[
板情報
|
R18ランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
| |
貴族の孤児院
1
:
りんごじゅうす
:2010/10/25(月) 21:24:24
『貴族の孤児院』(1)
シャルロットが一人で出歩くのは、もうどれくらい久しぶりかも忘れるぐらい、久しぶりであった。
騎士であり、貴族の家系に生まれたシャルロットにとって、外出する時は御者が引く馬車が多いし、歩きたいと言っても一人二人、従者か護衛がつくのが当たり前であった。
しかし、如何な貴族とはいえ、一人でいたい時もあるし、何よりもシャルロットは、自分の足で歩くのが嫌いではないのだ。
ゆっくりと景色も楽しめるし、頭の中の考えも歩いている時、気分転換にもなって意外と纏まるものだ。
だから彼女は、久しぶりの一人で、気分良く街中を歩いていた。他の人の注目を浴びているのを気にならなかった。
緩く波打った美しい長い金髪は、サイドのみ後ろに束ね、彼女の背中へ流れている。身につけている服も、動きにくいドレスでこそ無いが、赤を基調とし、刺繍やレース、そして宝石がちりばめられた豪華な物。
そして何より、一般人では持つ事も無い、美しい装飾が施されたレイピアを腰にさしている。
要するに、誰もが彼女を貴族か何かだと人目で分かる格好をしていたのだ。注目を浴びない方が可笑しかった。
子供を連れて世間話をしていた奥さんたちも、せっせと重たい荷物を運んで忙しそうに働いている男も、冒険者や傭兵といった風体の男も、皆一様に、場違いなどこかの貴族のお嬢様のシャルロットへと視線を集めた。
しかしそんな注目も、彼女は気分が良くて気がつかないのか、軽い足取りで街を進む。
そして、普段はお付きの人たちがいくのを嫌がる方へと行こうとした。いわゆる貧民街とか、下層の身分の人が住まう場所だ。
レンガで出来た建物の角を曲がった時、彼女は突然、何者かに足元から迫られた。
「お願いします! どうかお恵みを!!」
「ヒッ!? よ、よるでないわ汚らわしい!!」
咄嗟の事に体が硬直する。
相手は物乞いの、やせ細った男だった。
手を伸ばし、下から下半身を掴まれるのは、女性としてはこの上なく気持ち悪い事だった。
しかも相手は男だ。その上、明らかに洗ってないボサボサの髪と、伸びっぱなしの髭。黒ずんだボロボロの汚れた衣類。
貴族の娘として、潔癖症の毛があったシャルロットには、この上無く耐えがたい存在であった。蹴とばして追い払うのすらしたくない! かといって剣を使うには間合いが近い。
だが、貴族としての英才教育で、彼女は魔法の心得があった。素早く呪文を紡げば、物乞いの体に電流が流れ、気絶したのか、バタッと倒れた。
「全く、汚らわしい。服が汚れてしまいますわ」
ぱんぱん、と白い手袋で、掴まれた所を払いながら、ひれ伏した物乞いを冷たい目で見下ろした。
一人で散歩するのが好きで、武芸と魔術の心得がある変わり者の貴族とは言え、彼女の貴族の娘。
それなりに下々を思う気持ちはあるにはあるのだが、特権階級特有の傲慢さと、美しく、綺麗な女性でありたいという気持ちもあった。
だから、この物乞いに対しての慈悲の気持ちは持てなかったし、今までのご機嫌な様子の一気に吹き飛んで、不機嫌な顔をした。
その行動が、これからの彼女の人生を変えるとは、この時シャルロットは夢にも思っていなかった。
27
:
名無しなメルモ
:2010/11/12(金) 08:42:38
>>26
りんごじゅうすさん更新ありがとうございます!
尊敬する魔法使いがまた再登場したのには感激しました!
しかも今回はシャルロットを赤ちゃんに戻してしまうなんて素晴らしすぎです。
喋る事も歩く事も出来ない赤ちゃんにされたシャルロットはかなり驚いたでしょうね
まあ知能も赤ちゃんに戻されてしまってたのでだんだんポヤーンとしてきたのでしょうけど。
それにいくら大人の記憶があっても赤ちゃんの知能では理解出来ないでしょうからね。
シャルロットも魔法使いがその気になれば赤ちゃんに戻す事も可能だったと分かったはずです。
元の身体に戻る方法、一通り恥ずかしい目に遭わないと戻らない、とかだったら面白いでしょうね。
ますますこの作品が大好きになりました、りんごじゅうすさん本当にありがとうございます
28
:
<削除>
:<削除>
<削除>
29
:
りんごじゅうす
:2010/11/14(日) 08:21:16
番外編『魔法使いの外出』(前編)
「おい兄ちゃんよぉ。ちょっとお小遣いくんねぇか」
黒いローブに身を包んだ魔法使いの前に、そう言って一人の男が現れた。
目の前の男は、筋肉隆々の男で、革のジャケットの下に着たシャツがピッチリと胸に張り付き、筋肉をアピールしていた。
そして、手には太く、重たそうな剣をオモチャみたいに揺らしている。
「おおっと、逃げようとすんじゃねぇぞ。背ぇ向けたら俺様の剛剣がバッサリと斬っちまうぞ」
その言葉の通り、すでに剣の間合いの内側。逃げようとしたらその前に斬られかねない距離。
そして場所は、人通りの無い、助けも来ないであろう裏路地。
男の息は酒臭かった。髭もロクに手を入れておらず、魔法使いを不快な気分にさせた。
むっと顔をしかめて、魔法使いは口を開く。
同時に、ローブの裾から小さな杖を取り出して、男へと向けていた。
「……そうかい」
若返りの魔法に関しての高速発動を可能にする、特定の魔法専用の杖であった。魔力の波動が、強盗を包みこんだ。
男は魔力の波動を受けた独特の感覚に、一瞬怯んだ様な素振りを見せ、その後、がしゃんと剣を取り落とした。
男の体が急速に縮み、一気に剣が重たく感じられた事だろう。男が己の体の異変に気付いてから1秒程の間に、変化は終了した。
4,5歳と言った所か、ぶかぶかの革のジャケットの中で体をもぞもぞとさせる幼児が、自分の体を見下ろすべく顔を下にして立っていた。
「なん、だこりぇ、ふくがおもい……」
困惑した表情は舌っ足らずで、よたよたとしてる。幼児の癖に、酒のせいか顔が赤い。
「俺の剛剣がなんだって? ん??」
魔法使いは、にやり、と口元を歪ませたら、困惑している男に手を伸ばし、むんずとシャツを掴み上げた。
元は大柄な男だった相手の服はぶかぶかで、服と一緒に体が持ち上がったのはほんの数秒。
すぐに服からストンと落ちて、幼児になった男は、自分のズボンの上で尻餅をつく。
いたぁっ、と悲鳴を上げて、涙目になっていたが、すぐにハッとして、自分の股間を両手で押さえた。
その様子に、魔法使いはクククッと笑う。
「おーおー、可愛いちんちんじゃねぇか。
まだまだ隠すような歳じゃねぇだろ。」
男は、股間を隠す拳の片方を振り上げて立ち上がり、「もとにもどちぇ!」とわめいている。
クッ、と笑った後、魔法使いは、手に残った服を男に被せる様に放り投げた。
いきなり視界が塞がった男は、手足をばたつかせていたが、大人の革ジャンは幼児には重たかったのだろう。後ろにすこんと倒れ込んでしまった。
魔法使いは声を荒げた。
「あぁ!? 立場分かってんのか? あ?」
幼児は、びくっとしたが、大人だったためか、涙は見せなかった。
「……もとにもどちて、ください」
「ハッ、さっきまで威勢が良かった癖に、ガキになって腕っぷしで適わなくなったらそれかよ。自分が弱くなったら降参か?」
口をつぐんで、怖さに耐えている幼児。
さっきまで、無駄に威勢の良かった男とは思えない、髭の無い幼い顔立ちに、泣きそうな表情。ぎゅっと口を噤んで耐えている。
こういう、高慢で、自分の力で我儘しほうだいなヤツが、一番ガキにしがいがある。
自慢だった力が使えずに、無力な姿で頑張ったり、逆に懇願する様を見ると、鼻をあかせた達成感と、サディズムが刺激される。
とはいえ、連れ去ったりしたら貴重な魔法使い特有の道具を滅茶苦茶にされたりするし、いつまでもこうしていたら誰か来る可能性もある。
仕方なく魔法使いは立ち上がって、幼児に向けて呪文を唱え始めた。
元に戻すのかと思って、じっと待っていたのだろう。
しかし、呪文を唱え終われば、幼児の姿はすっと消えた。
転移の魔法だったのだ。以前の貴族の娘と同じ場所ではなく、遠くの街へと飛ばした。
同じ孤児院に、自分は大人だと主張する幼児が何人もいたら、どこかの魔法使いの仕業だと発覚しかねない。
「元に戻る条件は、一月以上弱い者イジメをしていない状態で、人助けをする事、ってか」
残された男の持ち物を漁りながら、魔法使いは呟いた。
30
:
りんごじゅうす
:2010/11/14(日) 08:35:21
ちょっと書き出しがおかしいかも。
シャルロットの方が初日を終えて、魔法使いも再登場したので、ちょっと魔法使いの番外編を書いてみます。
……当初の予定だともうとっくに完結してるはずだったんだけどなぁ。頭の中で浮かんだ物語の構想だけなら10行以内で終わるのに(笑)
長々と絶対途中で更新が滞りそうだから、そうなる前に終わらせたいです。
長期連載なんて無理。
物語全体の筋書きはとりあえず頭の中にあるので、大幅な変更はできませんよ〜、と今のうちに宣言しておきます。
>>27
さん
ありがとうございます。
当初再登場はかなり後だったのですが、再登場リクエストもあり、面白いと判断したのでちょっと描いてみました。その割には期待にこたえられたか自信ありませんが。
男の言葉が理解できたのは、3歳の姿に戻されてから、目を覚ましてから、でしょうね。
そしてその予想は、面白いですね(笑)。それにしたら良かったカモです。
31
:
名無しなメルモ
:2010/11/14(日) 19:27:36
>>29
魔法使いの番外編ありがとうございます!
力を誇示してる者や身体に自信を持っている者は男女問わずガキに戻し甲斐がありますよね
女では美貌と肉体美と妖艶さを武器に男を騙し続けてる女とかはガキに戻れば無力です
ますます魔法使いが好きになりました!後編楽しみに待ってます
32
:
名無しなメルモ
:2010/11/15(月) 11:56:12
女性なら女騎士団長・女作戦参謀みたいな感じか、キャバ嬢みたいな感じの女性を弱らせてほしいですね
自慢の剣術、自慢の頭脳や自慢のおっぱいが・・えっちの仕方もわからない、みたいな感じでおもしろいかも
33
:
名無しなメルモ
:2010/11/16(火) 23:58:16
シャルロットの赤ちゃん姿最高でしたよ!
貴族のお嬢様であるシャルロットが立つ事も出来ないばぶばぶ赤ちゃんにされるなんて屈辱でしょうね!
