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オリロワアース

1名無しさん:2015/05/06(水) 16:45:35 ID:pYFZnHTQ0
ここは、パロロワテスト板にてキャラメイクが行われた、
様々な世界(アース)から集められたオリジナルキャラクターによるバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17154/

前スレ(企画スレ)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/

・参加者
参加者はキャラメイクされた150名近い候補キャラクターの中から
書き手枠によって選ばれた50名となります。

また、候補キャラクターの詳細については以下のページでご確認ください。

オリロワアースwiki-キャラクタープロファイリング
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/12.html

企画スレよりキャラメイク部分抜粋
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/109-294



地図
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/67.html

367弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:17:35 ID:Chz1T0yg0
「クソッ…!クソッ…!なんだよ、なんだよあれ!意味分かんねェ!くっそ、ふざけ…ふざけんじゃねェぞ…!」

夜の道を、一人、ふらふらと歩く姿があった。
細身の体に、赤縁のメガネ。金髪で眉毛は細い───いわば、「チンピラあがり」。
アースPにおけるガソリンスタンド店員、名前は谷口豪。
現在はバイト先を転々としながら、狭いアパートでタバコをふかしている日々を暮らしてきていた、ある意味最も狂った世界とも言われるアースPからは遠い存在の男だ。

「ンだよアレ…!炎出して!女が、ガキに、女が…焼かれて…首斬られてよォ…!三流の映画でもあんなん見たことねェよ…」

彼が目を覚ました場所は、森の茂みの中だった。
彼はレコーダーから流れてきた音声を聞き終わるとすぐに、支給されていたと思われるボウガンを手に持ち、震えながらも、生き残ろうと散策をしていた。
その時に、紫の着物を着た炎を扱う少女と、青色髪をした水を扱う女が闘っている場面に遭遇した。

一時期俳優を目指していたからそういったCGの映画の知識もあるが、どうもこれはにわかには信じ難いものだ。そもそも目の前でCGのような戦闘をされるとは思わなかった。
ボウガンをディパックにしまいこんでから、二人を見てみた。当初はなんらかの撮影かとも考えた。自分はエキストラで、彼女らは女優なのかと。だが、やがて紫の少女は青色の髪の女をどこからか出したかわからない糸で縛り上げると、彼女に火をつけた。

苦しみだす少女。
なるほど、あれも演技だと思うと中々のものだ。台詞回しも二人ともうまいし、女優とは流石なものだとも考えていた。

紫の着物の少女が、青色の髪の女の首を切り落とすまでは。


ころころころと擬音がつくようにサッカーボール大の大きさほどの女の頭が、豪の近くに転がってきた。
苦痛に歪んだ、しかし絶望すら、復讐心すらも感じられるような瞳と目が合った。

「─────っっ!!!」

口を両手で抑える。
あいにく、少女の方は全裸でなにか真っ赤な槍と闘っている。
逃げ出すなら、今しかない。

豪はその場から、口を抑えたまま逃げ出した。全力で。あの、フラウザリッパーから逃げた時と同じように、その異常さを受け入れないようにだ。


そして、今に至る。ふらふらと行くあてもなく歩くその姿は放浪しているかのようだった。
豪は大きくため息をつく。なぜ、なぜ自分がこんなところに連れてこられなくてはならないのか、そもそも最近運が悪すぎやしないか?とも考えていた。

変わらずにふらふらと森を行く豪。やがて、数十分後ほどだろうか。
目の前には、街が広がっていた。いや、集落と言う方がいいか。
まるで西洋の国を彷彿とさせるその集落はまるで映画のセットのようであり、ますますこの場が一体なんなのであるか疑問を持たずには居られなかった。

368弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:18:27 ID:Chz1T0yg0

「クソ…頭いてェ…昨日ビール飲んだからか…」

一旦、頭を落ち着かせなくてはならない。
適当な民家で一休みしよう。そこで頭の整理をつけて、それからこの殺し合いを生き残る方法を考えよう。
ふらり、ふらりと、適当な、レンガでてきた簡素な家の前のドアを開けた。

だが、彼が一度見た非日常は終わりを告げなかったようで。

「…あらぁ?お兄様、だぁれ?」

目の前には、ピンクのワンピースに身を纏った茶髪の少女と、側には黄色の毒々しさを感じさせるような蛇が一匹。
机の上に紅茶を広げ、優雅に、きちんとした姿勢で座っていた。蛇も何故か向かい側の椅子の上にちょん、と乗っている。
つくづく、殺し合いとは無縁そうな存在。豪は一度困惑をしたが、目の前の少女に尋ねることにした。

「お、おい!餓鬼!ここは、ここはどこだァ!殺し合いって、なんだァ!」
『はぁ、やになるわぁマナーのない男は。ねっ、はららちゃん!』
「そうですわね。ゴルゴンゾーラ。私(わたくし)もそういったお兄様は嫌いですわぁ」
『もぉ!ちゃんとゾーラちゃんって呼んで!そんな強そうな名前ウチいやだぁ!』
「聞いてんのかァてめーらァ!」

豪は叫ぶ。
しかし、はららとゾーラはお構いなしに話をすすめる。

『にしても、さっきのミストちゃん?だったっけ!よかったわねぇ…すんごいよかった!ほんとに魔力マックス!って感じだった!』
「それはどうも、ですわぁ。お姉さまはまた次の機会が楽しみですわ…んふふ…」
『ね!ね!はららちゃん!次はどんな子を堕落させるの?』
「そうですわねぇ…もっと強い子がいいですわぁ…自分の強さを過信してるような、そんな子が…んふふ♪」
『…クソがッ!クソがッ!なんなんだよテメーらァ!言えって言ってんだよォ!』

豪の手に握られていたのは彼が支給された唯一の武器、ボウガン。
ボウガンの矢先は、はららへと向けられる。

はららに対しての殺意、というよりも、なぜこの少女はこんな異常事態に平然としているのか、そもそもなんで蛇が話しているのか。
という疑問と、威圧のためにボウガンを向けた。
それに気づいたはららは椅子に座ったまま、くすりと子供に向けるように笑うと、豪に口を開いた。

「…んふ、お兄様、人に殺意を向けたこと、ありますか?」
『どういう意味だァ!?』
「足、手、いや、全身が震えていますわ。かわいそうに…強がる必要はないですわぁ♪」
『!?』

豪はボウガンを持つ手に目を向けた。
小刻みに震えている。
足に目を向ける。
こちらも、震えている。

369弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:19:07 ID:Chz1T0yg0

それに気がついた瞬間、息が荒くなり始める。
両手には汗が滲み、少女への焦点が合わなくなりはじめる。

『舐めんなよォ…!俺だって、俺だってやるんだ!やれるんだ…ッ!やれるんだぁァァァァッ!』

ボウガンを、少女へと向けた。
臆病な彼だが、向けざるを得なかった。
威嚇ではなく、完全に目の前の少女に豪は殺意を向けた。

すぐに引き金を引いた。
豪も思ったより以上に固かったその引き金に少し驚いていたが、いまさらそんなことはどうでもよかった。

『はららちゃん!』

だが、その弓は少女のそばに居た蛇が口から吐き出すようにして作り出した壁のような何かに阻まれ、弓は地面にぽとりと落ちた。
それを見た少女はゆっくりと立ち上がると───蛇ににこりと笑いかける。

「流石ですわゾーラ。防壁まで作り出すとは驚きですわぁ♪」
『はららちゃん!今ははららちゃんの【淫力】がMAXに近いから出来たんだからね!もうしないよ!』
「んふふ…♪お兄様、教えてあげますわ。私は強い方が大好きですわ。自分が強いと思っておられる方、自分が世界で頂点だと思っている方…私はそういった方々をたくさん見て、たくさん堕としてきましたの…ゾーラ、行きますわよ」
『モチ!』

やがて、紫色の煙が辺りから吹き始め───少女はその煙に包まれていった。

「クソッ!弓入らねェ!説明書、説明書は…ッ!」

豪は目の前で起きた、非日常的なことについていけず、弓を引こうとするが彼は使い方をまだ見ていなかった。
説明書を探そうとディパックを見る。あったはずだが、どこだ、どこだ、と焦るあまりに見つからずにただ時間を浪費していく。

豪をさしおいて、少女はその煙から姿を現す。
真っ黒なボンテージに真っ白なマント。ピンクの髪の毛の魔法少女、闇ツ葉はららか立っていた。
彼女は、にっこり、と子供に対して慈愛を見せるかのような微笑みを豪に一瞬見せたあとに、右手から一本の触手を出す。
それを豪の胸部へと、目掛けた。ボウガンに夢中で、ただの一般人である豪が避ける事もできずに、その攻撃を受け入れた。

豪に攻撃を加え、豪が叫び声をあげながら地面で転がるのを見ながら、はららはまた穏やかな顔で
豪に言い放つ。

「強がっているだけの臆病者はお引き取りをお願いしますわぁ♪無垢で、純粋で、汚れを知らないような方しか、私は基本相手にしませんのよ。その方が退屈ではないですもの♪
確かに誰とでも一夜を過ごしてきましたけど、それは私の軍団のため。かわいい我が子(部下)のために体を売るのならば気にはしないですわ」

闇ツ葉はららは、悪の魔法少女グループの最大勢力の一つ『堕華(ついか)』のトップであり、目的のためなら誰とでも寝れる少女であった。
だが、彼女はそこにおいても、夜においても決して他人に主導権は握らせない。自分を傘下に置こうとした大人たちを鍛え抜かれた指技とテクニックと、そして堕落させることでこちらの傘下にし続けた。
それも、自分を慕ってくれる我が子達のため。と思えば気にはしないのだが。

「ただ…この場では楽しみたいのですわぁ。もっと、もっと世間知らずの子を快楽へと落としたいのですわぁ…んふふふっ♪」

今宵のはららには『選択権』がある。
味方の為ではなく、自分の為に動くことができる。ああ、なんといいことか。
最も堕落させたい『自分は強い』と思っている者たちを快楽へと堕落させることができるのだから。

ならば、楽しむしかないだろう。自分の欲望の赴くままに。

370弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:19:28 ID:Chz1T0yg0

「お兄様、あなた弱すぎますわ…あぁ、霧人お姉さまが恋しいですわぁ…♪」

豪の死体を飛び越えるように、はららは民家から出る。
夜が開けかかっていた。月の光を直に感じたのは久しぶりだった。

「…んふふ♪んふふふふ♪」

相変わらずはららは、淫らに笑う。高らかに。かつ冷静に。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…!大丈夫!?」

はららが立ち去って数分後。
ラモサが見たのは、血だまりができた床にうつぶせで崩れ落ちている谷口豪の姿であった。
彼女自身も、なにか役に立つものは無いだろうかと町の家屋を調べていた最中であったが、扉が唯一開きっぱなしになっている家を見て、不思議に思い近寄ってきたのであった。

「待って!今なんとかしてあげ…っ!」

ラモサが豪の傷跡と思われる腹部の部分を見る。
だが、そこには数十センチほどの穴が貫通しており、おそらく専門知識もあまりないどころか、医療用具もないラモサにとって、この場における治療はほぼ不可能であった。

だが、彼女の目の前ではもう人は殺させない。
もしかしたら周囲に誰か医療に知識がある人がいるかもしれない。
淡い期待を抱きながら、外に出ようとした。

「ガキ、待てェ」

後ろからの声に、ラモサは足を止めた。
なぜ話せるのだろうか、普通は死ぬ直前というのは震え上がるものだが、なぜこの男はやけに馬鹿冷静なのだろうか。そう思って振り返った瞬間。
彼はわずかながら手足が震えていた。おそらく、彼は死ぬことに怯えている。
しかし、それでも声を抑え、自分を呼び止めた。

「分かんだろッ…俺、もうダメだわァ…クソッ…タレ」

彼の言葉は途切れてしまいそうに細い。気を抜いてしまえば、動悸に紛れてしまいそうだ。
普通、怖いのならば、震えるはず。なのにそこまでして彼が伝えたい言葉とはなんなのだろうか、とラモサは彼の言葉に耳を傾けた。

「…気をつけろよォ、この辺には、蛇を連れた女が、いる…強いからァ、会ったら逃げなァ…あと…『フラウザリッパー』は、神山学園の、制服の女だ…チビの、餓鬼だァ…気ィ…つけろや…」

あの時。目の前で殺された風俗嬢。
彼女は夢破れ地元に帰ってきた豪と同じように女優になろうとしたが騙され、風俗嬢になったという『花立 園未(はなたち そのみ)』であった。
ある日風俗に先輩に連れられ行った先で出会い、互いの境遇を慰めあうような仲であった。あの夜も、バイト先の店長がくれたシュークリームを持って会いに行こうとした時に、リッパーと出会った。
殺されていたのは、園未本人。しかし、豪は逃げ出した。自分を受け入れてくれた人物を助けることができず、一目散に逃げ出した。
フラウのことを警察に言えば自分はおそらく復讐されて死んでしまうだろう。しかし、園未のことを思うとそれでいいのかと考えてしまった。

おそらく自分は死ぬだろう。ならばせめて、あの犯人のことでも、目の前の少女に伝えなくては。
手足が震える。呼吸数も減っていく。
死ぬのは怖いが、言えてよかった。少しでも、臆病な自分を捨てれただろうか、と。

(…最後の敵討ちも、人頼みかァ…すまねぇな…園魅(そのみ)。オレ、やっぱあの餓鬼の通り、弱い奴だァ…)

谷口豪はゆっくりと目を瞑る。眠るように、死ぬ恐怖をどこかで感じながら、同時に謝罪心を持ちながら彼の意識は闇へと消えていくのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

371弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:21:42 ID:Chz1T0yg0

「普通、こんなことされたら痛みのあまり喋れないはずなのに…」

豪が言い終わり、事切れたあと、ラモサは豪を家のベッドに運び、横にさせると彼の顔を見ながらそう呟いた。
表情は悔しさと虚しさと恐怖が入り交じり、大きく歪んでいた。彼がここまてして伝えたかった先程の言葉は、きっとどうしても伝えたかったことなのだろう。
『触手』を使う者と、『フラウザリッパー』。
聞いたことはないが、ヴィランだろう。彼のようなおそらく肉体からして普通の一般人である者を殺すとは、なんという悪。
許すわけにはいかない。殺される人の無念さや悔しさは、よく知っている。そして残された人達の苦しみや悲しみも、よく知っているのだから。

「…強い人だな。この人。名前分からないけど、確かに受け取ったよ。言いたいことは…!」

ラモサは豪のディパックを、一度頭を下げてから持つと、家屋から出た。
ベッドの上には、死の恐怖と非日常と闘った、谷口豪が眠るように、体を横にしていた。

【F-2/町/1日目/黎明】

【闇ツ葉はらら@アースMG】
[状態]:快感、疲労(極少)
[服装]:ボンテージとマント
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:《強い存在》を快楽や様々な方法を使い堕落させる
1:霧人お姉さまはまた次の機会ですわね♪
2:魔法少女達を狙う
3:
[備考]
※魔法の効果が大きくダウンしており、使用には体力をやや消耗します。
また触手の数は右手左手それぞれ五本ずつまでです。

372弱さ=強さ ◆/MTtOoYAfo:2015/07/17(金) 21:22:57 ID:Chz1T0yg0
【ラモサ@アースH】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3、ボウガン@アースF
[思考]
基本:AKANEや悪を断罪する
1:早乙女灰色、早乙女エンマを見つけたら処刑する
2:フラウザリッパー、触手使いに注意

以上です。何かあれば。

373名無しさん:2015/07/18(土) 15:38:16 ID:.a//sLI20
投下乙です!

>欝くしき人々のうた
ライリーと入れ替わった女勇者さんの末路…悲惨の一語だー!
モンスターとの対話が為されないF世界の闇を垣間見た
狂ってしまうのも致し方なし。しっかし、こういうのが映画館で上映されるとなるといろんなキャラに映画館に行ってほしくなるなあw
最後に仲間の事をおもうライリーだがアリシアちゃんの話を知ってる側としては放送が楽しみです

>弱さ=強さ
谷口〜!また陰惨な現場に出くわし、またもや逃げ、逃げた先にも今度はさらなる災厄が。
なかなかに不幸の連続、安らかにな…そしてまさかの風俗嬢の名前判明とは
はららちゃんとゾーラのコンビもいいなあ、無邪気&妖艶で掛け合いを見たくなる組み合わせ
死に際にラモサちゃんへまた情報が。花子ちゃん包囲網が留まるところをしらないぜ…

374 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:17:23 ID:7FzzBVeg0
投下します

375偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:20:40 ID:7FzzBVeg0
私は孤独だった。
学校へ通えば、即座に殴られ、罵倒され、差別され――ありとあらゆる虐めを受けてきた。
だからといって、家に居場所があるわけでもない。
両親は私を出来損ないだと云った。お前は劣等だから、他人よりも劣っているから差別されて当然だと嘲笑った。
「死ねばいいのに」――――それが親の口癖で、家でも学校でも、私は様々な人間に虐げられる。
誰も手を差し伸べる者などいない。当然だ。私を助ければ次はその人が虐めの対象になるのだから。
それにその頃の私の心は、かなり廃れきっていて。偽善者共が有り得ぬ夢物語を語る特撮番組は大嫌いだった。
だってこの世にヒーローなんていないのだから。もしもヒーローがいるのなら、とっくに私を救っているハズだ。
それでも特撮番組を見ていたのは、知らず知らずのうちに救いを求めていたからだろうか。
特に好きなヒーローは、結城陽太。現実とは大いに逸脱した、ネットでは偽善者と叩かれることすらある打ち切り作品の主人公。
けれども彼の心に宿る熱い太陽はたしかに私の心に僅かな光を与えてくれて――こんな絶望的な世界もいつしか照らしてくれることを、願っていた。
だけどもそれは所詮、テレビ番組だけの夢物語で。度重なるいじめに遂に心が擦り切れた私は自殺を決意した。
首吊りは辛そうだし、電車はあの巨体にぶつかるのを想像するだけでも恐ろしい。実践を試みても足がぴくりとも動かない。
そこで思い浮かんだのが飛び降り自殺。電車と違って大きな音や巨大な物体が迫るわけでもないし、ただ落ちるだけで済むから楽に違いない。
そうして建物の階段を駆け上がる。どんな名前かすら覚えてないほど必死に走って、解放を望んだ。

「よっ、人生の敗北者ちゃん。自殺して絶頂の公開自慰ってか」

背後から声をかけられて、しかも何故か知らないけどいきなり殴られた。
その人は身長の高い美人な少女だと思ったら実は男で、事情も話さないままとりあえずお前うちのガッコこいとか言われて。

「いじめられるなら強くなりゃいい。俺様も昔はアレだったし――とにかく何でもいいから特技でも身につけて他の奴ら見返せばいいんだよっ。
 といってもま、前の環境じゃ居心地悪いわな。てことでうちに転校確定、はいパチパチパチパチ〜」

とまあ喜ばしいことに転入することになった。
その男の娘――副会長曰く、転校させる為に色々と工作してくれたらしい。
それからは自分の強さを磨く為に筋トレに励んで、性格も一新することに。結果的に新しいクラスからは受けが良くて、沢山の友達に恵まれることで些細な幸せを手に入れた。
だから私は副会長を一種の英雄(ヒーロー)だと思っている。会長もなかなかすごい人だけれど、一番のヒーローは間違いなく副会長だと断言出来る。

                    ♂


殺し合い。
それは強者が弱者を虐げ、儚き命が無意味に散らされてしまう、最悪の行事。
いつの間にやら配布された機械からは吐き気を催す邪悪が囁き、他者の殺害を強要している。
生きたくば、殺せ。反抗するならば、即座に殺す。たったそれだけの、実に単純な内容であった。
ゆえに我は――――存分に膨れ上がった筋肉を用いて、手中に収まる其れを破壊。平然と被害者を出そうとするAKANEとやらに対する挑発行為であり、そして叛逆の意思を示す宣戦布告である。
次いでデイパックを投げ捨てたい衝動に襲われるが、虐げられている人々を助ける為にも武器は必要。いじめっ子の用意した道具を利用するのは癪であるが、所詮我は一介の女子であり、生憎と素手のみで誰かを護り切る自信はない。

「ほう」

デイパックを開けた結果、なかなかの当たり。
武道の心得があるわけではないが、筋肉に自信のある我だからこそ使いこなせると確信出来る道具が、そこにはあった。
されど同時に問題点も発覚した。それこの参加者候補リストである。

クラスメイトの山村幸太、東雲駆、中野あざみ、中村敦信、藤江桃子。下級生であり、様々な噂の飛び交っている麻生叫。
我が学園の会長である、大空蓮。そして我の――私の人生を変えてくれた副会長、愛島ツバキ。
なんと此度の悪質極まりないこの現場には、我の知り合いも多数巻き込まれている可能性があるというのだ。
俄には信じられぬ――というよりも信じたくもないが、嘘ではないだろう。参加者候補であることから全員が参加している可能性は低いが、それでもこの人数だ。最低でも一人は参加していると認める他ない。

376偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:21:18 ID:7FzzBVeg0

「呑気にしている場合ではない。何の取り柄もなく、唯の落ちこぼれであった我に優しく接してくれたクラスの皆を、失って堪るものか――!」

だから走れ。
たとえ見せかけであれど――――クラスの皆や副会長が褒めてくれた我が筋肉の総てを総動員して、疾走せよ。
彼らだけは死なせてはならぬ。我に出来ることなど限られているであろうが、それでも全力で護りたいと願う。
その過程で虐げられている者や他者を虐げている者がいるのならば、我がこの筋肉で成敗してみせよう。
他者に虐げられて傷付く者など、我だけで良いのだ。罪のない人々が苦しむ必要は、微塵もない。

そうして脳内に幾重にも思考を積み重ねている内に――もしかしたら軽いパニック状態になっていたのかもしれない――気が付けば駅に辿り着いていた。

                             †

麻生嘘子は考える。
明智光秀を自称する謎の少女――――彼女は果たして、何者なのだろうか。
勝手に信長だと思い込まれたことで保護されたまでは良いが、彼女の素性が解らなければ騙し続けることは困難である。
何故か本能寺の変について間違えて覚えているようだし、なにより彼女のことを知っておかなければ信長として振る舞うことに支障が出るだろう。
とはいえ、彼女はあまり自分語りをしてくれない。口を開けば信長様、信長様ばかりで――だからといって下手に詮索をしてしまえば自分の嘘が発覚する可能性もある。

(それに普通にしていればいい人っぽいのよね……)

まだ知り合ってそれほど経っていないが、嘘子には彼女があまり悪い人には見えなかった。
お腹が減ったと独り言を漏らした直後に笑顔で食料調達を申し出てくれたし、それ以外でも何かやたらと気遣ってくれるし――――。
何より信長について嬉しそうに語る時の彼女が悪人だとは思えない。最初に出会った殺戮者――フランクリン・ルーズベルトとは全く違う雰囲気だし、やはり殺し合いで変な気を起こしているだけで、元はいい人なのだろう。
だから自分が信長だと嘘を貫き通した上で、彼女を説得することさえ出来れば――――改心して元の善良な少女に戻ってくれるのではないだろうか。
麻生嘘子は嘘が得意だと自負している。事実、自ら吐いた嘘で兄を怪物染みた人物だと周囲に思い込ませることに成功しているではないか。
兄と自分が共に生き残る道はそれしかないのだから、迷う意味もない。そう嘘子が決意をしたと同時に。

「信長様、食料をお持ち致しました! どうぞ存分にお食べください」

元気な声と共に満面の笑みで食料調達を済ませた光秀とのぶのぶが帰還した。
おにぎりやカップラーメンから、ポッキーなどのお菓子まで――様々な食料がデイパックから取り出される。
その中から適当に何か食べようとして――数個だけ市販のものとは思えない、ラップに包まれたおにぎりを見つけた。

「……これはなんじゃ?」
「そ、それはその……」

嘘子がおにぎりを手に取り問い掛けると同時に急にもじもじとする光秀。
なんだこれ。おにぎりを食べようとしただけでどうして恥ずかしそうにしてるんだ、この人。

「食料調達へ行った際、米があったので……の、信長様の為にと思って作ってみたのですが……。
 よ、翌々考えてみれば、そんなものを信長様にお渡しするなんて無礼にも程がありましたっ。だからその……ししし、失礼しましたぁあああ! 私はとんだうつけですぅぅうう!」

手作りおにぎりについて追求されたことで気分を害したのだと勘違いしたのか、光秀は土下座で必死に謝り始めた。
ただそれだけならば信長ロールで手厳しく返すのが無難なのかもしれないが、よく見れば涙目になっている。
史実の明智光秀であればこの程度で泣かないだろう――と思うがロールプレイを忘れて泣き出してしまうほど、本気でおにぎりを作ったのだろう。
おにぎり自体は特に不味そうには見えないし、形も悪くない。他の食料と違い、ほかほかと温かいソレには寧ろ食欲がそそる程だ。
光秀が理想とする信長を演じる為。そしてなんというか、ずっと泣かせっぱなしも悪いからと嘘子はそのまま手作りおにぎりを食す。

「……おいしい!」

それは偽りなどでなく、信長と演技すらも忘れて素でおいしいと思った。
普通のおにぎりの中に梅干しが入っているだけなのに、何故か解らないが異様に美味しい。
普段ならば梅干しなんて大嫌いな食べ物なのに、一つ食べ終わるとすぐに次へ取り掛かってしまう。

