないと……」
「そうよ。皐月さんの手当てもしないといけないんだから」
ささらとマナが皐月に肩を貸しながら貴明たちに言った。

「……そうだね。じゃあ荷物をまとめたら近くの民家で休憩しようか」
「ああ。そうだな」
そうと決まればと貴明たちは急いで荷物やあたりに散らばっているものをまとめ始めた。

218名無しさん:2007/01/06(土) 21:37:08 ID:Y5PL6XtQ
貴明はちらりと花梨と少年の亡骸を見た。
本当なら2人とも埋葬してあげたかったが、今の自分たちにはそんな余裕はなかった。
(―――結果的に俺が殺したようなものなのに、笹森さんは俺に『ありがとう』と言ってくれた………だから俺の選択は間違っちゃいない……はずだ……
だから笹森さん…それと少年………俺たちは絶対にお前たちの分まで生きてみせるからな…………! それが2人を殺した俺にできる精一杯の償いになるかは判らないけど………)
貴明は亡き2人にその誓いを伝えると梓たちと荷物をまとめ始めた。



【55番 少年、48番 笹森花梨  死亡】


【時間:2日目・12:15】
【場所:C−4(鎌石局周辺)】

 河野貴明
 【所持品:S&W M60(2/5)、予備弾(12番ゲージ弾)×20、SIG・P232(0/7)、仕込み鉄扇、他支給品一式】
 【状態:左脇腹・左肩・右腕負傷(応急処置および治療済み)。左腕刺し傷・右足に掠り傷(どちらも治療済み)。右肩負傷・右腕にかすり傷】

 柏木梓
 【持ち物:支給品一式】
 【状態:右腕、右肩、左腕、右足、左足負傷(鬼の力のおかげで傷のひとつひとつはそこまで酷くはないが出血が酷い)。目的は初音の保護、千鶴の説得】

 観月マナ
 【所持品:ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、他支給品一式】
 【状態:足にやや深い切り傷(治療済み)。右肩打撲】

 久寿川ささら
 【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、他支給品一式】
 【状態:右肩負傷(応急処置及び治療済み)】

219名無しさん:2007/01/06(土) 21:38:30 ID:Y5PL6XtQ
 湯浅皐月
 【所持品:セイカクハンテンダケ(×1個+4分の3個)、.357マグナム弾×15、12番ゲージ弾×10、9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、他支給品一式】
 【状態:左肩、左足、右わき腹負傷。右腕にかすり傷】

 ぴろ
 【状態:気絶中】


【備考】
・荷物をまとめたら一度近くの民家で傷の手当てをする予定(貴明はその後高槻たちとは合流せず村を後にするつもり)
・以下のものは周辺に転がっている
Remington M870(残弾数1/4)、ワルサー P38(残弾数5/8)、特殊警棒
強化プラスチックの大盾(機動隊仕様)、38口径ダブルアクション式拳銃(残弾数0/10)、ステアーAUG(残段数30/30)、グロック19(残弾数7/15)
少年のデイパック(中身はステアーAUGの予備マガジン(30発入り)×2、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×11、他支給品一式)
花梨のデイパック(中身は海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳)

・以下のものは少年の死体が所持
特殊警棒

・以下のものは花梨の死体が所持
宝石(光3個)、ピッキング用の針金

・花梨と少年の片方のデイパックは中身ごと大破

【関連】
・B−13ルート
・→611

220名無しさん:2007/01/07(日) 14:55:10 ID:ZQiNsmmU
>まとめサイト様
632話の以下の部分の訂正をお願いします

デイパックは破裂すると同時に白い煙が勢い良く少年の周辺に充満させた。
 ↓
デイパックは破裂すると同時に白い煙を勢い良く少年の周辺に充満させた。

少年のそのその言葉が告げられると同時に貴明は少年にレミントンを撃っていた。
 ↓
少年のその言葉が告げられると同時に貴明は少年にレミントンを撃っていた。

「あいつの目的は私と花梨が持ってる主催者の『計画』に必要な鍵といわれる宝石を狙ってるの………!」
 ↓
「あいつの目的は私と花梨が持ってる主催者の『計画』に必要な鍵といわれる宝石を手に入れることなの………!」