知能も赤ちゃん並に低下してほえほえ〜状態になってしまったでしょうし、まさにリセット状態
付き人や両親もまさかシャルロットがあんな可愛い姿にされてるなんて想像もつかないでしょう
あと番外編はやはり女性キャラなら自慢の爆乳がペッタンコになる展開を期待してます
魔法使いを色気で誘惑してる時に魔法を発動して幼児に逆戻りさせてしまうとか(笑)
えっちな女が知能が低下してしまうのも面白いですよね
34
:
りんごじゅうす
:2010/11/21(日) 20:19:28
番外編『魔法使いの外出』(後編)
魔法使いは、薄暗い路地に面した一つの扉を、ノックも無く開いた。
何も魔法使いは通りすがりのチンピラに魔法をかけるために出歩いていたワケではない。ちゃんと用事があっての事だ。
建物の中へと、勝手は知っているとばかりにずかずかと足を踏み入れ、玄関を抜けて部屋へと入った。
扉を開けると同時に、よお、と片手を上げて、中にいる人物へと挨拶する。
扉の向こうにいた男は、ベビーベットを前に背を向けていたが、挨拶が聞こえて振りかえる。
「そういえば、今日でちょうど一週間か。相変わらず生意気そうで元気そうだな」
「はっ、お前こそ、善良そうな顔してこんなトコに嬉々としている癖してよ」
ははっ、と笑う、一見どこにでもいそうな青年に、魔法使いも笑みを返して、ひょい、と青年の影に隠れたベビーベットの中身を、体を傾けて伺う。
そこには、おむつ替えの最中だったのだろう。真新しいおむつをお尻の下に敷いた、女の子の赤ん坊がいた。
この辺りでは珍しい、褐色の肌をした、異国の赤ん坊だ。
ただ、その赤ん坊が普通の赤ん坊と違って、恥ずかしげに顔を真っ赤にして俯かせている事だった。
「おーよしよし。元気だったか??」
「あ、あぅあぅ、だぁ!」
魔法使いが、ニィと意地の悪い笑みを浮かべて近寄れば、真っ赤な顔をした赤ちゃんが、短い手を必死に動かして、股間を隠そうとしている。
魔法使いは肩を竦めてみせた。
「怒るなよ。実験台になるって言ったのはアンタじゃねぇか。おい、データくれ」
男の方に手を差し出せば、一枚の紙を渡された。そこに記されているのは、ここ一週間の赤ん坊の身長と体重。…体重は若干振れ幅があるものの、身長は全く変わっていない。
そう、目の前の赤ん坊もまた、魔法使いが若返らせた人物の一人だ。ただ、ここに来るまでの強盗や、いつぞやの貴族の娘とは違う。
広告を出したのだ。『魔法薬の実験台になってくれる方募集。報酬は金貨10枚。期限は2ヶ月。期間中の衣食住保障。もしもの時のための解毒剤有り。なお実験や薬の材料に関しては一切を黙秘する事』と。
そうして実験台に志願したのは褐色の女性だった。異国の旅人、とか冒険者、といった印象で、健康的な褐色の肌に程良くついた筋肉が色っぽかったのが印象に残っている。
冒険者なんて、魔物討伐や宝探しなんかで稼いでる身分だ。何もせず2ヶ月実験に付き合えばお金になるのが、非常に魅力的だったのだろう。
……もっとも、顔を真っ赤にしている所を見れば、非常に後悔している事は簡単に想像がついたが。
魔法使いの言葉に、赤ん坊の世話をしていた男が頷く。
「そう。この時期の赤ん坊なのに、全く大きくならない。君が望んでた通りだろ?」
「そうだけどな。今回は成長が分かりやすい様に赤ん坊にしたが、違う年齢にしてもこの効果が出るか、ってのが問題だ。それに今回の薬だと、どうやら精神も知能も元の年齢のままっぽいな。それはそれでいいんだけどな」
「考えようによっては不老不死の一歩なのに。そんな事に使うんだね。僕は楽しいからいいけど」
「俺はそんなのに興味ねぇからな」
呆れた言葉に、ふっと笑った。そして、部屋を出るべく歩きだす魔法使い。
「んじゃ、後1ヶ月半、そこで眠ってたら仕事は終わりだからな。ちゃんとおむつ替えてもらえよー?」
くくく。そう言って、魔法使いは扉を閉めた。
35
:
りんごじゅうす
:2010/11/21(日) 20:20:14
番外編『魔法使いの外出』(終)
魔法使いが己の住処に帰ると、玄関の前で一人の女の子が立っていた。
ふりふりのレースやフリルを沢山つけたピンク色のドレスの、金髪をツインテールにした、10歳くらいの少女だ。
魔法使いは目を丸くした。
「ん? もう薬が切れたのか?」
「えぇ。……だからその、また分けてくださらない?」
「へいへい。まいど」
少女は、年齢に似つかわしくない丁寧な言葉で、上目づかいにお願いした。
魔法使いは、とっとと自分の家の玄関の魔法ロックを外し、さっさと中へと入っていく。少女も、それを後ろからちょこちょことついてくる。
灯りのついて無い薄暗い一室も、魔法使いが指をならせば、とたんに明るくなった。
魔法使いは、部屋の戸だなにある薬瓶を、袋に12個詰め込んだ。
少女も、鞄から金貨がどっさりと入った袋を取り出した。
魔法使いが金貨を受け取ってから、薬の入った袋を少女に渡してやる。
「ありがとう。また来るわ」
少女はお辞儀をして、家を出た。
あの少女は、本当は大人の女だ。
大商人の娘で、今は父の後を継いで商売を切り盛りしている。
かなりの長身で、そのせいか威厳は感じるが、本人は可愛い服が着れないのがコンプレックスだそうだ。
そのため、休みの日に忙しい家業も商人としての自分も放り出して、若返って思いっきり少女趣味の服を着るために、この魔法使いに、一時的な若返り薬を買いに来る。
魔法使いとしては、いい小遣い稼ぎだった。
「さてと」
魔法使いは、己の自室へと、入っていった。
用事が終われば、水晶玉で、己が若返らせた人物の現在を見る、誰にも内緒の秘密の時間を過ごすのだ。
36
:
りんごじゅうす
:2010/11/21(日) 20:22:02
魔法使いの外出(終)ってなんだ……!
一回で書ききれる量で終わるだけのスキルがありません。
そして今回、リクエストが多かったですが、前編を書いた時点で後編の構想も出来あがっていたので、無理に直すかそのまま行くかでかなり悩みました。
リクエストが多かったので、またシャルロットが一段落したら書くかな、とか思っております。
37
:
名無しなメルモ
:2010/11/22(月) 23:02:34
更新お疲れ様でした。今回も面白かったです。
ただ、リクエストには無理にあわせなくてもいいと思いますよ。
期待にこたえようと頑張りすぎて書くのが辛いなんてことになったら本末転倒ですから。
こちらは何の見返りも出さずに読まさせて貰っている立場ですし、
りんごじゅうすさんにあまり負担をかけるのは申し訳ないです…
38
:
りんごじゅうす
:2010/11/25(木) 19:36:28
なんだかリクエスト自重の流れになっているので、それについて少し書きますね。
更新滞った&弱音を吐いてしまった私が一因かもしれないので。もし本当にそうだったら申し訳ないです。
私個人の意見なのですが、ここは感想を熱心に書いて下さる方がいて、とても嬉しく感じております。
それと言うのも、私が昔いた小説投稿サイト(APARとは無関係ですよ)では、掲示板に書いても感想が無いのが当たり前で、モチベーションの維持が難しかったので、そういう意味ではとても優しい所だなと感じております。
他の作者様の事は分かりませんが、だからリクエスト自重しすぎた結果、感想まで書かれなくなったりしたら悲しいです。
今回番外編について同じリクエストが重なってしまったので悩んでしまいましたが、リクエストも読んで下さっている証で、基本的に嬉しいんですよね。
でもまぁ、変に悩むのも本末転倒なので、『貴族の孤児院』に関してはここに宣言したいと思います。
「基本的に感想・リクエストや希望などは自由ですが、採用したり書くかどうかは私次第です。
ストーリーの大筋は書き始めた時点で決まっておりますので、その間のエピソードや演出に向いた事なら採用して取り入れるかもしれませんが、基本的に私は素人なので、あまり期待なさらぬ様にお願いします」
39
:
名無しなメルモ
:2010/11/27(土) 01:40:19
リクエストはシャルロットが赤ちゃんに戻されただけでもかなり嬉しかったですよ
あの高飛車な貴族のシャルロットが立つ事も歩く事も喋る事も出来ないばぶばぶ赤ちゃんですからね
しかも知能も赤ちゃん並にまで低下させられてしまうなんて後から知って驚いたでしょう
ちなみに魔法使いがガキに戻した男に対してかわいいちんちんじゃねえか、という台詞がまた良かったです
シャルロットも大人の女性器から3歳児並や赤ちゃん並に縮められてしまったと考えるとさらに興奮が増します
これからもシャルロットにはもっと恥ずかしい思いをしてほしいですので続きをよろしくお願いしますね
40
:
名無しなメルモ
:2011/02/09(水) 18:13:04
応援してます
41
:
りんごじゅうす
:2011/07/09(土) 06:00:36
貴族の孤児院(10)
今日は仲の良い子供たち数人で遊びに行こう! という事になったので、シャルロットも遊びに行く事に名乗りを上げた。
しかし、こないだ抜けだした事で、周りも警戒しているのか、年長の、いつも一緒に寝てくれている10歳くらいの女の子が、ぎゅうって、しっかりと手を繋がれてしまった。
10歳の手と、2歳か3歳でしかないシャルロットの手の大きさは違いすぎて、10歳の手の中に自分の手がすっぽりと入ってしまったのを見れば、抜けだす事が出来ないのは、今の幼いシャルロットの頭でもよっく分かった。
「ダメだよー。手を離したら、シャルロットちゃん、目を離したらすぐ迷子になるんだもん」
女の子は、人さし指を一本立てて、小さな子供に言い聞かせるように、ちょっとお姉さんぶった態度で話しかけてくる。
「こないだは親切な男の人が、眠っちゃったシャルロットちゃんを連れ戻して来てくれたけど」
「わかってるわよ! そんなこちょくらいっ!」
"親切な男の人"という単語。恐らくは、あの魔法使いだ。わたくしをこんな姿にした揚句、再会したら赤ん坊にして寝かしつけて、それでしれっと迷子ですよなんて届け出たと思うと腹が立つ。
癇癪を起して、大声で返事をして、バシッと地面を蹴飛ばした。
女の子は、驚いた顔で手をつないでいたシャルロットを見下ろした後に、シャルロットの正面に回り込んで、肩に手を置いてしゃがみ込んだ。
「シャルロットちゃん。シャルロットちゃんは、軽い気持ちで抜けだしたのかもしれないけれど、あの後、すっごい大騒ぎになったんだよ? 迷子になって、泣いているかもしれないって、あそこにいた子全員が、シャルロットちゃんを探してたの」
「………わたくち、だいじょうぶだもん」
真面目な顔で、小さな子供にしっかりと言いつける口調の女の子に、プクゥと頬を膨らませて、反論してしまう。
「大丈夫じゃないわよ。シャルロットちゃんは、いつも自分は大人だって言っているけれど、まだまだちっちゃいし可愛いんだから、こわーい人とかに連れていかれちゃうかもよ? ……皆みんな、シャルロットちゃんが好きで心配してるの。だから、ね。勝手に抜けだしたりしないで??」
「…………」
本来ならば、自分よりも年下の女の子に、しゃがみこまれて、目と目を合わされて、真剣に説教されている。彼女の言葉は正しいと分かっているのに、シャルロットはどうしても頷けなかった。
相変わらず頬を膨らませて、視線を反らした。
「うんって言わないなら、マリーお姉ちゃんに言いつけて、おしりペンペンして貰うんだからねっ!」
「………っ! えっ、やだぁ!」
今世話になっている孤児院を切り盛りしているマリーの名前の名前が出て、シャルロットは動揺し、いやいやと首を思いっきり横に振った。
……椅子に座っているマリーの膝の上で、ぺろんとお尻を出されて、ペンペンと叩かれている自分の姿が、頭の中で再生された。
……というか、孤児院を抜け出したり、大人だと言い張ったりで、何度かすでに経験済みであったりする、その光景。思い出して、ちょっぴり涙が出てきてしまいそうだ。
「嫌だったら、今日は大人しく公園で一緒に遊びましょ」
「……うん。」
渋々、シャルロットは女の子の顔を見ながら、コクンと頷いたのだけれど、お尻ペンペンが怖くて、言いつけを守る、なんて、それはそれで、大人としてすっごく恥ずかしくて、思い出した事以外にも、涙が出てきてしまいそうな思いだった。
42
:
りんごじゅうす
:2011/07/09(土) 06:13:49
大変お待たせ致しました。
色々ありましたが、貴族の孤児院、再開致します。
今更ではありますが、楽しんで頂ければ幸いです。
砂場で遊ぶネタだったのに、書いている内に膨れ上がって、まだ砂場に辿り着いていない事態にOTL
>>31
さん
力や身体を失って、不自由な体で生活を送らなければならない事が、幼児化の妙だと思っております。
美貌と肉体美と妖艶さを武器に……は流石に私が書ける自信がないですが(苦笑)
>>32
さん
シャルロットは前者タイプですね。後者タイプは…描けるかなぁ
>>33
さん
ありがとうございます。赤ちゃん化はあまり自信が無かったのですが、好評で良かったです。
知能まで赤ん坊になるとちょっと描写が難しいですしね。
付き人や両親は必死で探索しておりますが、見つからないでしょうねぇ。
番外編では、野郎の若返りと、すでに若返っている女性ばっかりなんで、期待に答えられなかったかもしれません。
>>37
さん
ありがとうございます。
リクエスト事態は、期待の裏返しだと思って素直に嬉しいのですけれどね。
プレッシャーとかそういうのに物凄く弱いじゅうすですOTL
>>39
さん
ありがとうございます。
赤ちゃんのシーンは短くなってしまいましたが、そう言って下さって嬉しいです。
個人的には女の子の若返りも好きですが、男の子の若返りも好きです。いつか男の子が主人公なファンタジーでもここで投稿したいですね。
どれほど恥ずかしい思いをするかは、期待に添えられるか分かりませんが、頑張ります。
>>40
さん
応援ありがとうございます。
随分時間が経ってしまいましたが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
43
:
名無しなメルモ
:2011/07/10(日) 15:45:10
>>42
りんごじゅうすさん更新ありがとうございます
お忙しい中いつも楽しませていただき嬉しい限りです。
リクエスト云々は深く考えずにりんごじゅうすさんの持ち味を
存分に活かしていただきたいと思いますので、気楽に執筆していただければ幸いです。
応援してますのでこれからも頑張ってくださいね!
