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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

493和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:32:34 ID:UtG9Nc7s0
「なるほどな、あの3人がゲームセンターまで来た事情……俺があそこで折原臨也に聞いたものと相違はないな」

「チノ、大変だったんだな……大丈夫だったか? 誰かに怖いことされなかったか?」

「え、ええと」

「……風見、天々座。ちょっとばかし質問があるんだが」

また暴走しそうになるリゼを抑え、承太郎は聞いておかなければならないことのために言葉を紡ぐ。

「あのテレビを見てたってなら話は早い……あいつが名乗っていた『ジル・ド・レェ』ってのがどうにも気になる。何か知ってることはないか」

その質問に、リゼもチノから離れて考え込む。

「ジル・ド・レェって、そういえば高校の世界史の授業でそんな名前を聞いたような……確か、昔のフランスの戦争で……」

「……14世紀から15世紀にかけて、フランスとイングランドとの間に百年戦争といわれる戦争があった」

静かに語り出したのは雄二。

「その末期、オルレアンの戦いでフランスの一軍を率いたジャンヌ・ダルク……
 彼女を助け、勝利に導いたのがジル・ド・レェ――。本名は確か、ジル・ド・モンモランシ=ラヴァルだったな。
 その後は錬金術や魔術に耽溺し、何百人もの幼い少年を殺害。最後は絞首刑となったはずだ」

「え? え? ちょっと待ってください、14世紀、15世紀って……?」

唐突に始まった歴史の話に、チノは戸惑いを隠せない。

「1300年代から1400年代。今から600年ほど前になるな」

「そんなバカな……! タイムマシンでもあるってのか!?」

「え、それにその、ジャンヌ・ダルクって名前、さっき……」

ここに来てからというもの数多くの不思議な事象に行き会ってきたリゼや蛍にも、この話はかなりの驚きだった。

「ああ、放送で呼ばれていたな。
 聖処女ジャンヌ・ダルク……やはり百年戦争終結の立役者。ごく普通の農民の娘だったが、神の声を聞いてフランスを率い、最後は火炙りにされた」

「とんだこった……歴史上の英雄様がこんな辺鄙な島に勢揃い、でもって片割れは勝手にくたばりましたってか? 不思議のバーゲンセールだなここは」

「まあ、どっちも本人とは限らないな。単に自分のことを過去の英雄だと思い込んだ妄想狂の類なのかもしれん。
 それに承太郎、不思議のバーゲンセールと言ったが、俺にはさっき君が見せてくれたスタンド能力とやらも十分すぎるほど不思議に見える」

「まあな……」

「それだけじゃない。このカードと腕輪。俺の支給品の剣の解説にある『魔術』。生身で街を破壊したらしい平和島静雄とかいう男。
 チノ、君の友人が記憶を消されているらしいって話もあったね。
 正直、俺がここで出くわすのは、俺の常識や理解のレベルを超えたものばかりだった。
 そういう怪しげな類のものには十分注意すべきだが、しかし逆に――」

雄二はそこで一旦言葉を切り、低い声で続ける。

「逆に、そうした力がこの腕輪、そして魂を閉じ込めるという白いカード――
 これらを何とかするための鍵になるんじゃないかと、俺は考えている」

雄二の言葉に、一同は再び緊張に包まれる。
無理もないだろう。話が、世界史の復習から一気にこの殺し合いの核心へと移ったのだから。

「たっだいまーー! ごめんねー、いやいや〜入念に調べてたらすっかり遅くなっちゃって」

その緊張を破ったのは、雰囲気に似つかわしくない軽薄な声。
最初にここからゲームセンターに向かっていった3人のうち2人。折原臨也と衛宮切嗣。
彼らが遅れて帰ってきたのだ。







494和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:33:00 ID:UtG9Nc7s0





「でもよかったよ、チノちゃんも蛍ちゃんもリゼちゃんもみんな無事で。女の子は大事だからねえ」

男女合わせて7人の大所帯となったラビットハウス。
帰ってきた臨也と切嗣の2人を加え、チノとリゼが甲斐甲斐しくコーヒーを出す中、再び各自で朝食をとりながらの情報交換となる。

「リゼちゃんたちが行ったあと、僕と衛宮さんの2人でゲームセンターをよく調べたけど。怪しいものはなかった……。ですよね。衛宮さん」

ここに入ってきたときのままの軽い口調でありながら会話の主導権を握ったのは、折原臨也。

「……ああ。折原君の言う通りだったよ」

一方、衛宮切嗣は自ら言葉は発さず、ほとんど受け答えに終始する。

「……」

そんな2人に、空条承太郎は雄二や少女たちに向けるものとは違った眼差しをときおり送っていた。

「ま、この通り僕らのほうは新しい収穫なしって有様だよ。
 ただ、僕の支給品のこのスマートフォン。これに入ってるチャットとかを使って連絡ができそうってのは分かったんだけど。
 でも、どうもこれ、あの繭ちゃんって子に監視されてるっぽいんだよねえ」

「なるほどな。外部への連絡手段がないかと思っていたが、そう簡単に渡すはずもないか。
 ……繭に監視されてるだけじゃなく、危険人物に覗き見される可能性もあるな」

臨也の言葉に、雄二が更なる懸念を述べる。
協議の結果、スマートフォンの扱いについては以下のようなことが決定した。

・位置の特定に繋がる情報は、チャットとメールではやり取りしない。
・電話で話す際は、念のためこの場にいる8人で決めた合言葉を言いあってからにする。
・電話番号とアドレスは記憶するに留めて紙などには書かない。
・腕輪や脱出に関する大事な情報の交換は直接会って行う。

「それじゃあ、チノちゃんに蛍ちゃん。僕らがいない間に何か進展とかあったのか、聞かせてもらえると嬉しいな」

そしてチノと蛍は、先ほど雄二たちに話したこととほぼ同じことを語る。
しかし、記憶を消されたらしいチノの友人――桐間紗路のことに話が及ぶと、新しい可能性が浮上してきた。

「なるほどね、その遊月ちゃんって子が会ったシャロちゃんは、チノちゃんの知ってるシャロちゃんとは明らかに様子が違っていた。
 だからシャロちゃんは、何かの力で記憶を消されてると考えるのが辻褄が合ってる……そういうわけだね。だけど、こうは考えられないかな?
 ――チノちゃんとシャロちゃんは、時間が違うんだ」

「?」

臨也と切嗣を除く6人の顔に一斉に疑問が浮かぶ。
それを前に、臨也は滔々と自説を語っていく。
ゲームセンターまで行動を共にしていた蟇郡苛。彼が住んでいた世界では、鬼龍院財閥やREVOCS社といった存在が世界の覇権を握っていたという。
しかし、臨也はそんな話は全く聞いたことがなかったのだ。

495和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:33:31 ID:UtG9Nc7s0
「ついでに言うと、俺がここに来る前は『殺人鬼ハリウッド』って名前の連続殺人犯が世間を賑わせてたんだけど……やっぱり誰も知らないって感じだよね。
 こうなると、俺たちは『全く違う世界から連れてこられた』って考えるしかないんじゃないかな」

世界が違う。
この場にいる70人――今は53人――は、それぞれ違う平行世界のような場所から連れてこられたということだ。

「あの白い部屋の女の子――彼女には、俺たちの住んでる色んな世界を移動する力があるとする。
 そう考えていくと、俺たちを『全く違う世界から連れてくる』と同時に、『全く違う時間から連れてくる』ことができても不思議じゃないと思わない?
 時間が違うとしたら、さっきのジル・ド・レェだのジャンヌ・ダルクだのがいるのも、このスマートフォンを知らない人がいるのも説明がつく。
 チノちゃんとシャロちゃんの場合だと、シャロちゃんは貧乏だったことがばれちゃったときの時間からここに来て、チノちゃんはその後の時間から来たってことになるね」

臨也の言っていることは、本来ならば少女たちには難しいものだったかもしれない。
しかし、3人ともここに来てから十分すぎるほどに不思議な経験を積んでいる。理解はできなくても、何となく受け入れることはできる。

「時間が、違う……」

臨也の言葉に、考え込んだのはチノだった。

「リゼさん。自分の記憶だと、クリスマスパーティーのあと、ココアさんが熱を出して倒れてしまったことがあるんです。
 そのこと、リゼさんは覚えていますか?」

その言葉に、明らかに困惑した顔でリゼは答える。

「いや、自分にはココアが倒れたなんてことは記憶にない……
 というか、クリスマスパーティー、って……間違いない! 自分の記憶じゃそんな季節になってもいなかったはずだ!」

「――ビンゴだ」

やり取りを聞き、してやったりという顔で指を鳴らす臨也。

「どうやらはっきりしたね。繭ちゃんには、全く違う世界を移動すると同時に、全く違う時間を移動する力がある」

「違う時間、か……厄介なことをしてくれるぜ。これはちと面倒になってきやがったな」

時間軸の違いという話を聞き、俄かに色めき立ったのは承太郎だった。

「覚えてねえかもしれねえが、名簿に載ってる俺の仲間、花京院典明とジャン=ピエール・ポルナレフ――
 こいつら2人はな、最初に会った時はDIOに肉の芽を埋め込まれて俺たちと敵対してたんだよ」

「な……それでは」

雄二の反応を受け、続ける。

「ああ、もしその敵対していた時間から来てるなら、今ごろは他の参加者を殺して回っていても不思議じゃねえ。
 ……そういう可能性があると分かっちゃ、これ以上ゆっくりはしてられねえな。
 俺はすぐにでもここを出て、DIOの館へ向かうぜ。歩いていくか……いや、俺だけなら電車のほうが早ええな」

承太郎は立ち上がり、7人の中のある人物に眼を向ける。

「衛宮。あんたは吸血鬼について色々と知ってると話してたな。危険だろうが一緒に来てもらえねえか」

言葉をかけられた切嗣は、わずかに臨也と目配せを送り合い、頷く。

「……わかった。僕でよければ力になろう」

俄かに慌ただしくなってきた空気を断つように、臨也が再び言葉を発する。

「さてと、情報交換もあらかた終わったし、僕らも空条君が出ていく前に今後どうするか決めないとね。
 レディーファーストで行こうか。蛍ちゃん、君はどうする?」

「私は……」

臨也の言葉に、あまり会話に参加していなかった蛍がゆっくり口を開く。

496和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:33:59 ID:UtG9Nc7s0
「私は、旭丘分校に行きたいです。れんちゃん……私の友達の宮内れんげちゃんも、そこに向かうはずですから」

「私はここに残ろうと思う」

続いて、リゼが口を開く。

「さっきの放送、私たちの友達は誰も名前を呼ばれなかった……。今ごろはみんなここを目指してるはずだ。
 チノも、一緒でいいよな」

リゼに促され、チノも意思を告げる。

「はい。今は私がここを預かってますから。お客さんの相手は私がつとめます」

「わかった。3人ともそれだけ強く思えるお友達がいるってのは羨ましいね……。じゃあ俺は、せいぜいそのお手伝いをさせてもらおうかな。
 蛍ちゃんと一緒に分校まで行くことにしよう。
 風見君。君はここに2人と残ってもらえるかい。君はリゼちゃんとずっと一緒だったそうだから、そばにいてあげるといい」

「了解した。俺も2人を守る盾くらいにはなれる。君たちも、それで異論はないかな」

雄二の言葉に、蛍だけは少し複雑そうな顔を見せたが、3人とも頷く。
こうして、7人のこれからの方針が決まった。

電車を利用してDIOの館に向かうのが、空条承太郎、衛宮切嗣。
旭丘分校に向かうのが、一条蛍、折原臨也。
ラビットハウスに残るのが、天々座理世、香風智乃、風見雄二。
そして、7人は午後6時になったらラビットハウスにいったん帰還する。

すでに、6時の放送から相当な時間が経過していた。











8人がこれからに向け、思い思いに支給品の確認などを行う中。
承太郎は蛍に声をかける。

「一条。お前には渡しておくものがある」

「何でしょう?――っ!!」

承太郎が蛍に渡したもの。
それは白のカード――他の誰でもない、越谷小鞠の姿が書かれたカード。

「渡すのが遅れちまったが、これはお前が持っているべきだな」

「――はい」

カードをしっかりと握りしめるその体が、以前のように震えてはいないのを見届けると、続いてチノにも声をかける。

「香風、コーヒーを馳走になったな。この借りは必ず返すぜ」

「借りなんて――」

そう言いかけて、その言葉の裏にあるものにチノは気付く。
承太郎は、必ずチノの元に戻ってくると言っているのだと。

「――わかりました、また来て下さいね。ラビットハウスは食い逃げ厳禁です」

「ああ。風見、……折原。彼女たちは頼んだ」

「この風見雄二、命に代えても守り抜くと誓おう」

「そんなに怖い顔しなくても大丈夫だって。俺の『実力』は見たでしょ?」

「承太郎君、そろそろ」

最後まで口数の少ないままだった切嗣にも促され。

「じゃあな」

承太郎はラビットハウスを後にする。







497和を以て尊しと為す(上) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:34:20 ID:UtG9Nc7s0





「さてと、蛍ちゃん。僕らもそろそろ行こうか」

「……はい」

飄々とした態度を崩さない崩さないままの臨也と、僅かに表情に固さを残す蛍。
彼ら2人もまた、歩き出そうとしていた。

「ああ、そうだ。最後にこれを言っておかないとね。
 俺は考えたんだけど、小鞠ちゃんを殺した『真犯人』は――DIOかもしれない」

「なっ――」

長くなったラビットハウスでの会合。その最後の最後に投下された爆弾。
残った面々は驚きを隠せない。

「どういうことだ、それは」

詰め寄る雄二を抑え、臨也はこれまでと変わらない口調で自説を語っていく。

「……なるほどな。確かにそれであの状況の説明はつく。
 しかし、なぜそれを肝心の承太郎には話さなかったんだ」

「そこはほら、承太郎君は肉の芽を抜き取ることができるって聞いたでしょ?
 そんな彼なら、この話をしたら当然こう思う。『自分がシズちゃんの肉の芽を抜き取ってやろう』ってね。
 けど、いい加減しつこいようだけど、シズちゃんはそもそもが超危険人物なんだよね。
 加えて今はDIOに操られて、猛獣から悪魔にランクアップしてる可能性がある。
 そんな代物を相手に、『肉の芽を抜き取るために、手加減して』ことに当たったら
 ――いくら承太郎君でも、どういうことになるか分かるよね」

「……確かに」

推理の成否は別に置くとしても、臨也の言うことは筋が通っている。

「君たちも気を付けなよ。今のシズちゃんはゴリラパワーに加えて、俺たちみたいな善良な集団の中に紛れ込む悪知恵まで身に付けてるかもしれない。
 もし見かけたら、即座に撃ち殺すなり逃げるなりするのをおすすめするね。
 それじゃあ、俺たちももう行くよ。分校で蛍ちゃんのお友達が待ってるだろうからね」

もし連絡手段が手に入っても、さっき決めたことは忘れないでね、と言い残し。
その物腰は最後まで変わらないまま。大人びた少女と2人、情報屋もまた喫茶店を出ていく。







498 ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:34:48 ID:UtG9Nc7s0
以下からは下編になります

499和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:35:38 ID:UtG9Nc7s0
7人もの参加者が集ったラビットハウス。
そのうち3人の男と1人の少女が去り、2人の少女と1人の青年がここに残っていた。

「……」

青年――風見雄二は、しかしシックな店内に似合わない、難しい顔をしていた。
その頭を悩ませるのは、先ほどの会合の中にいた1人の男の存在だった。

(衛宮……切嗣)

あの中では最も年長に見え、そして最も言葉少なだった黒いコートの男。
雄二はラビットハウスの会合の前に彼に会っている。
そして。

『(衛宮切嗣――この男が平和島静雄に罪を着せた……?)』

僅かな、疑惑を抱いた。
その彼と、空条承太郎を共に行かせても良かったのだろうか。
さらに――放送の男、「ジル・ド・レェ」の存在。

(あれが本物の青髭――ジル・ド・レェだとしても、誇大妄想狂の類だとしても。あの声は、いったい――)

気のせいなどではない。
思い返せば思い返すほど、似ている。
自分を殺人マシーンに仕立て上げたあの男、ヒース・オスロに。

「大丈夫ですか」

思いに沈んでいた雄二を現実に引き戻したのは、この喫茶店のマスターの娘だという少女――香風智乃。

「何だか怖い顔をしてらしたので……。よかったら、リゼさんみたいに休みますか」

そういって、テーブルに突っ伏して寝入るもう1人の少女……天々座理世の姿を見やる。
不慣れな状況で、精神的な疲れが限界だったのだろう。
会合が終わった後ほどなくして、こうして眠りに落ちてしまったのだ。

「……俺は、そんなに怖い顔をしていたか」

「い、いえそんな! ただ少し元気がなさそうに見えたので、その」

(……まずいな、失態だ)

護衛対象に余計な心配をかけさせるなど、あってはならないことだ。
思わぬ事態の連続で、集中力が乱れている。

「……承太郎さん、心配です」

会話が途切れてしばらくして、チノが口を開いた。

「実は承太郎さん、言っていたんです。……衛宮さんは怪しいかもしれない、帰ってきたら問い詰めるって」

「何……!」

雄二の身体に少なくない衝撃が走る。
自分が衛宮切嗣に抱いた疑念。承太郎は、その疑念をさらにはっきりした形で持っていたということだ。

「じゃあ、2人で向かったのは――問い詰めにかかろうとしたということか」

チノが小さく頷く。

(どうする……今からでも追うか?)

500和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:35:59 ID:UtG9Nc7s0
心中に浮かんだその考えを、しかしすぐに打ち消す。
ここを発った時の承太郎の顔は、月並みな言い方になるが――確かに、覚悟を決めた顔だった。
自分はその承太郎からここを任されたのだ。2人から離れるにしても、3人で行くにしても、いずれにせよ2人を危険に晒すことになる。

(もしも2人に何かがあったら――何度腹を切っても詫びようがない)

今の自分がしなければならないことは、この少女たちを守り抜くこと。
余計な心残りを残したまま任務に当たることは、市ヶ谷の人間にとっては命取りになる。
雄二は過去の経験からそれを嫌というほど学んでいた。
不安げに顔をのぞき込むチノに、ゆっくりと語る。

「チノ。承太郎は覚悟を持ってここを発ったのだろう。心配もあるが、今は彼を信頼し、無事を祈ろう。
 ――そうだな、もう一杯コーヒーを頼めるか。浅煎りで、とびきり目の覚めるようなやつを頼む」

その言葉に、チノの表情も少しだけ緩んだ。

「――はい!」


【G-7/ラビットハウス/二日目・午前】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:果物ナイフ@現実、救急箱(現地調達)、チャンピオンベルト@グラップラー刃牙、グロック17@Fate/Zero、ジャスタウェイ×2@銀魂
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
   2:ここでココアさんたちを待つ。探しに行くかは相談。
   3:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。
   4:承太郎さんが心配。
[備考]
※参戦時期は12羽終了後からです。
※空条承太郎、一条蛍、衛宮切嗣、折原臨也、風見雄二と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:健康
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   1:天々座理世、香風智乃を護衛。2人の意思に従う。
   2:入巣蒔菜、桐間紗路、保登心愛、宇治松千夜の保護。こちらから探しに行くかは3人で相談する。
   3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
   4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
   5:ステルスマーダーを警戒
   6:平和島静雄、衛宮切嗣、キャスター、DIO、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフを警戒
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
   0:……zzz
   1:ここで友人たちを待つ。
   3:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
   4:平和島静雄、キャスター、DIO、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフを警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。












501和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:36:21 ID:UtG9Nc7s0





ラビットハウスからだいぶ離れ、建物の数もまばらになってきた市街地の外れ。
その中を駅を目指して歩む2人の姿があった。
学ランを羽織った大柄な不良。そして一切の光の消えた目をした男性。
2人の間に会話はない。











不良――空条承太郎の誤算は、単純に言えば人が増えすぎたことだった。
チノに語った通り、衛宮切嗣と折原臨也が帰ってきたら、即時にでも尋問を始める予定だった。
だが、その前に風見雄二と天々座理世がやってくる。
そして2人の帰還。危惧していた通り、会話の主導権は折原臨也に握られる。
こうなってくると、集団の話し合いを無視して切嗣たちを問い詰めるというわけにはいかなくなる。
そもそもこの殺し合いにおける最優先事項は、何よりもまず主催者を打倒し、脱出を図ることにある。
風見雄二は修羅場の経験値が高そうに見えたし、頭も回る。天々座理世も守るべき対象だ。
香風智乃、一条蛍の2人もそう。せっかく結んだ友好関係。目の前で不穏な動きを見せ、雰囲気を崩壊させるような真似は避けなければならない。
いや、単に雰囲気が悪くだけならまだいいだろう。
下手に追いつめたことで、もしもキレた2人が爆弾でも使ってきたりしたら、取り返しのつかない大惨事になる。
あるいは、かつてニューヨークで不動産王に成り上がった経歴を持つ祖父ならば。
多人数を前にしながらうまく誘導尋問に持っていくようなこともできるのかもしれないが、あいにくそんなテクニックも持ち合わせていない。
承太郎は密かに話し合いの中で考えを進め、次善の策を巡らせる。

次善の策――すなわち、2人を集団から遠ざけ、危険の及ばない場所で尋問すること。
しかし、2人両方を連れ出していくのは難しいと承太郎は考える。
なぜなら、自分と折原臨也と衛宮切嗣の3人がここを離れれば、残された3人の少女を守るのは風見雄二1人だけになってしまうからだ。
そのことを理由に折原あたりが反対するのはいかにもありそうなことだ。そこで無理を通せば、これまた不和の原因が発生してしまう。
そうなれば、連れ出すのは1人。

折原臨也。
衛宮切嗣。
どちらにすべきか。

まず、折原臨也。
情報屋などど名乗る男。最初に遭遇した映画館ではいきなりナイフを向けてきた。
見るからに胡散臭く怪しげだが、逆に言えばそれだけともいえる。
承太郎が目を光らせていた範囲内では、少なくとも誰かに直接危害を加えるようなことはしていない。
ナイフの件については……実力を図るための行為として、この際100歩譲って見逃す。
また風見雄二の話では、雄二とリゼと最初に情報交換した時にも、嘘は一切ついてはいないようだった。
参加者の時間がずれているという情報を、惜しげもなく渡したというのも確かだ。
そして、次の点。これが最も大きい。
越谷小鞠の反応が腕輪探知機から消えた時、折原臨也は間違いなくラビットハウスにいたという『アリバイ』がある。
油断をしていい人物では絶対に決してないのは明らかだが、それでも折原は『危険度』は低いと見積もる。

