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オリロワA番外編スレ

1名無しの囚人:2025/12/08(月) 18:18:12 ID:W5Dq9Fl20
オリロワAの番外編投下スレです。

・基本的には「本編と直接関連しない番外編・二次創作」という体裁でお願いします。
・最低限の節度ある内容が無難と思われます。
・オリロワ2014の番外編スレに倣い、トリップの使用は個々人の判断にお任せします。

7番外編:嵐と魔弾 ◆A3H952TnBk:2025/12/08(月) 18:25:12 ID:W5Dq9Fl20

「正義に散れ」

 軍服の左袖から飛び出した暗器。
 袖に仕込まれた小型二連装拳銃(デリンジャー)が、アンナの左掌に握られており。
 迫るドンの脳天目掛けて、素早く引き金を弾いた。

 ほぼ同時、瞬速の二連射。
 アンナの超力によって、小型拳銃弾は大口径のマグナムに等しい火力を得る。
 至近距離より襲う2発の凶弾――それを咄嗟に防ぐ術など、ドンには無い筈だった。


「――――ふ゛ぅ゛ぅ゛ん゛ッ!!!!!」

 
 だが、次の瞬間。
 獣の咆哮にも似た奇声が、轟いた。
 絶叫にも似た金属の摩擦音が、響き渡った。

 アンナは思わず、驚愕に目を見開く。
 ドンの脳天を撃ち抜くはずだった弾丸。
 それは他でもない、ドン自身によって食い止められていた。

「ゲハ、ハハハ……ッ!!」
「――――まさか、な……!!」

 アンナの超力で強化された弾丸を。
 至近距離から放たれた銃弾を。
 この大海賊、歯で受け止めたのだ。
 鮫のような大口で、二発とも喰らいついたのである。
 
 まさしく離れ業。まさしく魔技。
 ドンは不敵に笑いながら、口内から血を滲ませて。
 上下の歯で銜えた弾丸を――まるで飴玉のように噛み砕いた。

「舌まで腐っていたか、豚がァッ!!!」
「ドン・エルグランドをナメんじゃねえよ!!!
 ゲハハハハハハハハハハァァァッ!!!」

 弾丸を歯で砕きながら、ドンは横薙ぎの剣撃を振るった。
 アンナは咄嗟に後方へと跳んで一閃を躱し、左掌のデリンジャーを放り捨てる。
 そのまま再び突撃銃を構えて、銃弾の雨を見舞おうとした。

「――そうら、女神が微笑んできやがった」

 次の瞬間。
 まるで大海賊の狂喜に呼応するかのように、嵐が再び猛威を振るう。

 ――刹那の合間に切り開かれていた“真空”。
 戦乙女と海賊が打ち合っていた空間を、突如として勢いを強めた暴風雨が飲み込んだのだ。
 
 吹き荒れる嵐は再び勢力を取り戻し、台風の目にも似た“風穴”を喰らい潰した。
 押し寄せる暴風と暴雨。巻き上がる有象無象。
 その衝撃に曝されながらも、アンナは自己強化の超力で何とか耐え抜いていた――。

 そうして隙を見せたアンナを狙うように。
 鋭い岩石が、嵐に乗って勢いよく飛来する。
 計算など存在しない。紛れもない偶然。

「知ってるかよ戦乙女ェェ!!!
 幸運の女神ってのはなァ!!!
 いつだって気まぐれなんだぜ!!?」

 されど、その岩石は。
 荒れ狂う嵐の勢いにも関わらず。
 “アンナ一人のみ”を軌道に捉えていた。

8番外編:嵐と魔弾 ◆A3H952TnBk:2025/12/08(月) 18:26:14 ID:W5Dq9Fl20

 目を見開いたアンナが、咄嗟に防御を行おうとする。
 その隙を大海賊は見逃さず、暴雨に曝されながらも突進。
 岩石と共に同時攻撃を仕掛けるべく、カトラスを振り上げる。

 自らが岩石の巻き添えになる危険など、意にも介さない。
 岩石に対処せんとするアンナの頭部を、刃で叩き割らんとした――。

 ――――爆撃。爆音。爆炎。
 その瞬間、岩石が即座に爆ぜた。
 嵐の狭間で、衝撃が轟き渡り。
 大海賊と戦乙女が、共に吹き飛ばされた。

 アルヴドの長銃が、岩石を撃ち抜いたのだ。
 衝撃による波紋が、戦乙女を巻き添えにして大海賊と岩石を吹き飛ばした。
 アンナに迫る“攻撃”を妨げつつ、両者の距離を離すべく、アルヴドは咄嗟に引き金を弾いた。
 やむを得ぬ形だったが――少なくとも、刃の直撃を受ければ一溜まりもなかっただろう。

 衝撃と暴風で宙を舞いながらも、戦乙女は強化した身体能力によって空中で体勢を整える。
 そのまま嵐の軌道に乗るような形で、強引にアルヴドの近くへと着地した。
 
「良くやった、引き続き援護を頼むぞ。
 敵の動きを見据えろ。嵐の流れを見極めろ」
「へいへい、承知してますよ……!」

 相も変わらず、ふてぶてしい物言いで礼を告げるアンナ。
 そんな彼女に呆れつつも、暴雨で歪む視界の中をアルヴドは見据え続ける。

 猛る雨と風。その蜃気楼の果て。
 大海賊――ドンもまた、嵐を従えるように。
 歪む景色の中で、傲岸に佇んでいた。

 ――肉体強化による加護を得ているアンナとは違う。
 ドンは純粋な身体能力、雨風を読む直感。
 そして天運さえも味方につけて、着地を果たしていた。

 やっぱり化物かよ、と毒づくアルヴド。
 同じく強化を受けているとはいえ、自分はこの嵐を持ち堪えるのが精一杯だ。
 故に、自軍への強化を施しつつ前衛を務められるアンナの存在は不可欠となる。

「正直なところ……」

 そのうえで、アルヴドは思いを抱く。
 並び立つ戦乙女への、複雑な感情を。
 例えそれが醜い矛盾であったとしても。
 テロリストである彼は、思わずにはいられない。

「あんたのような奴は、気に入らないがな」

 ――――虐殺者。殲滅者。殺戮者。
 アンナ・アメリナは、弱者を蹂躙する側の存在だ。
 女子供さえも踏み躙り、情け容赦もなく飲み込んでいく。
 アルヴド・グーラボーンの中に眠る“原初の怒り”は、彼女の本質を理解する。
 この女は、厄災を生む者であると。

9番外編:嵐と魔弾 ◆A3H952TnBk:2025/12/08(月) 18:26:48 ID:W5Dq9Fl20

「今は、あの海賊を倒すのが先決だろう。
 それくらいは俺にだって分かるさ」

 それでも彼は、眼前の敵を優先する。
 嵐の王者を倒さねば、この場は切り抜けられない。
 故に今は、怒りを押し殺す。葛藤を抑え込む。
 全てが終わった後に、改めて向き合えば良い。

「当然だ。少しは利口な豚のようだな」
 
 そんなアルヴドに対し、アンナは高慢な態度で言い放つ。
 その言葉を吐く戦乙女は、最早アルヴドに目を向けていない。

「奴に貴様の鉛玉を喰らわせてやれ。
 悪食の畜生には丁度いい餌だ」

 アンナは、その鋭い眼差しで。
 嵐の果ての敵を見据え続けていた。

 ――この戦乙女は、やはり戦い慣れている。
 ――故に、自分など意に介さない。

 アルヴドはその事実を悟る。
 アンナの傲岸な佇まいから、それを察する。
 だからこそ、手を組まねばならない。
 迫る敵を討つためにも、彼女の力が必要なのだ。

「ゲハハハハハハ――――ッ!!!」

 敵は誰だ。カリブ海に悪名を轟かせた、大海賊だ。
 生半可な敵ではない。余りにも強大な暴威が、立ちはだかっているのだ。
 アルヴドは再び長銃を構える。この暴風雨の中で、必死に照準を定める。
 この災厄を乗り越えるべく、歯を食いしばった。


「さあッ、お楽しみはこれからだぜ!!!
 冥府の果てまで、付き合ってもらおうかァ!!!」


 ――――嵐は、尚も吹き荒れる。 
 ――――航海は、未だ幕を開けたばかり。




10名無しの囚人:2025/12/08(月) 18:27:21 ID:W5Dq9Fl20
投下終了です。
他の作品も後日投下予定です。

11名無しの囚人:2025/12/09(火) 20:24:52 ID:9WbIHsmo0
以前別所に投げた番外編を投下させて頂きます。
もしもの世界の短編です。

12番外編:駒鳥のコーヒーブレイク ◆A3H952TnBk:2025/12/09(火) 20:26:30 ID:9WbIHsmo0



 からん、からん――――。
 木製の扉をゆっくりと開けて。
 来店を伝える鈴の音が鳴り響く。
 閑散とした店内が、客の来訪を歓迎する。
 
 モダンで落ち着いた色彩の内装。
 西欧風の洒落た意匠で統一された店内。
 幾つかのテーブル席がこじんまりと並び。
 店の奥側には、カウンター席が存在する。

 そこは、場末のカフェだった。
 客は一人もいない。静寂が場を包む。
 文字通りに、閑古鳥が鳴いていた。

 開いた扉から、少女が顔を覗かせる。
 静まり返る店内を、きょろきょろと見渡していた。
 ショートカットの黒髪と、あどけなさを残した顔立ち。
 ボーイッシュでありつつ、何処か幼さを感じさせる風貌だった。

 入っていいのだろうか、と。
 扉を開けた矢先に、少女は微かな不安を抱く。
 それでも彼女は何かに導かれるように、おずおずと店内へと踏み込んでいく。

 羽間 美火。
 地元の商店街を守るヒーロー。
 快活な笑顔の裏側に、傷を抱く少女。
 美火はいつの間にか、ここに迷い込んでいた。

 静まり返った店内。
 店員の案内も、呼び声も無く。
 少しばかり、そわそわしながら。
 恐る恐ると、美火は歩を進めていく。

 そうして彼女は、カウンター席の前に立つ。
 テーブルの向こう側。厨房への入口が見える。
 店の奥に店員がいるのかもしれないと、美火は思う。
 ――誰かいませんか、と呼びかけようとした矢先。


「よっ」


 厨房の入口から、ぬるっと顔を覗かせた男。
 飄々とした風貌の、ダンディな中年だった。

13番外編:駒鳥のコーヒーブレイク ◆A3H952TnBk:2025/12/09(火) 20:27:07 ID:9WbIHsmo0

「お嬢ちゃん、一人でご来店かい?」
「あ……はいっ!」

 沈黙に割り込むように現れた声に、美火はほんの少しばかり驚いてしまったものの。
 それが店主であることにすぐ気付いて、すぐにぺこりと挨拶をする。
 それから店主に「まあ座んな」と促されて、美火はそそくさとカウンター席に座った。

「その、アタシにもよく分からないんですけど。
 気が付いたら、ここに辿り着いちゃってて……」

 美火はおずおずとそう答える。
 彼女自身、どうして此処に来たのかを分かっていなかった。
 ふっと気が付けば、この店に辿り着いていた――まるで“何か”に引きつけられるように。

 そうとしか言いようが無かったから、美火は歯切れの悪い態度で居座ることしか出来なかった。
 申し訳なさと、ほんのりと居心地の悪さを感じて、やや俯きがちに視線を落としていたものの。

「……あれ」

 ほんの少し、カウンターの向こう側を見て。
 その時、美火はふいに気付いた。
 カウンターの壁に据えられた棚、その傍ら。
 ぽつんとささやかに置かれた、小さな写真立て。

 若者達が笑顔で並ぶ“記念写真”のようだった。
 10代、20代くらいの男女が和気藹々とした様子で写真に映っていて。
 その中には、美火が以前“テレビで見たことのある顔”もあって――――。

 そして、その若者達と一緒に写る“店主”の姿もあった。
 何処がばつが悪そうだけれど、満更でもない苦笑を浮かべて、写真に撮られていた。

「その写真って……」
「ああ、これか?」

 目を丸くする美火に対し、店主は写真立てへと視線を向けた。
 若者達に囲まれて一緒に写真を撮られる自分の姿を、店主は静かに見つめて。
 それから店主は微かな寂寞を抱くように、美火へと答えた。

