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変身ロワイアルその6

665変身─ファイナルミッション─(1) ◆gry038wOvE:2015/12/31(木) 20:01:47 ID:GU7jrFVA0





「ねえ、おばあちゃん……昔の話、教えてくれますか?」









 ──また、誰かが突然ドアを叩く。



 しかし、その低調なノックの音に応じる者はその一室の中にはいなかった。
 このドアは、何年、何十年も前のこの風都において、横行するガイアメモリ犯罪に巻き込まれた人間が警察を頼れずに最後に縋る駆け込み寺となっていた探偵事務所のドアだ。今日まで何人の悩める人間がこのドアを潜った事だろう。
 とはいえ、既にそれから幾許かの歳月が過ぎ去っている。今ではその手口の犯罪もすっかりなくなり、この事務所は、より多種多様な事件の依頼を受けるようになった。
 それこそ、そこらの萎びた探偵事務所と全く変わらない。
 浮気調査、人探し、犬探し、猫探し、亀探し……。

 この日も、また、本当にそんな、ちょっとした事情を持つ者が来たようだった。
 依頼人は、しばらくドアの前に立ってノックを繰り返し、返事を待った。
 しかし、返事はない。
 やはり、どうやら事務所の一室には誰もいないらしいと気づき、やがて諦めて、背中を向ける。
 その人の後ろ姿は、ドアからゆっくりと遠ざかっていった……。

 もしかすれば、この帰路でばったりとこの事務所の主に会う事を期待しているかもしれないし、その依頼を果たせる他の宛てを探しに行くのかもしれない。
 その人は再び来るかもしれないし、既に常連であるかもしれないし、二度とこない一見かもしれない。それはわからない。
 とにかく、まるで、その部屋そのものがその人間に見捨てられたかのように、一人の人間に置き去られた。

 ──この、がらんと空いている部屋。

 あの「鳴海探偵事務所」のロビー。
 誰もこのドアを開けてはくれなかった。

 ……事務所の内側は、すっかり無人であった。
 奥に進めば、古い探偵小説や、寂しいほど整ったデスクがあるのだが、これらも蜘蛛たちが巣を張る為の優良物件となりつつあるようだ。
 クラシックな品質で出来上がった家具や壁のレイアウトも、いくつもの帽子のかけられた壁も、少し前まではそこに誰かがいたかのような気品を漂わせるが、この時には誰もいなかった……。
 何日か、あるいは、何週間か。──それがここから誰かがいなくなってから経過した時間はそれくらいだ。ただ、依頼人が来るところを見ると、何年という単位ではないだろう。
 人の匂いのしない渇いた空気がその場に流れる。床板の匂いだろうか。少しだけ黴臭く、それでもどこか懐かしい物が鼻孔を擽る。下町の匂い。

 隅のデスクには、ある意味では過去の重大事件の調査報告書とも取れる一冊の本と、それに関する記録(メモリー)と呼ぶべき数葉の写真があった。
 ……これは、もう既に人々が忘れ去るほどに遠い過去のものだ。誰がここにこの本と写真の束を置いていたのだろう。
 だが、それだけが、ここに誰か人の通った形跡を示す手がかりだった。

 写真はもう、すっかり色褪せて、そこに映る人々の笑い顔さえも、どこか古めかしく見えるほどだった。そもそも、こうして写真を紙媒体に印刷する文化自体が、この時代からすると古めかしい物であるかもしれない。黴の臭いがする。
 中には、幼い少女も映っているが、この人ももう、本当の大人だろう。
 この、帽子を被っている気の良さそうな男は、生きていれば、もう老人かもしれないし、もしかしたらとうの昔に亡くなっているかもしれない。
 ──帽子?


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