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本スレ転載用スレ

1名無しさん:2011/11/19(土) 00:45:21 ID:k2jmL4Io
本スレに書き込めなくなった場合に使用するスレです
こちらに投下されている内容を、投下できる方が本スレに貼ってあげて下さい

155 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:16:00 ID:tRLTibJ.

「つまり……手を出すな、一対一で話をつけたい、コイツは俺の獲物だ。そういうことですか?」
「そうだ」
「貴方は本当に一人でこの男に勝てると思っているんですか?
 スタンドもなく、片腕も使えず、見た限り身体のどこかに怪我も負っているように僕には思える。
 それでも貴方は真正面から戦いたい、助けを乞う必要はない、そう言っているんですか?」
「……昨今では理解されなくなったことだ。
 世の中には『社会的な価値』がある。そして『男の価値』がある。
 不条理や不合理だと人は呼ぶ。だがそんな『男の価値』が『真の勝利への道』には必要だ。
 社会がはかる勝ち負けの定義、そして生と死。それを超えたところに存在しているのが『男の世界』。
 俺には歩みを止めるすべを知らない。俺にとっては他の道など存在する価値を求められない。
 道に立ちふさがるものを除外する。そこに何の理由がある?
 道を取りあげたものから道を取り戻す。そこに何故躊躇う必要がある?」

生温かい空気が充満し、うっすらと東の空が明るみ始めた。時計の針は留まることを知らず、当たり前のように全てが進んでいく。
話を進めていくうちにリンゴォの脳裏に男たちの顔が浮かび上がった。
ジャイロ・ツェペリの怒りに満ちた瞳が。東方仗助の激昂に歪んだ表情が。二人の男がまるでリンゴォ・ロードアゲインを乗っ取ったのかのように、突き動かしていく。
考えるよりも先に言葉が口をついて、飛び出した。男の言葉だけが、閑静な住宅街に響いていた。

「俺は『納得』したいだけだ。はたして俺は生き残るのに相応しいのか、俺の道は間違っていないのか。
俺は死ぬべきなのか、生きるべきなのか。
 白黒つけることでしか俺は『納得』ができない。灰色じゃ駄目だ。
 白か黒か。生か死か。
 ……俺は戦わなければならない、誰よりも己自身と。そして『男の世界』と」

リンゴォは決して声を荒立てたわけではない。声を張り上げたわけでもなく、大声で叫んだわけでもない。
しかし訪れた静寂はそれまでのものよりずっと重く、ずっと長かった。

四人の男たちはリンゴォの言葉に衝撃を受けていた。一人の男の生きざまに、雷にでも打たれたかのように、ただその場に立ちつくすほかなかった。
ジョナサンは無意識のうちに力一杯握りしめていた拳を緩めていた。
フーゴは奥歯をぐっと噛みしめ、視線を逸らしたい衝動を必死でこらえていた。

ジョナサンは思い出す。怒りに震え、ディオに向かって叫んだときの自分のことを思い出す。
父を殺された時からずっと、彼は恨みを晴らすために戦ってきた。父と師を殺され、誇りに満ちた騎士を踏み台にされ、ジョナサンはそれだからこそ、彼らの意志を受け継ぎ、戦いぬくことを決意したのだ。
奪われたものをディオから取り戻すべく、もうジョナサンはディオを殺すことに躊躇いはなかった。
数の違いや、方法の違いが問題なのではない。受け継ぐでもなく、切り開く。
リンゴォ・ロードアゲインが自ら手に入れた誇りはそれだけに尊く、どれだけ輝かしいものだろうか。
ジョナサンは身震いしたくなるような高貴な精神をリンゴォの中に見た。
誇りを取り戻すため、納得をするため、戦う。気高く、光輝く魂が確かにそこにはあった。

フーゴは思い出す。頼るべきものを見失い、ボートに乗るために一歩踏み出せなかった自分のことを思い出す。
自分が信じていたものが唐突に消えてしまった時、自分は立ち止ることしかできなかった。
リンゴォは違う。彼はもがき、苦しみながらも、闇夜の中に踏み出す勇気を持っていた。たった一人でも、戦い続けることに迷いはなかった。
誇り高いという言葉がこれ以上似合う男が他にいただろうか。そして、その辛さを自分以上に理解できる男が、この場にいるだろうか。
フーゴは胸が締め付けられるような哀愁をリンゴォの姿に見た。
固い意志で立ち続ける彼は、それしか信じられぬ故に座り込むことを知らなかった。立ち止まるなと言われたからこそ、彼は再び道を歩き出すしかなかった。
その悲しみに、フーゴは泣き叫びたくなるような衝動に襲われた。

156 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:16:35 ID:tRLTibJ.
再び沈黙が流れる中、口を開くものはいなかった。じんわりと熱せられた大地より薄く陽炎が立ち上り、湿った空気の臭いが男たちの鼻をくすぐる。
もう太陽が昇る時も近いのだろう。月明かりは薄れ、夜の世界は終わり告げる。傍らに立つ街灯の灯りが、やんわりと夜明け前の明るさに滲んでいった。
その時だった。誰もが足を止め、動くのをためらうような中、大男の肩が震えだした。
その表情は暗闇に隠れはっきりとしない。身体が震えているのは歓喜になのか、悲しみになのか。
彼を囲むように立つ四人の男たちは何事か、と訝しげにその様子を伺う。彼らは黙って大男を見守った。

ゆっくりと空気が震えた。その波は鼓膜を震わせ、音となり、男たちの脳を揺らす。
大男は笑っていた。やがて大きくなり始めたその声は、はっきりと笑い声となって辺りの建物に反響する。
そして身体を捩るように、彼は大口を開けて笑った。恐怖を煽るような笑いではなかった。だが、人の神経に触る、不愉快な笑いであった。

フーゴは反射的にスタンドを呼び出すと、自らを守るように戦いの構えをとる。
リンゴォはナイフを向けると、いつでも戦える臨戦態勢をとった。
苛立ち気な様子のナランチャをなだめるように、ジョナサンはその肩に優しく手を置いた。
四人の鋭い視線が一人の男に注がれる。狂乱の持ち主はあたりを知ってか知らずか、それでも笑いを止めようとしなかった。

どれほど笑いは続いただろうか。乾いた笑いは最後に一段と大きくなり、そして消えた。
息を乱し、肩で息をしながら、大男は笑顔を張り付けると捻りだすように言葉を口にする。
その声は低くドスの利いた声であった。

「お説教はおしまいか? 戯言吐くのにも満足しただろうな。あまりのくだらなさに欠伸が出るぐらいだ。
 言いたいことがあるなら今のうちに言っちまいな。じゃねーと後で言いたくなった時、その口、使い物になってねーかもしれねェからな。
 くだらねェ……誇りだ? スタンドを取り戻すだと?
 ハッ、いいだろう、やってみやがれってんだ。かかってこいよ、髭野郎、筋肉だるまにもやし小僧と阿呆チビッ
 四人同時にかかってきても俺は一向に構わないぜ? スタンド使いだろうと、なんだろうと大歓迎だッ
 文句があるならかかってこいよッ 戦おうってなら……やってやろうじゃねーかッ」

当初追いつめられ、うろたえていた様子はもう、微塵も感じられなくなっていた。
ギラギラと光る目は獣のように鋭く、戦いの興奮に合わせたかのようにその体が大きく膨らんだように見えた。
空気が圧縮され、重量を持って五人の上にのしかかる。

大男が背にした民家に拳を叩きつけた。窓が割れ、コンクリが砕け、大気が震えた。
それを合図にしたかのように、飛び出す二つの影。
血気盛んなナランチャがジョナサンの制止を振り切り、飛び出した。ナイフを構えたリンゴォが、一目散に駆けていく。

迎え撃つは超越者、『柱の男』、『エシディシ』。咆哮をあげた大男が戦場に身を躍らせる。
戦いが始まろうとしていた。

157 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:17:39 ID:tRLTibJ.




その戦いは一瞬だった。
あまりに素早く、あまりに圧倒的で、唐突であった。フーゴは一歩も動くことができなかった。

まずはリンゴォだ。真っ先に襲いかかった男が鋭く突きを放つも、柱の男は身体を僅かに傾ける最小限の動作でこれを回避。
お返しとばかりに、スタンド『ムーディー・ブルース』でリンゴォの首目掛けて手刀を振り下ろした。
同時に本体である柱の男は、つい今しがた砕いたコンクリートの破片を手にすばやくリンゴォの後ろに回り込む。
ムーディー・ブルースの攻撃を避け、体勢が崩れていたリンゴォはその俊敏で大胆な動きについていけない。
苦し紛れに振り向きざま一閃、しかしこの一撃も空振りに終わり、大男はリンゴォの後頭部に鉄塊を叩きこんだ。あっと叫ぶ暇もなくリンゴォの身体が沈んでいく。

まずは一人。なすすべもなかった。
柱の男の身体能力はスタンド同等。いや、下手をしたらそれをはるかに凌駕するほどだ。
ナイフ一本の男を相手するなどわけないことだったのだ。
リンゴォは何が起きたかよくわかっていないような、呆けた表情のままその場に崩れ落ちる。
どうやら気を失ったようであった。


次はナランチャだ。同時、飛び出していた少年は戦いの隙を突き、大男の後ろをとっていた。
飛行機型のスタンドを呼び出すと、大きく跳躍し狙いをしっかりと定める。ターゲットはスタンドではなく、大男本人。
奪われたとはいえ、かつての仲間のものであったスタンドを攻撃することは、ナランチャにはできなかった。
跡かたもなく吹き飛ばしてやる、怒りに燃えたナランチャはそう思った。
銃口を向け、まさに今、銃弾を発射せんとする。だがまさにその時、男が鋭く言葉を言い放った。
足元に横たわるリンゴォ・ロードアゲインを見つめながら、振り向くことなく柱の男が言った。

「いいのか、ナランチャ……? 『エアロ・スミス』をぶっ放せばハチの巣になるのは俺だけじゃないぜ?」

ほんの少し、時間にすれば秒針が動く隙もないほどの、僅かな時間だったであろう。ナランチャは躊躇った。
男が背を向けているというその姿を怪しんでしまったのもいけなかったかもしれない。スタンド名を何故知っているのか、そう考えてしまったのもいけなかった。
迷いは隙を生む。隙は時間を呼ぶ。

「ナランチャ君ッ!」

ジョナサンが叫ぶ。しかし、動き出すのがあまりに遅すぎた。
ハッと気づいた時にはナランチャの視界いっぱいに広がる灰色の石。柱の男の馬鹿力で放り投げたコンクリの塊はもはや凶器と呼ぶにふさわしい。
時速百数十キロで襲いかかってきた投石を宙で避ける術はない。
コンクリはナランチャの額に直撃、血飛沫を上げながら少年の視界は暗転する。ナランチャの意識は闇へと沈んでいった。
これで二人目。秒針が半周もしないうちに、この場に立つ人間の数が半分まで減らされていた。

158 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:18:17 ID:tRLTibJ.
それでも戦いは終わらない。意識を失ったリンゴォの腕時計の秒針が、音を立てて進んでいく。

ナランチャの身体が宙に舞い、地面に落ちるその直前、ジョナサンが身体を滑り込ませる。
叩きつけられぬよう、少年を優しく抱きとめるジョナサン・ジョースター。それも計算の内だと言わんばかりに、柱の男は既にッ 既にッ!
次なる攻撃に備え、動いていたッ!

少年の影に隠れる様、軌道に合わせ、颯爽と駆けていく。
数十メートルを瞬時に詰める脅威の身体能力。
吸血鬼という超越者を更に上回るスピードはジョナサンにとっても予想外。それでも咄嗟に蹴りを放つのは流石歴戦の波紋使いだ。

だが柱の男、これを一歩で避け、さらに懐に潜り込む。もう一歩、更にもう一歩ッ!
両腕で少年を抱え、不慣れな体勢では歴戦の戦士も普段通りとはいかない。数回の交戦を経るも、瞬く間に追い詰められていく。
加えて相手は一人でありながら、スタンドを操り攻撃を仕掛けてくる。
それは人を五人同時に相手するのと同じ、いや、下手をすればそれ以上の人数の攻撃を同時に裁けというのと同義であった。
ジョナサンの呼吸が乱れる。強引に放たれた蹴りにはいつもの鋭さがまったくなかった。
柱の男の右頬が、ジュ……と波紋で焦げるような傷跡を残す。それだけであった。致命傷どころか、怯ませることもできなかった。

次の瞬間、柱の男の右腕の筋肉が大きく盛り上がる。
グシャッと手に持ったコンクリの塊が一瞬で砕け散り、無数の破片へと形を変える。
そしてそれが超至近距離、顔を合わせたような距離からおもいきり、ジョナサン向けて叩きつけられたッ

刹那、ジョナサンは全身を同時に殴りつけられたような衝撃を感じた。
マシンガン、あるいは散弾銃を身体中、埋め尽くすように撃ち込まれたような衝撃だった。
爪の先ほどの大きさの小石が、まるで生きた羽虫のように、青年の身体を喰らいつくしていくかのようだった。
ジョンサンの皮膚という皮膚全てが切り裂かれ、砂混じりの血飛沫がシャワーのように降りそそいだ。

ジョナサンは倒れなかった。ナランチャをこれ以上傷つけまいと彼は全ての弾丸を体全身で受け止め、それでも倒れなかった。
真っ赤な服を着ているかのように全身を血で染めながら、顔をあげたジョナサン。輝く瞳で柱の男を見つめる。
その視線に、暴れまわっていた大男が一瞬だけ怯んだように、フーゴには見えた。

だがそれでもッ それでもだッ 暴力はやまず、拳は止まらず。
ジョナサンが口を開こうとする。何か言葉を口にしようとするも、それは柱の男の疾走音に紛れ、よく聞こえない。
まるで掻き消すかのように走っていく。聞くのを嫌がるように、見つめられるのが辛いかのように。
血を一度に失いすぎた青年は軽い貧血状態に陥り、その動きに対応することができなかった。
リンゴォと同じように、『ムーディー・ブルース』が優しくその首筋に手刀を振るうと、呆気ないほど簡単に、青年は気を失った。

159 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:18:59 ID:tRLTibJ.
そして三人目。ついに残すは後一人のみ。呆然とその場に立ちつくす、パンナコッタ・フーゴのみ。
あっという間だった。フーゴが割って入るほどの隙は一切なく、気付けば戦いは終わっていた。
地面に横たわる三つの体。薄明かりの中、月を背にそびえる柱の男。傍らに立っているのはフーゴにとって見慣れた仲間のスタンドだ。
どこか現実感のないその光景に、フーゴは眩暈を感じ、まるで足元が溶け落ちていくかのような感覚に襲われた。

大男が一歩踏み出した。ビクリと身体を震わせ、反射的にパープル・ヘイズを間に立たせるように動かす。
後ずさりしたくなる気持ちを必死で堪え、フーゴは目をしっかり開くと現実を見つめる。
恐怖はある。死にたくもない。だがそれ以上に、後ずさりたくない。その気持ちがフーゴの中で上回った。
これ以上逃げるのはまっぴらだ、そう思った。

強張る表情とは裏腹に、脳は柔軟にフル回転していく。
そもそもフーゴが戦いに参加しなかったのは、隙がなかったのもあるが、なにより彼のスタンドの性質故だ。
柱の男のような超至近距離を主戦とする敵を相手する場合、下手にフーゴが介入すれば助けになるどころか、仲間討ちになる可能性のほうが高い。
不用意な一撃、不必要な接近でパープル・ヘイズの毒を充満させることを、フーゴは何よりも恐れていたのだ。

なんとか逃げだす足を止めた。堪えることはできている。えらいぞ、そうフーゴは口の中で自らを勇気づける。
今度は足を動かしてみる。大地を踏みしめ、逆に男に向かって歩み出す。
半歩は踏み出すことができた。その勇気を持っている。ならばもう半歩だ……もう一歩だッ

前は持っていなかった勇気だ。誰かに頼らなければいけない自分だった。
だがもう頼る相手はいない。太陽のように輝いていた『彼』は、もういない。
ならばこそ……フーゴはなんとか自分に言い聞かせ、進んでいく。自らの意志で一歩、更にもう一歩ッ
そんなフーゴの足が次の瞬間止まった。目の前の男が口を開いたのだ。

「やめとけ、フーゴ。この明るさで『パープル・ヘイズ』を使おうってもんなら、俺もお前もあっという間にお陀仏だ。
 それだけならまだマシだろう……。けどな、下手に即死できずにのたうち回ってみろ。
 気絶してるこいつらにも菌が感染、あとは地獄絵図だ。もしかしたら俺たちの戦闘音を聞きつけて他の参加者も来るかもしれない。
 そんなことになったら……死の連鎖は、どこまでも続いて行くぜ?」

何故この男は自分のスタンドのことを知っているのだろうか。沈黙が流れた中、混乱した頭で最初に思いついたのはそのことだった。
フーゴは警戒心から進めていた足を止め、むしろ一歩離れるように距離をとった。
まじまじと、改めて目の前の男の様子を伺ってみた。さっきまであんなに大きく見えた男が、今は何故か小さく、しぼんで見えた。
それどころか化け物のような荒々しさ、獣のような猛々しさから一転。
仕事に追われ、くたびれ果てたサラリーマン。そんな疲れ切った表情を浮かべているように、フーゴには思えた。

一体この変わりようはなんだ。何故こいつは僕に襲いかかってこない。
一度考えだすとそこから先は止まらなかった。フーゴの中であぶくのように、次から次へと疑問と疑惑が浮かび上がってきた。
そしてまるで誰かが電球のスイッチを捻ったかのように。まるで誰かがスイッチのボタンを押したかのように。
唐突にフーゴの中で一つの可能性が思い浮かんだ。
こま割り映画のように、たった今起きた出来事全てが、頭の中でもう一度流れていく。
無意識のうちにたまっていた違和感が次々に、ハマるべきところにハマり、あたかもパズルのように仮説が頭の中で完成していく。

160 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:19:46 ID:tRLTibJ.
なぜナランチャの名前を知っていたのか。それどころかナランチャのスタンド、『エアロ・スミス』まで、その存在を知っていたのはなぜだ。
それは彼自身の場合にもあてはまる。パンナコッタ・フーゴ、そして『パープル・ヘイズ』。この場合は名前にとどまらない。
スタンドの能力まで把握されていた。菌の弱点、光とその関連性までも、この男は知っている。
それを知っているのは、アイツらしかいない。同じ護衛チームにいた、アイツらしか、知らないはずだ。
それはつまり…………―――

フーゴはゆっくりと口を開いた。
唇がかさつき、舌がやけに乾いていて、口の中に貼りついたかのように、うまく動かなくなっていた。まるで喋り方を忘れてしまったかのようだった。
半信半疑のまま、言葉の通じぬ動物にでも話しかけるように、フーゴは言った。
その低く、くぐもっている声は、まるで自分じゃない、他の誰が喋っているかのようだった。

「アバッキオ、なのか」

大男は何も言わなかった。しかし顔にかかる影が一段と濃くなり、疲労の色が確かなものになったような気がした。
沈黙は即ち肯定の合図。フーゴはそれを信じられぬ思いで見つめ、しかし心のどこかで冷静に納得している自分がいた。
安堵と絶望、相反する二つの感情が強力な毒素のように全身を駆け巡った。

「一体、なにが」
「これは、俺のひとりごとだ。聞き流してくれても構わねェ」

問いを遮るように発せられた深い低音の声。
それはかつて護衛チームとしてフーゴと行動を共にしたレオーネ・アバッキオのものとは似ても似つかぬ声だった。
だというのに、その声の裏側には確かに彼の存在が見え隠れする。
ぶっきらぼうなもの言いといい、一つ一つの言葉の刺々しさといい、誰を相手にしようと食ってかかるような口のきき方といい。

フーゴは何も言わなかった。何も言えなかった。彼はただ黙って、『レオーネ・アバッキオ』の話を聞くほかなかった。



根性ある少年を助けるため、怪物と戦った。えらく自分らしくないとはわかっていた。でも自然と身体が動いていた。助けない、そんな選択肢は浮かばなかった。
どこかの誰かさんの甘さが移ったのかもしれない。物怖じず、ふてぶてしいガキがどっかのアホのガキと重なって見えたのかもしれない。
とにかく無茶して、下手をこいた。怪物はとんでもないヤツで、自分は殺された。レオーネ・アバッキオは死んだ。

―――そのはずだった。

161 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:20:25 ID:tRLTibJ.
その後のことも数分がかりで話し、『レオーネ・アバッキオ』のとんでもない話が終わった。
語り聞かされた話はまるでおとぎ話のようで、とても信じられぬものではなかった。
普段のフーゴならば、馬鹿馬鹿しい、そういって一蹴するような与太話で合っただろう。
しかし今回ばかりは話が違った。フーゴは何度も瞬きを繰り返し、脳の働きをチューニングするように繰り返し頭を振って、意識をはっきりさせる。
それでも、彼が感じる事象に変化はなかった。五感から感じるもの全てが、はっきりと目の前の存在が何かを示していた。

それは人ではない、超越者。全身で人を喰らう、謎の生命体。
それは彼の同僚、レオーネ・アバッキオ。天邪鬼でガラが悪くて、喧嘩ッ早い、目つき最悪の元不良警官。
矛盾しながらも辻褄の合う説明だった。フーゴの感情と理性を無視すれば、それは筋の通る話であった。

堪らず放心状態で、それでも何か言わねばと、フーゴは口を開く。
だが当たり前のように言葉は出てこず、かわりに唸り声が漏れ出た。それを聞いて男が唇を捻りあげるような嘲りの笑みを浮かべた。
その皮肉たっぷりで人を小馬鹿にする笑い方は、かつて何度か青年をブチぎらせかけた同僚の笑い方にそっくりであった。
その事に気づき、初めてフーゴは事実を事実として受け入れた。ああ、目の前のコイツは……紛れもなく、アバッキオなのだろう、と。

沈黙が流れる。立ちつくす二人は腕を伸ばせばすぐにでも届くほど近く、間に深い深い谷底が横たわっているかのように遠い。
男が口を開いた。自分の身に何が起きたかを説明していた時より、更に感情の籠らない話し方で、彼はフーゴに向かって言った。

「チームの皆には言わなくていい」

視線を合わせるも、その瞳からは感情が読み取れなかった。
底の知れない怪物のような目が青年を見返していただけだった。
再び男が話し始める。ふと、視線を外すとどこか遠いところを眺めるような、そんな目つきになった。
フーゴはそんな風に話す『アバッキオ』を見たことがなかった。

「リンゴォ、ロードアゲイン、だったかな。さっきの髭野郎の名前。
 面白いやつだよな。久しぶりに、柄にもなく昔のことを思い出しちまった。
 俺がまだ現実ってやつを知らず、警察官であることに誇りを持っていて、餓鬼みたいに目をキラキラ輝かせて時のことをよォ……」
「…………」
「『納得』……納得ねェ。たいしたもんだぜ、まったく。吐き気がするほど青臭ェ、眩暈もするほど見てらんねェ。
 だけど一番眩暈と吐き気がするのは、そんな言葉に動かされた自分がいるってことだ」
「これから……どうするつもりなんだい、アバッキオ」

肩をすくめると男はしばらく黙りこむ。その横顔をじっと見つめるも、奥底にある感情は読み取れなかった。
いや、フーゴは視線を逸すと、目を瞑った。感情を読み取りたくなかったし、読みとってはならないと思ったから。
一人の男が赤裸々に感情を吐露している。かつて長い間、相棒役を務めながら一度も触れなかった不可侵の領域。
鋼鉄のように固い守りを放っていた男の無防備さを、青年は直視することができなかった。
そんな男の脆さを見てはいけないような気がしたから。

162 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:21:04 ID:tRLTibJ.
「なぁ、フーゴ……二人でよく殺したよな。沢山、沢山殺したよな。
 スキャンダルのもみ消し、横領をしようとしたやつの処刑、抗争の裏工作……まったく、汚ねェ仕事だったよなァ。
 ポルポに頼まれもしたし、ブチャラティに内緒でした時もあったはずだ。
 一体俺とお前で、何人殺したんだろうな」
「…………」
「結局のところ、俺に出来るのはそんな仕事だけだ。俺に相応しいのはそんぐらいだってことだ。
 ゴミ捨て場の掃除、後処理と片付け。それが俺にはお似合いだってことだ。
 神様とやらがいるんだったらな……まぁ、なんというか、よく見てやがる。天命ってやつだぜ、まったく」
「アバッキオ、君は……」