44
:
りんごじゅうす
:2011/07/15(金) 09:37:35
貴族の孤児院(10−2)
女の子の説教を受けながらも、シャルロットを含む数人は、小さな空き地へと辿り着いた。
公園の様に整備された風も無い、所々に雑草が生えただけの砂地の四角いスペースは、予算さえあれば工事が始まって何か建物でも建つのかな? と思わせる物で、特に遊具らしき物は見当たらなかった。
そんな寂しい空き地だが、遊具など無くても子供たちは元気な物で、男の子たちは、持って来たボールでドッジボールでもするつもりなのか、広場に線を引き始めたり、チーム分けの相談をしたりしている様だ。
シャルロットは、この小さな体では、年長の子が投げる大きな球が怖い上に、ロクに投げられる自信も無かったし、何よりも、道すがら説教していた女の子が、シャルロットの手を引いて、広場の隅っこへと一緒に移動してしまったから。
「シャルロットちゃんは、こっちで一緒に遊びましょ」
ドッジボールの邪魔にならない場所へと、手を引かれれば、適当な場所へとしゃがみこんだ。
ドッジボールに参加しない小さな子や女の子たちも、ドッジボールの邪魔にならない場所でママゴトやケンケンを始めたりしている。
「きょうは、なにしゅるの??」
「今日はぁ、砂で何か作りましょ、お山とか、家とか、お城とか!」
舌ったらずなシャルロットの問いかけに、女の子は張り切って、地面の砂を集める。
確かにここらは砂地で、それなりに柔らかいみたいだから、砂を集めればすぐに集まるであろう。
幸い、今日のシャルロットの服は、オーバーオール、つまりズボンだ。しゃがみこんでもオムツやパンツが見える事が無いから、抵抗無くしゃがむ事ができた。……最も、オーバーオールだけで、下にシャツとか着せられていないので、脇や横、それから背中なんかも露出が多くて、貴族だったシャルロットにとっては、それはそれで恥ずかしい服装なのだけれど。
……胸とか膨らんでなくて良かった。膨らんでたら、横の露出とか胸の膨らみで増えて恥ずかしさ倍増である。
砂場遊び、孤児院に来て何日か経っているシャルロットにとって、別段始めてでは無い。
何度かやってみたけれど、貴族だった頃は子供の頃からこんな遊びやらせて貰えなかったし、何か作るというのはつい、熱中してしまう事で、気がつけば長時間砂場で一生懸命だった事もある。
……後々思い返して、何こんな事に夢中になってるんだろうとか思うけれど、今回も気がつけば、二人でお城を作るのに夢中になっていた。
「こんな大きなお城に住みたいなぁ」
「おひめちゃまとちて??」
「それもいいけど、お城だったら、皆自分の部屋を持ったりとか、もっといいベッドで寝たり、美味しいご飯とかありそうじゃない。孤児院もおっきいけど、人が多すぎて狭いもの」
「………」
確かに、眠るベットは子供二人で一緒に寝てるぐらいだし、お世辞にもご飯は十分とはいえない質素な物であった。
元々貴族のシャルロットにとって、そして今の幼い心では耐え難く、何度も何度も我侭を言って困らせた物だが、宥めすかし、時にはしかって、今の境遇を教えられた物だ。
……貴族として、元の自分に戻る事ができたら、皆を救ってあげる事ができるのに。
そんな風に思って、シャルロットは頭を下向きに傾けた時に、事件は起きた。
45
:
りんごじゅうす
:2011/07/15(金) 10:05:30
貴族の孤児院(10−3)
いきなり飛んできたボールが、シャルロットの頭の上から、シャルロットたちが作った砂のお城へと直撃したのだ。
当然、砂でできたお城がそんな物に耐えられるはずがなく、見るも無残に崩れ去ってしまった。
しかし、そのボールは、男の子たちがドッジボールに使っていたボールとは違う物だった。
「な、なによ! なにちゅるのよ!?」
シャルロットは怒って、ボールが飛んできた方へと振り向いた。
そこには、ドッジボールをやっていた男の子たちと対立する様に、見覚えの無い男の子たちが、10人以上いた。
…孤児院の子たちと比べれば、身なりは良いけれど、シャルロットにとってはあまり大差なく見えた。
なんだかよく分からないけれど、シャルロットは立ち上がって、ズンズンとその男子たちの集団へと進んで行く。
男の子たちは、小さなシャルロットには眼中にないとばかりに、視線を移さずに、大きな声で言葉を交わす。
「ここは俺たちの遊び場だ。お前らはサッサと出てけっ!」
「なんだとっ! ここは俺たちが先に遊んでたんだっ! 後から来て何言ってんだよ!!」
「後からでも何でも、テメーらに遊び場なんかねぇよっ! 親もいない癖によっ!」
「な、なんでちゅってぇ!!」
後から来た男の子の言葉に、カチンと来たシャルロットは、何も考えずに大きな声で反応した。
「おやがいないからなんだってんのよっ! あんちゃたちじぶんがおやがいるからってなんなのよっ! こっちわたちみたいなちっちゃなこをせわちたり、10くらいからはたらいたりでちゃいへんなんだからねっ!!」
カーっとなって、幼い舌ったらずな口調で、一気にまくし立てた。両手をぶんぶんと振り回して、感情を爆発させる様に。
…だけど、シャルロットは今、悲しいかな2〜3歳程度の子供でしかなく、目の前の男の子たちにとって、脅威にはなりえなかった。
「あぁ!? なんだぁこのチビ」
「そんな事しらねーよっ。テメーらに親がいないのがわりぃんじゃねぇか」
「やーいっ、親なし〜」
「この……っ!」
煽る様な言葉に、耐えかねたシャルロットは、拳を振り上げて殴りかかろうとした。
けれども、小さな体で、そんな事は全くの無意味で、シャルロットのリーチよりもはるかに遠くから、まとわりつくうざったいのを払うかの様に、男の子が握った拳を横に振るう様にして放たれた。
シャルロットは驚いて、目を閉じてくる衝撃に耐えようとした。
耐えられずに泣いちゃうかもと思ったけれど、いつまで経っても衝撃はこなかった。
12歳くらいの男の子が、先にその拳を受け止めていたからだ。
彼が睨めば、シャルロットに殴りかかった男の子は怯んだのか数歩たたらを踏んだ。
「何だよ」との言葉に「別に」と返す。
それから振り返って、皆に「今日はもう帰るぞ!」と声を上げた。
不満げに声を出す者も数名いたが、「いいから!」と声を上げれば、文句を言いながらも、皆片付けだして広場から撤退した。
…広場から少し出た後、その男の子に頭を撫でられた。
……小さいのに働いて、ゴワゴワとした手だった。
「ありがとな。怒ってくれて。」
「………。なんでかえっちゃうのよ。わるいのはむこうなのに」
シャルロットはしかし、不満げにほっぺたを膨らませたままだ。
「あそこでケンカしちゃったら、お前とか、お前ぐらいのちっちゃい子が滅茶苦茶になっちゃうだろ? 女の子だっているのに、向こうは男しかいなかったんだ。仕方ないよ。……それより勇気あんな、お前」
「………うん。でも、ごめんなちゃい」
つい、感情に任せて行動してしまった。向こうが許せなかったからだけれども、もし、ケンカになってたら? そしたら、自分を含めて、ちっちゃい子とか、女の子が酷い目にあってたかもしれないのに。だから、ペコリとシャルロットは頭を下げた。
それでも、悔しくて、それから、感情に任せてたとはいえ、自分よりもずっと大きな男の子に突っかかっていって、殴られそうになった恐怖が、今になって蘇って来た。
「ふぇ……っ! ふえええええええんっ!!」
無力で足手まといな今の自分が悔しくって悔しくって、帰り道では、思いっきり泣いてしまった。
……撤退を下したリーダー格の男の子は、優しく頭を撫でてくれた。
孤児院に帰っても、マリーをはじめとする大人たちが、よしよしと頭を撫でてくれた。
46
:
りんごじゅうす
:2011/07/15(金) 10:09:59
貴族の孤児院の10、これにて終了でございます。
途中で休止してしまいましたが、どうにかこうにか二桁行きました。
>>43
さん
そう言って頂き&楽しんで頂きありがとうございます。
リクエスト云々は深く考えないように、と気をつけていますし、感想や希望を貰えるのは嬉しい事なのですが、どうにも考えすぎてしまうのがじゅうすの悪い癖です。
できるだけ考えずにのびのびとやるつもりではいます。
応援ありがとうございます!
47
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/19(火) 05:46:19
貴族の孤児院(11−1)
大きな食堂でのお昼ご飯。
自分でのお屋敷でも、食事は大きなテーブルを囲った物であるが、孤児院と貴族のお屋敷では全く雰囲気が違っていた。
お屋敷での食事は、大人数で食べるにしても、静かで、身がピリッと緊張する様な雰囲気での食事だったのだが、孤児院では、音が無い方が珍しい程だ。
わいわい、がやがや、そっちの唐揚げのが大きいだの、それは俺のだだの、いつも喧騒が絶えないのは、最初はイライラさせられた物だが、今ではこれはこれで楽しいと思える様になってきた。
……まぁ、3歳程のシャルロットの横からご飯をかっさらおうとする悪ガキは流石にいないってのも理由の一つかもしれない。
賑やかにおしゃべりしながら、口の周りと、食べる時に付けられたよだれかけを食べカスで汚して、皆で食べるのも悪くない。
食べ終わったシャルロットは、両手を合わせて、元気良く挨拶した。
「ごちちょーちゃまっ!」
「……お、今日はテーブルに零さず食べれたじゃないか。偉いぞシャルロット」
挨拶の声に反応したのは、15程の髪の短な男の子だ。
シャルロットがここに来た翌日に、一緒にお風呂に入る事になった男だった。
……あれからも、子供を風呂に入れるために、たまに担当になるようで、ちょくちょくお風呂に入れられてたりする。
そのたびにシャルロットは、その良く日焼けし、程良く鍛えられた裸体を見せられて、顔を真っ赤にしているのだ。
男は手を伸ばして、なでなで、と座っているシャルロットを撫でた。
シャルロットは気持ち良さそうに目を細め、それから、男は汚れたシャルロットの口元を、布巾で拭う。
「♪ ………っ! ちょっ、なになでちぇんのよっ!」
男のざらついた手で撫でられて、ついでに口元を拭われて、一瞬、心地よい気持ちになりかけたシャルロットだが、ハッとして、座ったまま足をばたつかせつつ、首を横に思いっきり振るった。
男の方はと言えば、何の気も無しに
「っと、嫌だったか。わりぃわりぃ」
と、軽く謝るのだ。
「……べちゅに、いいわよ。じぶんでやるっ」
シャルロットが自分で口元を吹いている間に、男は慣れた手つきでよだれかけを外していく。
男の体が近くに来て、逞しい体から発する臭いを感じた。
「………あせくちゃい」
「そうか? 今日は朝から働いたからなぁ。――おっと、そろそろ行かなきゃ次の仕事に間に合わなくなっちまう。」
男は洗い場の方によだれかけを放り投げたら、軽く手を振って、シャルロットから離れていく。
え、もう? お昼食べたばっかりで、もう出かけるの?? そうシャルロットが思っている隙にさっさと歩いていってしまう。
男が歩いて行くのを見た、食事中の男の子の一人が声を上げた。
「にーちゃん仕事かー? 頑張って稼いでこいよー」
「おーっ! まっかせとけ。お前らの分まで貰ってきてやるよ」
そんな軽口を叩きながら、男は食堂から消えた。
「………。パパみたい」
ぽつりと、シャルロットは食堂の入口を見ながら呟いた。
シャルロットの父とは似ても似つかないけれど、汗をかいた逞しい体に、撫でられると安心するのと、それから…なんというか、雰囲気が。
自分の呟きに、いやいやいや、と否定する様に首を横に思いっきり振った。
パパなんて、そんな歳じゃない。じゃないのに……安心してしまう。
自分と添い寝してくれる、10歳の女の子と一緒に寝ると安心する。孤児院のマリーが、本当にお母さんみたいに感じる。他の子と一緒に遊ぶのが楽しい。
頭ではそう感じるたびに思いっきり否定しているけれど、そう、感じてしまうのだ。
そんなのはダメ、と思いっきり首を振るのは、これで何度目か分からない。
自分は大人なのだ。そう、大人。
「…………。」
ここの暮らしは、とても質素で、贅沢とはとても言えない。
幼い今の知能でも、それっくらいはいい加減に分かった。
下手をすると、さっきの男よりも更に若い人まで働いてお金を稼いでくる。
……大人の、貴族のわたくちだったら、ここを助けることぐらい、きっとできるのに。
そう考えてしまうのに、実際には、こうやって、迷惑をかける事しかできない小さな体と、それを支えている、子供用の足の長い椅子を見下ろした。
48
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/19(火) 05:50:06
貴族の孤児院11です。
今回は一つだけミスを。11-1ではなく、11はこれで完結です。
物語を少しだけ動かして、終わりが少しだけ見えてきたでしょうか??