502和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:37:08 ID:UtG9Nc7s0

そうなると、消去法で残るのは――衛宮切嗣。
越谷小鞠が死んだ瞬間、まだ姿の見えない平和島静雄と並び、全く『アリバイ』を持っていない男。
吸血鬼について知っているという彼ならば、DIOの討伐を理由に連れ出す口実も作りやすい。
ついでに言えば、DIOの館に行きたいというのも、最初からの目的であり6割方は本心だ。
最初は忌避していた電車を使用するのも、一刻も早く到着したいがため。
『容疑者』の筆頭は――定まった。











『容疑者』――衛宮切嗣の心中を占めるのは、全く別のことであった。

(DIO。……吸血鬼)

承太郎が追い求めている敵が吸血鬼であることは、最初に出会った時にすでに聞いた。
そのため、ラビットハウスに戻った後の目標は、2度目にあそこを発ったあたりからすでに決めていた。
吸血鬼といえば、多くの場合、魔術師にとっては吸血によって他者を自らの眷属としていく『死徒』のこと。
DIOは肉の芽という手法を用いるらしいが、感染を広げていくという点においてはその危険性は変わらない。
そして、万が一DIOが『真祖』に類するものであれば――その危険度ははね上がる。

衛宮切嗣はしばしば外道と称される男だ。
事実として、この場においてもすでに幼い少女をその手にかけている。
だがその行動原理は、常に多数の利となることを前提としたもの。
吸血鬼という、多数の脅威となる物がこの島にいるとなっては――それを放置しておくことはできない。

(そのためならば……空条君のことも『利用』させてもらおう)

だからこそ、『同盟者』である折原臨也と離れることになっても、承太郎の誘いに応じたのだ。
今の自分には妻のアイリスフィールも、助手の久宇舞弥もいない。
愛用してきた武器も絶対命令権である令呪もなく、さらにはあの女の細工によって術のいくつかも使えない。
普段の力を使うことができない以上は、利用できる手駒を増やすことが何としても必要だ。
空条承太郎。未だその底を見せてはいないが、スタンドという魔術とは異なる体系の力を持ち、何度も戦いを切り抜けてきたらしい。
風貌の似ている蟇郡苛とは違い、単純な直情型ではなく冷静さも持ち合わせている。
加えて今は、DIOを抹殺するという目的を共有してもいる。
利用する手駒としては、十分に価値があると当たりを付ける。

(僕にとって理想的なタイプではないだろうがね……)

舞弥のような自分の行動原理を理解して協力してくれる人材が都合よく現れるとは、この6時間あまりの経験も踏まえ、もはや毛ほども思っていない。
ならば、利用する。
聖杯戦争で、自分の一番嫌うタイプであるセイバーを利用していたように。
もっとも、先ほどの会合の中で彼が自分に鋭い視線を送ってきているのには気づいていた。
おそらくその原因は、越谷小鞠の死。
承太郎はそれについて必ず追及してくるだろう。
だが、折原臨也とのゲームセンターでの会談をやりすごしたように。
魔術師殺しの異名は伊達でも酔狂でもない。この程度の修羅場は何度も潜ってきている。
たとえ『信頼』は得られなくても、一時的な協力関係くらいには持ち込む自信は――ある。

(しかし、吸血鬼……。死徒か……)

脳裏に浮かぶのは、思い出したくない――
いや、彼の人生の全てを変え、魔術師殺しとしての道を踏み出す切っ掛けとなった、二つの記憶。
島を覆い尽くす死徒。炎を上げて墜落していく飛行機。
殺せなかった少女。殺してしまった師。

吸血鬼。
まだ見ぬその存在を前に、自らの心に少しずつ焦燥とざわつきが生まれ始めていることに、切嗣は未だ気付いてはいなかった。

503和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:37:32 ID:UtG9Nc7s0











ふと、承太郎がその歩みを止めた。
切嗣は、7、8歩ほど歩くと、同行者が遅れているのに気付き、また歩みを止める。











「衛宮。――こんな所ですまねえが、話がある」

低い声で、数メートル前で立ち止まった切嗣に向かって話しかける。

「――何かな、空条君」

切嗣も振り返り、承太郎に向き直る。

「君の見たっていう時刻表だと、電車の間隔はかなり開いていたんだろう?
 話は電車に乗ってからか、ホームに着いてからのほうがいいんじゃないかな」

「いや」

ずい、と一歩。承太郎が踏み出す。

「今ここで、聞いておかなきゃならねえ」

問い詰める場所として、駅や電車の中でなく離れた場所を選んだのも理由がある。
万が一。切嗣たちがあの少女たちに対して、よからぬ企てを働いているようなら、承太郎は全速力でラビットハウスに引き返すつもりだった。
それは電車に乗ってしまったら不可能だ。それに切嗣が電車で逃走する可能性も考慮しなければならない。

「俺が聞きてえことってのは、たった一つだ」

「あんたが俺から離れてる間、つまりゲームセンターとあのサ店を2回往復してる間――本当は何があったかってことだ」

睨みつける、という表現にふさわしいくらいの眼力で。
切嗣の虚ろな目を見据え、質問を発する。

「――はあ、何かと思えばそんなことかい」

承太郎の迫力にも構わず、切嗣はため息をついてみせる。

「僕の回答は何も変わらないし、変えようがないよ。
 最初にゲームセンターに行ったときは、平和島静雄に殺された、越谷小鞠ちゃんの死体を見つけた。
 2度目に行ったときは、折原君と一緒に入念に調べてみたけど、やっぱり手がかりは見つけられなかったよ。
 ……僕が言えるのはこれだけだ。さあ、DIOの館を目指そうか」

再び背を向けて駅に向かおうとする切嗣。

「待ちな」

その背に、承太郎は声をかける。
それは、この対話が始まってから最も鋭く切嗣を捉えた。

「俺はこれでもそこそこの数の敵とやり合ってきたからな……分かるつもりだぜ。
 衛宮、あんたはまだ何か、俺やあいつらに言ってねえことがあるんじゃねえのか」

「空条君……君は」

切嗣も再び承太郎に向き直り、その目を見据える。

「自分が何を言っているのか、分かっているのかい」

静寂が流れる。
しかし、この場に他の人間がいれば、ゴゴゴゴゴと言う音と共に、2人の間の空間が歪む錯覚を見ただろう。
空条承太郎はまだスタンドは出していない。
しかし、今にも獲物に食いつく猛獣のごとき殺気をみなぎらせている。
衛宮切嗣も、武器の類は見せない。
だが、その表情からは先ほどまでの無感情さは減り、険しさが増している。

その時、極限に達した2人の緊張を破ったのは。

「おーい! そこの2人!!」

駅の方角から聞こえてきた、少女の声だった。







504和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:37:53 ID:UtG9Nc7s0





時刻は、ラビットハウスで7人が集まって情報交換を始めたころに遡る。
まんまと紅林遊月をトイレに閉じ込め、その姿を盗むことに成功した生命戦維の怪物――針目縫。
彼女は映画館の前に佇んでいた。

「どっこにしようかな〜」

一体何をしているのかというと、迷っていたのだ。
ここからどこへ向かうべきかということに。

向かう候補は3つ。
万事屋。何でも屋というなら、武器の類も豊富に揃っているかもしれない。
ゲームセンター。こんな時にゲームに興じる者がいるとはあまり思えないが、人は集まってきそうだ。
駅。この島の中でも最も人が集まりやすそうな、移動のための施設。

「そうだ、もうこうしちゃえ」

さんざん迷った末に、彼女が最終的に決めたのは。運を天に任せることだった。
地面に大きく円を描き、それを線で3分割。
3つの枠の中にそれぞれ

「よろずや☆」
「えき♪」
「げーせん><」

と書く。

「そーれっ」

そして、手にもつ片太刀バサミを、くるくると投げ上げた。
その刃先が突き立ったのは――











「おっかしいなあ〜、だっれも来ないや」

それから数刻後。少女の姿は駅のホームにあった。
しかし、こうしていれば誰かがやってくるだろうと踏んでいたのだが、人の姿も見えず、電車もやって来ない。
参加者が過度に逃げ回ることを防ぐためか、この島の電車のスピードはかなり遅くなっているのだ。

「ピルルクちゃんも大したこと教えてくれないしぃ」

「……別に、隠していることは何もないわ」

カードをつんつんとつつき回す。
カードの少女――ピルルクに話を聞いてみたものの、彼女は単に繭から参加者に協力するように言われただけだという。
ただ、彼女の読心能力「ピーピング・アナライズ」と、セレクターバトルについて最低限の話を聞くことが出来たのは収穫といえる。

「うーん、もう待ってるの飽きちゃったな★」

ベンチから立ち上がり、思い切り伸びをする。
この場における目的は有益な人間を探し出すこと。待っても誰も来ないなら自分から探しに行ったほうがよいだろう。
ついでに言えば、縫はあの鬼龍院羅暁にすら、制御は不能と言わしめた気まぐれさの持ち主でもある。
参加者を待ち伏せる作戦を立ててはいたが、一か所にじっと長く留まって、来るかも分からない人間を待つようなことには向いていないのだ。
時間は間もなく午前8時。
次に向かうのはどこにしようか。
最初に決めた行き先のうち、万事屋とゲームセンターはほとんど同じ距離にある。

505和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:38:28 ID:hkOETiuo0
「ま、いいか。とりあえず街のほうに行ってみよ」

ホームから降り、街を目指して歩きはじめる。
しかし、ほどなくして縫の目に飛び込んできたのは――2人の男が向かい合っている光景。

(あはっ、やーっと会えたよ)

紅林遊月と別れて以来、待望の出会いだ。
片太刀バサミを腕輪にしまい、2人に近づいていく。
揃って仲良くお出かけ、という雰囲気には見えなかったが、例え2人がどういう関係だろうと縫にはどうでもいいことである。
制限解除に繋がる情報を持っているなら――それを聞き出す。
何の情報も持たず、他の利用価値もないなら――切り捨てる。
問答無用で襲いかかってくる輩なら――その戦いを、最大限に楽しむ。

「おーい! そこの2人!!」











針目縫は知らなかった。
この時刻、先ほど閉じ込めた紅林遊月が拘束を解いて脱出に成功していたことを。
そして目の前の学ランの男――空条承太郎こそ、遊月がラビットハウスで会っていた人物であるということを。





【G-6/駅付近/午前】

【針目縫@キルラキル】
[状態]:紅林遊月にそっくりな女の子に変身中、繭への苛立ち
[服装]:紅林遊月の普段着
[装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/18)、青カード(20/20)、黒カード:片太刀バサミ@キルラキル、歩狩汗@銀魂×2、不明支給品0〜1(紅林遊月が確認済み)
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
   0:目の前の2人から情報収集。
   1:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
   2:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
   3:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
 傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。度合いは後の書き手さんにお任せします。
※分身能力の制限がどうかは、後の書き手さんへお任せします。
※紅林遊月そっくりな女の子に変身しています。ただし令呪は遊月が隠し通したため模倣できていません。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。
※ピルルクからセレクターバトルに関する最低限の知識を得ました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10) 噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   0:紅林……?
   1:衛宮切嗣への疑念にここで決着を付ける。
   2:その後、電車でDIOの館に向かう。
   3:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   4:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
   5:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。

506和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:38:50 ID:UtG9Nc7s0


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:いつもの黒いスーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(20/20)
     黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
          蝙蝠の使い魔@Fate/Zero
          赤マルジャンプ@銀魂
          越谷小鞠の不明支給品1〜2(切嗣が確認済み、起源弾及びトンプソン・コンテンダーはない)
          噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1:さて、どうするか……。
   2:DIOおよびその配下の吸血鬼を抹殺する。
   3:平和島静雄とは無理に交戦しない。折原臨也や他の参加者を利用し殺す。
   4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい。
   5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない。
   6:折原臨也の『遺書』については……。
[備考]
※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
※空条承太郎、折原臨也、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換し、知り合いと危険人物について聞きました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
















空条承太郎と衛宮切嗣が駅の付近で対峙している、まさにそのころ。
島の南の海岸沿いを行く、1人の男と少女の姿があった。
少女――一条蛍の顔はどこか暗い。だが、僅かに差す憂いは身長とあいまって、大人びたその雰囲気をいっそう引き立てている。
蛍の歩幅に合わせて歩く一方の男――折原臨也は、少女とは対照的に薄い笑みを絶やさない。

情報屋の内面には、『人間』への興味がどろどろと渦巻き続ける。
放送からラビットハウスでの会合を経てここに至るまで、臨也の興味を引くに足る様々な発見があった。
まずは、放送で呼ばれた17人。その中の、園原杏里という名前。

(杏里ちゃん――逝ったんだね)

罪歌憑きにして、池袋に君臨する三つの勢力のうち一つを束ねる少女。
彼女を上回る存在が、ここにはいたということだ。
願わくば、彼女のような『異形の化け物』を倒したのは、同じ『化け物』ではなく『人間』であってほしいものだ。
次に。

(チャットの『悪用』――。早速やってくるお方がいたんだねえ)

スマートフォンに送り付けられた『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』という文章。
『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』――。この文章だけでは、特定の人物を陥れるための偽情報という可能性は高い割合で残されている。
発言者は『M』となっているが、これが問題の東郷美森だとすると、このような自殺行為はあまりに不自然。
あるいは端末を奪われて、その人物によってこれが書かれた可能性もある。
また、文章中の2人の素性も全く分らない。が、名簿では『東郷美森』の名前は『犬吠埼樹』の近くに配置されている。
この二人は何らかの近しい関係にあったと見るべきかもしれない。
臨也はこのことを話し合いでは告げなかった。
『東郷美森』――。その知り合いかもしれない参加者を殺害したかもしれない人物。
この人物をどうするか決めるのは、彼女(?)がどんな人物なのか――『人間』なのか――を見極めてからだ。
そして。

(空条承太郎君。――あはは! また随分と警戒されちゃったもんだ)

507和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:39:08 ID:UtG9Nc7s0

学ランの男、空条承太郎。
あの話し合いの中で、彼が自分と衛宮切嗣にたびたび鋭い視線を送ってくることには当然気付いていた。
切嗣と一緒に発った彼は、きっと問い詰めるつもりなのだろう。『殺人事件』の、その真相を。
静かな内に熱いものを燃やす不良と、畸形的な正義のままに行動する男――。

(とびきり面白い『人間』が二人――どんな化学反応が起こるか、楽しみだなあ)

臨也はまだ切嗣との『同盟』を捨ててしまったわけではない。
この場における目標の一つは、可能な限り平和島静雄を追い詰めていくこと。
別れたとしても協力をしあうことは、ラビットハウスに到着する前に確認しておいた。
そもそも、何が起こるか分からない中、常に2人だけで行動ができるとは臨也は全く考えていない。
だが、平和島静雄を打ち倒すために、彼にはこの先も協力してもらわなければならない。

(シズちゃんだけじゃなく、『化け物』はまだまだいるみたいだしね)

風見雄二たちに『DIO真犯人説』を教えたのも、平和島静雄を追いつめる策の1つだ。
『DIO真犯人説』――。潰すべき対象である平和島静雄とDIOを同時に追い込むことのできる方策。
我ながらなかなかいい出来だと思い、臨也はその笑みを深める。
そして、自分の横を歩く少女――。

「ねえ、蛍ちゃんは俺のこと、怖いかな?」

「え……?」

いきなり奇妙なことを問われ、蛍は戸惑いを隠せなかった。
そんな間も、男の顔から笑みが消えることはない。
ちょっと休んでいこうか、と臨也が促し、2人は海のすぐそばまで移動する。











「怖い……っていうか、その、……ごめんなさい、よく、わからない、です」

波打ち際に腰かけた2人。
改めて先ほどの問いを投げかけられた蛍の、精いっぱいの答えがこれだった。
実際、よくわからない、というのは考えを放棄したわけではなく、蛍にとっての事実だった。
最初の映画館で、いきなり承太郎にナイフを向け。
でも、自分やチノたちには優しく振る舞い。
あの7人の中でも進んで弁舌を振るい、みんなをリードし。
それでいて、シズちゃんと親しげな愛称で呼んでいる平和島静雄のことを、操られているから殺すべきだとためらいもなく言い切る。
そんな折原臨也のことが――蛍には、理解できなかったのだ。

「ああ、謝らなくていいよ。変なこと聞いてごめんね。
 ……よくわからない、か。はは、まあそうだよね。
 俺としては常にみんなに好かれようと頑張ってるんだけど、どうにもうまく行かないんだよねえ。
 妹たちにもたまに言われるよ。『臨兄は何考えてるのかわかんない』ってね」

508和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:39:28 ID:UtG9Nc7s0

「え……」

唐突に臨也の口から飛び出した、彼の『家族』に関する情報。
それは蛍に少なくない驚きを与えた。

「妹さんが……いるんですか?」

「うん。双子でね。クルリとマイルっていうんだけど、漢字は蛍ちゃんにはちょっと難しいかな?」

砂の上に、九瑠璃、舞流、と書き、臨也は語る。

「ちょっと変わった子たちだけど、2人とも俺のことをとっても大切に思ってくれてるんだよね。
 もし俺がこんなとこで死んじゃったら、きっと泣くよ。それどころか、もう立ち直れなくなっちゃうと思うんだ」

臨也は続ける。

「俺は、妹たちのところに生きて帰りたい。そうだ、蛍ちゃんたちにも紹介してあげたいな。きっとお友達になれるよ。
 だからね。俺は理由もなく他人を傷つけたり、殺したりなんかしないと誓うよ。
 何も俺のこと、好きになってくれってわけじゃない――。でも、今言ったことだけは、分かってくれないかな?」

臨也の言葉に、蛍の心は大きく揺れ動いた。
うまく理解するのが難しい存在だった折原臨也。
その彼にも、自分やれんげと同じように大切な家族がいる。
それを知ったとたん、急速に彼が、血の通った『人間』だと、感じられるようになった。

「分かり、ました……。……でも、なんで」

しかし、蛍の中にあるわだかまりは完全には消えない。

「どうして、あんなこと、したんですか。
 最初、映画館で、会った時……どうして、承太郎さんに、っ、ナイフを、向けたりしたんですか」

いつの間にか取り出した、小鞠の白のカードを握りしめ、震えながら、問う。

「ナイフ?……ああ、あのことか」

「っ、こたえて……、答えて、下さい!!」











(素晴らしい)

このとき臨也の心の全てを占めていたのは、平和島静雄でも、衛宮切嗣でも、空条承太郎でもなく。
自分の年齢の半分にも満たないであろう、眼前の少女であった。

(はじめは泣いてるばかりだったこの子が、『怖いお兄さん』であるこの俺に、詰問してくるとはね……)

最初に映画館で遭遇した時の彼女は、異常な状況に怯え、それでいて大人である自分と承太郎にやたらと気を遣ったりする、普通の女の子だった。
体は大人顔負けであっても、その心はどこにでもいる小学生と同じだった。

(彼女を変えたのはおそらく、友達――越谷小鞠ちゃんの死か)

切嗣が小鞠の死を告げたときは、彼女は眠っていた。
その後は、自分たちはゲームセンターに行っていた。
だから、友達の死を知った彼女がどんな反応を示して、残っていた承太郎やチノたちとどんな話をして、どうやって立ち直ったのかは分からない。

(それにしても……たった半日もしないうちに、こんなにも成長を見せるとはね)

殺し合いなどというわけのわからない状況の中で。
単なる子どもに過ぎなかった人間が、成長――いや、進化を、自分に見せてくれたのだ。

これだから――人間は素晴らしい。
これだから――人間を愛することは、やめられない
これだから――自分は、人間愛を捨てられない。

(――そして、そのことに改めて気付かせてくれた彼女には――当然、『お礼』をすべきだよね)

509和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:40:26 ID:UtG9Nc7s0





そして臨也の意識は、再び現実へ戻る。

「……なんで、答えてくれないんですか。答えてくれないと、私……」

「ああ、ごめんね」

カードを握る蛍の手を包み、臨也は答えた。

「最初のあれはね、変に聞こえるかもしれないけど……承太郎君を、試したんだよ」

「ためした……?」

蛍の緊張が、僅かに緩む。

「ほら、承太郎君は何だか吸血鬼と戦ってるとかで、すごく強そうだったけどさ。
 蛍ちゃんやチノちゃんたちみたいな子を守る力がちゃんとあるかどうか、ちゃんと確かめておきたかったんだよね。
 むろん、あの時は本気じゃなかったよ。それは承太郎君も絶対に分かってるはずだよ」

「あの、じゃあ、傷つけたりしたくて、あんなことをしたわけじゃ、ないんですね」

「ああ、そうだよ。今も言ったけど、それは承太郎君も証明してくれるさ。
 もっとも、君みたいな子の前であんな真似をしたことは謝らなきゃいけないね。
 なんせほら、いきなりこんな事に巻き込まれるなんてのは俺でも初めてだったからさ。
 テンションが変になっちゃって、ついやっちゃったってことで……許してくれないかな」

蛍の前で手を合わせる臨也。
その姿に、蛍も緊張を解く。

「……わかり、ました。でも、約束してください。二度と、あんなことはしないって」

「もちろん。約束するよ」

それから、2人は子供同士がするように、指切りをした。
緊張が一気に抜けてしまったのか、蛍は地面にへたり込む。

「余計に疲れさせちゃって本当にごめんね。これを飲みなよ。もうちょっと休んでいこうか」

臨也は腕輪の青のカードから、子供が好きなパックのオレンジジュースを取り出し、蛍に渡す。
蛍も最初はためらったが、少しずつ口を付けるのだった。






510和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:40:43 ID:UtG9Nc7s0





(――『お礼』。彼女になら、あげてもいいかもしれない)

それは、情報を売りさばいて魍魎の行きかう池袋を生きる普段の臨也ならば、絶対にありえない行為。
大切な友人の死から立ち直り、『人間』としての輝きを見せてくれた少女に、最大限の敬意を払い。
この殺し合いの場において、もしもランク付けするなら特A級には位置するであろう情報。
一流の情報屋である臨也が、自らの死と引き換えに『遺書』としてばらまこうとしている情報。
『殺人事件』の犯人候補として挙がった名前――折原臨也、平和島静雄、DIO――のうち、誰とも違う人物を犯人とする、第四の推理。
それでいて、最も真実に近く、否――真実そのものである推理。
今なお、スマートフォンの中で静かに眠っているそれ。

すなわち、越谷小鞠を殺した犯人は衛宮切嗣であるという事実。
それを少女――一条蛍に、教えるということ。



(――どうする?)





