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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

239Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:44:06 ID:.uGvEJ4o0
「…………」

動かぬ証拠が目の前にある。
しかしながら、ランサーは安易にその場を動こうとはしなかった。
焦りに任せて行動を起こすべきではない。戦士としての経験がそう告げていた。

確かに、この破壊が宝具によってもたらされた公算は高い。
だがそれは『セイバーの宝具によってもたらされた破壊』であることを保証しない。
ランサーは腰に提げた――すぐさま抜き放てるようカードには戻していない――キュプリオトの剣に手をかけた。
征服王イスカンダルの剣。それがここにある以上、名簿に名のないサーヴァントの武具も存在しうると考えるのが道理である。
そう、アーチャーの宝具もまた然り。
バーサーカーに放たれた無数の宝具の中に、真名解放によってこれほどの破壊をもたらす宝具があったとしても何の不思議もないのだ。

しかも問題はそれだけではない。
――仮に、橋を破壊したのがセイバーであると仮定しよう。
次に浮かぶ疑問は『何故』だ。
対軍宝具、あるいはそれを凌駕する対城宝具や対国宝具の真名解放ともなれば、魔力消費は極めて膨大なものとなる。
大量の魔力を何の意味もなく浪費するサーヴァントなどいるはずがない。
セイバーには橋を壊さなければならない理由があったはずなのだ。

「それも……橋を渡る前に」

破壊の痕跡を見る限り、宝具の真名解放がこちら側の岸で行われたことは確定的だ。
これから渡ろうとする橋を破壊したというのなら、それこそ相応の意味があったに違いない。

真っ先に思い浮かぶのは、不可抗力。
橋に陣取った強大な敵を倒すため止むを得ず橋を巻き込んだというパターンだ。
この場合は単純明快。敵の撃破と引き換えに橋は破壊され、セイバーは渡海を諦めた可能性が高い。
無論、舟などの渡海手段を確保した可能性もあるが。

次に可能性が高いのは生存者の封じ込めだ。
海峡を渡る手段が豊富に存在するとは考えにくく、常人が自力で泳ぐには過酷過ぎる。
つまり、3箇所の橋と1箇所の鉄道橋が破壊されてしまえば、この島にいる参加者の大部分は他の島に移動できなくなる。
こちらの仮説が正しければ、セイバーは未だにこの北西の島に残っているはずだ。

そして三番目、最も可能性の低い仮説。
三つの島を結ぶあらゆる交通手段を途絶させ、全ての参加者から移動の自由を剥奪する――

「……くっ」

宝具を用いた痕跡さえ見つければ手がかりになるとばかり思っていたが、いざ見つけてみると結果は真逆。
橋が落とされていたという事実が、ランサーに理不尽な選択を突きつけてきていた。
海を渡ったと判断して渡海を試みるべきか。
未だこの島にいると判断して引き返すべきか。
前者は、単なる移動の一環として渡った場合と、諸島全体を巻き込む計略が発動された場合に分かれる。
後者は、島を移ることを諦めた場合と、この島に狙いを絞った封じ込め戦略を取った場合に分かれる。

全体の被害を考慮するなら『島を渡った』と判断するべきだ。
しかし、この島には見知った者達がいる。高坂穂乃果がいる。宇治松千夜がいる。無力な少女達がいる。
もしもセイバーがこの島に残っていたとしたら、彼女達が凶刃に斃れることも覚悟しなければならない。
無様な槍兵が見当違いの方角を彷徨い歩いているうちに――

今、ランサーの前には天秤がある。
片方の腕には、他の2つの島に送り込まれた顔も知らぬ多数の命。
もう片方の腕には、己の呪いが心惑わせた少女を含む少数の命。
選んだ側が『当たり』ならば両方が危機から逃れられる。
選んだ側が『外れ』ならば選ばれなかった側が危機に陥る。
あまりにも不自由な二択。それでもどちらかを選ばなければならない。
ランサーは苦悶を飲み込み、強く瞼を閉じた。

「……すまない」

240Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:45:16 ID:.uGvEJ4o0
 


    □  □  □



結論を言おう。
ランサーは『少数』を選んだ。

正しき天秤の守り手たらんとするならば、迷うことなく『多数』を選ぶべきである。
しかし、ランサーはそのように振る舞うことを良しとできなかった。
親しき者も見知らぬ者も強き者も弱き者も『1』と数え、純然たる数量の多寡で生死を切り分けるなど、到底許容することができなかったのだ。
そんなものは人間の考えではない。正しくあり続ける機械装置の在り方だ。
もしも人間がこのような思考回路で動こうとするなら、人間らしい感情を捨て去るか、或いは人間らしい感情を際限なく痛めつけ続けるより他にない。
故にランサーは海峡を前に踵を返した。
騎士として、サーヴァントとしての判断ではなく、心あるヒトとしての、ディルムッド・オディナとしての決断だった。







【A-3/市街地/一日目・早朝】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
1:まずは北西の島からセイバーを探す。
2:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
3:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。

241Libra ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:46:13 ID:.uGvEJ4o0
仮投下終了です
先の話の修正がどうなっても大丈夫なように、比較的ニュートラルな立ち位置からの考察回ということで

242 ◆zUZG30lVjY:2015/09/02(水) 09:52:39 ID:.uGvEJ4o0
指摘される前に一つ

>総勢七十人――死亡者を加味しても六十人前後のうち、標的はセイバーただ一人。
この六十人前後というのは、だいたいこれくらいだろうというランサー視点での当て推量です

243 ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:21:05 ID:6UIwZmhU0
少し不安な点があるのでこちらに投下します

244フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:22:33 ID:6UIwZmhU0

駅に向かって走り続けるランサーは、ふと立ち止まった。
広い三叉路。左に行けば駅に続き、右に行けば最初の目的地だった音ノ木坂学院がある。
右手の道の先、夜であれば見逃してしまいそうな黒い影。
朝日に照らされ始めた今では、それが人の身体――遺体だとはっきり認識できる。

「……あれが、セイバーと戦って敗れたという、トウシロウか」

遺体の傍らに立ったディルムッドは目を伏せる。
侍は全身に傷を負っていた。一つとして、軽傷と呼べるものはない。
どれもが致命の一撃。命を刈り取ることを目的として放たれた、「殺す」ための剣ばかりだ。
特に、腹部への突きと胴部に走る袈裟切りの一撃が深い。真正面から渾身の力で斬り伏せられたことが容易に想像できる。
思わず簡単しそうなほど見事な切り口。しかしディルムッドの表情は暗い。
ディルムッドの見立てでは、この男は腹部か胴部、どちらかの一撃でほぼ間違いなく力尽きたのだろう。
だが下手人――セイバーはそれだけでは飽き足らず、駄目押しの一撃を加えた。
放っておいても絶命する男に、辞世の句を残すことすら許さず、無慈悲なまでの死を叩きつけた――あの、正しき騎士たらんと揺るがぬ誇りを掲げていたはずのセイバーが。

「モトべの言う通り……お前は、騎士道を捨てたのだな。俺などよりも遥かに……苛烈に、徹底的に」

騎士王と交わした剣を思い出す。
胸踊り血が沸き立つ、騎士の誇りを賭けたあの決闘を。
ディルムッドが生前経験したどんな戦いにも勝るとも劣らない、清澄かつ純粋なあの剣劇を。
初戦はディルムッドが優勢だったものの、まだ決着はついていない。
片腕の自由を奪われてもなお衰えぬあの闘志に、ディルムッドは身震いするほどの敬意と歓喜を掻き立てられた。
騎士王の名に恥じぬ、煌めく星々にも勝る気高さ。
相手にとって不足なし、どころではない。かの王を剣で打ち倒すことこそ、騎士たる者が心震わし挑む大いなる試練――!

「……なるほど、これが甘さか。確かにこんなものを抱えていては、今のセイバーには及ばんな……」

それら全てを――セイバーは、打ち捨てている。
自らを縛る鎖を斬り裂き、身を軽くして、ひたすら前へと突き進んでいる。
今一度覚悟を新たにし、ディルムッドは刀を抜く。
キュプリオトの剣ではなく、本部から預かった村麻紗を――眼前に伏す、一人の侍の魂を。

245フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:22:58 ID:6UIwZmhU0

「トウシロウ、東洋の侍よ。埋葬してやりたいところだが、今は時間がない。
 だが、お前の意志は俺が継ぐ。お前が騎士王と打ち合ったこの刀に誓おう。
 騎士王は必ずや俺が討ち果たす。お前が遺した、この刀でな」

ディルムッドは刀を納め、土方十四郎の亡骸を抱えて跳躍した。行き先は、ほど近くにある音ノ木坂学院。
先を急ぐ身ではあれど、ディルムッドは土方の遺体をあのまま野晒しにしておくことはできなかった。
日が昇れば急速に腐敗が始まる。せめて日の当たらぬところで眠らせてやりたい。
場所の検討も付いている。先ほど穂乃果に案内された際、最後に見た場所、アルパカの小屋だ。
ディルムッドの足ならば、寄り道しても一分とかからない。
あのときは本部が立っていたためじっくりとは見聞していないが、本来の主であるアルパカがいないことはわかっている。
決闘の場から一跳びで小屋の前に到着し、中に土方の遺体を横たえようとして――

「……むっ!?」

突如、ディルムッドの足元が光を放った。
警戒し、瞬時に小屋を出ようとしたディルムッドだがその背中が硬いものに突き当たる。
視線を巡らせれても、そこに壁などない。
あったのは光の帯。小屋の中心から放射線状に広がった青い光が、ディルムッドの退出を防いでいる。
そして光は徐々に勢いを増し、やがて目も眩むほどの光になって――!





「……なん、だと……?」

光が収まった時、ディルムッドの見る景色は一変していた。
狭いアルパカ小屋ではない。
木造の建物。その教室の一つ。


「ば、バカな……ここは音ノ木坂学院ではないぞ。どこだ、ここは!?」

土方の遺体を横たえ、ディルムッドは地図を開き、現在地を確認する。
F-4。旭ヶ丘分校。ディルムッドと土方十四郎の遺体は、音ノ木坂学院から遠く離れた南の島に転移していた。

246フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:23:27 ID:6UIwZmhU0

「何故だ、何故……!」

そのとき、ディルムッドの腕輪からすとんと一枚のカードが落ちる。それは黒カードではなく、IDカード。
キャスターに破壊された「ファバロの剣」と同じく、ディルムッドに支給された黒カードの変化した物体。
その効果は、特定施設のアンロック。
殺し合いの会場となる西の島、東の島、南の島は橋と電車によって繋がっているが、地続きではない。
橋と線路が全て破壊された場合、水面を渡る手段を持たない者は島に閉じ込められてしまう。
無論、そこまでの事態はそうそう起こるものではないが、かといって確実に起こらないとも断言できない。
そうなった場合のフェイルセーフ。
それが、三つの島に一つずつ存在する学び舎――音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園――を繋ぐ、ワープ装置であった。
本来、このワープ装置は殺し合いが始まってからリミットの半分、つまり36時間で自動的に開放されるものだった。
が、ディルムッドの持っていたIDカードはそのタイマーをパスし、装置を使用可能にするカードキーだったのだ。
ディルムッドは殺し合いが始まってすぐキャスターの気配を察知したため、己のカードで最初に出てきた剣を掴むやいなや行動を開始した。そのため、残るカードを確認できていなかった。
穂乃果と合流した後も、愛の黒子の呪いにかかった穂乃果をケアすることで忙しく、また征服王の剣という獲物も手の中にあったため確認を怠っていた。
そして知らぬままアルパカの小屋というワープ装置のある施設に踏み入ったため、IDカードを認証した装置が自動で起動し、ここに転移させたのだった。

「装置は一度起動すると……バカな! 六時間は再使用不可だと……!」

黒カードに戻したIDカードから効果詳細が浮かび上がり、ディルムッドは絶句する。
一度起動した装置は再使用が可能になるまで六時間かかる。
つまり西の島の装置は停止しているため、ここから東の島に行くことはできるが、すぐに西の島へ舞い戻ることは不可能なのである。

「ここから走って駅まで、どれだけ時間がかかる……!」

本来であれば、ワープ装置は重要な移動手段となっただろう。
だが先を急ぐ槍兵には、これ以上ないほどの不幸となってその背中を刺したのだった。

「どうすればいい、どうすれば……!?」

ディルムッドの――ランサーの問いに答える者は、誰もいない。
日が差し暖かくなり始めた学校で、土方十四郎の亡骸だけが冷たい汗を流すランサーの慟哭を聞いていた。

247フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:24:11 ID:6UIwZmhU0

【F-4/旭ヶ丘分校教室/一日目・早朝】

【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)、焦り
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:IDカード
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
1:可及的速やかにB-2の駅に戻る。
2:穂乃果達から離れたことに対しての後悔。
3:状況が許す限り、セイバーの追討を優先。場合によっては鉄道も活用する。
4:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。
※A-4の橋の消滅を確認しました。
※セイバーの行先に関しては、向こう岸へ渡った場合とこちら側に残った場合の両方を考慮しています。


・支給品説明
「IDカード@アニロワ4オリジナル」
音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園を結ぶワープ装置の認証キー。
ワープ装置は本来ゲーム開始から36時間経たなければ開放されないが、このIDカードを持つ人物だけはそのセキュリティを回避して装置を使用できる。

・施設説明
「ワープ装置」
音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園にそれぞれ設置されたワープ装置。
橋、電車が不通になった時のための安全装置のため、ゲーム開始から36時間経たなければ開放されない。
ただしIDカードを持つ者であればセキュリティを回避できる。
また、一度使用すると送信側(つまり使用者が最初にいる場所)の装置は六時間システムダウンし、受信も送信もできなくなる。
音ノ木坂学院のワープ装置はアルパカの小屋、旭ヶ丘分校のワープ装置はれんげたちの教室。
本能字学園のワープ装置については後続の書き手にお任せします。

248フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/07(月) 10:25:33 ID:6UIwZmhU0
投下終了です。
使用できる人物に制限があるとはいえ、この段階で場所を瞬時に移動できる施設がありかどうかご意見をお願いします。

249名無しさん:2015/09/07(月) 13:02:28 ID:ehzT4OPs0
ワープについては意見が分かれると思いますが、自分は大丈夫だと思います

ワープの転送先については、指定は出来ず、どちらかの施設にランダムで飛ばされるという解釈でよいのでしょうか?

