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変身ロワイアルその6
827
:
80 YEARS AFTER(3)
◆gry038wOvE
:2018/02/16(金) 18:21:01 ID:wTASm/Rk0
そういいながら、おれはページを捲った。
一ページ一ページが、花咲つぼみの中の苦難の一日を経過させていく。それは、文の量に比べてあまりに重々しく感じられた。
花華が、傍らの、おれがもう読み終えた日記の方に手をやった。
まだおれの読んでいないものを読んでくれたところで、話の筋が見えないだろうから、こうして既読のものを読んでもらった方が効率は良い。ここから先、別々の立場から共通の情報を議論できる。
彼女がそこまで考えているとはさすがに思えないが、とにかく都合が良かった。
しかし、だ。
そんな折、花華の腹がぐぅ〜〜〜と長い音を立て、朝飯を欲しがる合図を送った。
彼女が恥ずかしそうに腹を撫でるのを、おれは思わず笑った。尤も、先に笑ったのは、花華だったが。
「……まだ、朝飯を食べていなかったな」
「ええ、そうでしたね」
「まずは、そちらを食べてしまおう。最大の手がかりももう見つかった事だし、一日に習慣を優先した方がいい」
おれはそんな提案を口にした。
「……でも、良いんですか? これを読む為にわざわざ来ていただいたのに」
「資料として、続きが気になるのは確かだ。だがな、こうして作業をすると、時間を忘れる。良いところだ良いところだと言って、永久に読み進めてしまうのが人情だ。キリがなくなるより前に食事にありつこう」
「――そうですね。後からでも読めますし」
「ああ。それに、おれも朝飯はともかく――コーヒーが、まだだった」
おれは、苦いブラックコーヒーを飲みたくて仕方がなかった。
それがおれの朝の文化で、休める日の寝起きの時には欠かせない習慣だった。
うまいかはわからないが、朝飯の食える気の利いたカフェが、この辺りにある。おれは、一度この日記を持って、そこへ向かおうとしていた。
……こんなものを読みながら朝飯を食おうものなら、この少女は「ご飯を食べながら読書は行儀が悪いですよ」と言ってきそうだが。
◆
――ここは希望ヶ花市内のカフェだ。
創業百年という当時からのアンティーク・カフェ。コミュニケーションを嫌ってそうな店員と、木彫りの奇妙な人形が並べられたそこらの戸棚のレイアウト。ファンシーとは対極な店だが、一押しはパンケーキらしい。勿論、俺は頼まないが、向かいの中学生はそれを言われるがまま頼んだ。
おれは、ベーコンエッグサンドイッチとコーヒーだけを頼んだ。花華はパンケーキにハーブティーだ。大した量ではないがほどほどに高い。
肝心のコーヒーの味はそこそこだった。おれは、差し出された砂糖とミルクも入れない。こんな不純物を入れてしまえば、“そこそこ”ですらなくなるからだ。どちらかといえば、このベーコンエッグサンドイッチはうまかった。パン生地や焼き加減に拘りがあるのだろう。来た時点でもうまい匂いがした。
流れる音楽も良い。心を癒すクラシック・ミュージックだ。
だが、少なくとも、おれは、この店が嫌いだった。理由は単純だ。あそこに書いてある――『全席禁煙』。
「――失礼を承知で云いますけど。ご飯を食べながら本を読むのは行儀が悪いですよ、探偵さん」
おれがベーコンエッグサンドイッチを租借しながら日記を読んでいると、案の定、想像した通りの言葉を言われた。当然ナイフとフォークは皿に置いている。おれは次の一口までのわずかな隙間の時間を有効活用しようと資料に再度目を通しただけなのだ。
しかし、言い返す言葉もなく、おれは日記を置いた。
「悪いな、思わず先が気になって」
ともかく、飯を食う時は飯に集中するのが礼儀、との事だろう。おれの中で通すルールの中には、その発想はない。情報を得られるだけの時間は利用しておきたいし、人生の空いている時間はすべて無駄にはしたくないのだ。意見は食い違う。
尤も、ここで話が拗れるほうが人生の無駄な時間が繰り広げられるだろうと汲んで、おれは我慢をする事にした。
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