【H-5/東端の海岸/午前】

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
    1:一条蛍に『真実』を教えるか?
    2:2人で旭丘分校へ向かう。
    3:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。
    4:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。
    5:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換しました。
※主催者(繭)は異世界および時間を移動する力があると考えています。
※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ×2@銀魂、越谷小鞠の白カード
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   1:旭丘分校を目指す。
   2:折原さんを、信じてもいいのかも……。
   3:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。



【スマートフォン@現実】
チャット機能の発言者名は、最初に支給された人物のファーストネームの頭文字が表記されます。
例:東郷美森=M 折原臨也=O

511 ◆3LWjgcR03U:2015/11/15(日) 21:42:24 ID:UtG9Nc7s0
以上で仮投下を終了します。ご意見頂ければ幸いです。

512名無しさん:2015/11/15(日) 21:52:52 ID:UvjhzjPM0
仮投下乙です。うおお、これはどう動くかな

本編には関係無いのですが、一つだけ
チャットのハンドルネームがファーストネームで表示されるなら、臨也はIで表示されるかと

513名無しさん:2015/11/15(日) 22:07:53 ID:ewB8b79U0
仮投下乙です
上で上がっているチャットのハンドルネーム以外は、特に問題はなかったかと
本投下を楽しみにさせていただきます

514名無しさん:2015/11/15(日) 22:41:11 ID:bE1F.PDM0
仮投下乙です
細かいところですが少し気になったのが、

> 臨也と切嗣を除く6人の顔に一斉に疑問が浮かぶ。

ここは6人ではなく5人かと。

> 8人がこれからに向け、思い思いに支給品の確認などを行う中。

ここは7人になるかと思います。

その他に関しては特に問題ないです。

515名無しさん:2015/11/16(月) 02:46:13 ID:pk80Q./U0
お二方とも投下乙です
◆45MxoM2216氏の作品についての指摘なのですが、放送は腕輪からも流れる設定なので、戦闘中とはいえ聞き逃すのは無理があるというかもう少し理由付け必要かと思いました

516 ◆45MxoM2216:2015/11/16(月) 10:24:56 ID:gjd0uKDs0
>>515
ご指摘ありがとうございます
では、聞こえてはいるもののちゃんと頭に入ってこないという形で修正しようと思います

517 ◆3LWjgcR03U:2015/11/16(月) 21:01:02 ID:zY/YGax20
ご指摘ありがとうございます。指摘いただいた部分を修正し投下いたします

518 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:04:37 ID:574g.qOo0
投下します

519 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:05:43 ID:574g.qOo0
『怪物』は、目的地である映画館へ向かうため、鍛え抜かれた太い足でもって南に歩を進めていた。
バーテンダーとの戦いは敗北を迎え、定時放送による死者の発表は思わぬ衝撃を与え、その悲しみの咆哮は世界の全てを壊してしまうのかと錯覚するほどだったが、それも今や幻だったかのように無表情を貫き前だけを据えている。
なにか大きな変化でも起きたのか。しかし、真実は怪物以外知る由もない。
発した声は、誰にも聞こえず風に流されていった。

怪物の姿は、街角に消えていく。


◇◆◇


泣き叫び震えていることだけが恐怖を表すものではない。
紅林遊月はどこかで聞いたその言葉の意味を身をもって刻んでいた。

針目縫。この悪趣味な催しに少なくとも賛同しているのであろう人物。
彼女を止めるために拘束から抜け出した遊月は、使命感や正義感といった小さく燃え上がった炎とは別の、一つのある感情がふつふつと芽生え始めていた。
嵐が去った後にやってくるのは安心感なのではない。コップいっぱいに注がれた水が小さな振動で溢れ落ちるように、止まった時間から動き出した熱は、あの死の感覚よりも更に熱くも身を焦がしているーー

遊月はタールさながらの暗闇に横たわる自分の姿を想像し、妄想を消し去るように頭を振って散らして、するべきこと考えるべきことを心中で何度も反芻する。
それが嫌なことから逃げているだけなのか一刻も早く彼女を止めたいのかは分からないが、どちらであっても次に進むためのステップとしては正解であると確信する。


遊月は急ぐ。胸に焦りを抱えたまま素足から伝わってくる、冷たいリノリウムの床を踏み抜く。


まず、早急にするべきことは針目縫の動向について知らなくてはならない。
その情報を得るためには彼女がどんな人間であり、どのような目的があるのかを考える必要がある。
言葉の一つ一つに至るまで、会話を記憶を掘り起こす。

縫が聞いてきたのは主催者に繋がる情報について。これは優勝を目指すにしてもそうでないにしても、参加者同士の交流では獲得しておきたいものだ。
そこにおかしなところはない。敵意がなく、襲ってくる気配もない彼女は普通の女の子だった。
話した内容はこれまでの道筋。そこから当然のように自分たちを誘拐した繭へと繋がっていく。
魂などといった理解の及ばない現象。これまでの人間関係。どこで誰とどうやって出会ったのか。
さり気ない風を装いながらも一方的に情報を盗まれた。こちらに与えられた情報は殆どない。
ただ、西からやってきたという本当かどうかも分からないどうでもいいことだけを残して、繭で覆われていた仮面を外して本性を現わした。

(何で、わたしを殺さなかったんだろう)

一度、結論付けたことを、もう一度考える。
保険、だろうか。ルール通り優勝を目指す一方、自ら脱出の方法を探っていく。自分を殺さなかったのは利用価値があるから。
ならば、鏡写しにしたような同じ顔になった意味は? 情報の収集か。いや、そもそも、その行為に意味はあるのか。
まさかゲームに乗っているとは思えないほど、外見は小さく愛くるしいと言える容姿だ。敵意もなく近づかれたら警戒のレベルは下がる。実際に自分は騙され殺されかけた。
そんな彼女が小細工を使う意味はあるのだろうか。情報を得るなら普通に聞けばいいし、殺すのなら堂々と不意を打ってすればいい。

力のない少女だなんて、あの人形のような目を見た瞬間に頭から吹き飛んでいる。
機械のように、道端に落ちてあるゴミを踏みつけるように、簡単に生命を奪ってしまう凶器を向けていた時も変わらず、嘘くさいぐらいのニコニコとしたその表情のまま刃を振り下ろすことが可能だと理解をしたから。
息を吸うように彼女は人を殺すのだろう。殺せるのだろう。

そんな、彼女がなぜ自分を生かしたのか。

520 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:07:01 ID:574g.qOo0
そして、姿形を真似てどうするのか。友人たちに何か繋がるものでもあって、近づくことが目的なのか。
それとも借り物の姿で暴虐を尽くし、本当の自分を見せず汚さないで勝ち抜くつもりか。
もしくは苦戦をするような一筋縄ではいかない存在がいて、その打倒のためだけに奪ったのか。
または殺人を犯すたびに顔を変えていき、安心安全に殺し合いを制すつもりであるのか。
あるいは、これは飛躍した説ではあるが彼女は意図的に用意された舞台装置。参加者を悪意のある方向に導く役割を持っており、それが意味することはこの場で結成した集団の崩壊。
少しでも触れれば脆く崩れ去ってしまいそうな特殊な状況下で疑心暗鬼が発生したのなら、あとは坂道を転がっていくように事態は悪い方へ収束していく。
シャロとの小さなすれ違いでさえ亀裂を生んだ。いや、初めから、あの白い部屋からすでに自分たちの日常はひび割れている。


縫に挑む勇気はあるというのにこのまま外へ出るには躊躇がある。
ロビーから続く通路を右に曲がり、劇場に『忘れ物』がないか早足に調べていく。


では、縫が主催者から差し向けられた者であると仮定するとして。
それにしては彼女の行動は、繭と繋がっていると考えるならば不自然と言えるだろう。
あちら側の人間であるならば、此方の情報など紙屑にも劣るものであるはずなのに求めてきた。
そして、あの時、笑顔の仮面の中から一瞬だけ覗いた、彼女の顔。

(違うにせよそうでないにしろ、そういう存在はいるのかも)

争いの停滞時に備え、火種をばら撒いている者がこの世界に潜んでいるかもしれない。
どのような死に方であろうとも関わらず、ここで死んでしまえば魂を閉じ込めるというカードに入れられ、一人寂しく冷たい牢獄のような場所で永遠に意識が残る、と繭は言った。
言い聞かせるように、生き残りたければ他者を殺せとも。勝ち残り最後の一人になる以外にここからの脱出は不可能なのだと、力を示して見せながら。
脅しとしては感想を聞くまでもない、目を耳を塞ぎたくなるような血溜まりの中での厳しいルールの数々。
それを見せられてもまだ歯向かう参加者に対する切り札を用意してきてもいい筈だ。
いや、むしろそうしない理由はない。始まりから悪意に満ちたこんな世界なら、なおさら。


一つ二つ三つ四つ、こちら側の通路の劇場に『忘れ物』はないようだ。


優勝したからといって生きて帰れるという保証もないと縫は考えたのだろうか。
細い糸に掴まるような気軽さで、いつ折れても自分には正方向にゲームを終わらせられる力があるという自信が、あの薄気味悪い笑顔に反映でもされているのか。
良く言えば現実的、悪く言っても現実的。いや、ほんとうにそうだろうか。

少なくとも自分が知りうる情報だけでは脱出は夢のまた夢。
友人たちを死なせたくないとみんなで無事に助かりたいと思ってはいても、大人数の人間を攫ってきたという事実は決して無視できるものではない。
海に囲われたどこかも知らない島。いつでも殺せるように設定された禁止エリアの存在。腕につけられた奇怪な腕輪、魂を封印するという白のカード。
そんな監獄のような場所。脱出のための道など残しているような間抜けなことはないだろう。
一度しか会ってなく、一度しか話してもなく、受け取った内容も吹けば飛ぶようなものだけれど、微かな希望に望みを賭けるような人物ではないことは分かる。
だからこそ、意図が分からない。繭に閉じ篭もった仮面の中を、最後まで見ることは未だ出来ていない。

深く考えすぎなのだろうか。答えはもっとシンプルなのだろうか。


いけない、横道に逸れている。元に戻さないと。


(仮に、本当に西から来たのだとしたら南下をしていることになる)


血で手を汚しているような不都合なことは隠すだろうが、何処からやって来たのかという小さな嘘はつくのだろうか。思考を戻すためにふと思ったことは、なるほど辻褄は合う。
自分がラビッハウスから北上してきたことを考慮すると、少なくとも南からのルートを辿ってはいない。
では、彼女はどこを目的地にしているのか。気ままに渡り歩いているというのは考えたくはないが。


腕輪から地図の機能を表示させてざっと目を通す。

521 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:07:56 ID:574g.qOo0
どうやらここは海に囲われた三つの島が線路を挟んで出来ているようで、八×八の計六十四のブロックに切り分けられているらしい。
このブロックというのが放送での禁止エリアというものに六時間ごとに変わっていく。
分かりやすさという意味でも地図に複数記されているシンボルマークはいい目印になる。参加者と積極的に出会うのが目的である以上、そういった施設を回っていくことは効率的だ。
現在地、南東の市街地に立つ映画館もそう。おそらく、縫もそう思うことは想像に難くない。
彼女がやって来た経路は北西から南下として、これで随分と行動は絞り込める。
映画館の近くに存在するシンボルマークは四つ。万屋銀ちゃん、ゲームセンター、駅、ラビットハウス。


そして、遊月はラビットハウスにいる三人のことを話してしまった。


(……うん、ラビットハウスへ行こう)

喉に骨が引っかかったような違和感の正体はまだ晴れてはいないけれど、彼女たちの目前の危機と比べるなら粗末なことだ。
店内には挽いたばかりの豆の香りが漂っていて、そこは何処か異国に迷い込んだような雰囲気を醸し出しいるラビットハウスに到着したら、呑気にコーヒーを飲んでいる二人がいて、承太郎さんはそんな二人を眺めながら泡立つビールを煽っている。
そんな、ふわふわとした空気の女の子たちと街の不良みたいな人が並ぶ光景を想像して、思わず口元が笑ってしまう。


開いた扉から中を覗いて見れば、今の自分に必要な物があった。



◇◆◇


ーー『怪物』が映画館に辿り着いたのは放送から暫く経ってからだった。

正面から侵入し自分の家だと言わんばかりに遠慮一つなしにロビーを物色していく。万屋を荒らした時と同じ要領で、人が隠れられる隙間以外に目をつけるところは特にない。
その際に物を壊すなどということはしていないので、これでは異常に体格の大きいお客様なのだが
、表情なく淡々と動かれるだけでどこか不気味なものを漂わせていた。
カウンターの奥、チケットボックスの近くにある二つのゴミ箱、ストア商品棚の下、コンセッション周り、休憩室の扉をぶち破りはせず、ドアノブに手を掛け中を探る。
数分もすれば呆気なく捜索は終わりを迎えようとする。既に事の終わったトイレを後にして、まだ調べていない劇場へ怪物は足を向けた。


◇◆◇


映画館の一階、入り口のプレートには9と表記された劇場、白と黒と移り変わるスクリーンを背後に遊月は重たく息を漏いた。
普段当たり前のように身に付けている服がこんなにも暖かいなんて思いもよらず、安堵するように漏らしてしまった行動である。
下から二番目の列にある席に掛けてあった藍色のロングコートは、冷たくなった体から熱を戻す仕事をしてくれる。下半身も同時に隠してくれるというのもありがたい。
遊月はコートに包まりながら劇場に入室した時から気になっていたものに目を向けると、世話忙しく点滅していたスクリーンが視線に答えるように切り替わり明るくなり始めた。
どうやらタイミングよく上映が始まるところだったよう。映写室から発射されていた光はスクリーンに映像を映していく。

静まり返った劇場内は暗闇に覆われていき、始まりを告げるように流れ始めたのは早めのアップテンポで聞こえてきたピアノの音。
確かこれは、‘子犬のワルツ’だっただろうか。遊月はぼんやりと、もう間もなく変化があるだろうスクリーンを眺める。
頭、足、そして胴体の順で画面の端からゆっくりと現れたのは、もこもことした白色の毛並みが特徴的のアルパカ。
クリッとした丸い目は今時の女子学生には黄色い声を掛けられることだろうと、そう思わせるほどの真っ白で純粋な瞳。
続くように姿を出したのは、目元が焦げ茶色の毛で完全に隠れてしまっているアルパカ。
白いアルパカとは違う方面で喜ばれそうな、笑っているような表情はとてもチャーミング。
くるくるくる、と二頭のアルパカは画面の中で踊るように回り始める。健を叩く指が絡まっていしないかと想像してしまうほど、リズミカルなテンポはそのまま終曲を迎える。


二頭のアルパカは画面外へと帰っていき、スクリーンは再び沈黙を見せた。

522 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:10:38 ID:574g.qOo0
可愛いなと、遊月は素直に思ったがこんな場所で休んでいるわけにはいかないと立ち上がる。
あまりに突然なことに言葉を失ったが、見てみればアルパカがただ回っているだけの映像だ。
毒にも薬にもならず、他人の命が掛かっているこの状況で貴重な時間を消費することは出来ない。
劇場に入ったその時図ったようスクリーンに明かりが灯ったのは、何か意図的なものがあってのものなのか興味がないと言えば嘘になるが、一刻も早くラビットハウスへ向かいそこに来店している彼女たちの無事の確認と、危険が迫っているかもしれない警告を出すことが何よりの優先事項。


『21世紀、世界の麻雀競技人口は1億人の大台を突破ーー』


遊月が目を逸らしている間に、いつの間にかスクリーンには映像が流れていた。
高らかに牌を持つ手を掲げて、学生服を着た少女たちが卓を囲んでいる姿。
終始表情を崩さない少女もいれば、対面に華が咲いていると錯覚してしまいそうなほど心の底から楽しそうに打っている少女もいる。
次々に少女たちが画面に大きく映されていくのを尻目に、足の裏と床が接触する音を場内に響かせながら遊月は出口へと目指す。

縫への課題は山ほどある。遊月が短い時間で考えた彼女に対する対策は、接触をせず奉仕対象の方を逃すという何とも情けないものだが、これが精一杯の出来ることだ。
言葉をやり繰りして止まるような相手なら、あのような無様は晒していない。
身包みを剥がされたのは衣服だけではなく、正面から立ち向かうという心までも引き剥がされた。
遊月はリルグが宿るカードを手にしたセレクターと呼ばれる少女たちの一人であるが、肉体や精神が強いというわけではなく、力も知恵もその辺にいるただの女子中学生。
彼女が危険だから殺さないといけないとそんな物騒な思考にはたどり着かず、かと言って話の通じる相手ではないことも身を持って経験済みだ。
選択肢は限られ、至る道筋も限定されているが、だからこそ、この道は正解だと確信出来る。

酷い別れ方をしたシャロの存在も勿論忘れてはいない。しかし、どこにいるのかも分からない人を見つけるというのは中々に骨が折れるものだ。
島であるとはいえ、発達した街や広大な森は存在している。この映画館があるブロックもビル群こそ見えないものの、商業施設や住宅などが点々と並び立っている。
その一つ一つを調べていくのは砂漠で一粒の砂粒を探すに等しい行為。
この世界が閉ざされる方が早いのでは、そう考えているのは仲違いしたシャロに対して一方的に自分が悪いと分かった遊月が悲観的になっているのが原因、だと本人は気がついているのだが、少なくとも彼女には目先の危機は迫っていないとして、ラビットハウスへ向かう選択を取った。
もしかしたらシャロもラビットハウスへ戻って来ているかもしれないというのも、悩む遊月の行動を後押しをする。

はた、と遊月はまだ見えない友人のことを考えて気分が重くなる。
酷いことをしたのはシャロだけに留まらない。るう子にしたのは心を覗いてしまったシャロ以上に無責任で一方的な関係の断絶。
それはいけないことだと理解はしていても、納得が出来ず諦めて心の奥に押し込んでいるしかない感情は、花代に出会い奇跡を知ったその時に抑えきれなくなった。
セレクターバトルに負けた敗者の末路を知ってもなお、胸に燻った炎は消えてはいない。
そう、今もまだ、こんな絶望しかない世界でも、遊月は諦めてなどいない。
花代にセレクターバトルの一端を教えて貰った後も、他のセレクターの願いを奪い取っている。
願いの代償は、その願いの反転。そうと知っていて、分かっていて、戦い続けた。


(……ん?)


音が止んだ。
スクリーンには、もう麻雀を打つ少女たちの姿は映し出されていない。
ブラックアウト、遊月の心を表したように、色は消え音は死んでいる。
場内が暗いままということは、まだ映画は終わっていないのだろう。
そんな、大きな変化に気づかず、遊月はなにを疑問に思ったのか立ち止まりポカンとした顔つき。

(セレクターバトルに勝ち続ければ無限少女になりどんな願いでも叶えられる)

523 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:12:15 ID:574g.qOo0
それが本当であるかどうかを問うのは意味のないこと。
遊月が望む願いは、例え、世界が滅びようとも叶えられる願いではなく、許されるものではないのだから。
選択肢など初めから与えられていない。だから奇跡に頼った。

(バトルに三回負けたら、願いはマイナスになり、反転して叶えられる)

例えば、友達が欲しいと願い負ければ、友達を作ることは出来なくなる。
かつて遊月の友達だった少女の願いは反転して、現実となり少女は一人きりになった。
セレクターバトルで叶えられた願いを覆すことは、同じセレクターの願いであっても出来ない。
だから、死ぬまでその少女は一人。

(わたしの願いは香月を……)

恋なんて生易しいものではない。遊月は血の繋がった実の兄を狂おしいほどに愛している。
この気持ちを忘れたことなど一日足りともなく、ずっとずっと想い続けてきた。
自分では絶対に叶えられない願いを叶えてくれる奇跡があるならば、遊月はどんな代償を示されても手を伸ばす。

(願いの代償……白のカード……)

カチリと、遊月の頭の中で感じていた違和感が溶ける。

(同じなんだ、この殺し合いとセレクターバトルは)

針目縫との短い会話の中で得た情報に有益なものは一つある。
豹変した彼女に圧倒されたのが原因か、今の今まですっかりと頭の中から外れていた。
セレクターバトル。願いを叶えるため、無限少女を目指す少女たちのカードバトルゲーム。
無限少女となった少女は望む願いを叶えて、三回負けた少女の願いは反転されセレクターに関わった記憶も失われる、勝者と敗者がはっきりと分かれるカードゲーム。

細かい違いはあるけれど遊月が置かれた状況はセレクターバトルに近い。
殺し合いに勝ち残れたら願いを叶えて、負けたら命を落としカードに魂を封じられる。
誰かの願いを踏みつけ、勝ち続けられたら願いを叶えられるセレクターと同じ。

(本当に……?)

リルグはセレクターには欠かせないパートナー。
彼女たちがいなければセレクターバトルに参加出来ず、願いを叶える挑戦をすることも出来ない。
魂を囚われた少女。それこそがリルグとするならば。

(花代さんたちは、殺し合いに参加していた? そして、負けてしまった?)