250名無しさん:2015/09/07(月) 14:49:37 ID:nm9I7SEo0
仮投下乙です
特に問題ないかと思います

251名無しさん:2015/09/07(月) 16:07:40 ID:nm9I7SEo0
同じく問題は無いかと

252名無しさん:2015/09/07(月) 16:59:21 ID:ctrPHXNE0
土方の死体は音ノ木坂学院と公園の間で、A-2の右端付近
ランサーはA-4の橋からB-2の駅までまっすぐ戻る途中で、現在位置はB-3

これでたまたま死体を見かけるって、位置関係はどうなっているんだろう

253名無しさん:2015/09/07(月) 19:29:41 ID:6gK5PH3M0
市街地のB-3からB-2にかけて移動している時に、たまたま死体との間に遮るような建物がなく、鯖の視力で目に留まった…って可能性もあるが
それにしたって地図の縮尺がかなり縮まってる感じはある
千夜も夜中で見つかりにくかったとはいえ、かなりの距離を走ってB-2まで逃げ切ったような描写だったし

254名無しさん:2015/09/07(月) 19:35:31 ID:8KDNpeds0
ワープ装置の仕様については特に目立った問題は無いと思います

ただ強いて言うなら、前話までに決められていたキャラの進行方向を一話で変える
ワープ装置の唐突な登場という事実は、正直なところ少しだけ引っ掛かりました
とは言え単なる気持ちの問題といえばそれまでなので、何も無いなら自分も強く主張しません

255名無しさん:2015/09/07(月) 20:05:18 ID:ctrPHXNE0
>>253
>広い三叉路。左に行けば駅に続き、右に行けば最初の目的地だった音ノ木坂学院がある。
>右手の道の先、夜であれば見逃してしまいそうな黒い影。
この表現で位置関係が更にカオスってる気がする

256名無しさん:2015/09/07(月) 20:18:50 ID:ctrPHXNE0
ttp://s1.gazo.cc/up/151962.jpg

図示すると、こう
これ作ってて気付いたけど、ひょっとして修正版の状態表じゃなくて、
Wikiに載ってるバージョンの現在位置地図を見て話を考えたのかな

257名無しさん:2015/09/07(月) 20:25:20 ID:WBGBiakM0
その図以外のパターンはいくらでもあるぞ
そんな難癖じみた指摘するぐらいなら素直に「気に入らないから破棄しろ」って言えば?

258名無しさん:2015/09/07(月) 20:28:45 ID:YnBujQqg0
そのいくらでもあるパターンを示さないと議論を引っ掻き回そうとする荒らしにしか見えんぞ

259名無しさん:2015/09/07(月) 20:32:43 ID:WBGBiakM0
>>258
例えば>>256の図で言うと赤のライン上に三叉路があったと考えればなんの問題もない

260名無しさん:2015/09/07(月) 20:33:54 ID:ctrPHXNE0
>>259
それ三叉路じゃなくて丁字路じゃね

261名無しさん:2015/09/07(月) 20:35:46 ID:WBGBiakM0
>>260
「三叉路があったら」って話だけど

262名無しさん:2015/09/07(月) 20:37:58 ID:ctrPHXNE0
いやまぁ丁字路も三叉路の一種といえばそうなんだが、
上の図みたいに死体が移動ルートの近くにあるならともかく、
駅までの距離と大して変わらないのに寄り道するのはそれはそれでおかしくなる
お前、自分が不在の間に何か起こるの不安がってたじゃねーか、と

263名無しさん:2015/09/07(月) 20:39:51 ID:3STuUG2c0
出先で地図見れないから的外れだと申しわけこの議論もないけど、赤ラインがエリア区分なら死体の置いてあるエリア次第なんじゃないの?

264名無しさん:2015/09/07(月) 20:45:04 ID:WBGBiakM0
>>262
1分掛からないって書いてあるし別に何とも思わないけど

というかこの程度で一々修正要求されてたらやってられん

265名無しさん:2015/09/07(月) 20:46:09 ID:QMM6D7fY0
そもそも市街地なんだから常識的に考えたらまっすぐ移動するんじゃなくてある程度道沿いに動いてるんじゃないですかね
どうも自分の考えたルートしかあり得ないと思ってるぽいけど

266名無しさん:2015/09/07(月) 20:47:45 ID:YnBujQqg0
ランサーの思考に関しては、元々支離滅裂なキャラとして描かれているから多少の不自然な行動はアリだと思う

267名無しさん:2015/09/07(月) 20:48:04 ID:XeIYninU0
それはそうと、アルパカ小屋ってなんか臭いそう
もっといい場所がなかったのかというか、駅に連れて行ってやれなかったのかというか

268名無しさん:2015/09/07(月) 20:52:02 ID:6gK5PH3M0
エリア1マスの距離とか言い出したらきりがないけど、
鯖の身体能力とはいえA-2の端っこからA-2の中央ぐらいにある学園まで行って死体置いてくる寄り道に一分とかからないっていうのもちょっと苦しくないか

269名無しさん:2015/09/07(月) 20:58:02 ID:XeIYninU0
>>263
死体があるのはA-2で現在位置はB-3、目的地はB-2

>>265
初登場話でも跳びまくってるし、急いでるなら建物とか踏み越えてまっすぐ移動するんじゃないかな

270名無しさん:2015/09/07(月) 21:23:08 ID:XeIYninU0
仮投下の本題の方に反応するの忘れてた
ワープ装置については>>254の下の段と同じかな
個人的には最初の放送の前に出す類の追加施設じゃないと思った

>「ここから走って駅まで、どれだけ時間がかかる……!」
市街地エリアの半分を1分足らずで踏破できるならだいたい8分です

271名無しさん:2015/09/07(月) 22:03:43 ID:UEsDYb8I0
全速を維持できる訳じゃないし、市街地でもないから変わってくるでしょ
そもそもロワで移動時間をそこまで細かく分析するのはタブーな気が……

272名無しさん:2015/09/07(月) 22:22:28 ID:XeIYninU0
>>271
>全速を維持できる訳じゃないし、市街地でもないから変わってくるでしょ
市街地は建物跳び越えたり回り道する必要があるからなぁ
それに移動スピードが半分でも15分前後だし、線路に着けば線路沿いを障害物ゼロで走れるし……

>そもそもロワで移動時間をそこまで細かく分析するのはタブーな気が……
リレーを挟んでいたり、位置関係や経過時間がハッキリしてなかったりするからだね
今回みたいに、それぞれの位置関係がある程度明確になっていて、同じ話の中でランドマーク間の移動時間が示されてると事情が違ってくる

一分かからないというのをボカしても、短時間で済むならその8倍程度の距離を走る時間で戻ってこれる勘定になるし、
戻ってくるのに凄く時間が掛かる距離とするなら、その8分の1もの距離を寄り道してる場合じゃないってことになる難しい状況だと思った

273名無しさん:2015/09/07(月) 22:30:13 ID:UEsDYb8I0
>>272
だからそこの辺り突っ込んだら厄介だから書き手側が空気読むしかないってこと

274名無しさん:2015/09/07(月) 22:30:35 ID:nm9I7SEo0
>>272
勘違いしていそうなので一応言っておくとすべての書き手があなたの個人的な違和感の修正に付き合わないといけないわけではないので

正直ワープ装置に関しても移動にしても「個人的に気になる」の域を超えていないと思うので本投下でいいかと

275名無しさん:2015/09/07(月) 22:37:34 ID:iqX..4js0
勘違いしているのはそっちでは?
現段階でワープ装置があるかどうかについての意見、つまりは個人の意見を募っているわけですから
それを無視して本投下でいいなんて、何のために仮投下されたのか理解できてないとしか

276名無しさん:2015/09/07(月) 22:39:35 ID:Bfl1xB8.0
本投下されるならだけど、装置の解禁時間はもう少し早くても良いと思った
36時間だと第六回放送までかかる事になるし、そんな時間まで殺し合いが続くけ分からないし
24時間とか12時間でも良いと思う

277名無しさん:2015/09/07(月) 22:40:08 ID:iqX..4js0
それと自分も、ワープ装置は時期尚早かなと思います

278名無しさん:2015/09/07(月) 22:44:27 ID:jJPmxI..0
ワープ装置そのものは良いかと。
左上の橋が壊されたのは痛いので、解禁時間さえもうちょい速くしてくれるならとても助かります

279名無しさん:2015/09/07(月) 22:48:41 ID:nm9I7SEo0
確かに解禁はもう少し早くてもいいかもしれませんね
これに関しても個人的な意見の域を出ないので氏の意思を尊重しますが
全員が納得しなければ本投下できないなんてルールもありませんしその部分さえ終われば投下でいいかと

280名無しさん:2015/09/07(月) 22:54:01 ID:XeIYninU0
>>273
流石に同じ話の中だったらどのロワでも突っ込まれると思うよ

>>274
修正に付き合わないといけないわけではないけど、
このままなら次の話の冒頭で普通に駅にいてもおかしくないよね、って話

>>276
>左上の橋が壊されたのは痛いので
その観点で言うと6時間使えないというのも厳しそう

281名無しさん:2015/09/07(月) 22:58:27 ID:8KDNpeds0
一応自分の意見だけ付け加えておくと、自分は正確には「今回の話でワープ装置が実際に使用される」のが引っ掛かった
これまでの話の流れからしてちょっとご都合が過ぎないか?というのが疑問だったので、だからこそ強くは言わない感じ

282名無しさん:2015/09/07(月) 23:11:23 ID:6gK5PH3M0
そもそも市街地なら、日差しによる腐敗を避けられる建物くらい学校に行かなくてもありそうだしな

283名無しさん:2015/09/07(月) 23:34:17 ID:nm9I7SEo0
>>282
それ言い始めたら何も進まないんじゃ…

284名無しさん:2015/09/07(月) 23:44:22 ID:XeIYninU0
その施設じゃなきゃダメっていう理由ならまだしも、アルパカ小屋で事足りる用件だし…
これが銀魂本編なら土方の幽霊が怒涛の勢いでツッコんでるボケシーンだよ

285名無しさん:2015/09/08(火) 00:00:10 ID:N9iUFcIM0
移動距離にしろアルパカ小屋にしろ決定的な矛盾のない、「個人的には嫌」という程度の問題に過ぎないな
賛同する意見もある以上書き手がこれでいいと判断すれば本投下で問題ない

286名無しさん:2015/09/08(火) 00:05:14 ID:VVcf26eA0
その通り
嫌なら書き手になって自分の好きな展開を書こう

287名無しさん:2015/09/08(火) 00:05:51 ID:SaqPzFWM0
こうやってゴリ推した結果が後になって火を吹いて、この間みたいなトラブルの元になるわけだ

288名無しさん:2015/09/08(火) 00:07:04 ID:PJb8Vl6s0
ありゃどっちかってーと1人の書き手がゴネただけだろ

289名無しさん:2015/09/08(火) 00:12:03 ID:lo7bUBCU0
それだけじゃ遡っての修正議論にまでは至らんよ

290名無しさん:2015/09/08(火) 20:34:14 ID:QZWwOrVU0
意見出尽くしたっぽいし、あとは書き手待ちかな

291フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ ◆0safjpqWKw:2015/09/09(水) 16:12:29 ID:HkdlK3lY0
反応が遅れて申し訳ありません。
装置の是非について、尚早という意見もある一方、あれば助かるという声もありましたのでこのまま本投下したいと思います。
ただ解禁時間が長すぎるという点は「36時間→12時間」に修正します。
様々なご意見をありがとうございました。

292名無しさん:2015/09/09(水) 20:44:57 ID:jipv8DkE0
お疲れ様です。
本投下お待ちしています

293 ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:00:29 ID:eQQbHSfc0
駅組、投下します
色々と議論になったパートでもありますので、一度仮投下させていただきます

294低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:02:14 ID:eQQbHSfc0
それは、本部以蔵という名前の小汚いおじさんに、高坂穂乃果が倒されていた間のこと。
短い棒きれみたいなものを、額に思いっきりぶつけられて。
頭がぐわんぐわんして、ばったりと倒れて。
なんとか起き上がらなきゃ、ランサーさんを助けなきゃと暗闇の中でじたばたして。

そんな時に見えた、悪夢のような、妄想のような。
結局のところは、ただの夢だったのだけれど。
ある意味では、夢じゃなかった。

暗闇に包まれたアルパカ小屋の近くで、本部以蔵がランサーに挑発らしき言葉を投げている。
殺すつもりかもしれない。
そう危惧したのは、初対面の時に感じたぞっとするほどの殺意あるプレッシャーだった。
今またあの男は、同じだけの恐ろしい気迫でランサーに戦いを迫っている。どんな目に遭わされるか、分かったものじゃない。
立ち上がれ、高坂穂乃果。あなたがランサーさんを守らないで、誰が守るんだ。
念を込めて身を起こし、ヘルメットを振りかざす。
ランサーさんは、絶対に殺させない。
声を張り上げてそう叫ぼうとした。

その時、よく知っている声がした。

『だめだよ。穂乃果ちゃん』

ぐい、と。
ひどく冷たくて柔らかい手に、足首を掴まれた。

「ことりちゃん……っ!?」

早く会いたかったはずの幼なじみは、能面のように冷たい顔をしていた。
ずるりずるりと、地面の下からでも現れるように、幾本もの手が――音乃木坂学園の、青い制服の袖から伸びる手が、絡みついてくる。

「なんで!? ランサーさんが危ないんだよ!
どうしてことりちゃんたちが邪魔するの!? 私が止めなきゃ――」
『止めなくていいよ。だって、穂乃果ちゃんがおかしくなったの、あの人のせいなんでしょ?』
『そうやね。あんな男のために命を賭けるなんておかしいわ。穂乃果ちゃんは大事なμ'sのリーダーなんやから』
『9人全員でもう一度ラブライブに出るって決めたじゃない。
なのに、あんたはあの男ばっかり。にこ達のことなんて思い出さなくなってる』
『千夜って子に嫉妬して、醜い顔をしたのも知ってるわよ?
もし、あれが私や希だったとしても、穂乃果はあんな嫌な顔をしたんでしょう?』

こんな時に何を言ってるの。
そう言い返して、地面と足を縫い付けるその四人をはずそうともがいた。
目の前では、ランサーを殺そうとする本部が、神速の攻防を繰り広げている。
早く、あれを止めないといけないのに。皆はどうして、私が好きになった人に死ねなんて言うの。
そう主張しようとして、穂乃香はやっと気が付いた。

295低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:04:02 ID:eQQbHSfc0
ことりたち4人の身体には、下半身がなかった。
皆、小さな白いカードから体が生えていて、悪霊のように穂乃果の身体を絡めとっていた。

