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尚六SS「永遠の行方」

61永遠の行方「予兆(28)」:2008/04/27(日) 12:33:04
 だが鳴賢は肩をすくめると、そんな六太の抗弁をあっさり退けた。
「そりゃ、風漢はどう見ても遊び人だし、比べる対象が悪すぎるだろ」
「あれでどうやら官吏に仕えているようだから、よく仕事を首にならないもの
だとは思うけどね」
 敬之がそう続けて苦笑する。
 脱力して溜息をついた楽俊は、本を入れた袋をやっと書卓の上に置いた。鳴
賢たちもそれに倣う。
「――で、ご気分が悪いのは大丈夫なんですか?」
 向き直った楽俊が諦めたように問うと、六太は力ないながらも、いつものよ
うににんまりと笑った。
「うん、もうへーき。ちょこっと気分が悪かっただけだし、勝手に休ませても
らってそれもだいたい良くなったし。町中で騒動に行き合っちゃってさあ」
 そう言って六太はごろりと臥牀に寝転がった。そして少しだけ沈んだ声で
「物乞いをしていた浮民の親子が関弓の民に追い立てられて、子供のほうがち
ょっと怪我をしたんだ」と続けた。
「ああ、それでか。おまえ、血を見るの苦手だもんな」
 手近の床几を引き寄せて勝手に座りながら、鳴賢は納得した。六太はその手
のものが大の苦手で、こういう面に限っては、子供の外見通り繊細なたちだっ
た。何しろ途の片隅にたまに転がっている犬や猫の死骸を見てさえ気分が悪く
なるのだから、深窓の令嬢のごとき繊細さだと言える。
 楽俊はそんな六太の傍らで、乱れた衾褥をせっせと整えた。敬之もそれを手
伝う。
「なら臥牀をこのまま使ってください。もともとおいらは母ちゃんのところへ
泊まりに行くつもりで、今晩は房間を留守にするところだったんで」
「うん、わりぃな。わりぃついでに何だけど」
「は?」
 体を起こした六太は、情けない顔ですまなさそうに「何か食うもん、ねえ?」
と言った。その途端に六太の腹が、きゅう、と鳴ったので、一同は思わず失笑
してしまった。

- 続く -




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