遊月は頭を振る。飛躍しすぎた発想を払うためだ。
あと少しでなにか掴めそうな気がする。静まり返った劇場は陽が当たらないからか肌寒い。
自身が感じたなにかを掴むまで、あと数歩。


ーーコツン。

524 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:15:23 ID:574g.qOo0
手に掴もうとしたその間際、思考はリノリウムの床を踏みつける足音によって切られた。
一秒でも早くと急いでいた遊月が力押しで開いた、開けっ放しの重厚な扉。今や防音の役割を果たしていない扉の外から、思考を乱した足音が聞こえている。
遊月が初めに思ったことは縫が戻ってきたということ。しかし響く足音は、通快なステップを踏む小柄な彼女の音ではなく、まるで逆、重く一切乱れることのない。
男性だろうか、根拠もない考えは実りを見せず、足音の主に対してどう対応するか決めかねる……のは、一瞬だけ。

(……行こう、衣服を回収しただけで、この場は十分)

遊月の決断は早かった。劇場、入り口近くにまで来ていた体の方向を変える。万が一、足音の主が針目縫のような危険な『怪物』であったのなら、なにも出来ることなどないから。
危機に対して防衛する手段がないため、抗える相手というのは少なく限られている。
女子中学生というステータス。この小さな世界では弱者に位置付けられる遊月が、下手な好奇心を出したならすぐにあの世行きだ。自分の身を弁えている、とも言える。
何より、正体の見えない侵入者より、現在進行中で危険な彼女を相手にするべきだろう。


何かを探すよう静かに足音は続いている。どうやら遊月の読みは‘当たり’なのかもしれない。


ロビーの正面入り口に向かうと侵入者の視界に入ってしまうので無理として、であるならどうやって気づかれずに脱出をできるか。
映画館は二階建ての構造になっている。入り口からロビーへ入ると、右手に受付、左手にストアがあり、もう少し奥に進んだ右手にはポップコーンやチュロスを販売しているコンセッション、更に奥に進むと左手に二階へ続くエレベーター、右手がチケットの受け渡し、劇場の入り口。
劇場は二階のものを全て合わせると14部屋と多いが、1階のものだけだと7部屋になる。
二階に捜索の手を伸ばすか、トイレに行っている隙でも狙わない限り、正面から外へ出ることは出来ない。
劇場へ続く通路はT字に分かれており、番号が振り分けられたそれぞれの場所に繋がっている。
ここで問題になるのが遊月がいる劇場の扉が開いてしまっている。元に戻そうにも、閉める時の音が響く。
これが意味することは、見つかるまでのタイムリミットはそれほど長くはないということ。
侵入者がフロアの捜索を終えて次に探しに来るのは当然、劇場になる。

ーー鼓動が少し早まるが、それだけ。奇しくも針目縫との邂逅が糧となったのか、怯えるのではなく状況を打開するために頭を回す。

現在、遊月が置かれた状況は非情に辛い。外へ出るためにはロビー正面の入り口が必要で、そこを通るためには侵入者との接触をせざるを得なくなる。
他の出口を探そうにも劇場の前の通路にはトイレしかないことを確認しており、その通路の入り口であり出口はロビーへ繋がっている。
そんな、表情こそ平静を保っているものの時が経つごとに焦りを顔に出していく遊月の努力も虚しく、足音は明らかに此方に向かって来ている。
微かに震え始めた体はまるで袋小路に追い詰められたウサギのよう。
どうにかして頭を切り替えようとしたのか、足音から少しでも遠ざかろうとしたのか、衣擦れの音を響かせないようにそっと息を潜めて劇場の奥に進む。
鼓動は正反対にボルテージが上がっている。口を開けたら音となって飛び出してくるように思えて、遊月は口元を手で押さえるようにして歩みを続ける……とその先にあっさりと出口は見つかった。


視線の先には、強く光を発している誘導灯ーー非常口。


希望の光。


◇◆◇

525 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:18:27 ID:574g.qOo0
ーースクリーンの画面には煌びやかな衣装を纏ったアイドルが歌い踊っている。

そんな光景を『怪物』ジャック・ハンマーは、深く座席に座り眺めていた。

(……さて)

映画館でジャックが求める参加者は見つけられなかった。人がいた‘形跡’こそあるものの、それが‘いつ’であるのか判断がつかない。
トイレに散乱していたガラクタ然り、目の前で上映している映像然り。一階に一つだけ劇場のドアが開いていたが、これも‘いつ’であるのか彼には分からない。
その劇場には非常口が存在していたが、開いたのは場内を調べ終わった後。
まさか足音だけを聞いて、話もせず逃げる者がいるとはとても思えず、いたとしてもそんな腰抜けは
放っておいても勝手に死んでいくだろうと様々な考えはあったが、単に場内に隠れている方が可能性は高いとそちらを優先しただけである。
ともあれ、獲物を見つけられずその報酬を取れなかったジャックは流れていた映像に足を止め、人一人いない貸切の劇場で、少しだけ疲労した体を休めていた。

ーー否、限界を超えたジャック・ハンマーはこの世界が終わる三日間を休みなく戦い続けることなど、東から西へ太陽が昇るより当たり前のことであり、鶏が卵を産むことより簡単なこと。

では、貴重な時間を使ってまで進撃を止めた訳とはーー

(……勇次郎ヨ、なぜ死んだのだ)

目的であり目標であり、ジャックの人生そのものと言っても過言ではない、父、範馬勇次郎。
その『死』をこの身に深く刻みつけるため、ジャックは留まる選択を選んだ。

(地上最強ではなかったのか、貴様の強さはそんなものだったのか)

武に生きる者であるならば範馬勇次郎を知らない者はいない。
この世のどんな生物であろうとも、彼を相手にすれば最弱に成り下がる。
勝てないからではない。圧倒的な戦力差ゆえ、ボロ布のように扱われ自らの強さの核を砕かれてしまうからだ。
アリがティラノサウルスに挑んで負けたとして、アリの強さを証明など出来るであろうか。
踏み潰されて死ぬ、所詮、アリはアリ。根本から勝てる要素などない。
一方的な蹂躙は相手の心を折り、そして二度と立ち上がることのない体になる。
例え 、癌細胞であろうとも勇次郎に打ち勝つとは不可能であり、核爆弾を使おうとも殺すことは出来ない。
そんな、自他共に最強と謳われている彼が、この地で命を落とした。

(負けた……などと言うつもりはないだろうな、勇次郎)

範馬勇次郎が負けたらそれはもう範馬勇次郎ではない。範馬勇次郎をした‘なにか’だ。
地上最強から最強を取ったら、そこらにいる有象無象の生物と何一つ変わらないということ。
そこにジャックが求める範馬勇次郎はいない。最強である彼だからこそ目標とする意味がある。
ティラノサウルスだろうと負ければアリだ。ジャックはアリに微塵も興味はない。

(……戦えば、自ずと分かること)

暗雲に支配されつつあった心を、拳でもって破壊しヤシの実も�筋り取る歯で�筋み砕く。
ノイズが掛かったまま戦いに赴くなど、これから出会う全ての者に失礼な態度である。
ジャックは全力で彼らを潰し優勝を勝ち取る。勇次郎を倒すという最大の目標は潰えたものの、その心までも、その戦いの道までも失ったわけではない。
それとこれとは、別。勇次郎の問題は参加者である彼らに関係はない。

(…………)

僅か、一分にも満たない思考は、防音加工してある扉を貫くほど強烈な音によって途切れる。
足を上げ落とした、その動作だけで床を踏み鳴らしたジャックは、大きく凹んだ床に目もくれず立ち上がる。


決意も新たに、出撃の時は来た。


(刃牙、お前はどんな選択をする)


『怪物』は一歩を踏み出す。





【G-6/映画館/一日目・午前】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:頭部にダメージ(小)、腹八分目、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:機会があれば平和島 静雄とも再戦したい
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。


◇◇◇

526 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:22:30 ID:574g.qOo0
『怪物』が来襲していた事などいざ知れず、非常口を通り映画館から外へ出た遊月は振り返る事もせず去っていく。

『化け物』の危険を知らせるため、ラビットハウスへと走る。




【G-6/市街地/一日目・午前】
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意
[服装]:藍色のロングコート@現地調達
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
1:シャロを探し、謝る。 今は、ラビットハウスに戻る。
2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
3:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也を警戒。
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

527 ◆KYq8z3jrYA:2015/11/25(水) 23:23:04 ID:574g.qOo0
投下終了します

528名無しさん:2015/11/28(土) 16:40:53 ID:bavq3zpo0
投下乙です
指摘もないようですし、本スレに投下して大丈夫だと思います

529 ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:36:39 ID:jNueIgOs0
仮投下します

530震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:38:57 ID:jNueIgOs0
――放送が終わり、少しの間をおいてシャロさんが「よかった」と呟く。
きっと、この殺し合いに巻き込まれている友達の名前が誰も呼ばれなかった。
だからほっと一息をつくこと自体は、何も悪いことではありませんでした。

それは私だって同じ。
もし、少しでもタイミングがズレていたら。
もし、今自分たちのいる場所が禁止エリアになるということに気付いて神経が尖っていなければ。
理由はどうあれ、遊月の名前が呼ばれなかった、それだけで私も同じ言葉を口にしたと思います。

私は何も言わず黙っていて、シャロさんは違った。
ただ、それだけの違いでした。

でも、私やシャロさんは良くても。
良しとしない、いや、出来ないだけの理由が“彼女”にはありました。
その事実に、もっと早く気付くべきでした。


*  *  *


3時間後にはここ、F-3が禁止エリアになる。
ここから北のE-3まではさほど距離がないから早く移動した方がいい。
皆にそう伝えようとして顔をあげた小湊るう子が感じたのは、不穏な空気。

シャロはともかく、夏凜とアインハルト、特に後者の様子が何だかおかしい。
蹲っているその身体が僅かに震えている。

「あんた……」

夏凜が何か言おうとするが、もう遅い。
急にアインハルトが立ち上がったかと思うと、目にも止まらない速さで紗路の元へ踏み込む。

「っ!?」

そして、横顔にその拳を叩き込んだ。
魔法に慣れていない人間がパニッシャーを展開するには猶予が足りず、紗路の身体は宙を舞う。

「シャロさん!?」

慌てて数メートル程吹き飛ばされた紗路の元へ急ぐ。
動かないが、軽く気を失っているだけでまだ息はある。
直撃を受けた左頬はしばらく腫れるだろうが、幸い命に別状は無さそうだ。

振り返ると、アインハルトがすぐ後ろまで来ていた。
彼女の姿は先刻までの少女のそれではなく、成人女性のようになっている。
あまりの事態に足が竦み、腰が抜ける。
それでも、このままでは危険だと感じたるう子は、何とかして紗路を庇おうとする。

アインハルトの拳が再度放たれる。
思わず目を閉じる前に見えたのは、嘆くような表情と、飛び散る赤いもの。
ああ、人間の血というものは、こんなにも綺麗なのか――。


いや、違う。今のは血ではない。
るう子は、それに見覚えがあった。
色こそ違うが、神社で見たものと同じ……?

恐る恐る目を開けると、アインハルトを遮るようにして立つ、1人の少女の姿。

「夏凜さん!」

2本の刀を手に、三好夏凜がアインハルトを食い止めている。
その背中は震え、何も語らないが、ただ“逃げなさい”と告げられているような気がして。

「…分かりました」

るう子もただそれに従い、カードから出したスクーターでシャロと共に北へと走る。
その後を追おうと動きを見せるアインハルトだが、

「させないわよ」

彼女の意図を読み取った夏凜が阻止する。
邪魔をされたと判断したアインハルトは、黙って夏凜と向き合った。

「どういうつもり、アインハルト。
何で桐間紗路を殴ったの?」

答えることもなく彼女は次から次へと拳、蹴りを繰り出し、夏凜はそれら全てに対処しつつ、違和感に覚える。
今の彼女の攻撃は犬吠埼風に殺されかけていた時と違い、八つ当たりという表現が丁度いい。
どうにも、感情任せの攻撃としか思えないのだ。

531震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:39:51 ID:jNueIgOs0
拳と刀がぶつかるたび、火花が散らされる。
やがて、左肩に紅いサツキの花弁が一枚灯る。
これが何を意味するかは、夏凜には容易に想像出来た。
以前だったら気にも留めなかったことだが、今はそうもいかない。

あの日、風はこう言った。
“満開の後遺症は治らない、過去に犠牲になった勇者がいた”と。
流石にこれ以上こんなことで戦闘を続けるのは良くないと判断し、夏凜は呟いた。

「…………高町ヴィヴィオ」

その名を聞いた途端、ぴたりと拳が、アインハルトの動きが停止する。
ビンゴ、やはり原因はそれだ。

「アンタは友達の名前が呼ばれて、シャロは呼ばれなかった。
それを知ってか知らずか、彼女は良かったと言い放った。
だから殴ったってところでしょう、でもね――」
「違うんです」

いつの間にか元の華奢な少女に戻ったアインハルトが、口を開く。

「何が違うっていうのよ」
「友達だとか親友だとか……ヴィヴィオさんは、そんな簡単な言葉で表せる人じゃ、ないんです」

答えるアインハルトの両目からは、大粒の涙が零れていて。
ほとんど表情を変えない彼女が、この時ばかりはうっすらと苦笑いしている。
夏凜の目には、そう映っていた。


*  *  *


ひとまずE-3、かつてアインハルトたちと出会った道路の脇まで出たるう子はスクーターを停止させた。

「ん……」
「シャロさん、気が付きましたか」

気を失っている少女を連れて運転するのは少々苦労したが、今のところ大事には至っていない。

「夏凜さんがアインハルトさんを説得してくれている筈です、きっと大丈夫ですよ」
「ねえ、るう子ちゃん。私、悪いこと、しちゃったのかしら」

左頬に手をあて、反省するように尋ねる。
紗路自身、何故殴られたのかくらいはうっすら理解していた。
まさかこんなことになるだなんて、夢にも思わなかったが。

「シャロさんは、悪くありませんよ」
「……だって」
「るうだって、遊月が死んでないって分かってほっとしました。
こんな、殺し合いなんてものに巻き込まれたら、誰だって同じだと思うんです」
「でも、私が余計なことを言ったせいで、あの2人は」
「シャロさんのせいじゃないですよ、気にしないでください。
でも……2人が戻ってきたら、ちゃんと謝りましょう。
大丈夫、きっと戻って来て……許してくれますよ。るうも一緒に、謝ります」

どんなにカードゲームの腕が上達したって、どんなにセレクターバトルで心が成長したからといって。
小湊るう子は、結局は非力な一般人の少女であるという事実は変わらない。
だから、彼女が桐間紗路にしてやれることは、それくらいしか無かった。

「…………ありがと」

もう1人の非力な少女は、申し訳なさそうに感謝の意を述べた。


【E-3/エリア南部、道路脇/朝】

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、左頬が軽く腫れている
 [服装]:普段着
 [装備]:パニッシャー
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
     黒カード:不明支給品0〜1(確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   0:アインハルトたちが来るのを待って、謝る
   1:研究所か放送局に向かう
   2:パニッシャーをもっと上手く扱えるように練習する?
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。


【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:微熱(服薬済み) 、魔力消費(微?)体力消費(微)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
         ノートパソコン(セットアップ中、バッテリー残量残りわずか)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の魂カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:アインハルトさんたちを待つ。
   1:遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
   2:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   3:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。
   4:研究所に向かうか、東の市街地に向かうか。



✿  ✿  ✿

532震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:41:02 ID:jNueIgOs0


「そういうのじゃないって、じゃあ何なのよ。
友達、血縁、或いは想い人……結局はそういった関係のどれかなんじゃないの?」

夏凜には、アインハルトの言葉の意味は分からない。
アインハルトもまた、理解してもらおうとは思っていない。

「いいんです、別に。私はまた彼女を守ることが出来なかった。
この殺し合いの中で、大切な人が死んでしまった。
夏凜さんもそうなんでしょう?」
「っ――」

急にその話に触れられ、返す言葉が見当たらない。
犬吠埼樹、今では大切な勇者部の一員が死んだという事実は、少なからず夏凜の心に衝撃を与えた。

正直、夏凜自身も無責任な発言をした(と思っている)紗路に小言くらいは言うつもりでいた。
それでもしなかったのは、突如アインハルトが暴れ出したから。
今ここで止めなければ、きっと戻れなくなる。
かつて暴走した風を止めようとした時の経験から、それは痛いほど分かっているつもりだった。

「今の私には、ヴィヴィオさんが全てでした。
あの人のお陰で、色んな人と出会えて、私の狭かった世界は変わりました。
ただ強さだけを求めて彷徨っていた私に、あの人たちが、ヴィヴィオさんが手を差し伸べてくれた」

一度言葉を区切り、アインハルトは叫んだ。

「でも! 死んでしまったら、何も意味はありません。
私はコロナさんやリオさん、ノーヴェさん、それになのはさんやフェイトさんたちに、何て言えばいいんですか!?
私はもう、あの人たちに顔向けなんて出来ない! もう、私には――」
「ふざけんじゃ………ないわよ!」

業を煮やした夏凜が、言葉と共に渾身の平手打ちを飛ばす。
あなたに何が分かるんだ、と視線を飛ばすアインハルトに、叫んだ。

「あんたに何があったかは知らない。
そりゃ、大切な人が死んだからヤケクソになりたくなる気持ちは分かるわよ。
でも言ったでしょう、あんたがどんなに悔やんだって、人に八つ当たりしたって、死んだ人は戻りはしないの!」

それに、と夏凜は続ける。

「コロナって言ったかしら、その子はまだ生きているんでしょう?
その子だってあんたと死んだ高町ヴィヴィオの友達なのよね?
だったら……次にすべきことくらい、あんた自身でも分かるでしょう!?」

話が終わり、アインハルトは「……ごめんなさい」と小さく声を放つ。
それが何に対しての“ごめんなさい”なのか、夏凜には分からない。
ただ、一応この場は収束したのだと理解し、変身を解いて額の汗を拭った。


✿  ✿  ✿


とりあえず紗路たちに合流して謝ろうという話になり、2人は北へと歩いて行く。
飛ぶなり何なりすれば早いのだろうが、ここがやがて禁止エリアになるという事実を思い出したお陰でそれどころでは無かった。

道中横に並んでいた2人だったが、突如夏凜が足を止めた。

「夏凜さん?」

アインハルトが様子を伺うが、夏凜はスマホの画面を凝視しながら驚愕の表情を見せているだけ。

「夏凜さん、あの、大丈夫ですか……?」
「嘘でしょ……ん、あ、大丈夫よ、何でもない」

さっとスマホを後ろに隠し、夏凜は取り繕ったように笑ってみせる。
そう、ですか……と呆気に取られたアインハルトの少し後ろを歩きながら、再びスマホの画面を見返す。

本当に通信機能が失われているのかと色々と弄っていた時に、偶然見つけたものだった。
使えないと思っていたチャット機能がいつの間にか使えるようになっている。
(もっとも勇者部のみが使えるアプリであるNARUKOではなく、至って普通のチャット機能だったのだが)

問題は画面に映し出されていた一つの文章。
……出来るなら、見間違いであって欲しかった。

533震えている胸で  ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:41:53 ID:jNueIgOs0
『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

るう子たちと合流する前の彼女なら、これは誰かが悪意を持って流した嘘だと一蹴しただろう。
だが、今はるう子から得た1つの確かな情報がある。

“東郷美森は既に宮永咲という少女を殺害している”

「(まさか、東郷が……)」

考えたくない。
あの東郷が、同じ勇者部の仲間を殺しているだなんて。

それでも、考えざるを得ない。
樹の姉である風がこの文章を見て、何を思うか。
東郷の親友である友奈がこの文章を見て、何を思うか。

考えれば考えるほど、最悪の構図が目に浮かんで来る。
アインハルトにあんな説教をした手前、相談することも適わない。
それでも何とかして、気持ちの整理を付けないといけない。
だって、自分がきちんとしなければ、誰が彼女たちを一丸にまとめ上げられる。
他に適任なのはるう子だろうが、彼女に戦闘能力は一切ない以上危険だ。

「どこにいるのよ、友奈……」

アインハルトにも聞こえないように、弱弱しい助けを求める。
双刀の勇者は、まだ挫けるわけにはいかない。


*  *  *


拝啓、ヴィヴィオさん。

あなたを喪ったことは辛いですが、私は何とか大丈夫です。
コロナさんのことは、どうか心配しないでください。
もし、いつか、どこかで会えたなら。
その時は、また――――


【F-3/エリア北部/朝】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、満開ゲージ:1
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   0:助けて、友奈……
   1:研究所、放送局どこに向かう……?
   2:東郷、風を止める。
   3:機会があればパニッシャーをどれだけ扱えるかテストしたい。
   4:紗路たちと合流する
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折 (処置済み)、精神的疲労(大)
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
    黒カード:0〜3枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
    高速移動できる支給品(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
   0:ヴィヴィオさん……。
   1:紗路たちと合流し、謝る。
   2:私が、するべきこと――。
   3:コロナを探し出す。
   4:余裕があれば池田華菜のカードを回収したい。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。

[備考2]
4人が共有している情報
※夏凛、アインハルト、シャロ、るう子の4人は互いに情報交換をしました。
※現所持品の大半をチェックしました。
※るう子、シャロ、アインハルトはパニッシャーを使用しました。
 効果の強弱は確認できる範囲では強い順にアインハルト、るう子、シャロです。
 バリアジャケットを装着可能ですが、余分に魔力及び体力を消耗します。

4人の推測
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
3:参加者の肉体は繭達が用意した可能性があり、その場合腕輪は身体の一部であり解除は不可で 本当の肉体は繭がいる場所で隔離されている?
  もし現在の参加者達の身体が本来のものなら、幽体離脱など精神をコントロールできる力を用いることである程度対応可能ではと考えています。

534 ◆DGGi/wycYo:2015/12/03(木) 23:42:48 ID:jNueIgOs0
仮投下を終了します
指摘等あればお願いします

535名無しさん:2015/12/03(木) 23:57:26 ID:wU5NTj5Q0
投下乙です
アインハルトが苦笑いとは言え、笑っている描写に違和感が
漫画を読めば分かりますが、彼女にとって笑顔とはかなり大事な意味があるものなので

536 ◆DGGi/wycYo:2015/12/04(金) 00:00:04 ID:MpOz9id.0
>>535
あくまであれは夏凜視点でそう見えただけでアインハルト自身は表情を変えてない、のつもりで書きました
本投下の際には何かしら修正を加えます

537 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:42:43 ID:aRXx8lUc0
仮投下します

538 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:44:19 ID:aRXx8lUc0
平和島静雄は、暴力が嫌いである




「臨也じゃ…ない!?」
平和島静雄が学生の割には老け顔の大男蟇郡苛と合流してしばらく
互いに情報交換をするうち、静雄にとっては寝耳に水な事実が判明した

「ああ、あの折原という男、越谷小鞠が殺された時間帯はずっとラビットハウスという喫茶店にいた。この俺自身も一緒にいたのだから間違いない。
さらに言えばこの殺しあいが始まった直後、折原は先ほど話した空条承太郎と一条蛍の二人と合流している。
普通の少女である一条はともかく、空条は中々の使い手のようであった。
折原も中々小賢しいようだが、空条に隠れて誰かを殺せるとは思えんぞ」

言われてみれば不自然な点は多くあった
詳しく思い出そうとすると暴れたくなってしまうので朧気だが、あの妙な館内放送では臨也の声はしなかった
あの耳障りな声がしなかったおかげ…いや、せいでキレる寸前でありながら小鞠を巻き添えにしないために隠して行く程度の判断力は残ったのだ