「そ――それは何よりです!
 ほ、他にも目玉焼きなど作ってありますので良ければ存分にお食べください!」

377偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:22:28 ID:7FzzBVeg0

光秀は褒められたことが余程嬉しかったのか、ぱあっと明るい表情で目玉焼きを差し出した。
姿形はどこにでもある目玉焼きだというのに――やはり此れも、かなり美味しい。料理人だと云っても通じる味だろう。
おにぎりと目玉焼きという質素な組み合わせであるのに、どこか高級レストランで食事しているように錯覚してしまう程だ。

「流石は我が忠臣。最高の料理で腹もふくれ、余は満足じゃ」
「ふぁいぃいい! 信長様が私にそのような勿体無いお言葉を……この光秀、感激の至りですぅうう!」

うんまあ、やはり予想通りの反応というか。
うっとりとした表情をした光秀の頭を撫でてやると、すぐさま彼女の頬が真っ赤に染まってゆく。
犬を自称するだけあって、なでなでされるのが好きらしい。こーたに対して犬みたいなもんだなんて言ったが、光秀を自称する少女はそれ以上に犬っぽくて、流石の嘘子も苦笑い。
でも彼女の料理が美味しいということは本当だし、あまり悪い気はしない。
ルーズベルトの襲撃、こーたの死、光秀を自称する謎の少女と遭遇――衝撃のイベントが立て続き起こったことで精神が疲労していたが、こうして平和な時間を過ごしている間は少し安心できる。
嘘で繋がれた偽りの関係ではあるし、問題は山積みだが――それでも今この時ばかりは光秀に出会えたことが幸運だとすら思えた。
こういう些細なことから互いの信頼を積み重ねれば、意外とあっさり光秀も正気を取り戻してくれるのではないか? そう考えずにはいられない。

「現代に蘇った後、信長様の生還を信じてはなよ――料理修行をした甲斐がありました! こうして信長様に褒められることが、何よりの幸せですぅ……!」
(えっ今この人、花嫁修業って言いかけなかったかしら)

いくらなんでももうとうの昔に死んでいる人物を相手に花嫁修業って――まあそういう設定なのだろう。散々と兄の設定を盛ってきた嘘子には、やたらととんでも設定を語る光秀の気持ちがわからないでもない。
もしも出会っていたのがこんな場でなければ、意外と仲の良い友達になれたのかもしれない。皆殺しだとか、そういう物騒なことさえ言わなければ基本的に好感のもてる人物だ。美味しい料理を作ってくれるし。

「わう」
「ちょ、そんないきなり舐めっ」
「コラ、のぶのぶ! 信長様のく、くくく……口を舐めるなんてうらやま――けしからぬ!」

流石に口を舐める行為に苛立ちを隠せないのか、のぶのぶを抱えて強引に引き離す光秀。
のぶのぶは少しだけしょんぼりした顔をしたと思えば、今度は己が入っていたデイパックをとん、とんと叩き始める。
何事かと首を傾げる嘘子だが、何か心当たりがあったのか水が入った瓶を取り出す。ユメミルクスリ――まるで麻薬の様な名前の道具だ。
平凡的日常生活を送っていた嘘子が使うには程遠い代物だ。こんなものを使ってはいけないという常識は、小学生の嘘子でも知っている。
ゆえにそのままデイパックへ戻そうとするが、興味深く瓶を観察している光秀が目に入り、少し苦笑い。

「……飲んでみるか?」

じーっと眺めている光秀にユメミルクスリを投げ渡すと、彼女は喜んで口に入れた。
嘘子としてはこんなもの絶対に口にしたくないし、あまり観察されても落ち着かない。
その結果がどうなろうと知ったことではないが、所詮はただの水か麻薬染みたものだろう。説明書が色々と怪しいが、こんなものは嘘に決まっている。

                     ♂♀

ユメミルクスリは、狂人の願いを元に能力を与える魔法の薬だ。
一見便利にみえる薬だが、その実かなり扱いづらい。狂おしいほどに心の底から渇望していなければ能力は生まれないし、与えれる能力も特別優れているわけではない。
一芸に特化しているゆえに並の魔術程度かそれよりそれを少し上回る程度の能力は得られるが、所詮はそれだけ。
様々な魔術を多彩に操る魔術師と比較して明らかに劣っているし、同じ一芸特化で比較しても魔力を有し鍛錬を積んだ魔術師の方が強くなりやすい。

明智光秀は、本能寺の変を悔いている。
今度こそ織田信長の命をお護りしたいと、彼の為に戦いたいと狂おしいほどに恋している。
生前は焰で焼き払われてしまったが――ならば今度は、その焰を意地でも食い止めてみせるだけ。
さて。ここで本来なら水の能力を与えるのが当然であるが、ユメミルクスリは捻くれている。
故に彼が与えた能力は――――。

378偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:25:21 ID:7FzzBVeg0
                     ♂♀

扉を開けた刹那――先ず目に入ったモノは、騒がしい電子音と共にチェーンソーを振るう少女だった。
何の対策もない状態であれば直ぐにあの世へ送られてしまう厄介な代物であるが――されど、今の我には問題ない。
チェーンソーに恐れることなく、丸太の様に極限まで膨れ上がった左腕を盾に用いて、右手に拳骨を。
受け止められた刃が幾重にも回転、夥しい量の血肉が撒き散らされるが――この程度の痛みは、苦痛ですらない。

「ふんッ!」

全身全霊の気合いと共に右手の拳を振りぬき、少女の腹を捉える。
吹き飛ばされる少女。手加減をしたつもりではあるが、これで数時間は起きないだろう。
その間に我に対して怯えている金髪の少女に事情を――――とはいかないようだ。
なんと我の拳をまともに受けた少女は、平然とした状態で立ち上がっていた。それもあろうことか、傷一つすら負っていない状態で――何がどうなっている!?

「使い慣れぬ武器とはいえ、私の一太刀を受け止めるとは――――貴様、何者だ」
「金本優。見ての通り、どこにでもいる一介の女子高生だ。尤も現在はドーピングで身体能力が上昇している状態ではあるが、な」
「信じられぬ。普通の女子高生が、この明智光秀の攻撃を防ぐなど有り得ないっ!」

再度、チェーンソーによる猛攻。
一撃で仕留めることを諦めたのか、豪雨のように次々と連撃が降り掛かる。
どうにか全て受け切ることが出来れば良いが、喧嘩の経験が乏しい者が、これらを一つ一つ受け止めるのは難儀だ。
だからといって躱すなど論外。我は所詮筋肉しか取り柄がない存在であり、速さや技術は圧倒的に向こうが上だろう。この鈍重な肉体で躱せるとは到底思えない。
故に防御部位を、急所たる首から上のみに集中。無防備な身体を何度も何度も刃で斬りつけられるが、ここへ来る直前に施したドーピングで膨れ上がった筋肉は、この程度で千切れない。
そして放つは、右廻し蹴り。円を描く様に大袈裟に足を振るうことで、敵対者を強引に払いのける。
華麗に宙へ舞い、距離をはかる少女。明智光秀を自称しただけあり、その動作には無駄がない。
されど、どの様なプロでも隙というものは存在する。少女の着地と同時に拳を振るう為に両手で拳骨を作り、突進。命まで奪うつもりはないが、気絶程度はしてもらう――ッ!

「その蛮勇は賞賛に値するが――甘い」

それは――――信じられない現実(ゆめ)だった。
いや――これは果たして、夢なのだろうか? 現実なのだろうか? 空を蹴り、猛突進する少女が、現実に存在するというのだろうか?
あまりにも現実離れした光景に脳の処理が追いつかず――――気付けば左肩にチェーンソーが突き立てられ、その大部分が抉り取られていた。
咄嗟にがら空きの銅へ右の拳を振るうが、躱される。蹴りを見舞うが、躱される。
次いで両拳でラッシュ。躱される、避けられる、防がれる。

「苦し紛れの連撃か――哀れなものだ」

ラッシュを躱す際、身を屈めていた光秀がチェーンソーを切り上げる。
連撃ではなく、一撃を意識した斬撃。襲撃者に対する咄嗟の行動ではなく、最善のタイミングで描かれる一閃。
それは攻めに意識を集中していた優の左腕が砕け散り、尋常ではない量の血飛沫が円を描く。

「ぐ――――ッ!」

めまぐるし状況の変化。全身を支配する鋭い痛み。光秀を名乗る少女の非現実的な猛攻。彼我の圧倒的な戦力差。
生存本能が、逃げろと警告を訴えている。足が震え、全身が小刻みに震え上がり――――。

「―――――喝!」

されど負けじと気合い、注入。
ここで逃げてどうするのだ。英雄(ヒーロー)はここで逃げては、ならぬだろう。
それに、この出血だ。どうせ逃げても死ぬのならば、せめて最期に己が生き様を刻み付けてやろうではないか。
後悔はない。一度は自殺を図り、会長と副会長に救われた身だ。学園の皆が、1人の人間として蘇らせてくれたのだ。

「〜〜〜〜〜ッ!」

言葉にもならぬ少女の絶叫が、聞こえた気がした。
この地獄に耐え切れなかったのだろうか。見れば涙を流して、震えている金髪の少女がいるではないか。
優は彼女を一瞥すると、この絶望的な戦況に屈することなく前を見据えて、ポケットに隠し持っていたドーピングを更に注入する。

379偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:26:15 ID:7FzzBVeg0

「……信長様?」

信長だと思い込んでいる者の奇行に、光秀が疑問符を浮かべる。
彼女の知る織田信長であれば、この程度で泣いたりはしない。寧ろ、喜ぶ筈である。
では何故、この少女は泣いているのか。嬉し涙には見えないが――果たして何を考えなさっているのか?
理解不能である。そもそも、信長だという確証はないのだが――本当に彼女は、光秀が恋心を寄せている信長様なのだろうか?

「どうして、泣いているのでしょうか? 私の知る信長様はもっと凛々しく――――」
「―――――それがどうした」

少女の我儘を遮り、前へ踏み出す。
ドーピングによって再構築された細胞が新たな拳を創り出し、今度こそ光秀を殴り飛ばした。
豪快にふっ飛ばしたが――直ぐに立ち直ったことから、ダメージは少ないだろう。外傷もなく、矢張り先と同じく全く通用していない。
だがしかし、得たものはある。拳を打ち据える寸前――氷の膜を盾のように展開しているのが、確かに見えた。
これでチェーンソーを叩き付けられ、腕が不自然に砕け散ったことにも納得がいく。つまり彼女は、氷使いの能力者。

「総てを凍てつくす者、か。ヒーローが戦う敵としては、なかなかに面白い。そしてあまりにも、哀しい能力だ」
「勝手なことを。――――これは信長様の最期を悔い、私が望んだ能力だ。哀しくなどあるものかっ!」
「信長様、信長様と云っているが――織田信長はとうの昔に死んでいるハズだ。お前は何を言っている」
「死しても蘇生する術が、現代には存在する。明智光秀たる私がこうして生きていることが、何よりの証拠だ。そして信長様も、そこにおられるっ!」

そうですよね、信長様っ!と確認する光秀に、嘘子はぎこちない動作で頷く。
彼女は光秀のことを“なりきり病”の人、狂気に満ちた殺し合いが原因で危険な方針を掲げているだけだと思っていたが――まさかここまで強く、あっさりと人を斬る危険人物だとは思っていなかった。
何もない空を蹴るとか、氷の能力だとか――まるで漫画やアニメの世界ではないか。平然と人の腕を切り落とす少女が存在するだなんて、考えたこともない。
こんな狂人を説得するなんて不可能だ。それに少しでも逆らう素振りを見せたら、その瞬間に自分の首が刎ねられるだろう。
だから嘘子は、頷くしかない。それ以外の動作は許されない。自らが吐いた嘘の否定は赦されず、偽りの関係を貫くしか生きる道が残されていない。
その為に筋骨隆々の参加者が犠牲になったとしても、それは仕方のないことで。

「そ……そうじゃ。その無礼者を討ち取れ、光秀ぇ!」

精一杯に偽りの言葉を叫ぶ。
本心では殺したくないが、そうするしか生きる方法がないのだから。

「はい。必ずやこの無礼者めを討ち取ってみせましょう。 ……それでこそ私の愛する信長様ですっ」
「偽りの愛か」
「――――何?」

皮肉を吐き出す優を、鋭い眼光で睨む。
光秀にとって信長は愛しい存在であり、ゆえにこれは偽りではない純愛である。
それを何も知らない筋肉女に偽りだなどと一蹴されて――気分を害さないわけがない。

「我は恋愛経験がない生粋の処女であるが、これだけは断言しよう。――――貴様の愛は、間違っている」

チェーンソーを受け止めて――――軽く触れられた腕に氷が纏わり付き、流れるような動作で繰り出された蹴りに叩き割られる。
されど優は一歩も退くことなく、即座に再生。

「……ほう。では、どこが間違っているのか、訊かせてもらおうか」

優の再生力は驚嘆に値するが、それ以上に愛を否定されたことに腹が立つ。
ゆえに光秀は、己が純愛の何処が間違っているのか問うた。

「残念ながら、それは我にも解らん。先程も言ったが、生憎と恋愛経験が皆無の処女だ」
「ふざけているのか?」
「そうだな。我はただ、己が英雄(ヒーロー)の信じる愛を至高の形だと信じているに過ぎない。他人から見れば、巫山戯ていると思われても仕方のないことだ」

それは自分の主義主張ではないけれど。
絶望の淵に沈んだ優に手を差し伸べ、人生を変えてくれた副会長(ヒーロー)の語る愛は夢と希望に満ち溢れて、これぞ正しく真実の愛だと応援したくなったから。
だから――――他者へ一方的に押し付ける、まるで虐めの様な行為を愛だと云うのならば、己が拳で打ち砕くのみ。
自分勝手だといえば、そうだろう。愛の形は色々とあるだろうし、光秀の愛も間違ってはいないのかもしれない。
されど優は、ツバキの語る愛を信じたいが故に。一方が苦しむ愛など、そんなものなどあってはならないと思うが故に。

380偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:26:48 ID:7FzzBVeg0

「そうか。ならば死ね、我が愛(ゆめ)の邪魔をする外道めがっ!」

拳とチェーンソーが真正面から激突する。
ドーピング効果で飛躍的に身体能力が上昇、膨大な筋肉はチェーンソーの刃に対抗し得る武器と化すが、それでも何度も切り裂かれる。
そのたびに再生と再構築が目にも留まらぬ速度で発動、観客たる嘘子にはまるで均衡しているようにすら見えた。
しかしその鍔迫り合いも一瞬の出来事。次の瞬間には優が空いた左拳を、無防備な銅へ叩き込もうとするが――光秀の足元に即席で作られた氷柱が現れ、躱される。
天高く伸びた柱から飛び降り、唐竹割り。優は咄嗟に迎撃態勢として両拳を構え、腰を据える。
再度、ぶつかり合う拳と刃。骨と金属が奏でる不協和音が戦場へ鳴り響き、地獄に耐え兼ねた嘘子が耳を塞ぐ。

「謂われなくとも、我は死ぬ。―――いや、とうの昔に私という人間は死んでいたハズだった」

あの日、自殺を止められていなければ――間違いなく自分は、この場に居ないだろう。
虐げられた心は絶望に塗れ、人間を嫌悪した。この世を憎み、いっそ死んでしまえば楽だと思った。
けれども――――。

「……何を嗤っている?」
「いや――特に意味は無い。ただ単純に、正義の為に我が命を燃やし尽くせることが、嬉しいと思った」
「信長様の覇道を邪魔する輩が正義だと――――嘲笑わせるっ!」

貴様のしていることは、ただの自己満足に過ぎない。
信長様こそが正義であり、信長様を勝利させる行為こそ我が愛の証明。
故に消え去れ、邪魔者め。正義を自称するのならば、真の正義と愛の為に、此処で死に晒すが良い――――!

「ああ。奇遇にも、我とお前は少しだけ類似点がある様だ。我もまた、英雄(ヒーロー)に憧れ、彼の語る価値観を正義だと信じている。
 それに――――恋愛や友情は互いに尊重するものだ。他者に強制して虐げるなど言語道断」
「何を言っている。私はただ信長様の為に――」
「そこにいる娘は、織田信長ではないだろう。彼女はどう見ても、怯えている」

此度の鍔迫り合いも一瞬。
光秀はどこか哀れな者を眺めるような瞳を向ける敵対者を蹴り、距離をはかる。
そして彼女が敬愛する信長様を一瞥して――――驚愕した。
のぶのぶの背後に隠れる様にして耳を塞ぎ、愕然とした表情で身体を震え上がらせている少女は、光秀の知る織田信長とは程遠い存在であり。
その姿はまるでただの臆病者。天下統一を目論んでいた頃のあの凛々しさは微塵も感じられず、無様を晒しているだけの腑抜け。

381偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:28:52 ID:7FzzBVeg0

「莫迦な……」

信じられない光景を目撃して、瞬時に嘘子へ近付く光秀。
咄嗟に優も走りだすが、追い付けない。たとえ筋力が上がり、細胞が活性化しても脚力は未だ光秀が上回る。

「あ――」

嘘子が呆然と口を開いた。
織田信長を演じることに失敗した。そう気付くまでに、あまり時間は掛からなくて。
だからといって出鱈目な言い訳を垂れ流しても、状況が悪化するだけだろう。
ゆえに嘘子は何も語らず、塞いでいた耳から手を離して光秀の言葉を待つ。

「信長、様? いったいこれは……何をなさっているのですか?」

思いの外、声が小さい。
されどその瞳に宿る信愛なる愛は僅かに揺らぎ、代わりに疑問が満ちている。
光秀自身は気付いていない、無意識的な行動ではあるが――嘘子を値踏みする様な。本当に信長なのか、観察する様な鋭い視線。
彼女は盲目的に嘘子を信長だと思い込んでいたが、此度の行動はあまりにも自分の知る信長様とかけ離れすぎていた。
溢れ出るばかりの勇ましさ、凛々しさが感じられず、代わりに厭というほど臆病さが伝わる。
再開した際に提案した平和的な解決法――これはまあ、心境の変化だと理解することも出来なくはない。事実、光秀もアイドルとして平和な生活――それでも日々の鍛錬は欠かさなかったが――を送っていたのだから、信長も似たようなものだったと考られる。
だがしかし、こうして戦に怯えるこの態度は、あまりにも信長らしくない。たとえ平和ボケしていたとしても、かつて天下統一を目論んでいた至高の益荒男が、こんな醜態を晒すハズがない。

「それは……」

解らない。
どんな嘘を吐けばいいのか、思い付かない。
いや思い付かないというよりも――――この状況で平然と嘘を吐くことが難しい。
一歩間違えれば殺される。変な解答をした瞬間、嘘子の首は銅から切り離されているだろう。
平素の振る舞いこそ恋する少女の様であるが、光秀とて立派な武士。女子小学生如きが容易に手綱を握られる筈もなく、目前へ迫る死に怯え、思考が乱れる。

「答えられないのなら――」

愛しい信長様ではないと判断して、殺す。
そう脅し文句を言い掛けた刹那――丸太が飛来していることに気付いた。
本来の光秀では有り得ない失態。咄嗟に払い除けようとするが、剛力で投げられた丸太は既に目前まで迫っており。
着弾と同時に光秀は、驚いた。何故ならそれは丸太などではなく――――太く逞しい、優の腕だったのだから。

「狂っている……ッ!」

引き千切れた再生中の左腕を一瞥して、光秀は吐き捨てた。
いくら再生能力があるからといって、迷い無く自らの腕を引き千切り、それを投擲するなど狂気の沙汰だ。たとえ再生するとはいえ、その痛みは想像を絶するものだろう。
戦乱の世を駆け抜けた光秀ですら、ここまでイカれた狂人は見たことがない。何の力もない小学生を助けるという行為自体は英雄的だが、手段はまるで怪人のソレだ。

「――――おおおおおおおッ!」

――――だがそれでも構わない。他者に虐げられ、裏切られ、利用され――――そんな人々を救うことが出来るのなら、怪人だと罵られても構わない。
着弾と同時に追い付いた優が、疾風怒濤の勢いで光秀へ拳の散弾を叩き込む。
それはまるで乱射。喧嘩慣れしていない経験不足の射撃手であるがゆえに狙いが定まらず、されどその気迫は本物。
しかし光秀は恐れることなく、余裕を保った態度で冷静に躱し、度々命中する拳は氷の防壁で痛みを和らげる。
両者の戦力差は絶望的であり。百戦錬磨の武士を相手にこれまで戦と無縁であった女子高生が互角の勝負を演じられるほど、戦場は甘くない。
拳を振るうたびに、激痛が奔る。視界が次第にぼんやりとしたものへ変化してゆく。ドーピングの副作用が如実に現れ始めた証拠だろうか。
されど諦めることなかれ。“英雄(ヒーロー)が諦めない限り、そこに必ず希望は存在する”――――陽太の師匠が番組で語っていた言葉を脳裏に思い浮かべて、戦闘続行。

「のぶのぶっ!」
「わんっ!」

主人の言葉に応じたのぶのぶが、優の左脛を噛み千切る。
片足に大打撃を与えられたことで途端に態勢が崩れる少女。瞬時に氷の刃を形成した光秀が、容赦なく優の手足を斬る。
彼女の能力は本能寺の変に起因された“護る為の能力”であり、応用性は高くとも攻撃にはあまり向いていない。空に膜を張ることで通常では有り得ない動作を行う、単純に防壁として用いるなど、戦闘補助として扱うのが本来の使い方ともいえる。
ゆえに武器の形状を保つことが出来る時間はほんの僅か。敵対者を斬り裂き、役目を果たした刃は溶けて消え去った。

382偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:32:19 ID:7FzzBVeg0
のぶのぶと光秀、二人のコンビネーションが可能とした流れる様に見舞われる連撃。人体へのダメージも甚大であるが、それ以上に常人であれば耐え切れぬ程の痛みが襲うに違いない。
もっとも此度の相手は常軌を逸した狂人であり。彼女が往生際悪く再生――――再び立ち上がろうとすることもまた、光秀が想定していた通りの展開。

「な――」

だから。
それを計算していたからこそ、敢えて氷の刃で斬ったのだ。
不屈の根性は認めよう。不退転の決意は、過去に刃を交えてきた武士達のソレとよく似ている。実力こそ圧倒的に劣る相手だが、その精神だけは立派な狂人(ヒーロー)である。
己が真愛を否定する点は気に食わないが――――誇らしき挟持を示した戦士を甚振るつもりは毛頭ない。ゆえに多少なりとも楽に逝かせてやるのが、せめてもの手向け。
のぶのぶに噛み千切られた左脚以外再生しない事実に驚愕する優を確認して、刃物状の氷を生成。嘘子に手渡す。
氷の刃による斬撃で凍結した細胞は、暫く再生しないだろう。この状態で信長に危害を加える事は不可能だと判断しての行動だ。

「――――もしもあなた様が信長様だと云うのなら、この氷で敵対者を殺して下さい」

つまりそれは――――殺人者になれということで。
こーたを殺したルーズベルトと同類に成り下がれという命令で。
真剣な面立ちの光秀に告げられる言葉の意味を理解して、手足が更に震える。
嘘子は明智光秀という少女を侮りすぎていた。普段通りの要領で嘘を吐いたコトを後悔しても、もう遅い。
他者を殺害して生きるか、拒否して諸共殺されるか――――選択肢はその二つしか残されていない。
それも殺す対象は、嘘子を救う為に果敢に強敵へ立ち向かった勇気ある英雄であり。特別親しいワケではないが――――彼女を殺すコトは、言うなればこーたを殺す様なものである。
優しい者から死にゆく理不尽な世界に嫌気が差すが、それでも麻生嘘子は生きたくて。だから、殆ど達磨と同等の存在に成り果てた英雄へ駆け寄った。

「こーた……」

処刑対象の少女が処刑者、嘘子へ向けた瞳はやっぱり優しくて、どうしてもこーたの最期を思い出してしまう。
知り合ったばかりの嘘子を護る為に命を投げ出した彼もまた、優しい人間だった。

「幸太? それはもしや――山村幸太か」
「え!? そ……そうだけど」

何故、この少女がこーたの名前を知っている?
嘘子は疑問を浮かべるが、仰向けに倒れたまま穏やかな表情で空を見上げる少女は、何かを悟っている様だった。

「既に殺されていた――か? もしもそうならば、彼はどんな最期を迎えた」
「それは……」

言葉に詰まる。
よく見れば少女は兄やこーたが通う学校の女子制服で、きっと知り合いなのだろう。
自分を庇って死んだ――などと言えば怨まれるかもしれない。相手の状態からして嘘子が殺されることはまず有り得ないが、恨み言を吐かれるに違いない。
そして自らの知り合いを犠牲に生き延びた少女を助けようとした行為に苛立つのだろう。彼女は最悪の最期を迎えるのだろう。

「い――生きてるわ。こーたはあたしの犬みたいなもんなのよ、生きてるに決まってるじゃない!」

ゆえに麻生嘘子は嘘を吐く。
まともに拳を振るうことも出来ないであろう参加者が呪詛を撒き散らしたところで何かあるわけではないが、自分を助け様とした優しい人が絶望に塗れて死ぬのは気分が悪い。
無論、この程度の嘘で救えるとは思っていないし救うことは不可能だ。生きるには殺さねばならないし、この少女が死を恐れないとは限らない。所詮は嘘子のエゴだと云われれば、そうだろう。
されど嘘を聞いた優は僅かに一笑して。