――また誰かの代わりに、殺すんですか。『巨大で絶対的な何か』、神(ディオ)とやらに従って、動くつもりですか。

その言葉をフーゴは飲み込んだ。
それこそがリンゴォ・ロードアゲインが最も卑下し、唾棄すべきものだと思っているのではないだろうか。
フーゴはそう思ったが、それを言う勇気はなかった。それに正解なんてないのだと思ったのだ。
レオーネ・アバッキオにとっての『納得』がそれなら、それでいいはずだ。それが彼の歩む道なら、フーゴにそれを止める権利はないのだ。

――だがそれは、あまりに寂しすぎないだろうか。

フーゴの胸の奥底が、チクリと痛んだ。

「俺は行くぜ、フーゴ。次あった時はもう他人同士だ。
 もちろん襲いはしねェ。だけど呑気なお話はここでお終いだ。
 俺とおまえはもう赤の他人。知り合いでもなんでもねェし、同じチームで何でもない。いいな……」
「……」
「『レオーネ・アバッキオ』は死んだんだ……。だがな、『俺』は死なねェぜ、フーゴ?
 必ず生き残ってやる。殺して、殺して、殺しつくして……そして最後、最後の最後の尻拭いも自分で済ませるつもりだ。
 なんでも、そいつ……ジョナサン・ジョースターによるとこの身体は吸血鬼のものらしい。なら簡単だよな。太陽の日を浴びちまえば、銃を使う手間もなく、楽に自殺できる。
 それに最悪、この首輪とやらにお世話になればいい。あの眼鏡ジジイの世話になるのは癪だが、まぁこの際贅沢は言わねェさ」
「吸血鬼、ですか」
「なんでもありだよな」

暗い声で、男は笑った。フーゴはとてもじゃないがそんな気分でもなく、ただ彼を見つめていた。
だが彼がそろそろ旅立とうと準備を始めた時、フーゴは自分の支給品を思い出した。
そしてこれ以上ない、餞別になるな、そう思い彼にこれを譲ることにした。
アバッキオ、背中を向けた怪物にそう声をかける。ジロリと脅すように睨みつけるその様子は迫力たっぷり。だがフーゴは怯まなかった。
それどころか、ここ一番の笑顔でもう一度彼の名を呼び、そして地図を彼の顔先に突きつけた。

「僕からの餞別だと思ってください」
「……礼はいわねェぞ」

163 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:21:27 ID:tRLTibJ.
デイパックに地図をしまう彼と握手をしようと腕を伸ばす。アバッキオはそれを無視した。だが皮肉気な、いつも通りの笑顔を浮かべた。
素直じゃないな、そう思い苦笑いを返す。アバッキオはそれを見て更に口の端を釣り上げた。
一瞬だけ視線が交わる。それは文字通り一瞬だった。
次の瞬間、男は近くの民家に向かって跳躍。ひとっ飛びで屋根の上に着陸すると振り返ることなく去って行った。
向かう先はきっと地下へと続くコロッセオだろう。手渡した地図の内容を想い浮かべながら、フーゴはぼんやりと、そう思った。

アバッキオはほんとうに『納得』しているのだろうか。
チームのため、誰かのために、殺人者を殺す殺人者になる。
毒を持って毒を制する。怪物を仕留めるには自ら怪物になるしかない、そういうつもりなのだろうか。
誰にも理解されることなく、誰が褒めるわけでも感謝するわけでもない。称えてくれる人もいなければ、共に戦ってくれる人もいない。
孤独で辛い道をレオーネ・アバッキオは選んだのだ。考えてみれば、いつだって彼はそんな選択肢を選んできた。
遠ざかっていく背中が見えなくなるまで眺めていた。その背中はとても大きく、しかしとても寂しげに見え、フーゴは身を切られるような切なさに、唇をかんだ。

助けることはできない。だけど祈ることはできるだろう。
せめて彼がこの先も『納得』できる道を歩み続けれるよう、可能な限りのサポートはしよう。
地面に転がるナランチャを見つめ、フーゴは固く決心した。

その時、後ろで何者かが動く気配を感じ、反射的にフーゴは振り返った。
立ちあがっていたのはリンゴォ・ロードアゲイン。いつのまに意識を取り戻したのだろうか。
見たところ、怪我はそれほど重症ではなさそうで、後遺症もないようだ。
だがその様子は異常だった。カッと見開かれた目は血走り、今にも目玉は飛び出さんばかり。その瞳は狂気に染まっていた。
彼は、ものすごい勢いでフーゴの肩を掴むと掠れた声で問いかける。あまりに強く掴むので、フーゴの肩の感覚がなくなるほどだった。

「今の話は……ほんとうなのかッ」
「い、今の話って……」
「お前と、お前がレオーネ・アバッキオ、そう呼んでいたヤツの会話のことだッ」

チームの皆には言わなくていい、アバッキオの言葉が思い起こされた。
だがこの男はチームの一員ではない。ならば彼には知る権利がある。
それに会話を聞かれた以上、隠す必要もないし誤解を解くきっかけにもなる。
フーゴは頷き、言葉を返した。

「全て事実です。貴方がどこから話を聞いていたのかはわかりませんが、彼は『レオーネ・アバッキオ』です。
 見た目は全くの別人ですが、正真正銘『レオーネ・アバッキオ』なんです」
「…………馬鹿な」

164 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:22:30 ID:tRLTibJ.

説明を続けようとフーゴは口を開く。だが男は既に聞いていなかった。
痛くなるほど掴まれていた肩は離され、男は脱力したようにその場に崩れ落ちる。
もはやフーゴなんぞ目に入っていないのか、呆けた表情を浮かべしばらくの間、ずっとそうしていた。
その間、彼は何を見つめるでもなく、何を伝えるでもなく、ただひたすらに、意味の成さない言葉を、ぶつぶつ呟き続けていた。
空っぽの瞳で地面のある一点を凝視し続け、早口で何語かもわからぬ言葉を捲し立てる。異常な光景だった。
気味が悪いな、フーゴは男の行動に戸惑いつつも、そんな感情が自らの中で湧き上がるのを認めざるを得なかった。

長い間、男はずっとそうしていたが、やがて立ち上がると、夢遊病者のようにあらぬ方向へと向かい歩き出す。
その異常さを目の当たりにしたフーゴは一度だけ彼に声をかけた。
正直気味も悪いし、一体何が何だかわからなかったが、それでも男を放っておくことはできない。そうフーゴは思ったから。

だが無駄だった。彼は一度も振り向くことなく、まるでフーゴなんぞそこにいないかのように歩みを止めようとはしなかった。
一度だけ肩に手を置くと、ものすごい勢いで振り払われ、鬼のような形相で睨みつけられた。
男の表情を見てフーゴはゾッとした。それは男の表情が鬼気迫るものであったからではない。
数十分しか経っていないはずなのに、男は十歳も二十歳も一気に年をとったかのように、やつれ果てていたのだ。
その変貌っぷりに、フーゴは伸ばしていた手をひっこめた。

もう一度、まるで脅すようにフーゴを睨みつけるリンゴォ・ロードアゲイン。
恐怖は湧きあがらなかった。フーゴは無意識のうちに拳を握りしめ、彼をそのまま見送った。

彼はそうされることを最も嫌悪するだろうとはわかっていても、フーゴは男に同情してしまった。
きっと『超越者』とリンゴォ・ロードアゲインの間には並々ならぬ因縁があったのではないだろうか。
それが今や『超越者』は『レオーネ・アバッキオ』になってしまったのだ。
滾る感情は宙ぶらりん。そうですか、わかりました、なんて簡単には真実を受け入れられないのだろう。
あんなに声高々に『納得』を叫んでいたのだ。彼の気持ちを推し量れば、フーゴにはかける言葉が見当たらなかった。

東に向かって歩き始めた彼。太陽がうっすら昇り始め、逆光の中、光の道を歩き出した男、リンゴォ・ロードアゲイン。
フーゴは彼が見えなくなるまでじっと彼を見つめ続けていた。

そして、ふと時間に気づくと、ゆっくりとその場を離れ、放送にそなえるための準備を始めた。
ジョナサン・ジョースターをスタンドで抱え、ナランチャは自分自身の腕で抱きかかえる。
最後にもう一度だけ東の空を見る。顔をのぞかせていた太陽は今日も変わらず、美しい。

目が霞むほどの明るさを飽きることなくフーゴは見つめ続けていた。
そして、ゆっくりと近くの民家へと向かい、彼は足を向けた。

考えることは山ほどある。やるべき事は沢山ある。
長い一日になりそうだ。フーゴはポツリとそうこぼし、ふとトリッシュ・ウナ護衛作戦の日を思い出した。
それほど時間は経っていないというのに、なぜだか彼の胸は懐かしさで満たされていた。

165 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:23:05 ID:tRLTibJ.

【E-7 杜王町住宅街(南西部)/ 1日目 早朝(放送直前)】
【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.南下しコロッセオに向かう。そこから地下に潜る予定。
2.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
3.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。



【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中/出血中)、貧血気味、気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.気絶中
1.目の前の吸血鬼?を倒す。これ以上は一人の犠牲も出させはしない。
2.(居るのであれば)仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
3.ジョルノは……僕に似ている……?

166 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:23:24 ID:tRLTibJ.


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド] :『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:気絶中、額に大きなたんこぶ&出血中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.気絶中
1.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
2.ジョナサンについていく。仲間がいれば探す。
3.もう弱音は吐かない。

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:精神消耗(小)
[装備]: DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品一式、DIOの投げナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.民家で二人の手当、その後放送を待つ。
1.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集める。
2.ナランチャ、アバッキオが生きていることについて考える。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。なんて言うべきだろうか……?



【リンゴォ・ロードアゲイン】
【時間軸】:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
【スタンド】: 『マンダム』(現在使用不可能)
【状態】:右腕筋肉切断(止血済み)、身体ダメージ(小)、放心状態、絶望
【装備】:DIOの投げナイフ1本
【道具】:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ半ダース(折れたもの2本)
【思考・状況】
基本行動方針:???
0.嘘だッ……嘘だろ…………ッ!?
1.決着をつけるため、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする?
2.周りの人間はどうでもいいが、果し合いの邪魔だけはさせない。



【備考】
E-7北西のコンテナが退かされました。
下敷きになっていた露伴の遺体、アバッキオの遺体、エシディシの所持品(基本支給品×3(エシディシ・ペッシ・ホルマジオ)、不明支給品3〜6(未確認) )はその場に放置されたままです。

167怪物は蘇ったのか    ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:32:26 ID:tRLTibJ.
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら指摘ください。
前作の誤字脱字指摘、ありがとうございました。遅くなりましたが、さっきなおしてきました。
感謝します。

168名無しさんは砕けない:2012/05/28(月) 00:23:43 ID:LAsH..nA
途中まで代理投下
創発版は支援なしだと一人で書き込めるレス数は10レス/h なので、事前に投下時間を宣言しておいてくれると助かります
本スレ過疎中なので特にね

169 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:21:03 ID:pK8x81ZQ
ごめんなさい、えらく時間がかかりましたが、投下します。

170 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:21:51 ID:pK8x81ZQ
 



 先に動いたのはティッツァーノだった。だが上をいったのはプロシュートだった。



全てがスローモーションのように、ゆっくり流れていく。
研ぎ澄まされた神経は的確に脳を、そして身体を動かす。ティッツァーノはプロシュートが動くより早く、既に動きだしていた。
聴覚が狂ったのだろうか、まるで音が遅れてやって来るかのよう。しかし極限の集中力が生んだそんな不思議な世界の中でも、彼は驚くほど冷静だった。

静脈注射を施す看護師のように、慎重に狙いを定める。狙いは目の前の男、脳髄を吹き飛ばし確実に仕留める。
考えるよりも前に、身体は動いていた。西部劇のガンマンも青ざめる早撃ち、早貫き。既に銃は構え終えていた。
死をもたらす、無慈悲で暴力的な銃口。夜空より更に深い漆黒、底知れない暗がりが、男の眉間に突きつけられていた。


だが対する男は平然としていた。銃を額に向けられていても汗一つかかず、髪の毛一本動かすことない落ち着き。
一枚上手だったのは暗殺チームの一員、プロシュートという男。
敢えて先手を取らしたのか、そう疑うほどに淀みなく、彼もまた、既に動き終えていた。
ティッツァーノが掲げた腕に巻きつかせるように、プロシュートは腕をからめとっていく。
肩と腕の関節を利用して、ティッツァーノの腕を締めあげる。途端にティッツァーノの顔が、苦悶の表情に歪んだ。

銃を持った腕が震える。当然、銃口の狙いは定まらない。
もはや痛みはとうに次の段階へと移り、段々と腕の感覚が失われつつある。
これはまずいことになった。感覚が失われてきたということは、こうしている今にも、銃を取り落としかねないのだから。
制御の利かない腕に必死で言い聞かせ、ティッツァーノはそれでも銃を離さず、殺意を手放さず。

ミシミシ……深夜、病院の廊下の元、青年の腕はしなり、音をたてて軋む。万力のような力で、男は顔色一つ変えず、負荷をかけ続けていく。
その表情に焦りはない。自分が指先一つで死ぬことになる、そんな恐怖を一切感じていないかのようだった。
だが落ち窪んだ目の奥を覗きこんだとき、真っ赤に燃える何かがティッツァーノを見返していた。


 ―――『ブッ殺す』と心の中で思ったなら その時スデに行動は終わっているんだッ


乾いた音を立て、拳銃が床に落ちた。ティッツァーノの指先から滑り落ちた銃を、プロシュートが踏みつける。
ティッツァーノの腕は砂漠の樹木かのように、萎びれ、渇ききったものへと変わり果てていた。
『グレイトフル・デッド』、プロシュートのスタンド能力を前には流石の親衛隊の意地も折れざるを得なかったのだ。

二人は見つめ合う。落ちた銃に目をくれることなく、黙ったまま二人は互いの瞳を覗きこむ。
廊下の先から、再び少女の悲鳴と銃声が聞こえた様な気がした。それでも二人は動かなかった。
頭上に吊るされた避難灯が男たちの顔に影を落とす。プロシュートがゆっくり瞬きを繰り返した。ティッツァーノがそっと瞼をしぱたかせた。
来るべき瞬間が来るのを待つ二人。断頭台に上った死刑囚が運命を受け入れる様、その瞬間をただひたすら、男たちは待った。

171 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:22:49 ID:pK8x81ZQ


 ――― いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないッ


しかし……プロシュートはティッツァーノの腕をゆっくりと手離すと、何事もなかったかのように銃を拾い上げる。
そうして、萎びた腕を庇うようにもう片方の腕でさするティッツァーノに、銃のグリップを突きだした。
親衛隊の男は肩で呼吸をしながら、目の前の男と銃を、ゆっくりと見比べた。

その男の意志が全く読めなかった。目の前の男が一体何を考えているのか、全くわからなかった。
ポタリ、音を立てて、ティッツァーノの顎先から汗が一滴、流れ落ちる。

たった今、敵と認識した男に再度獲物を渡すという行為。敵に塩を送ることなんぞ、この男が最もしないであろう行為だ。
慈悲だとか、正々堂々だとか、そんな言葉はプロシュートに全く持って相応しくない。

困ったら殺す、面倒になったら殺す。敵ならば殺す、味方であろうと時に殺す。
それは何も暗殺チームに限ったことでなく、ギャングならば誰もが実践する原則的ルールだ。ましてやプロシュートは暗殺チーム所属の男。
今さら殺しに躊躇いなんぞはまったくないだろうし、彼以上に殺しを徹底してきた男はいないはずだ。
だというのに何故殺さない……? 何故今さら殺さないという結論に至ったのか……?
何をどう考えたら、たった今銃を突きつけ、その上スタンドを曝け出した相手に、武器を渡すような行為に及ぶのか。
ティッツァーノには全くわからなかった。いくら考えても答えは出てこなかった。

沈黙が続く。空気が凍りついたまま、しばらくの間、時間が流れていった。
やがてプロシュートは我慢しきれなくなったのだろう、半ば強引に彼の掌に銃を押しつけ、そして、くるりと背中を向け走り出していった。

最初はゆっくり、そして次第に駆け足、最後には全力疾走。
暗殺チームの男は一度たりとも振り返ることなく、そして一瞬たりとも立ち止まることなく、瞬く間に廊下の先へと姿を消した。
差し込む月光の中に消えていったプロシュート。ふと手元へと視線を落として見れば、手のひらに収まった拳銃が一丁、そこにあった。

どんな馬鹿だろうと、どれほどマヌケであろうとも、誰だってできる簡単なことだった。狭い廊下ではかわすこともできないし、加えて男は背中を向け走っている。
拳銃を狙いに向け、引き金を引くだけ。それだけで男はもんどりうって、その一生を終えるだろう。たった、それだけのことで。
ティッツァーノはぎこちなく銃を構えると、男の背中に狙いを定めた。対象を真ん中に合わせ、あとは指先に力を込めるだけ。

だが、できなかった。ティッツァーノは引き金を引くことができなかった。
ティッツァーノは馬鹿の一つ覚えのように、その背中を見続ける。
それは何故か。ティッツァーノは今気がついたのだ。プロシュートが何故彼を殺すことなく、そして何故平気で銃を手渡したのか。
それに今、ようやく、気がついたのだ。

172 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:06 ID:pK8x81ZQ

男は知っていた。ティッツァーノが引き金を引けないことを。親衛隊所属の男に自分が殺せないことを。
武力や方法という意味ではない。
ティッツァーノには覚悟がなかった。喰らいついてでも必ず成し遂げて見せる、そんな覚悟が感じられなかった。
ティッツァーノには勇気がなかった。どこかで諦め、言い訳していた。思考即行動、それを妨げる、一歩踏み出せない遠慮を男は嗅ぎ取っていたのだ。
だから銃を渡した。だから背を向け、彼は一目散に走っていたのだ。何も心配することなく、殺されないという確信を持って。


『覚悟』がないことを見透かされた。そう、ティッツァーノは『情け』をかけられたのだ。
見下され、蔑まれ、憐れみを……ッ 同じギャングでありながら、暗殺チーム、プロシュートという人間に彼は……ッ

自分の愚かさに気づいたティッツァーノは愕然とした。そしてそんな彼の視線の先から、いつのまにか男は姿を消していた。
後に残されたのは惨めで、間抜けな、敗残兵。真っ暗やみの廊下の下、放り出された一人の、哀れな敗北者。
たった今受けた屈辱、そして最後に男が投げかけた視線。男の後ろ姿が彼の瞼に焼きつき、ティッツァーノはただ、立ち尽くすしかなかった。

173 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:23 ID:pK8x81ZQ




研ぎ澄まされた感覚は玄関への扉をぶち開くとともに、一つの殺意を感じ取った。
すかさずプロシュートはその場から逃れるよう、近くの机の下へと飛び込んだ。
直後、彼がたった今いたであろう場所に弾丸が撃ち込まれる。タァン……、重量感を持った銃撃音が部屋内にこだましていった。
プロシュートは闇夜に目をこらし、狙撃手の姿を探る。同時に、今ここで何が起きているのかを、瞬時に把握していく。

見張り番を頼んだはずのマジェントの姿、見当たらず。マジェントが見張っていたはずの老人、同じく見当たらず。
室内、荒れた形跡有り。広いロビーは所々影になっていて隅まで見渡すことはできないが、物を引きずった跡や、家具が動いた形跡がある。
破壊された形跡、特になし。何者かがここで暴れまわったことはなさそうだ。それはつまり、大規模な戦闘は起きていないことを意味している。

プロシュートは考えを進めていく。弾丸飛び交う戦場であろうと、彼は常に冷静だ。

プロシュートはマジェントがもう既に死んだものとして考えを進めていた。それは何故か。
マジェントが言いつけを破って単独行動をするようには思えないのだ。短い付き合いだが、ある程度、彼のことは理解したつもりでいる。
そんな彼がいるべきはずの玄関にいない、姿を見せない。となるとその理由は必然的に一つになる。
マジェントは姿を現すことができない状態にいる、すなわち既にマジェントは死んでいるのではないか。
プロシュートはそう考えていた。

『20th Century BOY』は強力なスタンドだ。だが強力な能力ゆえに、本人の注意力のなさは際立つほど、ない。奇襲から即死、その可能性は十二分にあり得る。
また、これは室内が荒れていないことの裏付ともなる。侵入者はマジェントを一撃で仕留めた、あるいは本人が侵入に気づく以前に殺したのではないだろうか。

ここで疑問になって来るのが、果たしてプロシュートを撃ち殺しかけた相手とマジェントを仕留めた相手は同一人物なのかという点だ。
プロシュートが部屋に飛び込んできたとき、咄嗟に相手は銃を使って攻撃してきた。そう、主な攻撃手段は銃なのである。
ところが玄関の窓は一枚も割れていない。それどころかヒビ一つ入っていない。
そうなると、仮にマジェントが銃殺されたとすれば、窓の外からの狙撃ではなく、面と向かって射殺されたことになる。
それは不可解だ、プロシュートは不機嫌そうに顔をしかめた。
どれだけマジェントがマヌケであろうと、面と向かって銃殺されるほどの大馬鹿ものではないとプロシュートは思っている。
ならばマジェントを殺した人物と、今プロシュートを狙撃している者。これは別々の人物ではなかろうか。
つまり、病院内に忍び込んだ参加者は、少なくとも二人以上いるのでなかろうか。

そこまで考えた時、もう一度聞こえた銃声に思わずプロシュートは首をすくめた。
一度思考を中断すると、男は神経を集中させ気配を探っていく。銃弾は彼に着弾することなく、見当違いのところへ撃ち込まれていた。
銃撃音は室内に反響するため、音から狙撃手のいる位置は容易には掴めない。しかし銃撃の際出たフラッシュのような閃光、それを彼は見逃さなかった。
闇夜に浮かぶガラスが鏡代わりに、一瞬だけ散ったスパークを映しだしていた。そして青白く浮かび上がった少年と少女の顔を、プロシュートは見過ごさなかった。

174 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:44 ID:pK8x81ZQ

『グレイトフル・デッド』はそこまで素早いスタンドではないが、注意をしていれば銃弾をはじき返す程度のことは可能だ。
プロシュートは音もなく身体を滑らし、机の影から抜け出す。そうして徐々にバリケートへと近づいて行く。
暗殺者は影のように静かに、闇へ姿を紛らし、接近する。彼の狙いは今しがた見つけた二人組に接触すること。

マジェントを打ち破った者、プロシュートを狙う子供二人組。どちらが与しやすいかと問えば、間違いなく後者だ。
敵の敵は味方。実際のところ子供二人を味方にしたって、戦力になるとは思えない。だが、彼の狙いは二人を味方につけることよりもむしろ、彼女たちに敵として認識されないことにある。
一対一対一 よりも、ターゲットを一つに絞り込む。懐柔する際にリスクはあるが、とりあえず背中を撃たれる危険が減れば、それだけでもお釣りが返ってくる。

体勢を低く、ソファーの影に滑り込んだ。目標の二人組は、まさにこのソファーの裏側に陣取っているに違いない。
困難な事は二人組に話をつける前に狙撃されることだ。同時に、第三の敵にも注意を払わなければならない。
厄介な任務だな、プロシュートは冷静な分析の元、そう判断する。しかし最悪ではない。
これより遥かに難関な暗殺を、彼は何度も成功させてきたのだ。この程度で怖気ついたり、怯んだりする男ではない。

「おい、ガキとお嬢ちゃん。聞こえるか」

距離にするとソファーを挟んで僅か一メートル以内。物陰の裏側でビクリと人が震える気配がした。
可能ならばゆっくり、じっくりと説き伏せたいところだが今は時間がない。マジェントを殺した未知なる牙が、今こうしている間にもプロシュートに迫っているかもしれないのだから。
できる限り単刀直入に。そう思い、男は畳みかけるように言葉を繋げようとした。

直後、長年の勘が我が身に迫る危機を察知する。直感的に、二人組がいるであろう、ソファーの裏側へ身を躍らせた。
ほぼ同時といっていいタイミングで、プロシュートの耳を打つ二つの風切り音。
一つは銃声、一つは彼を掠めるように飛ばされた針の発射音。間一髪のところで、男は危機を脱することができた。