「ひっ――」
『あんたが私たちのことを忘れて男とよろしくやってた間に、可愛いにっこにーの体がこんなになっちゃったわよ。あんたのせいよ』
『ランサーさんが心配だから、止められたのに学園まで付いてきたんだよね。
私たちだって学園に向かってるかもしれないのに、私たちのことは心配してくれなかったんだね』
『知っとるよ。あの人が学校に向かおうとした時も、μ'sのことはいいから自分のそばにいて、って思ったんやね。
”穂乃果ちゃんは恋に目覚めたからμ'sの仲間を見捨てる”。そう占いに出てたんやもの』
『穂乃果は一度にたくさんのことを追えるほど器用じゃないって、自分でも分かってるでしょ?
それなのにあなたときたら……私、生徒会長をあなたに任せたのは失敗だったわ』
『楽しそうに学校デートして、歌まで歌っちゃってさ。その間に、私たちがどんな目に遭ったか考えてもみなかったの?』
「違う! 違う違う、違うの!」

『何が違うの』と。
四人が口をそろえて、冷徹な恨みをこめて穂乃果を責める。

ランサーと一緒にいることに夢中で、μ'sのことを忘れたりなんてしない。
そんなことあるわけないと反論しようとしたのに、できなかった。
だって皆が言ったことは、およそ当たっていたのだから。
高坂穂乃果はμ'sのリーダーなのに、ランサーと一緒にいられるだけで浮かれきっていたから。
足元から背中へと這い上がってきたことりが、追い打ちとなる言葉を囁いた。

『前にも穂乃果ちゃんはこういうことがあったよね。
ラブライブに出ることに夢中になって、周りのことを全然見てくれなくて。
自分が満足するためだけに無理な練習をやらせて、結局自分が真っ先に倒れて。
それでラブライブに出られないって皆をがっかりさせて、私には悩みがあったのに、全然相談に乗ってくれなかった。
あの時と同じように、穂乃果ちゃんは皆を傷つける。μ'sのぜんぶを壊そうとしてるよ』

その言葉が、背後からぐさりと、穂乃果の心臓を貫いた。
違わない。
だってカードにされた皆を見せられても、呪いの言葉を聞かされても、目の前でランサーが無数の麻雀牌に穿たれていくのを見ていれば胸を掻き毟られるのだから。
ランサーが、死んでしまう。
穂乃果が守れなかったせいで、死んでしまう。
どうしてだか分からないけど、とてもドキドキして、幸せな気持ちにさせてくれる人が、消えてしまう。
そう、どうしてだか分からないけど、いつからこうなったのかも知らないけれど、この気持ちは本物に間違いないはずで。

『うちにとって、μ'sは奇跡……でも、穂乃果ちゃんにとっては、その程度だったんやね』
『私、本当に穂乃果が羨ましいわ……素直に、思っている気持ちを行動にうつせて……だからこそ、私たちを捨てられるのね』
『そんなことで、あたし達のことを忘れちゃうの? やっぱり、あんたの『好き』っていい加減なものだったのね』
『穂乃果ちゃん、最低だよ。自分が舞い上がってばっかりで、私の話を聞いてくれない、そんなのあの時と同じだよ』
「やめて! こんな……こんなの、いつもの皆じゃない! 皆はそんなのじゃない!
皆は……μ'sはもっと自分のやりたいようにして、自由で! 好きなことができて!
だれかを強制したり見捨てたりなんてしない! こんな……そんな顔した皆なんて知らないよ! こんなの偽物だ!!」

296低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:04:59 ID:eQQbHSfc0

本部以蔵が獣じみた獰猛な叫び声とともにランサーの身体を投げ飛ばし、容赦なく地面へと叩きつける。
ランサーの頭から鮮血が舞ったように見えて、穂乃果は絶叫した。

「いやだ!! 偽物なんていらない! 私とランサーさんに入ってこないでよ!
あのおじさんだって死んじゃえ! ランサーさんを殺す人なんか――」



――本部の日本刀がランサーの首へと振り下ろされ、黒髪に彩られた美貌が宙を高く飛んだ。



それは、結局のところただの夢であって。
目が覚めて数分もたてば、どんなストーリーだったのかさえ曖昧になる程度の悪夢だったし、友人の声だって幻聴だった。
けれど、そんな声を聴かせたのも、そんな声を図星であるように狼狽したのも、彼女の心が生み出したことだった。

そもそも高坂穂乃果に、ただの歌って踊れる女子高生に。
『殺しあいをしろと命じられた』
『抵抗すればカードにされて、二度と出られない』
『どこかで友達が化けものじみた人たちに襲われて殺されるかもしれない』
そんな極限の環境で『恋愛に夢中になって浮かれる』なんて、心の負担にならないはずがない。
自分の心を安定させるため、だれかと助け合っていくために恋愛をするならまだしも、ランサーへの恋心はそんなものではない。
穂乃果には『好きなことに邁進したせいで、周りの皆をないがしろにする』ことに酷いトラウマがあった。
そんな自分になることを恐れていた時から、殺し合いに呼ばれた。
誰よりも出場したかった念願の第二回ラブライブにさえ『あの時と同じことになるかもしれない』という理由だけで出場を断念しようとしたほどに、気にしていた。

だから、異性に魅力を感じたとしても、そこには必ず『でも、それだけに夢中になって、人に迷惑をかけるなんてだめだ』という、躊躇だとか戒めが働く。
本来の、この時の彼女なら、そうなっていた。

しかしその感情は、愛の黒子によって植えつけられた恋情だった。
もちろん、その黒子と魔貌に、人の心を洗脳してしまう効果などありはしない。
恋心を喚起するという意味では感情を操っているのと大差ないけれど、それもあくまで『恋愛感情を抱く』という一点に限ったことだ。
しかし、それでも、その効能にはある種の強制力があった。
『愛の黒子』によって生まれる好意だったからこそ、穂乃果の好意は『負の感情』にはなりえない。

もちろん、相手を恋しく思うあまりに嫉妬の感情が芽生えたり、恋しい相手が離れていくことによって不安や焦りを覚えたりするように、
『恋愛感情を抱いた結果』としての負の感情が生まれることはある。誰にとっても。
しかし、『恋愛感情そのもの』をストレスとして認識することはできなかった。
英霊が生前に残した伝承の再現とはいっても、つまるところは魔力によって発生する魅了の魔術の類に過ぎない。
そこに『ランサーさんに惹かれていくのが怖い』『ランサーさんに夢中になるのは疲れる』といった自制や躊躇が存在していれば、そもそも魅了の効果だって発揮されていない。
心にとって毒となるストレスだろうとも抗えずに酩酊し、心地よく感じられるからこそ魅了される。
それはもはや、冷水の中に浸かっていながら、そこが心地よい温水だと錯覚しているのに等しい。

297低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:06:31 ID:eQQbHSfc0
こうして、高坂穂乃果の感情は反転する。
冷たく感じられるものは温かくなり、温かかったものは冷たくなる。
ランサーを好きになっていくことへの躊躇や不安は、全て押し込められて、ランサーへの好意の下に圧迫される。
ランサーを好きになればなるほど『ほかの皆だって大事だ』と思う自制心も大きくなり、しかし後者のことを穂乃果は認識できない。認識するだけうっとうしいものとしか思えない。
結果として、『それら』を外側から突き付ける存在――彼女とランサーを引き離そうとする全てのものが、穂乃果にはひたすら煩わしくなっていく。
ひどく煩わしいものに、凶暴な感情が生まれていく。

(ランサーさんが、こんな小汚いおじさんに私を任せるわけがないよ)

まず本部の発言は考えるまでもなく嘘と判断。
このような『小汚い中年』にランサーともあろうものが、穂乃果を任せるはずがない。

そしてその場には、『薄情な女』――宇治松千夜もいた。
ランサーのことなど忘れたかのように、土方十四郎とかいう男の死について悔やんでいるようだった。
自分が足手まといになってしまったことを悔やむ、少女の姿。
それはまるで、ランサーが心配だと意気込んで学校まで同行しながら、何もできずに引き離されてしまった自分を見せつけられるかのようで。
それなのに、同じようにランサーの身にも何が起こったのか分からないのに、この少女はランサーについては何も心配していないように見えて。

(私は違う。私のランサーさんに対する思いは本物だもん)

穂乃果は、そう結論づけてしまった。
そして、『ランサーさんが死んだ』という思い込みの下に、その捻じれは殺意へと成長していくことになる。


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


この駅にすべりこむ電車があるとしたら、間違いなく一両編成か二両編成だろう。
その駅は、それぐらいに小さかった。
とはいっても、山の中のド田舎の執着駅というよりは、そこに向かうための郊外の乗り換え駅といったおもむきだ。
駅のホームはかろうじて二つあるし、片方のホームには『立ち食い麺処 こんすけ』という看板のついた食事処も一応あった。
蒼井晶を除いた人間は、みんなそのホームの一つへと向かってしまった。
そちらの方角から、銃声が聞こえたからだ。

「ハァ、むさいおっさん達は幼女たちの安否が心配だしぃ、ホノホノは心ここにあらずでガン無視くれちゃったしぃ……と、ゆーわけでぇ、アキラは今のうちに脱ぎ脱ぎターイム」

まず様子を見に行ったのは、ラヴァレイと本部なる壮年男性の二人だった。
晶は足を捻挫していたのだから皆でぞろぞろと様子を見に行くわけにもいかなかったし、何より銃声の正体は、この場に新しく表れた危険人物のものかもしれない。
よって、中学生の晶と女子高生の高坂穂乃果なる少女、護衛としてカイザルの三人は、改札のあたりで待つようにと指示された。
しかし、高坂穂乃果はじっとしていられなかったらしい。
晶が捻挫した脚でゆっくりと階段を上って改札についた頃合いで、やっぱり心配だからと勝手にもホームへと走り去ってしまった。
穂乃果の独断専行に、カイザルだって困惑した。
そこで晶は、さも健気そうな演技をして、私は駅員室でじっとしているから穂乃果を追ってほしいと上手く言いくるめてカイザルを追い払った。

理由は単純。

298低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:07:32 ID:eQQbHSfc0
駅員の事務室なら、救急箱くらいはあるだろう。
誰かがそのことに気付いて『では改めて晶君の手当をしよう』とか言い出す前に、応急処置を完了させておきたかった。
同性の高坂穂乃果もいるとはいえ、捻挫の手当をするのはやはり慣れていそうな大人の仕事になる可能性が高い。

つまり、『3人の誰か』に靴下を脱がされて素足をベタベタと触られることになる。

カイザル→限りなくアウトに近いセーフだけど、やっぱりこんな時じゃなかったらアウト

ラヴァレイ→完全アウト

小汚いオッサン→論外

つまり、今この時間に自分で済ませるしかない。

「アキラ様のおみ足なんて、ウリスにしか触れねぇんだっつーの……良し」

幸いにも、移動中はずっと猫車で運ばれていたこともあるし、悪化する様子は無さそうだった。湿布を一枚貼っておけば足りるっぽいということで、処置はすぐ完了。

(最初の放送までに最低一人は殺しておきたかったんだけど、この人数だと厳しいかなぁ……)

きょろきょろと見回した室内は、事務室というよりは宿直室のようなおもむきだった。
寝泊りできそうな生活用品は色々と揃っているけれど、武器になりそうな道具は見当たらない。
流し台は存在したものの、戸を開けても包丁の類さえ見当たらなかった。
ブラウン管仕様の小型テレビでは、『吸血忍者カーミラ才蔵』とかいうくそダサい映画が流れている。
さっきもったいつけるような提供クレジットとCMが挟まれたから、おそらく『×曜ロードショー』のような形式だろう。

(だとしたら……ここでまとめて4人殺しっていうのは、いくらなんでもしんどいかも)

ここは自分よりもガタイの良いおっさんばかりが揃っているだけに、誰か一番御しやすい人間を上手く唆せれば良いのだけれど――

「一人きりにしてすまなかったね、アキラ君」

ぼんやりと今後のことを考えていると、鎧を着込んだ年長の方の騎士が帰ってきた。
後ろには暗い顔で、高坂穂乃果が付き従っている。

「さっきはごめんね。勝手に動いたりして……」
「いえいえ〜。いない間にアキラも手当バッチリできましたし、全然気にしてませんから〜」

内心ではかなりむかついていたけれど、まずは何が起こったのかの方に興味がある。

「それで、ラヴァさん達だけが戻ってきたってことはぁ……」
「ああ……ヴィヴィオという少女は、すでに殺されていた。胸のあたりに、穿たれたような致命傷があってね。
そして、チヤという少女はどこにも見当たらなかったよ」
「ええ〜っ。それじゃあ、チヤって女の子がヴィヴィオちゃんを殺して逃げたってことになっちゃいますよ〜?」

299低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:09:34 ID:eQQbHSfc0
驚きながらも、がっかりしたような安心したような拍子抜けを味わった。
少女を殺した殺人者が近くにいるのはぞっとしないけれど、どさくさにまぎれてアキラもウリスへの奉仕活動を実行するチャンスだったかもしれないのに。

「いや、まだそうと決まったわけではない。駅に進入した何者かに襲われた可能性もあるのだから。
いずれにせよ、遺体の安置も兼ねて本部殿とカイザル君が現場を検めているところだ。
二人が戻るまで、私が君たちの護衛と侵入者の見張りを努めよう」
「え〜っとぉ……じゃあ、電車に乗るのはしばらく後回しになっちゃうんですかぁ?
これから千夜っていう女の子探し? それとも、本部とかいうおじさんを連れて、皆で電車に乗ることになるのかなぁ?」
「いや、聞けばモトベ殿は殺し合いに乗った『キャスター』なる人物の討伐に向かうらしいし、詳しく話を聞かんことには判断ができないだろう。
それに、この場を離れたという『ランサー』なる戦士が、戻ってくる可能性もある。
東の方角で目撃された光を確認しにいったとのことだが、それが空振りに終わるやもしれないのでな」
「え? じゃあこの事件が解決しても、ランサーって人を待ってなきゃいけないんですかぁ?
その人も危ないことになってるかもしれないんですよぉ?」
「少なくとも、放送を聴けば無事かどうかは判断できるだろう。
もっともモトベ殿の話では、今のランサー君ならばそうそう死にはしないと自信がある様子だったがね」
「えっ……」

虚をつかれたような声を出したのは、晶ではなかった。

「どうしたんだね、ホノカ君」
「い、いいえっ。なんでもないです」

高坂穂乃果は呆けたような顔をして、しばらく口を半開きにしていた。


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


ガサリガサリと、草をかきわけるような音がした。
街路樹のこんもりしたツツジの影に見を潜めていた宇治松千夜は、びくりと身をこわばらせた。
まず怖かったのは、駅にいた誰かが追いかけてきたのではないかということ。
次に怖かったのは、もし殺し合いにのった人だったらどうしようということ。

――人を何人も殺しておいて、自分が死ぬのは怖いの?