終わりといえば、外伝を始めましたが、どうなんでしょうか??
あちらは性質上感想とか、これこれこう思う的な発言が無いので少しだけドキドキします。レスが帰ってきてるからそれなりに好評だとは思いますけれど。
とりあえずあっちに関しても、何か言いたい事がありましたら、こちらに書きこんでもいいですよ?
49
:
名無しなメルモ
:2011/07/19(火) 07:37:20
>>48
りんごじゅうすさんいつも更新ありがとうございます。
貴族であるシャルロットが乳幼児に逆戻りして孤児としての生活を送る。
しかも記憶はあるけど知能は年相応にまで低下、私にとってこの上ないシチュエーションです。
羞恥も好きですのでお風呂のシーンなんか本当に興奮してしまいましたよ。
これからどんな展開になるのか本当に目が離せませんね。
外伝かなり良いです!読者参加型というのが一番盛り上がりますので
さすがりんごじゅうすさんだな、と感心しておりました。
またまたシャルロットに質問して恥ずかしがらせましょうかねw
50
:
名無しなメルモ
:2011/07/19(火) 23:01:18
>>48
ごめんなさい、質問した者ですがこうゆう企画は良いと思います!
なんかこう…皆でよりシャルロットちゃんの人物像が見えるようにしてる感じで。
この掲示板、昔に比べて結構寂しい感じだったのでこうゆう企画を出して頂いて嬉しかったです。
51
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/22(金) 14:32:19
貴族の孤児院(12-1)
孤児院での生活も、もう10日以上が経った。
心ばかりが焦っていて、子供特有の落ち着きのなさも合わさって、室内で無駄にウロウロとしたり、意味不明に体を動かしていたシャルロットに、マリーが膝を曲げて語りかけてきた。
「ねぇ。シャルロットちゃん。今日はシャルロットちゃんを連れてお買いものに行きたいんだけど、どうかしら??」
「いくっ!」
シャルロットは即答して、パッと立ち上がった。
夕飯の買い出しか何かなら、久しぶりに食べたい物とか、買って貰いたい物とか、色々あるし、何よりも、外に出られるという事は、抜けだしたり、元に戻る手掛かりが見つかるかもしれない。
即答したシャルロットが可愛らしかったのか、マリーはふふふっと笑みを作って、シャルロットの頭を撫でて、
「それじゃあ、お片付けしましょうね」
「……うん」
子供をあやすみたいな態度に、ちょっと唇を尖らせるけれど、ここは我慢。ここで変に反抗してやっぱ他の子と行く…となってはいけない。
シャルロットは積み木を箱の中に放り込んでから、他の子を呼んだり、支度を始めるマリーの後ろをちょこちょことついて行く事にした。
確かに、孤児院の外にお出かけ出来た事は出来たけれど、シャルロットの目論見通りには行かなかった。
2歳か3歳にすぎないシャルロットは、肩車されて地面を歩く事すら出来ない現状だったからだ。
今日はたまたま仕事が無かったらしい、先日、お昼ご飯を食べたシャルロットの頭を撫でた男―名前はケンというらしい―に、ひょいと持ち上げられて、そのまま肩車されてしまった。
マリーとケンと、その他にも数人の子供たちでの買い物だったが、肩車されているのはシャルロットだけで、他の子供たちは普通に歩いている。
はなして、と抵抗しようかと思ったが、久々の高い視線が心地よいのと、足をしっかり掴まれている上に、下手にあがいておっこったりしたら、小さなシャルロットから見れば大変な高さに見えるために、最初ちょっと戸惑っただけで、今は素直に肩車されている。
ケンは、頭上のシャルロットに笑いながら語りかけてくる。
「高いだろ? しっかり捕まってろよー? 結構歩くからな」
「………ん。」
その言葉に、シャルロットは目の前にある後頭部にきゅっと腕を回してしがみついた。
歩きだす揺れと高さ、運ばれているって事が、凄く心地よくって、幼い精神を安定させた。
思わず、その揺れにケンの頭の上に顎を乗せて、にへへと頬が緩んだ様な顔を浮かべるのだ。
……本当にパパみたい。
そんな思いっきり甘えた様な態度でまったりと周りを見渡していたら、周りの通行人の注目を浴びているのに気がついた。
「あらあの子、とってもかわいーっ。」
「しあわせそうな笑顔ねー。」
通行人の女性の、そんな会話が聞こえてくる。
にっこりと笑って、シャルロットに向かってちっちゃく手を振る人もいた。
呪いで小さくなる前から、シャルロットは美人だった。
長い金髪に、白い肌。剣術によって程良く筋肉がついて、引き締まったボディラインを誇っていた。
引き締まった体は見る影もなく、柔らかい幼児の体になってしまったが、美しい金髪と白い肌は健在で、まるで小さくなったらそれはそれでお人形の様に可愛らしくなっている。
そんなシャルロットが、長身の男に肩車されて、通行人のほとんどの目に入る高さにいるのだ。当然人目を引いて、上記の様な可愛い物好きの人のリアクションが出る。
……けれども、シャルロットは本来、大人なのだ。
子供に向けて放たれる『可愛い』という言葉では、全然満足が出来ないどころか、不満であった。
手を振られても振り返す様な事はせず、むっとした様な表情を浮かべた。
肩車しているケンも、シャルロットの不満げな態度を察したか、軽く体を揺らして、言葉をかけてきた。
「ほら、ニコニコしてろ? 可愛い顔が台無しだし、誰か気に入ってくれる人がいるかもしんねぇぞ」
しかしその言葉で、シャルロットが笑顔に戻る事は無かった。
ケンの『可愛い』という言葉も、所詮は子供に向けて放たれる方の『可愛い』であるし、なによりも、つまり、この買い物は里親探しの顔見せ的な物を含んでいるという事だ。
気分をぶち壊されたシャルロットは、頬をぷくーっと膨らませて、唇をアヒルの様に尖らせた、とっても変な顔で、肩車をされた状態で、街中を行く事にした。
……後々考えれば、とっても恥ずかしい事であるのだけれど、不機嫌で、可愛いという言葉と、里親探しに必死で抵抗している今のシャルロットには、その感情が無く、恥ずかしさに身を悶えるのは、もう少し後の話だった。
52
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/22(金) 14:45:20
貴族の孤児院12-1です。
今回は買い物の描写が少し長くなる予定です。
果たして12はいくつになるんでしょうか?
どうでもいいですが、キャラの名前はあんまり付けない方だったりします。
登場人物多くしても読者に覚えて貰えるか怪しいし、そもそもネーミングセンスがありませんし…。
ですので、基本的には名前を付けない方針だったのですが、外伝との兼ね合いもあって、本編か、それとも後書きの様な形で名前を明かしていきたいな〜とも少し考えています。
>>49
さん
ありがとうございます。
大人で貴族、幼児で孤児。
大人としての記憶やプライドを持ったまま、幼児としての生活を送るシャルロットの様子を、これからもより描写していきたいと思っていますので、この上ないと言われるのは非常に嬉しいです!
外伝の方も好評で嬉しいです。
質問だけではなくて、オモチャやアイテムなども持ち込んで遊んでやって下さいw
>>50
さん
いえいえ、謝る事はありません。どんどんシャルロットちゃんに質問してやって下さいw
好評なら嬉しいです。
話を全部作るよりも反応する方が私は得意な所があるかもです。
そうですねー、ライバルやら、孤児院の男の子にお花をプレゼントされるとか、私としても予期してない展開があって、シャルロットちゃんの新たな面が見えてきます。
盛り上げていこう! という程の人間ではありませんが、楽しんで頂けたら幸いです!
53
:
名無しなメルモ
:2011/07/23(土) 22:42:04
>>51
りんごじゅうすさん更新乙です
シャルロットが思いがけない羞恥に・・かなり楽しみですね〜
しかし魔法使いのこの若返りの魔法はある意味最強ですよ
大人で剣術や魔法を習得していたシャルロットが体力と知力を
ここまで無力化されてしまってるんですからね〜
助けを求める知能もなくなってるのに必死に考える仕草がまた可愛いです
続きがますます楽しみになってきておりますのでよろしくお願いしますね!
54
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/27(水) 11:36:34
貴族の孤児院(12-2)
ケンに肩車された状態での、シャルロットの変顔は、商店街までたどり着いて、ますます不機嫌そうな変な顔となった。
シャルロットからしてみれば、せっかく買い物に誘われたのだ。あれこれと買いたい物が多すぎるのに、マリーたちからしてみれば、食料の買い出し……それも、孤児院の予算の関係で、出切るだけ安く済ませたい。
恥ずかしくない服なんてもっての他だし、久しぶりに食べたいと思っていた果物も、お菓子も「あれほちい」と指出しても、ダメって言われてしまう。
「あれほちいほちいほちいほちいほちい!!」
幼い精神で我慢なんてできなくて、大声で連呼しながら、肩車の上で体をがっくんがっくん揺らして駄々をこねても、マリーに
「シャルロットちゃんは大人なんでしょ? だったら我侭言わずに、大人しくしてなきゃダメじゃない。ね??」
なんて言われたら、孤児院に来て以来、ずっと子供じゃない、大人だもんって主張してきたシャルロットは黙らざるをえない。
本当に3歳児なら、もっと己の欲望に忠実にするかもしれないが、僅かに残った大人の自覚で、口を噤んだ結果が、ますます変な膨れっ面というワケだ。
マリーは買い物しながら他の子供たちに、どうすれば安く買い物できるかとか、野菜の選び方とか、そんな事をレクチャーしながら商店街の店を廻って行く。
(これじゃ他の人たちに見られるためだけにわたくしがいるみたいじゃないの……!)
