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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

118その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:27:16 ID:t.lsNQHs0
【宮永咲@咲-Saki- 全国編 死亡】
残り69人

【F-3/神社/一日目 深夜】
 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、悲しみ
 [服装]:中学校の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
黒カード:不明支給品0〜2枚、宮永咲の不明支給品0〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   1: 咲さん――!
   2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
 [備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です



支給品説明

【東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
東郷美森を勇者へと変身させるアプリが入った携帯電話。
近距離、中距離(ショットガン)、狙撃銃、遠距離砲の攻撃手段をそれぞれ使い分ける。
宿った精霊はそれぞれ刑部狸、不知火、青坊主、川蛍。

【チタン鉱製の腹巻@キルラキル】
蟇郡苛が、最終話の決戦で護身用に着用していた巨大腹巻。
針目縫の攻撃を受けても「ちょっと痛かった」程度で済むらしい(ただし大量に出血していた)。

【煙幕弾@現実】
小湊るう子のアイテムカードに単体で支給。
改造でも施されたのか、通常の煙幕弾よりもかなり多量の煙を排出するため、煙の拡散しやすい屋外でもしばらく持つ。

119その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM:2015/07/29(水) 00:28:22 ID:t.lsNQHs0
投下終了です

今回、咲さんが行ったことについては議論対象になってしまうかもしれませんが
「たまたま偶然満開ゲージが溜まるタイミングがやって来ただけ」という偶然の可能性もありますよ、ということで一つ

原作でもモノクルを破壊する描写はありますし

120名無しさん:2015/07/29(水) 00:42:51 ID:???0
投下乙です

初っ端からなんて力作だ……

咲とゆゆゆとウィクロスの世界観がこれでもかって程マッチしててビビる
咲の腕輪を壊そうとするるう子でもう……

そして嫌な予感はしてたけど、やっぱり東郷さんはあの時期から参戦かぁ

121 ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:28:23 ID:WVWLm3c60
投下お疲れ様です。
拙作ですが、自分も投下します。

122輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:29:38 ID:WVWLm3c60

「いやぁ、ホンマ助かったわーウチだけじゃ心細くてなー」
「いえいえ、いきなり大きな音が鳴ったので来てみたら、こんなことが……」

 倒れているのは大木。
 その近くには二人の少女。
 その少女たちのバストは豊満であった。

「ウチ、東條希。音ノ木坂学院三年生や」
「東條さんですね……私は神代小蒔と申します。永水女子高校の二年生です」

 一人は普通の学校の制服。
 もう一人は紅白の巫女服。
 そして、その少女たちのバストは豊満であった。

「その喋り方……関西の高校の方ですか?」
「いや、東京の秋葉原にある学校やで……そういう、小蒔ちゃんは学生兼巫女さんなん?」

 結構気さくに話しかけてくる希に対して安心感を覚える小蒔。
 最初に出会えたのが、優しそうな人でよかったと思う。
 
「でも、警戒したほうがええで……まだ近くにこんなことやった犯人がおるかもしれんよ、少し離れよか」
「はい」

 希は小蒔の手を引き引っ張っていく。
 優しく手を引き、誰にも見つからないように静かに歩いていく。
 しばらく歩くと誰もいなさそうな茂みを発見した。
 一先ずはそこで情報交換をしようとした。 

「小蒔ちゃんの知り合いはおるん?」
「知り合いですか? いませんね……」
「ふーん、ホンマに?」
「あっ、はい……東條さんは?」
「……ウチの学校の友達が4人もおるんよ……」
「えっ?」

 二人で名簿を一緒に名簿を見る。
 希は見知った名前を指差していく。
 『高坂穂乃果』『南ことり』『絢瀬絵里』『矢澤にこ』。
 同じスクールアイドルグループ『μ's』のメンバーだ。
 希は一年生三人と二年生で作詞担当の『園田海未』の名前がなかったことには安堵したが。
 それでも皆が心配であることには変わりなかった。

123輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:30:16 ID:WVWLm3c60

「探しに行きましょう!」
「えっ?」
「留まっているより探したほうがいいと思います!
 その東條さんのお友達さんもきっと東條さんを探しているはずです!」
「……小蒔ちゃんはええ子やねぇ……けどな」

 少し冷静になり、希は徐に小蒔の顔を指差す。

「さっきから気になってたんやけど?」
「? なんですか?」
「その……顔につけてる、それ何なん?」
「これですか? これはスパウザーです」
「えっ、なんて?」
「スパウザーです。平たく言えば戦闘能力を計る計測器です」

 まるで漫画に出てくるような道具。
 補聴器に小型スクリーンが付いた形状をしている。
 装備してる当人曰く『戦闘能力を計る機械らしい』が胡散臭いったらありゃしない。

「ホンマに……?」
「ちょっと待ってくださいね……計測できました。えーっと、東條さんは53oですね」
「53oってなんなん!? 強いん、それ!?」
「東條さんは53o(オッパイ)……つまり、オッパイ53個分の強さということですね」
「いやいや、ウチのオッパイは二個やし!? というかオッパイの一個分の戦闘能力ってどんだけなん!?」
 
 希は本場関西人のようにガンガン突っ込んでいく。
 しかし、それを天然なのか、小蒔はのらりくらりと自分のペースで話していく。
 
「……しかしな、小蒔ちゃん、戦闘力をちゃんと計るなら……」
「ちゃんと計るなら?」
「ふふふふ……ワシワシMAXや!」
「いや……ちょっと、東條さん!?」

 一瞬のうちに小蒔は希に背後を取られた。
 そして、希は巫女服の上から小蒔の胸を揉む。

「これは88……いや、90……!?
 まさか……それ以上あるやん!!」
「ふぁっ!?」

 ワシワシと胸を揉む。
 ワシワシワシワシと胸を揉む。
 揉まれると同時に小薪の心臓の鼓動が早く、どんどん高まっていく。

124輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:31:31 ID:WVWLm3c60

「ふふっ、ウチのワシワシテクニックで堪忍しいや〜」
「……と、東條さん、それ以上は……いけません!」
「ああ、わかったで……」

 急に希は小蒔の胸を揉むのを止める。
 充分に満足したのだ。
 だから、止めた。

 胸を揉みしだかれた小蒔は息を整えようとする。
 こんなことをされたのは自身生まれて初めてだった。
 だが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
 寧ろ、気持ちよかった。
 
 だが、次に小蒔が感覚は……胸を突き破るような痛みであった。


「ホンマ勘忍な……」


 小蒔の胸からレーザーブレードのような光の刃が突き出ていた。
 その刃は小蒔の心臓のご丁寧に位置を突き破るように一直線に。


 何が起こったか、わからないまま。




 神代小蒔の意識はそこで途絶えた。



 ◆ ◇ ◆



 ―――私にとってμ'sは大切なもの。
 

 絵里ちもにこっちも穂乃果ちゃんもことりちゃんも大切な友達。
 

 だからな……皆ごめんな……私は、もういつもみたいには笑えんわ……


 ◆ ◇ ◆

125輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:32:22 ID:WVWLm3c60

 ビームサーベル。
 最初はただの玩具かと思った。
 だが、カードの説明を読んでれっきとした武器だと判明した。
 最初は半信半疑だった。

 だから、試し斬りを行った。
 最初は近くにあった自分よりも太い大木を斬った。
 レーザーで出来た刃であっさりと切断出来た。
 音を立てて、あっさりと倒れた。

 二回目は【今】……寄ってきた女の子で試し斬りした。
 胸を揉むのはせめて小蒔ちゃんが苦しまないように。
 一撃で仕留められるように、胸を揉んで心臓の位置をしっかり確認して。

 こんなことをして自分の心が痛まないと言えば、嘘になる。
 だから、その心も【今】斬り捨てた。
 
 ―――μ'sを護るために。
 
「ウチ、やっぱラッキーガールやな……いや」

 大きな溜息を吐く。
 最初に遭遇したのが何の戦闘能力もない優しい子だった。
 だから、希にとってはラッキーだった……覚悟を決めるには。
 
「こんなことに巻き込まれた時点でラッキーガールも何もあらへんな……」

 強力そうな武器も引き当てた。
 引くおみくじ全てが大吉になるくらい運がいいというくらい自負している。
 本当に運がいい、こんなことに巻き込まれていることを除けば。

「音ノ木坂学院も廃校の危機を回避出来たと思ったら……こんなところに移転とはとんだ災難やね」

 希は地図を見る。
 地図に記されている音ノ木坂学院。
 その学校も廃校のピンチだったはずなのに、こんなところにある。

「皆、学校が好きやし……そこに行くだろう。
 なら、ウチは……行かんわ」
   
 少女は一人、歩いていく。
 護りたいものを、護るために。
 それが例え間違った道だと分かっていても。

【神代小蒔 咲-Saki- 全国編 死亡】
【残り68人】

126輝夜の城で踊りたい  ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:33:05 ID:WVWLm3c60

【D-2/墓地近く/一日目 深夜】
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:黒カード:ビームサーベル@銀魂
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0〜2枚、神代小蒔の不明支給品0〜2枚(全て確認済み)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
 1:学校には向かわない
 2:μ'sのメンバーには会いたくない
 [備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。


支給品説明


【ビームサーベル@銀魂】
 原作46巻第四百二訓〜四百九訓(アニメ版における第262〜264話)のビームサーベ流篇に登場した武器。
 ビーム状の刃の剣。小尾一のように刃は巨大化させることは制限がかかっており不可能である。

【スパウザー@銀魂】
 原作第20〜21巻第百七十四〜百八十二訓(アニメ版における第115〜118話)の夏休み特別篇に登場した道具。
 形状はあの有名漫画に出てくるスカウターであり、戦闘能力を図ることができる。
 また戦闘能力の単位は男の場合はk(こんぶ)で女の子の場合はo(オッパイ)となる。
 あまりにも桁違いの数値を計測すると、爆発する。

127 ◆KKELIaaFJU:2015/07/29(水) 02:34:14 ID:WVWLm3c60
投下終了です。
誤字等、問題点があったらご指摘下さい。

128 ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:06:05 ID:i.F5mlqI0
投下お疲れ様です。
咲勢が早くもリーチとは……

自分も投下させていただきます。

129忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:06:52 ID:i.F5mlqI0


 

 誰に会いたいの? 会いたいの?
 
 こころが持っている答えは
 
 ひとつ ふたつ たくさん?






 少女は震えていた。
 かたかたと、かたかたと。只でさえ小さなその体は、いつもより余計に小さく見えた。
 ついこの間までは表情の変化さえ多くなかったけれど、最近は微笑むことも増えてきた顔。
 
 ――蒼白に染まっている。額には冷たい汗が浮いて、今にも滴り落ちそうだ。
 ――歯はがちがちと不協和音を奏で、心臓は今にもはち切れそうなほどの躍動を見せている。
 
 不健康なリズムとスピードで脈打つ心の臓は、きっと自分の恐怖心の強さを表しているんだ――そう思った。
 仮にいま、自分の心臓が破裂してなくなってしまったとしても、きっと智乃は驚かなかっただろう。


 ホラー映画を見たことがある。
 勿論、自分から進んで見ようとしたわけじゃない。
 確かあれは、テレビで心霊映像の特集をやった翌日のことだったと思う。
 マヤがレンタルビデオ店でホラー映画のDVDを借りてきて、それを見ようという話になった。
 それで、皆で見たのだが。……正直な所を言えば、智乃には恐怖以前に疑問が勝る映画だった。
 それは実にありきたりな疑問。
 ホラー映画やパニック映画を一度でも見たことがあるなら、誰もが抱いたことのあるだろう感想。

 即ち、"自分ならもっと上手く立ち回れる"――自分なら、恐怖で動けなくなったりはしないはずだ。
 いくら下手に動けば命を失うかもしれない状況だとしても、止まっていては遅かれ早かれ死ぬだけだ。
 死を黙って待ち続けて、恐怖を最高潮まで引き立てられてから殺されるくらいなら、自分ならきちんと動く。
 自分なら、万一の時だって自分を見失わずにしっかりと行動できる。
 智乃は最後、顔を青褪めさせながら感想を語り合う二人に苦笑しつつ、そうして映画鑑賞を締め括ったのだったが。


 いざ実際にその立場へ置かれた彼女は、ピクリともその場から動けずにいた。
 このままではいけないと頭では分かっているにも関わらず、体がそれについて来てくれない。
 立ち上がろうとしても足は痺れてもいないのにガタガタと震え、もし歩きでもすればすぐに転んでしまいそう。
 無理もないだろう。誰も、今の智乃を笑うことは出来ないはずだ。
 
 香風智乃という少女は、普通の少女である。
 同学年の子どもに比べれば確かに大人びてはいるし、喫茶店の娘として接客能力だって備えている。
 けれど、彼女個人の人間性は――過ごしてきた人生は、あくまでも普通の範疇に収まる。
 例えば、先の"ルール説明"。
 見せしめとして少女が殺されたが、あの光景についてだってそうだ。

130忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:07:37 ID:i.F5mlqI0
 智乃は、人が殺される瞬間を見たことがない。
 怪しげな力を持つカードにだって心当たりはないし、摩訶不思議な魔法を使うことも出来ない。
 智乃が経験した不思議なことといえば精々、喋るウサギと一緒に暮らしている程度のものだ。
 朝起きて、学校へ行き、友達と話して、友達と遊んで――最近では下宿にやって来た年上の少女によって、その日常もずいぶんと賑やかに彩られて。お風呂に入ったら宿題を済ませ、ぬいぐるみと一緒に就寝する。
 そんな暮らしを送ってきた少女が、何の前触れもなく殺し合うことを強要され、目の前で人を惨殺されたのだ。
 ――これで正常でいられるわけがない。今も目を瞑れば、瞼の裏にあの惨状が再生されてしまう。

「う……」

 込み上げてくる嘔吐物を、どうにか喉元で堪え、押し戻す。
 荒い息を吐きながら、智乃は小動物のように周囲を見渡した。
 
「ラビット、ハウス……」

 ラビットハウス――
 見覚えのある光景だった。
 それ以上に、親しみのある、かけがえのない光景だった。

 自分が生まれ育ち、そして手伝ってきた喫茶店。
 昔はアルバイトの理世と自分と、マスコットのティッピーだけしかいなかったが、今では従業員が一人増え、マヤとメグ以外にもいろんな人が遊びに来てくれるようになった大切な店。
 空気も、樹の匂いも、かすかに残るコーヒーの香りも。
 五感全てが、これが本物のラビットハウスであると告げていた。
 智乃が正気を保てていたのは、ひとえに開始位置、最初に目を覚ました場所が此処であったからかもしれない。
 安心感。こんな状況だというのに、慣れ親しんだ店の内装が心を少しずつだが、確かに落ち着かせてくれる。
 
「ティッピー……? お父さん……?」

 智乃はいつの間にか、立ち上がっていた。
 そうだ、ここはラビットハウス。
 いつも通りの――わたし達のラビットハウス。
 
 でも、と智乃は思う。
 
 これは確かにラビットハウスだ。
 けれど、どうしてこれが此処にある?
 智乃はハッとなって、腕輪の端末を弄り始めた。
 使い方には少し手間取ったが、どうにか名簿と地図の出し方を把握する。
 まずは地図だ。会場の一覧図を見て――嫌な予感が、大きくなった。

 違う。
 こんな形の町を、私は知らない。
 ここは、私の住んでいる町じゃない――

「……っ」

 次は名簿へ手を動かした。
 そこには無情に、智乃の友人たちの名前が記されていた。
 心愛、理世、千夜、そして紗路。
 今や家族同然だったり、長い付き合いだったり、はたまた可愛がってもらったり。
 友好を育んできた人物たちも同じ目に遭っていることに心を痛め、マヤやメグの名前がないことに少し安堵した。

131忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:08:08 ID:i.F5mlqI0
「――お父さん……?」

 そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
 ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
 それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
 殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。

「――お父さん! ティッピー!」

 震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
 
 ――ラビットハウスは、ある。
 ――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
 
 二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
 ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
 なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
 人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
 彼女なら、そういうこともするのではないか。
 

 つまり、父とティッピーは……もう、とっくに――――


 カウンターの奥、智乃たち香風家の人間と下宿生の心愛が生活する居住空間へ智乃は向かう。
 足は自然と駆け足になっていた。そうだ。そんなことがあるわけがない。
 きっとこの奥に進んだなら、心配そうな顔をした父とティッピーが迎えてくれる筈なのだ。
 
 だってここはラビットハウス。
 私達の、日常の中心なんだから。

 そう思っているのに、智乃はいつからか、小さな果物ナイフを片手にしていた。
 これは彼女の支給品の一つである。
 異能のカードや、それに準ずる品物が多数存在するこの殺し合いでは決して当たりと呼べるものではない。
 これで岩は切れないし、ビームを止めることは出来ないし、剣と打ち合うことも出来ないだろう。
 
 しかし、人は殺せる。
 
 智乃にその認識はなかった。
 正しくは、そんな当たり前に意識を向けている余裕さえ今の彼女にはなかったのだ。
 半ば無意識的に手にしたナイフを片手に、彼女は居間へ急ぐ。
 そこには見知った顔があると信じて。


「お父――」


 リビングに繋がる扉へ手をかけ、一息に引いた。
 しかしその向こうに、過ごし慣れた居間の風景はない。
 壁があった。
 奇妙な模様をした壁だった。

132忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:08:46 ID:i.F5mlqI0
 ベースは白だが、それでも壁紙に使うような模様じゃない。
 それに、こんなところに壁があるわけもない。
 智乃は茫然とした顔で、その壁を見上げていき――そこで漸く、それが壁なんかではないのだと気付いた。