ヴィヴィオの声でそう問われたような気がして、逃げるべきという考えはたちまちに砕けた。
ツツジの樹の下をにゅっとくぐるように、それは思いのほかすぐに姿を現した。

300低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:10:18 ID:eQQbHSfc0

「クリス、ちゃん……」

地面に小さな足をつけず、浮いている。
ヴィヴィオが連れていた、空を飛ぶうさぎのぬいぐるみだった。
どういうわけか、その手には自身が収納されていた黒いカードを持っている。
その小さな黒い目と縫い付けられたバツ印のような口に、表情が宿ることはない。
その顔は怒っても、眉をつりあげたり鬼のような顔をしたりしない。
しかしその無表情こそ、千夜にとってはヴィヴィオの受けた苦しみを代弁する存在でしかなかった。

「い、いやっ。近づかないでっ……だめなの。今の私に近づくのも、近づかれるのもダメなのっ!」

座り込んだまま、それを正視できずにかぶりを振る。
クリスの方も、顔には出ないけれど確かに怒りの感情はあったらしい。
拒絶の言葉もおかまいなしに、千夜にその小さな体をぶつけて、ぽかぽかと殴りつけるような動きをした。
その小さく柔らかな拳を、まるで鋭い豪雨に打たれるように感じながらも、
ウサギが怖いなんて、まるでシャロちゃんみたいだと余計なことが頭をよぎった。
そうしたら、思い出してしまった。

――ウサギ。

――ラビットハウス
――甘兎庵
――ティッピー、あんこ、野良ウサギたち

ウサギは、彼女たちの日常に欠かせない存在だった。
まるで大仏のある町の鹿みたいに、町のどこに行ってもウサギたちが風景に溶け込んでいる町だった。
友達の喫茶店や千夜の甘味処でも、店員の一人であり家族の一員として、マスコットウサギがいた。

その『日常』を、裏切ってしまったのだと理解した。

「ごめ、なさい……」

ヴィヴィオを無言で責めていたクリスは、その言葉に動きを止めた。
彼(?)からすれば、大切な主にとどめを刺した(ようにしか見えなかった)人間が逃げたから、とっさに後を追った。その程度の理解でしかなかった。

301低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:11:39 ID:eQQbHSfc0

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

目をとじて、カードも地面にすべて取り落として、血を吐くような謝罪の言葉を繰り返している。
デバイスに『頭に血がのぼる』という状態があるのかはわからないが、ともかくクリスは似たような状態からだんだんと冷めていった。
これが人間だったならば、胸ぐらをつかんで殴りつけようとした人間が、殴る前に勝手にぶっ倒れてしまったような心境なのだろうか。

ヴィヴィオを撃った時は、とっさに防御(セイクリッド・ディフェンダー)を発動させられなかった己を責めた。
千夜が走り出した時は、まだヴィヴィオの遺体にしがみつき揺さぶっていた。
しかし、千夜もヴィヴィオの敵なのかと判断していた。だから逃げ出したことに気づくや、その飛行能力で高所からの視界を利用して追いかけた。
しかし、冷静になってみれば、ここまで謝意に沈んでいる少女に本当に殺意があったのかどうか疑わしく見えてくるし、そもそも原因を作ったのは間違いなくヴィヴィオに毒を盛った存在――おそらくは高坂穂乃果なのだろう。
その彼女とヴィヴィオの遺体は、いまだ駅にいる。

むしろ、とクリスの自律思考は判断を切り替える。
彼女こそ、ヴィヴィオが毒を盛られて苦しんでいるところを見ていたただ一人の目撃者であって――ここまで罪の意識を持っているなら、言葉を話せないクリスの代わりに、何が起こったのかを皆に話して、主の無念を晴らしてくれるのでは?

――ピッ

千夜にいつものジェスチャーで『ペコリ』と頭をさげる。
そして彼女の肩をつかみ、駅に向かって歩いてほしいとグイグイ引っ張った。
どうにかしてこの謝意を、そしてヴィヴィオを殺した犯人の正体を、駅にいる人間に伝えてもらわなければならない。

千夜はその変化に、追いつけないでいる。
この先ずっと責められていくのだとばかり思っていたら、その励ましているようにも見えるジェスチャーに、ただ戸惑った。

「私を……どうするつもりなの……?」

ヴィヴィオの遺品は、彼女に『立て』と言わんばかりの動きをする。
千夜が、『逃げるか戻るか』の選択肢を迫られていることを理解するには、もう少し時間がかかりそうだった。

【B-2とC-2の境界付近/早朝】

【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、情緒不安定
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚、
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい……でも
1:駅に戻る? クリスから逃げる?

[備考]
※現在は黒子の呪いは解けています。
※セイクリッド・ハートは所有者であるヴィヴィオが死んだことで、ヴィヴィオの近くから離れられないという制限が解除されました。千夜が現在の所有者だと主催に認識されているかどうかは、次以降の書き手に任せます。

302低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:12:36 ID:eQQbHSfc0

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


――もしセイクリッド・ハートが千夜が逃げ出したことに気づいて、追いかけようとしなかったら。

彼(?)にとっては結果的な判断ミスだったのだが。
事件の解明はずいぶんと簡単に済んだだろう。

クリスには言葉をしゃべる機能こそなかったけれど、豊富なジェスチャー表現を駆使できるだけのAIはある。
何より少しだけ待っていれば、その場には本部以蔵とラヴァレイと、高坂穂乃果もやってきた。
もしクリスがそれを見ていれば、必ずや怒りを顕にして穂乃果にぶつかるなり攻撃する仕草をしていたことは想像に難くない。
そうなれば、死んだ少女の遺品から攻撃されいてる彼女を、誰もが不審な目で見たことだろう。
クリスがその場を不在にしたことは、結果として事件の全容を不明瞭にさせた。



「痛ましいものです……幼い少女が、こんな苦しそうな顔で事切れているとは」
「そうだな……」

高町ヴィヴィオの遺体は、もう一つのホームに建てられた屋根つきの場所――蕎麦処の中にひとまず安置された。
もしあのままホームに残されていれば、電車でこの駅に降り立ったすべての人間の前に遺体を晒してしまうことになる。あまりにもよろしくない。
念のために蕎麦屋の入り口にはつっかい棒を立て、不用意に開けて遺体と対面する者が出ないようにした。

「しかしあの傷口――ファバロの持っていた小型のクロスボウにも似ていたが、それ以上に鋭く、小さい。よほど鋭利なもので射撃されたのでしょうか」
「あの傷口はおそらく、9×12mmパラべラム弾によるものだろう。
実は遺体を改めた時に、空薬莢も見つけておいた」
「ミリパラ……?」
「世界で最も広く使用されている弾薬だ。利点は比較的反動が弱いことと、小さいがゆえに多弾倉化が容易となること。
今や、小型機関銃(サブマシンガン)や『女性でも撃てる』ことを売り文句にした小型拳銃の弾丸にはたいがいこの9ミリが採用されてる。
ベレッタ、スプリングフィールドXD、グロック17、ジグ・ザウエル、ブローニング・ハイパワー、イングラム……もちろんあの傷口に限っちゃ、マシンガンで撃たれたってことは無さそうだがね。
ちなみにパラべラムってのはラテン語の『Si Vis Pacem, Para Bellum』(平和を望むならば戦いに備えよ)って諺からだ。
もっとも、グラップラーの世界じゃ『強く鍛えておけば喧嘩をふっかけられることも無くなる』なんて、誰も信じちゃいないがね」
「は、はあ……では、殺害者は、その拳銃を持っているはず、ということですか?
その一撃が致命傷となったのですから」

303低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:14:07 ID:eQQbHSfc0

怒涛のような解説に気おされながらも、カイザルは結論を促そうとした。
しかし、本部は首を横に振った。

「いや、たしかに致命傷は拳銃だが、あの嬢ちゃんを殺した凶器は別にある。
ありゃあ鎬紅葉じゃなくたって分かる。確かに遺体から匂ったんだよ、アーモンド臭がな」
「アーモンド……?」

カイザルが住んでいる世界では、テレビドラマも推理小説も存在しない。
暗殺の手段として毒物が使われることはあっても、一個人が『アーモンド臭が特徴の青酸カリ』の名前と効能を『よく殺人に使われる毒物』として把握しているわけではない。

「青酸カリってのは俗称で、正式な薬品名はシアン化カリウムという。
分かりやすい特徴として、収穫前のアーモンドのような甘酸っぱいにおいがすることから『アーモンド臭』として知られている。
巷じゃあ毒物の代名詞のように扱われているが、本来は治金や鍍金、昆虫標本なんかにも使われる有用な化学薬品だ。
ただし口から摂取した場合、胃酸と反応して青酸ガスを発生させる。これが肺から血液に入り全身を巡るとヘモグロビンなどに含まれる鉄原子と反応して、酸素の運搬やエネルギー(ATP)の産生などの機能を破壊する。
少量……耳かき一杯分より少し多いぐらいの量でも大人一人を死に追いやる、強力な代物だ。ガキならもっと少ない。
今回使われたのは間違いなくこいつだろう……第一、胸を射殺されて即死したなら、あんな苦悶の表情を浮かべる時間も無ぇだろうよ。
ヴィヴィオって嬢ちゃんはまず最初に毒の入ったおにぎりを食わされた。そのあとに射殺されたんだ」

その解説を聞くにつれて、カイザルの顔色が青ざめていく。

「食べ物に毒……ではまさか、彼女たちの中で差し入れを持ってきた者が……」
「いや、それも考えにくい。おにぎりを差し入れたのは穂乃花の嬢ちゃんだったが……嬢ちゃんが毒を盛ったんだとしたら、あまりにもリスクがでかすぎる」

本部は少し前のことを思い出しながら、カイザルにその根拠を語った。
彼女は本部に向かって『差し入れがある』と言いかけていた。
本部たちを三人とも――もしくは三人の誰かを殺害しようと毒を盛ったのだとしたら、
『千夜とヴィヴィオに毒入りのサンドイッチを渡した後で本部を呼びに来る』などという愚かな行為をするはずがない。
三人を仕留めるなら、まず最大戦力である本部へと真っ先にサンドイッチを渡すべきだった。
本部にはスクーターという移動手段がある。これから出発するタイミングでいきなり片手がふさがるサンドイッチ(食料カード一食分の大きさがある)を手渡されても、移動しながら気軽に食べることはできない。
あの場で飲み物も無しにサンドイッチを立ち食いするよりも、どこかで座って皆でいっしょに食べてから出発しようとなっていた可能性は低くなかった。
わざわざ穂乃果に食料のカードを使わせてしまったともなれば、本部もその代わりに何か食べ物を三人に与えていくぐらいのことはしただろう。
そしてもし本部がホームまで向かえば、その時点でヴィヴィオと千夜が毒殺死体となって転がっていたことになる。
誰が毒殺したのかは、あまりにも明白だ。穂乃果が乱心したというなら、他にいくらでもやり方はあっただろう。
サンドイッチを用意したのは穂乃果かもしれないが、だからといって彼女が毒も盛ったと疑ってかかるには状況がおかしい。
それが本部の見解である。

304低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:15:35 ID:eQQbHSfc0

「なるほど……しかしそれでは、チヤという少女はホノカ嬢の差し入れに毒を盛った後で、さらに念を入れて射ち殺すような真似をしたことになります。
いったいどうしてそこまで……」
「こいつは仮説だが……何も強力な毒物だからといって即死するわけじゃねぇ。
ヴィヴィオの嬢ちゃんには格闘技の心得があったようだし、毒で苦しみながらも、暴れるなり体術を使うなりして足掻こうとしたんじゃあねぇか。
そして、相手の方も思わぬ抵抗にびびって銃を持ち出してしまった……」

そんな解説なり考察なりを語って時間を費やしたりしながら、二人はラヴァレイたちの待っている事務室へと足を戻すことにした。

「もっとも、これから嬢ちゃんから黒いカードのチェックと身体検査はさせてもらうがね。、もし青酸カリを持っていたんならコトだ」
「身体検査を……?」
「……おい、いぶかるような眼で見なさんな。もちろんもう一人のお嬢ちゃんにやってもらう」


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


本部以蔵の失敗は、あまりにも矛盾が生じないよう徹底的に理詰めで考え過ぎたことだった。
神の視点から見れば、それは単なる穂乃果のうっかりミスに過ぎない。
日頃から推理ドラマなどあまり見ない穂乃果は、青酸カリがそこまで即効性の毒であるというイメージが無かった。
しかも、高坂穂乃果は自他ともに認めるおっちょこちょいな少女である。
いくら冷静に毒殺計画を立てたとしても、おっちょこちょいな人間がおっちょこちょいで無くなるなんてことは有り得ない。
さらに言えば、穂乃果は基本的にあれこれ計画を立てて行動することに弱い。
現在のμ'sメンバーを勧誘していった時だって、基本的に押せ押せで、かつその場に応じての対応だったように、『相手がこう出てきたら自分はこうしよう』とあらかじめ想定して動くのは大の苦手だった。
だから、本部に二人の毒殺死体が露見する可能性をうっかり失念していた。
それだけのことだった。

(どうしたんだろう……私)

だから、色々な偶然が重なったおかげで計画が破綻しなかったことを、穂乃果は未だに自覚していない。
証拠品となる3個目のサンドイッチはホームに向かう途中で落としてしまったことにしたし、問題はない。
皆がホームへと向かった時にはひやりとしたけれど、ヴィヴィオの死体は銃殺されたようにしか見えなかった。
だからほっとすると同時に、やっぱり自分の行動は間違っていなかったんだと自信をつけた。
毒で殺すまでもなく、最初から千夜は危険人物だったのだと、証明されたのだから。
やっぱり、殺さなきゃいけない人だったんだ。そう思おうとした。

それなのに、ヴィヴィオの死体を見てから、ずっと身体が震えている。
寒気のような、痙攣のような何かが、体に染みついて離れようとしない。

(やだ……これじゃ私、今さら殺したことが怖くなったみたいだよ……そんなはず、ないのに)

ゴロリと転がった少女の遺体は、仰向けになっていた。
虚空を見る目は、ぎょろりと穂乃果を向いていた。
ライブの時の観客のキラキラした素敵な目とはぜんぜん真逆の、これ以上ないほどに絶望しきった目だった。

305低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:16:34 ID:eQQbHSfc0

(もう殺した人に怯えるなんて……まだ一人しか殺せてないのに、そんなはずない)