「昔の知り合いってヤツさ」

 ――――恵波 流都。
 この喫茶店のマスターであり。
 数多の事件で暗躍した悪党であり。
 かつて夢破れた、一人の男である。




14番外編:駒鳥のコーヒーブレイク ◆A3H952TnBk:2025/12/09(火) 20:28:34 ID:9WbIHsmo0



「流都さんって“ヒーローチーム”と知り合いだったんですか!?」
「ああ。色々と縁があってな」

 カウンターテーブルを挟んで、二人が向き合う。
 美火は目を輝かせながら、流都の話に耳を傾けていた。
 ミルクをたっぷり入れたコーヒーを手元に置きながら、食い入るように流都を見つめている。

 曰く、かつては地域で“自警集団”の後見人をやっていたらしく。
 曰く、著名なヒーロー達が彼の周囲に集まっていたらしく。
 曰く、美火と同じように様々な犯罪者達から街を守っていたらしく――。

 ふつふつと懐かしむように昔話を語る流都。
 彼が傍で見守ってきた自警集団(ヒーロー)の日々、そして活躍。
 彼が紡ぐ“在りし日の思い出”を、美火は聞き続けていた。

 美火は、ずっと街を守り続けていた。
 “開闢の日”以来、世界の人類が超人になった。
 あらゆる人々が異能力を使い、かつての警察力が機能不全に陥った。
 そんな中で犯罪者が反社会勢力が台頭していくのは当然の帰結だった。

 美火は、ずっと故郷を守り続けていた。
 ヤクザや半グレの魔の手を追い払い、地元の商店街を護ってきた。
 大好きな町を支えたかったから。
 大好きな皆に笑顔でいてほしかったから。
 ――両親の期待を、裏切ってはいけなかったから――。

 美火は、ずっと特撮ヒーローが大好きだった。
 子供の頃から、色んな映像や漫画を見続けてきた。
 そういう作品を、両親が“いつだって”与えてくれた。
 だから今の彼女の根底には、正義を貫くヒーローの姿が宿っている。

 そんな美火にとって、犯罪者達と戦う自警団もまた憧れの存在だった。
 欧州で活躍する“アヴェンジャーズ”のように、彼らは人々を守るために奔走している。
 辛いことや哀しいことも沢山ある世界だけれど、それでも正義のために頑張っている。
 同じような境遇に立っているからこそ、美火は彼らのことを尊敬していた。

 だから美火は、流都の話を真剣な眼差しで聞いていた。
 彼の語る“ヒーロー達の軌跡”を、高揚と共に受け止めていた。

 思えばヒーローの話で通じ合える友達も、あまり居なくて――幼い頃に会った“りんかちゃん”くらいしか居なくて。
 ほんのりと寂しさを抱いていた美火だったから、ヒーローとの繋がりを持つ流都の話を聞けることが何より嬉しかった。

15番外編:駒鳥のコーヒーブレイク ◆A3H952TnBk:2025/12/09(火) 20:29:21 ID:9WbIHsmo0
 そんな美火を、ふっと笑みを浮かべながら見つめる流都。
 ――かつて自分を“おやっさん”と呼んでくれた若者達との思い出を、彼は振り返っていた。

 その輝かしい活躍も、暖かな日々も。
 そして、その果てに訪れた行く末も。
 彼は全てを振り返って、胸中で咀嚼する。

 色々なことがあった、と。
 流都は、静かに追憶する。
 感情が、波のように押し寄せてくる。
 抗いようのない虚しさが、音を立てる。

 ――流都は、美火を見据えた。
 無垢な瞳。真っ直ぐな眼差し。
 けれど、その奥底に宿る“仄かな影”。
 きっと悪党としての自分なら、それさえも弄んだのだろうと。
 流都は内心自嘲しながら、その上で少女へと問いかける。 

「なあ、お嬢ちゃん」

 流都の眼差しが、美火を射抜いた。
 美火は、ただ彼の視線と向き合った。

「ヒーロー、好きかい?」

 そんな問いを投げかけられて。
 勿論です、と美火は口を開こうとしたけれど。
 
 ふっと訪れた胸のざわめきに、堰き止められた。
 喉の手前で、言葉がつかえていた。
 そしてその表情に、仄かな影が射す。

「……その」

 過去の記憶。過去の思い出。過去の痛み。
 走馬灯のように、脳裏で反響する。
 目を逸らし続けていた情景が、感情が、首をもたげる。

「アタシは」

 胸の奥底で痛み続ける、恐怖と焦燥。
 焼印のように刻み込まれた苦痛が、少女を静かに苛み続けている。
 悲嘆に満ちた記憶と感情は、既に枷から解き放たれていた。

「アタシは……」

 両親の顔や言葉が、脳裏で幾度も反響する。
 教育。圧力。怒声。体罰――――。
 思い出には、いつだって痛みが伴っていた。

16番外編:駒鳥のコーヒーブレイク ◆A3H952TnBk:2025/12/09(火) 20:30:23 ID:9WbIHsmo0

 叱られるのが怖くて。叩かれるのが怖くて。
 罰を受けるのが怖くて。期待に応えられないのが怖くて。
 二人の顔色を伺いながら、必死に自分を誤魔化し続けて――。

 そんな日々を追憶して。
 答えに行き詰まって、けれど静かに顔を上げて。
 やがて美火は、微かにはにかんだ。

「……好きです、ヒーロー」

 ヒーローというものは、いつだって。
 誰かに勇気を与えてくれる存在で。
 特に今は、こんな世界だからこそ。
 誰かを支える光には、意味があるのだと。
 そう信じているけれど。

「けど」

 それでも、哀しみというものは。
 容易く拭い去ることは出来なくて。

「ちょっと、嫌い」

 だから美火は、ただ遣る瀬無く微笑む。
 彼女の希望は、カサブタに包まれている。

 流都はただ静かに、それを聞き届ける。
 何も言わず、されど目を伏せて。
 自分の過去に想いを馳せながら、微かに笑む。

 眼の前の少女と同じように。
 どこか力無く、切なげな微笑みを見せていた。

「そうだな」

 そして、流都は口を開いた。
 疲弊したような、力の無い一言。

「俺も、おんなじ気持ちだよ」

 そう呟く流都の横顔。
 どこか寂しげに微笑む姿。
 そこに宿るのは、少女への哀しみ。
 そして、言い知れぬような共感。

 美火は、そんな彼の様子を見つめていた。
 彼が抱える悲壮を、無言のままに捉えていた。

 躊躇いと、戸惑い。
 不安の中に見出した共鳴。
 心の何処かで、足踏みするような思いを抱いた。

17番外編:駒鳥のコーヒーブレイク ◆A3H952TnBk:2025/12/09(火) 20:31:04 ID:9WbIHsmo0

 ――――流都さんの力になりたいです。
 ――――アタシ、ヒーローですから。

 励ましの言葉は、喉から出かかったけれど。
 美火は目を伏せて、静かに踏み止まる。
 胸を張って手を伸ばすことが、出来なかった。

 哀しみというものは。
 簡単には癒せないものだから。
 辛い思い出というものは。
 傷として遺り続けるものだから。

 それを何より知っている美火だからこそ。
 自分を見下ろす両親の顔が、今も記憶に焼き付いてる彼女だからこそ。
 流都が覗かせた哀しみへと、踏み込むことを留まった。

 ああ、だけど。
 それでも、せめて。
 小さな寄り添いだけでも。
 美火は、諦めたくなかった。
 
 だから少女は、再び微笑んだ。
 ほんのりと寂しげに。
 そして、慈しみを込めるように。


「おかわり、お願いします」


 美火は、流都を見つめて言った。
 流都もまた、彼女の眼を見ていた。
 幼さを宿した瞳と、歳を経て摩耗した瞳。
 ふたつの視線が、静かに交錯した。
 その奥底に悲嘆が宿っていることは、どちらも同じで。

 そうして流都は、ふっと笑った。
 奇妙な安堵と、安らぎを抱いたように。
 ほんの少しだけでも、良いコーヒーが淹れられるような気がした。




18名無しの囚人:2025/12/09(火) 20:32:03 ID:9WbIHsmo0
投下終了です。
他の作品も後日投下予定です。

19名無しの囚人:2025/12/10(水) 18:08:08 ID:Cxf.PDwQ0
以前別所に投げた番外編を投下させて頂きます。
もしもの世界の短編です。

20番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:08:54 ID:Cxf.PDwQ0



「映画鑑賞会をしましょう」
「いや、急に何ですか?」

 もはや友人の得意げな笑みにも、すっかり慣れていた。
 彼女が突飛な提案をすることも、いつもの出来事だった。




21番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:09:35 ID:Cxf.PDwQ0



 ファルネーゼ家はイタリア有数の資産家である。
 自宅は広大な敷地を備えた大豪邸であり、休養のための別荘地も幾つか所有している。
 ――ナポリの“アマルフィ海岸”を見下ろせる丘上に建てられたこの邸宅もまた、その一つである。 
 ここはファルネーゼ家当主が愛する家族のために用意した、穏やかなオアシスである。

「お父様にねだったら、映写機をプレゼントして貰えました」

 そんな別荘の邸宅――その一室にて、ルクレツィアはアンティーク調のソファに腰掛けていた。
 ふふんと口の端を上げて、友人に対して得意げに語る。

「前々から思ってたんですけれど、貴女のお父上って娘に対してかなり甘くないですか?」

 そんな彼女をジトッとした目で見つめて、やれやれとボヤくソフィア。
 幼い頃から本質的に孤独だったルクレツィアにとって、唯一と言っていい親友である。
 彼女もルクレツィアの隣でソファに腰掛けている。

「ええ。お父様ったら、私に真っ当な友達が出来たことが余程嬉しいみたいです」 
「……まぁそもそも、貴女にちゃんとした友達が出来ること自体が奇跡ですからね」

 やれやれと言わんばかりのソフィアに対して、心外そうにわざとらしく膨れるルクレツィア。

「失礼な、私にも友人くらい居ましたよ。ニケとか」
「小鳥遊 仁花なんかやめなさい。あれは悪い付き合いそのものでしょうが。
 というか彼女、だいぶ前に逮捕されてますし」
「惜しい女性を亡くしました」

 淑女ルクレツィア、悪い付き合いには事欠かない。
 とはいえ互いに肩を力を抜いて、真っ当に腹を割って話せるような親友は、やはりソフィアが初めてだった。

 ルクレツィアにソフィアという“初めての真っ当な親友”が出来て、父であるファルネーゼ公はいたく喜んだという。
 その喜びが高じてか、以後娘への接し方が明らかに甘くなったのである。
 友人と遊びたいから、友人と会いたいから――そんな前置きを付ければ、彼女の父は大抵のことは許してくれた。モラルに反しない限り。

 そうしてルクレツィアが“最新機器を使って親友と映画鑑賞会がしたい”とおねだりした結果、最新式の高級デジタル映写機がプレゼントされた。
 ついでに“別荘も友達と一緒に使わせてほしい”とねだったら、快く承諾してくれたという。

22番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:10:35 ID:Cxf.PDwQ0

「言っておきますけど『ローマの休日』だったら見ませんからね」
「ふふ、安心して下さいなソフィ。近年の映画ですよ。
 いつまでも古典ばかり見ているのも芸が無いでしょう?」
「というか毎度オードリーがどうとか横からうるさいんですよ。貴女は」

 ソフィアは釘を刺すように先んじて言うが、対するルクレツィアは飄々としている。
 相変わらず腹立つ態度だなとちょっと思いつつも、ソフィアはそんな感情をとりあえず棚上げした。

「で、タイトルは」
「2045年公開の映画『カプリの熱夜にて』」
「ポルノまがいの作品じゃないですっけ?それ」

 ルクレツィアが告げた映画のタイトル。
 それを耳にして、ソフィアは一気に訝しむような顔になった。
 ――そう、噂にしか聞いたことがないが。たぶん“結構やらしいヤツ”である。

「私も初見ですが、主演女優が可愛らしいんですよ」
「あなた何事においても女優ばかり見てますよね、ルクレツィア」
「女はフィルムに愛されるから、殊更に美しいのです」

 そんなソフィアの様子もどこ吹く風と言わんばかりに、ルクレツィアは語る。
 ――ルクレツィアはバイセクシャルだが、どちらかと言えば同性の気が強い節がある。
 ソフィアも何度か戯れに手を出されそうになったことがあったが、なんやかんやで全て拒んでいる。

「ソフィ。ポルノまがいだなんて、見る前から偏見はいけませんよ」
「なんか貴女が真っ当な感じに諭してくるの癪ですわね」
「見てからのお楽しみという奴です」

 部屋の明かりが消え、映写機による光が灯る。
 うきうきしながら待ち侘びるルクレツィアを、ソフィアは呆れ気味に流し見ていたが。
 その矢先に、ファルネーゼ家に雇われた使用人(メイド)がすっと姿を現した。

