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変身ロワイアルその6
822
:
80 YEARS AFTER(3)
◆gry038wOvE
:2018/02/16(金) 18:16:34 ID:wTASm/Rk0
【『探偵』/希望ヶ花市】
おれのもとに穏やかな眠りをささげてくれないままに、朝はやって来た。
結局、床の上に座ったり寝転んだりしながら惚けて考え込んでいたばかりで一睡もしていない。かといって、花華の邪魔をしては仕方がないので、物音を立てぬようにしていたから、作業を続ける事もなかった。
花華の静かな寝息は、誰もいないこの家にそっと響き続けていたし、彼女は眠りにありつけたのだろうと思う。尤も、その日の夜の蒸し暑さからすれば、クーラーのない部屋では「穏やかな眠り」とは行き難かった事は容易に想像できた。
外で一晩中うるさく鳴いていた猫どもは、いまだ喧嘩を繰り返しているらしい。
おれは、眠れなかった事を口惜しく感じる事もなく、鳴り響いた六時半のアラームに合わせて動き出した。少なくとも、おれは眠らずに三日は動ける。もともと眠りの浅いほうだ。だから飽きもせず探偵をやっていられるのだ。
どしどしと音を立てて動き出したおれの近く――花咲つぼみの部屋があったらしい場所で、ドアの向こうからうなり声が聞こえた。花華が目を覚ましたらしい。おれとは違い、即座に動き出すわけでもなかったようだ。
女が朝起きてから男の前に顔を出すまで、無数の準備がある事はよく知っている。おれは黙ってそのドアの前を去った。
おれはその部屋に背を向けて、物置部屋に立ち寄った。
カーテンが閉じられたその部屋は、朝にも関わらず真っ暗で締め切られている。おれは、その部屋のカーテンを豪快に開けてみせた。部屋はすっかり明るくなったが、西向きの窓は、瞼に悪い朝日の光を見せなかった。
元々花屋である手前、陽の向く場所に花を、陽の当たらない場所に資料を、という構造になっているらしかった。
「よし」
おれは早速日記探しに取り掛かった。膨大な本や資料の山から、欲している日記を探すのはなかなか時間のかかる作業だ。纏まりのない小さな図書館と言っていい。
どうにか掘り起こす為に時間がかかりそうだった。
小さなため息が出そうになった。
「お、おはようございます! ……早いですねっ!」
おれの背中に挨拶が向けられた。
それは花華の声に違いなかった。が、おれは一瞥もせずに、探し物を続けて、「ああ、おはよう」と答えた。感じは悪いかもしれないが、それはおれなりの配慮だった。
何せ、彼女が下階の洗面所まで降りた気配がない。どうせ水道も止まっているので、台所や洗面所に行って蛇口をひねったところで何も出ないが、そのためにペットボトルに水を入れて用意してある。トイレだって流せるくらいの量だ。
髪を手で梳かして歯を磨き口をゆすいで顔を洗っただけのおれに比べ、彼女にはその数倍の労力でパーフェクトの自分を作り出すのだ。さすがに中学生なので化粧まではしないと思うが、それでも髪形を決めるだけでも異様な時間をかける。それを待つくらいの時間、わけはない。
彼女はそのまま「ちょっと顔を洗って来るので失礼します」と声をかけて、すぐに階段を降りて行った。少々急いでいるようだったが、そんな性格なのだろう。朝くらいマイペースに準備しようが責めはしないというのに。
「さて」
おれは、もう一度部屋全体を見た。
おれには進度がいまいち実感できなかった。確かに進んではいるのだろうが、元の量が多いぶんだけ嫌に時間がかかる。
しかし、案外今日中には終わるだろうという確信もあった。午前中に起きてから先は、時間が妙に短く、それでいて捗るのだ。
このまま調子よくいけば気づかぬうちに正午を迎えるだろうし、その頃には部屋の半分はすっかり片付いているだろうと思った。
「……おや?」
と、脇に目をやり、おれはその瓦礫のような本の山の隅に――「×××ぼみ」の文字列を見つける事になった。
その上には結構な本の束が重なってタワーになっているので、これをどかす労力を想像すれば目をそらしたくなるが、手書きの筆跡がおそらく花咲つぼみと同じ物なのは間違いない。そこに花咲つぼみの名前があるからには、おれはそいつを探らなければならないのだ。
……こいつもスカだろうか、とあまり期待せずにそれを掘り起こして見せた。これまでも何度も花咲つぼみという名前にぬか喜びして、関係ない数式の羅列や漢字の練習が載っていたのを見流してきたのだ。
今度は何だろう。教科書か、ノートか、それともただのポエム帳か。おれは、そんな想像をしながらそちらに一歩だけ足を動かし、手を伸ばした。
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