当たり前のことだ。
頭でいくら殺してやると凶暴に念じても、実際に殺人を実行して結果を背負うとなると全く違ってくる。
もし、つい昨日まで人を傷つけたり殺したりするようなことなど考えもしなかったような女子高生が、
愛の黒子を受けた結果とはいえ自分で毒殺した『はじめての死体』を見ても平然としていたりすれば、それは『暴走』を通り越して『人格改造』でしかない。

(そう……これは、怖気付いたわけじゃなくて。
きっと、さっきラヴァレイっておじさんに変なこと言われたからだよ)

しかも、本部の殺害に失敗しただけでなく、新たな来客が三人も訪れたことが穂乃果を不安にさせていた。
このタイミングでまた青酸カリの差し入れをして皆を殺せるかどうかは怪しい。
それだけでなく、三人の中のラヴァレイという男は、もしかしたら何かに気づいているのではないかという感じもする。
事務室に穂乃果と戻る最中に、意味深なことを話しかけられた。

『ヴィヴィオ君は、君の大切な友人だったのかね?』

そんな風に尋ねられた。
なぜ出会ったばかりの、それもかなり年下の少女を『大切な友人』呼ばわりするのか。
その意図がわからず、穂乃果は曖昧に否定すると理由を尋ねた。

『君の様子が、とても悲しんでいるように見えたものだからね。
かつてニコール――大切な方を失った時の私を見ているようだと思ったのだよ』

ぎくりとした。見抜かれたと思ったから。
そう、今の穂乃果は一生でいちばん深く悲しんでいる。
ランサーを、穂乃果が足でまといになったせいで本部に殺されてしまったのだから。
ランサーが心配だと言ってついて行きながら、ランサーとのデート気分で浮かれきっていただけで、何の役にも立てなかった。
真っ先に気絶して、足でまとい以外の何ものでもなく、目覚めたらすべてが終わっていた。

(それに……)

ついさっき、晶とかいう少女に今後の方針を問われた時の言葉。
それを聞いて、胸がざわざわとした。

『少なくとも、放送を聴けば無事かどうかは判断できるだろう。
もっともモトベ殿の話では、今のランサー君ならばそうそう死にはしないと自信がある様子だったがね』

306低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:18:11 ID:eQQbHSfc0

そう、放送を聞けば、ランサーの生死は確定される。
いくら本部がランサーは生きて別行動をしていると言っても、放送で名前が呼ばれたら騙せない。
『おそらく追っていったセイバーに殺されたのだ』とかなんとかごまかすつもりかもしれない。
けれど、本当にそれだけで、全員をごまかし切れると思っているのだろうか……。

(ダメ。考えちゃだめだ……優勝すれば、ランサーさんは生き返る。生き返らせるんだから)

ぶるぶると内心で首を振って、穂乃果は気分の切り替えにつとめようとした。
たしかに、人を殺したことで罪の重さはあったかもしれない。
でもそれは『ランサーを死なせてしまった』という過ちを償うためでもある。
考えなきゃいけないのは、今、怪しまれないことだ。
ラヴァレイの目から見ても、穂乃果は悲しんでいるように見えたらしい。
これは問題だ。穂乃果はまだ放送で『知り合いの誰も呼ばれていない』ことになっている。
それなのに悲しんでいたりしたら怪しいと思われ――



(…………………………知り合い?)



放送で呼ばれるかもしれない知り合いの名前。
それが頭をよぎった時に、思考の渦に『何か』が出現した。
今までモヤがかかっていた部分が、急にくっきりとしてきたように。

知り合いとは誰だ。考えるまでもない。
思い出したのは、ランサーと初めて出会った時の約束だ。
『良かったらライブ見に来てください』と。
なんのライブ?
決まっている。
高坂穂乃果にとっていちばんの自慢であり、好きな人ができたら胸を張って見せられる9人の勇姿。

(そうだ、なんで思いつかなかったの……?)

307低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:18:41 ID:eQQbHSfc0

大好きなライブ。
『僕らのLIVE、君とのLIFE』。

(そうだよ……ランサーさんが生き返るなら、μ'sの皆だって生き返らせれば良かったのに……)

殺し合いに乗ろうと決めた時は、『ランサーの命』と『μ'sの皆』をぼんやりとしか天秤にかけなかった。
でも、そもそも天秤にかける必要などなかったとしたら。
優勝すれば、好きな人は生き返る。その考えを信じているし、この手も汚している。
ならば、この先にμ'sの誰かが死んでしまったとしても、ランサーと同様に蘇生を願うことに躊躇いはない。
ランサーのためにμ'sの絆を捨てることはない。どちらも助ければいい。

(ランサーさんのために、皆を見捨てる必要なんて無かったんだよ……)

そんなに何人も生き返るのか、なんて疑問を挟む余地はない。
最善の結果があるなら、絶対にそれを目指す。
高坂穂乃果は、そういう性格だった。

(そうだ……私は絶対に、絵里ちゃん、にこちゃん、希ちゃん、それにことりちゃんを殺すなんて、できっこなかったんだ……)

ランサーへの好意が消えてしまったわけではない。
いや、今この瞬間にも消えつつあるのかもしれないが、その好意はもはや『本来の高坂穂乃果』を圧迫するところにいない。
何者にも塗りつぶされない思考。それを発見したことによる開放感が、穂乃果の胸をいっぱいに満たそうとしていた。



――ザザッ



その濁ったような音は、テレビのたてる砂嵐だった。



「此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します」

308低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:19:53 ID:eQQbHSfc0


あまりにも聞き覚えのある声――この島でいちばん最初に目撃した『恐怖』が、テレビ画面の向こうに姿を現した。

「……………え!?」

腐乱死体を引き連れ、高坂穂乃果を殺害しようとした男。
ランサーはキャスターと呼んでいた、あのランサーでも逃亡を選択する絶対的な危険人物。

「皆様、各々方の知己朋友の消息を案じ気が気でないことでしょう。
 一体どこにいるのか、今も健在なのか、確かめたくて仕方がないことでしょう」

その放送に動揺したのは、高坂穂乃果だけではなかった。

(ジル・ド・ㇾェだと……!?)

偶然による同性同名にしては、よくある名前ではない。
それはまさに、複数の名前を使い分けてきたラヴァレイ――その正体の、真の名前である。
その名前を騙る、魔術師らしき男。
滅多にないことだが、彼の意識にはその男にばかり目が向くという隙ができた。

「さぁみんな、入っておいで」

ブラウン管のなかで口上を述べていたキャスターは、画面の外に待機していたらしき『何者か』を招く仕草をする。
そして、それぞれに痛々しく血止めの布を巻いた少女が三人、その映像へと映し出された。

「アキラ君。この映像は、遠見の水晶玉のようなものかね?」
「えっと、これはテレビって言って……あ〜、どう説明したらいいんだろ」

それまで『原理のよく分からない娯楽製品』ぐらいにしか思っていなかった『テレビ』とはどういう仕組みなのか、ラヴァレイは晶へと問い詰めていた。
だから、穂乃果の小さなつぶやきを、その時ばかりは聞き逃した。


「ことりちゃん……」


せっかく思い出せたのに、なぜその彼女が『そこ』にいるのか。

その放送は穂乃果にとって、『最悪』が形になったようなものだった。
それは、ずっと一緒にいたいと思っていた親友の姿で。
その親友は、首元に怪我でもしているみたいにきつく布を巻いていて。
その親友は、キャスターの危険性などなにも知らないかのように、淡々とキャスターの招きに従っていて。

高坂穂乃果は、たしかにキャスターの操るゾンビを目撃していた。
しかし、そのゾンビは墓から蘇ってきた亡者――誰が見ても腐乱死体だと分かる容貌だった。
だから、穂乃果の中では『キャスターの操るゾンビ』と『南ことり』は繋がならない。

「不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。
 ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう」

『怪我をした南ことりは、極悪人であるキャスターに騙されて連れてこられている』という光景にしか受け取れない。

309低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:20:53 ID:eQQbHSfc0



「…………助けなきゃ」



少しだけタイミングが遅ければ、躊躇したかもしれない。
座り込んでいたままだったかもしれない。
あるいは、千夜やヴィヴィオを平気で殺そうとしたように、『なにも感じない』ように錯覚していたかもしれない。
しかし、今の穂乃果に『一番の親友を見捨てる』という選択肢はない。
死んでも生き返らせればいいとか、今から行ってどうなるという理屈なんて欠片も浮かばなかった。
本部以蔵の敵なのだからつぶし合わせればいいとか、そんな計算すらできなかった。

即断、即決。
すぐに立ち上がる。
すぐに走り出す。

「どうした、ホノカ君!」

その挙動が開始されてから、やっとラヴァレイは背後を振り向き、呼び止めた。
しかし、高坂穂乃果には聞こえていない。
追いかけようにも、テレビについて聞き出すために晶に詰め寄った格好になってしまい、かえって晶が進行方向を邪魔する位置にきてしまった。

そしてラヴァレイにも予想外のことだったが、高坂穂乃果はアイドルのために急な石階段走り込みという過酷なトレーニングを日夜こなしている。
もちろん、それは人間の域を出るものではないし、仮に駅にいる人間で徒競走でもすれば晶を除いて穂乃果が最下位となるだろう。
しかし、ラヴァレイが『ただの少女なら、このぐらいの動きだろう』とたかをくくっているよりは、はるかに早い。
こうして伸ばした手は、あまりにも遠い位置で空振りをした。

「おい!いったい全体何があった!?」
「ラヴァレイ殿!? 今走っていった人影は――」

事務室を出ると、本部とカイザルがホームから駆け戻ってくるところだった。

「理由は分からないが、ホノカ君が急に動転して逃げ出してしまった。
私の責任だ。すぐに追って連れ戻――」
「それより、入口のところにスクーターあったじゃん!
あれに乗った方がすぐ追いつけるってば」

事務室から飛び出してきた晶が、駅階段の下を指差す。
たしかにそこには、本部以蔵が鍵付きで止めていた原動機付自転車があった。

310低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:21:19 ID:eQQbHSfc0

「あれは――たしか馬よりも早い乗り物だったか?」
「そう! アキラなら無免許だけど運転大丈夫だから!
ここはアキラに行かせてください! バイクなら捻挫は関係ないし」

ここぞとばかりに志願し、真っ先に階段を降りる。
何も、殺人の成果をあげられそうになくて焦っていたのは穂乃果だけではなかった。
ここで、見るからに『何か』を知っている穂乃果を取り逃がせば、皆殺し狙いとして致命的に出遅れてしまう。
そんな焦りが、晶を奮い立たせていた。
それに、ここで穂乃果が逃げ出してしまえば、むさいオッサン三人組の中に取り残されることになる。
それは、すごく、嫌だ。
元から蒼井晶には、ボールペンで人を刺して病院送りにするぐらいの火事場の馬鹿力はある。
スクーターぐらい、運転をやってみてできないことはないと思う。

「アキラ嬢! ならばせめて私も一緒に。私は貴女を守ると約束しましたので」
「カイザル君、ここは私が――」
「いえ、自分の方が駅で起こったことについては詳しいですから、ホノカ嬢の話を聞けることがあるかもしれません。
それに、ラヴァレイ殿もモトベ殿の話から状況を把握していただかねばなりませんし」
「……じゃあ、リドさんとアキランデブーで」

正直言えばアキラ一人の方が都合が良かったけれど、ここは『盾』を連れて行った方がいいかもしれない。なので、折れた。

その時、本部が忘れられては困ると言わんばかりに声をあげた。

「おい、やる気を削ぐようで悪いが、そのバイクは俺のもんだ。
それに約束っつうなら、俺だって嬢ちゃんたちのことをディルムッつあんからよろしく守護るようにと――」

アキラは、ただでさえイライラしていた。
そんな時に、この発言だ。

「――何、言ってんだよ」

こいつにだけは言われたくないと思った。
だから、言った。

311低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:22:21 ID:eQQbHSfc0






「アンタに守護らせた結果がこれだから!!」






正論を言ったと思う。
アキラはウリス以外皆殺しにするつもりなので『お前が言うな』だが、それでもアキラの方がたぶん一理ある。


◆   ◆ 


「モトベ殿。ずいぶんときついことを言われましたな」

晶とカイザルが二人乗りで遠ざかっていくのを見届けて、ラヴァレイはもう一人の留守番に声をかけた。
アキラに同行できなかったことは残念だが、ラヴァレイにとってはそれでも好都合だった。
ラヴァレイに背中を向けたままの柔道着に向かって、追求する言葉をかける。

「しかしアキラ君の問いかけは、今の貴殿が直面しなければならないことだ。
もし仮にここにランサー君が戻ってきたとしたら、申し開きのしようもないのだから。
貴方は、『この駅にいたすべての参加者を護れず、殺され、逃げられた』という事実を、どう受け止めていくのか」

好都合のひとつは、この『本部以蔵』なる人物が有用なのかそうでないのかを、見極めることにあった。
なるべく多くの心を壊したいという欲求はあるけれど、その嗜好にかまけて殺し合いでの立ち回りを疎かにするつもりはない。
『キャスターを討伐する』と言っていた本部以蔵。
それをなし得るほどに有用な戦力であるならば利用するだけの価値はあるかもしれないが、
それを任せられない、それこそ『一般人の少女たちに翻弄され、すぐ近くでの殺人を許してしまう』ほどの道化だったのならば、生かしておく必要性は薄い。
幸いにも、カイザルたちがこの場を離れてくれた。
殺したあとで、『モトベ殿とは情報交換を済ませたあと、キャスターの討伐に先行して出発した』とでも言えば、気がつかれることはない。

「いずれお聞かせいただきたい……もちろん、ホノカ君から目を放してしまった私にも言えることだが」

そしてもうひとつは、まさにそのキャスターに関する情報を引き出すことだった。
『キャスターのサーヴァント』を名乗ったジル・ド・ㇾェ。
本部が討伐を頼まれているという、『南方の墓地にいるやもしれぬキャスター』。
放送局と墓地の位置と移動時間を考えても、二つの『キャスター』は同一存在なのだろう。

まずは『キャスター』に関する情報を引き出し、その後で始末するかどうかを決定する。

「いや、結論をせかすつもりもない。まずは先ほど起こったことについて説明いたしましょう。
それにモトベ殿にも話していただきたいことがある。
貴方のいう『キャスター』なる人物かもしれぬ者が、先ほど映像に映ったのですからな……」