「貴様、参加者か?」


 それは、巨人だった。
 少なくとも小柄な上に、錯乱状態にある智乃にはそう見えた。
 日焼けした黒い肌と金髪に、太く凛々しい眉毛が特徴的だ。

 "巨人"は智乃の顔を覗き込むように姿勢を屈めさせ、目線を合わせてくる。
 だが、そんなことはどうでもよかった。
 智乃にとって重要だったのは、自分達の家に――自分と、父と、ティッピーと、心愛の家に。


「……? おい、貴様――」
「……あ……ぁ……」


 見知らぬ誰かが、それもこんな"悪そうな"人物が居たということ。それだけ。


「――――あ、あああぁぁぁああっっ!!!!」


 智乃はナイフを振り被る。
 そしてそのまま、振り下ろした。
 
 嫌な音がした。
 それで終わりだった。






 ――血が舞ったのを見た。


 ナイフを使って血を出したことは、智乃とて一度や二度じゃない。
 料理で使ったり、時には工作で使ったり。
 様々な理由で使っていれば、不注意で手を切ってしまうこともままある。
 
 しかし、今回のものは違う。
 不注意なんかじゃない。
 故意だ。
 故意で、誰かを傷付ける為に――殺す為に、手にしたナイフを振り下ろしたのだ。
 "巨人"の額が、血に染まっていた。

133忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:09:17 ID:i.F5mlqI0
「え」

 智乃は一歩、二歩と後退りをする。
 それから、ぺたんと座り込んでしまった。
 バランス感覚を失ったように、べたんと。
 
「え……」

 智乃は、自分の握ったナイフに視線を落とす。
 ――紅い。――赤い。
 ――朱い。――赫い。
 ――あかい血が、誤魔化しようもなくべっとりとこびり付いていた。
 滴り落ちる血の滴が見慣れた家の床に染みを作っていく。やがて刃から柄を伝い、智乃の手にそれが付着した。

「ひっ!」

 思わず、ナイフを取り落とした。
 水や油なんかとは断じて違うぬるぬるとした感触と、鼻孔を擽る生臭さが、これが現実のことだと告げている。
 いっそ終始錯乱できていれば、彼女にとってはまだ幸いだったのかもしれない。
 今のは仕方のないことだった、正当防衛だと自己を正当化出来る自分勝手さがあれば、早々にこの場を立ち去るという選択肢を取ることも出来たかもしれない。
 いずれにせよ、心にダメージを受けるようなことはなかったろう。形や善悪はどうあれだ。

 だが、香風智乃は身勝手な人間ではなかった。
 もう一つ言うなら、香風智乃は冷静な人間であった。
 
 滴り落ちた血液が床とぶつかる音と、手で触れた血糊の感触が智乃を冷静にさせた。
 目の前にあるのは、言い逃れのしようもない凶行の痕跡だ。
 智乃は身勝手な人間ではないから、相手に責任を擦り付けて自分を正当化出来なかった。
 相手は何もしていない。ただ自分が勝手に錯乱して、無抵抗の相手を斬った。
 さっき起こったことはそれだけだ。――正当防衛? そんな理屈、成り立つ筈もない。

「あ……あ……!」

 そうして智乃は理解する。理解してしまう。
 逃避すればいいものを、事実をしかと受け止め、把握してしまうのだ。

 ――人を殺した。
 この手で、無抵抗な相手を殺した。
 ナイフを握って、
 その手を持ち上げ、
 姿勢を低くしていた相手の頭を狙って、
 ナイフを振り落とした。

「う……お、ぇええっ」

 智乃は今度こそ堪え切れずに嘔吐した。
 未消化の朝食と胃液が、零れた血を塗り潰していく。
 瞳からは滂沱のごとく涙が溢れ出す。
 罪悪感と自分への嫌悪感が、瞬時に恐怖を押し潰した。

 彼女は震える瞳で、自分が殺した"巨人"を見る。

134忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:09:51 ID:i.F5mlqI0
 ゆっくりと頭を上げて、その凶行の証を見る。
 血は、彼の居た場所へ近付くにつれ量が多くなっていく。
 そして遂に、自身の手で殺めた死体を認識せんとして――智乃は、一瞬自分の心臓が確かに停止する錯覚を覚えた。


「おい」


 そこには。
 

「この俺が――本能字学園風紀部委員長、蟇郡苛が――その程度で死ぬと思ったか」


 壁が。
 今さっき、自分が切り裂いたはずの"壁"が。
 頭から血を流しながら、されど傷を抑えようともせずに、立っていた。





 蟇郡苛は激怒していた。
 それは目の前で怯えた少女に対しての怒りではない。
 繭を名乗った少女。奇怪なカードを使い、人を殺した悪魔の様な少女。
 大半の参加者にとって恐怖の象徴であろう彼女は、しかし蟇郡にとっては異なっていた。

 ――よくも。

 彼は忠臣である。
 鬼龍院財閥のお嬢様であり、本能字学園の生徒会長を務める支配者、鬼龍院皐月に忠誠を誓った臣下である。
 彼女との劇的な出会いは一瞬たりとも忘れることはなかったし、望まれればあの時のやり取りを一言一句言い間違うことなく正確に復唱することだって出来る自信があった。
 そんな蟇郡だからこそ、許せない。
 人を殺したこと? 違う。
 多くの人間を不当に巻き込み、犬畜生のように殺し合うのを強要したこと? 違う。

 ――よくも。

 蟇郡は無論、そこにも怒りを抱いている。
 彼ら本能字学園四天王もまた、鬼龍院羅暁の目論見を打ち砕くべく団結し、武を唱えた身だ。
 顔も名前も知らない人間一人であれ、決して命を軽んじることを良しとしてなどいない。
 ましてそんな悪趣味な光景を皐月に見届けさせるなど、無礼千万である。
 だが、そうではない。蟇郡苛という男を真に激怒させたのは、この"腕輪"の存在だった。

 ――よくも、皐月様にこれほどの狼藉を働いてくれたな。

 腕輪とは言っているが、要するにこれがある限り、生殺与奪は繭なる娘に握られているということ。
 そしてこれは参加者個人の手では外せない。
 ならばそれは首輪と同じだろうと蟇郡は考える。
 犬は、自分の手で首輪を外せない。そして犬の生殺与奪は、首輪のリードを握る飼い主が常に握っているのだ。


(皐月様を犬と同列に扱う無礼……断じて許さん! この蟇郡、これほどの屈辱を味わったのは初めてだ……!!)

135忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:10:27 ID:i.F5mlqI0


 皐月の被る屈辱は、蟇郡にとっては彼女の数倍もの屈辱である。
 だから彼は今、過去かつてないほどに激怒していた。
 只でさえ悪い人相は、そんな精神状態なこともあって当社比三割増しくらいに悪くなっていたのだ。
 
 そこに錯乱した幼い少女がやって来る。
 少女は武器を持っている。
 そうなれば、何が起こるかは想像に難くないだろう。
 あら不思議、お手軽殺人事件の完成である。
 一つだけ異なることがあるとすれば、この蟇郡苛という男――"普通"の人生を送ってきた人間ではないということ。

 
 智乃の振るったナイフは、確かに蟇郡の頭を捉えた。 
 しかしだ。
 何の心得もない素人、それも幼い娘が錯乱しながらナイフを振り回した所で、その威力はたかが知れている。
 もし蟇郡が顔を覗き込もうとしていなければ、彼の纏う"極制服"に阻まれ、傷一つ付きはしなかっただろう。

 それに加え、蟇郡は頑強な男である。
 今は親戚の鉄工所で作って貰ったアイテムは持っていなかったが、それでもこの程度ならば恐れるに足らない。
 傷の見た目はそこそこ派手だったが、命どころか行動への別条すら皆無だった。
 だがそう、見た目だけはそれなりなのである。
 額を左から右目の下辺りまで、ナイフで切り裂かれた傷が斜め一直線に刻まれている。
 出血も、少女一人に人殺しをしたと錯覚させる程度にはしていた。

「ひ、ひっ……!」
「ええい、そう怯えるな! 貴様を取って食うつもりはない!!」

 危害を受けたのは紛れもなく蟇郡の方なのだが、相手は明らかに一般人だ。
 極制服など勿論纏ってはいないし、ナイフを使う動きも不慣れ。
 ――まず間違いなく、この殺し合いに不運にも巻き込まれた一介の少女と見て間違いないだろう。
 状況が状況だ。錯乱して斬り付けられた程度で激昂するほど蟇郡は器の小さい人間ではなかったし、第一今のは見方を変えれば不注意過ぎた自分にも責任がないとは言えない。

「傷も浅い! この程度、俺ならば唾でも付けておけば治るわ!
 ……それよりもだ。貴様、先程"お父さん"と言いかけていたようだが――この家の住人か?」
「……は、はい……」
「そうか……ならば謝罪しよう。些か考えが足りなかった」

 傷から滲む血を片手で拭いながら、蟇郡は智乃へと謝罪する。
 それに智乃はきょとんとした顔をした。
 彼女にしてみれば、相手は殺しかけた相手だ。
 反撃に遭うのは確実だとばかり思っていたから、この反応には思わず面食らう。
 そして、すぐに自分のしなければならないことに気付いた。

「……私の方こそ、ごめんなさい!」
「貴様が謝る必要はない」
「そんな……でも、私、あなたを殺しそうになって――」
「言ったろう。この蟇郡、錯乱した子女の刃で討ち取られるほど軟な男ではない!
 仮に先の一撃で俺が死んだのだとすれば、どの道その程度では皐月様をお守りするなど到底不可能な話だ。
 皐月様を守れぬ俺など、最早俺ではない。死んで六道輪廻の旅にでも赴いた方が余程有益である!!」

 凛と喝破する蟇郡。
 その大声にびくりと智乃は体を震わせたが、そこに敵意がないことは理解できた。
 ――ついでに、今ので大分頭も冷えた。

136忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:12:18 ID:i.F5mlqI0
「それに、俺が怒っているのは主催者――あの繭なる女だ」

 主催者、という単語を聞き、智乃は再び"見せしめ"が殺される瞬間を想起する。
 
「貴様は、奴が許せるか?」
「私は……」
「大方、貴様の友も巻き込まれているのだろう。
 ああいった手合いが全くの無作為で参加者を選出するとは思えん。
 ……悪趣味なことだがな。少なくとも俺には許せん。皐月様にこのような仕打ちを働いた挙句の鬼畜の所業、断じて捨て置けるものではないと実に憤慨している」

 心愛たちは、ただ普通に暮らしていただけだ。
 何も悪いことなんてしていない。
 そんな彼女たちが、きっと今頃は恐怖し、怯え、悲しんでいる。
 そう考えると――智乃の中にも、恐怖の他に湧き上がってくる感情があった。

「ません……」

 それは、温厚な彼女にしてはごく珍しい感情。
 彼女自身、これほどまでに強くその感情を抱いたのは初めてだった。
 友達との喧嘩など比べ物にすらならない。
 
「許せません……!」

 許せない。
 人の命を弄び、挙句罪もない人々を――自分の大切な友人を巻き込みせせら笑っている繭が許せない。
 智乃は今、確かに怒っていた。
 蟇郡の言葉は彼女の怒りを煽り立てるようなものであったが、実際、彼はそれを狙っていたのだ。

「ならば、よし」

 力なき者がいることは致し方ないことだ。
 誰もが極制服を纏って戦えるわけでも、あの繭のように摩訶不思議な力を使えるわけでもない。
 むしろそういった者はごく少数派だろう。大概はこの少女のように、無力で平凡な人間。
 それでも、心を強く保つことは出来る。
 恐怖に慄き、怯え続けるだけではなく――強い怒りを燃やし、それを繭への反逆の狼煙とする気概があれば。

 それは、単なる服を着た豚ではない。
 確たる志を持ち、明日へ向かわんとする戦士である。


「あ――あのっ」
「?」
「私は、チノ――香風智乃といいます。
 蟇郡さんが大丈夫なことは分かりましたが……一応、手当てだけはさせてください」
「分からん奴だな。これしきの手傷、唾でも付けておけば治ると……」
「させてください」


 台詞を遮って進言してくる智乃に、さしもの蟇郡も反論ができない。
 こういう強情さを発揮してくる奴には覚えがあった。
 満艦飾マコ。力はないが、しかし"なんだかわからないもの"を秘めた劣等生。
 だから蟇郡は、こういう時には素直に頷いておくのが賢明だと知っている。

137忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:12:50 ID:i.F5mlqI0


「……好きにするがいい」
「ありがとうございます。では」


 少し微笑んで、智乃は室内の救急箱を持ってくると、手当てへ取りかかりはじめた。
 蟇郡は手慣れたものだと内心感心していたが、当の智乃はといえばおっかなびっくりである。
 保健の授業で習った知識を必死に思い出しながら、丁寧に止血していく。
 それに甘んじながら、蟇郡はふと気が付いた。

「香風。貴様、この家の娘なのだったな? 此処は店か?」
「喫茶店です。名前は、ラビットハウス」
「そうか――茶、か……」

 そういえば、こういった大きな闘いの際に、揃三蔵――皐月の執事が入れる茶を飲まないのは珍しい。
 そう思い、蟇郡は呟いた。
 その声を拾った智乃は、ふと彼へ提案する。

「……飲みますか?」
「なに?」
「お茶じゃなくて、コーヒーですけど」

 ここはラビットハウス。
 智乃の働く喫茶店だ。
 何も全部が全部もぬけの殻というわけでもないだろう。
 コーヒーメーカーと豆、コップくらいはあるはずだ。

「……貰おうか」

 せっかくの提案を蹴り飛ばすのもどうかという話。
 蟇郡は毒気を抜かれた思いで、ふうと溜息を吐き出した。

138忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:13:20 ID:i.F5mlqI0


【G-7/ラビットハウス/一日目・深夜】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:果物ナイフ@現実
     黒カード:不明支給品0〜2枚、救急箱(現地調達)
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:蟇郡さんに、コーヒーを淹れる
   2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです


【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置中、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
     黒カード:なし
 [思考・行動]
基本方針:主催打倒。
   1:コーヒーか……
   2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
   3:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです


支給品説明

【果物ナイフ@現実】
香風智乃に支給。
その名の通り、果物を切るのに適した小型のナイフ。

【三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル】
蟇郡苛に本人支給。
蟇郡が着用する三ツ星極制服で、これは最終決戦のために用意された最後の戦闘形態。
全身の布が皐月の縛斬と同等の強度を持っており文字通り『生きた盾』として機能する。

139名無しさん:2015/07/29(水) 03:16:10 ID:U4h/rEVE0
蒲郡先輩にすごく安心する

140 ◆Oe2sr89X.U:2015/07/29(水) 03:16:11 ID:i.F5mlqI0
以上で投下終了です。
ですが、投下中に呼称のミスに気付いたのでそこだけ先んじて修正版を投下します。


「――お父さん……?」

 そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
 ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
 それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
 殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。

「――お父さん! おじいちゃん!」

 震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
 
 ――ラビットハウスは、ある。
 ――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
 
 二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
 ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
 なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
 人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
 彼女なら、そういうこともするのではないか。
 

 つまり、父とティッピー/おじいちゃんは……もう、とっくに――――


>
 修正箇所は以上です。お目汚し失礼しました。

141名無しさん:2015/07/29(水) 09:05:54 ID:KtSxH2Ek0
投下乙です

>輝夜の城で踊りたい

【悲報】咲勢、早くも池田単騎
また少女が殺し合いに乗ってしまった……
そしてスパウザーとビームサーベルで笑ったけどよく考えりゃかなりの当たりだよねサーベル


>忘れられないアンビリーバブル

智乃は暗黒面に落ちずにすんだか……
保護者も蟇郡先輩だし一安心
やっと今後に期待できるコンビが出来た

142名無しさん:2015/07/29(水) 13:48:15 ID:4GI4UGRw0
デブネキがスピリチュアルに殺し合いに乗ったか…これは強い

143 ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:10:50 ID:Vyha515w0
予約スレの方ではきちんとカウントされていたようなので投下します

144ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:13:20 ID:Vyha515w0
窓に映る月と星々。だが、それに対して感傷に浸る余裕は全くなかった。

とんでもないことに巻き込まれてしまった。
最初に土方十四郎が抱いた感情は至極まっとうなものである。
目が覚めたら知らない場所。突然言い渡された「殺し合い」。
気がついたらここはやけに馬鹿でかい建物の中の一室。
部屋を出ると、『音ノ木坂学院文化祭のお知らせ』とか様々な掲示物が壁沿いに貼られている。学院、ということは学び舎なのだろう。

今自分が置かれている現状が悪い夢だ、という考えはとうに捨てた。
右手首に巻かれている腕輪が、夢ではないという現実を嫌と言うほど見せ付けてくる。
自分は真選組、いわば警察だ。
参加者を殺して生き残るだなんてふざけた話、飲み込むつもりはない。
無論防衛となれば殺すのも已む無しと考えている。
だが、アーミラとかいうのが殺され、カードに吸い込まれた――あれを見る限り、この空間では常識は通用しないと考えていい。
幾ら何度も修羅場を掻い潜ってきた土方といえど、ここまで酷いものはなかったと溜息をつく。