「そうか。それは、よかった」

ナイフを手にした少女の言葉は話し方からして簡単に見破れるものだが、優しい嘘だと思った。
一瞬言葉に詰まった時点で既に山村幸太の死は察せられる。どんな最期を迎えたのか不明であるが、きっとこの少女に多少なりとも好かれていたのだろう。
彼の死亡が恋人の花巻咲に良からぬ影響を与えなければ良いのだが――果たしてどうなるのか。もしも道を踏み外してしまったのならばどうにかして戻してやりたいが、金本優の死は揺らがない。
既に道を踏み外しているであろう明智光秀を名乗る少女を、正しい道へ引っ張り戻してやりたかったが、この状況ではもう厳しいだろう。
ゆえに託す。会長に、副会長に、駆に、あざみに、敦信に、桃子に――――信じられる者たちだからこそ彼らに託せば安心だと心から思える。

だから優は、立ち上がった。いや立ち上がったというよりも、一瞬だけ起き上がった。
その動きはゾンビのようで、嘘子は恐怖に震えるが――――体勢を維持できない優は必然的に少女へ凭れ掛かる様に斃れる。

383偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:33:56 ID:7FzzBVeg0

「え……」

ぬるりとした生暖かい感触に愕然と自らの手元を見つめる嘘子。
恐怖から咄嗟に突き出した刃物が優の心臓を貫き、止め処なく鮮血が溢れ出していた。
これは嘘子にとって想像もしていない事故の様なもので、彼女に非はない。優の自分勝手な行動が原因であり、嘘子は反応することも出来ずに呆然と立ち尽くしていただけである。
だのに罪悪感が止まらない。どれだけ嘘を吐こうとしても、不本意であっても。他者を殺したという重罪を犯した事実に変わりはない。
そもそも嘘子は優を殺す為に近付いたのだし、不本意ということは言い訳にならない。罪を犯すことが厭ならば、生きる為に殺そうと近寄ったこと自体が間違いなのだ。

「……済まない。だがこれ以外の解決策が、我には思い浮かばなかった」

光秀に聞こえない様に小さな声で優が囁き、謝罪する。
生き永らえさせる為とはいえ、殺人の少女に罪を背負わせてしまった。これで英雄を気取っていたなど、お笑いだ。
きっと会長や副会長、クラスの友人たちや憧れのヒーロー達ならばもっと賢い方法を選択していただろうが、優はそこまで賢くない。
長年の虐め経験で他者に嫌われ、憎まれることには慣れている。無論それは多大なる苦痛を齎し、ゆえに彼女は自殺一歩手前まで追い詰められたのだが――――今回は不思議と、苦痛を伴わぬ決断だった。
彼女はあまりにも、優しすぎたのだ。かつて友人の為に自らが怪人となった英雄も居たと云うが、皮肉にも彼女の行動は正しくその英雄像に合致している。
尤も優の場合は嘘子と出会ったばかり、それもまともに会話していないので英雄というよりは狂人。過去に虐げられたことが起因して英雄に焦がれたいじめられっ子の末路であり、無力な一般人を命懸けで救った英雄の最期。
最期まで運命に翻弄された哀れな存在ともいえるが、されどそんな滑稽なる道化を嘲笑う者は誰もいない。彼女は己が蛮勇を胸に無謀なる戦へ出陣した立派な戦士。それを嗤うことは武士道に反する。

「――――明智光秀。お前が間違った覇道を突き進む限り……ヒーローは、屈さない!
 悪しき野望(ゆめ)を砕き、必ずお前を正しき光へ、導いて、みせ、る」

僅かに残された命を振り絞り、少女はこの期に及んで夢物語を語る。
そこにはテレビで放送されているヒーローに限らず、会長や副会長も含んでいて。
確固たる信念もなく生きてきた自分と違い、彼らなら光秀を止められると信ずるからこそ、断言出来る。

「そこまで云うのなら、問おう。貴様が信ずる至高の愛を語る英雄の名を」
「我が高校の副会長……愛島ツバキ。我は恋愛に疎いが、彼ならその歪んだ愛を……本物の、愛、に……」

己が最も信じる英雄の名を残して――――少女は絶命した。
その表情は苦痛に歪むこともなく、然と希望を見据えたままに。

「敵ながら、天晴。狂ってはいるが、その蛮勇と忠誠心は実に素晴らしいものであった。
 ゆえにその誇らしい最期を尊重し、貴様の信ずる愛島ツバキと果たし合い、どちらの愛が本物であるか決着をつけよう」

自分の愛こそが至高であり、偽りではないと信じているが、この少女が憧れていた人物には興味がある。
それに二つの異なる意見があるのならば、戦で互いの愛をぶつけ合えば良い。一切の手加減をしないゆえ、その至高の愛とやらを存分に魅せてみろ。

「――少々、疲れたな。まさかここまで、疲労するとは」

此度の戦は盾の生成を数度、超人的な動作を可能とする為に薄い氷の足止め場を作り、刀とナイフの生産を各一度ずつ。
あまり大した使い方をしていないのに、それに見合わぬ想定外の疲労。これは魔力の代わりに体力を消費していることが原因であるが、本人は何も知らない。
だが自分に与えられた能力が諸刃の剣だということは理解出来た。特に刀の生産以降に疲れが一気に増したことから、あれは特に使い所を見極める必要がある。

384偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:35:06 ID:7FzzBVeg0


「……」

二人の戦士が言葉を交わす傍らで、真紅に染まった氷も溶けて、無手になった嘘子は呆然とやり取りを眺めていた。
たった今死んだ優しい少女の言ったことなんて、所詮はひなと同等の夢物語だ。
この世にテレビ番組で活躍している様なヒーローなんて存在しない。兄の様に噂を広めることで超人然とした人物像に仕立て上げることは出来るが、実際はただの人間である。
それにたとえ愛島ツバキがどれほど凄い人物でも、この明智光秀気取りの少女に勝つことは不可能だろう。一見激戦にみえた先の戦闘も、終わってから彼女の姿を眺めてみれば全く傷が残っていない。
絶望的な戦力差。素人が超人的な身体能力を得ても覆すことが出来ない、圧倒的な技術。一般人や剣道で優秀な成績を収めた程度の人物が束にろうと、彼女に勝つことは到底無理だ。
明智光秀を語っている辺り剣術に自信があるのだろうが、剣もなしでこの実力なのだから恐ろしい。

それに。もしもヒーローなんて存在と遭遇してしまったら、嘘子は殺されてしまうかもしれない。
万が一に光秀に勝利したとしても、正義の味方は罪を犯した殺人者を容赦なく成敗することだろう。
光秀より実力の劣る相手だったとしても、まずは殺人に手を染めた弱者の自分から狙って殺される可能性もある。
何よりも殺人を犯したという罪悪感。ヒーローが訪れてハッピーエンドをプレゼントしてくれても、この罪悪感は永劫消えることはないだろう。
果たして嘘子はそれに耐え切れるだろうか? 心臓を刺した際の感触は、今でも然と覚えている。思い出したくもないが、忘れられない。
だから。そんな未来を否定する為にも、光秀と共に悪人として開き直るという道もある。
一度虐殺を肯定してしまえば、後は楽かもしれない。どうせ生き残るには、自分と光秀以外の全参加者を殺さなければならないのだ。
何の罪もない人を殺してしまった以上、今更何をしても平和な日常には戻れないのだ。ならば悪に染まるのも、有りではないだろうか。
麻生嘘子は、迷い続ける――――。

【金本優 死亡】


【B-2/駅・待合室/1日目/黎明】


【麻生嘘子@アースR】
[状態]:不安、罪悪感、迷い、膝にけが、精神的疲労(極大)
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:のぶのぶ@アースP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。でも今のままだと…
2:この人なんなの…とりあえず信長のフリしなきゃ
3:ひながいることに驚き
4:こーた…犬とかいってごめんなさい…なんかもっと犬な人が来た…
5:開き直って悪に染まるのもありかもしれない
[備考]
※明智光秀を「変な設定の明智光秀を演じてる狂った人」だと思っています。
※支給品は山村幸太のものと入れ替わっていました。

【明智光秀@アースP(パラレル)】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極小)
[服装]:アイドル衣装
[装備]:マキタのチェーンソー@アースF
[道具]:基本支給品一式、ポケットティッシュ、ランダムアイテム0〜1
[思考]
基本:信長様の軍を勝利へ導く
1:信長様の牙として信長様に仕える
2:信長様とチームが違うなんて考えもしていなかった
3:信長様はしかしどうやら平和ボケしておられるようだ
4:信長様を励ましながら他の参加者を殺戮する
5:信長様と私だけになったところで信長様に殺してもらう
6:そうして信長様を生かすしかもはや道はないというのに…
7:ああでも信長様めっちゃ可愛いなあ金髪ロリとかさあ
8:正直いって超タイプだし愛し合いたいラブしたい
9:でもまずは戦、戦だぞ光秀
10:戦でいいところを見せて、信長様に明智光秀が必要だと思われないと!
11:愛島ツバキと果たし合い、どちらの愛こそが至高であるか決着をつける
12:疲労が激しい武器の生成は出来る限り使用を控えたい。その他、能力は慎重に扱う。
[備考]
※麻生嘘子のことを織田信長だと思いこんでいます
※氷を操る能力を習得しました。体内に存在しない魔力の代わりに体力を消費します
・ただし彼女の渇望=織田信長を護ることに起因している能力である為、氷柱を射出するなど能力自体で直接的に相手を傷付ける、攻撃性を伴う使い道は使用できません。当たった瞬間に氷が砕け散ります
・能力を応用して武器を生成することも可能ですが、刀程度の大きさともなればあまり維持出来ない上に体力の消耗が激しいです。

385偏愛の輪舞曲 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:35:22 ID:7FzzBVeg0

【ドーピング剤@アースF】
筋肉を飛躍的に増大させるドーピング剤。副作用として慢性的な痛みに襲われる。
短時間に複数使用することで細胞が活性化、再生まで行える程になるが副作用が強くなる。

【ユメミルクスリ@アースF】
使用者の根底に眠る願望に起因した能力を与える薬。
ただし病的なまでに渇望している必要があり、これを使用して効果がある者は狂人に限ると言われている。

386 ◆laf9FMw4wE:2015/07/19(日) 16:36:30 ID:7FzzBVeg0
投下終了です

387名無しさん:2015/07/25(土) 23:23:30 ID:VjPT499E0
投下乙
嘘子ちゃん大☆ピ☆ン☆チ

388名無しさん:2015/07/26(日) 17:28:44 ID:VC3CRv.M0
遅ればせながら投下乙です
金本ちゃんのキャラがすごいww武士系ガチムチ女子ww
このキャラの濃さはまごうことなきズガン枠だけどもうちょっと見てみたくもあったなあw
嘘子ちゃんさっそく自分がやばい嘘をついてしまったと知る、でももう戻れない…このシチュが見たかった!
裏目に出た嘘にどんどん深みにはまっていってほしい
そんな嘘子ちゃんを守るために自ら氷の刃を指す金本ネキ、漢だったぜ

389 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:17:23 ID:z1sNcr8Y0
投下します。

390ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:18:40 ID:z1sNcr8Y0
 

 人は、とても簡単に死ぬ。
 今これを読んでいるあなたの隣でも、毎秒数人の命が失われている。
 おとぎ話。絵本。アニメ。漫画。小説。ドラマ。特撮。架空戦記。
 誰かがどこかで描いたその空想がもし、他の世界での真実なのだとすれば、
 あなたが絶対に知ることのできない場所で生きている沢山の命もまた、一秒でいくらでも死んでいる。

 ひとつの世界でN人死んだら、億個の世界ではN億人死ぬ。
 広げれば、広げれば、広げれば。一秒ごとに世界単位で命は死んでいるともいえるだろう。
 これから描かれるのは、そんな世界を因り合わせて作られた世界での、死のおはなし。
 ドミノ倒しみたいに、あっけなく死んでしまう人間たちの物語だ。


////////|病院|


「ただいまー」
「おかえりなさいです」
「おかえり……ど、どうだった?」
「あー、緊急救護室が荒らされてた。やっぱりさっきのは人だったんだねェ。
 相当焦ってたんだろう、銃で扉を無理やり壊すなんてサ。救急箱も無くなってたし、こりゃあ大ごとだ」
「でしたら……」
「ここも安全じゃないかもねェ」

 救急箱だけ取って逃げるなんて、追われてなきゃやらない動作だしねェ――と。
 見回りをしてきた鰺坂ひとみ(アースMG、元魔法少女のOL)は、コールセンターの入口扉を閉めて同行者に状況を伝えた。
 同行者、ラクシュミー・バーイー(アースE、インド料理店経営)と
 ジェナス=イヴァリン(アースF、魔女見習い)は、伝えられた情報にごくりと唾を呑む。
 起きている。
 自分たちがのんびりしている間にも、殺し合いが起きていると、改めて知る。

「……隠れているのも、限界……?」
 
 彼女たちが……いや、この“世界”に連れ去られてきた全ての参加者が、
 イヤホンの説明によってバトルロワイアルを始めさせられてから、四時間が経とうとしていた。
 そんな中でこの三人の女たちは、幸運なほうだったと言えるだろう。
 表だって戦闘する気のない者たちで集まることも、協力関係を組むことも出来ていたし、
 なによりここまで暴威にも脅威にも狂気にも晒されることがなかったのだから。

「ん。そゆことサ。ラクシュミーちゃんのナンカレーを食べるのももう限界だ。移動すんのが得策さね」
「悲しいです……」
「また安全なとこに移動できたら頼むよ。おいしかったし」

 ナースコールセンター控室の机の上にはカレー皿とナンの切れ端が置かれている。
 ラクシュミー・バーイーがありあわせで作ったもので、これを囲みながら和んだ時間もあった。
 辛すぎて火を噴く鰺坂ひとみ、もう無理辛すぎると泣き喚くジェナス、
 だんだんクセになってきた鰺坂ひとみ、無理無理言いながらも手が止まらないジェナス、
 にっこり笑いながらそれを見るラクシュミーなどの光景が、確かに一時間前くらいまでは存在していた。

 だがそれももう終わりだ。病院だからといって安全とは限らない。
 いま鰺坂ひとみは一人で病院内を見回ってきたが、一人で広い施設を見回るなど気休めでしかない。
 最初のほうに見回った場所に、最後のほうになって偶然殺人者がやって来ていたとしても、
 それを検知できないということなのだから――悪ければすぐ、悪いことは起こりうる。

 例えばナースコールセンターのドアが、突然がちゃりと音を立てたりもする。

「!」
「……!」
「ゼビー」『はいな』

 扉外にはあからさまな人の気配。
 三人は構える。

391ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:19:49 ID:z1sNcr8Y0
 
「はー……魔法少女なんてもうやだったんだけどねェ」

 元魔法少女の現OLでありながら、未だ蝿型マスコット・ベルゼビューアとの契約を切っていなかった
 鰺坂ひとみは、襟裏に隠していた彼に声を掛け、さび付いた魔法変身回路に魔力を流す。

「でもその衣装はカワイイと思いますです、ひとみさん」

 転生したインドのジャンヌダルク、ラクシュミー・バーイーは、
 生前に培って今でもキッチンで振るっている包丁(剣)の腕を存分に発揮する蝶の型を取る。

「わ、わたしも……」
 
 病院のトイレに引きこもっていたところを発見されたほどのヒッキー魔女、ジェナスもまた、
 コミュ症の自分を安心させてくれた二人を守るために脳内で呪文を詠唱し始めた。

「嬉しいこと言ってくれるじゃん。……と、来るよ」

 そして扉がゆっくりと開かれる。
 黒い影、比較的大柄、おそらく男――持っているのは剣?
 一番最初にその陰を認めのは扉の一番近くにいた鰺坂ひとみだった。
 十二年前は“最小のマスコットと最大の戦果の魔法少女”と呼ばれていた彼女は冷静に思考する。

 扉の大きさから言って入ってくるのは一人。
 こちらにはひとみとジェナス、2人の遠距離攻撃手がいるし、近距離に持ち込まれても剣術に長けたラクシュミーがいる。
 有利は取れている、はずだ。相手がどんな規格外であろうと、フクロにすれば問題は無い――

「――ひとみさん!!!」

 突然掛けられた声に気付かされる。

 
 自分が見ていた黒い影が、ただの残像にすぎなかったことに気付かされる。


 視界の端に、“侵入者”はいつのまにかもうひとみの隣にいて、
 すでに魔法少女の腹部に向けて一太刀目を浴びせようとしているところだった。
 おいおいちょっと早すぎんだろう。
 せめて考える時間くらいはくれてもいいものを、躊躇もなしか。

「クソが……ァ」

 蝿でもたかるくらいにクソな展開だ、
 そう思いながらも鰺坂ひとみは自分の腹部が両断されていく感覚を味わっていた。
 魔法少女であっても腹部を両断されれば死ぬ。
 これは無理だ、自分はすぐに死んでしまうだろうと、ひとみは逆に冷静に痛みを受け入れた。
 しかしそこは歴戦の魔法少女、
 斬られながらも魔法≪蝿の目≫を展開し、せめてこんな屈辱を浴びせてくれた奴の顔を見てやろうとする。
 だが、それは叶わなかった。

「――ああン?」
「――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」
 
 その男の頭部は、仮面に覆われていたのだから。 


 
_///////|ビル街|



「アイドルをやらないか?」
「あは。面白いジョークですね」

392ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:20:45 ID:z1sNcr8Y0
 
 三階から四階建てほどのビルの立ち並ぶ北東の街の中心部。
 本来ならば車が行き交うために造られたのだろう広い通りを歩く黒髪の乙女の前に、
 すたすたと歩み寄っていきなり名刺を差し出したのはプロデュース仮面(アースC、プロデュース仮面)だった。

「ジョークではない、本気だ。
 様々な世界を渡り歩いて何人ものアイドルをプロデュースしてきた私だからこそ分かるが、
 君には天性の強運と人を引き付けるカリスマというものがある。きっと最高のアイドルになれる。
 私の仮面の裏には君が武道館で一万人のファンを救済している姿がすでに見えているぞ」
「ここが殺し合いの場だってこと、分かっていますか?」

 謎の仮面を被りつつ、深く礼をして頭を下げ、まるで首を自分から差し出すかのような格好の男。
 これに対し黒髪乙女はデイパックから業物を取り出して、舌をちろりと舐めてくすくすと笑った。
 委員長じみた口調の彼女は女学生にして殺人鬼、剣崎渡月(アースR、人殺し)である。
 彼女はアイドルとしてちやほやされるのなんかより、人を斬ってほかほかの血を浴びる方が好きだった。
 獲物を探して街を歩いていたところに思わぬ形でのナンパを受けたが、
 日常的に殺し合いゲームに参加していた彼女にとって、ここでやることは変わらない。

「スカウトは嬉しいですが、返事はノーです。首を斬らせていただきますね」
「待て、剣戟もできるのか? 時代劇アイドル――そういう方向性もあったか、やはり逸材!!」

 手に入れた業物「三日月宗近」を振るい、
 いまだ状況が分かってないらしいプロデュース仮面のいけすかない仮面を叩き割ろうとする剣崎渡月は、

「ん?」

 そこで空気を切り裂くように身近に迫っている“なにか”の音を聞き、肌を粟立たせる。
 まずい。
 即座にバックステップ。
 ワンテンポ遅れて飛来した銃弾は、プロデュース仮面の肩を上から貫き、鮮血をまき散らした。

「む……!!?? なんだこれは……胸のドキドキが急に高鳴ったと思ったら止まった……!?」
「それは多分、スナイパーに心臓を打ちぬかれたんだと思いますよ」
「おお……スナイパーか。スナイパーアイドルも……いいな……」

 最期までアイドルのことを考えながらばたりと倒れて動かなくなったプロデュース仮面を後目に、
 渡月はさらにジグザグにバックステップを取りながら目線を上げて銃口を探す。
 そう、スナイパーだ。
 スナイパーがこちらを狙っている。おそらくは消音付きのライフルで。
 これまで平沢茜という悪魔の下、様々な殺し合いゲームに参加した渡月ではあるが、

「スナイパーはさすがに……二度目くらいですかね? ――っと!!」

 前方視界の右端がキラリと光ったと共に、肩を打ちぬかれていた。
 距離50、四階建てのビルの上から。どうやらかなりの腕とみた。

「あは、惜しかったですね。スナイパーさんの位置は今ので割れてしまいました。
 位置が割られたスナイパーは、狩る側から狩られる側に回る、というのがこの世の中の摂理です」

 ぐいと引き気味だった体を前へ起こして女学生はスナイパーの元へダッシュする。
 彼女は逃げ惑うエサではない。むしろ獰猛なライオンだ。
 殺した数は34。まだ若いからもっと殺せる。
 目指すはいつだったか朝読書の時間に読んだ、自分に似た殺人鬼のスコアである45。

「では、殺人をさせていただきますね」

393ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:21:56 ID:z1sNcr8Y0
 
 東雲駆や麻生叫といった人物たちにはそれでも悲しい過去があったが、彼女には全くない。
 職業学生兼人殺し。
 剣崎渡月という少女は殺すために生まれ殺すために生きている、天性のシリアルキラーである。



__//////|ビル屋上|



(うっそやろ……あかんでしょう。
 俺のスナイプ避けて、しかも位置押さえて、速攻潰しに来るて? 血の気しかないやんけ)

 同時刻、ビルの屋上では近畿純一
 (アースM、エセ関西弁の防衛狙撃手)が頭に手を当てて顔をしかめていた。
 完全に仕留めてあげるつもりで撃ったアサルトライフルは女学生の肩口をかすめただけだった。
 あの女学生、スナイパーからの避け方を知っている。
 銃口を光らせた瞬間に反応速を上げてきたのが証拠だ。間違いなくカタギの人間ではない。
 裏組織のエージェントか、雇われの傭兵か……
 ただの女学生にしては目が据わっているとは感じていたが、厄介なものに手を出してしまった。

「んー、こりゃ辿り着かれんのも時間の問題やな。あー、欲ばるもんやなかったなぁ……」

 むしろのん気に両手を挙げて欠伸すらしてしまうほどに残念な展開だ。
 ああ、幸いにも使い慣れたものに似たライフル銃が支給されて調子に乗ってしまったか。
 あるいは最近知り合いの恋人と遊んだバチでも当たったか。
 こんな早くにピンチに追い込まれるとはなあ、と整髪料で逆立てた頭を掻く。

 近畿純一は欲望のままに生きるタイプで、その点では殺人鬼・剣崎渡月に似ていた。
 肉が食べたいと思えば肉を喰う。銃が撃ちたいと思えば撃てる職に就く。
 眠りたいと思えば任務最中でも寝てしまうし、女を抱きたいと思えば抱く。
 もちろん友人の彼女には手を出さないくらいの義理は持ち合わせているが、それも時と場合だ。
 
 そういう男だから殺し合いに乗るのも躊躇しなかった。
 候補名簿には光一やみゆきの名もあったが、同じチームでなければ殺すと決めた。
 純一なら殺せる。目の良さとスナイプの腕には自信があった。
 どんな敵だろうと遠目からチームを判断し、
 別チームであれば即座に頭を吹っ飛ばしてあげることで、生き残るくらいはできるはずだった。
 それがまさかこんなに早くスナイプに失敗して追われる側になろうとは。

「ま、計算が甘すぎたわな……しゃーない、返り血のひとつでも浴びますか」

 やってしまったものは仕方がないので切り替えることにする。
 純一はビル裏で拾っておいた鉄パイプと、支給された大ぶりのクナイをデイパックから取り出して、
 これから屋上へ上って後ろのドアを開けてくるだろう女学生との戦いに備えて構えを取ろうと後ろを向いた。

「……あ?」

 その首元に突き付けられたのは、変わった刃形状の剣である。
 一般にフランベルジュと呼ばれるその剣波状の刃は、美麗な見た目に反し削り取られるような傷を人体に与える、
 決闘よりは拷問道具に向いている武器であった。

「あー……どちらさま?」

 屋上の扉はすでに開いていた。
 スナイパーへの訪問客はひとりではなかった。
 金毛の野獣が仁王立って、理性に研ぎ澄まされた瞳で純一を見下ろしていた。

394ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:23:05 ID:z1sNcr8Y0
 
「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱しろ、殺人者」

 男はゆっくりと名乗った。それは無慈悲な宣告だった。口答えの時間は、近畿純一には残されていなかった。



___/////|もういちど、病院|



 ラクシュミー・バーイーは動かなくなった鰺坂ひとみの口にナンの欠片を入れてあげた。
 もう一度食べたいと言っていたからだ。
 ただ、追加で作ることは出来そうになかった。ラクシュミー・バーイーもまた、片腕を失っていたからだ。
 ついでに言えば片脚も喪っていたし、先ほどから頭の左後ろのほうの感覚もなかったが、
 料理人のラクシュミーとしてはとにかく腕が片方なくなってしまったのがショックで、店じまいすら考えた。