突っ込んだバリケード内、ソファーや椅子に囲まれた狭い空間。飛び込み、受け身をとると、プロシュートも思わず息を吐いた。
流石に紙一重のところで死地を切り抜けると肝が冷える。きっとこの二人の銃撃がなければ、針はプロシュートの身体を的確にとらえていただろう。
ほんのわずかだけ、本当に掠めていっただけだというのに、その針はプロシュートの上等物のスーツを台無しにし、その下の皮膚まで被害を及ぼしていた。
火傷のように、チクリと走る痛みにプロシュートは生きていることを実感する。そして同時に、直撃していれば死は免れなかったな、そう思いゾッとした。

とにもかくにも、予定していた形とは随分違うが、二人組と接触することには成功した。
プロシュートが死なないよう銃で牽制してくれたところをみると、敵意はそれほどないとみていいだろう。
借りを作ってしまったことは癪だが、この際、それは置いておく。とりあえずの礼を言おうと、彼は振り向き、そして、開きかけた口を閉じた。

少女にほとんど抱きかかえられるように、支えられている少年。彼には腕がなかった。
本来なら腕があるべき場所にポッカリと闇が存在し、歪んだ暗闇がプロシュートを見返していた。
ほとんど涙目の少女が、少年の顔にかかった髪の毛をかきあげてやる。鬱陶しそうに彼は少女を睨みつけるも、文句を言わず、ただ辛そうに深呼吸を繰り返していた。

175 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:24:45 ID:pK8x81ZQ


 ―― もう長くないな


プロシュートは冷静に、そう判断する。
今しがた男を射殺しかけた針を、少年はまともにくらっていた。針は十中八九スタンド能力だろう。
刺さった部分から肉を溶かす毒が流れていくようだった。毒は継続的なもので、その上即効性充分のようだなと、プロシュートは自分の傷と少年の状態を確認し判断する。
針が着弾したのは左肩の下あたりだろう。場所が悪かったな、心臓まで毒がまわり、その上肉の爛れが止まらない。
やけに少年の呼吸が荒いのは、融解が内蔵機器まで届いているからだろう。脂汗の量が尋常でない、体温調節もやられているのかもしれない。
皮肉な事でいくらここが病院だからといって、処方できる医師もいなければ、スタンドを処置できる特殊器具なんぞも存在しない。
つまるところ、少年は運が悪かった。プロシュートに言わせればたったそれだけのことだった。

そう、普段の彼ならばそれまでだったであろう。苦しそうなガキがいようと、彼には関係ない。
彼はそれこそ、哀れなガキが惨めに死んでいくところを嫌になるほど見てきた。今さら目の前で二人や三人ガキが死のうと、何ら感慨を抱くことない。
そういつもの彼なら考えていたであろう。

だが、今回ばかりは違った。プロシュートは手を伸ばすと少年の頭を乱暴に握った。そして同時に真正面から、彼と視線を合わせた。

「―――……チッ」

“人殺しの目”、少年の奥底にはプロシュートの中にも潜む狂気と殺意が、幾重にもなって渦巻いていた。
彼は自分自身を少年の中に見た。少年の中に潜む、どうしようもない燃え盛る情熱を、彼は見逃すことができなかった。
見つめ合ったまま、プロシュートはゆっくりと口を開く。僅かにでも視線がぶれるようであれば、そこまでのガキだ。
だがもしもこの子供が、復讐を願うようならば。心の底から、神に何者かを殺すことを祈るような狂信者であるならば。

「坊主、殺したいか。お前をこんな風にしちまったどっかの誰かが、憎いか、殺したいか」

不用意に答えれば浅はかさを見透かされ、考えなしにその問いに答えれば後悔することになる。
低く押し殺したその問いかけには凄味があった。長い間その界隈に身を置いた、一流の男が醸し出す威圧感に、千帆は身を震わした。
だが、早人は脅えなかった。唾を飲み込み、呼吸を整えると言葉を返す。小さな声だったが、一切迷いのない返事だった。

「憎くはない。どうしようもないことだったし、今さらどうのこうのしたって自分が手遅れだって事には気がついてるさ」

だけど、そう最後に付け加える早人。少年は男を見た。男は少年を見返した。

「決着がつけたいんだ。腕の一本をもいだところで僕が負けたってことにはならない。戦いは、まだ終わってないんだから。
 僕は見せつけてやりたいんだ。僕の覚悟を、僕の根性をッ
 終わらせるんだったら僕の手で。このまま、舐められたまま終わるだなんて、まっぴらだ……ッ」

176 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:26:02 ID:pK8x81ZQ


少年がそう言いきると、再び沈黙が三人を包み込んだ。
そして、唐突に男は少年に問いた。名前は何と言うのか、と。
少年は答えた。川尻早人、そう答え、彼は男の返事を待った。
二人は会話を終えても互いを見つめ、そしてどちらからともなく息を吐いた。


「いいだろう……助けてもらった借りもある、一時とはいえ手を組んだ相手を始末された“礼”もある。
 川尻早人、テメーの依頼、暗殺チームのプロシュートが、確かに請け負ったッ」


プロシュートが言った。その言葉には力が込められ、彼の目はらんらんと輝いていた。
単なる怨恨だけならば或いは話はもっと単純に終わっていたのかもしれない。男はそこまで少年に期待していなかったのだから。
だが彼は会話を通し少年の覚悟を受け止め、そして会話以上に心そのもので川尻早人の覚悟を理解した。
そしてその瞬間から、プロシュートにとって彼は少年ではなくなった。
男にとって彼もまた、認識すべき男になったのだ。敬意を払うべき誇り高き魂を、少年の瞳に見つけたのだ。


「さぁ、出てこい、臆病者のマヌケ野郎ッ 出てこないってなら……俺のほうから炙りだしてやるぜッ」


そう、プロシュートは見たのだ。川尻早人の瞳に映る漆黒の殺意が拭い難い、屈折した輝きを放っているのを。


「グレイトフル……、デッドォオオ―――ッ!」


傍らに出現したスタンドが煙を撒き散らしていく。病院全てを飲み込むような、濃縮された霧が辺りを漂い始めていた。
やるとなったらとことんやる。手を抜かず、最初から全力全開の真っ向勝負ッ それが川尻早人への最大限の礼儀となるッ
プロシュートは叫ぶ。己の分身の名を呼び、彼はありったけのスタンドパワーを振り絞った。

177 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:27:14 ID:pK8x81ZQ




グレイトフル・デッド、彼のスタンド能力は老いを増進させること。
その射程距離は丸々列車一つを包むほどであり、また直に触れれば一瞬で相手を老化させることが可能だ。
だがこの能力、一つ弱点がある。氷や冷水によって体温をさげれば、老化のスピードが緩やかになってしまうという点だ。
尤もこの弱点に関しては、スタンドの担い手であるプロシュート自身には関係ない。
彼にとっては未来の出来事だが、実際にプロシュートは護衛チーム暗殺の際、自らを老化させることでグイード・ミスタを欺いたことがある。
すなわち、彼自身は老いの超越者なのだ。プロシュート自身は、老いのスイッチを自らオン・オフ、切り替えることが可能なのだ。

そう、可能『だった』はずだ。スティーブン・スティールによる、ふざけた制限というものがなければ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「プロシュートさんッ?!」

千帆が悲鳴を上げた。彼女の金切り声を無視して、プロシュートは構わずスタンド能力を発動し続けた。
彼の体が酷使に耐えかね、老木のように枯れ果てて行っても、ボロボロと崩れ始めても。男はスタンド能力を止めようとしなかった。
プロシュートが吠える。辺りに漂う霧が一層濃くなり、彼自身の体の震えが大きくなった。
それでもやめないッ プロシュートは叫び、病院全体がビリビリと揺れ始めていたッ

プロシュートはここに来るまでに支給品の水を使い切っていた。それは何故か。
制限だ。忌々しいことに、彼のスタンド能力は制限されていたのだ。それも、彼が最も屈辱的だと思う方法で。
射程距離が制限されていたならば、戦い方を変えればいい。能力発動に時間がかかるようなら戦略を練り、頭を絞ればいい。
だが主催者は違った。彼らが仕掛けた制限とは『プロシュート自身にも霧の効力が発動する』、そして『プロシュート自身で老いのオン・オフをコントロールできない』というものだった。

これによって、スタンド使い本人であろうと老いを解除するには身体を冷やさなければならなかった。また、老人に扮して行動することも不可能になった。
だから彼は当初、マジェントと遭遇した時、水をかぶっていたのだ。自らのスタンドの不調に気づき、検証を重ね、彼は自身の能力の異変に気付いたのだ。
制限を気にしては全力で戦えない。必ずどこかでブレーキを踏みながら戦わざるを得なくなる。
それは胸糞悪くなるような、屈辱的な気分であった。怒りのあまり吐き気を催したほどだった。
彼らが施した制限とは文字通り、飼い犬に首輪をつける行為であったから。暴れる獣の牙や爪を奪う行為であったから。


   だがッ! プロシュートという男はッ だからといってそこで留まるような『臆病者』では断じてないッ!

178 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:28:21 ID:pK8x81ZQ

「いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないッ!
 やれ、グレイトフル・デッド……全力全開、この病院を、崩壊させてやろうじゃねーかッ」

男は思う。川尻早人の言うとおりだ。舐められたままで終わるだなんて、まっぴらだ、と。
その通りだ。彼はプロシュートと同じだ。プロシュートと早人は似ているのだ。
川尻早人は針のスタンド使い、プロシュートはこの催しものを管理しているクソッたれ眼鏡ジジイ。
相手は違えど互いに抱く感情は一緒だ。それがわかったからプロシュートは手を貸したのだ。
自分と同じ、誇り高い魂を早人の中に見つけたのだから。

「目にもの見せてやろうじゃねーか、川尻早人……ッ
 踏ん反り返って、こっちを見下す頭でっかち野郎。イイ気になっていられるのも今のうちだ……ッ!」

川尻早人、そして双葉千穂のみを避けながらスタンド能力を展開していく。それも制限下という慣れない状況で。
だがプロシュートはやってのけた。自らの体に鞭を撃ち、加速的な疲労を身に感じながらも、彼はスタンド能力を解除しない。
彼は屈しない。他人が作ったレールなんぞぶち壊し、囲い込まれたルールを蹴破った。
死をもってしても、プロシュートの誇りだけは奪えやしないッ!

直後、ソファーと椅子の隙間をぬってプロシュート目掛けて飛ぶ針一群。
目で捕えど、回避が間にあわない。老化した身体は言うことを聞かず、プロシュートは迫りくる針を前に動けない。
だが焦りはなかった。とっさに千帆が自らのデイパックを放り投げるのが目に映った。針はいつものスピードもキレもなく、少女でも十分対処できるほどであった。
凶暴な笑みが男の口元に浮かんだ。グレイトフル・デッドは効いている。それは針のスピードが格段に落ちたことからも明らかだった。
そしてクソッたれスタンド使いもそれがわかっているから、虫の息の早人よりも、容易く仕留められるであろう千帆よりも、プロシュートを狙ったのだ。

プロシュートが吠える。隣で少年が、少女に寄りかかりながらも銃を構えた。
ピンチの後にチャンスあり。射撃型スタンドは攻撃の際、一番大きな隙を生む。攻撃は即ち、自らの位置を知らしめる行為なのだから。

「やれ、早人ッ!」

鳴りひびく銃声、再度飛来する針。弾丸と針は宙で交差することなく、それぞれがターゲット目掛けて飛んでいく。
銃弾は獲物をしっかりと捕えていた。川尻早人はやってのけたのだ。彼は自らの屈辱を、その手で晴らすことに成功した。
耳障りな獣の悲鳴が天井に反響し、男は少年が成し遂げたことを確信した。そして同時に、自分がどうしようもない状況に陥っている事も、また、理解した。

銃弾と同時に放たれた針、これに対処できる人物がいない。
早人は銃を握っていて、片腕はない状態。千帆はそんな早人を抱え、狙いがぶれることないよう支えていts。
自身はどうだ。いいや、彼はとうに限界を迎えていた。
病院を包み込むほどの霧を展開しつつ、早人たちの場所にだけ能力が行かないようコントロール。その上、自らも可能な限り老化しないように神経を振り絞ってきた。
それでもいくらか霧はコントロールしきれず、プロシュートは弱っていた。飛んでくる針を避けられぬほどに、彼は力を振り絞っていたのだ。

針の狙いの先はプロシュートッ! 肉溶かす死神の刃が、彼に襲いかかろうとしていたッ!
迫る……迫るッ! 回避、間に合わない。撃撃、整わないッ
身体を捻るも、射軸から逸れることはできないだろう。軌道を辿っていけば、針はプロシュートの頭部のど真ん中を直撃する。
即ち、プロシュートはここで死ぬ。男の戦いは呆気なく、ここでお終いだ……―――

179 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:28:44 ID:pK8x81ZQ


 ―――連続して、銃声音が響いた。放たれた銃弾がプロシュートの目前で、針を一つ残らず、弾き飛ばしていった。


振り向けば、廊下へ続く扉の脇に人影。いつの間に、いつからそこいたのだろうか。
白く長い髪をなびかせた一人の男が、こちらに銃を向けたまま、そこに立ちつくしていた。
手に持った銃口から立ち上る煙。プロシュートの危機を救ったのはティッツァーノ。
今しがた、プロシュートによって生き永らえた男が氷のように冷たい目で、暗殺チームの男を睨みつけていた。

「……これで貸し借りはなしだ」

不機嫌そうに、彼はそう言った。そしてもはや関係なし、そう言いたげに壁に背を預けると三人と一匹の様子をただ見守っていた。
プロシュートは口角を釣り上げ、何も言わなかった。無様なところを見られた気恥ずかしさがあったが、それを振り払うように彼は今一度、力を振り絞る。
スタンドを再度出現させ、大地へと掌を叩きつける。スタンドパワー全開……ッ! 彼はもう一度、あらん限りの力で叫んだッ!

「グレイトフル・デッドォオオ―――ッ!」

一瞬の静寂が訪れ、そして、ギャース、そう小さい鳴き声が聞こえてきた。
早人の銃弾を喰らいながら、逃げおおせようとしていた小さなスナイパー。
立ち込める霧の中、鼠は手足が痺れたかのように震わせ、弱弱しげにその場に倒れ伏した。
こうして獲物は遂に捕えられ、ここに戦いは決着した……。

180 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:29:02 ID:pK8x81ZQ




這いずるように少年は一歩一歩確実に、獣の元へ向かっていく。
千帆は不安そうに、彼より一歩下がったところで少年を見守り、時に腕を伸ばしてはひっこめるを繰り返していた。
早人を助けるべきか否か、止めるべきか黙って見守ればいいのか。彼女にはわからなかった。

早人の額に浮かんだ脂汗が、ピカピカに磨かれたフロアにこぼれ落ちる。
青を通り越し真っ白な顔で、少年は手が届く距離まで鼠に近づくと、そこで力尽きたかのように座り込んだ。
慌てて千帆は早人を助け起こす。ぜぇぜぇ……と整わない呼吸を繰り返し、彼は一息つくと、手に持つ武器を獣へ向けた。
いつの間にか明るくなり始めた東の空を、その真黒なピストルが映し出していた。少年は目を細め、一瞬だけその光景に目を奪われた。

千帆は湧き上がる感情をグッとこらえ、零れ落ちそうになった涙をなんとか止めた。早人が泣いていないのに自分なんかが泣いていてはいけない、そう思ったから。
膝の上で少年を抱え、早人が銃を構えるのを彼女はただひたすら見守った。
弱弱しく震える獣は見るに堪えぬ痛々しさだ。だがこのネズミは人を二人も殺し、そして今、早人をも殺しかけているのだ。

一思いに終わらせてあげて。或いは、気の済むまで早人君の好きなようにしたほうがいい。
一体どちらの言葉が真実なのか。こんな時にどんな言葉をかければいいというのだろうか。
どんな気の利いた台詞も、心をこめた言葉も、空回りしてしまう。心を滑って、中途半端に浮かんでしまう。
言葉を選ぶことが唯一できることだというのに、自分は一体なんと無力な事だろう。
千帆は湧き上がった幾多もの感情を飲み込んで、同時に再度せりあがった涙を根性で押し込んだ。
見守らねばならない、早人の雄姿を。見届けねばいけない、自分のした行為の結末を。
岸辺露伴の言葉が千帆の心を揺さぶり、彼女は涙をぬぐうと今度は胸を張って、凛と姿勢を正した。

早人の腕が震える。もはや銃を持つのも、腕を上げることすら辛そうだ。
滝のように流れ出た脂汗が掌にも広がっている。拭っても拭っても、銃のグリップがぬめり、手のひらを滑っていく。
早人も自身がながくない事をわかっている。だからこそ、最期の決着は自分自身で。終幕は自分で締めてこそ、そういった思いが彼を突き動かす。

だがそれでも、その小さな身体には容赦なく限界が訪れていた。こればかりは誤魔化しようがなかった。
やっとこさで持ち上げた銃口、その向きが安定しない。小さな鼠の身体を前に、震える手が狙いを定めさせてくれない。
そうしているうちに痙攣はさらに振り幅を大きくしていく。
気持ちとは裏腹に、身体が言うことを聞いてくれない。視界も段々狭まってきている様だった。
ここまでか……、せっかくプロシュートの助けを借りたというのに……ッ それでも僕は、決着をつけられずに……ッ

「早人君……」

181 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:30:30 ID:pK8x81ZQ

銃を握る掌がぽかぽかした暖かさに包まれた。
ほっとするような柔らかみに、落ちかけた瞼を強引にこじ開ける。見ると、千帆のほっそりとした手が自らの手を覆うように添えられていた。
手を重ね、共に銃を握る。滑り落としそうになっても、千帆が支えてくれる。離しそこなっても、千帆が受け止めてくれる。
思えば、左腕を失ってからずっとそうしてもらっていたはずだ。けれども早人は今ようやく気がついた。
どれだけ自分が彼女に助けられ、また、どれだけ彼女が自分のことを気遣ってくれていたか。
少し気づくのが遅すぎたかな、そう考えて早人はひっそりと笑った。

拳銃を持ち上げる。もう手は震えていなかった。瀕死の鼠が懇願するような目でこちらを見つめている。
大丈夫、僕ももうすぐそっち側だ。意志が伝わるかどうかはわからないが、少年は弱弱しく笑いかける。
ひょっとすると鼠からしたら止めを刺す前の残忍な笑顔に見えるのかもしれないな。なんだかそう思うと可笑しかった。

自分が死にかけているのは彼女のせいだ。湧き出るように心に響く恨み節。仄暗い声に早人はイエスと返した。
そうだ、確かに千帆がいなければ自分は死なずにすんだ。鼠が仕掛けた罠に、先に気がついたのも自分のほうだ。
彼女を庇う必要がなければ針を避けることもできたし、そもそも病院にも来ていないかもしれない。
そう考えると、確かにそうだ。千帆は間違いなく、早人の死に対して責任がある。それは動かすことのできない、れっきとした事実であった。

「それが……どうしたッ」

そうだ、だからなんだというんだ。早人はその事に後悔はない。千帆と共に行動したことを悔やむことは一切ない。
この舞台で千帆に会った時、彼自身が言ったはずではないか。足手纏いなんだ、お姉ちゃんは。お姉ちゃんは甘すぎるんだよ、と。

だがその甘すぎる少女がついてきたとき、それを許したのは誰だ? 早人だ。
お節介で、世間知らずの少女があちこち首を突ッこんだ時、何も言わなかったのは誰だ? 早人だ。

力ない、渇いた笑い声が漏れた。ああ、そうだ。早人がこんなにも千帆のことを嫌っていたのは同族嫌悪ゆえの事。
結局のところ、自分だって非情に徹しきれなかった。殺し合いだなんて極限状態で虚勢を張って、母親を守ろうと背伸びしてきた。
それなのに千帆といったら、マイペースで、図々しくて、怖いもの知らずで……―――

「まったく、弱っちゃうよ……」

自分が否定し、なんとか目を逸らしてきたことを堂々と恥じることなく。
彼女はこの舞台の上でもあるがままの自然体で、生きている。
嫉妬にも似た感情なのかもしれない。自分は母親を守ろうと躍起にもなっているのに、千帆は自然体で、感情的で、我慢知らずで。
強がっている自分が馬鹿みたいじゃないか。力んでいることがアホみたいに思えるじゃないか。
だから早人は千帆にどなったり、苛立ったり、噛みついたりしたのだ。
あるがままの、子供のままでいられる彼女が、早人は羨ましかったのだ。彼は夢見る少年であるには、いささか修羅場を潜り抜けすぎていた。

「大丈夫、怖くないから…………」

182 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:30:51 ID:pK8x81ZQ

マグナムのトリガーを千帆の細く長い指が押し下げる。
怖がっているのはお姉ちゃんじゃないか。震える声でそう言った千帆をからかいたくなったが、やめておいた。実際その余裕もなかった。
着実に、自分に残された時間は減ってきていた。早人はなんとか力を振り絞り、引き金へと指を伸ばす。
強張った指を苦戦しながらもなんとか撃鉄にそえ、早人は再度力を尽くして身体を起こした。
ふと、視界が広がり早人は傍らのガラスに映った自分たちの姿を、改めて見直した。
大きく黒い銃を、子供二人が押し合うように握る姿。不格好な姿に思わず笑ってしまいそうだった。なんとも滑稽な姿だった。

「ほんと……お人好しなんだよ、お姉ちゃんは」

千帆のひきつった横顔を眺め、ポツリとそうこぼした。実のところ、早人が千帆にやけに突っかかっていたのにはもう一つ理由があった。
認めるのは恥ずかしくてここまで誤魔化してきた。だが、早人は最後になってようやく、その事を受け入れた。

千帆は彼の母親に、どことなく似ているのだ。
感情豊かでコロコロ表情が変わっていく。素直じゃなく、お節介なうえに頑固者。そうかと思えば、飾らずストレートに気持ちを伝えてくる。
いうなれば、彼女への抵抗はささやかな母親への反抗期みたいなものだったのだ。
癪だったが早人自身どこかで、母親に甘えるように彼女に甘えている部分があったのかもしれない。きっとそうだったのかもしれない。

「ママ……」

死ぬのは怖くない、なんてプロシュートの前では啖呵を切ったが、実際やっぱり怖い。
段々と体が冷えてきた。意識もはっきりしないし、どことなく視界もあいまいだ。
これが死ぬ事かと思うと、恐怖がない、だなんて口が裂けても言えない。
怖いし、独りぼっちだ。あのどこまでも底なしの闇に自分が呑まれていくのかと思うと、気がおかしくなりそうだった。
やっぱり死にたくない、まだまだ生きていたい。早人はそう思った。
涙が自然と込み上げてきたが、ここで零すと情けなくて、男の子の意地でそこはグッとこらえた。
怖くて怖くてたまらず泣け叫びたくなったけれども、なんとかそれだけは踏ん張った。

「……なんで泣いてるのさ」
「……早人君の分まで、私が泣いてるのよ」

183 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:14 ID:pK8x81ZQ

だというのに、まただ。またも千帆は早人の意志なんぞ関係なしに。早人の気持ちなんてお構いなしに。
ポタリポタリと早人の掌に水滴が降りかかる。見るまでもなくわかった。千帆が人目をはばからず、泣いていた。
宝石のように綺麗な瞳から、キラキラと輝く水滴が流れ落ちる。綺麗だとは思ったが、口に出すと何だか悔しいので早人は黙ったままだった。
千帆の目から水の蕾が、とめどなく溢れ、落ちていく。
その美しいこと! 健気な様子も相まってか、千帆のその涙にくれる姿はとても印象的だった。

一滴落ちるたび、早人の中で邪念が消えていく。
恐怖が、妬みが、憎しみが。怒りが、悲しみが、寂しさが。
水滴とともに、負の感情は流れ落ち、早人の心は澄み渡っていった。湖のように穏やかで、波一つないほど平穏だった。
ふと頬に手を伸ばしてみると、早人自身もいつの間にか涙していた。口元には笑顔が浮かんでいるというのに、涙が止まらない。
せっかくさっきは頑張ってこらえたというのに。まったく台無しだ。本当に、千帆は困ったものだ。
困らされたついでだから、最期は自分が千帆を困らせる番だ。そう早人は思い、少女に話しかける。
彼が託した願いはたった一つだけ。泣き笑いのまま、最期に千帆に囁くような声で早人は頼んだ。

「ママに、よろしく伝えておいてくれない……?」

返事はなかった。決壊した感情から、千帆は嗚咽を漏らし、僅かに頷くことしかできなかった。
それでよかった。きっと彼女はやり遂げてくれるだろう。これで心おきなく逝くことができる。
早人は最後にやり遂げた。戦いを終え、伝えることを伝え、もう少年がなすべき事はない。
達成感とともにこみ上がってきた疲労感。倦怠感に身を任せ、早人はゆっくりと千帆に身体を預けた。
そして最後、千帆に、おねえちゃんと声をかける。そして手に持つ拳銃のグリップを力強く握った。
無言で伝わる合図に、少女は頷き、そして掌と心を重ねた。


そして早人は引き金を引く。銃弾は宙を裂き、狙い通り、獣の心臓を捕えるだろう。
叫び声をあげる暇もなく、いたぶらずに済めばそれは幸いだ。早人は最期、満足そうにそっと呟いた。
少女にあてた、最後のメッセージだった。それが銃声に紛れ、彼女に届いたかどうかは早人にはわからなかった。


「ありがとう……」




   ―――パァン………………!







