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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

67宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:44:26 ID:4o4hrOic0
『……さあ起きなさい』

―――誰?

『私は貴女を救いに来たのよ』

救いって、どういうこと?

『このまま貴女が消えて終わるなんてとっても悲しいこと、それじゃ救われないわ
 だから私が貴女を蘇らせる為に、強力してあげる』

……必要ないわ。
私はるう子に抱きしめてもらった……それだけで十分幸せよ。

『フフフ……アーッハハハハハハ!!!遠慮する事なんて無いわ!!
 さあ、私と一緒に楽しみましょう!!この快楽をッこの溢れ出る幸福感をッ!!』

――!?いやっ私の中に入ってこないでぇ!!こんなこと私は望んでっああああ!!
ああっ……染まっていく……私の心が……黒く、塗りつぶされて……いやあああああ!!!!



『フフフフフ……この子はもう、私たちの同志になった。
 これから次の段階への移行を始める』

静かに消える筈だった彼女の魂はドス黒く染め上げられ、精神は歪に歪められた。
それから新たな惨劇が繰り広げられる夜が始まるのはそう遠くなかった。

68宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:45:00 ID:4o4hrOic0
そこは白い部屋だった。

床も壁も窓も天井も全てが白一色。

いつの間にかそんな異常な部屋に連れてこられていた。

周囲には見知らぬ人達が狼狽え、ざわめき、泣き出しそうになっているのもいる。
自分と同じ、知らない内に連れてこられた状況なのだろうか。

「皆さん お静かに」

服も髪も真っ白な少女が姿を現す。

「皆さんには、あるゲームをしてもらうために集まってもらいました
 そのゲームの内容は簡単に言えば『殺し合い』最後の一人になるまで生き残ったら勝ちのゲームよ」

「ま、まさか……『バトル・ロワイアル』をさせるつもりか!!」

浮浪者のような小汚い風貌の男が声を荒げる。
少女の言う殺し合いゲームを知っているようだ。

「知ってるのかおっさん!?」

「うむ。正式には戦闘実験第六十八番プログラムと呼ばれ、日本政府によって選ばれた中学3年の1クラスに武器を与え
 最後の一人になるまで殺し合わせるという忌むべき実験だった……。
 もう二度と起こりえないと思っていた悪夢が、こんな所で目の当たりにするとは……一体何の目的があってこんな事をするッッッ!!?」

「それは命よ……争い、傷つき、苦しみ、悲しみ、絶望したあなた達の魂があれば私は再び生き返る事が出来るのよッ!!」

「ふぅざけるなァ!!こぉのガキがァァァ!!!!
 私ならともかく、DIO様の命を欲するとは許さん!!許さんぞォォォォッ!!!!」

「―――――ッ!!」

白い少女の発言にレオタードのような服装をした男が激怒した。
今にも蹴り殺してきそうな勢いの中、何処からともなく刀剣が飛び出し
激怒した男の足元に突き刺さり、歩みを止めた。

「相変わらずですねヴァニラ・アイス、DIO様の事になると冷静さを失い、怒りで我を忘れる」

刀剣を投擲した人物が空中を滑空するように移動して現れた。
それはレオタードの男ヴァニラ・アイスをよく知る人物。

69宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:45:44 ID:4o4hrOic0
「貴様は……テレンス・ダービーッ!!」

「お久しぶりです。DIO様、ヴァニラ・アイス、再び会える日を楽しみに待っていました」

「なぜ貴様がここにいる!?」

「私は、このバトルロワイアルの監視役兼、繭様の世話係としての役割を与えられたのです。
 バトルロワイアルを運営する主催者様達の力を目の当たりにした私は心の底から忠誠を誓ったのです」

「つまり……DIO様を裏切ったのだなァ!!」

「現在、この場所ではあなた達の特殊能力は封じてあります。ヴァニラ・アイス、あなたのスタンドもね
 ……つまりあなたでは私ですら倒すのは不可能です」

アイスの振り下ろされた拳をテレンスは片手で難なく受け止めた。
吸血鬼化して人間を超えた力を持つアイスの拳を涼しげな顔で。

「ば、馬鹿な!!貴様如きに……」

「言い忘れていました。我が主様から貰いうけた特注の服のおかげで私の力は格段に強化されているのです
 元々、小道具を作るのは得意な方でしたが、おかげでこのような芸当も出来る様になりました」

テレンスの右手から一瞬にして刀剣が生成された。
先ほどアイスの足元に投げたのも、同様に生み出した武器であった。

「もうよい、下がれアイスよ」

「しかしDIO様!!」

「テレンスのその力、この特殊な空間を作り出す能力。
 私の元を離れて、新たな主として従いたくなる程の存在が彼の背後にいるのだろう。
 ここは大人しく従ってみようではないか」

「分かりました……DIO様」

「エフッ エフッ エフッ ククク ハハハハハハハッッッ!!!!
 どいつもこいつも相手が怖くて僕逆らえませんってかぁ?
 だったら俺がぶっ潰させてもらうぜぇッッッ!!」

豪快に笑う赤毛の男が闘気を発しながらテレンスに向かって駆け出す。

70宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:46:24 ID:4o4hrOic0
パンッ

「ッッッ!!!!」

赤毛の男の頭上に大網が投げ降ろされ、俊敏性を封じられる。
その直後、銃声が大量に鳴り響き、男の身体に撃ち込まれる。

「ぬおおおおおおおお!!!!ぐっ……」

「無駄ですよ。一発で巨象を眠らせる麻酔弾を大量に撃ち込まれて耐えられる人間はいません
 ハンターの皆さん。ご苦労様でした」

「では説明を続けさせてもらいます
 これからあなた達を、ある島に送るのでそこで殺し合いをしてもらいます。
 島と言っても、そこは繭様の生み出した空間ですので、島の外に逃げても無意味になります。
 またどんな道具を使い、どんな殺し方でも自由ですが
 指定された進入禁止エリアに1分以上入ったり、無理に首輪を外そうとしないでください。
 おっと、一部の参加者には首以外に付けられてますが同様に外そうとしないでください。
 首輪が爆発してあなた方の命が消える事になります」

「進入禁止エリアに付いてですが0時、6時、12時、18時と1日4回、6時間毎に行われる放送で指示させていただきます。
 うっかり忘れて命を落とす事の無いようメモを取ることをお勧めしますよ。
 それと放送では死んでいった参加者の報告も行いますのでお忘れないように」

「今説明させていただいたルールはこれから島に飛ばす際に渡す支給品の中のルールブックに書かれていますので
 後で確認するといいでしょう。ゲームをするのに説明書を読むのが大事ですからね
 では質問のある方は…………おりませんようなのでバトルロワイアルを開――」

テレンスが言い終えかけた時だった。
金髪の少女が会場を駆け抜け、テレンスの眼前にまで近づき
首を切り落すべく斬りかかった。

「フフフッ……勇ましいですねぇ。だがそれは愚かな選択です。セイバー」

ピッ……ピッ……ピッ……

「夏海!!く、首輪が……」

「あれ?姉ちゃん、なんで私の首輪が?」

夏海と呼ばれた少女の首輪が点滅していた。
点滅速度は徐々に速くなっていく。

71宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:47:02 ID:4o4hrOic0
「下郎がぁ!!いますぐそれを止めろ!!」

「フッフッフ……セイバー、貴女のせいですよ。
 貴女が余計な事をしたせいでここで一人死ぬんです」

「貴様ァ!!」

「もう一度抵抗しますか?いいでしょう。その時は新たに一人、誰かが犠牲となるでしょうが」

「くっ……」

「そうです。ここは素直に従うのが聡明な判断です」

セイバーはテレンスを睨み付けながら剣を下げた。
相手への憎しみと何もできない己の無念さを合わせたような表情で
テレンスはセイバーのその姿を見て、笑みを隠しきれないでいた。

ピッピッピッピッ

「やだ……いやだよ、助けてぇお姉ちゃん……」

「夏海!夏海ぃぃ!!」

ピピピピ

「死にたくないよぉ!!お姉ちゃん!お姉」

パァンッ!

「な……つみ……?」

夏海の首は小毬の目の前で吹き飛び、頭部を失った夏海の身体から噴水のように溢れ出す鮮血が小毬を赤く染め上げた。

「やあああああああああ!!!!夏海ぃぃぃぃ!!!!いやあああああああああ!!!!」

「大切な家族が目の前で無残に殺される。ああ、とても悲しい事ですね
 ですが心配しないでください。まだ彼女は死んではいませんよ」

72宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:47:55 ID:4o4hrOic0
テレンスは繭に頼み、自分が利用している棚を出現させると
棚の中から人形を取り出し、小毬に向けてみせた。
人形は夏海そっくりの姿をしている。

『……お姉………ちゃん……』

「夏海……?」

「そうです。貴女の妹さんの魂は人形の中で生きています。
 良い出来でしょう?制服も髪型も本物そっくりに似せて作りました」

『動けないよ……苦しいよ……お姉ちゃぁ……うわああ!!』

「夏海ぃ!!」

「助けたいですか?ならば優勝を目指すことです。優勝すれば再び会える事が出来ますから
 もちろん、皆さんの分の人形も用意しています。
 ですから安心して殺し合い、殺され合ってください」

「では始めましょうか『バトルロワイアル』を!!!!」

「絶対に許さんぞ!!お前のような下種は必ず私が――」

参加者達の姿が次々と消えていき、白い部屋にはテレンスと繭が残った。

「お疲れ様です。繭様」

「悪いわね。説明を殆ど任せてしまって」

「繭様は多数の人達と接した経験が無いのですから仕方のないことです。
 むしろ、初対面の人間にこれだけ見つめられて冷静でいられた繭様は十分立派な方です」

「あ、ありがとう……ねえテレンス、これから一緒にF-MEGAで遊ばない?」

「構いませんよ。それと繭様、私にもWIXOSSのやり方を教えてくれませんか?」

「いいわよ♪ゲームマスターの私がしっかり教えてあげる♪」

「ありがとうございます繭様」

73宴の始まり  ◆IXB73G6vLY:2015/07/22(水) 11:50:23 ID:4o4hrOic0
テレンス・ダービーはジョースター家との戦いに敗れリタイアした。

その後、ジョースター家によりDIO、ヴァニラ・アイス両名の死亡を知り
主を失った配下達は、ある者はジョースター家への復讐を誓い
ある者は以前の生活へと戻り、散り散りになって去って行った。

テレンスは復讐を選ばなかった。
それほどDIOへの忠誠心が厚くなかったテレンスはわざわざ危険な橋を渡る気にはなれなかった。
スタンド能力があれば楽に生きていくことなど造作もない。
しばらくはスタンド能力を悪用して気ままに暮らしていた。

ある日、テレンスは彼らと出会った。
彼らの持つ超常的な技術を知ったテレンスは彼らこそ従うべき相手だと確信した。
極制服という特殊な服装を手に入れたテレンスは身体能力及びスタンド能力が格段に強化されていくのを感じた。
テレンスは思った。自身ですらこれだけの力を得られるなら彼らの力は世界……いや宇宙規模まで支配出来るのではないかと。

彼らがバトルロワイアルを企画するのを知った頃、同志として繭が加わった。
繭は肉体を持たない亡霊のような特殊な力を持っていた。
それは繭の想像から世界を構築する力を持ち、とても凄まじく
外部によって邪魔されることのない空間を生み出せるほどであった。

繭は初めは、テレンスを警戒して近づくだけでも拒否反応を示していた。
テレンスに敵意が無い事をしると少しずつ打ち解けていき
そこで趣味であるゲームを見せていくと物凄く食い付いた。
繭はゲームが大好きなようだ。

テレンスは繭と一緒にゲームで遊ぶ事で充分に信頼を得る事が出来た。
それでもあまりスキンシップを図ると嫌がられるので少し距離を置いた接し方が必要だった。
逆に距離を置きすぎると、寂しいのかゲームの催促をされて連れていかれる。
まるで猫みたいな少女だ。


(それが現状の私と繭との関係だ。私としては非常に楽しいじかんだ。
 なにせ彼女はとても脆くて危うい存在だ。彼女の生を望む願いの強さは
 この世界に呼ばれた参加者と比べても一番だろう)

(もし彼女の願いが打ち砕かれ、絶望に打ちひしがれた時
 彼女はどんな表情を見せてくれるでしょうか……。
 私は彼女や参加者達の苦しむ姿を拝めるだけで彼らに従う価値が有ったと心の底から思えます)

【みせしめ】

【越谷 夏海】


【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【テレンス・T・ダービー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
【???@???】

会場は繭によって想像された箱庭の世界です。
死んだ参加者の魂はテレンスの能力によって人形に封じ込められる為に成仏が出来ません。

74名無しさん:2015/07/22(水) 11:51:00 ID:4o4hrOic0
投下終了です

75名無しさん:2015/07/22(水) 11:54:29 ID:ldGU9l8s0
投下乙です 
ただ夏海は小鞠のことを「お姉ちゃん」でなく
「姉ちゃん」呼びだったハズなのでそこだけ修正かな

76名無しさん:2015/07/22(水) 14:37:57 ID:oqg04NfU0
投下乙です
コミュ力低すぎて説明を他人に任せるアレが可愛すぎる…アレは本当に可愛いなあ
魂繋がりでダービー弟、バトロワに詳しい本部とか色んな作品出てて賑やかでわくわくするOPでした

77名無しさん:2015/07/22(水) 15:15:25 ID:BangyYyI0
乙です
読みやすくキャラ同士のやり取りがらしくて面白かったです
ヴァニラの参戦時期や夏海以外の死んだ参加者の魂の行方は、あえてぼかした方が展開に幅ができていいような気がします

78 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:17:24 ID:0abp7gyY0
OP案投下します

79鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:20:31 ID:0abp7gyY0
意識が覚醒した間桐雁夜の目に入った光景は一面に広がる白。
ホワイトガーデンとでも言うべき白い部屋であった。
辺りを見渡すと老若男女問わず大勢の人々。彼ら、彼女らの首には金属製の首輪がはめられていた。

「首輪があるのは……俺もか」

そこでようやく雁夜は自らの首にも首輪がつけられていることに気付く。

「一体、どうなってるんだ。聖杯戦争の最中だってのに」

聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を臓硯に渡すことで桜は解放される。
そのために雁夜はこれまで辛い魔術の修行に耐えてきた。
たとえ聖杯戦争の勝者となったとしても、最終的に雁夜は命を落とす。
即席での魔術会得は体に膨大な負担をかけるため、雁夜の余命は長くなかった。
それでも、それでも禅城葵の娘である桜を解放するためならばと、雁夜は聖杯戦争への参加を決意したのだ。

「誰の仕業だ。臓硯か? 俺に嫌がらせをするためにこんな真似を」
「お集まりの皆さん。ごきげんよう」

現れた人物を目にした雁夜は犯人が臓硯ではないことを理解せざるを得なかった。
しかし、その人物とは雁夜にとって臓硯と同じかそれ以上に憎むべき対象である。

「お前の、お前の仕業か……遠坂、時臣ッッッ!!!」

赤い洋服を身にまとい、手に握っているのは先端に宝石のついたステッキ。その優雅な仕草はまさに生粋の貴族そのもの。
雁夜に殺意を向けられてなお、それを平然と受け流す男の名は遠坂時臣である。

「喚くな雁夜、その優雅さに欠ける仕草は見るに堪えない。同じ御三家としてもう少し品格のある振る舞いをとってくれ」
「黙れ、黙れ、黙れッ!! 貴様かッ! 時臣! 俺を拉致したのは」
「だから喚くなと、はぁ。もういい。君のような落伍者に品格のある振る舞いを期待したのが間違いだった。
 それで拉致したのが私か、だったか。その通りだよ雁夜」
「何が目的だ! 時臣、一体何の目的があってこんな」
「話を遮らないでくれ。貴様のような落伍者に問われずともちゃんと説明する。
 君たちをここに集めたのは目的は一つ、それは殺し合いをしてもらうためだ」
「な、何だとッ!!」

宝石付きステッキを右、左、右、左と交互に持ち替えながら優雅な仕草で時臣は語る。

「殺し合いと言っても聖杯戦争ではない。バトル・ロワイアル。それがこの殺し合いの正式名称だ。
 最後の一人になるまで殺し合い、優勝者はどのような願いでも叶えることができる」

80鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:21:41 ID:0abp7gyY0
「つまり、この大人数で聖杯戦争をやるってことか」
「バトル・ロワイアルは聖杯戦争とは異なりサーヴァントは使用しない。あくまでも個人の戦いだと思ってくれていい」
「サーヴァントが、なしッ、だと! それじゃあ、俺は一体なんのために魔術を」
「無駄ではないさ、雁夜。ここに集まったものたちの大半は魔術師ですらない無力な一般人だ。女、子供であればお前の付け焼刃の魔術でも容易に殺害することができる」
「ふ、ふざけるなよ、ふざけるなよ、時臣ッ!!」

そして今度こそ、雁夜の怒りは爆発した。
成程、確かに会場を見渡してみれば時臣の言う通り、女子供がいる。
桜と変わらぬ年頃の少女が何人もいた。

「それを殺せというのか。外道が……やはり貴様は外道だ、時臣ッ!!」
「落伍者の戯言は聞くに堪えないな」
「こ、このッ! それで貴様は高見の見物かッ! 安全な場所から見てるだけか」
「私はバトル・ロワイアルの参加者ではないのでね。今回はあくまでも監督役のような立ち位置だ」
「ふざけるな、俺は、俺は聖杯戦争で貴様を殺すと決めている」
「君の戯言は聞き飽きたよ」