 使用人は当然の如く全身包帯だらけ、顔には大きなアザ。両腕は切断されたのか、義肢と化している。
 ――――ソフィアは早速げんなりした。 
 そんなソフィアの様子を全く気にせず、使用人はソファの前のテーブルに何かを置く。
 そのまま使用人は謙るように一礼をして、何事もなかったように部屋を後にした。

「ソフィ」
「…………何ですか」
「食べますかこれ」
「準備万端すぎません?」

 使用人が用意したもの――。
 それは豪勢な器に盛られたポップコーンだった。
 ルクレツィアはソフィアに対して問い掛けながら、早々にポップコーンへと手を出していた。
 
 小さな一口で淑やかに咀嚼するルクレツィア。
 そんな彼女を呆れ気味に見つめてから、結局ソフィアもポップコーンを食べていた。




23番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:11:38 ID:Cxf.PDwQ0



「…………」
「…………」

 ――熱に揺らぐ男女の瞳。
 ――宵闇に零れる二人の吐息。
 ――ムーディな場面である。

「…………」
「…………」

 ――カプリの夜は、ひどく熱い。
 ――海辺の愛は、ひどく麗しい。
 ――演出が、無駄に爛れている。





「…………」
「…………」

 ――三角関係。愛が揺さぶられる。
 ――滾る情欲が交錯する。
 ――間男ならぬ、間女の出現。

「…………」
「…………」

 ――女同士の不倫愛。
 ――包み隠さず言えば、ラブシーン。
 ――カメラワークが落ち着かない。




24番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:13:10 ID:D24rqgdc0



「…………」
「…………」

 ――主演女優は可愛らしい。
 ――ボーイッシュで凛として、可憐だ。
 ――なのにソフィアは何故か腹が立つ。

「…………」
「…………」

 ――またラブシーンなのか。
 ――このカメラワークは何なんだ。
 ――BGMがやかましい。黙ってくれ。





「…………」
「……zzz……」

 ――ルクレツィアが寝落ちした。
 ――ソフィアだけが目を開けている。
 ――この映画の上映時間は175分だ。

「…………」
「……zzz……」

 ――私はいったい何をしている。
 ――どんな任務でも味わったことのない困惑。
 ――ソフィアの心は、まさに疑念の渦中に立たされていた。





「…………」
「……zzz……」

 ――ルクレツィア曰く、主演女優が可愛らしい。
 ――ああ、確かにそうだ。認めざるを得ない。
 ――それに関しては間違いなく価値があると、ソフィアは思う。

「…………」
「……zzz……」

 ――なのに、その女優が可憐に笑うたびに。
 ――何故か、妙にむかついてくる。
 ――その麗しさに、謎めいた引っ掛かりを抱く。

「…………」
「……zzz……」

 ――というかルクレツィア。
 ――いいから起きろ。
 ――なんで中盤以降ずっと寝てるんだ。




25番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:14:17 ID:D24rqgdc0



「――――ふふ、映画はどうでしたか?」
「完全に寝落ちを開き直ってますわね」

 映画終了から数分後、ルクレツィアが目覚めた。
 その第一声がこれである。堂々としすぎている。

「仕方がないでしょう。退屈だったので」
「わたくしは最後まで見る羽目になりましたよ」
「ふふ、立派な心がけです」
「立派もクソもありませんわよ」

 貴女が選んだ映画でしょうに、とソフィアは内心毒づきつつ。

「で、どうだったんですか?映画」
「はぁ」
「どうだったんです。聞かせてください。感想」
「はいはい分かりましたよお嬢さま」

 堂々と開き直るルクレツィアに溜め息を吐きつつ、ソフィアは先程まで見ていた内容を嫌々に振り返る。
 寝落ちしたくせにグイグイ食いついてくるのが腹立つ。

「たまに良い感じの場面が出てきます」
「ほうほう」

「役者も美男美女で綺麗です」
「へぇ。それで?」

「でもラブシーンが多すぎてうんざりしてきます」
「ふむふむ」

「カメラワークもいちいち変だし、演出も騒々しくて段々腹が立ってきました」
「なるほど」

「あと……色々ねっとりし過ぎてて……嫌になるんですよね」
「ふふっ」

 ――なんでわたくしが説明しなければならないのか、とソフィアは呆れつつ。
 悪びれもせずに相槌を打つルクレツィアを、何とも言えぬ眼差しで見つめる。

26番外編:映画を見ましょう ◆A3H952TnBk:2025/12/10(水) 18:14:53 ID:D24rqgdc0

「でも主演女優は可愛らしかったでしょう?」
「ええ……まあ」

 前のめりに言うルクレツィアに、ソフィアはバツが悪そうに答える。
 主演女優の話になると、彼女は妙にいきいきとしている。
 ソフィアにとっては妙に腹が立つというか、むず痒い女優だったのだが――何がそんなに琴線に触れたのか。

「あの女優。好きなんですか?」
「ええ。気に入ってます」

 だからソフィアは、その疑問を聞いてみることにする。
 ルクレツィアは悪食に見えて、案外選り好みをする。
 なのでただ“可愛いから”というだけで女優を気に入ったりはしないと思うが――。

「どうしてですか?」
「あの女優はですね」

 そして、ルクレツィアが一呼吸置き。
 仄かに顔を赤らめて、飄々と笑う。

「ソフィに似てるんですよ。凛とした笑顔とか、顔を赤らめてる時の可愛らしさとか」

 ――――その一言を聞いて。
 ソフィアは反射的に、ルクレツィアの脇腹をどついた。
 気恥ずかしさのような、むかつきのような。
 何とも言えぬ感情に駆られて、気が付けば右手が出ていた。

「ぐえ」
「もう二度と彼女の映画は見ません」
「ふふ……いきなり大胆ですわね、ソフィ。
 お好きにぶちなさいな。私達は友達ですから」
「ルクレツィア。お黙りなさい」
「んああ」

 恍惚とするルクレツィアを、ソフィアは暫くどついていた。




27名無しの囚人:2025/12/10(水) 18:15:32 ID:D24rqgdc0
投下終了です。
他の作品も後日投下予定です。

28 ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:31:34 ID:IwJajvzw0
以前別所に投げた番外編を投下させて頂きます。
二次創作的な短編です。

29番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:33:02 ID:IwJajvzw0



 揺らぐ感覚。
 ぼやける感覚。
 歪むピント。
 纏まらない思考。

 揺れる、揺れる、揺れる。
 まるで水面のように、揺れ動く。
 揺蕩う、揺蕩う、揺蕩う。
 まるで出口のない海を彷徨う舟のように。

 吐き気にも似た不快感と、ほんの微かな高揚の残滓。
 ズキズキと痙攣する脳天を抑えながら、少女は緩やかに活動を始める。

 五感の全てが、浮遊していた。
 それでも、少しはマシになってきた。
 覚醒を経てから、数十分後のことだった。

 部屋に日は射さないが、既に朝を迎えていた。
 スプリング・ローズは、今日の始まりを認識する。
 彼女はソファに背中を預けたまま、つい先刻まで気絶していた。

 目を覚ました少女は、がたつく現実感を整えていた。
 掻き乱されたままの脳髄の平衡感覚を、何とか取り戻していく。
 混濁していた視界が、ようやく晴れてゆく。
 目の前に広がる現実を、やっと認識していく。

 そこは“いつもの部屋”だった。
 廃棄されたアパートの一室。
 こじんまりとした広さの、煤けた屋内。
 そこには数人の少年少女が横たわっていた。
 中央のテーブルを囲うように置かれたソファの上で、彼らは意識を失っていた。
 みんな“イースターズ”の身内だった。

 乱れた衣服。乱れた姿勢。
 ある少年は、床に寝転がっている。
 ある者達は、裸のまま密着し合っている。
 照明や棚など、幾つかの家具は横転して破壊されていた。
 眠りに落ちる前、よほど好き放題に暴れていたのか。

 テーブルの上には、数本の注射器。
 少年少女の有り様と同じように、乱雑に放置されている。

 彼らの腕には、等しく刻み込まれている。
 針を刺して“注射”した痕が、痛々しく残されている。

 床やソファには、白い粒が散乱していた。
 菓子か何かを思わせる“それ”は、粉雪のように部屋に撒き散らされている。
 大量に摂取せねばろくに“飛ぶ”こともできない、安物の粗悪なドラッグだった。

 親しい連中を集めて、棲家で過ごして。
 打って、噛み砕いて、二重にハイになって。
 それから夜通しの乱痴気騒ぎ。
 騒いで、暴れて、ヤッての繰り返し。
 記憶を手繰り寄せて、少女は昨夜の出来事を思い出す。

 なんてことはない。
 ひどく、ひどく慣れている。
 そんな、いつもの日常だった。

 床に寝転がっていた少年が、這うように蠢いていた。
 ボロ切れのような絨毯を掻き毟って、床に散乱した錠剤に犬のように食らいついている。
 その顔には、焦燥にも似た笑みが張り付いていた。
 それからまるで焦点の合わない瞳で、彼は横たわる棚から零れ落ちた雑誌を手繰り寄せていた。

「見ろよ、見ろよぉローズ」

 少年は血走った目で、呂律の回らない舌で、言葉を発する。
 しがみつくように雑誌を握って、ソファに腰掛けるローズへと表紙を見せつける。

「おれたちの、パパだ」

 “フランスの敏腕実業家、ルーサー・キング”。
 彼がまだ逮捕される前。著名な雑誌の表紙として、キングの写真が印刷されていた。

30番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:35:09 ID:IwJajvzw0

 表紙に映るキングは深い威厳を湛えながらも、子供達に対して何も物を言わない。
 しかし少年は、まるで自分の実の父親を見つけたかのように、ケタケタと笑みを浮かべていた。

「会ったこともないのに」

 少年は、写真のキングを食い入るように見つめる。 

「パパなんだってさあ」

 そう、会ったことなんてない。
 首領であるローズを除いて、誰ひとり。
 みんな、写真や映像越しでしか知らない。

「なんでかなぁ?おれたちに、パパがいるの」

 “キングス・デイ”の傘下になったストリートチルドレンには、後見役である下部組織によってまず洗脳教育が施される。
 組織に対する絶対の忠誠を誓わせるべく、徹底的な“思想の刷り込み”が行われるのだ。

「パパ、パパ……」

 “キングス・デイ”こそが全てであり、その中心に立つ“ルーサー・キング”こそが絶対の存在である――。
 お前達は“キングス・デイ”でしか生きられない、“キングス・デイ”に飼われる以外に進む道はない――。
 お前達は“生粋の破壊者”であり、生まれ持った暴力を組織の下で存分に役立てるべきである――。

 そうして彼らは組織の駒へと仕立て上げられ、組織が与える以外のあらゆる世界を削ぎ落とされていく。
 日々の生活の保障、暴力や非道の容認、“報酬”の提供によって、彼らは組織に尽くす利を与えられる。
 その中でも特に優秀な少年少女は“王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)”として取り立てられる。
 組織直属の有望株として、将来の立場を約束されるのである。

「パパ――――」

 尤も、最終的にそんな地位を得られるのは一握りの強者のみ。
 ただの下っ端として地を這うだけなら、まだマシな末路である。

 そうなることさえ出来なかった有象無象は、より惨めな結末を迎えることになる。
 熾烈な抗争の中で命を落とすか、組織が望む結果を残せずに打ち捨てられるか――。
 あるいは洗脳教育の過程で与えられる麻薬に依存し、再起不能に陥るか。

「パパ!」

 この少年もその一人である。
 彼もまた、そんな限界を迎えようとしている。
 雑誌を握る腕は、注射の痕でひどく青褪めていた。

「パパ!!パパ!!パパ!!パパァ!!」

 少年は無我夢中の表情で、ルーサー・キングの写真へと執拗に口づけをする。
 唾液がへばりつくほどの勢いで、まるで写真の中のキングに食いつくような気迫で、彼はキスを繰り返す。
 雑誌の表紙が擦れる音と、唇の粘膜がくちゃりくちゃりと立てる音が、混濁するように混じり合う。

「パパ、パパ……パパ……ぱぱ……」

 何度も何度も、何度も何度も――――。
 強迫観念にも似た口づけを繰り返して。
 やがて少年は、我に返ったように目を見開く。
 それから呆然としたまま、雑誌へと顔をうずめた。