184 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:35 ID:pK8x81ZQ

これだけ明るいと月の位置にも気をつけないといけないな。
頭上にそびえる大きな月を眺め、そう考えていた男は直後、苦笑いを漏らす。
こんな時まで仕事のことを考えているなんて、さすがにワーキングホリックがいきすぎだ。
第一もう夜は明けようとしているのだ。東の空に顔をのぞかせた真っ赤な球体を眺め、プロシュートは大きく息を吐いた。
朝の陽ざしが立ち上る蒸気を反射すると、寒い冬に吐いた息のように、白い霧がうっすらと漂っていた。

病院入り口前の段差から立ち上がると、ズボンについた埃をはたき落とす。
腫れぼったい眼をこすり、身体を伸ばしていると、後ろで自動ドアが開く音が聞こえた。プロシュートは病院から出てきた人物に目を向けた。

プロシュートは普段タバコを吸わない。ウマいマズイは別として、臭いがつくのが嫌なのだ。
タバコの臭いは本人が気づかぬ以上に服についてしまうもので、それが原因で任務失敗なんてことになったら、悔やんでも悔やみきれない。
なにしろこのご時世、嫌煙家はすごい勢いで増えつつある。ターゲットもタバコのにおいに敏感になりつつあるのだ。
それがいいことかどうかはわからないが、少しでも任務の成功率を上げるためなら努力は惜しまない。
だから彼はタバコを吸わないのだ。決して吸えないわけではないし、嫌いでも好きでもないが、ただ吸わない。
プロシュートとは、そういう男なのだ。

故に男が彼に向かってタバコを突きだしてきたとき、彼は少し迷った。
しかし断るのもなんだか野暮で、その上誘い方が強引だったものだから、なし崩しで彼は一本受け取った。
すかさず渡されたライターで火をつけると、肺一杯に煙をため込み、そして、大きく一服する。
爽快感も、清々しさも別段これと感じなかった。ただそのままボケっとしているのもマヌケっぽいと思ったので、何度か煙を吸い、そしてその度、吐き出した。

時間が経つにつれ、ニコチンが身体中に回っていくのがわかった。同時に身体のあちこちに鋭く、ズン、と響くような痛みを感じた。
表面上は平然としているよう努めるが、相手に気づかれぬよう、プロシュートは自分自身の体を逐次点検していく。
短時間でダメージを追いすぎたな、そう反省した。一方で、あの厄介なスタンド使い相手にこれだけ軽症で済ませられたのは幸運だったな、彼はそうも思った。

タバコが半分まで短くなったところで、咥えていた吸殻を落とし、靴の裏で踏んづけた。
隣の男を見るとちょうどよく、彼もまた一服を終えたところだったようだ。都合がいい、なすべき事はさっさと済ませてしまうに限る。
プロシュートは傍らにいる男に背を向け、数歩だけ足を進める。背中に突き刺さるような視線をあえて無視し、彼は必要以上にゆっくりと歩いた。

「いつから気がついていた?」

振り向くと同時に、眼前の男はそう問いかけてきた。右手に持った拳銃をギュッ……と握りしめたのが、傍目からみてもわかった。
すぐには返事をせずに、プロシュートは男の目を見つめ続けた。互いの視線が混じり合い、瞳の奥底、更に奥に潜む心を覗きこんでいるかのようだった。
依然そのままの眼差しで、暗殺チームの男は気だるそうに、口を開いた。

185 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:51 ID:pK8x81ZQ


「いつからと言われれば最初からだし、最期の最期まで確信はなかった。
 ただ言わせてもらえば、最初から病院内にいる参加者全員、始末する予定ではいた。
 マジェントも、お前も、あの上議員さんとやらも」
「疑わしきは殺せ……ってか?」
「そういうことだ。特にマジェントは俺のスタンド能力を知っていた。
 アイツの事だ、放っておいたらあっという間に会うやつ会うやつ全員に言いふらしかねない勢いだった。
 そんな危険性も考えれば、始末しないわけにはいかなった。スタンド能力は俺にとっての死活問題なんでな」
「自分の尻拭いを口封じで補おうってか? 暗殺チームの名が泣くぜ」
「そういうお前さんもギャングが聞いて呆れるな。敵前逃亡、自信喪失。対した度胸だ、涙が出るほどご立派だ。
 お母ちゃんのお乳でも吸って、慰めてもらえばいいさ。おっと、タマナシ臆病者の場合は、“ぶ厚い胸板に抱いてもらう”、か?」


眼光鋭く、挑発に挑発を重ね合う二人。口調こそ冷静そものだったが、一色即発の空気が二人の間には漂っていた。
ティッツァーノが震える右手で銃を握り直す。プロシュートは重心を僅かに下ろし足裏で砂利をしっかりと踏みしめた。
あとはどちらが先手を打つか。達人同士が刀を握ったまま動かない、そんな肌を焦がすような緊張感が二人の間に流れていた。
瞬き一つ躊躇うような時間がいくらか流れ、二人の考えることは、ともに一つ。

これがそこらのナンパ道路や仲良しクラブであるならば、あるいは二人が虚勢を張ったチンピラ同士ならば。
なんてことない、二人は派手に喧嘩騒ぎを起こし、共にムショにぶち込まれ、そしてそれっきりだ。
それが普通だ。ぶっ殺すなんて言うが、本当に殺すやつなんかいるわけがない。死ね、なんて暴言を実行してしまうやつは頭のおかしな殺人狂だ。

だが不幸な事に、二人はギャングだった。それも他方は裏切り者、もう一方はそれを始末する命を背負った親衛隊。
尤も相容れない両者に、覚悟の決まった者同士。ならばこれは必然だ。戦いは必須であるほかない。

ティッツァーノの目にもう迷いはなかった。ここでひいたら、彼は彼でなくなってしまう。
一度ならず二度まで尻尾を巻いて逃げだすことは、死ぬより辛い行為だろう。
敗北を背負い続けて生き永らえるなんぞどんな拷問よりも、惨い処罰だ。
怒りのあまり、拳が震えた。彼は先ほどかけられた屈辱を、忘れてはいない。

プロシュートはとうの昔に覚悟しきっている。彼は一度として過去を振り返らず、神に祈ったこともない。
男はいつだって自分が正しいと思った道を歩んできた。全て背負い、頭を下げることなく歩いてきた。
それで戦う必要があるならば、彼は全身全霊を傾けて戦うだろう。今も、そして、これからも。
目前の男から立ち上る闘気を前に、武者震いをする。自分が生きている世界を実感する瞬間だ。

突如、身体がよろけるような暴風が吹きすさんだ。ティッツァーノの白い髪が風に煽られ、大きくなびく。
音を立て流れる気流に負けることないよう、彼は大きく叫んだ。

186 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:32:25 ID:pK8x81ZQ



「パッショーネ、ボス親衛隊、ティッツァーノ。スタンドは『トーキング・ヘッド』」


そして向かい合う男も、言葉を返した。


「パッショーネ、暗殺チーム、プロシュート。スタンドは『グレイトフル・デッド』」



 ―――いざッ 尋常に……ッ!



病院が、二人を覆うように影を落としていた。
その影を切り裂くように、東から昇った日が差し込んだ。
それが合図だ。男たちは同時に動いていた。


「ティッツァーノォオオオ―――――ッ!」
「プロシュートォオオオオ―――――ッ!」


光の道に合わせ、プロシュートが駆けていく。十数メートルあった距離を、一跳びッ 二跳びッ
己の分身、『グレイトフル・デッド』を纏うように呼び出し、男は吠え、駆けていく。獲物目掛けて、走っていくッ
ティッツァーノは黒光りする銃を振り上げ、凶弾を撒き散らす。そして同時にバックステップ、距離をとるッ
予想通りプロシュートは弾丸をはねのけ、頭を低くしたまま突っ込んできた。ここまでは思った通り。覚悟の差を見せつけるならば……次の一手だッ

直後、二人の間に一つのビンが放り投げられた。ティッツァーノが投じたのは消毒用アルコールのビン。
そう、真夜中時にティッツァーノが一人の男を始末した時のようにッ アルコールの引火による火炎攻撃ッ!
彼の狙いは銃撃でなく、灼熱の炎による真っ向勝負だッ 手に持った銃口がビンを狙う。着弾すれば、油の雨が容赦なく二人を襲うだろう。

187 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:16 ID:pK8x81ZQ


「グレイトフル・デッドッ!」

だがプロシュートは怯むことなく踏み込んだッ 常人ならば踏みとどまるところを、男はさらに加速した。
ビンに向かって身を乗り出し、さらに勢いをつけて突進したのだッ これしきのことで、プロシュートは止められない!
殺意を、死を幾らもってしても彼を止める事なぞ出来やしないッ それがプロシュートという男なのだッ!

そして それがわかっていたからこそッ 男がそんなことでは怯みもしないと知っていたからこそッ
ティッツァーノもまた、彼を上回るため、既に行動は完了していた! 無傷で済まそうなんて、そんな甘えた思考は一切ない!
後退から一転、急発進すると彼は銃を持っているというのに接近戦を仕掛けようとしていたッ!
そして同時に、頭上のビンを、銃弾で狙い撃とうと構えを取ったッ!

地獄の業火も生ぬるい、例えこの身焼き尽くされようともッ
二人の男が接近する。銃を構えたティッツァーノ、スタンドを従えたプロシュート。
届くはどちらだ? 拳か、弾丸かッ!


そのさなか、ティッツァーノは気がついた。刹那、訪れた辺りの変化に、彼は自らの敗北を悟った。
いつの間にか辺りを漂っていた霧が色を変えていた。白く薄かがっていた朝もやが、いつしか不気味な紫色の霧に変わっていた。
途端、手に持つ銃が鉛のように重くなる。踏み出す脚が泥に嵌ったかのようにもつれた。


 ―――これは…………ッ!?


銃声、風切り音、そして沈黙。
宙で割れることなく落ちてきたビンが、ガシャン、と音を立てて破裂した。続いて一つの影が地面にゆっくりと、倒れ伏す。
崩れ落ちたのはティッツァーノ、立ちつくすはプロシュート。勝負は決した。暗殺チームの一員、プロシュートの勝利だった。

188 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:29 ID:pK8x81ZQ

胸に空いた大穴から血が吹き出る。両手でいくら抑えても、後から後から底なしの泉のように血が湧き出て、止まらなかった。
瞬く間に辺りは血の池になり、その真ん中で陸に上がった魚のように、ティッツァーノは口を動かしていた。
呼吸ができない。血が止まらない。死に逝く定めだとわかっていても、やはりそう簡単には手放せなかった。彼は死に物狂いで、必死で、必死に生へと食らいつく。

頭上、影が覆いかぶさった。逆光で表情が見えない中、男は屈むとティッツァーノの右手に持った拳銃へと、手を伸ばす。
渡してなるか、そう思い歯を食いしばったが、虚しくなるほど簡単に銃は取り上げられた。
もう何の抵抗も無駄だ。まな板の上の鯛。現実は悲しくなるほど、非情である。

最期の瞬間、ピストル越しにティッツァーノは男の目を見た。
それを見た時、安堵にも似た感情が身体中を駆け巡り、彼は自分の全身から力が抜けるのがわかった。
ああ、それでいい……なんて美しいのだろう。
感嘆するほど、その目に慈悲は一切なく、憐れみも、同情もしない、真っすぐな目が彼を見つめ返していた。
口元が緩み、死にかけの男の顔に笑顔と思しきものが浮かんだ。諦めでもない、皮肉でもない。
沸き起こった感情は何だかわからなった。だが、それでも、彼は笑っていた。

「男一人仕留めるのに、えらく苦労したな……プロシュート?
 裏切り者は死ぬ運命だ。俺程度に苦戦しているようなら、この先、お前たちに未来はない」

細く皺だらけになった腕を、頭上に伸ばす。男に指を向け、彼は大見えを切った。

「勝利にはかわりがない。必ずやボス親衛隊はお前たちに死をもたらす……ッ」

男の表情は見えなかった。
言葉を返すこともせず、代わりにティッツァーノの耳に聞こえてきたのは彼が安全装置を引き下げる音だった。
無慈悲で、冷たい、機械的な音だった。


「そうだ、かわりない。俺たちの勝利には……」




   ―――パァン………………!

189 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:50 ID:pK8x81ZQ





歌が聞こえた。美しい歌声だった。
柔らかなメロディに、伸びのあるハミング。どこか故郷を懐かしむようなその歌は、プロシュートの足を立ち止らせた。
再度病院に足を踏み入れた男は、しばらくの間、その歌声に聞き惚れていた。
それでもいくらか経てば歌は終わり、辺りは再び沈黙に包まれる。男は玄関ホールを横切ると、うっすらと浮かび上がる人影に近づいていく。
人影がはっきりと見える距離まで近づくと、彼はそこで立ち止まった。

人影は一人の少女と、一人の少年だったもの。
少女は膝の上で死んだ少年を抱き、彼の頭を優しく撫で続けていた。渇いた涙の後がはっきりと残り、真っ赤に充血した眼が痛々しい。
少年に目をやると、その死に顔は大層穏やかで、まるで子守唄で眠りに落ちた赤ん坊のようだった。
悔いが残らなかったならそれでいい。プロシュートは自分の行いが少年の助けになったとわかり、少しだけ充実感を感じた。

気配を感じたのか、少女がこちらを見る。目をそむけたくなるほど真っすぐで、綺麗な目をしていた。
プロシュートは何も言わず、無言のまま。しばし二人は見つめ合う。視線を逸らしたのは少女のほうで、男が持つ拳銃に気づいた彼女が途端に身を固くした。
男はそれでも何も言わないままだった。弁明するでもなく、脅迫するでもなく。
彼女と同じように、自分の持つ拳銃を改めて見直す。親衛隊の男の血がこびり付き、グリップに至っては元の色がわからぬほどに真っ赤に染まっていた。
それを見ているうちに、男の脳裏を一つの言葉が横切っていく。今しがた、元の拳銃の持ち主に、彼が言った言葉だった。


   『最初から病院内にいる参加者全員、始末する予定ではいた』


顔をあげ、もう一度少女の視線を真正面から受け止めた。握り直したグリップは血が滑り、その拍子に渇いた血痕が剥がれ落ちた。
私も殺すんですか、少女が聞いた。寸秒も置くことなく、ああ、そう言おうとして……言い返せなかったことに男は驚きを隠せなかった。
何を躊躇っているのかまったくわからない。けれども普段であるならば、考えるまでもなく言えるイエスが、今は口に出すことができなかった。
自分の言葉が重みを持って、心臓辺りにぶら下がっている。込み上げた吐き気を無理矢理呑み戻したかのような、不愉快さだった。

だが、どれだけ僅かであっても、躊躇った決断に身を委ねるのは許せない。
不愉快さには意味がある。本能や直感は必然だ。なにか自分の中で不満や鬱憤があるからこそだが、一体それはなんだというのだろうか。
少女を殺すのには理由がある。必要もあれば、手段も選ぶほどある。ならば何故。一体どうして。

190 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:35:02 ID:pK8x81ZQ


「……ッ」

頭をぶん殴られたような衝撃が、次の瞬間プロシュートを襲った。
どんなことがあろうと一切ヒビを入れなかった男の表情に、亀裂が走っていた。
夢か幻覚か、プロシュートは少女の後ろに二人の男の姿を見た。
川尻早人とティッツァーノ、亡霊のように、彼女の目を通して二人が男を見返していたのだ。

人は誰でも甘さを持って生きている。誰もが心を鬼に、修羅のような人生を送れるわけではない。
漆黒の殺意を持つ男であっても。どんな時でも苦楽を共にしたパートナーを持つギャングでも。
人が人である以上、優しさや慈愛はどれだけ洗い流そうとも、落ちることのない業だと言っていい。そう、愛だってまさにそうだ。

罪を背負って生きていくこと。それはどれだけ難しく、辛いものなのだろうか。
誤魔化すでもなく、目を逸らすこともなく、受け入れる困難さを男は知っている。
彼がどれだけ長くをかけて、今の自分である覚悟をしたのか。心張り裂けるような葛藤がその裏には確実にある。

プロシュートが感じたのは凄みだ。ただの一人の少女、双葉千穂が背負う宿業の大きさ。
何千何万と人々を見てきた。人間の罪深さ、欲望の底なしさ、吐き気を催すような所業。
殺しに深く関われば関わるほど、人の本質から目を背けずには生きていけなかった。
だが違う、双葉千穂は違う。彼女の瞳に宿る意志は、清汚混在、彼がかつて見たことのないほど底知れない。
そう、無限に続くのではと思わせ、恐怖を抱かせるほどの深淵が、彼女の中に潜んでいた。

「……埋めてやるぞ」
「え?」
「川尻早人をだ。放送までしばらくある。気休めにはなるだろう」

男はそれに気づいてしまった。知らなければ、どれだけ彼にとって心穏やかに済んだであろう。
ただ一人の少女を始末した。それはきっと心乱すことない、いつもの彼でいれた、『あったかもしれない未来』だ。
だが、気付いてしまった。偶然であろうと、必然であろうと、運命であろうと。プロシュートは悟ってしまったのだ。
ならばもう戻れはしない。もう男は、振り向くことができない。

今、振り返れば。今、後戻りしたら。
それはプロシュートだけでなく、早人を、ティッツァーノを、そして彼が背負ってきた人すべてを侮辱することになる。

病院の冷たい床が、頭上の蛍光灯を反射した。
浮かび上がったプロシュートの顔は幽霊かのように青ざめていた。
だが、その顔から迷いは消えていた。暗殺チームの一員、プロシュートは振り返ると、千帆がついてくるのを待ち、そして裏庭へと姿を消した。

191 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:35:23 ID:pK8x81ZQ






誰もいない病院の玄関。
天井から漏れた一雫の水滴が、誰のものとも知れない血だまりに落ち、ピチョン……と音を立てた。








【虫喰い 死亡】
【川尻早人 死亡】
【ティッツァーノ 死亡】

192 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:36:15 ID:pK8x81ZQ

【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 早朝(放送直前)】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:動揺、体力消耗(大)、色々とボロボロ
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.早人を埋めてやる。その後放送を待って行動。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.千帆の処遇は保留。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(中)、精神消耗(大) 目が真っ赤、涙の跡有り
[装備]:万年筆、露伴の手紙、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、救急用医療品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:早人を埋めてやる。その後放送を待って行動。
1:とりあえずはプロシュートについて行くつもり。
2:川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3:琢馬兄さんもこの場にいるのだろうか……?
4:露伴の分まで、小説が書きたい

【備考】
※『グレイトフル・デット』には制限がかかっています。が、精神力でどうともなります。水をかければ一瞬で治ります。
 あまりロワというものの制限が好きじゃないのでノリで書いていいと思います。
 一応具体的には 射程距離が伸びると疲れる、自身の老化コントロール不可 の二点です。が、気にせずブッちぎってもいいと思います。
※プロシュートは病院内に放置してあった基本支給品から水を回収しました。不明支給品も回収し、残りは荷物になるので置いて行く予定です。
※病院の玄関前にティッツァーノの死体が、玄関ホールにマジェント+上議員の合体死体、そして虫食いの死体が放置されています。
※ティッツァーノの銃をプロシュートが、早人の銃を千帆が、それぞれ所持しています。

193 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:43:00 ID:pK8x81ZQ
以上です。誤字脱字、矛盾点などありましたら連絡ください。
前回も確かそうでしたけど、毎回こんな感じで少し遅れて投下してすみません。
タイトルは仮ですが「ろくでなしブルース」です。変えるかもしれません。

ベレッタの予備弾薬で少し気になった点がありました。
銃が15発単位なのに、予備弾薬が50になっているのって正しいのでしょうか。
イメージですが、カートリッジみたいな感じで弾補充はすると思うので、予備弾薬も15発単位では? と思い勝手ですが変えました。
銃について詳しい方、なにか知っていたら教えて下さい。

長くてきっと大変ですが、どなたか代理お願いします。

194名無しさんは砕けない:2012/06/07(木) 21:19:26 ID:UPGwu.Js
〜189まで代理投下しました。
190〜193の残りをどなたかお願いします。

195名無しさんは砕けない:2012/06/07(木) 21:35:41 ID:7EqsAbc.
190〜残りを代理投下しました。途中ageてしまったりごめんなさい

>>192の誤字を勝手に修正して投下しました
『グレイトフル・デット』→『グレイトフル・デッド』

196 ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:36:02 ID:qW0eyZ26
すみません、予約期限勘違いしてました。
その上遅れましたが、完成したのでとにかく投下します。
規制されてたのでどなたか代理をお願いします。

197君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:38:19 ID:qW0eyZ26
 ◆ ◆ ◆




 ――― 君は『引力』を信じるか?人と人の間には『引力』があるということを……

198君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:38:38 ID:qW0eyZ26
 ◆ ◆ ◆



イギーは笑った。そしてその場を去る。
愚者はこの場に相応しくない。いや、言い換えるならば一体誰が愚者であろうか。
どうだっていいことだ。イギーにとって大切なのは自分のみ。
犬の影はゆっくりと朝焼けの街並み消えていった。
愚者は愚者らしく。だが誰もが愚者でありえるのだ。人それに気づいていない。



【C−4 ティベレ川河岸/1日目 早朝】
【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出するため、ポルナレフのように単純で扱いやすそうなやつを仲間にする。
1:優雅に逃走。あばよー!
2:花京院に違和感。

199君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:39:06 ID:qW0eyZ26


 ◆ ◆ ◆



ペット・ショップのイライラは頂点に達していた。
醜く地を這い、所構わず汚物をまきちらす、憎き犬畜生。そんな犬に見事いっぱい喰らわされたと思うと喚き散らしたくなるぐらい、腹立だしかった。
自分の不甲斐無さを笑い、今もこの街のどこかを我がもの顔であの犬が歩いているかと思うと、怒りで気が狂いそうだった。

―――許せないッ 絶対許してはならないッ!