幼い、変わり果てたこの姿を、賑わっている商店街で、長身の男に肩車されている状態。注目度はそれなりといった所か。
そんな事を知ってか知らずか、肩車をしているケンは、のんびりとした口調でぼやいた。
「ここんトコ、妙に見回りの騎士が多いなぁ。何か事件があったって話も聞かねーのに」
そういえば、とシャルロットはあたりをキョロキョロと見渡した。
確かに、普段はそんなに見かけないハズなのに、ちょっと見渡しただけで一人見つかった。ただの衛視よりも立派な服装をした、『騎士』だ。
そしてその騎士に、シャルロットは見覚えがあった。
彼を指差して、大声で名前を呼ぶ。
「えでぃ! えどわーどっ!」
「え?? あ、え?? な、なんでありますがお嬢さん? どうして自分の名前を……?」
いきなりの大声に驚いた様に、騎士はこちらを向いて、問いかけながら近づいて来た。
騎士…エディは、シャルロットの父の部下の一人で、最近騎士になったばかりの青年だ。
新米な上に、騎士としては小さな体は、鎧に着られている様な、頼りない印象を受ける。
まだパトロールになれてないのか、幼女相手にも奇妙な敬語だ。
そして当然、父の部下という事は、それを通じてのシャルロットのかつての知り合いでもある。
名前を呼ばれて困惑しているエディに、シャルロットは声を張り上げた。
「わたくちよわたくち! ちゃるろっとよ!」
55
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/27(水) 11:56:33
貴族の孤児院(12-3)
「……シャルロットちゃん? え、えっと、どうしたでありますか?」
「どうちたじゃないわよ! わたくちよっ!」
シャルロットが名前を名乗ってもなお、困惑した様な態度のエディに、シャルロットは、己の家柄を示す、長ったらしいフルネームで再び名乗った。
流石のエディも、それには驚いた様子で、目を見開いて驚いた顔をした……が、困った様な苦笑いをして、肩車されているシャルロットを見上げた。
「お嬢ちゃん、確かに自分たちはその人を探しているでありますが、騎士をからかっちゃあいけないであります。えらーい人の名前を自分の名前だって言うことは、悪いことで、牢屋に捕まっちゃうんだよ?」
「わたくちはほんものよっ! えでぃのくちぇになまいきなこと言って!」
シャルロットはムキになって、肩車の上から手をぶんぶかと振り回した。
エディの癖に、したり顔で小さな子供に説明する様子に、ぶん殴ってやりたくなった。
エディはそんな届かない拳を振り回す幼女を、困った様に見上げながら、ふと、不思議そうな顔をした。
「でも何で自分たちが探している人の事を、この子は知ってるのでありましょうか…? 自分の名前も? ともあれ、自分は忙しいのでこれで失礼致します」
「ちょっとまちなちゃ……ふがっ!」
「ええ。すみませんでした」
シャルロットの口を塞ぎ、エディに謝罪したのは、肩車しているケン。流石に騎士様を怒らせるのは、平民であるケンたちにとっては不味い。
けれども、シャルロットだってせっかくのチャンスだ。
エディは軽く敬礼のポーズを取った後、くるりと背を向けて歩き出してしまう。
……このままでは言ってしまう。シャルロットにとって、千載一遇のチャンスが。……そんな事は、嫌だ!
肩車している状態で、その上に乗っている人の口を塞ぐのは、結構難しいのだろう。塞ぐ手は、精一杯首をぶんぶんと振れば、容易に振り払えた。
背を向けて立ち去ろうとするエディに向けて、精一杯の大声を張り上げる。
「なによえでぃのばかぁっ! 『きしじょくん』で、きんちょうして、てとあし、どうじにだちてあるいてたくちぇに!
とちゅげきのくんれんで、ひとりだけ『らんす』がおもちゅぎてうまからおっこったくちぇに!!」
必死の大声で罵倒すれば、エディは驚いた様にこっちを見て、それから、何かを考える様にうろたえた後、急いでどこかへと走って行ってしまった。
「もうっ! ばかばかばかばかばかぁーーー!!」
その背にシャルロットは、ちっとも助けてくれないアテにならない騎士に、幼い罵倒の声を響かせた。
見かねたマリーは、肩車されているシャルロットにツカツカと近寄って、背伸びして、ぺちんっ、と頭を叩いた。
「いたぁっ!」
「いい加減にしなさいシャルロットちゃん!
騎士様に対して、なんて事を言うの! …ケン、シャルロットちゃんを下ろして」
今までに無いぐらい、怒っているマリーの顔が見えた。
肩車しているケンも恐がっている様子で頷いて、肩車から降ろされれば、見下してくるマリーの顔が、より一層恐く感じた。
ゴチンッ! と拳骨がシャルロットの頭上に降り注いだ。
「街に悪い人がいないかどうか見回りを頑張っている騎士様に、なんて事言うの! そんな事騎士様に言ったら、シャルロットちゃんが捕まっちゃうわよ!」
「……だってぇ…えでぃだし」
シャルロットからしてみれば、ダメなお父様の部下、といった関係だったのだ。身分も年齢もシャルロットより下だし、ぞんざいに扱える相手だったのだ。
……けれども、今のシャルロットは幼女で、今の騎士が短気な人物なら、侮辱罪もありえる事であった。
ゴチンッ! マリーは再び拳骨がシャルロットの頭を打った。
「彼の事は知らないけれど、しっかり立派に働いている大人を、子供がバカにしちゃいけませんっ! 今度会ったら謝りなさいっ!」
二回の拳骨は、痛かった。見下ろしてくるマリーの顔は、恐かった。
痛みなんて、剣術修行で何度も経験しているし、恐い事なんてもっともっと沢山あったはずなのに、今は、涙が抑えきれない程、恐くて痛い。
「う…う…うわぁあああああんっ。ひぇ…ひっくっ、えぐ……ふええええええんっ。わ、わかった…ぐす、えぐ…ふええええええんっ」
どうしても、悲しさと恐さが、押さえ込めなくて、シャルロットはこんな商店街の街中で、大声で泣き出してしまった。
56
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/27(水) 12:02:39
12-2と3です。
本当は一回で終る予定だったのが弾かれましたw
まぁ弾かれたおかげで、余計に色々と描写を付け足せたのですが。
一応買い物シーンはこれで終わりです。
次回からは……ここで言うことではありませんね。お楽しみに!
>>53
さん
ありがとうございます!
買い物と遊びに出かけるのは、シャルロットの数少ない外出の動機付け(基本的に大人がいなきゃ外に出れない年齢)なので、買い物に関しては色々と考えさせてもらいました。
可愛いと仰って下さるのは光栄です。
幼児化したシャルロットを、是非とも可愛がって下さいませ。
57
:
名無しなメルモ
:2011/07/27(水) 21:33:02
>>55
りんごじゅうすさん更新乙です!
知り合いに出会うのはまさに望み通りの展開です!
しかしエドワードはシャルロットが姿を変えられてしまってる、
という発想は全く思いつかないみたいですね〜
シャルロットも知能が低下しているせいで魔法で縮められたことを
伝えるのを思いつかなかったみたいですので、ある意味魔法使いの魔法は
最強だな、としみじみ思いました。学者でも教師でも幼児化と知能低下で無力化が出来ますからねw
それでは続きすごく楽しみに待ってますので頑張って下さいね
58
:
名無しなメルモ
:2011/07/28(木) 17:58:43
更新乙です。
とりあえずちょっとは現状脱出のチャンスが広がった…のかな?
いつかこの事件をみんなが笑って思い返せるように丸く収まるといいな、と思いました。
59
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/31(日) 12:50:33
貴族の孤児院(12-4)
買い物から帰って来た後、シャルロットはあてがわれた寝室のベッドの上で、古びたぬいぐるみを抱きしめていた。
せっかくエディに会えたのに、全く信じて貰える様子もなくって、悲しかったのと、買い物の真っ最中、それもあんな往来で、人目もくれず大泣きしたことを思い返していた。
本当の自分なら大泣きなんて、すっごく恥ずかしいのに、あれだけ泣いたのに、思い返せば今でも泣きたくなる。
「ふえぇ……」
本当に涙が出てきた。涙腺が緩いというか、頭の中で思った事が、すぐさま体に反映してしまう、今の体と精神。
大人として、泣いちゃダメだと思っても、目を拭った腕には塩っぽい水がしっかりとついていた。
せめて泣き声はあげまいと、更にぬいぐるみを強く抱きしめた。
そんな時、ガチャリと部屋の扉が開いた。
「シャルロットちゃん、だいじょうぶ?」
いつもシャルロットと同じベッドで寝てる、10歳程の女の子だった。
彼女はシャルロットがいるベッドの上に登り、心配そうに首を傾げながらシャルロットの顔を覗き込んでくる。
「……だいじょうぶ。リリィおねぇちゃん。…なにかよう?」
全然大丈夫じゃなかった。彼女に抱きついて、泣き喚きたい衝動を、精一杯大人の意地で押さえこんで、努めて冷静な声で返した。
女の子――リリィは、ハンカチを取り出しながら、言った。
「えっとね。シャルロットちゃんにお客さんが来てるの。ほら、顔を上げて」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったシャルロットの顔を、丁寧に拭いていく。
お客? 知り合いなんていないけど、誰? とにかく出ないと。…そそう思いながらも、ひっぐ。と、まだ感情は収まらない。
リリィが大丈夫だよ、って、何度かぽんぽんと背中を叩いてくれて、ようやく落ち着いてきた。
リリィに手を繋がれて玄関まで行くと、お客様の相手をしていたらしいマリーと、それから、男の人が二人。
見覚えのあるその二人に、シャルロットは驚いた風に声を上げた。
「エディ! じいや!?」
一人は、先ほど買い物中にあった、知り合いの騎士、エディ。
もう一人は、シャルロットは本当に幼い頃から、ずっと世話をしてきた執事であった。
じいやは、シャルロットを見て目を見開いて、白い髭で覆われた口を動かした。
膝をついて視線を下げた後、うやうやしく頭を下げた。
「おお……! シャルロット様、まさしくシャルロット様…お久しゅうございます」
「じいや! ありがとぉ、ありがとぉみつけてくれて……!」
シャルロットはたまらず駆けよって、じいやの体にぶつかる様に抱きついた。
白い手袋に覆われた手が、優しくシャルロットを撫でてくれた。
さっきまで、一生懸命泣きやもうとしていたのに、今までの知り合いがいない暮らしで不安だったのが、安心でまた違う涙が出てきた。
じいやの執事服に頭を埋めて、涙で濡らしてしまった。
そんな中、マリーと、エディの言葉が聞こえてくる。
「まさか、本当に身分が高い子だったなんて……。色々とシャルロットちゃんには失礼だったかしら?」
「いえ。こちらとしても、感謝しております。シャルロット嬢を今まで保護して下さってありがとうございました。いずれまた、お礼ため改めて使者がくる事でしょう」
そんな挨拶の言葉の後、マリーが、こちらをどこか寂しそうな顔で、見下ろしてくる。じいやが、泣きやんだシャルロットの肩に、手を置いた。
「さぁ、シャルロットさま、皆に別れの挨拶を致しましょう」
「…………。」
マリーと、リリィ。それから、沢山の皆。お金の無い孤児院なのに、わたくしをとても良く迎えてくれて、色々お世話をしてくれた。
……別れたくない。そう思ったけれど、帰りたいとも思う。
少し間を置いて、勢い良くお辞儀した。
「……いままで、ありがとうございまちた!」
「うん。またね。シャルロットちゃん。良ければ、また遊びに来てね」
「またね」
マリーもリリィも、手を振ってくれる。
じいやが「失礼」と言いながら、シャルロットを抱っこして、孤児院を背に歩いて行く。
……シャルロットは二人が見えなくなるまで、ずっと、マリーとリリィを見つめていた。
「……ところで、これ、マリーさんから貰ったんだけど、何ですかね? …何々、シャルロットの生活日誌?」
エディの方を見ると、一冊のノート。
それはシャルロットの孤児院での生活日誌で、色々と恥ずかしい事が書かれていて、帰宅途中、エディが何気無く読み上げたために、シャルロットが顔を真っ赤にして暴れる事になった。
「やめなちゃいよばかエディ! じいや、はなちて! あいちゅぶんなぐるから!!」
60
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/07/31(日) 12:58:17
貴族の孤児院12、これにて終わりでございます。
次回からタイトル詐欺になります(笑)
大分終わりの方も近付いてまいりました。
一度長らくお待たせしてしまったので、最後の最後でつまづかない様に気を付けたい物です。
……後は、これは外伝の方にも書きますが、外伝は一種のパラレルワールドの様な物だと思って下さい。
具体的には12-4でエディが迎えに来なかった展開になるのでしょうか?