【B-2/駅構内/早朝】

312低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:22:59 ID:eQQbHSfc0

【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信???
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:――
2:南下してキャスターを討伐する
3:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
4:騎士王、キャスターを警戒
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実 、猫車(蒼井晶乗車中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:『キャスター』に関する情報を引き出し、モトベを今のうちに始末するかどうか決定する
2:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
3:カイザルは当分利用。だが執着はない。
4:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。


【B-2/駅付近/早朝】
【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、原付に同乗中
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
1:アキラ嬢を守りつつ、ホノカ嬢を連れ戻す
2:俺と、ファバロが……。
3:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
4:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
5:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。

313低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:24:09 ID:eQQbHSfc0
【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、左足首捻挫(湿布済み)、スクーター運転中
[服装]:中学校の制服
[装備]:原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:高坂穂乃果を捕まえる。いざとなったらカイザルを盾に。
2:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
3:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
4:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
5:カイザルたちに男(本部)を始末してもらいたい
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。




愛の黒子による効果は、ランサーがそばにいないことで一分一秒刻みに失われていく。
今はまだ、『親友を助ける』という意識と並列して存在しているけれど、それもゆくゆくは。


「ことりちゃん、ことりちゃん、ことりちゃん、ことり、ちゃんっ…………」


彼女は、まだ気がついていない。
そもそも最初に殺意を抱いて、高町ヴィヴィオを殺してしまったその理由が、手の中の砂のようにこぼれ落ちつつあることを。

そしてもうすぐ、最初の放送が流れることを。
そして、その放送で、『南ことりと矢澤にこが呼ばれ』て、『ランサーが呼ばれない』可能性を。


【B-2とC-2の境界付近/早朝】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:動揺
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10)
     黒カード:青酸カリ@現実
[思考・行動]
基本方針:優勝してランサーとμ'sの皆を生き返らせる
1:今はただ、ことりの元へ
2:本部を殺害する
3:参加者全員を皆殺しにする(μ'sの皆はこの手で殺したくない)
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーが本部に殺されたという考えに疑念を抱き始めました
※ランサーが離れたことで黒子による好意は時間経過とともに薄れつつあります。また、それに加えて上記の疑念によって殺意が乱れ、『ランサーだけでなくμ'sの皆も生き返らせよう』という発想を得ました。

314低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/13(日) 23:24:45 ID:eQQbHSfc0
投下終了です
ヘルメットが状態表から消えていたので、穂乃果が持っていることにしましたがよろしかったでしょうか

ほかにも指摘等ありましたらお願いします

315名無しさん:2015/09/13(日) 23:47:44 ID:s7RPp1Qg0
投下お疲れさまです
穂乃果の心理描写と移り変わりがよく表現されていて、クリスとヘルメットなども含め上手くフォローされていました
一気に爆発しましたねえ
本投下に問題はないと思います

それと今回の投下作品に限った事ではないですし、修正要求ではないのですが、一応指摘
ことりとマコの魂はカードに封じられていないから、当ロワイアルのシステム次第では二人の名は放送で呼ばれない可能性があるんですね
撮影にミスがあれば小蒔の腕輪でゾンビとばれる可能性はありますが、とすると小蒔のカードは放置中かな?
意見は以上です

316低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/14(月) 01:02:08 ID:5uypBbP60
>>315
ご意見ありがとうございます

ことりの名前がよばれない可能性については失念しておりました
ただ、現状放送で魂喰いによってカード化を逃れた参加者が呼ばれるかどうか分からないこともありますので
最後の一行については修正なしでいこうかと思っています

神代さんの腕輪については、今回のSSだと小型旧式のブラウン管テレビということで、
腕輪がアップにでもならない限り腕輪にカードがあるかどうかまでは判別できないだろう、くらいのつもりです
他のテレビや端末だと神代さんの腕輪がどう見えるか(気づかれるか)については、その書き手さんの判断しだいということでひとつ

317低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/14(月) 02:23:48 ID:5uypBbP60
すみません>>303に痛恨のミス…

>ヴィヴィオって嬢ちゃんはまず最初に毒の入ったおにぎりを食わされた。

申し訳ありませんがおにぎりをサンドイッチに訂正させてください。

318名無しさん:2015/09/14(月) 07:14:19 ID:5litZW.Y0
>>316
解りました
本投下楽しみにしてます

319名無しさん:2015/09/14(月) 16:18:49 ID:ZoILGqKUO
投下乙です。
アキラッキーも中々やりますね。

320名無しさん:2015/09/14(月) 22:58:09 ID:gijmv1V20
仮投下乙です
内容は問題ないと思いますが、2つほど細い指摘を
1つ目は「ジル・ド・レェ」が所々「ジル・ド・��ェ」になっている点
2つ目はラヴァレイの状態表の猫車がアキラ乗車中のままになっている点です

321低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM:2015/09/15(火) 07:29:57 ID:3E/mXmTc0
>>320
ご指摘ありがとうございます。
どうやら「レ」が環境依存文字になっていたようで申し訳ありません
指摘いただいた箇所を修正して、今夜にでも本投下したいと思います

322 ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:14:47 ID:SlnygLWY0
支給品に関することがあるため、一旦仮投下します。

323こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:15:41 ID:SlnygLWY0
男に対し、悪寒を感じたのは事実だ。
考え過ぎ。そう一蹴した筈であった。
……そうであって、欲しかった。

 * * *

休憩を終えて、駅へ向かう道中のことだった。
龍之介と心愛、そしてリタは、互いに持っている情報を交換していた。
分かったのは、全員揃って他に出会った人物はいないということだけ。

龍之介はその本性については当然触れなかったし、リタもあまりペラペラと語る口ではない。
この場の主導権を握っていたのは、能天気でお喋りな心愛も同然であった。

「…………結局、見つからなかった最後のピースはティッピーのすぐ近くにあったんだよね〜。あの時はビックリしたよ」

彼女の口からは住んでいる街、知り合った人々、起こった出来事などなど……。
次から次へと言葉がマシンガンのように撃ち出され、2人は時々相槌を打つことくらいしか出来ない。
リタは興味無さそうに、それでも一応の情報源として聞いておく。
どちらかと言うと彼女が気になったのはそちらではなく、龍之介の態度だ。

龍之介は、熱心に心愛の話を聞いていた。
相槌を打っているだけではあるが、その顔は妙に活き活きしている。
まるで彼女の言う友人たちにも興味がある、といった顔。
何故だ? 何故赤の他人である筈の龍之介が、そこまで。

324こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:16:41 ID:SlnygLWY0
「…………それでね、チノちゃんったら私の居ない間にマヤちゃんメグちゃんと内緒でプールに行ってたんだよ〜。あ、リゼちゃんも一緒にね」
「お喋りはいいけれどあなたたち、自衛の手段くらいあるんでしょうね」

リタは口を挟んだ。
龍之介に一抹の不安を感じたのは事実だし、心愛の長話にうんざりしたというのもある。
どちらの意味合いが強いかは……考えなかった。

2人は顔を見合わせる。
言われてみれば、碌に支給品を確認していない。精々狸が一匹出てきた程度だ。
それも今は「モフりたいけど歩く時はさっきみたいにコケちゃうし」とカードにしまっている以上、龍之介と違って心愛は丸腰。

「でも私、これしかないよ?」

心愛が取り出したのは、ライターと携帯ラジオ。

「火なんてヘタに使うと危ないし、ラジオはここじゃ……」
『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』

ノイズ混じりに、突然ラジオが音を発した。
誰もが動揺する中、1人だけ違った反応を見せた人物がいた。

「あれ、旦那?」
「え?」

龍之介は、旦那=キャスター=ジル・ド・レェということを知らなかった。
キャスター自身が彼に『青髭』と名乗った程度で、その上互いに聖杯戦争に一切興味を示さなかったからだ。

『皆様、各々方の知己朋友の消息を――』

突然プツンと声が途絶え、ラジオはうんともすんとも言わなくなってしまう。

「あれ、壊れちゃった?」
「ちょっと見せて心愛ちゃん。……あー、これ手回しで充電するタイプだ。全く回してないから充電切れたんだよ」

ラジオの側面に付いていたハンドルをしばらく回す。
ある程度充電を終えた頃には、既にキャスターの放送は聞こえなくなっていた。

「終わっちゃったね。何を言ってたんだろ」
「んー……まあいいんじゃない? とりあえず駅までもうすぐだし、早いとこ行っちゃおうか」

そうだねーと返し、2人はその場を後にする。
後ろではやや彼らから少し距離を取りつつ、リタが龍之介を睨み無言で付いて来ていた。

 * * *

325こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:17:23 ID:SlnygLWY0
「どうするの、これ」

駅に着いた一行は、無防備にもベンチで寝ている少女の処遇に困っていた。
死んでいるようではなさそうだが、青いカードも赤いカードも持っていない。
誰かに襲われ意識を失った後カードを奪われ、犯人は電車で逃走。

駅周辺に見える戦闘の痕跡から、そう考えるのが自然なのだろうが。
何分この少女、なかなか目覚める気配がないのだ。
無闇に起こすのも悪いと考え、そっとしておくことにする。

「それで、2人はこれからラビットハウスとやらに向かうのよね」
「そうだよ。んじゃ俺ちょいとトイレ行って来るから、電車来たら待ってて」
「……」

ホームを去る龍之介を尻目に、リタは考える。
果たして彼は安全と判断しても良い人間なのか。
先程の出来事から、そうではないとはっきり理解出来た。
彼はキャスター……『ジル・ド・レェ』のことを確かにこう言った。

“旦那”と。

これだけで、危険だと決め付けても何ら問題はないだろう。
200年も生きている(?)と、流石に名前くらいは聞いたことがある。
リタは“ジル・ド・レェ”に関して、悪趣味な魔術を使うことが出来る、程度には把握している。
そのジル・ド・レェと龍之介が、知り合いの関係にある。
それだけでも十分厄介なのに。

「ねえ……心愛って言ったかしら」
「何? リタちゃん」
「あの男、『作品を作って、旦那に見せたい』……そう言ったのよね」
「うん。龍之介さんの旦那って人、呼ばれてたんだね〜。作品を見せたいって願ってたみたいだし」

更に厄介なのがそれだ。
彼の支給品までは把握していないが、彼が刃物の類を現地調達していることはリタも知っている。
それも、見る限り木や石を切るといったものではなく、肉を切るのに適したような刃渡り。

「(こんなこと、想像したくはないんだけどね……)」

彼の言う“作品”の“題材”。
それはもしかしなくても、我々参加者なのではなかろうか。
それも、かなり悪趣味なやり方で。

心愛は底なしの能天気、悪く言えば単純な馬鹿。
ベンチでくたばっているとおぼしき少女に至ってはまだ名前すら聞いていない。
雨生龍之介という男の魔の手から逃れる為には、私がどうにかしなければいけないらしい。

カイザルたちとも合流したいのに、すぐ傍にとんでもない脅威がいる。
今後のことを思うと、思わず頭を抱えたくなるのであった。

 * * *

326こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:18:25 ID:SlnygLWY0
3人から一度離れた龍之介は、改めてそのカードを見る。
他のカードは現状使えないものばかりだったが、そのカード――ブレスレットだけは、非常に価値が高かった。

そのブレスレットは、かつて龍之介がキャスターからプレゼントとして受け取った代物。
これを使って次々と冬木市の子供たちを誘拐、“パーティ”を執り行おうとした。
結局邪魔が入って破壊されてしまったのだが、どういう因果かそれが再び龍之介の手中にある。

カードに書かれた説明を見る限り、当時のそれより大幅に制限は掛けられている。

①:使用者より年齢が下の者にしか通用しない。
②:並行して催眠を掛けられるのは2人まで。
③:対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない。
④:洗脳の効果は一度につき2時間程度。
⑤:魔力の消費は少し大きめ。

主催者の設けた“パワーバランス”なのだろうが、それらの制限があってなお、龍之介にとっては魅力的だった。

心愛、リタ、そしてホームで出会った名も知らない少女。
彼女たちを連れてラビットハウスへ向かい、“お茶会”を開こう。
やがて心愛の友人なども、その“お茶会”のメンバーに加えよう。
無論作品の延命など課題は幾つも残っているが、その時になってから考えればいい。

若干気掛かりなのは、携帯ラジオの放送を聞いてからのリタの態度だ。
何だか自分のことを疑っている、そんな視線だった。
恐らく、旦那がジル・ド・レェと名乗ったことが原因だろう。
まあでも、いずれそんなことを気にしなくてもいいようにすればいいだけだ。
そう結論付け、ホームに戻る。

時計を見る限り、もうすぐ定時放送とやらの時間だ。
4人で軽い朝食にするのもいいかも知れない。
もっとも、4人目がいつ起きるかなど分かったものではないが。


【C-6/駅/早朝】
【雨生龍之介@Fate/Zero】
 [状態]:健康、少年のようなワクワク
 [服装]:普段着
 [装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜1枚(本人確認済)、ブレスレット@Fate/Zero、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
   1: 旦那ともいずれ合流し、作品を見てもらいたい。
   2: リタに激しい興味。彼女もいずれ作品とする。
   3: 心愛、心愛の友人、少女(蒔菜)で作品を作り、“お茶会”を開く。
   4: 作品を延命させる方法を探す。
 [備考]
  ※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気付きました。
  ※心愛の友人に関する情報を得ました。


【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:足に擦り傷(処置済、軽度)
 [服装]:ラビットハウスの制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:具@のんのんびより、ライター@現実、携帯ラジオ@現実
 [思考・行動]
基本方針:龍之介たちと一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
   1:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
   2:リタちゃんは不思議ちゃんなんだね〜。
   3:この子(蒔菜)何があったんだろ?

