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変身ロワイアルその6

83780 YEARS AFTER(4) ◆gry038wOvE:2018/02/20(火) 02:41:11 ID:gooP8PFs0
【『探偵』/希望ヶ花市】



 花咲家で、おれは花華の視線を一身に浴びていた。
 この時には、おれはもうある程度、事の意図はつかめていたのだった。
 これまで、左翔太郎の余計な気障と、佐倉杏子と花咲つぼみの間に流れた友人同士のコミュニケーションがかなりのノイズになったが、おそらく、肝心の真相がどうかはともかく、左探偵や佐倉探偵がどういう結論に至ったのかは読み込めていた。
 それは極めて単純な答えだったが、決して安々と口にしたいものとは云えなかった。

 しかし、これまでも言った通り、おれはその真実がどんな物であれ、花華に正確にそれを伝えるべきだった。
 永久に探し物をさせ続けるよりは、ここで決着をつけさせておいた方が良い――それがおれたち探偵の信念なのだ。

 経験上、これより苦い結末の依頼をおれは何度も目の当たりにしている。
 彼女がいかに傷つくとして、それを告げる事は大したハードルではなかったし、少なくとも言いたくないなどと駄々をこねるような人生を送ってはいない。

「花華……もう、探し物はやめよう。それは、あまりにも意味のない事だ。既にこの件は、おれたちの手に負えない事――いや、既に叶える事が出来ない物なのだろう。おそらく、いつか見つかる希望があるとして、今のおれたちではそれを見つけ出す事はできないし、曾祖母を満足させる事もできない」
「何故ですか?」

 こう言った時、花華は少々不愉快そうに眉をしかめた。
 はっきりと言いすぎてしまったきらいがあるが、だからといってソフトに伝える事などできはしなかった。彼女にとって不快感が薄まるように言っても仕方のない事だし、結局のところおれに向けられる印象が少しばかり良くなるという事は、卑怯な事でもあった。
 はぐらかさずに、おれが行き着いた結論は、彼女が不快がるように言ってやった方が良いのかもしれない。
 本来、それは、不快にならざるを得ない本質を持つ結論だからだ。――言い方ひとつで愉快になれるものでもあるまい。
 それを伝える義務をわざわざ無償で負ってしまった以上、そこから逃れる事は出来ない。

 ……ただ、せめて全くの絶望の淵には立たせたくなかった。
 おれは、ちょっとばかり言葉を選ぼうと頭の中を回転させていたが――そんな折、花華の方が続けた。

「――何かわかったなら、私にもわかるように事情を説明してください」

 素敵に感じるほどに、彼女の声色は怒りのニュアンスも含まれていた。
 しかし、彼女自身はまだそれを表さないよう、少しばかりソフトに返していて、まだヒステリックにはなりようもない様子だった。
 本格的にマルボロを咥えたくなった。
 それを取り出すような間だけはあったが、おれは結局取り出せずに、再び口を開いた。

「……わかった。すぐにこの件の真実を話そう」
「お願いします――」
「ただ、勿論だが、おれが推理したのは、あくまで左翔太郎と佐倉杏子がどんな結論に至ったか、という事だ。だからつまり、真実とは言い切れないかもしれない。こうなっては、明確な証拠も証言も残ってないからね。……ただし、やはりおれとしては、それは99.9パーセント確実な事だと思う。彼らも有能な名探偵であったから、おれは彼らの下した結論を全面的に信頼する。だから、きみもおれを少しでも信頼する気があるのなら、それはもう確実な真実だと思って、ひとまずは諦めてくれ」

 そうでない理由がない。
 それが最も合理的で、最も納得しうる結論だったからだ。ふたりの探偵は、調査能力に関してはけちのつけようはないレベルだと云える。彼らは、通常応えないような難しい依頼さえもこなし、ガイアメモリ犯罪を根絶に近づけた名探偵なのだ。
 だから、この時、おれはそれを「真実」として告げる事に決めていた。

「……」

 彼女は、返事はしなかったし、どうとでも取れるような表情でおれの方を見続けた。
 応えるには勇気が要る。生返事は出来ない。それがわかっているから、無言なのだ。だが、安易な返事をしないのなら、おれはそれで良いと思う。聞いてからでも、諦めるか続けるか選ぶ事はできる。
 問題は、こうして提示した問いかけの意味を理解しない事だった。彼女は、理解はしてくれた。だからこうして悩んだ。
 おれは続けた。


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