ざっと名簿を確認する限り、坂田銀時をはじめとした知り合いが何人かいる。
と、同時に。

「あいつもか・・・・・・」

少なくとも十四郎にとって一番の頭痛の種は、神威の存在。
彼は自分の知る限りでは一番の危険人物。
好戦的な彼は、ひとたびスイッチが入れば周りの者を次々殺してゆくだろう。
ここが殺し合いの場だというのなら尚更だ。

とにかくこういう時に必要なのは仲間だ。
神威のような者もこの殺し合いに参加しているということは、もしかしたら他にも異様な強さを持った者が参加していてもおかしくはない。
だが、グループを組めば話は変わる。

145ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:14:47 ID:Vyha515w0
いつも吸っている煙草が見当たらないことに不満を覚えつつ、とりあえず道具を確かめる。確か黒い「ランダムカード」に入ってる筈・・・・・・。

「何だこれは・・・・・・」

――出てきたのは、どうみても何の変哲もない、着物を着た人形だった。
カードを腕輪から抜くと、人形が消えると同時に名前が浮かび上がってきた。

こまぐるみ(お正月バージョン)・・・・・・。

「何でこんなものあるんだオイ! どう考えても殺し合いと全く関係ないぞ!? 
 何か仕込んでる様子も全くないし、完全にハズレ引いちまったじゃねーか!」

カードを思わず地面に叩き付ける。これはあまりにも幸先が悪い。

「しかもお正月バージョンって何!? もう年あけてからだいぶ経ってるし!? 
 全くめでたくねーよこんなもの!」
ニコチン切れもあって八つ当たりが激しくなっているが、だからといって現状が解決するわけでもない。

一応カードは拾っておき、次のカードを確認する。
残りが武器でなかったらどうしようか。
武器を持った参加者と合流出来るという保障はどこにもない。最悪ただの足手まといになる可能性も否めない。
可能なら扱い慣れている刀剣類であって欲しいと2枚目を出したのと、廊下の方から「あら?」と声を掛けられたのはほぼ同時だった。


「てめーは・・・・・・?」

十四郎が振り向くと、先ほどまで居た教室とは別の教室から1人の少女が出てきた。
黒髪で、白い花の髪飾りをしている。
身長は低く、知り合いの中だと志村新八あたりと同年代だろうか。

「最初に聞く。てめーは殺し合いに乗っているか否か」

返答次第では即座に武器を取り出すつもりで尋ねる。

146ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:15:27 ID:Vyha515w0
「大丈夫よ。そんなことよりあなたは? 私は宇治松千夜」
「土方十四郎・・・・・・」

互いに軽く自己紹介を済ませ、しばらく顔を見合わせて様子を伺う。
数十秒の沈黙が過ぎ、千夜が口を開いた。

「・・・・・・あなたはどうするの?」
「こんなふざけた遊戯をとっとと終わらせる。
 誰かに攻撃されれば反撃はするが、こっちから殺して回る気は今んとこねーよ」
「そう、それなら良かったわ。あなた、面白そうな人だし」
「なんだと小娘が!」

ふふ、と微笑む千夜を生意気な野郎だと思いつつも、ひとまず安心出来る人間と出会えたのは幸いとしておこう。
そこで彼女に話を持ちかけた。

「てめー、俺と一緒に来る気、あるか?」

え? と返す千夜に、こう続ける。

「一応元居た場所じゃあ俺は警察やってたんでね・・・・・・
 お嬢さんの護衛くらいなら、引き受けてやるよ。
 それに、仲間ってのは多い方がいいもんだ」
「あら嬉しい。私も会いたい人がいるし・・・・・・。
 それじゃお願いしますね〜、ドシロートさん」
「十四郎だ馬鹿! せめて土方と呼べ! 一発ぶん殴ってやろうか・・・・・・」

痛いのは嫌よ〜 とにこやかに返す千夜。
ともかく、まずはいざと言う時に素早く動けるようにこの建物を出よう。
屋上があるのならそこでもいいのだが、今はまだのんびりしていられない。
支給品の確認は、その後でもいいだろう。

* * *

147ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:16:35 ID:Vyha515w0
宇治松千夜のゲーム開始地点は、土方のスタート地点から2つ隣の教室。
制服を着ていたことから、授業中に寝てしまってそのままこんな夜中になったのかと錯覚した。
だが通っている高校とは明らかに違う風景が、そうではないと教えてくれた。
手元にあった黒いカードの中身を取り出してみると、出てきたのは拳銃。
カードには「ベレッタ92及び予備弾倉」と浮かび上がる。

・・・・・・千夜の顔はこれを見るなり青ざめ、即座にカードの中にしまった。
友人である天々座理世のコレクションのモデルガンの1つだと決め付け、あくまでこれが本物の銃であることを認めなかった。
認めてしまえば、この殺し合いが夢やタチの悪いドッキリではないという、『現実』であるということを許してしまうから。
名簿には、千夜以外にも保登心愛たち4人の知り合いが載っている。
どんなに頑張っても、5人のうち4人は確実に死ぬ。
そんなことを、認めたくはなかった。

ふと、廊下の方から聞こえてきた誰かがツッコミを入れる声。
彼女は普段から色んな形でボケては誰かにツッコミを入れてもらい、それを日常風景の1つとしている。
廊下に出て出会った土方十四郎のツッコミはかなり鋭く、割とすんなり打ち解けることも出来た。
名簿にあった見知った名前、友人の持ち物、そしてツッコミを入れてくれる人。
これらの要因が、彼女に現実逃避への一歩を踏み出させてしまったのである。
これは何かの間違いだ、朝にもなれば元の生活に戻れる、と。


宇治松千夜は、殺し合いという現実を直視していない。
それがどんな運命を招くかなど、微塵にも考えようとはしなかった。

148ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ  ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:17:14 ID:Vyha515w0
【A-2/音ノ木坂学院/深夜】

 【土方十四郎@銀魂】
 [状態]:健康、煙草がないことに若干の苛立ち
 [服装]:真選組の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより
黒カード:不明支給品1〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
   1: 千夜の護衛をしつつ、更に仲間を集める
   2: 神威には警戒

 【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:健康、現実逃避
 [服装]:高校の制服
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚
 [思考・行動]
基本方針: 土方と共に行動、心愛たちに会いたい
   1: 十四郎さんって面白い人ね〜♪
   2: これは夢か何かの間違いだ
[備考]:ベレッタを天々座理世のコレクションのモデルガンだと思い込んでいます。

支給品説明
【こまぐるみ(お正月バージョン)@のんのんびより】
参加者の1人である一条蛍が、越谷小鞠を模して作った人形・・・・・・のお正月バージョン。

【ベレッタ92及び予備弾倉@現実】
世界中の警察や軍隊で幅広く使われている拳銃。支給された予備弾倉は3つ。

149 ◆DGGi/wycYo:2015/07/29(水) 22:18:30 ID:Vyha515w0
投下を終了します。

150名無しさん:2015/07/29(水) 22:29:26 ID:uyxJnYXI0
乙です
うん、こういう逃避する人っていますよね、表面だけなら微笑ましいやり取りなのに
土方さんがお花畑の餌食にならない事を祈る
それと予約見逃してごめんなさい

151名無しさん:2015/07/30(木) 00:37:21 ID:???0
総合板の方に本スレ(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1438182076/)を建てたので今後、本投下はそちらにお願いします

そして◆7fqukHNUPM氏の「その嶺上(リンシャン)は満開」を代理投下する際に、環境の違いから花の文字が文字化けしてしまった事をここで謝罪しておきます
申し訳ありませんでした

152名無しさん:2015/07/30(木) 00:51:48 ID:uyxJnYXI0
現在位置のMAP 4話まで更新しました
ローカルルールの現在位置をクリックすれば見れます
ttp://imgur.com/RcIQp9A

153名無しさん:2015/07/30(木) 01:10:16 ID:4j0v9N4w0
>>152
おお、乙です
ただ雑談スレに投下したほうがかもですね

154 ◆7fqukHNUPM:2015/07/30(木) 01:13:43 ID:BdTC6OQA0
>>151
こちらこそ文字化けの可能性を考慮しておりませんでした
代理投下ありがとうございます

そして、今さらですが「その嶺上(リンシャン)は満開」において本来挿入すべきだった文章の抜けがありました
本スレの方に修正版を投下してまいります

155 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:04:34 ID:d5cZUgas0
予約分を投下します

156 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:06:35 ID:d5cZUgas0
「――――うわああああああああああああ!!!!?」

江戸時代の家屋を匂わせる和風の部屋の中、ソファに全身を乗せていた矢澤にこは意識が覚醒するとともに跳び起きた。
息で肩を揺らしながら、周囲を見渡す。
デスクの上には『糖分』の二文字が額に飾られている。なぜ『糖分』にする必要があったのか意味が分からない。
目の前には膝丈くらいの高さの机、向かい側にはもう一つのソファがある。
そこから少し目線を逸らすと、筒の上に見ているとこっちまでやる気をなくしそうな表情をした顔をちょこんと乗せた、手が生えている変な置物があった。

「ゆ、床が崩れて――私、落ちて、ない?」

この場で目覚める前に起きたことを思い返す。
いつの間にか白い部屋にいたと思ったら髪の毛がもじゃもじゃした女の子がいきなり『殺し合いをしてもらう』なんて言い出した。
そしたら同じもじゃもじゃアフロの男の人が抵抗して、隣にいた綺麗な人が翼を生やして猛スピードで飛んで――。
――待って。待って、ちょっと待って。

「…でも、夢じゃないのよね」

俯きながら暗い声色でつぶやいた。
戦争とは無縁のスクールアイドルのにこにとって、
それは『頭がどうにかなりそうだった』で片づけられることではなかった。
そんなもの夢か幻だろうと自分で自分を鼻で笑ってやりたいが、にこの目に映る見覚えのない部屋がこれは現実だと訴えていた。

「そうだ!白いカード…」

ふと、にこはある不安から殺し合いを強いた少女の言っていた腕輪とカードのことを思い出し、自分の腕を見た。
確か、あの少女は白いカードには必要な情報が「願ったら表示される」といっていた。
にこは真っ白な長方形に向かって、この狂ったゲームに巻き込まれた者達の一覧を映すよう念じてみる。
夢で終わってほしい…そう願っていたことが全て現実なのだとしたら、あの白い部屋で見た――。



高坂穂乃果。南ことり。絢瀬絵里。東條希。



やはり現実だった。
あの白い部屋にいた、にこのかけがえのない友達の名が、無慈悲にも突きつけられた。

1579人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:07:44 ID:d5cZUgas0

「……黒いカード…黒いカードには何が入っているのかしら」

あまりにも残酷な事実に、にこは何も考えられなかった。
この殺し合いが招く最悪の事態のこと考えたくなくて、そのことをできるだけ考えないようにした。
詰まる所、現実逃避だ。
手始めに、ソファに腰かけ、黒いカードを一枚手に取って『出てこい』と念じてみた。

「ヒィッ!?」

出てきた物は、時代劇でしか見たことのなかった刀だった。
にこは自分が殺し合いの渦中にいることを改めて認識し、短く悲鳴を上げる。
おそるおそる、鞘から刀を抜いてみる。どうやら正真正銘本物のようだ。
その刀身は部屋の明かりを反射して光り輝いており、切れ味も相当なものだとにこの素人目から見てもわかる。
「うう…」と声を上げながら、刀を梢にしまう。

「刀って案外重いのね……って何これ?」

現実から目を背けて何気ない感想を漏らしていると、黒いカードから刀と一緒にある物が出ていたことに気付く。

「…イヤホン?」

にこもよく見慣れている、音楽プレーヤーの再生には欠かせないあのイヤホンだ。
黒いカードは1枚しか使っていない。一緒に出てきたことは間違いないだろう。
スクールアイドルのにこからしてみればイヤホンと刀の組み合わせなど異色以外の何物でもない。
にこは怪しく思い、顔を近づけて刀をよく見てみると――

「…何で刀にイヤホン入れる穴があんの?」

柄の部分にイヤホンジャックがあった。


◆ ◆ ◆


イヤホンを通して、曲がにこの耳に入り込んでくる。
そのイヤホンは刀の柄にあるイヤホンジャックに繋がれていた。
どうやらこの刀は驚くべきことに音楽プレーヤーを内蔵しているらしい。
こんな刀にどんな曲が入っているのか。
好奇心半分、現実逃避欲求半分でイヤホンを両耳に、音楽を聴いてみることにした。
明るい曲調の前奏がエレキギターで奏でられ、女の人の歌声が聞こえてくる。

1589人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:08:17 ID:d5cZUgas0


怖くなんかないもん だってあなたがいるから
もう覚悟は決めたよ だから引き返したりしない


この人もアイドルをやっているのだろうか。


当たり障りのない世界 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ だからまばたきするな!
及び腰の偉い人 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ なれてくると危ない!


楽しそうに歌う声を聞いているとμ'sのことを否が応にも思い出してしまう。
μ'sがあったからこそ、にこは諦めかけていたスクールアイドルを続けることができた。
高坂穂乃果。園田海未。南ことり。西木野真姫。星空凛。小泉花陽。絢瀬絵里。東條希。
そして、矢澤にこ。この9人は、にこにとって奇跡以外の何物でもなかった。


さあ、規制なんか振り払い、どこまでもいこう
……見たことのない新しい世界へ


だから、そんな奇跡をこんなわけの分からない殺し合いで壊されたくない。
この9人は誰も欠けてはいけない。9人揃って初めてμ'sなのだ。


放送コードがなんぼのもんじゃい! ブレーキなんて必要ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! いつも心に白装束
放送コードがなんぼのもんじゃい! 始末書差しかえ関係ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! 後戻りはできない


怖い。悲しい。辛い。けれど、この曲を聴いていると、歩き出すためにソファから立ち上がれるくらいの勇気はもらえた気がした。

「なんぼのもんじゃーい……」

歌の練習をしていたときのことを思いながら、少し曲に合わせて歌ってみた。
矢澤にこも、音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ's』の一員なのだ。




「――怖いものは××××《ピー》 だってあの人きち××《ピー》だから……!?」

この曲も2番目に入ったのだが、よくよく聴いていると…何かがいけないような気がした。

「ちょっと待てェェェ!!何でこの曲放送コードだとか××××《ピー》だとかきち××《ピー》だとか××《ピー》みたいな単語歌詞に入ってるのよ!!この曲作った人頭おかしいんじゃないの!?」

にこはソファから立ち上がってイヤホンを乱暴に外した。
思えば1番目の歌詞にもくそくらえとかアイドルにしては割と汚い言葉を使っていた。
それとも、この歌を歌うアイドルはそういうキャラ作りをしているのだろうか。

とにかく、ここでじっとしているわけにもいかない。
にこの役に立つかはわからないが、せめてもの護身用にと刀をカードに戻さず持ち歩くことに決めた。
イヤホンをポケットに入れ、手こずりながらも刀をようやく胸の高さまで抱えることができた。
今度は立ち上がるだけではなく、一歩を踏み出す番だ。
にこが意を決し歩を踏み出した瞬間―――

1599人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:09:03 ID:d5cZUgas0




「お通ちゃんんん!!」




「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

ガラガラガラと玄関の引き戸を勢いよく開けて入ってきたのは、袴姿とメガネくらいしか特に特徴のなさそうな地味な少年であった。
突然の出来事にただでさえ高まっていた緊張も最高潮になり、思わず叫んでしまった。

「……」
「……」

ひとしきりの悲鳴が鳴り終わると、今度は沈黙が空間を支配する。
にこは刀を携えたまま固まっている。
少年もどうしていいかわからずその場から動かなかったが、少年の泳いでいた目線が刀を捉えた。

「あ、あの、これは」

刀を凝視する少年を見てなんとなく状況を察したにこは釈明するべくストップしてしまった頭を動かそうとする。
刀を持つ手は震えており、非常に危なっかしい。

「い、いや!違うんです!万事屋の中からお通ちゃんの歌が聞こえたからまさかと思って…と、とにかく僕は乗ってませんから!あなたを襲おうとも思ってませんから!ラブでライブなランデヴーなんてしませんからァァァ!!」

先に釈明したのは少年の方だった。
言葉からは必死さが伝わってきた。

「…ラブでライブなランデヴーって何?」


◆ ◆ ◆


少年の名は志村新八といった。
坂田銀時の営む「万事屋銀ちゃん」で働く、かぶき町における貴重な常識人だ。
外見的特徴はメガネ以外にこれといってない。ぶっちゃけ地味である。
そんな地味なメガネもとい志村新八も、この狂った殺し合いを強要された者たちの一人なのだ。

新八の意識が暗転してから初めて目覚めた場所は、地図によるとF-7らしかった。
なぜそんなことがわかるのかというと、新八の目と鼻の先には慣れ親しんだはずの万事屋銀ちゃんの看板があったからだ。
1階にはスナックお登勢もある。

なんでこんなところに万事屋が…とは思ったが、白い部屋での一件を思うと何があってもおかしくない。
女性が翼を生やして少女に立ち向かったはいいものの、少女が召喚した竜の手によってあっさりと返り討ちにされてしまった。
というか何なんだよあの反則技。なんであの主催者カードバトルしてんの!?しかもいきなりエクゾディアみたく腕だけ召喚したよ!!1ターン目からエクソディアって…最初からクライマックスってレベルじゃねーぞ!!
ってなんでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲まで地図にあんだよ!!あれ実在したの!?というかあんな卑猥な形したモン集めるとかあの主催者どんな趣味してんだ!!

