したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

本スレ転載用スレ

566太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:45:58 ID:vNgFKv6c
「DISCはお前目掛け投げつけたのではない。ホット・パンツだ。
 私は指令を書きこんだDISCを、彼女目掛け放り投げた。実際にこうなるかどうかは賭けだった。
 頭部にDISCが入らないかもしれない。もはやホワイト・スネイクにその力は残っていないかもしれない。
 ホット・パンツが完全に死んでいるかもしれない。彼女の手刀より、お前の拳のほうが早いかもしれない。
 全ては偶然だった。幾つもの“かもしれない”を潜り抜け……ここに私は立っている。そしてお前は地に伏している」
「………ッあ」
「弟よ、お前は運命に敗北したのだ。神が選んだのは私だ」

力なく伸ばされた腕は何も掴まずに、地に落ちる。
プッチの胸ぐらを握ろうと、二度三度、最期に虚しくあがくが、ウェザーの腕はそれっきり動かなくなった。
空っぽの瞳は憎き相手を捕えるでもなく、未来を見据えるでもなく、ただ虚空を見つめる。

プッチはウェザーの傍らに立つと、そっと優しく語りかけた。
もう決して間にあうことのない病人を見送るような、そんなそっとした口調でプッチは言う。

「天に召される前に何かいい残したことはないか?」

辺りを包んでいた雨音が段々と遠くなる。湿った服の冷たさが染みいるまでの長い沈黙の後、ポツリとウェザーが呟いた。


「……―――雨を、ふらしたんだ」
「……なに?」


ウェザーはぼんやりとした表情で、プッチに顔を向ける。
その目は確かにプッチを見つめていると言うのに、どこか遠くのものを眺めているかのごとく、深く澄んでいる。
ウェザーは雨をふらしたんだ、とだけ繰り返した。困惑するプッチ向かって、そう言い続けた。
言葉は途切れ途切れでえらく聞き取りづらい。プッチが身をかがめて、口元に耳を寄せる必要があったくらいだ。

途中で何度もつっかえながら、血をせき込み吐き出しながら、それでもウェザーは懸命に言葉を紡いだ。

「俺は、ただ……雨を振らしただけなんだ。そこから先は、運……だった」
「……何のことだ? 何を言っている?」
「た、だ雨を……振らしただけ。それだけなんだ……。だから、立ち……あがったのは“彼”の意志だ。“彼”、自身の 強さだ……。
 ほんとに、ほ んとにありがとう……それしか言葉が出な……い。彼は 俺を信じて く……れた。俺は彼を救え た。
 記憶のないこの俺を……、人殺しのこの俺が……」

天より降りそそいだ水滴が、ウェザーの頬に落ちると、涙のように伝っていく。
雨はほとんど上がっていた。黒くぶ厚い雲は頭上を去り、本来の天気が辺りに戻って来る。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板