「それはこちらの台詞だな」

ここで第三者の声が上がった。

「ほう。貴方はロード・エルメロイですか」
「遠坂時臣だったか。よくも私にこのような下賤な遊技を強要してくれたな。
 魔術師同士の競い合いでもない、このような野蛮な行為にこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが参加すると思うかッ!」

81鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:22:46 ID:0abp7gyY0
「ふむ、あなたを見せしめにするのは勿体ない。時計塔のロードはこの遠坂時臣が自ら倒すことにしよう」
「はっ! 私と決闘しようというのかね、遠坂。島国の魔術風情が、このロード。エルメロイを倒す?」
「その通り、第三者の介入がなく、不正の入り込む余地のない一対一の決闘です。どちらが優れた魔術師かここで決めるとしましょう」
「私も舐められたものだな。身の程を弁えないとどうなるか、直々に教えてあげよう。
 ――Fervor,mei,sanguis(沸き立て、我が血潮)」

自慢の礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動すべく、ケイネスは詠唱を行う。

「な、何故だ、何故私の月霊髄液が起動しない」
「無駄ですよ。その首輪がある限り貴方はこの空間で魔術を使うことができない」
「な、何だと、そんな馬鹿なッ!」

時計塔のロードであるケイネスにとって、それは決してあってはならないことだった。
このような首輪で自身の魔術が阻害されるなど、ロードとしてのプライドが許さない。
しかし、現実は残酷なもので、首輪がある限り白い部屋の中では魔術を始めとした一切の異能の力は封じられ、人間離れした身体能力なども制限されているのである。

「先手はそちらに譲りましたが、今度はこちらが攻めさせてもらうことにしましょう。
――Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

宝石付きステッキから噴き出した炎はあらゆるものを燃やし尽くす魔の焔。
魔術による防御も行えず炎に包まれたケイネスは成すすべもなく火達磨になった。
時計塔のエリート魔術師の断末魔が白い部屋に響き渡る。

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero 死亡】

82鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:24:03 ID:0abp7gyY0
「き、貴様ァ! よくも我が主を」

ケイネスを主と呼ぶ、この男は聖杯戦争における槍の英霊、ランサーのサーヴァントである。
魔術師ではサーヴァントには勝てない。それは魔術師ならば誰もが知っている常識だ。
だが時臣は狼狽するでもなく、優雅な仕草でステッキを右、左、右、左、と交互に持ち替える。

「何も怒ることはあるまい、ランサー。これから行われるのが聖杯戦争でないことは説明したはずだ。
 その男もまた君の願いの邪魔になる存在でしかなかった。それが減ったのだから感謝するべきだろう」
「黙れ、外道が。俺に願いなどなかった。ただ主のために忠義を尽くせればそれでよかった」
「理解に苦しむな。まあいい。とりあえず、動かないでおいてもらおうか」
「なッ!」

パチン、と時臣が指を鳴らすとランサーが硬直した。
どれだけ力を籠めようとも一切動けず、自慢の槍で眼前にいる主の敵を貫くこともできない。

「さて、あとは首輪の効力を見せるための見せしめだが……ふむ、不要となったホムンクルスにしようか」

もう一度、時臣が指を鳴らすとまるで人形のように白い肌をした美女の首輪が爆ぜた。

【アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero 死亡】

83鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:25:05 ID:0abp7gyY0
「ア、アイリスフィールッ!!!」

甲冑を纏った騎士が声をあげる。

「もう聖杯戦争をやらない以上、その人形は不要だからね。どうせ短命なんだ。それを見せしめに選んだのは、私から君たちへの善意のようなものだよ」

「き、貴様、よくもアイリスフィールを」
「セイバーのサーヴァントか。君もランサーと同じような反応をする。
 まったく騎士という人種の言動は理解に苦しむな」

指を鳴らしてセイバーの動きを封じた時臣は説明を再開する。

「禁止エリアに入ったり、我々に刃向うような真似をすれば、そこの人形と同じ末路をたどることになる。
そして今までの会話を聞けば分かったかもしれないが、この会場には人間離れした力を持った者たちが複数いる。
一般人への配慮として支給品を用意した。強い支給品を引き当てれば魔術師でなかろうとも、そこの落伍者ぐらいは容易に倒せるかもしれないな」

雁夜をステッキで指しながら小馬鹿にした口調で時臣が言う。

「食料と水、それから会場の地図も含めて全員に配布しよう。それでは君たちの健闘を期待している」

左、右、左、と持ち替え、再度右手にステッキ握った時臣は、その先端を優雅な仕草で床につける。
同時に白い部屋に集まっていた参加者たちは次々と会場となる島へと移動させられ始めた。

「遠坂時臣ッ! 俺は絶対に貴様を殺すッ!!」

強制移動させられる寸前、鬼の形相で時臣を睨み付けなら雁夜はそう宣言した。

84鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:26:18 ID:0abp7gyY0
「説明は終わったのね」

参加者が全員会場へと移動させられるのを見計らってから時臣の前に一人の女性が現れた。
女性の首に金属製の首輪はなく、つまり彼女も時臣と同様に主催者側の人間であることが分かる。

「そちらの準備もできたようだね、入巣清香」

この若干ロリっぽい三十路の女性こそ大企業アイリス・グローバルの社長、入巣清香であった。
年齢にそぐわぬ美人である女だが、正直なところ時臣は清香を快く思っていない。
清香は自らの娘である入巣蒔菜をバトル・ロワイアルに参加させていた。
同じく娘を持つ親として、それは許容し難い行為である。
時臣は確かに娘の桜を養子に出したが、それは桜のためを思ってのこと。
間桐の娘にすることが、桜にとっては最善だったからに他ならない。
一方、清香は娘の蒔菜に対しての愛情は皆無であり、今回の参加者選抜で娘が選ばれた時も一切反対しなかった。
その様子を間近で見ていた時臣は清香に対して不快感を覚えると共に、この女が不要になった時は自らの手で罰しようと心に決めていた。

「一体何人があの出まかせを信じるかしら」
「雁夜なら案外、真に受けているかもしれないな」

参加者たちにはああ言ったが時臣には始めから勝者の願望を叶える気などなかった。
優勝者が決定してこの部屋に招かれた瞬間、優勝者の首輪を爆破。願いを叶えるエネルギーを横取りする算段である。
弟子である言峰綺礼が参加者に入ってしまっていることは残念だが、代行者である以上、死は覚悟の上だろうと割り切る。
聖杯戦争と違い自分がリスクを負うことなく根源に至る手段を得られる。
つくづく彼女の協力者になって良かったと時臣は思う。
彼女というのは入巣清香でのことではなく――

「揃っているわね、二人共。計画は順調かしら?」
「無論だ、繭君」

この繭というカリフラワー頭の少女こそ、バトル・ロワイアルの発案者であり、時臣が最も信頼している協力者でもある。

85鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:27:08 ID:0abp7gyY0
魔術師でもない入巣清香とは異なり、繭はこの固有結界にも近い白い部屋を展開できる程の実力者だ。
対等な協力者としての資格は十分に満たされている存在なのである。

「何の問題なくバトル・ロワイアルは進行しているよ。
 彼らは自分たちが道化に過ぎないことも知らずに殺しあうだろう」
「そう。それならいいわ」
「私は部屋でワインでも飲みながら観戦させてもらうとするよ。繭君も後で私の部屋に来るといい。魔術における芸術性について語り合おうではないか」

そう言って時臣は繭に背を向けて自らの個室へと向かう。
繭の口元がにんまりと歪んでいること、その手には一枚のWIXOSSのカードが握られていることに最後まで彼は気付かなかった

繭の手に握られているのは毒牙属性のカード『アイン=ダガ』
場からトラッシュに置くことで相手シグニのパワーをマイナスする黒のカードである。
カードをダガーナイフへと変化させた繭は、無防備に背を向けて部屋へと戻る時臣の心臓にナイフを突き立てた。

「え……?」

おそらく時臣は最後まで何が起こったか理解できなかったであろう。
協力者に裏切られた哀れな魔術師は、瞬く間に動かない肉の塊へと変貌を遂げた。

【遠坂時臣@Fate/Zero 死亡】

86鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:27:48 ID:0abp7gyY0
「殺してよかったの?」
「ええ問題ないわ。彼の役目はここでおしまい。あとは貴方と『あのお方』がいれば十分だもの」

『あのお方』とは時臣には知らせていなかった最後の協力者であり、バトル・ロワイアルの真の発案者、そして繭が最も信頼している人物である。

「……そう」

人が死ぬのを直接見るのは慣れていない清香が時臣の死体から目を逸らす。
そんな清香に配慮したのか、単なる気まぐれか、繭は時臣の死体を消し去った。

「ふふふ、それじゃあ、始めましょう。楽しい、楽しい、ゲームの始まり」

セレクターバトルすら超越した死のゲームの開幕を繭は高らかに宣言した。


【ゲームスタート】


【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【入巣清香@グリザイアの果実シリーズ】

【黒幕】

【???@???】

87 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/22(水) 23:28:44 ID:0abp7gyY0
投下終了です

88名無しさん:2015/07/22(水) 23:47:44 ID:BangyYyI0
乙です
何人かのキャラに上手く因縁を持たせていい感じですね
そしてあっさり殺される時臣はよい原作再現でした

89 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:11:56 ID:NYcE8IAs0
「OP ころしあいが始まった」の修正版を投下します

90 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:12:50 ID:NYcE8IAs0

*     *     *

世の中には、大きな野望や変わった趣味を持った生き物がいる。
彼らは可能な限り、その野望、趣味に向けて行動しようとする。
今回のそれもまた、そういった『行動』における『犠牲』であった。

――彼ら、彼女たちは、その薄暗い部屋で目を覚ました。
何だここは、と口々にぼやく者たち、
すぐ傍でまだ寝ている身内を起こす者たち。
彼女はどちらかと言うと後者だった。
「ちょっと、夏海早く起きてってば!」
彼女――私立旭丘分校中学2年、越谷小鞠。目が覚めたら
知らない場所で、傍らで妹の夏海が寝ていたのだ。
何が起こったか分からず不安である以上
とにかく知っている人を起こすしかなかった。
「うーん…姉ちゃん今何時だと思ってるの・・・
 まだ暗い・・・って何じゃここはぁ!?」
眠い目を擦った夏海も、今いる場所の異常さに気づいて目が冴えた。
分からないわよ、と言いながら周囲を見回す。
何人もの人がいる。50人、いやそれ以上か。
少なくとも住んでいた田舎ではまず見かけない光景である。
そんなことを考えていると、やけに響く足音が部屋に響いた。
やがてスポットライトが点灯し、2人の影が壇上に現れた。

91 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:13:23 ID:NYcE8IAs0
「どうも、はじめましての人が多いようなので一応
 名乗っておきます。佐々木異三郎という者です。
 あと、こちらは信女。以後お見知りおきを」
その声に動揺する声がちらほら見かけられる。
恐らく男たちの知り合いなのだろうか。
そして、その男からとんでもない言葉が告げられた。
「皆さんには、これから殺し合いをしてもらうことになっています」
殺し合い、と聞いて冷や汗が走る。
「おっと、殺気立ててる人も居るようですが、
 とりあえず皆さんの首についてる「それ」を御覧なさい。
 爆弾です。そして、私たちはいつでもそれを
 起爆出来る状態にある、とだけ言っておきましょう」
言われて、ようやく自分の首に何かが巻かれていることに
気づいた。これが、爆発する・・・。
「強引に外そうとしても爆発するのでご注意を。さて、
 それでは殺し合いのルール説明に移りましょう」
信女、と一言異三郎が促すと、傍らにいた女、今井信女が話を繋いだ。

「これから行われるのは『バトルロワイアル』という
 殺人ゲームよ。とにかく殺し合うことね、最後の一人になるまで。
 参加者は71名。ここでは今までの白も黒も忘れた方がいい。
生き残れるのはたった1人だから。さて、細かい説明に移るわ」
そう言うと突如異三郎たちのいる壇上の
モニターの電源が入り、何かが映し出された。

92 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:14:09 ID:NYcE8IAs0
「まず持ち物はあなたたちに後で支給するデイパックが
一つ。その中には全員共通で殺し合いの場となる
エリアの地図、参加者たちの名簿、筆記具、
応急処置用具、腕時計、乾パンと水。あと、
全員ランダムで配布される武器や道具の支給品ね」

「さっきも言ったけれど、このゲームは最後の1人に
 なるまで終わらない。ゲームの途中経過は、
6時間おきの放送で話すわ。そしてここからが
 最も重要。モニターの地図を御覧なさい」
見ると、地図は縦横の線で区分けされている。

「区分けされたこの地図は、禁止エリアをはっきりさせる
役目も果たしているわ。6時間おきの放送では、そこまでの
死者と一緒に次に禁止エリアになる場所を3つずつ伝える」

「伝えられたエリアは、多少の時間を置いて二度と入れなくなるわ。
 これは人数が減ることで他者との遭遇率が下がることへの対策。
もし入ったら最後、首輪がボンよ。いわばその首輪はあなたたちを
縛る手錠・・・枷ね。ついでに、地図には自分の位置だけ知らせる
特殊なマーキングが出るわ、その首輪から出ている信号でね」

「このルール説明が終わり次第、あなたたちを地図上の
 どこかにランダムで飛ばします。その際に一緒に
 デイパックも配らせてもらいます。では異三郎」
「・・・っと。失礼、メールに夢中になっていたもので」
手元の携帯電話でどこかと連絡を取っていた異三郎は、
信女の一言で最後の説明に入った。

「では、生き残った最後の1人に与える『権利』について
お話しましょう。まず生き残れば、望むならこの殺し合いの会場から
あなたたちが元いた世界に戻してあげます。もう一つ、何か一つだけ
願いを叶えて差し上げましょう。ただし、内容に関しては要相談、
といった形で。これで大雑把にルール説明を終わりますよ」
質問は何かありますか、と異三郎が言うか早いか、
小鞠の横から1人の影が壇上へ向かって行った。

93 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:14:49 ID:NYcE8IAs0
「あんたら何言ってるんだ!? 殺し合いだなんて、
ウチの身内だって居るんだぞ!?」
「ちょっと夏海、やめなさい!」
壇上に駆け上がった夏海は、小鞠の制止を無視して
異三郎たちに食って掛かる。だが異三郎たちは
意にも介さず、先ほどの台詞を繰り返す。
「言った筈よ、今までの白も黒も忘れなさいと。
 生き残れるのは1人なんだから、
 精々今生の別れを告げておくことね」
ペッ、と夏海が信女の顔面に向けて唾を吐いた。
「やなこった! こんなことやってらんないね。
 早く姉ちゃんたちと一緒に村に帰してくんないかな」
顔を拭きながら、信女は腰の刀を鞘から抜こうとする。
「およしなさい信女。ちょうどいいものがあるじゃありませんか」
異三郎が手元の携帯電話で何かのボタンを押す。

――ピッ。何かが作動する音。
――ボンッ。何かが破裂する音。
――ブシャッ。何かが飛び散る音。
――ドサッ。何かが倒れる音。

え・・・? 小鞠には、何が起きたのかさっぱり分からなかった。
いや、その場に居た異三郎たち以外、誰もこの状況を理解
できていないだろう。越谷夏海の首が、上からなくなって――

「これで皆さんもこの首輪がハッタリではないと
ご理解頂けたでしょう。そして、私たちに逆らうとどうなるかも。
では、そろそろバトルロワイアル開幕です。あ、そうそう。
中には異形の能力を手にしている人たちも居ますが、そういう人は
多少なりと能力に制限を掛けさせてもらいましたので悪しからず」

異三郎が携帯電話でまた何かを操作すると、部屋中に
催眠ガスが充満する。再び眠ってしまった参加者たちは、
これからそれぞれ会場のどこかへワープさせられるのだ。
「さて、我々も行きましょうか」
2人はガスマスクを着け、その場を後にする。
異三郎はメールで誰かと連絡を取りながら。信女は黙々と。

94 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:15:23 ID:NYcE8IAs0
後には誰も居なくなっていた。

こうして、アニメキャラ・バトルロワイアル4thが始まったのである。

*     *     *

From さぶちゃん
Sub  ルール説明完了
用件は済んだお C= (-。- ) フゥー
これからそっちに戻るね ≡≡≡ヘ(*--)ノ



主催
【佐々木異三郎@銀魂】
【今井信女@銀魂】
黒幕
【???@???】

【越谷夏海@のんのんびより 死亡】
【残り70人】

【GAME START】

[備考]
・会場の各設備のライフラインは全て通っている。
・能力者たちは能力に制限アリ(書き手さんたちに任せますor要議論)
・禁止エリアは6時間の放送ごとに3つ

95 ◆DGGi/wycYo:2015/07/23(木) 00:16:06 ID:NYcE8IAs0
修正版の投下を終了します

96 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:48:42 ID:0c4AF2Fg0
誤字、脱字あったので修正版を投下します

97鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:50:54 ID:0c4AF2Fg0
意識が覚醒した間桐雁夜の目に入った光景は一面に広がる白。
ホワイトガーデンとでも言うべき白い部屋であった。
辺りを見渡すと老若男女問わず大勢の人々。彼ら、彼女らの首には金属製の首輪がはめられていた。

「首輪があるのは……俺もか」

そこでようやく雁夜は自らの首にも首輪がつけられていることに気付く。

「一体、どうなってるんだ。聖杯戦争の最中だってのに」

聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を臓硯に渡すことで桜は解放される。
そのために雁夜はこれまで辛い魔術の修行に耐えてきた。
たとえ聖杯戦争の勝者となったとしても、最終的に雁夜は命を落とす。
即席での魔術会得は体に膨大な負担をかけるため、雁夜の余命は長くなかった。
それでも、それでも禅城葵の娘である桜を解放するためならばと、雁夜は聖杯戦争への参加を決意したのだ。

「誰の仕業だ。臓硯か? 俺に嫌がらせをするためにこんな真似を」
「お集まりの皆さん。ごきげんよう」

現れた人物を目にした雁夜は犯人が臓硯ではないことを理解せざるを得なかった。
しかし、その人物とは雁夜にとって臓硯と同じかそれ以上に憎むべき対象である。

「お前の、お前の仕業か……遠坂、時臣ッッッ!!!」

赤い洋服を身にまとい、手に握っているのは先端に宝石のついたステッキ。その優雅な仕草はまさに生粋の貴族そのもの。
雁夜に殺意を向けられてなお、それを平然と受け流す男の名は遠坂時臣である。

「喚くな雁夜、その優雅さに欠ける仕草は見るに堪えない。同じ御三家としてもう少し品格のある振る舞いをとってくれ」
「黙れ、黙れ、黙れッ!! 貴様かッ! 時臣! 俺を拉致したのは」
「だから喚くなと、はぁ。もういい。君のような落伍者に品格のある振る舞いを期待したのが間違いだった。
 それで拉致したのが私か、だったか。その通りだよ雁夜」
「何が目的だ! 時臣、一体何の目的があってこんな」
「話を遮らないでくれ。貴様のような落伍者に問われずともちゃんと説明する。
君たちをここに集めたのは目的は一つ、それは殺し合いをしてもらうためだ」
「な、何だとッ!!」

宝石付きステッキを右、左、右、左と交互に持ち替えながら優雅な仕草で時臣は語る。

「殺し合いと言っても聖杯戦争ではない。バトル・ロワイアル。それがこの殺し合いの正式名称だ。
 最後の一人になるまで殺し合い、優勝者はどのような願いでも叶えることができる」

98鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:51:54 ID:0c4AF2Fg0
「つまり、この大人数で聖杯戦争をやるってことか」
「バトル・ロワイアルは聖杯戦争とは異なりサーヴァントは使用しない。あくまでも個人の戦いだと思ってくれていい」
「サーヴァントが、なしッ、だと! それじゃあ、俺は一体なんのために魔術を」
「無駄ではないさ、雁夜。ここに集まったものたちの大半は魔術師ですらない無力な一般人だ。女、子供であればお前の付け焼刃の魔術でも容易に殺害することができる」
「ふ、ふざけるなよ、ふざけるなよ、時臣ッ!!」

そして今度こそ、雁夜の怒りは爆発した。
成程、確かに会場を見渡してみれば時臣の言う通り、女子供がいる。
桜と変わらぬ年頃の少女が何人もいた。

「それを殺せというのか。外道が……やはり貴様は外道だ、時臣ッ!!」
「落伍者の戯言は聞くに堪えないな」
「こ、このッ! それで貴様は高見の見物かッ! 安全な場所から見てるだけか」
「私はバトル・ロワイアルの参加者ではないのでね。今回はあくまでも監督役のような立ち位置だ」
「ふざけるな、俺は、俺は聖杯戦争で貴様を殺すと決めている」
「君の戯言は聞き飽きたよ」

「それはこちらの台詞だな」

ここで第三者の声が上がった。

「ほう。貴方はロード・エルメロイですか」
「遠坂時臣だったか。よくも私にこのような下賤な遊技を強要してくれたな。
 魔術師同士の競い合いでもない、このような野蛮な行為にこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが参加すると思うかッ!」

99鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:53:02 ID:0c4AF2Fg0
「ふむ、あなたを見せしめにするのは勿体ない。時計塔のロードはこの遠坂時臣が自ら倒すことにしよう」
「はっ! 私と決闘しようというのかね、遠坂。島国の魔術師風情が、このロード・エルメロイを倒す?」
「その通り、第三者の介入がなく、不正の入り込む余地のない一対一の決闘です。どちらが優れた魔術師かここで決めるとしましょう」
「私も舐められたものだな。身の程を弁えないとどうなるか、直々に教えてあげよう。
 ――Fervor,mei,sanguis(沸き立て、我が血潮)」

自慢の礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動すべく、ケイネスは詠唱を行う。

「な、何故だ、何故私の月霊髄液が起動しない」
「無駄ですよ。その首輪がある限り貴方はこの空間で魔術を使うことができない」
「な、何だと、そんな馬鹿なッ!」

時計塔のロードであるケイネスにとって、それは決してあってはならないことだった。
このような首輪で自身の魔術が阻害されるなど、ロードとしてのプライドが許さない。
しかし、現実は残酷なもので、首輪がある限り白い部屋の中では魔術を始めとした一切の異能の力は封じられ、人間離れした身体能力なども制限されているのである。

「先手はそちらに譲りましたが、今度はこちらが攻めさせてもらうことにしましょう。
――Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」

宝石付きステッキから噴き出した炎はあらゆるものを燃やし尽くす魔の焔。
魔術による防御も行えず炎に包まれたケイネスは成すすべもなく火達磨になった。
時計塔のエリート魔術師の断末魔が白い部屋に響き渡る。

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero 死亡】

100鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:53:57 ID:0c4AF2Fg0
「貴様ァ! よくも我が主を」

ケイネスを主と呼ぶ、この男は聖杯戦争における槍の英霊ランサーのサーヴァントである。
魔術師ではサーヴァントには勝てない。それは魔術師ならば誰もが知っている常識だ。
だが時臣は狼狽するでもなく、優雅な仕草でステッキを右、左、右、左、と交互に持ち替える。

「何も怒ることはあるまい、ランサー。これから行われるのが聖杯戦争でないことは説明したはずだ。
 その男もまた君の願いの邪魔になる存在でしかなかった。それが減ったのだから感謝するべきだろう」
「黙れ、外道が。俺に願いなどなかった。ただ主のために忠義を尽くせればそれでよかった」
「理解に苦しむな。まあいい。とりあえず、動かないでおいてもらおうか」
「なッ!」

パチン、と時臣が指を鳴らすとランサーが硬直した。
どれだけ力を籠めようとも一切動けず、自慢の槍で眼前にいる主の敵を貫くこともできない。

「さて、あとは首輪の効力を見せるための見せしめだが……ふむ、不要となったホムンクルスにしようか」

もう一度、時臣が指を鳴らすとまるで人形のように白い肌をした美女の首輪が爆ぜた。

【アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero 死亡】

101鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:54:53 ID:0c4AF2Fg0
「ア、アイリスフィールッ!!!」

甲冑を纏った騎士が声をあげる。

「もう聖杯戦争をやらない以上、その人形は不要だからな。どうせ短命なんだ。それを見せしめに選んだのは、私から君たちへの善意のようなものだよ」

「き、貴様、よくもアイリスフィールを」
「セイバーのサーヴァントか。君もランサーと同じような反応をする。
 まったく騎士という人種の言動は理解に苦しむな」

指を鳴らしてセイバーの動きを封じた時臣は説明を再開する。

「禁止エリアに入ったり、我々に刃向うような真似をすれば、そこの人形と同じ末路をたどることになる。
そして今までの会話を聞けば分かったかもしれないが、この会場には人間離れした力を持った者たちが複数いる。
一般人への配慮として支給品を用意した。強い支給品を引き当てれば魔術師でなかろうとも、そこの落伍者ぐらいは容易に倒せるかもしれないな」

雁夜をステッキで指しながら小馬鹿にした口調で時臣が言う。

「食料と水、それから会場の地図も含めて全員に配布しよう。それでは君たちの健闘を期待している」

左、右、左、と持ち替え、再度右手にステッキ握った時臣は、その先端を優雅な仕草で床につける。
同時に白い部屋に集まっていた参加者たちは次々と会場となる島へと移動させられ始めた。

「遠坂時臣ッ! 俺は絶対に貴様を殺すッ!!」

強制移動させられる寸前、鬼の形相で時臣を睨み付けなら雁夜はそう宣言した。

102鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:55:54 ID:0c4AF2Fg0
「説明は終わったのね」

参加者が全員会場へと移動させられるのを見計らってから時臣の前に一人の女性が現れた。
女性の首に金属製の首輪はなく、つまり彼女も時臣と同様に主催者側の人間であることが分かる。

「そちらの準備もできたようだな、入巣清香」

この若干ロリっぽい三十路の女性こそ大企業アイリス・グローバルの社長、入巣清香であった。
年齢にそぐわぬ美人である女だが、正直なところ時臣は清香を快く思っていない。
清香は自らの娘である入巣蒔菜をバトル・ロワイアルに参加させていた。
同じく娘を持つ親として、それは許容し難い行為である。
時臣は確かに娘の桜を養子に出したが、それは桜のためを思ってのこと。
間桐の娘にすることが、桜にとっては最善だったからに他ならない。
一方、清香は娘の蒔菜に対しての愛情は皆無であり、今回の参加者選抜で娘が選ばれた時も一切反対しなかった。
その様子を間近で見ていた時臣は清香に対して不快感を覚えると共に、この女が不要になった時は自らの手で罰しようと心に決めていた。

「一体何人があの出まかせを信じるかしら」
「雁夜なら案外、真に受けているかもしれないな」

参加者たちにはああ言ったが時臣には始めから勝者の願望を叶える気などなかった。
優勝者が決定してこの部屋に招かれた瞬間、優勝者の首輪を爆破。願いを叶えるエネルギーを横取りする算段である。
弟子である言峰綺礼が参加者に入ってしまっていることは残念だが、代行者である以上、死は覚悟の上だろうと割り切る。
聖杯戦争と違い自分がリスクを負うことなく根源に至る手段を得られる。
つくづく彼女の協力者になって良かったと時臣は思う。
彼女というのは入巣清香でのことではなく――

「揃っているわね、二人共。計画は順調かしら?」
「無論だ、繭君」

この繭というカリフラワー頭の少女こそ、バトル・ロワイアルの発案者であり、時臣が最も信頼している協力者でもある。

103鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:56:58 ID:0c4AF2Fg0
魔術師でもない入巣清香とは異なり、繭はこの固有結界にも近い白い部屋を展開できる程の実力者だ。
対等な協力者としての資格は十分に満たされている存在なのである。

「何の問題なくバトル・ロワイアルは進行しているよ。
 彼らは自分たちが道化に過ぎないことも知らずに殺しあうだろう」
「そう。それならいいわ」
「私は部屋でワインでも飲みながら観戦させてもらうとするよ。繭君も後で私の部屋に来るといい。魔術における芸術性について語り合おうではないか」

そう言って時臣は繭に背を向けて自らの個室へと向かう。
繭の口元がにんまりと歪んでいること、その手には一枚のWIXOSSのカードが握られていることに最後まで彼は気付かなかった。

繭の手に握られているのは毒牙属性のカード『アイン=ダガ』
場からトラッシュに置くことで相手シグニのパワーをマイナスする黒のカードである。
カードをダガーナイフへと変化させた繭は、無防備に背を向けて部屋へと戻る時臣の心臓にナイフを突き立てた。

「え……?」

おそらく時臣は最後まで何が起こったか理解できなかったであろう。
協力者に裏切られた哀れな魔術師は、瞬く間に動かない肉の塊へと変貌を遂げた。

【遠坂時臣@Fate/Zero 死亡】

104鮮血の開幕 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:57:46 ID:0c4AF2Fg0
「殺してよかったの?」
「ええ問題ないわ。彼の役目はここでおしまい。あとは貴方と『あのお方』がいれば十分だもの」

『あのお方』とは時臣には知らせていなかった最後の協力者であり、バトル・ロワイアルの真の発案者、そして繭が最も信頼している人物である。

「……そう」

人が死ぬのを直接見るのは慣れていない清香が時臣の死体から目を逸らす。
そんな清香に配慮したのか、単なる気まぐれか、繭は時臣の死体を消し去った。

「ふふふ、それじゃあ、始めましょう。楽しい、楽しい、ゲームの始まり」

セレクターバトルすら超越した死のゲームの開幕を繭は高らかに宣言した。


【ゲームスタート】


【主催】

【繭@selector infected WIXOSS】
【入巣清香@グリザイアの果実シリーズ】

【黒幕】

【???@???】

105 ◆DbK4jNFgR6:2015/07/23(木) 00:59:10 ID:0c4AF2Fg0
修正版、投下終了しました

106名無しさん:2015/07/23(木) 01:28:30 ID:xt1t6WZs0
皆さん投下乙です
MAP案を投下します

【会場MAP案】
1.
ttp://i.imgur.com/Fcf2ECg.png
2.
ttp://i.imgur.com/regw7yh.png

各施設の詳細および出典作品は描写した方にお任せします
修正点やご意見がありましたらお願いします

107名無しさん:2015/07/23(木) 02:01:03 ID:YddU9zjM0
>>105-106
乙です
地図候補はこれで3つですか

108 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:15:52 ID:t.lsNQHs0
では、無事に予約を取れましたので、アニロワ4thの一話目を投下させていただきます。

作中でゆゆゆ勢の制限に触れる部分がありますが、
既にゆゆゆ勢の能力制限についてはある程度決められている部分もありますので
(精霊は本人支給の場合どうなるか等)、その形に則らせていただきました

109 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:18:48 ID:t.lsNQHs0

――咲き誇れ、思いの儘に。


🌸    🌸    🌸

満天の星を天井にした、高い夜天の下で。
宮永咲が出会った少女は、名前を小湊るう子といった。

「バトルするかどうか選びなさいって、あの人は言ってました。
選択肢があるぶんだけ、みんなはまだしあわせだ……みたいなことも、前に言ってました。
ゲームをするかどうか選ぶのは私たちなんだからだって」
「うん……さっきも、そう言ってたよね」

後方には途切れた森林があり、前方にはゆるやかな坂道と市街地の景色がぼんやりと広がっていることから、ここが付近一帯でもかなりの高所なのだと分かる。
状況が状況でなければ、かつて夜の帰り道でホタルを見た時のように、自然の眺めに見入ったりもしただろう。
しかし二人が視線を落としているのは、腕輪の中で幾度も切り替わるカードの画面だった。

「でも、死ぬか殺すか、ずっと閉じこめられるかしか選べないなんて、ひどいです。
セレクターバトルでは、願いがマイナスになったりルリグになって苦しんでる人たちがいたけど、死んだら苦しむこともできなくなっちゃう」
「うん……殺しなさいって言われても、そんなことできないしね」

わけのわからない『殺し合い』を強いられてから最初に出会った者同士で、互いに警戒がなかったわけではない。
しかし、遭遇した瞬間にお互いが固まってびくりと身構える姿を目の当たりにすれば、『この人も私と似たようなものなんだ』と警戒を解くのに時間はかからなかった。

「るぅ――私も、そう思います。
誰かを傷つけたり、弄んだり、そんな目に遭わされた人の事は、見てきたつもりだから。
誰かを犠牲にするような選択は、したくないです」

すぐに分かったのは、彼女の方が咲よりも、ずっとたくさんのことを知っているということ。
あの灰色の人は何者なんだろうねと呟いたら、意を決したような顔になって語ってくれた。

「……ごめんなさい、何だか、るうばっかり話しちゃって」
「い、いいよそんなの。殺し合いを命令したのが知ってる人だったら、誰だってショックだし。
……私の方こそ、せっかく教えてくれたのによく分かってなくて、ごめんね」

るう子自身もどこからどこまでを話せばいいのか悩みながらだったらしく、最初は要領を得ないような話が続いたけれど、口を挟むことなく聞いた。
別に好きなように喋らせて落ち着いてもらおうとか狙っての配慮では無い。
咲はどちらかと言えばコミュニケーション下手であり、どういうことだと問いただすことさえもできなかったのが、聞き役に回っていた主な理由である。

「ううん。宮永さんはウィクロスとかセレクターとか全然知らなかったんだし、信じられないのが普通だと思います。――あの、たとえば、どんなことが分かりにくかったですか?」
「えっと、最初はカードゲームをやろうっていう話だったのに、どうしていきなり殺し合いに変わっちゃったのかな、とか……」

そう言うと、るう子は困惑したように目を伏せた。
もしかしてずれた質問をしただろうか、と咲は内心で焦る。

「繭は、ウィクロスのカードバトルだけじゃ、満足できなかったのかも」

るう子は小さな声でそう言った。

110 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:19:52 ID:t.lsNQHs0

「私、繭もウィクロスのことは好きなんだと思ってました。
普通の子みたいにバトルがしたかったけど、できなかったから、セレクターバトルを皆にやらせてきたんじゃないかなって。
だから私、バトルで勝ってみんなを助けられるなら、止められても戦うつもりで。
繭とも、バトルのおかげで会えた友達の友達だから、きっと分かり合えるんじゃないかって……」