31番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:35:51 ID:IwJajvzw0

「パパァァァ…………っ」

 ただ無我夢中で、少年は泣き出していた。
 赤ん坊のように慟哭を繰り返し、只管に泣きじゃくり。
 涙と唾液に沈むように、嗚咽の声を漏らし続けて。

 やがて彼は、ぷつりと糸が切れたように沈黙する。
 雑誌に顔を埋めたまま、ふっと意識が途切れたのだ。
 そのまま写真越しのキングに縋るように、頭を表紙を擦り付けたまま倒れ込んだ。

 壊れた人形のように沈黙した少年を、ローズは無言で見つめる。
 何も言わずに、神妙な顔のまま――ただじっと見つめていた。
 麻薬の高揚から解き放たれた頭で、目の前の事象を淡々と認識していた。
 雑誌に顔をうずめて、“ボス”に縋って、動かなくなった少年。
 そんな彼を、ローズは無言のまま見据えている。

「ねえ、ローズ」

 沈黙に割り込むように、横合から少女の声が割り込んできた。
 衣服が乱れた姿でソファに寝転んでいた少女が、少年の慟哭で目を覚ました。

「わたしたちさぁ」

 少女は、糸が切れたように倒れた少年を見下ろしていた。
 その瞳は白く濁って、口元には自暴自棄な笑みが張り付いている。

「パパのもの、しゃぶったら」

 現実と虚構の境目が、未だに曖昧になったまま。 
 粘り付くように、少女はぐちゃりと笑う。 

「やっと愛してもらえるのかな」

 そんなことをぼやいて、少女は人差し指をスッと唇に伸ばした。
 そうして指先に喰らいつくかのように、かり、かり、と爪を噛み続けた。

 少女がぼやいた言葉を耳にして。
 ローズは茫然とした沈黙を貫いていた。

「……ひひ」

 やがて、ローズもまた笑い出した。
 その口元から、耐え切れなくなったように。

「ひひひ、ひひひひひ」

 まるで吐瀉物が漏れ出るように。
 彼女の喉奥から、嗤いが止まらなくなる。

「くはは、ひゃははは、ははははははは……っ」

 ローズは、笑い続けていた。
 ただただ、笑うしかなかった。
 右手で顔を覆って、ケタケタ、ケタケタと。
 とにかく可笑しくて、堪らなかった。


 ――――くっだらねえや。
 ――――野良犬どもが、王に愛されるかよ。




32番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:36:34 ID:IwJajvzw0



「エリック、まだ起きねえな」

「ぜんぜん動かないよ」
「ボスの雑誌、抱きしめたまま」
「死体みたいになってる」
「キスしまくってから、ずっとこの状態」

「……おっけ。呼吸は?」

「一応してる」
「ひゅーはーひゅーはー、って感じに」
「幽霊みてえな顔色じゃん」
「ヤバそうだわ、ひひひッ」

「ああ」

「でもまぁ、幸せだなあ」
「楽しんでブッ飛んだんなら」
「きっと良かったんだろうなァ」
「ヤクでイケるんなら良いよねえ」

「…………なあ、みんな」

「どうするゥ?ローズ」
「どうしよっかあ」
「なァ、ローズ」
「リーダー。どうしたの?」

「“組織”のヤツ呼んでくれ」

「うん」
「ああ」
「りょうかい」
「はーい」




33番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:38:33 ID:IwJajvzw0



「すまん、すまなかった、悪かったよッ、ちょっと魔が、魔が差して――」
「カマみてえにウダウダ言ってんじゃねえよ」

 日中にも関わらず、“準備中”の看板が提げられた移民系のレストラン。
 その店内――客のいない伽藍堂のホールで、店主の男は跪いていた。

「此処は組織のシマだろ?あ?分かってるよな?
 ウチのボスをナメてんじゃねぇよ」
「わ、分かってる!分かってるよ!すまなかった!やめてくれ!」

 床に頭を擦り付ける勢いで土下座するのは、浅黒い肌を持つ中年男性の店主。
 彼を冷徹に見下ろすのは、赤い髪を持った小柄な少女――スプリング・ローズ。
 彼女の後ろには、複数名の少年少女達が控えていた。
 ある者は嘲るように店主を眺めて、ある者は退屈そうに虚空を見つめて、ある者は今か今かと暴力を振るう時を待ち続けている。

「組織だまくらかして、テメエの腹肥やそうって魂胆だってのはよおく分かったよ。
 で、その理由が“魔が差して”?いい度胸じゃねえか。気の迷いで組織に逆らっちまうなんてな」

 ローズは身を屈めて、店主の髪を乱暴に掴む。
 そのまま無理矢理に目線を合わせて、威圧するように吐き捨てる。

 ルーサー・キングが逮捕された。
 闇の帝王が娑婆から姿を消した。
 裏社会に生きる大抵の者は、以後も彼の影響力が続くことを理解していたが――。
 キングがいなくなったという事態を“鵜呑み”にする者も、ストリートには溢れ返っていた。

 帝王が消えた今こそ好機であるとして、私服を肥やそうとか、自分が幅を利かせようとか。
 無鉄砲な野心を顕にする者、稚拙な企みに走る者が、後を断たなかったのだ。
 そうした輩に対する“罰”を与えるのが、下部組織に飼われる猟犬達の仕事である。

「許してくれ!今回は偶々なんだ!もう二度と起こさない!だから、だからっ――!」
「うるせぇよ。だったらハナからやんじゃねえ」

 “名の知れたネイティブ・ギャング”を差し向けることには、絶大な効果があった。
 悪名高い新世代の犯罪者――彼らが粛清に顔を出すこと自体が強烈な威嚇となるうえ、それらを従えるキングス・デイの力を身を以て知らしめることになるからだ。

 怯える店主を乱暴に突き放し、ゆらりと立ち上がるローズ。
 這うように縋る店主を冷淡に見下して、彼女は振り返った。

「みんな。好きに暴れろ」

 そして、スプリング・ローズが一言。
 後ろに控えていた同胞達へと“号令”を掛ける。

「全部、ブッ壊してやれ」

 それは罰であり、粛清の宣告だった。
 徹底的な破壊と簒奪。組織に逆らった者に対する“見せしめ”。
 イースターズは、“組織”の手足として動く猟犬の群れだった。

 血と狂気に飢えた少年少女たちは、首領の指示に嬉々とした表情を浮かべる。
 彼らは自らの超力を剥き出しにして、その暴力を行使せんとする――。


「――――た、助けてくれッ!!!」


 店主が“何か”に助けを求めて、叫んだ瞬間。
 店舗の奥側から、二人の影が飛び出した。
 彼らは首領であるローズへと目掛けて、猛禽のように俊敏に奇襲を仕掛ける。
 刃状の何かと、電撃を纏った右手――二人はそれぞれの超力によってローズを仕留めんとする。

 しかしローズは、その場から動くこともなく。
 一瞬だけ“獣化”させた右腕を振るって、攻撃を即座に弾き返す。

34番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:39:47 ID:IwJajvzw0
 二人は奇襲を凌がれ弾き飛ばされるものの、空中で回転しながら態勢を立て直し。
 そのまま店主の直ぐ側に着地し、ローズを睨むように見据えていた。

 ――用心棒である。組織に対して内密に、店主が自らの利益を守るために雇ったギャング達だった。
 組織による取り立てに備えて、彼は腕利きのならず者達を抱え込んでいた。

「“牧師”の犬だな。健気なこったよ」
「飼い主が檻ン中でも、立派な忠犬って訳か?」

 二人のギャングは、どちらも少年。どちらも十代そこらの子供。
 いずれも“それなりに”名の知れた、野良のネイティブ・ギャングだ。
 キングス・デイの台頭による治安悪化、貧富の差の拡大。その犠牲として生まれたストリートチルドレンの成れの果てである。

 彼らは生活の行き詰まり、生存競争における限界の末に、犯罪で食い繋ぐ術を覚えていく。
 時に彼らは、物心ついた時点でそういう生き方を身に付けることになる。

 特定の組織に属さず、用心棒稼業などで自らの暴力を売り込むネイティブの存在は、欧州では決して珍しいことではない。
 後ろ盾を持たず、路地裏を彷徨う狼としての少年少女たち――。
 そうしたゴロツキ達はある種の自由を持つ。組織に縛られないという自由だ。
 そんな自由の代償として、彼らが迎える末路はたいてい決まっている。


「――――くっだらねえ」


 吐き捨てるようなローズの一言。
 その直後、肉体が猛々しく膨張する。
 獰猛な怪物/人狼としての姿が、牙を剥く。
 スプリング・ローズの超力が解き放たれる。

 目を見開く、二人の用心棒。
 向けられた殺気に、彼らは一瞬だけ怯むものの。
 それでも自らの超力によって抵抗を試みる。
 獰猛な敵意を構えて、人狼と対峙する。

 一方は全身を“鋭利な刃”へと変化させ。
 一方は両掌から“電撃”を迸らせる。
 しかし――無意味だった。何もかも。

 真紅の影が、圧倒的な暴威を振るう。
 新時代が生んだ悪徳が、咆哮を上げる。
 一方的なまでの暴力が、行使される。
 人狼の四肢が、更なる赤色――返り血に染まっていく。
 身の程を知らないチンピラ達を、瞬く間に蹂躙していく。

 どっちも、同じ穴の狢だというのに。
 どっちも、同じ時代の犠牲者だというのに。
 彼女達は、何かに突き動かされるように対峙する。
 お互い恨みなんか無いのに、殺して殺される。

 何の意味がある。答えてくれる者はいない。
 世界の仕組みが、神様を盗んでいったからだ。




35番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:41:10 ID:IwJajvzw0



「おう、オッサン。よこせよ」

「相変わらず口の利き方がなってねえな、ローズ」

「知るかよ。仕事は終えたぜ」

「テメェら“飼い犬”のくせに、生意気なモンだ」

「よこせよ、いいから」

「ハッ。まあいいさ、ほらよ」

「…………」

「仕事の報酬だ。カネとヤク、お望み通りに」

「カネ、今日もこれっぽっちかよ」

「必要経費の差し引きがあるのさ。テメェらに棲家を提供してやってるだろ?」

「どうせカネ払う気もねぇんだろ」

「るせぇな、テメェらヤク打ってりゃ満足だろ」

「ナメてんのかよ」

「組織の看板が無けりゃ、しょせん破綻者のガキ共だろうが」

「…………」

「組織無しで、テメェらの命に何の価値がある?」




36番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:42:02 ID:IwJajvzw0



 いつもの棲家。
 いつものアパートの一室。
 みんなで、テーブルを囲んでいた。
 今朝とは違う面子で集まっていた。

 遊ぶ相手は、日によって変わり続ける。
 仕事の後は色んな組み合わせで交代して、思い思いの時間を過ごす。
 ある面子は別の隠れ家で快楽に浸ったり、ある面子は外に出歩いて気ままに彷徨ったり。

 今朝の出来事を振り払うように、ローズは今日も棲家で楽しむことを選んだ。
 常に変わることのない、刺激的で閉ざされた乱痴気騒ぎだった。

 今朝から荒れたまま、掃除もされていない部屋。
 床に散乱した錠剤は未だに野晒し、横倒しになった家具は変わらず放置されている。
 そんな中でローズ達、6人の少年少女はソファに呆然と身を預けていた。

「ひひ、はは、ははははッ――――」

 注射器はとっくに放り投げていた。
 報酬のヤクを思う存分に打ち尽くしたからだ。
 新人類の肉体にも作用する、実に強烈で害悪な代物だった。
 脳髄を揺さぶられるような快楽に沈んで、少年少女達はけらけらと笑い続ける。

「いいなぁ、気分がいいなぁ、悪くねえなァ」

 歓喜のはざまに、罪悪感が割り込む。
 狂喜に歪みゆくローズの思考に、微かな正気が揺れ動く。

「クソッタレの世界、クソッタレの大人達、クソッタレの神」

 つい今朝の出来事だった。
 目を覚ましたら、エリックが駄目になっていた。
 雑誌に載るボスの写真に縋って、さんざん泣き喚いて、それから動かなくなった。
 呼吸は辛うじて続いていたが、それでも彼は事切れた死体のように横たわっていた。

 意識が朦朧としたエリックの有り様を見て、ローズは“組織の人間”を呼ぶことにした。
 そういう取り決めになっていたし、もうどうしようもないことに気付いたからだ。

「クソッタレのカネ、クソッタレのヤク、クソッタレの――」

 使い物にならなくなった子供は“所属の異動”として下部組織に回収される。
 人身売買の“商品”として売りに出されるか、ネイティブの“実験材料”を求める連中に提供されるか、適当に処分されるか。
 末路はそのいずれかである。この取り決めを誤魔化せば、組織による“罰”が与えられる。

