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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

208崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/08/09(日) 22:39:27
ジョンの姿が、みるみるうちに変質してゆく。
フリントが切断した右腕、肩の切断面から濁流のように鮮血が迸り――それがどす黒い力の奔流に変わってジョンの全身を包む。

>そうだ・・・ロイ。見せてあげよう・・・本当の絶望を

今やブラッドラストは完全にジョンの制御下にあった。
否、ジョンがブラッドラストの支配下にあると表現した方がいいだろうか。
ジョンの表情が喜悦に歪む。その面貌からは、呪いに抗おうとしていたかつての青年の面影はない。
魔力によって強化され、鋼鉄をもバターのように両断するナイフの一撃によって切断された、ジョンの右腕。
そこから、欠損を補う新たな四肢が生えてくる。失われていたものが再生する――

いや、違う。

それは『進化』だった。
喪われた脆弱な部分を凌駕し、より強力な“何か”へと生まれ変わるための。

「……何が……起こっている……?」

ナイフを間断なく構えながら、フリントが呟く。
ジョンの全身を、血霧が覆ってゆく。傷ついている部分だけではない、全身から血が噴き出る。
しかし、それはジョンの衰弱を表すものではない。それどころかもっと異質の、人間ではないナニカへと変貌してゆく証左。
それはまるで、サナギが成虫へと羽化するような――。
むろん、それは地球はおろか異世界アルフヘイムにあっても異常な事態である。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』でない、生粋の軍人であるフリントにはまるで理解が及ばない。

>さっきね・・・カザハに言われたんだ・・・このままじゃ君は殺戮の化け物になるって
>その時はなにかの冗談だと思って聞き流したよ。
>だって僕は人間だ。化け物と呼ばれた事はあっても実際はただの人間・・・だと思ってた

ジョンの身体にへばりついた血液が、別の生き物のように蠢く。その身体を爆発的に変容させてゆく。
彼が常から言っていた『バケモノ』に。
彼が怖れていたはずのものに。

そして――姿を現したのは、全身が強固な鱗によって鎧われた、熊の巨碗を持つ異形。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』、ジョン・アデルの面影を一切失った、一匹のモンスターだった。

「ジョン……貴様」

>カザハがいう事が事実なら・・・おそらくブラッドラストの成れの果ての姿というのは
 殺した相手を取り込んで、取り込んで、力を重視するあまり人間である事を放棄した人間なのだろう
>シェリーを殺したあの日から・・・僕はまるで別人のように自分の体を使いこなせるようになった・・・意味、わかるだろ?

ジョンには、アルフヘイムに来る前からブラッドラストに対する適性があったのだろう。
殺した相手の能力を取り込み己のものとするのが、ブラッドラストの真の能力。
ならば、ジョンは殺戮を繰り返すたびに無限に強くなってゆく。

>さあ・・・もっと戦おうロイ。殺し合いをしよう。人間と化け物の戦いを・・・!

「ふざけるな……!!」

ジョンが咆哮する。フリントはナイフをホルスターに仕舞うと、恐るべき速度でジョンへと肉薄した。
ぶおん、と颶風を撒いて熊の腕が薙ぎ払われる。
巨大な右腕は人間サイズのままの左腕と釣り合っておらず、いかにもバランスが悪そうに見えた。
が、ジョンはそんなものは関係ないとばかりに圧倒的な筋力で獣腕を振り回してくる。
熊の、しかもブラッドラストによって強化された腕の一撃だ。人間など掠っただけでバラバラになるだろう。
しかし、フリントも伊達に軍隊で訓練を積んできた生粋の兵士ではない。
素早くジョンの股下をスライディングで滑り抜け、一瞬で背後に回ると、アサルトライフルで背中に銃弾の雨を浴びせる。
弾丸は全弾命中したが、ジョンの強固な鱗を貫通するには至らない。すべて弾き返されてしまった。

「ち!」

さらにジョンが腕を振るってくる。それを身を低く屈めて避けると、さらにフリントはジョンに近接戦闘を挑む。
大振りな一撃を紙一重で避け、瞬刻を経てすれ違う。
そして――フリントが離脱した後のジョンの全身には、いつの間にか細い鋼のワイヤーが緩く巻きつけられていた。
むろん、今のジョンの膂力ならばワイヤーなど容易に千切ることができるだろう。
けれども、そのワイヤーはジョンの身体を拘束するためのものでも、切断するためのものでもなかった。
ワイヤーには、等間隔で爆弾が繋がれていた。チェーンマインと呼ばれる兵装である。
ジョンがそれを取り払う間もなく、繋ぎ合わされた爆弾が爆発する。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

一発でも炸裂すれば五体微塵になる爆弾が二十ほど。それが一気に爆発し、轟音と火炎がジョンを包み込む。
人間ならば、いや準レイド級程度のモンスターさえ一撃で葬り去る、ブレイブハンター・フリントの奥の手。
だが――

ジョンには、通じない。


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