こちらの方で孤児院からシャルロットがいなくなったからって、向こうまでそうしちゃうと色々影響が出そうですしね。
>>57
さん
知り合いに年齢が変わった姿を見られる、というのもAPARの醍醐味だと思っていますから、いつかは書きたかった話の一つです。
思いっきりシャルロットを子供扱いするために、孤児院の誰も知り合いがいない場所に舞台を移したので、知り合いの登場は物語の終盤フラグになってしまうのですが……。
エディは魔法とかはあまり知識の無い剣術のみの騎士ですので、首を捻るぐらいしかできないでしょう。一応上司にあの後報告した様ですが。
シャルロットも精一杯で、説明が上手く出来なかった様ですね。説明しても信じて貰えるか微妙ですが。
>>58
さん
ありがとうございます。
そうですね。知り合いが現れる事で、孤児院から元の家に帰還…という流れで考えておりました。
グッドエンドかバッドエンドかは、ここでは語らないでおきますが、お楽しみにして下されば幸いです。
61
:
名無しなメルモ
:2011/08/01(月) 23:56:12
りんごじゅうすさん更新乙です!
じいやはシャルロットが魔法で姿を変えられてる、と気付いたみたいですね〜
屋敷に帰ってからのみんなのリアクションが楽しみです!
魔法を解く方法がないことや知能まで年相応に低下していると知った時にはどんな反応するやらw
続きすごく楽しみに待ってますのでこれからも頑張ってくださいね!
62
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/08/11(木) 20:33:10
貴族の孤児院(13)
路地の奥まった所にある孤児院から少し歩けば、馬車が止めてあり、それに乗って帰路についた。
エディはじいやにノートを渡して、馬車には乗らず詰所に戻るそうだから、今、ここには乗っていない。
ガラガラと車輪が石畳を行く音も、時折体が揺れる乗り物の感覚も、全てが懐かしい。
特に、馬車の柔らかな座席と、チリ一つ落ちていない内部は、しばらく孤児院に厄介になっていたシャルロットにとって、眩しくすら見えた。
そして、この街で一番大きな屋敷の前で馬車が停まり、シャルロットは実に久しぶりに、我が家へと帰って来た。
家の前では、メイド数人と、初老の男が立っていた。
シャルロットと同じ金髪、同じ青い目の、口髭を生やした人物は――
「おとうちゃまっ!」
「シャルロット……!」
シャルロットは、久々に会えた父親の姿を見て、思わず駆けだして、父親へと抱きついた。
身長さもあって、腰の辺りに手を回して、ぎゅーっと、力一杯、抱きついた。
普段なら、年頃の娘だ。父親に抱きついたりなんかしない。
けれども身も心も幼くされて、しかも何日も周りに知り合いがいない生活を送って来たシャルロットにとって、この上なく、抱きついて、甘えたくて仕方のない存在だった。
父親は、見た目も中身も変わり果てた――それでも、見覚えのある姿をしている娘を、戸惑いつつも抱きしめた。
「シャルロットよ。…これは…一体どうしたというのだ? 今まで何をしておったのだ?」
父親の問いかけに、シャルロットは顔を上げて、説明を始めた。
たどたどしく、「うんとね」とか「えっと」などを多用し、身振り手振りを交えていまいち要領の得ない説明するその様子は、普段ピシッとした態度の大人とも言えたシャルロットを知る、ここにいる全員を戸惑わせた。
「そうか…とりあえず、疲れただろう。とりあえずお風呂にでも入って体を洗いなさい。誰か、今のシャルロットに合う服を」
父がそうメイドに命じて、改めて、屋敷の中へと戻って行った。
シャルロットは父親に言われた通りに、お風呂場へと向かった。
そして衣服を脱ぎ、入浴場へと入ったのだが…。
「………。」
なんだか、寂しい。小さな体には広すぎるお風呂場に、一人っきり。
「い、いや、これでいいのよ。あっちのほうがいじょうなんだから!」
賑やかで、羞恥心も何も無い子供の群れの賑やかな風呂場。
あれはあれで恥ずかしかったけれど、誰もいないというのも…。
そこまで考えて、シャルロットは首を振った。大人の人に一緒に入って貰いたいだなんて、自分は本当は子供じゃないのだから。
とりあえず、お湯で体を流した後、お風呂に入るべく、お風呂の縁をよじ登る。小さな体には、まるでちょっとした柵の様に、手をついて体を持ちあげなければ、乗り越えられそうになかった。
よいしょっと、そんな感じで乗り越えようとした時――ツルッ。
肝心の手が滑って、悲鳴を上げる間も無く、そのまま頭からお風呂へと突っ込んでしまった。
「――っ!」
がばごぼごぼ…! お湯が口の中に入る。全身がお湯の中に入って、必死に手足をばたつかせる。
助けを呼んだ様な気もするが、この状況では上手く喋れない。
お風呂場で溺れ死ぬなんて最悪だ! しかもこんな姿で。必死で必死で手足を動かして、頭を出来るだけ高くに!
……と思ったら、足が地面についた。
如何に体が幼児とはいえ、お風呂なんてそんなに深くは作らない。
大人が座って肩や首が出る高さ。幼児だって、立つ事くらいは出来る。
「なにやってんだろ、わたくち…」
大人なのに、風呂で溺れるなんて。
せっかく家に帰って来たのに、みじめなまんま。
お風呂の縁にもたれかかって、何だか悲しくなった。
63
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/08/11(木) 21:03:24
貴族の孤児院(13-2)
お風呂の中で座れない。出入りにあんなに苦労する浴場では、全然落ち着く事も出来ない。
なんとか髪と体を洗い終えて、出てきたシャルロットが体を拭いていると、一人のメイドが入って来た。
「お嬢様、うちの家のお古ですが、お持ち致しました。」
そう言って、持ってきた一式を、シャルロットに見せた…が。
「ちょ、ちょっとなによちょれっ! お、お、おむちゅじゃないの!」
バスタオルで体を隠した状態で、メイドに詰め寄よろうとしたが、激しく動いた上に手も離したので、バスタオルが足元に落ちてしまった。
ぺったんこな胸と、ぷっくりとしたお腹。何もかもが変わり果てた姿をさらしてしまって、慌ててシャルロットはバスタオルを拾いなおした。
「お嬢様、我慢なさって下さい。お嬢様は孤児院で何度もおねしょを……」
「わーわーわーっ! あ、あなたはなにいっちぇるの!? なんでちってるの!?」
「だってあのノートに……」
「と、ととととととにかくっ! わたくちおむちゅなんてはかないんだから!」
シャルロットは顔を真っ赤にして、メイドを睨んだ。
けれどもメイドは困った様な顔をして
「しかしですね……もしも万が一、おねしょをしてしまったら、元に戻られた時、おねしょしたベッドでは嫌でしょう?」
「ちないっていってるの! おねしょなんて!!」
「………。…申し訳ございません。下着はこれしかないのですよ。それとも…どうしても履きたくないと仰いますなら、お下げ致しますが。」
「…………。」
ノーパン。それはそれで嫌な話だし、けれども履くのも嫌。シャルロットは唇を尖らせて黙り込んでしまった。
メイドがそっと顔を近づけて耳打ちをした。
「もちろん、誰にもおっしゃいませんよ」
…結局、シャルロットは屋敷に戻っても、おむつに頼る事となった。
……余談だが、確かに誰にも言わないのだけれども、屋敷の人のある程度の人数は、そのノートを見る事となるのだから、結局は意味が無い事を、シャルロットは知らなかった。
寝間着に着換えて、シャルロットは、自室へと戻った。
備え付けてあるベッドは、孤児院で子供が二人で寝てたベッドよりも大きくて、なんとなく落ち着かなかった。
ふわふわのお布団は、あそこよりもずっと寝心地が良さそうなのだけれど、なんというか、広すぎる。
「それでは、お嬢様、おやすみなさいませ」
メイドが一礼をして部屋をされば、この部屋にはシャルロット一人。
この部屋の灯りは天井に付けられた魔法の装置が照らしている。
シャルロットは眠たい目をこすりながら、その装置の灯りを消して、布団の中に潜り込んだ。
「…………。」
くらい。だれもいない。しずか。おちつかない。
ベッドの中でじっとしていても、さっきまで眠たかったはずなのに、何だか怖くなってくる。
横を見ても、いつも一緒に眠ってくれた女の子――リリィはいない。
バカバカしい。夜寝る時は暗くするのは当たり前だし、子供の頃は、そりゃ暗いのが怖かったり、オバケとか出るかもとか思ってたけれど、己は子供じゃない。
そう考える大人の自分がいる。けれども、素直に怖がっている自分もいる。
「………っ!」
眠れないでそうしていると、ちょっとトイレに行きたくなって来た。
ベッドから出て、灯りをともせば、扉を開けて廊下へと出ようとした…けれど…。
暗いため、先まで見渡せない廊下。自分の足音しか聞こえない静寂が、より一層不気味さを際立たせていた。
「…………」
行けない。一人じゃ怖いと、幼い精神が泣き叫んでいる。必死にバカバカしいと思っても、進めなかった。
…結局シャルロットは、ベッドに戻り、眠たくなるのを待つ事にした。
翌日、ぐっしょり濡れたおむつで、すっごく恥ずかしい事になるのは、至極当然の事であった。
64
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/08/11(木) 21:08:03
>>61
さん
ありがとうございます。
じいやは本当にシャルロットが幼い頃から世話をしてきたので、見間違いでも何でもなく、シャルロットだと確信する事が出来たのでしょう。エディの報告を聞いて、それで確かめてみようと行動に移す間も半信半疑でしたでしょうが。
リアクションは希望に添えたか分かりませんが、もうちょっとだけ生活描写が続くので、頑張って行きます。
魔法を解く方法が無い…というのは、あくまで「あの魔法使いはかけるの専門」というだけの話です。…と、一応補足させて頂きますね。描写不足で申し訳ありません。
引き続き楽しんで下さると嬉しいです。
65
:
名無しなメルモ
:2011/08/13(土) 21:54:13
>>64
りんごじゅうすさん更新乙です!
娘が変わり果てた姿になって帰ってきたのを見た父親の反応が最高でしたよ〜
しかも知能まで低下してしまってますので幼稚な喋り方になってたのを見たリアクションも!
貴族なだけに娘がそんな変わり果てた無力な姿は堪らなかったはずですよね。
呪いを解く為に八方手を尽くすはずですので今後の展開も目が離せないです。
シャルロットに手がかりを聞いても悪い魔法使いにちっちゃくされちゃったの〜
みたいな台詞しか聞けないでしょうからいろいろな魔法使いにシャルロットを見せる事になるでしょう。
無理に魔法を解こうとしたら変な肉体変化が起こって更にリバウンドで縮んだりしてほしいですね!