 今回も、取り決めに従った。
 エリックはそうして回収された。
 ただ、それだけのことだった。

37番外編:JUNK ROSE ◆A3H952TnBk:2025/12/11(木) 20:43:10 ID:IwJajvzw0

 次は誰だ。誰の番になる。
 そんなこと、知る由もない。
 此処に集う連中は、みんな明日を棄てている。

「ククク、クククククっ、ヒャハハハハハハッ」

 いつものことだ。いつもの日常だ。
 それが彼女達にとっての、ありふれた日々だ。
 殺して、遊んで、喪って、また殺して――。
 その果てしない繰り返しだ。
 出口を見つけた先にあるのは、闇の深淵だけ。

「――――アタシたちは“イースターズ”だ!!!」

 だからローズは、慟哭を絞り出す。
 同胞達と共に、幻想と虚妄へと飛び込む。
 その瞬間、罪の感覚は消し飛んだ。
 何もかもが、快楽と共に混濁した。

 ――なんでこうなったんだ?
 ――なにを間違えたんだ?
 そんな疑問に答えてくれる者は居ない。
 暴力に身を委ねた時点で、それを捨ててしまったのだから。

「誰にも文句は言わせねぇ、誰にも止めさせねえ!!!潰す潰す、全部ブッ潰す、潰してやるよォ、クソッタレの『アイアンハート』も、クソッタレのネイ・ローマンも!!!」

 ハイになった意識の中で、けたたましく叫び続ける。
 支離滅裂になる視界の中で、弾けるような高揚に埋没する。

「だから、だからッ、ひひひひひひ――――」

 何もかもがぐちゃぐちゃに掻き回されて、笑いが止まらなかった。
 暴れて、笑って、狂って、悦楽に浸り続ける。
 我に返って無垢を取り戻した所で、結局は苦痛と煩悶に苛まれるばかりだ。

「遊ぼう、遊ぼうぜ!!!ヤッてヤッて、ヤリまくって!!!アタシらのぜぇんぶ、神様に見せつけてやろうかァ!!!」

 ――だったら、愉しんだ方がいいだろ。
 どうせ神にも愛されてないんだから。
 祝祭(イースター)なんて、訪れないんだから。





 なあ。
 見ろよ、ロイド。
 アタシ、強くなったぜ。

 誰も逆らわないし、誰にも文句を言わせない。
 “イースターズ”の名を出せば、みんなビビるんだぜ。
 アタシさ、欧州最悪のネイティブ・ギャングの一人なんだとよ。
 ネイ・ローマンと肩を並べる稀有な存在、だってさ。
 もう何も亡くさなくて済むのかなあ、って思ったのに。

 不思議だよなあ。
 強くなったのにさ。
 こんなにも天国が近いんだよ。
 なんでか自分を愛せないんだよ。
 飢えて、餓えて、仕方がねえ。

 ワケわかんねえよなぁ。
 ああ、クソッタレ。




38名無しの囚人:2025/12/11(木) 20:44:03 ID:IwJajvzw0
投下終了です。
別所に投げた番外編は以上になります。

39名無しの囚人:2025/12/23(火) 22:03:42 ID:SRbtpX4E0
現行の予約投下まで本編様子見中なので、
息抜きに書いた番外編を投下させていただきます。
二次創作的な短編です。

40番外編:MAGIC ◆A3H952TnBk:2025/12/23(火) 22:04:20 ID:SRbtpX4E0



 真夜中の大都会。閑散とした市街地。
 開発と繁栄によって彩られた都市。
 満月の明かりが、無機質な街を見下ろす。
 人々は寝静まり、僅かな街灯だけが地上の灯火となる。
 
 沈黙と静寂が、場を包む。
 時刻はとうに深夜を過ぎている。
 街行く者は、最早誰もいない。
 ただ一人、路地を往く少女を除いては。

 朱色の髪を持つ少女は、人気のない路地裏を静かに歩いていく。
 瀟洒なスーツに身を固めて、ブーツの靴底でステップを刻む。
 俯きがちに進みながら、右手に握る手提げの革製トランクを揺らしていた。

 こつ、こつ、こつ――。
 少女は暗がりを進む。暗がりを歩く。
 歩を刻み続けて、やがては足を止める。
 俯いた視線が、ゆっくりと上げられる。

 彼女が見つめた先。
 そこに在ったのは、聳えるような高層ビル。
 ある悪名高い“実業家”が所有する施設。
 それをじっと見つめて、彼女は微かに笑んだのち。

 革製トランクの口を閉ざす錠を、指先で軽やかに解き放った。
 軽やかな笑みを、口元に浮かべたまま。
 少女はトランクを振り上げ、真上へと放り投げた。

 解錠された鞄が、宙へと放られる。
 鞄の中に収められた荷物が、ばら撒かれる。
 空中を舞う品々に、少女は目を向けなかったが。
 重力に従って落下していく“それら”へと、彼女は微笑みかけていた。

 重みと質量でふわりと落ちてきた、鳥の翼を思わせる闇色の布(マント)。
 少女は掲げた左手でそれを掴み取り、くるりと一回転。
 踊るようなステップを踏みながら、その身にマントを纏う。

 続けて落ちてきたものは、平たく折り畳まれた絹製の帽子。
 マントを纏う所作から立て続けに右手を振るい、帽子を指先で受け止める。
 そのまま迫り上がるようにシルクハットの形状へと戻った帽子を、彼女は頭へと身に着ける。

 宙高くから落ちてくる、黒い欠片に似た荷物――。 
 目元や鼻などの顔上部を隠す、鴉のような仮面(マスク)である。
 マントを纏い、シルクハットを被った少女は、そのまま仮面を左手でキャッチする。

 それは虚構の姿。それは悪党としての象徴。
 その手に取った仮面で、彼女は顔を覆った。

 そして、革製のトランクは、空中でその姿を変えていた。
 一体いかなる技術なのか。一体どのような仕組みになっているのか。
 荷物入れに過ぎなかった物体が、アンティーク調の大型多機能拳銃へと“変形”していたのである。

 仮面を被った“女怪盗”は、落ちてきた大型拳銃をその手に掴み取り。
 腰元に隠していたガンホルスターへと、西部の保安官のように素早く収める。

 帽子に仕込まれている“盗聴対策済みの骨伝導式無線機”が、正常に機能することを確認しつつ。
 少女は優雅に駆け抜けて、そのまま跳躍――大都市の空へと舞っていく。
 グライダーのように展開されたマントが、彼女に宙を舞う翼を与える。

 ――――開闢の世界を翔る義賊。
 ――――“怪盗ヘルメス”、ここに参上。

 彼女は、真夜中を駆ける。
 耳元のジュエルを揺らしながら。
 数多の罠を、指先で潜り抜けて。
 伝令の夜鳥は、優雅に翔ぶ。




41番外編:MAGIC ◆A3H952TnBk:2025/12/23(火) 22:04:54 ID:SRbtpX4E0



 照明も付けられていない、暗がりの部屋。
 青みがかった明かりだけが、淡々と灯っている。
 幾つもの液晶モニターが、無機質な光を放ち続けていた。

 食い散らかされた後の菓子袋、カップ麺を初めとするレトルト食品の容器。
 不要になった鉄製のパーツ、開封したまま放置された段ボール箱の残骸。
 その他諸々――こじんまりとした室内の床には、幾つものゴミが散乱している。

 片隅の角には、適当に詰め込んで縛ったゴミ袋も幾つか放置されている。
 しかしアルミ製の棚に置かれた小型のガジェットや電子機器などは、妙に整然と並べられていた。

 机に並べられた複数のモニターの前。
 ゆったりしたクッション付きのチェアに腰掛ける女がひとり。

 栗毛の前髪をヘアゴムでざっくりと縛り、耳には最新式のヘッドホンを取り付けている。
 身に纏っているのはひどく可愛げのないグレーのスウェット、上下セットである。
 その女は――ズボラで自堕落な風体の引き篭もりは、ヘッドホン越しに“顧客”との連絡を取っていた。

「で、潜入後の調子はどう?怪盗ちゃん」
《良好よ。ハッキングは滞りなく出来たわ。
 電子ジャミング装置もしっかり働いてる》

 ――“ドッペルゲンガー”、舞古 沙姫である。
 凄腕の犯罪幇助者であり、裏社会の仲介人だった。
 数々の犯行に関与しながらも、何者にも決して己の実態を掴ませない。
 神出鬼没、正体不明。その超力の性質も併せて、彼女はそうした異名で呼ばれている。

「今回はメカーニカの技術も使ってるからね。
 俺だけじゃこんだけのガジェットは作れないし」
《メカちゃんには感謝ね。勿論、貴女にも》
「へへ。分け前は弾んでよ、怪盗ちゃん」

 沙姫は貿易商だった亡き“富豪の父”が関与していた流通ルートを利用し、莫大な販路を手に入れた。
 そして富豪の両親――実の肉親に非ず――が残した多額の遺産を元手に、裏社会の個人事業主として密かに成功を収めていたのである。

「連中の方の仕掛けは大丈夫そう?」
《ドッペルちゃんのガジェットで全て対策できてる。
 “対超力防護コーティング”も問題なく突破できたし、大したことは無さそうね》
「よし。情報収集の賜物ってヤツだわな」
《じきに“保管室”へ到着するわ。ミッション達成まで後少し》

 義賊である怪盗ヘルメス、ラテンアメリカの犯罪組織“メルシニカ”。
 世界的な政治犯である“革命家(ワールド・オーダー)”――並木旅人という名は知らない――など。
 沙姫の顧客は多岐に渡る。どんな顧客も条件次第で引き受ける、まさしく便利屋である。

 当人は自堕落な性格ゆえに働きたくなどないのだが、困ったことに沙姫は要領が良かった。
 いかに“認識阻害”の超力があれども、要領が良くなければ富豪夫妻からとっくに正体などバレてしまうのである。

 単独犯、小口の集団犯罪はバッチコイ。大規模な組織犯罪のニーズにも対応いたします、出来る範囲で。
 来るもの拒まず、主義思想問わず、完全中立を貫きます――それが彼女のモットーだった。
 結果として沙姫は、その手腕とスタンスによって膨大な範囲の裏稼業に加担している。

 ただの犯罪幇助者が後に死刑判決を喰らい、剰えアビスに投獄される筈がないのだ。
 尤も、とうの本人はそんな未来など知る由もないのだが。

「あ、いちおう言っとくけど」
《なに?ドッペルちゃん》
「つぎ俺がうっかり敵になっても恨まんでよ」
《分かってるって。“来るもの拒まず”なんでしょ、複雑だけどね》

 軽口を叩き合いながらも、ルメスと沙姫はあくまでビジネスパートナー。
 お互いの主義には深入りせず、干渉もし合わない。
 ましてや本名も知らない。ヘルメスとドッペルゲンガー、二人は異名で呼び合う。

 そうした線引きを守ったおかげで、彼女達は今日まで適度な付き合いを続けられている。
 それはアウトロー達にとっての処世術であり、最低限の礼儀であり、不要な揉め事を避けるための手段だった。




42番外編:MAGIC ◆A3H952TnBk:2025/12/23(火) 22:05:50 ID:SRbtpX4E0



 ――広大な一室。殺風景なフロア。
 伽藍堂な空間の中央には、ガラスケースの台座が忽然と佇む。
 怪盗が狙う、目当ての“宝物”である。

 その台座を取り囲む形で、無数の赤外線センサーが張り巡らされる。
 まるで蜘蛛が作る巣のように、網目を形成していた。
 触れれば即座に感知。侵入者の存在を通報する、鉄壁の防御。

 そこへ足を踏み入れた怪盗は、あくまで不敵に笑う。
 軽やかに、ステップを刻み。臆することなく突き進む。

「――――無駄だよ」

 囁くように呟き、怪盗が右手を振るい。
 蜘蛛の巣を払うような動作と共に、パチンと指を鳴らす。
 その瞬間、周囲を覆い尽くすセンサーが掻き消えた。

 メカーニカ謹製のジャミング装置、ハッキング機器。
 いずれも良好。いずれも完璧に機能。
 怪盗はセキュリティを掻い潜り、優雅に前進を続ける。

 そのままルメスは、ガラスケースに覆われた台座の前へと立つ。
 ケースの中に収められてるのは、眩く光る金剛石(ダイヤモンド)。

 この施設の所有者である事業家は、数々の土地を強引に買い叩いていた。
 自らの“私兵”による威圧と脅迫を繰り返し、利権を貪っていたのだ。
 ケースに収められた金剛石もまた、ある地域の鉱脈の所有権を強引に奪い取って採掘したものである。
 その価値と希少性故に、都市部での“展示会”の為にこのビルへと運び出されていた。