1609人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:09:33 ID:d5cZUgas0

…いや、ツッコんでいても仕方がない。
あの少女の話によると、身体が死ぬと魂がこの白いカードに封印されるという。
このルールは単なる死への恐怖とは別の恐怖を煽るだろう、と新八は思った。
あの世にもいけず、永遠にカードの中に閉じ込められるのだ。考えただけで恐ろしい。

名簿にはもう目を通している。
僕の知る人物は銀さん、神楽ちゃん、土方さん、桂さん、長谷川さん、そして神威。
前の4人に関しては簡単に死ぬことはないと思う。
長谷川さんも悪運は妙に強いところがあるので大丈夫だろう。
しかし、問題は神楽ちゃんのお兄さんでもある神威だ。
彼が一度戦闘をすればそこら中が焼け野原になってしまう。
とにかく、神威以外の5人は僕としても信頼できる人物なので、できるだけ早く合流したい。

目の前にある万事屋には、明かりがついていた。
ということは、誰かが中にいるということだ。
僕は神威以外の人物と出くわすことを願いながら万事屋に近づいて――



「――それで、好きなアイドルの曲を歌っていたのを盗み聞きして飛んで入ってきたってわけ?」
「盗み聞きって…まぁ事実だけど。お通ちゃんまでいるのかと思ったらいてもたってもいられなくって。名簿に見落としがあるかもしれないし」
「悪かったわね。好きなアイドルじゃなくって」

にこと新八は向かい合ってソファに腰かけていた。
新八はどうやら、寺門通というアイドルが殺し合いに巻き込まれていると勘違いしていたらしい。
新八も大半の参加者と同じく恐怖心を拭えていなかったため、にこの刀を見てビビッてしまい、
自分は殺し合いに乗ってないことを何とか伝えようとした結果があのセリフだった。

ラブでライブなランデヴーてどういう意味だよお前…と新八は自分で自分にツッコミを入れたかった。
万事屋に飛び入ったものの、そこにいたのは自分より小柄な、どう見ても年下の少女だった。
よりにもよって年端もいかない少女に向かって言ってしまった。

「でも、本当に名前も知らないのかい?」
「寺門通なんていうトップアイドルなんて聞いたこともないし、そんな有名なアイドルだったらにこが知らないはずないわ。江戸も万事屋も知らない」

あれから何とか落ち着きを取り戻した二人は互いのことを話した。
当然のことながら、話が噛み合わない。
江戸で寺門通を知らないとなれば相手を鼻フックデストロイヤーファイナルドリームの刑に処すところだが、
今回ばかりは事情が違い、相手は年下の少女なので新八はさして気にしない。

にこから見ると、この新八という地味なメガネが袴姿だということにもツッコみたかったが、
いざ話してみれば江戸だとか侍だとか天人だとか、わけのわからないことばかり話してくる。
にこの世界では、江戸や侍は歴史の授業と時代劇で触れるくらいでこの世に存在していないのだから無理もないだろう。
天人――宇宙人に関してはSF映画くらいでしか知らない。

「僕もにこちゃんの言ってる『みゅーず』は知らないなぁ。石鹸をPRするためのアイドルでもないんだよね?」
「いや、石鹸じゃないから。スクールアイドルだから」
「じゃあ、B'zの姉妹グループとか?」
「いやそれだとμ'zだから。μ'zじゃなくてμ'sだから」

新八も新八で、秋葉原やμ'sやという言葉を聞いて頭上に疑問符を浮かべていた。
ラブライブ!という言葉を聞いてとても気まずそうな顔をしていた。
一応、にこの熱弁により新八にもスクールアイドルは理解することができた。
テラコヤアイドルとかいったら何故か怒られたが。
結局、二人がきっちりと理解できたのは互いのアイドル事情と住む世界が違うことくらいであった。

1619人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:12:31 ID:d5cZUgas0

「…あの、一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「その寺門通ってどんなアイドルなの?」

なぜにこがそれを聞いたのかというと、単なる興味だ。
たとえ住む世界が違っても、歌って踊れるアイドルがいるということは共通している。
新八の世界の話を聞いていると、江戸のトップアイドルについて知りたくなったのだ。

「どんなアイドルっていうと…そうだね、歌って踊れて…あと、どんな逆境にもめげずに頑張れる強い精神を持ってるアイドルの中のアイドルだよ!
あとは、語尾に何か言葉を繋げるお通語で話すってとこもポイントかな。ありがとうきびウ○コって感じで」
「ウン――!?」

先ほどの『放送コードがなんぼのもんじゃい!』みたいな歌である程度は察していたが、割と下ネタを進んで使うアイドルなのね、とにこは思った。
まだμ'sに入っていなかった頃に後輩にキャラ作りについて話したことがあったが、寺門通というアイドルはお通語でキャラ作りをしているらしい。

「じゃ、じゃあアンタは、なんでそのお通ちゃんを好きになったの?」
「お通ちゃんも元は無名だったんだけどね。僕が自暴自棄になって何もかもがどうでもいいって思い始めてた頃、
お客さんが誰もいないのに路上ライブしていたお通ちゃんの姿を見ていると元気が湧いてきたんだ。
勇気をもらえたから、僕はお通ちゃんを応援したいんだ」

寺門通の話をしている新八は、なんだか嬉しそうだった。
それを聞いたにこは、μ'sに重なるものを感じた。
μ'sの9人も、逆境にめげずにいたからこそ、前に進むことができた。
アイドルとは笑顔を見せる仕事ではない。笑顔にさせる仕事なのだ。

「…アンタはにこがスクールアイドルってこと、知ってるわよね?」
「うん、μ'sっていう9人のテラ…スクールアイドルなんでしょ?」
「私も最初は怖かったけどね…アンタがここに来る前にお通ちゃんの歌聞いて、ちょっと勇気もらっちゃった。私も形は違うけどアイドルだから、その話なんとなく分かる気がする」

確かに歌詞はツッコミ所満点だったが、なんとなく前に進もうという気になれたのは事実だ。

「私以外のμ'sのメンバーも4人、ここにいるの。μ'sは私にとって奇跡なの。誰も欠けちゃいけないの!だから…その…い、一緒に、探してくれない?」
「もちろん!」

新八は即答した。
誰も欠けてはいけない…それは万事屋にも言えることだ。
銀さんに神楽ちゃん、そして志村新八。
この3人が揃って万事屋銀ちゃんなのだ。
新八はにこの言うことが痛いほど理解できた。

「μ'sって音ノ木坂学院ってとこのスクールアイドルだよね?なら、地図に…あった。ここに向かえば、どっかにいるにこちゃんの仲間も集まってくるんじゃないかな」

そう言って新八は地図が移された白いカードをにこに見せる。

「え!?ちょ、何で音ノ木坂学院がそこにあんのォ!?」
「こっちが聞きたいよ…。一応、ここが万事屋銀ちゃんね。僕がいつも働いてるとこ」

地図を見てにこは愕然とする。
新八によると、二人が今いるこの場所も本来は江戸にあったという。

「にこちゃん、今は考えても仕方ないよ」
「うっ…そ、そうよね。私も音ノ木坂学院に向かおうと思う。駅から電車に乗ったらできるだけ早く着くかしら」
「なら、決まりだね」

今後の方針は決まった。
駅を経由して音ノ木坂学院へ向かい、その過程で協力できる人やμ'sのメンバーを探す。
なぜ鉄道がここに敷いてあるのかは考えたくなかった。

「あ、そうだ。にこちゃんの持ってた刀、使わせてくれない?」
「へ?いいけど…」
「ありがとう。こんななりでも家が剣術道場だから、いざとなったらにこちゃんを守れるかもしれないからね」

新八はソファから腰を上げ、机に置かれていた刀を携える。
袴を着た地味なメガネだというのに、その姿はにこにはとても頼もしく見えた。

こうして、志村新八(16)と矢澤にこ(18)は動き出した。
彼らの行く先に何が待っているのか、それは誰にも分からない。

1629人いないと野球もできない ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:13:33 ID:d5cZUgas0


【F-7/万事屋銀ちゃん内/深夜】

【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:にこと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
3:神威を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※矢澤にこを年下だと思い込んでいます

【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚、菊一文字RX-78@銀魂に付属していたイヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう 
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました

【菊一文字RX-78@銀魂】
沖田総悟が使用している刀。矢澤にこに支給。イヤホン同梱。
長船M-IIの倍の価格で売られている大業物。
最大の特徴は内部にデジタル音楽プレーヤーを搭載している点であり、
連続再生時間は最大でなんと124時間(日数にすると5日と4時間分)にも及ぶという、D-snap(100時間再生)を凌駕している代物。
柄の部分にイヤホンジャックがある。
プレーヤーには寺門通の歌う曲が入っているが、他にどんな曲が入っているかは後続の書き手の方にお任せします。

163 ◆RPDebfIIlA:2015/08/03(月) 23:18:08 ID:d5cZUgas0
以上で投下を終了します
◆DbK4jNFgR6氏の『ご注文は狙撃手ですか?』と場所が被っていたため、仮投下させていただきました。
一応時間帯は深夜ですのでリゼ達からは万事屋の間近にいる新八は暗くて見えなかったという理由づけで大丈夫でしょうか?
もし問題があれば指摘お願いします

164名無しさん:2015/08/03(月) 23:30:18 ID:VoAXChtU0
投下乙
そういやぁそんな機能あったなあの刀www
リゼ組とはニアミスしたってことで大丈夫だと思います

165 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 06:58:40 ID:joh5PNzo0
予約分を投下します

166正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:00:14 ID:joh5PNzo0
 ほの暗い闇に覆われた映画館が証明によって照らされる。
 外部に明かりがもれない構造なのは衛宮切嗣は確認済みだった。
 何も写していないスクリーンを前に煙草を手に彼は席に腰掛ける。

(どうしたものか)

 煙草を一本取り出し口に咥え、溜息のような息を吐きながら思案に暮れ、自らの腕輪を調べた。
 腕輪やカードに何らかの力のようなものは感知できるが、魔術師である彼がよく知る魔力かと断ぜない不可解な力。
 先ほどの白い部屋といい、催眠術に完全に掛かったか、あるいは何らかの方法で異界に落とされたとしか材料不足で
無理やりでも判断しなければ彼にとって動きようのない状況だった。

(……サーヴァントが3体、僕と元マスターの言峰綺礼を含めマスターが確認出来るだけでも3人か)

 名簿確認しながら切嗣は苛立ちを吐き出すかのように煙草を噛む。
 スタートの場に自らのサーヴァント セイバーの姿が確認したのを思い出し、また煙草を噛んだ。
 切嗣は繭に生殺与奪権を握られているだけに、殺し合いに対して取るべき手段は優勝狙いが一番効率がいいと思っていた。
 仮に切嗣が参加者内で随一の力を持つなら、女子供を含め鏖殺するのに支障などないだろう。
 衛宮切嗣は感情と行動を切り離せる男だ。
 だがサーヴァントが参加者であるなら話が変わってくる。

 切嗣は繭にさらわれる前、聖杯戦争というバトルロイヤルに参加していた。
 奇跡を起こし得うる願望機を使用するために、7人のマスターと7体の英霊――サーヴァントと最悪最後の一組以下に
なるまで殺しあう争奪戦、それが聖杯戦争。切嗣も願望機の使用が参加理由だった。
 切嗣の知る限り願いを叶えるだけの力を聖杯が発揮するには6体の英霊の脱落が条件である。
 ここでセイバー、ランサー、キャスターのうち2体以上が脱落してしまえば、聖杯戦争が成たたなくなってしまう懸念が彼にはあった。
 その理由は死んだ参加者の魂はカードに封じられるという事実。

 聖杯戦争においてサーヴァントが倒されると、その魂が元の場所に戻る際に空間に孔が開く。
 その孔を利用して聖杯を起動させるのに、その魂がカードに封じられてはどうしようもない。
 優勝者には願いを叶えると言っていたものの、初対面ということもあり願いがどれだけの範囲まで適用されるか判断できなかった。
 その上、あの時の繭の楽しそうな様子から察するに、敗者の魂の解放の要求は容易に受託されるものではないと思えた。
 手間が掛からない、例えば優勝者のみ元の居場所への帰還などは、よほど機嫌を損なわない限り叶えられそうな感じだが、
切嗣にとってそれは受け入れられるものではない。

 
 衛宮切嗣は人間的には外道と見なされる魔術師である。だが冷血ではない。
 彼はこれまでの人生で、何年かの休止があったもののより多くの人を救う為に独自に鍛錬を重ね、心を砕きながら戦場や裏社会で活動していた。
 だがその手段と思想は、より多くを救うために必要最小限の犠牲を見極め、容赦なくそれを駆逐するというもの。
 それはかつて災厄になりうる幼なじみを前に選択を放棄したがゆえに、惨劇を引き起こしてしまった負い目が原点であった。
 そうした行為の繰り返しは現実の過酷さと合わせ彼の心を痛めつけ、遂には超常の聖杯を求めるまでに至った。
 そんな彼が聖杯を、自らの意思で願いを叶える事を簡単に諦められる筈がない。
 切嗣は思案の前に腕輪から出した黒のカードを取り出して呟いた。

「詳しく調べさせてもらうよ」

 声を受け1枚の黒のカードが微かに動き、何枚ものファンタジックなイラストが描かれたカードが現出した。
 支給品確認はここに飛ばされた直後に既に行っている。目当ての武器はなかった。
 代わりにあったもので目を引くものは有益とは思えない面倒臭そうなアイテム。
 1枚のカードが蠢き、それを指に挟んで正面へ向けた。

 衛宮切嗣は英雄が嫌いだ。人々のヒロイズムを刺激し戦争を助長する存在であるから。
 それは自らのサーヴァントであるセイバーにも向けられ、一度しかこちらから話しかけた事がないくらいだった。
 故にここに置いても彼がサーヴァントに話しかける気はない。
 だから指に挟んだあれも煩そうなのもあったが、サーヴァントの一種の可能性を考え早々に黒カードに収納していた。

 そのカードに写るは1人の女性。
 茶色のツインテールに、ドクロのような帽子、胸元にでかいリボンという格好の十代前半の少女だった。
 それはただのイラストなどではなく。

167正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:01:28 ID:joh5PNzo0

「いきなり閉じ込めるなんて酷いじゃないの!」
「……君は繭から何も知らされていないんだよな」
「まずは私を……って、ただ拾った人に協力しろって言われただけってば……」

 切嗣の威圧に押され支給品 ルリグ――エルドラはカードの中で身体を動かしながら口を尖らせ渋々質問に答える。

「君はサーヴァント、英霊ではないんだな」
「知らないって」
「そうか」

 風格も戦意もないことから、英霊の類ではないという点だけは信用することに決めた。
 説明書も腕輪からもウィクロスというゲームのカードと、そのゲームのルールしか書かれていない。どうしろと?
 観察するに、エルドラはサーヴァント程ではないが、そこそこの魔力のようなものを感じられる。
 現時点で有用であるとは思えないが、ここは未知が溢れる場所。
 所持しておけばどこかで役に立つかもしれないとそう切嗣は判断した。
 邪魔になれば黒カードにずっと閉じ込めて置けばいい。黒カードに収納している間の外の事は分からないようだ。

 切嗣は姿勢を正し、今後の方針を考える。
 助手の舞弥はいない、妻であり聖杯戦争の協力者であり歯車であるアイリスフィールもいない。
 愛用してきた武器も没収された今、ブランクが祟って下手すれば参加者内で弱い方になっているかも知れない。
 だが繭はこうも言っていた、黒のカードを差して『これらを上手く使って、』と。
 なら支給品を上手く使えば殺し合いは勝ち抜ける可能性がそれなりにありえるか。切嗣は席を立った。

「どこいくの?」
「…………」
 
 第一に情報収集。武器を揃えるまで極力敵を作らず立ち回らなければならない。
 殺しを実行するにしても暗殺が最適か。他の参加者と協力関係を結ぶ必要も出てくるだろう。
 早々に見つかればいいんだが。
 最悪、繭に願いを叶えさせるにしても、自らの帰還と英霊3体分の魂の解放をさせなきゃならない。
 そして、あれだけの非道を働くような奴は野放しにする気はない。
 ならば不本意な願いでも叶えざるを得ないくらい追い詰めなきゃ行けない。
 どんな手を使っても。

「ねえ」
「――」

 切嗣はエルドラの問いに応えた。

168正義の在処 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:02:20 ID:joh5PNzo0
【G-6/映画館内/深夜】
 【衛宮切嗣@Fate/Zero】
 [状態]:健康、僅かな焦り
 [服装]:いつもの黒いスーツ
 [装備]:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み、銃やナイフは無い)
     噛み煙草(現地調達品)
     
 [思考・行動]
基本方針: 手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
   1: 情報、アイテム収集を優先
   2: 有益な情報や技術を持つ者は確保したい
   3: セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
 [備考]
  ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。


支給品説明
【エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS】
ちより(ロワ未参戦の)のルリグ エルドラが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
エルドラ以外のカードは通常はただの紙切れ。エルドラ自身、自由意志を持ち会話が可能。
カードからの脱出や風起こしも可能。セレクターバトルが出来るかどうかは不明。
切嗣から見てそこそこの魔力のようなものは感知できているが、当ロワにおいてどう影響するかは不明。
繭からロワについての説明は殆どされていない模様。黒カードに収納されている間は外の事は解らない。
参戦時期は不明。

169 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 07:03:38 ID:joh5PNzo0
投下終了です
物議を醸しだしそうなので一先ずここに投下させていただきました。

170名無しさん:2015/08/10(月) 11:50:04 ID:ZSWBxH/w0
投下乙です
ルリグカードの支給は問題ないと思います
ただ、エルドラの口調ってもっと慇懃というか、中学生のるう子たちにも敬語で話してませんでしたっけ?