しかし少年は振り返ることなく腰にねじ込んでいた38口径ダブルアクション式拳銃を抜き取り、振り返りと同時に貴明に向けて撃った。
 ↓
しかし少年は振り返ることなく腰にねじ込んでいた38口径ダブルアクション式拳銃を抜き取り、振り返ると同時に貴明に向けて撃った。

普通なら背中から地面に叩きつけられるところだが彼女も空中で体勢を代え両足で見事に着地した。
 ↓
普通なら背中から地面に叩きつけられるところだが空中で体勢を代え両足から見事に着地した。

その衝撃で少年は無意識に血を吐き、ステアーも落としてしまった。
 ↓
その衝撃により少年は吐血し、ステアーも落としてしまった。

221名無しさん:2007/01/07(日) 14:55:34 ID:ZQiNsmmU
クリティカルヒットとばかりに直撃し、その背中をを勢い良く吹き飛ばす。
 ↓
クリティカルヒットとばかりに直撃し、その背中を勢い良く吹き飛ばす。

必死に溢れ出す涙を止めようと貴明する貴明に梓とマナがぽんと肩を叩いて呟いた。
 ↓
必死に溢れ出す涙を止めようとする貴明に梓とマナがぽんと肩を叩いて呟いた。

それを聞いた貴明は完全に崩壊し、今度こそ完全に涙を流した。
 ↓
それを聞いた貴明は完全に崩壊し、今度こそ涙を流した。


多いですがよろしくお願いします

222名無しさん:2007/01/08(月) 21:01:12 ID:aY1/vTkY
B−13ルートにおいて494話と589話において矛盾が見つかったので
B−13ルート用の修正版を今から投下します
まとめサイト様、補助サイト様には申し訳ありませんが
以降投下する作品を494b、589bとしてサイトにまとめなおして下さりますようお願いいたします

223早朝の星(B−13):2007/01/08(月) 21:03:42 ID:aY1/vTkY
「ふぁ〜…よく寝た……って、どこだここは!?」
気絶(爆睡)から目覚めた折原浩平は状況が判らず多少混乱した。
近くに狙撃銃や自分のものではないデイパックが転がっている寺の裏手に一人ぽつんとたたずんでいたのだから。
浩平は気絶する以前の記憶を蘇らせ、やっと状況を理解した。
「そうか、七瀬はあいつを追っていったんだな…」
貴重な武器である狙撃銃を置いていってしまっているが、多分七瀬なら大丈夫だろうと浩平は思った。

「さて…せっかくここまで運んでもらったんだ、朝まではこの寺で休んでいくとするかな?」
そう言うと浩平は周りの荷物をまとめて無学寺の裏門を潜った。


「うん…?」
「気がつかれましたか?」
「うわぁ!?」
目を覚ました七海は自身の目の前にいた見知らぬ少女、ほしのゆめみに対して思わずすっとんきょうな声をあげた。
「あっ。すみません。驚かせるつもりではなかったのですが…」
「大丈夫よ七海。ゆめみは敵じゃないわ」
同じ部屋にいた郁乃がすぐさま七海にこれまでのことを説明した。


あの後、また高槻が現れたおかげで一応春夏は退けたこと。(無論、その後にあった高槻の告白やキスしそうになったことなど余計な部分は大幅説明カット)ゆめみたちと合流したこと。
ゆめみたちのグループの一人だったレミィが何者かに殺害されたこと。そして高槻たちがその犯人の足取りを追っていったことを一通り郁乃は話した。

224早朝の星(B−13):2007/01/08(月) 21:09:32 ID:aY1/vTkY
「そんなことがあったんだ……」
「でもこうして七海も無事目を覚ましたことだし、あとはあいつらが帰ってくるのを待つだけね」
「はい。ご無事だと良いのですが……」
「あれ? 誰かいるのか?」
「あっ…」
郁乃たちが振り替えると、そこには荷物を抱えて部屋に入ってくる折原浩平の姿があった。
しまったと郁乃はすぐさま浩平に銃を向けた。
「うおっ!? 待て待て、俺はゲームに乗っていない。人を探しているだけだ!」
そう言って荷物を足元に投げ捨て浩平は両手を挙げる。
「……その様子だと、嘘ではないみたいね」
郁乃は銃を向けていた腕を下ろすと浩平から話を聞くことにした。