確かに自分のミスでもあった。戦線を組んだスクアーロがダメージを喰らったことに、一瞬だが気を取られた。
直後、辺りを覆い尽くさんばかりに舞いあがった砂嵐。ペット・ショップは目をやられた。
幸い目に傷を追うようなことはなかったが、その隙は致命的だった。あの犬が身を隠し勝ち逃げるには充分すぎるぐらいの隙であった。

犬はスクアーロにダメージを追わせ、そしてペット・ショップの視力を奪い、逃走した。
それはもう笑えるほど優雅に、余裕綽々で。
一杯喰らわされたのはどちらだろうか。どちらが勝者に相応しいと言えようか。
考えるまでもなく、圧勝したのはイギ―だった。その事実、否定しようのない敗北感にペット・ショップは震えた。

―――何たる恥ッ なんたる屈辱ッ

思えばペット・ショップは屈辱続きの数時間を過ごしている。
無傷で切りぬけた戦いは一つとしてなく、空の狩人の名が廃れるような散々たる結果だ。
怒りに燃えるペット・ショップが叫んだ。彼の苛立ちは、もう限界だった。

それだからペット・ショップは上空浮かぶ謎の物体を見つけた時、迷うことなく一直線に向かっていった。
背後でスタンドを展開、氷のミサイルは発射準備ばっちりだ。

―――次こそはッ 次こそは必ずッ

空の捕食者、鳥類王者のプライド。ペット・ショップが飛ぶ。ペット・ショップが翔んでいく。
怪鳥ホルス神、空をゆく。夜明け前の空、勝ちどきを知らせる甲高い声が響いていった。

200君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:40:51 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



「ッたく、なんだっていうんだよォ」

サーレ―の口から漏れた言葉は苦々しかった。
その拍子にふっと漏れ出たアルコールの臭いがチョコラ―タの鼻をくすぐり、彼は不愉快そうに顔をしかめた。
そして視線を僅かにだけ外すと、なおも不満をだらだらと言い続ける傍らの男を見た。

まったく呑気なものだ。そうチョコラ―タは思った。
足元に転がるいくつもの酒瓶とチョコレートの包み紙を見て、チョコラ―タはため息を吐く。
そして直後苦笑すると、彼はそれを隠すように顔を覆い、サーレ―に表情を見られないようにした。

酒にうつつを抜かしたサーレ―を笑える身ではない。自分だって、この数時間したことといえばドングリの背比べ、対して変わらないのだ。
手に持った自身の支給品を見つめ、チョコラ―タは更に笑顔を深くした。
彼がしたことと言えば、ナチス研究所が残した残虐非道の人体実験レポートを夢中で読みふけったのみ。
まったくもって笑えない。酒に溺れるサーレ―。読書にふけるチョコラ―タ。なんて間抜けな連中だったのだろう。
自分の事でありながら、チョコラ―タははっきりと、そう思った。
自分自身、呆れるほどに平和ボケしていたことを、彼は認めざるを得なかった。

「胡散臭ェ、鳥公が。まったく、このサーレ―様も舐められたもんだ」

男二人は背中合わせでピアノ中心に立ち、辺りを漂う怪しげな影を睨みつけていた。
突如現れた怪鳥は今にも二人を八つ裂きにせんばかりに、殺気に満ち溢れていた。
薬品の臭いもアルコールの臭いも吹き飛ばすほどの戦いの臭いを、その鳥は運び込んできた。

サーレ―は舌打ちをし、チョコラ―タは再度ため息。
チョコラ―タは落胆していた。まったく、もう少し待ってくれればレポートも読み終わることができたというのに。
男は恨めしそうに空舞う鳥を見つめ、残念そうにうつむいた。嘆かわしそうに、彼は頭を左右に振った。
だがしばらくし、再び彼が顔をあげたときには、その顔には笑顔が浮かんでいた。

そうだ、なにを嘆くことがある。レポートよりももっと刺激的で、もっと素晴らしいものがあるじゃないか。
眺めているだけじゃつまらない。実践しなければこの高鳴りは収まらない。
ああ、一体自分は何をしていたんだろう。殺し合いという最高の舞台を用意されながら、まったくなんて無駄な時間を過ごしていたんだろう。
ならば、動きだせ、チョコラ―タ。遠慮なんていらない、さっそくとりかかっていこうじゃないか。

男は両手を震わせ、空を掴むように指を動かした。滾る興奮が、彼を突き動かしていた。
躊躇いなんぞは一切ない。慈悲も情けも、この男には存在しない。
あるのは掛け値なしの狂気のみ。チョコラ―タは舌を震わせる蛇のように、獲物へと手を伸ばそうとしていた。


―――そう、彼の傍に立つサーレ―という男。彼こそがチョコラ―タの獲物だった。

201君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:41:06 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



―――ッたく、なんだっていうんだ


今度は口にださず、サーレ―は一人心の中で呟いた。
アルコールのせいか、身体は火照り熱を帯びていたが、それでも頭脳はクールに、そして正確に働いていた。
暗闇に漂う殺気を一つと混同するほどに、酔いは回っていなかった。

夜空に舞う鳥の影、背後から滲み出る狂気の香り。二つの気配は確かに自分に向けられていた。
上空数十メートルで、どうやらサーレ―は挟み撃ちの形に陥ったようだった。

だが男はうろたえない。逃げ場もなく、戦力差もハッキリしているというのにそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。
サーレ―は首の骨を豪快にならし、腕をぐるぐるとまわし、肩の疲れをほぐしていた。
そしてさも手軽な感じで、さて、どうしたもんか、そう呟き、傍らにスタンドを呼び出した。
『クラフトワーク』、彼が信頼する自身のスタンド。一対一ならば決して負けることのない、強力なスタンド。
彼は絶対の自信を持っていた。例え多勢に無勢であろうと、俺のクラフトワークが負けるわけがない。
そう思っていた。

「よっ、と」

宙を裂く氷柱が雨嵐と襲いかかる。サーレ―は片手をあげ、冷静に一つ一つを固定し、防いでいく。
怪鳥が叫ぶ。宙に固定された氷柱を砕き、まきちらしながら、更に襲いかかる追撃の氷。
変わらずサーレ―はこれも冷静に対処。サーレ―の周りにはいまや無数の氷が浮かんでいる。
お見事、クラフトワーク。流石、サーレ―。
ペット・ショップはなおも手を休めず攻撃し続けているというのに、彼にはまったくもって関係なかった。
背後に立つチョココラータが驚き、感心するように唸った。サーレ―は淡々と、氷を固定し続けた。

高いところにいるものが有利になるスタンド能力。
さきほどチョコラ―タが言ったその言葉を思い出したサーレ―。攻撃を防ぎつつ、彼は僅かにだけ自分より高い位置にある氷に飛び移る。
後ろにいるチョコラ―タにも首だけでついてくるよう合図する。不気味なほど、男は素直に従ってきた。

今自分に必要なのは隙だ。サーレ―は再度襲いかかってきた氷の攻撃に対処しながら、そう思った。
鳥を出し抜くにしろ、後ろのチョコラ―タを始末するにしろ、どちらかの気を引く何かが欲しい。
さすがにいつまでもこうしておくわけにはいかない。ジリ貧だ。集中力が切れることもあり得る。
ならば第三者の介入が必要だ。ならばなるべく派手に、目立つように動き、誰か介入してくれるものを待とう。
そして隙ができ次第、チョコラ―タか鳥、どちらか順に始末していこう。

サーレ―がそこまで考えていた時、ペット・ショップがの叫び声が彼の思考を切り裂いた。チョコラ―タが後ろで何事か呟くのも聞こえた。
サーレ―は自らの顔に降りかかった影に、さっと顔をあげる。そして、おいおい、冗談じゃねーぞ、そう言った。
自身のスタンドに絶対の信頼を置く彼も、目の前の光景には呆れてものが言えなかった。

ペット・ショップがスタンド・パワーを集中させ、大きな大きな氷を作りだした。
それは北極から氷を丸々切りぬいてきたかのように、巨大で雄大。
圧倒的な大きさの氷が二人を押しつぶさんと、宙より迫る。そして……


―――ドゴオオォォォー…………ン


轟音を立て、三つの影が氷に包まれる。霧靄が晴れた時、しかし変わらずそこには一匹と二人がいた。
怪鳥の叫びが一段と大きくなった。イライラが募っているのだろう。
最後に氷柱を撒き散らすと、一旦、距離を取るペット・ショップ。

サーレ―は変わらず向かっていく。ただ漠然と、なんとなく、気の向くまま、彼は進んでいく。
後ろに殺しを求める狂人を従え、苛立ちに吐く怪鳥を伴って。
二人と一匹が目指す先、そこにはGDS刑務所が、あった。そして二人と一匹はまるで引力に引きつけられるように、そこに向かっていった。

202君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:41:20 ID:qW0eyZ26

【D−3 南西 上空 / 1日目 早朝】
【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:ホロ酔い、冷静
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
1.派手に動きまわって、誰かの注意を引きたい。そしてチョコラータとペット・ショップの隙を作りたい。
2.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留

【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:興奮
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×二人分、ランダム支給品1〜2(間田のもの/確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ。
1.サーレーを殺したい。
[備考]
サーレーの支給品はナチス人体実験レポート、チョコラータの支給品はナランチャのチョコレートとワイン瓶でした。
二人はそれぞれ支給品を交換しました。

【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:全身ダメージ(中)、苛立ち
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
1:八つ当たりだけど、この二人に完勝していらだちを解消したい。
2:自分を痛めつけた女(空条徐倫)に復讐
3:DIOとその側近以外の参加者を襲う
[備考]
二人と一匹はGDS刑務所に向かっています。

203君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:41:42 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



―――ドゴオオォォォー…………ン


――おい、おい! 大丈夫か、スクアーロ!

うっとおしい、そう言葉を返そうとしたが、代わりに彼の口から出たのは血と呻き声だった。
どうやら少しの間気を失っていたようだ。口元から垂れる血をぬぐい、頭を振り、意識をはっきりさせる。
スクアーロはたった今、何が起きたかわからなかった。確かな事は一杯喰らわすはずが、一杯喰らわされていたということだけだ。

「チクショウ……!」

前歯を何本かを失った彼は、もごもごとはっきりしない悪態をつく。
老人のようにその言葉には力がなく、男は自らの情けなさを恥じた。
心配してるのか、興奮しているのか、とにかく喚き続けるアヌビス神を無視し、彼は辺りを見渡す。
戦いは既に場所を移っているようだった。遠く聞こえた戦闘音に耳を澄ませ、もう一度空を見上げる。
微かに見えた影は共に戦った鳥のものに見えた。誰と戦っているかはわからない。さっきの犬だとしたら、上空で戦っているのもおかしく思える。

とにかく、一度手を組んだやつが戦っているのを放っておくわけにはいかない。
スクアーロはアヌビス神を握り締め、戦場向かって駆けだした。
途中足がもつれ、倒れかけた。アヌビス神が心配そうに声をかけたが男はその声も無視する。
何も怒りに燃えているのはペット・ショップだけではない。借りた借りはきっちり返す。スクアーロとて、ギャングだ。
なめらっぱなしでは堪らない。

「クソッたれ…………!」

スクアーロは進む。鳥が行くままに後を追い、誰と戦っているかも知らずに進んでいく。
行く先にあるのはGDS刑務所。まるでなにものかに引かれるように、彼はふらふらと足を進めていった。



【D−3 中央 / 1日目 早朝】
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:脇腹打撲(中)、疲労(中)、前歯数本消失
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい
0;なめらっぱなしは我慢ならないので、ペット・ショップを追って、きっちり借りは返すッ
1:まずはティッツァーノと合流。
2:そのついでに、邪魔になる奴は消しておく。

204君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:42:20 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



―――ドゴオオォォォー…………ン


「あれは……!?」
「…………」

轟音に慌てて外に出てみれば、そこにあったのはとんでもない光景だった。
ストレイツォは普段はピクリともさせない顔を微かに歪ませ、吉良は柄にもなく眼を見開き、驚く。
ビルの間に突如出現した巨大な氷の塊。一瞬で砕け散ったそれは、キラキラとダイヤのように美しかった。
太陽の光と、それで生まれた影。更に遠目で見たため、そこにだれがいるのか何がいるのかはわからなかった。
二人の男はただ顔を見合わせ、何も言うことができなかった。

先の戦闘の傷をいやすため、二人は今までずっとサン・ジョルジョ・マジョーレ教会教会に身をひそめていた。
というのは建前で、実を言えば傷はとっくに癒えていた。ただ吉良がわざわざ平穏を捨ててまで外に行く気がしなかったので、仮病を装っていたのだ。
その一時の平穏も、今、崩れ去った。

ストレイツォが吉良を見つめる。何を言わずとも、吉良は目の前の男が何を言わんとしているかはわかっていた。
その眼は彼がよく知る目だ。偽善者で、情熱に燃える、やる気に満ち溢れる者の眼。自分とは真逆の人間が持つ眼だ。
やれやれと首を振り、息を吐く。こうなると言ってどうにかなるものでもない。そしてストレイツォほどの戦闘力をここで捨てるのも実際惜しい。

ストレイツォが何か言いかけるのを手で遮ると、吉良は黙って荷物を取りに建物の中に引っ込んだ。
その嫌々ながらも正義に燃える(ように見える)態度に、波紋の戦士は何も言わず感謝を示した。
吉良は準備を終え、戻ってくると、あいつはどうするのだ、そう訪ねてきた。あいつとはついさっき戦った男、リキエルのことである。
ストレイツォはロープで縛り上げられ、気を失っている男を見下ろした。
結局男から情報を聞き出そうという当初の予定はうまくいかなかった。ストレイツォの波紋がよっぽど効いたのか、あるいは疲労もあったのだろう。
リキエルは気絶したきり、目を覚まさず、今ものんきに白目をむいて倒れている。
無様なものだとストレイツォは思ったが、どうしようもないその男の存在に、頭を抱えた。

急に襲いかかってきた危険人物をここに置いていくのは責任感のない行為だ。
だが連れて行くのも大変だし、かと言って殺すのも後味の悪い話だ。悩む波紋戦士を吉良は黙って見つめていた。

結局彼はもう一度波紋を流し、男をその場においていくことにした。
ついでに持っていたロープで縛り上げ、誰かに殺されることないよう、協会の奥底に寝かしておいてやった。
あまり褒めれた行為ではないが、致し方ないこと。何よりあの氷の元に、保護すべき誰かがいる可能性だってあるのだ。
遠目でもわかるほどのあれに惹きつけられる弱者だっているだろう。ならば、急がなければいけない。
一人でも多くを助けるため。波紋戦士の誇りにかけて、あれは見逃せるものではない。


――― 本当にそうだろうか?


一瞬だけ浮かんだそんな疑問をストレイツォは何を言っているんだ、一蹴した。
それ以外の理由なんぞ何もない。戦士として、一人の人間として彼はあの場に向かうのだ。
助けるために、救うために、ストレイツォはGDS刑務所へと向かっていく。
引力に引きつけられるように、その足は軽快で、迷いないものだった。
後ろにいる吉良を急かし、ストレイツォは先を急いだ。

205君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:42:39 ID:qW0eyZ26

【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会前 / 1日目 早朝】
【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:吸血鬼ディオの打破
1.GDS刑務所に向かい、一般人を助ける。
2.周辺を捜索し吉良吉影等、無力な一般人達を守る。
3.ダイアー、ツェペリ、ジョナサン、トンペティ師等と合流した後、DIOの館に向かう。

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.平穏に過ごしたいが、仕方ないのでストレイツォについていく。
2.些か警戒をしつつ、無力な一般人としてストレイツォについて行く。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
[備考]
ハーブティーは飲み干しました。
二人はGDS刑務所に向かっています。
ストレイツォの支給品はマウンテン・ティムの投げ縄のみでした。
リキエルが持っていた支給品を取り上げました。一応基本支給品だけは置いていってあげました。

【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、気絶、縄で縛られてる
[装備]:マウンテン・ティムの投げ縄(?)
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針: ???
0.気絶中

206君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:43:59 ID:qW0eyZ26
 ◆ ◆ ◆



―――ドゴオオォォォー…………ン


マッシモ・ヴォルペは機械的に、顔をあげ、音が聞こえたほうを見やった。
しばらくの間、彼は何事かと耳を澄ませていたが、続けて音が聞こえることはなかったので、再び視線を落とし、考えにふけ始めた。
河はゆっくりと流れ続けていた。穏やかで、何の変哲もない河を、ヴォルペはじっと見つめていた。

ヴォルペはそっと目を閉じ、長々と息を吐いた。まるで乙女が恋煩いしているような、そんなため息だ。
記憶を掘り返せば脳裏に映る一人の男がこちらを見返している。
まるで蛇のように細く、切れた真っ赤な眼光が男を見返していた。ヴォルペはもう一度ため息をつき、そして歩き始めた。

どれだけ考えても、結局はなにもわからなかった。
男は歩きながら、自らの左胸にそっと手をやった。激しい運動をしたわけでもないのに心臓が早鐘を打っている。
それは未だかつて彼が経験したことのない事象だった。認めたくなくても、彼はそれを認めざるを得なかった。

俺は今、魅かれ始めている。幸せを求める自分自身が、何を求めているのか、気になり始めている。
そして何より……、更に呼吸を荒くし、男は歩調を速めた。脚の先は約束の地、GDS刑務所に向いていた。

DIO……俺はあの男に魅かれている。

約束の時間まではだいぶあったが、待ってなどいられなかった。
一刻でも早くDIOに会いたい。あの轟音、DIOに何かあったらそれは良くない。
気持ちは固まらず、未だ現実感はない。ただその二つだけは確かな感情だった。
マッシモ・ヴォルペはまるで引力に導かれるように、GDS刑務所へ続く道へと消えていった。


【E-2 GDS刑務所・特別懲罰房外 川岸 / 一日目 早朝】
【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:健康、DIOに夢中
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.GDS刑務所い急いで戻る。
2.DIOと行動。
3.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

207君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:44:19 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



自分は誤解されやすい人間のようだ。ディ・ス・コはそう思った。
無口無表情、無駄な事は極力しない性格ではあると自覚している。だが自分は冷徹ではないし、どんな状況にあろうと冷静沈着でいられるとは思っていない。
襲われれば緊張もするし、きっと命がかかるような窮地に陥れば悲鳴をあげてしまうかもしれない、そうディ・ス・コは思っている。
けどそれを言う必要がなければ言わないし、顔に出したところで無駄ならば顔に出すこともしない。
ディ・ス・コと言う男は、そんな男だった。

そもそも、とディ・ス・コは、歩きながら胸中で思う。
ジャイロ・ツェペリがこの場にいなかったならば当初の目的は全て無駄になってしまう。
それに気づいた彼は、ある程度まで北上したところで進路を西にとった。
彼は地図に記されていない空白の場所を確認しに行こうと決めたのだ。
ジャイロ・ツェペリがいるかいないか、どちらにせよ、スティーブン・スティールが真実を語っているかどうかを確認することは、決して無駄になるまい。
ディ・ス・コはそう思ったから。

実際西の最果ての地は、そこらの風景となんら変わらず、境界らしきものも見えなかった。
だがある地点を越えて一歩踏み出すと、首輪は鳴り響びき、確かにそこに地図上の境界線があることを男に知らしめた。
首輪は確かに作動している。地図の外は地雷地帯。これは有益の情報だ。使える、確固たる情報だ。
ディ・ス・コはそう思った。

だから、この行動も無駄ではなかった。彼は自身に言い聞かせる。
臆病風に吹かれた故の行動であっても、結果的にそれが無駄足でなかったのならば、それはきっといいことだ。
いや、決して臆病風に吹かれたわけではない。心の内でそう訂正する。
ただ確認する必要があったから確認した。それだけのことだ。

東に向かって一歩一歩足を進め始めていた。
呼吸が乱れるようなこともなく、冷や汗や脂汗をかくようなこともしない。
そんな彼が今向かっているのはGDS刑務所。
ディスコの現在地から最も無駄なく、最短距離に位置する施設である。
ただ淡々と、機械のごとく脚を進め続けている。目的地に向けて、ディスコは歩き続けている。


―――ドゴオオォォォー…………ン


ふと鼓膜を震わす音に気づき、彼は空を見上げた。
東の空に顔を覗かす太陽を背に、宙に浮かんだ三つの影。なんだろうと、目を凝らす暇もなくその三つの影がもつれるように落下していった。
さっと走った緊張感を緩め、ディスコは顎をなぞり、今見た光景が何であったのか、考える。

しかし幾秒か考えても何も思い浮かばず、彼は再び歩き出した。
情報も何もなく考えるのは不安を呼び、捻じれた憶測を生む。ならばそれは無駄な行為だ。
無駄な行為は無駄なくするのが一番だ。

だがもしもGDSに行くこの行為、これすら無駄であったら。
ふと頭に思い浮かんだアイディアをディスコはやはり打ち消し、歩き出した。
それも無駄。考えても無駄だ。誰に言うでもなく、心の中、自分自身にそう言い聞かせ続ける。
それに、ディスコは柄にもなく、こう思った。

GDS刑務所に行けば何かわかる気がする。それは根拠のない、何かしらの確信であった。
強いて言うならば、ディスコは微かにだけ苦笑いを浮かべ、自分の馬鹿げた考えを嘲笑う。

彼は今、GDSに魅かれている。まるで引力を感じるかのように。運命にときめく少女のように。

208君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:44:32 ID:qW0eyZ26





【E−1 東部 / 1日目 早朝】
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:大統領の命令に従い、ジャイロを始末する
1.サン・ピエトロ大聖堂に向かうのは保留。一旦GDS刑務所へ向かう。
2.信用できそうな奴を見つけたら、シュガー・マウンテンのことを伝える。

209君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:50:06 ID:qW0eyZ26
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘ください。
予約期限勘違いしてました。すみません。

把握で読み返したんですけど、ディ・ス・コって結構人間臭かったです。

210 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:46:36 ID:BiQ1F2r6
投下します。どなたかお願いします。

211 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:46:46 ID:BiQ1F2r6
「どうだ?」

虹村形兆のその言葉にシーザー・アントニオ・ツェペリは首を振った。ヴァニラ・アイスは何も言わず、それどころか視線すらこちらに向けなかった。
形兆は最初から期待していなかったのか、苦笑を浮かべ首をすくめると、スタンドを撤収させた。
ジョースター邸中に広まっていた緑の兵隊たちが一人、また一人彼の元へと戻ってくる。
案の定、参加者も、参加者がいたと思われる痕跡も見つけることは出来なかった。
形兆はスタンドたちに、御苦労、そう呟くと彼らをひっこめ、目線をあげた。
目の前に立つ伊達男、壁にもたれる眼光鋭い狂信者。形兆は二人の男に向け、問いかける。

「ってわけでジョースター邸は空振りだ。人一人、猫一匹おりゃしねェ。
 情報交換の時に打ちたてた通り、当分は情報収集兼協力者探しのためにもなるべく多くの参加者に接触したい。
 となると次の目的地は市街地、刑務所、公園のどれかにしようと思うわけなんだが……何か意見はあるか?」
「俺が今あがった候補から選ぶとしたら……まぁ、実際刑務所じゃなけりゃどっちでもいいぜ。あんなカビ臭くて辛気臭い所に行くのは気が進まねェのさ。
 それに、刑務所なんてところには確実に! レディがいない!
 太陽のように美しく、野花のように朗らかな女性たちってのは刑務所なんかにはいやしねェさ。
 これだけは間違いないからな。それならわざわざなら行く意味なんてねェ。
 東に進路をとって市街地か、北上して公園か。これっきゃないだろ、そうだろ?」
「ヴァニラ・アイスは市街地からこっち、地図で言えば西側に進んできたわけだろ?
 なら効率的に考えれば北上したほうが俺としてはいいと思う。
 それに地図の端から埋めていくのは気持ちがいい。だれだって几帳面に色塗りしていくのは気分がいいものだ。
 そうだろ?」
「…………」

シーザーが言い、形兆が賛成するように意見を付け加える。ヴァニラ・アイスはなおも黙ったままで、興味なさそうに頷くだけだった。
二人の男は互いに見つめ合い、そして頷いた。
ヴァニラ・アイスは選択を放棄、北上という点で二人の意見は一致。ならば行き先は決まったも当然だ。
二人の指がこれからの行く先を同時に指さした。三人がこれより目指すは、ドーリアパンフィーリ公園。





212 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:47:06 ID:BiQ1F2r6




一陣の風が吹き、公園中の木が優しく揺れた。気持ちの良い葉擦れの音が男たちを包み、そしてやむ。
形兆は足元でうずくまるシーザーを何の感情の籠らない眼で見つめていた。
シーザーは今は固く動かなくなった少女を抱え、泣いていた。決して大きく叫ぶことはせず、涙も見せはしなかった。
だが肩を震わさせ、歯を食いしばり、彼は一人泣いていた。

何の罪もない少女が殺されという事実に。その少女を助けることができなかった自らの愚かさに。
シーザーは怒っていた、嘆いていた。自分自身が許せなかった。間にあわなかった自分を、彼は呪っていた。

悔しさに震える男を、形兆はただ見つめ続ける。
目線はシーザーに向けられていて、あたかも傍目からみればシーザーの感情が落ち着くのを待っているように見える。
しかしそうではなかった。形兆はこれ以上ないほど神経をすり減らし、辺りの気配を探っていたのだ。
眼だけではなく耳を最大限まで活用し、木の葉一枚舞い落ちる音さえ見逃すまいと集中力を高めていた。
スタンドを展開、『バッド・カンパニー』たちが気配を消しゆっくりと進んでいく。足音を殺し、兵士たちは偵察のために陣形を広げていった。

形兆が探しているのは少女を殺した何者か……ではなく、いつの間にか姿を消したヴァニラ・アイス。
ジョ―スター邸を出発した三人は予定通りドーリアパンフィーリ公園にやってきた。
二人はそこで見つけた少女の遺体に気を取られ、そして気がつけばヴァニラ・アイスの姿は見えなくなっていた。

形兆が真っ先に思ったのは、いつの間に、そしてなにゆえにという疑問。
彼が忠誠を誓うのはDIO一人にして、唯一無二。彼が行動するのはDIOのためであり、DIO以外に理由はない。
最悪の可能性を形兆は考える。もしもヴァニラ・アイスが気づかぬところでDIOと接触していたら?
そしてもう既に形兆たちを始末するよう、命令されていたら?