171 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 13:53:39 ID:jzgIhPI.O
>>170
ご指摘ありがとうございます
修正スレに修正文を投下した後、今深夜に本投下させていただきます

172名無しさん:2015/08/10(月) 17:06:13 ID:1Az6wwSQ0
投下乙です
感想については本投下の際に述べさせていただくとして
支給品説明について、よく分からない部分がありましたので確認させていただいてよろしいでしょうか

>カードからの脱出や風起こしも可能
これはエルドラが自由にカードから出入りして(その際は人型になる?、カードから出た時に攻撃を受ければ死亡する?)
ウィクロスのカードゲームで使えるような能力(カードゲームのようにシグニやアーツを使える?)を行使し、
無条件、ノーリスクで戦闘に参加することができる、ということでしょうか
仮にそれが可能な支給品だとすれば「何かの役に立つかもしれない」どころではないと思いますが
(ちなみに、原作だとエルドラがカードの外に出ることができたのは持ち主の元から去らなければならない時だけだったと思います)

それとも、現段階ではそこまではっきりしておらず
『今後、エルドラの能力をロワ内で使うことが可能になる可能性がありますよ』
(その手段やどれほど制限されるかは、後続の書き手に任される)、ということなのでしょうか

修正中のところすみませんが、氏の支給品説明だけではそのあたり(エルドラをどのように扱えばよいのか)
が分かりにくいように感じましたので、ご意見をお聞かせいただけたらと思います

173 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 19:06:03 ID:jzgIhPI.O
>>172
ご意見ありがとうございます
基本的に後続の書き手さん次第のつもりで書きました
戦闘ができるかどうかは不明のままです
描写がまずかったのでその辺訂正します

174 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/10(月) 23:36:41 ID:joh5PNzo0
修正SS投下スレに訂正版を投下しました

175 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:13:45 ID:VTq8bey60
予約分が完成しましたが
SSの内容に ◆WqZH3L6gH6の投下された『正義の在処』と同じく

ロワ内におけるルリグの扱い、ルリグの能力に言及している箇所が存在するため
(また、それらについてより踏み込んだ描写をした箇所があるため)
まずは、こちらに仮投下させていただきます

176シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:14:39 ID:VTq8bey60


簡単には教えない、こんなに好きなことは。
――ないしょなの。

ふわふわドキドキないしょですよ
はじめがかんじん、つんだ、つんだ


◆   ◇   ◆    ◇


――それが悪い事だとは、分かっていた。


桐間紗路(シャロ)は、どこにでもいる庶民の少女だった。
否。
どこにでもいる、貧民の少女だった。

両親を出稼ぎに出して一人暮らしをして、それでもシャロ自身だっていくつものアルバイトを掛け持ちしなければ家計は回らなかったし、
住んでいる家は良く言えば『レトロ』、悪く言えば『ボロ小屋』と形容していい有り様だ。
そんな身の上だけれど、ご町内でも有名な私立のお嬢様学校に通えるようになった。
一生懸命に勉強したら成績トップの特待生として入試に合格して、学費の免除を受けることができたからだ。
がんばったおかげで進学ができた。シャロにはそれが嬉しかった。
新しい学校では、あこがれの先輩もできた。
天々座理世という一学年上の先輩で、大人びてしっかりしていて、しかしたまにお嬢様らしく世間知らずで可愛いところもある、本物の才媛と言っていい人だ。
そして、リゼがアルバイトをしている『ラビットハウス』という喫茶店にちょくちょく顔を出すようになるのも、
そこで暮らしているココアとチノとも仲良くなり、幼なじみの千夜を含めた五人で遊んだり勉強をしたりするようになるのも、そう時間はかからなかった。

しかし、高校に入ってからできた友達は、シャロの家のことを知らなかった。
どころか、お嬢様学校に通っていることだとか、シャロという漫画のお嬢様っぽい名前だとか、シャロの髪の毛に光沢があって縦にカールしていること(べつにただの地毛である)だとか、いわく仕草に気品がある(普通にそれなりに礼儀ただしく振る舞っているだけなのに)とかいったこと見て、
シャロのことを『よほどのお嬢様なのだろう』と思い込んでしまった。

悪いことだとは、分かっていた。
でも、訂正することができなかった。
いつしかシャロは、昔馴染みの千夜をのぞく三人の間で、すっかり『お嬢様のシャロちゃん』になっていた。

――美人で頭も良いなんて!まぶしい!

その褒め言葉には『しかもお嬢様だなんて!』という誤解まで含まれているようで、褒められるたびにドキドキした。

――きっとシャロちゃんは、家ではキャビアとか食べてるんだろうなぁ〜。

そう言われて、心苦しくないと言えばもちろん嘘だった。

でも、今さら貧しい家の子だとは言えなかった。
必死に、自宅の場所を突き止められないように、自宅への帰途を遠回りしたりして隠してきた。
『お嬢さまのシャロちゃん』が、ご町内でもトップクラスに小さくてボロボロの家に暮らしているところなんて、見られたくなかった。
知られたら、幻滅されてしまう。

今になって思えば、いつまでも隠せるはずがなかった。
なんせ、シャロの家の隣には、ココアたちも出入りする千夜の家があるのだから。
ちょうどそのボロ小屋から出てきたところだった。
千夜の家の前にいたリゼとココアとチノに、ばったり。

貧しいことが、ばれた。
それも、ボロボロの実家をばっちりと見られた。

177シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:15:53 ID:VTq8bey60
終わった、と思った。

頭が真っ白になった。
時間が止まった。

いつまでも、止まっていたような気がした。
それはもう、永遠のように。

ずっとずっと、頭が真っ白で。
そして、気が遠くなった。

そして。



『これからあなたたちには、この部屋の外にある世界で殺し合いをしてもらうの。』



次に目が覚めたのは、本当に悪夢のような場所だった。


◆   ◇   ◆    ◇


「フルール・ド・ラパンかぁ。
おしゃれそうな名前だね。なんて意味なの?」
「うさぎの花……ハーブティーを扱ってる、癒しのお店なの。
お茶のことも勉強できるし、クッキーも焼けるし、ティーカップも可愛いし……おすすめのお店かしら」
「すっごい! あたしは甘いモノが好きだけど、ハーブティーとかあんまり飲んだことなかったよ。どんな味がするの?」
「そ、そんなのモノによって種類とか効能とか全然違うわよ。
そうね、甘いお茶だったら、カモミールとかどうかしら。
ジャーマンカモミールだと、リンゴの香りがして、子どもにも飲みやすいわよ」
「あっ。子どもって言ったなぁ〜。シャロさんの方があたしよりも背が低いのに!」
「ちょ、ちょっとそういう意味じゃ……後ろから頭ぺしぺしするのはやめてぇ!」

後ろから軽く頭を叩かれる刺激にびっくりして、両手がつかんでいた白い毛並みをぎゅっと握りしめてしまう。
すると目の前にある『頭』から不機嫌そうな「ぐるる…」という唸り声が聞こえたので、シャロは慌てて手を離した。

「ご、ごめんなさいっ、定春」

唸り声は止んだので、ひとまず安心。
シャロは、紅林遊月と名乗った少女と一緒に、森の中のケモノ道を進んでいた。
より正確に言えば、二人でシャロの『支給品』に乗って移動していた。

178シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:17:05 ID:VTq8bey60
とても軽快に、ケモノ道をかき分けて駆け抜け、四つ足で疾走するのは、熊のように大きな体格をした犬だった。

「ごめんごめん……それにしても定春速いっすねぇ。力持ちだし」
「慣れるのには時間かかったけどね。…………お互いに」

遊月と知り合ったのは、定春とお互いに警戒して冷戦状態になっていた時だった。
どうにかこうして順調に移動するに至ったけど、森の中を抜け出して東の町へと進路を取るまで、実に二時間以上も費やしたのは、
グルグルと機嫌悪そうに唸り声をあげる巨大犬をどうにかなだめて落ち着かせて(二人で食べ物のカードを二回ずつも使って、ドッグフードまでも取り出して)、
それなりの友好関係を築くまでに時間を要したからである。
カードの中に戻しておくことも真剣に考えたけれど、遊月と話してそれは可哀想だということになった。
威嚇してくる巨大な犬は怖かったけれど、それはそれとしてシャロも遊月も、犬を小さなカードの中に押しこめっぱなしにしておくには性格が優しすぎた。
(もしもその生き物が巨大なウサギだったならば、絶対に断固として閉じ込めておくところだったけれど)
さらに言えば、こんな巨大な犬と一緒にいれば、殺し合いに乗った人も襲いかかるのには躊躇するんじゃないかという打算も正直なところあった。

「その……ありがと、ね。遊月ちゃんがいなかったら私、たぶん定春もカードの中に戻すとこ――」
「あっ!」

小さな声でお礼を言いかけた時、後ろに乗っていた遊月が驚いたような声を出した。
振り向くと、遊月も後方の景色を見ている。
後ろにあるのは、地図で言うと緑色をしたF-5の森だ。
これからやっと、緑色から黄緑色で塗られた草原へと突入するあたりのはず。

「どうしたのよ?」

遊月は、引きつった笑顔で言った。

「その……さっき、赤いカードを面白いなーと思って見てたら……落としちゃったみたいで……ちょっと拾ってきていい?」
「ええっ!? 大変じゃないの! すぐに定春を戻して――」

シャロもつられて焦ったけれど、遊月はひらりと定春から飛び降りていた。

「いいよ。落としたところは分かってるから待ってて。定春に先に見つけられたら、カード食べられちゃうからさ」

早口で急ぐようにそう言って、止める間もなくぱたぱたと駆け戻っていく。
その背中は、こんな状況でも飾り気が無く普段のままという感じがして、シャロには羨ましく見えた。

「はぁ……なんだか、あの子を見てると、ココアを思い出すわ。
声も違うように聞こえるのに、何だか声聴くとドキっとするし」

179シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:17:54 ID:VTq8bey60

ココア、と名前を声に出して言ってことで、どんよりと気持ちが曇ってきた。
また、思い出した。
五人ともが、こんなおっかない場所に来てしまったこと。
そして、この場所に連れて来られる直前に、起こってしまったこと。

「ただで『どんなお願いでも叶えてくれる』なら……願ってたのになぁ」

四人が無事なのかはとても心配だし、シャロの独りよがりでなければ、四人もおそらく(特に千夜は)シャロを気にしてくれてはいると思う。
みんな優しい人達だから、殺し合いをするようなことは絶対に無い。

でも、お金持ちだと嘘をついて皆を騙していたシャロのことだ。
リゼたちは、『嘘つき』なシャロのことを信用してくれるだろうか。
みんなとまた会えたら、これまで通りの関係で喜び合えるだろうか。

「ぜんぶ夢なら良かったのに……悪夢から醒めたと思ったら、もっと悪夢だったわよ……」

みんなで殺し合いに呼ばれただけでもぞっとするのに、皆に会いたいのに余計な罪悪感も抱えて行くことになるなんて。
あの時、あんな嘘をつかなければ。隠し通そうとしなければ。
ままらならい自虐に浸りながら、頭をごちんと定春の後ろ頭にくっつけて悶々とする。
……額に犬の白い毛がついてしまったのでやめた。


◆   ◇   ◆   ◇


「あ、遊月ちゃん! 見つかった?」

顔を上げると、まっすぐな黒髪の少女が戻ってくるところだった。
問いかけたシャロは、遊月の右手にすべてのカードが掴まれているのを見つけてほっとする。
しかし、



「うん……それはいいんだけど、あのさ。桐間紗路さん」



すぐに、違和感が襲った。
遊月は、ひどく思いつめたような、怒っているような顔をしていた。
別れた時と、なんだかずいぶん違う表情だ。

180シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:18:43 ID:VTq8bey60

「改めて、聞きたいことができたんだけど」

怒っている――そして、これはシャロの穿ち過ぎかもしれないけれど。
この顔は、なんだかシャロのことを責めるような眼に見える。

「シャロさんにはさ、繭に言われたような、叶えたい願いが、あるの?」

なんで、いきなりそんなことを聞くの。
そう疑問を抱いたのに、その鋭い眼に気圧されたことで、聞き返せなくなった。
さっきまで他愛無い雑談をしていた相手の豹変に、シャロは焦る。言葉が迷子になる。

「べ、べつに私はそんな願いなんて……」

さっき考えたことは、あくまで『ただで願いが叶うなら』の話だった。
そう自分に言い訳して『無いよ』と答えようとしたけれど。
遊月のまっすぐすぎるほどまっすぐな眼光に、虚偽を言ってはならないと問い詰められている気がして、

「しいて言えば、お金持ちになれたらな……なんて。それぐらい、だけど」

まさか『お金持ちだと嘘をついていたのがばれたので、その嘘を無かったことにできれば』なんて言えない。
結果的に、ふんわりした表現で、嘘では無い答え方をした。
すぐに答え方が不味かったらしいと分かった。
それを聞いて、遊月の眉が吊り上がったからだ。

「そんな願いなら、止めた方がいいと思う」
「えっ……?」

震えながら押し出すように、遊月は言った。

「お金持ちになって、どうすんの?
それで人の気を引いたり、自慢したりできるの?
それって、人の命と釣り合うような願いなの?」
「そんな……!」

ほとんど決めつけているような調子の、冷たい断言だった。
悪意あるような言いぐさへの戸惑いと、反射的な怒りが去来する。

181シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:19:39 ID:VTq8bey60
「私は別に自慢したいなんて……貧乏じゃなかったら、もう少し自由だったのかなって思っただけよ!」
「そんなことを、こんな時に考えてたの!?」
「こんな時に考えるわけないでしょ! ここに来る前に思ったことよ!!」
「そんなのっ……!」

売られた喧嘩を、というわけではないが。
謂れのない中傷に対して、分からないままに言い返していた。
それは、そのまま遊月の口撃をヒートアップさせる。

「貧乏でもお金持ちでも、関係ないよ!
貧乏だからって終わるなら、その程度の人間関係ってことじゃん」

投げつけられたトゲが、ぐさりと刺さり、
刺さった力はそのまま、巨大な反発になった。
貧乏だけど、もっと堂々としていたい。
それは紗路のコンプレックスであり、リゼ先輩にあこがれているところだから。

「なんでよっ!! なんで遊月ちゃんに、そんなこと言われなきゃいけないの!?」

そう叫んでしまった時だった。
定春が動いた。
元より、人に懐きにくい感じのする犬ではあった。
それが、シャロと遊月が口論するのを見て『決裂したようなら捨てて行ってもいいか』と判断したのか。
あるいは、『早く出発したい』と考える理由が彼自身にはあったのか。

「ひゃっ!!」

四つ足を力強くのばし、走り始めた。
森を出て、進路は北へ。
つまり、遊月をその場に置き去りにする形で。


◆  ◇   ◆   ◇

182シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:20:16 ID:VTq8bey60

悪いことをした、とシャロは後悔した。

そりゃあ、言われたくないことを言われたのはシャロの方だけれど。
でも、あんな言い方では、『こんな命懸けの場所にいるのに、あの繭という怖いヒトにお金持ちにしてほしいなぁとか夢見てました』と誤解されたかもしれないし。
だから遊月ちゃんも、あんなに怒った顔をしたのかもしれないし。
何より、喧嘩したからと言って、置きざりにするような形で定春を走らせてしまった。それはシャロが悪い。

「大丈夫よね……すぐ近くには、ラビットハウスがあったし。
ラビットハウスなら……先輩たちなら、こんな喧嘩になったりしないし」

今からでも定春をなだめるなり、ドッグフードをあげるなりして、遊月の向かいそうな方角――南東の市街地へと向かってもらうべきだろうか。
そう思いなおそうとしたけれど、それは『ラビットハウスに近づく』ということも意味していた
もしあの子の口から『シャロと喧嘩になってしまった』とかリゼたちに伝わってたら嫌だな、と。
ただでさえ重たく感じていた再会が、よりいっそう重みを増す。
もし、うそつきの悪い子だと思われたら、どうしよう。



「…………そうだ。千夜を、探さなきゃ」



気が付けば、そんなことを呟いていた。

そう、思いついてしまえば、それが一番いい。
千夜を先に探そう。
シャロの幼なじみで、あまりに天然すぎるところがあるから、元から一番心配だったヤツだし。
それに、元から実家の貧乏ぶりを知っていて、シャロが隠していることを気にかけてくれていた。
千夜がそばにいてくれたら、リゼ先輩たちともしっかり向き合える。
千夜を探して守らなきゃいけないし、千夜に相談に乗って欲しい。
『千夜もラビットハウスにいるかもしれない』という可能性からは目を逸らし、シャロは定春が颯爽と走るに任せることにした。

こうして桐間紗路は、ラビットハウスに向かわなかった。

【E-4/F-5との境界付近の道路上/黎明】

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:健康、後悔
 [服装]:普段着
 [装備]:定春(乗用中)@銀魂
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
   1:千夜を探す。
   2:1の後、ラビットハウスに向かいリゼたちと合流して謝る。
   3:遊月ちゃんには悪いことをした…。
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。


