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変身ロワイアルその6

82980 YEARS AFTER(3) ◆gry038wOvE:2018/02/16(金) 18:23:28 ID:wTASm/Rk0



 先々々代の恥は読まなかった事にしておこう。
 万が一、佐倉探偵がこのくらい頻繁に日記を書く性格であったなら、おれは相当数の左探偵の恥を目の当たりにする事になったかもしれない。
 おれは、続けて、依頼に関する記述を探してまたページを捲っていく。
 その間も、花華は食事を続けており、おれが一足先に重要な事実に触れている事など気づいてもいないようだった。



『8月15日
 鳴海探偵事務所の方から、調査報告書が届きました。未解決にせざるを得ないとの事で、非常に残念な結果でした。
 翔太郎さんからの直筆で、「但し、未来、君が必ず果たせる」とだけ書いてありましたが……私が果たしてどうするんでしょう。
 それとも、翔太郎さんの事だから、回りくどい言い方をしただけで、何か意味があるんでしょうか?
 試しに杏子にもメールで聞いてみましたが、何の事だかさっぱりとの事。ただ、翔太郎さんは無念の様子ではなく、やはり何か知っているみたいだそうです。
 ……それならそれで言ってくれればいいのに。
 とにかく、この件については、おばあちゃんがかけてくれた言葉を思い出して、前向きに捉えようと考えています。
 依頼の方は残念だったかもしれませんが、私の依頼に協力してくれた鳴海探偵事務所や風都の皆さんには感謝でいっぱいです。久々に会えた事も嬉しかったし、またいずれ会えたらと思います。
 何より、私はこの件を未来で果たさなければならない、と励まされています。そこにもし意味があるのなら、まずは私自身が今取り組もうとしている事をがんばらないと!』



 そうか……。――やはり、左探偵は何かを掴んでいたと見えた。
 しかし、日記上でここまではっきりとその事を書かれてしまうと、近づいたようで遠ざかったような気分にならざるを得なかった。
 たかがこれだけの依頼の真実を、どうして勿体ぶったのか。
 おれにはそれがわからない。裏組織の闇に繋がる事実や、国や大企業が抱えている癒着や不正の記録に辿り着くような内容でもなければ、そこに辿り着くようなプロセスをたどっていたわけでもなかったはずだ。
 それを、何故彼は意味深に放り出してしまったのか。
 その理由を知るには、おれはまだ早すぎるようだった。

 おれはそのページに指を挟みながら、更に日記をぱらぱらと捲っていった。
 そこからしばらく、左翔太郎や佐倉杏子と直接のコンタクトを取る事はなく、具体的にこの件について触れる記述はないまま――そして、再び彼らの名前が挙がったのは、この記述だった。



『3月29日
 とてもショックな事がありました。私も、まだ気持ちの整理がつけられていません……。
 この日の日記はもう読み返す事がないかもしれませんが、今の私が落ち着くために書く事にします。
 今日、風都×丁目の道路脇で、翔太郎さんが亡くなったそうです。男の子をかばって車にひかれてしまったとの事で、病院に搬送されて間もなく息を引き取ったと聞いています。
 詳しい事はわかりません。
 ただ、それを教えてくれた杏子に返す言葉も浮かびません』







 ――この後、おれは日記の続きと、それから花咲家に保管されていた調査報告書を見る事によって、すぐにすべての意味を知った。
 そして、それは極めて美しくもあり、時が過ぎた後となっては残酷で、桜井花華という少女にとっては縋りたいはずの奇跡を潰してしまうような結論だと云えた。
 尤も、「結論」の意味をおれはこの時、全くはき違えていたのかもしれないが――それは、まあいい。
 ……さて、そんな御託よりも、肝心の手がかりの方を振り返る事にしよう。






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