『戦うつもり』と言っていた時だけ、その瞳が戦う者に変わったかのように強く光った。
すごく麻雀に強い人が、人をぞくりとさせるような、怖い感じと少し似ていた。
だから、この子はきっとそのカードゲームが楽しくて強かったんだと思った。

「でも、違ったのかもしれなくて。
繭にとって、ウィクロスはただ復讐するための道具でしかなくて。
今までのバトルでタマもイオナも変われて、繭にも声を届けるはずだったのに、それも意味が無くて。
るぅの願いは悲しい戦いを終わらせることだったのに、本当の殺し合いなんてどうしたらいいか分からなくて。
ウリスがここにいるなら、イオナとタマもどうなってるか分からないのに……」

咲よりも年下の――合宿に遊びにきた夢乃マホと同い年ぐらいの少女が、他の人のことを心配して顔を曇らせている。
そんな姿を見せられては、いつも頼りない宮永咲だって、何か言わなくちゃと思った。

「意味が無いなんて、言っちゃダメだよ」

口にしてみた自分の声は思いのほか大きく、るう子が虚をつかれたように顔をあげる。

「私はね、麻雀をやってるの。好きだし、楽しいって思うから。
でも、るう子ちゃんたちのゲームほどひどいルールじゃないんだけど、麻雀ってお金を賭けたりもする競技だから。勝っても負けても辛かったり、人を傷つけたりすることがあって。
だから私も、麻雀を楽しくないと思ってたけど、それだけじゃないって分かったの」

宮永咲もまた、自分の好きなことを肯定できなかった歯がゆさを、知っているのだから。

「麻雀をしたから色んな人と打てたし、麻雀を通してなら話せそうな人もいるから。
殺し合いだとどっちのゲームも役に立たないかもしれないけど、ちゃんと経験になってくれてる。
繭って女の子のことを知ってるのも、るう子ちゃんにしかできないことだよ。
だから、意味が無いとか、無いと思うな」
「はい……」
「だからね。何とかして、ここから出る方法を考えよう。
帰ったら、また楽しく麻雀とカードゲームをやろうよ」
「はい」

るう子が少しだけ笑みを見せてくれて、本当にほっとした。
そして、うるうるとした眼で見つめられたのが恥ずかしかった。
こんなかっこよさそうな台詞、相手が年下の女の子じゃなければ絶対に言えてない。

「咲さんは強いんですね」
「ぜ、全然そんなことないよ! こうやって座って話すことになったのも、最初に腰が抜けちゃったからだし――」

いい加減に立ち上がろうと腰を浮かせた時だった。
メキリ、と。
背後から聞こえたのは、車輪で落ち葉や木の枝を踏みつぶしたような音だ。

「「――っ!」」

二人は引きつった声をもらし、身を固くして森林へと振り向く。
女子高生が1人と、女子中学生が1人。
一般の男性が凶器を持って飛び出してきただけで、揃ってこの世からお別れしかねない無力さだ。

111 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:20:49 ID:t.lsNQHs0

「あの……」

しかし姿を現したのは、儚げな少女の声と、小さな人影だった。
車椅子に乗った、るう子と同年代のたおやかそうな少女。
そのタイヤを手押しでゆっくりと向かってくる動きは、足が悪くて歩けないヒトのそれだ。
しかも、その手にはスマートフォン以外に何も持っていない。

「……すみません、途中からお話を聞かせていただいて」

ぺこりと頭をさげる少女を見て、ほっと二人の警戒も解けた。
この少女を見て殺されるかもしれないと怯える人間がいたら、そちらの方が無理がある。

「ううん、いいよ。車椅子大変だよね。こっちから行くから――」

二人と一人の間にあるのは、家一軒分ほどの距離。
舗装もされていないその勾配を車椅子で進ませるのもどうかと、咲たちはこちらから近づこうとしたのだが。

「いいえ。お気遣いはありがたいですが、不要だと思います」

硬い、拒絶の意思がある声。
それを耳にして、咲たちは初めて気づく。
腕輪からの明かりに照らされた少女の顔が、思いつめたように眉尻をあげ、張りつめた表情をしていることに。
そして、少女が携帯電話を前方にかざしていることに。

その少女の変質は、一瞬にして劇的だった。
携帯電話が、青いガラス片をたくさん散らしたような光でその少女を包む。
光が収束した場所に身を現したのは、青と白の花飾りやリボンに彩られた天女にも似た装いだった。
頭や肩の周囲から生えている肩巾(ひれ)のようなリボンが幾本も地面へと屹立し、少女を吊り下げるようにして足の代わりを果たしている。
突然のことに対する困惑を差し引いた目でみれば、それはとてもきれいな姿だったけれど。
咲はなぜか、光の花びらを散らすその姿に、ぞくりとするような恐怖を覚えた。
恐怖は、次の瞬間に凶器を持つ。
どこからともなく少女の右手に出現したのはL字型をした金属のかたまり。

拳銃みたいな形の武器、と理解するのと同時。

「死んでいただきますから」

問答無用とばかり。
その銃口は、火を吹いた。


🌸    🌸    🌸


少女――東郷美森は、もとより、その少女たちの会話を聞いていた。
その少女たちをこれから殺すつもりで、潜んでいた。
すぐに飛び出さなかった理由の一つは、色々と考えることが多くて、逡巡していたから。
『勇者』が背負わされた『自殺することさえできない』という宿業はどうなったのだろう、とか。
呼び出した精霊の機動力がいつもよりぎこちない気がするのは、勇者を防御する力が落ちているということだろうか、とか。
バーテックスとも違う、あの巨大な竜は何だったのだろう、とか。

112 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:22:05 ID:t.lsNQHs0
四国の中で覚えているどことも違うこの地図の会場は、どこなのだろう、とか。

色々なことを整理して方針を決めるのに時間をかけたこともあったけれど、襲撃を躊躇した理由も別にある。

この場所にいる人達にはみんな死んでもらって、願いを叶える。
東郷美森の願いは、世界をかろうじて延命させている『神樹』を倒すこと。
そして、この場所にいる四人の大切な友達――勇者部の皆の魂を、解放すること。
全てが終われば、先に死ぬことになる四人の仲間たちの後を追って逝く。
それは、やらなければいけないことだ。
勇者部の五人を、永遠に生贄として使い潰される宿命から救うために、必要なことだ。
けれど。
『勇者』の力を使って、人殺しをする。
友奈が『きれい』と言ってくれた勇者の東郷美森が、人間を銃殺する。
それは、いつもの5人の大切な『勇者部』を穢しているような気がして。
本当に、それをやるのだろうかと、身体が震えた。

どのみち、神樹を倒せば人類は生きていられないのだから、最終的にはここにいる70人どころではない大量の人間を殺すことになると、頭では分かっている。
勇者部の皆を解放してもらえれば神樹までも殺す必要はないかもしれないが、
殺し合いが終わった途端に精霊たちが復活して、再び神樹の力で死ねない体にされるかもしれない。やはり神樹は確実に殺しておいた方がいい。

やるしかない、と己に言い聞かせていた時だった。
二人の少女の、会話が聞こえてきたのは。

――誰かを犠牲にして願いを叶えたくなんかない?
勇者たちは、ずっと皆の幸せのために犠牲にされているのに。
『満開』によって体が動かなくなり、好きな人の記憶もなくなり、たった独りで寝たきりになり、それでも死ぬことさえ許されずに戦わされ続けるのに。

――選択しなければいけない?
友奈たちには、選択肢なんて最初から無かった。
『神樹さまを守らなければ世界が死ぬ』なんて言われたら、
『人の役に立つことを勇んでする』人ばかりの勇者部だったから、戦うことは分かりきっていた。
たとえ、『死ねない地獄』へと向かう一本道だったとしても。

――帰ったら、楽しい日常を過ごす?
結城友奈も、犬吠埼風も、犬吠埼樹も、三好夏凜も――そして東郷美森も、
それができれば、どんなに良かったか。

冷静になった。
覚悟は決まった。

無警戒に近づこうとする少女たちの前で、躊躇いなく変身。
すぐさま、短距離用の武器を出現させる。
そばに顕現するのは、いつもそうだったように、精霊の刑部狸だった。
二人の少女のうち、短髪で少し年上の少女が、何かを察したかのように顔色を変えた。

「るう子ちゃん! 危な――」

問答無用で発砲。
もう一人の手を引いて逃げようとした少女の腹部が、ぱっと赤く染まった。


🌸    🌸    🌸


赤くぬめりと迸った血液と、脇腹の衝撃は恐怖をもたらした。

「咲さんっ!!」

とっさに庇う体勢になってしまった少女の悲鳴が、壁を隔てたように遠い。
信じられない。こんなにあっけないなんて聞いてない。
簡殺されてしまうかもしれないと、怯えていた。
でも、たったこれだけで宮永咲が終わるなんて。全部が、終わるなんて。
抗おうとしても、体から力が抜ける。
体が横殴りにされるように、半身がぐるりと回る。
脚が崩れ、視界がななめ後方へと倒れるがままに流れていく。
腹部の焼けるような熱が、『これで終わりだ』と絶望を伝える。
麻雀に愛された才能だとか、全国大会に出場した実績とか、そんなもの人体を貫通する銃弾の前で何の役にも立ちはしない。

ただ、後ろにいるるう子ちゃんが続けて撃たれるところは見たくないな、と思ったので。
流れていく景色を横目に、目を閉じようとして。

113 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:22:50 ID:t.lsNQHs0



――山の嶺から見下ろした世界が、目に入って来た。



夜の中でもここに高さがあること、ずっと下の方に真っ平らな地面があることは、輪郭が浮かびあがって分かる。
街の灯りは、まるで小さな花が咲き乱れたかのよう。
そして、高原の下から上へと吹き寄せる風からは、木々の薫りがした。
似ていた。
形も、匂いも。
いつかの、長野で見た『あの景色』と。


🌸    🌸    🌸


「リンシャンカイホー?」
「麻雀の役の名前だよ。
『山の上で花が咲く』って意味なんだ」

空はどこまでも青く、高原の風は緑の匂いがする。
見下ろした景色は、小さな花の集まりのようで。

「咲く?」

嶺上開花(リンシャンカイホウ)。
その言葉の意味を教えてもらって、たちまちに好きになった。

「おんなじだ! 私の名前と!!」
「そうだね、咲」

見上げたその人の口には、笑みがある。
ずっと仲良しでいられると、疑わない人だ。
たとえ喧嘩したとしても、きっと仲直りすると決めている人だ。

「森林限界を超えた、たかーい山でさえ、可憐な花が咲くこともあるんだ。
 咲、おまえもそんな花のように――強く咲けば――」

それは、とっても素敵なことのようで。
この人がそう言ってくれるなら、きっといつかそんな風になれる。
宮永咲は、信じた。


🌸    🌸    🌸

114その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:24:13 ID:t.lsNQHs0


――まだ、咲いたところを見せてない!

咲は、諦めてはいけない。



そこで、火が灯った。



右足を後方へと無理やりのばし、ザクリと地面を踏みしめる。
倒れそうになった体を、なかばるう子にもたれるようにして維持した。
るう子が驚き、どうにか咲をかばって前に出ようとする動きを、右手をかざして防ぐ。
眼前にいるのは、とどめを刺そうと狙いをつける少女の銃口だ。
あれがもたらす死だけは、止めないといけない。
左手で、黒いカードを探り当てる。
そのカードに何が入っているかはだいたい分かっていた。怯えながらも、一回だけ出し入れはしていたから。

カードを、自摸(ツモ)る。
口にするのは、いつもの言葉。
麻雀なら、牌が見えた時、それをツモる時にそう言うから。

取り戻せ。
いつか、和ちゃんに認められた、自信に満ちた私を。

――靴下は脱いでないけど、がんばる。





「カン」





🌸    🌸    🌸


腹部に血だまりの少女がそう言った時、東郷美森は次弾の引き金を引いた。
その時点では、命を狩る者と狩られる者のはずだった。

『カン』が言い切られるのと同時。
少女の眼から、『ゴッ』と炎がはじけて揺らぐ。
そしてすさまじい大きさの覇気が東郷を一直線に叩いた。

「きゃっ――!?」

勇者らしかぬ悲鳴が、口からこぼれる。
全ての知覚が、その一瞬で遮断された。
何をされたのかが分からないのに、それが恐怖だということは分かる。
友奈たちと初めて樹海化に巻きこまれて、二年ぶりにバーテックスを見た時に体が震えたような、それは『圧倒的なものに呑まれる』時の恐怖だった。

そして、知覚の戻って来た世界では二つの音が聞こえた。

115その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:24:53 ID:t.lsNQHs0

ひとつは、ガキン、と鈍く鳴る金属音。
それは、少女たちを狙った弾丸が遮断された音。
とどめを防いだのは、謎の少女が持つカードから飛び出す『布のような形状の金属の物体』だった。
ただ飛び出しただけのそれは弾丸を逸らすことに成功したものの、そのまま少女の手を滑って地面へと落ちる。

もうひとつは、東郷のすぐ近くで聴こえた『フィン』という音と、小さな光。
それは東郷美森の左胸にある『満開ゲージ』の花びらが、ひとつ花弁を増やした音。
それまで三枚あった花びらが、四枚になった。

とどめを仕損じた。
次弾を撃たなければ。
頭ではそう判断して、しかし感情は、恐怖が、行動を躊躇させる。
少女が圧倒的な気配を纏って攻撃を防いだ瞬間に、満開ゲージ――勇者の『供物』が、一つ埋まった。

たまたま、ゲージが貯まるタイミングになっただけのことかもしれない。
敵を激破した数と満開ゲージの貯まるタイミングは必ずしも比例しない。
一般人に向かって弾丸を撃ちこんでも、ゲージが貯まることだってあるかもしれない。
しかし、ならば、今この時も放出されている『強大な気配』はどういうことだ。
相手は、カンと言っただけだ。
麻雀や賭博遊びなどしたことない東郷美森だったけれど、中学二年生にしては必要以上なほど博学である。
『カン』が麻雀用語だということは知っていた。
その場に『三つ』が集まった時に、相手が放銃をした弾丸(ハイ)とかから『四つ目』を供給して、ひと塊を作る動きのことだ。
そんな言葉に、勇者が花を咲かせるための力が宿るとは思えない。

しかし、それが可能だとすれば。
物事を、とことん考えすぎるまで考えこむきらいのある東郷は、わずかな時間でそこまで考える。
満開ゲージを強制的に溜めることができるのならば。
もう一回でもそれが発生して、満開ゲージが全て埋まった時は、果たしてどうなる。

(もしかして…………強制的な、『満開』も?)



――嶺の上に、花が咲く。



また、『満開』をさせられる。
また、『散華』をする。
また、大切な人を忘れて――。

(――ダメ!!)

考えすぎるのは、悪癖だ。
手荷物――カードを探ろうとする二人をそうさせないため、次の動きを取る。
小型の銃を捨て、狙撃用の巨大な銃を呼び出した。
近距離とはいえ、二人を同時に殺そうと思ったら貫通力のある弾丸を使うべきだから。
銃床を肩にあてて押さえ、安定姿勢を保持。
スコープの中にいる標的たちは、距離が近くていつもより大きい。外しようもない。
だが、異変はとどまらなかった。
ピシ、とスコープに幾すじかの亀裂が生まれる。
まるで大きな地震がきた時の窓のように、のぞき窓はガタガタと震える。
何が起こったと考えるより先に、スコープが破裂した。

116その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:26:01 ID:t.lsNQHs0

「いつっ……!」

粉じんのように砕け散った無数の破片。
それが、東郷の右顔面にぶち当たった。
精霊の防御も間に合わず、とっさに閉じた右目をガラス状の破片で叩かれる。
眼球をかばいながらも、それは右目の視界と、平衡感覚――リボンで跳躍して距離を詰めるために必要なものを、しばらく潰す。
それを隙として、もう一人の少女が動いた。
左目には、もう一人の少女が球状の武器を投げる姿が映る。
少し転がすように投擲されたのは、煙幕弾だった。

「…………えいっ!」

弱々しいかけ声とは異なり、煙は爆発的に撒き散らされた。
通常の煙幕榴弾よりも大量の煙を吐くよう改造でもされているのか、折よく風も止まった嶺の上が白煙に包まれる。

闇雲に狙撃銃を撃っても、重たく駆け去る足音の主を捕えた気配はなく。
視界と平衡感覚とが回復した頃には、東郷美森だけがその場に残っていた。
金属の布きれは止血に使われたのか、その場から持ち去られている。

逃がした。
そう認識するのと同時に、どっと重圧がきた。
もし足が動く体だったら、きっと生まれたての小鹿みたいに震えていたと思う。

変身を解いて、地べたに座りこみ車椅子にもたれかかる。
謎の少女の方は、きっと仕留めた。
こんな山の中で、お腹を勇者の武器で撃たれて、そう長く生きていられるとは考えにくい。
勇者部だった東郷美森は、人を殺した。

仕方なかった、とかごめんなさい、なんて言わない。
東郷美森は、これから世界ぜんぶさえ殺すのだから。
そのためなら何だってすると覚悟したはずなのに。
震えが身体を走るのは、彼女がまだ、中学二年生の
そして、満開の恐怖を、今しばし思い出してしまったから。

(あの時……満開ゲージが溜まると思ったら、一瞬だけ躊躇した。
忘れることが、怖かったからだ。
……でも、だけど!
私は、そんな苦しみから、皆を解放する! そうしなきゃ!)