◆   ◇   ◆    ◇

183シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:20:56 ID:VTq8bey60

それが悪いことだとは、分かっていた。


痛いほど、分かっていた。


悪いことをした、と遊月は後悔した。
とても、ひどく、罪悪感をもって後悔した。

桐間紗路の『願い』をのぞき見するという低劣な真似をして、
しかもその『願い』を責めたててしまった。

紅林遊月にもまた、どうしても叶えたい願いごとがある。
彼女はこの殺し合いに呼ばれるまでの間、その願いごとを叶えるために『危険な遊戯(セレクターバトル)』というものをしていた。

バトルのルールは単純明快だ。
ウィクロスというカードゲームを手に入れ、『ルリグ』という特殊な『願いを叶える少女のカード』を相方として勝ち抜けばいい。
戦って勝ち抜いて、いつしかルリグに『願いを叶えるだけの資格を持った』と判断されれば、『夢限少女』という存在になれる。
『夢限少女になる』とは、『願いを叶えられる自分になれる』ということ。
ただし、三回負けてしまえばその時点で失格となる。夢限少女にはなれなくなる。

遊月は相方のルリグ――花代(ハナヨ)からそう説明を受けたし、
そんな奇跡があるのなら飛びつくしかないと、セレクターバトルへ参加した。

しかし、戦いを続けていくにつれて、知ることとなってしまった。
花代も黙っていたが、代償の伴わない奇跡なんて有り得ないことを。

もし三回負けてしまえば、願いは叶わなくなる――絶対に、叶わなくなる。
失格となったら、願いは反転する。
『友達がほしい』という願いを持った少女は、一生友達ができない身体になる。
『お金持ちになりたい』という願いを持った少女は、一生お金とは縁のない極貧生活という巡りあわせが返ってくる。
『好きな人と結ばれて幸せに暮らしたい』と願ったとしたら、好きな人に嫌われるか、あるいは好きな人を永遠に……。

それを知って、遊月は嘆いた。騙されたと思ったし、花代を責めた。
しかし、それでも止まれなかった。
友達だった小湊るう子は、願いが反転することを知ったら戦うことを辞めた。
遊月にも、辞めるように説得をされた。
でも遊月は、辞退することをしなかった。
他の願いを持った少女たちを、『三回目の敗北』という処刑台に送ることになったとしても、勝ち続けることを選んだ。

184シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:21:43 ID:VTq8bey60
そうまでしなければ、叶わない願いだったからだ。
『友達がほしい』とか『お金持ちになりたい』とか『普通に恋をして好きな人と結ばれたい』なんて願いだったら、本人のがんばりしだいで叶えることもできただろう。
仮に叶わなかったとしても、もしかしたら努力しだいで実現していた可能性はゼロじゃなかった。
けれど、遊月の願いは、普通にかんばっても叶わない。
違う。
最初から遊月には、一生懸命にがんばることさえも許されない。
もし遊月が『私の願いはこういうことです』と口に出したら、社会の全てからお前は悪い女の子だと糾弾され、弾かれる。
そんな願いだった。
奇跡があるとしたら、それにすがりつかなければ耐えられなかった。

だから、初対面の繭という怪しげな少女から『どんな願いでも叶う』と言われた時はドキリとした。
まるで、セレクターバトルのことだとか、遊月に願いがあることを、見抜かれたようで。
まるで、『この戦いは、セレクターバトルの代わりとなる、最後のチャンスなんだぞ』と言われたみたいで。

けれど、願いを叶えるために人を殺せるかと言われたら話は別だ。

遊月はたしかにちょっと人道に外れた願いを抱えているけれど、それでも、人を傷つけることにも本当なら罪悪感を覚えるような、中学二年生の女の子に過ぎない。
ましてこの場には――道をたがえたとはいえ、大切な友人だった小湊るう子もいるし、
セレクターバトルに参加した少女たちだって、願いは異なれど切実な望みを抱いて集まった子ばかりだった。
殺し合いに呼ばれた人たちだって、ここで死ぬわけにはいかないとか、そんな事情があるはずだ。
カードバトルで勝ち抜くことはできても、この手を汚して命を奪い取るようなことはできない。
何より、人を殺した手で『あの人』に触れて、何食わぬ顔で『あの人』に抱きしめられるのは、怖かった。

けれど、『この戦いに勝ち残らなければ、願いは叶わないんじゃないか』という嫌な予感は消えなかった。
人を殺すことで叶えたくはない願いだったけれど、
同時に、あっさりと諦めていい願いでも、なかった。
それは、とてもささやかで小さな願いだけれど、
紅林遊月という少女の、人生に関わることだったのだから。

諦めるしかなかった。
でも、諦めていいのかと、『願い』は絶えず遊月の胸を圧迫する。
このままじゃ叶わない、そうなったらお前は幸せになれないと。
頭では分かっているのに、感情がジクジクと胸を刺す。
一度にひとつ以上のことを背負えるほど、遊月は器用には動けなかった。
シャロと他愛ない談笑をしていても、その会話を楽しめているのかが分からないぐらいだった。
このままでは、この恐ろしい場所で生きていけるのか、ひどく心もとなかった。

だから、どうしても諦められない願いを、この場では封印するために、
遊月は、とても不本意かつシャロに対してひどく身勝手なことに。
その支給品を使うことにした。
カードを落とした振りをして少し遠くまで離れ、そこで私服のポケットに入れていた『それ』を取り出す。

185シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:22:35 ID:VTq8bey60



「ピルルク……あんたの『ピーピング・アナライズ』。使わせてもらう」



黒いカードから出てきたのは、青い少女の絵が描かれたカードと、一束のカードデッキだった。
『ルリグ』というカードの一人である少女、青い髪に青い瞳。そして青い服。
名前は、ピルルク。遊月も大嫌いな卑劣プレイヤー、蒼井晶が使っていた、本当なら絶対に頼りたくなかった大嫌いなカードだ。
その少女、ピルルクは感情をみせない声で問いかける。

「いいの? あんなにこのアーツを毛嫌いしていたクセに」
「きらいだよ!! やっちゃいけないことだよ!」

このカードのアーツ『ピーピング・アナライズ』は、人間の心を読む。
相手が、どんな願いを以って戦いに臨んでいるかを曝け出してしまう。
本当なら、それはセレクターバトルの対戦中に、カードの持つ技として発動する能力だ。
一般人相手には使えない、ウィクロスのバトルフィールドでしか使えない力だ。
でも、シャロと出会う前に、ピルルクから嫌々ながら聞き出した限りだと、『使える』。
カードバトルで、アーツを使うために何ターンかエナチャージしなければならないように、
『何時間か力をためなければいけない』という制限はついているけれど、使える。

「でも、このままじゃ、いつかもっとひどいことを考えそうで……シャロさんをそれに巻き込みそうで、怖いんだよ!」

人を殺すなんて考えたくはないけれど、
もし遊月がこんな風にガタガタになって、それでシャロの足を引っ張り、悪いこと、致命的なことが起こったとすれば。
そんなのは絶対にいけない。
かといって、『願い』のことをルリグの花代と友達のるう子を除いて、誰にも打ち明けてこなかった遊月に、『こんな願いのことで困ってるんです』と相談できるわけもない。

最終的に遊月が出した結論は、『桐間紗路の心を読むことで紗路が抱いている『願い』を知り、『だから、そんな願いを踏みにじるのは止めよう』と自分自身に釘を刺す』というものだった。
ひどく勝手だ。心を読まれるシャロからすれば、たまったものじゃない。
一度、同じように心を読まれて傷だらけにされたことがあるから、その重さは嫌というほど知っていた。
でも、逆に、自分勝手だとしても、それだけ酷いことをすれば。
それ以上の酷いこと――『死なせる』とかに至る前に、絶対にブレーキがかかる。
罪の重さをしれば、それ以上に酷いことをしようなんて思えなくなるはず。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと。
彼女には聞こえないのだから、言っても意味の無い謝罪を言いかけて、止めて。
ピルルクから、彼女の願いを聞き出した。
それが、どんな結果を生むかなんて予想もせずに。

ピルルクにこっそりと見させた『シャロ』を、言ってもらった。

186シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:23:55 ID:VTq8bey60
『家がお金持ちだと嘘をついた。貧乏だとばれたら、がっかりされると思ったから』

たぶん死にたくない、とか大切な人を死なせたくない、みたいな願いだろうなと思っていた。
それ以外の、どんな願いであれ、尊重するべきだと思っていた。
自分の願いだって、人から見たらとても不健全なことなのだから。
しかし、その願いは。

『そしたら、そのウソが友達と好きな先輩にばれた。みんなにボロ小屋みたいな家を見られた』

それが『恋愛』に関する願いであることも、予想していなかったわけではなかった。
たとえば好きな人もここにいて、その人を喪いたくないとか。
だけど、その願いは。

『好きな人に、嫌われた』



その願いは、『嫌われるかもしれない』というものだった。



――「紅林遊月は、双子の弟である紅林香月に恋をしている。

――それは許されないことで、隠しているから、香月は遊月のことを訝しんでいる。

――このままだと、香月に嫌われる。他の女に、香月を取られるかもしれない。

――紅林遊月の願いは、紅林香月の恋人になること。

『恥ずかしい。絶対に幻滅された』

恥ずかしい?

幻滅される?

嫌われる?

自分のついた嘘がもとで、そうなったのに?

相手も笑って許してくれるかもしれない嘘ひとつが、そんなに恥ずかしい?
実の弟を好きになることよりも?
実の弟に、下心をもって接するよりも?

187シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:24:38 ID:VTq8bey60

『あこがれの先輩に嫌われた。……なかったことにしたい』

あこがれの先輩。
それは、何の負い目もなく好きになれる人なのだろう。
自力で、ちょっと勇気を出して向かい合えば、嫌われずに済むことで。
それでも嫌われてしまうようなら、それまでの関係だったというだけだろう。

遊月の願いはどんなにがんばっても叶わない。
違う。遊月には最初から、がんばることさえも許されない。
遊月の顔が、かっと熱くなった。
平静な顔をして、シャロと話をするために、何度も深呼吸をしてから彼女の元に戻った。

だけど。
その時点では、『そんな願いのためにあんな誘惑に惑わされるなら、止めよう』というおせっかいの方が大きかった。
少なくとも、勝手にのぞき見した『願い』に勝手にキレて、くだらないと断じるような下劣で悪趣味な人間にはなりたくなかった。
桐間紗路にとっては切実なことなんだ。己にそう言い聞かせながら、戻った。

だけれど。

「お金持ちになれたらな……なんて」

お金さえあれば、好きな人に嫌われずに済んで、
お金さえあれば、好きな人といっしょにいられる。
シャロがそこまで意図しての発言では無かったとしても、
遊月の耳には、そう聞こえた。

陳腐な例えだけれど、
頭で『プツン』という音がした。

そこから先は、感情の赴くままに言葉を発していた。

◆   ◇   ◆    ◇


「謝らなきゃ……私、すっごい理不尽なヤツじゃん……」

セレクターでもない、普通の女の子を傷つけてしまった。
その罪を後悔しながら、遊月は歩く。
シャロが当初の目的地には向かわなかったことを知らず、市街地の建物が見える方へと。

「大丈夫だよね……定春もいるから、何かあっても逃げられるはずだし……。
私なんかと一緒にいるより、安全だよね……?」

188シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:25:12 ID:VTq8bey60
遊月は、まだ気づいていない。

シャロから、この場所にいると説明されていた四人。
保登心愛と、香風智乃と、宇治松千夜と、天々座理世。
シャロにとっての『好きな先輩』とは、その中の天々座理世であること。
紅林遊月と道をたがえた結果として、シャロは彼女たちに会えそうな『ラビットハウス』に向かわなくなったということを。

まだ気付かずに、市街地を目指す。

【G-6/F-5との境界付近、市街地の近く/黎明】

【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、後悔
 [服装]:普段着
 [装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   1:シャロを探し、謝る。
   2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
 [備考]
  ※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャ  ージするのに3時間かかります


【定春@銀魂】
桐間紗路に支給。
万屋で飼われている身長170cmの超大型の犬。
正体は天人襲来後「たーみなる」建造のために取り壊された神社にあった「龍穴」と呼ばれる場所を守護する狛神で、神社の巫女の阿音・百音の経済的理由により捨てられたところを神楽に拾われた。
当初は神楽にしか懐いていない(神楽以外の人物には牙をむいて襲いかかるほどの)猛犬ぶりだったが、「定春編(原作71〜73訓、アニメ45話)」で狛神に変身して暴走したところを止めてもらった際に銀時達への恩義を感じたのか、賢くなり懐いてきた。
「金魂編(アニメ253話〜256話)」では、銀時をはじめとした神楽以外のメンバーにも懐いていることがはっきりと明らかになり、
人に襲いかかるシーンも戦闘だったり神楽の命令だったりスキンシップだったりをのぞけば減少しつつある。
ただ、それでも人見知りが激しいところ自体は治っていないようで、神楽いわく知らない人が家にくるとやたらと吠えるらしい。
殺し合いの状況はよく分かっていないが、所有者から離れてはいけないという制限はぼんやりと理解しているらしく(それが無ければ勝手に神楽たちを探しに走り出していると思われる)、会場のどこかにいる万屋メンバーの元に帰ることを希望している。

189シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:25:47 ID:VTq8bey60

【ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
紅林遊月に支給。
蒼井晶のアニメ一期でのルリグ ピルルクが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
エルドラと同じくロワに関する説明はあまり受けていないようだが、人間に作用するアーツ『ピーピング・アナライズ(後述)』を使用できることは理解している模様。

※ピーピング・アナライズ
ピルルク固有のアーツにして、蒼井晶の十八番である戦法。
またルリグが使える能力の中では、アニメで唯一確認されている、『(ゲーム中での効果だけでなく)現実のプレイヤーへも攻撃(精神攻撃だが)をすることができるアーツ』でもある。
それは、ピーピング・アナライズを受けた人物(対象1人)は、その心に持っている『願い』をつまびらかに覗き見られてしまうというもの。
ただし、彼女と対戦した時の小湊るう子のように、相手が「何の願いも無く、ただ戦うためだけに戦っている」ような時は心が読めなくなる。
本ロワではカードゲームでエナコストを溜めるのに必要な1ターンを現実の時間として見なし、1時間で1コストが溜まるものとし、3コストを消費することで(つまり3時間に一度だけ使用できるという条件で)『ピーピング・アナライズ』を発動できるようになっている。
また、ルリグカード自体も魔力を持っているために、参加者や支給品による魔力(もしくはそれに類するエネルギーの)供給を受けることができれば、エナを溜める手段もこの限りではないかもしれない。
他のルリグカードもコストや魔力しだいではこの会場で持ち技を使えるのかどうか。
それともピルルクのピーピング・アナライズだけが(先述のとおり、カードバトルだけでなく現実の人間にも効果を及ぼせるからこそ)限定的に使えるものなのかは現時点では不明。

190シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:30:51 ID:VTq8bey60
投下終了です

エルドラがロワ内で能力が使えるかどうか分からないと書かれた直後ですのに、
ピルルクに(アニメでも対人用の能力だったとはいえ)能力を使わせる描写をしてしまいました

いちおう「ピーピング・アナライズは原作でも、人間相手に作用するアーツだったからこそ使えただけであり
他のアーツは使えないかもしれない」と理由づけはしましたが
問題がありそうでしたらご意見ご指摘をお願いします

(バンバン心を読めるよなら強すぎるかなぁと考えたこともあり、
三時間に一度(チャージする必要がある)という制限もつけてしまいました)

問題が無いようでしたら、明日か明後日に本投下したいと思っています

191シャロと殺意なき悪意 ◆7fqukHNUPM:2015/08/11(火) 16:33:26 ID:VTq8bey60
すみません、遊月の状態表に書き忘れがありました

※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

ということでひとつ…

192 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 04:55:59 ID:Nc7Ok3P60
内容は変更してしまいましたが、完成したので仮投下します。

193交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 04:59:05 ID:Nc7Ok3P60

 掬いあげた土塊が宮永咲の遺体の上に被せられる。
 青のカードから出したペットボトルの水で汚れた両手を洗浄する。
 そしてるう子は両手を合わせ咲の冥福を祈った。
 遺体に土を被せ、両手を合わせるだけの簡単な弔い。
 心の片隅には近くにいるかも知れない殺人者からさっさと逃げるべきだという危機感はあったが
 それでも命の恩人である咲の弔いだけはやっておきたかった欲求が勝った。
 いま彼女の横には黒い乗り物が止まっている。所持した黒のカードから出した支給品であった。
 埋葬中に危険人物が来なかった1つの幸運にるう子は安堵する。
 埋葬を最後まで済ませることができたのだから。
 亡き咲に対し感謝の意を伝えようとした瞬間、、風が吹いたような音をるう子聴いた。
 るう子は口をつぐみ、感覚を研ぎ澄ませ、不吉さのようなものを感じ取ると乗り物に手を触れる――。

□ ■ □ ■ □ ■ 
□ ■ □ ■ □ ■ 


 俊敏で規則正しい動きで、金髪の白いライダースーツの女は神社へ足を運んだ。
 そして時折思い出すように定期的に右手で手刀を作り横にあるいは縦に振る。
 その動きは人に当たれば相応のダメージを与えると思える迫力があった。