それではりんごじゅうすさん応援してますので続き頑張ってくださいね
66
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 19:40:23
貴族の孤児院(14)
家に帰って来ての最初の朝、シャルロットは下半身の不快感を感じて目を覚ました。
目を開けると、いつもの孤児院の、ベッドが並んだ部屋でない事に驚いたが、昨日の事を思い出し、あぁ、帰って来たんだと思いなおした。
小さな体には大きすぎるベッドから出ようと、身をよじった所で、自分の下腹部を包む下着がぐっしょりと濡れているのを、再度実感した。
「え……。ちょ、うそでちょ」
孤児院では、子供扱いされていたし、しちゃっても当然、と受け止められていたが(それでも十分恥ずかしかったが)、ここでは、シャルロットが元々大人である事を知っている人ばかりである。
だから、絶対したくなかったのに。
オムツなんていらないって、昨日散々主張したのに、この有様である。
下腹部のぐしょぐしょの不快感よりも、顔が真っ赤に赤くなるのを、シャルロットは感じていた。
「だ、だれかくるまえに、なんとかちなくちゃ」
シャルロットは、ベッドから出て、朝、メイドさんが起こしに来る前にと、急いで部屋を出た。
メイドさんが朝来て、今日のお召し物を持ってくる前に、自分で下着だけは替えてしまおうという魂胆だが……肝心の、新しい下着がどこにあるかが分からなかった。
部屋を出て、自分の替えの服があるタンスまでは、自分の家だ。難なく辿り着く事が出来たけれども、ここにあるのは、大人の自分の服しかない。重たいタンスを、力一杯引いて開いて、やっと気付いたシャルロットは、中身の、大きすぎる服たちに愕然とした。
「おや、シャルロット様、こんな朝早くにどうされました?」
背中から聞こえてきたメイドの声に、ビクリと、シャルロットは肩を跳ねあげた。
振り返ると、元のシャルロットとは同年代程の、新米のメイドが、首を捻って立っていた。
シャルロットは慌てて声を上げた。
「な、なんでもないわよ! だいじょうぶっ!」
「大丈夫って……どうかなされたのですか? いつもは朝、起こしに来るまで寝ていらっしゃるのに」
メイドは不思議そうな顔をしたまま、シャルロットに近づき、すぐ近くでしゃがみこんで視線を合わせた。
近くにいる他のメイド数人も、なんだなんだと、幼いシャルロットの様子と、それに対応する若いメイドに、何事かと集まって来ていた。
シャルロットは、視線を合わせない様に、ぶんぶんと首を横に振るって、幼い仕草で拒否の意を示しながら、
「なんでもないもんっ! なんでもないからっ!」
「はぁ……?」
幼い仕草で、同じ言葉を繰り返すシャルロットの様子を、不思議そうな様子で見ながらも、すぐに自分の仕事に戻らないメイド。なんとなく、『なんでもない』のではないと、察した様子で、首を傾げながら、シャルロットの観察を続けていた。
しばらくして、足をもじもじさせているシャルロットに気づいたか、「あっ」と声を上げた。
「………あ、もしかして、…替えの下着でしょうか?」
メイドからしたら、オムツ、と言わなかった時点で、気を使っていたつもりだった。……けれども、シャルロットからしたら、ほとんど変わらない様な物であった。他のメイドもいるし、朝おねしょに気づいた時よりも、更に真っ赤な顔になって
「ち、ちがうもんっ! おねしょなんてちてないもんっ! だ、だからちょんなのいらないもんっ!!」
目は口程に物を言う、という言葉がピッタリ当てはまる、幼い感情。目がウルウルと半泣きの様な状態になって、シャルロットは、しゃがんだメイドの足をキックしてから、逃げる様に元の部屋へと走っていった。
その後、ベッドの中で、布団をすっぽり被って閉じこもっているシャルロットに気遣ってか、着替えを持ってやって来たメイドは、「着替えは、ここに置いておきますね」と、シャルロットをそっとして、すぐに部屋から出て行った。
……その中にはもちろん、新しい替えのオムツもあった。
67
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 19:41:10
貴族の孤児院(15)
小さな、不器用な指がボタンをはめるのに苦労したりもしつつも、シャルロットはなんとか、与えられた着替えを完了して、メイドさんに髪を整えて貰った後、食堂に向かった。
孤児院と違い、子供用の椅子とか、食器とかはすでに必要のない屋敷になっているシャルロットの家では、テーブルは高いわ、食器は大きくて重たいわで、食べるのに散々四苦八苦する事となった。
食べる前に付けられたよだれかけは、食べ終わる頃にはべたべたになって、無かったら借り物のこの服が酷い事になっていただろうが、その汚れきったよだれかけと、食後にメイドにナプキンで柔らかい口元を拭かれたのは、シャルロットにとって、非常に屈辱的であった。
……食事中、父上をはじめとする家族やメイドたちの、好奇心に満ちた視線もあって、食事が終わる頃にはシャルロットは物凄い不機嫌なふくれっ面になっていた。
「シャルロットよ」
食事を終えて、自分で口元を拭きながら、父が語りかけて来た。
「昨晩、神殿の司祭様に掛け合って、解呪の儀を取り行って貰える事となった」
「ホント!」
シャルロットは、テーブルに手をついて、身を乗り出そうとしたが、危うく椅子から転げ落ちそうになった。
「うむ。これから馬車で向かうとしよう」
それから、シャルロットは父が身支度を整えて、馬車に乗る時が来るのを今か今かと待ちわびた。
ほんの30分もかからぬ事ではあったのだけれど、幼い今の精神と、やっと元に戻れるという期待から、非常に長い時間に感じた。
そして、馬車に揺られ、神殿へ辿り着き、父親が司祭様と長ったらしい挨拶をしたりした後、神殿の奥、神聖な儀式を執り行う、厳かな間へとたどり着いた。
部屋の中央にシャルロットを座らせ、10人近い、白いローブに身を包んだ聖職者たちが円陣を組む様に、シャルロットの周りに立っていた。
ここまで来るのに、大人たちの長い会話などを落ち着きなく、それでも必死に我慢して待っていたシャルロットだったが、流石にここに来たら、非常に緊張してしまう。
呪い、というのは、非常に解くのが難しい魔法だ。
お姫様のキスとか、呪いをかけた魔法使いが定めた『条件』を満たす事で解ける様にする変わりに、他の魔法使いや聖職者が力づくで解いたり、人間が持つ、元に戻ろうとする力では中々解く事が出来ない様にする技術があるから、というのが最もたる理由だ。
そのため、これだけの人数を囲って、長い儀式の末に、解呪するつもりなのだろう。
シャルロットは円陣の中央で、ひざまづき、両手を組んで、多数の聖職者たちの儀式を見守った。
……何時間経過した事だろう。幼い体が、聖職者たちの祈りの声が、まるで子守唄の様に聞こえて、それでも、寝る訳にはいかないと、何度も、何度も言い聞かせた後、突如体に変化が起こった。
体が熱くなる、と感じて最初の数秒は、ムクムクと、少しずつ、体が大きくなって行く感覚と、少しずつ、自分を包んでいた魔力の膜が剥がれる感覚がしたと思うと、今度はその膜が一瞬にして破ける様な感覚。そして、それと同時に、今度は一気に体が大きくなる!
ビリィ。
自分を包んでいた膜の感覚が無くなったのに、いきなり何かで締め付けられる感覚と、それが再び破れる様な感覚。いや、魔力の膜なんて物ではなく、もっと現実的で、しっかりした感覚……これは……!
「い……いやぁっ!?!??」
自分が着ていた、小さな子供服が、大きくなった体を包み切れずに、ビリビリに破けて、弾け飛んでしまったのだ。
10人近い聖職者たちに囲まれる構図になっていたシャルロットは、その裸体を惜しげもなく晒し、しかも全方位から見られる形になっていたために、手足で体を隠そうとしても、ほとんど効果が無い状態だった。
……儀式は成功に終わったが、聖職者の中には、慌てて部屋を出る者、鼻血を吹いてしまった者、目の前の裸体に目を奪われて、目をそむける事も出来なくなってしまった者などがいて、とても「めでたいめでたい」と言える雰囲気では無くなってしまった。
シャルロットは、その時の恥ずかしさと、久しぶりに戻って来た、己の魔術の知識を持って、力一杯、電撃の魔法を発動させて、部屋から逃げ遅れた聖職者の男共を、稲妻で打ちすえた。
68
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 19:42:33
貴族の孤児院(16-1)
それから……女性の聖職者が体を隠すシーツと、予備の神官服などを用意してくれて、それに着替えたものの、シャルロット本人としては、お礼もお詫びも言う気になれず、シャルロットの父も、お礼よりも、「こんな事に誰一人気付かなかったのか!!」と散々神殿の神官たちを怒鳴りつけてから、帰りの馬車に乗り込んだ。
父親も、嫁入り前の娘の裸を見られて不機嫌なのか、帰りの馬車でも散々ぶつくさ言っていた。呪いを解くにあたって、普段からの信心深さと、神殿に寄進した額。そして、解呪の儀式にあたって、より多額のお布施を支払ったのだから、もっと完璧な仕事をしろ、と。
ともあれ、父はゴホン、と気持ちを変えるためか、咳払いを一つした後、神官服のシャルロットに向き直った。
「まぁ、とにかく。元に戻れて良かった。……にしても、人を子供にして孤児院に送るなど、信じられん魔法使いもおった物だ。…なんとかして捕まえなければな」
「…お父様、それについては、わたくしから一つ、お願いがございますわ」
……今までとは違う、凛とした大人の声で、しっかりとシャルロットは父に語りかけた。
数日後、再びシャルロットは、一人で街中へと繰り出した。
小さな幼児になる前の服装とは良く似た、動きやすく、仕立ての良い服に、腰には真新しいレイピアをさして、自慢のゆるくウェーブのかかった金髪を揺らしながら。
そして、あの魔法使いと出会った通りを歩き、路地裏に隠れる様に存在する、ちょっとした空き地へと、足を運んだ。
意外と孤児院も、皆と遊んだこの空き地も、魔法使いと初めて会ったあの場所から、随分近い位置にあった様子だ。
……懐かしい、と、感慨に耽ったが、すぐに気を引き締め直して、声を上げた。
「……いるんでしょ? 姿を見せたらどうかしら?」
普段は意識してないが、今日のシャルロットは、魔力に関する意識をとぎ澄ましている。あの魔法使いは、少なくとも一本、相手を子供にする魔法の杖を使っていたのだから、魔力を感知しようとすれば、魔法の心得のあるシャルロットにとって、彼の接近を感づく事が出来た。
「…やっぱ、俺が目当てか。……ガキから人生やりなおしゃあ良かったものの、金の力で戻っちまってまぁ」
広場の入り口から、肩を竦めながら現れた、フードを眼深に被った、ローブの男が現れる。
シャルロットはレイピアを抜き放ち、構えた。
「ふざけないでっ! こっちは散々苦労したんだから! 何が目的なのよ!」
そう、シャルロットを子供にして、孤児院に入れるなんて、男にメリットなど、無いハズ。遊び半分でやったのなら、なおさら許せない。
男は「ハッ!」と笑い飛ばしてから、答えた。
「アンタが気にくわなかっただけだよ。貴族に生まれただけでえらそな格好して歩きまわった挙句、物乞いを魔法で痛めつけた上に『汚らわしい』なんて言ったアンタをなぁ!」
「だからって子供にする事は無いじゃない! …それに、いきなり女性の足元にすがりつくなんて、全く礼儀がなってないアイツが悪いのよ。斬り捨てられても文句言えないわ」
「はんっ! それころお偉いさんの言い分だな! 物乞いがそんな事知るかよ」
「…アナタ、正義の味方のつもりなの? いきなり現れて、いきなり呪いをかけてきたあなたが??」
眉間に皺を寄せて、厳しい目でフードの奥の顔を睨みつけるシャルロットに対して、男は肩を竦めてみせた。
「べっつにぃ。俺は正義とか悪とか、そんなモンにキョーミないね。気に入らないヤツをガキにして、嘲笑ってやってるだけさ」
「この悪党っ! このわたくしが、成敗してさしあげますわ!」
69
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 19:58:20
貴族の孤児院(16-2)
シャルロットはレイピアを構えて、魔法使いの男へと突進した。
相手を子供にする魔法に加え、以前会った時は、呪文を唱える事無く、眠りの魔法まで行使して来た魔法使いだ。魔法では勝ち目無いと踏み、剣の間合いへと持ちこむつもりで前に出る。
対する魔法使いの男も、不意打ちや子供にした後ならともかく、いきなりでは子供にする魔法も、眠りの魔法も効かないと踏んで、ローブに覆われた両手を上げ、自分の周囲にいくつもの光弾を作り出した。
それらが次々に飛来して、シャルロットを狙い打つ。
「くっ!」
シャルロットはひらりと身をかわして、身軽な動きで次々とそれを避けていくが、どんどん発射される光の球に、魔法使いに向けて近寄る事も出来ず、かといって、魔法で応戦しようにも、発射速度が違いすぎて、発動させる事も出来ずにいた。
「ほらほらほらほらぁ! その程度かぁ!」
魔法使いの男は、さらに魔法の弾丸を増やし、ラッシュをかけて来た。レイピアで受けとめようとしたら、折れてしまうであろうその弾丸のいくつかが、シャルロットを撃ちすえ、シャルロットはその場に膝をついた。