考えてみれば、臨也にはわざわざ自分の声を誤魔化す必要はない
あの声で「シズちゃん」なんて呼ばれたら、それだけで静雄がキレると知っているのだから、それをしない理由もない

さらに、臨也はああ見えて直接凶器を持って静雄以外の誰かを殺そうとしたことはなかった

女の子を殴る趣味はないと言って笑いながら女の子の携帯電話を踏みつけるような人間だが…
普段からナイフを隠し持っていて初めて会った時も(静雄の方から殴りかかったとはいえ)斬りかかってくるような人間だが…





折原臨也は、人間を直接殺すような人間ではない



「じゃあ…誰なんだよ…!クソが…!」

539 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:47:01 ID:aRXx8lUc0





蟇郡苛は、平和島静雄を評価していた
誰かを失った悲しみを背負う者同士、一種のシンパシーがあったのかもしれない
先ほどの一瞬の衝突の際、生身でありながら極制服着用者を凌駕するような一撃を放ってきたこともあり、これから共に戦う者として頼りになるとも思っていた
短気で熱くなりやすいようだが、直情型なのは自分も同じだ

だからだろうか…
彼は余計なことを言ってしまった


「うむ、あのキャスターという外道を討伐した後、衛宮殿に話を聞こう」

「衛宮?」

「うむ、ゲームセンターの様子を確認しに行ったのは彼だからな。
俺が平和島を越谷小鞠殺しの下手人だと思ったのも――」
そして、蒲郡は説明してしまった

ラビットハウスで香風智乃が腕輪探知機を使ったこと
その結果、ラビットハウスのあるG―7エリアに蒲郡苛と香風智乃含め八人もの参加者がいたこと
その後折原臨也を含む四人組と合流したこと
その四人組の中の衛宮切嗣が残る二人――平和島静雄と、越谷小鞠を探しに行ったこと
衛宮切嗣が越谷小鞠の死体を発見し、平和島静雄が犯人の可能性が高いと話したこと






バキ、と何かが折れる音がした
蒲郡が驚いて横を見ると、なんと平和島静雄が車の縁を手で砕いていた

「何をする!」
車を止めて蒲郡は思わず叫ぶ

「衛宮…衛宮切嗣…」
「おい、平和島?」
ただならぬ雰囲気で呟く平和島静雄に、蟇郡は困惑する

540 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:51:02 ID:aRXx8lUc0


平和島静雄は、決して頭の良い人間ではない
小学生の頃、同級生である岸谷新羅が言っていた「一世代での進化」という推察も、未だによく理解できていない(これに関しては静雄が馬鹿というよりは新羅が天才すぎただけなのだが)
だが、物を一切考えられないような能無しでもない
あの時G―7エリアにいた八人
空条承太郎
一条蛍
折原臨也
香風智乃
蟇郡苛
衛宮切嗣
越谷小鞠
そして自分―――平和島静雄

そのうち、自分と小鞠を除いたら六人
その六人のうち、折原臨也を含む五人がラビットハウスにて待機
越谷小鞠を殺せるのは…唯一単独行動をとっていた、衛宮切嗣だけだということが分からないような能無しではない





「ええええぇぇぇぇぇぇえ゛みいいいいいいぃぃぃぃい゛や゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」




喉も裂けよと言わんばかりの絶叫をあげる平和島静雄
車から素早く降りたと思ったら、なんと車を持ち上げだしたではないか!

541 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:52:06 ID:aRXx8lUc0






平和島静雄は、暴力が嫌いである


「落ち着けぇ!!!確かに状況証拠的には衛宮殿が怪しいかもしれんが、彼はこの便利な乗り物を快く俺に譲ってくれた!とても悪人には見えん!」
持ち上げられた車から飛び降りて着地した蒲郡は、持ち前の大声で一喝した後に静雄に説得を試みる
蟇郡にとって衛宮切嗣という男は、物欲しげな視線を送ってきた自分に対して快くコシュタ=バワーを譲ってくれた上に、気遣う言葉さえかけてくれた恩人だ

さらに言えば蟇郡はこの殺し合いに巻き込まれてから、パラレルワールドといった「なんだかよく分からない」現象に遭遇した
そんな「なんだかよく分からない」中で、状況証拠だけで恩人を殺人者だと決めつけるほど短気ではなかった


だが…

「あああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
平和島静雄の暴力には、理屈も理論も通用しない

激情を抑えきれない静雄は、とうとう車を空高く放り投げてしまった
数瞬の後、大きな音を立てて落下した車は、いつかの壊惨総戦挙(かいさんそうせんきょ)でサバイバル自動車部に襲撃された時のようにボロボロになってしまった
そしてなんと、静雄は南東…ラビットハウスの方面へ行こうとしているではないか!

(平和島静雄という男…見誤ったか!)
短気なところもあるが、信用できる男だと思っていた
しかし、あまりにも短気すぎてすぐに我を忘れるほどの怒りを見せる男だったようだ
完全に回りが見えなくなっているようで、あれではもしラビットハウスに行ったら衛宮だけでなく周りの人間も巻き込んで暴れるだろうことは容易に想像できた

これでは、折原臨也の言った『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』というのも、ある意味的を射ている
本人に悪気はなくても、結果的にそうなってしまうのだ

「行かせんぞ!!」
蟇郡は静雄の前に立ちふさがる

「三ツ星極制服、最終形態…!」
(だが!!そんな人間だからこそ、風紀部委員長として手綱を握らなければならん!)
蟇郡の身体を光が包む
なんか全裸になってるようにも見えるが、光で局部は隠れているのでよしとしよう

542 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:54:10 ID:aRXx8lUc0


「縛の装・我心開放!!極戦装束!!!」
そして、蟇郡は『変身』した
そこに先ほどまでの制服の面影はない
顔には防具のような戒めがあり、腹部は大きく開いている
さらに両腕が金属質の布で覆われており、右腕には炎を纏っている

「さぁ、気が済むまで俺を殴れ!」
蟇郡は静雄の激情を受け止めることにした
言葉での説得が通じないなら、肉体言語で臨むまでだ

「邪魔だああああああ!!」
完全に我を失っている静雄は、全力で腕を振りかぶる

(我心開放に変身した以上、多少殴られようがかまわん!俺の胸を貸してやる!)
自らの防御能力に絶対の自信を持つ蟇郡は、静雄が落ち着くまで彼の攻撃を受けきることにした

「こい!平和島静雄!」
平和島静雄の拳が縛りの装の腕に当たり…










「ああ〜いいぞぉ、もっとだ、もっと責めろ、俺を責めてみろ〜!」
蟇郡の甘い声が周囲に響き渡った…









「お前、変態だったのか…」
余りにも予想外の出来事に怒りが霧散した静雄は、複雑そうに呟く

平和島静雄は、暴力が嫌いである
折原臨也以外には好んで暴力を振るわない彼は、一度激情が収まると、とりあえず話を聞く気にはなった

「変態ではない、変身だ!」
『変態』などという言いがかりをつけられた蟇郡は『変身』を解いて断固抗議するが、とにかく今は平和島が冷静なうちに話をするべきだと判断した

「先ほどの情報交換でも話したように、この島にはなんだかよく分からないものが溢れている
状況証拠だけでは犯人と断定はできん!なにより今は、あのキャスターという外道を成敗するべきであろう!!」

キャスター討伐が本来の目的だった以上、静雄もこれには反論できなかった

543 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:55:15 ID:aRXx8lUc0


「しかし!お前が彼を疑うのもまた道理!
キャスター討伐を終えた後、改めてもう一度彼に話を聞く!
それで構わんな!!?」

「…ああ」
渋々といったように返事をする静雄

完全に納得したわけではないようだが、ひとまず落ち着かせることができたようである

「さぁ、時間を浪費してしまった
乗れ!!放送局へ急ぐぞ!!」

示される通りに助手席へ乗り込めば、蟇郡の運転でボロボロのオープンカーは走り始める
かくして、今度こそ衝突は必至であった筈の二人は一人の甘い嬌声によって再び道を同じくした

静雄は、老け顔の変態の大男と二人きりたぁうすら寒いな、と内心で愚痴をこぼした
それから、本当ならばこの車の後部座席に、小さくて怖がりなメイド服の少女が一人乗るかもしれなかったと考えて
犠牲者は俺だけで充分かもな、と遠くの空を見た

【E-4 T字路/朝】


【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。
   1:平和島静雄の手綱を握る
2:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く
   3:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。
   4:針目縫には最大限警戒。

[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。


【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也およびテレビの男(キャスター)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:テレビの男(キャスター)をブチのめす。そして臨也を殺す
  1:蟇郡と放送局を目指す
  2:犯人と確認できたら衛宮も殺す
  3:こいつ(蟇郡)、変態だったのか…

[周辺への影響]:
E-4エリアのT字路にて、平和島静雄がコシュタ・バワー@デュラララ!!を空高く放り投げました
近隣エリアにいれば、コシュタ・バワーを目撃できたかもしれません

544 ◆45MxoM2216:2015/12/07(月) 22:58:23 ID:aRXx8lUc0
仮投下終了です
結構な距離を移動しましたが、車だったので一応時間は朝にしました
その辺りも含め、何かご意見ありましたら指摘お願いします

タイトルはちょっと迷ったんですが、「変態ではない!変身だ!」を考えています

545名無しさん:2015/12/08(火) 21:08:39 ID:utatR3Ck0
遅くなりましたが仮投下乙です
一つだけ気になったのは、コシュタ・バワーは形を自由に事が出来るのにボロボロのままなのは少しおかしいのではないかという点ですね
そこ以外には特に問題無いと思います

546名無しさん:2015/12/08(火) 21:11:06 ID:utatR3Ck0
重要なところが抜けてました
形を自由に変える事が出来るのに、です

547 ◆45MxoM2216:2015/12/08(火) 21:50:01 ID:nV/ZZI6.0
>>545
ご指摘ありがとうございます
本投下の際には修正しておきます

548One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:08:01 ID:reOR3keM0
─────どうして、あんなことを言っちゃったんだろう。

零してしまった言葉が、どうして亀裂を生んだのか。
その理由が分からないほど、彼女は馬鹿ではない。
周囲のことを全く考えず、自分勝手な言動を漏らして。
そのせいで、要らぬ亀裂を、要らぬ対立を招いてしまった。

思えば、遊月の時もそうだった。
自分の都合で酷い事を言って、相手に嫌な思いをさせてしまう。
ここに来てから、そんなことばっかりだった。
どうしてだろう。

だって私は、取り繕う事には慣れていた筈だったじゃない。

そうだ。
あの木組みの町で、自分は皆に嘘を吐きながら、その嘘を頼りにして皆と繋がっていた。
お嬢様である桐間紗路。
それが求められていたような気がしたから、頑張って期待に応えようとしていた。
そうすれば、ココアもチノも、リゼ先輩も、一緒にいてくれるから。

………ああ、でも。

嘘がバレたから、どうせもう、一緒には居られないのかな。

そんな事を、桐間紗路は考えていた。






放送が終わってから、大体数十分が経過した頃。
小湊るう子と桐間紗路は、未だに道路脇近辺にいた。

「………遅い、ですね」

そう。
三好夏凜、そしてアインハルト・ストラトス。
先程まで同行していた二人が、何時になってもやって来なかったのだ。
放送直後に起こった、小さないざこざ。
それが原因となって、一旦彼女達は二人ずつになっていた。
しかし、合流しない事には、先の和解も出来なければ
だからこそ、彼女達は此処で合流する為に待っていたのだが。
そして、その合流が出来ない事が、何よりの問題になっていた。
勿論、彼女達は待つだけだったのでは無い。
一度は先の場所に戻り、その周辺を探したりもしたが、結果は芳しく無く。
彼女達と逸れてしまった、という事実だけが、得られた唯一の情報だった。

「やっぱり、私達が東に行っちゃったと思ってるのかな……?」

そのシャロの呟きに、るう子は頷く。
恐らく、考えられるのはそれくらいだろう。
アインハルトはかなり取り乱しているようだったが、あの様子なら夏凜は禁止エリアについての文言は耳に入っているだろう。
そして、非力である二人だけで、危険人物も集まりやすいと思われる放送局に向かう可能性は小さいというのは、向こうも理解している筈。
そうなれば、残るは東。
市街地か、或いは研究所の方角に向かっただろう、と推測するのはそう難しくない。

「一回、東に向かった方が良さそうですね」

となれば、自然と結論はそうなる。
出しっ放しにしていたスクーターに跨るが、シャロは何やらまだ考えているようだった。

「どうしたんですか?」
「あー……、定晴は言う事聞くか分からないから、どうしようかなって」

るう子の質問にそう答えつつ、溜息を吐くシャロ。
先程までなら、四人で三つの乗り物に乗れた為に、万が一暴走しても無理矢理抑え込む事が出来ただろう。
だが、それが一つ減ってしまった今、るう子のスクーターだけでそれをするに少々荷が重いだろう。

「それじゃあ、二人乗りで行きましょうか?」

「るう子がいいならそれで良いけど………もう体調は大丈夫なの?」
「ええ、大分回復したのでいけそうです」

心配の言葉をかけられつつも、るう子は気丈な返事を返す。
事実、風邪薬の服用と休息によって、彼女の体調はほぼ平時と変わらないと言ってもいい程度に回復していた。
スクーターの運転も無理ではないだろうし、

「よし、行きましょう!」

549One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:10:49 ID:reOR3keM0
肉を叩く音。
上がる嬌声。

「………………えっ」
「………………えっ」

再び、肉を叩く音。
再び、上がる嬌声。

「………………えっ」
「………………えっ」

三度、肉を叩く音。
三度、上がる嬌声。

「「………………………………………えっ、えっ」」

そこで繰り広げられていた光景は、有り体に言えば異常だった。
バーテン服の男が、轟音と共に拳を振るえば。
半裸のようにも見える男が、甘い声を出す。
文字通り、『打てば響く』というものだ。
響いているのは、こう、聞いていると不安になるものなのだが。

「………ええっと、どうしましょう」

呟いた言葉はしかし、シャロはまだしも発言したるう子自身さえしっかりと認識していたか怪しい。

元は、進んでいた途中に空飛ぶ車を発見した事だった。
どう見てもまともな人間が出来る事ではないそれを見て、しかし彼女達も引くわけにはいかなかった。
というのも、放り投げられたのが恐らくE-4の交差点であるからだ。
ここから市街地に行くなら恐らく確実に通る場所だし、そうで無くともそこに夏凜やアインハルトがいる可能性が無い訳では無い。
それに、この付近にいるなら、危険人物としてやがて出会う可能性がある相手の姿を確認しておくのは悪手ではないだろう。
最悪の事態を想定し、いつでもスクーターが発進出来るようにした上で、シャロもパニッシャーを出す準備を整え。
道路から外れたところでそれを目に入れて─────そこから、今に至った。

シャロもるう子も、年頃の乙女だ。
一般人には当て嵌まらない性癖というものの存在は知っている。
特にるう子は、実際に弟に好意を向ける少女を知っている。
それらを偏見し差別する程、彼女達の価値観は固定されてはいない。
けれど。
男同士で、しかも道のど真ん中で、ここまでの有様を見せつけられれば、動けなくなるのも当然というものだろう。

永遠にも感じられるその時間が終わり、二人の男が何やら会話を始め。
そこで、漸く少女達も正気を取り戻した。

「る、るう子ちゃん!早く逃げるわよ!」
「は、─────」

はい、と答えようとして、るう子の動きが止まる。
その目線の先を追って、シャロもまた動きが止まる。

いつの間にか服を着て、車に乗り込んでいた「打たれる側」の男が。
しっかりと、こちらを見ていた。
勘違いか?
いや、ここはかなり開けた場所だ。背後に何かある訳でもなければ、相手と自分の間に何かがある訳でも無い。

そして。
相手がその右腕を上げた時、二人はしっかりと認識した。

あの男は、確かに私達二人を見ている、と。

「………い、いやあああああああああっっっっ!!!??」

アクセルをフルスロットル。
凄まじい唸りと共に、バイクが猛進を始める、
二人の女子は、全力で「変態と危険人物のコンビ」から逃走を始めた。

550One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:11:35 ID:reOR3keM0
「ちょ、ぅお、落ち、落ち、落ち!」

振り落とされそうになるシャロが慌ててパニッシャーを使い、しっかりと姿勢を固定する。
感じた事のない時速80キロオーバーの風圧に圧倒されながらも、逃げる事に全神経を費やす少女二人の脳内に「速度を下げる」という選択肢はない。

尤も、殺し合いという環境の中ではなかったとしても。
聞いているだけでその勢いがわかる轟音を響かせる程の拳を持つ相手を見ても野次馬に行くような事はしないし、道路のど真ん中で嬌声を上げる男はそもそもお近づきになりたい人間はそもそも稀だろう。
だから、その相手がこの殺し合い屈指の実力を誇り、且つ彼女たちと同じく主催の打倒を目指しているという事実をそこに見出すのは不可能だっただろう。

かくして。
暫く道なりに飛ばした彼女達が見たのは、旭丘分校へと続く坂。
問答無用とばかりに駆け上がり、その校庭の中心で一度停止する。

「………ま、撒いた………?」
「多分………」

その一言で、はあ、と二人が息を吐く。
何だったんだ。
二人の心中を占めるその疑問を、しかし二人共暗黙の内に思考の奥底に葬った。
それこそ、年頃の乙女と言うべき二人に手に負えるような問題ではないだろう、と感じ取ったからだ。
ともかく校舎の中に入りながら、空気を変える為にるう子が提案する。

「………と、とりあえず。
少しだけ休憩したら、また南下しましょう。
南からぐるっと回り込めば市街地に出れます。そこからなら、ラビットハウスが近いでしょう」

地図を見、パソコンを立ち上げながらそう指摘し、選択したルートを提示してみる。
途中までは同意していたシャロだったが、ラビットハウスという単語には少し肩を震わせ。
どうでしょうか、と目を向けたるう子に、彼女は心ここに在らず、といった雰囲気で言葉を零す。

「でも、夏凜とアインハルトには……」
「夏凜さんがスマホを持ってますから、多分伝わると思います」
「そ、そうね」

挙動不審。
明らかに、と言う程ではないが、かと言って隠し通しているとも言えない。

─────やっぱり、まだラビットハウスには……

彼女の事情は聞いている。
それに、もしかしたら先程彼女と口論になったという遊月が向かっている可能性もあるのだ。
どうしても足が遠のいてしまう、というものだって、当然あるだろう。
そんな風に思いながらも、るう子はチャットに文面を打ち込む。

『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』

無論、これは暗号だ。
フルール・ド・ラパンとはシャロ、タマがるう子、そしてティッピーの小屋がラビットハウスとなっている。
そして、義輝が夏凜、覇王がアインハルト。
各々の知り合いにも伝わる暗号という事で、それぞれが自分を指した言葉を代名詞としたのだ。
地名は殆ど暗号化出来なかった為に、ラビットハウスか映画館、その他いくつかくらいしか婉曲的に伝える事が出来る場所は無いが、まあ上々だろう。
このチャットにおける唯一の問題点は、東郷や風、晶、そしてウリスなど、「暗号が通じ、かつゲームに乗っているかその可能性がある参加者」だが、かといってそれらを恐れて使わないのは本末転倒にも程がある。
少なくとも、とにかく合流を急ぎたい今、使わない手は無いだろう。
そうして、彼女はその文面を送信した。

551One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:12:31 ID:reOR3keM0

「る、るう子、ああああれ!」

その直後、分校に声が響き渡る。
シャロの緊迫した叫び声に驚くと、窓の外を見ていたらしいシャロが半泣きになって訴えていた。

「あ、あああああいつらが来ちゃったわよ!?」

その一言で、るう子の表情も凍りつく。
この状況であいつらが誰を指すのかなど、今更言うまでもない。
先程のあの二人が、また追ってきたという事だ。
善人か悪人かはともかくとしても、やはり現状接するにはこちらに決め手が少ない。
辛うじて自衛に使える武器といえばパニッシャー程度だが、激しく動揺しているこの二人では使いこなせるかどうかは怪しい。
兎に角、現状をどうにかして打開しなければ。

「今すぐ出たら、流石にエンジン音で気付かれるわよね…」
「裏口までこっそり抜け出して、裏山に逃げ込みましょう」

恐らくは、それが一番の手だ。
顔を揃えて頷くと、息を潜めて静かに歩き出す。

「…………れは……………………だな………」
「……こと………………がる…………………」

僅かに聞こえてくる声から方向が分かるのが幸いとばかりに、二人はその反対方向へ歩を進める。
と。

「「────────ッッッッ!!?」」

木造校舎ならではの、重さに軋む床の音。
しっかりとした現代の学校に籍を置く二人が全く警戒していなかったそれが、想像以上の音を響かせる。
こうなっては、もう形振り構ってはいられない。
偶然開いていた窓から全力で飛び出し、そのまま校舎裏へ走る。
幸いすぐに追ってくるような影は見えないが、そういつまでも振り返っていられる訳でも無く。
全力で逃げる二人が、漸く見つけたものは─────

「………!こ、ここを使いましょう!」

校舎の裏山から伸びる、小さな小道。
舗装してあるという訳では無いが、余計な草は殆ど生えていない。
僅かな起伏に注意すれば、スクーターでも余裕で飛ばせるような道。

200メートル程で小さな小屋がある突き当たりに出て、そこから南方向へと続きそうな方へと曲がり更に進む。
やがて地面は獣道のようなそれへと変わっていったものの、分校からは結構な距離を置けた。

「……ふう、ひとまず安心ですね」

背後から迫る気配も無い事を確認し、再び落ち着きを取り戻す二人。
あの交差点の邂逅から、気付けばもうそこそこの時間が過ぎている。

「さっきみたいな速度だとキツイし、普通の速度で行きましょうか」
「そうですね、あれはもう勘弁です…」

思い出したように陰鬱な顔を揃えつつも、スクーターを発進させる。
宣言通り、先程よりは速度を落とした発進。
しかし、その数刻後、彼女達は再び自分の足で歩く事になっていた。

「やっぱりちょっとガタガタですね……どうします?」
「うーん……さっさとあの二人から離れたいけど、こうも地面がガタガタしてるとねえ。
定晴を出すって手もあるけど、どうしたものかしら」