――……うん確認

 彼女の表情は変わらず、代わりに眼差しは機嫌よく輝いた。左手にはカードの束が握られている
 カードの束を手にする前と後とではキレが……格段にとまでは言わないが、良くはなっていた。
 移動速度も上昇しているような気さえする。支給品に武器はなかったが超常の力を持つアイテムを入手できたことに
 女――ヴァローナは静かに感激した。

 彼女の目的は参加者と接触し、敵意がなければ情報収集と支給品確認。
 もし拒み、それでいて有用な支給品を持っていれば強奪する腹積もりだった。
 敵意があれば素手で太刀打ちできそうなら戦闘する事もやぶさかではない。
 その過程で相手が死んでしまっても強ければ構わない。

 そう彼女はどちらかと言えばゲームに乗り気だった。
 ヴァローナは殺人快楽者ではない。
 人を倒すことも殺すことも好きではなく、脆くないと認識出来るだけの強者を探し、打ち倒すのが彼女の最大の欲望であった。
 彼女は確認したいだけだ、自らも含め人間は脆いのかどうかを。
 そうし続けることで渇きとも言える心地悪い違和感が和らぐような気がするから。
 その欲求ゆえに、そして父親がギャングである出自ゆえに彼女は幼い頃から殺し屋紛いの仕事に携わって来た彼女に、
 今参加させられているゲームに対する強い忌避感を抱くはずはなかった。
 仕事の関係上敵対した静雄達との戦いの最中に攫われ、非戦闘員としか思えない子供を含めた殺人ゲームの強要をする繭に怒りはある。
 弱者をなぶったり、壊したりするのはどうしても気が進まないから。
 だが驚嘆すら覚える超常を見せつけた繭に対し、歯向かう気までは今のヴァローナにはない。


「っ!?」


 微かだが、エンジン音らしきものが聞こえる。ヴァローナは足を速めた。

194交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:01:24 ID:Nc7Ok3P60

 森を抜け、彼女は神社の前に立った。
 そこにはタイヤ跡や不自然な土の盛り上がりはあったものの、参加者の姿はない。
 タイヤ跡をたどり先の森の方へ入ったが、参加者の姿は見当たらない。
 彼女は神社前に戻り思わず嘆息する。
 真っ暗闇に覆われた山の中、またもや彼女の手刀が空を切った。



□ ■ □ ■ □ ■ 
□ ■ □ ■ □ ■ 


――ほんとは会って話をした方が良かったかも知れない。でも……


 やけに低いエンジン音と微妙にサイズの合わないヘルメット。
 それらに少々困惑しながらもるう子はスクーターを走らせる。
 ぶっつけ本番だったが説明書を読んだこともあり、るう子は支給品のスクーターを扱えつつあった。。
 るう子は近くに誰の気配もないことに気づくと、スクーターを止め黒のカードと懐から計2枚のカードを取り出す。
 1枚は宮永咲の絵、もう1枚は咲の支給品で顎鬚の生えた大男の絵が書かれたカードであった。
 生きたカードであるルリグと深く関わっていたるう子には、それが参加者ではない別の人の成れの果てに思える。
 ゲーム開始前、繭は死んだ参加者の魂は白のカードに閉じ込められると言っていたのをるう子は思い出していた。
 
「誰だかわからないけど、あなたもいつか……」

 宮永咲の死を前にしてもるう子の志は揺るがない。
 むしろ2枚のカードを前にしてやる気を増したぐらいだ。
 

――さっきの人とは会う勇気はなかったけど、あなたとは……

 スクーターの座席に座り、ハンドルを握り走らせる。
 道路を僅かな光を照らして、それを頼りに目的地へ向かう。
 舞台の南西の市街地へ。
 殺し合いを阻止する手立てを探るために。



□ ■ □ ■ □ ■ 
□ ■ □ ■ □ ■ 


 盛り上がった土の下にはヴァローナより数歳年下と思わしき少女の遺体があった。
 状態からして直後ではないと推測できる。疵からして下手人は銃を持っている、うまく強奪できればと彼女は考えた。


「……その、あの人をそのままにしておくんですか?」


 手にしたカードから少女の静かなる問いがかけられた、
 カードには緑の長髪を極端に逆立たせた細身の少女の姿があった。
 名は緑子。生きたカードルリグの1人でヴァローナの支給品の1つ。
 ヴァローナの身体能力を若干ながら上昇させているのは緑子の力アーツの『奇々怪々』の力ゆえ。
 本来はルリグの力の大半はウィクロスというカードゲームの中でのみ発現されるもの。
 だがこのゲームに置いてはある意味創造主の繭の力もあり、事情が多少異なっているようだった。

195交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:04:17 ID:Nc7Ok3P60

ヴァローナは遺体を見つめつつ呟く、

「……土を被せる?」
「……」

 少々怯えのような色をにじませ緑子は頷いた。

「……肯定します」

ヴァローナは静かに返答するや、手早く遺体に土を被せた。
緑子からはまだヴァローナにとって必要最低限の事しか聞いていない。
いくら力に憧れがあるといっても、そう容易に受け入れられるほど柔軟でもない。
別段打算的ではないと思っているものの、機嫌を損ね非協力的になっても困ると直感し受け入れる。
殺害したターゲットにそういうことをしたことはなかったなと思いつつ、ヴァローナは次のプランを練った。


【E-3/道路/一日目 深夜】
 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、スクーター運転中
 [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
 [装備]:黒のヘルメット着用
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル
          ライダー(征服王イスカンダル)のカード
          不明支給品0〜1枚、宮永咲の不明支給品0〜1枚 (確認済)
     宮永咲の魂カード
 
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   1: 最低限の警戒を忘れず、西の市街地へと向かい協力者を探す。
   2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
   3: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
 [備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です



【F-4/森/一日目 深夜】
 【ヴァローナ@デュラララ!!】
 [状態]:健康、『アーツ 奇々怪々』により若干だが身体能力上昇中
 [服装]:白のライダースーツ
 [装備]:手に緑子のカードデッキ
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
黒カード:不明支給品0〜2枚(武器と判断できるものはない)
 [思考・行動]
基本方針: 武器を集めた後、強者と戦いながら生き残りを目指す。優勝とかは深く考えない。
   1: 緑子から情報を収集した後、武器になりそうなものを探す。
   2:強そうな参加者がいれば戦って倒したい。特に静雄や黒ヘルメット(セルティ)。
   3:弱者はなるべく手を掛けたくない。
 [備考]
※参戦時期はデュラララ!!×2 承 12話で静雄をナイフで刺す直前です。

196交わらなかった線 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:05:35 ID:Nc7Ok3P60
・支給品説明

【黒のスクーター】
小湊るう子に支給。
ヘルメット付きで、照明とエンジン音に多少の改造が施されている原付きバイクの一種。
トゥデイっぽい。照明はかなり細かい調整が効き、エンジン音も無音に近いとまではいかないが静か。
最高速度は時速60キロまで。説明書付き。


【ライダー(征服王イスカンダル)の魂カード】
宮永咲に支給。
当ロワ未参戦のサーヴァント、ライダー『征服王イスカンダル』の魂が封じられたカード。
ルリグと違って意思の疎通や行動はできないが、高い魔力は感じられる。
関連する宝具があれば何らかの変化はあるかも知れない。今のところ何らかの効果は見当たらない。


【グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
ヴァローナに支給。
植村一衣(ロワ未参戦)のルリグ 緑子が収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は逆立った緑の髪の毛をした露出度の高いボーイッシュな衣装と雰囲気のした少女。物静かな性格。
ロワの説明をどれだけされているかは不明。
本来ならカードゲーム内のみで使用できるアーツ『奇々怪々』が使用可能。
他の能力が使えるかは不明。

※アーツ『奇々怪々』について
本来ならカードゲーム内においてシグ二(将棋で言う王将以外の駒のようなもの)を複数強化するのみだが。
当ロワにおいては黒カードから出してカードデッキを手に所持した場合にのみ、身体能力を若干上昇させる効果がある。
デッキを落としたり、カードを損傷させてしまうと効果は失われる。
元が元だけにエナコストはないが、もし別のアーツを使ってエナコストを消費した場合、
回復するまで奇々怪々は使用できない。
エナコストの回復は通常1コストにつき1時間。何らかの要因でエナコストが補充されればその限りではない。

197 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 05:08:23 ID:Nc7Ok3P60
投下終了
ルリグのカードのアーツに問題があった場合修正いたします
その場合修正は今夜。本投下は次の日の明朝になると思います

198名無しさん:2015/08/19(水) 05:52:24 ID:ARrf6zZQ0
仮投下乙です

カードの関しては問題ないと思いますが、>>194やるう子の状態表で「南西の市街地」、「西の市街地」とありますが、正しくは「南東の市街地」、「東の市街地」だと思います

199 ◆WqZH3L6gH6:2015/08/19(水) 16:54:51 ID:Nc7Ok3P60
>>198
ご指摘ありがとうございます
その辺訂正して10時前に本投下します

200 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:16:51 ID:7zrSSusw0
不安なので一旦、仮投下させていただきます。

201 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:17:35 ID:7zrSSusw0

 国立音ノ木坂学院。
 穂乃果たち、スクールアイドル『μ'』sの活躍により廃校を免れた学校である。

「ここが私が生徒会長を務める音ノ木坂学院です!」

 ランサーはその話をここにくる道中で何度も聞いた。
 しかし、穂乃果は熱心に何度でも話す。

「そうか、穂乃果はこの音ノ木坂が大好きなのだな」
「はい! 大事な皆で守った学校ですから!! 今から隅から隅まで学院内を案内しますね!!」
「いや、今はそんなことをしている場合ではない」
「ええー!!」

 ぷぅと頬を膨らませ、心底残念そうな表情を浮かべる穂乃果。

「……でもでも、私は学院内を知り尽くしてるんだよ!!
 どこに何があるかは知っておいて損はないよ!」
「……確かにそれは一理ある」
「だよねだよね!」

 しかし、ここは穂乃果のホームステージ。
 学校に詳しくなければ、生徒会長は務まらないと親友の園田海未に言われたことを思い出した。
  
「じゃあ、行こう!」

 そして、軽快にスキップをしながら穂乃果は駆け出して行った。
 しかし、ランサーは警戒を怠らない。
 その表情はさながら戦場立ったときとほぼ同じ。
 セイバーが外道に堕ちたというならいつ奇襲を仕掛けてやもしれない。

 ――無駄の無い見事な構え、俺以上……なのだろうな。
 ――しかし、騎士王……以上じゃねえ

 ――輝く貌(ディルムッド・オディナ)は騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)には勝てねぇ


 先程の本部の言葉がランサーの頭の中を巡る。
 あの時、穂乃果がいなれば、自分はあの男に勝てたのだろうか?
 騎士として、弱き者たちをセイバーやキャスターから守護れるのか?
 しかし、そんなこととは裏腹に穂乃果は喜々として学校を案内する。
 
 グラウンドも。
 中庭も。
 弓道場も。
 講堂も。
 生徒会室も。
 図書室も。
 体育館も。
 屋上も。
 アイドル研究会の部室も。
 
 どこもかしこも一年半通い続けた穂乃果が大好きな学校そのままであった。
 ここにあること以外は全く違和感がないほど完全に音ノ木坂学院だった。
 しかし、今の穂乃果にとってはそんなことはどうだってよかった。
 そして、特にイベントもないまま最後に穂乃果のお気に入りの場所に向かった。

202 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:18:22 ID:7zrSSusw0
「で、ここがアルパカの……?」

 いつもはアルパカがいる小屋だった。
 だが、そこにいたのはアルパカではなかった。
 
 その代わりに……アルパカの小屋を背にその男は立っていた。
 アルパカの小屋があっては背後からの奇襲はできない。


「俺の忠告を無視したからには……騎士王と戦って死ぬ覚悟は出来ているのか?」
 

 そこには王の財宝の鍵剣を構えた―ー本部以蔵が立っていた。
 

 ◆ ◇ ◆


「―――俺がディルムつっあんを追わねばならぬ」


 気絶から目覚めた直後の一言はそれであった。

 駅構内。
 そこに千夜と本部を抱えたヴィヴィオはやってきた。
 そこのベンチにて千夜は肉体・精神から疲労感から眠気が襲ってきた。

「あまり無理をしないほうが……」
「でも……ランサーさんと穂乃果さんがいない間にこのおじさんが起きたら……」
「そしたら、私が何とかするから!」
「……わかったわ、じゃあ一時間だけ眠らせて……」

 そういうと、千夜は眠りについた。
 その顔は疲れ半分不安半分……そういった感じである。
 
 その数分後。
 本部は目覚めた。
 
「……おじさん?」
「ディルムつっあんは……いや、名簿にある名前で呼ぶならランサーと言っておくべきか。
 ……今のランサーじゃ、アーサー王に……セイバーには勝てねぇ。
 だからこそ、仲間(とも)として騎士王の魔手から俺が守護らねばならぬ」
(このおじさんとランサーさんは友達だったの……?)

 一先ず、ヴィヴィオと本部は情報を交換する。
 その際にヴィヴィオから本部はランサーがどこに行ったかを聞いた。
 苦渋をなめるような表情で本部は聞き続ける。そして……

「急がねばならぬ」
「え?」

 本部が鍵剣を振るう。
 すると空間に歪みが生じ、何かが出てきた。

203 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:19:21 ID:7zrSSusw0

「本部さん、それは……?」

 ヴィヴィオの知りうる魔法とは全く違う原理。
 次元転移や召喚魔法とは全く違うということだけはわかった。
 出てきたのは原動機付き自転車。
 後輪カバーに『銀』という彫り物がある原動機付き自転車。通称『原付』。
 
「お嬢ちゃん、これは原動機付き自転車って奴だ。
 起源は、自転車に小型のガソリンエンジンを付けたモペッドと呼ばれる乗り物というものだ。
 モペッドは本来『原動機が付いた自転車』あるいは『ペダルでこげるオートバイ』のことだが……、
 便宜上、日本以外の国ではペダルの有無にかかわらず小排気量のオートバイ全般がモペッドと呼んでいる。
 だが、この原動機付き自転車がわけが違う。なんせ江戸時代に作られたものなんだからよぉ〜」

 原付について長々と解説する本部。
 それにヴィヴィオは話半分くらいしか理解できなかった。
 ヴィヴィオにとって聞きなれない単語があまりにも多すぎたのだ。
 しかし、どちらかといえば『原付』よりも本部の持っている『鍵剣』のほうが気になった。
 
「行ってくる」

 本部は原付に跨り、エンジンをかける。
 原付に付属していたヘルメットを被り、原付をかっ飛ばす。
 法定速度完全オーバーで限界速度ギリギリのハイスピードである。


 ◆ ◇ ◆


「俺の忠告を無視したからに……騎士王と戦って死ぬ覚悟は出来ているのか?」


 ただならぬ殺気。
 それは穂乃果の素人目にでもはっきりわかるくらいだ。

「ランサーさん……」
「下がっていてくれ、穂乃果」
「やだっ!」
「言うことを聞くんだ! 穂乃果!」
「だって、あの小汚いおじさんがここまで来たのはきっとランサーさんを――――ガッ!?」
「!?」
「ディルムつっあん……少し遊んでもらうぜ」

 カーンという軽快な打撃音が響いた。
 ―――穂乃果の頭部から。
 そのそばには王の財宝の鍵剣が転がっている。

「お嬢ちゃんには少なくとも一時間は眠っていてもらうぜぇ」
「ッ!? 穂乃果!? モトベッ! 貴様ァ!!」
「安心しな、殺しちゃいねぇ。
 ……だが、これでアンタのご要望通りの1対1(サシ)になったぜ、ディルムつっあんよ〜」

 本部は王の財宝の鍵剣を穂乃果に向かって投げた。
 鍵剣がピンポイントに穂乃果の額に直撃して、穂乃果はそのまま気を失った。

204 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:19:58 ID:7zrSSusw0

 王の財宝の鍵剣自体には切れ味はほとんどない。
 だからこそ、打撃武器としてはかなり有用性は高い。
 なんせ古代バビロニアの宝物庫につながる鍵剣だ。
 その頑丈さは言うまでもない。
 
「守護るものも守護れずに何が騎士道だ? 片腹痛い」
「ッ……黙れ!」

 クスクスと笑う本部。
 それに対して激昂するランサー。
 騎士の誇りを踏みにじられたのだから。

「モトベッッ!!」

 いや、それだけではない。
 何かが引っかかるそのもやもやとした気分を振り切るかのように本部に立ち向かう。
 しかし、そのランサーの迷いとあまりにも直線的な動きは本部に読まれる。

 最小限かつ最速の動きでランサーの脇を抜けるように回避行動をする。
 そのまま本部は転がっていた王の財宝の鍵剣を拾い上げる。
 そして、何処からともかく弾丸のように四角い何かが複数射出された。

「なんだ、この石碑か!?」
「これは『麻雀牌』だ」
 
 まるで石礫のように麻雀牌はランサーに飛んでいく。
 五月雨が如く、ほぼ無尽蔵のように射出されていく麻雀牌。
 それをランサーはキュプリオトの剣で弾き、切り払う。
 
「足元がお留守だぜ」
「なっ!?」

 一瞬のスキを付いて本部はランサーに急接近する。
 そこから腕を掴まれて合気道のような投げと足払いを同時に決まる。
 ランサーの身体は空中で一回転し、そのまま脳天を地面にたたきつけられた。
 そして、押し倒すような形で本部はマウントポジションを取った。