自分の注意力のなさに彼は舌打ちをした。“たかが”少女の遺体一つで動揺しすぎた。
スタンドたちから発見情報はいまだ届かない。自身の目や耳でも、ヴァニラ・アイスの痕跡は捕えられなかった。

形兆はヴァニラ・アイスの落ち窪んだ眼光を思い出し、首筋の産毛が反り返るのを感じた。
協力関係を組んだとはいえ、手をかまれる危険はいつだってある。
そう、何か不都合があれば。ヴァニラ・アイスの琴線に触れるようなことがあれば。
形兆が父親を処分するよりも前に、自分が消される危険性だってある。自分の置かれてる状況を改めて実感し、彼は身震いした。

柔らかな風がもう一度吹き、森がまたゆっくりと囁いた。静まり返る森の中、形兆は神経を研ぎ澄ます。
シーザーの嘆きを聞き、なだめる様に傍らに寄り添いながら、彼はひたすらに待つ。
気配を探り続け、どこからでも、何が起きてもいいように…………。臨戦態勢で、彼は待ち続けた。



 ……―――うわァァァアアッッッ!

213 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:47:30 ID:BiQ1F2r6
叫び声が静寂を切り裂く。
形兆は弾かれたように走りだした。少し遅れてシーザーが動き出し、男たちは声の元へと向かっていく。
森を裂き、大地を蹴り、辿りついた場所は森の中で開けた広場のような場所。
男たちはそこではたと足を止め、目の前の光景に言葉を失う。

ヴァニラ・アイスと一人の男がそこにはいた。正確に言えば、『半分』の男がそこにいた。

「くッ……う、ううゥ…………!」
「もう一度、もう一度だけ聞いてやろう。DIO様、あのお方について僅かで情報があるならば洗いざらい吐け。
 どんな些細な事であろうといい。今すぐにだ。知っているならば……言え、言うのだ…………ッ!」
「か、は……、はァ……………ッ!」

鮮やかな赤が目に眩しい。まるで地面に広がる真っ赤な絨毯のようだ。
男の右半身はスプーンで刳りぬいたかのような、なめらかな切断面を見せていた。
脇に転がるメキシカン・ハットを踏みつけ、再度ヴァニラ・アイスが迫る。
虫の息の男が荒い呼吸を繰り返し、その音だけが沈黙を破っていた。

「知らない……! ほんとに、俺は、何も知らねェんだッ!
 チクショウ、チクショウ……! なんだってんだ! なんだって、俺がこんな目に……!
 ディオ? なんだそりゃ! クソッたれ、知るかよ、そんな野郎の事!
 ディエゴ・ブランドーのことじゃねーのかよ! クソ…………クソ、痛ェ……痛ェ!
 俺の身体が、身体がァ…………ッ!」
「……そうか」

髭面の男が最後まで言い切らないうちに、ヴァニラ・アイスは囁いた。
その声の冷たさに、思わず後ずさりかける。隣で何かを察したシーザーは、まさか、と眼を見開き一歩足を踏み出した。
ヴァニラ・アイスがその場にしゃがみこむ。傍らに出現したのは彼のスタンド。
シーザーが走る。叫び声をあげ、彼は男を止めようと、飛ぶようにかけた。しかし彼はまた間にあわなかった。
血も凍るような、無慈悲な音が森に響く。


 ―――ガオン…………ッ!


右半身しか残っていなかった男は右腕を残し、消えた。ヴァニラ・アイスは何事もなかったように立ち上がる。
男の支給品であろうライフルをもぎ取り、残った腕をその場で放り捨てる。
ゴミ掃除を終えたささやかな満足感がその眼を満たしていた。今しがた男がいた場所を怒りの表情で見つめ、彼はこう言った。

「DIO『様』だ……。何者であろうと私の前であの方を侮辱するのは許さん……ッ!
 ただ、一つだけ感謝してやろう。ディエゴ・ブランドー……DIO『様』の名を借りる不届きもの名を知れたのは収穫だ」
「てめェ…………ッ!」

214 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:47:45 ID:BiQ1F2r6


怒りに震えるシーザーが叫んだ。だが彼が拳を振り抜くよりも早く、そしてヴァニラ・アイスが動く隙も与えず、形兆は冷静にこの場を収めるために動いていた。
シーザーがハッと気がつけば、肩に緑の兵士たちが飛び乗っている。
銃口は彼の首輪に向けられていて、見ればヴァニラ・アイスの肩にも同じものが乗っている。
二人の間に立つように、ゆっくりと形兆が歩いていく。両手をあげ、二人をなだめるような落ち着いた口調で言い放つ。

「やめろ、シーザー。お前もだ、ヴァニラ・アイス。二人とも、やめるんだ」

さもなければ首輪を吹き飛ばす。形兆がそう言わんとしていることは明らかであった。
だがそれでも、二人の怒りは収まりそうもなかった。熟練の波紋戦士、狂気の殺人者。
二人の刃物のような視線を受け止めながら、形兆は苛立ち気に声を荒げた。
冷静さが身の上の彼にしては珍しく、感情的な叫びだった。もう一度二人に矛を収める様に叫び、ようやくその場の緊張が薄れる。
ヴァニラ・アイスはスタンドをひっこめ、シーザーは拳を下ろす。形兆は大きく息を吐いた。

「…………」
「おい、どこ行くんだ」
「…………貴様には関係のないことだ。遠くまでは離れない。心配なら貴様のスタンドで見張っていろ、虹村形兆」

森の闇へと溶けていく狂信者を形兆は鋭く睨みつけた。
男は一度として振り返ることなく、仕方なしに何人かの『バッド・カンパニー』を尾行させることにした。
ヴァニラ・アイスの後ろ姿が消えたころ、シーザーが、少しの間一人にしてくれ、そう言った。
断るわけにもいかず、形兆は頷く。シーザーは来た道を引き返し、少女の元へと戻っていった。
きっと彼女を埋葬してやるのだろう。形兆はそう思った。

「…………」

どうやら自分がやろうとしていることは思った以上に大変なようだ。
形兆は大きくため息を吐き、こめかみのあたりを優しく撫でる。頭痛の種は増えていくばかりだ。

シーザーはまだいい。感情的で熱い男で、その本質は優しい善人のものだ。形兆が羨ましくなるほどに気持ちのいい男だ。
ヴァニラ・アイスもそれほど問題ではない。さっきの言葉から自分のことを一応は買ってくれていることがわかる。
心配していたような、すぐに殺される事態はよっぽどのことがない限り、ないだろう。DIOのことを下手に口にしない限りは、だが。

問題なのはこの二人がまっったくもって真逆の人間だということだ。
一人一人ならばいい。一対一ならばそれほど手綱を取ることに苦労はしない。だが三人一緒に行動となると、これはもう無理だ。
必ずどこかで爆発する。どちらかが越えてはいけないラインを破った時……きっと二人は衝突する。
そしてそれを止める自信も、止めるリスクを考えてまで得られるリターンも、形兆にはないように思えた。

ならば……、と形兆は『バッド・カンパニー』に神経を集中させ、二人の男を観察する。
放送まで時間があるのは幸いした。考える時間と情報を元に、彼は決断するだろう。
遅かれ早かれ、『この時』が来るのはわかっていた。だがそれがこんなにも早くとは思っていなかっただけのことだ。

覚悟はとうの昔に済んでいた。慈悲や後悔は、もうどこにもない。
形兆を支えるのは憎しみと意地。それだけあれば、銃口を向けることに躊躇いなんぞ、ない。

シーザー・アントニオ・ツェペリか。ヴァニラ・アイスか。
決断の時は放送の時。その時、この三人は二人になり、そしていつか一人になる時もくるだろう。
開幕を告げるのは形兆のピストル。男は森の中、一人、来るべき時と向けるべき相手を考え、佇んでいた。













                                    to be continue......

215 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:48:00 ID:BiQ1F2r6





 【ガウチョ 死亡】



【E-1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目 早朝 放送前】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:怒り、悲しみ、不甲斐なさ、二人に対する不信感
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式×2、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.少女(シュガー・マウンテン)を埋葬してやる。しばらく二人には会いたくない。
1.形兆達についていき、ディオと会ったら倒す
2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく
3.知り合いの捜索

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:怒り
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様……
0.DIO様……
1.DIO様を捜し、彼の意に従う
2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する
3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る
4.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悩み、憂鬱、覚悟
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する
0.放送後、『どちらか』を始末する? まだ考え中。方法と人物も考え中。
1.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく。
2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう
3.オレは多分、億泰を殺せない……
4.音石明には『礼』をする



[備考]
・情報交換をしました。どの程度までかは次以降の書き手さんにお任せします。
・ガウチョの参戦時期はリンゴォに撃ち殺される直前でした。ガウチョの基本支給品と腕以外の部分はガオンと消されました。
・それぞれ支給品を確認しました。内容は以下の通りです。
 ベックの支給品……メリケンサックのみ、ヴァニラ・アイスの支給品……点滴と???(次以降の書き手さんにお任せします)
 ガウチョの支給品……リー・エンフィールドと予備弾薬30発、人面犬の支給品……ダイナマイト6本のみ




【支給品紹介】

【メリケンサック@Part2 戦闘潮流】
ワイヤードのベックに支給された。原作ではニューヨークのヤクザが使っていたもの。
実際効果はあるのだろうか。殴ったとき拳が痛くないってジョジョの世界ではなんかそこまで意味なさげに思える、不思議。

【点滴@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
原作では仗助が使って噴上戦で勝利をおさめた。
あんな風に即効性があるとはとてもじゃないが思えない。
あと食べても満腹にはならないと思う。多分。

【リー・エンフィールドと予備弾薬30発@現実世界】
全長640mm、重量3900g、装弾数10発、ボトルアクション方式の光景7.7mm。
戦争映画や漫画で出てくる典型的、古典的ライフルといえばイメージしやすいと思う。
設計、製造されたのが1900年代初めだったにもかかわらずその有効射程は約918m、およそ1km。
凄い。

【ダイナマイト6本@Part2 戦闘潮流】
エシディシが腹の中でドムン!と爆発させた、あのダイナマイト。
胃に入れる前なので綺麗です。安心して使ってください。

216 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:49:13 ID:BiQ1F2r6
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘ください。
ガウチョ、ごめんね。お前の事けっこーすきだよ。

217 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 22:58:09 ID:BiQ1F2r6
題名忘れてました。「三人の怒れる男たち」です。

218単純 その1 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:35:11 ID:LYwRF6QY
さて――君たちに『俺の話はつまらないか?』と聞いて以来の話か。
自分で言っておいてなんだが、こういう悩みは何とも厄介なものだと思う。
本人にとっては深刻でも周りから見たら些細な事なのかも知れないしね。
で……そういう場合は多くの人がこう言うだろう。
――ん?『そんなに気になるんなら精神科にでも依頼すればいいのに』?そんなこという奴がいるのか?
もっとシンプルなセリフだよ。そう、『もう少し単純に考えたら?』と。
もっともな意見だ。というよりこれが全てかもしれない。

だがこの『単純』というのもなかなか難しい。

例えば――漫画作品を発行部数だけで見て、中身を見もせずに、
『売り上げナンバーワンの……ウン!ウゥン!……こそ史上最高!!他作品はゴミ。
 てめーらゴミ屑のネガキャンなんて関係ねーんだよ』
と爆笑するのも単純ゆえの発想だろう?そして、それに対していろいろ思うことがあってもそれを表面に出さず、
『そうなんだ、すごいね!』
の一言であしらうのも単純だが破壊力抜群の迎撃法だ。

で――単純ということの何が難しいって、
さっきまでの俺のように『単純に物事を考えられないこと』と、
例に挙げたような『単純にしか物事を考えられないこと』と、『そういう単純な相手を相手に回したときの対処法』だ。

君らは物事を単純に考えられるかな?単純な相手を上手くあしらえるかな?今回はそんな話をしよう。


●●●

219単純 その2 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:38:09 ID:LYwRF6QY
「絶対に相容れないって意味の、『水と油』って言葉があるがよォ〜……」
誰に言うでもなく一人で演説を始める男の名はギアッチョ。
彼がいる場所はエリアでいうとF−4地下、地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)の底だ。
相棒のディエゴ・ブランドーはその様子をフロア――柱の頂上から見下ろしている。お互いのスタンドの性質上、手を貸すわけにはいかない。貸す気もないが。
だがギアッチョは一向に上ってこようとはしない。様子を見ているディエゴを知ってか知らずかギアッチョはなおもひとりごちる。

「その言葉の意味はわかる、スッゲー良くわかる。
 油ァ入ったコップに水入れても混ざりはしねーからな……」

この言葉、恐竜の身体能力を肉体に宿したディエゴには十分に届いていた。
しかし、彼はこの後“ギアッチョのセリフに耳を澄ましていた”事を後悔する。

「しかしよォ〜〜この『油』って字はどういうことだアァ〜〜!?
 “サンズイ”ってのは水のことじゃあねェのかよッ!
 油が“水”ならとっくの昔に混ざりきってるじゃあねぇかッ!!
 どういう事だよ!エェ!?このイラツキ、どうしてくれるんだァ!!!」

突如張り上げられた怒声に鼓膜を破られんばかりの衝撃を受けたまらずたじろぐディエゴ。
怒りのたけを目の前の柱にぶつけるギアッチョは、殴って開けた穴を凍らせ、また柱を殴り穴をあけ――を繰り返し、あっという間に柱を登り切ってきた。

「オイッ追うぞ!まだ遠くに行っちゃあいねぇハズだ!ボサッとしてんな!
 っつーかお前も追ってたろ!どこ行ったか検討つかねぇのか!?」
「デカい声を出すな。俺は建物の上から奴らを追っていたからおおよその見当は付く――逃げる瞬間こそ見逃したが奴らは地下を通って」
喚き散らすギアッチョに落ち着くよう促すも、ディエゴの言葉はなかなか彼の耳に入らない。

「地下なのは知ってんだよ!だから俺が下水道もぐって追っかけて壁ブチ壊しまくって――この柱にたどり着いたんだからな!」
「その先だ、ギアッチョ。俺が地上から確認していた限りでは奴らはまだ地下から出てきていない。
 というよりおそらくこの柱は無視しただろう。この建物の下水道それ自体をうまく伝って別のエリアに逃げたとみるべきだ」

わかりきっていた事実を淡々と告げられたことにギアッチョの中の怒りが爆発した。ディエゴの胸ぐらを掴む。
「ンな解りきったこと聞いてるんじゃあネェんだよ!とにかく追うぞッ!」
大量の唾を吐きかけんとするほどの勢いでまくしたてるギアッチョをディエゴは再度制す。
「落ち着け……まだ慌てるような時間じゃあない。そして、闇雲に追うべきでもない。
 こう――発想を変えてみろ、逆に考えるんだ、俺たちはあえて取り逃がし、それを先回りして待ち伏せる体制を作ったんだと。
 直接追っていくのは些か骨が折れる。奴らが『この場にいた』ことが分かっただけでも十分じゃあないか?」

言われたギアッチョはゆるゆると襟首から手を放す。その鋭い視線はディエゴから1ミリも逸らさぬまま。
一方のディエゴの本心は先の台詞とは半々、といったところだ。彼とて自分の知りえぬ自分を知る人間に会場を闊歩されるのは気に食わない。
だがその感情が最後の最後で詰めを誤らせる。この場に放り込まれる直前に受けた屈辱を思い起こすかのごとく腹をさする。

「……チッ!まあそういう事にしてやる。ブチャラティの野郎がいたってことは奴のチームも、俺らのチームもいるってことだろうしな」
「わかってくれて何よりだ。そうと決まれば、こんなエリアの端で燻っている訳にはいかない。とりあえずエリア中央に向かって北上するぞ」

端的に会話をすませ、2人の化け物が館を飛び出していった。

220単純 その2.5(状態表) ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:39:29 ID:LYwRF6QY
【F-4 エア・サプレーナ島→? 1日目 早朝】

【ギアッチョ】
[スタンド]:『ホワイト・アルバム』
[時間軸]:ヴェネツィアに向かっている途中
[状態]:健康、疲労(小)、怒り(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(未確認)、ディエゴの恐竜(元カエル)
[思考・状況]
基本的思考:打倒主催者。
1.ブチャラティ達を先回りして迎え撃つ……?とにかくタダではおけない。
2.1のためにとりあえず北上してエリア中央に向かう予定。
3.暗殺チームの『誇り』のため、主催者を殺す。
4.邪魔をするやつは殺す。

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスター』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、人間状態、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜4(内1〜2は確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.ギアッチョのいうブチャラティを先回りして討つ、ということにしておこう。
2.ルーシーから情報を聞き出さねばならないが『いる』とわかればどうとでもなる。
3.1・2の目的のため北上しつつ仲間を増やす。
4.あの見えない敵には会いたくないな。
5.ギアッチョ……せいぜい利用させてもらおう。少しうっとおしいが。
6.別の世界の「DIO」……?

[備考]
・ギアッチョとディエゴの移動経路は以下の通りです。
ギ:F−4を南下→G−4で路地を利用されブチャラティに逃げられる→地下の存在に気付きマンホールから下水道へ
  →G−4地下→F−4地下→突如現れた壁をぶち壊したら地獄昇柱の内壁だった→柱を登る←ここ
デ:建物の屋上を伝いF−4→G−4→ディエゴと同様ブチャラティを見失う→ギアッチョが地下に潜るのを確認し地上から追うことに
  →G−4→F−4→エア・サプレーナ島到着→柱に向かって喚くギアッチョ発見←ここ
・ギアッチョとディエゴ・ブランドーは『護衛チーム』、『暗殺チーム』、『ボス』、ジョニィ・ジョースター、ジャイロ・ツェペリ、ホット・パンツについて、知っている情報を共有しました。
・フィラデルフィア市街地および地獄昇柱(本体・内壁)が所々氷結・破壊されています。

221単純 その3 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:41:17 ID:LYwRF6QY
●●●


「……なんとか撒いたようだな。
 ゆっくり話をする暇も与えてくれなかったとは。流石というか、奴も一流だな。
 ルーシー、すまないが地図を出してくれ。今俺たちがどこを走っているかわかるか?」
バックミラーの片隅から白い男が消えたことを確認しながらブチャラティが促す。
声をかけられたルーシーは、緊張こそしていたものの襲撃にあった疲労を表情に出さず地図を広げる。
「ええ、えーと――さっきG−4を南下してきて、この曲がり角で……その先はこの地図だけじゃあわからないわ」
「そうか――だが地下にこんな洞窟があるということはその地図もあるはずだ。俺が持っている支給品、全部開けて構わないから探してみてくれないか?」

ブチャラティの作戦はこうだった。
襲撃された地点から地図端に向かってひたすら南下、路地を曲がった瞬間にS・フィンガーズを発現し地面に穴をあける。
そのまま下水道を通って――仮に下水道などなくとも地面そのものにジッパーを取り付けて掘り進むつもりだったが――逃走を完了する。これが見事なまでに成功。
背後から追跡していたギアッチョは『建物の中に潜りこんだ』と、建物の屋上を飛び移りながら追跡していたディエゴは『エリア端は別の場所に繋がっている』と、一瞬だけ推測したのだろう。
それが正しいことかどうかは別として、その一瞬こそ殺し合いの場では命取りになる。結局のところ推測は『違った』が、それを確信した時にはすでに逃走者の姿はなく、と言ったところだ。

「ごめんなさい……それっぽいものは見つからないわ」
「君が謝ることじゃあない――とりあえず車を止めよう」
言いながら自動車を停止させ、エンジンを切ったところでブチャラティが車を降りる。それに倣うようにルーシーも。
静寂の中に放り出された二人。本来なら日が昇り鳥が囀るような時間であるが、それすらもない。
その静けさはルーシーのついた小さな溜息さえ大きく聞こえるほどで。
自分の溜息にビクリと体を震わせたルーシーの肩を抱きブチャラティがゆっくりと口を開く。

「……ルーシー」
「え、あっあの――」
ついにこの時が来てしまったか。彼にすべてを話さねばならない時が。
そう覚悟した瞬間だった。

「シッ――誰かくる……っ!」

彼の口から発せられた言葉は彼女の思っていたものとは違った。
しかし、それが彼女たちに安堵をもたらすかどうかと言われれば、単純に肯定はできないだろう。

彼らが真実を語りあうには、まだ遠い。

222単純 その3.5(状態表) ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:42:29 ID:LYwRF6QY
【E-6 地下 洞窟内部 1日目 早朝】

【ブローノ・ブチャラティ】
[スタンド]:『スティッキィ・フィンガーズ』
[時間軸]:サルディニア島でボスのデスマスクを確認した後
[状態]:健康 (?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、不明支給品2〜4(自分、ジャック・ザ・リパーのもの、ルーシーが確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者を倒し、ゲームから脱出する
1.誰かがくる……!あれは……!?
2.1の対処後、ウソ偽りなく、ルーシーと互いの情報を話したい。
3.何とか撒けたが、なぜ死んだはずの暗殺チームの男が?
4.ジョルノが、なぜ、どうやって……?
5.出来れば自分の知り合いと、そうでなければ信用できる人物と知り合いたい。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:健康、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、鉈
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
1.また襲撃……?
2.ブチャラティに全てを話すべきなの?(でも襲撃の最中はそれを忘れられるから正直ホッとしている)

[備考]
・ブチャラティが運転した車の移動経路は以下の通りです。
F−4を南下→G−4で路地を利用しギアッチョを一度引き離す→G−4地下→F−4地下
→そのまま下水道を伝うことで柱を回避→E−5地下→E−6地下←ここ
・二人の支給品の中に地下の地図は無いようです。

223単純 その4 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:44:22 ID:LYwRF6QY
●●●


「……まだあまり無理をするな。薬の効果がほとんど切れたとはいっても」
「大丈夫よ、問題ない。それにあたしが勝手にやってることなんだから」

ギャングたちの抗争から時間を少々さかのぼる。
場所はF−5南部、ローマの観光地を一部屋だけくりぬいたような土地。そこに一組の男女が姿を現した。
ちなみに女――トリッシュが疲弊しているのは何も薬のせいだけではない。背中に大きな荷物を背負っているからだ。

小林玉美。トリッシュをゲームさながらのシチュエーションで襲っておきながら、最後の最後で無様に気絶したド変態。
なぜ彼女がそんな変態を背負って歩くことになったのか、それはレストランでトリッシュの体力回復が終わるころに話し合った結果である。

当初ウェカピポは彼を連れて歩くことに反対した。
自分たちを――殺人という意味ではないにせよ――襲ってきた相手である。殺すとは言わずとも縛り上げてこの場に放置していくべきだと主張した。
この当然の意見にトリッシュは異を唱える。曰く、
「ここに放っておいて死なれたら自分たちのせいだ。己の正義にも反するし、玉美を知る人物にでも引き渡してしまうべきだ」
と。たとえ反対されても私が背負って歩く、とまで付け加えて。
そのまっすぐな意見にウェカピポが折れ、ならばと地図の地点を少しずつ移動しながら参加者と接触する案を出し――結果として一番手ごろなこの地点にたどり着いたのだ。

ちなみに――トリッシュは今、ウェカピポがよこしたジャケットの下に、レストランの中で調達した服を着ている。
ブランド物の服はいつかコイツに弁償させてやるなどと言いながらも、初めて着るウェイトレスの服には少女らしいはしゃぎようを見せていた。
閑話休題。

さて、到着したその地点は『真実の口』、表向きは有名な観光名所だがその実、ナチス研究所への入り口である。
この事実、二人はとうに知っていた。涎をたらし気絶している玉美の支給品を物色、没収した際に発見した地下施設の地図。
地下に何があるのかは二人の知るところではない。しかし、通常の支給品とは別に地図が支給されるという事実。
二人は地下に何かあるに違いないという理由、次の施設へ移動する際の直通経路になるという理由から地下に潜ろうと意見を一致させていた。

「いいか――開けるぞ」
「お願い。チャッチャと潜りましょう。綺麗なところだといいんだけどね」

短い会話を交わしウェカピポが真実の口に手をかける。
重々しい音を上げながら大きく口をあけたその真実に二人は――正確には三人だが――静かに身体を滑り込ませる。
ゴゥン……という音を上げ、真実は再びその口を閉ざした。

224単純 その5 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:45:31 ID:LYwRF6QY
●●●


さ〜て……玉美サン、実はもうとっくに目ぇ覚ましてましたァン!そら背負われてりゃ振動で起きますわな。
でももう少し気絶したフリしてるのが賢いですねェ〜、トリッシュちゃんの背中あったかいナリィ、ってかァ。
両手縛られてるからパイタッチできないのが難点だが……下手に触ってまた殴られるのもちょっとなぁ。

しかし地図も何も取られちまったのは痛いぜぇ。ウェカピポとかいう男は完全に俺のこと警戒……ってかケイベツしてるだろうしな〜。
この先どうすっか――もういっぺん康一どのあたりと合流できればラッキーちゃんなんだが、仗助あたりじゃあ厄介だしな……
つーか地下に潜ってこの先二人は行くアテあるのか?いつまでも寝っぱなしもさすがに怪しまれそうだしなァ〜。

「あれは――ブ、ブチャラティ!?」
「……ルーシー・スティール?なぜここに!?」

って、ん?誰か知り合いか?そ〜っと目をあけて……

……オォッ!?
ルーシーちゃん(でイイだろ、ブチャラティちゃんって名前があるか)カワイイおじょーちゃんじゃねぇかッ!
見た感じトリッシュちゃんより年下っぽそうだけど、ってことはもしかしてバババ、バージン!?うっひょォッ!
こりゃ〜玉美サン盛り上がっちゃうぜェ〜?あんまり盛り上がりすぎて“見た目”でバレちまわない様にしねぇとなぁ〜!
日ごろの行いが良かったっていうのか?やっぱ、俺ってば、ホント、ラッキー!!