 扉が開く。

「オイオイ、この匂い成分は……」
「血……死体、ですね……」

 二人の青年が中に入ってきたのを確認すると、ラクシュミーは力なく笑いかけた。

「あの……ラクシュミー・カレーハウス、にいらしゃい、ませ。
 何も出せませんが、ごゆっくり……ど……ぞ……」
「!!」
「だ、大丈夫で――あ、頭が――!!」

 泉で一戦交えたあと病院にたどり着いた青年二名、
 巴竜人(アースH、三乗改造人間)と道神朱雀(アースG、四重人格神見習い)は、
 営業スマイルをしてくれた褐色店員さんの後頭部が鋭利な刃物によって斬り削られ、
 そこから薄血の桃色脳漿が漏れ出しているのを確認すると驚きに打ち震えた。
 見れば、彼女が残ったほうの片膝でひざまくらをしているOLじみた風貌の女性も、半身しか存在していない。
 もう半身は壁に叩き付けられてしまっている。部屋中に血が飛び散っていた。
 部屋中には戦闘痕もあった。
 ナースコールセンターは血の嵐が吹き荒れた戦場ヶ原へと変貌してしまっていた。

「誰がやった!!」

 うつろな瞳で息をする褐色店員に駆け寄ると肩を揺さぶり、竜人が叫ぶ。
 強く話しかけることで意識を保たせようとする。もうすぐ死んでしまうのは明らかだったからだ。
 褐色店員のほうもそれに応えようと口を動かす。
 か細い声で――紡がれたのはしかし、巴竜人の脳をさらに動揺させる言葉であった。

「ひーろー、でした」
「――なっ!?」

 後ろで朱雀も目を見開く。
 ヒーロー?
 それは、巴竜人の職業にも通ずるはずの――。
 
「“仮面のヒーロー”と、“悪魔の剣”……ジェナスちゃんが……危ないです……」

 そこまで絞り出すと褐色の少女、ラクシュミー・バーイーは不自然に前傾し、そのまま崩れ落ちた。
 背中にも深い切り傷があり、そこから大量の血が流れ出ていたのが分かる。
 素人でも分かる。これは剣の傷だ。それもとても大きな。

「竜人さん……」
「悪魔の剣――ヒーロー……? どういう……」
「りゅ、竜人さん、あれを!」

 唯一残った脳をフル回転させて思考をする竜人だったが、それは朱雀の発見に遮られる。
 朱雀が指差していたのはテーブルだった。そこには三人分のカレー皿が残ったままになっていた。
 すぐに竜人も察する。
 ここに今つくられた死体は二つ。
 襲撃者が去ったのだとしても、三つの皿が存在する以上、襲撃前には“三人”いたと考えるのが自然だ。
 加えて最期にラクシュミーが喋った言葉――「ジェナスちゃんが危ない」。

395ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:24:16 ID:z1sNcr8Y0
 
「もう1人……居た? 逃げてるってのか?」
「た、――助けにいかない……とッ!?」
「ああ! ん……朱雀、どうした?」

 ヒーローとして意気よくナースコールセンターを後にし、救助者の下へ向かおうとよした巴竜人は、 
 朱雀の様子が急におかしくなったのに気付く。
 胸を抑え、苦しそうな表情。
 ……まさか。

「ごめん、竜人――また人格が変わるみたいだ――!」
 
 
 
____////|ビル屋上|



「あは、先客がいたんですね。でも良かった。おじさま、刃ごたえのありそうなオーラが出てますね」

 薄紫の空の下、女学生が日本刀を構える。

「――なぜ殺す?」

 広い空を背に金毛の尋問官は無感情に問う。対峙する女学生はクールに返す。

「殺したいからです」
「……」
「一番が好きでした、昔から。勉強も運動も、誰かに負けるのが嫌で嫌で。
 人より上でありたい・人より下でありたくない・人を下していたい。人間の本質的な競争欲ですけれど。
 私はそれを抑えなかった。抑えようとしなかった。でも、あるとき気付いてしまいました。
 人を殺すということは、自分がその人より永遠に上であると示す行為であると言うことに」

 仮に人生がリレーだとするならば。
 殺した人からはもう抜かし返されることは絶対にありませんから。
 淡々と女学生はそんなことを言った。

「なので――あなたも殺して、永遠の上位を手に入れるんですよ」
「そうか」

 ラインハルトもまた淡々と頷き、再確認したとでもいう風に呟いて、フランベルジュを振るった。

「やはり、人間は無価値だ」

 剣と刀の合わさる甲高い金属音は殺し合いの合図だった。



____////|数分後のビル下|
 
 
 
 黒いドレスの少女が走っている。かと思えば消える。
 一瞬後、3mほど先に現れ、また走る。
 ジェナス=イヴァリンは魔法に関してはかなりの才能を持っていた。
 人付き合いの才能と反比例するくらいそれは強い才能で、彼女は齢16にして特級魔法までマスターしていた。
 ファンタジー世界でもなかなかお目にかかれない、ショートワープの魔法が使えるのも才能あってこそだ。

「……ッ! ……ぅぅううッ!!」

 しかしジェナスの表情からは才能ある者特有の優雅な雰囲気など一ミリも感じられない。
 なりふり構わず走るその顔は涙と汗と鼻水と涎で汚れていて、生きること以外のすべてを後回しにしている。
 それほどに追いつめられていた。 
 追われていた。命を狙われていた。殺されかけていた。

「ぅ……え!?」

396ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:25:43 ID:z1sNcr8Y0
 
 そんなジェナスの目の前に現れたのは死体である。
 頭がトマトめいて潰れた落下死体。
 顔が原型をとどめておらず、細身の男だということくらいしか分からなくなっているそれが、
 奇跡的に地面に刺さったかのように逆直立した状態でぷらぷらと手足を揺らしながらジェナスを出迎えた。
 ショックを受けざるを得ない光景に足がブレーキを勝手に掛ける、


「――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」


 その瞬間、背後に近づいていた“ヒーロー”が、言語無き鋭角な叫びを伴いながら黒の魔少女に襲いかかった。



「邪魔だ!」「邪魔です!」

 そこへ、流星が落ちてくる。
 ジェナスがショートワープの術式を辛うじて脳内詠唱し、発動し終えたその瞬間、
 それを間に合わせず彼女の首を跳ね飛ばす予定だった刃の上に男性の皮靴裏がストンピングされる。
 次いで金属音、金属音、剣戟による火花音、火花音、火花音!
 高速戦舞を踊りながら、はためかせたスカートを抑えつつ、
 黒髪ロングの女がその手に携えた銀の日本刀の柄で“ヒーロー”の胸板を蹴った。
 完全に虚を突かれた“ヒーロー”がバランスを崩した空隙を逃さず、金毛の尋問官が追いの拳を叩きこむ。

「――◆◆◆◆◆◆!!!」

 たまらず吹き飛ばされる“ヒーロー”。
 ようやく着地した二名の剣士が、本当に偶然だがジェナスを守るような位置で“ヒーロー”の方を向く。
 ここでジェナス=イヴァリンが遅れて状況を把握した。
 金髪と黒髪の、この二人……どこかのビルの屋上から、“落ちながら戦っていた”のだ!

「おい、誰だこの野蛮人は! 君の知り合いか?」
「こんな変なコスチュームで変な剣を持った変な人は知ら……いえ、どこかで見たような……?」

 ともかく強い人たちであることには間違いなさそうなので、ジェナスは声を掛ける。

「……あ、あの! あ、あなたたち……!」
「む?」
「あは、もう1人いらしたんですね。可愛いお顔ですね、お名前は? どこ住み? LINEやってる? どうしてここに?」 
「ジェナス=イヴァリンです……お、追われて……!
 一緒に居た人、みんな殺されて……逃げろって言われて……えぐっ」
「泣くな小娘、そんな暇があるなら戦え」
「おじさま、レディーの扱いがなってないと思いますよ。そう、殺されたの。じゃああの人が殺したの?」
「う、うん……っ」
「そうなの。それは僥倖ね。
 ああ、私は剣崎渡月。こっちのおじさまはLINEアプリさん、でしたっけ?」
「ラインハルト・ハイドリヒ(アースA、ドイツ国家保安部長官)だ、覚えろ」
「覚えました」

 剣崎渡月はにこりと笑った。
 ぎぎぎ、と音を立てて、剣を杖のようにして立ち上がろうとする“ヒーロー”を見ながら、楽しそうに笑った。

397ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:26:45 ID:z1sNcr8Y0
 
「それと、少し思い出しました。彼は私の住んでいる町のとなり町にある学校の生徒会長です。
 有名人なんですよ彼。どうしてああなってしまっているかは――たぶんあの剣のせいでしょうか」
「セイトカイチョウ?」
「生徒会長とは何だ?」
「知らないんですか? ……ふうん、面白いですね」

 世界観の違いからくる常識の祖語に三人は首を傾げる。
 しかしその祖語についてを論じている暇はない。
 “ヒーロー”が、立ち上がったからだ。



「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆……」

 その“ヒーロー”は異形の仮面と白のマントを身に着けている。
 仮面は今時の特撮ドラマに出てくる、昆虫にも似たフォルムの巨大な両目が印象的なヒーローのものだ。
 ただ仮面と言っても丈夫さは皆無だ。夏祭りの屋台で売られているタイプのゴム耳止め紙マスクでしかない。
 服装は白のマントに大部分が覆われているものの、見える部分は学生服のようだ。
 ただこれも、マントには返り血がおびただしくこびりついているため、潔白さは失われてしまっている。
 どこまでも作り物で、さらに汚れてしまっているヒーロー衣装。
 物悲しくすらある。

 最後に、何よりも目を惹くのが――彼が握っている、いや、“握らされている”獲物だ。

「あは……美しい剣、ですね」

 それは美しい銀色の幅広剣であった。
 魔の存在であることを示す蝙蝠翼の意匠があしらわれた鍔をはじめとし、
 柄までが漆じみて艶のある深黒に染まっているが、それが剣身の銀色をむしろ引き立てている。
 刃の中心線――樋が深く掘られた剣身はまるで血を吸いたいという意思が込められたかのように仄暗く輝いていて、
 殺しに精通するものが思わず共感を覚えてしまうほどの殺戮力を備えていることが分かる。

 その支給品は、実際に意思を持つ。
 細かく見れば分かることだが、出来そこないのヒーロー衣装の少年の握り手が、
 剣のグリップから伸び出た黒色の根のようなものに浸食されているのがその証拠だ。
 
 生体魔剣セルク(アースF)。
 落ち延びた魔族の皇子の魂が封じられた呪いの剣。
 “ヒーロー”はその剣に、寄生されている。
 
「……あの剣……魔力……闇の魔力を感じるの。
 つ、強い……間違いなく、普通じゃない力。しかも、二種類……」
「二種類?」
「うん……剣に本来宿っていた魔力と、それをブーストしてる魔力……。
 頭がおかしくなりそうなの……魔法学校の先生にも、あんな化け物じみた魔力を扱ってる人、いなかった……!
 とくにブーストしてる魔力、おかしい……ふざけてる……絶対、勝てないよっ……に、逃げないと……!!」
「――その魔力というのは、己には見えん」

 ジェナスが引っ張った袖を振り切って、ラインハルトが前に進み出る。

「ただ、“お前が嘘をついていない”ということは己には分かる。
 長年の勘でな。嘘をついている人間の目はだいたい見分けられる。全く煩わしいことだがな。
 ……なるほど目の前の彼は化け物だ。およそ人間では培えない、魔力とやらも持っているのであろう。
 だがだからといって敵前逃亡の選択肢を取るのは、少し早いと己は思う。
 見たところ彼は狂っている。剣がどれだけ強かろうと――使う頭がなければ無用の長物だ」
「それにこちらは3人ですしね、おじさま」
「お前は先まで己と殺し合ってたのを忘れたのか……仕方ない。今だけ共闘の許可を出す。
 他人、しかも犯罪者と共闘など虫唾が走るが、責務遂行のためには時には信念を折ることも必要だ」

 しかめ面のラインハルトの横にうきうきとした表情で渡月が並び立つ。
 軍官の横に黒髪ロングのブレザー女学生が並び立つさまはまことに滑稽だ。
 ついでに言えばその後ろには黒ドレスの魔少女すら控えているし、
 対峙するのは凶刃に囚われた“ヒーロー”だと言うのだから混沌とした取り合わせに限りがない。

398ドミノ†(始点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:28:40 ID:z1sNcr8Y0
 
「◆◆◆◆◆◆◆◆!!」

 それでも――キャストがいかな色物だろうと舞台は止まらず、参加者たちは踊らされ続ける。

「全く……アカネとやらは己たちに何をさせようとしているのだろうな!」
「殺し合いでしょう?」
「……もうやだぁ……」

 魔剣と日本刀とフランベルジュの輪舞曲の開始だ!


 
____////|ビル街を飛びゆく影二つ|



「悪ぃねぇ、巴(とも)やん。主人格である朱雀くんならうちらの能力、わりと自由に使えるんやけど」

 同時刻――ビルとビルの壁を垂直に蹴って、
 空の改造人間スカイザルバーとなった巴竜人に追いすがる機動を見せる朱雀少年の姿があった。
 その瞳は少々細められ、纏う雰囲気は知的で落ち着いたものになっている。
 神様見習い、道神朱雀の中に入っている四つの人格――そのひとつ、玄武の人格だ。

「青竜の『炎』、白虎の『加速』に比べると、
 うちの『重力操作』は使い勝手も悪いし、こんな時に出てきてしもうてホント申し訳ありまへんわあ。
 あとほら四聖獣ものでも玄武ってかませなことが多いやん?
 うち、ホンマは戦いたくないんやけどねえ……どうして出てくる羽目になったのやら。ああ、怖いこと、怖いこと」
「……とりあえず、朱雀の容姿で女言葉で話されるとこう、驚くよな」
「まあ。でも以外と女装似合うんよ? この子。次の戦場を無事に切り抜けられたら見せてあげましょか?」
「いや、別に見たかねぇよ……」

 確かに四つの人格が全部男であるとは言われていなかったが、
 玄武が思い切り関西方面の言葉遣いのおなごであったので巴竜人は複雑な気分になっている。
 それにこの知的でミステリアスな感じは、彼の師匠である女性にどことなく似ていたのだ。

(そういえば……『先生』も、相手によって態度と口調がわりと変わる、多重人格みたいな人ではあったな……)

 回想に入ろうとして、しかしその思考を振り切る。
 今は昔の思い出に浸る時ではない。現実問題として一人の命が危機なのだ、ヒーローとして助けにいかなくては。
 朱雀の人格が変わってしまったときにはヒヤリとしたが、幸い戦火を交えた凶暴な青竜ではなかったので良かった。
 間にあえば、巴竜人はヒーローを全うできる。間に合えば。

(いんや、たらればじゃねえ。間に合わせる――!)

 ……ヒーローと言っていた。魔剣を振るい病院を血に染めたそいつは、ヒーローだったと。
 ヒーローとして生きている竜人にとっては、ヒーローを貶めるような行為を取るそいつは許せなかった。
 しかし、可能性は低いが、自分や朱雀のように“暴走”しているだけだったり、
 操られてしまっているという場合も竜人は想定している。
 その場合はかの襲撃者に追われているジェナスという子だけではなく――襲撃者自身も救う必要がある。

 自身の状態にも嫌なフラグを抱えながら。
 だれより多くの悲劇をくぐりぬけ、それでも人間で在り続けるヒーロー巴竜人は、悲劇の回避を切に願う。
 聴覚を強化された彼の改造耳にはすでにただならぬ剣戟の音がかすかだが響いていた。
 そう遠くない。

(頼む、待っててくれ……! 俺が、全員救う――!!)

 ヒーローはスカイザルバーの翼により力を籠め、玄武と共に現場へ急行する。
 そんなヒーローを横目に、玄武はぽつりとつぶやいた。

「……ヒーロー、なあ。その思想は、崇高やけど……使命に呑まれんように、ほどほどにするんやで、巴やん」

 神見習いの亀の言葉が何を案じているのか、神ならばあるいは、知っているのだろうか。


.

399ドミノ†( ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:30:04 ID:z1sNcr8Y0
____////|はじまり|



 大空蓮(アースR、生徒会長)は、遊びに全力な、頼りになる兄ちゃんという言葉が似合う少年である。

 過去に親友がいじめられていたのを諌めた経験から、彼は自分をヒーローの役に置くことを決めていた。
 荒事が起きれば自作の仮面とベルトを装着して現場に向かい、
 虐げられている者を救い、虐げていたものに制裁を加える。
 体力テストで全て最高点を取れる持ち前の運動神経と身体能力は、彼の学園の平和のために存分に使われていた。

 だからこの殺し合いに呼ばれたとき、彼は主催者に尋常ならざる怒りを覚えたし、
 その次に考えたことはといえば、親しいものや弱きものがこの場でいたぶられ、殺されるのを止めることだった。
 支給品は三つ。
 身を軽くする魔法のマント(アースH)、屋台のヒーロー仮面(いつも使ってるのと同じもの)、
 まさかの仮面の本人支給に嬉しがりながらまず二つを装着すると、本当に自分がヒーローになった気分になった。

(よし、沢山の人を救おう。きっとツバキも応援してくれる) 

 かけがえのない親友である愛島ツバキのことを思いながら、
 大空蓮は最後の一つの支給品である、黒い柄をした銀色の剣に手を伸ばした。
 どんなわるいやつでもやっつけるつもりで。
 主催者が用意した中でも有数のハズレ支給品かつ最悪の支給品であるそれを、握って、しまったのだ。



____////|おわり|



「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」

 ――加速。

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!」

 ――加速。

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!」

 ――加速、加速、加速、加速。

 呪いを鍋で煮詰めたかのようなおぞましい叫び声と共に戦場の速度は上がり続けていた。
 剣が振るわれる速度が、刃が鳴り火花を散らす速度が、
 地面を足で蹴る速度が汗を流す速度が傷を負う速度が思考速度が限界を超えてなお上がり続けていた。

 速度。

 それは意思なき呪いのみで動く魔剣が、思考することができる人間に勝利するための知恵。
 シンプルな浅知恵にして、効果的な戦略。
 ラインハルトも渡月も、気づいたときには遅かった。
 魔剣のがむしゃらで隙だらけの太刀筋も、人の思考速度を無視して振るい、
 その隙を突く暇を与えずに重ねて重ねて重ね続けることでガードを破り、肉を裂き、骨を割る。
 一撃の重さもかなりある。速度の乗ったそれは、いずれ命すら穿つ。

「やりますね……!」
「殺人鬼が防戦一方とは、面白い光景だな」
「尋問官さまにだけは言われたくありませんけど!」
「全く、君は早く死んでくれないかね!」

400ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:30:50 ID:z1sNcr8Y0
 
 こうなってしまえば人間は、人間である以上後手に回らざるを得ない。
 幸運は接近戦に長けた者がこの場に二人おり、相手の手数を事実上半分ずつ引き受けられることだろうか。
 早々に鰺坂ひとみを失ったラクシュミーもこの二人に劣らぬ剣術の心得はあったが、
 ラクシュミーが五分と持たなかったのに対し、
 ラインハルトと渡月がある程度魔剣の攻撃を捌けているのは、つまりは単純な手数の違いだった。
 そしてそんな数の不利をあざ笑うかのように魔剣の速度はさらに上がっていく。

「あ、あんなの……宿主の身体が持たなくなるんじゃ……」

 後方から時折闇属性の攻撃でサポートするジェナスがおどつきながら懸念するもその懸念はハズレだ。
 ある程度の動体視力があれば見えることだが、
 大空蓮に絡みつく魔剣の枝触手は、戦闘開始から今までその数と面積を増やし続けている。

 生体魔剣セルクは宿主の戦闘欲や加虐欲に働きかけ、
 それを増大させると共に、より自らとのシンクロ率を高める“浸蝕”も同時に行っている。
 じきに人から魔剣へと、彼の身体の構成物は置き換わってしまうのだ。
 そうなればもう最悪、魔剣は魔剣のまま人の身体を手に入れ、魔王へと昇華される。

 さらにひどいことに、本来ならば年端のいかぬ少女でも抑えられるはずのその呪いじみた浸蝕力は、
 主催側に居る老齢にして醜悪な錬金術師の魔術により、ブーストされてしまっている。

 
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!」


 泣き声にも似た叫び声は、浸蝕の痛みによってあえぐ大空蓮自身の声なのかもしれなかった。
 “大空蓮”は消滅し、その身体が魔王セルクへと変貌するまでどれほどなのか。
 少なくとももう、腕を通り越して肩まで、黒の枝は到達しようとしている。

 一秒に六回繰り出される剣戟を捌きながら、ラインハルトがため息を吐くのも致し方ないことだった。

「……協力など、何十年ぶりか」
「?」
「後ろの黒の小娘。落ちながら己は見ていたぞ。お前は、瞬間移動じみた技を使えるだろう」
「え……は、はい……」
「今から口頭で作戦を伝える。全て覚えてその通りに動け。敵を無力化する」
「……は、はいっ」
「それと舌悪な殺人鬼」
「丁寧語を使っているのに舌悪って言われたのは初めてですよおじさま」

 渡月は頬を膨らませる。
 その仕草には年頃の少女のような可愛げがあったが、ラインハルトは無視して続けた。

「今から、己は最も得意とする剣術スタイルに戦闘方式を変える。
 ゆえに〆はお前が担当しろ。お前は人間のクズどころの騒ぎではない汚物存在だが、その剣の腕だけは本物だ」
「その言い方で人が素直に言うことを聞くと思っているなら、なかなかあなたもクレイジーですね」
「せいぜい良い働きを見せろ」
「無視は悲しいですよ」

 ラインハルトは構えを変えた。
 腰を低く落とし、足を前後に開く。剣は地面に平衡に、突きの構えを取る。

 金毛の尋問官が最も愛している剣術は――フェンシングだ。


「――Prêts?(準備はいいか?)」


 作戦の説明は手短に済ませ、
 ラインハルトはドイツ人らしからぬ流暢な仏語にて開始の合図を化け物に問うた。
 化け物は意味のない叫びで返すのみだった。
 ラインハルトは思う。
 人間は無価値な憎むべき生き物だが……思考することすらできぬ化け物は、ただただ哀れだと。
 ただただ、哀れでしかないと。そう思った。


「Allez!(始めるぞ!)」

401ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:33:23 ID:z1sNcr8Y0
 
 
 合図と共に動く。
 まず剣崎渡月が一旦魔剣から離れ、側部へ、そして後方へと移動を試みる。
 魔剣は剣であるがゆえに、視覚情報などを人間部分に頼っている可能性があった。
 挟み撃ちを強いることで人間部分の対応力を越えることができれば、さらなる隙へと繋げることが可能かもしれない。

「◆◆◆◆!!」
「お前の相手は、己だ」

 魔剣は追って渡月へと斬りかかろうとしたが――そこへラインハルト。
 空気を切り裂く鞭のような音。
 踏み込むと同時に飛び離れるような高速の剣さばき、突きと返しの閃き、フェンシング。
 ラインハルトはフェンシング仕込みの鋭い突きでヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
 ヒット時は極限まで迫っているのに、離れればそれはもう生体魔剣の間合いの外。おそるべき脚力だ。

 つまり手数が何だ、当たらなければどうということはない、ということである。
 牽制のフェンシングで与えられる傷はかすり傷にすぎないが、じわじわと削る上に、
 いざとなれば心臓を突くことも可能なフランベルジュという武器選択。無視はできないいやらしい攻撃。
 そしてラインハルトのほうにばかり気を取られれば、後ろに回った渡月の格好の的……。

「――――◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆……!」

 魔剣は自分の今までのやり方に“対策”されたことを感じ取ったらしい。
 動揺した……というよりは、ルーチンを組み直しているかのような、若干の挙動硬直がみられた。
 シークエンス・プログラムされた機械のように、無感情にこちらの対応に対応を返そうとしている。
 そしてこの隙はおそらく、剣で踏み込むべきではない。
 機械的であるがゆえに人間の対応力よりはるかに早い切り替えの後に首を跳ね飛ばされるのがオチだ。

 しかし銃弾ならば一手早い。

「やれ!」
「……当ったれぇえええええええええええッ!!!!!」

 ビルの屋上から黒き小さな魔女の、喉全開の叫びが轟く。
 彼女の魔法、3mのショートワープは横方向よりもむしろ縦方向でその真価を発揮する。
 ラインハルトが近畿純一を殺し切るくらいの時間がかかってしまうはずのビル屋上への移動を圧倒的速度で成し遂げ、
 ジェナス=イヴァリンはアースFにはあまりない狙撃手の忘れ形見を、即興の知識で仲間の仇へと撃ち放った。

 彼女には実際、ラインハルトと渡月に割り込まれ命を拾った瞬間に逃げるという選択肢もあった、
 でも引きこもりの彼女と少しの時間だったけれど一緒に過ごしてくれた仲間二人の仇を、取りたいというエゴくらいは持っていた。
 瞬間的な思考硬直の隙を突いた完全な一撃。
 銃弾は反射神経などでは避けられぬ速度で、魔剣の化け物へと迫る!


「◆◆◆、◆!!!」

 
 魔剣は辛うじて、大剣の剣身を盾とし、その銃弾を弾くことに成功した。
 それが詰めへの最終手順になっていると気付いていながらも、そうせざるを得ない。
 完全に無防備になった背面へと迫るは日本刀、殺人鬼、剣崎渡月。
 女学生は慣れた手付きで大空蓮の身体を切断しにかかった――その右腕を!!