男は、にやにやとシャルロットを見下ろして、再びローブから、あの小さな杖を取り出す。
「その程度かよ。…今度は、どっか遠くの街にでも送るか。二度と戻れねぇ様になぁ!」
そして、男はシャルロットに杖を向けた。
杖から、魔力の波動がシャルロットに向けて放たれた、が……。
見えない魔力の壁に阻まれたかと思うと、男の方へと目がけて、魔力が逆流したのだ。
驚きの声を出す間も無く、男は魔力に包まれ、体が小さくなっていく。
「…な、なんだとぉ」
声は、甲高く、幼い子供の、鷹揚の無い物へと変わり果て、膝をついたシャルロットと同じぐらいか、少し下程度まで背が縮んでいく。
男の膝よりも下にあったローブの裾はダブダブで、地面に広がっており、フードを被っていた事が災いしてか、顔がほぼ10割隠れて、何も見えないのか、わたわたと長すぎる袖に隠れた腕を振りながら、その場でフラフラとしていた。
シャルロットは勝ち誇った笑みを浮かべて、痛む体を起こして立ち上がった。
「……ふ、ふふ。わたくしが、何の対策もしないと思って?」
言えば、首から下げ、なおかつ、上着にしまいこんでいたネックレスを、外に取り出して、見える様に首から下げ直した。
ここ数日で準備をしておいた、特定の魔力のみを反射する力を秘めたネックレスだ。
一度食らった魔法の魔力の特徴をつかみ、ネックレスに記憶させる作業は苦心したが、この魔法使いに対して狙い通りと言った所か。
剣を納め、だぼだぼの服で上手く動けない魔法使い、否、魔法使いだった男の子を抱き上げてみせた。フードの奥に見えた顔は、かつてのシャルロットと同じくらいの、2〜3歳の幼い、まるっこい顔が見えた。
「く、くちょお! ひきょうだぞぉ。もとにもどちぇえ!」
「あらあら? あなた自身が、元に戻す方法を知らないのに、何でわたくしが知っているのかしら??」
シャルロットは意地の悪い笑みを浮かべて、抱っこした男の子をゆさゆさとしながら、逆に問いかけてみせた。
男の子は、ぶかぶかのローブに隠された腕を振り上げながら、言葉を続ける。
「うるちぇえ! とにかくもとにもどちぇ!」
「そう言った人に対して、あなたはどうして来たのかしら?? ……さぁて、どうしてくれましょうか……!」
シャルロットは、底意地の悪い笑みを浮かべた後、ゆっくりと魔法の言葉を紡いでいく。
何が来るか、と男の子は体を強張らせたが、すぐに急激な眠気に襲われて、トロンと目を閉じた。
……あの時、男が幼児化したシャルロットに使ったのと同じ、眠りの魔術であった。
70
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 20:38:53
貴族の孤児院(最終話-1)
「ふぅ……。」
痛む体に耐えながら、シャルロットは、魔法使いであった男の子を抱きかかえて、空き地を後にした。
この魔法使いと同じ事をしてやるのならば、このまま孤児院の前に捨て置くのであるが、シャルロットにとって、あの孤児院は、思い出の、恩人たちの多い場所であるから、それをする気にもならなかった。
ここからあの孤児院は近かったハズだし、ちょっと様子を見に行ってみようかしら……? そう思って、シャルロットはその足で歩みを進めた。
そう思って、シャルロットは、あの孤児院の方へと向かった。
孤児院は、シャルロットが思うよりもはるかに、あの空き地から近かった。
あの時は小さな子供の足であったから、何もかも大きく見えたし、何よりも歩幅が違いすぎて、予想していたよりも半分以下の時間で辿り着いてしまった。
…辿り着いた孤児院は、ここで暮らしていた頃は、もっと大きな建物だと思ったのに、大人になって戻って見れば、随分と寂れた印象があった。
(まぁ、裏路地にひっそりとある様なトコだしね)
シャルロットは、そんな風に納得しつつ、孤児院の中を伺おうかと、建物の周りを歩いていると、ふと、目の前に女の子が現れた。
一瞬、シャルロットは知らない女の子かと思ったが、すぐにそれが誰なのか気がついた。
「! リリィ…おねぇちゃん…?」
「おねぇちゃん、だぁれ…? おねぇちゃんの方が、年上なのに、ヘンなの」
クスリと、その金髪の少女――幼い姿だったシャルロットの面倒を良く見て、一緒のベッドに寝ていた、リリィおねえちゃんだった。
シャルロットは慌てて、誤魔化す様に言葉を紡いだ。
「あ、えーっと、他の子から聞いたのよ」
「ふぅん、そうなんだ? うちに何かご用」
こてん、と首を傾げるリリィ。その時、別の声が響いた。
「んー? どしたリリィ、お客さんか??」
若い男の声だった。…初めて、孤児院でお風呂に入った時、シャルロットをお風呂に入れてくれた、ケンお兄さんだった。
日雇いで工事現場の仕事にでも行って来たのか、汗だくで、薄着のシャツ一枚だった。
幼い姿だった頃と比べてば、随分小さく見えたが、今のシャルロットでも、その汗のにおいと、逞しい体付きは、未だ魅力的に見えた。
ふと、風呂場で見た彼の裸体を思い出して、顔を真っ赤にして首を振った。
彼――ケンは、その様子に不思議そうな顔をして、シャルロットに語りかけた。
「あー……えっと、うちに何か用スか?」
訝しげ、そして、敬語も覚束ない様子で、貴族らしきシャルロットに話しかけて来た。
…やはり、幼い子供のシャルロットと、今の自分は別人だと認識しているのだろう。
……同一人物だと特定されても恥ずかしいけれど、シャルロットは、言い知れぬ寂しさを感じていた。
「別に、ただ単に散歩したら迷い込んだだけですわ」
ふいと、背を向けて、歩き去ろう。
自分には、自分の住むべき世界があるんだと、言い聞かせて。
71
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 21:20:41
貴族の孤児院(最終話-2)
魔法使いと決着を付けてから、更に数日程経過した。
シャルロットは、再び戻って来た貴族としての日常を、満喫していた。
朝、柔らかなベッドで、執事やメイドが起こしにくるまで、ぐっすりと眠り、優雅な朝食をとって、それから行動を起こす日々だ。
「……おい、あさだぞぉ。おきろー」
部屋にやってきた、新入りの下働きの男。…否、幼児の声。
幼い子供用にしつらえた執事服、そして、ズボンの中には大きなオムツが入っている事が、外から見ても分かるふっくらとしたお尻。
どことなく、ローブの奥から見えたあの顔の面影を残した男の子。……そう、あの魔法使いである。
シャルロットは、ベッドから起き上がり、ベッドの近くにいた、魔法使いだった男の子の両側の頬っぺたを、摘まんで伸ばした。
「あ・さ・で・す・よ。でしょ。全く言葉使いが治らないんだから。もっと紳士になりなさいな」
そう言って、頬っぺたから手を離して、男の子を回れ右させて、背中を押す。起きたから、部屋を出ろと。
……結局、シャルロットは、魔法使いを自分の屋敷で住み込みで働かせる事にした。働かせるといっても、2歳くらいの子供になってしまい、知能も落ちて魔法も使えなくなった魔法使いだ。
あのままほっとくワケにもいかなかったし、孤児院に捨てるのも、魔法使いと同じ事をしているっぽくて嫌だった。
こうなれば、1から育て上げて、あの腐った性根を叩き直すべき、とシャルロットは判断したのだ。…いや、同じ屈辱を味わってる彼を眺めていたかった、という気持ちも少しはあるけれど。
叩き直して元に戻せば、善良な魔法使いが一人誕生するし、叩き直せなければ、今後の人生で、二度と魔法に関する知識を与えずに大人にするために、あの悪い魔法使いは生まれない。それだけの事。
今朝の様子と、他のメイドさんに可愛がられて不満そうな様子の彼を見るに、叩き直るかどうかは未だに怪しい所。
さて、とシャルロットは身支度を整え始めた。
「さて、どうした物かしらねぇ……。」
シャルロットは、自分の部屋の椅子に座って、考え事をしていた。
あの、孤児院の事である。
孤児院には、事情は説明できないが、父から、多額の寄付金を送っているので、大層潤っている事であろう。
……けれど、そんなのは、一時的な物で、いずれは尽きるお金だ。根本的な解決にはなってない。
定期的に支援するパトロンになるのも一つの手ではあるけれど、貴族のお金というのは、いわば市民の血税。
「お金さえ出せばよい、ってのとはまた違うわよねぇ」
シャルロットは腕を組む。
我儘な貴族娘ではあるけれど、公正な政治、という物も知っているし、自分の我儘で動かせる金でパトロンになっても、たかがしれている。
もう数年して、後継ぎに選ばれれば別であろうけれど、そうなる保障は無い。大抵は、別の貴族から婿を呼んで、自分の婚約者が街を治める事となるであろう。
「わたくしが出来る範囲で……身分の低い者たちが、仕事でお金を貰えるシステムを作る、とか…?」
裏路地で蹲っていた、乞食や、日雇いの仕事に出かける、孤児院での年長の男たちを思い浮かべて、思い浮かんだ一つの案。
仕事が増えれば、ああいった人たちも少なくなるし、孤児も助かる。……我々貴族からしてみれば、税の収入が上がるし、お金目当ての犯罪も減る。
「これだわ! さっそく父上に伝えにいきませんと!」
シャルロットは立ち上がり、父の執務室へと向かった。
数十年後、シャルロットが暮らす街は、より大きく発展し、様々な人たちが暮らす、有名な大都市になる。
身分の低い、最下層の者にも、労働の基準や給料の基準などが設けられ、大きな工場と、外から輸入した大量の原材料を仕入れる事で、産業の発達した大都会へと変化した。
その街を治める女領主のシャルロットは、数十年も前から、魔法でずっと若々しい容姿を保った、美しい女性であったという。
―完―
72
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/02(金) 21:26:19
最後、駆け足気味になってしまいましたが、貴族の孤児院、これにて完結でございます。
あまり読者様をお待たせしすぎるのも何ですし、ダラダラと続けるよりはと、一気に終わらせて頂きました。
最後の魔法使いとの決着とオチが描けて、個人的には満足です。
長い間お待たせして申し訳ありませんでした!
そして、最後まで付き合ってくれて、ここまで読んで下さった方、まことにありがとうございます!
では、いつになるか分かりませんが、次の作品でお会いしましょう。
>>65
様
父親やメイドの反応など、幼児化した以上周りの反応は描きたかったので、そう言って下さるとうれしいです。
孤児院で生活する以上、今までほとんど知り合いが出せなかったので……。
展開が早くなってしまいましたし、変な肉体変化は、服が破れるネタを考えていたので、採用できませんでしたが、応援ありがとうございました!
73
:
サルド
:2011/12/03(土) 09:31:13
完結おめでとうございます!そしてお疲れ様でした!
長い物語を完結させるのは本当に凄いと思います。
王道でも何でも、主人公が困難に遭ってから成長していく様は本当にいいものです。
幼児化したらこうなる…というイベントも沢山見れて良かったです。
個人的にラストの戦闘描写も上手かったですし、燃えましたw
自分もこんな作品を書きたいと思いつつ、感想を〆させて頂きます。
良いものが見れて良かったです。本当にお疲れ様でした!
74
:
名無しなメルモ
:2011/12/04(日) 23:45:40
完結おめでとうございます
物語を完結させるという事はそれだけでも難しい事ですので
この完結した物語を読めるという事に大変幸福を感じております
75
:
とも
:2011/12/06(火) 20:11:27
りんごじゅうすさん、完結おめでとうございます!
そして本当に長い間お疲れさまでしたm(__)m
物語はどう終わらすかが一番難しいのに、とても筋道が通ったエンディングだったので素晴らしいな〜と思いました。
本当に楽しい作品をありがとうございます!
76
:
りんごじゅうす
◆DkFptW8F1s
:2011/12/08(木) 07:53:54
>>サルド様
ありがとうございます。
当初の予定では、ここまで長くするつもりは無かったのですが、描写などを重ねていくうちに、気付けばここまで長くなってしまいました。
途中、シャルロットは元に戻さない方がいいのかなぁと悩みました(笑)が、そう言って下さると幸いです。
『一人を幼児化させて、そのキャラクターを詳しく描写する』がコンセプトだったため、イベントを良かったと言ってくれるのは嬉しいです。
戦闘はシンプルにしたつもりですが、好評で良かったです。
>>74
様
凄い長い間小説をほったらかしにしてしまったり、最後駆け足気味になってしまいましたが、そう言って下さると、駆け足気味でもキッチリと終わらせて良かったなと思えます。最後まで付き合って下さって、ありがとうございます。
>>とも様
更新が止まったりもしましたが、長い間、お付き合い感謝です。
一応、書き始める前に、全体の流れやら、最後はどうなるやらを決めてから書き始めて、途中でそれほど設定の変化や矛盾などが生じたりしなかったために、予定通りの結末で終わらせる事ができました(そこまで辿り着くのに更新が止まりそうになりましたが^^;)
楽しい作品と言って下さると、書いて良かったなぁと思えます。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板