ひとまずスクーターから降りて、歩きながら相談を始める。
道の様子─────決して運転出来ない訳ではないが、それなりのオフロードだ。
道幅も少々狭く、西側は崖とまでは言わないがそれなりに傾斜がある。もしスクーターの速度で落ちれば、ちょっとした怪我で済むかどうかは怪しいかもしれない。
どうしたものか。
ひとまずもう一度スクーターに跨り、るう子は何ともなしに空を見上げ─────その動きが、止まる。

552One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:14:10 ID:reOR3keM0

あの光は見間違いだろうか?
いや、あんな光を二度も、真紅の色違いも含めれば三度も見ておいて、今更こうも似た物を見続けるものか。

あの姿は見間違いだろうか?
いや、本来現実に有り得そうもないあんな浮世離れした姿を、ここで幻視する事に何の意味があるだろうか。

ならば、本来全く別の存在である筈の二つが一つとなっているのは、一体どういうことなのだろうか。

「………ウリス!?いや、東郷美森さん………!?」

だが、遅過ぎた。
るう子が気付き、シャロがその叫びに気付いてバイクに飛び乗って。
その時には既に、その手には銃があり。

疑問の叫びへの返答は、放たれた弾丸だった。

シャロが跨った直後に、スクーターのエンジンをフルスロットルにして─────しかし、間に合わない。
目の前の地面が爆ぜた音と、衝撃と共に襲ってきた浮遊感が、ほぼ同時に二人の少女を襲った。

「─────ッ!!」
「か、はっ」

声にならない悲鳴と、吐息にならない呼吸が、不協和音となって響いたかと思えば。
まるで鞠のように、るう子とシャロは地面へと叩きつけられた。
辛うじて二人とも崖下へと落下する事は避けられたが、それでもその身を動かす事が出来ない程の痛みが全身を覆っている。

「気分は………最悪、かしらね」

近付いてきた少女の声が、るう子の耳に入る。
激痛の中で顔を上げれば、そこにあるのは二重の意味で現実には有り得ない姿。

「ウリス……その、格好……」
「あら、もしかして貴女もこの格好を……『勇者』とやらを知っているのかしら?」

青白い装束を身に纏ったルリグ─────『ウリス』は、そう言って妖しくその表情を歪ませた。

「本当ならもっと話したい事もあるのだけれど、こっちも色々事情があるの」

その手に握る青白の銃を、るう子の眉間へと向けながら。





「さようなら、小湊るう子」

553One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:15:07 ID:reOR3keM0
数刻前の事。
辺りを望遠スコープで見渡しながら、ウリスは思考を重ねていた。

先程から、押している車椅子に乗った東郷美森との会話は無い。
無論、それだけなら特に何を思う事もない。
アナティ城から先程の狙撃まで、彼女との会話はほぼ無かったに等しいのだから。
仮初めの同盟関係を結んではいるが、その実互いに互いを利用する腹積もりなのは明確だ。
だが、会話が無いという事と、会話している余裕そのものが無いという事は大きな違いを持つ。
此処が獲物を喰い合うデスゲームの中であるから、尚更だ。

そして、この行動が敵からの逃避行である以上。
本来なら、今持っている全ての『荷物』を捨て去り、少しでもその身を軽くするべきなのだろう。
特に、『目立つ様な形状』をしている上に、『行動を大きく制限する』ようなものがあったら、そんなものは邪魔以外の何物でもない。

つまり、東郷美森という存在そのものが。
現状、ウリスにとっては最大の妨げになっていると言って差し支えないのだ。

だが、自分は今もこうやって車椅子を押している。

無論、どうしようもない様な時は遠慮無く放り出すだろう。
だが、そうでなければ捨てない程には、東郷美森には利用価値がある─────いや、利用しなければいけない理由がある。

(隠し事─────一体何を、腹の中に抱えているんでしょうね?)

自分が何かを企んでいる事は、恐らく向こうも承知の上だろう。
現に自分も、既に彼女に対する全くのデマを島中に撒き散らしているのだから。
そもそもこのバトルロワイアルの中で、ゲームに乗っている人間同士の同盟に、何の策謀も巡らせない方が間違っているだろう。
東郷美森は、そんな事をする馬鹿な人種には到底見えない。

(だったら、話さざるを得ない状況にさせる)

これは、恐らく「貸し」になる。
見捨てる事が出来るのに、見捨てずに共に逃げたという事実。
その代償として、知っている事を語らせる。

無論、向こうが嘘を吐く事も出来る。
適当な事を言って誤魔化す事も、或いは都合の悪い真実だけを隠す事も。
だが、そこから下手な亀裂が出来れば、そこで彼女は終わりだ。
この関係は「同盟」から「隷属」へと変わり、手札の無い彼女に打つ手は無くなる。
勿論彼女もそれを弁えているだろうから、何か策を打ってくる可能性はあるが。
─────尤も、どれもこれも今自分達に迫っているピンチを抜け出せたらの話だ。

と。
そこで、ウリスは発見する。

「─────朗報よ」

スコープの中に捉えた、スクーターで走る見覚えのある少女。
それを見たウリスは、小さくほくそ笑んだ。

554One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:17:59 ID:reOR3keM0





全身の鈍痛と、青白い幻想じみた少女が持つ銃。
それが、全てを告げていた。

(この、まま、じゃ)

死ぬ。
そんな現実を突き付けられて、しかし紗路の思考は落ち着いていた。

桐間紗路は、確かに一般人だった。
けれど、少しだけ。
少しだけ、一般人より「死」について学んだ。
だから、死がどのようなものか、ほんの少しだけ理解を深めていた。
それが彼女自身の失言のお陰だというのは、皮肉な話だが。
先程の、一言。
アインハルトと夏凜の友人の死を、結果的に自分は侵してしまった。

だから、考えた。
彼女なりに、死というモノについて。

そのお陰で彼女は、それを直前にして尚、ほんの少しだけ冷静さを失わずにいられた。

どうしようもない、破滅。
それが、死だ。

仮に、自分の言った何気無い一言が、他人の琴線に触れてしまっても。
仮に、自分の事でいっぱいいっぱいで、他人を慮る事が出来なくても。
仮に─────期待に無理に応えようとして、嘘を吐いていたのがバレても。
それくらいなら、関係が完全に失われたりしない。
精一杯謝って、修復出来るかもしれない。
またやり直して、また皆で笑い合える日が来るかもしれない。

死は、そんな一切の希望を踏み躙る。
何も伝えられない。
それが今、自分に迫っている。

(─────嫌だ)

それは、嫌だ。
もう二度と、皆と会えない。
ココアが作った暖かくて美味しいパンも、チノが淹れたコーヒー……は体質で飲めないけれど。
千夜が自信満々で見せてくる和菓子の変な名前も、リゼ先輩が見せるかっこいい姿と時折見える可愛さも。
全部、全部、壊れてしまう。
それは。

「………い、やぁっ!」

だから、彼女は叫んだ。
死にたくないという、ただ一つの、生きる者として当然の感情を。
けれど、それは決して諦念ではない。

諦めたくない。
死にたくない。
もっと、もっと─────生きたい。

だから、彼女は、立ち上がった。

パニッシャー。
魔法のデバイス。
それを握り締めて、彼女は─────

555One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:19:12 ID:reOR3keM0





─────すとん、と。

やけに綺麗な音が、やけにその場に響いた。
掠れた声で、え、と力無く言葉を発するるう子と。
驚きが収まり、ふ、と顔を歪ませるウリス。
胸─────心臓に生えた一本の矢を見下ろして、何も言う事が出来ないシャロと、そして。



すとん。



間髪入れず、二の矢をシャロの頭部へと命中させた東郷が。

その音を、静かに聞き届けていた。

―――――え?
―――――わた、し?

ゆっくりと頽れる自分の体が、やけに非現実じみていて。

滲み出る血が、何処か現実味の無い暖かさを伴って流れ出ていく。

―――――い、や。

「や、めて」

訴える。

目の前に迫る、死刑執行人に―――――ではなくて。

「わたしを、ひとりに」

それは、嘆願か贖罪か。
彼女が最期に見たものは、離れていく三人の姿で。

「しない、でぇ………」





―――――だってうさぎは、寂しいときっと死んでしまう。

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか? 死亡】

556One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:20:10 ID:reOR3keM0
至近距離からの矢が、その頭部に突き刺さって。
助かる見込みがないなんて、もう誰の目にも明らかだった。

「─────しゃ、ろさああああああんっっ!!」

静寂を破ったのは、るう子の悲鳴だった。
それを愉快そうに眺めながら、ウリスは背後から近付いてくる東郷へと声を掛ける。

「ありがとう、助かったわ」
「………いえ、先程までの『借り』は返しましたから」

その台詞に、僅かにウリスが眉を顰める。
思惑がバレていた、というのは、想定の範囲内であっても気分が良いものではない。
それに、今回は看破された上でその想定を
あの怪物の事に気を取られていたとしても、やはり注意不足。
教訓を肝に銘じながら、表情を元のそれへと戻した。

「それで」
「分かってるわ」

転がっているスクーターを検分する。
凹んでいる部分があるのは仕方ないが、乗り物としては正常に起動してくれるようで。

「さて、随分とお待たせしちゃったわね?」

一方のウリスは、改めてるう子へと銃口を向けていた。
その目を涙に濡らしながら、尚も此方を睨んでくる彼女。
そんな彼女へと、ウリスは歪んだ笑顔を浮かべ。

「さよなら─────は、もう少し後みたいね」

え、とるう子が呟いた時には、彼女は首根っこを掴まれていた。
無理矢理立たせられた、と理解すると同時に、目に入ってきたのは─────

(さ、さっきの人達!?)
「貴様等─────」
「あら、変な事はしないのがこの子の為よ?」

飛び出しかけた二人を止めたのは。
こめかみに銃器を突きつけられた小湊るう子と、突きつけているウリスの姿。
単純にして強力な手段─────人質だ。

これには、男達─────静雄と蟇郡も、押し黙るしかない。
一歩間違えば、二人に抱えられた少女は死ぬ。
静雄ですら、怒りを極限まで抑え大人しく手を上げている。
これといって切れる札も存在しない二人には、ただそれしか出来なかった。
その間に、東郷が車椅子からスクーターへと移ると共にその操作を確かめる。
ウリスも油断無くその銃口を向け続け、二人の行動を抑えている。
それらを見る事しか出来ない自分に、蟇郡は腹を立てる。
少女二人を追ってここまで来たものの、その二人を見失い。
悲鳴を聞いて駆けつけた時には、既に手が出せぬ状況。
何という醜態だ、と思わずにはいられない。

と。

「…………東、郷さん、ウリスっっ……!」

ボロボロになったるう子が、小さく、だが蟇郡達にも聞こえる程度の声を発した。
本人は朧げな意識の中で呟いたその言葉は、しかしそれ以外の四人にはそうはならない言葉。
ウリスはともかくとしても、東郷という名はしっかりと名簿に刻まれている。
いや、そうでなくとも。
本名が明らかになった─────その事実が重要な事は、言わずもがなで。
だからこそ、そちらに全員の意識が動き。
その一瞬の間隙に、素早く蟇郡が行動を起こそうとする。
そして、ウリスもそれを迎え撃つように銃を構え。
新たなる戦端が、ここに開かれる─────筈だった。

557One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:21:16 ID:reOR3keM0
だが。
小湊るう子の言葉と、蟇郡の行動。
それは、東郷とウリスの警戒心を引き付けるに足りるもので。
だからこそ、二人はそれへの対処に追われてしまった。
だが、彼女達二人は正に一刻も早く動くべきだったのだ。
彼女達がバイクを欲したその大元の理由を、忘れるべきではなかったのだ。
それなのに。
彼女達は、その対応を一時的に忘れてしまっていた。
だからこそ。



怪物は、牙を剥く。



植物の枝や葉が薙ぎ倒される音が聞こえた、という時にはもう遅かった。
ウリスが思わず振り返った、その次の瞬間には─────電流が走るような音、そして青い障壁と共に、彼女の身体が吹き飛んでいた。
引き金が引かれ銃声が響くが、衝撃によりあらぬ方向を向いた銃口から放たれた弾丸はるう子を撃ち抜く事はなく。
結果として残ったのは、唐突な展開に驚きを隠せない東郷と、その場でただ立っていた蟇郡、静雄。
そして。

「─────弱い。が、手応えも無い」

彼等の中心に降り立った、怪物だった。




再び、時刻は巻き戻る。
ジャック・ハンマーは、ただひたすらに山を駆けていた。
時たま立ち止まり、獲物の位置を探るかのように鼻を鳴らす。
野性動物染みた行動だが、それは自己暗示のようなものだ。
今の彼は、人間の知性を持ちながら、野性の獰猛さを併せ持つハンター。
そんな自分を自覚し、ならばとそれを意識して動く。
そうしてひた走る彼の形相は、正しく怪物染みていた。

やがて、彼は一つの城に辿り着く。
アナティ城。
彼はその場所に辿り着き、されどその中には入らず背を向けた。

彼の獣のようなカンが告げていた。
これは、巣だ。
しかし、帰るべき巣という訳ではない。
恐らくは、あの少女たちは一定時間ここにいたが、現在はもう離れている。
僅かなズレに、しかし彼は動揺しない。
巣を当てられたのだから、その巣から逃げ出した獲物を捕らえるのは決して難しいとは思わない。
むしろ、巣を当てた自分ならば、敵を見つけるなど造作も無いだろう、と。

恐らく、この『寄り道』が無ければ、東郷とウリスはもっと早くに捕まっていただろう。
そういう意味では、彼は不幸であり、あの二人は幸運だった訳だが─────それはさておき。
ジャックは、再び鼻を鳴らす。
そうして、その足を向けるのは─────北。
再びその足を進め始めた彼は、正しく獲物を狩る肉食獣のようだった。

そして、数刻ののち。
彼は発見する。
何かに相対している、スクーターに跨った少女と、少女を抱えそのこめかみに銃口を向ける別の少女。
狙撃手は─────あの弾丸の性質から見ても、浮世離れした外見で銃を握る少女だろう。



怪物は、地を蹴った。

558One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:22:47 ID:reOR3keM0
反応が早かったのは、東郷だった。
目の前の怪物に構う事なく、スクーターでウリスとるう子の回収に向かう。
ジャックへの応対を後回しにしたのは、ウリスが恐れていたものがこれだと瞬時に理解したから。

そして、そんな彼女を─────ジャックは無視し、再びウリスへと迫る。

(─────これと並ぶ程に速い!?)

東郷は驚愕する。
彼女がいかに初めての運転で速度を落としているとはいえ、スクーターに並ぶ事が出来る生身の人間など存在するのか。
起き上がったウリスが、銃口を向け立て続けに弾丸を放つ。
だが、それらは大半が回避され、身体に届いたものも薄皮一枚を切り裂くに留まる。
馬鹿な─────東郷だけでなく、ウリスもそれに驚愕を隠せない。
確かに、ウリスの射撃スキルは決して高くない。
あくまで一般人の女子中学生の域を出ない彼女が銃撃に慣れている筈は無いのだから、それは致し方ないことだろう。
けれど、僅か数メートルの距離から放たれた弾丸を、こうも容易く連続で回避するのか。

―――――化け物

東郷の脳裏に、そんな言葉が脳裏をよぎる。
しかし、今はそんな事を考えている余裕は無い。
このままでは、ウリスは殺され、恐らくその次は非力かつ手近な自分かあのるう子という少女。
しかし、東郷は届かない。
ある一部分以外はあくまで一般的な体型の少女の域を出ず、またその下半身を全く活かせない彼女より、ジャックの方が早いのは道理だった。
一瞬の内に、ジャックの手がウリスへと伸び─────

「ぬ」

その身体ごと、押し返された。
かといって、ウリスが唐突に筋力を高めただとかそういう訳では無い。
至近処理からの、狙撃銃の生成。
それが二人の距離を無理矢理こじ開け、迫り来る敵から僅かに距離を置いた。

「手を!」

その、一瞬の間隙。
そこを突いて、東郷がウリスの手を握る。
手を引くと同時に、勇者の力を以てるう子を離さぬままスクーターの後部へと飛び乗る。
再びマフラーが爆音を吹き出して、三人を乗せたスクーターが遠ざかる。

─────逃さん。

勿論、喧嘩を売られた彼が、そうやって簡単に「勝ち逃げ」を逃す筈も無い。
すぐさまそれを追うために、走り出そうとした─────その瞬間。

「三つほど、聞きたい事がある」

ガシリと。
ジャックの左肩を力強く掴む、巨大な人影があった。
振り返って、彼はその男の体を確かめる。
自分をも上回る身長、金髪に濃い色の肌。その肉体も中々の鍛えようだ。
中々に戦い甲斐がある相手だ、と判断する。
先の少女達は力押しでどうとでもなる。今はこの男を倒し、カードを奪い、自らの力をより高めるべきだ。

「まず、一つ─────」

その言葉が巨漢から発された時には、彼はもう拳を放っていた。
ここからでも狙え、かつ人間の急所である鳩尾への一撃。
どんな人間だろうと、腹を抱え悶え苦しむような一撃。

「その服は、貴様が誰かから奪った物か?」

だが。
それ越しに、ジャックに伝わってきた感触は─────肉を打ち据える柔らかなそれでは無い。
まるで、何重にも鍛え上げた鋼を叩いたかのような硬いもの。

「沈黙は肯定と見なすぞ─────次の質問だ。
貴様がその服を奪った相手は、小柄な少女だったか?」

気付けば、彼の右手は。
巨漢の左腕に装着されたプロテクターのようなそれによって、完全に止められていた。
鉄や鋼の比では無い、圧倒的なまでに「硬い」というものを突き詰めたような感触だった。
ならば、と。
今度は身体を大きく捻り、プロテクターが存在しない顔面へと上段蹴りを放つ。

「最後の、質問だ」

今度のそれは、躱される。
いくら予備動作が大きいとはいえ、巨躯には似合わぬ素早い動作での回避。
面白そうだ─────そう感じ、更に数発の拳を打ち込む。

559One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:23:50 ID:reOR3keM0



「貴様は、その少女を─────殺したか?」

それも往なし、カウンターを放ってくる巨漢。
しかし、各分野での歴戦の強者達を下す彼に仕掛けるには些か安置。
油断無く躱し、本命の拳を顔面へと叩き込む。
既に両腕は打ち据えられ、ガードは間に合わない。
無防備になった頭部へと、凄まじい威力の拳が吸い込まれ。

「………沈黙は、肯定と見なすと言った筈だッッッッ!!!」

それでも、蟇郡苛は倒れなかった。
尚も立ち続ける彼を前に、ジャックは小さな疑問を覚える。
この男は、ここまで大きな男だったか、と。
その身から発せられる威圧感に、呑まれないまでも僅かに気圧される。

「満艦飾の仇、今ここで!貴様を打ち倒してくれるッッ!!」

蟇郡は、決して倒れない。
満艦飾マコの極制服を前に、彼は倒れる訳にはいかなくなった。
その目は激しい怒りを宿し、今にもその身体を弾丸のように放たんとする。
それに応えるように、ジャックもまた

「………つまり」

だが。
ジャックへと投げ付けられた車椅子が、二人の激突を妨げる。

「テメェはもう、誰かを殺したって事だよなぁ…………?」

二人が驚いて振り向けば。
そこには、一匹の「化け物」がいた。

「だったらよぉ……………………殺されても文句は言えねぇよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

平和島静雄という、怒りに燃える化け物が。
その存在にジャックが対応するよりも早く、彼は先程と同じように、コシュタ・バワーをぶん投げた。
自動車の形をしたそれを、ジャックは受け止めようとし─────反対に、弾き飛ばされる。
ジャックとぶつかって戻ってきたコシュタ・バワーだけが小道に残り、吹き飛んだジャックを追うように静雄も駆けて行く。

「くっ…!!」

蟇郡が僅かに逡巡する。
奇しくも、自分より怒りを見せている静雄のお陰で冷静さを取り戻した彼は、それでも逸る鼓動を抑えながら思考を纏めた。
まず、あの少女達─────どう考えても危険だ。
人質と称されたもう一人の少女の身も危ない以上、迅速な対処が求められる。

そして、今現れた男。
平和島静雄のように、現実を超越したレベルではないにしろ、あの男の筋力は並大抵のものではない。
それに、満艦飾の仇だとするならば。
蟇郡苛という一人の個人としては、決して許してはいけない存在である。

(放送局も気になるが、すぐそこにいる殺人者を逃していいものか─────断じて否!)