「――――――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」
「ああ……久しぶりの、感触です♪」

 赤い靴を踊らされ続けた少女がその足を斬られてしまったように。
 銀の剣で斬らされ続けた少年はその腕を斬られることで、正気に戻すことができる。


 黒の右腕が宙を舞う。


 魔剣と魔剣に浸蝕されていた腕はしばらくはびたびたと跳ねていたが、
 エネルギー不足か、すぐに動かなくなった。

402ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:34:59 ID:z1sNcr8Y0
 
「これで終わり、ですね」

 腕だけを斬るこの作戦に違和感を感じる人もいるかもしれない。
 人間嫌いのラインハルトが、人間を魔剣から助けたという形になったこの結末――。
 ただ感情論で言えばこれは慈悲にもなるが、実際はラインハルトの冷酷な判断によるものだ。

 おそらくここで、完全な無防備の形からなら渡月には少年の殺害も可能だった。
 それをしなかったのは、寄生されている以上宿主が死んでも動く可能性を考慮する必要があったからだ。
 確実な“無力化”ならば必然的に腕を跳ね飛ばすのが一番合理的という結論になる。
 それだけの、ことである。

「あ……」

 だからラインハルトは、正気を取り戻して、
 ヒーローの仮面を取り落した少年の、嬉しそうで、でもいまにも泣き出しそうな表情を見ても何も思わない。
 何も感じない。
 ただただ、職務をまっとうするためにフランベルジュを持って歩み寄るのみ。
 ジェナスの様子を見ていれば分かる、魔剣に寄生されていたとはいえ、少年は殺人を犯した。
 ラインハルト・ハイドリヒの倫理では――人を殺した者は、殺されなければならない。

「ありが、とう……ござい、ます……」
「感謝を述べるな、反吐が出る」

 その感謝が嘘ではないことが分かってしまうラインハルトにとって、
 少年の胸に突き立てようと振りかざすフランベルジュは、珍しく重みを感じるものだった。




「そうそう、ありがとうだなんて言わない方がいいですよ」

 だからだろう。
 ラインハルトは、少し遅れてしまった。
 少年を一撃で逝かせる攻撃を執行したのは、ラインハルトではなく剣崎渡月であった。
 少年の首が、跳んだ。

「だって私もそこの人も、“ヒーロー”なんかじゃない。自分のエゴを貫いただけですから」

 ねぇ、そうでしょう、おじさま?
 変わりない笑顔を向ける剣崎渡月は、大空蓮の首を刎ねたというのに顔色一つ変えていない。
 驚くべきことかどうなのか、彼女は三日月宗近はもう持っていない。
 剣崎渡月がその手に携えている業物は、先ほど自らが斬り飛ばした、生体魔剣セルクへと変わっていた。
 生体魔剣は、殺人鬼の手に。

「え……あ、あの……何を、して……?」
「……やはりな」

 スナイプの役割を果たしてラインハルトたちの元へと帰還したジェナスが口をあんぐりと空けて固まる。
 一方でラインハルトは、この状況を予見していたようで、目を細めつつため息。

403ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:36:21 ID:z1sNcr8Y0
 
「最初からその魔剣狙いだったんだろう、殺人鬼。
 先ほどまで殺し合っていた己に協力を持ちかけたのも、そこの小娘に優しく話しかけたのすら。
 お前自身がその剣を手にし、己を殺すための布石。――知っていたのか? その剣のことを」
「ええ。私はこう見えても、大衆向け・マニア向けを気にしない乱読家ですので。
 『ハイルドラン・クエスト』、けっこう面白いんですよ。地獄に売ってるかは分かりませんが、見かけたら読んでみてください。
 ちなみに私の推しは城門飛ばしのアステル・ウォランス青年です、イケメンなんですよ彼」
「う、嘘……さ、さっきまで、仲間だったじゃ……」
「黒の小娘。邪魔だ、失せろ」

 ラインハルトがうろたえるジェナスに厳しく言葉を刺した。

「結局、当初のこの殺人鬼との殺し合いが再開するだけの話だ。
 所詮人間など、このような下賤な生き物であると……それだけの、話だ。
 巻き込まれて死にたくはないだろう。自慢の逃げ技(ワープ)で逃げろ、この女もそのくらいは待つ」
「あは、信頼して頂けているみたいで」
「お前は一方的より拮抗した殺し合いを望むのだろう。見抜くまでもない」
「分かって頂けてるみたいで嬉しいです♪」
「……あ……え……」
「いいから、行け」

 ふらふらとラインハルトの近くまで歩み寄って来ていたジェナスは、
 そこでラインハルトの皮靴により、蹴り飛ばされる。

「任務ご苦労だった――――お前はもう必要ない」
「あ……う……うわあああああああん!!」

 走り、ワープし、ジェナスはその場から去る。
 改めてその場には、血に濡れた空気と二人の殺人者だけが残った。

「さて、空気が戻ったな」
「どうして私が正気を保っているか聞かないんですか?」
「大方、その剣の殺戮衝動と同調できる者なら意識を奪われないといった所だろう。聞くまでもない」
「あ、正解です。じゃあ始めましょう」

 と、唐突に。
 雑談を途中で切って、二人の刃が交わる音が再開する。
 かと思いきや、ラインハルト・ハイドリヒと剣崎渡月は交戦しながら雑談を始めた。
 達人レベルの剣の嵐の中で、言葉と言葉もまた交錯する。

「あは、楽しいですね、おじさま!」
「そうか」
「おじさまが楽しくなさそうなのが少し残念ですけどね。どうしてそんなしかめ面なんですかね?
 人生、もっと楽しんだほうが得だと思うのですが、何に悩んでいるんですか?」
「そうだな、何だろうな」
「はぐらかさないでくださいよ、斬りますよ?」
「斬れるものならやってみろ」
「そう簡単にはいきませんね。まだまだ私は人間ですので」

 剣崎渡月は魔剣の浸蝕を抑えることに成功している。
 剣の寄生を拒むと言うことは人間の反応速度に収まるということで、
 生体魔剣セルクというチート武器を手にした剣崎渡月ではあるが、危険度も練度もそう上昇したわけではなかった。
 ではなぜ彼女が魔剣入手にこだわっていたかというと、これは単純に、エゴである。

「いい挑発ですね、乗りたくなってしまいます。でも本当、生きたいように生きればいいと思いますよ?
 私なんてほら、ちょっとこの剣で人を斬ったら楽しそうだなー、
 って思いつきだけでさっきの流れまで演じたんですし? いや本当に、美しい剣ですよね」
「……生きたいように生きる、か」
「あは、大人だからできないとかですか?」
「そうじゃない。そういう部分では悩んでさえいない」

404ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:37:47 ID:z1sNcr8Y0
 
 ラインハルトの袈裟切りが首をこてりと傾けてカワイイポーズをとっていた渡月の服をかすめる。
 服二枚を貫通して柔肌に赤い線。
 意に介さず、渡月は魔剣を振るい、ラインハルトの胸先から憲章のようなバッジを弾き飛ばす。
 雑談をしながらもその剣舞はメリーゴーランドではなくジェットコースターだった。

「己は」

 ラインハルトがフェイントを交えた剣を繰り出しながら叫ぶ。

「己もまた、自らが憎む人間であり、殺人者であることに自己矛盾を抱えているだけにすぎない」

 それは普段から冷酷無比鉄面皮の尋問官からは想像できない、感情の吐露だ。

「人間を無価値だとしか思えない己こそが無価値な人間なのではないのか?」

 斬りかかる。

「本当に尋問され、死に至らしめられるべきは己ではないのか?」

 斬りかかる。

「人の嘘が、心が分かってしまうようになってから、
 醜さを把握できるようになってから、ずっとそう思っていたのだ」

 斬りかかり、受けられる。
 渡月の反応速が上がった。
 生体魔剣セルクと殺人鬼との協力的な調和が、徐々に深まりつつある。

「お前は思わぬのか。自分の信念が抱える脆弱性を。
 例えばそうだな、誰すらも越えて一番になりたいという話だったが、
 自分より優れている部分がある者を越えぬうちに殺してしまったらどうなる。
 越えていないのに殺してしまったら、もうその部分は越えられないのではないのかね」
「それは――」

 問いかけは、相手と魔剣の調和を崩す意味でも放った言葉。
 しかし返ってきたのは、ラインハルトのフランベルジュにひびが入る音だった。
 セキュリティホールの穴を付くかのような、
 動揺していてはとても不可能な、精密な攻撃。
 手が痺れる。辛うじて取り落さずに持ち続ける。渡月はあっけらかんと言う。

「それはもちろん。死んだ方が悪いんですよ♪
 私に殺された人は、どんなスキルとかどんな強さとか、
 どんなカリスマとかどんな優しさとかどんな複雑な立場とかを持ってても、殺された時点で私より下で、決定なんです。
 私に殺されてしまう時点で、私より劣っているんですよ、その人は」

 剣崎渡月は、止まらない。
 ラインハルトのいかなる言葉でも、彼女を揺らがせることはできない。
 ラインハルトが嘘を見抜けてしまうがゆえに。
 この少女は一点の曇りも負い目もないただの殺人鬼であるということがラインハルトには分かってしまう。
 悩むことを忘れた殺人鬼。
 ある意味ではそれは、ラインハルトにはまぶしく思えた。

405ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:39:03 ID:z1sNcr8Y0
 
「おじさまは、私に殺されたいんですよね?」

 渡月もまた、ラインハルトの深くまで斬り込む。

「おじさまがその長い人生で終ぞ会えていなかった、
 “人間なんて無価値である”と認めた上で好きなように生きている私が、
 枯れかけのおじさんからすると少し羨ましいとかそんな感じですかね?」
「……何を」
「じゃなきゃ、不利になると分かっていながら私にやすやすと魔剣を渡さないのではないですか?
 あは、……人間に絶望しながら人間として生きるのは、さぞお辛いでしょう。
 安心してください、私の腕なら一瞬ですよ。抵抗せずに首でも差し出してくれれば、一瞬です」

 さあ!
 踏み込み、ヒビをさらに深めるように打ちあった渡月は、すべてを見透かしたかのような笑顔を見せた。
 だがラインハルトは冷酷な無表情のままだった。
 無感動の、ままだった。

「……生憎むざむざと死ぬつもりはないし、死にたいなどと言うのもお前の誤解だ」
「強がり?」
「強がりではない。己は本当に、強いからな」

 理解、協調、速度の上昇――魔剣とのシンクロが深まるほどに精緻さと手数を増す剣崎渡月の斬撃は、
 しかしラインハルトを決定的に傷つけることができない。
 魔剣に操られるのではなく、渡月が操っているが故の弱体化?
 それもあるが、先ほどの戦闘とは違い一対一だし、ラインハルトは事実上二倍の手数を捌かなければならないのに。
 上がるギアに、上げるピッチに、ラインハルトはついてくる。
 冷や汗かかずについてくる。

「……あは?」

 剣崎渡月もさすがに口の端を釣り上げて苦笑だ。

 馴れて、きている。

 機械めいたシークエンスに人間が勝利する方法のもう一つ。それは学習。
 慣れること。慣れてしまうこと。ラインハルト・ハイドリヒは、魔剣の速度に、慣れてきていた。
 それだけではない。剣崎渡月の剣のクセも、すでにラインハルトの頭の中だ。

「残念だが殺人鬼……お前は己とダンスを踊りすぎた」
「……嘘ですよね? わ、私を泳がせたのが……単純にあとからでも、私に対応できるからだなんて……!」
「嘘かどうか、見抜ける目を持っていれば分かったろうにな」

 斬りかかる。
 その一撃で完全にガードを外し、
 不可避の二の太刀を袈裟に叩き込む。
 それはあまりにも綺麗な流れで。思わず渡月も、笑ってしまった。

「お前の論理に則れば。お前を殺す己は、お前より永遠に上と言うことだが、気分はどうだ」
「あは……あはははは……っ♪」
「悩むことのない、眩しいほどに阿呆な太刀だった。本能のみでお気楽に生きるのはさぞ楽だったろうが。
 己が唾棄する“人”からすら外れてしまったお前は獣――ただ哀れみの対象でしかなかったよ、最初からな」
「あははっ、う、ううううふふふあはは……!」

 涎を垂らしながら命の危機に興奮する渡月は、結局は狂ったシリアルキラーだった。

「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱し続けろ、殺人鬼」
「あは……あはははは……た、楽しかったです……!!」

406ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:40:30 ID:z1sNcr8Y0
 
 フランベルジュが致命的に肉を裂く。
 飛散する鮮血。
 ぐるんと白目を向いた女学生が、その意識をこの世から手放した。
 死んだ。
 同時にフランベルジュは折れて役割を失った。

 生体魔剣セルクが、死体を動かしてでも挑んでくるか、ラインハルトは残心しておいたが……それもなかった。
 この魔剣はあくまで持ち手の生の感情に付け込んで悪魔にする剣のようだった。
 誰かに使われないように自分で持とうかとも考えたが、やめた。

 懐から支給品のマッチを取り出す。火をつけ、渡月に放り投げた。
 助燃物はなかったが、どうもこのマッチはよく燃えるらしく、すぐに一人と一振りは炎に包まれた。
 そう、魔剣ごと燃やして消してしまうのが、ここでは最もマシな解決策だろう。

 燃え盛る殺人鬼に背を向けて、
 尋問官はもう一本マッチを取り出すと、胸ポケットに入れておいた煙草に火を点けた。

「まだまだ」

 紫煙くゆらせながら、目的なき断罪官は歩む。

「まだまだ――まだまだだ……己の死に場所は、ここじゃない……」






 そしてアサルトライフルの乾いた発砲音が響き、人間嫌いの断罪官のこめかみを貫いた。





_______/|エピローグ|


 

「みんな、死んじゃった。ヒーローマスクの変な人も、殺人鬼のお姉さんも、金髪のおじさんも」

 街は燃えていた。
 ヒーローと神様がその街にたどり着いた時には、その区画は燃えていた。
 ビル十棟ほどが並ぶ大通り、いったい何がどうなってここまで延焼したのか、
 まるで殺戮が起きた場所の全てを覆い隠して炎上するかのように、そこにはもう誰も入れない。
 救いの手さえオコトワリだ。

「おじさんは、私が……必要と、してくれなかったから、殺しちゃった」

 炎のすぐそばで壊れたように笑っていた黒の少女を、
 その場から引き離そうと駆け寄った巴竜人は、淡々とした少女の独白を聞く。
 殺してしまったと言う。
 汚れてしまったと言う。
 その声は後悔に血塗られて、確かに濁っていた。
 だが波長を解析すれば、もともとは小さくも澄んだ声だったと言うのが、竜人にはありありと分かった。

407ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:41:55 ID:z1sNcr8Y0
 
「助けてくれた人なのに……突き放されたのが、辛すぎて……へへ、えへへへ、や、やっちゃった」
「お、おい待て! 落ち着け! 待て!」
「もういいの」

 ジェナス=イヴァリンは歩き出す。
 竜人はそれを助けたい。

「わたしを助けないで、ヒーローさん」

 炎に向かって、歩き出す。
 竜人はそれを、止めたかった。

「わたし、もう……汚れちゃったから。生きてるの、つらいから。
 多分わたしなんかより……ずっとあなたに助けてもらいたいって思ってる人が、いると思うから」
「待てよ馬鹿野郎! 早まるな!
 汚れた? んなもん洗えばいいんだ!
 どれだけ汚れようが、人間はやりなおせるんだよ! 俺はなあ……俺だって!!」
「……馬鹿だって……わたしも、思うけど。
 助けられといて、こんなのって、怒られると、思うけどさ……もう、無理だ……」

 道神の玄武が見守る中で。
 黒の少女を、巴竜人は無理にでも引き戻そうと、
 即座にスピードに優れたガイアライナーに変形し、その機動力で追いすがる。
 服の裾を、掴もうとした。
 でもそれは、叶わなかった。

 ジェナス=イヴァリンはショートワープを使い、巴竜人から3m遠ざかった。

「ごめんなさい」
「……」
「ありがとう、ヒーローさん。――さようなら」

 力なく笑って、殺人者は炎の中へと消えた。
 一度倒れてしまったドミノは全て倒れ終えるまで止まらない。
 強く固く、死ぬと決めてしまった少女を、

 ヒーローが救うことは、できない。



「……ちくしょう……」

 ここには大きい水源もない。
 いずれ鎮火はするだろうが、アクアガイナーで消火をするには火の手は強すぎた。
 燃える町を悔しそうに見つめ、竜人は地面に拳を殴りつけようとする。

「ちく、しょ……う!?」

 しかし玄武が重力を操って、竜人の拳をふわりと浮かした。

「ダメやで、それは」

 驚いて振り返る。物悲しそうな顔で玄武は竜人を見て、首を振った。
 辛い感情を地面に叩き付けるのはダメだ。それでは、逃げになってしまう。
 ヒーローは。ヒーローだからこそ。
 救えなかった者の思いも全て、背負わなければならない。

 ……巴竜人は三回深呼吸をして、立ち上がった。

408ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:43:03 ID:z1sNcr8Y0
 
「玄武さん」
「……なんだい、少年」
「俺たちがもっと早く着いていれば――誰か一人くらいは、救えたんじゃないか?
 間違えちまってたかもしれねえ“ヒーロー”も、間違えちまった今の女の子も、病院で死んじまったやつらも。
 こんなあっけなく死ぬべきやつらじゃなかっただろ。もっと、生きて、よかったはずだろ」
「……そうやもしれんね」
「過ぎたことをとやかく言うつもりはない……俺たちの行動に問題があったとも思えない。
 ただただ、タイミングだけが遅すぎて。それで死んじまうのかよ。それで、最悪な方向に、転んじまうのかよ。
 こういうことが、今までにも無かった訳じゃねえけど……そのたびに思うぜ」
「……」
「こんな機械の身体になっても、俺たちは無力なときは無力だってな」

 どれだけ個の力があろうと。
 幾度の改造を受け、あるいは幾柱もの神がその中に入っていようと。
 彼らは、ヒーローは、救えるものしか救えない。
 救えない者は救えない。

「巴やん」
「でも俺はさ……死ぬのが救いになるだなんて、
 “自分を無くす”のが救いだなんて、信じたくねえんだ。こんな身体だからかもしれねーけどさ。
 まあ、誰もが強くはあれねえし、逃げたい気持ちもそりゃあ分かるし、俺自身だって何度も何度も悩んだ。
 俺の“ヒーロー”は悪への反抗でしかなくて、俺は正義なんかじゃないのかも、とか、色々さ」
「……」
「でも……悩んだからって、立ち止まっちゃ、いけねえんだよな」

 それでも巴竜人はヒーローで在り続ける。
 危うく消えてしまう所だった自分と言う存在の意味を、証明し続けるため。
 あるいは自分を救ってくれた、最高のヒーローの存在を、肯定し続けるために。
 悪の改造を施された身体を、正義のために使い続ける。

「次の現場を探そう。俺たちが、俺たちで、救える命を探そう」

 涙を流す機能は、機械の身体にはついていなかったけれど。
 巴竜人は手で眼を拭って歩き出した。

 どれだけの命をその手から取りこぼしてしまおうとも、
 どれだけその身の内に、危険を抱えていようとも。
 ヒーローは、止まらない。
 ヒーローは、続かなければならない。
 ヒーローという名のドミノ倒しは、永遠に倒れ終わっては、いけないのだ。



【鰺坂ひとみ@アースMG 死亡確認】
【プロデュース仮面@アースC 死亡確認】
【近畿純一@アースM 死亡確認】
【ラクシュミー・バーイー@アースE 死亡確認】
【大空蓮@アースR 死亡確認】
【剣崎渡月@アースR 死亡確認】
【ラインハルト・ハイドリヒ@アースA 死亡確認】
【ジェナス=イヴァリン@アースF 死亡確認】


________|end|

409ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:45:19 ID:z1sNcr8Y0
 

【F-1/ビル街/1日目/早朝】

【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。

【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、朱雀の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。


※F-1の大通り付近のビル街で火事が発生しました。
 辺りの死体や支給品などを焼きつくし、放送後には鎮火します。
※でも魔剣は消えないかもしれません。


【生体魔剣セルク@アースF】
参加者候補の一人リロゥ・ツツガに寄生している魔剣。製作にはヘイス・アーゴイルも関わった。
悪魔との戦争で瀕死で落ち延びた魔王の息子、セルクの無念と憎しみと怒りを込めた魂が宿っている。
正しい者が持てばその中に潜む闘争心を引き出して乗っ取り、暴れさせる。
正しくない者、特に戦闘する意思がある者と利害が一致した場合は、乗っ取らずに持ち手にある程度は任せる。
ロワに持ってこられるにあたりサン・ジェルミ伯爵の手によって強化されている。戦闘スタイルは単純で、手数で押し切るタイプ。

410ドミノ†(終点) ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 12:50:23 ID:z1sNcr8Y0
投下終了です。ズガン枠をふんだんに使ったボーナスステージ的なお話ということで。

>>390-398 が前編 「ドミノ†(始点)」、
>>399-409 が後編 「ドミノ†(終点)」となります。何かあればどうぞ。

411名無しさん:2015/08/02(日) 12:55:43 ID:RC/jdhCg0
投下乙です。
どんなキャラでも呆気なく死ぬのがパロロワだけど、皆皆、花火のように散っていったなぁ。
竜人・道神組の明日はどっちだ?

412名無しさん:2015/08/02(日) 16:19:10 ID:jbEM2G.o0
投下乙です。
皆呆気なく死んでしまってなんという無常感。ただ、プロデュース仮面だけはちょっと笑ってしまいました。
ちょっと気になる点、竜人と朱雀の互いの呼び方は前話では「道神君」「巴さん」だったのにいきなり下の名呼びになってるのに違和感が
あと、竜人の読み方は「たつと」です

413 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 16:50:08 ID:VIM7PRjU0
>>412
おおう、呼称確認足りなかったですね…
夜にwiki収録と同時に修正致します、申し訳ありません…!

414名無しさん:2015/08/02(日) 18:27:59 ID:jbEM2G.o0
状態が朱雀の人格になってますけど、玄武の間違いでは?