「つまり今折原はこの川名みさき、上月澪、里村茜、住井護、長森瑞佳、七瀬彰、
七瀬留美、藤井冬弥、氷上シュン、広瀬真希、深山雪見、柚木詩子を探しているのね?」
浩平が探しているという人たちを確認するため、郁乃は参加者名簿をチェックしていく。
「ああ。俺が知ってる奴はそれで全員だな。じゃあ今度はそっちが探している人の名前を聞かせてくれ」
「私はお姉ちゃんの愛佳とそのお姉ちゃんの知り合いで河野貴明って奴の2人ね」
「私が探しているのは那須宗一さんに湯浅皐月さん。それと梶原夕菜さんです」
「あんたは?」
浩平はゆめみの方へ目を向ける。
「すみません。私はこの島に来る以前のお知り合いの方はいらっしゃらないので……」
「そうか。このマルチとかセリオっていうのはロボットっぽい名前だから知り合いかなと思ったんだが……」
そう言って浩平は一通り自分の名簿にチェックを済ませるとそれをパタンと閉じてデイパックにしまった。

「あ。そういえばこっち何入ってんだ?」
浩平はもう一方のデイパック――かつて柚原春夏のものであったそれの中が気になったので確認してみることにした。

225早朝の星(B−13):2007/01/08(月) 21:10:34 ID:aY1/vTkY
「――ナイフと何かの鍵と…カードにどこかの建物の見取り図か……」
「こんな施設がこの島のどこかにあるっていうの?」
「あるから支給品で配られたんだろ?」
「そうですよね」
浩平たちは要塞の見取り図を見ながらああだこうだと話し続けたが、自分たちの子供の考えだけではらちがあかないと判断し、結局打ち切りとなった。

「とりあえず、今は小牧の仲間たちが戻ってくるのを待とうぜ。休めるときに休んでおかねーと」
「そうね」
浩平は自分のデイパックからパンを取り出すと勢い良く噛り付いた。今まで食物など何も口にしていなかったので腹が減っていたからだ。
「あんまり美味くはないな………」
しかし背に腹は替えられない。今は殺人ゲームの真っ最中、食べられるときに何か食べておかないとこの先何があるか判らないのだから。
パンを食べながらふと部屋を出て空を見た。まだ朝日が昇る時間ではない。空には未だ無数の星々が輝いていた。
(こんな所でも星空は俺が住んでるところよりも綺麗なんだな)
こうして星を見るのは何年ぶりだろうかと思いながら浩平は残りのパンを口の中に放り込んだ。
(長森……無事でいてくれよ………)

226早朝の星(B−13):2007/01/08(月) 21:10:52 ID:aY1/vTkY



【時間:2日目AM3:45】
【場所:無学寺】

折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

小牧郁乃
 【所持品:S&W 500マグナム(残弾13発中予備弾10発)、写真集×2、車椅子、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

立田七海
 【所持品:フラッシュメモリー、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

ほしのゆめみ
 【所持品1:忍者セット、他支給品】
 【所持品2:おたま、他支給品】
 【状態:高槻たちが戻るまで休憩】

【備考】
ゆめみのおたまは春夏が落としていったもの

227秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:13:01 ID:aY1/vTkY
YO! YO! パソコンの画面の前のよい子、悪い子のみんな。おはこんばんちわ。(死語? ほっとけ!)
いつの間にかMr.ハードボイルドと呼ばれるまで(え? まだそこまでは呼ばれてない? 別にいいじゃねーか)このキャラが板についてきたと思ったら、
前回ランクが「漢」にアップしたんだかダウンしたか判らなくてちょっと困ってる高槻お兄さんだよー。
いつものノリならこのまま美少女ゲーみたいに俺様の一人称視点で話が進めたいだが、残念ながら今回は以降の文は普通の小説っぽく話が進んじまうんだなあこれが。一応メインキャラは俺様だけどよ。
たまにはいいだろそういうのも? 原点回帰みたいで新鮮な感じ……しないか? 駄目か?
……あーもう。とにかく本編開始だ。さっさと次に行けよやー!!