車での一撃で吹っ飛んだのを見るに、単純なパワーなら静雄が上回っているであろう以上、あの男は彼に任せてもそこまでの問題にはなるまい。
どちらかと言えば、負傷しているとはいえ何らかの力と人質を持っているあの少女達の方が厄介だ。
先に対処すべきは彼女達―――――しかし、そこで何も考えず特攻するような真似はする筈もない。
蟇郡とて馬鹿ではない。このまま孤軍で特攻しても、また同じように人質を盾にされるのは目に見えている。
となれば、選ぶべき行動は一つ。
この付近で、同じように殺し合いに反抗している誰かを探す。
しかし、遠くに逃げられては堪らない。
遅くとも正午の放送が始まるまでには、あの少女を奪還せねばなるまい。
つまり、こうだ。
協力者を探しながら付近のエリアを移動し、仲間が見つからず放送の数十分前になってしまった場合は単独でも行動を開始。
それが、今の蟇郡苛に出来る最善だろう。
そうと決まれば、と急いで車へと乗り込みかけて、一度それを取り止める。
小走りで死体へと駆け寄り、丁寧に担ぎ上げて後部座席へと寝かせる。
そこで、蟇郡はふと気付く。
彼女の制服が、ゲームセンターで出会った天々座理世と同じものだと。
それに、そうだとすればチノの証言とも一致する。

「……すまない、桐間紗路。後になってしまうが、必ず然るべき形で弔おう」

一瞬の、空白の後に。
そう呟いて、改めて蟇郡は車を走らせた。

560One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:25:04 ID:reOR3keM0



「今回は、貴女に随分と助けられたわね」
「…少なくとも、先程逃げる時の分のお礼はお返し出来たかと」

スクーターに乗り、南西へと向かう三人。
るう子は先程ウリスと共に吹き飛ばされた時にはもう気絶しており、未だ目覚める気配は無い。
目指すのは、最も近く、且つ東郷が一度訪ねて勝手が分かっている温泉。
彼女が乗り捨てた車椅子も、貸し出しサービスと称してそこそこの数の予備が存在しているのは確認済みだ。
ひとまずはそこで休息を挟み、改めて市街地か、或いは西の放送局を目指す。
先の男達に追われている可能性がある為に、そこまで長居は出来ないが。
少なくとも、先の狙撃から始まった一連の危機は脱したと見ていいだろう。
けれど、東郷の心は決して晴れてはいなかった。

『私を、一人にしないでぇ………』

先程自分が殺した少女の、最期の言葉。
それが、ずっと彼女の心に突き刺さっている。



東郷美森には、小さな欺瞞がある。

無論、勇者部の仲間を終わりのない地獄から抜け出させる、というのも、彼女の偽らざる本心である。
けれど、彼女を動かしているのは、決してそれだけではない。
乃木園子。
東郷美森が、まだ鷲尾須美と呼ばれていた頃の友人の存在。
彼女と接した事で、東郷は気付いてしまった。

どんなに固く誓った約束も。
どんなに強く願った祈りも。
どんなに強い絆で結ばれた、友達さえも。
華が散れば、それは全て「無かった事」になってしまう。

それが、東郷美森が世界を壊すもう一つの理由。
もう、忘れたくない。
もう、忘れられたくない。
全てが忘却の彼方に消え去るくらいなら、せめて優しい記憶の中で眠ってしまいたい。
だから、東郷美森は他でもない「世界の破滅」を願った。

(─────余計な事を考えている暇は、無いわね)

果たして、それに彼女自身が気付いているのかどうかは分からない。
けれど少なくとも、シャロの最期の言葉と自分の願いが重なったのは事実で。
意識的にか、はたまた無意識的にか、その言葉は東郷の思考に僅かな澱を残した。

その澱がどうなるか─────それは、未だ分かりはしない。

【G-4/道路/一日目・午前】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)、黒のスクーター@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、定晴@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:無駄な事を、考えている暇は………
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈を利用する。
     4:ただし、彼女を『切る』際のことも考えておかねばならない。
[備考]
※参戦時期は10話時点です

561One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:26:25 ID:reOR3keM0
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)      
     黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:温泉で休息。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(大)、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
         ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量ほぼ0%)、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:…………………………
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。


周囲より比較的開けた、広場のような場所。
そこが、平和島静雄とジャック・ハンマーの第二ラウンドのリングだった。
だが、それは早くも─────一方的な様相を呈していた。

静雄が振るう竹を、辛うじてジャックが回避する。
その隙を突いて接近した静雄が、竹を踏み割りつつ拳を叩き込もうとし。
紙一重でそれを受け流し、しかし次の一撃にその身を引かざるを得なくなる。
平和島静雄の優勢は、誰が見ても明らかだった。

ある意味では、当然。
ジャックも静雄も、先のコンディションから大きな変化を経てはいない。
寧ろ、ジャックは山を越える走りを見せた事で若干の疲労があると言ってもいい状態。
そんな状態での再戦が、先の結果と何ら変わるはずが無かった。

562One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:27:41 ID:reOR3keM0
そして、何時しかジャックは追い込まれていた。
崖っぷち。
それに気が付いたのと時を同じくして、静雄の拳が彼へと迫っていた。

一瞬、気付くのが遅れ。
回避が、間に合わず。
反射的に両腕をクロスさせるが、それで守れるような拳ではないのはジャックにも分かっていた。

落ちる。
その瞬間、ジャックはそう思った。
そこに余計な思考は無く、ただ純粋に生物としての直感がそう彼の全身へと伝えていた。
極限状態。
全身の機能が、そう悟った。

無論、そんなことで何かの異能が彼に宿る訳ではない。
あくまでジャックの力はその肉体に起因するものであり、それに魔術や異形といったモノは何ら関係していない。
けれど。
そんなものに頼らなければ強くなれないのか。
そんなものでしか、強さを得る事は出来ないのか。

否。
人間の身体の限界は、更なるその先の力をまだ引き出して余りある。

両腕をクロスさせた、渾身のガード。
ジャックのそれは、平和島静雄の拳を「受け止めていた」。

「お……?」

静雄の動きが、一瞬だけ停止する。
先程までなら、今の拳はこの男をガードごと吹き飛ばしていた筈だ。
しかし、そうはならず、男は崖下には落ちずに留まっている。

─────何だ?

余計な思考が、ノイズとして静雄の頭を満たす怒りを過ぎった。
その一瞬を突いて、ジャックが反撃に出る。
至近距離からの拳を左腕で受け止め、そのまま伸びた腕を掴もうとするが―――――その行動が、一瞬遅れた。
静雄の伸ばした左手は空を切り、一方のジャックは再び拳を放たんとする。
その時には、二人共理解が追いつきかけていた。

─────力が、上がっている。

二人の拳が再び、正面からぶつかり合い。
そして、そのまま『静止した』。
これが先程までなら、ジャックの右手は弾き飛ばされ、静雄による更なる一撃に防戦一方になっていただろう。
なのに、そうはならなかった─────ジャック・ハンマーの強さが、僅かながら平和島静雄へと通じていた。




平和島静雄という人間の、強さの秘密。
それは偏に、彼が生来「常に火事場の馬鹿力を発揮出来た」というスキルの恩恵に他ならない。
火事場の馬鹿力とは、人間工学的にも証明されている歴とした人間の身体のシステムの一つだ。

人間が異常や危機を感知した時、脳がそのストッパーを解除し、危機から逃れる為に全力を尽くす事を求める。
これを、静雄は「怒り」というスイッチのみで発動させる事が出来た。
だからこそ、どんなに鍛えた格闘家であろうとも。
平常時での単純な力比べをした時、きっと彼の前に立つ者はいないだろう。

だが、それは裏を返せば。
平常時の彼と同等か、或いはそれ以上の力を持つ存在が、「火事場の馬鹿力」を発揮したならば。
理論上、彼を上回る事は可能である、ということだ。

勿論これは、書いてある程に容易い事ではない。
火事場の馬鹿力を発揮する身体に耐え切る為に、平和島静雄の肉体はかの闇医者に「人間一代の中での進化」とまで言わしめる程の成長を遂げている。
既に人間を殆ど超越している彼の肉体と「同等の力の発揮」するなど、それこそ人間の限界そのものを超越している必要があるだろう。

そして、ジャック・ハンマーは。
その、人間の限界を超越している類の人間だった。
数多のドーピングや手術によって生まれたその肉体を、一日30時間という矛盾を乗り越え明日をも知らぬトレーニングで育て上げた彼が、生命繊維で編まれた極制服により更なる強化を施されている今。
「怒っていない平和島静雄」と、素の力が並んでいてもおかしくはない。

563One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:29:17 ID:reOR3keM0




─────いや、それでも、まだ。

「だったら…………なんだってんだあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

今の平和島静雄には、届かない。
越谷小鞠の死、キャスターの放送、そして名も知らぬ少女の死体と、同じ少女を人質にする卑怯な少女。
それら全ての怒りが内包された今の平和島静雄は─────計り知れない程の馬鹿力を引き出している。
ジャックの顔面に、渾身の右アッパーが突き刺さる。
筋肉の鎧を突き抜ける、全てを破壊するような衝撃。
もろにそれを喰らった肉体が、上空数メートルまで吹き飛ばされる。
後方に大きく吹っ飛び、しかしそれでも立っているジャックへと。

「人の左腕食ってくれるたぁいい度胸してんじゃあねーか………」

池袋に神社が存在する鬼子母神のような表情を浮かべながら、静雄はゆっくりと歩みを進める。

─────まだ、足りないか。

そこで、ふと冷静になったジャック・ハンマーは悟った。
冷静になった事で、今の爆発的な力の奔流が無くなった事。
同時に、纏う服の力が失われた事。
それらが無ければ、目の前の存在に立ち向かうのは不可能だ、という判断が下る。

─────口惜しいが、戦うべきは決して今ではない。

不意に、ジャックから静雄へと何かが投げつけられる。
それをいとも容易く払いのけ─────砕けた瓶から飛び出してきた気色の悪い蟲に、静雄は僅かに眉を顰める。
けれど、それも一瞬。
迫り来る蟲も簡単に叩き落とし、こんなものを投げつけやがってよし殺す、と静雄が前を見ると。
ジャックは既に、彼に背を向けて走り始めていた。

「何………逃げてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

勿論、それを見逃す静雄ではない。
弾丸のように地を蹴った彼の身体が、凄まじい速度でジャックの背中へと迫る。
逃走するジャック。
追い掛ける静雄。
森を駆け抜ける二人の鬼ごっこは、暫く続き。
その進行方向上に、ふと二人分の人影が現れる。
遠目にも分かる、黒いコートに身を包んだ青年の姿。
そして、良く見えないが、恐らくは成人女性のような姿。
二人の影を見て、ジャックは思考する。
使えるな、と。

あの程度の女ならば、先の自分にも簡単に投げつける事が出来る。
人間という弾が突然飛来して、驚かない人間はそうはいまい。
いや、仮に平和島静雄が驚かないような特異な側の人間だったとしても、それで不意を突ければそれでいいのだ。
更に男の方も蹴り飛ばしてやれば、あの男と言えどもたたらを踏む筈。
その隙に、傍にあるそこそこ流れが速い渓流から一気に下ってしまえばいい。

そこまで思考したところで─────ジャックは、自分の頭が何かに掴まれるのを感じた。

564One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:31:05 ID:reOR3keM0
─────ジャック・ハンマーがそれを知らないのは、当然の事だっただろう。
彼は知らない。
平和島静雄が、どんな生活を送り、どんな人間関係を築いてきたのかを
彼は知らない。
平和島静雄が、最も嫌っている人間の名を。

驚愕する。
先程まで、恐らくは十メートル程の距離があった筈なのに。
まさか、平和島静雄とは
そして、次の瞬間─────身体を包む浮遊感に、ジャックは静雄の意図を理解する。
まさに今、自分もそれをしようとしていたのだから。
成る程確かに、自販機を軽々と放り投げる彼の膂力ならばそれも可能だろう。
だが、とジャックは考え直す。
そうまでして、平和島静雄は何がしたいのか。
或いは、あの二人のどちらかが、彼にとって因縁のある相手なのか。
だとしたら、それは果たしてどんな人間なのか─────

彼の考察は、正解だった。
キャスターへの怒りも、衛宮切嗣への怒りも、東郷美森への怒りも、今目の前にいたジャックへの怒りさえも。
平和島静雄から、その人間への怒りには到底敵いやしない。
いや、違う。
それまでの怒りが、その姿を見た瞬間に全てその相手への怒りへと変換されたのだ。
ジャック・ハンマーが知り得なかった、平和島静雄の因縁の相手。
その名は─────

「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

最早天をも割らんと響く咆哮と共に、ジャックの身体が宙に浮く。
100キロを超えるジャックの肉体が軽々と振りかぶられ、そのまま野球のボールのように投げられる。
筋骨隆々の大男が一見普通の細身の男に投げられるその姿は、平和島静雄を知らぬ者には到底信じられぬ光景。
そして、それはあまりに正確に過ぎるコントロールで、黒コートの男へと迫る。
退避する少女も、ジャック自身も、男がぶつかって悲惨な事になる光景を幻視した。
けれど。
男は、たった今『イザヤ』と呼ばれた青年は。
それを、あろうことか、数歩歩いただけで回避した。
何にも命中する事なく空中を飛行するジャックは、図らずも当初の予定通り渓流へと落下し。
そして、図らずも彼の思い通り、静雄がそれを追う事も無かった。
尤も、その理由までは彼の思い通りにはならなかったのだが。

落とされるか自分から入るか、という差異はあれど、結果的に渓流に入ったジャックはそのまま川の流れに従って逃走を果たした。
渓流の先、水が地下へと流れる最下流で、彼は起き上がる。
案の定とでも言うべきか、近くには平和島静雄の姿も先程の男女の姿も見えない。

ふむ、と一息吐き、現在地を確認する。
G-4、その南東の端に自分はいるらしい。

ここから西に行けば、平和島静雄との再会は難しくない。
だが、今は休息だ。
服の力や、先の溢れんばかりの力。
その代償か、残る体力は少なく、両腕も決して良い状態とは言えない。
だが、あれらを行使出来なければ、あの男には─────ひいては、その先にいる範馬勇次郎に勝てはしない。
自分の本領を完全に出し切り、その先の勝利を掴む為にも。
ジャック・ハンマーは、束の間の休息を得る。

【G-4/エリア南東端/一日目・昼】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:疲労(大)、頭部にダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。
   0:一時休息。
   1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
   2:平和島静雄との再戦は最後。
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。

565One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:32:48 ID:reOR3keM0



「全く、こんな状況で数少ない知り合いに人間を投げつけるなんて、本当に俺の事が嫌いで嫌いで堪らないんだねえ─────シズちゃん」
「ったりめぇだろうが…………いぃぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁ……………」

飄々と語る臨也と、烈火のように
対象的な二人の間に流れる空気は、一見して剣呑だと読み取れるものだった。
そんな空気に相応しく、相当の威圧感を佇まいから生み出している静雄。
そして、そんな彼の威圧感など何処吹く風と言うようにいつも通りに振る舞う臨也。
両者の緊張が、あっという間にピークへと達しそうになり。

「何をしている、折原に平和島!」

と。
その一触即発の空気に、巨大な声が割り込んだ。
聞き覚えの無い声ならば無視もしただろうが、生憎それは二人にとって初めて聞く声では無かった。

「おやおや、蟇郡さんじゃあないですか」
「テメェ、蟇郡……」

温泉へと乗り込む仲間を探す、蟇郡苛。
その目的を果たす為にひとまず静雄とも合流を図ろうとした彼だが、それでもこの空気には驚く他無い。
彼が出会った、殺し合いに乗った参加者はまだあの筋骨隆々の大男だけだが。
たとえこの後にどんな敵が現れようと、ここまで剣呑な雰囲気になるのは無いだろうと断言出来るほどに、その空気は凄まじいものだった。
臨也の静雄に対する物言いや、静雄から臨也への暴言の数々から察してはいたが。
それでも、ここで初めて蟇郡苛は理解する。
折原臨也と平和島静雄。
池袋の町で何度もぶつかり合った二人は、ここに再会し。
そして、こんな殺し合いの中でさえ。
彼等は決して相容れないし、互いに互いを否定して『殺し合う』という事を。

「が─────今はその時ではない!」

けれど。
如何なる因縁があろうと、今目指すべきは主催の打倒。
たとえどのような因縁があろうと、皆が生き残り元の世界へと帰るならば、潰しあっている場合ではない。
この二人が、「相手は絶対に殺してから帰る」と誓っているような人間だとは知らぬままに、彼は一人決意を固める。

「貴様等にどのような因縁があるかは知らん!だが、この状況で争うのは愚策!因縁の清算は後回しにして、先ずはこの場にいる悪意を持つ連中を断たねばならん!」
「悪意を持つってんならよぉ……まずはこのノミ蟲野郎をぶっ飛ばすべきだろうがよぉ………!?」

無論、冷静な臨也はまだしも、静雄が引き下がる筈は無い。
く、と蟇郡は歯噛みする。
死者を利用するようなこの言葉は使いたく無かったが、仕方がない。
そうでもしなければ、この男は再び助けられる物を見捨てる事になる。
そんな事は、決してさせる訳にはいかないのだから。

「平和島、先の少女はまだ生きている。それを下らぬ因縁などで放り投げ─────」






蟇郡苛がそれを知り得なかったのは、やはり仕方が無いことだった。
彼は放送後、ラビットハウスに戻る事無く放送局へと向かったのだから。
そんな彼に、折原臨也がどうしてここに居るのかという、その理由を推察しろと言うのは、酷だっただろう。
だから、蟇郡は叫んでしまった。

「越谷小鞠の惨劇を、繰り返すというのか!?」

566One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:34:44 ID:reOR3keM0


折原臨也は思考する。

(まあ、正直今シズちゃんに構ってる暇はないよねぇ)

蟇郡も「彼女」もいる現状、ここで静雄に対して何かをするには蟇郡の目が問題だ。
本来ならばそれでも何らかの策を講じただろうが、こと今に限ってはそれよりも優先したい事がある。
臨也は心の中でほくそ笑む。
今、自分の目の前にある状況を。
とてもとても楽しい、最高の「人間観察」の機会を。
それをモノにする為に、臨也はその口を開いた。

「蟇郡先輩の言う通りだよ。ここで俺を殺せば、君は多分誰からの信用も無くすよ?
それに、今は俺より先に─────君に話がある子がいるからね」

それは静雄にとって、いつもの煙に巻く発言の一環だと思っていた。
その少女というのも、大方池袋で侍らせているような狂信者の類いだろうと。
それには騙されないとでも言うように、一歩一歩臨也へと歩を進め。

「越谷小鞠ちゃんの後輩、一条蛍ちゃんがね」

だが。
その一言で、彼の思考が急速に冷えていく。

コシガヤコマリ。
ソノコウハイ。
イチジョウホタル。

それらのワードが、平和島静雄の中で繋がると同時に。

「平和島、静雄さんですか」

彼へと、声がかけられた。

一条蛍は怖かった。
今、目の前で臨也に向かって人間を投げつけたこの男が。
彼の前評判通りの危険な男だと、心からそう思った。

「答えて、答えて下さい」

けれど、蟇郡の言葉が本当なら、彼は本当に知っている事になる。
越谷小鞠の死の真相を、彼は知っているという事になる。

「小鞠先輩を、殺したのは」

ならば、聞かなければならない。

「あなたなんですか?」

越谷小鞠の後輩である、『被害者遺族』一条蛍として。

「─────小鞠先輩は、誰が殺したんですか!」

『容疑者』平和島静雄へと。

【G-4/南部/一日目・昼】
【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)、パニッシャー@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
   黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル、桐間紗路の白カード
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   0:な、一条………!?
   1:この場にいる仲間と共に、温泉の敵を打倒する。
   2:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。
   3:平和島静雄と折原臨也の激突を阻止。
   4:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く
   5:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。
   6:針目縫には最大限警戒。
   7:分校にあった死体と桐間の死体はきちんと埋葬したい。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。
※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。
※桐間紗路の死体はコシュタ・バワーに置かれています。

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也、テレビの男(キャスター)、少女達(東郷美森、浦添伊緒奈)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感 若干の疲労
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
  0:コマリの………?
  1:テレビの男(キャスター)とあの女ども(東郷、ウリス)をブチのめす。そして臨也を殺す
  2:蟇郡と放送局を目指す
  3:犯人と確認できたら衛宮も殺す

567One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:35:37 ID:reOR3keM0
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
    0:さて、面白くなってきたねえ。
    1:ひとまず目の前の状況をまとめる。シズちゃんは……どうしよう。
    2:2人で旭丘分校へ向かう。……予定だったけど、どうなるかな?
    3:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。
    4:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。
    5:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換しました。
※主催者(繭)は異世界および時間を移動する力があると考えています。
※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ×2@銀魂、越谷小鞠の白カード
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   0:答えて………!!
   1:旭丘分校を目指す。
   2:折原さんを、信じてもいいのかも……。
   3:午後6時までにラビットハウスに戻る。
[備考]
※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。

568 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:40:11 ID:reOR3keM0
仮投下を終了します。
あと、>>548の下から3行目について、途中で抜けていたみたいなので。正しくは、

スクーターの運転だって無理ではないだろうし、二人乗りでも問題はないだろう。

です

569 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 00:52:41 ID:reOR3keM0
すいません、他にも幾つか抜けと消し忘れがあったので

>>564
まさか、平和島静雄とは
の部分は削除、

>>565
飄々と語る臨也と、烈火のように

飄々と語る臨也と、烈火のように猛り狂う静雄。

ですね
本投下の際は修正しておきます

570名無しさん:2016/01/09(土) 01:13:33 ID:Yj.5Eu1k0
投下乙です
シャロちゃん・・・遊月にも夏凜ハルトにもチノたちにも謝ること叶わずか
そして勇者をやめた(?)東郷さんはキル数1位に

一つ指摘ですが、
>そこで、蟇郡はふと気付く。
>彼女の制服が、ゲームセンターで出会った天々座理世と同じものだと。
>それに、そうだとすればチノの証言とも一致する。

リゼちゃんはグリザイア出典のメイド服を着用、シャロちゃんは普段着ですのでここは矛盾するかと

571 ◆NiwQmtZOLQ:2016/01/09(土) 23:12:21 ID:reOR3keM0
>>570
指摘ありがとうございます。
該当部分等を修正した上で、明日中には本投下したいと思います。

572 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:28:25 ID:XANdSxh60
仮投下します

573あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:29:33 ID:XANdSxh60


M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

Y:『私、結城友奈は放送局に向かっています!』

R:『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』


「……」

――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』
――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』
――『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

――『M』


「………………」


*  *  *

574あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:30:20 ID:XANdSxh60


「ぅ……ん……?」

右目を照らす眩しい光で覚醒した少女は、まず自分が仰向けに寝かされていること、そして両手両足を縛られていることに気が付いた。口は……塞がれて居ない。
次に判ったのは、ここが畳の上だということ。
最後に視認したのは……東郷美森と、浦添伊緒奈――ウリスが同じ空間にいたこと。

「おはよう、小湊るう子」

ウリスの手には、レーザーポインターが握られている。
そうか、私は――。

「迂闊に叫んだりすると、殺しはしないけど痛い目を見るわよ」
「……二、三、質問があります」

ため息を吐いた東郷が、ウリスに代わって話し始めた。
車椅子の彼女はその膝にノートパソコンをのせていた。恐らく、持っていたカードは全て奪われたのだろう。
腹巻だけは見逃してくれたようだが、時間の問題かも知れない。

「あなたがチャットに書き込んでいたと思われる内容について、詳しく聞かせてもらいます。
それも含めて、ここまでの動向を全て。答えない場合や嘘を吐いた場合は――」
「あまり好きじゃないけど、手足に刺したっていいのよ」

とっくに乾いている血の付いたボールペン片手に、ウリスが笑う。
どう考えてもこれは質問ではなくて尋問、いや拷問なのだが、打つ手の無い今、素直に答えるのが懸命だろう。
二人を刺激しないよう、るう子は慎重に話した。

神社を出たあとは、“フルール・ド・ラパン”つまり先程亡くなった桐間紗路と遭遇、続いて“義輝”三好夏凜、“覇王”アインハルト・ストラトスと合流。
わけあって一旦二組に別れた後、なかなか戻って来ない二人のために流したチャットの文章。
“ティッピーの巣”は、ラビットハウスのこと。