415名無しさん:2015/08/02(日) 21:37:51 ID:RC/jdhCg0
あの、近畿純一の描写で、
>整髪料で逆立てた髪
って有りますが、キャラクタープロファイリングだと、純一の髪は肩まで伸ばしてあるんですが・・・

416 ◆5Nom8feq1g:2015/08/02(日) 21:51:58 ID:08ti5vSY0
>>414-415
うわああ申し訳ないです…んー色々な所に見落としが発生してたみたいですね。
とりあえず上げて頂いた分はwikiで修正しておきました。
他にも探しときますが、あればどんどんどうぞです
長くなると見落としも多くなるようなので仮投下を使うなど今後はします…

417 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:56:11 ID:kGznglRM0
投下します。

418438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:58:33 ID:kGznglRM0
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり



暗闇に久澄アリアの血から生まれた血槍が飛ぶ。
「ひゃっはははははははは!!」
松永久秀はそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「どうしたァ? まさかこれっぽちで終わりじゃァねえよなァ?」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ひゃはははは!そう来なくっちゃなァ!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ほら来いよ妖術使い――じゃなくて何とかジョ……水洗便女だったか? ひゃはははは!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「折角この松永弾正久秀が直々に相手してやってんだァ。喜べよォ便所女」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「てめェの怨みってのはこの程度かァ? 公衆便所さんよォ」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「俺より上だと思い込んでるクソどもをぶっ殺す……その肩慣らしに丁度いいわァ……」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「オラオラ攻撃遅ェぞ!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「いいねェ憎悪や怨念ってヤツは。何度向けられても飽きねェ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「オラどうした、こんなんじゃ長慶も殺せねェぞ!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「遅ェんだよォ鈍ェんだよォ弱ェんだよォ!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「てめェのチンケな術で三悪様が殺せるかよォ――!ひゃはははははは!!」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ひゃっははははははははははははははは―――――――!!!!!!」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ひゃははは――ハァ」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「まだ続くのか」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「おい」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「おいコラ、クソ便所」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ちょっと」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「ちょ待てよ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「ちょっと待てって」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
「待てっつってんだろ」
松永久秀は再びそれを蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とした。


「待――」
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。
久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。久秀の声に応えるように再び血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が
血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が飛ぶ。血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が血槍がぎゃり血槍が血槍が血槍が血槍が血槍がぎゃり血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が血槍が

419438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 04:59:53 ID:kGznglRM0
「待てっつってんだろうがァァァ――!!こンの腐れ便器女がァァァ――!!」

久秀は絶叫しつつ、再び血槍を蜘蛛糸で絡め取ると、次いで出現した血槍も天下五剣「大典太光世」で全て斬り落とす。
しかし糸に絡まった血槍や切り落とされた血槍はドロリと溶けてその姿を失くすと、再び血槍の形となって久秀に襲いかかってくる。


「しつけェぞテメ――!!」

少し遊ぶつもりで戦い始めたはずが、気づけば周りが明るくなりかけている。
松永久秀と彼女が殺した魔法少女アリアの血液が化けた血槍は、かれこれ数時間も戦い続けていた。


「いつまでも現世にへばりついてんじゃねェェ――!」

久澄アリアの死体から魔力が枯渇するまで血槍の攻撃は続く……それは久秀にも分かっていたが、まさかこんなに長続きするとは計算外だった。
もともとアースMGでも有数の実力者であるアリアの魔力貯蔵量は、普通の魔法少女に比べてもケタ違いに多い。
だがこれほどの魔力があるのなら、何故彼女は生前にそれを使わず、久秀に一方的に嬲り殺されたのか。


「さっさと地獄に流れやがれェェ――!!このクサレ便所がァァ――!!」

アリアのいたアースMGにおける魔力とは、希望や勇気や想像力などのポジティブな精神力を変換して作られるものである。
しかしそれとは別に、怒りや憎悪や絶望といったネガティブな感情を破壊の魔力に変換する外法も存在しているのだ。
魔法少女の仕事には、そうした外法を使う悪の魔法少女との戦いも含まれている。
然らば、百戦錬磨の魔法少女であるアリアが己が使うかは別としてその外法の術を知っていたとしても何ら不思議はない。
ぎゃりぎゃりぎゃり

「てめェみたいなクソガキが俺の邪魔をしようなんざァ五百年早ェんだよォ――!!」   ぎゃりぎゃり

長時間に渡る拷問の中で蓄積された憤怒・憎悪・屈辱・絶望は、意図してか、それとも無意識の本能的にかアリアの中で膨大な魔力に変換され
それでもアリアの生前は彼女の肉体と精神――無意識下の善意や倫理といったものがブレーキとなり、内に留められていた。
しかし彼女が殺され枷が外された瞬間、魔力は外界へと溢れ出し、アリアの最後の意志の命ずるがまま憎き久秀に襲いかかったのだった。


「小便垂らしの雑魚淫売が調子に乗りやがってよォォォ〜〜〜!!」

キリがないのなら久秀はさっさと逃げればいいのだが、現実は中々そうはいかない。
普通なら恨みに任せた場当たり的な攻撃では妖怪化している彼女を殺すことは不可能だ。     ぎゃり
だが場当たり的でもこう数が多いと、何かの間違いで久秀のウィークポイントである平蜘蛛に中るかもしれない。
久秀の胎内某所に隠された平蜘蛛は、妖怪と化した彼女にとって唯一にして最大の弱点だ。一撃されたら即死亡の部位を庇いつつ離脱することを、血槍の群は許してくれない。


「便所にこびりついたクソの分際で俺様の手を煩わせるんじゃねェェェ!!!」

刀も蜘蛛も血槍を捌くので手一杯だった。
妖怪ゆえに戦い続けても疲労はしないが、こう無駄な戦闘をしている間に貴重な時間は飛ぶように過ぎ去っていく。
このままでは戦場で後れをとる――その考えが久秀を焦らせていた。


「がァ!!クソッ!クソッタレ!!」

ついに業を煮やした久秀は決断する。     ぎゃりぎゃり
血槍を操る魔力の源である久澄アリアの死体を破壊することを。

死体を破壊する――といっても、刀も蜘蛛も槍を相手しているので使えない。
だが久秀はそれらに代わる飛び道具を、すでに久澄アリア自身の支給品の中から見つけていた。

420438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:01:10 ID:kGznglRM0


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「畜生――畜生がァァァァァ……!!」

しかし、そのような支給品があるのなら久秀は何故もっと早く使わなかったのか。
そう――もしも支給品が他の物品であったなら、久秀は躊躇うことなくそれを使い、さっさと戦いを切り上げていただろう。


「クソ……クソ……ッ!!」

刀と蜘蛛糸の限界を越えた酷使で作られたほんの僅かな隙に、久秀は『それ』を取り出してアリアの死体へと放り投げる。
『それ』は一個の茶碗だった。しかしただの茶碗ではない。

戦国の梟雄であり凶悪無惨の戦闘者である一方で、松永久秀は戦国随一の文化人、数寄者でもあった。
そんな彼女の磨きぬかれた感覚は、一目見てその茶碗が天下の逸品であることを見抜いていた。

流石に彼女の命である平蜘蛛には及ばないが、それでも国の十や二十に匹敵する名品であることは間違いない。
なぜこんな殺し合いの場にこのような素晴らしい茶器が紛れ込んだのか、久秀は疑問に思いつつも
この茶碗に巡り会えたこと、価値の分からぬ便所女の手から救い出せたことを喜び、この戦いが終わったら自分の茶器コレクションに加えようと大事にしまっておいた。


「クソッタレがァ――――!!」

だが背に腹は代えられない。
戦場において初動の遅れは即ち敗北に繋がる。
そして松永久秀はもう遅れ放題遅れていた。
このままでは主催者にどっちが上か教えるどころの話ではない。


「点火!」

茶器を爆弾にする能力。
彼女が妖怪化するに際し、再生能力、蜘蛛の使役とともに備わった特殊能力である。


                               ヽ`
                              ´
                               ´.
                           __,,:::========:::,,__
                        ...‐''゙ .  ` ´ ´、 ゝ   ''‐...
                      ..‐´      ゙          `‐..
                    /                    \
        .................;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::´                       ヽ.:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.................
   .......;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙       .'                             ヽ      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;......
  ;;;;;;゙゙゙゙゙            /                           ゙:                ゙゙゙゙゙;;;;;;
  ゙゙゙゙゙;;;;;;;;............        ;゙                              ゙;       .............;;;;;;;;゙゙゙゙゙
      ゙゙゙゙゙゙゙゙゙;;;;;;;;;;;;;;;;;.......;.............................              ................................;.......;;;;;;;;;;;;;;;;;゙゙゙゙゙゙゙゙゙
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                 /゙||lii|li||,;,.il|i;, ; . ., ,li   ' ;   .` .;    il,.;;.:||i .i| :;il|l||;(゙
                `;;i|l|li||lll|||il;i:ii,..,.i||l´i,,.;,.. .il `,  ,i|;.,l;;:`ii||iil||il||il||l||i|lii゙ゝ
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                    ´゙`゙⌒ゞ;iill|||lli|llii:;゙|lii|||||l||ilil||i|llii;|;_゙ι´゚゙´`゙
                         ´゙゙´`゙``´゙`゙´``´゙`゙゙´´


投げられた茶碗がアリアの首無し死体に命中すると同時に、目を潰す閃光と轟音が大地を震わせる。
そして朦々した土煙が消え去った後には――久澄アリアも、茶碗も、大きく抉られた地面の他には何も残されてはいなかった。

421438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:02:12 ID:kGznglRM0



ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「クソがァ…………」

アリアの死体消滅と同時に、血槍も形を失ってただの血糊に還る。
戦いを制した久秀の顔にはしかし、喜びの色はない。
仕掛けられた血の槍地獄から抜け出すのに払った代償は、彼女にとってあまりに高すぎた。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「チッ……」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「ん?」

さっさとその場を離れようとして――久秀は気付く。
自分のすぐ背後から聞こえる、ぎゃりぎゃりという奇音に。
そして首筋に伝わる、僅かな震えに。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり


「キャオラッッッ!!」

久秀は地を蹴って飛鳥の様に中空で回ると、一瞬前まで自分がいた空間に大典太光世の切っ先を向ける。

だがそこには誰一人、何一つとして存在していなかった。

「何ィ……!?」

逃げる暇はなかったはずだ――だがそこには、音の原因も、震えの源になるものも無い。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「!?」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

再び背後に音と震えを感じ、久秀は躊躇うことなく斬りかかる。
しかし名刀の刃は空しく宙を切るだけだった。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「これは…………」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

常人ならこの不可思議に混乱する所だが、久秀は早くも喝破した。
この音と震えが、自分にぴったりと憑いていることに。


「……!!」
久澄アリアの支給品から奪った手鏡で、久秀は背後の音の源――自分の首筋を見る。

「――ンだ、こりゃァ……?」

ソレは彼女の首の後ろ、首輪の表面に存在していた。
大きさは人差し指ほどの血の塊だった。形は錐形をして、先程戦った血槍の槍先に似ている。

ソレは槍先の先端にあたる鋭い切っ先のみで久秀の首輪に接し、猛烈な勢いで回転していた。
もし彼がアースRの出身ならば、その形状と動きを見てドリルを連想したことだろう。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「チッ!このッ!!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

久秀は大きく首を振るが、その血槍先は首輪の一点から離れず回転したまま憑いてくる。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり
「てめェ――!」
ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり

手で払いのけようとしたその時、

ちゅるん

という音を残して、その血槍は消えた。



後には、首輪の表面に錐で突いたような小さな穴一つが残されていた。

422438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:04:12 ID:kGznglRM0


「こ、これは……!!」

残された首輪の穴を確認した久秀の手から手鏡が落ち、砕けた。
今や全てがはっきりしていた。あの小さな血槍の目的は久秀の首輪に穴を空けることにあった。
そして今、穿たれた小さな小さな穴を通じて、元の血液へと戻った血槍は首輪の内部へと侵入したのだ。

松永久秀の首輪の中に。


「がッ…………!!」

その目的は久秀にも容易に想像できた。
魔力爆破――アリアたち魔法少女は魔力、久秀たち妖怪は妖力と種類は違えど
心霊的エネルギーを破壊エネルギーに転化するのは、慣れた術者にとってはそう難しいことではない。

無論本来であれば、妖怪である久秀にとって魔力爆破などカンシャク玉ほどにもダメージを与えない。
ましてや爆発するものが人差し指の先程の量の血液で、しかも穴を掘って魔力を使い果たした残りカスの爆発など、文字通り屁でもない。

しかし、もしその爆発がこの妖怪でもなんでも爆死させる首輪の誘爆を引き起こすとするなら――――


「クソッ!クソッ!」

久秀は慌てて穿たれた穴を下にして首輪をトントンと叩くが、血は出てこない。


「スベタがッ……!!最初からこれが狙いで……!!」

緊縛され拷問を受けている間に、久秀が通常の攻撃では死ぬことのない魔人だということをアリアも悟ったに違いない。
そして一縷の望みをかけて、久秀の首輪を狙ったのだ。
久秀を襲った無数の血槍は、首輪を削る際にどうしても発生する震動と掘削音を誤魔化し、久秀の意識をそちらに向けさせないための囮だった。
本命である血の小型ドリルは、おそらく戦闘の最初期に切り捨てられた血槍に紛れて密かに久秀の背後に回ったのだろう。
そして削り始めた――妖怪である久秀にとって致命傷になりえない頚動脈でも頭蓋でもなく、その首に嵌められた首輪の表面を。
こんな奇跡的超絶技が可能だったのは、術者である久澄アリアがアースMG世界屈指の魔法少女――それも水を操る魔法を最も得意とする――であったからに他ならない。

無論分の悪い……極めて悪い賭けだったことは間違いない。
もし戦闘の最中でも久秀が僅かな違和感に気付いていたら、もし久秀に平蜘蛛というウィークポイントが存在せず早々に場を切り上げていたら
もしもっと早く久秀が茶器爆破を決断していたら、もしもっと掘削困難な素材で首輪が作られていたら――――
アリアの遺した作戦は失敗に終わっていただろう。
だがアリアにとっては幸運な、そして久秀にとっては不運なことに、そうはならなかった。
久秀は最初は圧倒的強者としての驕りから、途中からは苛立ちから、気をとられて首輪の異変に気がつかなかった。
もし戦国時代の松永久秀なら、戦場の僅かな違和感を逃すことなど有り得なかっただろう。
しかし彼が甦ったアースEは小規模な戦闘や暗闘があるとはいえ太平の世、そこでの暮らしと、人間を捨て妖怪化した事による己が力への過信――それが戦国の梟雄を鈍らせていた。

423438年ぶり2回目 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:04:55 ID:kGznglRM0


「だが……だが何故だァ!? 売女の死骸はもう無いはず……!!」

魔力の源であるアリアの死体はたしかに消滅した……ならば何故血ドリルは動き続け、今も首輪の中で動いているのか。

首輪から血を出そうと地面を転がり七転八倒する久秀の目は、偶然にもその答えを捉えた。



切断された久澄アリアの生首。
焼けただれ、血と泥に塗れた苦悶の形相の首は、久秀には嘲笑っているように見えた。


「このッ――――!!便j」

最後の司令塔を砕き潰そうと久秀は急いで駆け寄る。

だがアリアの生首に手が届く瞬間、彼女の首輪の中でアリアの最後の魔力が爆発した。
それは小さな爆発だったが、内部から首輪の誘爆をさそう目的は辛うじて果たすことができた。


          ,,-'  _,,-''"      "''- ,,_   ̄"''-,,__  ''--,,__
           ,,-''"  ,, --''"ニ_―- _  ''-,,_    ゞ    "-
          て   / ,,-",-''i|   ̄|i''-、  ヾ   {
         ("  ./   i {;;;;;;;i|    .|i;;;;;;) ,ノ    ii
     ,,       (    l, `'-i|    |i;;-'     ,,-'"   _,,-"
     "'-,,     `-,,,,-'--''::: ̄:::::::''ニ;;-==,_____ '"  _,,--''"
         ̄"''-- _-'':::::" ̄::::::::::::::::;;;;----;;;;;;;;::::`::"''::---,,_  __,,-''"
        ._,,-'ニ-''ニ--''" ̄.i| ̄   |i-----,, ̄`"''-;;::''-`-,,
      ,,-''::::二-''"     .--i|     .|i          "- ;;:::`、
    ._,-"::::/    ̄"''---  i|     |i            ヽ::::i
    .(:::::{:(i(____         i|     .|i          _,,-':/:::}
     `''-,_ヽ:::::''- ,,__,,,, _______i|      .|i--__,,----..--'''":::::ノ,,-'
       "--;;;;;;;;;;;;;;;;;""''--;;i|      .|i二;;;;;::---;;;;;;;::--''"~
               ̄ ̄"..i|       .|i
                 .i|        |i
                 i|        |i
                 .i|          .|i
                .i|           |i
               .i|      ,,-、 、  |i
               i|      ノ::::i:::トiヽ、_.|i
           _,,  i|/"ヽ/:iヽ!::::::::ノ:::::Λ::::ヽ|i__n、ト、
     ,,/^ヽ,-''":::i/::::::::/:::::|i/;;;;;;/::::;;;;ノ⌒ヽノ::::::::::::ヽ,_Λ
     ;;;;;;:::::;;;;;;;;;;:::::;;;;;;;;:::/;;;;;;:::::::::;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:::::::::::;;:;;;;:::ヽ


早朝の森の清冽な空気を震わせて、諸行無常の理をあらわすかのような汚い花火が上がった。


【E-4/森/1日目/早朝】

【松永久秀@アースE(エド) 死亡】

※E-4/森に天下五剣「大典太光世」@アースE、マッチ@アースR、松永久秀の蜘蛛柄の着物、基本支給品二人分が放置されています。


支給品説明

【平沢家家宝の茶碗@アースR】
平沢茜の実家である平沢家に門外不出の家宝として代々秘伝されてきた茶道用の茶碗。
お宝鑑定団が卒倒するレベルの国宝級超逸品である。

【手鏡@アースR】
なんの変哲もない普通の手鏡。

424 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 05:06:48 ID:kGznglRM0
投下終了です
やばいと思ったが爆発欲を抑えきれなかった

425名無しさん:2015/08/10(月) 09:14:23 ID:Dw/HGv8E0
投下乙です
汚ねえ花火だ。小さい爆発というには大爆発に見えるAAですね

426名無しさん:2015/08/10(月) 14:06:17 ID:F5Dw3N9Y0
あまりにもふざけすぎています
カオスロワでやった方がいいのでは?

427名無しさん:2015/08/10(月) 18:46:03 ID:5.fc8rdQ0
うーん

428名無しさん:2015/08/10(月) 22:37:12 ID:3jz7eBk20
投下乙
やはりロワとは地獄だな(ニッコリ)

私的にはAA無しだったら大丈夫かと…

429 ◆7yHhbHvsLY:2015/08/10(月) 23:55:46 ID:kGznglRM0
皆さん感想ありがとうございます。
指摘された>>420>>423の二ヶ所の爆発AA部分は削除します。

430 ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:11:38 ID:cjK35EqA0
早乙女灰色 雨谷いのり 投下します

431似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:12:46 ID:cjK35EqA0
何かを志し、それに向かって努力し、そしてついにそれを成し遂げる。
古今東西あらゆるアースどこにでもありふれるこういう成功物語は、しかし、具体的な例となると極端に少なく、大抵の人間は、妥協し、享受し、静観して、挫折する。
が、この挫折者、転落者は記録や歴史に滅多に残らず、多くは塵となって消えてゆく。
今回は、同じ世界から呼ばれた二人の落伍者の遭遇を紹介しよう。
一人は正義の味方を志し、しかし姉の死をきっかけに堕落し、灰色の生き物になり。
一人は正義の味方を志し、しかし師匠の死をきっかけに転落し、真の正義/悪を殺す悪になり。
出発点は近く、身近な死をきっかけに変質し、そして二人は歪んだ道を歩き出す。
その道は、C―7、平原で交わることとなった。


歩みは依然、重い。
移動を開始して数分、歪んだ魔法少女、平沢悠との戦いによるダメージは今もなお、いのりの体を蝕んでいた。
それでもいのりが遅くながらも歩みをとめないのが、彼女のプライドとは別に、此処が広い平原だからというのもあるだろう。
ところどころに木陰が出来ているが、ほとんどは足首ほどしかない短い草ばかり。
これでは、すぐに危険な参加者に見つかってしまう。

(なんとか……学校まで……)

そう思い、足に力を込め、一歩ずつ歩く。
あばらが折れ、内臓に傷がついてもここまで動けるのは、彼女がその短い人生のほとんどを修行に費やしたからか。あるいは、性格を豹変させるまでに至った負の心が為すものか。
とにかく、彼女は学校へ向かい、緩慢と前進していた。
が、呼吸をするたびに頭に霞がかかる。それを振り払うようにいのりは首を振る。
負傷はいのりの予想以上に集中力を奪っていた。
――そう、接近する人間に気付かぬほどに。

「ふん、こんなところでお前に会うとはな」

その声に、いのりは慌てて振り向く。灰色の大男。政府直属ヒーロー、早乙女灰色がそこにはいた。

いのりは灰色に向かってナイフを構えた。頭の靄も瞬時に晴れ、全身の倦怠感も一時は忘れる。
敵に遭遇した際の即座の戦闘態勢。これも、いのりの師匠が遺した、死なないための技術だった。

「そう構えるな。首輪の色を見ろ。オレ達は同じ陣営だ」

「確かに同じ陣営。でも、お前は信用できない」

お互い、面識はなかった。ただ、どちらもその活躍や噂は聞いている。
いのりは、早乙女灰色という男が好きではなかった。
娘と一緒に活動し、ヒーロー協会ではなく、日本政府の依頼を受けて戦うヒーロー。
そして、この男は日本政府の命令で罪なき人間も殺しているという黒い噂が絶えない。
もしその噂が本当なら、灰色はいのりの敵だ。

「お前は罪のない人間を殺す。そんな奴を誰が信用できるか」
「ふん、嫌われたものだな。まあいい、オレもお前に好かれようとは思わん」

ただ、と灰色は続ける。

「情報くらいは交換しないか。何も一緒に行動しようというつもりはない。が、同じ陣営の相手とそう何度も会えるとは限らんのでな。お前も危険な人物の情報は知りたいだろう」

もっともな提案だった。いのりも頷き、言う。

「わかった。まずお前から話せ」

432似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:14:15 ID:cjK35EqA0
冷淡なないのりの態度にしかし灰色は何も言わず素直に口を開いた。

「まず、危険な怪物をが空港で暴れていた。今は怪人のようなものになっているが、それでも俺やお前が適う相手ではないだろう。発見したら逃げろ」

「怪物が……怪人……?」

「鱗のようなものがある、女性型の怪人だ。まあ、見ればわかる。どうやら理性はほとんどないようだから、逃げること自体は容易いだろう。他に出会った者は麻生叫という口縫いの高校生だ。外見は異形だが、無口なだけでさしたる害はない。会ったら保護してやれ」

その言い草にいのりは眉を顰める。

「なぜお前は保護していない。ヒーロー協会には属していないとはいえ、お前もヒーローだろう」

「生憎オレは足手まといを保護する気はない。それにあいつは妹を探すといったからな。それに付き合わされるのは面倒だ」

ヒーローとしてはあまりにも身勝手な灰色の言葉は、いのりの心に重い不快感を漂わせる。
思わず糾弾しようと口を開きそうになるが、すぐに自分も似たようなものだと気が付き、睨み付けるだけに留まった。

「とにかくオレが出会った参加者はこの2人だ。一人と一匹と言ってもいいのかもしれんがな。さあ、次はお前の番だ。……といっても、その有様を見れば、危険な参加者に出会ったことはわかるが」

「黒い大きな腕を使う、少女に出会った。悪人の空気を纏っている」

「悪人の空気とはまた曖昧だな」

と言いながらも灰色はその空気がどういったものかは容易に想像できた。
何度も悪と対峙と次第に分かってくるのだ。
一目見て、悪だと感じ取る。油断が死に繋がるヒーロー業界において、この力を持っているかいないかは、そのまま生死を分ける分水峰になることもある。
もっとも、このセンスを完全に信じ切り、それだけで悪人だと判断して襲い掛かるような者は、ヒーロー業界では狂人と扱われるが。

「ワタシが会ったのはそいつだけ」

「そうか。貴重な情報に感謝する。……ふむ、他に話すようなことも無い。別れるとするか」

「私は廃校へ向かっている。お前はどうする」

「ならばオレは北上しよう。これ以上お前と一緒に行動して刺されるのは御免だ」

そう言って、灰色はいのりに背を向け、どこまでも広がっていそうな平原を歩き出した。
背を向けてはいるが、いのりが後ろから襲い掛かってもすぐに対応できるように、常に気は張っている。
いのりは灰色の後ろ姿に興味は示さず、そのままさっきまでと同じように、廃校に向かって、足を進めだした。
灰色と出会った緊張、それに伴い分泌された脳内麻薬が切れる前に、彼女は少しでも距離を稼ぎたかった。

ヒーロー協会からのはみ出し者二人の情報交換は、こうして何事もなく終わった。



(次は殺すか)

いのりと別れて数分も経たないうちに灰色はそう考えていた。
彼の目的は、この殺し合いで悪を為し、自分の弟子に殺されることだ。
そして、その目標を達成するためには、雨谷いのりを殺すのが普通の考え方だろう。
しかし、灰色はそうしなかった。
いのりが負傷していても、敗ける可能性があったから。
それも確かにある。
が、灰色がいのりを襲わなかったのには、もっと明確な理由があった。
裏切りのクレア。
エンマに匹敵する身体能力と大人の狡猾さを備え、灰色の姉とは違い直接ヒーロー協会に反旗を翻した怪物。
そして、雨谷いのりの復讐対象。

433似たもの同士が相性がいいとは限らない ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:15:03 ID:cjK35EqA0
クレアと遭遇することを灰色はそれ程恐れていない。
彼女はある程度は、それこそ怪人パーフェトのような狂人とは違い、話が分かる狂人だ。
情報や支給品の提供で見逃してもらえることも夢物語ではない。
それに、殺されるならばそれはそれで構わない。
頭を撃ち抜いたり、飛び降りる気は無いし、死なない努力はする。が、殺されることにそれほど恐怖感は無かった。

だが、エンマとクレアを会わせることは何としても避けたい。
幼いぶん思考が単純なエンマにとって、クレアは猛毒だ。
殺されるだけならいいが、変な思想を植え付けられたら最悪。
灰色は幻視する。
早乙女エンマがクレアの力で悪に堕とされ、自分の前に立ちはだかる未来を。
それはきっと、死より不快なことだ。
それはエンマ、灰色だけでなく、彼の姉、早乙女鉛麻も侮辱する行為だ。
彼女は絶望こそしていたが、決してヒーローであることはやめなかったのだから。
そして、裏切りのクレアはそれを容易く行いそうな不気味さがある。
が、灰色は積極的にクレアを討伐しようとする気はなかった。
それは自分ではクレアに勝つことは難しいという客観的事実や、たかが一参加者に構ってはいられないという冷静な判断によるものだ。
だから、雨谷いのりを襲わなかった。いや、殺さなかった。
クレアを憎み、復讐を誓う彼女は、あわよくばクレアに辿り着き、殺すまではいかないにしても腕の一本や二本は道連れにしてくれるかもしれない。
灰色はそれを期待し、雨谷いのりを見逃した。

だが、同時に灰色はいのりに失望をしていた。
この短時間で、あそこまで傷を負うことになった彼女は、灰色が思っている以上に、直情的で、不器用な生き方をしているらしい。
いのりの境遇が知っている。思う所がないわけではない。
が、いのりは灰色の生き物ではない。彼女は復讐者だ。
ならば踏み込んで語るつもりはない。彼は自分の同類にしか内面を明かさないし、過去を語らない男なのだ。
次に会った時、復讐を達成できていなければ、あるいは幸運にも達成していれば、その時は容赦せず殺そう。

灰色の男は、その時の殺害方法を考えながら、いつのまにか町へと入っていた。

【C-6/町/1日目/早朝】


【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】
[状態]:灰色
[服装]:ヒーロースーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:エンマに殺されるため、悪を行う
1:麻生嘘子だけは保護しておく
2:死んだらそれはそのときだ。
3:平原から北上。
4:雨谷いのりに今度出会ったら殺す



「次は殺す」
ワタシはそう口にした。
決意を口に出すと、さらに強固になる。
これは師匠がワタシに教えてくれた考え。
師匠が死ぬ前は、独り言は恥ずかしいと嫌がっていたワタシだけど、今はそれが自然に実行できる。
きっと今のワタシの有様を見たら師匠は怒ると思うけど。
でも、悪は悪でしか殺せない。
ワタシは間違っているけど、でも、弱い私にはこれしか方法がないのだ。

早乙女灰色。あいつからも悪人の気配がした。
きっと噂通りの奴なんだろう。
自分の地位や金のために罪のない人間を殺すような、そんな最低の悪党なんだろう。

でも、ワタシはそんな悪党を殺せなかった。
自信がなかったから。
今のコンディションで早乙女灰色を殺せるとは思えなかった。

裏切る直前までヒーロー協会に属していた裏切りのクレアは、その戦闘方法が記録されているし、彼女の戦っている姿を見た者も多い。
けど、早乙女灰色は表立った戦闘のほとんどを娘に任せている。その戦闘能力の詳細を、ワタシはほとんど知らない。
今まで、然したる興味も無かったから、というのもあると思うけれど。

「ぐっ……」

あいつの姿が見えなくなった辺りで、ワタシのあばらは再び痛みだした。
緊張がとぎれてきたんだろう。

とにかく今は学校に行って休息と治療を。
それまでは、それこそクレア本人にでも出会わない限り、戦闘は避けるべきだ。

けど、もし、体力がある程度回復して、また灰色に会ったら、今度は悪としてあいつを殺す。
次は、殺す。

【C-7/平原/1日目/早朝】


【雨谷いのり@アースH】
[状態]あばら骨骨折  それに伴う疲労(小)
[装備]:ナイフ×2@アース??
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:『悪』を倒す。特にクレア
1:学校で保健室を探し、休む
2:灰色は今度出会ったら殺す

434 ◆9KJ.d2Jgbs:2015/08/20(木) 13:16:30 ID:cjK35EqA0
短いですが、投下を終了します

435 ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:11:55 ID:/5XIYF.A0
>438年ぶり2回目
アリアさんの怨念ー!めっちゃ大健闘してる!これはアリアさんが正義の魔法少女の意地を見せた形ですね…
久秀はもっと暴れてから無様に爆散してほしいと思ってたんですが、爆発させたくなっちゃったならしかたない
本文に勢いがあってこれはこれでけっこう好きな感じでした。またなんかやりたくなったらやっちゃえばいいのさ!

