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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

253崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/09/05(土) 04:00:37
「……ひとつお訊きしたい。
 エンバース殿……私は。この『聖灰の』マルグリットは、貴公から見て然程に弱いのでしょうか?」

エンバースを見遣りながら、マルグリットはそう質問を投げかけてきた。
今の奥義は確かに全力だったのだろうが、最後の最後。双掌での爆殺は、人体の急所を僅かに逸れていた。
マルグリットは敢えてとどめの一撃を微かに外すことで、エンバースに致命的なダメージを与えなかった。
対話をするために。エンバースに疑問に対する答えを告げさせるために。

「私は本気で闘いました。貴公に対して手加減はしませんでした、少なくとも最後のそれ以外は。
 さりながら――貴公はそうではなかった。
 貴公は。何故、私に対して手加減をしていたのです?
 私は、貴公が本気を出すにも値せぬほどの弱者と……そういうことなのですか」

美しく怜悧な面貌の眼差しを鋭くし、マルグリットはそう問うた。

「隠さずとも分かります。
 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とは、マスターとモンスターが力を合わせて戦うもの。
 マスターがモンスターに指示を出し、モンスターがそれに応えるもの。
 だというのに、貴公は私との戦いで一度としてモンスターを出そうとはしなかった。
 やっと出したとしても、腕二本。それは本気とは申せますまい」

右手の人差し指でスマホを指差す。
マルグリットはエンバースが『かつて『異邦の魔物使い(ブレイブ)』であった魔物』だということを知らない。
エンバースがモンスターを召喚しないのではなく、できないのだということを知らない。
だが、それを差し引いても、マルグリットがそう訝しむ理由はあった。

「貴公は戦闘中、幾度も上の空になっていた。注意が散漫になっていた。
 モンスターと対話していたのですか? それとももっと別の何かと――?
 何れにせよ、貴公はパートナーとの足並みが揃っていない。
 単騎でアニマガーディアンを狩れるほどの実力を持っていながら、貴公は何ゆえ然様な闘いをされるのか?
 私には、それがどうしても解せぬのです」

闘いとは実力の伯仲した者同士が互いの尊厳と信念、矜持――持てる総てを懸けて戦うもの。マルグリットはそう信じている。
だからこそゴブリンアーミーによる一方的な蹂躙を是としたロイ・フリントに口出しし、やるなら正々堂々とやれと言いもした。
それなのに『異邦の魔物使い(ブレイブ)』であるエンバースが実力を秘し、
手抜きにも見える闘いをしたのでは、興覚めというものだろう。
元より、マルグリットはマル様親衛隊が心酔するこの世界の英雄のひとり。
エンバースとフラウの間にある溝が埋まらない限り、打倒することはおぼつくまい。
その溝が、一朝一夕に埋まるものでないとしても――それでも。

軽く、マルグリットはエンバースから視線を外して戦場を見回した。

「きなこもち大佐殿やシェケナベイベ殿が羨ましい。
 彼女たちはよい闘いをしたようです……互いの力と技、今まで背負ってきたもの……それらを遺憾なくぶつける闘いを。
 私も、貴公とそのような闘いをしてみたかったが――
 それが叶わぬというのなら。此れにて終幕とさせて頂きましょう」

大きく両手を上下に広げ、マルグリットは再度構え直した。
今度こそ、とどめの一撃が来る。
そう思った――が。

「!」

突如、マルグリットの足許に数本の矢が突き立つ。マルグリットは素早く後退し、矢の飛来した方向を見た。

「何者……!?」

「オイオイ、何者たァご挨拶だな。折角、キングヒルくんだりから息せき切って駆けてきたってのに」

「……な……」

マルグリットは瞠目した。
レプリケイトアニマの核、紅く明滅するアニマコアの上に、いつの間にかひとりの男が佇んでいる。
修道士めいた黒いキャソックに、くたびれたインバネスコート。頭にはテンガロンハットをかぶった、三十代後半くらいの男だ。
男は持っていたクロスボウを腰の後ろに仕舞い、無精髭のまばらな顎を軽くひと撫ですると、小さく笑った。

「呼ばれて飛び出て何とやらってな。もう終わっちまってるかもと思ったが、どうやら滑り込みセーフってところかね?
 なんせ金貰っちまってるからな……ギャラの分は働かなくちゃいけねえ。
 信用第一の商売だ――わざと遅れて金だけ貰ったなんて悪評が立っちゃ、おまんまの食い上げってもんだ」

「……貴公は……いや、貴方様は……」

マルグリットはその姿を見たまま固まってしまっている。
にやり、と男は不敵な笑みを浮かべると、右手でテンガロンハットを押さえながらひらりとコアから飛び降りた。
そして不敵にもマルグリットの目の前を横切り、エンバースへと近付いてゆく。

「立てるかい兄さん。
 闘いに水を差しちまって悪いが、おたくの闘うべき相手は『聖灰』じゃねえ。
 おたくはダチ公を助けに行ってやんな」

そう言って右手を差し伸べる。その手には琥珀色の液体の入った小瓶が握られていた。
体力とダメージ全回復のポーションだ。飲めばマルグリット戦のダメージも回復するだろう。
エンバースに小瓶を渡すと、男はコートを翻して踵を返す。
漆黒のインバネスコートの背中に、大きな銀十字の刺繍がやけに目立った。


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