 ルメスがガラスケースへと触れる――超力は機能しない。
 防弾・耐衝撃仕様に加えて、対超力防護コーティングも高水準のものが使用されている。
 公権力が主に用いるシステムAの廉価版に過ぎない技術とはいえ、この超力社会においては侮れない代物である。

 それを眺めた後、ルメスは左手のデジタルウォッチを操作。
 投影型のキーボードを二の腕に展開し、右手ですぐさまコードを入力。
 ――ハッキング、実行。防護コーティング解除、生体認証システムを改竄。
 十秒足らずの行動で、すぐに事が片付く。

「よし」

 直後、ガラスケースのロックが解除された。
 厳重なセキュリティが施された宝石が、剥き出しになる。
 満足げに微笑み、ルメスは金剛石を手に取った。

 その輝きを少しばかり眺めた後。
 一旦脱いで左手に取ったシルクハットの中へと、ひょいと放り込む。
 あらゆる衝撃から物品を守る“秘密の隠し場所”が、帽子の裏側には仕込まれている。
 まるで手品である。一体いかなる仕組みなのか、それは怪盗のみぞ知る。

 さて、と――ルメスは一仕事を終えて。
 飄々とその場から去ろうとした矢先だった。

《――――え、ウソ。マジか》

 無線越しに、沙姫のぼやきが耳に入った。
 何かぼそぼそと独り言を繰り返し、一人で思案に耽っている。

《あ〜〜〜…………なるほど。そういうこと》
「勝手に納得しないでほしいんだけど。
 で、バッドニュースってことでいいのよね?」

 そうして一人で何かに気付き、一人で納得した沙姫に釘を刺すルメス。
 ――十中八九、良い報せではないことは明らかだろう。
 ルメスは半ば諦め、受け入れるかのように思う。

《ごめん。その施設、対ジャミング装置あったっぽい》
「オーケー。とびきりバッドね」

 そう、悪い予感というものはいつだって当たるのだ。
 ジャミング装置による干渉を“感知”する仕掛けが施設には存在していたらしい。
 ルメスはやれやれ、と言わんばかりに苦笑して肩を落とす。
 尤も、こうしたトラブルなど怪盗稼業では日常茶飯事である。

 ルメスはしゃがみ込み、床へと手を触れる――“潜り込む”ことが出来ない。
 ハッキングで解除したはずの“対超力防護コーティング”も復活している。
 少なくともこの部屋から“潜行の超力”で抜け出すことは出来ないだろう。

 サイレンは今もなお鳴り響いている。
 部屋の外から、慌ただしい足音が近づいている。
 これから訪れる荒事は避けられないだろう。

「――つまり、ここから先は」

 しかし、ルメスの口元から笑みは消えない。
 彼女の視線は、出入口へと向けられる。

「私の“腕の見せ所”ってわけ」
 
 警報が、繰り返される。
 廊下の足音は、激しさを増す。
 怪盗は、不敵に立ち続ける。

43番外編:MAGIC ◆A3H952TnBk:2025/12/23(火) 22:06:34 ID:SRbtpX4E0

 因みに、いささか信じがたい事実だが。
 この歪な世の中には、時折いるのだ。

 何処の馬の骨とも分からない盗人とか、あるいは敵対する連中とか。
 そういう輩に、“価値ある宝”をまんまと盗まれるくらいなら。
 いっそ宝もろとも粉砕してしまえ、なんて考える馬鹿げた悪党が。
 この奇怪な世界には、時たま存在しているのだ。


 ――――そして、けたたましく。騒々しく。
 ――――狂った咆哮のように、銃声が轟いた。


 保管室へと一斉に突入した“警備員”、その数七名。
 彼らは屋内へと踏み込むと同時に、横並びの陣形を取った。
 そのまま瞬時に短機関銃(サブマシンガン)を構えて、一斉掃射を行ったのだ。

 彼らに下された命令はただ一つ――見敵必殺。
 盗まれるくらいなら、徹底的に仕留めろ。
 容赦はするな、絶対に殺せ。決して逃すな。
 故に警備員達は、突入からコンマ数秒で銃弾を浴びせたのである。


「Dia duit (ごきげんよう)。紳士の皆様」


 されど、怪盗は未だ健在。
 銃弾の雨の中で、怪盗は優雅に微笑む。
 死地の中で悠然と佇み、怪盗は不敵に笑う。
 怪盗ヘルメスは、其処に在り続ける。

 ――防弾防刃仕様のマントをひらりと翻し、襲い来る弾丸を全て凌ぎ切ったのだ。
 ルメスはそのまま瞬時に床を蹴り、先鋒を務める二人の警備員の眼前へと迫っていた。
 ネイティブ世代の身体能力、そして怪盗として磨き上げた体術が成せる瞬発力である。

 急接近された二人の警備員は、すぐさまサブマシンガンを構え直す。
 しかし、それよりも素早く――ルメスの両手の指先が、前方左右に立つ警備員の短機関銃へと触れる。

「失礼するわ」

 怪盗の指先が、流麗に踊った。
 次の瞬間――短機関銃が暴発した。
 ひしゃげるような音と共に、二人の警備員が仰反る。
 金属の部品が弾けて、銃身が炸裂したのだ。

 超力、“奥底に潜むもの(サブマリン)”。
 自身の肉体をあらゆる物質に潜り込ませる異能。 
 ルメスは己の指先を短機関銃へと潜り込ませて、内側から内部機構を破壊したのだ。

 怯んだ隙を逃さず、ルメスはそのまま勢いよく身体を回転。
 低い体勢から放った足払いで、二人の警備員を瞬きの間に横転させた。
 そのままルメスは回転の勢いに乗せるように、軽やかな動作で体勢を即座に立て直す。

 他の警備員達は陣形を取り直しつつ、すぐさま装備を切り替えて対処しようとした。
 ある者は瞬時にナイフを取り出し、ある者は近接戦闘向けの超力を行使せんとする。

 しかし、その矢先に――ルメスが動く。
 怪盗は瞬時にホルスターへと手を掛け、多機能拳銃を抜いた。
 そして刹那の合間、近距離から早撃ちの連射を繰り出した。

 立て続けに射出された“非殺傷用の電流弾”が、怪盗を囲む三人の警備員に命中する。
 瞬間的な高圧電流によって身体が麻痺し、その場で崩れ落ちるように無力化されていく。

 殺人は行わない。それが彼女のモットー。
 怪盗としての品位を損ねる行為だからだ。

 未だ立ち続ける二人――片割れの警備員が、ナイフを握って怪盗へと迫る。
 超力“周波操作”。ナイフの刃が高周波を纏い、あらゆる物質を断ち切る必殺武器と化す。
 ルメスは迫る刃を、咄嗟に後方へとステップして回避しつつ。
 そのままマントを翻し、内側から“球体”を投擲。

 もう片方の警備員もまた、超力を行使していた。
 両手から生成した超硬度の鉄網を射出し、ルメスの身動きを止めようとしたのだ。
 しかし、それよりも先に“球体”が炸裂――眩い閃光が迸る。
 最低限の威力に留まった、携行用の小規模閃光弾である。

 咄嗟に怯む警備員二人。しかし、すぐにその意識を集中させる。
 開闢後の人類を足止めできるのは、ほんの僅かな時間のみ。

「それでは」
 
 されど、超人戦闘においては、その数秒が命取りとなる。
 囁くような声が、警備員達の耳に割り込む――。

「これにて、おしまい」

 二人の意識が、回転した。
 地に付いていたはずの両足が、宙に浮いていた。
 警備員はそのまま成す術もなく、床へと叩きつけられた。

 怪盗の多機能拳銃から、鞭のようなワイヤーが射出され。
 そのまま薙ぐように銃身を振るい、二人の脚を瞬時に絡め取ったのだ。




44番外編:MAGIC ◆A3H952TnBk:2025/12/23(火) 22:07:20 ID:SRbtpX4E0



 逃がすな、追え、追え――――。
 叫ぶような怒声が幾度も繰り返される。
 警報音は、けたたましく響き続ける。

 絶対に逃がすな、行け、行け――――。
 施設を守る番人達が幾度も吠える。
 警報音が、騒々しく轟き続ける。

 床を蹴る音、床を駆け抜ける音。
 幾重にも交わり、廊下に木霊し続ける。

 怒声、銃声。激しく交錯を続ける。
 しかし、それらが実を結ぶことはない。

 怪盗は、疾走を続けていた。
 無機質な通路を走り抜け、数多の追跡を掻い潜っていた。

 迫る警備員を、次々に凌いでいく。
 ある時は俊敏に振り切り、ある時は電流弾で制圧し。
 ある時は体術で一蹴し、そして駆け続けていく。

 番人達は、怪盗を捕らえられない。
 風のように吹き抜ける怪盗に、追い付くことが出来ない。

 蝶のように、怪盗は優雅に舞う。
 燕のように、怪盗は俊敏に翔る。
 彼女を制することは、誰にも叶わない。

「奴を逃がすな――――!!」

 警備員が、叫ぶ。

「奴を追え――――!!」

 警備員が、吠える。

「奴を、止めろ――――!!」

 警備員が、喚く。

「奴を――――ッ!!」

 そして、袋小路へと。
 警備員達は、遂に辿り着く。

45番外編:MAGIC ◆A3H952TnBk:2025/12/23(火) 22:07:58 ID:SRbtpX4E0

 ――――そこは、展望室だった。
 ガラス張りの壁面から、都市全体を一望できる空間。
 高階層からの情景。街の各所に、夜の灯火が微かに浮かび続けている。

 夜の街を背負い、怪盗は立ち続けていた。
 マントを翻し、宵闇の街を見下ろしてから。
 後方で短機関銃を構える警備員達を、ふっと一瞥した。

 怪盗は、微笑み続ける。
 優美な気品を崩さず、警備員達を流し見る。
 向けられる銃口を意に介さず、余裕と風格を滲ませていた。

「お前は、一体……ッ!!」

 警備員の一人が、声を漏らす。
 追跡を掻い潜り、追撃を掻い潜り。
 窮地を前にしても笑みを崩さぬ、怪盗へと向けて。
 その銃を構えながら、睨みつけた。


「私は、怪盗ヘルメス――――」


 怪盗は、笑みと共に答えた。
 その言葉と共に、彼女は床を蹴る。
 直後に、銃声が轟く。銃声が鳴り響く。
 怪盗の顔には、恐怖も動揺も存在しなかった。


「――――世界の“絶望”、盗ませていただきます」


 そして、怪盗は飛んだ。
 ガラス張りの壁へと目掛けて、駆けた。
 弾丸が届くよりも先に、壁面へと触れて。
 “潜行”の超力によって、ガラスを透過して突破する。

 怪盗が、上空へと翔ぶ。
 夜の街、その遥か彼方を舞う。
 恐れることも、臆することもなく。
 その身を、虚空へと委ねる。

 靡くマントが、翼のように広がる。
 空中に投げ出された怪盗が、自らの体勢を制御する。
 そのまま風に乗り、彼女の姿は――。
 宵闇の果てへと融けていく“鳥”となった。

 銃を下ろして、警備員達は呆然と佇んでいた。
 静寂を切り裂く、嵐のような真夜中。
 風のように現れた幻想が、現実を煙に巻いて。
 まるで手品の如く、“観客”を翻弄して。
 そして彼女は、一時の夢のように飛び去っていった。

 彼らはただ、夜の闇を見つめることしか出来なかった。
 静寂に包まれた街。仄かな輝きの灯る都市。
 無機質な世界を包み込む、紺色の空――――。
 そんな情景の中へと飛び去った、鮮やかな鳥(ヘルメス)。

 幾ら空を見つめても、その姿はもはや何処にも無い。
 怪盗ヘルメスは、一夜の幻想として消えていった。




46名無しの囚人:2025/12/23(火) 22:08:29 ID:SRbtpX4E0
投下終了です。

47ある囚人とGPAエージェントの話:2026/01/02(金) 15:27:19 ID:DBxxZzyE0
異世界移住計画の存在し無い世界線でのお話です

48ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:28:13 ID:DBxxZzyE0
※異世界移住計画が存在しない世界線のお話です


