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変身ロワイアルその6

79680 YEARS AFTER ◆gry038wOvE:2018/02/06(火) 12:27:51 ID:jwxL9LHA0

 深い知り合いであった彼らにさえ解決できなかったのがこの依頼だ。
 八十年後、曾孫や他人が手を付けたところで、このファイルから該当依頼を捨て去る事は難しいと云える。
 ましてや、左翔太郎も佐倉杏子もその探し物について、深いところまで掴んだうえで、おそらく不可能とみて『終了』を選択した。ただの骨董品探しだというのに、あまりにも不可解な結末だ。
 そんな依頼を安易に引き受けるのは無責任でさえある。

「きみの曾祖母は、佐倉探偵から事情を説明されたにも関わらず、今になって再びそれを見つけられなかった後悔を挙げている。――その意味からして、おれは、他の願い同様に今更叶えられないモノの一つとして挙げたのではないかと思った。たとえば、処分されていた事が確定したとか」
「……」
「――だが、それにしては、おれにはどうも引っかかるんだ。なぜ、依頼は『終了』されなければならなかったのか。……何しろ、左探偵の調査段階で、既に佐倉探偵は助手として行動を共にしている。その時点で、結果が『処分されて依頼達成不可能』であったのなら、左探偵はふつう、佐倉探偵にも花咲つぼみにもそれを報告するのではないかと思う」
「でも、友達だったから言えなかったとか……」
「……いや。確かにその可能性もないわけではないが、おれは違うと思う。依頼人にとってはね、保留されるのが一番怖いのさ。それは左探偵だってわかっているはずだ」

 保留――その恐ろしさは探偵や警察という職業の者が最もよく知っているはずだ。
 それは、永久に依頼人がそれを探し続ける結果を齎す。この事務所の未解決ファイルだって、保留したくて保留しているわけではないだろう。あのいくつもの事件は、探偵の敗北を意味する悔しさに満ちていた。
 おれたちの仕事は、相手が誰でも、見つけた真実を伝える事に他ならない。

「第一、そうならなかったから後に佐倉探偵が再調査をしている。依頼人本人に伝えなくとも、佐倉探偵や鳴海所長には伝えるのがふつうだろう。そうすると、そこから二度手間の調査までする必要はないと思える。……だから、おれには、どうも即座に言えない事情があったとしか思えないんだ」
「確かにそうですね」
「――それに、ここでは、『人探しを依頼されて捜索対象が死亡していた』という結末は、未解決に該当しないものと扱っている。同様に、『探し物が処分されていた』という結末を下した事件は、未解決には該当しないものと扱うのが自然だろう。少なくとも、この世のどこかにあると判断したうえで、それは決して見つけられないと判断したから――このファイルに綴じられているものだと思う」
「なるほど」

 そんなおれを、横から茶化す声が聞こえた。

「……さすが。腐っても探偵」

 所長である。
 他人事のようだが、彼女こそ当時の生き証人ではないか。――尤も、期待はしないが。
 念のため、おれは彼女に訊いた。

「所長はこの当時の事件について何か記憶があるか?」
「うんにゃ。依頼を受けた記憶はあるけど、何しろ特別な事件でもなかったからなぁ……未解決ファイルを読み返してそんな事があったと思ったくらいで……」

 やはりだ。
 八十年も探偵事務所を経営し、その依頼内容をすべて把握できるような人間はそういない。――ガイアメモリ犯罪などという殊勝な事件に巻き込まれるところに始まった彼女の所長人生は、そういった些末な事件を覚えられる具合ではないのである。
 それは無理もない話であるが、そう都合よく話が進むものでもないと思っていた。

「解決は、厳しそうですね……」
「おれもそう思ってはいる。出来るとすれば、きみの曾祖母が一体、佐倉探偵から何を訊いたのか知るくらいだ。曾祖母はいま、話せる状態にあるかい?」
「可能ですけど、親族以外はほとんど会えない状態です」
「きみの曾祖母は、有名人だからな……無理もない」

 いっぱしの探偵では、病院の意向を説得するのも難しい。
 彼女の方からまずは聞いてもらわなければならないわけだが、そうであるにせよ、彼女は曾祖母の後悔として話を聞いた時点で、それについて詳しく掘り下げようとはした筈である。
 ――そうでないとしても、曾祖母がそうして探し物を見つけられなかった事を後悔に挙げている時点で、左探偵や佐倉探偵による『終了』報告に納得はしていないと考えられる。


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