225単純 その5.5(状態表) ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:47:25 ID:LYwRF6QY
【F-6 地下 コロッセオ地下遺跡 1日目 早朝】

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(小)
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済)、破られた服
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.あれは……ブチャラティ?なぜ……?
2.この変態野郎にあと100発くらいぶち込んでやりたいが、見殺しにするのは私の正義に反する。
3.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
4.あのジョルノが、殺された……。
5.父が生きていた? 消えた気配は父か父の親族のものかもしれない。
6.二人の認識が違いすぎる。敵の能力が計り知れない。
[参考]
トリッシュの着ていた服は破り捨てられました。現在はレストランで調達したウェイトレスの服を着て、その上に吉良のジャケットを羽織っています。
『冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器』を打たれましたが、体力はずいぶん回復したようです。

【ウェカピポ】
[能力]:『レッキング・ボール』
[時間軸]: SBR16巻 スティール氏の乗った馬車を見つけた瞬間
[状態]:健康
[装備]:ジャイロ・ツェペリの鉄球、H&K MARK23(12/12、予備弾12×2)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜1(確認済)、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュと協力し殺し合いを止める。その中で自分が心から正しいと信じられることを見極めたい。
1.ルーシー・スティール……?なぜこの場にッ!?
2.この変態野郎が目を覚ましたら尋問して情報を聞き出す。
3.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
4.スティール氏が、なぜ?(思考1のことも踏まえ)
4.ネアポリス王国はすでに存在しない? どういうことだ?

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ダメージ小)。興奮(大)。拘束(両手両足を縛り、猿ぐつわ)されている。服はウェカピポが着せたようです。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。
1.トリッシュちゃんの背中あったかいナリィ……
2.ル!ルーシーちゃん!?カワイイ!ヨダレズビッ!
3.賢く立ち回るために気絶したフリ。タイミングを見計らって逃げるなり起きる(フリをする)なりしよう。
[備考]
どうしようもなく変態です。

226単純 その6 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:48:39 ID:LYwRF6QY
●●●


さて――多くの人間が話に出てきたからちょっとここらで整理しようか。

最初に出てきたのは、いかにも単純に見えるがれっきとした暗殺者のギアッチョ。
そして、そんな荒馬を、大変そうではあるが見事に乗りこなしているディエゴ・ブランドー。
それから、そんな狂気の二人組から逃げた冷静沈着、われらがブローノ・ブチャラティ。
彼に対して、また自分の存在があまりにも複雑すぎてちょっとしたことで壊れてしまいそうなルーシー・スティール。
ブチャラティの死を知っているから、単純に彼との再会を喜べないであろうトリッシュ・ウナ。
トリッシュと同様、ルーシーの存在に少なからず複雑な心境を抱くウェカピポ。
最後に……本能に忠実というか、単純極まりない小林玉美。

誰がどう行動し、それが何を生み、何を失うのか。
それを単純に言葉で表すのは不可能だろう。
だがしかし、それらが複雑に絡み合って生み出され、失うものもまた小さなものにはならない。

……なんて、ちょっとカッコつけて言ってみたりして。
『シンプルがいいッ!』なんて格言があるくらいだ。案外単純明快な玉美だけが生き残ったりしてね。ハハハ。

――ん?フラグ?あんまりそうメタな発言をするもんじゃないよ。
そういう言葉が単純なものをまた複雑にかき回すんだから――

227単純 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 20:09:29 ID:LYwRF6QY
以上で投下終了です。仮投下からの変更点は以下の通り
・したらばで指摘された誤字の訂正
・パート区切りの記号の変更(wiki対策)
・描写・文末、状態表の整理

エリア端で燻っている連中を少々強引にではありますが引き合わせてみました。
せっかくなら地下も活用しようとギアッチョ達を地上に、ブチャラティ達を地下に据えて話は終了。

それから、『俺パート』について少々。

仮投下スレ447氏には申し訳ないですが、『やめません』とここで明言しておきます。
例えば他ロワの作品では、本文中にAAが貼られることもあるそうです。そのことに否定はしません。
私の『俺パート』も、そういう『一種の表現方法』としてみてくださればと思います。
また、『あくまで2chの企画、クオリティばかりを求めないでいい』と書き手志望の方々に感じてもらえればとも思いながら書いてたりします。

あと『自分の作品がつまらないか気になるなら批評スレ行けよ』という意見に関してですが、
確かに『俺』は『作者の代弁』をしてくれます。どんなにSS数を投下しても不安にはなります(むしろならない人がいるのか?)
ですが、『俺』は、あくまで俺という『キャラクター』です。自分の悩み『だけ』をSSに乗せる公私混同のようなまねはしてないと自負しています。
前作『病照』ではあくまでも『俺の愛を受け取れない奴はどうしちゃおっかな〜』と、あくまでもテーマは『愛』に、
そして今作では、そんな質疑応答を乗り越えて、こういう悩みを例に挙げて『単純に考えること』をテーマに据えています。
(それが読み取れないと言われたら単純に自分の文章力不足だと考えます)

パロディが多いこと、メタな視点からの語り、雰囲気ぶち壊し、本文中にテーマ組み込めよ、エトセトラエトセトラ。
言いたいことは多々あると思います。ですが……ジョジョロワ3rd、岸部露伴の
『そんなものは、ノンフィクション作家に任せておけばいいのさ。』
という言葉をパロディで借りるなら、
『クオリティの高いものは、有名小説家に任せておけばいいのさ。』と。
先にも書きましたがあくまで素人集団の集まり。多少ぶっ飛んでても楽しくSSを読めればいいのではと思います。

もしこれでよっぽど叩かれるようなら……引退はしませんが別トリ用意して新人からやり直すくらいの覚悟ではあります。

長くなりましたが、そんな俺パートも含め、感想(もちろん誤字脱字や矛盾の指摘も)いただければと思います。それでは。



***
規制につき、ここまでをどなたか本スレへの転載をお願いいたします

228 ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:23:37 ID:TwxXUmKo
クソッタレぃ!やっぱり規制されてたよ
ということで、どなたか転載お願いします。

花京院典明、山岸由花子 投下します。

229僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:26:39 ID:TwxXUmKo



幼い頃からひとりだった。



☆ ☆ ☆


「見失った……ですって?」

金属を切断するようなキンキンと響く悲鳴が耳障りだ、と花京院は思った。
自分の無能さを棚に上げて、文句ばかりを並べ立てる。
この女に惚れ込まれた康一という男に心底同情した。

やかましく喚く由花子の声を無視し、花京院は辺りを見渡す。
周りに転がっているのは、3人の大人の男たち、いずれも既に死体だ。襲撃者は彼らの方だった。
スタンド使いでない彼らは花京院の敵ではなかったが、3人がかりで同時に襲われたのでは、タンクローリーの姿を見失うには十分すぎる要素になる。

花京院は数分前の出来事を思い返す。
タンクローリーを追って杜王町エリアを後にした花京院典明、山岸由花子の両名は、道中であるタイガーバームガーデンにて待ち伏せによる襲撃を受けたのだ。

230僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:28:01 ID:TwxXUmKo

『俺の名はケイン!』
『俺の名はブラッディ!』
『そして俺の名はドノヴァンだァァ――ッ!』

突如、軍人風の男達に囲まれた花京院たち。
先行していた『法皇(ハイエロファント)』の能力でも察知できなかったのは、ナチス親衛隊コマンドーであるドノヴァンによる功績が大きい。
3人の襲撃者は花京院を取り囲むように姿を見せ、襲いかかった。
素早い身のこなし、手にはそれぞれナイフが握られていた。

殺意を持って襲いかかってきたのかはわからない。
真っ先に花京院を狙ってきたことからして、由花子を下衆い動機で襲うのが目的だったのかもしれない。
なんにしても、生身の花京院がどうにかできる相手ではないことは明確だ。

『エメラルド・スプラッシュ!!!』

タンクローリーを逃さぬよう300メートル先行させていた『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』を高速で呼び戻す。
そして射程距離ギリギリからの、その両掌から放たれる必殺の散弾『エメラルド・スプラッシュ』―――有無を言わさぬ最強の攻撃により、3人の軍人たちは悲鳴を上げる暇すら与えられず、沈黙する肉片へと姿を変えた。
文字通り、他愛のない襲撃者たちだ。しかしスタンドを呼び戻す必要があったため、追跡していたタンクローリーを見失うという結果に陥ってしまった。



「ほんっとスットロいわね、あんたは!? これじゃあ何のために組んだのか分かりやしないわ!?」
「うるさい人だな。自分の無能さを棚に上げて私を侮辱するとは呆れたものだ。この者たちを『貴女のスタンド』で始末してくれれば、私も『法皇』を呼び戻すこともなかったのですが―――
もっとも冷静さの欠ける貴女では、彼らの襲撃に気づくことも対応することもできなかったでしょうがね?」
「ふざけんじゃあないわよ? 襲われたのはアンタじゃないの! どうしてあたしが助けなきゃいけないわけ? あたしが用があるのは康一くんだけなのよッ!!」

花京院は頭を抱える。やはりこの女はダメだ。
スタンド能力は強力だが、花京院のために使用するつもりは微塵もないらしい。
いざとなれば、彼女はいつでも花京院を犠牲―――身代わりに差し出すだろう。(もっともこれはお互い様だが)
由花子から得られた情報に大したものは無かったように思える。
自分の握るDIO様の情報やアレッシーの話と比較しても、割に合わない。
口を開けば「康一くん」、「康一くん」と、やかましい。自分から持ちかけた同盟関係だったが、花京院は既に見切りをつけていた。
そして、由花子も同様の結論にたどり着いていた。

231僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:30:06 ID:TwxXUmKo


『花京院くん、恐れることはないんだよ。友達になろう』

DIO様はあの時、私にそう言った。
初めは恐怖していたと思う。次に感じたのは安心だ。そして最終的に自分の中に生まれたのは、この上ない『憧れ』の感情だ。



『嫌いだって言ってるんだよ。きみに既にさあ……』

康一くんはあの時、あたしにそう言った。
あたしはこんなにも「好きだ」と言っていたのに――― 私の中に生まれたのは、この上ない『怒り』の感情だ。



幼い頃からひとりだった。
子供の時から、友達はいなかった。
私の『法皇(ハイエロファント)』の見える人間など、誰一人いなかったからだ。
そんな者たちと友人になることなどできるわけがなかった。

幼い頃からひとりだった。
人を好きになったのは、初めての経験だった。
どいつもこいつも下心丸出しの、下卑た男ばかりだったからだ。
そんな者たちに興味を持つことなんてあり得なかった。

232僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:31:08 ID:TwxXUmKo

DIO様は神のように思えた。
私の全てを理解してくれた。私のすべてを捧げたいと感じた。
彼と真の友人になりたい。彼の役に立つことならばなんでもやりたい。
彼のためならば命だって捨てられる。

康一くんはヒーローだった。
勇気と信念を持った男の顔。笑った時のカワイイ笑顔。すべてがあたしの理想だった。
彼と真の恋仲になりたい。彼のために自分の一生の全てを捧げても構わない。
そう思っていたのに。



山岸由花子は違う。『法皇(ハイエロファント)』が見えるかどうかは問題ではなかったようだ。
友人とまではいかなくとも、目的を共有する同盟くらいならば何とかなると思っていたが……
彼女は役に立たない。百害あって一利なし。いつか近いうちに、彼女に脚を引っ張られる時がきっと来るだろう。

花京院典明は違う。彼の能力で康一くんを見つけることはできたが、それだけだ。
康一くんの代わりになる事などありえないが、使える味方くらいにはなるかと思っていたが……
もう無理だ、こんな男と行動することなど耐えられない。同盟関係を近いうちに仲間割れを起こし、どちらかがどちらかを裏切ることになるだろう。



やはり私にはDIO様だけだ。

やはりあたしには康一くんだけ……。



幼い頃から独りだった。
仲間なんか、はじめから必要なかった。




233僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:32:01 ID:TwxXUmKo


「………………………………」
「………………………………」

2人の間に不穏な空気が流れる。
お互いが相手に抱いている負の感情が、なんとなく理解できた。
同盟関係はここまでだ。
向かい合って、臨戦態勢に入る2人。いつでもスタンド攻撃可能。

そのとき、遠方で巨大な爆発音が響いた。





「……康一くんの居場所がわかったわ」
「…………その様だな」

爆発の規模から考えて、今の大爆音はタンクローリーの物だ。
すなわち、そこが広瀬康一の居場所だ。そして、足を失った。追いつくには今しかない。
無事でいればいいが――――――。

2人は同時に戦闘態勢を解く。余計な人間を相手にしている時間はお互いにない。
だがこれ以上同盟を続けていくことは決して無いと、両人が理解していた。

「悪いけど、あんたに構っている暇はないわ。あたしの目的は康一くんただ一人なの。もう行かせてもらうからね」
「好きにするがいい。私も貴女の『お守り』をするのにはほとほと疲れていたところなのでね」
「フン!」

両者が刃を収めたのは、戦っても無傷で済む相手ではないと判断したからだ。
お互いに自分の本来の目的ではない相手だ。不要な戦闘はできる限り避けたほうがいい。

長い髪を翻し、山岸由花子は一人、走り出した。
高く立ち上る煙と炎の明かりが何よりの目印だ。距離にして1キロメートルあるかないか――大した距離じゃあない。
もし康一が無事ならば、すぐにでも移動してしまうだろう。そして、もし康一が無事でないならば、なおのこと急がねばならない。
康一の息の根を止めるのは、自分でないといけないのだ。

234僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:34:11 ID:TwxXUmKo

朝日の昇りだしたローマの街へ消えていく由花子の姿を、花京院は見送る。
彼女の行く末がどんな結末になるか、なんて彼にとってはどうでもいいことだ。
あえて質問がなかったので花京院は話さなかったが、タンクローリーに乗っていたのは広瀬康一だけじゃあない。
時代遅れのジョン・ウェインに、剃り込みを入れたヤンキー風の日本人。それに、ハンドルを握っていたのは某格闘ゲームの衝撃音波を用いる空軍少佐に似た大柄の男。
少なくとも4人組以上、うち何人かは当然スタンド使いだろう。
由花子が目的を遂げるも良し、相打ちになるのがベストだが――― まあ由花子の能力程度じゃあ返り討ちが関の山だろう。
タンクローリーを追撃していた正体不明の敵の存在もあるが、まあ、知ったことじゃあない。

そんなことを考えながら、花京院は辺りの死体を見渡す。
恐らくスタンド使いではない男たちだったが、統率の取れた彼らの動きは生身の人間ならたとえヘビー級のプロレスラーでも敵いはしないだろう。
『法皇(ハイエロファント)』を持つ花京院の敵ではなかったにしろ、彼らの連携は美しかった。
彼らのような関係が、真の『仲間』というものなのだろう。
花京院にとってはわからないことであるが――― ケインとブラッディは元の世界よりの仲間同士であるが、ドノヴァンに関してはこのローマに連れてこられた後に出会った者なのだ。
彼らがこの6時間の間にどのように出会い、どのような時間を過ごしてきたのか。今となっては知る由もない。
だが彼らは、花京院が17年間かけて作れなかった『友』を、ほんの数時間で築き上げていたのだ。

『エメラルド・スプラッシュ』による攻撃はとっさだったものとは言え、容赦のない全力の攻撃だった。
そのため、返り討ちにあった3人の男たちは、みな悉く即死してしまった。
『情報収集』が第一目的の花京院にとって『見敵即殺』はナンセンスだ。
アレッシーにしても由花子にしても、ゲーム開始以降、花京院は会話もなく相手を殺しにかかったことなどなかった。
無意識の即殺行為の裏側には、花京院の、仲間への『羨望』、『嫉妬』という感情があったのではないだろうか。

235僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:35:18 ID:TwxXUmKo

「…………フン、まさか」

馬鹿げた考えだ、と花京院はかぶりを振る。
恐れ多い考えだが、自分の友達はDIO様一人で充分だ。
DIO様のために生き、DIO様のために働き、DIO様のために死ぬ。
他の仲間など…… 『友達』などは、必要ない。

なぜならば――――――




花京院典明は、幼い頃から独りだったのだから。



【E-5 タイガーバームガーデン / 1日目 早朝】

【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:刺青のナイフ、スリのナイフ、第22の男のナイフ
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す
0.DIO様の敵を殺し、彼の利となる行動をとる。
1.山岸由花子との同盟を破棄した。放送後、今後の身の振りを考える。
2.ジョースター一行、ンドゥール、他人に化ける能力のスタンド使いを警戒。
3.空条承太郎を殺した男は敵か味方か……敵かもしれない。
4.山岸由花子の話の内容で、アレッシーの話を信じつつある。(考えるのは保留している)

【備考】スタンドの視覚を使ってサーレー、チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。

【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。

【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。(能力、射程等も大まかに説明させられた)
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。(詳細は不明だが、音を使うとは認識・説明済み)
東方仗助、虹村億泰の外見、素行など(康一の悪い友人程度、スタンド能力は知らないしあるとも思っていない)

※ケインとブラッディはバオー来訪者に登場したドレスの戦闘兵二人組です。

※ケイン、ブラッディ、ドノヴァンの参戦時期は不明です。
※彼らの行動目的やこれまでの行動経緯は不明ですが、花京院、由花子以外の参加者との遭遇は無かったようです。
※ただしムーロロの『オール・アロング・ウォッチタワー』に目撃されている可能性はあります。

※ケインの支給品は、刺青(スピードワゴンの仲間@Part1)のナイフでした。
※ブラッディの支給品は、スリ(に扮したナチス兵@Part2)のナイフでした。
※ドノヴァンの支給品は、第22の男(バオー来訪者に登場する刺客の一人)のナイフでした。
※彼らに他の支給品があったかどうかは不明です。




☆ ☆ ☆

236僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:36:21 ID:TwxXUmKo


☆ ☆ ☆




「見つけたわ………康一くん!」

見間違うはずもない、凛々しい笑顔。
あんな大爆発があったにもかかわらず、やはり無事だった。
花京院は「逃げながら敵と戦っている」と言っていたが、この様子だと敵を見事に撃破したようだ。
さすが自分が惚れた男性、と物陰から様子を伺っている由花子は笑みを漏らす。
厄介なことに康一は他の仲間たちに囲まれている(その中にはあの「東方仗助」の姿もあった)が、由花子にとっては些細なことだ。
花京院が考えているほど、由花子は愚かではない。
多勢に無勢。考え無しに飛び出して殺害を企てるような馬鹿な真似はしない。
しかし、康一たちが少しでも油断し隙を見せたならば、その時は………

(待っていてね、康一くん。すぐにでもあなたを殺してあげるから――――――)

いや、殺すのではない。由花子は自分に言い聞かせる。
康一は自分の中で生き続けるのだ。由花子のことを「嫌いだ」と言った康一だけがいなくなり、由花子の理想である『広瀬康一』が、彼女の中で永遠に生き続けるのだ。
これからは何処へ行くのも、何をするのも、彼女の中の『康一』いつも一緒になる。
自分と広瀬康一以外の人間など誰ひとり必要ない。
なぜならば――――――




山岸由花子は、幼い頃から独りだったのだから。



【C-5 北西 コルソ通り/一日目 早朝】

【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康・虚無の感情(小)・興奮(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(自分、アクセル・ROのもの。全て確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
0.見つけたわ、康一くん。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.花京院をぶっ殺してやりたいが、まずは康一が優先。乙女を汚した罪は軽くない。

※チーム『HEROES』を発見しました。現在、物陰より彼らを観察しています。
※向こうはまだ由花子の存在に気がついていません。



【コンビ・花*花 同盟決裂】

【ケイン 死亡】
【ブラッディ 死亡】
【ドノヴァン 死亡】

237僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:46:46 ID:TwxXUmKo

はい、投下依頼完了です。どなたか本スレへ転載をお願いします。
タイトルはエア友達(スタンド)しか友達がいないおふたりだったので。正直これは予想されてた気がする。
元々は仲違いするだけのつもりだった話なんですが、yx氏さんの予約を見て、玉美、トリッシュたちと戦わせる予定だったメローネをここへ組み込もうかとしていました。
結局、なかなか上手くいかず断念。メローネはFate/stey night執筆時にも挑戦したのですが、前回も今回も失敗。
ボツOPにまで出演していたメローネでしたが、3rd出場の夢は残念ながら潰えてしまったようです。
4thに期待して出直してこい、メローネ(と、仗助に弟を産む予定だった東方朋子さん)。
それで、本編がどうなったかというと、なぜかドノヴァンとオマケ二人が参戦。
ズガン制度がなくなると思ったら、なんとなく書きたくなってしまいました。
たしか彼は◆yx氏のお気に入りキャラでしたね。喜んでくれると嬉しいです。
それではまた。

238 ◆c.g94qO9.A:2012/08/31(金) 01:33:00 ID:S540n7VU

二度目はほとんど叫びに近かった。飛び跳ねる様にしのぶもデイパックを拾い上げ、承太郎の隣に並び立った。
承太郎はしのぶを見下ろした。かなり身長差があるので、普通にしていても見下ろすような形になってしまうのだ。

「嫌だと言っても承知しません。仮に貴方が嫌だと言っても、拒否しようとも、無理矢理にでもついて行きますから!
 今決めました! ええ、そうしますとも! 例え地の果てまでだろうと、私はあなたについて行きますからッ!」

男はじっと女を見つめた。女は口を真一文字に結び、挑戦するかのように男を睨みつけた。
そのまま永遠に続く様な沈黙が流れ、空条承太郎は視線を逸らした。
ボソリと言葉をつぶやくと、彼は玄関に向かって一歩踏み出す。その足取りは決してせわしないものではなかった。
何かにおいたてられたわけでもなく、何かから逃げるようなわけでもない。空条承太郎は呆れた様に溜息を吐いた。

「―――……勝手にすればいい」
「ええ、しますともッ」

しのぶは怒ったように、そう言い返す。玄関の扉を開くと、承太郎は彼女を先に扉の外へと出してやった。

不意に何かを感じ取った男は、改めて家の中を見渡した。
何でもない一軒家だ。とりわけ大きいわけでもなく、それほど小さいわけでもない。
金持ちでもなく、貧乏人でもなく、フツーのサラリーマンがフツーに生きて、そして精一杯の努力の末、なんとか建てることができた家。
そんな家だった。


――― 俺もこんな……


承太郎は首を振り、思考を打ち切った。自分が何を考えていたかははっきりとわかっていた。
だが最後にそれを本心として捕えるようなことはしたくなかった。それをしてしまうと何か大切なものを失いそうだった。
しのぶが不安げな顔でこちらを見ていた。承太郎は最後にもう一度だけ家を見回し、そしてそっと扉を閉じた。



バタン、と控え目な音が静かに家に響き……そして家はいつもの朝を、いつも通り迎えていた。

239 ◆c.g94qO9.A:2012/08/31(金) 01:35:42 ID:S540n7VU
【E-7 北部 民家/一日目 朝】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:???
[装備]:煙草、ライター
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.???