A.二人の馴れ初めは?
Q.仕事でシバいたら懐かれた



 真昼でも薄暗い路地裏は、夕刻ともなるともはや日が差すこともなく。
 街灯も無い為に、一足早く夜が訪れたその場所は、空気分子が赤く染まりそうな程に濃密な血臭で満ちていた。
 鮮血と臓物が散乱し、獅子が切断され、喉元から股間まで切開された人体が転がっている。
 飛び散った血と肉片が、周囲の壁にこびり付き、早くも虫が集っていた。
 鼠やカラスといった、自然の掃除屋達が訪れるのは、この無残な残骸を作り出した男が立ち去って後だろう。
 湯気の立つ臓物を満足そうに眺めて、男は改めて死体の顔を見る。
 月光を糸として編まれた天上の織物の様な銀の髪。人の踏み入る事の出来無い高山に積もった雪の様な白い肌。芸術神の恩寵を一身に受けた天才が、生涯を掛けて彫り上げた至上作品ですら及ば無い、幻妖優美な顔立ち。
 意志も意識も喪失し、紅玉の様な輝きを放っていた瞳が虚に宙を見上げるだけとなっても、その上美は僅かも損なわれてはいなかった。
 男は込み上げる欲情を鎮めるかの様に、大きく息を吸って、吐いた。
 男はこうして女性を切り刻む事に、昏い性的興奮を覚える類の人間だった。
 二度、三度と繰り返し、漸く呼吸と心拍が常態となってから、おもむろに踵を返す。
 今までに解体(バラ)した女達の中でも、最上と言っても過言では無い女だった。
 過去に殺した女達も、それなりに吟味し、男の審美眼に叶う者達だったが、あれ程の極上の女を刻んでしまっては、もうこの先、生涯に於いて満足する事などでき無いだろう。
 
 「勿体ないことをした。生かしておいて何度でも刻めば────」「そうなされば良いのでは?」

 背後から聞こえた声に愕然と振り返れば、其処には傷一つ無い少女の姿。
 先程己が作った惨殺死体は夢幻の類かと思うものの、ズタズタに切り裂かれて、病的なまでに白い肌を晒している少女の衣服が、確かに現実だったという事実を突きつける。

 「ああまで解体されると、流石に治るのに時間がかかりますね。喉を裂かれて呼吸が出来なかったのは、中々辛かったです」

 「……ああ、成る程。再生系の超力持ちか」

 男は望外の幸運に嗤う。
 これ程の極上の素材を、何度でも、飽きるまで、味わえるという事に。ひょっとしたら飽きる事などないかもしれ無いという事に。
 
 男の全身から少女へ向けて透明な刃が伸びる。
 全身の体表から形成される、最長17mの不可視の刃は、目に見える事は決して無く、音も無く、男が脳裏で思い描いた軌跡を精確になぞり、障害物をすり抜けて対象を切り刻む。
 “霧夜の惨殺(フロム・ヘル)”。男がGPAの追跡から逃れ続け、犯人と特定されずに凶行を繰り返し、“現代のジャック・ザ・リッパー”の名を冠せられるに至った超力である。
 両手足を切断し、持って帰って好きな時に切り刻む。
 衝動に駆られて実行された、粗雑で穴だらけの誘拐計画は、第一段階で破綻した。

 「いえ、まぁ…、タネが割れていますよ?貴方の手品は」

 少女の姿が唐突に消えた。
 否。盛大に巻き起こった埃と、爆撃じみた音とが、少女の取った行動を、男に正しく伝えていた。
 少女は路面が割れる程の踏み込みで跳躍。埃と破裂音とを残して空中へと舞い飛んでいたのだ。
 咄嗟に上を向いた男が見たものは、壁を蹴って一直線に強襲をかける少女の姿。
 刃を形成するより早く、男の右眼の辺りに少女の拳が直撃し、骨が砕ける音と共に、潰れた右目が視神経の糸を弾きながら飛んでいった。

 「……もう終わりですか?」

 顔面の骨が砕け、右目を失った痛みに、薄汚れた路面の上でのたうちまわりながら、獣そのものの絶叫を上げ続ける男に、少女は落胆した声を出す。

 「ジャンヌ・ストラスブールさんは、この程度では音を上げませんでしたよ?」

 呵責ない爪先蹴りが、男の肝臓を抉る。

 「もう少し…こう…頑張って頂きたいのですが」

 再度の爪先蹴りが、右の腎臓を直撃。内臓が潰れた感触が少女の足に伝わってくる。

 「やはりもう少し加減をするべきでした…。ソフィアやニケと違って荒事は慣れていませんから、上手くいきませんね」

 三度目の蹴撃。肛門を深々と抉った爪先に鮮血が付着する。
 叫び過ぎて潰れた喉から、血の混じった唾液を垂れ流す男を見下ろし、少女は顳顬を蹴り抜いた。
 白目を剥いて、静かになった男を前に、少女は額に指を当てて、少しの間考え込んだ。
 
 「ああ、連絡を忘れていました。この方を回収して頂きませんと」

 少しだけ、男の様子を観察して、死んでい無いことを確かめると、少女は何処かへと連絡を取ったのだった。

49ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:28:54 ID:DBxxZzyE0
〜〜〜〜

 「一つお伺いしますが?」

 「何でしょうか?」

 「どうして私をこの様な目に遭わせるのでしょうか?」

 「心当たりは無いと?」

 「私が一体何をしたと?」

 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。

 「うあああああああ〜〜!!」

 GPA本部の一室で、質素だが頑丈なソファに座ったルクレツィア・ファルネーゼは、ソフィア・チェリー・ブロッサムにアイアンクローをかけられていた。
 ルクレツィアとソフィアの体格差もあって、ソフィアの手はルクレツィアの顔を完全に覆ってガッチリとロックしていた。

 「先日、貴女はドイツを騒がせていた連続殺人犯を捕縛しましたね?」

 「フフフ…。一人で捕まえられるかと不安でしたが、杞憂に終わりましたね。性根の座ってい無い方でしたから、簡単に捕まえられました」

 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。

 「うあああああああ〜〜!!」

 イーグルクローが追加された。頭頂部に手を当てて、頭部全体を締め上げる。

 「その時に!貴女が犯人を必要以上に痛めつけた所為で!取り調べが出来なくなったのです!!」

 そしてソフィアが責任者として説教されたのだった。理不尽である。

 「あの方は随分と危険な超力をお持ちでした。あれくらいやっておかないと、暴れられれば危険です」

 「本当のところは?」

 「やはりジャンヌさんが頑張り過ぎるくらい頑張って下さった所為ですね。ジャンヌさん程の方はそうそう居ないと理解していても、ついつい期待をしてしまうのです」

 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。

 「うああああああああああああああああああああああああ〜〜〜〜!!!!」

 そういう所だというツッコミをしても意味が無いと理解しているソフィアは、無言で両手に力を込めて、只々ひたすらに締め上げる事に注力する。
 とは言え、ルクレツィアは嗜虐趣味であり被虐趣味の令嬢である。幾らシバいても悦ぶだけで意味は無いのだが、少なくともソフィアの気は晴れる。
 
 「何でしどーくんと離されて、貴女と組まされる事になったのか……」

 「やはり殿方が相手で無いと、御満足できああああああああああああああ!!!」

 アホな事を言い出しかけたルクレツィアを、全力で黙らせる。
 元はと言えばルクレツィアと乃木平の所為である。
 乃木平を締め上げる事は出来ないので、その分ルクレツィアを締め上げる。
 被虐嗜好のルクレツィアは悦ぶが、ソフィアは常時ストレスフル状態である。

〜〜〜〜

50ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:29:24 ID:DBxxZzyE0

〜〜〜〜

 時を遡る事半年前。
 貴族の血を引く、イタリアでも有数の名家にして資産家でもある、ファルネーゼ家の当主ジュリオ・ファルネーゼから、GPAイタリア支部に要請が有った。
 内容は、『娘であるルクレツィアを捕縛してほしい』というものだった。
 幼少期に使用人を酷く傷つけて、父から厳罰を受けたルクレツィアは、その後は攫ってきた孤児や難民を殺害する様になり、今ではイタリア半島に覇を唱える“バレッジ・ファミリー”から人間を調達しては惨殺しているという。
 父親は何もしなかった訳では無い。人並みの感性を持つ様に教育し、倫理を教え、道徳を説き、良識を学ばせた。
 父の教育に娘も応えた。良識を身につけ、道徳を識り、倫理を弁え、そして他者への慈愛と良心は遂に持ち得なかった。
 娘の凶行を止める為に、涙を流して訴えるジュリオの要請で、GPAはルクレツィアの捕縛に向かい、最初に派遣された一個分隊10名が皆殺しにされた。
 次いで数を三倍に増やし、一個小隊分の人数が送り込まれ、半数以上が殺害され、生還した者も全て負傷していた。
 事此処に至り、GPAはエージェントの派遣を決定。ジュリオの証言から判明しているルクレツィアの超力と、生き残りの報告から確定した超力強度を元に、派遣人員を決定。
 ソフィア・チェリー・ブロッサム及び嵐求士堂に命が下り、二人はイタリアへと飛んだ。
 超力社会に於いて、己の五体のみで、数多の強者を葬ってきた無銘を下した士堂と、超そのものが通じ無いソフィアは、身体強化系が相手ならば適任と言えた。
 かくしてイタリアの地に赴いた二人は、狂気の令嬢と交戦。
 二人の捕縛対象であるルクレツィアは、士堂の前蹴りで内臓を潰されながらも、士堂の足首を掴んで捩じ折って戦闘不能にし、次いでソフィアに全く歯が立たずに殴り倒され、関節を極められた。
 妙に嬉しそうなルクレツィアに引きながらも、二人はルクレツィアを連行し、この一件は幕を下ろしたのだった。

 そこで終われば良かったのだが。

 ルクレツィアを捕縛してから一週間後。呼び出されたソフィアを待っていたのは、GPAの英雄である乃木平天。
 乃木平曰く、年々激増の一致を辿る超力犯罪と、強力になっていく超力犯罪者に、現在のGPAの人員では対処が困難になりつつある。
 優秀な人員でなければ務まらないが、任務の度に死者が出ていると言って良い現状。更に、強力な超力を有するエージェントも数が限られている。
 投入できる人員の数も、対処できる能力を持った人材も、双方が不足している。
 新たなる人材の育成や確保を行なっているが、育成には時間が掛かり、確保といっても優秀な人材は、既に何処かしらの組織に所属していて、そこで必要とされている為に登用は難しい。
 という訳で、既に実力が明らかで、尚且つ死んでも惜しく無い戦力として、“アビスの囚人”を使うことにした。
 当然の事だが、全員にタグ付けは行われている。逃亡しても即座に再度の捕縛が出来る。
 今はまだテスト運用の時期だが、上手くいけば、GPAの戦力不足を補えるだろう。
 
 此処でソフィアはピンと来た。要は自分が此処に呼ばれたのは、テスト運用に用いられる囚人の管理役をやらされるのだろうと。
 厄介な任務だと思っていたら、乃木平が更に厄介な事を言い出した。
 曰く、何人かの扱いやすそうな囚人に声を掛けて、その内の一人が管理役としてソフィアを指名したと。
 ソフィアは眉を顰めた。ソフィアが捕縛した囚人が、報復の機会を得る為に、ソフィアを指名したのだろうか?
 いや、そんな手合いだったら、要望は即座に却下されるだろう。
 考え込んでいたソフィアの背中を、誰がが突いた。
 振り返ってみれば、銀の髪に白い肌、鮮血色の瞳を持つ少女。一週間前に捕縛した殺人狂。
 血相変えて後ろへ飛んで身構えたソフィアへと、白い少女は艶然と笑い掛けた。

 乃木平曰く、ソフィアに危害を加える意志は無いことは証明されている。その上での指名だと、ソフィアが管理役になることが、ルクレツィアの出した条件だと。
 心底嫌そうな顔をしたソフィアだが、任務は任務である。苦虫を一兆匹程噛み潰した様な顔で、ルクレツィアの管理役を引き受けたのだった。

 尚、殺しがいのある相手に困らなさそう。という理由で協力を決めた小鳥遊仁花の管理者には、無効化能力者であるソフィアと組んでいた経験を買われて嵐求士堂が任命され、長らく続いたソフィアと士堂のコンビは解散となったのだった。

 小鳥遊仁花とルクレツィアは昔馴染みなんだから、この二人を組ませれば良いだろうというソフィアの抗議に対して、乃木平は答えて曰く。

 「だったら貴女がトングと袋を持って、肉片(ミンチ)を回収して下さい」

 ソフィアは何も言い返せなかった。

〜〜〜〜

51ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:30:02 ID:DBxxZzyE0
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 「……フフフ、大丈夫ですよソフィア。ニケはふしだらな女性では無いのですから」