327こんなに■■なことは、内緒なの ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:18:47 ID:SlnygLWY0
【リタ@神撃のバハムートGENESIS】
 [状態]:健康
 [装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済)
 [思考・行動]
基本方針:カイザルとファバロの保護。もしカイザル達がカードに閉じ込められたなら、『どんな手段を使おうとも』カードから解放する
   0:とりあえずはラビットハウスへの道のりに同行しつつ、人探しを並行させる
   1:カイザル達の捜索。優先順位はカイザル>ファバロ
   2:繭という少女の持つ力について調べる。本当に願いは叶うのか、カードにされた人間は解放できるのかを把握したい
   3:アザゼルは警戒。ラヴァレイも油断ならない。
   4:龍之介を警戒。心愛たちを彼から逃がしたい。
 [備考]
 ※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。
 ※心愛の友人に関する情報を得ました。


【入巣蒔菜@グリザイアの果実】
[状態]:健康 睡眠中
[服装]:制服
[装備]:ヤブイヌのポーチ@グリザイアの果実
[道具]:腕輪と白カード。
[思考・行動]
基本方針:帰る。
0:……zzz
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※ルールを聞いたのは白のカードの説明までです。ですが、それもうろ覚えです。
※赤、青、黒、のカードは流子に渡りました。
※名簿は見ていません。

【支給品説明】

【ライター@現実】
保登心愛に支給。一般的なジッポライター。

【携帯ラジオ@現実】
保登心愛に支給。充電は手回し式で、回しておかないと割とすぐに電池が切れる。
放送を受信する以外の用途は今のところ不明。

【ブレスレット@Fate/Zero】
雨生龍之介に支給。
アニメ1期10話で出てきたもので、龍之介はこれを使って子供を何人も誘拐した。
このロワでは以下の制限が掛けられている。
①:使用者より年齢が下の者にしか通用しない。
②:並行して催眠を掛けられるのは2人まで。
③:対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない。
④:洗脳の効果は一度につき2時間程度。
⑤:魔力の消費は少し大きめ。

328 ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 01:19:40 ID:SlnygLWY0
仮投下を終了します。
洗脳系の支給品があるために一度こちらに投下させて頂きました。
指摘等あればお願いします。

329名無しさん:2015/09/16(水) 07:12:45 ID:rM8/t0dw0
投下乙です
不穏さがますます増してきましたね、いまだ暢気な心愛と警戒を強めるリタとの対比がよくできていたと思います
龍之介のたちの悪さもまた。今回蒔菜が起きなかったのもいい兆候じゃない感じですねえ
ところでブレスレットへの魔力による抵抗は可能ですか?
対象が限定されているだけに効果は強くなるのは自然だと思いますが、
修正要求ではないけどその辺気になりました

330名無しさん:2015/09/16(水) 07:51:11 ID:k4cltWfQ0
投下乙です
腕輪の支給自体は問題ないと思います
ただ
>対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない
このあたりの説明がどの程度なのかは少し気になりました
「おーいいくぞー」と声をかけられたらついて行っちゃうレベルなんでしょうか
いや、それは洗脳だという意見も、先日のランサーパート(実質騒いでいたのは少数かもしれませんが)のようなことも、あるかもしれませんし
「ぼーっとさせる程度(正気は残っているか否か)」「意識不明に近い状態に陥らせる程度」のようにそこそこ具体的な説明にした方がやや分かりやすいかと思います

あと、これは重箱の隅かもしれませんが
>それも、見る限り木や石を切るといったものではなく、肉を切るのに適したような刃渡り
「(怪我をした時のためだとの言い分で現地調達された)手術用のメスやハサミ(刃渡りもさほど大きくないはず)」に対して抱く感想としては少々不自然かと思いました
龍之助に民家等から更なる刃物を現地調達させるとか、護身用に心愛に刃物を持たせようとしたら断られて不信感を覚えるとかの方が自然かな、と
腕輪支給議論のついでに、のような形ですが言ってみます

331 ◆DGGi/wycYo:2015/09/16(水) 16:57:12 ID:SlnygLWY0
>>329
使用者より強い魔力で防御可能のくだりを追加しておきます

>>330
前者の指摘は、『使用者に声を掛けられれば付いて行く』『対象をぼーっとさせる(その間本人の記憶はない)』のつもりです。
後者の指摘は完全に失念していました。纏めて修正します。

332 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:30:38 ID:o7ANydZE0
仮投下乙です

遅れて申し訳ありませんでした。
自分も仮投下したいと思います。

333 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:36:50 ID:o7ANydZE0
 夜道を三人の男が歩いている。
 先頭は蟇郡苛、その少し後ろに衛宮切嗣と折原臨也。
 各々デザインは違えども黒を基調とした服装をしており、傍目から見るとかなり怪しい。
 それどころか、黒ずくめの服装と独特な風貌が合わさって、非常に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 
 先頭を往く蟇郡苛。彼の眼光は鋭く、しっかりと前を見据えている。
 本人にしてみれば進行方向を見ているだけなのだろうが、その視線は一般人を委縮させるのには十分なものだ。
 二メートルはあろうかという大男なのも、誤解を生む原因足り得るだろう。

 次に衛宮切嗣。一見すると普通の男性だが、その眼は明らかに死んでいる。
 虚無を感じさせる黒々とした双眸から、感情の類を読み取ることは難しい。
 これが正義の味方を目指した男だと、誰が想像するだろうか。

 最後に折原臨也。彼は一見すると整った顔立ちの青年だ。
 威圧感も虚無感も持ち合わせておらず、ただその内心では、人間への貪婪な好奇心を膨らませ続けている。
 一見すると危険性に気付かない、という意味では一番危険な男である。

 そんな三人が、行動を共にしている。
 目的地はゲームセンター。殺人事件の現場に向かい、現場を調査するのが主な目的だ。
 もっとも、三人のうち二人は別の目的を持って動いているのだが。

「ねえ蟇郡君、腕輪探知機の反応はどう?」

 ラビットハウスを出てから会話らしい会話をしていなかった三人の間に、きっかけを作ったのは臨也だった。
 といっても、腕輪発見器の人数を確認するだけのこと。
 形式的と言えばそれまでだが、どうやら蟇郡は忘れていたらしく、慌てたように探知機を取り出して操作した。

「む?これは……」

 立ち止まり、怪訝な声を出した蟇郡に、臨也と切嗣は近づいていく。
 蟇郡は振り返ると、二人に人数の表示を見せた。
 しかめっ面の蟇郡に対して、臨也は興味深そうな声を漏らし、切嗣は眉を僅かにひそめた。
 ラビットハウスで確認した際には「7」だった数字が、「9」に増えていたのだ。

「参加者が増えたか……平和島静雄と遭遇していなければいいが」
「このエリアに来たってことは、当然目指すのはゲームセンターかラビットハウスだろうし、もしかしたら承太郎君たちの方に行ったかもね」
「なんにせよ、危険人物でないことを願いたいな」

 名も知らない参加者の身を心配する蟇郡。
 不安を煽るような言葉を吐く臨也。
 嘆息と共に結論付ける切嗣。
 三者三様の反応を示して、三人は再び歩き出した。





 蟇郡たちが腕輪発見機を操作する十数分前。

「あれがゲームセンターか……結構大きいんだな」
「エリアは……G-7だ。間違いないな」

 ゲームセンターの外観を見上げながら、二人の参加者が小声で会話していた。
 風見雄二と天々座理世。
 学生服とメイド服という奇妙な組み合わせの二人だ。
 二人は幸か不幸か、他の参加者とは遭遇せずに、このゲームセンターまで辿り着いていた。
 支給品の確認をして以降、石橋を叩いて渡りながら来たため、時刻はすでに黎明になって、三十分以上が過ぎている。
 そのことにリゼは少なからず焦りを感じているようで、雄二へと早口で話しかけた。

「風見さん、早く入ろう。誰かがいるかもしれない」
「ああ、だが少し待て。……見ろ、あれを」

 雄二が指し示す方向を見たリゼは、その惨状に唖然とした
 剥がれた路面に、変な方向に曲がったガードレール。果ては倒れた自動販売機。
 交通事故のニュースで流れているような映像が、そのまま雄二たちの目の前にあった。

「恐らくは戦闘があったのだろう。遠目からでは詳しくは分からないが、銃火器が使われた可能性が高いな」
「……じ、じゃあ、まだ近くに……!?」

 口を開けたままだったリゼは、雄二のその言葉で現実に引き戻された。
 銃火器を持って、しかも戦闘を行うような参加者がこの近くにいる。
 リゼも武器は保持しているが、戦闘目的で使用した経験がない以上は素人も同然だ。
 危険人物に恐怖が湧いてくるのは必然だった。

(まさか、この近くで待ち伏せをしているんじゃ?)

 戦争で警戒するべきなのは、待ち伏せと急襲。その程度の知識はリゼにもあった。
 それ以上の恐ろしい想像までしたようで、リゼは恐怖を振り払うように頭をぶんぶんと振る。

(弱気になるな、いざというときには、私がチノやシャロたちを守るんだからな!)

334 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:40:55 ID:o7ANydZE0

 そう自分に言い聞かせるリゼをよそに、雄二は惨状に近づいていった。
 地面に落ちた破片を拾ったり、ガードレールの曲がり具合を見たり、抉れた地面をなぞったりしている。
 躊躇なく惨状に近づいて行った雄二の後を、リゼは恐る恐るついていった。

「ちょ、ちょっと」
「しっ。……静かに。周囲で何か聞こえるか?」

 唇に人差し指を当てた雄二の言葉に、リゼは目を閉じて耳をすませた。
 そして十数秒後、ゆっくりと目を開ける。

「……いや、聞こえない」
「そうだな……この近くにはいない、と見るべきか」

 こればかりは二人にとって幸いなことに、平和島静雄はこの場にはいなかった。
 少なくともこの時には、破壊衝動を器物損壊という形で表現することではなく、宿敵折原臨也を探し回ることに集中していたのだ。
 結果として、ニアミスした雄二たちは噴火の余波を受けることはなかった。
 それでも、姿なき破壊者の存在は、雄二たちに危険だという意識を植え付けた。
 とりわけリゼには、その意識が強く植え付けられた。

「その人物がここに戻ってくる可能性もある。それまでにゲームセンターの中を調べよう」
「ちょっと待ってくれ、その危険人物に知り合いが襲われているかもしれない。
 私の知り合いは……襲われたらまず助からない!」

 破壊の痕跡を見たためか、リゼは焦りを隠せないでいた。
 チノやシャロたちを守ると誓ったリゼにしてみれば、その心配は当然のものだ。
 そんなリゼと対照的に、雄二は全く焦った様子はなく、コンクリートの破片が落ちている辺りに屈んで付近の地面を探っていた。
 そしてリゼの言葉に、その体勢のまま返事をした。

「落ち着け。よく考えるんだ、居場所も分からない相手をどうやって探す。
 それにこんな破壊をやってのける奴に、焦って挑んだところで勝ち目はない」

 その雄二の言葉には、説得力が感じられた。
 圧倒的な武力の前に、何の対策も講じずに立ち向かうのは、勇気ではなく無謀である。
 もしこの惨状が銃火器やそれに類するもので行われたのだとすれば、現在の手持ちの装備では対応しきれない。
 このような説明を受けたリゼは、いくらか冷静になって、周囲の破壊の痕跡を確認した。
 改めて見ると、破壊の爪痕はただの拳銃程度では再現できそうもないほどに大きい。

「確かに、こんな破壊をするには、バズーカでもないと……」
「いや、もしかすると銃火器は使用していないのかもしれない」
「え?」

 前言撤回した雄二の言葉に、リゼは疑わしげに首を傾げた。
 リゼにしてみれば、この破壊跡はどう考えても激しい戦闘が行われた結果である。
 そのことを反論しようと口を開きかけるリゼだったが、雄二の真剣な眼差しに口をつぐんだ。
 雄二は立ち上がって辺りを見渡すと、確信を持った口調でリゼに向けて話し始める。

「この辺りには破壊された跡はあるが、弾痕も無ければ薬莢も無い。
 硝煙の臭いが全くしないのも不自然だ。
 それにあの倒れた自販機だ。ぶっ倒れて配線は引き千切れているのに、倒れたときにできた傷以外には凹み一つ見当たらない」

 銃撃や爆発で倒されたにしては綺麗すぎるのだ、と。
 雄二に促され、リゼは二人で倒れた自動販売機を見下ろした。
 リゼの目から見ても、弾丸が撃ち込まれたり、刃物で傷つけられたりといった傷は無かった。
 そして、その事実がリゼを更に困惑させる。
 
「でも、それってつまり、素手で自動販売機を倒したり、電信柱を砕いたりしたってことだよな……。
 そんなのありえるのか!?」
「俺は実際に目の前にある事象は、何であれ信じることにしている。
 ……詳しいことは、あの破壊された壁のあるフロアに行けば分かるかもしれないな」

 「破壊された壁」と言いながら雄二が指し示した方を見て、リゼは再び驚愕した。
 ゲームセンターの壁に、爆弾で破壊されたような大穴が開いていたのだ。
 あの破壊も生身の人間によるものなのだろうかと考えて、リゼは背筋が凍るような感触を覚えた。
 ありえない。そう考えたかったが、雄二の意見も否定することはできない。

「もしかすると、『魔術』とやらが関係しているのかもしれないが……」

 リゼが混乱の極みにいる中で、雄二はぽつりと呟いた。
 アゾット剣の説明にあった魔術という単語が、雄二の心に引っかかっているのだろうとリゼは察した。
 とはいえ、雄二にもリゼにも魔術に関する知識が無い以上、それが現実においてどう作用するのかは想像の域を出ない。
 雄二もそれ以上は考えを保留にしたようで、リゼに向けて顔を上げた。

335 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:43:53 ID:o7ANydZE0
「思わぬ時間を食ってしまったな。さっさと探索を済ませよう」
「ああ。……だが、一つ謝らせてくれ。
すまない、雄二さん。私はまた動揺してしまったらしい……」

 顔を伏せて落ち込む様子を見せるリゼ。
 大切な友人たちを心配するあまり、焦って冷静さを欠いていたのはリゼ自身も理解していた。
 そして、それを責めずに窘めた雄二に、リゼは申し訳なさを感じていた。
 余計な時間を取らせてしまったことは明白だったからだ。
 だが、雄二は特に気にした様子もなく、こんな言葉を返してきた。

「ネガティブなイメージが沸くのは、危機管理が出来ている証拠だ」
「え?」
「危機管理が出来ている方が、俺としても守りやすい。そのままでいてくれ」

 返ってきた発言の意味を噛み砕いて、それがある種の慰めの言葉であるらしいと気付いたリゼは、雄二に対する認識を改めた。
 冷静なのは確かだが、その一言で言い表せる人ではない。

「……ありがとう」
「よし、行くぞ」

 照れながら発した言葉には反応せず、雄二は早足でゲームセンターの入口へと向かう。
 リゼは急いで、雄二の背中を追いかけた。





「そういえば、蟇郡君とは情報交換してなかったよね?」

 ラビットハウスからゲームセンターへの道中。
 数分間続いた無言を破ったのは、またしても折原臨也であった。
 先頭の蟇郡に対して情報交換を持ちかけるその顔は、臨也を詳しく知る人物からすれば胡散臭さを感じるものだったろう。
 しかし、顔を合わせて一時間と経っていない蟇郡に臨也を警戒するという発想はない。

