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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

231明神 ◆9EasXbvg42:2020/08/30(日) 07:25:12
「あ……あ?」

違う。音が籠もってるんじゃない。『聞こえてない』んだ。
それが証拠に今も爆音による空気の震えは肌に感じる。胃袋の空洞に響いてる。
周囲を漂う霧も、さっきと変わらず音響攻撃の範囲で弾けてる。

音が聞こえなくなったのは、俺の耳がおかしくなったからだ。
こいつは――突発型の難聴。恐らくは騒音性の……耳の神経が傷つけられて音が聞こえなくなる症状だ。

中学生くらいの頃、風邪から来る内耳炎で片耳が軽度の難聴になったことがあった。
そん時の状況とよく似てる。体がふわりと浮かんだような、平衡感覚の消失――

「なっ……おっ……」

気づけば俺は膝から地面に崩れ落ちていた。
うまく立ち上がれない。足が地面を捉えられない。
耳には体のバランスを維持する機能もある。単なる鼓膜の損傷と違って、そっちの神経もイカれた。
頭の中がずっとぐるぐるして、視界が回転してるみたいな錯覚が拭えない。

「なる……ほど……音響デバフってのは、こんな感じか……」

シェケナベイベ。範囲攻撃のオーソリティ。
その真骨頂が、攻撃範囲に任せたデバフのばら撒きだ。
『スタン』や『沈黙』として描写されるデバフの本来の姿を、俺は身を以て体験していた。

「く……そ」

甘かった。範囲攻撃さえ躱せば、デバフを付与されることもないと考えてた。
だがアニヒレーターの奏でる音は何も、音圧によるふっ飛ばしだけじゃない。
戦場でずっと響き続けていたロックサウンドがそうであるように――
収束を緩め、威力を捨てれば全方位に音を届けることなんか造作もない。

……回復魔法くらい、覚えとくんだった。
俺の使える闇属性魔法は攻撃とデバフくらいしかない。
回復できるスペルも持ってない。行動を封じられれば、待ってるのは『詰み』だ。

目の前でシェケナベイベが何かを叫ぶ。内容は分からんが、パートナーへの指示だろう。
アニヒレーターがギターの残りの弦に指を這わせ、超絶技巧もかくやの速度で何事かを爪弾く。

トドメの一撃。覚束ない足取りじゃまともに逃げることもできない。
ヤマシタに防御させるにも、音響攻撃に物理的な障壁は意味を為さない。

こいつを喰らえば、俺は間違いなくお陀仏だろう。

つまりは。
――伏せてた切り札を、出し惜しんでる場合じゃねえってことだ。
跪きながらも手放すことなくずっと握ってた手の中のものを、ヤマシタへ向けて弾いた。


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