 「そういう心配はしていません」

 頭蓋骨が割れる音と手応えがするまで締め上げたというのに、一分かそこいらで復活してきたルクレツィアの不死身具合にももう慣れた。
 口を開けばロクでも無い事を言い出し、目を離すとロクな事をしない人間性にも、徐々に順応しつつある。
 
 「しどーくんの事でしたら、心配は御無用ですよ。ソフィアは充分に魅力的です、同性の私でも、こういう衝動に駆られてしまう程に」

 報をなぞるルクレツィアの指を、無言で捉えて力を込める。乾いた音を立てて指がへし折れた。

 「……最近妙に私の扱いが雑になっていませんか?」

 「医者も匙を投げた貴女の超力を信じているだけです」

 「あの時は確かに死にかけたんですけど」

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52ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:30:45 ID:DBxxZzyE0
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 それは三ヶ月前の事。
 キングス・デイと癒着して、政治的な権益をキングス・デイ傘下のフロント企業に与えていた政治家の捕縛任務を受けて、フランスに飛んだ二人は、首尾良く任務を遂行した。
 現地警察の協力のもと、政治家とキングス・デイの密会現場となっていた高級クラブ────当然の事ながらキングス・デイの下部組織が運営するクラブである────に踏み込んだ。
 強力な超力を擁するキングス・デイの構成員も、ソフィア超力の前に無力化され。銃器を用いた抵抗は、ルクレツィアの不死身ともいうべき再生能力の前に意味を為さない。
 二人の女に護衛と構成員が短時間で制圧されていくのを見た政治家は、単独で逃走。
 身体能力強化系の超力を持っていた政治家は、ソフィアでは追いつけない速度で逃げ去ってしまい、尚且つ超力戦闘を得手とするキングス・デイの構成員が残っている。
 この為、ソフィアは嫌な予感を抑えながら、ルクレツィアに追跡を指示。逃走した政治家を遥かに上回る速度で走り去ったルクレツィアを見送った。
 
 そして当然の事ながら、ルクレツィアが羽目を外した。

 追いついた政治家の両足を折り、鼻を削ぎ落とし、恐怖のあまり痛みを忘れて這いずって逃げようとする政治家の両手の指を笑いながら一本ずつ潰して。
 政治家がのたうち泣き喚く様を愉しんでいた所に、悲鳴を聞いて駆けつけたのが、“聖騎士”“、現代のジャンヌ・ダルク”と名高いジャンヌ・ストラスブール。
 傍目には、凶悪無惨な通り魔にしか見えない────そしてそれは限り無く真実に近い────ルクレツィアを、ジャンヌは激しく糾弾。
 対するルクレツィアが、露悪的な言動で挑発した為に、両者は交戦に至った。
 戦闘そのものはジャンヌが短時間でルクレツィアを下したものの。不死身に近い超力を持つルクレツィアは、ジャンヌの隙を突いて背後から奇襲。ジャンヌを行動不能にすると、凄惨苛烈な拷問を行った。
 ソフィアが駆けつけた時には、四肢が捻じ折れ、内臓が複数潰れ、両手足の指が幾重にも折れ曲がり、爪が全て剥がされているという惨状。
 その場でルクレツィアを半殺しにしても既に手遅れというヤツである。
 国民的英雄に凄惨な暴力を振るわれたフランスの世論は怒り狂い。実行犯であるルクレツィアがイタリア出身の死刑囚だった事もあって、イタリアでもこの話題が持ちきりになり。
 最終的に仏伊の司法関係者のトップに乃木平が呼び出され。帰ってきた乃木平が、二人にキングス・デイの幹部の一人、アリツィア・カミンスキの捕縛を命じたのだった。
 ルーサー・キング直属の部下である“王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)”の一人。であるアリツィアは、キングス・デイの関与した暗殺やテロに複数関わっているとされる。
 超力犯罪の坩堝。超力犯罪者の蠱毒。そう呼ばれる欧州のストリートで名を馳せたアリツィアは、単純な暴力にも長けている事だろう。超力無効化するソフィアであっても、天を仰ぎたくなる相手ではあったが。
 いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべる乃木平から放たれる尋常では無い“圧”が、ソフィアの拒絶を許さなかった。
 拒んだらルクレツィアと並んで輪縄に頭を突っ込む事になると、言葉に依らず理解したソフィアは、ルクレツィアを伴ってアリツィアの捕縛に赴き、激闘の末に捕縛した。
 その際に、アリツィアの二つ名である“死光”の由来である、超力により生成される放射線を浴びせられたルクレツィアが、昏倒して意識不明のまま病院に担ぎ込まれ。
 本来ならば意識を取り戻す事無く絶命する筈が、その日の内に意識が回復して会話を行い。二日目には食事を取った上にmベッドから起きて動き回り、四日目には医者により退院させられた。
 担当した医師曰く、「勝手に治るからやる事がない」。
 冗談の様な生命力に、ソフィアは思わず笑ってしまった程だった。
 退院以来、ソフィアのルクレツィアに対する扱いが、雑というか過激になったのは、ルクレツィアの生命力に全幅の信頼を置く様になったからだろう。

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53ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:31:24 ID:DBxxZzyE0
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 「アリツィアさんも悪くはありませんでした何しろ無効化超力以外で、本当に死ぬかと思ったのは、あの方が初めてでしたので」

 「反省の色が全く有りませんね」

 「フフフ…反省ならしていますよ。もう捕縛対象にしか拷問は行いませんし」

 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。

 「うああああああああ〜〜〜!!!」

 再度のアイアンサーが炸裂する。

 「それで尋問できなくなっては意味が無いのですけど」

 「手加減はしましたよ!?殴って動かなくなった後に、三回だけし蹴っていませんよ!?」

 「蹴 る の は 余 計 で す !!」

 「ぬああああああああああ!!!」

 二人は現在のところ暇である。
 キングス・デイへと麻薬を供給していたメルシニカは、イグナシオ・“デザートスレ”フレスノの投入によりメンバーの大半が検挙。
 “メルシニカの脳髄”サリヤ・K・レストマン及び、“メルシニカの心臓”メリリン・“メカーニカ”・ミリアンの逃亡を許したものの、勢力としては壊滅したと言って良い。
 後に取って代わるであろう、中南米のカルテルは、「麻薬を扱う連中に優先して回す事」という条件で協力したネイ・ローマンを始めとした戦力により、掃討が行われている。
 イギリスはマンチェスターで行われた“イースターズ”の捕縛任務には、“神の眼”夜上神一郎と魔女の鉄槌”ドミニカ・マリノフスキ及び、「強い相手と戦いたい」という条件で協力する事になった内藤四葉が投入されている。
 ネイ・ローマンと双璧を為す欧州ストリートの頂点、“紅狼”スプリング・ローズといえど、この三者を相手取るのは難しいだろう。
 次に派遣されると思っていた英国と中南米が、今のところは戦力の増派を必要としない状況である為に、手持ち無沙汰なのだった。
 付けっぱなしのテレビからは、日本で話題になっている三人組のヒーロー、通称“トライ・スター”及び、三人が窮地に陥ると現れるヒーロー“アンタレス”が、“ヤマオリ・カルト”から高谷千歩果を護ったニュースが流れてくる。
 
 「しどーくんやニケの産まれ故郷に行く必要は無さそうですね」

 「本当のところは?」

 「あの御三方は愉しめそうだな…と」

 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。

 「ぬあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 「次は日本との間に問題を起こす気ですか!!!」

 「フフフ…。男女を問わず。見目麗しい方は愛でられるべきなのです。怪盗ヘルメスさんとか、バレッジの金庫番さんとかの捕縛任務はないのでしょうか?」

 「貴女の“愛でる”とは拷問するということでしょうが!!!」

 「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!」

 テレビからは、アメリカ東海岸で起きた、ドン・エルグランドとフレゼア・フランベルジェの激突のニュースが流れていた。


 二人の平和な時間は、三日後に破られる事となる。
 英国に派遣された内藤四葉及びドミニカ・マリノフスキが、四葉の挑発によりスプリング・ローズを交えた三つ巴の乱闘に発展。
 マンチェスターの市街地に甚大な損害を及ぼした挙句、夜上が介入して制止した時には、三者ともに重傷を負い、スプリング・ローズは逃亡。
 二人はローズの捕縛任務を受けて、英国政府から呼び出しを受けた乃木平天と共に、英国へと飛ぶ事になったのだった。


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54ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:32:56 ID:DBxxZzyE0
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登場した面子

ソフィア・チェリー・ブロッサム
囚人では無い。ルクレツィアの管理役。しどーくんとは久しく会っていない

ルクレツィア・ファルネーゼ
死刑囚。ソフィアが管理役になる事を条件にGPAに協力する

嵐求士堂
無効化超力を持つソフィアと組んでいた実績を買われて小鳥遊仁花の管理役に任命される。

ジャンヌ・ストラスブール
フランスの国民的英雄。本編と違い失墜していない。

トライ・スター
葉月りんか、交尾紗奈、羽間美火の三人組。多分変身ポーズとか集合ポーズが有る

アンタレス
恵波流都の事、やさぐれていたのが持ち直して三人娘のおやっさんポジになった
ピンチになると先輩ライダーっぽく助けに来る
正体はバレていないと思っているが、三人にはしっかりバレている

ネイ・ローマン
麻薬を扱う奴等を優先的に回す事を条件に協力
中南米でもその名を轟かせる事になる

内藤四葉
強い相手と戦いたい為に協力
ドミニカ及びローズとの三つ巴を満喫し、マンチェスターの街に大規模な被害を及ぼした

夜上神一郎
「裁く相手には不自由しない」として協力

ドミニカ・マリノフスキ
夜上と行動を共にする条件で協力する
マンチェスターの被害の過半が此奴の所為

スプリング・ローズ
ドミニカ及び四葉との三つ巴で重賞をおうも逃亡

メルシニカ
サリヤとメリリンは国外へと逃亡。残りのメンバーは大半が捕縛される

イグナシオ・“デザートスレ”フレノ
GPAに協力してメルシニカのメンバーの大半を捕縛する

フレゼア・フランベルジェ
捕縛されていない。北米で恐れられている災厄である

ドン・エルグランド
捕縛されていない。大海賊として活動中である

55ある囚人とGPAエージェントの話 ◆VdpxUlvu4E:2026/01/02(金) 15:33:30 ID:DBxxZzyE0
投下を終了します

56名無しの囚人:2026/01/03(土) 07:50:54 ID:KsO83Uc.0
番外編投下乙です。
誰かをシバいてはソフィアさんにシバかれるルクレ嬢、本編で書いた時も思いましたが無茶苦茶悪い人の筈なのにやっぱ何処か愉快で憎めないんですよね。
自分は荒事に向いてないと自認しつつも、当然のようにGPAの一個分隊とかを粉砕してるストロングぶりもなんか好きです。
ジャンヌとの話よろしく、たぶんボコられるけどフィジカルで強引にひっくり返すんだろうなというのが想像できますね。
フロム・ヘル殺人鬼の「本編クラスの猛者よりは落ちるけど、こいつも十分強いんだろうな……」と想像できる超力と経歴も味わい深い。

ソフィアさんも折檻を繰り返しつつも「こいつホントしょうがねえな」くらいのテンションなので、なんやかんや仲良しで微笑ましくなります。ちょっとしんのすけとみさえっぽい。
健在のシドーくんと引き離されたのは可哀想ですが、ルクレと愉快に漫才繰り広げてるので「まあこれはこれでいいんじゃないかな」みたいな生暖かい眼差しになってしまいますね。
乃木平所長もこの世界だときっと苦労してる中間管理職ポジなんだろうな……。

「異世界移住計画が存在しない世界」→「GPAが凶悪犯を戦力化して捜査官と組ませる世界」という着想には成る程と思いました。
キングの支配や自警団台頭からして各地の治安維持機能がだいぶヤバそうな世界なので、移住計画がなかったらGPAはとにかく戦力拡充に走ることには納得がありますね。
作中で語られる人材の総動員ぶりも含めて、やはりスーサイド・スクワッド的なロマンがある。トライスター→アンタレスという夏の大三角形と蠍座らしきネーミング好き。

あとルクレに嬲られてさらっと満身創痍になってたジャンヌ、あの世界ならなんか医療技術とか超人耐久力で何とか治るんだろうな……としみじみします。


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