「タフだなァ〜〜常人なら確実に死んでたぜ……」


 ランサーの首筋に本部の日本刀が押し当てられている。
 日本刀の無機質な冷たい感触だけが伝わっていく。

「日本刀ってのは引かなきゃ斬れない」 
「モトベよ……俺に情けを掛けているのか」
「そうだ……」

 完全に負けた。
 この本部という得体のしれない小汚い強者に敗北したのだ。
 もし本部が殺し合いに乗っていたら確実に自身は死んでいた。

205 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:20:53 ID:7zrSSusw0

「一度死んだぜ、ディルムつっあん」
「……いや、死ぬのは二度目だ……」

 だが、そこにあったのは屈辱ではない。
 騎士としての戦いに敗れて死んだという清々しさであった。
 本部の安い挑発に乗ってしまったが、故に己の実力不足を痛感させられた。
 そのような体たらくでは……『死んでいる』のと道義だ。

 次の瞬間、ランサーは本部のマウントポジションから脱出した。
 そして、そこで高々と宣言をした。
 




「ランサーのサーヴァントは今ここに死んだ!」

 





 だからこそ、自らの死を受け入れた。
 死ぬ時は潔く死にたい。それは自分の騎士としての本懐であった。
 今、ここにいるのは……

「ここからは俺の三度目の生だ……故に俺は愛でも忠義でもない。
 ……俺は『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜くことを選ぶッ!」

 今、全ての迷いは振り切った。
 手には槍がなくても剣がある。
 戦うのならば、それだけで十分だ。

「戦いの勝利ってのは誰かのために捧げるもんじゃねぇからな……」
「モトベ殿……まさかそのことを俺に教えるために……」

 ランサーは男として大切なことを思い出した。
 一度は夢見た『地上最強の男』……いつからだったろう、そんなことも忘れてしまった。
 そして、大切なことを思い出させてくれた本部を自身の仲間(とも)と認めたのであった。

206 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:21:32 ID:7zrSSusw0

「俺はセイバーを倒す……その時まで俺は騎士道を捨てるぞ。モトベ殿」
「それでいい、その気迫があれば……あの騎士王さんに一太刀も与えられないぜ。
 ……これは餞別だ、長物ではないが持っていくとよい」
「モトベ殿……かたじけない」

 そういうと本部は村麻紗が入った黒カードをランサーに渡した。
 彼は生前二本の槍だけでなく二本の剣「モラルタ」「ベガルタ」を所持していたとされる。
 故に双剣を使くこともお手の物である……ということを本部は知っていた。

 その時である。
 
 二人は東の方から僅かだが光の残滓を目撃した。
 この時間帯、太陽の光にはまだ早すぎる。
 ここにはいなかった騎士王……そこから導き出される本部の結論は……

「あの光はまさか騎士王の聖剣か!」
「何っ、知っているのかモトベ殿ッ!」
「ああ……間違いねぇ、あの輝き……あんなものを出せるのは騎士王の聖剣ただの一つだけだぜぇ」
「急がねばならない……!」

 ランサーは焦る。
 こんなところにとどまっている理由などもうないのだから。
 そこで最後に本部に頼みをする。

「モトベ殿には南の墓地にいるであろうキャスターの討伐を頼みたい……
 モトベ殿の実力であれば……あるいは……」
「ああ、任された、こういうのがオイシイんだよなぁ」
「……それと穂乃果を皆のところに頼む……互いにご武運を!」

、ランサーはこれ以上穂乃果を連れてはいけないと判断し、本部に託して、自身は東に駆け出した。
 それを確認して本部は気絶した穂乃果を背中に縛り付けて、原付で来た道を戻る。
 
「……嬢ちゃん、ヘルメットっていうのは普通はこういう風に使うんだぜ」

 本部は穂乃果が持っていたヘルメットを穂乃果の頭部にかぶせた。

 正しいヘルメットの使い方は人を殴るのではない。
 ヘルメットは着用者の頭部を危険から守るものである。
 今、このように本部や穂乃果の使用方法こそが正しい用途なのだ。


【A-3/黎明】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
0:東に向かう
1:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
2:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
3:キャスターは本部に任せる。
4:俺がセイバーに勝てない……? 否、勝利する!
5:本部を全面的に信頼
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。

【A-2/音ノ木坂学院近く/黎明】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:気絶、額にたんこぶ、ランサーへの好意(中)、千夜に対する疎み
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3;小汚いおじさん(本部)は信頼できない。
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が少々薄れました。

207 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:22:31 ID:7zrSSusw0

【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
0:駅に戻り、穂乃果をヴィヴィオに預け、自身は南下してキャスターを討伐する
1:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
2:騎士王、キャスターを警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後


【B-2/駅構内/一日目・黎明】
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、睡眠中、ランサーへの好意(軽)
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:ランサーが心配
2:十四郎さん…
3:ランサーと一緒に居る穂乃果に嫉妬。
[備考]
※現状の精神はランサーに対する好意によって自責の念を抑えられ一旦の落ち着きを取り戻しています。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
1:駅で本部さん達を待つ。それまでの間は私が千夜さんを守る。
2:アインハルトとコロナを探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません
※黒子の呪いの影響は受けていません
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。



原付@銀魂
本部以蔵に支給
銀時が移動手段に使用するスクーター(原動機付き自転車)。車種はベスパ。
平賀源外の改造によってロケットブースター・飛行機能が追加されている。
ただし飛行機能は莫大なエネルギーを消費するため、使用すると1分後くらいに大爆発を起こす仕様。


麻雀牌セット(二セット分)@咲-Saki- 全国編
土方十四郎に支給
一般的な全自動卓用の麻雀牌のセット。
萬子・筒子・索子・字牌の136枚が二セット(計272枚)。
そこそこ固いので当たると結構痛い。

208 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 17:23:33 ID:7zrSSusw0
以上で仮投下を終了します。問題点があればご指摘お願いします

209名無しさん:2015/08/23(日) 17:48:30 ID:VPuQhKFg0
投下乙です
特に問題点はないと思います

210 ◆KKELIaaFJU:2015/08/23(日) 18:44:33 ID:7zrSSusw0
問題がないようなので、誤字脱字を修正し一部描写を追加したものを本スレに投下します。

211 ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:26:46 ID:qIVTDzUI0
一旦仮投下します

212それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:29:52 ID:qIVTDzUI0
――Who killed Cock Robin?

――I, said the Sparrow,

――with my bow and arrow,

――I killed Cock Robin.

  * * *

真っ暗な空間。
何かから逃げるように走っていた。

私はこの光景を、よく覚えている。
あの時だってそうだった。鎧の女の人に襲われて。
私を庇って、十四郎さんは……。

『手前の所為だ』

どこからか、そんな声が聞こえて来る。
少しの間だったが、同行していたから分かる。紛れもない土方十四郎の声。

(え?)

声も出せず、ただひたすら走り続ける。

213それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:30:22 ID:qIVTDzUI0
『手前が銃を出さなかったから、俺は死んだ』

(違う。だって、あれは、モデルガンで)


『いいや本物だ。あれを出していれば、結果は変わっていたかも知れねぇ』

(違う。だとしても、襲ってきたのはあの鎧の女の人で)


『手前が現実を認めてさえいれば、違う結果が見えていた』

(違う。やめて。私は何も悪くない。私は、私は……)


『俺を殺したのは……』


「ッ……」

宇治松千夜は、そこで目を覚ました。
荒い息を吐きながら、辺りを見回す。

「あ、起きましたか。随分うなされてましたよ」
「ごめんなさい……夢、だったのかしら」

ヴィヴィオが話しかけてくる。時計を見る限り、本当に1時間程度しか眠れなかったらしい。
夢は深層心理の表れとも言う。彼はあんなことを言いそうな人ではないと思っていたのだが……。

「十四郎さんを、殺したのは……」

自責、後悔。そんなことを考えているうちに、どうやら本部たちが帰ってきたらしい。
笑顔で出迎えようかとも思ったが、今の自分には出来そうになかった。

  * * *

214それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:30:58 ID:qIVTDzUI0
足首が痛い。
カイザルとラヴァレイ。2人の騎士をボディーガードに付けたことによる少しの精神的な余裕が招いた結果。
こういうのを、『慢心』とでも言うのだろうか。

「アキラ嬢、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよー。問題なく歩けま……痛っ!」

カイザルが馴れ馴れしく駆け寄る。気持ちは分かるが、非常にむさ苦しい。

「(あーあ。確かにあいつら盾にするために弱者のフリをして行こうとは思ったけどさぁ。
流石に派手にすっ転んで足いためるのってどうなの、ホント。
こんな姿、ウリスには見せたくないなあ)」

「どうしますかね。地図を見る限り、駅とやらまでそんなに遠くはないでしょうが。
少し休んで行かれますか、アキラ君」
「出来ればそれでお願いしまーす。はぁ、あきらアンラッキー……」

支給品に湿布や氷などがあれば良かったのだが、そこまで甘くはないらしい。
青いカードから冷凍スポーツドリンクを出し、それでしばらく冷やすことにした。

「(へぇ、こんなのもきちんと出てくれるんだ。感心感心)」


半時間ほど経ち、流石にこれ以上やると霜焼けになってしまうためスポーツドリンクを足から離す。
だが、それでもすぐには歩けそうにはない。
無理をすると余計に酷くなるのが、この手の怪我にはつき物だ。

「ふむ……なら、少し地下闘技場とやらを見て来るか。
何か役に立つ物が置いてあるかも知れない」
「ラヴァレイ殿、1人では危険です。私も一緒に……」

スポーツドリンクを飲む晶の傍らで、騎士2人が何か相談をしている。

「君にはアキラ君の護衛をお任せしたいのだ。何、私1人でも十分だ」
「はぁ……。それでは、お気をつけて!」

「(いちいち敬礼してんじゃないわよ。流石は上司と部下ってか)」

今ここで油断させ、2人を殺すことは可能だ。だが、それでは何ら面白くない。
なるべくいい気にさせたところを、一気にどん底へ突き落とす。
この時の心の折れる音と言ったら――。

「(あの2人はまだまだ泳がせておくに相応しい)」

それにしても。

「(私でさえもこの殺し合いの場に放り込み、私が封印を解こうとしていたバハムートを召喚して見せたあの小娘……)」

一体何者なのか。まさかベルゼヒュートにこんな真似が出来るとは思えない。
考えても答えは出そうにない。今は闘技場に向かうしかないようだ。


数十分後。

「……ラヴァさん、遅いですね」
「ええ。やはり、私も付いていくべきだったか……」
「(いや、あんたは私の盾でしょ。今私襲われたらどうするつもりなのよ)」

なかなか帰ってこないラヴァレイの身を案じていると、彼の向かった方から何かを引きずるような音が聞こえてきた。

この音は何だと言うが早いか、カイザルは走り出していた。

「ラヴァレイ殿、御無事でしたか! それは……」

無事に帰ってきたラヴァレイは、猫車を持っていた。

「薬の類などは見当たらなかったが、支給品にあったのでな。
これならアキラ君も移動出来るだろう」
「そう……ですね! アハハ……(マジで言ってんのこいつ……私は荷物じゃないっつーの! いや悔しいけど今はお荷物か)」

こんな2人に肩を持たれるよりはこちらの方が精神的に楽だと考え、晶は何も追及しなかった。非常に不本意ではあったが。

  * * *

215それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:32:09 ID:qIVTDzUI0
駅に戻ってきてからというもの、千夜はずっと土方十四郎という男のことを悔やんでおり、ヴィヴィオはそれに付きっ切り。
本部とかいう浮浪者は、少し様子を見てくるとか言って一旦駅の外へ出て行った。
チャンスは今しかない、私はそう判断した。
3人まとめて殺してしまおう。そして、優勝して、ランサーさんを……。

手元にある青酸カリのカプセルは、カプセルを開けると毒の液体が出てくるようだ。
咄嗟に打ち立てた計画はかなり短絡的ではあるが、事態は一刻を争う。
私は、赤いカードを取り出した。


「2人とも、差し入れだよ〜」

駅のホームのベンチで休んでいる千夜とヴィヴィオに、穂乃果が駆け寄る。
2人の横に座った彼女の手には、サンドイッチが3つ。

「いいんですか? 私たちもまだ赤いカードあるのに」
「いいのいいの。好きなの選んで頂戴」
「好きなのって……全部タマゴじゃないですか、具」

そう言いつつもヴィヴィオはそれを2つ受け取り、1つを千夜に渡した。
千夜も短く「ありがとう」と告げると、再び黙りこくってしまった。

「あ……本部さんにも差し入れして来ないと」

そう言い残し、穂乃果は本部の居る方へ走り去る。


「……あれ。千夜さん、食べないんですか?」
「御免なさい。今、そんな気分じゃなくて」
「もうすぐ朝ですし、食べないと今後どうなるか分かりませんよ。
とりあえず穂乃果さんにも悪いですし、私が食べましょうか」
「じゃあ……お願いするわね」

ヴィヴィオに手渡し、直後に違和感を覚えた。
無論、かなり早い朝ご飯と言ってしまえばそれまでなのだが。
何故、高坂穂乃果はこのタイミングで差し入れをしたのだろう。
わざわざ自分の赤カードを使ってまでする理由などない筈なのに。

まさか、と思った時には。
ヴィヴィオは既に、受け取ったサンドイッチを口に入れた後だった。

216それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:32:57 ID:qIVTDzUI0
「美味しい、かしら」

やや引きつった顔で尋ねる。

「普通に美味しいで……あれ、ちょっと味が……ぅぐ……」

ヴィヴィオの顔が徐々に青ざめてゆく。様子が変だ。
まさか本当に、このサンドイッチには。

気づいた時には、ヴィヴィオは痙攣し、口から血を吐いていた。

「ヴィヴィオちゃん!?」
「ぢや……さ…ん……」

喉を掻きむしりながら千夜を睨み、ベンチから転げ落ちる。

「ち、違うの、これは……」

何故ヴィヴィオは、私をここまで恨めしそうな目で見るのだ。
私は何もしていないのに。悪いのは、きっと、穂乃果ちゃんで。

「ぢや、ざん……なん…で…」

違う違うちがう私のせいじゃない私は悪くない私は関係ないきっと彼女のサンドイッチにも毒がしこまれていてけっきょくかのじょはしぬことになるんだやめてちがうわたしのせいじゃないわたしはわるくないおねがいだからそんなめでみないで――



バァン! と大きな音がホームに響き渡る。
我に返った時には、既にヴィヴィオは動かなくなっていた。
そして、手には、ベレッタが握られて。

「あ……れ?」

ヴィヴィオの口元だけでなく、胸元からもじわりと赤い染みが広がってゆく。
引き金は……引かれていた。

「いやあああああああああ!!」

すべてを悟り、千夜は逃げるように走り出した。
後に残されたのは、口にされることはなかったもう1つのサンドイッチと、1つの死体だけだった。


【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid  死亡】
【残り56人】

217それはあなたと雀が言った  ◆DGGi/wycYo:2015/09/01(火) 20:34:42 ID:qIVTDzUI0
単純な割に合理的。穂乃果はそう結論付けた。

水などの飲み物に毒を仕込んだ場合、飲んで貰えない可能性だってある。
だから食べ物なのだ。それも、サンドイッチのように片手が塞がり、かつ手軽に食べられる代物。
そうすることで、捨てるか手早く食べるかの2択を相手に迫る。
ヴィヴィオたちに差し出した3つのうち最後の1つは、自分で食べるものではない。
本部以蔵を殺すために毒が仕込んである3つ目だ。
彼は駅周辺の様子を確認したらすぐに出発するだろうし、タイミングを見てそれを渡せばきっと食べる。

「本部さーん。差し入れで……」
「待たれよ」

穂乃果の言葉を遮ると、本部は顎で少し遠くを指し示す。
見ると、複数の影がこちらに向かって来ている。

邪魔が入ったか。思わず舌打ちしそうになるのを堪え、影を注視する。
本部ほどではないがかなりガタイの良い男が2人、何故か猫車に乗せられている小柄な少女が1人だ。

「(ちょっと……これどうするの? このままじゃコイツを迂闊に殺せないじゃない)」

計画の破綻に苛立っても仕方がない。とにかくこの場を切り抜けるしかないようだ。


「(あのさー。何で私、ゴツいおっさんたちばっかりに遭うの?)」

ラヴァレイに押してもらっている猫車に乗りながら、思わず顔をしかめる。
正直、晶にとってこれ以上の道具(ボディーガード)は不要だ。
何とかして2人に駅の前で仁王立ちしている男を消してもらいたいところだが。

「(ん……? 何だ、女もいるじゃないの)」

こちらの存在に気づいたらしく女は物陰に身を隠し、男はこちらをじっと見ている。

「我々に敵意はない! ここを通してもらおうか!」

カイザルが叫ぶと男がこちらに歩み寄り、じっと晶を睨む。
苛立ちを隠し、察してくれと言わんばかりに腫れている足首を指差した。

「そのお嬢ちゃん、足を怪我しておるのか」
「ええ。そちらはお2人で?」
「いいや、向こうにあと2人――」


耳に届いた銃声と悲鳴。
数秒ほど互いに顔を見合わせ、彼らは黙ってホームへ向かう。

既にホームは蛻の空。生きた者は残っていない。
それに彼らが気づいた時、何が起こるのだろうか?


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