咲いてしまった花は、もう散るばかり。
もし花が散華することに胸を痛め、耐えられないと嘆くなら。



この世から、花そのものを滅ぼしてしまうより他に、道はない。



【F-2/山頂付近/一日目 深夜】
 【東郷美森@結城友奈は勇者である】
 [状態]: 健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
 [服装]:讃州中学の制服
 [装備]:車椅子@結城友奈は勇者である
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
 [思考・行動]
基本方針: 殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
   1: 参加者を殺していく。
   2: 友奈ちゃん、みんな……。
 [備考]
※参戦時期は10話時点です
  ※車椅子は、東郷美森の足も同然であると判断され没収されませんでした


🌸    🌸    🌸


意識を浮上させた宮永咲が倒れていたのは、神社の境内だった。

117その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:26:44 ID:t.lsNQHs0

目覚めて、目に入ったのはがっちりとお腹に巻き付けられた腹巻のような金蔵の布。
そして、耳に入ってきたのは、ガンガンという鈍い音。
るう子がこぶし大の石を握りしめ、咲の腕輪を必死に壊そうとしていた。
何をしてるんだろ。
そう思い、腕輪にはまったカードを見て、気づく。

死んだり、繭に逆らった人はカードに閉じ込められるというルールだった。
だからるう子は、咲の腕輪を壊し、ルール違反をさせようとしている。
生きているうちに、死ぬ前に、カードに閉じ込められたら、ルリグみたいにそこで暮らせるかもしれないから。
いい子だなぁと思った。
そんな彼女に声をかけようとしたけれど。
声は、かすれた。

「ごめん、無理みたい……」

るう子が、はっとしたように咲と目を合わせる。
涙でぬれた目に、咲の顔が写っている。
水面みたいだ、と思った。

色々な記憶が、走馬灯を作っていく。

キラキラした水面と、お魚さん。
病院と点滴。
炎に包まれた車椅子。
黒い服を着ていた姉。
だから、理解した。
これから、どこに行くのかを。

「カードの中に入っても、変わらないと思う。
死んだら、全部、終わりなんだよ。カードから出てきたりとか、会えたりとか、しないんだよ」
「知ってるなら……ちゃんと分かってるなら! どうして、るぅを、庇ってくれたんですか」

叱りつけられるような声をかけられて、申し訳なさがあった。

和ちゃん。
部長。
優希ちゃん。
マコ先輩。

お姉ちゃん。

会いたい人にも、会えないのに。
どうして、るう子を守ろうとしたのか。

「ごめんね……体が、動いちゃった。
私の方が、ちょっとだけ、お姉さんだから、なのかな?」

会いたい人に会えないのが。
もう麻雀ができないことが、悲しくて、辛くて。
でも、ひとつだけ良かったことがある。
あの嶺の上で、思い出して、踏みとどまったこと。

「……でも、私は…………選択したん、だよ。
私にしか……できない……こ、と」

さっき意味が無くなんかないと、小湊るう子に言った。
だから、彼女の選択も彼女を救けてくれたらいい。
哀しみから抜け出して、また楽しくゲームができるような、そんな選択を。

ああ、でも。
最後にひとつ、気になる。



「私――ちゃんと咲けてたかな?」



嶺の上に咲く、花のように。

118その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:27:16 ID:t.lsNQHs0
【宮永咲@咲-Saki- 全国編 死亡】
残り69人

【F-3/神社/一日目 深夜】
 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、悲しみ
 [服装]:中学校の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
黒カード:不明支給品0〜2枚、宮永咲の不明支給品0〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   1: 咲さん――!
   2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
 [備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です



支給品説明

【東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
東郷美森を勇者へと変身させるアプリが入った携帯電話。
近距離、中距離(ショットガン)、狙撃銃、遠距離砲の攻撃手段をそれぞれ使い分ける。
宿った精霊はそれぞれ刑部狸、不知火、青坊主、川蛍。

【チタン鉱製の腹巻@キルラキル】
蟇郡苛が、最終話の決戦で護身用に着用していた巨大腹巻。
針目縫の攻撃を受けても「ちょっと痛かった」程度で済むらしい(ただし大量に出血していた)。

【煙幕弾@現実】
小湊るう子のアイテムカードに単体で支給。
改造でも施されたのか、通常の煙幕弾よりもかなり多量の煙を排出するため、煙の拡散しやすい屋外でもしばらく持つ。

119その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:28:22 ID:t.lsNQHs0
投下終了です

今回、咲さんが行ったことについては議論対象になってしまうかもしれませんが
「たまたま偶然満開ゲージが溜まるタイミングがやって来ただけ」という偶然の可能性もありますよ、ということで一つ

原作でもモノクルを破壊する描写はありますし

120名無しさん:2015/07/29(水) 00:42:51 ID:???0
投下乙です

初っ端からなんて力作だ……

咲とゆゆゆとウィクロスの世界観がこれでもかって程マッチしててビビる
咲の腕輪を壊そうとするるう子でもう……

そして嫌な予感はしてたけど、やっぱり東郷さんはあの時期から参戦かぁ

121 ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:28:23 ID:WVWLm3c60
投下お疲れ様です。
拙作ですが、自分も投下します。

122輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:29:38 ID:WVWLm3c60

「いやぁ、ホンマ助かったわーウチだけじゃ心細くてなー」
「いえいえ、いきなり大きな音が鳴ったので来てみたら、こんなことが……」

 倒れているのは大木。
 その近くには二人の少女。
 その少女たちのバストは豊満であった。

「ウチ、東條希。音ノ木坂学院三年生や」
「東條さんですね……私は神代小蒔と申します。永水女子高校の二年生です」

 一人は普通の学校の制服。
 もう一人は紅白の巫女服。
 そして、その少女たちのバストは豊満であった。

「その喋り方……関西の高校の方ですか?」
「いや、東京の秋葉原にある学校やで……そういう、小蒔ちゃんは学生兼巫女さんなん?」

 結構気さくに話しかけてくる希に対して安心感を覚える小蒔。
 最初に出会えたのが、優しそうな人でよかったと思う。
 
「でも、警戒したほうがええで……まだ近くにこんなことやった犯人がおるかもしれんよ、少し離れよか」
「はい」

 希は小蒔の手を引き引っ張っていく。
 優しく手を引き、誰にも見つからないように静かに歩いていく。
 しばらく歩くと誰もいなさそうな茂みを発見した。
 一先ずはそこで情報交換をしようとした。 

「小蒔ちゃんの知り合いはおるん?」
「知り合いですか? いませんね……」
「ふーん、ホンマに?」
「あっ、はい……東條さんは?」
「……ウチの学校の友達が4人もおるんよ……」
「えっ?」

 二人で名簿を一緒に名簿を見る。
 希は見知った名前を指差していく。
 『高坂穂乃果』『南ことり』『絢瀬絵里』『矢澤にこ』。
 同じスクールアイドルグループ『μ's』のメンバーだ。
 希は一年生三人と二年生で作詞担当の『園田海未』の名前がなかったことには安堵したが。
 それでも皆が心配であることには変わりなかった。

123輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:30:16 ID:WVWLm3c60

「探しに行きましょう!」
「えっ?」
「留まっているより探したほうがいいと思います!
 その東條さんのお友達さんもきっと東條さんを探しているはずです!」
「……小蒔ちゃんはええ子やねぇ……けどな」

 少し冷静になり、希は徐に小蒔の顔を指差す。

「さっきから気になってたんやけど?」
「? なんですか?」
「その……顔につけてる、それ何なん?」
「これですか? これはスパウザーです」
「えっ、なんて?」
「スパウザーです。平たく言えば戦闘能力を計る計測器です」

 まるで漫画に出てくるような道具。
 補聴器に小型スクリーンが付いた形状をしている。
 装備してる当人曰く『戦闘能力を計る機械らしい』が胡散臭いったらありゃしない。

「ホンマに……?」
「ちょっと待ってくださいね……計測できました。えーっと、東條さんは53oですね」
「53oってなんなん!? 強いん、それ!?」
「東條さんは53o(オッパイ)……つまり、オッパイ53個分の強さということですね」
「いやいや、ウチのオッパイは二個やし!? というかオッパイの一個分の戦闘能力ってどんだけなん!?」
 
 希は本場関西人のようにガンガン突っ込んでいく。
 しかし、それを天然なのか、小蒔はのらりくらりと自分のペースで話していく。
 
「……しかしな、小蒔ちゃん、戦闘力をちゃんと計るなら……」
「ちゃんと計るなら?」
「ふふふふ……ワシワシMAXや!」
「いや……ちょっと、東條さん!?」

 一瞬のうちに小蒔は希に背後を取られた。
 そして、希は巫女服の上から小蒔の胸を揉む。

「これは88……いや、90……!?
 まさか……それ以上あるやん!!」
「ふぁっ!?」

 ワシワシと胸を揉む。
 ワシワシワシワシと胸を揉む。
 揉まれると同時に小薪の心臓の鼓動が早く、どんどん高まっていく。

124輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:31:31 ID:WVWLm3c60

「ふふっ、ウチのワシワシテクニックで堪忍しいや〜」
「……と、東條さん、それ以上は……いけません!」
「ああ、わかったで……」

 急に希は小蒔の胸を揉むのを止める。
 充分に満足したのだ。
 だから、止めた。

 胸を揉みしだかれた小蒔は息を整えようとする。
 こんなことをされたのは自身生まれて初めてだった。
 だが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
 寧ろ、気持ちよかった。
 
 だが、次に小蒔が感覚は……胸を突き破るような痛みであった。


「ホンマ勘忍な……」


 小蒔の胸からレーザーブレードのような光の刃が突き出ていた。
 その刃は小蒔の心臓のご丁寧に位置を突き破るように一直線に。


 何が起こったか、わからないまま。




 神代小蒔の意識はそこで途絶えた。



 ◆ ◇ ◆



 ―――私にとってμ'sは大切なもの。
 

 絵里ちもにこっちも穂乃果ちゃんもことりちゃんも大切な友達。
 

 だからな……皆ごめんな……私は、もういつもみたいには笑えんわ……


 ◆ ◇ ◆

125輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:32:22 ID:WVWLm3c60

 ビームサーベル。
 最初はただの玩具かと思った。
 だが、カードの説明を読んでれっきとした武器だと判明した。
 最初は半信半疑だった。

 だから、試し斬りを行った。
 最初は近くにあった自分よりも太い大木を斬った。
 レーザーで出来た刃であっさりと切断出来た。
 音を立てて、あっさりと倒れた。

 二回目は【今】……寄ってきた女の子で試し斬りした。
 胸を揉むのはせめて小蒔ちゃんが苦しまないように。
 一撃で仕留められるように、胸を揉んで心臓の位置をしっかり確認して。

 こんなことをして自分の心が痛まないと言えば、嘘になる。
 だから、その心も【今】斬り捨てた。
 
 ―――μ'sを護るために。
 
「ウチ、やっぱラッキーガールやな……いや」

 大きな溜息を吐く。
 最初に遭遇したのが何の戦闘能力もない優しい子だった。
 だから、希にとってはラッキーだった……覚悟を決めるには。
 
「こんなことに巻き込まれた時点でラッキーガールも何もあらへんな……」

 強力そうな武器も引き当てた。
 引くおみくじ全てが大吉になるくらい運がいいというくらい自負している。
 本当に運がいい、こんなことに巻き込まれていることを除けば。

「音ノ木坂学院も廃校の危機を回避出来たと思ったら……こんなところに移転とはとんだ災難やね」

 希は地図を見る。
 地図に記されている音ノ木坂学院。
 その学校も廃校のピンチだったはずなのに、こんなところにある。

「皆、学校が好きやし……そこに行くだろう。
 なら、ウチは……行かんわ」
   
 少女は一人、歩いていく。
 護りたいものを、護るために。
 それが例え間違った道だと分かっていても。

【神代小蒔 咲-Saki- 全国編 死亡】
【残り68人】

126輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:33:05 ID:WVWLm3c60

【D-2/墓地近く/一日目 深夜】
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:黒カード:ビームサーベル@銀魂
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜2枚、神代小蒔の不明支給品0〜2枚(全て確認済み)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
 1:学校には向かわない
 2:μ'sのメンバーには会いたくない
 [備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。


支給品説明


【ビームサーベル@銀魂】
 原作46巻第四百二訓〜四百九訓(アニメ版における第262〜264話)のビームサーベ流篇に登場した武器。
 ビーム状の刃の剣。小尾一のように刃は巨大化させることは制限がかかっており不可能である。

【スパウザー@銀魂】
 原作第20〜21巻第百七十四〜百八十二訓(アニメ版における第115〜118話)の夏休み特別篇に登場した道具。
 形状はあの有名漫画に出てくるスカウターであり、戦闘能力を図ることができる。
 また戦闘能力の単位は男の場合はk(こんぶ)で女の子の場合はo(オッパイ)となる。
 あまりにも桁違いの数値を計測すると、爆発する。

127 ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:34:14 ID:WVWLm3c60
投下終了です。
誤字等、問題点があったらご指摘下さい。

128 ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:06:05 ID:i.F5mlqI0
投下お疲れ様です。
咲勢が早くもリーチとは……

自分も投下させていただきます。

129忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:06:52 ID:i.F5mlqI0


 

 誰に会いたいの? 会いたいの?
 
 こころが持っている答えは
 
 ひとつ ふたつ たくさん?






 少女は震えていた。
 かたかたと、かたかたと。只でさえ小さなその体は、いつもより余計に小さく見えた。
 ついこの間までは表情の変化さえ多くなかったけれど、最近は微笑むことも増えてきた顔。
 
 ――蒼白に染まっている。額には冷たい汗が浮いて、今にも滴り落ちそうだ。
 ――歯はがちがちと不協和音を奏で、心臓は今にもはち切れそうなほどの躍動を見せている。
 
 不健康なリズムとスピードで脈打つ心の臓は、きっと自分の恐怖心の強さを表しているんだ――そう思った。
 仮にいま、自分の心臓が破裂してなくなってしまったとしても、きっと智乃は驚かなかっただろう。


 ホラー映画を見たことがある。
 勿論、自分から進んで見ようとしたわけじゃない。
 確かあれは、テレビで心霊映像の特集をやった翌日のことだったと思う。
 マヤがレンタルビデオ店でホラー映画のDVDを借りてきて、それを見ようという話になった。
 それで、皆で見たのだが。……正直な所を言えば、智乃には恐怖以前に疑問が勝る映画だった。
 それは実にありきたりな疑問。
 ホラー映画やパニック映画を一度でも見たことがあるなら、誰もが抱いたことのあるだろう感想。

 即ち、"自分ならもっと上手く立ち回れる"――自分なら、恐怖で動けなくなったりはしないはずだ。
 いくら下手に動けば命を失うかもしれない状況だとしても、止まっていては遅かれ早かれ死ぬだけだ。
 死を黙って待ち続けて、恐怖を最高潮まで引き立てられてから殺されるくらいなら、自分ならきちんと動く。
 自分なら、万一の時だって自分を見失わずにしっかりと行動できる。
 智乃は最後、顔を青褪めさせながら感想を語り合う二人に苦笑しつつ、そうして映画鑑賞を締め括ったのだったが。


 いざ実際にその立場へ置かれた彼女は、ピクリともその場から動けずにいた。
 このままではいけないと頭では分かっているにも関わらず、体がそれについて来てくれない。
 立ち上がろうとしても足は痺れてもいないのにガタガタと震え、もし歩きでもすればすぐに転んでしまいそう。
 無理もないだろう。誰も、今の智乃を笑うことは出来ないはずだ。
 
 香風智乃という少女は、普通の少女である。
 同学年の子どもに比べれば確かに大人びてはいるし、喫茶店の娘として接客能力だって備えている。
 けれど、彼女個人の人間性は――過ごしてきた人生は、あくまでも普通の範疇に収まる。
 例えば、先の"ルール説明"。
 見せしめとして少女が殺されたが、あの光景についてだってそうだ。

130忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:07:37 ID:i.F5mlqI0
 智乃は、人が殺される瞬間を見たことがない。
 怪しげな力を持つカードにだって心当たりはないし、摩訶不思議な魔法を使うことも出来ない。
 智乃が経験した不思議なことといえば精々、喋るウサギと一緒に暮らしている程度のものだ。
 朝起きて、学校へ行き、友達と話して、友達と遊んで――最近では下宿にやって来た年上の少女によって、その日常もずいぶんと賑やかに彩られて。お風呂に入ったら宿題を済ませ、ぬいぐるみと一緒に就寝する。
 そんな暮らしを送ってきた少女が、何の前触れもなく殺し合うことを強要され、目の前で人を惨殺されたのだ。
 ――これで正常でいられるわけがない。今も目を瞑れば、瞼の裏にあの惨状が再生されてしまう。