「はい。終わったわよ」
「おう。すまねえな」
杏は浩平の両手に包帯を巻き終わると救急箱をデイパックにしまった。
「――しっかし…沢渡の置き土産がこんなところで役に立つとはな」
高槻は浩平に再び七海を背負わせると現在は杏の手にある沢渡真琴のデイパックに目を向けた。
以前述べたとおりこの中には今杏がしまった救急箱や先ほど真琴の墓を作る際に使用したスコップなど様々な日用品が入っている。
今は亡き真琴曰く「持って行けば絶対に役に立つわ!」とのことだったが、その「使えそう」というのが真琴基準であるため、使えそうなものから見るからに絶対使えそうもないものまで本当に様々な種類の品が中にはぶちこんである。

「そういえば聞いていませんでしたが、何で久寿川さんとは別行動を?」
まだ聞いていなかった疑問をゆめみが高槻に投げかけた。
「ああ。実はあれから俺たちはポテトの鼻を頼りに鎌石小中学校まで行ったんだがな………」
高槻がそこまで言ったところで2回目の定期放送が流れ出した。

228秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:14:33 ID:aY1/vTkY

『――みなさん……聞こえているでしょうか。
これから第2回放送を始めます。辛いでしょうがどうか落ち着いてよく聞いてください』
「!?」
前にも一度聞いた青年の声が高槻たちの耳に入る。
しかし、その青年の声は12時間前に聞いたときよりも活気がなくなっているように思えた。
(――もしかして、この放送をしている奴も俺たちみたいに主催者に強制されてやらされているのか?)
放送を聞きながら高槻はそう思った。


「くそっ…氷上や雪見先輩まで………」
放送が終わると浩平は手当てを終えたばかりの右手でどんと軽く壁を叩いた。
「梶原さんって人の名前もあったわね……」
「神尾晴子って確か観鈴の……それに春原芽衣と古河早苗って…もしかして………」
「久寿川たちや沢渡の探していた祐一って奴はまだ一応無事みたいだな」
「ええ…」
「しかしマズイなこれは……」
高槻は放送の最後に(どういうわけか)あの声を聞くだけで腹立たしいクソウサギが言った言葉を思い出した。
「『優勝者にはどのような願いも叶えられる』。『大切な奴が死んでしまってもそれで生き返らせれば問題ない』……だっけ?」
「ああ。それに、下手をしたらそれに釣られて今までこのゲームに乗っていなかった奴までゲームに乗っちまう可能性がある。
『ゲームに乗って他の参加者を皆殺しにしても、自分が優勝してゲームが終わった後に全員生き返らせれば問題ない』なんて馬鹿なこと考えてな」
「少なくとも1人はそういうやつがいるだろうな」
「―――まあ、今は考えてばかりいても仕方がねえ。まずは鎌石村に行って久寿川たちと合流するぞ」
そう言って高槻は自分の荷物を手に取ると無学寺を後にする。
「あっ! 待ちなさいよ! まだなんでささらと別行動になったのか理由を聞いてないわよ!」
「それは歩きながら説明してやるよ。いいから早く来い。置いてくぞ」
ぶっきらぼうにそう言って先を行く高槻の背中にぎゃーぎゃーと文句を言う郁乃をなだめながら浩平たちも高槻の後に続いた。

229秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:17:07 ID:aY1/vTkY



「………とまあそういうこった」
道中を歩きながら高槻は鎌石小中学校で起きた出来事を一通り郁乃たちに説明した。
「つまり、鎌石村に行ってささらたちと合流したらまずはその朝霧って人を探すのね」
「ああ。一応な。本当なら宮内の仇を討ちたいとこだが、久寿川たちがそれだけは止めてくれってことでな。
……そういや、折原に藤林だったか? お前らは探している奴はいないのか?」
「そうだな。俺は……川名みさき、上月澪、里村茜、住井護、長森瑞佳、七瀬彰、七瀬留美、藤井冬弥、広瀬真希、柚木詩子だな」
「そりゃまた随分多いな」
やれやれだぜ、と呟くと高槻は郁乃から渡された参加者名簿にペンでチェックを入れていく。
「まあ俺の探している連中……特に住井と長森とみさき先輩と七瀬…留美のほうな。この4人は間違いなく信用していい」
「確証はあんのか?」
「七瀬はここに来る前まで俺と一緒に仲間を探していたから問題ない。長森とみさき先輩は性格からしてゲームに乗るような連中じゃない。住井は……馬鹿だけどこういうことには絶対乗るような奴じゃない」
「おいおい…最初の留美って奴はともかく、2人以降はまともな確証になってないじゃねえか………」
「安心しろ。俺のカンは結構当たるぞ」
「そう言われると逆に凄く不安なんだけど……」
自信に満ちた浩平の発言に杏と郁乃…そしてさすがの高槻も呆れるしかなかった。

230秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:18:39 ID:aY1/vTkY
「あー。気を取り直して、次はあたしの探している人ね。
あたしが探しているのは一ノ瀬ことみ、岡崎朋也、坂上智代、春原陽平、古河渚……そして妹の藤林椋の6人よ」
「一ノ瀬に岡崎に坂上………そして藤林椋と……」
「あと。さっき言ってた祐一って人――多分相沢祐一だと思うけど、彼とは一度鎌石村の消防分署で会ったわ」
「本当か?」
「ええ。今はもう鎌石村にいるかどうかは判らないけど……それと、祐一と一緒にいた子で神尾観鈴。あと私は直接話しちゃいないんだけど緒方英二と向坂環って人。彼らは全員信頼できるわ」
「なるほど……少なくともゲームに乗るなんてことはないんだな?」
「ええ……観鈴が少し心配だけど………」
「神尾晴子……だっけ?」
郁乃が先ほどの放送で上がった名前を口にする。
杏もだまってうんと頷いた。
「あー。そういう辛気臭くなる話はやめろ。ただでさえこっちはテンション高くねえんだからよ」
これ以上士気が下がらないように高槻が話を強制的に終了させた。

「さて、お前たち」
突然高槻が手にしているものを参加者名簿から地図に変えて郁乃たちの方に振り返った。
「なに?」
「なんだ?」
「どうしたんです?」
「どうかしたの?」
郁乃たちはそろって高槻に声をかける。
すると高槻は地図を広げると彼女たちにこれから先の道のりについての説明を始めた。
「既にご存知の通りだが今俺たちは鎌石村に向かっている最中だ。そして、地図を見れば判るとおりここから鎌石村に行くには2種類のルートがある。
1つは東崎トンネルを通って行くルート。もう1つは山道から観音堂方面を経由して行くルートだ。
そのことなんだが…俺様の意見としては後者のルートの方で行った方が安全だと思うわけよ」

231秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:19:10 ID:aY1/vTkY
高槻が地図に載っている海沿いの山道を指でなぞっていく。
「なんでさ?」
「さっき俺様と今は亡き沢渡は行きも帰りもこっちの東崎トンネルのルートを通って来たんだけどよ、ここがちょっとワケありな場所でな……」
「ワケあり?」
「ああ。このトンネル軽く1キロくらいは距離があるんだよ。しかも、どういうわけかこのトンネル中に照明が、まったくないときたもんだ」
「つまり中は真っ暗闇ってこと?」
「ザッツライトだ藤林! するとどういうことかもう判るよな? つまりはここを通るときは壁伝いでなきゃ恐ろしくて行動できねえんだなこれが!」
「ああ…! そうそう思い出した。私も七海とここを一度通ったけど、中本当に暗いのよここ」

郁乃は昨日七海と無学寺に行くためにこのトンネルを通ったときのことを思い出した。
確かに高槻の言うとおり、あのトンネルの中は昼間でも本当に暗かった。しかも、その暗さは酷いと自身の足元すら判らなくなるほどであった。

「おお。そうなのか我が愛しのマイスイートハニー郁未!? これはやはり運命ってやつなのかねえ……」
属にRRと呼ばれる竹林風台詞回しで高槻が郁乃に言う。ちなみに今言った『我が愛しのマイスイートハニー』という言葉は嘘でもなければ本心でもない。ただノリで言っただけである。
「馬鹿丸出しな冗談言ってないでさっさと話を続けなさい」
「なんだよノリが悪い奴だな……とにかく、俺が言いたかったのはこのトンネルを通るのは危険すぎるってことだ。
もしここん中でマーダーと接触でもしてみろ。下手したらいつの間にか全員ズガンされちまう」
「確かに…それに、もしかしたらそれを狙ってトンネルの中で待ち伏せしている奴がいるかもしれないしな」
「でも、マーダーだってわざわざ自らを危険にさらすまでそんな所で待ち伏せすると思う?」
「そうですね。下手をしたら自分がやられてしまうかもしれないのに……」
「いや……少なくともあの男は………平気でやるでしょうね」
郁乃のその一言で高槻と杏以外(すなわち浩平とゆめみ)ははっとした顔をする。
「―――さっきの男……岸田洋一だな?」
高槻の問いに郁乃は黙って頷く。

232秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:19:58 ID:aY1/vTkY
「キシダヨウイチ? それがあの男の名前か?」
「ああ」
「ちょっと待ってよ! 岸田なんて人は参加者名簿に載っていなかったわよ!?」
杏が高槻と郁乃に問い返す。が、それにはゆめみが答えた。
「でも、私やポテトさんやボタンさんのこともありますし………」
「あっ…そっか………つまりその岸田って男は主催者がゲーム進行を進めるために用意し送り込んだマーダーってことなのね?」
「いや。その可能性は低いだろうな」
「なんでよ?」
「あの男は首輪をしちゃいなかった」
「えっ?」
「俺たちやゆめみにだって付けられているこの首輪をあの男は付けてはいなかったんだよ。おそらく………」
「―――ゲームに乱入したっていうのか?」
「多分な。あくまで可能性にすぎないが、もしかしたら島のどこかに奴の船か何かが隠されているかもしれねえ」
「じゃあ上手くいけば……」
「ああ。このゲームを脱出する糸口が掴めるかもしれねえ」
高槻は一度にやりと笑った。
「さて……この話はここで一旦打ち切りだ。本題に戻るぞ」
全員うんと頷く。
「というわけだから俺たちは山道から鎌石村に向かうべきだと思う。ちょっと遠回りになるかもしれないし山道だからきついかもしれねえが………異論は無いか?」
「『急がば回れ』って言うし……いいんじゃないの?」
「ああ。異論は無いな」
「私もありません」
「あたしもないわ」
「ぴこっ」
「ぷぴっ」
「よし。満場一致で決定だな。じゃあ気を取り直して行くとするか」
そう言って地図をしまうと、高槻一行は再び歩き出した。

233秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:20:54 ID:aY1/vTkY


(やれやれ……何度も思うが本当に俺はどうなっちまったんだろうな?)
空を見上げながら高槻はふと思った。
(こんな連中なんか頬っておけばいいと思っていたはずなんだがなあ………なぜか知らねえが放っておけねえんだよなあ危なっかしくてよ)

(―――それとあの岸田って野郎だ。同族嫌悪というワケじゃねーというと嘘になるかもしれねえが俺はあの野郎が許せねえ……!)
ふと脳裏に真琴が岸田に刺された光景がフラッシュバックする。
(………腸が煮えくり返ってしょうがねえ…!)
その光景や岸田の顔を思い出すたび内から怒りが込み上げてきた。
(あの野郎は絶対あの程度で引き下がるような奴じゃねえ……間違いなくこれから先も奴は他の参加者を殺したり犯そうと暗躍するはずだ………
そして……絶対に俺やこいつらの前に再び現れる………!)
高槻はちらりと目線を郁乃たちに向けた。
(―――ったく。こんな絶望的な状況の中でも僅かな希望の光を求め続ける……本当に馬鹿な連中だぜ。
だが、それに少なからず影響を受けてきている俺様……か。はっ。我ながら馬鹿馬鹿しい光景だぜ。
――――だけど、結構悪くねーじゃないの、そーいうのよ………)
高槻はふっと笑った。
それに気が付いた浩平たちが高槻に尋ねる。
「なんだ高槻? 急に笑ったりして」
「ほっときなさい。どーせまたやらしい妄想でも抱いていたんでしょ?」
「おいコラ。勝手に決め付けんな。俺様だって時には憂鬱に浸りたいときがあんだよ!」

(―――まったく…本当にしょうがねえガキどもだぜ。しょうがねえ…もうしばらくこいつらの面倒を見てやるか……)
高槻はそう決断するともう一度ふっと笑った。
(そして待ってやがれ岸田洋一…そして主催者ども……! テメーらはこの高槻様が直々にブッ潰す…!)
―――高槻自信はまだ気づいていなかったが、彼の心には確実に『正義』と属に呼ばれるものが生まれていた。

234秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:21:50 ID:aY1/vTkY



【時間:2日目・07:00】
【場所:E−8】

 正義の波動に目覚めはじめた高槻お兄さん
 【所持品:日本刀、分厚い小説、ポテト(光一個)、コルトガバメント(装弾数:7/7)予備弾(6)、ほか食料・水以外の支給品一式】
 【状況:外回りで鎌石村へ。岸田と主催者を直々にブッ潰すことを決意】

