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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

242崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/09/05(土) 03:40:39
スタミナABURA丸、本名田中洋子は都内在住のOLである。
目立ったスキルは何もない。容姿も地味である。そもそも名前からして地味だ。
会社でも目立った存在ではない。口数も多くなく押しも強くない、完全な空気。社内モブ。
そんな地味子・オブ・地味子の彼女が一目置かれ、活躍できる場所――それがブレイブ&モンスターズだった。
ブレモン最強ギルド、鬼の四人が一角。親衛隊の無敵たるを体現する、文字通り無双の鉄壁。
スタミナABURA丸として。

ブレモンの中でスタミナABURA丸としてのペルソナをかぶった彼女は、まさに無敵だった。
意思を持つ盾『イージスディフェンダー』をパートナーモンスターとし、ありとあらゆる攻撃を遮断する絶対の防壁。
彼女の防御を突破した者は未だかつて存在せず、その強さは異世界においても遺憾なく発揮され――

は、しなかった。

田中洋子がスタミナABURA丸という仮面をかぶり、比類ない力をふるっていられたのは、それがゲームの世界だったからである。
ゲームの世界。スマホの世界。……インターネットの世界。
実体のない仮想の世界であったからこそ、彼女は現実の自分を忘れて思う存分暴れることが出来た。
どれだけダメージを負っても、電源さえ切ってしまえばノーカウントになる世界。現実と仮想を隔てる分厚い壁。
皆を守る壁役の彼女が、その実誰よりも壁というものに依存していたのだ。
だが――こうして異世界に召喚された今、彼女を守っていた防壁は消滅した。
凭れかかるべき壁がなくなった今、そこに残されたのはスタミナABURA丸ではない。
地味なOL、社内モブの田中洋子がいるだけだった。

文明社会の恩恵を根こそぎ奪われ、地球では想像さえできない不自由な生活を強いられ。
なおかつアルフヘイム由来のモンスターに直接命を狙われる生活に、彼女の心は瞬く間に摩耗していった。
そして、折れた。

「みんな、どうしてこれが当然みたいな顔して受け入れてるの!?
 道を歩いてたら突然バケモノが飛び出してきて、自分を殺そうとしてくるような世界を!
 おかしいよ……おかしいでしょ! こんなの……どう考えたっておかしいよ!!」

スタミナABURA丸はヒステリックに叫んだ。
それはそうだ。今では現代日本人が道端で野良犬に遭遇することさえ珍しい。
犬でも珍しいのに、自分を喰う気満々のライオンレベルの猛獣が突然目の前に現れる。しかもそれが一日に何度もある。
普段遭遇するようなエンカウントモンスターはマル様親衛隊の精鋭にとっては一撃で屠れる雑魚ばかりだったが、
弱ければいいという問題ではない。まったく意図しない状況で自分に殺意を向ける存在と出会う、ということが問題なのである。
ありとあらゆる危険から遠ざけられ、保護されたぬるま湯のような世界に住み。
その恩恵を頭のてっぺんから爪先まで享受していた彼女だからこそ、
エンカウントバトルというものに多大なストレスを感じていた。
彼女にとっては、世界丸ごとお化け屋敷のまっただ中に突然放り出されたようなものであろう。

「いきなり空から襲ってくる鳥のバケモノに立ち向かうより、
 ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗って通勤して、つまらない事務仕事してる方がよっぽどまし!
 腐りかけのゾンビに抱きつかれるくらいなら、課長にセクハラされてた方が全然いい!
 もう勘弁してよ……、元の世界に帰してよぉ……!」

両手で顔を覆い、スタミナABURA丸は泣いた。
そんな仲間を、さっぴょんときなこもち大佐、シェケナベイベはなすすべもなく見守った。
帰せと言われても、さっぴょんたちにそんな芸当はできない。手段があるならとっくに講じている。
といって、諦めろ覚悟を決めろとも言えなかった。帰りたいという彼女の気持ちは痛いほどよく分かる。
誰も手を差し伸べてくれない異世界で、マル様親衛隊はどこまでも孤立無援だった。

「……分かったわ。
 じゃあ、もう少しだけ頑張ってリバティウムまで行きましょう。
 リバティウムには私の箱庭がある。あそこなら、魔物たちだって出ないはずよ。
 私の趣味で悪いんだけれど、かなり内装には手を加えてあるから。地球そのままとは言わないけれど、
 それに準じた生活はできるはず。……この世界が落ち着くまで、そこにいればいいわ」

「元の世界に戻る方法が分からない以上、現状それがベターッスね……。
 スタミナさんにその気がない以上、戦わせることはできないッス」

緩く腕組みしたさっぴょんが、小さく息を吐いてそう提案する。
眉間に皺を寄せて思案していたきなこもち大佐も、それに同意を示す。
リバティウムがアルフヘイム有数のリゾート地で、過ごしやすい気候の人気スポットというのは有名な話だ。
さっぴょんが金に飽かせて増改築した箱庭なら、アルフヘイムでも最上級の快適な生活ができるだろう。
むろん、戦う必要もなくなる。

だが。

「ま……、待ってよ! そんなのナシっしょ!
 あーしら、四人でマル様親衛隊じゃん!? 今更アブラっちを置き去りなんて――
 そんなんないし!」

シェケナベイベだけは、そんなふたりの意見に真っ向から反対した。


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