>似たもの同士が相性がいいとは限らない
灰色のヒーローと対悪のヒーローの邂逅……渋い!
情報交換を穏便に終えつつも互いに相手を殺すことしか考えてなかったっていう関係がすごいツボです
灰色がいのりちゃんを見逃す理由が、裏切りのクレアによるエンマ洗脳を想定してるってのもいろいろ考えられている

遅れましたが予約分投下します

436D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:13:51 ID:/5XIYF.A0
 

「だいたい分かった」

 警察署の『応接室』と書いてある個室の中心に黒田翔琉が立っていた。
 その近くにはホワイトボードが運び込まれており、黒のマジックで様々な情報や推測が描かれていた。
 ホワイトボードは狭すぎて、すぐに埋め尽くしてしまったので、壁にも書いてある。壁でも足りなかったので、床にも書かれていた。
 天井は届かなかったので書かれていない。

 旗についての情報。
 黒田の知っている自分の世界についての情報。
 そして、鉄缶に入っていたマスコット――ピンクのカエル「キュウジ」から聞いた、“魔法の国”の情報。
 あまりに書きまくられてしまったため、部屋はまるで呪いの言葉がびっしりと書かれているかのようにさえ見える。

「だいたいわかったって……」
「理解した、ということだ。事件の全容の理解は解決への第一歩、すべての探偵が行うべき初期項目。
 現状で分かっているなにもかもを洗い出して、未知のピースを推測で埋める、地道だが必要な作業だ、それが今終わった」
「……だ、だからってここまで書き込むことないじゃないか、かけるくん!
 床も! 机も! この缶まで! 文字だらけになっちゃって……」
「紙を取りに行くのは面倒だったからだな。俺は基本的に安楽椅子派なんだ」
「ものぐさなのかアクティブなのかはっきりしようよ……」

 テーブルの上、缶の中に入っているキュウジは呆れかえる。
 その缶にも情報が書き込まれている。
 「キュウジ オス 魔法少女のマスコット ショッキングピンク 羽虫が好き 猛禽類が嫌い 特技は大ジャンプ 趣味は歌……」
 テーブルにも情報が書き込まれている。
 「仮称:魔法の国 の魔法少女と呼ばれる存在を契約によって造り出す、マスコットと呼ばれる存在で……」
 もはやキュウジのプライベートな部分は年齢以外すべて洗い出されてしまった。年齢だけは死守した。
 そこはやっぱり現実的なところなので夢を与えるマスコットであるキュウジとしても教えては商売あがったりなのだ。

「というかかけるくん、こんなに情報ばっかり書いて、どうしようっていうのさ!」
「情報の大切さが分からないか? では試しにひとつ整理してみようか。
 まず――前提条件。俺が見ているこのピンクのカエルが幻覚でないのなら、”世界は複数ある”ということだ。
 時代考証も、なにより環境考証までてんでチグハグ、そもそも俺の世界観には喋るカエルも魔法少女も居なかった。
 同様にキュウジの世界では、探偵稼業は魔法少女の仕事の範疇で、
 探偵は居なくもないが、探偵だらけになるような土壌はない世界観だ。つまり、俺たちは別々の世界から来た」
「うん……そこは間違いないと思うよ……?」
「なら確定条件としよう」

 言いながら黒田はまだ文字の書かれていなかったソファーをひっくり返し、
 背に「1・世界は複数ある」と書いた。
 やっぱりアクション派じゃないのかとキュウジは思う。格闘が苦手な頭脳派とはちょっと思えない。

「そしてこの確定条件を”分かるところまで”詰めていく」

 書いた文字から線を伸ばし、項目を分けていく。
 ――どういう世界があるか?
 ――いくつ世界があるか?
 ――なぜ世界が複数あるのか?
 ――完全に別個の世界なのか? それともどこか一つから分岐した並行世界か?

「少し思いつくだけでもこれだけの条件が出せるわけだが、さてどれが“分かる”?」
「どれもわからないと思うなあ……」
「分からないのは情報が足りないからだ。他から情報を手に入れれば、確定したり推測できるものもある。
 例えばこの“参加者候補名簿”は大きな情報だな。
 俺もキュウジも知らない名前が載っている。というところ。そして、俺とキュウジが知っている名前の数も大事だ」

 黒田翔琉は“参加者候補名簿”をびらりと見せる。
 すでに警察署で調達したマーカーによって、
 黒田が知っている名前とキュウジが知っている名前には線が引かれている。
 全体で載っている名前の数は150弱。
 そして、黒田とキュウジがそれぞれ知っていた名前と、共通して知っていた名前を合わせて、30程度となっていた。
 ちなみに共通して知っていた名前とはすなわち偉人勢の名前のことだ。

437D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:15:21 ID:/5XIYF.A0
 
「偉人勢はとりあえず除く。本当に呼ばれているならそれは別の世界からの可能性が高いからな。
 二人がそれぞれ埋められた名前だけ数えると、20弱だった。
 一人につき10人程度の知り合いがいることになる。
 ということは単純計算なら、この殺し合いに呼ばれた世界は15個あるということになる。
 ……ただ、考慮すべきは、“同じ世界だけど知らない人”の存在だ。
 俺の世界からも俺が知っている著名人以外に呼ばれていたりするかもしれない。実際に、一般人に見える名前もあるしな。
 そう考えるともう少し減るわけだ。10個前後、あるいはもっと少ないか。
 さらに殺し合いに呼ばれなかった世界の存在も考慮しておこう」

 黒田はソファーに文字を追加する。
 世界は複数ある――いくつ世界があるか?
 ⇒少なくともこの場には10前後。呼ばれなかった世界を含めればもっとあるはず。

「なるほど……そういう流れだったんだ。すごいやかけるくん。やっぱり探偵だったんだね」
「探偵だぞ。そしてこの程度で驚いてもらっては困る。
 こうして推測した情報が他の謎の手掛かりや、新たな謎となるということもあるわけだ」

 黒田はさらに分岐を増やしていく。
 もはや問答もなしに、謎を増やしては推測し、答えを出していく作業。
 恐ろしいスピードでマジックを書き連ねていくその姿はまるで魔法陣を書く魔術師のようだ。

 ――10前後の世界はそれぞれどういう世界か?
 ◆探偵の世界と魔法少女の世界。ほかにも職業や概念に特化した世界があるか?
 ◆参加者名簿は日本語で書かれていた。全員が日本語を理解できるとみるべきか
   あるいは他の参加者にはその世界の言語で渡されているのか?
 ◆キュウジも日本語は理解可能。最初に流れたスピーカーからのアナウンスも日本語だった。
 ◆日本があるという点ではこちらの世界とキュウジの世界は共通している
  ⇒並行世界説の補強?
 ――そもそも世界が沢山あるとすれば――なぜその10前後の世界から呼ばれたのか?
 ◆キュウジは「旗」を見ていない 旗は関係ない?
 ――誰が集めたのか?
 ⇒たくさんの世界を集めるならばその世界について知っている存在が必要
  また、自分の世界以外の世界に干渉できる存在も必要となる
  この島のような世界に連れてこられているが、こんな島はキュウジも俺もしらない
  世界を移動させる力を持っている存在もまた必要
 ◆また、

「ちょ、ちょっとかけるくん!」

 あまりに終わりそうにないのでキュウジは思わずストップを掛ける。
 黒田翔琉もそこでようやくキュウジの存在を思い出したかのようにマジックを書きなぐる手を止めた。

「おっとすまんな。ついつい探偵モードに入ってしまっていた」
「ほんとうにやめてよ……その辺のおはなしをこれまでして、もう分かることは全部分かったんでしょ?
 いまのはおさらいなんだから、そんなに根をつめないでよ。僕らはその先の話をすべきだと思うな」
「同感だ」

 そう、今の推理過程はここまでの情報交換の合間にずっとなされてきていたことで、
 だから壁にも床にもびっしりと文字が這わされているし、黒田はもう推理の果ての「答え」まで出している。
 確認作業に時間をかけるほど今日の探偵に余裕はない。
 ぱんぱんと服についたホコリを払ってから、ごきごきごきりと黒田は肩を回した。

「重要な“成果”だけを確認しよう。

 分かったこと。
 ひとつ。 世界が複数あると分かったこと。
 ひとつ。 主催は複数の世界から人を集めて殺し合いをさせていること。
 ひとつ。 主催には複数の世界に干渉できるだけの強大な力があること。

 推測できたこと。
 ひとつ。 「チーム」は世界ごとに分けられている可能性があること。
 ひとつ。 「旗」は主催が俺の世界に干渉したことを表していた可能性があること。
 ひとつ。 この島もまた、主催によって造られたものである可能性があること。

 まあ他にもいろいろと考えはしたが、まだ推測の域を出んな。閉じこもっていては情報も足りないか」

 根拠や論理は割愛するとして、
 この一時間程度のグリーティングで黒田翔琉が「理解」したのは以上の成果だ。
 かねてからの懸念だった「旗」事件についての推理が出来たのは非常に大きなことだった。
 さらに、自分が置かれている状況についてもある程度の把握を得た。

438D-MODE ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:17:17 ID:/5XIYF.A0
 
 複数世界から人を集めての殺し合い。
 理由はまだ不明だが、おそらくは世界ごとにチーム分けをし、
 どういうわけかどのチーム――どの世界が生き残るかを決めようとしている。
 その力はあまりにも強大で、黒田翔琉に太刀打ちできるものかはかなり怪しい。
 ――ここまで、分かった。 

「さて、そして最後の問題」

 そしてそれでもひとつ問題は残った。
 その問題は――ここが机上ではなく現場だということだ。

「俺はこの場で何をすべきか、だが――」

 事件が起こった後ではない。今まさに起こっている真っ最中だということだ。
 こんなとき、探偵はどうすべきか。


 ――黒田翔琉は探偵として、何をすべきか。


 ぎょろりと黒田の黒目がキュウジに向いた。
 キュウジはぎょっとした。先ほどまでの探偵の鋭い目とは違う。
 その目にはこの理不尽への怒りが、正義に燃える男の怒りが、炎として灯っていた。

「何をすべきか、だが。そんなものは決まっている。
 ……俺にもかつては師匠が居た。
 探偵の師匠だ。その人は探偵になろうと目を輝かせていた俺に、いきなりこんなことを言うような人だった。
 “いいかカケル、探偵は事件を解決している時点で負けだと思え。出番があった時点で敗けだと思え。
  探偵の仕事なんてのは火事の消火だ。延焼しないようにする後始末だ。燃えたものは結局、戻らねえ”」
「かけるくんの……師匠……」
「事件が起こってしまっているという事態そのものを、重く見るような人だった。
 確かにそうだと、俺も思う。解決するのは楽しいし好きだが、解決するような事件が無くなるのが一番だ。
 まあ理想論だ、事件が無くならないから俺たちみたいのがいるわけだしな。それでも、探偵(おれたち)だって思ってるんだよ」

 黒田翔琉は言った。

「人を悲しい目に合わせるクソ野郎は許せねえって、探偵(おれたち)だって思ってるんだ」

 力強く、宣言した。

「俺は――この事件(殺し合い)を止めるぞ、キュウジ」
「かけるくん……!」
「そしてそれに際して一つ、質問がある」
「え?」
「キュウジ。魔法少女のマスコット。マスコット学園では主席だったが、未だ契約者はおらず。
 マスコットは、契約者を自らと一蓮托生とする魔法少女に変えることができる。そうだな?」
「え……うん……」
「ならば」


 そして力強く、質問した。


「ならばお前は、俺を――魔法少女にできるか?」



【A-4/警察署/1日目/早朝】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康
[服装]:トレンチコート
[装備]:キュウジ@アースMG
[道具]:基本支給品、週刊少年チャンプ@アースR、タブレット@アース???
[思考]
基本:この事件(殺し合い)を止める
1:眠気は覚めた
2:そろそろ動き出す
3:剣崎渡月に注意
4:詩織やナイトオウルたち知り合いも気になるが…
[備考]
※「旗」は主催によるものと推理しました。
※複数世界の存在と、主催に世界干渉能力があることを推理しました。
※チーム=アースや言語変換、偉人勢の世界があることなどについては推測程度。

439 ◆5Nom8feq1g:2015/08/22(土) 23:19:54 ID:/5XIYF.A0
できるんでしょうか。投下終了です。

440名無しさん:2015/08/23(日) 01:29:02 ID:YHBwkX920
投下来てた!お二方乙です!

「似たもの同士が相性がいいとは限らない」
この二人は確かに似ているところはありますね。
師匠ポジの人を殺されてるところとか、達観してるところとか。
一旦はなんとかなったもののまた会ったときが怖いなあ…

「D-MODE」
探偵黒田の本気。さすがだ…キュウジもいい奴そうでなによりだ。
そしてやはり魔法少女黒田が誕生してしまうのか…!?楽しみだけど、おっさんの魔法少女だなんて見たいような見たくないような…。

441名無しさん:2015/08/23(日) 09:07:37 ID:ydq1Z7tQ0
投下乙です!
「D-MODE」
第一放送前にほとんど論理だけでここまで考察を進めた黒田はさすが探偵といったところ
キュウジもいい相方してるなあ
もし魔法少女になれたら戦闘面での不安も解消できるが、どうなんだろう?
まほいくのように少女になるのか、これゾンのような女装野郎になるのか、あれ、どっちでもおいしい……?

442名無しさん:2015/08/23(日) 12:06:33 ID:K9WKxhTc0
投下来てるじゃないか!

「似たもの同士が相性がいいとは限らない」
あいかわらず澱んだヒーローたちはサツバツとしてますね…コワイ!

「D-MODE」
魔法少女で探偵なオッサン、略してマタオの誕生か?

443CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:18:34 ID:yU85qQho0
代理投下します

444CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:04 ID:yU85qQho0
くははっ!やっぱり俺様の考えた通りだったなぁ、俺様の勘はやっぱ他のやつらとはちげぇんだな」

学校の三階職員室。
愛島ツバキは窓際の教員用作業デスクを眺めながら口許を緩ませた。
そしてツバキは普段なら座れない『教頭』というカード立てが置かれているデスクの椅子に腰かけゆったりとしている。

探索を始め、一時間ほどだろうか。
ツバキと陽太が一通りこの学校を回ったが、ツバキにとってこの学校は見覚えがあった。
何故ならばツバキが普段通う高校のそのものなのであるからだ。
ツバキと蓮がいつも居た生徒会室も、学食も、理科室も、教室もそのままの姿でこの殺し合いの会場に姿を現していた。

「…ツバキ、やっぱりこの学校は君の居た学校なのか」
「さぁねっ。AKANEが俺様の世界の学校引っこ抜いてここにドシーンって置いた『学校そのまま』なのか、俺様の世界の学校をそのままコピーして作り上げた『見せかけの学校』なのかまでは分かんねえよ。俺様のはや様エスパーじゃないしさ」

部屋の片隅で資料に目をやりながら、陽太は確認するかのようにツバキに聞いた。
ツバキも返答のようにはっきりとした確証は持てなかったが、そう予想するのは容易かった。

「どっちにしろとんでもない技術と手間がかかってるのに違いはないか」
「んまぁね♪」
「…なんでAKANEたちはここまでしたんだろうな。やる事は単純なのに」

壁に目をやると、おそらく年季からだろう。黒ずんだシミが見受けられる。
職員の机を見ても、職員の家族の写真や、部活動のスケジュール。添削課題までそのままの姿で置かれてある。
まるである学園のその一瞬を、人間だけ取り除いて切り取ったかのように。

陽太としては疑問だった。
殺し合いをたださせるなら、ここまで本格的に用意する必要はないのではないかと。
ただの道楽目的ではない、何か裏があるのではないかと。
深読みかもしれないが、そう思わざるをえないほどこの学校は不自然だった。

445CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:32 ID:yU85qQho0

「さぁね〜。俺様わかんなぁーい。名探偵でも連れてこいよってなっ」

そんな陽太の疑問を差し置いて、ツバキはへらへらと笑いながらバックから双眼鏡やら、薬品やらなんやらを並べていく。
先程寄った理科室で回収してきたものだろうか。陽太は周囲の敵の有無ばかり気を使っていたのでこういった物は忘れていた。
ツバキは双眼鏡を手に取り、椅子から立ち上がると西の窓際へと行き、そこからの風景を覗いた。

「生物の田邊の机の中にあったんだぜ!教師に対するボートク?ってやつか…おっ。こりゃおもしれえ」
「どうした!」

誰か見つけたのか、と思い陽太はツバキへと駆け寄る。
ツバキはわざとらしそうに、「ほへー」と言いながら、望遠鏡を覗き続ける。

「ヘロヘロの女の子が歩いてきてるぜ、しかも…こっちに!くははっ!よく見れば『戦姫たちの夜に』の雨谷いのりじゃん!コスプレかよっ」
「…!いのり!?」

雨谷いのり。結城陽太の弟子仲間の一人で、ともに修行していた仲間だ。
世界渡航に巻き込まれてからは行方も知れなかったが、まさかこの殺し合いに巻き込まれていたとは。

驚くツバキから半ば強引に双眼鏡を取り、覗く。
確かにいのりだった。しかし怪我でもしたのだろう。数箇所の出血と、脇腹を抑えながら苦痛の表情で歩くその姿は、間違いなく危険な状態だった。


「あれ?知り合い?作者どころか媒体も違くね?あんたら 」
「知り合いも何も…俺の弟子仲間の一人だ!なんであんな姿に…っ!」

いのりは強かった。
それでこそ師匠からも毎日のように褒められていたし、彼女としてもヒーローに対して誇りがあった。
そのいのりがあそこまでぼろぼろになったのにはきっと訳があるはずだ。
陽太も知らぬ、敵が。
双眼鏡をツバキに突き返し、陽太はおもむろに出入り口のドアへと走り、その引手に手をかけようとした。


「どこ行くんだよ」

ツバキが、先程までのふざけた様な喋り方ではなく、冷静に、しかしどこか調子が抜けたように尋ねた。
もちろんツバキも、陽太の行き先など知っている。
しかし、この《打ち切りくん》の物語を知っていた。だからこそ、ここで一応、止めておく必要があった。

物語の中で結城陽太は正義感が強い熱血漢だった。
だからこそ、仲間や無実の人々が痛い目にあったり傷つけられたりすれば頭に血が上ったようになり、「彼らを助けるため」の行動をする。
しかしひっくり返せば「正義感が彼の理性を抑圧してしまう」ことになり得る。
故に「サンライズ」の話の中ではその正義感が彼を単独的な行動へと度々追いやったためかファンからの批判に晒されてしまい、打ち切りの原因の一つとなったのだった。

446CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:19:53 ID:yU85qQho0
もし、結城陽太がその「サンライズ」の中の本物であるならば、おそらくツバキの話など聞かずに立ち去るだろう。しかし、ツバキとしても何も言及せずに元気に陽太にたいして
「いてらぁーー」と言うわけにもいかない。

ツバキは窓際から陽太へとゆっくりと近寄りながら口を開く。

「…あれが本当にお前の知人の『雨谷いのり』とやらって確証はあるのかよってハナシ。俺様から見たらアニメキャラのコスプレにしか見えないぜぇー?」

ドアの方を向いていた陽太は少し、肩を動かした。
確かにそうだ。世界渡航を経験した自分なら分かる。
ツバキの言う通り、あのいのりは《自分の知っている雨谷いのり》でない可能性だって十二分にある。
それどころか、凶悪的なヴィランであったらどうすればよいのか。
自分がここでやられてしまったら、それでこそツバキも、いのりも、この殺し合いに巻き込まれた人々を助けられないのではないか。

…しかし、それでも陽太は行かねばならなかった。
目の前の困っている人が居るならば、彼は駆けつけなければならなかった。
それが、師匠の教え。
《時が英雄にとっての最大の敵》。
まっすぐに、自分の正義感を信じて、行くしかなかった。

陽太は一旦大きく息を吐いてから、ツバキの方をはっきりと向いた。

「それでも俺は行く!『ヒーロー』だから!助けを求める人が居れば、どんな人でも助けてみせる!」

陽太はそう言うとドアを開け、職員室を走り出ていった。
正義感を胸に抱き、走り抜けていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

447CORE PRIDE ◇aKPs1fzI9A:2015/10/25(日) 01:20:34 ID:yU85qQho0
一人残されたツバキはやれやれと頭を掻きながら、陽太がいつの間にやら降ろしていたディバックも持ち、右手に日輪照らせし蒼穹の銃があるのを確認してゆっくりと職員室を出た。
陽太が走っていって数分後だった。

陽太を最初は追いかけるつもりはなかったが、このままもし死んでしまえば間が悪いし、何よりツバキ自身のせいになりうるのが、なんとなくバツが悪かった。

「…そんなんだから打ち切りくらうんだぜ。『サンライズ』君。
ま、たまにはヒーローの道楽に付き合ってやりますか。くははっ」

ツバキはそう呟くとのらりくらり、ゆっくりと陽太の足跡を追っていった。

【D-7/学校/1日目/早朝】

【愛島ツバキ@アースR】
[状態]:健康
[服装]:女子制服
[装備]:日輪照らせし蒼穹の銃(日光の充電50%)@アースH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、陽太の基本支給品&ランダム支給品0〜3
[思考]
基本:AKANEをぶっ潰す。
1:陽太と一緒に学校を探索したかったんだけどなぁ…まぁいっかだいたい見れたし。
2:平行世界について調べる。
3:陽太を追う

【結城陽太@アースC】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]: なし
[思考]
基本:AKANEと戦う。
1:いのりの元へ行く。

448名無しさん:2015/10/25(日) 01:21:17 ID:yU85qQho0
代理投下終了です

449名無しさん:2015/11/18(水) 01:21:03 ID:vYhxpiSA0
いつのまにやら投下来てた!?
乙です!果たしてどうなるのやら…

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452 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:15:59 ID:zWR9sifI0
テスト

453 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:17:06 ID:zWR9sifI0
短いですが
平沢茜
レイジョーンズ
投下します

454 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:17:53 ID:zWR9sifI0
レイ・ジョーンズは人間の闇を知っている。
「世界崩壊」前の彼は、犯罪者を相手取る仕事をしていた。新人だったが、それでも何度か場数は潜った。だから知っている。良心や倫理観などないかのように振る舞う悪党を知っている。
「世界崩壊」後も彼は極限状態に置かれた人間の醜さを何度も見てきた。それはゾンビとはまた違う醜悪さ。所詮人間も獣に過ぎないと訴えるような、残酷で、冷酷で、恥知らず。

だが、他の世界と比べても遜色なく、あるいはそれ以上に人間の【悪】に触れてきたレイ・ジョーンズでも、彼女、平沢茜は未知だった。

犯罪者、狂人、残虐。

そんな月並みな形容詞では表せないほどの【悪】。
そもそも動機からしてレイには理解ができなかった。

――世界が平凡だったから。

なんだそれは、とレイは思う。
そんなティーンエイジャーが家出をするような理由で、彼女は何人もの人間を殺して、いや、殺し合わせてきた。

その所業、まさしく悪魔(イレギュラー)。

だが、あまりにも理解ができないからこそ、レイはそれ以上、理解することを止めた。
レイの目的は生還である。ならば、ある意味ベテランである茜は重要な要素だ。
生かしておく。それに、外見は妙齢の日本人女性であり、実際に殺人を犯す、または誰かに危害をくわえるところを見たわけではない。

こと、適応力に関しては、レイの右に出る参加者は少ない。レイは心の中から生じる不快感、生理的嫌悪に蓋をして、あくまで善良なアメリカ市民、タフな元SWATとして振る舞うことに決めた。