 小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、S&W 500マグナム(5/5、予備弾7発)、車椅子、ほか支給品一式】
 【状態:外回りで鎌石村へ】

 立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、ほか支給品一式】
 【状態:気絶(睡眠)中。今は浩平の背中に】

 ほしのゆめみ
 【所持品:忍者セット(忍者刀・手裏剣・他)、おたま、ほか支給品一式】
 【状態:外回りで鎌石村へ。左腕が動かない】

 折原浩平
 【所持品1:34徳ナイフ、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)】
 【所持品2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、ほか支給品一式】
 【状態:全身打撲、打ち身など多数。両手に怪我(治療済み)。外回りで鎌石村へ】

235秘めていたセイギ(B−13):2007/01/08(月) 21:22:04 ID:aY1/vTkY
 藤林杏
 【所持品1:包丁、辞書×3(国語、和英、英和)、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、ほか支給品一式】
 【所持品2:スコップ、救急箱、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
 【状態:外回りで鎌石村へ】

 ボタン
 【状態:外回りで鎌石村へ】

236犬猿:2007/01/08(月) 23:23:41 ID:tZx0fkHM
私は今、柳川さん、七瀬さんと一緒に氷川村に向かって歩いています。
ですが、問題が一つあります。

「貴様、随分と余裕なんだな。銃を全て他の者に渡すとはな」
「いいのよ。私はあなたと違って、人を殺すつもりなんてないんだから」
それにこっちの方が使い慣れてるしね、と七瀬さんは手にした日本刀をぶんぶん振りながら付け加えました。

「どれだけ腕に自信があるか知らんが、そのような物を振り回すのはあまり関心せんな。
それとも貴様の言う乙女とは、野蛮な女の事を指すのか?」
「っ――余計なお世話よ!」

……また始まりました。
さっきからずっとこの調子で、柳川さんと七瀬さんは事あるごとに衝突しています。

その度に私はフォローを入れるのですが、
「あのー……、もう少し仲良くなさっても良いのでは……」
「いくら倉田の頼みであろうとも、それは断る。この女とはどうも気が合わん」
「私もよ。そりゃ柳川さんは尊敬出来る部分もあるけど……何ていうか、ムカつくのよ」
「……」
こんな調子です。
これが犬猿の仲と言うものでしょうか。
先行きはかなり、不安です。


――事の顛末はこうです。

みさきさん達と別れた場所に戻ると、すぐに珊瑚さんが私達を呼びに来ました。
珊瑚さんの後に続いて民家に入っていくと、
みさきさん、それに私達がいない間に出会ったという北川さん、広瀬さんがいました。

237犬猿:2007/01/08(月) 23:25:33 ID:ThffvYok

「留美、どうしたのよ?そんな辛気臭い顔してるなんて、あんたらしくないわよ」
「うるさいわね、乙女にはたまに黄昏たくなる時があるのよ」
「まったまたー、冗談言っちゃって。どこの世界に、あんたみたいな乙女がいるのよ」
「な……何ですってーっ!」

……七瀬さんと広瀬さんはお知り合いだったようです。
七瀬さんは怒っていたけれど、心なしか少し元気になられたように見えました。
ですがいつまでもこうしてはいられません。
民家の一室で、私達は話し合いを始めました。

まず最初に北川さんから話を始めたのですが、その中の一つの話題に柳川さんが声を荒げました。
「くっ、そういう事か!」
「そうだ。【氷川村の宮沢有紀寧】が、【リモコン爆弾】と【人質の初音】を使って脅したんだと思う」
「人質を取られていたから、耕一さんはあんな事をしたんスね……」
「有紀寧ちゃんがそんな事をするなんて……」

耕一さんが豹変してしまった理由。
それがようやく分かりました。
春原さんの知り合いの、有紀寧さんという方に脅されていたのです……。
その後、藤田さんが思い出したように呟きました。

「それにロワちゃんねるの書き込みも……」
「ああ。るーも、宮沢有紀寧が犯人だと思う」
「その女……どこまで人の命を弄べば気が済むつもりだ……!」

耕一さんの事が余程悔しかったのでしょう、柳川さんは終始怒りを隠しきれない様子でした。
無理もありません、耕一さんは柳川さんと血の繋がった親戚だったのですから……。


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