「う……」

 込み上げてくる嘔吐物を、どうにか喉元で堪え、押し戻す。
 荒い息を吐きながら、智乃は小動物のように周囲を見渡した。
 
「ラビット、ハウス……」

 ラビットハウス――
 見覚えのある光景だった。
 それ以上に、親しみのある、かけがえのない光景だった。

 自分が生まれ育ち、そして手伝ってきた喫茶店。
 昔はアルバイトの理世と自分と、マスコットのティッピーだけしかいなかったが、今では従業員が一人増え、マヤとメグ以外にもいろんな人が遊びに来てくれるようになった大切な店。
 空気も、樹の匂いも、かすかに残るコーヒーの香りも。
 五感全てが、これが本物のラビットハウスであると告げていた。
 智乃が正気を保てていたのは、ひとえに開始位置、最初に目を覚ました場所が此処であったからかもしれない。
 安心感。こんな状況だというのに、慣れ親しんだ店の内装が心を少しずつだが、確かに落ち着かせてくれる。
 
「ティッピー……? お父さん……?」

 智乃はいつの間にか、立ち上がっていた。
 そうだ、ここはラビットハウス。
 いつも通りの――わたし達のラビットハウス。
 
 でも、と智乃は思う。
 
 これは確かにラビットハウスだ。
 けれど、どうしてこれが此処にある?
 智乃はハッとなって、腕輪の端末を弄り始めた。
 使い方には少し手間取ったが、どうにか名簿と地図の出し方を把握する。
 まずは地図だ。会場の一覧図を見て――嫌な予感が、大きくなった。

 違う。
 こんな形の町を、私は知らない。
 ここは、私の住んでいる町じゃない――

「……っ」

 次は名簿へ手を動かした。
 そこには無情に、智乃の友人たちの名前が記されていた。
 心愛、理世、千夜、そして紗路。
 今や家族同然だったり、長い付き合いだったり、はたまた可愛がってもらったり。
 友好を育んできた人物たちも同じ目に遭っていることに心を痛め、マヤやメグの名前がないことに少し安堵した。

131忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:08:08 ID:i.F5mlqI0
「――お父さん……?」

 そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
 ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
 それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
 殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。

「――お父さん! ティッピー!」

 震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
 
 ――ラビットハウスは、ある。
 ――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
 
 二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
 ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
 なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
 人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
 彼女なら、そういうこともするのではないか。
 

 つまり、父とティッピーは……もう、とっくに――――


 カウンターの奥、智乃たち香風家の人間と下宿生の心愛が生活する居住空間へ智乃は向かう。
 足は自然と駆け足になっていた。そうだ。そんなことがあるわけがない。
 きっとこの奥に進んだなら、心配そうな顔をした父とティッピーが迎えてくれる筈なのだ。
 
 だってここはラビットハウス。
 私達の、日常の中心なんだから。

 そう思っているのに、智乃はいつからか、小さな果物ナイフを片手にしていた。
 これは彼女の支給品の一つである。
 異能のカードや、それに準ずる品物が多数存在するこの殺し合いでは決して当たりと呼べるものではない。
 これで岩は切れないし、ビームを止めることは出来ないし、剣と打ち合うことも出来ないだろう。
 
 しかし、人は殺せる。
 
 智乃にその認識はなかった。
 正しくは、そんな当たり前に意識を向けている余裕さえ今の彼女にはなかったのだ。
 半ば無意識的に手にしたナイフを片手に、彼女は居間へ急ぐ。
 そこには見知った顔があると信じて。


「お父――」


 リビングに繋がる扉へ手をかけ、一息に引いた。
 しかしその向こうに、過ごし慣れた居間の風景はない。
 壁があった。
 奇妙な模様をした壁だった。

132忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:08:46 ID:i.F5mlqI0
 ベースは白だが、それでも壁紙に使うような模様じゃない。
 それに、こんなところに壁があるわけもない。
 智乃は茫然とした顔で、その壁を見上げていき――そこで漸く、それが壁なんかではないのだと気付いた。


「貴様、参加者か?」


 それは、巨人だった。
 少なくとも小柄な上に、錯乱状態にある智乃にはそう見えた。
 日焼けした黒い肌と金髪に、太く凛々しい眉毛が特徴的だ。

 "巨人"は智乃の顔を覗き込むように姿勢を屈めさせ、目線を合わせてくる。
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 智乃にとって重要だったのは、自分達の家に――自分と、父と、ティッピーと、心愛の家に。


「……? おい、貴様――」
「……あ……ぁ……」


 見知らぬ誰かが、それもこんな"悪そうな"人物が居たということ。それだけ。


「――――あ、あああぁぁぁああっっ!!!!」


 智乃はナイフを振り被る。
 そしてそのまま、振り下ろした。
 
 嫌な音がした。
 それで終わりだった。






 ――血が舞ったのを見た。


 ナイフを使って血を出したことは、智乃とて一度や二度じゃない。
 料理で使ったり、時には工作で使ったり。
 様々な理由で使っていれば、不注意で手を切ってしまうこともままある。
 
 しかし、今回のものは違う。
 不注意なんかじゃない。
 故意だ。
 故意で、誰かを傷付ける為に――殺す為に、手にしたナイフを振り下ろしたのだ。
 "巨人"の額が、血に染まっていた。

133忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:09:17 ID:i.F5mlqI0
「え」

 智乃は一歩、二歩と後退りをする。
 それから、ぺたんと座り込んでしまった。
 バランス感覚を失ったように、べたんと。
 
「え……」

 智乃は、自分の握ったナイフに視線を落とす。
 ――紅い。――赤い。
 ――朱い。――赫い。
 ――あかい血が、誤魔化しようもなくべっとりとこびり付いていた。
 滴り落ちる血の滴が見慣れた家の床に染みを作っていく。やがて刃から柄を伝い、智乃の手にそれが付着した。

「ひっ!」

 思わず、ナイフを取り落とした。
 水や油なんかとは断じて違うぬるぬるとした感触と、鼻孔を擽る生臭さが、これが現実のことだと告げている。
 いっそ終始錯乱できていれば、彼女にとってはまだ幸いだったのかもしれない。
 今のは仕方のないことだった、正当防衛だと自己を正当化出来る自分勝手さがあれば、早々にこの場を立ち去るという選択肢を取ることも出来たかもしれない。
 いずれにせよ、心にダメージを受けるようなことはなかったろう。形や善悪はどうあれだ。

 だが、香風智乃は身勝手な人間ではなかった。
 もう一つ言うなら、香風智乃は冷静な人間であった。
 
 滴り落ちた血液が床とぶつかる音と、手で触れた血糊の感触が智乃を冷静にさせた。
 目の前にあるのは、言い逃れのしようもない凶行の痕跡だ。
 智乃は身勝手な人間ではないから、相手に責任を擦り付けて自分を正当化出来なかった。
 相手は何もしていない。ただ自分が勝手に錯乱して、無抵抗の相手を斬った。
 さっき起こったことはそれだけだ。――正当防衛? そんな理屈、成り立つ筈もない。

「あ……あ……!」

 そうして智乃は理解する。理解してしまう。
 逃避すればいいものを、事実をしかと受け止め、把握してしまうのだ。

 ――人を殺した。
 この手で、無抵抗な相手を殺した。
 ナイフを握って、
 その手を持ち上げ、
 姿勢を低くしていた相手の頭を狙って、
 ナイフを振り落とした。

「う……お、ぇええっ」

 智乃は今度こそ堪え切れずに嘔吐した。
 未消化の朝食と胃液が、零れた血を塗り潰していく。
 瞳からは滂沱のごとく涙が溢れ出す。
 罪悪感と自分への嫌悪感が、瞬時に恐怖を押し潰した。

 彼女は震える瞳で、自分が殺した"巨人"を見る。

134忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:09:51 ID:i.F5mlqI0
 ゆっくりと頭を上げて、その凶行の証を見る。
 血は、彼の居た場所へ近付くにつれ量が多くなっていく。
 そして遂に、自身の手で殺めた死体を認識せんとして――智乃は、一瞬自分の心臓が確かに停止する錯覚を覚えた。


「おい」


 そこには。
 

「この俺が――本能字学園風紀部委員長、蟇郡苛が――その程度で死ぬと思ったか」


 壁が。
 今さっき、自分が切り裂いたはずの"壁"が。
 頭から血を流しながら、されど傷を抑えようともせずに、立っていた。





 蟇郡苛は激怒していた。
 それは目の前で怯えた少女に対しての怒りではない。
 繭を名乗った少女。奇怪なカードを使い、人を殺した悪魔の様な少女。
 大半の参加者にとって恐怖の象徴であろう彼女は、しかし蟇郡にとっては異なっていた。

 ――よくも。

 彼は忠臣である。
 鬼龍院財閥のお嬢様であり、本能字学園の生徒会長を務める支配者、鬼龍院皐月に忠誠を誓った臣下である。
 彼女との劇的な出会いは一瞬たりとも忘れることはなかったし、望まれればあの時のやり取りを一言一句言い間違うことなく正確に復唱することだって出来る自信があった。
 そんな蟇郡だからこそ、許せない。
 人を殺したこと? 違う。
 多くの人間を不当に巻き込み、犬畜生のように殺し合うのを強要したこと? 違う。

 ――よくも。

 蟇郡は無論、そこにも怒りを抱いている。
 彼ら本能字学園四天王もまた、鬼龍院羅暁の目論見を打ち砕くべく団結し、武を唱えた身だ。
 顔も名前も知らない人間一人であれ、決して命を軽んじることを良しとしてなどいない。
 ましてそんな悪趣味な光景を皐月に見届けさせるなど、無礼千万である。
 だが、そうではない。蟇郡苛という男を真に激怒させたのは、この"腕輪"の存在だった。

 ――よくも、皐月様にこれほどの狼藉を働いてくれたな。

 腕輪とは言っているが、要するにこれがある限り、生殺与奪は繭なる娘に握られているということ。
 そしてこれは参加者個人の手では外せない。
 ならばそれは首輪と同じだろうと蟇郡は考える。
 犬は、自分の手で首輪を外せない。そして犬の生殺与奪は、首輪のリードを握る飼い主が常に握っているのだ。


(皐月様を犬と同列に扱う無礼……断じて許さん! この蟇郡、これほどの屈辱を味わったのは初めてだ……!!)

135忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:10:27 ID:i.F5mlqI0


 皐月の被る屈辱は、蟇郡にとっては彼女の数倍もの屈辱である。
 だから彼は今、過去かつてないほどに激怒していた。
 只でさえ悪い人相は、そんな精神状態なこともあって当社比三割増しくらいに悪くなっていたのだ。
 
 そこに錯乱した幼い少女がやって来る。
 少女は武器を持っている。
 そうなれば、何が起こるかは想像に難くないだろう。
 あら不思議、お手軽殺人事件の完成である。
 一つだけ異なることがあるとすれば、この蟇郡苛という男――"普通"の人生を送ってきた人間ではないということ。

 
 智乃の振るったナイフは、確かに蟇郡の頭を捉えた。 
 しかしだ。
 何の心得もない素人、それも幼い娘が錯乱しながらナイフを振り回した所で、その威力はたかが知れている。
 もし蟇郡が顔を覗き込もうとしていなければ、彼の纏う"極制服"に阻まれ、傷一つ付きはしなかっただろう。

 それに加え、蟇郡は頑強な男である。
 今は親戚の鉄工所で作って貰ったアイテムは持っていなかったが、それでもこの程度ならば恐れるに足らない。
 傷の見た目はそこそこ派手だったが、命どころか行動への別条すら皆無だった。
 だがそう、見た目だけはそれなりなのである。
 額を左から右目の下辺りまで、ナイフで切り裂かれた傷が斜め一直線に刻まれている。
 出血も、少女一人に人殺しをしたと錯覚させる程度にはしていた。

「ひ、ひっ……!」
「ええい、そう怯えるな! 貴様を取って食うつもりはない!!」

 危害を受けたのは紛れもなく蟇郡の方なのだが、相手は明らかに一般人だ。
 極制服など勿論纏ってはいないし、ナイフを使う動きも不慣れ。
 ――まず間違いなく、この殺し合いに不運にも巻き込まれた一介の少女と見て間違いないだろう。
 状況が状況だ。錯乱して斬り付けられた程度で激昂するほど蟇郡は器の小さい人間ではなかったし、第一今のは見方を変えれば不注意過ぎた自分にも責任がないとは言えない。

「傷も浅い! この程度、俺ならば唾でも付けておけば治るわ!
 ……それよりもだ。貴様、先程"お父さん"と言いかけていたようだが――この家の住人か?」
「……は、はい……」
「そうか……ならば謝罪しよう。些か考えが足りなかった」

 傷から滲む血を片手で拭いながら、蟇郡は智乃へと謝罪する。
 それに智乃はきょとんとした顔をした。
 彼女にしてみれば、相手は殺しかけた相手だ。
 反撃に遭うのは確実だとばかり思っていたから、この反応には思わず面食らう。
 そして、すぐに自分のしなければならないことに気付いた。

「……私の方こそ、ごめんなさい!」
「貴様が謝る必要はない」
「そんな……でも、私、あなたを殺しそうになって――」
「言ったろう。この蟇郡、錯乱した子女の刃で討ち取られるほど軟な男ではない!
 仮に先の一撃で俺が死んだのだとすれば、どの道その程度では皐月様をお守りするなど到底不可能な話だ。
 皐月様を守れぬ俺など、最早俺ではない。死んで六道輪廻の旅にでも赴いた方が余程有益である!!」

 凛と喝破する蟇郡。
 その大声にびくりと智乃は体を震わせたが、そこに敵意がないことは理解できた。
 ――ついでに、今ので大分頭も冷えた。

136忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:12:18 ID:i.F5mlqI0
「それに、俺が怒っているのは主催者――あの繭なる女だ」

 主催者、という単語を聞き、智乃は再び"見せしめ"が殺される瞬間を想起する。
 
「貴様は、奴が許せるか?」
「私は……」
「大方、貴様の友も巻き込まれているのだろう。
 ああいった手合いが全くの無作為で参加者を選出するとは思えん。
 ……悪趣味なことだがな。少なくとも俺には許せん。皐月様にこのような仕打ちを働いた挙句の鬼畜の所業、断じて捨て置けるものではないと実に憤慨している」

 心愛たちは、ただ普通に暮らしていただけだ。
 何も悪いことなんてしていない。
 そんな彼女たちが、きっと今頃は恐怖し、怯え、悲しんでいる。
 そう考えると――智乃の中にも、恐怖の他に湧き上がってくる感情があった。

「ません……」

 それは、温厚な彼女にしてはごく珍しい感情。
 彼女自身、これほどまでに強くその感情を抱いたのは初めてだった。
 友達との喧嘩など比べ物にすらならない。
 
「許せません……!」

 許せない。
 人の命を弄び、挙句罪もない人々を――自分の大切な友人を巻き込みせせら笑っている繭が許せない。
 智乃は今、確かに怒っていた。
 蟇郡の言葉は彼女の怒りを煽り立てるようなものであったが、実際、彼はそれを狙っていたのだ。

「ならば、よし」

 力なき者がいることは致し方ないことだ。
 誰もが極制服を纏って戦えるわけでも、あの繭のように摩訶不思議な力を使えるわけでもない。
 むしろそういった者はごく少数派だろう。大概はこの少女のように、無力で平凡な人間。
 それでも、心を強く保つことは出来る。
 恐怖に慄き、怯え続けるだけではなく――強い怒りを燃やし、それを繭への反逆の狼煙とする気概があれば。

 それは、単なる服を着た豚ではない。
 確たる志を持ち、明日へ向かわんとする戦士である。


「あ――あのっ」
「?」
「私は、チノ――香風智乃といいます。
 蟇郡さんが大丈夫なことは分かりましたが……一応、手当てだけはさせてください」
「分からん奴だな。これしきの手傷、唾でも付けておけば治ると……」
「させてください」


 台詞を遮って進言してくる智乃に、さしもの蟇郡も反論ができない。
 こういう強情さを発揮してくる奴には覚えがあった。
 満艦飾マコ。力はないが、しかし"なんだかわからないもの"を秘めた劣等生。
 だから蟇郡は、こういう時には素直に頷いておくのが賢明だと知っている。

137忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:12:50 ID:i.F5mlqI0


「……好きにするがいい」
「ありがとうございます。では」


 少し微笑んで、智乃は室内の救急箱を持ってくると、手当てへ取りかかりはじめた。
 蟇郡は手慣れたものだと内心感心していたが、当の智乃はといえばおっかなびっくりである。
 保健の授業で習った知識を必死に思い出しながら、丁寧に止血していく。
 それに甘んじながら、蟇郡はふと気が付いた。

「香風。貴様、この家の娘なのだったな? 此処は店か?」
「喫茶店です。名前は、ラビットハウス」
「そうか――茶、か……」

 そういえば、こういった大きな闘いの際に、揃三蔵――皐月の執事が入れる茶を飲まないのは珍しい。
 そう思い、蟇郡は呟いた。
 その声を拾った智乃は、ふと彼へ提案する。

「……飲みますか?」
「なに?」
「お茶じゃなくて、コーヒーですけど」

 ここはラビットハウス。
 智乃の働く喫茶店だ。
 何も全部が全部もぬけの殻というわけでもないだろう。
 コーヒーメーカーと豆、コップくらいはあるはずだ。

「……貰おうか」

 せっかくの提案を蹴り飛ばすのもどうかという話。
 蟇郡は毒気を抜かれた思いで、ふうと溜息を吐き出した。

138忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:13:20 ID:i.F5mlqI0


【G-7/ラビットハウス/一日目・深夜】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:果物ナイフ@現実
     黒カード:不明支給品0〜2枚、救急箱(現地調達)
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:蟇郡さんに、コーヒーを淹れる
   2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです


【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置中、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
     黒カード:なし
 [思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   1:コーヒーか……
   2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
   3:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです


支給品説明

【果物ナイフ@現実】
香風智乃に支給。
その名の通り、果物を切るのに適した小型のナイフ。

【三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル】
蟇郡苛に本人支給。
蟇郡が着用する三ツ星極制服で、これは最終決戦のために用意された最後の戦闘形態。
全身の布が皐月の縛斬と同等の強度を持っており文字通り『生きた盾』として機能する。

139名無しさん:2015/07/29(水) 03:16:10 ID:U4h/rEVE0
蒲郡先輩にすごく安心する

140 ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:16:11 ID:i.F5mlqI0
以上で投下終了です。
ですが、投下中に呼称のミスに気付いたのでそこだけ先んじて修正版を投下します。


「――お父さん……?」

 そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
 ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
 それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
 殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。

「――お父さん! おじいちゃん!」

 震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
 
 ――ラビットハウスは、ある。
 ――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
 
 二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
 ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
 なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
 人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
 彼女なら、そういうこともするのではないか。
 

 つまり、父とティッピー/おじいちゃんは……もう、とっくに――――


>
 修正箇所は以上です。お目汚し失礼しました。

141名無しさん:2015/07/29(水) 09:05:54 ID:KtSxH2Ek0
投下乙です

>輝夜の城で踊りたい

【悲報】咲勢、早くも池田単騎
また少女が殺し合いに乗ってしまった……
そしてスパウザーとビームサーベルで笑ったけどよく考えりゃかなりの当たりだよねサーベル


>忘れられないアンビリーバブル

智乃は暗黒面に落ちずにすんだか……
保護者も蟇郡先輩だし一安心
やっと今後に期待できるコンビが出来た

142名無しさん:2015/07/29(水) 13:48:15 ID:4GI4UGRw0
デブネキがスピリチュアルに殺し合いに乗ったか…これは強い

143 ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:10:50 ID:Vyha515w0
予約スレの方ではきちんとカウントされていたようなので投下します

144ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:13:20 ID:Vyha515w0
窓に映る月と星々。だが、それに対して感傷に浸る余裕は全くなかった。

とんでもないことに巻き込まれてしまった。
最初に土方十四郎が抱いた感情は至極まっとうなものである。
目が覚めたら知らない場所。突然言い渡された「殺し合い」。
気がついたらここはやけに馬鹿でかい建物の中の一室。
部屋を出ると、『音ノ木坂学院文化祭のお知らせ』とか様々な掲示物が壁沿いに貼られている。学院、ということは学び舎なのだろう。

今自分が置かれている現状が悪い夢だ、という考えはとうに捨てた。
右手首に巻かれている腕輪が、夢ではないという現実を嫌と言うほど見せ付けてくる。
自分は真選組、いわば警察だ。
参加者を殺して生き残るだなんてふざけた話、飲み込むつもりはない。
無論防衛となれば殺すのも已む無しと考えている。
だが、アーミラとかいうのが殺され、カードに吸い込まれた――あれを見る限り、この空間では常識は通用しないと考えていい。
幾ら何度も修羅場を掻い潜ってきた土方といえど、ここまで酷いものはなかったと溜息をつく。

ざっと名簿を確認する限り、坂田銀時をはじめとした知り合いが何人かいる。
と、同時に。

「あいつもか・・・・・・」

少なくとも十四郎にとって一番の頭痛の種は、神威の存在。
彼は自分の知る限りでは一番の危険人物。
好戦的な彼は、ひとたびスイッチが入れば周りの者を次々殺してゆくだろう。
ここが殺し合いの場だというのなら尚更だ。

とにかくこういう時に必要なのは仲間だ。
神威のような者もこの殺し合いに参加しているということは、もしかしたら他にも異様な強さを持った者が参加していてもおかしくはない。
だが、グループを組めば話は変わる。

145ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:14:47 ID:Vyha515w0
いつも吸っている煙草が見当たらないことに不満を覚えつつ、とりあえず道具を確かめる。確か黒い「ランダムカード」に入ってる筈・・・・・・。

「何だこれは・・・・・・」

――出てきたのは、どうみても何の変哲もない、着物を着た人形だった。
カードを腕輪から抜くと、人形が消えると同時に名前が浮かび上がってきた。

こまぐるみ(お正月バージョン)・・・・・・。

「何でこんなものあるんだオイ! どう考えても殺し合いと全く関係ないぞ!? 
 何か仕込んでる様子も全くないし、完全にハズレ引いちまったじゃねーか!」

カードを思わず地面に叩き付ける。これはあまりにも幸先が悪い。

「しかもお正月バージョンって何!? もう年あけてからだいぶ経ってるし!? 
 全くめでたくねーよこんなもの!」
ニコチン切れもあって八つ当たりが激しくなっているが、だからといって現状が解決するわけでもない。

一応カードは拾っておき、次のカードを確認する。
残りが武器でなかったらどうしようか。
武器を持った参加者と合流出来るという保障はどこにもない。最悪ただの足手まといになる可能性も否めない。
可能なら扱い慣れている刀剣類であって欲しいと2枚目を出したのと、廊下の方から「あら?」と声を掛けられたのはほぼ同時だった。


「てめーは・・・・・・?」

十四郎が振り向くと、先ほどまで居た教室とは別の教室から1人の少女が出てきた。
黒髪で、白い花の髪飾りをしている。
身長は低く、知り合いの中だと志村新八あたりと同年代だろうか。

「最初に聞く。てめーは殺し合いに乗っているか否か」

返答次第では即座に武器を取り出すつもりで尋ねる。

146ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:15:27 ID:Vyha515w0
「大丈夫よ。そんなことよりあなたは? 私は宇治松千夜」
「土方十四郎・・・・・・」

互いに軽く自己紹介を済ませ、しばらく顔を見合わせて様子を伺う。
数十秒の沈黙が過ぎ、千夜が口を開いた。

「・・・・・・あなたはどうするの?」
「こんなふざけた遊戯をとっとと終わらせる。
 誰かに攻撃されれば反撃はするが、こっちから殺して回る気は今んとこねーよ」
「そう、それなら良かったわ。あなた、面白そうな人だし」
「なんだと小娘が!」

ふふ、と微笑む千夜を生意気な野郎だと思いつつも、ひとまず安心出来る人間と出会えたのは幸いとしておこう。
そこで彼女に話を持ちかけた。

「てめー、俺と一緒に来る気、あるか?」

え? と返す千夜に、こう続ける。

「一応元居た場所じゃあ俺は警察やってたんでね・・・・・・
 お嬢さんの護衛くらいなら、引き受けてやるよ。
 それに、仲間ってのは多い方がいいもんだ」
「あら嬉しい。私も会いたい人がいるし・・・・・・。
 それじゃお願いしますね〜、ドシロートさん」
「十四郎だ馬鹿! せめて土方と呼べ! 一発ぶん殴ってやろうか・・・・・・」

痛いのは嫌よ〜 とにこやかに返す千夜。
ともかく、まずはいざと言う時に素早く動けるようにこの建物を出よう。
屋上があるのならそこでもいいのだが、今はまだのんびりしていられない。
支給品の確認は、その後でもいいだろう。

* * *

147ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:16:35 ID:Vyha515w0
宇治松千夜のゲーム開始地点は、土方のスタート地点から2つ隣の教室。
制服を着ていたことから、授業中に寝てしまってそのままこんな夜中になったのかと錯覚した。
だが通っている高校とは明らかに違う風景が、そうではないと教えてくれた。
手元にあった黒いカードの中身を取り出してみると、出てきたのは拳銃。
カードには「ベレッタ92及び予備弾倉」と浮かび上がる。

・・・・・・千夜の顔はこれを見るなり青ざめ、即座にカードの中にしまった。
友人である天々座理世のコレクションのモデルガンの1つだと決め付け、あくまでこれが本物の銃であることを認めなかった。
認めてしまえば、この殺し合いが夢やタチの悪いドッキリではないという、『現実』であるということを許してしまうから。
名簿には、千夜以外にも保登心愛たち4人の知り合いが載っている。
どんなに頑張っても、5人のうち4人は確実に死ぬ。
そんなことを、認めたくはなかった。

ふと、廊下の方から聞こえてきた誰かがツッコミを入れる声。
彼女は普段から色んな形でボケては誰かにツッコミを入れてもらい、それを日常風景の1つとしている。
廊下に出て出会った土方十四郎のツッコミはかなり鋭く、割とすんなり打ち解けることも出来た。
名簿にあった見知った名前、友人の持ち物、そしてツッコミを入れてくれる人。
これらの要因が、彼女に現実逃避への一歩を踏み出させてしまったのである。
これは何かの間違いだ、朝にもなれば元の生活に戻れる、と。


宇治松千夜は、殺し合いという現実を直視していない。
それがどんな運命を招くかなど、微塵にも考えようとはしなかった。

148ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:17:14 ID:Vyha515w0
【A-2/音ノ木坂学院/深夜】

 【土方十四郎@銀魂】
 [状態]:健康、煙草がないことに若干の苛立ち
 [服装]:真選組の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより
黒カード:不明支給品1〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
   1: 千夜の護衛をしつつ、更に仲間を集める
   2: 神威には警戒

 【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:健康、現実逃避
 [服装]:高校の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: 土方と共に行動、心愛たちに会いたい
   1: 十四郎さんって面白い人ね〜♪
   2: これは夢か何かの間違いだ
[備考]:ベレッタを天々座理世のコレクションのモデルガンだと思い込んでいます。

支給品説明
【こまぐるみ(お正月バージョン)@のんのんびより】
参加者の1人である一条蛍が、越谷小鞠を模して作った人形・・・・・・のお正月バージョン。

【ベレッタ92及び予備弾倉@現実】
世界中の警察や軍隊で幅広く使われている拳銃。支給された予備弾倉は3つ。

149 ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:18:30 ID:Vyha515w0
投下を終了します。

150名無しさん:2015/07/29(水) 22:29:26 ID:uyxJnYXI0
乙です
うん、こういう逃避する人っていますよね、表面だけなら微笑ましいやり取りなのに
土方さんがお花畑の餌食にならない事を祈る
それと予約見逃してごめんなさい

151名無しさん:2015/07/30(木) 00:37:21 ID:???0
総合板の方に本スレ(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1438182076/)を建てたので今後、本投下はそちらにお願いします

そして◆7fqukHNUPM氏の「その嶺上(リンシャン)は満開」を代理投下する際に、環境の違いから花の文字が文字化けしてしまった事をここで謝罪しておきます
申し訳ありませんでした

152名無しさん:2015/07/30(木) 00:51:48 ID:uyxJnYXI0
現在位置のMAP 4話まで更新しました
ローカルルールの現在位置をクリックすれば見れます
ttp://imgur.com/RcIQp9A

153名無しさん:2015/07/30(木) 01:10:16 ID:4j0v9N4w0
>>152
おお、乙です
ただ雑談スレに投下したほうがかもですね

154 ◆7fqukHNUPM:2015/07/30(木) 01:13:43 ID:BdTC6OQA0
>>151
こちらこそ文字化けの可能性を考慮しておりませんでした
代理投下ありがとうございます

そして、今さらですが「その嶺上(リンシャン)は満開」において本来挿入すべきだった文章の抜けがありました
本スレの方に修正版を投下してまいります

155 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:04:34 ID:d5cZUgas0
予約分を投下します

156 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:06:35 ID:d5cZUgas0
「――――うわああああああああああああ!!!!?」

江戸時代の家屋を匂わせる和風の部屋の中、ソファに全身を乗せていた矢澤にこは意識が覚醒するとともに跳び起きた。
息で肩を揺らしながら、周囲を見渡す。
デスクの上には『糖分』の二文字が額に飾られている。なぜ『糖分』にする必要があったのか意味が分からない。
目の前には膝丈くらいの高さの机、向かい側にはもう一つのソファがある。
そこから少し目線を逸らすと、筒の上に見ているとこっちまでやる気をなくしそうな表情をした顔をちょこんと乗せた、手が生えている変な置物があった。

「ゆ、床が崩れて――私、落ちて、ない?」

この場で目覚める前に起きたことを思い返す。
いつの間にか白い部屋にいたと思ったら髪の毛がもじゃもじゃした女の子がいきなり『殺し合いをしてもらう』なんて言い出した。
そしたら同じもじゃもじゃアフロの男の人が抵抗して、隣にいた綺麗な人が翼を生やして猛スピードで飛んで――。
――待って。待って、ちょっと待って。

「…でも、夢じゃないのよね」

俯きながら暗い声色でつぶやいた。
戦争とは無縁のスクールアイドルのにこにとって、
それは『頭がどうにかなりそうだった』で片づけられることではなかった。
そんなもの夢か幻だろうと自分で自分を鼻で笑ってやりたいが、にこの目に映る見覚えのない部屋がこれは現実だと訴えていた。

「そうだ!白いカード…」

ふと、にこはある不安から殺し合いを強いた少女の言っていた腕輪とカードのことを思い出し、自分の腕を見た。
確か、あの少女は白いカードには必要な情報が「願ったら表示される」といっていた。
にこは真っ白な長方形に向かって、この狂ったゲームに巻き込まれた者達の一覧を映すよう念じてみる。
夢で終わってほしい…そう願っていたことが全て現実なのだとしたら、あの白い部屋で見た――。



高坂穂乃果。南ことり。絢瀬絵里。東條希。



やはり現実だった。
あの白い部屋にいた、にこのかけがえのない友達の名が、無慈悲にも突きつけられた。

1579人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:07:44 ID:d5cZUgas0

「……黒いカード…黒いカードには何が入っているのかしら」

あまりにも残酷な事実に、にこは何も考えられなかった。
この殺し合いが招く最悪の事態のこと考えたくなくて、そのことをできるだけ考えないようにした。
詰まる所、現実逃避だ。
手始めに、ソファに腰かけ、黒いカードを一枚手に取って『出てこい』と念じてみた。

「ヒィッ!?」

出てきた物は、時代劇でしか見たことのなかった刀だった。
にこは自分が殺し合いの渦中にいることを改めて認識し、短く悲鳴を上げる。
おそるおそる、鞘から刀を抜いてみる。どうやら正真正銘本物のようだ。
その刀身は部屋の明かりを反射して光り輝いており、切れ味も相当なものだとにこの素人目から見てもわかる。
「うう…」と声を上げながら、刀を梢にしまう。

「刀って案外重いのね……って何これ?」

現実から目を背けて何気ない感想を漏らしていると、黒いカードから刀と一緒にある物が出ていたことに気付く。

「…イヤホン?」

にこもよく見慣れている、音楽プレーヤーの再生には欠かせないあのイヤホンだ。
黒いカードは1枚しか使っていない。一緒に出てきたことは間違いないだろう。
スクールアイドルのにこからしてみればイヤホンと刀の組み合わせなど異色以外の何物でもない。
にこは怪しく思い、顔を近づけて刀をよく見てみると――

「…何で刀にイヤホン入れる穴があんの?」

柄の部分にイヤホンジャックがあった。


◆ ◆ ◆


イヤホンを通して、曲がにこの耳に入り込んでくる。
そのイヤホンは刀の柄にあるイヤホンジャックに繋がれていた。
どうやらこの刀は驚くべきことに音楽プレーヤーを内蔵しているらしい。
こんな刀にどんな曲が入っているのか。
好奇心半分、現実逃避欲求半分でイヤホンを両耳に、音楽を聴いてみることにした。
明るい曲調の前奏がエレキギターで奏でられ、女の人の歌声が聞こえてくる。

1589人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:08:17 ID:d5cZUgas0


怖くなんかないもん だってあなたがいるから
もう覚悟は決めたよ だから引き返したりしない


この人もアイドルをやっているのだろうか。


当たり障りのない世界 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ だからまばたきするな!
及び腰の偉い人 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ なれてくると危ない!


