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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章
210
:
崇月院なゆた
◆POYO/UwNZg
:2020/08/09(日) 22:40:07
「ジョン! ……なんてこと!!」
ジョンの変貌を目の当たりにして、なゆたは絶句した。
人間のモンスター化――ブラッドラストというスキルが、まさかあれほどの力を持っていようとは。
しかし、ジョンを何とかしなければと一歩を踏み出しかけたなゆたの前方にきなこもち大佐が立ち塞がる。
「おおーっと! どこへ行くつもりッスか、師匠? 師匠の相手は目の前にいるッスよ!」
「どいて、きなこさん! ジョンを一刻も早く止めなくちゃ!
でないと取り返しのつかないことになる……! 『異邦の魔物使い(ブレイブ)』同士でいがみ合ってる場合じゃないよ!」
「ジョン? ああ、師匠たちが一生懸命幌馬車の中で隠してたヤツッスか。
あッはは! 確かにありゃ、とんでもないことになってるみたいッスねェ〜。
師匠たちが隠してた理由がやっと分かったッス」
ジョンを一瞥すると、きなこもち大佐は呑気に笑った。
なゆたが声を荒らげる。
「分かるでしょ! だったら――」
「はァ。だったら何だって言うんスか?」
「……え……?」
「自分の見立てじゃ、ありゃもうダメッスねェ〜。プレイヤーがモンスターになるなんて、聞いたこともないッスけど。
でもま、ここはアルフヘイム。何が起こったって不思議じゃないッス。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』になれなかった落ちこぼれのバケモノなんて、知ったこっちゃないッスよ。
それよりも! 自分は待ちに待った師匠とのデュエルを! 楽しみたいんス!!」
きなこもち大佐は目をキラキラと輝かせて断言した。
PvPで闘い、相手を完膚なきまでに打ちのめし、自身の優位を実感する。それはブレモンプレイヤーとして当たり前の感覚だ。
だが、それも時と場合による。この状況でそれを優先するなど、愚策以外の何物でもない。
けれど――きなこもち大佐は確信しているのだろう、自分の技量を。親衛隊の強さを。そしてマルグリットの力を。
だからこそブラッドラストによって変異したジョンをさしたる脅威と認識しなかった。
「あのモンスターは、師匠を斃した後で自分たちが軽く狩っといてやるッスよ!
実装直後のモンスターを一番乗りで討伐する! ブレモンの醍醐味ッスからねェ〜!」
そう言うと、きなこもち大佐は素早くスマホをタップして矢継ぎ早にスペルカードを選択した。
戦闘開始直後のマルグリットとフリントの遣り取りでATBゲージを稼いだのは、なゆたや明神たちだけではない。
当然、マル様親衛隊もゲージをチャージしている。
スライムヴァシレウスが激しい金色のオーラを纏い、すべてのステータスが急上昇する。
負けじとなゆたもスペルカードを切る。ポヨリンがその力を限界以上にブーストさせる。
二匹のスライムが再度真正面から激突する。お互いにその力は互角――かと思われたが、ポヨリンが僅かに押されている。
「あっははははッ! どうしたッスかァ〜師匠?
どノーマルのスライムをそこまで鍛え上げたのは、さすが師匠! と言わざるを得ないッスがァ〜!
自分のアウグストゥスとは、絶対的なレア差ってものがあるんスよォ!」
ブレモンでは、捕獲できるすべてのモンスターを極限まで鍛えることができる。
最低レアのモンスターであっても、時間と手間暇をかけて育成すれば最終的な強さは準レイド級に迫るほどにもなる。
ステータスの差はほとんどなくなる――が、『ほとんどなくなる』はイコール『なくなる』ではない。
ごくごく微小ではあるが、やはり同じ極限まで鍛え込むのでは高レアモンスターの方が強いのである。
ノーマルスライムは最低レア。対してスライムヴァシレウスは準レイド級の高レア。
その地力の差が、ここにきて影響している。
ポヨリンvsアウグストゥスでは、ポヨリンの不利は否めない。このままでは負ける。
とすれば、決着は合体戦――G.O.D.スライムを召喚した後になるだろう。
同じG.O.D.スライム同士ならば、ステータスはまったくの互角。後はプレイヤー同士の根競べとなる。
だが――
「おやおやァ〜? どうしたッスかァ〜師匠?
早く『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』を使ったらどうッス?」
「…………」
きなこもち大佐が挑発してくる。
フィールドを水属性にする『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』は、G.O.D.スライム召喚のキーとなるカードだ。
だが、その効果はなゆただけではなくフィールド上にいる全員に作用する。
なゆたが『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』を使えば、それはきなこもち大佐をも利することになる。
きなこもち大佐はわざわざ自分の1ターンを消費してユニットカードを切らずとも場を整えられ、召喚の手間が省ける。
彼女はそれを狙っているのだ。
――早く……ジョンを助けに行かなくちゃいけないのに……!
気ばかりが逸り、なゆたは呻いた。
だが、きなこもち大佐は意地でも退く気はないのだろう。ならば、一刻も早く決着をつけるしかない。
とはいえ――マル様親衛隊の副隊長だ。片手間に相手をしていいプレイヤーではない。
結論、急がば回れ。
なゆたはスマホをぎゅっと握り、肩幅に脚を開いて身構えた。
くくッ、ときなこもち大佐が喉奥から笑みを漏らす。
「……そこまで言うなら見せてあげる。
本当の『スライムマスター』の力ってやつを……!!」
「おッ、やっと本気で来る気になったッスか?
いいッスよォ〜! 本気の師匠をブチ倒してこそ、本当の意味での師匠越えは果たされるッス!
負けた後で、本気じゃなかったとか言われるのはいやッスからねェ〜!」
同種、同属性、同モンスター。
スライム使い最強決定戦の火蓋が、たった今切って落とされた。
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