「む、そういえばそうだな」
「衛宮さんとはもう済ませたんだ。君も知り合いとか、もし危険人物がいたら教えてよ」
「了解した。ではまず……」

 鬼龍院皐月、纏流子、そして満艦飾マコ。
 蟇郡は名簿にある知り合いの三人を、簡単な特徴と共に告げていく。
 皐月を紹介するときには些か誇らしげに、マコを紹介するときには些か複雑な面持ちで。
 臨也はそこから、蟇郡の心情の機微を少なからず感じ取った。
 もちろん、それを口に出すことはしない。

「俺も含めた四人は、本能字学園の生徒だ」
「本能字学園?確かこの島にもそんな名前の施設があったよね?」
「ああ、全く同じ名前だ。実際に見ていないからなんとも言えんがな」

 それから、と蟇郡は危険人物についての話をし始めた。
 前置きとして鬼龍院財閥について説明が始まり、その内のREVOCSコーポレーションについて特に詳細を語った。
 ようやく針目縫の名前を出したところで、臨也が一旦蟇郡を遮った。

「ちょっといいかな?
 俺、その鬼龍院財閥とか、REVOCS社?っていうの、初耳なんだよね。
 君の話だと、世界に誇るレベルで相当に有名な会社みたいだけど」

 その言葉に、蟇郡は振り向いて臨也に詰め寄った。
 巨体が覆いかぶさるようにして、臨也にプレッシャーを与える。

「なんだと?REVOCS社は世界各国に進出している大企業だ、知らぬということはあるまい。
 鬼龍院財閥とて同様、遍く世界に名の轟いている財閥だぞ」
「いや、僕もそんな会社は聞いたことがないな」
「なっ!?」

 臨也のみならず切嗣にも否定され、蟇郡はひどく動揺した様子を見せた。
 蟇郡からしてみれば、世界の常識を否定された気分なのだから当然だろう。
 そしてこの反応は、臨也にある推測をさせるのに充分だった。

「どう思う?衛宮さん」
「……文字通り、住む世界が違うということなのかな」
「そう思うよねぇ、やっぱり」
「どういうことだ?」

 臨也と切嗣が頷き合うのを見て、蟇郡は首を傾げる。
 それを見た臨也は、口元に笑みを作り、得意げに推論を話し始める。

「蟇郡君にとっての常識と、俺や衛宮さんにとっての常識が違ってる。
 これってつまり、“世界が違う”か“時代が違う”って考えるしかないんじゃない?」
「……?」

 意味が分からないという顔をする蟇郡を尻目に、臨也は再び歩き出した。
 それを見た蟇郡は、思い出したように臨也の後を追ってくる。

336 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:47:35 ID:o7ANydZE0

「君と俺の住んでいる世界は、異なる世界ってこと。
 平行世界(パラレルワールド)とか、そういうのを想像すると理解しやすいかな」
「馬鹿な……?タイムマシンでも使ったというのか?」

 蟇郡はにわかには信じがたいようで、臨也に不審そうな目を向けている。
 そんな視線を受け流し、臨也は蟇郡に向けて単語を列挙し始めた。
 ひとつひとつ、ゆっくりと、蟇郡の反応を横目に見ながら口にする。

「『首無しライダー』『平和島幽』『聖辺ルリ』『殺人鬼ハリウッド』……」
「ん?なんだ突然」
「今挙げた単語で聞いたことのあるものは?」
「どれも知らないな。殺人鬼など聞いたことも――」
「あれー、おっかしいなぁ。どれも俺の世界では常識なんだけど」

 臨也の言葉に、蟇郡は言葉を詰まらせた。
 蟇郡の世界での常識を臨也が知らないだけならば、蟇郡にとって臨也は単なる世間知らずな人間である。
 だが、臨也の世界の常識を蟇郡が知らないということになれば、双方向に未知の事実が存在していることになり、臨也の平行世界説を補強する。
 蟇郡の反応は、そういう意味で臨也の思惑通りであった。

「……納得はできんが理解はできた。
 つまり、あの少女には異なる世界を移動する手段があるということだな」

 だが、直後の蟇郡の適応の速さは、臨也にとって少し予想外だった。
 もともと蟇郡は、風紀委員長を務めるだけあって堅物なのは間違いないが、だからといって柔軟な思考ができないわけではない。
 極制服や生命繊維など、一般的な感性からすれば超常の存在を知識として持っている。
 パラレルワールドという超常現象も、理解しようとすればできるのだ。

「ま、タイムマシンっていうのも可能性としてはありだよね。
 となると俺からしてみれば、蟇郡君は未来の人ってことになるんだけど。
 ……衛宮さん、時間や空間を移動する、魔法めいた方法に心当たりはない?」

 臨也は軽い調子で、ほとんど喋っていない男性に問いかける。
 臨也にとって、この質問自体に大した意味はない。
 むしろ“切嗣がどう返答するか”を期待するところが大きい。
 切嗣が臨也の性質を見極めようとしているように、臨也も切嗣を観察し分析しようと試みていた。
 この島に来てから、既に空条承太郎という面白い『人間』を見つけていたが、それはそれ。
 飽くなき探求心にも似た貪欲さを発揮して、臨也は切嗣が『人間』なのか否かを観察して判断する。
 その手段として、映画館で承太郎にしたように、カマをかけた。
 とはいえ、まだ切嗣は底が知れない相手であったから、先刻のようにナイフを向けたりはせず、言葉の上での問答を用いたのだ。

「……どうかな。ただ、僕としては折原君の意見を尊重したいと思うよ」

 そんな意味を含んだ問いかけに、目を伏せて答える切嗣。
 第三者からすれば肯定とも否定ともつかない曖昧な返答であったが、臨也は言外に切嗣の意志を感じ取った。
 それは“尊重”という一つの単語だ。
 この単語、出会って間もない相手に使うには非常に違和感があるし、かといって、いい大人が誤用をしてしまうような難単語ではない。
 つまり、臨也に対してプラスの感情を抱いていることを、切嗣が婉曲的に表現した、と臨也は考えた。
 好意的で楽観的な解釈ではあるが、臨也は半ば確信していた。

(出来ることなら、二人だけで話したいね……)

 ただ、切嗣をより深く理解するには、二人きりでの対話が必要だと臨也は判断する。
 返答が曖昧であったのも、一対一の状況ではなかったことが原因であると推測できる。
 ゲームセンターで対話の場が設けられれば万々歳、臨也はそう考えた。

「それより、そろそろゲームセンターだ。ほら、あの――」

 歩く速度はラビットハウスを出た直後に比べれば落ちていたが、それでも歩みを進めていた以上、目的地には辿り着く。
 三人の目の前には、周りの建物よりひときわ高い、ゲームセンターがあった。




337 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:52:31 ID:o7ANydZE0


 ゲームセンターの探索を始めてからしばらく経った雄二は、些か拍子抜けしていた。
 三階までくまなく探索したが、期待した成果は何も得られていない。
 プライズゲームが主な一階では、リゼがUFOキャッチャーの景品に目を奪われてしまい多少時間を喰ったが、肝心の探索は緊張感を持ちつつ淡々と進んだ。
 それなのに、参加者はいない。目立った箇所もない。
 時計を見ると、既に三十分以上を費やしている。
 ここの探索が無駄足で終わるのではないかという不安が、雄二の頭にはよぎり始めていた。

「意外と何もないな。普通のゲームセンターって感じだ」

 近くにいたリゼも、緊張感を失ったのか、だいぶ表情が柔らかくなっている。
 無駄に緊張しすぎるのもよくないため、これは良い傾向だと考えた。

「そうだな。例の壁に開いた大穴は、おそらく次のフロアだろう。
 なにかしら手がかりが残されていればいいんだが」

 言いながら階段を上って行き、新たなフロアへと足を踏み入れる。
 そこは紹介文によれば『』が中心のフロアであり、今までと同様に騒がしさはあったのだが、それとは別のことを雄二は感じ取った。
 風が入り込んでいるのは、開けられた大穴からだろうと推測できる。
 その風に乗って、何かが鼻腔を鈍く刺激する。

(これは――血の臭い!?)

 戦場で何度も嗅いだ臭いに、雄二は足を止め、緊張を募らせた。
 しかし、リゼは今までのフロアで緊張してきた反動か、さして警戒した様子もなく、機械的に探索を進める。
 それは一種の“慣れ”であり、リゼ自身が気づいて抑制することはできなかった。

「リゼ、不用意に進むな!」
「でも壁を壊した犯人は外にいるんだろ?
 だったら平気で…………っ、いやああああっ!!?」
「くっ!」

 悲鳴と同時に、きれいに腰を抜かすリゼ。
 雄二は急いで駆け寄ると、リゼが見ている方向へと視線を向けた。
 そこにあったのは、頭がゲーム筐体の下敷きになっている人間の姿だった。

「……」

 それがもはや動き出さないことは、誰が見ても明らかであった。
 全く動けない様子のリゼは落ち着くまで放置することにして、雄二は遺体の元へと歩み寄る。
 顔は見えずとも、体型から遺体が少女だということは簡単に判別できた。
 遺体はメイド服を着ている。汚れたり破れたりはしていないが、何故か下着を“はいてない”ことには流石の雄二も困惑した。

(いや、落ち着け。こういう趣味ということも考えられる)

 雄二は冷静に死体を検分することを続けた。
 まず、頭部以外の肉体には傷らしき傷がない。
 手足を殴ったり刺したり、あるいは暴行したりといった跡も存在しなかった。
 そして、頭部を潰している凶器は、百キロはあるだろうゲームの筐体だ。
 これで頭部を潰すのは、そうとうな力がなければできないと予想できる。

「な、なあ……ちょっといいか……?」
「ん?……あぁ、気を付けて行ってくれ」

 後ろを振り返ると、そこでは顔色の悪いリゼが口元を押さえていた。
 死体を見たことで嘔吐感に襲われたが、かろうじてその場で吐くことを留まったのだろう。
 雄二はそう判断して、すぐにリゼをお手洗いのマークがある方へと促した。
 リゼは矢も盾もたまらずといった様子で駆け出した。
 そしてその瞬間に、電流が走ったような感覚に襲われる。

(まさか、この少女が下着を付けていない理由は――!)

 雄二はフロアの中をくまなく探索した。
 そして、雄二の仮説を裏付けるものが、このフロアには存在した。
 サイズからして少女の物と思われる、下着を含めた脱ぎたての衣服である。
 雄二はそれをまじまじと見つめながら、これがこのフロアにある意味について考えた。




338 ◆X8NDX.mgrA:2015/09/16(水) 21:56:12 ID:o7ANydZE0



 ゲームセンター内のトイレにて。
 リゼの脳内では、先程見た死体がフラッシュバックしていた。
 力なく床に横たわった小さな身体と、周囲に飛び散った赤黒い血液。
 ゲームセンターという日常に近い場所で、殺人が行われたという事実は、平凡な日常を過ごしてきたリゼに強い衝撃を与えた。

(チマメたちと同い年くらいの女の子が、頭を、潰されて――!!!)
「うぶっ……」

 あまつさえ、リゼ自身や知り合いが物言わぬ死体となった瞬間を想像してしまい、リゼは堪え切れず嘔吐した。
 そうして胃液まで出し切って落ち着くのには、数分間を要した。

「はぁーっ……はぁ……」

 洗面台を汚した吐瀉物を水で流して、リゼは鏡を見た。
 その顔は自分の目から見ても酷いもので、リゼは両手で顔をぴしゃりと張った。

「チノやココアたちを、あんな風に死なせちゃいけない……!」

 自分への戒めの言葉を呟いて、リゼはトイレを出た。
 一番近いトイレは二階にあったため、雄二のいる四階に戻るには階段を登らなければならない。
 そのことに多少の疲れを感じながら、階段に足をかけようとしたその瞬間。

「そこの女子!貴様も参加者か!?」

 質量を持ったような声が、リゼを背後から襲ってきた。

「ひっ!?」

 いくら自分を戒めようが、背後から突如大声で呼びかけられたら、緊張に身体を震わせてしまうのは当然だろう。
 リゼは後ろをゆっくりと振り返る。
 そこにはリゼよりも、同行者の雄二よりも更に大きい男が立っていた。

(まさか、この人が……?)

 蟇郡の巨体を見て、ゲームセンター前の破壊活動を行ったのはこの人物ではないか、とリゼが考えるのもまた、道理であろう。
 なにせ蟇郡は、自動販売機よりも大きい身の丈をしているのだから。
 しかし、リゼが抱いたその不安は、良い意味で裏切られた。

「あのさぁ……どうして怖がらせるようなことするの?」
「え……」

 黒服の巨体の背後から、別の人間が現れたことで、リゼは叫んで雄二を呼ぶことを思い止まった。
 未だに警戒は解かないものの、相手の話を聞くことに集中する。

「いやぁ、ごめんね怖がらせちゃって。この人いつもこんな感じなんだ。
 俺は折原臨也。こっちは蟇郡苛。あともう一人いるんだけど、その人は周囲を捜索してから来るみたい。
 俺たちは目的があってここに来たんだけど……。
 って、いきなりすぎたかな。よかったら名前を訊かせてくれるかな?」
「……私は天々座理世だ」

 両掌をリゼに向けながら、笑顔を見せて警戒を解こうとする臨也。
 実際のところ、臨也の整った容姿と丁寧な対応、優しい声音によって、リゼはこの時点で半ば信頼しかけていた。
 同時に、相手の状況を把握したことから冷静さが生まれて、普段の調子で返答が出来るまでに回復していた。

「そっか、リゼちゃんっていうんだね。
 随分顔色が悪いけど、どうしたのかな?
 ……もしかして、女の子が死んでいるのを見ちゃった、とか?」
「っ!?」

 このとき、リゼは緩めていた警戒を再び引き締めようとした。
 具体的には、距離を取って拳銃に手を伸ばそうとしたのだ。
 だが、こと言葉の上での駆け引きにかけて、情報屋はあまりに有利であった。

「ああ、警戒させちゃったみたいだね。
 実は俺たちがここに来た理由の一つが、その女の子の遺体を調べることなんだ。
 あまり大声じゃ言えないんだけど、俺の知り合いが殺したかもしれなくってさ」

 拳銃に伸ばしかけた手を硬直させ、リゼは臨也の語る内容に耳を傾けた。
 臨也はリゼに気付かれないように薄い笑みを浮かべ、すらすらと淀みなく話し続ける。
 “立て板に水”とはこのことである。

「リゼちゃんも見ただろう?ここの近くが、めちゃめちゃになっていたのを。
 自販機が倒されていたり、このゲーセンの壁に大穴が開いていたり。
 あれをやったのも、そいつの仕業なんだよ。
 だから俺たちは、その女の子の遺体を調べて、確固たる証拠を見つけたいんだ」


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