レイと並んで歩く茜はすっかり登りきった太陽に照らされた海を見ている。
まるで、映画のワンシーンのように、海沿いを歩くレイと茜は、映えていた。

455 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:18:32 ID:zWR9sifI0


レイ・ジョーンズにとって平沢茜は未知である。
が、彼は未知に慣れている。次々に襲い来る不条理に耐性がある。

ならば、平沢茜はどうなのか。
自分のペースを崩さない彼女は、このバトルロワイアルも既知なのか。

結論から言えば、彼女の心中は決して穏やかではなかった。
まず、彼女の感情を占めるものは怒りだ。

観測者、と茜は自分を評価している。
あるいは読者、もしくは視聴者。

彼女は殺し合いを見ることが好きだ。
もし古代ローマに生まれていれば、コロッセオの常連、あるいは運営者に成っているだろうと確信する程度には、好きである。

そう、彼女は殺しあいを見ることが好きなのであって、殺しが好きなわけではない。
何度か見せしめと称して人間を銃殺、あるいは爆殺したことはあるため殺人処女でこそないが、それでもどこぞの狂人のように、殺人そのものには快楽を見出さない。

だからこそ、彼女は自分を殺しあいに招いた『もう一人の私』、AKANEに敵意や憎悪を抱いていた。AKANEも、茜の性質は知っているはずだ。知っていて、それでもなお、彼女を殺しあいに放り込んだのだ。ご丁寧に彼女に殺意を抱いているであろう参加者と一緒に。

ああ、果たしてこれほどの屈辱があろうか。
観客は、コロッセオへと引っ張り込まれ、今度は自分が主催者を喜ばせる劇の一部として扱われている。
家柄を誇らず、友人からも謙虚でいい子という評価を貰っている彼女だが、その本性は自分以外の全てを自分の欲を満たすためにあると思っている悪魔だ。だからこそ、自分がもう一人の自分の肴にされることに我慢できない。
引きずりおろす、と茜は改めて決意を固める。

彼女の心を占めるものは怒りだ。
が、それだけではない。
怒りに次いで大きな感情。それは矛盾のように思うかもしれないが、愉悦だ。

殺し合いに放り込まれたことこそ業腹だが、この趣向は悪くない。
主催者の地位を奪えれば、様々な世界の者たちをロワに参加させることができるのだ。

そのことを考えるだけで、彼女のテンションは上昇する。
ヒーローや探偵、魔法少女や偉人が同じフィールドで殺し合う様を見たら、ここ最近のマンネリも吹き飛ぶだろう。
いや、それだけではない。異世界にまで干渉できる力があれば、妄想だけで終えていたこんな趣向やあんな趣向も……と考え出したら際限が無くなる。
そういう意味では、彼女は今まさに、明日への希望を見つけたといってもいいのかもしれない。

最後に彼女の中で最も小さな、されど確かにある感情。
それは、恐怖だ。
死にたくない、と彼女は思う。
観測者である彼女にとって世界の中心は自分である。彼女は全ての価値を自分に置いている。
だからこそ、人並みに、人並み以上に、彼女は死を恐れている。

平沢茜は聡明である。元々の悪魔じみた閃きと英才教育によって、彼女の思考力は水準を超えている。が、それは殺し合いを生き抜く武器としてはいささか弱い。
何より、彼女は腕っぷしが強くない。元々運動が好きではないのだ。おそらく単純な身体能力なら参加者でもワーストクラス。アースRの参加者だけを比較しても、平均以下であることは確実。

はっきりいって、もし彼女が最初に出会った参加者が、殺意を胸に秘めていたら、平沢茜はとっくに脱落している。
それは彼女自身も重々承知している。

大物ぶるのも、余裕の笑みを見せるのも、全ては経験則だ。
この極限状況でそのように振る舞う者がいれば、他の参加者は警戒、または頼もしく思うだろう。
いずれにしても、生存率は上がる。

彼女が見てきたいくつのも殺し合いでも、マイペースを貫いた参加者は必ず終盤まで残っていた。

経験則に関しては平沢茜はトップだ。
終盤まで生き残る参加者の行動や傾向を分析し、その中で自分でも行える行動を選択。
今まで見てきた何十何百の死と同じにならないように、茜は頭を働かせる。

456 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:19:11 ID:zWR9sifI0


ざあざあと波が揺れている。
港にはいくつか漁船が泊まっていた。
レイが調べたところ、エンジンは問題なく使える。
が、当然沖合に出れば首輪がボン、だ。
レイも茜をそれを理解しているからこそ、今のところこの漁船群にたいした価値を置いていなかった。
「この後どうする、茜」
レイは支給された食料――味気ない乾パンだ――を口に入れながら、横でコーヒー牛乳を飲む茜に問う。
「……そうねー、このまま放送が始まるまで、港に待機ってのはどう?」
ちらりと、レイは腕時計を見た。
もう1時間もしないうちに放送が始まる。
「俺も同じ考えさ。今慌ててここを移動するメリットがない」
「そ。それに茜ちゃんはもー疲れちゃったよおー」
そう言って、ごろんと茜はベンチに体を横にした。
無防備にレイにその肢体を、晒す。
「ジョーンズさーん、マッサージおねがーい」
そう言って、童女のようにあどけなく、笑う。
こういった相手を、レイ・ジョーンズは殺せないと脳内で冷たく計算しながら。
「はは、おやすいごようさ」
そう言ってレイは彼女の踝に手を当てる。
「いやーん、何か手つきがやらしー」
「おいおい、君から頼んだんじゃないか」
そう言って、レイは手慣れた手つきで、彼女の足をほぐしていく。
(あ、思ったよりも上手い、この人)
と、彼女が若干緩んだ脳でそんなことを考えた時。
「ところでさ、せっかく時間があるんだ。さっきの話しの続きをしたいんだけど、いいかい」
(やっぱり、来たか)
平沢茜は考える。
今話すべきこと。まだ話すべきではないこと。それを冷静に吟味しなければならない。


もし第三者が今の二人を見れば、年の離れたカップルだと思うかもしれない。

が、二人の間に絆が芽生える可能性は――今のところ、零である。





【H-5/港/一日目/早朝】


【平沢茜@アースR】
[状態]:健康、精神的疲労(小)、肉体的疲労(中)
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
4:放送があるまで港で待機
[備考]※名簿は見てます


【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:健康 
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話をもっと聞く。そのために今は茜を保護するのが先決か
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
4:俺が作られた存在?
5:放送があるまで港で待機
[備考]※平沢茜に生理的嫌悪感を抱いています

457 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/28(木) 00:20:30 ID:zWR9sifI0
投下を終了します
タイトルは「悪魔の中身」です

458 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:11:59 ID:ptTP.aTw0
今回も短いですが
卑弥呼
柊麗華
早乙女エンマ
投下します

459みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:13:12 ID:ptTP.aTw0
全身に揺さぶりを感じて、目を覚ます。
すでに日は昇っていた。
視界に入る少女は確か――柊麗華。
そして、どぎついピンク――ピンク?

「そう睨むな、睨むな。妾の名は卑弥呼。お主……えんま、じゃったか?お主の師匠探しを妾も手伝ってやるぞ」

そう言って、ピンク色の髪の少女は微笑んだ。

「安心せえ。妾はお主らのような可愛い女の子の味方じゃ」

えへへ、と麗華は照れたように頭を掻いた。
エンマはそんな二人を無表情に見つめる。

「協力してくれるの?」
「うむ。妾にどーんと任せい」

薄い胸をどんと叩く。
エンマはこの卑弥呼と名乗る少女をチームにいれたメリット、そしてデメリットを考える。
が、今まで損得についても深く考えなかった少女にとって、これは中々難しい仕事だった。
数秒ほど、眉を歪めて額に手を当てた後、エンマは卑弥呼に結論を言った。

「二人かついで逃げると、両手使えなくて困るから」
そこで一度、言葉を切る。
卑弥呼の目を見つめ、続ける。
「もしもの時は、お前は、追いて逃げるから」

卑弥呼は可笑しそうに笑った。
「かまわんよ、妾はジープを持っとる」

こうして、チームは三人になった。

460みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:14:08 ID:ptTP.aTw0


時は数分ほど遡る。
未だ早乙女エンマが眠りについている時。
吸血鬼、柊麗華は昇る太陽の光を体に浴びながら、エンマの寝顔を見つめていた。
(可愛いなあ)
それは肉体の強度的な意味でも、顔かたちのことでも、両方の意味でである。
柊麗華は自分の外見を気に入っている。
気に入ったからこそ、彼は「柊麗華」を皮にして、彼女になったのだ。
しかし、気に入っているといっても、毎日見ていればさすがに飽きる。
この体で小学校に通っている彼女にとって同年代の女子は珍しいものではないが、それでも早乙女エンマは十分に上玉だった。

そして、ジルに追いかけられた恐怖やエンマの持つ暴力に対する畏怖も、数時間経ったことで、収まっている。
(ちょっとならイタズラしても、バレないよね)

思えば、こういう油断や甘さが彼を一度人生からドロップアウトさせた要因なのだが、残念ながらこれは人外になっても治らなかった。

頬に手を触れる。ぷにぷにとして柔らかい。
髪に手を伸ばす。砂で多少汚れているが、それでも口にいれたいほどきめ細かい。

未だエンマが目覚める気配はない。
そっと、麗華は自分の顔をエンマに近づける。

(さすがに唇同士はまずいよね)
でも頬を舐めるくらいなら大丈夫、とエンマは心の中で呟く。

「おお、何と何と!ロリっ子同士の百合じゃと!いいのう、いいのう。妾はそういうのも大好物じゃ!」

突如聞こえた邪悪な声に、麗華ははっと顔を上げた。
自分の目の前にいるのは、一匹の烏。

まさか烏も参加者なのか、と麗華はこの殺し合いの底知れなさを感じ恐怖した。

「うむ、どうしたのじゃ。妾のことは気にするな、邪魔はせんぞ。ただこの式神で記録して動画サイトに上げるだけじゃ」
烏はそんな迷惑なことを言いながら、こちらをじっと見つめる。

(式神……)
と麗華は脳内で検索する。
高位の吸血鬼は使い魔として、蝙蝠などを使役できる。
この烏も似たようなものか、と麗華は推理した。
とりあえず、エンマを起こそうとその矮躯に手を伸ばす。

「しっかし世の中何が起きるかわからんもんじゃのう。怪獣の次は『人外同士』の百合とは!いいのう、いいのう、AKANEもわかっとるのう!」

手が止まった。
(見抜かれてる……!?)

それは柊麗華がエンマに明かしていない真実。
それを、正体不明の式神使いに見抜かれたのだ。
「ん、どうした?起こさんのか?もしやお主、自分が人間じゃないことをその赤いロリに隠しとるのか?ううむ、お主も大変じゃのう」

「あ……」

そして、そのことさえも見抜かれる。
完全に役者が違う、と麗華は痛感する。
後はまだ、この式神使いの良心にかけるだけだが。

「そうじゃのう、お主。妾に協力してきれたら、このことをそこの赤いロリに黙っておいてやるぞ」
「な、何をすればいいんですか?」

哀れな殺人鬼は、邪馬台国を治める女王に縋る。

「うむ、妾はこの殺し合いをもっと面白くする!お主は、その手伝いをしてくれ!」

――――邪悪。

ある意味、ジルやAKANEよりタチが悪い卑弥呼の言葉に、麗華は空を仰いだ。

461みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:14:44 ID:ptTP.aTw0


「怪獣ティアマト」
エンマは静かに呟く。
「うむ、妾も二人、同行者をそやつに殺された。今でこそ縮んで怪人と呼べるほどの大きさになっておるが、それでも参加者にとっては十分な脅威じゃな」
「そ、そんなのまでいるんだ……」
と、怯えた声を出して麗華はエンマを見た。
「でも、エンマちゃんなら、勝てるんじゃない。さっきもあんなでっかい虎を簡単に倒しちゃったし」
「ほう、虎をか。そいつはすごいのう。三国志でも虎に勝てそうな奴はそういないというのに」
「……怪獣はわかんないけど、それくらいの大きさの怪人なら、師匠と一緒に倒したことある。だから、たぶん勝てる」
「ならば、討伐に向かうか。妾も微力ながら協力するぞ。かたき討ちじゃ」
じろり、とエンマは卑弥呼を睨んだ。
「まずは、師匠を探したい。方針は、その後考える」

「うむ、ロリは父親と一緒にいるのが一番じゃ。背徳的なロリも好きじゃが、無邪気に父親と戯れるロリも好きじゃよ、妾は」
「じゃあ、とりあえず北上しませんか。人を探すんでしたら、端より中央のほうがいいと思いますし」
「しかしティアマトに出会ったらどうする?」
「なんとかジープで逃げ切りましょう。卑弥呼さんもさっきそれで逃げ切れたんですし、私達が二人増えても問題ないはずです」
なるほど、と卑弥呼は腕を組んだ。
「それでいいよね、エンマちゃん」
と麗華はエンマを見て、あれっと首を傾げた。
どうにも機嫌が悪そうな表情だった。
「別に、出会って、襲い掛かられたら、倒すけど」
どうやら、麗華の言葉でエンマはヒーローとしてのプライドを傷つけられたようだ。
ごめんごめん、と麗華は大仰に頭を下げる。
そういう顔も可愛いいのう、と卑弥呼はよだれを垂らす。
殺し合いの最中とは思えない、どこかふわふわとした空気が流れた。



エンマは考える。
新しい同行者、卑弥呼。
正直口調は麗華より不愉快だし、髪の色も不自然で好きになれないし、で印象は良くは無い。
しかし、使える。
先程、式神と称してどこからともなく、烏を取り出して見せた。
この烏は卑弥呼と感覚を共有し、索敵に非常に向いている。
制限と、卑弥呼の運動不足からの体力の無さから、一度に2〜3羽しか使えないらしいが、それでも師匠探しには便利な能力だ。
(師匠、今何してるんだろう)
赤い少女は、灰色の男へ思いを馳せる。


面白い奴らじゃのう、と卑弥呼は心中で呟いた。
柊麗華。外見は可愛らしい少女だが、その中身は。
(小物じゃな)
と卑弥呼は断じた。
邪馬台国、そして敵国のクナ国には、こういう輩が大勢いた。
ここまで可愛らしい外見をした者はそういなかったが。

(そして、早乙女エンマか)
もう一人の少女は、レアだ。
二度目の人生で、似たような存在を見たような気がするが、中々思い出せない。
麗華の話しを聞く限りでは、身体能力に優れているらしい。
そして強い躰に見合わぬ、未熟な心。

(ああは言っておったが、ティアマトには勝てんじゃろうな。戦士としての格が違う)

だが、卑弥呼はそこは重要視していなかった。
今、彼女が注目するべきところは外見よりももう2〜3歳遅れているその精神性。
おそらく、「師匠」とエンマが読んでいる男は、中々歪んだ感情を彼女にぶつけていたようだ。

(妾色に染めてから師匠に遭遇というのも面白そうじゃのう。NTRものも妾も好きじゃ)

まあ、とにかく、面白く、面白く。

古き女王は、その邪悪さを胸に秘め、少女達に笑いかける。

462みつどもえ ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:15:14 ID:ptTP.aTw0


柊麗華は高位の吸血鬼ではない。
エクソシストや退魔師、陰陽師と戦闘になれば、なすすべなく退治されてしまう存在である。
柊麗華は天才ではない。
人間であったころは典型的なダメ人間だった。吸血鬼になってからも抵抗の少ない女子供ばかりを襲った(性癖の関係もあったが)

では、柊麗華は同行者二人、二人の少女に対して、何のアドバンテージもないのか。

否、麗華には、二人に対抗する一つの武器があった。

それは。
(限界を知ること)

柊麗華は知っている。
ヒーローや怪人が入り混じるアースHを生きる早乙女エンマよりも。
同じアース出身で、しかし化物としての格で圧倒的に負けている卑弥呼よりも。

彼女は、自分の強さの限界を知っている。
そして、自分より強い者の存在を知っている。

(確かに二人と直接やりあったら勝てない。でも、状況を見極める力なら、この中で私が、いや、『俺』が一番だ)

柊麗華は知っている。
自分を吸血鬼にした真祖の吸血鬼、そのでたらめぶりを知っている。
自分が格下の人外であることを知っている。

だから強者に助けを求める。
だから無力な少女のフリをする。
だから強者の服従を誓う。

だから彼女は、今も生き続けている。

(今に見てなよ、最後に笑うのはこの『柊麗華』だ!)


「ところで、ジープは誰が運転するのじゃ」
「さっきまでは卑弥呼さんが運転してたんですよね」
「じゃが妾も疲れたしのう、麗華、任せる」
「え、あの、私、免許持ってないんですけど」
「妾もじゃ」
「私もだ」
こうして、少女が三人乗ったジープが町を走ることとなった。

【B-6/町をジープで安全運転/1日目/早朝】
【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、蛇腹剣@アースF、生体反応機
[思考]
基本:「楽しさ」を求める
1:ロリはいいのう!
2:このまま北上
 3:早乙女エンマを染める?
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
※麗華やエンマが人間ではないことを知りました
※エンマの能力をある程度把握しました
※式神(黒い烏)を召喚できます。詳細な能力や制限は他の書き手さんにお任せします


【柊麗香@アースP(パラレル)】
[状態]:健康 精神的疲労(小)ジープ運転中
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマと卑弥呼を利用する。
2:このまま北上する
3:早くジープの運転に慣れる
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします


【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:健康
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:このまま北上する
2:自分から戦うつもりはないが、襲われたら容赦はしない
3:このまま北上
※卑弥呼からティアマトの情報(多少の嘘が混じった)を聞きました。情報がどれだけ正確に伝わったかは他の書き手さんにお任せします
※柊麗華、卑弥呼の名前を知りました

463 ◆F3DFf2vBkU:2016/01/30(土) 00:15:59 ID:ptTP.aTw0
投下を終了します

464 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:43:42 ID:LjUNzr.g0
裏切りのクレア、高村和花、投下します

465桜の意図 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:45:27 ID:LjUNzr.g0
魔法少女とヒーロー、どちらが強いかだって?

そりゃあお前、キャラによるだろ。
最弱の魔法少女と最強のヒーロが戦えばヒーローが勝つ。
最強の魔法少女と最弱のヒーローが戦えば魔法少女が勝つ。
最強の魔法少女と最強のヒーローが戦えば……。

ああ、だめだ。どのキャラが最強かだなんて、ファンそれぞれで違うからなあ。
やっぱあれだ、キャラクターで判断しようぜ。

じゃあとりあえず。異端対決ということで。

元ヒーロー、裏切りのクレア。混血の魔法少女、マイルドフラワー。

強いのは、どっち?



服従か、死か。
裏切りか、死か。
8歳の少女に突きつけられた厳しい選択。

マイルドフラワー、高村和花の瞳は絶望で揺らめいた。

「どうした、さっさと選ぶんだ。私はあまり気が長いほうじゃないよ」

両手を広げ、口を三日月に歪めるその女、裏切りのクレアはマイルドフラワーには悪魔にしか見えなかった。
正義の魔法少女はそこに、確かに悪が在ることを認識する。
だから。

「私は、裏ぎ――らない!」

その宣言と共に右手にステッキが現れる。
とほぼ同時にその先端から桃色の極太レーザーが悪へと襲い掛かった。



『サクライト』
それはマイルドフラワーが唯一覚えている攻撃魔法にして、日本の魔法少女が放つ呪文の中でも、トップ10に入る火力を誇る魔法である。

高村和花は正義の魔法少女である。
アースMGにおいて、魔法少女は平和を守る守護者としての役割を備えている。
彼女たちは迷子の保護、町内のゴミ拾い、企業のイメージガール、だけでなく。
凶悪な犯罪者の制圧、『魔』の討伐、悪の魔法少女との激闘。
これらも正義の魔法少女、それもベテランならば一通り経験していることである。
それでも魔法少女の死亡率はアースHにおけるヒーローのそれよりずっと少ない。
それはヒーローよりも魔法少女は助け合いに重きをおくこと。
世間が魔法少女に非常に好意的なこと。
この2点が大きい。

ならば、魔法少女から、そして心無い世間の大人達から。
嘲られ、苛められ、排除されたマイルドフラワーがそれでも今まで正義の魔法少女として活動できたのは、この呪文のおかげといっても過言ではないだろう。



突如目の前に広がった桜色の世界に、裏切りのクレアは驚愕で目を見開いた。
裏切りのクレアは、それこそ和花くらいの歳の頃から戦ってきたベテランである。
ゆえに、今、自分に迫りくるものがどれほどのものなのか、瞬時に悟る。

「これは、裏切られたな……!」

そう言って、クレアは腰を落とし、両腕を交差して、胸の前で構える。
避けるには、範囲が広すぎる。
マイルドフラワーが放ったサクライトは、東光一に見せたそれより数倍の火力、範囲だった。
故にクレアはかつて『表破り』と言われた時代のように、正面から迎え撃つ。

「しかし、たいした威力だ。ヒーローの放つ必殺技に勝るとも劣らない。だからこそ、私も正々堂々、油断せず。――6割で相手をしよう」

次の瞬間、質量を持ったレーザーがクレアを呑みこんだ。
例えるならそれは巨大なブルドーザー。
あるいは津波。
この呪文を放たれた者は、文字通り吹き飛ばされ、ノックアウト。
それがマイルドフラワーの経験則だったが。

「嘘……」

驚愕と絶望が混じった声が、その喉から洩れた。
裏切りのクレアは、動かない。
身長170、体重50といくつのその体は、しかしマイルドフラワーには大岩のように思えた。
こんなことは未だかつてなかった。マイルドフラワーが敵に本気でこの呪文をぶつけ、それが当たった時。それはマイルドフラワーの勝利とイコールしていた。
魔法が封じない状況に持ってかれた時はあった。
俊敏な相手に避けられたこともあった。
しかし、直撃してもなお拮抗するのは、本当にありえない。

「もしかして君は、私がこの魔法と拮抗していると、思っていないかい?」

クレアのその声は決して大きくはないが、確かにマイルドフラワーの耳に入った。

「ならば、その言葉。裏切らせてもらおう」

90%、とクレアは呟いた。
そして、彼女は左腕を前に出し、掌をマイルドフラワーへと向ける。
そして右腕は静かに後ろに引いた。
桜色の暴虐を、左手だけで防ぎながら、彼女は笑う。

「『表破り』、見せてあげよう」

引いた右腕で拳を固く握りしめ、捻りながら前へ打つ。
――正拳突き。
クレアは『サクライト』にひとつ、突きを放った。

466桜の意図 ◆F3DFf2vBkU:2016/02/06(土) 15:45:57 ID:LjUNzr.g0


「いやはや、たいしたものだよ」

ぱちぱち、とクレアは大仰に手を叩きながら、敗者、マイルドフラワーへと歩みよる。

「その歳で、その矮躯で、そのファンシーな格好で。まさか私に9割出させるとは」

マイルドフラワーは動かない。うつ伏せに倒れこみ、魔法少女としての変身も解除された高村和花は、すでに意識は無かった。

クレアは彼女の首根っこを掴むと片腕で持ち上げ、その胸に耳を当てる。

「ふむ、まだ息はある」

そう言って、クレアは和花を背負った。

「どうやら、思った以上に面白い子みたいだな、君は」

あの時。

クレアの正拳突きが『サクライト』を消し飛ばし、和花を蹂躙した時。
彼女は、恐怖と絶望に顔を歪ませながら。
それでも、確かに。

「笑っていた。安心したように君は笑ったんだ」

あの笑みの理由は何なのか。
クレアはその答えを知っている。

「君は悪に屈しなかった。決して挫けず、自分の最高の攻撃をぶつけ、それでも――届かなかった。だが、誰が君を責められよう。これ以上、君に何を望もう。ここまで頑張ったんだ、けどどうしようもなかったんだ」

高村和花は心のどこかで、負けることを望んでいた。

「だから、私は悪くない。だから、悪に屈しても。裏切ってもしょうがない。……ククク、安心するだろう。自分の非道に、悪行に、裏切りに、大義名分が生まれた時というのは。ああ、わかるぞ。私がそうだった。私も初めはそうだったんだ」

最初から、クレアは和花を殺すつもりだった。
抗うなら、殺し。
裏切るならば真白と光一の前に連れて行き、経緯を歪曲して伝えた後、二人の目の前で和花を殺す。

しかし、彼女は考えを変えた。
この少女に自分と近い何かを感じたのだ。

「ふむ、真白ちゃんがパートナーだとすれば、この子はさしずめ、私の弟子というところか。……そういえば、名簿にはあの馬鹿弟子がいたな」

彼女の脳裏に浮かぶのは、正義感に溢れ、弱きを助け、強きを挫く、そんなヒーローの理想のような青年。
かつてクレアが育て、クレアが裏切った、彼女に最も近付いた男。

クレアは自分の服装をまじまじと見つめた。
戦闘の余波ですでに黒スーツはずたぼろに破れている。

「この恰好であいつに出会うのは、ちょっと嫌だなあ」

【C-3/森/1日目/黎明】



【高村 和花@アースMG】
[状態]:変身解除、疲労(極大)
[服装]:桃色と緑色の魔法少女服
[装備]:ステッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:魔法少女は助けるのが仕事
1:???
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。


【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康
[服装]:ボロボロのスーツ
[装備]:転晶石@アースF
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2、アイテム鑑定機@アースセントラル
[思考]
基本:優勝する
1:真白ちゃんを裏切らないとは言ってないよ(笑)
2:目の前の魔法少女を“育てる”?
3:服を探す
4:真白のところへ戻る
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします
※高村和花と自分が似ていると考えました。彼女の推測が正しいかどうかは他の書き手さんにお任せします


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