楽しそうに歌う声を聞いているとμ'sのことを否が応にも思い出してしまう。
μ'sがあったからこそ、にこは諦めかけていたスクールアイドルを続けることができた。
高坂穂乃果。園田海未。南ことり。西木野真姫。星空凛。小泉花陽。絢瀬絵里。東條希。
そして、矢澤にこ。この9人は、にこにとって奇跡以外の何物でもなかった。


さあ、規制なんか振り払い、どこまでもいこう
……見たことのない新しい世界へ


だから、そんな奇跡をこんなわけの分からない殺し合いで壊されたくない。
この9人は誰も欠けてはいけない。9人揃って初めてμ'sなのだ。


放送コードがなんぼのもんじゃい! ブレーキなんて必要ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! いつも心に白装束
放送コードがなんぼのもんじゃい! 始末書差しかえ関係ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! 後戻りはできない


怖い。悲しい。辛い。けれど、この曲を聴いていると、歩き出すためにソファから立ち上がれるくらいの勇気はもらえた気がした。

「なんぼのもんじゃーい……」

歌の練習をしていたときのことを思いながら、少し曲に合わせて歌ってみた。
矢澤にこも、音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ's』の一員なのだ。




「――怖いものは××××《ピー》 だってあの人きち××《ピー》だから……!?」

この曲も2番目に入ったのだが、よくよく聴いていると…何かがいけないような気がした。

「ちょっと待てェェェ!!何でこの曲放送コードだとか××××《ピー》だとかきち××《ピー》だとか××《ピー》みたいな単語歌詞に入ってるのよ!!この曲作った人頭おかしいんじゃないの!?」

にこはソファから立ち上がってイヤホンを乱暴に外した。
思えば1番目の歌詞にもくそくらえとかアイドルにしては割と汚い言葉を使っていた。
それとも、この歌を歌うアイドルはそういうキャラ作りをしているのだろうか。

とにかく、ここでじっとしているわけにもいかない。
にこの役に立つかはわからないが、せめてもの護身用にと刀をカードに戻さず持ち歩くことに決めた。
イヤホンをポケットに入れ、手こずりながらも刀をようやく胸の高さまで抱えることができた。
今度は立ち上がるだけではなく、一歩を踏み出す番だ。
にこが意を決し歩を踏み出した瞬間―――

1599人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:09:03 ID:d5cZUgas0




「お通ちゃんんん!!」




「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

ガラガラガラと玄関の引き戸を勢いよく開けて入ってきたのは、袴姿とメガネくらいしか特に特徴のなさそうな地味な少年であった。
突然の出来事にただでさえ高まっていた緊張も最高潮になり、思わず叫んでしまった。

「……」
「……」

ひとしきりの悲鳴が鳴り終わると、今度は沈黙が空間を支配する。
にこは刀を携えたまま固まっている。
少年もどうしていいかわからずその場から動かなかったが、少年の泳いでいた目線が刀を捉えた。

「あ、あの、これは」

刀を凝視する少年を見てなんとなく状況を察したにこは釈明するべくストップしてしまった頭を動かそうとする。
刀を持つ手は震えており、非常に危なっかしい。

「い、いや!違うんです!万事屋の中からお通ちゃんの歌が聞こえたからまさかと思って…と、とにかく僕は乗ってませんから!あなたを襲おうとも思ってませんから!ラブでライブなランデヴーなんてしませんからァァァ!!」

先に釈明したのは少年の方だった。
言葉からは必死さが伝わってきた。

「…ラブでライブなランデヴーって何?」


◆ ◆ ◆


少年の名は志村新八といった。
坂田銀時の営む「万事屋銀ちゃん」で働く、かぶき町における貴重な常識人だ。
外見的特徴はメガネ以外にこれといってない。ぶっちゃけ地味である。
そんな地味なメガネもとい志村新八も、この狂った殺し合いを強要された者たちの一人なのだ。

新八の意識が暗転してから初めて目覚めた場所は、地図によるとF-7らしかった。
なぜそんなことがわかるのかというと、新八の目と鼻の先には慣れ親しんだはずの万事屋銀ちゃんの看板があったからだ。
1階にはスナックお登勢もある。

なんでこんなところに万事屋が…とは思ったが、白い部屋での一件を思うと何があってもおかしくない。
女性が翼を生やして少女に立ち向かったはいいものの、少女が召喚した竜の手によってあっさりと返り討ちにされてしまった。
というか何なんだよあの反則技。なんであの主催者カードバトルしてんの!?しかもいきなりエクゾディアみたく腕だけ召喚したよ!!1ターン目からエクソディアって…最初からクライマックスってレベルじゃねーぞ!!
ってなんでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲まで地図にあんだよ!!あれ実在したの!?というかあんな卑猥な形したモン集めるとかあの主催者どんな趣味してんだ!!

1609人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:09:33 ID:d5cZUgas0

…いや、ツッコんでいても仕方がない。
あの少女の話によると、身体が死ぬと魂がこの白いカードに封印されるという。
このルールは単なる死への恐怖とは別の恐怖を煽るだろう、と新八は思った。
あの世にもいけず、永遠にカードの中に閉じ込められるのだ。考えただけで恐ろしい。

名簿にはもう目を通している。
僕の知る人物は銀さん、神楽ちゃん、土方さん、桂さん、長谷川さん、そして神威。
前の4人に関しては簡単に死ぬことはないと思う。
長谷川さんも悪運は妙に強いところがあるので大丈夫だろう。
しかし、問題は神楽ちゃんのお兄さんでもある神威だ。
彼が一度戦闘をすればそこら中が焼け野原になってしまう。
とにかく、神威以外の5人は僕としても信頼できる人物なので、できるだけ早く合流したい。

目の前にある万事屋には、明かりがついていた。
ということは、誰かが中にいるということだ。
僕は神威以外の人物と出くわすことを願いながら万事屋に近づいて――



「――それで、好きなアイドルの曲を歌っていたのを盗み聞きして飛んで入ってきたってわけ?」
「盗み聞きって…まぁ事実だけど。お通ちゃんまでいるのかと思ったらいてもたってもいられなくって。名簿に見落としがあるかもしれないし」
「悪かったわね。好きなアイドルじゃなくって」

にこと新八は向かい合ってソファに腰かけていた。
新八はどうやら、寺門通というアイドルが殺し合いに巻き込まれていると勘違いしていたらしい。
新八も大半の参加者と同じく恐怖心を拭えていなかったため、にこの刀を見てビビッてしまい、
自分は殺し合いに乗ってないことを何とか伝えようとした結果があのセリフだった。

ラブでライブなランデヴーてどういう意味だよお前…と新八は自分で自分にツッコミを入れたかった。
万事屋に飛び入ったものの、そこにいたのは自分より小柄な、どう見ても年下の少女だった。
よりにもよって年端もいかない少女に向かって言ってしまった。

「でも、本当に名前も知らないのかい?」
「寺門通なんていうトップアイドルなんて聞いたこともないし、そんな有名なアイドルだったらにこが知らないはずないわ。江戸も万事屋も知らない」

あれから何とか落ち着きを取り戻した二人は互いのことを話した。
当然のことながら、話が噛み合わない。
江戸で寺門通を知らないとなれば相手を鼻フックデストロイヤーファイナルドリームの刑に処すところだが、
今回ばかりは事情が違い、相手は年下の少女なので新八はさして気にしない。

にこから見ると、この新八という地味なメガネが袴姿だということにもツッコみたかったが、
いざ話してみれば江戸だとか侍だとか天人だとか、わけのわからないことばかり話してくる。
にこの世界では、江戸や侍は歴史の授業と時代劇で触れるくらいでこの世に存在していないのだから無理もないだろう。
天人――宇宙人に関してはSF映画くらいでしか知らない。

「僕もにこちゃんの言ってる『みゅーず』は知らないなぁ。石鹸をPRするためのアイドルでもないんだよね?」
「いや、石鹸じゃないから。スクールアイドルだから」
「じゃあ、B'zの姉妹グループとか?」
「いやそれだとμ'zだから。μ'zじゃなくてμ'sだから」

新八も新八で、秋葉原やμ'sやという言葉を聞いて頭上に疑問符を浮かべていた。
ラブライブ!という言葉を聞いてとても気まずそうな顔をしていた。
一応、にこの熱弁により新八にもスクールアイドルは理解することができた。
テラコヤアイドルとかいったら何故か怒られたが。
結局、二人がきっちりと理解できたのは互いのアイドル事情と住む世界が違うことくらいであった。

1619人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:12:31 ID:d5cZUgas0

「…あの、一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「その寺門通ってどんなアイドルなの?」

なぜにこがそれを聞いたのかというと、単なる興味だ。
たとえ住む世界が違っても、歌って踊れるアイドルがいるということは共通している。
新八の世界の話を聞いていると、江戸のトップアイドルについて知りたくなったのだ。

「どんなアイドルっていうと…そうだね、歌って踊れて…あと、どんな逆境にもめげずに頑張れる強い精神を持ってるアイドルの中のアイドルだよ!
あとは、語尾に何か言葉を繋げるお通語で話すってとこもポイントかな。ありがとうきびウ○コって感じで」
「ウン――!?」

先ほどの『放送コードがなんぼのもんじゃい!』みたいな歌である程度は察していたが、割と下ネタを進んで使うアイドルなのね、とにこは思った。
まだμ'sに入っていなかった頃に後輩にキャラ作りについて話したことがあったが、寺門通というアイドルはお通語でキャラ作りをしているらしい。

「じゃ、じゃあアンタは、なんでそのお通ちゃんを好きになったの?」
「お通ちゃんも元は無名だったんだけどね。僕が自暴自棄になって何もかもがどうでもいいって思い始めてた頃、
お客さんが誰もいないのに路上ライブしていたお通ちゃんの姿を見ていると元気が湧いてきたんだ。
勇気をもらえたから、僕はお通ちゃんを応援したいんだ」

寺門通の話をしている新八は、なんだか嬉しそうだった。
それを聞いたにこは、μ'sに重なるものを感じた。
μ'sの9人も、逆境にめげずにいたからこそ、前に進むことができた。
アイドルとは笑顔を見せる仕事ではない。笑顔にさせる仕事なのだ。

「…アンタはにこがスクールアイドルってこと、知ってるわよね?」
「うん、μ'sっていう9人のテラ…スクールアイドルなんでしょ?」
「私も最初は怖かったけどね…アンタがここに来る前にお通ちゃんの歌聞いて、ちょっと勇気もらっちゃった。私も形は違うけどアイドルだから、その話なんとなく分かる気がする」

確かに歌詞はツッコミ所満点だったが、なんとなく前に進もうという気になれたのは事実だ。

「私以外のμ'sのメンバーも4人、ここにいるの。μ'sは私にとって奇跡なの。誰も欠けちゃいけないの!だから…その…い、一緒に、探してくれない?」
「もちろん!」

新八は即答した。
誰も欠けてはいけない…それは万事屋にも言えることだ。
銀さんに神楽ちゃん、そして志村新八。
この3人が揃って万事屋銀ちゃんなのだ。
新八はにこの言うことが痛いほど理解できた。

「μ'sって音ノ木坂学院ってとこのスクールアイドルだよね?なら、地図に…あった。ここに向かえば、どっかにいるにこちゃんの仲間も集まってくるんじゃないかな」

そう言って新八は地図が移された白いカードをにこに見せる。

「え!?ちょ、何で音ノ木坂学院がそこにあんのォ!?」
「こっちが聞きたいよ…。一応、ここが万事屋銀ちゃんね。僕がいつも働いてるとこ」

地図を見てにこは愕然とする。
新八によると、二人が今いるこの場所も本来は江戸にあったという。

「にこちゃん、今は考えても仕方ないよ」
「うっ…そ、そうよね。私も音ノ木坂学院に向かおうと思う。駅から電車に乗ったらできるだけ早く着くかしら」
「なら、決まりだね」

今後の方針は決まった。
駅を経由して音ノ木坂学院へ向かい、その過程で協力できる人やμ'sのメンバーを探す。
なぜ鉄道がここに敷いてあるのかは考えたくなかった。

「あ、そうだ。にこちゃんの持ってた刀、使わせてくれない?」
「へ?いいけど…」
「ありがとう。こんななりでも家が剣術道場だから、いざとなったらにこちゃんを守れるかもしれないからね」

新八はソファから腰を上げ、机に置かれていた刀を携える。
袴を着た地味なメガネだというのに、その姿はにこにはとても頼もしく見えた。

こうして、志村新八(16)と矢澤にこ(18)は動き出した。
彼らの行く先に何が待っているのか、それは誰にも分からない。

1629人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:13:33 ID:d5cZUgas0


【F-7/万事屋銀ちゃん内/深夜】

【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:にこと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
3:神威を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※矢澤にこを年下だと思い込んでいます

【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚、菊一文字RX-78@銀魂に付属していたイヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう 
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました

【菊一文字RX-78@銀魂】
沖田総悟が使用している刀。矢澤にこに支給。イヤホン同梱。
長船M-IIの倍の価格で売られている大業物。
最大の特徴は内部にデジタル音楽プレーヤーを搭載している点であり、
連続再生時間は最大でなんと124時間(日数にすると5日と4時間分)にも及ぶという、D-snap(100時間再生)を凌駕している代物。
柄の部分にイヤホンジャックがある。
プレーヤーには寺門通の歌う曲が入っているが、他にどんな曲が入っているかは後続の書き手の方にお任せします。

163 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:18:08 ID:d5cZUgas0
以上で投下を終了します
◆DbK4jNFgR6氏の『ご注文は狙撃手ですか?』と場所が被っていたため、仮投下させていただきました。
一応時間帯は深夜ですのでリゼ達からは万事屋の間近にいる新八は暗くて見えなかったという理由づけで大丈夫でしょうか?
もし問題があれば指摘お願いします

164名無しさん:2015/08/03(月) 23:30:18 ID:VoAXChtU0
投下乙
そういやぁそんな機能あったなあの刀www
リゼ組とはニアミスしたってことで大丈夫だと思います

165 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 06:58:40 ID:joh5PNzo0
予約分を投下します

166正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:00:14 ID:joh5PNzo0
 ほの暗い闇に覆われた映画館が証明によって照らされる。
 外部に明かりがもれない構造なのは衛宮切嗣は確認済みだった。
 何も写していないスクリーンを前に煙草を手に彼は席に腰掛ける。

(どうしたものか)

 煙草を一本取り出し口に咥え、溜息のような息を吐きながら思案に暮れ、自らの腕輪を調べた。
 腕輪やカードに何らかの力のようなものは感知できるが、魔術師である彼がよく知る魔力かと断ぜない不可解な力。
 先ほどの白い部屋といい、催眠術に完全に掛かったか、あるいは何らかの方法で異界に落とされたとしか材料不足で
無理やりでも判断しなければ彼にとって動きようのない状況だった。

(……サーヴァントが3体、僕と元マスターの言峰綺礼を含めマスターが確認出来るだけでも3人か)

 名簿確認しながら切嗣は苛立ちを吐き出すかのように煙草を噛む。
 スタートの場に自らのサーヴァント セイバーの姿が確認したのを思い出し、また煙草を噛んだ。
 切嗣は繭に生殺与奪権を握られているだけに、殺し合いに対して取るべき手段は優勝狙いが一番効率がいいと思っていた。
 仮に切嗣が参加者内で随一の力を持つなら、女子供を含め鏖殺するのに支障などないだろう。
 衛宮切嗣は感情と行動を切り離せる男だ。
 だがサーヴァントが参加者であるなら話が変わってくる。

 切嗣は繭にさらわれる前、聖杯戦争というバトルロイヤルに参加していた。
 奇跡を起こし得うる願望機を使用するために、7人のマスターと7体の英霊――サーヴァントと最悪最後の一組以下に
なるまで殺しあう争奪戦、それが聖杯戦争。切嗣も願望機の使用が参加理由だった。
 切嗣の知る限り願いを叶えるだけの力を聖杯が発揮するには6体の英霊の脱落が条件である。
 ここでセイバー、ランサー、キャスターのうち2体以上が脱落してしまえば、聖杯戦争が成たたなくなってしまう懸念が彼にはあった。
 その理由は死んだ参加者の魂はカードに封じられるという事実。

 聖杯戦争においてサーヴァントが倒されると、その魂が元の場所に戻る際に空間に孔が開く。
 その孔を利用して聖杯を起動させるのに、その魂がカードに封じられてはどうしようもない。
 優勝者には願いを叶えると言っていたものの、初対面ということもあり願いがどれだけの範囲まで適用されるか判断できなかった。
 その上、あの時の繭の楽しそうな様子から察するに、敗者の魂の解放の要求は容易に受託されるものではないと思えた。
 手間が掛からない、例えば優勝者のみ元の居場所への帰還などは、よほど機嫌を損なわない限り叶えられそうな感じだが、
切嗣にとってそれは受け入れられるものではない。

 
 衛宮切嗣は人間的には外道と見なされる魔術師である。だが冷血ではない。
 彼はこれまでの人生で、何年かの休止があったもののより多くの人を救う為に独自に鍛錬を重ね、心を砕きながら戦場や裏社会で活動していた。
 だがその手段と思想は、より多くを救うために必要最小限の犠牲を見極め、容赦なくそれを駆逐するというもの。
 それはかつて災厄になりうる幼なじみを前に選択を放棄したがゆえに、惨劇を引き起こしてしまった負い目が原点であった。
 そうした行為の繰り返しは現実の過酷さと合わせ彼の心を痛めつけ、遂には超常の聖杯を求めるまでに至った。
 そんな彼が聖杯を、自らの意思で願いを叶える事を簡単に諦められる筈がない。
 切嗣は思案の前に腕輪から出した黒のカードを取り出して呟いた。

「詳しく調べさせてもらうよ」

 声を受け1枚の黒のカードが微かに動き、何枚ものファンタジックなイラストが描かれたカードが現出した。
 支給品確認はここに飛ばされた直後に既に行っている。目当ての武器はなかった。
 代わりにあったもので目を引くものは有益とは思えない面倒臭そうなアイテム。
 1枚のカードが蠢き、それを指に挟んで正面へ向けた。

 衛宮切嗣は英雄が嫌いだ。人々のヒロイズムを刺激し戦争を助長する存在であるから。
 それは自らのサーヴァントであるセイバーにも向けられ、一度しかこちらから話しかけた事がないくらいだった。
 故にここに置いても彼がサーヴァントに話しかける気はない。
 だから指に挟んだあれも煩そうなのもあったが、サーヴァントの一種の可能性を考え早々に黒カードに収納していた。

 そのカードに写るは1人の女性。
 茶色のツインテールに、ドクロのような帽子、胸元にでかいリボンという格好の十代前半の少女だった。
 それはただのイラストなどではなく。


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