「残る“タマ”はるう子。成る程、考えたじゃない」
「あなたは黙っていてください。では、その方たちと交換した情報も話せるだけ話してもらいます。
最低限……私のことについてどこまで話したか」

やはり踏み込んできたか。
ウリスとはともかく、るう子と東郷はこれが初対面ではない。

殺し合いが始まってすぐのこと。
宮永咲を殺害し、るう子をも殺そうとして、……いつの間にか姿を消していた、あの出来事。
彼女は間違いなく殺し合いに乗っている。
どういうわけか“あの”ウリスと共に行動しているのだ。同じ目的同士、手を組んだのだろうか。
そんな東郷にとって、『車椅子の少女に殺されそうになった』という情報を広められるのは大きな痛手だろう。

「――つまり、三好夏凜を通じて私が殺人を犯したという話が彼女とアインハルト・ストラトスに今も伝わっている。間違いはないですね」
「……はい」

事実、その情報は伝播した。
彼女の知り合いと出会えたのは本当にただの偶然なのだが、本人にとっては不都合であるに違いない。

575あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:31:49 ID:XANdSxh60
「じゃあ、さっさとそいつらも始末した方があなたの身のためなんじゃないかしら」
「……考えておきます」

カタカタとパソコンに何かを打ち込む東郷。
後ろから覗けたなら、集めた情報をテキストファイルに打ち込む姿を見ることが出来ただろう。
それを抜きにしても、彼女の異常なタイピング速度は機械音痴なるう子や、ウリスでさえも目を見張るものがあった。
ともかく尋問はこれで終わったらしい。

「じゃあ、私は外の様子を見てくるわ。
盗み聞きなんて無粋な真似はしないから、お二人で積もる話でもあればどうぞ。
……ああ、小湊るう子を勝手に殺したりしたらダメよ、東郷美森さん」

そう言うと、ウリスは“スマートフォンをるう子にわざと見せるように持ちながら”部屋を出た。

「(あれって……)」

ウリスが離れたのを確認した東郷は、テキストファイルを他人に見られないよう暗号化、そしてパソコンをシャットダウン、カードに収納。
もしここが殺し合いの場でなかったなら、是非ともパソコンというもののイロハを習いたいくらいの手際の良さだった。
当の本人はといえば……顔色はお世辞にも良いとは言えず、下手をすれば嘔吐してもおかしくはなかった。

「風邪薬だけど、私持っていたんで、よかったら……」
「余計なお世話です」
「でも……」

るう子には、気になることが幾つもあった。
咲との会話を盗み聞きしていた彼女は、小湊るう子の人となりを多少は把握している。
それにウリスも居るのだから、情報は筒抜けだろう。
だがるう子は、三好夏凜から聞いている情報程度でしか東郷美森という少女のことを知らない。
人助けをする勇者の一員である彼女が何故殺し合いに乗っているのか、理由が分からない。
何故ウリスと一緒に行動しているのか、どう見ても不仲なのに、何故。
何よりも。

「携帯電話、ウリス……伊緒奈さんに取られちゃったんですか?」

目下最大の疑問点は、そこだった。

「あなたには関係のないことです」
「見ました、チャット。東郷さんが犬吠埼樹って人……同じ勇者部の人を殺したって」
「関係ないって言っているでしょう」
「ちょっとだけヘンだと思ったんです。幾らチャットが始まったのが最初の放送の後だからって、何で書く必要があるのかなって」
「だから、あなたには……」
「でも、東郷さんとウリスが居て、ウリスがあれを持ってて……」
「いい加減にして!」

東郷の声色には、隠せない動揺がはっきりと表れていた。
事実、彼女はかなり焦っていた。


*  *  *

576あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:32:48 ID:XANdSxh60

「どうするつもりかしら」
「この子から持っている情報を聞き出して、後は始末するつもりです。ところでその手紙は?」

旅館に着いた時、二人の目に真っ先に飛び込んできたのは一通の手紙。
ウリスはそれを手早く回収してざっと目を通すと、東郷に見せることなくポケットにしまった。

「殺すのは後にするわ。まだまだ利用価値があるみたいだし」

どういう意味だ、と聞いても無駄なのだろう。
ウリスが客間でるう子を縛っている間に、彼女の所持していたノートパソコンのケーブルをコンセントに繋いだ。
そして、チャット機能が午前6時に開放されたということに気付き、書き込みに目を通す。

「……」

真っ先に書き込まれていたあの一文。書き込み主は『M』。
最初は冗談だろうと思い、ウリスの顔をちらりと見た。
視線に気付いた彼女は、煽るような笑みだけを返した。

次にあった書き込みは、友奈のものだった。書き込み主は『Y』、イニシャルも一致する。
きっと私のことを心配してくれているのだと、すぐに分かった。
こんな、既に四人を手に掛けた、勇者という言葉から掛け離れてしまった私を。

最後の書き込みは、聞き覚えのある『義輝』、そして神社でるう子が言っていた『タマ』。るう子が夏凜と会っているということが、容易に想像出来た。
書き込み主は『R』。るう子のRだとしたら、全て説明が付く。

ウリスが私のイニシャルである『M』を騙り、そのスマートフォンで嘘を流したのだ、と。

頭を抱えていた矢先、るう子が目を覚ました。
嘘を吐いたと分かれば始末する――そのつもりで放った言葉が、ウリスの横槍でただの拷問に成り下がる。
しまいには、殺すべき相手にすら心配されていた。

分かっている。
この八方塞がりな状況を打破するためには、ウリスという悪意の塊を切らなければならない。
だが彼女は勇者の力をいつでも使え、自身の手には、弓矢だけ。

「(どうすればいい……どうすれば……)」

ぴしゃり、と東郷の思考をまたしても遮ったのは、襖が開かれた音。

「さて、そろそろお話も済んだかしら」
「ウリス……」
「心配することはないわ小湊るう子。タマに会えるかも知れないわよ」
「え?」

どういうことだ、東郷も問い詰める。
すると、玄関で見つけた手紙を取り出した。
さっきは見る前にウリスに取られたが、封筒には『小湊るう子へ』と書かれている。

「知ったツラした奴がタマを持っていることが分かったわ」
「それって……」
「三回目の放送までにはあなたを探しにここに戻ってくるって、ねっ!」

るう子の首筋にあてられたウリスの手から、バチバチと電流が流れ出す。

「づ、あぁっ!?」

意識を失ったるう子を抱えるウリスの手には、手袋のようなものがされていた。

「スタンガン……ではないようですが」
「用途は同じね、ガンじゃなくてグローブだけれど。そろそろ行きましょうか」


玄関を出て、スクーターに三人乗り。幸いにも車椅子は折り畳めるのでさほど荷物にはならない。
が、やはり三人だと全速力とはいかないか。

「そういや定春……例のデカい犬とやら、乗り物として使えるのかしらね」
「生き物ですから、何をするかは分かりません。今は不確定要素を増やすべきではないかと」
「ふーん……」

別に構わない。彼女はいつものように、悪意に満ちた笑みを浮かべる。

577あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:33:25 ID:XANdSxh60
手紙の主である“アザゼル”と名乗る人物。文面には、彼が悪魔であることが書かれていた。
心当たりが一つ。
高圧的な態度を取り、あまつさえ自分を放り投げた忌まわしいあの男のことだとしたら。
あの時は遅れを取ったが、今この手には勇者の力がある。

煮え湯を飲まされた相手が、“人質”の友人を手札に持っていて、更に“人質”を探している。
ここまで面白く重なった偶然を利用しない手はない。
問題は彼の行方だが、最初に出会った場所とこの旅館に訪れたという事実。
そのままの進路で、禁止エリアを避けつつ人を探しているとなれば……行く先は決まりだ。

三人を乗せたスクーターが向かうは放送局。
アザゼルが居なかったとしても、東からの追跡者から逃げるには必然的に通ることになる。
その後は島を反時計周りするか、それとも“ティッピーの巣”に向かうか……?

「(精々首を洗って待ってなさいよ、クソったれさん)」



東郷美森は考えた。
今ここで隙を付けばウリスを殺せるかも知れない。だが、無理だろう。
犬吠埼風の悪ふざけの一撃すら難なく耐えた勇者の精霊防御だ。
きっと、ただの弓矢でも結果は同じだろう。

るう子を利用してでも、主導権を取り戻す。
思考回路の大半をそこに割いた結果、彼女は気付かなかった。
このスクーターが、放送局に向かっていることに。
三好夏凜や結城友奈が向かっている、放送局に。


*  *  *

――現在チャットルームには誰もいません――

――入室者有り――


K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』


――退室しました――

――現在チャットルームには誰もいません――



【G-3/宿泊施設付近/一日目・昼】
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)、スクーター運転中
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(18/20)、小湊るう子宛の手紙    
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
     スクーター@現実
     宮永咲の不明支給品0〜1(確認済)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:放送局に向かう。アザゼルを見つけ次第復讐する。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

578あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:10 ID:XANdSxh60

【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、動揺、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、
    定春@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
    風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
    ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:早急に浦添伊緒奈を切りたい
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈と小湊るう子を利用して、始末する。
     4:どうすれば……?
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)、両手両足拘束、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:……………。
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:東郷さんとウリス、仲が悪いの……?


【スタングローブ@デュラララ!!】
宮永咲に支給。
鯨木かさねが使用していたグローブで、肘に付けたスイッチを押すと電流が流れる。

579 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:54 ID:XANdSxh60
仮投下を終了します

580 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:45:53 ID:ho6pdns.0
放送案を投下します

581第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:25 ID:ho6pdns.0
――白い部屋、大きな窓、繭。

時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【E-5】
【H-4】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、死んじゃったみんなの名前を言うわよ。


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子はこの放送で大切な人が呼ばれたことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。期待しているわ』


*   *   *

582第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:52 ID:ho6pdns.0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、なかなか面白いことになっている。
ここまで来たのだ。恐らく誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
驚きや嘆き、その他諸々が色濃く伝わって来る。



「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。

「…………」

繭には、彼が何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは彼なのだが、如何せん彼が何を思ってやっているのか、それが理解出来ない。

少女はただ一言、男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

583 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:48:13 ID:ho6pdns.0
放送案投下を終了します

584 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:22:36 ID:NLj2Npss0
放送案投下します。

585第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:23:36 ID:NLj2Npss0


  命が、消えていく。
  虚空に解けた夢が、消えていく。
  魂は一枚のカードに封じられ、ゆっくりと、人は死んでいく。
  
  ディルムッド・オディナが死んだ。
  その呪いで多くの錯乱を生み出し、されども前を向いたその果てに、彼の英雄譚は呆気なく終わりを告げた。
  魔王の剣に抱いた誉れも、友への誓いも切り裂かれ。
  守ると誓ったものを守れずに、無念の中で朽ち果てた。

  保登心愛が死んだ。
  同伴者の本性に気付くことなく同じ道を歩み続けたが、きっと彼女は幸運だったのだろう。
  痛みも恐怖もないままに、魔王の断頭台で首を刎ねられ。
  苦痛の芸術の矛先となるより先に、舞台から転げ落ちた。

  入巣蒔菜が死んだ。
  彼女の生き様を語ることは、あまりにも難しい。確かなのは、眠り姫が成せたことは何もなかったということ。
  眠りの園で心地よく微睡みながら、叩き切られ。
  何かを残すこともなく、無念ですらなく、ただ死んでいった。

  雨生龍之介が死んだ。
  若き青さを胸に、この箱庭でも自分の芸術へ没頭し続けた男。彼の首を絞めたのは、その芸術趣向だった。
  迂闊が招いた銃声を前に、あっさりと撃ち抜かれ。
  最後に答えらしいものを得ながら、永遠の眠りについた。

  蒼井晶が死んだ。
  深愛する少女の為にと刃を隠し持ち、状況の変化に翻弄されながらも戦った少女は、あまりに不運だった。
  父を喪った子鬼を前に、セレクターが出来ることは何もなく。
  自身の思いの行く末さえ知らぬまま、その首はあらぬ方向へねじ曲がった。

  カイザル・リドファルドが死んだ。
  誰よりも正しい騎士道精神で、箱庭の殺し合いへと刃向かった彼の末路は、予定調和。
  少女の狂乱を見抜けず、その正しさが仇となり、血反吐を吐いて。
  かつて友と呼んだ男に全てを託し、魂の牢獄へ収監された。

  範馬刃牙が死んだ。
  最強の男、範馬勇次郎の死を前にして、若いグラップラーの心は簡単に壊れた。
  勝利を目前で摘み取られ、一人の男が修羅となるきっかけを生み出して。
  その遺骸はグラップラー・刃牙としてではなく、ただの『範馬』として海の底へと投げ捨てられた。

  高坂穂乃果が死んだ。
  愛と恐怖と友情に狂い果て、多くの罪を犯した少女に立ちはだかった死神は、最強の神衣であった。
  彼女が敵うわけもなく、されども最期に――犯した全てを赦されて。
  運命に翻弄され続けたスクールアイドルは、その生き様とは裏腹の、安らかな眠りに落ちた。

  桐間紗路が死んだ。
  迷いと罪悪感で対立を招いた、どこまでも普通の少女だった彼女。
  あまりにも殺し合いの場には向かない娘は、堕ちた勇者の矢に貫かれて。
  臆病な一匹のうさぎは、独りを恐れて、孤独に死んだ。

  花京院典明が死んだ。
  目の前で殺され続けた、見えざる敵に敗北し続けたスタンド使い。
  彼が勝利を収めることはついぞなく、宿敵の養分に成り果てて。
  それでも最期に勝利を宣言し、人間賛歌を証明した。

  ジル・ド・レェが死んだ。
  信仰に狂った魔元帥は、あまりにも多くの混乱と、数多の怒りを会場中に生み出した。
  盟友の書なくして彼の本領が発揮されることはなく、神衣の怪物に一蹴され。
  怨嗟の絶叫をあげながら、その妄執もろとも、粉みじんになって死んだ。

  ジャン=ピエール・ポルナレフが死んだ。
  優しく気高い騎士は、一人の少女に気を取られた。それは、生命戦維の怪物を相手取る上で致命的すぎた。
  その報いとばかりに、その背を片太刀の欠けた鋏で貫かれ。
  かつて守れなかった、妹のところへと旅立っていった。

  折原臨也が死んだ。
  愛する、愛する、愛する。彼は心の底から、人間という生き物を愛していた。
  愛に基づき寿命を縮め、まさに蟲を踏み潰すように、情報屋は怪物に蹂躙されて。
  一足先に、彼はあるかもわからない天国を目指す。

  蟇郡苛が死んだ。
  本能字学園の生きた盾という自らの役割を貫き、彼は常に盾であり続けた。
  顔面半分を貫かれてもなお、不沈艦・蟇郡を沈めること叶わず。
  一縷の後悔も、その胸になく。最後まで忠誠を貫いて、漢は逝った。

586第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:04 ID:NLj2Npss0


  日輪が、箱庭の頂上へと昇る。
  数多の物語と。
  数多の無念と。
  数多の未来と。
  数多の絶望を載せて。
  時は進む、それはまるで物語の頁を捲るように。

  
 「――元気にしているかしら。定時放送の時間よ」


  白い部屋からの起爆剤が、投下される。

587第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:29 ID:NLj2Npss0
◯  ●


 『あれから、十四人が死んだわ。
  ある者は勇ましく、ある者は迷走の末に、ある者は無念の中で、死んでいったわ。
  残っているのは三十九人。次に日が沈む頃には、きっと盤面の駒数は半分を切るでしょうね』

  くすくすと、その声は嗤う。
  生者全ての腕輪から発せられる声。
  繭――箱庭の主であり、参加者達の絶対支配者。
  そして、打開を目指す者にとっての不倶戴天の敵。
  その声は鈴の鳴るような音色で、昼を迎える箱庭によく響く。

 『じゃあ、早速死んだ子の名前を――』

  ふふっ。
  また、繭が嗤った。
  神経を逆撫でするような、声だった。

 『――言う前に、新しい禁止エリアを教えてあげないとね。
  今回も、封鎖されるのは三箇所よ。
  ペナルティは六時間前に言ったのと同じだから、勘違いしたりしないようにね。
  

  【B-5】
  【E-3】
  【G-7】

  
  ……以上三つのエリアが、三時間後の午後三時にはもう入れなくなるわ。
  鉄道に乗っている間は入れるのは変わらないし、そこは安心していいわよ。
  
  ああ、それと。 
  時間をかけちゃってごめんなさいね。
  A-4の橋の修理が、ついさっき完了したわ。これからは普通に通れるようになる』

  どくん。
  どくん。
  どくん。
  会場中から、心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
  すべての参加者にとって、最も大事な事項。
  すなわち――誰が死んで、誰が生きているのか。
  それを、繭の声が読み上げる。
  笑みを、浮かべた。
  にちゃあと、唾液が歯と歯の間で糸を引いた。

588第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:09 ID:NLj2Npss0

 「では、死者の名前を読み上げるわ。
  よく聞きなさい。そして受け止めるの。
  もう戻らない命を噛みしめて、これからのゲームに臨んで。


  【ランサー】
  【保登心愛】
  【入巣蒔菜】
  【雨生龍之介】
  【蒼井晶】
  【カイザル・リドファルド】
  【範馬刃牙】
  【高坂穂乃果】
  【桐間紗路】
  【花京院典明】
  【キャスター】
  【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
  【折原臨也】
  【蟇郡苛】


  ――はい、全部で十四人。生き残りは、あと三十九人。
  そろそろゲームも中盤で、もっと加速してくる頃かしら。
  さあ、噛み締めなさい。
  そして自分が何をすべきかを、理解するの。『選択』するのよ。
  ……ふふ。
  それができたなら、これからどう生きるかなんて、自ずと見えてくるはずよ――」


  囃し立てる声。
  それは愉快そうに嗤ってから、最後を締め括った。


 「次の放送は午後十八時――また、私の声が聞けるといいわね」

589第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:42 ID:NLj2Npss0
●  ◯


 「随分とご機嫌だったではないか、娘よ」
 「…………」

  放送を終えた繭へ、そう笑いかけたのは、いけ好かない男だった。
  黄金の頭髪を逆立たせ、目が痛くなるような同色の鎧を纏った美しい風貌の男。
  古代バビロニア――繭が生まれる遥か、遥か以前の時代に名を馳せたとされる、万古不当の英雄王。
  真名・ギルガメッシュ。繭は、そう聞かされている。
  『あいつ』が呼んだ、『いざという時』の為のカードの一枚であると、聞かされている。

 「ギルガメッシュ」

  繭にはわかる。
  というよりも、こいつの笑い方を見ていれば誰でもわかることだ。
  この男は、馬鹿にしたように笑う。――嗤うのだ。
  繭のことを、いつもいつも、憐れな道化を見るような瞳で見る。

 「『あいつ』は、何をするつもりなの」
 「くく――流石の貴様でも気付くか。あれが、おまえの望みとは違う方へ歩もうとしていることに」
 「……答えて」

  繭にとっての命の恩人。
  繭だけでは追い付かない部分を、補ってくれた協力者。
  タマヨリヒメを支給品に混入させた、張本人。

 「さてな。それには未だ時期が早い――今はそう答えておこうか」

  だが、と、黄金の男は付け加える。

 「我(オレ)に言わせれば、貴様も奴も、等しく愉快な見世物だ。
  存分に躍るがよいぞ、我がそれを許す」

  くつくつと笑い、霊体になって消え去る姿を見送って…… 
  繭は、ぎりっと歯を噛み締めた。
  やっぱり、こいつは嫌いだ。
  そう、改めて思うのだった。

  ――事態は、少しずつ、少しずつ……彼女の手を離れて、どこかへ向かい始めている――

  黄金は笑う。
  己を呼んだ者。
  紛れもない邪悪へ。
  人類種の仇敵へと。
  その在り方を心の底から嫌悪しつつも、さりとて、彼女達の奏でる音色はあまりにも愉快であったから。
  今はまだ、協力する。
  サーヴァントらしく、従属に預かって。
  黄金の王は、事態を俯瞰するのみ――。

 「何を夢見る、鬼龍院羅暁」

590 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:28:09 ID:NLj2Npss0
投下終了です

591 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:04:32 ID:4lDIj7gE0
放送案投下します

592第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:09:39 ID:4lDIj7gE0
白い部屋。このゲーム二度目となる死の宣告を下すべく、口を開いたのは主催者の『一人』である繭だった。

「ごきげんよう。皆、ゲームを楽しんでくれているかしら」

繭の声には自らが加害の立場にあるという優越感が含まれていた。
元の世界でどれだけ圧倒的な力を持つ人物であろうとも、この会場では等しくゲームの駒でしかない。
繭という絶対的な存在の前に成すすべもない塵芥にも劣る虫けら共である。
にもかかわらず、身の程知らずにもゲームに乗らず脱出を目指しているものがいる。
最初の内は見逃していたが、いい加減あの駒たちには自分の立場を分からせなければならない。。

「でもね、楽しむのは結構だけど、あんまり生意気な態度を見せて私を不快にさせない方がいいわ」

歌うように、けれども若干声のトーンを落として繭が言う。

「ここからの脱出なんて、できるわけがないんだから。脱出なんて無駄な事を考えるのはやめなさい」

それはあまりにも残酷な恫喝であった。お前らはここから出られない、ここで殺しあうしかないという呪いのい言葉。ゲームの過酷な現実を再度参加者に突きつける悪魔じみた宣言である。

「例えゲームに乗っていても、繭に露骨な反抗心を持ってる奴は気に入らないわ」

ギリッ、と歯をかみ締める。

「まさかとは思うけど、優勝した後、繭を倒そうと考えてる奴なんていないわよねぇ?」

反抗心を持つのは構わないにしても、それを隠そうともしない一部の参加者の態度は非常に不愉快だ。
ここでは繭が支配者であり、参加者はゲームの駒でしかない。駒が支配者に生意気な態度をとるなど許されることではない。

「もう一度、思い出した方がいいわ。今あなた達の命を握っているのが誰なのか」

再び声に加害の立場にいる人間特有の優越感が宿る。

「優勝しても、繭の機嫌を損ねたら、その場でカードにすることも、できるってことを、理解しなさい」

命を握られている人間の立場からすれば恐ろしいことこの上ない発言。それが分かっているからこそ、繭はその言葉を一言一言、刻みこむように参加者たちに告げた。


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