【川尻しのぶ】
[時間軸]:The Book開始前、四部ラストから半年程度。
[スタンド]:なし
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎についていく
1.空条承太郎についていく

【備考】
・承太郎は参加者の時間のズレに気づきました。ただしのぶに説明するのも面倒だし、説明する気もありません。

240ダイヤモンドは砕けない ◆c.g94qO9.A:2012/08/31(金) 01:40:18 ID:S540n7VU
以上です。誤字脱字矛盾等あれば指摘ください。
どなたか代理投下、よろしくお願いします。

あと相談が一つ。
自分の描いた作品読みかえしてどうもしっくり来なかったんですけど、書き直してもいいでしょうか。
具体的にいうと 093『全て遠き理想郷』の最後のタルカスの部分です。
影響はもちろんあるとはわかっていますが、どうも『納得』がいかないので。
ご意見下されば助かります。

241 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:38:10 ID:futNY7Os

 本スレ、239 の続きでゴザル。
 どなたか頼むでゴザル。

242トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:39:29 ID:futNY7Os
「ならば、私が間に立って事情を説明すれば…」
「いやいや、無理だ。状況が落ち着けば可能かもしれないが、そこはまず待ってくれ。
 もしアンタが俺の名を出せば、その時点で警戒される。
 ただでさえこんな状況なんだ。誤解の種をわざわざ振りまく必要も無いだろう?」
 確かに、そうかもしれない。
 しかし何も話さずに同行して、後で知られた場合も厄介なことにはなりそうだが…いずれにせよ、込み入った話ではある。
「とりあえず、了承した。実際にどうなるかは保証できないが…」
 結局ストレイツォとしてはそう答えるしかない。
 
 簡単な情報交換と休息。
 しかしその間にも状況は変化している。
 外の様子を伺っていた吉良が戻ってきて、「やはり見失った」と告げる。
 これは、最初にストレイツォたちが目標としていた、上空での轟音と光の反射の主、ホル・ホース曰く『ホルス神のペット・ショップ』の事だ。
 吉良も、狭い入口から外を探っていただけだった以上、上空すべてを監視できていたわけではない。
 もとより、双方移動しながらの事だった上、間に放送などがあった以上、見失ったとしても致し方ない。
 いったい誰が、ディオの部下と戦っていたのか。
 気になるといえば気になるが、もはやどうもできない。
「それで、ストレイツォ」
 ぐ、っと、今度は吉良が顔を寄せ話しかけてくる。
「あいつらとはどういう話になった?」
「とりあえず同行はしない。あの少女の休息時間をもっと取りたいようだし、ホル・ホースは戦士だ。自分たちの身は自分たちで面倒見れる、と。
 名簿にメモをしたが、彼の知っているディオの手下と、ジョースターの仲間たちの名は聞き出せた。
 できれば、彼らを探し出し、戦力を増やしてディオに挑みたいのだが…」
 視線が絡み合う。
 吉良はしばし思案した様子で、しかし続けてこう言った。
「徐倫…」
 不意に出たその単語に、ストレイツォは少し戸惑う。
「ストレイツォ。放送を聞いたとき、それをメモしたのは私だ。そして自慢じゃあないが、私は結構記憶力は良い方だ。
 最初、あの男は、同行している少女を、『徐倫』と呼んだ。
 名簿にある名前でそれと似た名前は、『空条徐倫』ただ一つだ。
 少し似た響きでアイリンという名もあるが、まあそっちでは無いだろう」
 ゆっくりと、確認するように、言葉をつなぐ。
「そして、『空条徐倫』…あと、『アイリン・ラポーナ』は、ともに死亡したと告げられていた…」
「!?」
 ストレイツォの顔がこわばる。
「彼らは…放送を確認していない、と言っていた……。
 ディオから逃げるのに必死で、その時間が取れなかった………とも」
 そのため、吉良がメモしていた名簿と地図の印を、ホル・ホースに渡して写させている最中だ。
 50人という膨大な人数の死者数だけに、写しを取るだけでも一苦労である。
   
 ストレイツォが呼吸を整え、両足から床に微弱な波紋を流す。
 波紋は、生命のエネルギー。屍生人や吸血鬼にとっては破壊をもたらすもの。
 しかし、床を伝って届いた微かな波紋が、壁際に座り込んでいる少女に、ダメージを与えた気配はない。
 もとより、彼女は刑務所の前からここまで、朝日を全身に浴びてやってきているのだ。屍生人であるハズは…無いのだ。
「名前を騙っているのか…、そもそも名簿や放送が誤り、嘘なのか…、或いは………」
 吉良の言葉がストレイツォの中に浸透していく。
「死から蘇る…又は、死んでいないのにかかわらず、主催者側に死んだと思わせる何らかの手段があるのか………」
「何者だ…」
 ストレイツォは吉良以上に混乱する。
「彼女の中は『生命のエネルギー』に満ちている…。
 しかし、その肉体は『死んでいる』………」
 波紋の伝わり方、その流れからストレイツォが感じ取った結論は、彼女が屍生人であるというものよりも、奇っ怪で悩ましい、理解を超えたものであった。

243トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:41:04 ID:futNY7Os
 ☆ ☆ ☆

 ポルナレフ、アレッシー、エンヤ婆……。
 ジョースター一行も、ディオの手下も、この膨大な50人もの死者の中に名が上がっている。
 アレッシーはたしか再起不能になったはず、とか、エンヤ婆はあの後ジョースター達に捕らえられたため、別の刺客に粛清されたと聞いているが…等など、気がかりになる事はいくつもある。
 いくつもあるが、問題はそれじゃあない。
 空条承太郎が最初に殺され、そしてポルナレフまで死んだとなれば、花京院、アヴドゥル、そして老いぼれのジョセフ…と、残りのジョースター一行は、DIOに対抗できるとはとても思えない面子だ。
 もとより、ホル・ホースは、ストレイツォと『仲間』になって、『ともにDIOに立ち向かおう』などとは、さらさら考えていない。
 むしろ、DIOの対処を奴らに押し付けて、できるだけ離れていようと、そう考えている。
(もちろん、彼らが『運良く』DIOを倒してくれれば、『儲けもの』ではある、が)
 そのためにも、情報が必要だ。
 DIOの手下がどれだけいて、DIOに立ち向かおうという人間がどれだけいるのか。
 それを把握するためにも、聞き逃した放送の情報をストレイツォから引き出したのだが…。
 
「放送で読み上げられた死者」としてチェックの入っている名。
『空条徐倫』。
 どういう事だ…?
 ホル・ホースは、傍らで座り、壁にもたれ掛かって、何事かを思案しているのか、或いはただ休んでいるのか分からぬ少女を見る。
 先ほどの感情の爆発から一転、それまで以上に空虚な表情である。
 空条徐倫。曰く、空条承太郎の娘。曰く、GDS刑務所の収監者。
『糸』のスタンドを使い、先ほど殺された野球帽の少年の友人。
 どろどろに意識と肉体を『溶かす』スタンドによって死に瀕している父、承太郎を助けること。
 エルメェス・コステロ。ナルシソ・アナスイ。ウェザー・リポート。F・F…。
 F・F…?
 再び、名簿を開いて名前を探す。
 ある。『F・F』の名は、名簿にある。
 エルメェス、アナスイ、ウェザー、エンポリオ等もある。
 話半分、ハナから与太話と思っていたのは確か。
 彼女は空条承太郎の縁者か何かかもしれないが、娘などということは有り得ない。
 彼女の語っていた承太郎は、明らかに自分より年上だ。
 人となり風貌などは似ているが、実在したとしても別人だといえる。
 別人?
 再び名簿に目を向ける。
 参加者の中に、やはり『空条承太郎』の名がある。
 しかし、そこには「放送で読み上げられた死者」として、チェックが入れられていない。
 ストレイツォが記入し漏らしたのか? いや、最初の段階の死者はそもそも放送では読み上げていなかったのか?
 しかし、読み上げなかったのであれば、なぜ名簿に名前があるのか?
 ホル・ホースの頭がフル回転で状況を整理する。
 
 ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎は、最初の会場で殺されている。
 しかし名簿によれば、空条承太郎はまだ生きてこの奇妙な街のどこかにいる。
 それがもし正しいとすれば―――この会場にいる空条承太郎こそ、ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎とは別人で同姓同名の、空条徐倫の父親なのではないか―――?
 
 待て。待った。違う、そこじゃない。そこが問題なんじゃあ無い。
 
 再びホル・ホースがかぶりを振る。
 
 問題は、放送で『空条徐倫』が『死んだ』とされたのは本当なのか。
 本当だとしたらなぜ、今生きているはずの徐倫が死者として名を告げられたのか。
 そして―――。
『F・F・F(フリーダム・フー・ファイターズ)…』
 あの針の化物が襲いかかってきた時に徐倫が呟いた、この言葉―――。
 
(徐倫―――…、一体お前は…?)
 
 視界の中、『糸』が、ホル・ホースに向かって放たれた。

244トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:41:48 ID:futNY7Os
 
「うおぉああぁあっ!!??」
 
 背後を見やる。
 そこには、『糸』でがんじがらめにされた青年の姿。
 そう、この会場で最初にホル・ホースが出会い、完膚無きまでに叩きのめされた「牛柄の服を着た青年」が居たのだ!
 
「とりあえず…ハナっから『撃つ』のも何だし、『糸』で縛り上げたけどさ……」
 徐倫の気のないセリフに、ストレイツォ達の声がかぶさる。
「しまった、目覚めていたかッ!?」
「待て、攻撃するなっ…! そいつにはまだ…」
 瞬時に駆け寄る二人に、ホル・ホースは『皇帝(エンペラー)』を出して牽制。
「おい、仲間か!? 見知らぬ仲ッて訳じゃなさそうだがよぉ〜!?」
 二人が足を止める。
「いや、我々はその男に襲われたが、撃退して縛り上げていたんだ」
 なるほど、確かによく見ると、糸の前に両腕と胴体がロープで縛られているのがわかる。
 ただ、縛りが甘かったのかどうなのか、ところどころ緩んで、這うように移動することはできる状態のようだ。
「や…やめてくれ、息が……息ができない……ッ! まぶたが下がるッ……!」
「ニャにィ〜〜!? てめー、俺を忘れたとは言わせねぇぞ!?
 さっきはよくもやってくれたなぁ!!!???」
「ヒィイィィィ〜〜〜!! 覚えて無いッ!!! アンタ誰だッ!!?? 俺は何で縛られてんだッ!!??
 やめろっ……息がッ……!!」
 あまりの狼狽ぶりに、逆にホル・ホースが面食らう。
 徐倫は糸を戻し、ストレイツォ達もゆっくりと歩み寄る。
「…何だか、随分と態度が違うな……」
「無理もないだろう、ストレイツォ。あれだけ君に容赦なくしてやられたんだからな」
 会話の内容に、青年の腫れた顔から、どうやら自分が手も足も出なかったこの青年を、ストレイツォは余程の目に合わせたと思え、複雑な気分になる。
 その悔しさからか、ホル・ホースはいささか乱暴な動作で青年に『皇帝』を突きつけ、
「てめー、一体何者だ? なぜ俺…この二人を襲った?」
 相手がしらばっくれていることもあり、自分がストレイツォ達より前に青年に完膚無きまでに負けたことをごまかしつつ、そう問いただす。
「わ、分からねェ……。自分でも分からねェんだよ〜〜〜!!
 神父に……神父に言われたんだ……。
 そしたら、急に変なところに連れて行かれて……殺し合いしろとか……。
 そんで、息が苦しくなって、また、まぶたが落ちてきて、水を……水を飲んだら……」
 縛られたまま、這うようにのたうつように体を揺らすが、ぐいと『皇帝』を突きつけられどうにもできない。
「まぶた、だの、水、だの、どーでも良いンだよッ!!
 てめーは何者で、なぜ襲ってきた!!??」
 ひいっ、と再びの悲鳴。
「リキエルっ! 俺の名前はリキエルっ…! DIOの息子だっ!!」
「「「「!!!???」」」」
 叫びを聞く4人それぞれに衝撃が走る。
「神父が、俺たちのことを『DIOの息子』だって、そう言って……それで、『空条徐倫』の足止めをしてこいって言われて………! そしたらいつの間にか変なところに………」

 ―――神父。DIOの息子。空条徐倫。死んだ肉体に生命をみなぎらせる少女。波紋戦士。殺し屋。殺人鬼。死んだものとして名を告げられた少女。空条承太郎の娘―――。

245トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:43:12 ID:futNY7Os
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【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内部 / 1日目 朝】

【H&F】

【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:困惑
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
2.徐倫に興味。ただ、話の真偽は不可解すぎるぜ。
3.DIOの息子? 空条承太郎は二人? なぜ徐倫の名が死者として呼ばれた?
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。
 内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:軽い疲労、髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトル2本消費)、ランダム支給品1〜4
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
1.『あたし』は、DIOを許してはならない…?
2.ホル・ホースに興味。人間に興味。
3.もっと『空条徐倫』を知りたい。
4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いてません。

246トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:45:50 ID:futNY7Os
【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3(水ボトル1本消費)、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を集い、吸血鬼ディオを打破する
1.ホル・ホースは信頼できると思うが、この徐倫という娘は一体何者なのか?
2.青年(リキエル)から話を聞き出すべきか?
3.吉良などの無力な一般人を守りつつ、ツェペリ、ジョナサン・ジョースターの仲間等と合流した後、DIOと対決するためGDS刑務所へ向かう。
[備考]
※ホル・ホースから、第三部に登場する『DIOの手下』、『ジョースター一行』について、ある程度情報を得ました。

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。
2.死んだと放送された『空条徐倫』に、「スタンド使い」のホル・ホース…ディオ? ディオの息子…ねぇ…。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
[備考]

【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、縄で縛られてる
[装備]:マウンテン・ティムの投げ縄(縛られている)
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針: ???
1.ヒィイィィィィ〜〜〜!! 何が何だか分からねェ〜〜〜!! 息が、息が出来ねぇっ…!!
 

【E-2 GDS刑務所・正門の内側 / 一日目 朝】
【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:痛みと疲労、数箇所の弾痕(表面のみ、致命傷にいたらず。能力を使えばすぐにでも治せる程度)、『何も分からない』
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.友を思い、怨敵を思う。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

247 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:49:55 ID:futNY7Os

 イジョウデース。

 ヨーロシーク オーネガーイ イータシマース。(オウム)

248 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:50:35 ID:8tKIpr92

「畜生……、この畜生が…………ッ!」

込み上げた酸っぱい胃液を飲み込みながら、噴上裕也は毒づいた。
威勢のいい言葉とは裏腹にその口調は弱弱しく、彼は壁にもたれかかかりながら荒い呼吸を整えていた。
吐き気の波がもう一度彼を襲う。口を手で覆いながら彼は言葉にならない悪態をつく。

「鼻が人一倍効くお前には辛いだろう。無理しなくてもいいぞ、フンカミ」
「黙れ、このサイボーグ野郎! 畜生……、この畜生が…………ッ!」

屈んでいたシュトロハイムがゆっくりと立ち上がった。男は少年のほうを振り向かず、ただ黙って目の前の光景を見つめていた。
洞窟は真っ赤に染まっていた。それはもうどうやったらこれほど鮮やかに彩れるのだろうと思うぐらい、赤一色に。
壁、地面、天井までに飛んだ血痕。鼻を覆いたくなるような鉄臭い臭いが充満していた。シュトロハイムは拾い上げた身体の『一部』をじっと見つめていた。

「……無茶しよって」

それは『ロバート・E・O・スピードワゴン』だったモノ。
ロバート・E・O・スピードワゴンだったモノが、辺り一面撒き散らされていたのだ。
鮮やかな切り口で細切れにされた身体の断片。一番大きなものでもそれは容易く男の掌に収まってしまうぐらいで、生前の面影はほとんどない。
シュトロハイムは黙々と動き続けた。まるで感情を見せないロボットかのように彼は機械的に動き、数分のうちに身体の大部分を集め終える。
噴上裕也は青い顔で動けずにいた。シュトロハイムが今度は穴を掘り始めても、少年はその場から動くことができなかった。

「それでいい。それでいいんだ、フンカミ」

いつもは叫ぶように話すシュトロハイムがボソリとそう唸った。
噴上がごくりと唾を飲み込む。シュトロハイムは言葉を続けた。

「本当はお前をここに連れてくるのもよくはないとわかっていた。こんな光景をできることなら見せたくなかった」
「舐めるなよ……ガキじゃねーンだぞ、俺は」
「ガキも子供も、大人も成人も関係あるまい。こんな光景は戦場だけで十分だ」

その時唐突に、噴上裕也は目の前の男が軍人であることを思い出した。
そんなことは知っていたはずだった。口開けばゲルマン、ナチス。そんな男が軍人以外の何物でもあるわけがなかった。
だが言葉の背後に広がるほの暗さを嗅ぎ取り、噴上は改めて、心で、そして魂で認識したのだ。
ルドル・フォン・シュトロハイムという男のことを。彼の背中から漂う、血なまぐさい臭いを。
そんな男の背中に、噴上裕也はかける言葉が見当たらなかった。

249 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:51:16 ID:2ahIG5lQ


出来上がったスピードワゴンの墓はあまりに素っ気ないものだった。
きっと言われなければ誰もが見落としてしまうに違いない。言われたところで盛られた土があるだけで、きっと誰もがそれを墓だとは思わないだろう。
一時代を築いた石油王にしてはあまりに寂しく、物悲しい、墓だった。
シュトロハイムはしばらくの間、そんな墓の前に立ち続けていた。右腕をピンと伸ばした敬礼のポーズのまま、男はしばらくの間その場に立ちつくしていた。


「戻ろう、皆が待っている」


十数秒の沈黙の後、シュトロハイムはくるりとその場で振り返り、洞窟の入り口にいる噴上に声をかける。
男はそれっきり背後を振り向かなかった。少年を引き連れ、辺りを警戒しながら、シュトロハイムは仲間が待つ場所へと帰っていく。
誇り高き軍人はリベンジを誓った。亡き石油王のためにも、因縁の相手との決着は必ずやつけなければならない!


「カーズ……!」


男の憎々しげなその呟きに、少年はなんと返せばいいかわからなかった。
噴上裕也は黙って聞こえないふりをし、何も言わずに先を行く男に追い付こうと、ほんの少しだけ足を速めた。






【B-4 古代環状列石(地上)/一日目 朝】


【チーム名:HEROES+】

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0.仲間の元へと戻り、改めて作戦を練る。今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?

【東方仗助】
[スタンド]: 『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷、深い悲しみ
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.二人の女性が目が覚ますまで救急車で待機。仲間が帰ってきたら今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?
2.リンゴォの今後に期待。
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが“凄み”でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

250 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:52:00 ID:2ahIG5lQ

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、右足に痛みとつっかえ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.二人の女性が目が覚ますまで救急車で待機。仲間が帰ってきたら今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(小)、疲労(小)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0.仲間の元へと戻り、改めて作戦を練る。今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:フルボッコ、気絶中、治療中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.気絶中
1.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0.二人の女性が目が覚ますまで救急車で待機。仲間が帰ってきたら今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める。

251 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:52:57 ID:2ahIG5lQ


【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:全身打撲、左肩に重度の火傷傷、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.気絶中
[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
ジョージⅡ世とSPWの基本支給品を回収しました。SPWのランダム支給品はドノヴァンのマントのみでした。
放送を片手間に聞いたので、把握があいまいです。





252 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:53:19 ID:2ahIG5lQ

放り投げた首輪を投げ、そして落ちてきたところをまた掴む。
考え事をしながら無意識のうちに、カーズは繰り返し、繰り返し、首輪を投げては掴み、投げては掴んでいた。
ふとその首輪を見つめていると、その持ち主との会話を思いだした。
未だ血が残る銀の輪を見つめ、しばしカーズは記憶の中の会話に浸る。


『もう一度だけチャンスをやろう、人間……貴様が持っている情報を洗いざらい吐け。
 そうすればせめて痛みを感じぬように、このカーズが丁重にあの世へと葬ってやる……』
『…………何度聞かれようと私の答えは変わらない。その問いに対する答えは、NOだ。』
『ほゥ……』

―― ザクッ……!

『―――ッ!』
『意地を張らずに素直に従えばいいものを……。さて、貴様がどこまで耐えることができるか、これは見ものだなァ』
『……何度でも言ってやろう、私の答えは変わらない。私から情報を聞き出そうというのなら、それは無駄なことだ。もっとその時間を有意義なことに使うがいいさ』
『……人間風情が舐めた口をきくようだな。だがそう言われると、このカーズ、ますます口を割らせたくなるものよ!
どれ、お手並み拝見と行こうではないか……!』


結果的には情報は手に入らなかった。人間一人に気を取られたあまりに、カーズはその仲間をみすみす見逃したことになる。
自分らしくもない失態だった、彼は一人そう反省する。
男があまりに堂々としていたので何か策でもあるのではないかと無駄に勘ぐってしまったのだ。安い挑発にまんまと引っ掛かり、思惑通りに事を運ばれてしまった。
加えて先の異形の怪物、自分を尾行していた謎の生命。ここにはカーズの知らぬ“何か”がいたるところにいる。
その事実がただでさえ慎重なカーズを、より慎重にさせてしまったのだ。男がただのはったりかましていると気付いた時には、時既に遅かった。

「……ふん」

結果だけ見れば、これはカーズにとっての『敗北』になるだろう。
この男の目的は仲間を逃がすことであり、そしてその目的は達成されてしまったわけだ。
目論見通り二人の人間は無事逃げのび、このカーズは無様にも足止めを喰らった。

「だが…………」

カーズは別段気にすることなく、彼の関心はすでに首輪へと移っていた。
手元のサンプルが二つに増えたことでまがいなりにも実験らしきものをする環境は整っている。
支給品とやらでカーズに配られたものが大工具用品一式であったことも幸いした。今いる場所も洞窟の奥で邪魔が入ることもなさそうだ。

その一方で、別段焦ることでもないとも思っている。
サンプルだって人の数だけいるのだ。それこそ5個、10個の首輪を集めてから本腰入れて取りかかるのも一つの手だ。
一度始めたらそれなりに時間を取られるのは確かなのだ。ならばもっと万全の態勢を整えてから取りかかっても決してそれは遅くないだろう。

ふわり、ふわり。首輪が舞う。
器用なもので、カーズは二つの首輪を同時に放りながら、歩みを止めず、考えることもやめなかった。
柱の男は思考を続ける。実験に取り掛かるか。この地下洞窟の探索を続けるか。
カーズにとっては当たり前のことだったが、ついに彼は今殺した男の名を知らぬことに気がつかなかった。
当然だ。カーズにとって人間は食料の食料にすぎず、虫けらよりも価値のないものなのだから。

柱の男がすすんでいく。ひたひたと足音をたてながら、男は洞窟の暗闇へと姿を消していった……。

253 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:53:43 ID:2ahIG5lQ



                                 to be continue......



【B-5 中央(地下)/ 1日目 早朝】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:健康
[装備]:服一式、工具用品一式
[道具]:基本支給品×2、サヴェージガーデン一匹、首輪(億泰、SPW)
ランダム支給品0〜3(億泰のもの 1〜2/カーズのもの 0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.首輪解析に取り掛かるべきか、洞窟探索を続けるか。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。

254男たちの挽歌 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:55:08 ID:2ahIG5lQ
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら指摘ください。
今回はけっこう苦戦したので荒があるかもしれません。
丁寧に見てもらえたら嬉しいです。とくに仗助とシ―ラEのキャラとか。

あと、仗助の制限に関しても、なんかあったら意見ください。




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